光デバイスおよび光制御方法
【課題】 特定の波長のみに可変の光減衰を付与することが可能でかつ半固定動作が可能な光デバイスと、光制御方法を実現する。
【解決手段】 2種類以上の媒質からなる2次元または3次元の周期構造体のフォトンのバンド構造における反対称モードを外部光の斜め入射により励振することで、反対称モードの存在する波長の光に、透過損失または反射損失を生じさせることと、直交する偏波のうちの少なくとも一方に対する実効的な光波のバンドギャップを生じさせることとのうちの、少なくともいずれかをなす。また、入射角をステッピングモータを用いて可変とすることで透過損失を可変とする。
【解決手段】 2種類以上の媒質からなる2次元または3次元の周期構造体のフォトンのバンド構造における反対称モードを外部光の斜め入射により励振することで、反対称モードの存在する波長の光に、透過損失または反射損失を生じさせることと、直交する偏波のうちの少なくとも一方に対する実効的な光波のバンドギャップを生じさせることとのうちの、少なくともいずれかをなす。また、入射角をステッピングモータを用いて可変とすることで透過損失を可変とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として光通信分野で用いられる光デバイスに関し、特に、光減衰器および光利得等価器として機能する光デバイスならびに光制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野等において、特定の波長で光減衰を与えることができる光デバイスが必要とされる場合がある。例えば、エルビウムドープ光ファイバアンプ(EDFA)の利得等価が挙げられる。
【0003】
このような用途では、非特許文献1に記載のように、長周期ファイバブラッググレーティングやファブリ・ペローエタロンフィルタ、平面光導波路などのフィルタデバイスとの組み合わせで実現されてきた(以下、従来技術1とする)。
【0004】
また、伝送経路が複雑な場合はフィルタデバイスの減衰特性が可変である必要があり、可変利得等価器が用いられる。例えば、非特許文献2記載の光ファイバグレーティングを形成された導波路とクラッドとなる液晶を組み合わせ、液晶によるクラッドへの印加電界の制御により実現されている(以下、従来技術2とする)。
【0005】
尚、可変利得等価器に要求される減衰特性は常時変動する性質ではなく、ひとたび減衰特性が選択された後はしばらくの間、同じ減衰特性を保持する使用状態が多いため、減衰特性を変更するとき以外は、外部からのエネルギー供給無しに減衰特性が保持される半固定動作が望ましい。
【0006】
一方、非特許文献3にあるように、構造により一様物質とは異なる物性を得ようとする試みも活発である。特に、近年フォトニック結晶と呼ばれる2種類以上の物質からなる光の波長程度の周期を持つ2次元または3次元の周期構造体が注目を集めている。
【0007】
フォトニック結晶の元となるフォトニックバンドの概念は非特許文献4により発表され、非特許文献5にてフォトンの局在など重要な性質が提示されたことにより注目を集めた。実際に作製され、フォトニックバンドギャップが確認されたフォトニック結晶は、Yablonotiteと呼ばれる構造体(特許文献1参照)が最初であり、以後、ウッドパイル構造(非特許文献6参照)、OPAL(微小球配列構造、非特許文献7参照)、エアホール(非特許文献8参照)、段差上多層膜(自己クローニング型、特許文献2および非特許文献9参照)などの種々の構造が実現されてきた。
【0008】
フォトニック結晶特有の現象には多々あるが、フォトニックバンドギャップは最もよく知られている。そして、フォトニックバンド中でもフォトニックバンド構造の制御により従来の結晶では実現できない現象(スーパープリズム現象、非特許文献10参照)や、スーパーコリメータ現象(非特許文献11参照)、スーパーレンズ現象(非特許文献12参照)が見つかり、フォトニックバンドギャップよりもバンド構造を制御することに注目が集まった。フォトニックバンド構造の制御は、フォトニックバンド工学という分野を作り出している(非特許文献13参照)。そこで、本件中では、フォトニック結晶の定義として「フォトニックバンドギャップを有する周期構造体」ではなく、「2種類以上の物質からなる光の波長程度の周期を持つ2次元または3次元の周期構造体」を用いる。
【0009】
フォトニック結晶は、結晶中の原子の周期性の影響で電子のバンド構造が変化するように、フォトンが屈折率(または誘電率)の周期性を感じることでフォトニックバンドの折り返しが生じ、さらに、屈折率や周期を選択することでフォトニックバンド構造を制御できる。フォトニック結晶には様々な興味深い特徴があるが、フォトニック結晶と原子あるいは分子の周期配列による結晶との比較については、非特許文献14にまとめられている。また、バンド構造の起源などの詳しい説明が、非特許文献15でなされている。
【0010】
次に、フォトニック結晶中の光の伝搬についてこれまで知られている形態について説明する。
【0011】
フォトニック結晶の伝搬域における分散曲線が折り返す波長近傍では群速度が遅くなるが、この現象はフォトンが多重反射しながら伝搬することに相当するため、フォトンと媒質との相互作用が大きくなる(非特許文献16参照)。また、フォトニックバンド端では定在波状態になり、フォトニックバンドギャップ内の波長の光は反射する。
【0012】
【特許文献1】アメリカ合衆国特許第5172267号
【特許文献2】日本国特許第3325825号
【特許文献3】日本国特許第3288976号
【特許文献4】日本国特許第2539563号
【非特許文献1】須藤昭一 編,「エルビウム添加光ファイバ増幅器」,p113,オプトロニクス社,1999
【非特許文献2】Yeralan et.al.,”Switchable Bragg grating devices for telecommunications applications”,Optical Engineering,August2002,Vol.41
【非特許文献3】山本 良一 編,多層薄膜と材料開発,株式会社シーエムシー出版,1986
【非特許文献4】Ohtaka,PHYSICAL REVIEW B,VOL19,NO10,pp5057-5067,15 MAY 1979
【非特許文献5】Physical Review Letters,May 1987,vol58,pp2059-2062
【非特許文献6】S.Noda et.al.,New realization method for three-dimensional photonic crystal in optical wavelength region.Jpn.J.Appl.Phys.,vol.35,pp.L909-L912(1996)
【非特許文献7】H.Miguez,et.al.,Photonic crystal properties of packed submicrometric SiO2 spheres,Appl.Phys.Lett.,71,pp.1148-1150 (1997)
【非特許文献8】T.Baba and T.Matsunami,Electron.Lett.,31,1776(1995)
【非特許文献9】S.Kawakami,”Fabrication of submicromatre 3D periodic structures composed of Si/SiO2”,ELECTRONICS LETTERS,3rd July 1997,vol33,No.14
【非特許文献10】H.Kosaka et al.,Phys.Pev.B58,R10096(1998)
【非特許文献11】H. Kosaka, T. Kawashima, A. Tomita, M. Notomi, T. Tamamura, T. sato, and S. Kawakami,”Self-collimating phenomena in photonic crystals,”Appl. Phys. Lett., vol. 74, no.9, pp. 1212-1214, 1 March 1999
【非特許文献12】H.Kosaka,T.Kawashima,A.Tomita,M.Notomi,T.Tamamura,T.Sato,and S.Kawakami,Appl.Phys.Lett.74(1999)1212
【非特許文献13】川上彰二郎 監修,「フォトニック結晶技術とその応用」,pp.221-228,株式会社シーエムシー出版,2002
【非特許文献14】John.D.Joannopoulos,Robert D.Meade and Joshua N.Winn,Photonic Crystals,Appendixes A,PRINCETON UNIVERSITY PRESS,1995
【非特許文献15】大高一雄,「周期場中の光の特徴,周期場中での光と物質の相互作用」,日本光学会(応用物理学会)主催 第27回冬期講習会 フォトニック結晶と極微細周期構造の光学 予稿集,2001
【非特許文献16】川上彰二郎 監修,「フォトニック結晶技術とその応用」,pp.222-223,株式会社シーエムシー出版,2002
【非特許文献17】大見忠弘 監修,「新しい半導体製造プロセスと材料」,3章4章,株式会社シーエムシー,2000年5月
【非特許文献18】吉野勝美,武田寛之 著,「フォトニック結晶の基礎と応用」,pp90-93,株式会社コロナ社,2004
【非特許文献19】川上彰二郎 監修,フォトニック結晶技術とその応用 第3章,株式会社シーエムシー出版,2002
【非特許文献20】川嶋貴之,大寺康夫,佐藤尚,川上彰二郎,「2次元フォトニック結晶偏光分離素子の作製とその高性能化」,電子情報通信学会光エレクトロニクス研究会,OPE99-109,1999年12月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術1に記載される種々の光減衰器は、特定波長のみに可変の光減衰を付与することが困難である。従来技術2は、特定波長のみに可変の光減衰を付与することが可能であるものの、半固定動作が不可能であるため、常時電界印加または加熱する必要があり、運用に伴うリスクが大きい。
【0014】
さらに、前述した文献は、フォトニックス結晶に入射光を照射した場合における現象について何等開示していないし、入射光を照射した場合の特性を利用したデバイス等について示唆されていない。
【0015】
本発明者等は、フォトニックス結晶に対して斜めに光を入射した場合に特定の波長のみに光損失、光減衰等が生じるという新規な現象を発見し、当該現象を利用したデバイスを提案すると共に、当該新規な現象の制御方法を提案するものである。
【0016】
本発明者等はまた、当該提案によれば、上述の従来技術1、2による問題点を解決し得ること見出した。
【0017】
それ故、本発明の目的は、フォトニックス結晶に入射光を照射した場合、特定の波長において光損失、光減衰等が生じることを利用した光デバイスを提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、特定波長を減衰させるフォトニックス結晶を用いて光を制御する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、2種類以上の媒質から成り、屈折率が周期的な構造を持ち、フォトンのバンド構造を有する周期構造体を有し、前記周期構造体は、当該周期が、3次元の直交座標x,y,zにおいて、x,z方向の二方向もしくはx,y,z方向の三方向に存在していると共に、前記z方向に延びる軸を含む対称面に対して電磁界分布が反対称であるモードを呈することが可能であり、前記周期構造体への非エバネッセントな入射光は、前記z方向に対して0°よりも大きい入射角で入射される光デバイスにおいて、例えば、以下の態様(1)〜(10)が得られる。
【0020】
(1)前記周期構造体は、前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に、透過損失または反射損失を与える。
(2)前記周期構造体は、前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に、直交する偏波のうちの少なくとも一方に対する実効的なフォトンのバンドギャップを生じさせる。
(3)前記周期構造体は、前記z方向に延びる軸を含む対称面に対して電磁界分布が反対称であるモードと、直交する偏波のうちの少なくとも一方の対称モードとが存在するものである。
(4)前記周期構造体は、前記z方向に対して0°よりも大きい入射角で入射される前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光を光軸外へ放射させる。
(5)前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に対する透過損失を変化させるべく、前記周期構造体への前記入射光の入射角を相対的に変化させる手段をさらに有している。
(6)前記周期構造体の光の入射側に配置された、偏光分離素子および偏光回転子をさらに有し、前記周期構造体には、互いに実質的に同一の偏光状態を持つ2つのビームが入射される。
(7)光デバイスの入射ポートから出射ポートに向かう方向に並んだ複数の前記周期構造体を有している。
(8)前記複数の周期構造体は、前記x方向または前記y方向の周期が相互に異なる。
(9)前記複数の周期構造体は、前記z方向の周期が相互に同一である。
(10)前記複数の周期構造体に対する光の入射角が各個独立に制御可能であり、かつ、各前記周期構造体に対する入射角がx方向,y方向,z方向を軸に独立に制御可能である。
【0021】
本発明によればまた、フォトニック結晶体を用い、前記フォトニック結晶体のフォトンのバンド構造における反対称モードを、該フォトニック結晶体への非エバネッセントな入射光を斜めに入射することによって励振することにより、下記Aおよび/または下記B:(A)入射光のうちの反対称モードの存在する波長の光に、透過損失または反射損失を生じさせる、(B)入射光のうちの反対称モードの存在する波長の光に、直交する偏波のうちの少なくとも一方に対する実効的な光波のバンドギャップを生じさせる、をなすことを特徴とする光制御方法が得られる。
【0022】
本発明によればさらに、予め定められたフォトンのバンド構造を有するフォトニック結晶体と、所定の入射光とを使用して、前記入射光の前記フォトニック結晶体に対する相対的な角度を変化させることにより、前記入射光の透過損失または反射損失を変化させることを特徴とする光制御方法が得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、特定波長のみに可変の光減衰を付与することが可能であり、かつ、ほぼ任意の減衰特性が得られ、かつ、各波長の減衰幅(ダイナミックレンジ)が大きい上に半固定動作が可能であるため常時電界印加または加熱する必要がなく、運用に伴うリスクおよびコストが小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明による光デバイスは、予め定められたフォトンのバンド構造を有するフォトニック結晶体を有し、このフォトニック結晶体に所定の非エバッセントな入射光を入射する際に、入射光のフォトニック結晶体に対する相対的な角度を変化させることにより、入射光の透過損失または反射損失等を任意に変化させることが可能である。
【0025】
以下、この光デバイスと、本発明による光制御方法とについて、幾つかの実施例を挙げて詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明による光デバイスとしての光減衰器の実施例1を、図1〜図15を参照して説明する。
【0027】
図1(a)〜(d)はそれぞれ、本発明による光減衰器の構成と動作を示す模式図である。
【0028】
図1(a)を参照して、本光減衰器は、光ファイバ101と、1/4波長板102と、1/2波長板103と、レンズ104と、2次元フォトニック結晶105と、2次元フォトニック結晶106と、レンズ107と、光ファイバ108とからなり、2次元フォトニック結晶105および106は、ビームの入射角が可変である。尚、1/4波長板102および1/2波長板103の組み合わせを用いて、直線偏波を得ることができる。
【0029】
図1(b)〜(d)に示す光減衰器も、図1(a)に示した光減衰器と同様に、光ファイバ101と、1/4波長板102と、1/2波長板103と、レンズ104と、2次元フォトニック結晶105と、2次元フォトニック結晶106と、レンズ107と、光ファイバ108とを有しているが、2次元フォトニック結晶105および106のうちの少なくとも一方の配置が、後述の図2におけるx方向を中心軸とした角度付けがなされている。
【0030】
図2は、2次元フォトニック結晶105、106の模式図である。
【0031】
図2の構造は、特許文献3で開示される自己クローニング型フォトニック結晶と呼ばれる構造であり、自己クローニング法と呼ばれる工法で最初に作製されたことからこの呼称がある。自己クローニング法とは、凹凸や三角波形状、サインカーブ形状などに加工された基板上に、最適化された条件下で多層膜堆積を行うことにより基板形状を保存したまま多次元周期構造を形成する技術である。そして、薄膜である自己クローニング型フォトニック結晶は大面積化に特に適する。自己クローニング型フォトニック結晶はz方向の多層構造体であって、そのユニットセルに含まれる高屈折率媒質層(低屈折率媒質層でも構わない)がx方向にほぼV字形であることが特徴である。
【0032】
図3は、2次元フォトニック結晶105、106に用いる基板の側面図である。
【0033】
2次元フォトニック結晶105、106に用いる基板の材質は溶融石英であり、基板401上にはEB露光によるリソグラフィー工程とドライエッチングで0.5μmピッチの矩形の凹凸(以下、基板パターンとする)が形成されている。
【0034】
さらに、図4に記載されるように基板401上に適切な条件下でrfバイアススパッタリング法によりSiO2膜402を堆積させることで三角波形状の整形層を形成し、その上に図5に記載されるようにa−Si:H膜とSiO2膜とが基板上に形成された三角波形状の形を保持したまま交互に都合14周期成膜されており、2次元屈折率周期構造体をなす。また、フォトニック結晶部の上には、五酸化ニオブ(以下、Nb2O5とする)とSiO2による反射防止膜が同じく自己クローニング法で積層される。
【0035】
実施例1におけるフォトニック結晶のユニットセルは、図6に示されるように、Z軸と直交する方向の周期が500nm、Z方向の水素化アモルファスシリコン(以下a−Si:H)膜の厚さが233nm、SiO2膜の厚さが350nmでZ方向の周期が14周期ある。また、頂角は100度である。図6記載のユニットセルは、自己クローニング型フォトニック結晶の最も基本的な構成で、2つの屈折率の異なる物質からなり、外形が長方形でZ軸に対して対称で高屈折率部の形状が逆V字形状になっていることから、本件中では以下、2次元2物質対称V型長方形ユニットセルと呼称する。
【0036】
次に、材料の物性について説明する。SiO2は、屈折率が1.46である。一方、a−Si:Hは、Eg=1.7eVかつ屈折率が3.4である。溶融石英も、SiO2からなり屈折率は1.46である。a−Si:Hは、アモルファスシリコンのダングリングボンドと水素原子を結合させて終端させたものである。基板は溶融石英を用いる。
【0037】
実施例1では、フォトニック結晶における高屈折率材料としてa−Si:Hを用いたが、屈折率n=2程度またはそれ以上の材料であれば利用できる。ただし、材料の屈折率比が大きいほど少ない周期数でフォトニックバンド構造の影響を得られる。
【0038】
次に、作製方法について説明する。図2の構成は自己クローニング法に従い、rfバイアススパッタリング(スパッタエッチングも効果を伴うrfスパッタリング)により作製する。a−Si:H膜を積層する場合のターゲットはシリコンであり、堆積ガスはアルゴンと水素の混合ガスで、ガス圧力は0.3Paから1.0Paとする。SiO2膜を積層する場合のターゲットは石英であり、堆積ガスはアルゴンと酸素の混合ガスで、ガス圧力は0.3Paから1.0Paとする。印加するバイアスはその最適値に他の成膜条件との依存性や装置依存性があるものの、数十Vの程度である。薄膜プロセスにおける基板加熱温度は通常では材料の融点の0.3倍以上が望ましいとされるが、実施例1では基板加熱温度を570Kとする。
【0039】
次に、成膜方法について補足する。自己クローニング型フォトニック結晶作製方法として前記rfバイアススパッタリング法、ECRスパッタリング法が知られているが、条件設定によってはピラミッド型に整形された基板上にバイアスを加えないrfマグネトロンスパッタリングとスパッタリングやイオンガンまたはRIEなどのエッチングの組み合わせによっても自己クローニング型フォトニック結晶を形成することが可能である。
【0040】
基板上への凹凸の形成方法について補足する。電子ビーム(以下、EB)によるリソグラフィーとエッチングを組み合わせた工程、光またはX線露光によるリソグラフィーとエッチングを組み合わせた工程、またはナノインプリント等が利用できる。また、石英のよう紫外領域まで透明材料の基板への適用はできないものの、紫外線領域で不透明な材料の基板または透明基板上に積層された十分な厚さの紫外線領域で不透明材質の膜を用いれば、干渉露光とエッチングを組み合わせた工程でも基板上への凹凸を形成できる。実施例1では凸凹の形状精度に優れエッチングが容易であることから、溶融石英基板に対してEBによるリソグラフィーとエッチングを組み合わせた工程を採用する。リソグラフィーとエッチングに関しては、非特許文献17に記載されている。
【0041】
次に、三角波形状の整形層の形成について補足する。三角波形状の形成は、図3のような矩形の基板パターンの上に適切な条件下でrfバイアススパッタリングで膜を堆積させることで形成するか、図3のような矩形の基板パターンの上に適切な条件下でrfスパッタリングで膜を堆積した後に、スパッタエッチングで整形することで形成する。
【0042】
図6記載の2次元2物質V型長方形ユニットセルは最も自己クローニング法で作製しやすい形状であり、Z方向の積層周期が100周期を越える場合にも対応できる。逆にZ方向の積層周期が10周期程度であれば図7のような形状のユニットセルによるフォトニック結晶も実現できる。
【0043】
次に、周期構造について説明する。実施例1は自己クローニング型と呼ばれる構造を採用しているが、実施例1を特徴づけるフォトニックバンド構造に由来する透過損失の変化は他の構造を採用するフォトニック結晶でも実現可能である。
【0044】
他の重要な項目は、大面積のフォトニック結晶を容易に製造できることであり、これらを満たす周期構造として、自己クローニング型が最適である。
【0045】
ここで、各材料の屈折率とユニットセルの形状から、図8と図9に示すバンド構造を有する。
【0046】
尚、偶対称モードは電界強度分布が図10に示すように中心軸対称のモードで、反対称モードは図11に示すように中心軸に対して反対称になるモードをいう(非特許文献18参照)。
【0047】
解析には、有限差分時間領域法(FDTD法)を用いた計算プログラムを用いた。尚、フォトニック結晶の解析手法に関しては、非特許文献19に詳述されている。また、バンド構造の計算は周期数無限大の条件下で行う。
【0048】
ここで、実際に作製される自己クローニング型フォトニック結晶と図6のユニットセルは、実際に作製される自己クローニング型フォトニック結晶は頂点が僅かに曲線形状になるなど完全には一致しないが、実際に作製される自己クローニング型フォトニック結晶のなす近似形状のユニットセルを用いたバンド構造の計算結果と偶対称モードに由来する光学特性はほぼ完全に一致する。また、実際にはZ方向は14周期であるが、その条件下でも偶対称モードのバンド構造に由来する光学特性は計算結果とほぼ一致することが確かめられている。
【0049】
以下、実施例1の2次元フォトニック結晶の測定データと比較データを示し、実施例1の効果を説明する。
【0050】
まず、方向について定義する。図12に示すように自己クローニング型2次元フォトニック結晶の膜に形成された溝と平行な方向をx方向、自己クローニング型2次元フォトニック結晶の膜に形成された溝と垂直な方向をy方向とする。
【0051】
図13に、図1における2次元フォトニック結晶106を取り除き、2次元フォトニック結晶105をy軸回りを0度で固定し、x軸周りで0度(垂直入射)2度、5度、10度回転させた場合のTM偏波に対する透過損失波長特性を示す。図13を参照すると、垂直入射時は損失が無く、2度、5度では損失が増加していることがわかる。
【0052】
図14に、図1における2次元フォトニック結晶106を取り除き、2次元フォトニック結晶105のみを用いた場合におけるx軸回りを10度で固定し、y軸周りで0度(垂直入射)2度、5度と回転させた場合のTM偏波に対する透過損失波長特性を示す。図14によれば、x軸回りの回転と組み合わせればy軸回りの回転の影響も表れ、かつ減衰量の調整に用いることができることがわかる。
【0053】
図15に、図1における2次元フォトニック結晶106を取り除き2次元フォトニック結晶105をx軸回りで2度、5度、10度で回転させ、y軸周りを2度で固定させた場合のTM偏波に対する透過損失波長特性を示す。
【0054】
尚、2次元フォトニック結晶106をz軸周りで回転させることにより、1480nmから1560nmの全域に同量のTM偏波に対する透過損失を与えられる。これは、2次元フォトニック結晶106が偏光子としての機能をも有することに由来する。
【0055】
以上のように、2次元フォトニック結晶に対して斜め入射することで、図16に示されるような反対称モードの存在する特定波長帯域のみに大きな減衰幅を持つ可変光減衰器が実現できることがわかる。
【0056】
また、透過損失の発生状況を調べるため積分球による測定を行ったところ、図17に示すようにTM偏波に対する透過損失増加分に見合う量の反射光の増加と、散乱光及び回折光に類似した伝搬方向の異常なビームの発生が認められた。以降、この散乱光及び回折光に類似した伝搬方向の異常なビームをまとめて、光軸外への放射と呼ぶ。
【0057】
前述の入射角依存性について、バンド構造から説明する。図18は、x軸回りで10度斜め入射した場合のバンド図であり、垂直入射時の反対称モード波長の存在波長域にバンドギャップが存在することがわかる。しかし、バンド構造は周期数無限で定義されるので14周期ではバンドギャップは開ききらず、入射光の一部成分は群速度の低下に伴い散乱して、結果として前述の特性になると考えられている。
【0058】
図19に、図1における2次元フォトニック結晶105を取り除き2次元フォトニック結晶106をx軸回りで5度、10度、15度で回転させ、y軸周りを5度で固定させた場合のTM偏波に対する透過損失波長特性を示す。2次元フォトニック結晶106は2次元フォトニック結晶105と同一の基板上にa−Si:Hを220nm、SiO2を330nmの厚さで交互に14周期積層してある。図19からフォトニック結晶の厚さ方向の構成によって反対称モード波長を変えることができることがわかる。
【0059】
さらに、同一入射角において、図20に示すようにフォトニック結晶の周期数によって透過損失が変化する。図20は、X方向の周期が230nmで屈折率約2.4の材料と屈折率約1.5の材料からなる2次元フォトニック結晶における同一基板上に連続して積層した12周期と55周期での入射角5度におけるTM偏波に対する透過率である。
【0060】
図20からも明らかなように、周期数を増やすことによって、反対称モードが存在する波長の透過損失を増大させることができる。
【0061】
次に、複数枚のフォトニック結晶を用いた光減衰器の原理について説明する。数nmの波長範囲の減衰を受け持つフォトニック結晶を複数種直列に配置し、各々独立に入射角を調整することで広い波長範囲に亘って、減衰曲線をほぼ自由に調整できる。例えば、図21に示すようにエルビウムドープ光ファイバアンプのゲインカーブを補正する減衰曲線も得られる。
【0062】
図22および図23に、図1記載の光減衰器の代表的な特性を示す。図22は、2次元フォトニック結晶105をy軸回り5度、x軸回り15度回転させ、2次元フォトニック結晶106をy軸回り2度、x軸回り10度回転させた場合の透過損失波長依存性2201と2次元フォトニック結晶105をy軸回り5度、x軸回り0度回転させ、2次元フォトニック結晶106をy軸回り2度、x軸回り0度回転させた場合のTM偏波に対する透過損失波長依存性2202である。後者の場合はほぼ損失なくフラットで、前者の場合は各々の2次元フォトニック結晶の透過損失の足しあわせの特性が得られている。
【0063】
図23は、2次元フォトニック結晶105をy軸回り5度、x軸回り5度回転させ、2次元フォトニック結晶106をy軸回り2度、x軸回り10度回転させた場合の透過損失波長依存性2301と、2次元フォトニック結晶105をy軸回り5度、x軸回り10度回転させ、2次元フォトニック結晶106をy軸回り2度、x軸回り5度回転させた場合のTM偏波に対する透過損失波長依存性2302である。いずれも各々の2次元フォトニック結晶の透過損失の足しあわせの特性が得られている。
【実施例2】
【0064】
本発明の実施例2を、図24を用いて説明する。
【0065】
図24は、シングルモード光ファイバ2401およびレンズ2402からなるファイバコリメータと、シングルモード光ファイバ2412およびレンズ2411からなるファイバコリメータとによる光結合系と、2次元フォトニック結晶2406および2407ならびに偏波状態制御手段とからなる可変光減衰器の模式図である。フォトニック結晶2406および2407は、実施例1のフォトニック結晶105および106と同じである。
【0066】
実施例2の特徴は、入射偏波状態に減衰特性が依存しない可変光減衰器であることである。
【0067】
図24の構成の動作について説明する。シングルモード光ファイバ2401からランダムな偏波状態の光が射出した後にレンズ2402で平行ビームに変換される。次いで、ウォークオフ結晶偏光分離素子2403で直交する2つの偏光のビームに分離され、c軸の向きが互いに45度異なる1/2波長板2404、1/2波長板2405で2つのビームの偏波状態が2次元フォトニック結晶2406および2次元フォトニック結晶2407に対するTM偏波に変換される。次いで、2次元フォトニック結晶2406および2次元フォトニック結晶2407で各々の特性に応じた減衰量が与えられた後に、c軸の向きが互いに45度異なる1/2波長板2408および1/2波長板2409で2つのビームの持つ偏波状態が直交する偏波状態に変換され、ウォークオフ結晶偏光分離素子2410で偏波合成されてレンズ2411を経てシングルモード光ファイバ2412に入射し出力される。このような「偏光分離→偏波変換(2つの同一偏波状態を有するビーム)→偏光依存性を有する何らかの過程→偏波変換(2つの互いに直交する偏波状態を有するビーム)→偏光合成」という過程は、特許文献4において、偏光無依存デバイスを実現する手段として開示されている。
【0068】
実際の光通信で可変光減衰器を必要とする構成では、経路にはランダムな偏波状態で光が伝搬するため、実施例2のように偏光無依存化が必要であり、実施例2の構成は、簡素でありながらPDL(損失の偏光依存性)を容易に0.1dB以下に抑制できる。
【実施例3】
【0069】
本発明の実施例3を、図25を用いて説明する。
【0070】
図25は、シングルモード光ファイバ2501とレンズ2502とからなるファイバコリメータと、シングルモード光ファイバ2508とレンズ2507とからなるファイバコリメータと、3次元フォトニック結晶2503〜2506とを有する可変光減衰器である。
【0071】
実施例3の特徴は、図26に示すような自己クローニング型3次元フォトニック結晶を用いることで、入射偏波状態に減衰特性が依存しない可変光減衰器であることである。また、3次元フォトニック結晶の場合は回転軸を、図27のようにフォトニック結晶の凹凸に対して45度にする。
【0072】
2次元フォトニック結晶の場合は偏波依存性が大きいが、3次元フォトニック結晶の場合は正方格子型であれば偏波依存性がほぼキャンセルされる。実施例3は実施例2に比べより簡素な構成であり、低価格化に適する。
【実施例4】
【0073】
本発明の実施例4を、図28(a)および(b)を用いて説明する。
【0074】
図28(a)および(b)は、光入射および出射ポートをなすファイバコリメータ2801および2082と、2次元フォトニック結晶2813〜2817と、各2次元フォトニック結晶対する回転機構であるステッピングモータ2818〜2822と、ルチルウォークオフ結晶偏光分離素子2804および2810と、水晶1/2波長板2805、2806、2808、および2809と、2次元フォトニック結晶偏光分離素子2807と、PMD補償板2803および2811と、光スペクトラムアナライザ2812とからなる可変光減衰器の構成例を示す側面図および平面図である。
【0075】
実施例4では、「偏波分散付与→偏光分離→偏波変換(2つの同一偏波状態を有するビーム)→2次元フォトニック結晶の回転機構による特定波長の可変減衰機構→反射(一部透過)→偏波分散補償→2次元フォトニック結晶の回転機構による特定波長の可変減衰機構→偏波変換(2つの互いに直交する偏波状態を有するビーム)→偏光合成→偏波分散補償」の過程を行っている。
【0076】
また、前記一部透過成分は、別経路で、「偏波変換(2つの互いに直交する偏波状態を有するビーム)→偏光合成→偏波分散補償」の過程を経て、光スペクトラムアナライザ2812に入射する。
【0077】
実施例4の特徴は、反射機構によりフォトニック結晶による光減衰機構を2度透過させることで、同一のフォトニック結晶を用いる場合はより小さい入射角で必要とする光減衰量を得られることにある。また、前記反射機構として2次元フォトニック結晶偏光分離素子2807を用いており、入射光の偏波方向と2次元フォトニック結晶偏光子の軸方向の間になす角度を選択することにより透過率と反射率を選択できる。
【0078】
さらに、引き回しスペースが必要になるファイバコリメータ2801およびファイバコリメータ2802を一方に配置することにより省スペース化の効果もある。
【0079】
また、2次元フォトニック結晶2813〜2817はそれぞれ、x方向の周期が異なり、かつ膜の厚さが共通の5種類の2次元フォトニック結晶であり、それぞれが約8nmから12nmの範囲の減衰を受け持ち、光通信のCバンド帯(1525nm〜1565nm)全体をカバーする。膜厚構成が共通でx方向の周期が異なる場合に反対称モード波長がシフトすることは非特許文献20に開示されており、同時に4種類のフォトニック結晶を同時に積層することにより、z方向の周期、各層の屈折率およびユニットセルの頂点の角度は共通になるため、4種類のフォトニック結晶の反対称モード波長の間隔を一定範囲内に納めることが容易になり、4種類のフォトニック結晶を別々に作製する場合に比べ低コストになる。
【0080】
また、1535nm近傍に反対称モードを有するフォトニック結晶のみ2枚使用される。1535nmは、エルビウムドーム光ファイバアンプのゲインのピークがある。
【0081】
2次元フォトニック結晶2813はx方向の周期が516nm、2次元フォトニック結晶2814はx方向の周期が518nm、2次元フォトニック結晶2815はx方向の周期が520nm、2次元フォトニック結晶2816はx方向の周期が522nm、2次元フォトニック結晶2817はx方向の周期が524nmで、周期構造をなすSiO2層の厚さは330nmでa−Si:H層は210nmである。
【0082】
また、フォトニック結晶偏光分離素子2807は、フォトニック結晶2813と同じものが使用できる。ただし、入射光ビームは垂直入射するため反対称モードによる光減衰は生じない。
【0083】
また、図28には記載されていないが、筐体とステッピングモータ2818〜2822に対する制御基板、筐体等が加えられる。
【実施例5】
【0084】
本発明の実施例5を、図29を用いて説明する。
【0085】
図29は、フォトニック結晶に対する回転機構と筐体2902を含む可変光減衰器の構成例を示す図である。基本的な構成は実施例2と同様であり、タップカプラ2909と、光スペクトラムアナライザ2911とが加えられている。また、2次元フォトニック結晶およびステッピングモータは、図28記載の可変光減衰器と同じものが用いられている。
【0086】
次に、2次元フォトニック結晶に対する入射角を可変にする機構について説明する。
【0087】
2次元フォトニック結晶2812〜2816をステッピングモータ2817〜2821に連結し回転させる。ステッピングモータの回転角は制御基板を介したコンピュータにより調整する。減衰量の調整は、光スペクトラムアナライザ2911の検出結果からコンピュータ2913内に予め各フォトニック結晶の回転角(またはステッピングモータの回転量)をコンピュータ2913の記録域に記録したデータテーブルを選択し、コンピュータ2913から制御基板2912に命令を送信して行う。
【0088】
実施例5では、ステッピングモータ2817〜2821を用いたが、これは、移動量が大きいことと、半固定動作が可能であるため、移動時以外電力を消費しない点で優れているからである。本発明のフォトニック結晶の反対称モードを利用した光減衰器は、入射角度精度の要求精度が小さく、また、入射角度以外の例えばフォトニック結晶の位置ずれによる損失がほぼ発生しないため、低精度のステッピングモータで十分である。また、ロータリーエンコーダで回転角検出することが必要であるものの、サーボモータをも使用できる。
【実施例6】
【0089】
本発明の実施例6を、図30〜32を用いて説明する。
【0090】
図30は、2次元フォトニック結晶105に対してy軸周りに10度斜めから入射した場合のバンド図であり、図9においてTE偏波の反対称モードのバンドが存在した波長にTE偏波のバンドが存在する。
【0091】
ここで、波長1.45μm近傍のTE偏波のバンドは図9におけるTE偏波の反対称モードに由来し、かつ波長1.3μm以上に存在するTM偏波のモードは図8におけるTM偏波の偶対称モードに由来する。
【0092】
前記の図30における波長1.45μm近傍のTE偏波のバンドは、外部平面波で励振することが可能である。また、波長1.3μmから波長1.6μmの範囲では波長1.45μmを除いてTE偏波に対するバンドギャップが存在するため、TE偏波は、波長1.3μmから波長1.6μmの範囲では、波長1.45μmを除いてほぼ全て反射する。その実例を図31に示す。
【0093】
図31は、2次元フォトニック結晶105に対してy軸周りに10度斜めからTE偏波を入射した場合の透過率,反射率,その他の軸外への放射(散乱回折を含む)の測定データである。反対称モードの存在する波長が1520nm近傍とバンド図とずれているが、これは、a−Si:H膜の屈折率がバンド図の計算に用いた値からずれているためである。図31によれば、1520nm近傍のみ透過率が上昇し、反射率が減少し、かつ軸外への放射が生じている。また、前記の軸外への放射は入射角が大きくなるに従い増加する。
【0094】
尚、y軸周りに斜めからTM偏波を入射した場合には、バンド構造からも推察できるように、透過損失に変化はほぼ生じない。
【0095】
図32は、ファイバコリメータ3201および3202による光結合系と、2次元フォトニック結晶3203〜3206とからなる可変光減衰器の模式図である。特に、図32(a)は各2次元フォトニック結晶に対する入射角が10度、図32(b)は各2次元フォトニック結晶に対する入射角が15度の場合を示す。
【0096】
図32記載の可変光減衰器の特徴は、フォトニック結晶のバンドギャップによる反射光を利用する点にある。
【0097】
図32の構成の動作について説明する。ファイバコリメータ3201から出射したコリメートビームは、2次元フォトニック結晶3203〜3206に対して垂直入射時にはTE偏波なる偏波状態である。
【0098】
まず、2次元フォトニック結晶3203に入射した光は、反対称モードの存在する波長で一部が透過、散乱等で失われるが、それ以外は反射する。次いで、同様に2次元フォトニック結晶3204〜3206で反射してファイバコリメータ3202に至る。ここで、2次元フォトニック結晶3203〜3206に対する入射角が全て同じであれば、その入射角を変更した場合でも光はファイバコリメータ3202に至るため、可変光減衰器としての動作が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上幾つかの実施例によって本発明を説明してきたが、本発明は、その請求の範囲内において種々に変形可能であることは、当業者にとっては明らかなことである。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】(a)〜(d)は、本発明の実施例1による光減衰器の構成と動作を示す模式図である。
【図2】2次元フォトニック結晶の模式図である。
【図3】2次元フォトニック結晶105に用いる基板の側面図である。
【図4】図3記載の基板に整形層を成膜した構成図である。
【図5】図4に多層膜を成膜した構成図である。
【図6】ユニットセルの側面図である。
【図7】代替え可能なユニットセルの側面図である。
【図8】対称モードのバンド図である。
【図9】反対称モードのバンド図である。
【図10】対称モード模式図である。
【図11】反対称モード模式図である。
【図12】軸の定義を示す図である。
【図13】透過損失波長特性を示す図である。
【図14】透過損失波長特性を示す図である。
【図15】透過損失波長特性を示す図である。
【図16】透過損失波長特性の入射角依存性の模式図である。
【図17】透過率、反射率、散乱率の波長特性を示す図である。
【図18】x軸回りで10度斜め入射した場合のバンド図である。
【図19】2次元フォトニック結晶106の特性を示す図である。
【図20】透過損失の層数依存性を示す図である。
【図21】減衰特性の1例を示す模式図である。
【図22】光減衰器の代表的な特性を示す図である。
【図23】光減衰器の代表的な特性を示す図である。
【図24】本発明の実施例2の構成を示す図である。
【図25】本発明の実施例3の構成を示す図である。
【図26】自己クローニング型3次元フォトニック結晶の斜視図である。
【図27】3次元PhCの回転方向を示す正面図である。
【図28】(a)および(b)は、本発明の実施例4の構成を示す側面図および平面図である。
【図29】本発明の実施例5の構成を示す図である。
【図30】2次元フォトニック結晶に対してy軸周りに10度斜めから入射した場合のバンド図である。
【図31】2次元フォトニック結晶に対してy軸周りに10度斜めからTE偏波を入射した場合の透過率,反射率,その他の軸外への放射(散乱回折を含む)の測定データ図である。
【図32】ファイバコリメータによる光結合系と、2次元フォトニック結晶とからなる可変光減衰器の模式図である。
【符号の説明】
【0101】
101 光ファイバ
102 1/4波長板
103 1/2波長板
104 レンズ
105、106 2次元フォトニック結晶
107 レンズ
108 光ファイバ
401 基板
402、502、504 SiO2膜
501、503、505 a−Si:H膜
2401 シングルモード光ファイバ
2402 レンズ
2403、2410 ウォークオフ結晶偏光分離素子
2404、2405、2408、2409 1/2波長板
2406、2407 2次元フォトニック結晶
2411 レンズ
2412、2501 シングルモード光ファイバ
2502 レンズ
2503〜2506 3次元フォトニック結晶
2507 レンズ
2508 シングルモード光ファイバ
2801、2802 ファイバコリメータ
2803、2811 PMD補償板
2804、2810 ルチルウォークオフ結晶偏光分離素子
2805、2806、2808、2809 1/2波長板
2807 2次元フォトニック結晶偏光分離素子
2812、2911 光スペクトラムアナライザ
2813〜2817 2次元フォトニック結晶
2818〜2822 ステッピングモータ
2901 ファイバコリメータ
2902 筐体
2903、2908 ウォークオフ結晶偏光分離素子
2904〜2907 1/2波長板
2909 タップカプラ
2910 ファイバコリメータ
2912 制御基板
2913 コンピュータ
3201、3202 ファイバコリメータ
3203〜3206 2次元フォトニック結晶
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として光通信分野で用いられる光デバイスに関し、特に、光減衰器および光利得等価器として機能する光デバイスならびに光制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野等において、特定の波長で光減衰を与えることができる光デバイスが必要とされる場合がある。例えば、エルビウムドープ光ファイバアンプ(EDFA)の利得等価が挙げられる。
【0003】
このような用途では、非特許文献1に記載のように、長周期ファイバブラッググレーティングやファブリ・ペローエタロンフィルタ、平面光導波路などのフィルタデバイスとの組み合わせで実現されてきた(以下、従来技術1とする)。
【0004】
また、伝送経路が複雑な場合はフィルタデバイスの減衰特性が可変である必要があり、可変利得等価器が用いられる。例えば、非特許文献2記載の光ファイバグレーティングを形成された導波路とクラッドとなる液晶を組み合わせ、液晶によるクラッドへの印加電界の制御により実現されている(以下、従来技術2とする)。
【0005】
尚、可変利得等価器に要求される減衰特性は常時変動する性質ではなく、ひとたび減衰特性が選択された後はしばらくの間、同じ減衰特性を保持する使用状態が多いため、減衰特性を変更するとき以外は、外部からのエネルギー供給無しに減衰特性が保持される半固定動作が望ましい。
【0006】
一方、非特許文献3にあるように、構造により一様物質とは異なる物性を得ようとする試みも活発である。特に、近年フォトニック結晶と呼ばれる2種類以上の物質からなる光の波長程度の周期を持つ2次元または3次元の周期構造体が注目を集めている。
【0007】
フォトニック結晶の元となるフォトニックバンドの概念は非特許文献4により発表され、非特許文献5にてフォトンの局在など重要な性質が提示されたことにより注目を集めた。実際に作製され、フォトニックバンドギャップが確認されたフォトニック結晶は、Yablonotiteと呼ばれる構造体(特許文献1参照)が最初であり、以後、ウッドパイル構造(非特許文献6参照)、OPAL(微小球配列構造、非特許文献7参照)、エアホール(非特許文献8参照)、段差上多層膜(自己クローニング型、特許文献2および非特許文献9参照)などの種々の構造が実現されてきた。
【0008】
フォトニック結晶特有の現象には多々あるが、フォトニックバンドギャップは最もよく知られている。そして、フォトニックバンド中でもフォトニックバンド構造の制御により従来の結晶では実現できない現象(スーパープリズム現象、非特許文献10参照)や、スーパーコリメータ現象(非特許文献11参照)、スーパーレンズ現象(非特許文献12参照)が見つかり、フォトニックバンドギャップよりもバンド構造を制御することに注目が集まった。フォトニックバンド構造の制御は、フォトニックバンド工学という分野を作り出している(非特許文献13参照)。そこで、本件中では、フォトニック結晶の定義として「フォトニックバンドギャップを有する周期構造体」ではなく、「2種類以上の物質からなる光の波長程度の周期を持つ2次元または3次元の周期構造体」を用いる。
【0009】
フォトニック結晶は、結晶中の原子の周期性の影響で電子のバンド構造が変化するように、フォトンが屈折率(または誘電率)の周期性を感じることでフォトニックバンドの折り返しが生じ、さらに、屈折率や周期を選択することでフォトニックバンド構造を制御できる。フォトニック結晶には様々な興味深い特徴があるが、フォトニック結晶と原子あるいは分子の周期配列による結晶との比較については、非特許文献14にまとめられている。また、バンド構造の起源などの詳しい説明が、非特許文献15でなされている。
【0010】
次に、フォトニック結晶中の光の伝搬についてこれまで知られている形態について説明する。
【0011】
フォトニック結晶の伝搬域における分散曲線が折り返す波長近傍では群速度が遅くなるが、この現象はフォトンが多重反射しながら伝搬することに相当するため、フォトンと媒質との相互作用が大きくなる(非特許文献16参照)。また、フォトニックバンド端では定在波状態になり、フォトニックバンドギャップ内の波長の光は反射する。
【0012】
【特許文献1】アメリカ合衆国特許第5172267号
【特許文献2】日本国特許第3325825号
【特許文献3】日本国特許第3288976号
【特許文献4】日本国特許第2539563号
【非特許文献1】須藤昭一 編,「エルビウム添加光ファイバ増幅器」,p113,オプトロニクス社,1999
【非特許文献2】Yeralan et.al.,”Switchable Bragg grating devices for telecommunications applications”,Optical Engineering,August2002,Vol.41
【非特許文献3】山本 良一 編,多層薄膜と材料開発,株式会社シーエムシー出版,1986
【非特許文献4】Ohtaka,PHYSICAL REVIEW B,VOL19,NO10,pp5057-5067,15 MAY 1979
【非特許文献5】Physical Review Letters,May 1987,vol58,pp2059-2062
【非特許文献6】S.Noda et.al.,New realization method for three-dimensional photonic crystal in optical wavelength region.Jpn.J.Appl.Phys.,vol.35,pp.L909-L912(1996)
【非特許文献7】H.Miguez,et.al.,Photonic crystal properties of packed submicrometric SiO2 spheres,Appl.Phys.Lett.,71,pp.1148-1150 (1997)
【非特許文献8】T.Baba and T.Matsunami,Electron.Lett.,31,1776(1995)
【非特許文献9】S.Kawakami,”Fabrication of submicromatre 3D periodic structures composed of Si/SiO2”,ELECTRONICS LETTERS,3rd July 1997,vol33,No.14
【非特許文献10】H.Kosaka et al.,Phys.Pev.B58,R10096(1998)
【非特許文献11】H. Kosaka, T. Kawashima, A. Tomita, M. Notomi, T. Tamamura, T. sato, and S. Kawakami,”Self-collimating phenomena in photonic crystals,”Appl. Phys. Lett., vol. 74, no.9, pp. 1212-1214, 1 March 1999
【非特許文献12】H.Kosaka,T.Kawashima,A.Tomita,M.Notomi,T.Tamamura,T.Sato,and S.Kawakami,Appl.Phys.Lett.74(1999)1212
【非特許文献13】川上彰二郎 監修,「フォトニック結晶技術とその応用」,pp.221-228,株式会社シーエムシー出版,2002
【非特許文献14】John.D.Joannopoulos,Robert D.Meade and Joshua N.Winn,Photonic Crystals,Appendixes A,PRINCETON UNIVERSITY PRESS,1995
【非特許文献15】大高一雄,「周期場中の光の特徴,周期場中での光と物質の相互作用」,日本光学会(応用物理学会)主催 第27回冬期講習会 フォトニック結晶と極微細周期構造の光学 予稿集,2001
【非特許文献16】川上彰二郎 監修,「フォトニック結晶技術とその応用」,pp.222-223,株式会社シーエムシー出版,2002
【非特許文献17】大見忠弘 監修,「新しい半導体製造プロセスと材料」,3章4章,株式会社シーエムシー,2000年5月
【非特許文献18】吉野勝美,武田寛之 著,「フォトニック結晶の基礎と応用」,pp90-93,株式会社コロナ社,2004
【非特許文献19】川上彰二郎 監修,フォトニック結晶技術とその応用 第3章,株式会社シーエムシー出版,2002
【非特許文献20】川嶋貴之,大寺康夫,佐藤尚,川上彰二郎,「2次元フォトニック結晶偏光分離素子の作製とその高性能化」,電子情報通信学会光エレクトロニクス研究会,OPE99-109,1999年12月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術1に記載される種々の光減衰器は、特定波長のみに可変の光減衰を付与することが困難である。従来技術2は、特定波長のみに可変の光減衰を付与することが可能であるものの、半固定動作が不可能であるため、常時電界印加または加熱する必要があり、運用に伴うリスクが大きい。
【0014】
さらに、前述した文献は、フォトニックス結晶に入射光を照射した場合における現象について何等開示していないし、入射光を照射した場合の特性を利用したデバイス等について示唆されていない。
【0015】
本発明者等は、フォトニックス結晶に対して斜めに光を入射した場合に特定の波長のみに光損失、光減衰等が生じるという新規な現象を発見し、当該現象を利用したデバイスを提案すると共に、当該新規な現象の制御方法を提案するものである。
【0016】
本発明者等はまた、当該提案によれば、上述の従来技術1、2による問題点を解決し得ること見出した。
【0017】
それ故、本発明の目的は、フォトニックス結晶に入射光を照射した場合、特定の波長において光損失、光減衰等が生じることを利用した光デバイスを提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、特定波長を減衰させるフォトニックス結晶を用いて光を制御する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、2種類以上の媒質から成り、屈折率が周期的な構造を持ち、フォトンのバンド構造を有する周期構造体を有し、前記周期構造体は、当該周期が、3次元の直交座標x,y,zにおいて、x,z方向の二方向もしくはx,y,z方向の三方向に存在していると共に、前記z方向に延びる軸を含む対称面に対して電磁界分布が反対称であるモードを呈することが可能であり、前記周期構造体への非エバネッセントな入射光は、前記z方向に対して0°よりも大きい入射角で入射される光デバイスにおいて、例えば、以下の態様(1)〜(10)が得られる。
【0020】
(1)前記周期構造体は、前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に、透過損失または反射損失を与える。
(2)前記周期構造体は、前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に、直交する偏波のうちの少なくとも一方に対する実効的なフォトンのバンドギャップを生じさせる。
(3)前記周期構造体は、前記z方向に延びる軸を含む対称面に対して電磁界分布が反対称であるモードと、直交する偏波のうちの少なくとも一方の対称モードとが存在するものである。
(4)前記周期構造体は、前記z方向に対して0°よりも大きい入射角で入射される前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光を光軸外へ放射させる。
(5)前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に対する透過損失を変化させるべく、前記周期構造体への前記入射光の入射角を相対的に変化させる手段をさらに有している。
(6)前記周期構造体の光の入射側に配置された、偏光分離素子および偏光回転子をさらに有し、前記周期構造体には、互いに実質的に同一の偏光状態を持つ2つのビームが入射される。
(7)光デバイスの入射ポートから出射ポートに向かう方向に並んだ複数の前記周期構造体を有している。
(8)前記複数の周期構造体は、前記x方向または前記y方向の周期が相互に異なる。
(9)前記複数の周期構造体は、前記z方向の周期が相互に同一である。
(10)前記複数の周期構造体に対する光の入射角が各個独立に制御可能であり、かつ、各前記周期構造体に対する入射角がx方向,y方向,z方向を軸に独立に制御可能である。
【0021】
本発明によればまた、フォトニック結晶体を用い、前記フォトニック結晶体のフォトンのバンド構造における反対称モードを、該フォトニック結晶体への非エバネッセントな入射光を斜めに入射することによって励振することにより、下記Aおよび/または下記B:(A)入射光のうちの反対称モードの存在する波長の光に、透過損失または反射損失を生じさせる、(B)入射光のうちの反対称モードの存在する波長の光に、直交する偏波のうちの少なくとも一方に対する実効的な光波のバンドギャップを生じさせる、をなすことを特徴とする光制御方法が得られる。
【0022】
本発明によればさらに、予め定められたフォトンのバンド構造を有するフォトニック結晶体と、所定の入射光とを使用して、前記入射光の前記フォトニック結晶体に対する相対的な角度を変化させることにより、前記入射光の透過損失または反射損失を変化させることを特徴とする光制御方法が得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、特定波長のみに可変の光減衰を付与することが可能であり、かつ、ほぼ任意の減衰特性が得られ、かつ、各波長の減衰幅(ダイナミックレンジ)が大きい上に半固定動作が可能であるため常時電界印加または加熱する必要がなく、運用に伴うリスクおよびコストが小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明による光デバイスは、予め定められたフォトンのバンド構造を有するフォトニック結晶体を有し、このフォトニック結晶体に所定の非エバッセントな入射光を入射する際に、入射光のフォトニック結晶体に対する相対的な角度を変化させることにより、入射光の透過損失または反射損失等を任意に変化させることが可能である。
【0025】
以下、この光デバイスと、本発明による光制御方法とについて、幾つかの実施例を挙げて詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明による光デバイスとしての光減衰器の実施例1を、図1〜図15を参照して説明する。
【0027】
図1(a)〜(d)はそれぞれ、本発明による光減衰器の構成と動作を示す模式図である。
【0028】
図1(a)を参照して、本光減衰器は、光ファイバ101と、1/4波長板102と、1/2波長板103と、レンズ104と、2次元フォトニック結晶105と、2次元フォトニック結晶106と、レンズ107と、光ファイバ108とからなり、2次元フォトニック結晶105および106は、ビームの入射角が可変である。尚、1/4波長板102および1/2波長板103の組み合わせを用いて、直線偏波を得ることができる。
【0029】
図1(b)〜(d)に示す光減衰器も、図1(a)に示した光減衰器と同様に、光ファイバ101と、1/4波長板102と、1/2波長板103と、レンズ104と、2次元フォトニック結晶105と、2次元フォトニック結晶106と、レンズ107と、光ファイバ108とを有しているが、2次元フォトニック結晶105および106のうちの少なくとも一方の配置が、後述の図2におけるx方向を中心軸とした角度付けがなされている。
【0030】
図2は、2次元フォトニック結晶105、106の模式図である。
【0031】
図2の構造は、特許文献3で開示される自己クローニング型フォトニック結晶と呼ばれる構造であり、自己クローニング法と呼ばれる工法で最初に作製されたことからこの呼称がある。自己クローニング法とは、凹凸や三角波形状、サインカーブ形状などに加工された基板上に、最適化された条件下で多層膜堆積を行うことにより基板形状を保存したまま多次元周期構造を形成する技術である。そして、薄膜である自己クローニング型フォトニック結晶は大面積化に特に適する。自己クローニング型フォトニック結晶はz方向の多層構造体であって、そのユニットセルに含まれる高屈折率媒質層(低屈折率媒質層でも構わない)がx方向にほぼV字形であることが特徴である。
【0032】
図3は、2次元フォトニック結晶105、106に用いる基板の側面図である。
【0033】
2次元フォトニック結晶105、106に用いる基板の材質は溶融石英であり、基板401上にはEB露光によるリソグラフィー工程とドライエッチングで0.5μmピッチの矩形の凹凸(以下、基板パターンとする)が形成されている。
【0034】
さらに、図4に記載されるように基板401上に適切な条件下でrfバイアススパッタリング法によりSiO2膜402を堆積させることで三角波形状の整形層を形成し、その上に図5に記載されるようにa−Si:H膜とSiO2膜とが基板上に形成された三角波形状の形を保持したまま交互に都合14周期成膜されており、2次元屈折率周期構造体をなす。また、フォトニック結晶部の上には、五酸化ニオブ(以下、Nb2O5とする)とSiO2による反射防止膜が同じく自己クローニング法で積層される。
【0035】
実施例1におけるフォトニック結晶のユニットセルは、図6に示されるように、Z軸と直交する方向の周期が500nm、Z方向の水素化アモルファスシリコン(以下a−Si:H)膜の厚さが233nm、SiO2膜の厚さが350nmでZ方向の周期が14周期ある。また、頂角は100度である。図6記載のユニットセルは、自己クローニング型フォトニック結晶の最も基本的な構成で、2つの屈折率の異なる物質からなり、外形が長方形でZ軸に対して対称で高屈折率部の形状が逆V字形状になっていることから、本件中では以下、2次元2物質対称V型長方形ユニットセルと呼称する。
【0036】
次に、材料の物性について説明する。SiO2は、屈折率が1.46である。一方、a−Si:Hは、Eg=1.7eVかつ屈折率が3.4である。溶融石英も、SiO2からなり屈折率は1.46である。a−Si:Hは、アモルファスシリコンのダングリングボンドと水素原子を結合させて終端させたものである。基板は溶融石英を用いる。
【0037】
実施例1では、フォトニック結晶における高屈折率材料としてa−Si:Hを用いたが、屈折率n=2程度またはそれ以上の材料であれば利用できる。ただし、材料の屈折率比が大きいほど少ない周期数でフォトニックバンド構造の影響を得られる。
【0038】
次に、作製方法について説明する。図2の構成は自己クローニング法に従い、rfバイアススパッタリング(スパッタエッチングも効果を伴うrfスパッタリング)により作製する。a−Si:H膜を積層する場合のターゲットはシリコンであり、堆積ガスはアルゴンと水素の混合ガスで、ガス圧力は0.3Paから1.0Paとする。SiO2膜を積層する場合のターゲットは石英であり、堆積ガスはアルゴンと酸素の混合ガスで、ガス圧力は0.3Paから1.0Paとする。印加するバイアスはその最適値に他の成膜条件との依存性や装置依存性があるものの、数十Vの程度である。薄膜プロセスにおける基板加熱温度は通常では材料の融点の0.3倍以上が望ましいとされるが、実施例1では基板加熱温度を570Kとする。
【0039】
次に、成膜方法について補足する。自己クローニング型フォトニック結晶作製方法として前記rfバイアススパッタリング法、ECRスパッタリング法が知られているが、条件設定によってはピラミッド型に整形された基板上にバイアスを加えないrfマグネトロンスパッタリングとスパッタリングやイオンガンまたはRIEなどのエッチングの組み合わせによっても自己クローニング型フォトニック結晶を形成することが可能である。
【0040】
基板上への凹凸の形成方法について補足する。電子ビーム(以下、EB)によるリソグラフィーとエッチングを組み合わせた工程、光またはX線露光によるリソグラフィーとエッチングを組み合わせた工程、またはナノインプリント等が利用できる。また、石英のよう紫外領域まで透明材料の基板への適用はできないものの、紫外線領域で不透明な材料の基板または透明基板上に積層された十分な厚さの紫外線領域で不透明材質の膜を用いれば、干渉露光とエッチングを組み合わせた工程でも基板上への凹凸を形成できる。実施例1では凸凹の形状精度に優れエッチングが容易であることから、溶融石英基板に対してEBによるリソグラフィーとエッチングを組み合わせた工程を採用する。リソグラフィーとエッチングに関しては、非特許文献17に記載されている。
【0041】
次に、三角波形状の整形層の形成について補足する。三角波形状の形成は、図3のような矩形の基板パターンの上に適切な条件下でrfバイアススパッタリングで膜を堆積させることで形成するか、図3のような矩形の基板パターンの上に適切な条件下でrfスパッタリングで膜を堆積した後に、スパッタエッチングで整形することで形成する。
【0042】
図6記載の2次元2物質V型長方形ユニットセルは最も自己クローニング法で作製しやすい形状であり、Z方向の積層周期が100周期を越える場合にも対応できる。逆にZ方向の積層周期が10周期程度であれば図7のような形状のユニットセルによるフォトニック結晶も実現できる。
【0043】
次に、周期構造について説明する。実施例1は自己クローニング型と呼ばれる構造を採用しているが、実施例1を特徴づけるフォトニックバンド構造に由来する透過損失の変化は他の構造を採用するフォトニック結晶でも実現可能である。
【0044】
他の重要な項目は、大面積のフォトニック結晶を容易に製造できることであり、これらを満たす周期構造として、自己クローニング型が最適である。
【0045】
ここで、各材料の屈折率とユニットセルの形状から、図8と図9に示すバンド構造を有する。
【0046】
尚、偶対称モードは電界強度分布が図10に示すように中心軸対称のモードで、反対称モードは図11に示すように中心軸に対して反対称になるモードをいう(非特許文献18参照)。
【0047】
解析には、有限差分時間領域法(FDTD法)を用いた計算プログラムを用いた。尚、フォトニック結晶の解析手法に関しては、非特許文献19に詳述されている。また、バンド構造の計算は周期数無限大の条件下で行う。
【0048】
ここで、実際に作製される自己クローニング型フォトニック結晶と図6のユニットセルは、実際に作製される自己クローニング型フォトニック結晶は頂点が僅かに曲線形状になるなど完全には一致しないが、実際に作製される自己クローニング型フォトニック結晶のなす近似形状のユニットセルを用いたバンド構造の計算結果と偶対称モードに由来する光学特性はほぼ完全に一致する。また、実際にはZ方向は14周期であるが、その条件下でも偶対称モードのバンド構造に由来する光学特性は計算結果とほぼ一致することが確かめられている。
【0049】
以下、実施例1の2次元フォトニック結晶の測定データと比較データを示し、実施例1の効果を説明する。
【0050】
まず、方向について定義する。図12に示すように自己クローニング型2次元フォトニック結晶の膜に形成された溝と平行な方向をx方向、自己クローニング型2次元フォトニック結晶の膜に形成された溝と垂直な方向をy方向とする。
【0051】
図13に、図1における2次元フォトニック結晶106を取り除き、2次元フォトニック結晶105をy軸回りを0度で固定し、x軸周りで0度(垂直入射)2度、5度、10度回転させた場合のTM偏波に対する透過損失波長特性を示す。図13を参照すると、垂直入射時は損失が無く、2度、5度では損失が増加していることがわかる。
【0052】
図14に、図1における2次元フォトニック結晶106を取り除き、2次元フォトニック結晶105のみを用いた場合におけるx軸回りを10度で固定し、y軸周りで0度(垂直入射)2度、5度と回転させた場合のTM偏波に対する透過損失波長特性を示す。図14によれば、x軸回りの回転と組み合わせればy軸回りの回転の影響も表れ、かつ減衰量の調整に用いることができることがわかる。
【0053】
図15に、図1における2次元フォトニック結晶106を取り除き2次元フォトニック結晶105をx軸回りで2度、5度、10度で回転させ、y軸周りを2度で固定させた場合のTM偏波に対する透過損失波長特性を示す。
【0054】
尚、2次元フォトニック結晶106をz軸周りで回転させることにより、1480nmから1560nmの全域に同量のTM偏波に対する透過損失を与えられる。これは、2次元フォトニック結晶106が偏光子としての機能をも有することに由来する。
【0055】
以上のように、2次元フォトニック結晶に対して斜め入射することで、図16に示されるような反対称モードの存在する特定波長帯域のみに大きな減衰幅を持つ可変光減衰器が実現できることがわかる。
【0056】
また、透過損失の発生状況を調べるため積分球による測定を行ったところ、図17に示すようにTM偏波に対する透過損失増加分に見合う量の反射光の増加と、散乱光及び回折光に類似した伝搬方向の異常なビームの発生が認められた。以降、この散乱光及び回折光に類似した伝搬方向の異常なビームをまとめて、光軸外への放射と呼ぶ。
【0057】
前述の入射角依存性について、バンド構造から説明する。図18は、x軸回りで10度斜め入射した場合のバンド図であり、垂直入射時の反対称モード波長の存在波長域にバンドギャップが存在することがわかる。しかし、バンド構造は周期数無限で定義されるので14周期ではバンドギャップは開ききらず、入射光の一部成分は群速度の低下に伴い散乱して、結果として前述の特性になると考えられている。
【0058】
図19に、図1における2次元フォトニック結晶105を取り除き2次元フォトニック結晶106をx軸回りで5度、10度、15度で回転させ、y軸周りを5度で固定させた場合のTM偏波に対する透過損失波長特性を示す。2次元フォトニック結晶106は2次元フォトニック結晶105と同一の基板上にa−Si:Hを220nm、SiO2を330nmの厚さで交互に14周期積層してある。図19からフォトニック結晶の厚さ方向の構成によって反対称モード波長を変えることができることがわかる。
【0059】
さらに、同一入射角において、図20に示すようにフォトニック結晶の周期数によって透過損失が変化する。図20は、X方向の周期が230nmで屈折率約2.4の材料と屈折率約1.5の材料からなる2次元フォトニック結晶における同一基板上に連続して積層した12周期と55周期での入射角5度におけるTM偏波に対する透過率である。
【0060】
図20からも明らかなように、周期数を増やすことによって、反対称モードが存在する波長の透過損失を増大させることができる。
【0061】
次に、複数枚のフォトニック結晶を用いた光減衰器の原理について説明する。数nmの波長範囲の減衰を受け持つフォトニック結晶を複数種直列に配置し、各々独立に入射角を調整することで広い波長範囲に亘って、減衰曲線をほぼ自由に調整できる。例えば、図21に示すようにエルビウムドープ光ファイバアンプのゲインカーブを補正する減衰曲線も得られる。
【0062】
図22および図23に、図1記載の光減衰器の代表的な特性を示す。図22は、2次元フォトニック結晶105をy軸回り5度、x軸回り15度回転させ、2次元フォトニック結晶106をy軸回り2度、x軸回り10度回転させた場合の透過損失波長依存性2201と2次元フォトニック結晶105をy軸回り5度、x軸回り0度回転させ、2次元フォトニック結晶106をy軸回り2度、x軸回り0度回転させた場合のTM偏波に対する透過損失波長依存性2202である。後者の場合はほぼ損失なくフラットで、前者の場合は各々の2次元フォトニック結晶の透過損失の足しあわせの特性が得られている。
【0063】
図23は、2次元フォトニック結晶105をy軸回り5度、x軸回り5度回転させ、2次元フォトニック結晶106をy軸回り2度、x軸回り10度回転させた場合の透過損失波長依存性2301と、2次元フォトニック結晶105をy軸回り5度、x軸回り10度回転させ、2次元フォトニック結晶106をy軸回り2度、x軸回り5度回転させた場合のTM偏波に対する透過損失波長依存性2302である。いずれも各々の2次元フォトニック結晶の透過損失の足しあわせの特性が得られている。
【実施例2】
【0064】
本発明の実施例2を、図24を用いて説明する。
【0065】
図24は、シングルモード光ファイバ2401およびレンズ2402からなるファイバコリメータと、シングルモード光ファイバ2412およびレンズ2411からなるファイバコリメータとによる光結合系と、2次元フォトニック結晶2406および2407ならびに偏波状態制御手段とからなる可変光減衰器の模式図である。フォトニック結晶2406および2407は、実施例1のフォトニック結晶105および106と同じである。
【0066】
実施例2の特徴は、入射偏波状態に減衰特性が依存しない可変光減衰器であることである。
【0067】
図24の構成の動作について説明する。シングルモード光ファイバ2401からランダムな偏波状態の光が射出した後にレンズ2402で平行ビームに変換される。次いで、ウォークオフ結晶偏光分離素子2403で直交する2つの偏光のビームに分離され、c軸の向きが互いに45度異なる1/2波長板2404、1/2波長板2405で2つのビームの偏波状態が2次元フォトニック結晶2406および2次元フォトニック結晶2407に対するTM偏波に変換される。次いで、2次元フォトニック結晶2406および2次元フォトニック結晶2407で各々の特性に応じた減衰量が与えられた後に、c軸の向きが互いに45度異なる1/2波長板2408および1/2波長板2409で2つのビームの持つ偏波状態が直交する偏波状態に変換され、ウォークオフ結晶偏光分離素子2410で偏波合成されてレンズ2411を経てシングルモード光ファイバ2412に入射し出力される。このような「偏光分離→偏波変換(2つの同一偏波状態を有するビーム)→偏光依存性を有する何らかの過程→偏波変換(2つの互いに直交する偏波状態を有するビーム)→偏光合成」という過程は、特許文献4において、偏光無依存デバイスを実現する手段として開示されている。
【0068】
実際の光通信で可変光減衰器を必要とする構成では、経路にはランダムな偏波状態で光が伝搬するため、実施例2のように偏光無依存化が必要であり、実施例2の構成は、簡素でありながらPDL(損失の偏光依存性)を容易に0.1dB以下に抑制できる。
【実施例3】
【0069】
本発明の実施例3を、図25を用いて説明する。
【0070】
図25は、シングルモード光ファイバ2501とレンズ2502とからなるファイバコリメータと、シングルモード光ファイバ2508とレンズ2507とからなるファイバコリメータと、3次元フォトニック結晶2503〜2506とを有する可変光減衰器である。
【0071】
実施例3の特徴は、図26に示すような自己クローニング型3次元フォトニック結晶を用いることで、入射偏波状態に減衰特性が依存しない可変光減衰器であることである。また、3次元フォトニック結晶の場合は回転軸を、図27のようにフォトニック結晶の凹凸に対して45度にする。
【0072】
2次元フォトニック結晶の場合は偏波依存性が大きいが、3次元フォトニック結晶の場合は正方格子型であれば偏波依存性がほぼキャンセルされる。実施例3は実施例2に比べより簡素な構成であり、低価格化に適する。
【実施例4】
【0073】
本発明の実施例4を、図28(a)および(b)を用いて説明する。
【0074】
図28(a)および(b)は、光入射および出射ポートをなすファイバコリメータ2801および2082と、2次元フォトニック結晶2813〜2817と、各2次元フォトニック結晶対する回転機構であるステッピングモータ2818〜2822と、ルチルウォークオフ結晶偏光分離素子2804および2810と、水晶1/2波長板2805、2806、2808、および2809と、2次元フォトニック結晶偏光分離素子2807と、PMD補償板2803および2811と、光スペクトラムアナライザ2812とからなる可変光減衰器の構成例を示す側面図および平面図である。
【0075】
実施例4では、「偏波分散付与→偏光分離→偏波変換(2つの同一偏波状態を有するビーム)→2次元フォトニック結晶の回転機構による特定波長の可変減衰機構→反射(一部透過)→偏波分散補償→2次元フォトニック結晶の回転機構による特定波長の可変減衰機構→偏波変換(2つの互いに直交する偏波状態を有するビーム)→偏光合成→偏波分散補償」の過程を行っている。
【0076】
また、前記一部透過成分は、別経路で、「偏波変換(2つの互いに直交する偏波状態を有するビーム)→偏光合成→偏波分散補償」の過程を経て、光スペクトラムアナライザ2812に入射する。
【0077】
実施例4の特徴は、反射機構によりフォトニック結晶による光減衰機構を2度透過させることで、同一のフォトニック結晶を用いる場合はより小さい入射角で必要とする光減衰量を得られることにある。また、前記反射機構として2次元フォトニック結晶偏光分離素子2807を用いており、入射光の偏波方向と2次元フォトニック結晶偏光子の軸方向の間になす角度を選択することにより透過率と反射率を選択できる。
【0078】
さらに、引き回しスペースが必要になるファイバコリメータ2801およびファイバコリメータ2802を一方に配置することにより省スペース化の効果もある。
【0079】
また、2次元フォトニック結晶2813〜2817はそれぞれ、x方向の周期が異なり、かつ膜の厚さが共通の5種類の2次元フォトニック結晶であり、それぞれが約8nmから12nmの範囲の減衰を受け持ち、光通信のCバンド帯(1525nm〜1565nm)全体をカバーする。膜厚構成が共通でx方向の周期が異なる場合に反対称モード波長がシフトすることは非特許文献20に開示されており、同時に4種類のフォトニック結晶を同時に積層することにより、z方向の周期、各層の屈折率およびユニットセルの頂点の角度は共通になるため、4種類のフォトニック結晶の反対称モード波長の間隔を一定範囲内に納めることが容易になり、4種類のフォトニック結晶を別々に作製する場合に比べ低コストになる。
【0080】
また、1535nm近傍に反対称モードを有するフォトニック結晶のみ2枚使用される。1535nmは、エルビウムドーム光ファイバアンプのゲインのピークがある。
【0081】
2次元フォトニック結晶2813はx方向の周期が516nm、2次元フォトニック結晶2814はx方向の周期が518nm、2次元フォトニック結晶2815はx方向の周期が520nm、2次元フォトニック結晶2816はx方向の周期が522nm、2次元フォトニック結晶2817はx方向の周期が524nmで、周期構造をなすSiO2層の厚さは330nmでa−Si:H層は210nmである。
【0082】
また、フォトニック結晶偏光分離素子2807は、フォトニック結晶2813と同じものが使用できる。ただし、入射光ビームは垂直入射するため反対称モードによる光減衰は生じない。
【0083】
また、図28には記載されていないが、筐体とステッピングモータ2818〜2822に対する制御基板、筐体等が加えられる。
【実施例5】
【0084】
本発明の実施例5を、図29を用いて説明する。
【0085】
図29は、フォトニック結晶に対する回転機構と筐体2902を含む可変光減衰器の構成例を示す図である。基本的な構成は実施例2と同様であり、タップカプラ2909と、光スペクトラムアナライザ2911とが加えられている。また、2次元フォトニック結晶およびステッピングモータは、図28記載の可変光減衰器と同じものが用いられている。
【0086】
次に、2次元フォトニック結晶に対する入射角を可変にする機構について説明する。
【0087】
2次元フォトニック結晶2812〜2816をステッピングモータ2817〜2821に連結し回転させる。ステッピングモータの回転角は制御基板を介したコンピュータにより調整する。減衰量の調整は、光スペクトラムアナライザ2911の検出結果からコンピュータ2913内に予め各フォトニック結晶の回転角(またはステッピングモータの回転量)をコンピュータ2913の記録域に記録したデータテーブルを選択し、コンピュータ2913から制御基板2912に命令を送信して行う。
【0088】
実施例5では、ステッピングモータ2817〜2821を用いたが、これは、移動量が大きいことと、半固定動作が可能であるため、移動時以外電力を消費しない点で優れているからである。本発明のフォトニック結晶の反対称モードを利用した光減衰器は、入射角度精度の要求精度が小さく、また、入射角度以外の例えばフォトニック結晶の位置ずれによる損失がほぼ発生しないため、低精度のステッピングモータで十分である。また、ロータリーエンコーダで回転角検出することが必要であるものの、サーボモータをも使用できる。
【実施例6】
【0089】
本発明の実施例6を、図30〜32を用いて説明する。
【0090】
図30は、2次元フォトニック結晶105に対してy軸周りに10度斜めから入射した場合のバンド図であり、図9においてTE偏波の反対称モードのバンドが存在した波長にTE偏波のバンドが存在する。
【0091】
ここで、波長1.45μm近傍のTE偏波のバンドは図9におけるTE偏波の反対称モードに由来し、かつ波長1.3μm以上に存在するTM偏波のモードは図8におけるTM偏波の偶対称モードに由来する。
【0092】
前記の図30における波長1.45μm近傍のTE偏波のバンドは、外部平面波で励振することが可能である。また、波長1.3μmから波長1.6μmの範囲では波長1.45μmを除いてTE偏波に対するバンドギャップが存在するため、TE偏波は、波長1.3μmから波長1.6μmの範囲では、波長1.45μmを除いてほぼ全て反射する。その実例を図31に示す。
【0093】
図31は、2次元フォトニック結晶105に対してy軸周りに10度斜めからTE偏波を入射した場合の透過率,反射率,その他の軸外への放射(散乱回折を含む)の測定データである。反対称モードの存在する波長が1520nm近傍とバンド図とずれているが、これは、a−Si:H膜の屈折率がバンド図の計算に用いた値からずれているためである。図31によれば、1520nm近傍のみ透過率が上昇し、反射率が減少し、かつ軸外への放射が生じている。また、前記の軸外への放射は入射角が大きくなるに従い増加する。
【0094】
尚、y軸周りに斜めからTM偏波を入射した場合には、バンド構造からも推察できるように、透過損失に変化はほぼ生じない。
【0095】
図32は、ファイバコリメータ3201および3202による光結合系と、2次元フォトニック結晶3203〜3206とからなる可変光減衰器の模式図である。特に、図32(a)は各2次元フォトニック結晶に対する入射角が10度、図32(b)は各2次元フォトニック結晶に対する入射角が15度の場合を示す。
【0096】
図32記載の可変光減衰器の特徴は、フォトニック結晶のバンドギャップによる反射光を利用する点にある。
【0097】
図32の構成の動作について説明する。ファイバコリメータ3201から出射したコリメートビームは、2次元フォトニック結晶3203〜3206に対して垂直入射時にはTE偏波なる偏波状態である。
【0098】
まず、2次元フォトニック結晶3203に入射した光は、反対称モードの存在する波長で一部が透過、散乱等で失われるが、それ以外は反射する。次いで、同様に2次元フォトニック結晶3204〜3206で反射してファイバコリメータ3202に至る。ここで、2次元フォトニック結晶3203〜3206に対する入射角が全て同じであれば、その入射角を変更した場合でも光はファイバコリメータ3202に至るため、可変光減衰器としての動作が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上幾つかの実施例によって本発明を説明してきたが、本発明は、その請求の範囲内において種々に変形可能であることは、当業者にとっては明らかなことである。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】(a)〜(d)は、本発明の実施例1による光減衰器の構成と動作を示す模式図である。
【図2】2次元フォトニック結晶の模式図である。
【図3】2次元フォトニック結晶105に用いる基板の側面図である。
【図4】図3記載の基板に整形層を成膜した構成図である。
【図5】図4に多層膜を成膜した構成図である。
【図6】ユニットセルの側面図である。
【図7】代替え可能なユニットセルの側面図である。
【図8】対称モードのバンド図である。
【図9】反対称モードのバンド図である。
【図10】対称モード模式図である。
【図11】反対称モード模式図である。
【図12】軸の定義を示す図である。
【図13】透過損失波長特性を示す図である。
【図14】透過損失波長特性を示す図である。
【図15】透過損失波長特性を示す図である。
【図16】透過損失波長特性の入射角依存性の模式図である。
【図17】透過率、反射率、散乱率の波長特性を示す図である。
【図18】x軸回りで10度斜め入射した場合のバンド図である。
【図19】2次元フォトニック結晶106の特性を示す図である。
【図20】透過損失の層数依存性を示す図である。
【図21】減衰特性の1例を示す模式図である。
【図22】光減衰器の代表的な特性を示す図である。
【図23】光減衰器の代表的な特性を示す図である。
【図24】本発明の実施例2の構成を示す図である。
【図25】本発明の実施例3の構成を示す図である。
【図26】自己クローニング型3次元フォトニック結晶の斜視図である。
【図27】3次元PhCの回転方向を示す正面図である。
【図28】(a)および(b)は、本発明の実施例4の構成を示す側面図および平面図である。
【図29】本発明の実施例5の構成を示す図である。
【図30】2次元フォトニック結晶に対してy軸周りに10度斜めから入射した場合のバンド図である。
【図31】2次元フォトニック結晶に対してy軸周りに10度斜めからTE偏波を入射した場合の透過率,反射率,その他の軸外への放射(散乱回折を含む)の測定データ図である。
【図32】ファイバコリメータによる光結合系と、2次元フォトニック結晶とからなる可変光減衰器の模式図である。
【符号の説明】
【0101】
101 光ファイバ
102 1/4波長板
103 1/2波長板
104 レンズ
105、106 2次元フォトニック結晶
107 レンズ
108 光ファイバ
401 基板
402、502、504 SiO2膜
501、503、505 a−Si:H膜
2401 シングルモード光ファイバ
2402 レンズ
2403、2410 ウォークオフ結晶偏光分離素子
2404、2405、2408、2409 1/2波長板
2406、2407 2次元フォトニック結晶
2411 レンズ
2412、2501 シングルモード光ファイバ
2502 レンズ
2503〜2506 3次元フォトニック結晶
2507 レンズ
2508 シングルモード光ファイバ
2801、2802 ファイバコリメータ
2803、2811 PMD補償板
2804、2810 ルチルウォークオフ結晶偏光分離素子
2805、2806、2808、2809 1/2波長板
2807 2次元フォトニック結晶偏光分離素子
2812、2911 光スペクトラムアナライザ
2813〜2817 2次元フォトニック結晶
2818〜2822 ステッピングモータ
2901 ファイバコリメータ
2902 筐体
2903、2908 ウォークオフ結晶偏光分離素子
2904〜2907 1/2波長板
2909 タップカプラ
2910 ファイバコリメータ
2912 制御基板
2913 コンピュータ
3201、3202 ファイバコリメータ
3203〜3206 2次元フォトニック結晶
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の媒質から成り、屈折率が周期的な構造を持ち、フォトンのバンド構造を有する周期構造体を有し、
前記周期構造体は、当該周期が、3次元の直交座標x,y,zにおいて、x,z方向の二方向もしくはx,y,z方向の三方向に存在していると共に、前記z方向に延びる軸を含む対称面に対して電磁界分布が反対称であるモードを呈することが可能であり、
前記周期構造体への非エバネッセントな入射光は、前記z方向に対して0°よりも大きい入射角で入射され、
前記周期構造体は、前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に、透過損失または反射損失を与えることを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
2種類以上の媒質から成り、屈折率が周期的な構造を持ち、フォトンのバンド構造を有する周期構造体を有し、
前記周期構造体は、当該周期が、3次元の直交座標x,y,zにおいて、x,z方向の二方向もしくはx,y,z方向の三方向に存在していると共に、前記z方向に延びる軸を含む対称面に対して電磁界分布が反対称であるモードを呈することが可能であり、
前記周期構造体への非エバネッセントな入射光は、前記z方向に対して0°よりも大きい入射角で入射され、
前記周期構造体は、前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に、直交する偏波のうちの少なくとも一方に対する実効的なフォトンのバンドギャップを生じさせることを特徴とする光デバイス。
【請求項3】
前記周期構造体は、前記z方向に延びる軸を含む対称面に対して電磁界分布が反対称であるモードと、直交する偏波のうちの少なくとも一方の対称モードとが存在するものである請求項1または2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記周期構造体は、前記z方向に対して0°よりも大きい入射角で入射される前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光を光軸外へ放射させる請求項1乃至3のいずれか1つに記載の光デバイス。
【請求項5】
前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に対する透過損失を変化させるべく、前記周期構造体への前記入射光の入射角を相対的に変化させる手段をさらに有する請求項1、3、または4に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記周期構造体の光の入射側に配置された、偏光分離素子および偏光回転子をさらに有し、
前記周期構造体には、互いに実質的に同一の偏光状態を持つ2つのビームが入射される請求項1乃至5のいずれか1つに記載の光デバイス。
【請求項7】
光デバイスの入射ポートから出射ポートに向かう方向に並んだ複数の前記周期構造体を有する請求項1乃至6のいずれか1つに記載の光デバイス。
【請求項8】
前記複数の周期構造体は、前記x方向または前記y方向の周期が相互に異なる請求項7に記載の光デバイス。
【請求項9】
前記複数の周期構造体は、前記z方向の周期が相互に同一である請求項7または8に記載の光デバイス。
【請求項10】
前記複数の周期構造体に対する光の入射角が各個独立に制御可能であり、かつ、
各前記周期構造体に対する入射角がx方向,y方向,z方向を軸に独立に制御可能である請求項7乃至請求項9のいずれか1つに記載の光デバイス。
【請求項11】
フォトニック結晶体を用い、
前記フォトニック結晶体のフォトンのバンド構造における反対称モードを、該フォトニック結晶体への非エバネッセントな入射光を斜めに入射することによって励振することにより、下記Aおよび/または下記B:
(A)入射光のうちの反対称モードの存在する波長の光に、透過損失または反射損失を生じさせる
(B)入射光のうちの反対称モードの存在する波長の光に、直交する偏波のうちの少なくとも一方に対する実効的な光波のバンドギャップを生じさせる
をなすことを特徴とする光制御方法。
【請求項12】
予め定められたフォトンのバンド構造を有するフォトニック結晶体と、所定の入射光とを使用して、前記入射光の前記フォトニック結晶体に対する相対的な角度を変化させることにより、前記入射光の透過損失または反射損失を変化させることを特徴とする光制御方法。
【請求項1】
2種類以上の媒質から成り、屈折率が周期的な構造を持ち、フォトンのバンド構造を有する周期構造体を有し、
前記周期構造体は、当該周期が、3次元の直交座標x,y,zにおいて、x,z方向の二方向もしくはx,y,z方向の三方向に存在していると共に、前記z方向に延びる軸を含む対称面に対して電磁界分布が反対称であるモードを呈することが可能であり、
前記周期構造体への非エバネッセントな入射光は、前記z方向に対して0°よりも大きい入射角で入射され、
前記周期構造体は、前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に、透過損失または反射損失を与えることを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
2種類以上の媒質から成り、屈折率が周期的な構造を持ち、フォトンのバンド構造を有する周期構造体を有し、
前記周期構造体は、当該周期が、3次元の直交座標x,y,zにおいて、x,z方向の二方向もしくはx,y,z方向の三方向に存在していると共に、前記z方向に延びる軸を含む対称面に対して電磁界分布が反対称であるモードを呈することが可能であり、
前記周期構造体への非エバネッセントな入射光は、前記z方向に対して0°よりも大きい入射角で入射され、
前記周期構造体は、前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に、直交する偏波のうちの少なくとも一方に対する実効的なフォトンのバンドギャップを生じさせることを特徴とする光デバイス。
【請求項3】
前記周期構造体は、前記z方向に延びる軸を含む対称面に対して電磁界分布が反対称であるモードと、直交する偏波のうちの少なくとも一方の対称モードとが存在するものである請求項1または2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記周期構造体は、前記z方向に対して0°よりも大きい入射角で入射される前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光を光軸外へ放射させる請求項1乃至3のいずれか1つに記載の光デバイス。
【請求項5】
前記入射光のうちの前記電磁界分布が反対称である前記モードの存在する波長の光に対する透過損失を変化させるべく、前記周期構造体への前記入射光の入射角を相対的に変化させる手段をさらに有する請求項1、3、または4に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記周期構造体の光の入射側に配置された、偏光分離素子および偏光回転子をさらに有し、
前記周期構造体には、互いに実質的に同一の偏光状態を持つ2つのビームが入射される請求項1乃至5のいずれか1つに記載の光デバイス。
【請求項7】
光デバイスの入射ポートから出射ポートに向かう方向に並んだ複数の前記周期構造体を有する請求項1乃至6のいずれか1つに記載の光デバイス。
【請求項8】
前記複数の周期構造体は、前記x方向または前記y方向の周期が相互に異なる請求項7に記載の光デバイス。
【請求項9】
前記複数の周期構造体は、前記z方向の周期が相互に同一である請求項7または8に記載の光デバイス。
【請求項10】
前記複数の周期構造体に対する光の入射角が各個独立に制御可能であり、かつ、
各前記周期構造体に対する入射角がx方向,y方向,z方向を軸に独立に制御可能である請求項7乃至請求項9のいずれか1つに記載の光デバイス。
【請求項11】
フォトニック結晶体を用い、
前記フォトニック結晶体のフォトンのバンド構造における反対称モードを、該フォトニック結晶体への非エバネッセントな入射光を斜めに入射することによって励振することにより、下記Aおよび/または下記B:
(A)入射光のうちの反対称モードの存在する波長の光に、透過損失または反射損失を生じさせる
(B)入射光のうちの反対称モードの存在する波長の光に、直交する偏波のうちの少なくとも一方に対する実効的な光波のバンドギャップを生じさせる
をなすことを特徴とする光制御方法。
【請求項12】
予め定められたフォトンのバンド構造を有するフォトニック結晶体と、所定の入射光とを使用して、前記入射光の前記フォトニック結晶体に対する相対的な角度を変化させることにより、前記入射光の透過損失または反射損失を変化させることを特徴とする光制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2006−64878(P2006−64878A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245867(P2004−245867)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(302060650)株式会社フォトニックラティス (22)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(302060650)株式会社フォトニックラティス (22)
【Fターム(参考)】
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