説明

光スペクトル測定装置および光スペクトル測定方法

【課題】簡易な構成でありながら、より高い波長分解能を有する光スペクトル測定装置を提供する。
【解決手段】被測定光P1を放出する光源1と、非線形光学結晶2と、波長選択フィルタ3と、分光器4と、制御部5とを順に備える。非線形光学結晶2は、光源1から入射する被測定光P1に対して自発的パラメトリック下方変換を生じさせ、変換光P2を射出する。変換光P2においては、被測定光P1におけるわずかな波長の変化が大きく拡大されて表れる。そのため、分析器4によって、比較的高精度な変換光P2のスペクトルが得られる。被測定光P1の波長と、変換光P2の波長との関係を調べることにより、制御部5における換算によって、変換光P2のスペクトルから被測定光P1のスペクトルが求められる。このようにして得た被測定光P1のスペクトルは、分光器4によって直接測定したものよりも高精度なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定光の波長強度分布を測定する光スペクトル測定装置、およびそれを用いた光スペクトル測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えばレーザ光などの光スペクトルを測定する場合には、回折格子を備えた分光器が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−161654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、比較的小型かつ安価な分光器では、0.1〜1nm程度の波長分解能が限度であるので、より高い波長分解能を得るには大型で高価な分光器が必要となってしまう。このため、例えば0.1〜1nm程度の波長分解能を有する分光器を用いつつ、0.1nm未満の波長分解能が得られる光スペクトル測定装置、およびそれを用いた光スペクトル測定方法が望まれる。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、簡易な構成でありながら、より高い波長分解能を有する光スペクトル測定装置を提供することにある。さらに、本発明の第2の目的は、被測定光について、より高精細な波長強度分布を簡便に測定することのできる光スペクトル測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光スペクトル測定装置は、被測定光を発する光源と、この光源から入射する被測定光を自発的パラメトリック下方変換させ、変換光として射出する非線形光学結晶と、変換光の波長強度分布を測定する分光器とを備えるようにしたものである。
【0007】
本発明の光スペクトル測定方法は、被測定光を所定の方向から非線形光学結晶に入射させ、その被測定光を自発的パラメトリック下方変換して非線形光学結晶から変換光を射出させるステップと、変換光の波長強度分布を測定するステップとを含むようにしたものである。
【0008】
本発明の光スペクトル測定装置および光スペクトル測定方法では、非線形光学結晶に入射した被測定光が自発的パラメトリック下方変換される。このため、非線形光学結晶から所定方向へ射出される変換光は、被測定光との間において位相整合条件を満足しつつ、より長い波長を有するものとなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光スペクトル測定装置および光スペクトル測定方法によれば、非線形光学結晶を用いて被測定光を自発的パラメトリック下方変換させることにより、位相整合条件を満足しつつ、より長い波長を有する変換光を取り出し、その変換光について波長強度分布を測定するようにしたので、被測定光の波長強度分布を直接測定する場合よりも、より高い波長分解能を得ることができる。したがって、より高精細な波長強度分布を簡便に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態としての光スペクトル測定装置の全体構成を表す概略図である。
【図2】図1に示した非線形光学結晶の一具体例としてのPP結晶の全体構成を表す概略図である。
【図3】図1に示した非線形光学結晶およびその近傍を拡大して表す要部拡大図である。
【図4】図1に示した非線形光学結晶および分光器、ならびにそれらの近傍を拡大して表す要部拡大図である。
【図5】図1に示した光スペクトル測定装置を用いた光スペクトル測定方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】被測定光の波長と変換光の波長との関係の一例を表す特性図である。
【図7】変換光のうちの、被測定光の波数ベクトルと一致する向きの波数ベクトルを有する変換光のスペクトル波形の一例を表す特性図である。
【図8】図7のスペクトル波形から換算して求めた被測定光のスペクトル波形を表す特性図である。
【図9】非線形光学結晶として用いるPP結晶の変形例の構成を表す概略図である。
【図10】実験例1−1における変換曲線を表す特性図である。
【図11】実験例1−1における変換光についての、短波長側でのスペクトルを表す特性図である。
【図12】実験例1−1における変換光についての、長波長側でのスペクトルを表す特性図である。
【図13】図11に示した変換光のスペクトルから算出された被測定光のスペクトルを表す特性図である。
【図14】図12に示した変換光のスペクトルから算出された被測定光のスペクトルを表す特性図である。
【図15】図13に示した被測定光のスペクトルと、図14に示した被測定光のスペクトルとを重ね合わせた特性図である。
【図16】実験例2における測定方法を説明するための概略図である。
【図17】実験例2における変換曲線を表す特性図である。
【図18】実験例3における測定方法を説明するための概略図である。
【図19】実験例3における変換曲線を表す特性図である。
【図20】実験例4−1における変換曲線を表す特性図である。
【図21】実験例4−2における変換曲線を表す特性図である。
【図22】実験例4−3における変換曲線を表す特性図である。
【図23】実験例1−2における被測定光のスペクトルを表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態という。)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
まず、図1を参照して、本発明における一実施の形態としての光スペクトル測定装置(以下、単に測定装置という。)について説明する。
【0013】
図1は、本実施の形態の測定装置の全体構成を表している。この測定装置は、光源1から射出される被測定光P1のスペクトル(波長強度分布)を測定するものであり、光源1の側から、非線形光学結晶2と、波長選択フィルタ3と、分光器4と、制御部5とを順に備えている。
【0014】
光源1は、測定対象とする被測定光P1を放出するものであり、例えばレーザ電源11と、そのレーザ電源11によって駆動され、被測定光P1としてのレーザ光を発振するレーザ発振器12とを有している。レーザ発振器12は、例えば共振器構造を有する半導体レーザ素子である。
【0015】
非線形光学結晶2は、所定の方向から入射する被測定光P1に対して非線形光学効果の一種である自発的パラメトリック下方変換(SPDC;Spontaneous Parametric Down-Conversion)を生じさせ、変換光(SPDC光)P2を射出するものである。変換光P2は、被測定光P1よりも長い波長を有している。すなわち、変換光P2においては、被測定光P1におけるわずかな波長の変化が大きく拡大されて表れる。このような非線形光学結晶2としては、例えば、β-BaB2 4 結晶(BBO結晶),LiB3 5 結晶(LBO結晶),BiB3 6 結晶(BiBO結晶),KTiOPO4 結晶(KTP結晶),周期分極反転(PP:Periodically Poled)KTP結晶,周期分極反転LiNbO3 結晶(PPLN結晶),周期分極反転LiTaO3 結晶(PPLT結晶)などを用いることができる。なかでも、PPKTP結晶,PPLN結晶,PPLT結晶などの周期分極反転結晶(以下、PP結晶と総称する。)は、被測定光P1に対して自発的パラメトリック下方変換を効率よく発生させ(すなわち非線形感受率が高く)、より強度の高い変換光P2が得られるので好ましい。
【0016】
非線形光学結晶2は、その結晶の種類ごとの物性により、自発的パラメトリック下方変換を生じさせることのできる被測定光P1の波長域が異なっている。そのため、非線形光学結晶2の種類を適切に選択することで、より広範囲に亘る波長を有する被測定光P1のスペクトル測定を行うことができる。
【0017】
図2に、非線形光学結晶2の一例としてのPP結晶2Aの概略斜視構成を表す。ここでは、PP結晶2Aの内部を進行する光の進行方向を+Z方向とする。図2に示したように、PP結晶2Aは、被測定光P1が入射する入射面S1と、変換光P2が射出される射出面S2とを有し、内部を進行する光の進行方向(+Z方向)において2種類の複数のドメインD1,D2が所定の分極反転周期Λで繰り返し交互に配置された構造を有する。各ドメインD1,D2は、いずれもKTP結晶などの非線形光学材料からなり、例えばドメインD1が+Y方向への分極を示し、ドメインD2が−Y方向への分極を示している。すなわち、ドメインD1とドメインD2とは、互いに逆方向へ分極している(分極方向が互いに逆向きである)。通常、入射面S1と射出面S2とは互いに平行であり、被測定光P1が入射面S1に対して垂直に入射されると、全てのドメインD1,D2を通過したのち、自発的パラメトリック下方変換された変換光P2が射出面S2から射出されるようになっている。なお、変換光P2は、射出面S2に対して垂直な方向へのみ射出されるわけではなく、射出面S2に対してある範囲内の角度方向にも射出される。射出面S2に対する変換光P2の射出角度に応じて、被測定光P1の波長と変換光P2の波長との対応関係が変化する。
【0018】
分極反転周期Λの大きさは、被測定光P1の波長域に応じて適宜選択すればよい。図2に示したPP結晶2Aでは、幅方向(X軸方向)において分極反転周期Λの大きさ(すなわち、各ドメインD1,D2のZ軸方向の寸法)が一定となっている。したがって、被測定光P1を入射面S1のどの地点に入射したとしても、射出面S2からの変換光P2は(射出面S2に対して同一の角度方向へ射出されたものであれば)一定である。
【0019】
PP結晶2Aは、被測定光P1が入射面S1に入射すると、自発的パラメトリック下方変換によりシグナル光子およびアイドラー光子からなるエンタングルド光子対を生成し、そのエンタングルド光子対を変換光P2として射出する。その際、被測定光P1と変換光P2との間において、擬似的な位相整合条件が成立している。例えば、図2に示したPP結晶では、被測定光P1が入射すると、以下の条件式(1)および条件式(2)を満足するようなシグナル光子およびアイドラー光子を変換光P2として射出する。
【0020】
(1/λp)=(1/λs)+(1/λi) ……(1)
kp−ks−ki=(0,0,2π/Λ) ……(2)
但し、λp,λs,λi,kp,ks,kiは、それぞれ以下のものを表す。
λp:被測定光P1の真空中における波長。
λs:シグナル光子の真空中における波長。
λi:アイドラー光子の真空中における波長。
kp:被測定光P1のPP結晶2Aの内部での波数ベクトル。
ks:シグナル光子のPP結晶2Aの内部での波数ベクトル。
ki:アイドラー光子のPP結晶2Aの内部での波数ベクトル。
この条件式(2)は、被測定光P1および変換光P2が、いずれも無限大のビーム径を有する平面波であり、かつ、PP結晶2Aの長さLも無限大であるような、理想的な状態を前提とした位相整合条件を表している。また、条件式(2)においては波数ベクトルkp,ks,kiは+Z方向に向いているものとしており、波数ベクトルkp,ks,kiにおけるX軸方向およびY軸方向のベクトル成分を零としている。但し、波数ベクトルkp,ks,kiにおけるX軸方向およびY軸方向のベクトル成分は零でなくともよい。例えば、後述するように非線形光学結晶2(PP結晶2A)や分光器4をYZ平面内において回転させたりすると、Y軸方向のベクトル成分が現れる。
【0021】
条件式(1)からわかるように、真空中においてPP結晶2Aを用いることにより、シグナル光子およびアイドラー光子の波長λs,λiは、被測定光P1の波長λpの2倍程度に拡大される。
【0022】
また、分極反転周期Λを一定に保ったまま繰り返しの数Nを増やすと、当然ながらZ軸方向におけるPP結晶2Aの全体の長さ(L=Λ×N)が増加する。長さLが増加すると、変換光P2の強度が大きくなるうえ、条件式(2)で表される理想状態にいっそう近づくこととなる。詳細には、長さLが短くなるほど、変換光P2に含まれる条件式(2)の条件から僅かに外れる光(本来変換されるべき波長から少しずれた波長の光)の割合が増えることとなる。しかし、長さLが十分に確保されていれば、そのような条件式(2)を満たさない不要光が十分に減少する。そのため、理想的な変換光P2が得られるので分解能の向上が期待できる。
【0023】
また、非線形光学結晶2(PP結晶2A)は、図3に表すように、例えばZ軸を含む平面内(YZ平面内)において回転可能なステージ21などの可動機構によって保持されている。これにより、非線形光学結晶2の入射面S1に対する被測定光P1の入射角が変更可能となっている。なお、入射面S1に対する被測定光P1の入射角が変化することにより、被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの対応関係が変化する。なお、図3では、被測定光P1が非線形光学結晶2に垂直入射(入射角が0°)し、自発的パラメトリック下方変換された変換光P2のうち、射出面S2に対して垂直に射出されるものを記載している。
【0024】
また、非線形光学結晶2は、自らの温度に応じて被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの対応関係が変化する性質を有している。そのため、ステージ21には、例えば金属材料および半導体材料を組み合わせてなるペルチェ素子(図示せず)などの温度制御素子が熱電対などの温度センサと共に埋設されている。これにより、非線形光学結晶2の温度をモニターしながら所定方向へ電流を流すことによってそのペルチェ素子に発熱または吸熱を生じさせ、非線形光学結晶2を加熱または冷却することができるようになっている。すなわち、非線形光学結晶2の高精度な温度制御が可能となっている。
【0025】
非線形光学結晶2に入射した被測定光P1は、その全てが変換光P2に変換されるわけではなく、一部の被測定光P1は自発的パラメトリック下方変換されずにそのまま非線形光学結晶2を透過することとなる。その際、透過した被測定光P1が、分光器4による変換光P2のスペクトル測定の妨げとなる場合もあるので、そのような場合には波長選択フィルタ3によって被測定光P1を選択的に遮断することが望ましい。波長選択フィルタ3は、被測定光P1を含む波長域の光を選択的に遮断する一方で、変換光P2をそのまま透過させる光学フィルタである。但し、分光器4が、透過した被測定光P1の影響を受けないものであれば波長選択フィルタ3を設けなくともよい。
【0026】
分光器4は、入射光のスペクトルを測定する光学機器であり、ここでは特に、上述したように非線形光学結晶2から射出された(あるいはそののち、波長選択フィルタ3を通過した)変換光P2のスペクトルを測定するために用いられる。分光器4としては、例えば回折格子(グレーティング)を備えた回折格子分光器、三角プリズムを備えたプリズム分光器、もしくは結晶を備えた結晶分光器などの分散型分光器、または、干渉計を備えた干渉分光器などを用いることができる。分散型分光器では、それぞれ、回折格子、三角プリズムもしくは結晶が分散素子として機能する。
【0027】
分光器4は、図4(A),4(B)に表すように、非線形光学結晶2を保持するステージ21とは異なるステージ41に載置されており、非線形光学結晶2を中心として円弧を描くように(非線形光学結晶2から独立して)移動可能となっている。ステージ41は、例えばステージ21と同一の軸を中心として円心揺動するバー42の上に固定されている。これにより、非線形光学結晶2の結晶面に対する分光器4の受光面4Sの相対角度を変更することができる。すなわち、分光器4は、非線形光学結晶2からの変換光P2のうち、射出面S2に対して垂直な方向以外の方向へ射出されるもの(被測定光P1の波数ベクトルと異なる方向の波数ベクトルを有する変換光P2)を測定することが可能となっている。なお、図4(A)は、非線形光学結晶2および分光器4、ならびにそれらの近傍の構成を表す上面図であり、図4(B)は、それらを側方から眺めた側面図である。図4(A),4(B)では、波長選択フィルタ3の図示を省略している。
【0028】
制御部5は、データ格納部51と、演算部52と、出力部53とを有している。データ格納部51は、分光器4からの測定データ(変換光P2のスペクトルのデータ、および被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの対応関係を表す変換データ)などを格納するものである。演算部52は、予めデータ格納部51に格納された変換データに基づき、変換光P2のスペクトルから被測定光P1のスペクトルへの変換を行うものである。また、出力部53は、被測定光P1のスペクトルを表す曲線を出力するものである。
【0029】
このように、本実施の形態の測定装置によれば、非線形光学結晶2において被測定光P1が自発的パラメトリック下方変換され、変換光P2が射出される。この変換光P2は、被測定光P1よりも長い波長(被測定光P1の2倍程度の波長)を有し、かつ、被測定光P1との間において位相整合条件を満たすものである。さらに、分光器4において、所定の方向へ進行する変換光P2のスペクトルを測定することができる。このため、被測定光P1の波長λpと、変換光P2の波長λs,λiとの関係が既知であれば(あるいはその関係を調べることにより)、制御部5における換算によって被測定光P1のスペクトルが得られる。この場合、被測定光P1のスペクトルを直接測定する場合よりも、より高い波長分解能を得ることができる。これは、被測定光P1の波長λpの僅かな変化が、変換光P2の波長λs,λiの大きな変化として現れるからである。例えば、波長λpがΔλp変化した場合の波長λs(あるいはλi)の変化量をΔλs(あるいはΔλi)とし、拡大率をk=Δλs/Δλp(=Δλi/Δλp)と定義する。すると、本実施の形態の測定装置によれば、分光器4の分解能がΔλである場合、被測定光P1のスペクトルをΔλ/kの分解能で測定することができる。
【0030】
さらに、ステージ41やバー42などの可動機構によって分光器4を所望の位置へ移動させることにより、被測定光P1の入射方向と一致しない方向へ進行する変換光P2のスペクトルを測定することができる。このため、波長選択フィルタ3を設けなくとも、非線形光学結晶2を透過した被測定光P1の影響を回避しつつ分光器4によって変換光P2のスペクトル測定を行うことが可能となる。また、被測定光P1の波長域に対応可能な範囲において非線形光学結晶2の結晶面に対する受光面4Sの相対角度を順次変化させ、その相対角度に応じた変換光P2のスペクトルを順次取得してそれらを平均化することにより、より信頼性の高いデータを獲得できる。
【0031】
また、射出面S2に対する変換光P2の射出角度に応じて、被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの対応関係が変化する性質を利用して、より広範囲に亘る波長域を有する被測定光P1のスペクトル測定を行うことができる。同様に、入射面S1に対する被測定光P1の入射角に応じて、被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの対応関係が変化する性質を利用して、より広範囲に亘る波長域を有する被測定光P1のスペクトル測定を行うことができる。すなわち、被測定光P1の波長域に応じて、射出面S2からの変換光P2の射出角度や入射面S1に対する被測定光P1の入射角を適切に選択することにより、同一の非線形光学結晶2を用いつつ、測定可能な波長域を拡大することができる。
【0032】
さらに、温度制御素子および温度センサを利用して非線形光学結晶2の高精度な温度制御を行うことにより、測定値の高い信頼性を確保することができる。すなわち、非線形光学結晶2の温度を一定値に保ちつつ変換光P2の測定を行うことにより、測定精度が向上する。あるいは、非線形光学結晶2が自らの温度に応じて被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの対応関係が変化する性質を利用して、非線形光学結晶2を被測定光P1の波長域に応じた適切な温度に保持しつつ、変換光P2の測定を行うことが可能である。この場合には、より広範囲に亘る波長の被測定光P1についてスペクトルを求めることが可能となる。
【0033】
続いて、本実施の形態の評価装置を使用した光スペクトル測定方法について、図1〜図4に加え、図5を参照して説明する。図5は、本実施の形態の光スペクトル測定方法の手順を表すフローチャートである。また、ここで用いる被測定光P1のおおよその波長域は既知であるとする。例えば被測定光P1の中心波長が±1nmの範囲で特定できているとする。
【0034】
まず、ステージ21に埋設されたペルチェ素子および熱電対温度計を利用し、非線形光学結晶2を一定温度に保持する(ステップS101)。この際、非線形光学結晶2の温度は、被測定光P1の波長域に応じて選択すればよい。
【0035】
次に、非線形光学結晶2へ入射する被測定光P1の波長λpと、自発的パラメトリック下方変換されて非線形光学結晶2から射出される変換光P2の波長λs,λiとの対応関係を表す変換データ(変換曲線)を取得する(ステップS102)。
【0036】
具体的には、例えば、レーザ発振器12に代えて波長可変の光源を配置し(図示せず)、互いに波長の異なる複数の単色光(波長λp(1),λp(2),…,λp(n-1),λp(n),λp(n+1),…)を順次発生させる。この波長可変光源は、例えば、白色光源からの光を回折格子や三角プリズムなどの分散素子により分光することや、波長可変レーザを使うことにより実現できる。次いで、発生させた複数の単色光を非線形光学結晶2へ順次入射し、各単色光に対応する変換光P2を非線形光学結晶2から順次射出させる。このとき、複数の単色光が同時に非線形光学結晶2へ入射することのないように注意する。また、各単色光の非線形光学結晶2への入射角は一定値(例えば0°)とする。さらに、各単色光に対応する変換光P2のうち、射出面S2に対して所定の角度(例えば0°)で射出するもののみを分光器4によって順次検出し、各々の波長λs,λiを求める。このようにして、各単色光の波長λp(n)に対応する波長λs,λiを順次求めていくことにより、波長λpと波長λs,λiとの関係を表す変換曲線を描くようにする。このとき得られた変換データをデータ格納部51に保存する(ステップS103)。
【0037】
上記のように、多数の水準について測定データを取得することにより上記の変換曲線を描くようにしてもよいが、より少ない水準(2〜3水準)についての測定と、計算とを組み合わせて変換曲線を得ることもできる。その場合の計算は、上述の条件式(1)および条件式(2)に加え、結晶ごとに定まる屈折率の波長依存性(屈折率の分散)を表す式(例えばセルマイヤーの式;Sellmeier equation)、および屈折率の温度依存性を表す式(以下の参考文献1,2を参照)を用いて行えばよい。なお、結晶ごとのセルマイヤーの式や屈折率の温度依存性については以下の参考文献3などに記載されている。
(参考文献1)http://en.wikipedia.org/wiki/Sellmeier_equation
(参考文献2)http://ja.wikipedia.org/wiki/分散_(光学)
(参考文献3)V. G. Dmitriev, G. G. Gurzadyan, D. N. Nikogosyan著, 「ハンドブック・オブ・ノンリニア・オプティカル・クリスタルズ(Handbook of Nonlinear Optical Crystals)」,第3版,Springer-Verlag, Berlin Heidelberg, 1999年
【0038】
図6に、例えば図2のPP結晶を非線形光学結晶2として用いた場合の、被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの関係を表す変換曲線の一例を示す。図6では、縦軸が被測定光P1の波長λpを示し、横軸が変換光P2の波長λs,λiを示している。
【0039】
図6に示したように、変換光P2の波長λs,λiの変化に対し、被測定光P1の波長λpはおおよそ放物線を描くように変化する。これは、ある特定の波長λpを有する1つの被測定光P1からは、互いに異なる波長を有する光子対、すなわち、波長λsを有するシグナル光子と、波長λiを有するアイドラー光子とが変換光P2として生成されるからである。放物線の頂点は、波長λsと波長λiとが波長λpの2倍(=2λp)となる箇所である。
【0040】
次に、変換データの取得時に用いた波長可変光源を取り除くと共にレーザ発振器12を所定位置に配置する。そののち、レーザ発振器12から発振させた被測定光P1を非線形光学結晶2へ入射し、非線形光学結晶2から射出される変換光P2のスペクトル(波長強度分布)を分光器4によって測定する(ステップS104)。スペクトル測定の際には、被測定光P1を非線形光学結晶2の入射面S1に対し一定の入射角(変換データの取得時と同じ入射角、例えば0°)で入射させる。また、分光器4では、射出面S2に対して所定の角度(変換データの取得時と同じ角度、例えば0°)で射出する変換光P2について測定する。
【0041】
図7に、上記の変換光P2のスペクトルの一例を表す。図7は、図6で用いたものと同一の非線形光学結晶2を用いた場合のスペクトルを表しており、縦軸が強度(任意単位)を示し、横軸が変換光P2の波長λs,λiを示している。図7に示したように、例えば波長λLと波長λHとの間に3つのピーク7A〜7Cが含まれるスペクトルが観察される。
【0042】
変換光P2のスペクトル波形を測定したのち、データ格納部51に保存された変換データ(例えば図6の変換曲線)を用い、変換光P2のスペクトルから被測定光P1のスペクトルを求める(ステップS105)。具体的には、演算部52において、変換データを用い、変換光P2の波長λs,λiから被測定光P1の波長λpを算出する。例えば、図6の変換曲線から、変換光P2の波長λL〜λHに対応する被測定光P1の波長λpL〜λpHを求める。
【0043】
そののち、出力部53において、被測定光P1のスペクトルを表す曲線を出力する。図8に、図7の変換光P2のスペクトルを、図6の変換曲線に基づいて変換することにより得られた被測定光P1のスペクトルの一例を表す。図8では、縦軸が強度(任意単位)を示し、横軸が被測定光P1の波長λpを示している。図8に示したように、被測定光P1のスペクトルには、例えば波長λpLと波長λpHとの間に図7のピーク7A〜7Cを反映した3つのピーク8A〜8Cが現れる。すなわち、より高精細なスペクトルを簡便に測定することができる。以上により、一連の被測定光P1の評価が完了する。
【0044】
このように、本実施の形態の光スペクトルの測定方法では、被測定光P1を、非線形光学結晶2を介して自発的パラメトリック下方変換させ、より長い波長を有する変換光P2とし、そのうちの特定方向へ進行する変換光P2についてスペクトル測定を行うようにした。このため、被測定光P1の波長λpと、変換光P2の波長λs,λiとの関係を調べることにより、高精細な被測定光P1のスペクトルが得られる。すなわち、被測定光P1のスペクトルを直接測定する場合よりも、より高い波長分解能を得ることができる。したがって、0.1〜1nm程度の波長分解能を有する比較的安価な分光器4であっても、より高精細なスペクトルを簡便に測定することが可能となる。あるいは、分光器4として、0.1nmよりも狭い波長間隔において識別可能な高性能の分光器を用いた場合においても、その波長分解能を上回る高精度なスペクトルが得られる。また、被測定光P1の波長域に応じて、射出面S2からの変換光P2の射出角度や入射面S1に対する被測定光P1の入射角、あるいは非線形光学結晶2の保持温度を適切に選択することにより、同一の非線形光学結晶2を用いつつ、測定可能な波長域を拡大することができる。
【0045】
なお、本実施の形態では、非線形光学結晶2が導波路構造を有するものとしてもよい。その場合、例えば図2において、入射面S1から入射した被測定光P1の大部分が非線形光学結晶2の側面から漏れることなく自発的パラメトリック下方変換され、より強度の大きな変換光P2が射出面S2から射出される。ここでいう導波路構造とは、例えば図2のPP結晶2Aにおいて、Z軸を取り囲むように入射面S1および射出面S2を除く全ての面を覆うように低屈折率の媒体を設け、その低屈折率媒体とPP結晶2Aとの界面において全反射させるようにした構造をいう。但し、非線形光学結晶2が導波路構造を有する場合には、導波路に沿う方向以外には被測定光P1や変換光P2が伝播しないので、非線形光学結晶2を回転させたり、分光器4を移動させたりすることによって測定可能な波長域を広げる操作はできなくなる。
【0046】
(変形例)
続いて、図9を参照して、本実施の形態の変形例について説明する。図9は、非線形光学結晶2の他の例としてのPP結晶2Bの概略斜視構成を表す。
【0047】
上記実施の形態では、非線形光学結晶2の一例として、一定の分極反転周期Λを有するPP結晶2Aを例に挙げて説明するようにした。これに対し、本変形例は、非線形光学結晶2として、光の進行方向に対して交差する方向において分極反転周期Λが連続的に変化するPP結晶2Bを用いるようにしたものである。具体的には、PP結晶2Bは、図9に示したように、光の進行方向(+Z方向)と直交するX軸方向において、一方の端面T1から他方の端面T2へ向かうほど分極反転周期ΛがΛ1からΛ2(>Λ1)まで増加するように構成されている。なお、上記の点を除き、PP結晶2Bは、上記実施の形態のPP結晶2Aと同様の構成を有している。
【0048】
このようなPP結晶2Bでは、被測定光P1がX軸方向において入射面S1のどの位置に入射してPP結晶2Bの内部を+Z方向へ進行するかによって、被測定光P1の波長と変換光P2の波長との対応関係(を表す変換曲線)が異なることとなる。すなわち、被測定光P1の入射位置および進行経路が端面T1の側から端面T2の側へ向かうに従い、変換曲線が徐々に変化する。例えば、被測定光P1が端面T1に近い位置を通過した場合には、端面T2に近い位置を通過した場合と比べ、おおよそ放物線となる変換曲線の頂点(λs=λi=2λp)が、λs(=λi)およびλpがいずれも増加する方向へ移動する。したがって、上記の性質を利用して、入射面S1における被測定光P1の入射位置を変化させることにより、より広範囲に亘る波長を有する被測定光P1のスペクトル測定を行うことができる。入射面S1における被測定光P1の入射位置を変化させるには、例えばステージ21にX軸方向に沿った移動機構を設けるなどして、PP結晶2Bを+X方向または−X方向に平行移動させればよい。
【0049】
このように、本変形例によれば、被測定光P1の進行方向と交差する方向において分極反転周期Λを傾斜させるようにしたので、以下の効果が得られる。すなわち、被測定光P1の波長域に応じて被測定光P1の入射位置を適切に調節することにより、同一のPP結晶2Bを用いつつ、測定可能な波長域を拡大することができる。
【実施例】
【0050】
次に、本発明の実施例について、いくつかの実験例を挙げて以下に説明する。
【0051】
(実験例1−1)
上記実施の形態において説明した光スペクトルの測定方法に基づき、図2に示した構造を有するPP結晶2Aを非線形光学結晶2として用い、変換曲線の測定、および被測定光P1のスペクトルの測定を実施した。ここでは、PP結晶2Aとして分極反転周期Λが3.51μmのPPKTP結晶を用い、その温度を31.5℃に保持した。また、被測定光P1として、半導体素子を含むレーザ発振器12から射出される中心波長405.72nmのレーザ光を用いた。
【0052】
まず、被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの関係を表す変換曲線を求めた。図10にその結果を表す。図10では、縦軸が被測定光P1の波長λp(nm)を示し、横軸が変換光P2の波長λs,λi(nm)を表している。
【0053】
図10に示したように、変換光P2の波長λs,λiの変化に対し、被測定光P1の波長λpはおおよそ放物線を描くように変化している。本実験例では、例えば波長λp=405.75nmの被測定光P1からは、波長λs=777.66nmのシグナル光子と、波長λi=848.42nmのアイドラー光子とが発生する。放物線の頂点は、波長λsと波長λiとが一致する箇所(波長λs,λi=811.50nm)である。
【0054】
また、図10に示したように、本実験例では、変換光P2の波長λs(λi)が770nmおよび780nmであるとき、それに対応する被測定光P1の波長λpは405.67nmおよび405.77nmとなっている。すなわち、被測定光P1の波長λpの変化量が0.10nmであるのに対し、変換光P2の波長λs(λi)の変化量が10nmである。よって、405.67nm〜405.77nmの波長λpを有する被測定光P1は、自発的パラメトリック下方変換により、波長が100倍(拡大率k=10/0.10=100)された変換光P2となっていることがわかる。
【0055】
次に、非線形光学結晶2の入射面S1に対し被測定光P1を垂直入射すると共に、射出面S2と直交する変換光P2(被測定光P1の波数ベクトルと一致する向きの波数ベクトルを有する変換光P2)についてのスペクトルを分光器4によって測定した。なお、変換光P2は、エンタングルド光子対(シグナル光子およびアイドラー光子)を含むことから、それぞれの光子に対応した一対のピークが観察された。その結果を図11および図12に示す。
【0056】
図11は、上記の変換光P2についての、短波長側(ここでは760nm〜790nm)のピーク近傍のスペクトルを表す。一方、図12は、上記の変換光P2についての、長波長側(ここでは835nm〜865nm)のピーク近傍のスペクトルを表す。図11および図12では、縦軸が強度(任意単位)を表し、横軸が変換光P2の波長λs,λi(nm)を表している。ここでは、分光器4として、分解能Δλが0.1nmのものを用いた。図11に示したように、短波長側では、3つのピーク11A〜11Cが波長λs,λi=770nm〜785nmの範囲内に観察された。一方、長波長側では、ピーク12Aのみが851nm付近に観察された。
【0057】
さらに、図11および図12に示した変換光P2のスペクトルを、図10の変換曲線に基づいてそれぞれ換算することにより被測定光P1のスペクトルを求めた。図13および図14に、それらの結果を表す。図13が図11に対応し、図14が図12に対応する。図13および図14では、縦軸が強度(任意単位)を表し、横軸が被測定光P1の波長λpを表している。
【0058】
図13に示した被測定光P1のスペクトルには、波長λp=405.70nm〜405.80nmの範囲内に、図11のピーク11A〜11Cを反映した3つのピーク13A〜13Cが観察された。一方、図14に示した被測定光P1のスペクトルには、波長λp=405.70nm〜405.75nmの範囲内に、図12のピーク12Aを反映したピーク14が観察された。図15に、図13の被測定光P1のスペクトル(実線で表示)と図14の被測定光P1のスペクトル(破線で表示)とを重ね合わせたものを示す。
【0059】
本来、短波長側のピークと長波長側のピークとはおおよそ左右対称な形状および大きさとなり、それぞれから換算して求めた被測定光P1のスペクトルの波形は完全に一致するはずである。すなわち、図11と図12とは互いにほぼ線対称な形状および大きさを有し、図13と図14とはほぼ一致するはずである。それにも関わらず、図11と図12との非対称性、および図13と図14との不一致(図15参照)が現れたのは、単に、本実験例において使用した分光器4の性能によるものである。具体的には、短波長側よりも長波長側において感度が低いため、図12および図14では、分解能が劣化し、ピーク強度も低いものとなった。したがって、短波長側と長波長側とで同一の感度を有する分光器4を使用すれば、短波長側のピークと長波長側のピークとは左右対称な形状および大きさとなり、それぞれから換算して求めた被測定光P1のスペクトルの波形は完全に一致する。よって、実際には、より高い感度が得られる波長域に含まれる変換光P2のスペクトルを採用し、被測定光P1のスペクトルに換算すればよい。
【0060】
(実験例1−2)
実験例1−1に対する比較例として、被測定光P1を分光器4によって直接測定した場合の被測定光P1のスペクトルを図23に表す。ここでは、非線形光学結晶2を用いなかったことを除き、他の測定条件および測定方法は上記実験例1−1と同様である。図23に示したように、分解能Δλが0.7nmの分光器4によって被測定光P1を直接測定した場合には、3つのピーク13A〜13C(図13)に対応するピークが明確に現れなかった。
【0061】
(実験例2)
本実験例では、非線形光学結晶2の入射面S1に対し、被測定光P1を斜め方向に入射するようにしたことを除き、他は実験例1−1と同様にして変換曲線の測定を実施した。具体的には、図16に示したように、被測定光P1が入射面S1に対して垂直方向から10°だけ傾くように(被測定光P1の入射角θp1を10°とするように)非線形光学結晶2(PP結晶2A)をステージ21と共にYZ平面内において回転させるようにした。
【0062】
図17は、本実験例における、被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの関係を表す変換曲線であり、実験例1−1の図10に対応するものである。なお、ここでいう変換光P2は、射出面S2に対してなす角度θp2が、被測定光P1の入射角θp1と同じく10°のものである。図17と図10との比較により、本実験例では、実験例1−1の場合よりも変換光P2の波長λs,λiの波長に対する被測定光P1の波長λpが、やや長くなっている。すなわち、非線形光学結晶2を傾けることにより、測定に適した被測定光P1の波長域が変化するのを確認することができた。
【0063】
(実験例3)
本実験例では、以下の点を除き、他は実験例1−1と同様にして変換曲線の測定を実施した。具体的には、図18に示したように、入射面S1へ垂直入射する被測定光P1の進行方向に対して分光器の受光角度が5°傾くように(射出面S2に対して5°の角度θp2で射出する変換光P2を受光するように)分光器4を配置した。分光器4は、非線形光学結晶2を中心としてステージ41と共にYZ平面内において回転させるようにした。
【0064】
図19は、本実験例における、被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの関係を表す変換曲線であり、実験例1−1の図10に対応するものである。図19と図10とを比較すると、変換曲線の頂点位置が変化しており、本実験例では、実験例1−1の場合よりも変換光P2の波長λs,λiの波長に対する被測定光P1の波長λpが、やや長くなっている。すなわち、射出面S2に対する射出角度が異なる変換光P2を選択することにより、測定に適した被測定光P1の波長域が変化するのを確認することができた。
【0065】
(実験例4−1)
本実験例では、非線形光学結晶2(PP結晶2A)の保持温度を50℃としたことを除き、他は実験例1−1と同様にして変換曲線の測定を実施した。図20は、本実験例における、被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの関係を表す変換曲線であり、実験例1−1の図10に対応するものである。図20と図10との比較により、本実験例では、実験例1−1の場合よりも変換光P2の波長λs,λiの波長に対する被測定光P1の波長λpが、全体的にやや長くなっている。すなわち、非線形光学結晶2の温度を高く維持することにより、測定に適した被測定光P1の波長域が長波長側へシフトするのを確認することができた。
【0066】
(実験例4−2)
本実験例では、非線形光学結晶2(PP結晶2A)の保持温度を0℃としたことを除き、他は実験例1−1と同様にして変換曲線の測定を実施した。図21は、本実験例における、被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの関係を表す変換曲線であり、実験例1−1の図10に対応するものである。図21と図10との比較により、本実験例では、実験例1−1の場合よりも変換光P2の波長λs,λiの波長に対する被測定光P1の波長λpが、全体的にやや短くなっている。すなわち、非線形光学結晶2の温度を低く維持することにより、測定に適した被測定光P1の波長域が短波長側へシフトするのを確認することができた。
【0067】
(実験例4−3)
本実験例では、非線形光学結晶2(PP結晶2A)の分極反転周期Λを4.00μmとしたことを除き、他は実験例1−1と同様にして変換曲線の測定を実施した。図22は、本実験例における、被測定光P1の波長λpと変換光P2の波長λs,λiとの関係を表す変換曲線であり、実験例1−1の図10に対応するものである。本実験例では、実験例1−1に比べ、変換曲線の頂点位置が縦軸および横軸の双方において長波長側にシフトしている。すなわち、非線形光学結晶2の分極反転周期Λを変更することにより、測定に適した被測定光P1の波長域が変化することを確認することができた。
【0068】
以上の各実験例の結果から、本発明の光スペクトル測定装置および光スペクトル測定方法によれば、被測定光のスペクトルを直接測定する場合と比較して、より高い波長分解能が得られ、より高精細なスペクトルを簡便に測定可能なことが確認された。また、非線形光学結晶に対する被測定光の入射角、被測定光の入射方向と変換光の進行方向との相対角度、または非線形光学結晶の温度のいずれかを変更することにより、スペクトルの測定に適した被測定光の波長域の変更が可能であることが確認できた。なお、上記各実験例(但し実験例1−2を除く)では、非線形光学結晶としてPPKTP結晶を用いるようにしたが、他のPP結晶(例えばPPLN結晶,PPLT結晶)についても同様の傾向が確認できた。
【0069】
以上、いくつかの実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、被測定光としてレーザ光を用い、そのスペクトルを測定するようにしたが、本発明では、蛍光灯や高輝度放電ランプなどを光源とする光のスペクトルを測定するようにしてもよい。また、非線形光学結晶としては、上記実施の形態および実施例に例示したもの以外のものであっても、自発的パラメトリック下方変換を生じさせるものであれば適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の光スペクトル測定装置および光スペクトル測定方法は、例えば、半導体レーザ,発光ダイオード(LED),有機EL素子などの光源または発光素子についてのスペクトル測定に適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…光源、2…非線形光学結晶、3…波長選択フィルタ、4…分光器、5…制御部、P1…被測定光、P2…変換光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向から入射する被測定光を自発的パラメトリック下方変換させ、変換光として射出する非線形光学結晶と、
前記変換光の波長強度分布を測定する分光器と
を備えた光スペクトル測定装置。
【請求項2】
前記被測定光の波長と前記変換光の波長との対応関係を表す変換データに基づき、前記変換光の波長強度分布から前記被測定光の波長強度分布への換算を行う演算部をさらに備えた
請求項1記載の光スペクトル測定装置。
【請求項3】
前記非線形光学結晶は、周期分極反転KTiOPO4 ,周期分極反転LiNbO3 または周期分極反転LiTaO3 である
請求項1記載の光スペクトル測定装置。
【請求項4】
前記非線形光学結晶に対する前記被測定光の入射角を変更する第1の変更手段を備えた
請求項1記載の光スペクトル測定装置。
【請求項5】
前記非線形光学結晶に対する前記分光器の相対角度を変更する第2の変更手段を備えた
請求項1記載の光スペクトル測定装置。
【請求項6】
前記被測定光の入射方向と一致する方向へ進行する前記変換光が到達する位置に前記分光器が配置される
請求項5記載の光スペクトル測定装置。
【請求項7】
前記非線形光学結晶の温度を調節する温度制御手段を備えた
請求項1記載の光スペクトル測定装置。
【請求項8】
前記非線形光学結晶と前記分光器との間の光路上に、前記被測定光を選択的に除去する波長選択フィルタをさらに備えた
請求項1記載の光スペクトル測定装置。
【請求項9】
被測定光を所定の方向から非線形光学結晶に入射させ、前記被測定光を自発的パラメトリック下方変換して前記非線形光学結晶から変換光を射出させるステップと、
前記変換光の波長強度分布を測定するステップと
を含む光スペクトル測定方法。
【請求項10】
前記被測定光の波長と前記変換光の波長との対応関係を測定するステップと、
前記対応関係に基づき、前記変換光の波長強度分布から前記被測定光の波長強度分布を求めるステップと
をさらに含む請求項9記載の光スペクトル測定方法。
【請求項11】
前記被測定光の波長域に応じて、前記非線形光学結晶に対する前記被測定光の入射角、前記被測定光の入射方向と前記変換光の進行方向との相対角度、または前記非線形光学結晶の温度、のいずれかを変更して前記変換光の波長強度分布を測定する
請求項9記載の光スペクトル測定方法。
【請求項12】
前記非線形光学結晶として、周期分極反転KTiOPO4 ,周期分極反転LiNbO3 または周期分極反転LiTaO3 を用いる
請求項9記載の光スペクトル測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−243208(P2010−243208A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89429(P2009−89429)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】