説明

光データ通信システム、ならびに通信装置および通信方法

【課題】反射光による干渉雑音を取り除く。
【解決手段】局内装置13は、光ファイバ12を介して単一波長の連続光を、加入者装置11に供給し、加入者装置11から光ファイバ12を介して伝送されてきた、連続光をデータ信号により変調した変調光と、連続光の一部を分岐した光とを合波し、その合波した光を光電気変換して光コヒーレント受信し、その受信信号を、電気ハイパスフィルタに通過させる。加入者装置11は、局内装置13により供給された連続光をデータ信号により変調する変調手段を有する。本発明は、光アクセスネットワークシステムに適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光データ通信システム、ならびに通信装置および通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2個のノード間の光データ通信においては、通常、両方のノードに、光源を含む送信器が配置されている。しかしながら、たとえば利便性の面から、一方のノードにだけ光源を配置することが望ましい場合がある。たとえば、波長多重 (WDM: Wavelength Division Multiplexing)技術を用いた光アクセスネットワークシステムでは、加入者側の装置(以下、加入者装置と称する)には光源を設けず、収容局側の装置(以下、局内装置と称する)にのみ光源を配置するシステム構成が提案されている。
【0003】
図7は、光源が、加入者装置に設けられた場合の光アクセスネットワークシステム501の構成例を示す図である。なお図7には、上り信号を伝送するための構成のみが図示されており、下り信号を伝送するための構成の図示は省略されている。なお下り信号を伝送するために、局内装置には、そのための光源が設けられている。
【0004】
光アクセスネットワークシステム501は、N個の加入者装置511−1〜511−N(以下、個々に区別する必要がない場合、単に、加入者装置511と称する。他の場合においても同様とする)と、局内装置514とが、光合波器512と光ファイバ513を介して接続されている。
【0005】
加入者装置511−1は、光源521−1と変調器522−1を有して構成されている。光源521−1は、加入者に割り当てられた加入者毎に異なる波長を有する連続光を出射する。変調器522−1は、光源521−1が出射した連続光を、送信信号としてのデータ信号により変調する。その変調の結果得られた変調光は、光ファイバ523−1を介して光合波器512に供給され、そこで、他の加入者装置511−2〜511−Nから供給された変調光と合波されて、光ファイバ513を介して局内装置514へ伝送される。
【0006】
加入者装置511−2〜511−Nは、加入者装置511−1と同様に構成されているので、その説明は省略する。
【0007】
局内装置514は、光分波器551、および加入者装置511のそれぞれに対応するN個の受信器552−1〜552−Nを有して構成されている。光ファイバ513を介して伝送されてきた光信号は、局内装置514の光分波器551において波長分波され、それぞれ受信器552により受信される。
【0008】
図7に示すようなWDM技術を利用した光アクセスネットワークシステム501では、ITU-T G983.3等で規定される時分割多重技術(TDM: Time Division Multiplexing)を利用した光アクセスネットワークシステムに比べて、1加入者に割り当てる信号帯域の増加を図ることができる。しかしながら、図7の例では、光源波長が加入者毎に異なるため、加入者装置511のそれぞれに加入者に応じた波長の光源521を設ける必要がある。すなわち加入者装置511が複数品種必要となり、装置の利便性が悪くなる。
【0009】
図8は、光源が、局内装置に設けられており、加入者装置には設けられていない光アクセスネットワークシステム601の構成例を示す図である。図8には、上り信号を伝送するための構成が図示されており、下り信号を伝送するための構成の図示は省略されている。
【0010】
光アクセスネットワークシステム601では、N個の加入者装置611に対してそれぞれ割り当てられた波長の光を、局内装置614から供給し、加入者装置611において変調して折り返す光ループバック方式が採用されている。
【0011】
加入者装置611は、変調器621を有して構成されている。局内装置614は、光サーキュレータ651、光分波器652、加入者装置611のそれぞれに対応するN個の受信器653−1〜653−N、およびWDM光源654から構成されている。
【0012】
局内装置614のWDM光源654からは、各加入者に割り当てられた波長の連続したWDM光が出力される。この出力光は、図中の矢印の方向にのみ光を透過する光サーキュレータ651を通過した後、光ファイバ613を介して光合分波器612に送られ、波長分波される。分波されたWDM光は、それぞれ異なった光ファイバ622を経由して加入者装置611に供給され、変調器621において送信信号としてのデータ信号により変調される。
【0013】
各加入者装置611からの変調光は、光合分波器612において再度合波され、光ファイバ613を経て局内装置614へ伝送される。局内装置614において、光サーキュレータ651を通過した信号が光分波器652において波長分波され、受信器653−1〜653−Nにおいて受信される。
【0014】
一般に、加入者装置611の変調器621は波長依存性が小さいことから、各加入者装置611において同じ変調器621を用いることができる。すなわち加入者装置611の単一品種化を図ることができ、その結果、装置の利便性を向上させることができる。また、光源として用いられるレーザダイオードは、温度や経年劣化などによって波長が変動するため、加入者装置611における温度などの使用環境のばらつき考えると、加入者装置611が光源を有しないようにすることにより、光源波長の管理が容易になる。
【0015】
ところで、一般に、光アクセスネットワークにおける光ファイバ伝送路には、局内装置から加入者装置までの間に複数の反射点(たとえば、フレネル反射点)が存在する。また、光ファイバに光を入射すると後方散乱(たとえば、レーリー散乱)が生じる。ITU-T
G983.3では、光ファイバ伝送路に許容される反射減衰量(<-32dB)が規定されている。
【0016】
局内装置の受信端において、時間波形f(t)で振幅変調された信号光の光電界をf(t)Esexp[i(ωct+φ)]とし、ある反射点における反射光の光電界をERexp[i(ωct+φR)]とすると、受信前の光電界は、式(1)で表される。式(1)中、Esは、信号光の光電界の振幅を表し、ERは、反射光の光電界の振幅を表し、ωcは、光の角周波数を表し、φは、信号光のレーザ位相ノイズを表し、φRは、反射光のレーザ位相ノイズを表している。
【数1】

【0017】
また受信光電流は、要する係数を一切無視すると、式(2)で表される。
【数2】

【0018】
式(2)の第一項は信号パワーに比例した電流量を表し、第二項は信号光と反射光の干渉ビート雑音に比例した電流量を表し、そして第三項は反射光パワーに比例した電流量を表している。図8の光アクセスネットワークシステム601では、式(2)の第二項に表される干渉強度雑音の影響により、上り信号の品質が大幅に劣化する。
【0019】
この問題を解決する手法として、加入者装置に周波数シフタを配置する光アクセスネットワークシステムが提案されている(特許文献1および非特許文献1参照)。図9は、加入者装置に周波数シフタを配置した光アクセスネットワークシステム701の構成例を示す図である。
【0020】
n番目の加入者装置としての子ノード(ONUn)711−nの光サーキュレータ(Cnu)721−nを通過した上り用の光は、減衰した信号を局内装置としての親ノード(OLT)714側で十分に受信可能となるレベルとするために光増幅器(An)722−nで増幅される。
【0021】
光増幅器(An)722−nで増幅された光は、送信すべき信号に応じて強度変調する光変調器(Mn1)723−nによって、上り方向へ送信するNRZ(Non Return
to Zero)またはRZ(Return to Zero)の光信号に変調される。光変調器(Mn1)723−nで変調された光信号は、後段の光変調器(Mn2)724−nによってさらに変調される。この光変調器(Mn2)724−nにおいては、親ノード(OLT)714側のn番目の受信器(図示せず)における低域透過フィルタ(LPF:Low Pass Filter)において、干渉強度雑音を遮断し、送信信号の範囲のみが通過するように、信号スペクトルが単一周波数発振器(LOn)725−nに従って周波数変換される(すなわち光変調器(Mn2)724−nと単一周波数発振器(LOn)725−nが周波数シフタに相当する)。そして光変調器(Mn2)724−nの光出力は光サーキュレータ(Cnu)721−nに入力されて、上り光信号として親ノード(OLT)714に送信される。
【0022】
この例において、周波数シフト量をΔf(=2πωm)とすると、式(1)および式(2)は、それぞれ、式(3)または式(4)に置き換えられる。
【数3】

【数4】

【0023】
データ信号のビットレートをBe(bps) とすると、f(t)の最大周波数も同様にBe(Hz)となることから、式(4)の第一項の最大周波数もBe(Hz)となる。したがって、Δf(=2πωm)≧2Beに設定すれば、図9において親ノード(OLT)714の上側に模式的に示すように、式(4)の第二項で表される干渉雑音(図中、”干渉雑音スペクトル”の範囲)を、信号帯域(図中、”信号スペクトル”の範囲)の外側(図中、右側)に移動させることがきる。したがって干渉雑音をLPFにより遮断することができるので、信号の劣化を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2005-311708号公報
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Tomoaki Yoshida, Shunji Kimura, Hideaki Kimura, Kiyomi Kumozaki, andTakamasa Imai; A New Single-Fiber 10-Gb/s Optical Loopback Method Using PhaseModulation for WDM Optical Access Networks; JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,VOL. 24, NO. 2, FEBRUARY 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかしながら、図9に示した方式では、データ信号のクロック周波数の2倍以上の周波数を出力する発振器(LO)725を加入者装置711に設けなければならない。そのため、特に、信号ビットレートがギガbpsを超えるような場合、加入者装置711がコスト高になる。
【0027】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、容易に、反射光による干渉雑音を取り除くことができるようにするのである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の一側面の光データ通信システムは、光ファイバを介して光信号を授受する第1のノードと第2のノードを有して構成される光データ通信システムであって、第1のノードは、光ファイバを介して所定の波長の連続光を第2のノードに供給し、第2のノードは、第1のノードにより供給された連続光をデータ信号により変調する光データ通信システムにおいて、第1のノードは、第2のノードから光ファイバを介して伝送されてきた連続光をデータ信号により変調した変調光と、連続光の一部を分岐した光とを合波し、その合波した光を光電気変換する光コヒーレント受信を行う受信手段と、光コヒーレント受信による受信信号の所定の周波数以上の信号を通過させるフィルタリング手段とを有することを特徴とする。
【0029】
本発明の一側面の光データ通信システムにおいて、光データ信号のデータ信号形式は、直流付近に信号成分を有さないものであるようにすることができる。
【0030】
本発明の一側面の光データ通信システムにおいて、光コヒーレント受信は、位相ダイバーシティを用いたコヒーレント受信であって、第1のノードは、連続光の一部を分岐した光を透過する、コヒーレンス長以上の光遅延線をさらに有することができる。
【0031】
本発明の一側面の光データ通信システムにおいて、第1のノードは、光コヒーレント受信に際して、受信信号の包絡線を線形または2乗加算することができる。
【0032】
本発明の一側面の光データ通信システムにおいて、第2のノードの変調手段は、連続光をデータ信号により振幅変調し、第2のノードは、連続光の周波数を、第1のノードの電気ハイパスフィルタの3dB幅以上で、かつデータ信号のクロック周波数より小さい値にシフトさせるシフト手段をさらに有することができる。
【0033】
本発明の一側面の通信方法は、光ファイバを介して光信号を授受する第1のノードと第2のノードを有して構成される光データ通信システムであって、第1のノードは、光ファイバを介して所定の波長の連続光を第2のノードに供給し、第2のノードは、第1のノードにより供給された連続光をデータ信号により変調する光データ通信システムの通信方法において、第1のノードで、第2のノードから光ファイバを介して伝送されてきた連続光をデータ信号により変調した変調光と、連続光の一部を分岐した光とを合波し、その合波した光を光電気変換する光コヒーレント受信を行う受信ステップと、光コヒーレント受信による受信信号の所定の周波数以上の信号を通過させるフィルタリングステップとを含むことを特徴とする。
【0034】
本発明の一側面の通信装置は、少なくとも1個以上の他の通信装置と光ファイバを介して光信号を授受する通信装置において、光ファイバを介して所定の波長の連続光を、他の通信装置に供給する供給手段と、他の通信装置から光ファイバを介して伝送されてきた、連続光をデータ信号により変調した変調光と、連続光の一部を分岐した光とを合波し、合波した光を光電気変換する光コヒーレント受信を行う受信手段と、光コヒーレント受信による受信信号の所定の周波数以上の信号を通過させるフィルタリング手段とを有することを特徴とする。
【0035】
本発明の一側面の通信装置において、連続光の一部を分岐した光を透過する、コヒーレンス長以上の光遅延線をさらに有することができる。
【0036】
本発明の一側面の通信方法は、少なくとも1個以上の他の通信装置と光ファイバを介して光信号を授受する通信装置の通信方法において、光ファイバを介して所定の波長の連続光を、他の通信装置に供給する供給ステップと、他の通信装置から光ファイバを介して伝送されてきた、連続光をデータ信号により変調した変調光と、連続光の一部を分岐した光とを合波し、合波した光を光電気変換する光コヒーレント受信を行う受信ステップと、光コヒーレント受信による受信信号の所定の周波数以上の信号を通過させるフィルタリングステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明の一側面によれば、容易に、反射光による干渉雑音を取り除くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係る光アクセスネットワークシステムの構成例を示す図である。
【図2】受信信号における信号電流と干渉雑音電流の電気スペクトルの分布の例を示す図である。
【図3】フレネル反射点における反射光による干渉雑音の電気スペクトルの計算結果を示す図である。
【図4】局内装置からフレネル反射点までの距離および干渉雑音の原理を模式的に示す図である。
【図5】図1に示す光アクセスネットワークシステムに、遅延線をさらに設けた例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る光アクセスネットワークシステムの他の構成例を示す図である。
【図7】光源が、加入者装置に設けられており、局内装置には設けられていない従来の光アクセスネットワークの構成例を示す図である。
【図8】光源が、局内装置に設けられており、加入者装置には設けられていない従来の光アクセスネットワークの構成例を示す図である。
【図9】加入者装置に周波数シフタを配置する従来の光アクセスネットワークシステムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[第1の実施形態]
[第1の実施形態に係る光アクセスネットワークシステムの構成例の説明]
図1は、本発明の実施の形態に係る光アクセスネットワークシステム1の構成例を示す図である。
【0040】
光アクセスネットワークシステム1は、光ファイバ12を介して光信号を授受する加入者装置11と局内装置13を有して構成されている。光アクセスネットワークシステム1では、加入者装置11に対して割り当てられた波長の光を、局内装置13から供給し、加入者装置11において変調して折り返す光ループバック方式が採用されている。なお図1には、上り信号を伝送するための構成が図示されており、下り信号を伝送するための構成の図示は省略されている。
【0041】
加入者装置11は、変調器21を有して構成されている。変調器21は、局内装置13から、光ファイバ12を介して伝送されてきた連続光を送信信号としてのデータ信号により変調する。その変調の結果得られた変調光は、光ファイバ12を介して局内装置13へ伝送される。なお変調器21における変調は、振幅変調でも位相変調でもよい。
【0042】
局内装置13は、光源51、分岐器52、光サーキュレータ53、結合器54、光電気変換器55、およびハイパスフィルタ(HPF)56を有して構成されている。
【0043】
光源51は、加入者装置11用の単一波長の連続光を出力する。光源51から出力された連続光は、分岐器52により分岐される。分岐器52により分岐した連続光の一部をタップした光(以下、適宜、局発光とも称する)は、光サーキュレータ53および結合器54のそれぞれに入力される。
【0044】
光サーキュレータ53は、図中の矢印の方向のみ光を透過する。光サーキュレータ53には、分岐器52からの局発光が入力される。分岐器52から入力された局発光は、光サーキュレータ53を介して光ファイバ12へ供給され、加入者装置11に伝送される。光サーキュレータ53にはまた、光ファイバ12を介して加入者装置11から伝送されてきた変調光が入力され、その変調光は、光サーキュレータ53を介して結合器54に供給される。
【0045】
結合器54には、加入者装置11から伝送されてきた変調光と、分岐器52により分岐した局発光が入力される。結合器54は、入力したそれらを結合(合波)する。
【0046】
光電気変換器55は、結合器54による光結合により得られた光信号を電気信号に変換する。光電気変換器55において変換された電気信号は、HPF56を通過する。HPF56を通過した電気信号に対しては、復号処理等の所定の処理が行われる。
【0047】
[上り信号の伝送方法についての説明]
上り信号の伝送方法について説明する。局内装置13の光源51から出力された単一波長の連続光は、分岐器52を通過し、光サーキュレータ53を介して光ファイバ12へ入射され、加入者装置11に伝送される。加入者装置11に伝送された局発光は、加入者装置11の変調器21に入力し、変調器21において送信信号により変調され、光ファイバ12に折り返される。
【0048】
加入者装置11から局内装置13に送られた変調光は、局内装置13の光サーキュレータ53を介して結合器54に供給され、そこで、分岐器52からの局発光と結合される。そしてその結合光は光電気変換器55において光電気変換され、HPF56を通過する。
【0049】
局発光を利用して変調光を受信する方式を、光コヒーレント受信という。その中でも、変調光と局発光の波長が同一である本構成は、ホモダイン受信に分類することができる。
【0050】
[反射光による干渉雑音が低減する原理]
時間波形f(t)で振幅変調された信号光の光電界をf(t)Esexp[i(ωct+φs)]とし、ある反射点における反射光の光電界をERexp[i(ωct+φR)]とし、タップされた単一波長の連続光(すなわち局発光)の光電界をEexp[i(ωct+φ)]とすると、受信前の光電界は、式(5)で表される。式中φは、局発光のレーザ位相ノイズを表している。
【数5】

【0051】
また、受信光電流は、要する係数を一切無視すると、式(6)で表される。
【数6】

【0052】
式(6)の第一項は信号電流を表し、第二項は干渉雑音電流を表している。データ信号ビットレートをBe(bps)とすると、f(t)の最大周波数もBe(Hz)となることから、式(6)の第一項の信号電流の電気スペクトルは、直流付近からBe(Hz)まで拡がる。それに対して、反射光と局発光は、いずれも変調されていない連続光であることから、第二項の電気スペクトルは、直流付近に集中する。なお光コヒーレント受信を行う場合、局発光のパワーは、信号光(この例の場合、変調光)のパワーより十分大きいので、第三項、第五項、および第六項の電流量は無視できる。また第4項は、何も情報が載っていないので、無視できる。
【0053】
図2の右側は、受信信号における信号電流と干渉雑音電流の電気スペクトルの分布の例を示す図である。このように、干渉雑音電流の電気スペクトルは、直流付近に集中する。
【0054】
したがって、HPF56を用いて、直流付近から拡がった信号電流の電気スペクトルを通過させる一方で、直流付近に集中する干渉雑音電流の電気スペクトルを遮断することにより、信号電流と干渉雑音電流の電気スペクトルを分離することができる。すなわち干渉雑音による信号の劣化を低減することができる。
【0055】
なお図2中、曲線2Aは、HPF56の通過域の境界を示し、範囲2Bは、干渉雑音電流の電気スペクトルの範囲を示し、範囲2Cは、信号電流の電気スペクトルの範囲を示している。
【0056】
以上のように、加入者装置11から光ファイバ12を介して伝送されてきた局内光としての連続光をデータ信号により変調した変調光と、連続光の一部をタップした局内光とを合波し、合波した光を光電気変換し(すなわち光コヒーレント受信し)、光コヒーレント受信による受信信号の所定の周波数以上の信号を通過させるようにしたので、受信信号から送信信号を適切に抽出することができる。
【0057】
すなわち、たとえば、高周波を出力する発振器を加入者装置に配置しなくても(図9)、反射光による干渉強度雑音を取り除くことができる。
【0058】
[送信信号のデータ信号形式]
なおHPF56により、信号電気スペクトルの直流成分も一部取り除かれることにより信号の劣化が想定される場合は、送信信号を、直流付近に信号成分を有さない信号形式のものにすることができる。たとえば、マンチェスター符号、バイポーラ符号、変形デュオバイナリ符号、またはIEEEにおいて規定されるギガビットイーサネット信号などは、直流付近に信号成分を有さない。
【0059】
図2の右側は、送信信号を直流付近に信号成分を有さない信号形式のものにした場合の、受信信号における信号電流と干渉雑音電流の電気スペクトルの分布の例を示す図である。このように、送信信号を、直流付近に信号成分を有さない信号形式のものにすることにより、信号電流と干渉雑音電流の電気スペクトルをより確実に分離することができる。
【0060】
[光遅延線の追加]
図3は、フレネル反射点における反射光による干渉雑音の電気スペクトルの計算結果を示す図である。なお具体的な計算方法は、”J. Gimlett et al., J. Lightwave Technol., pp. 888-895,
1989.”に開示されている。図3の例の場合、光源51の線幅は4MHzであり、局内装置13からフレネル反射点までの距離(図4のx)が1m、2m、および3mの場合の干渉雑音の電気スペクトルが示されている(曲線3A,3B,3C)。図3にはまた、3dB幅4MHzのローレンツ関数(図中、曲線3D)とレイリー散乱による干渉雑音の電気スペクトル(図中、曲線3E)も示されている。
【0061】
レイリー散乱による干渉雑音とローレンツ関数の電気スペクトルは、図3に示すように、ほぼ同じ曲線を示し、いずれも直流から4MHzまでにエネルギーが集中している。
【0062】
それに対してxの値が小さい場合(図3の例では、x=1,2,3(m)の場合)、すなわち、局内装置13の近端にフレネル反射点がある場合、干渉雑音による電気スペクトルの分布の裾は、大きく拡がっている(曲線A,B,C)。これは、反射光と局発光が、結合器54において結合されるまでに伝送される距離の差が、光源51の線幅に相当するコヒーレンス長(この場合は、50m)以下であり、互いの光位相に相関があるためである。これを解決するためには、図5に示すように、分岐器52と結合器54の間に、コヒーレンス長以上の光の遅延線61を挿入することができる。
【0063】
[光PLLによる光位相制御]
なお、信号電流は、局発光と信号光の位相差の時間変化に応じて、その振幅が揺らぐ。したがって、安定した時間波形を得るためには、HPF56を通過させる前に、光位相同期ループ(光PLL)を用いて、光源51の光位相を制御することができる。光源51の光位相制御の方法については、”大越、菊池著 コヒーレント通信光通信光学 オーム社”に示されている。
【0064】
[送信信号の変調方法]
送信信号の変調については、振幅変調を行った場合でも位相変調を行った場合でも、同様な原理により、干渉雑音を低減することができる。
【0065】
[第2の実施の形態]
図6は、本発明の実施の形態に係る光アクセスネットワークシステム101の構成例を示す図である。
【0066】
光アクセスネットワークシステム101は、光ファイバ112を介して光信号を授受する加入者装置111と局内装置113を有して構成されている。光アクセスネットワークシステム101では、加入者装置111に対して割り当てられた波長の光を、局内装置113から供給し、加入者装置111において変調して折り返す光ループバック方式が採用されている。
【0067】
加入者装置111は、局内装置113から、光ファイバ112を介して伝送されてきた連続光を送信信号としてのデータ信号により変調する。その変調の結果得られた変調光は、光ファイバ112を介して局内装置113へ伝送される。なお加入者装置111における変調は、振幅変調である。
【0068】
加入者装置111は、図9に示した加入者装置としての子ノードONUと同様の構成を有している。
【0069】
すなわち、光サーキュレータ(Cu)151を通過した上り用の光は、減衰した信号を局内装置113側で十分に受信可能となるレベルとするために光増幅器(A)152で増幅される。
【0070】
光増幅器(A)152で増幅された光は、送信すべき信号に応じて振幅変調する光変調器(M1)153によって、上り方向へ送信するNRZまたはRZの光信号に変調される。光変調器(M1)153で変調された光信号は後段の光変調器(M2)154によってさらに、単一周波数発振器(LO)155に従って周波数変換される。そして光変調器(M2)154の光出力は光サーキュレータ(Cu)151に入力されて、上り光信号として局内装置113に送信される。
【0071】
局内装置113は、光源181、分岐器182、光サーキュレータ183、光90度混合器184、2個の光電気変換器185−1,185−2、2個のハイパスフィルタ(HPF)186−1,186−2、2個の乗算器187−1,187−2、および加算器188を有して構成されている。
【0072】
光源181は、加入者装置111用の単一波長の連続光を出力する。光源181から出力された連続光は、分岐器182により分岐される。分岐器182により分岐した連続光の一部をタップした局発光は、光サーキュレータ183および光90度混合器184のそれぞれに入力される。
【0073】
光サーキュレータ183は、図中の矢印の方向のみ光を透過する。光サーキュレータ183には、分岐器182からの局発光が入力される。分岐器182から入力された局発光は、光サーキュレータ183を介して光ファイバ112へ供給され、加入者装置111に伝送される。光サーキュレータ183にはまた、光ファイバ112を介して加入者装置111から伝送されてきた変調光が入力され、その変調光は、光サーキュレータ183を介して光90度混合器184に供給される。
【0074】
光90度混合器184には、加入者装置111から伝送されてきた変調光と、分岐器182により分岐した局発光が入力される。光90度混合器184に入力した変調光と局発光は、内部でそれぞれ2分岐するとともに、分岐した局発光の光位相が互いに90度ずらされ、その局発光が、それぞれ、2分岐された変調光と結合される。
【0075】
光位相が互いに90度異なる局発光のそれぞれと変調光が結合した光は、光電気変換器185−1または185−2において、それぞれ、電気信号に変換され、対応するHPF186−1または186−2を通過する。
【0076】
HPF186−1または186−2を通過する信号は、内部でそれぞれ2分岐し、乗算器187−1または187−2において掛け算される。乗算器187−1および187−2における乗算の結果得られた信号は、それぞれ、加算器188において加算される。
【0077】
[反射光による干渉雑音が低減する原理]
光位相が互いに90度ずれた局発光の光電界を、それぞれ、Eexp[i(ωct+φ)]と、Eexp[i(ωct+φ+π/2)]とすると、局発光の光電界がEexp[i(ωct+φ)]である場合の受信前の光電界は式(5)で、局発光の光電界がEexp[i(ωct+φ+π/2)]である場合の受信前の光電界は式(7)で表される。
【数7】

【0078】
また、受信光電流は、要する係数を一切無視すると、それぞれ、式(6)および式(8)で表される。
【数8】

【0079】
式(6)および式(8)の第一項は信号電流を表していることから、それぞれ、cos(φsR)およびsin(φsR)で規定される包絡線を線形、または2乗加算すれば、光PLLを用いなくとも変調信号f(t)を得ることができる。すなわち図6の例では、光位相が互いに90度ずれた局発光が変調光と結合し、乗算器187−1,187−2による乗算と加算器188による加算により、2乗加算されるので、光PLLを用いなくとも変調信号f(t)を得ることができる。なお図6においては、HPF186の出力を2分岐し、乗算器187により乗算したが、2乗せずにそれぞれのHPF186の出力を加算することによって、線形化を図ることもできる。
【0080】
なおHPF186を通過することで、干渉雑音を低減することができるのは、前述の通りである。また、ここでは、2分岐し、互いの位相を90度ずらした局発光を利用する光90度混合器184を用いた場合を示したが、3分岐し、互いの位相を120度ずらした局発光を利用する光120度混合器等、一般に、位相ダイバーシティを呼ばれる光回路を用いてもよい。
【0081】
[加入者装置側において周波数シフトを行う理由]
しかしながら、HPF186を通過することにより、信号電流の直流成分が失われると、包絡線検波により信号が再生できなくなる。そのため、加入者装置111において、局内装置113から伝送された波長が周波数シフトされる。
【0082】
シフト量に対応した角周波数をωmとすると、光電界Eexp[i(ωct+φ)]に対応する受信前の光電界は、式(9)で表される。
【数9】

【0083】
また、受信光電流は、要する係数を一切無視すると、式(10)で表される。
【数10】

【0084】
なお光電界Eexp[i(ωct+φ+π/2)]に対応した場合の式は省略する。
【0085】
信号電流の包絡線は、cos[ωm+(φsR)]で表されるが、周波数シフト量がHPF186の通過域(3dB帯域以上)にあれば、包絡線の振幅は低減されない。したがって包絡線検波が可能となる。なお式(10)の第一項が、周波数シフトしたぶんだけ直流からずれているにも関わらず、各々の包絡線を線形、または、2乗加算することで信号が再生できるのは、上述した通りである。
【0086】
一般に、ホモダイン受信は、局発光と信号光の波長を一定量だけずらして受信するヘテロダイン受信と比べて、使用する電気帯域が少ないという利点を有する。この利点を損なわないためには、周波数シフト量を、信号ビットレートクロックよりも小さい値にすることができる。すなわちクロック周波数より小さい周波数を出力する発振器を用いて、反射光による干渉強度雑音を取り除くことができる。
【0087】
また、データ信号による変調が位相変調の場合は、そもそも、信号電流の直流成分が存在しないので、周波数シフトを行う必要はない。すなわちこの場合、図6に示す加入者装置111に代えて、図5に示す加入者装置11を用いることができる。
[光遅延線の追加]
分岐器182と光90度混合器184の間に、コヒーレンス長以上の光の遅延線191を挿入することにより、局内装置113の近端にフレネル反射点がある場合においても、適切に、干渉雑音を低減することができる。
【0088】
[その他の実施の形態]
[加入者装置が複数ある場合の本発明の適用]
なお以上においては、加入者装置が1個の場合を例として説明したが、加入者装置が複数個設けられているシステムにおいても、本発明を適用することができる。
【0089】
[光アクセスネットワーク以外の例]
また以上においては、光アクセスネットワークシステムを例として説明したが、光ファイバを介して光信号を授受するノードが少なくとも2個存在すれば、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 光アクセスネットワークシステム, 11 加入者装置, 12 光ファイバ, 13 局内装置, 21 変調器, 51 光源, 52 分岐器, 53 光サーキュレータ, 54 結合器, 55 光電気変換器, 56 HPF, 61 遅延線, 101 光アクセスネットワークシステム, 111 加入者装置, 112 光ファイバ, 113 局内装置, 151 光サーキュレータ, 152 光増幅器, 153 光変調器, 154 光変調器, 155 単一周波数発振器, 181 光源, 182 分岐器, 183 光サーキュレータ, 194 光90度混合器, 185 光電気変換器, 186 HPF, 187 乗算器, 188 加算器, 191 遅延線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバを介して光信号を授受する第1のノードと第2のノードを有して構成される光データ通信システムであって、上記第1のノードは、上記光ファイバを介して所定の波長の連続光を上記第2のノードに供給し、上記第2のノードは、上記第1のノードにより供給された上記連続光をデータ信号により変調する光データ通信システムにおいて、
上記第1のノードは、
上記第2のノードから上記光ファイバを介して伝送されてきた上記連続光をデータ信号により変調した変調光と、上記連続光の一部を分岐した光とを合波し、その合波した光を光電気変換する光コヒーレント受信を行う受信手段と、
上記光コヒーレント受信による受信信号の所定の周波数以上の信号を通過させるフィルタリング手段と
を有することを特徴とする光データ通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の光データ通信システムにおいて、
前記データ信号のデータ信号形式は、直流付近に信号成分を有さないものである
ことを特徴とする光データ通信システム。
【請求項3】
請求項1および請求項2に記載の光データ通信システムにおいて、
前記第1のノードは、前記連続光の一部を分岐した光を透過する、コヒーレンス長以上の光遅延線をさらに有することを特徴とする光データ通信システム。
【請求項4】
請求項1に記載の光データ通信システムにおいて、
前記光コヒーレント受信は、位相ダイバーシティを用いたコヒーレント受信であって、
前記第1のノードは、前記光コヒーレント受信に際して、受信信号の包絡線を線形または2乗加算することを特徴とする光データ通信システム。
【請求項5】
請求項4に記載の光データ通信システムにおいて、
前記第2のノードの前記変調手段は、上記連続光を上記データ信号により振幅変調し、
前記第2のノードは、前記連続光の周波数を、前記第1のノードの前記電気ハイパスフィルタの3dB幅以上で、かつ前記データ信号のクロック周波数より小さい値にシフトさせるシフト手段をさらに有する
ことを特徴とする光データ通信システム。
【請求項6】
光ファイバを介して光信号を授受する第1のノードと第2のノードを有して構成される光データ通信システムであって、上記第1のノードは、上記光ファイバを介して所定の波長の連続光を上記第2のノードに供給し、上記第2のノードは、上記第1のノードにより供給された上記連続光をデータ信号により変調する光データ通信システムの通信方法において、
上記第1のノードで、
上記第2のノードから上記光ファイバを介して伝送されてきた上記連続光をデータ信号により変調した変調光と、上記連続光の一部を分岐した光とを合波し、その合波した光を光電気変換する光コヒーレント受信を行う受信ステップと、
上記光コヒーレント受信による受信信号の所定の周波数以上の信号を通過させるフィルタリングステップと
を含むことを特徴とする通信方法。
【請求項7】
少なくとも1個以上の他の通信装置と光ファイバを介して光信号を授受する通信装置において、
上記光ファイバを介して所定の波長の連続光を、上記他の通信装置に供給する供給手段と、
上記他の通信装置から上記光ファイバを介して伝送されてきた、上記連続光をデータ信号により変調した変調光と、上記連続光の一部を分岐した光とを合波し、上記合波した光を光電気変換する光コヒーレント受信を行う受信手段と、
上記光コヒーレント受信による受信信号の所定の周波数以上の信号を通過させるフィルタリング手段と
を有することを特徴とする通信装置。
【請求項8】
請求項7に記載の通信装置において、
前記連続光の一部を分岐した光を透過する、コヒーレンス長以上の光遅延線をさらに有することを特徴とする通信装置。
【請求項9】
少なくとも1個以上の他の通信装置と光ファイバを介して光信号を授受する通信装置の通信方法において、
上記光ファイバを介して所定の波長の連続光を、上記他の通信装置に供給する供給ステップと、
上記他の通信装置から上記光ファイバを介して伝送されてきた、上記連続光をデータ信号により変調した変調光と、上記連続光の一部を分岐した光とを合波し、上記合波した光を光電気変換する光コヒーレント受信を行う受信ステップと、
上記光コヒーレント受信による受信信号の所定の周波数以上の信号を通過させるフィルタリングステップと
を含むことを特徴とする通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−268309(P2010−268309A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119095(P2009−119095)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.イーサネット
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】