説明

光センサ

【課題】干渉光とそうでない波長帯の光とを検出することのできる赤外線センサ等の光センサを提供する。
【解決手段】シリコン基板2と、干渉光を吸収する吸収膜9と、吸収膜9と第一の絶縁層8を介して対向する金属反射膜7とを備え、光線の吸収を感知するセンサ1において、第一の絶縁層8が、それ自体吸収波長帯を有し、吸収膜9の共振吸収状態及び第一の絶縁層8の固有振動励起に伴う光吸収状態の少なくともいずれか一方を検出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光センサに関し、好ましくは熱型(非冷却型)赤外線センサに好適に利用される。
【背景技術】
【0002】
熱型赤外線センサは、赤外線を受光し、その光吸収に伴う発熱によって検出部が温められ、その温度上昇によって変化する電気的性質を検知するもので、冷却装置を要しないことから小型で安価であるうえ、広い波長帯域で使えるので、汎用されている。
熱型赤外線センサの検出部は、金黒からなる吸収膜を備えるものと、金属からなる反射膜と所定の物理的距離dを隔てて対向するように配置された400Ω/□程度のシート抵抗を有する吸収膜を備えるものとが知られている。前者は金黒が剥がれやすいという難点を有するのに対して、後者はそのような難点を有していない。
【0003】
後者の場合、距離dは、nを吸収膜と金属との間に存在する物質の屈折率、λを波長、mを整数とするとき、n・d=(2m+1)λ/4を充足するように定められる。そして、吸収膜を透過した赤外線が反射膜で反射されて入射光と反射光とが干渉し、共振波長が吸収膜にて吸収されることにより、吸収膜が発熱するという性質を利用している。
近年、この吸収効率を上げるために、吸収膜を平行に二層設けることにより、いずれか一方で吸収されなかった赤外線を他方で吸収するようにした構成が提案されている(特許文献1)。また、これを更に改良して吸収膜を平行に二層設けることに加えて、第二の反射膜を第一の反射膜の周囲に設けて、広い領域で吸収できるようにした構成も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−294523号公報
【特許文献2】特開2006−220555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、干渉光を利用した従来の赤外線センサは、屈折率n、及び吸収膜と反射膜との物理的距離dで定まる限られた波長の光しか吸収されない。例えば、人体が発する10μm前後の波長の赤外線を吸収するようにnとdを選択すると、吸収される波長は10μm(m=0)、3.3μm(m=1)、2.5μm(m=2)・・・といった具合である。従って、これに該当しない4.4〜5.5μmの波長帯の赤外線は共振吸収されず、4.4μm付近に二酸化炭素による特異な放射を示す火炎と人体とを一つのセンサで検出することができなかった。
それ故、この発明の課題は、干渉光とそうでない波長帯の光とを検出することのできる光センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その課題を解決するために、この発明の第一の光センサは、
干渉光を吸収する吸収膜と、前記吸収膜と第一の絶縁層を介して対向する金属反射膜とを備え、光線の吸収を感知するセンサにおいて、
前記第一の絶縁層が、それ自体吸収波長帯を有し、前記吸収膜の共振吸収状態及び前記第一の絶縁層の固有振動励起に伴う光吸収状態の少なくともいずれか一方を検出することを特徴とする。
【0007】
同じく第二の光センサは、
干渉光を吸収する吸収膜と、前記吸収膜と第一の絶縁層を介して対向する金属反射膜とを備え、光線の吸収を感知するセンサにおいて、
それ自体吸収波長帯を有する1又は2以上の第二の絶縁層が前記吸収膜の上に設けられ、前記吸収膜の共振吸収状態及び前記第二の絶縁層の固有振動励起に伴う光吸収状態の少なくともいずれか一方を検出することを特徴とする。
【0008】
この発明の光センサによれば、受光した光線がn・d=(2m+1)λ/4を充足するものであれば、吸収膜を透過した光線が金属反射膜で反射され、入射光と反射光とが干渉し、吸収膜にて吸収される。一方、受光した光線が前記のようには干渉しない波長帯の光線であるが、第一の光センサにおいては第一の絶縁層を形成する材質、第二の光センサにおいては第二の絶縁層を形成する材質の固有振動数と一致する波長帯の光線であるときは、第一もしくは第二の絶縁層の固有振動励起に伴い、第一、第二の絶縁層にて吸収される。
【0009】
従って、前記の式を充足する干渉光だけでなく、絶縁層自体が吸収する異種の光線をも一つのセンサで検出することができる。例えば、酸化ケイ素膜は波長10μm前後をピークとする波長帯、窒化ケイ素膜は波長13μm前後をピークとする波長帯をそれぞれ吸収する。そこで、これらの材質で第一、又は第二の絶縁層を形成するとともに、吸収膜が4.4〜5.5μmの波長帯の干渉光を吸収するn・dとなるように第一の絶縁層の厚さを設定することで、10もしくは13μmの少なくともいずれか一方の波長帯と4.4〜5.5μmの波長帯の両方の光線を検出することが可能である。例えば、第一の絶縁層で酸化ケイ素膜、第二の絶縁層で窒化ケイ素膜を使用した場合は、10μmおよび13μmと、共振吸収の光を吸収することができる。
【0010】
前記吸収膜は、第一の光センサにおいては第一の、第二の光センサにおいては第二の絶縁層の吸収波長帯と一部重なる吸収波長帯を有してもよい。重ならない波長帯の干渉光に基づく出力信号をもって吸収膜による吸収であると判別できるし、重なる波長帯の光に基づく出力信号をもって絶縁層による吸収であると判別できるからである。
また、前記吸収膜は、300〜600Ω/□の範囲にあるシート抵抗を有するものが好ましい。干渉光を効率よく吸収するからである。
【発明の効果】
【0011】
一つのセンサで干渉光とそうでない波長帯の光との両方を検出することができるので、センサを大型化することなく、性質の異なる複数の物質を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は実施形態1に係る赤外線センサを示す断面図、(b)は(a)の赤外線受光部拡大図である。
【図2】(a)は実施形態2に係る赤外線センサを示す断面図、(b)は対照センサを示す断面図である。
【図3】(A)は実施形態2に係る赤外線センサによる吸収スペクトル、(B)は対照受光部による吸収スペクトル、(C)は両スペクトルの差分から求められたスペクトル、(D)は(B)の写しである。
【図4】(A)は実施形態2に係る赤外線センサによる別の吸収スペクトル、(B)は対照受光部による吸収スペクトル、(C)は両スペクトルの差分から求められたスペクトル、(D)は(B)の写しである。
【図5】実施例の吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
−実施形態1−
図1(a)は第一の実施形態に係る赤外線センサを示す断面図、図1(b)は図1(a)の赤外線受光部拡大図である。赤外線センサ1は、(100)面方位の単結晶シリコン基板2と、基板2のキャビティ3上に形成された赤外線受光部4及びサーモパイル5と、基板1のキャビティ3外に形成された配線6とを備える。赤外線受光部4は、反射膜7と、反射膜7の上に形成された絶縁層8と、更にその上に形成された吸収膜9との積層構造を有する。キャビティ3は、基板2を結晶異方性エッチングすることによって形成されている。サーモパイル5は、赤外線受光部4と配線6とを連結し、エッチング後に赤外線受光部4を機械的に支持する脚を兼ねている。
【0014】
反射膜7は、アルミニウムなどの導電性に優れ且つ赤外線を透過しない金属をスパッタリングすることによって形成されている。絶縁層8は、酸化ケイ素、窒化ケイ素又はそれらの積層体などのそれ自体が赤外線を吸収する材質からなり、化学気相成長法(CVD)により形成されている。絶縁層8の物理的厚さdは、光学距離n・d(n:屈折率)が検出対象物の波長と一致するように設定されている。吸収膜9は、窒化チタンや酸化チタンなどの400Ω/□前後のシート抵抗を有する導電体からなり、スパッタリングすることにより形成されている。
【0015】
赤外線センサ1によれば、受光した赤外線がn・d=(2m+1)λ/4を充足するものであるときは、吸収膜9及び絶縁層8を順に透過し、反射膜7で反射されて、入射光と反射光とが干渉し、吸収膜9にて吸収される。また受光した赤外線が絶縁層8の吸収波長帯と一致する波長のものであるときは、固有振動励起により、絶縁層8にて吸収される。吸収された赤外線が吸収膜9及び絶縁層8のいずれで吸収されたものであるかは、第二の実施形態において詳述するように、吸収膜9を備えていない図略の対照受光部を赤外線受光部4と並べて配置するか又はそのような対照受光部を有する対照センサを赤外線センサ1と並べて配置し、両受光部又は両センサのサーモパイルの出力電圧の差分を求めることにより、判別される。
【0016】
−実施形態2−
図2(a)は、第二の実施形態に係る赤外線センサの赤外線受光部を示す断面図である。赤外線受光部10は、実施形態1と同じく反射膜11と、反射膜11の上に形成された絶縁層12(第一の絶縁層)と、更にその上に形成された吸収膜13と、更にその上に形成された絶縁層14(第二の絶縁層)とを備える。基板、キャビティ、サーモパイル及び配線については実施形態1と同形同質であってよい。
【0017】
反射膜11及び吸収膜13は、実施形態1における反射膜7及び吸収膜9と同形同質であってよく、説明を省略する。絶縁層12は、実施形態1における絶縁層8の如く特定の波長の赤外線を吸収する材質からなっていてもよいし、空洞であってもよい。空洞であるときは、反射膜11と吸収膜13との間隔dがn・d=(2m+1)λ/4を充足するように図略のスペーサが両者の間に介在する。絶縁層14は、実施形態1における絶縁層8の如く特定の波長の赤外線を吸収する材質からなり、絶縁層12が赤外線吸収材料からなるときは絶縁層12と同一材料であってもよい。
【0018】
絶縁層12が空洞である場合、受光した赤外線がn・d=(2m+1)λ/4を充足するものであるときは、絶縁層14、吸収膜13及び絶縁層12を順に透過し、反射膜11で反射されて、入射光と反射光とが干渉し、吸収膜13にて吸収される。また受光した赤外線が絶縁層14の吸収波長帯と一致する波長のものであるときは、固有振動励起により、絶縁層14にて吸収される。
【0019】
吸収された赤外線が吸収膜13及び絶縁層14のいずれで吸収されたものであるかは、図2(b)に示すように吸収膜13を備えていない以外は赤外線受光部10と同一構成の対照受光部15を赤外線受光部10と並べて配置し、両受光部のサーモパイルの出力電圧の差分を求める。即ち、図3(A)及び(B)にそれぞれ受光部10及び受光部15による吸収スペクトルを示すように、吸収膜13で吸収される波長帯(干渉による吸収)がλ1以下であって、絶縁層14によって吸収される波長帯λ2と重ならないときは、図3(C)で示すように受光部10及び受光部15の各サーモパイルの出力電圧の差分を求め、得られる信号から吸収膜13による吸収の有無を判定する。また、受光部15のみから得られる信号に基づいて絶縁層14による吸収の有無を判定する。尚、図3(C)ではλ1未満の波長帯は図略のフィルタによりカットされているが、これは必須ではない。
【0020】
また、図4(A)及び(B)に示すように、吸収膜13で吸収される波長帯(干渉による吸収)がλ2を含んでいて、絶縁層14によって吸収される波長帯λ2と重なるときは、受光部10のλ2に基づく出力Iaが受光部15に基づく出力Ibで打ち消されるように、図4(C)で示すように係数k(k=Ia/Ib)を乗じたうえで受光部10に基づく出力と受光部15に基づく出力の差分を求め、得られる信号から吸収膜13による吸収の有無を判定する。また、受光部15のみに基づいて得られる信号から絶縁層14による吸収の有無を判定する。
【0021】
絶縁層12を空洞ではなく、絶縁層14と同じ材質で形成すれば、λにおける吸光度が増す。
尚、各受光部の温度変化を電気特性に変換する手段としては、サーモパイルに限らず、ボロメータやダイオードなどの公知の適宜の手段を適用可能である。
【実施例】
【0022】
実施形態2のセンサにおいて、反射膜11をアルミニウム膜、絶縁層12を厚さ0.8μmの酸化ケイ素膜とその上に形成された厚さ1.0μmの窒化ケイ素膜との積層体、吸収膜13をシート抵抗約400Ω/□の窒化チタン、絶縁層14を厚さ0.3μmの酸化ケイ素膜とした。形成手段は、CVDまたはスパッタリングである。得られたセンサについて赤外分光法にて吸収スペクトルを測定した結果を図5に示す。
【0023】
図中、波長帯Nは人体など室温程度の物体の検知で用いられる8−12μmの領域で、波長帯Uは炎から発生する光のうち炭酸ガス(CO2)から共鳴放射される4.4μm付近の波長を含み、炎検知で用いられる3.6−5.2μmの領域である。この結果から、この実施例のセンサを用いれば、人体と炎の両方を検出できることが明らかである。
【符号の説明】
【0024】
1 赤外線センサ
2 シリコン基板
3 キャビティ
4、10 赤外線受光部
5 サーモパイル
6 配線
7、11 反射膜
8、12 絶縁層(第一)
14 絶縁層(第二)
9、13 吸収膜
15 対照受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉光を吸収する吸収膜と、前記吸収膜と第一の絶縁層を介して対向する金属反射膜とを備え、光線の吸収を感知するセンサにおいて、
前記第一の絶縁層が、それ自体吸収波長帯を有し、前記吸収膜の共振吸収状態及び前記第一の絶縁層の固有振動励起に伴う光吸収状態の少なくともいずれか一方を検出することを特徴とする光センサ。
【請求項2】
干渉光を吸収する吸収膜と、前記吸収膜と第一の絶縁層を介して対向する金属反射膜とを備え、光線の吸収を感知するセンサにおいて、
それ自体吸収波長帯を有する1又は2以上の第二の絶縁層が前記吸収膜の上に設けられ、前記吸収膜の共振吸収状態及び前記第二の絶縁層の固有振動励起に伴う光吸収状態の少なくともいずれか一方を検出することを特徴とする光センサ。
【請求項3】
前記吸収膜が、第一の絶縁層の吸収波長帯と一部重なる吸収波長帯を有する請求項1に記載の光センサ。
【請求項4】
前記吸収膜が、第二の絶縁層の吸収波長帯と一部重なる吸収波長帯を有する請求項2に記載の光センサ。
【請求項5】
前記光線が赤外線である請求項1〜4のいずれかに記載の光センサ。
【請求項6】
前記吸収膜が、300〜600Ω/□の範囲にあるシート抵抗を有する請求項1〜5のいずれかに記載の光センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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