説明

光ピックアップ、光記録再生装置、及び微小スポット生成方法

【課題】開口数NAが1を超えるような光学系で偏光によるスポットの拡大を抑えて微小スポットを生成する。
【解決手段】光源101と、偏光変換素子である波長板202と、1を超える開口数を有する対物レンズ系105とを備え、波長板202は偏光分布が光軸に対して軸対称で、光軸上の光線は円偏光とし、光軸から離れるに従って偏光の楕円率が次第に減少するように変化し、各楕円偏光は楕円の長軸が光軸を中心とする円の円周方向となす角度が±45度以下であるような分布とすることにより、スポットを生成する際にS偏光成分が増えるため、電場ベクトルの向きが揃う成分が増加し、より微小なスポットを生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクや光カードなど、光記録媒体へ収束した光を照射することにより、この光記録媒体に対して情報を記録または再生する光ピックアップ、これを用いた光記録再生装置、及びそのための微小スポット生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、映像や音声を初めとする各種の情報を記録する媒体として、CDやDVD、あるいはBD(ブルーレイディスク)といった光ディスクが広く用いられている。このような光記録媒体を用いた光記録再生装置では、光記録媒体に光を照射して情報を記録または再生するため、情報の記録密度は光記録媒体に収束する光スポットの大きさに依存する。従って、記録媒体の大容量化は、光ピックアップにより照射される光スポットを小さくすることによって実現できる。この光スポットの大きさは、対物レンズの開口数に比例し、照射する光の波長に反比例するため、より小さな光スポットを得るには、使用する光の波長を更に短くするか、あるいは、対物レンズの開口数を更に大きくすれば良い。しかし、これまで実用化されている光記録再生装置では、光記録媒体と対物レンズの間が波長に比べて十分大きく離れており、対物レンズに入射する光は開口数が1を超えると、レンズ出射面で全反射するため、記録密度を上げることができなかった。
【0003】
そこで、対物レンズの開口数(NA)が1を超える光記録再生手法として、SIL(ソリッドイマルジョンレンズ)を用いた近接場光記録再生法が開発されている。(開口数NAは媒質の屈折率をn、光ビームの媒質中での光軸に対する最大角度をθとして、NA=n・sinθで定義される。)通常、開口数が1を超えと臨界角以上になるため、この領域の光は、対物レンズの出射端面において全反射される。この全反射する光は出射端面近傍では出射端面からエバネッセント光としてしみ出しており、近接場光記録再生法では、このエバネッセント光を伝搬できるようにしたものである。このため、対物レンズの出射端面と光記録媒体表面との間隔(エアギャップ)を、エバネッセント光の減衰距離より短く維持して、開口数が1を越える範囲の光を対物レンズから光記録媒体に透過させている。
【0004】
しかしながら、エアギャップを通過する光は偏光方向、及び入射角度、エアギャップの大きさ、各物質の屈折率により、その透過率が変化する。特に入射角度(入射光が光記録媒体表面の法線となす角度)が大きくなると、偏光依存性が大きくなり。特定の角度まではS偏光よりP偏光の光ビームの方が透過率が高いが、ある角度を超えるとP偏光よりS偏光の光の方が透過率が高くなる。図16は、波長650nmの光が50nmのエアギャプを通じて、屈折率1.9同士の媒質を伝播する際の光線のNAに対するP偏光とS偏光の透過率である。この条件下では、NAが1.2付近までP偏光の透過率がS偏光の透過率より高く、1.2付近以上ではS偏光の透過率がP偏光より高い。
【0005】
従来の光ヘッド装置としては、この特性を鑑み、直線偏光を入射した際の方向による光量を平均化するため、半導体レーザの強度分布を楕円として、NAが1.2以上ではP偏光となる方向に強度分布の長軸方向を向け、S偏光となる方向に短軸方向を向けているものがあった(例えば、特許文献1参照)。図17は、前記特許文献1に記載された従来の光ヘッド装置を示すものである。
【0006】
図17において、半導体レーザ101から出射した光ビーム102は集光レンズ103で略平行光となり、ビームスプリッタ104を透過して、対物レンズ光学系105に入射する。尚、本明細書において収束位置とは収束した光のビームウエスト位置を意味している。対物レンズ光学系105は、レンズ105aとソリッドイマルジョンレンズのSIL105bから成り、SIL105bの出射端面と、それに対向する光記録媒体106の表面との間に存在するエアギャップをエバネッセント減衰長さより短くしてエバネッセント光による光伝播が行われるようにしている。このとき半導体レーザ101から出射される光ビーム102の強度分布は楕円状であり、長軸方向には広い角度でも強度の低下は小さく、短軸方向には狭い角度でも強度の低下が大きい。従来例ではこの長軸方向はP偏光、短軸方向はS偏光となるように偏光方向を決めている。
【0007】
また、光記録媒体である光ディスクの屈折率をnとして、NA=n・sinθとしたときのsinθが0.85を越えて利用する時、光軸に対する周辺の光ビームの角度θは60度もしくはそれ以上となる。θが大きくなると、入射光の偏光方向により収束されるスポットの径が異なる現象が見られる。即ち、入射面に対して垂直な偏光であるS偏光ではθが大きくても、図18に示すように電場ベクトルEの方向が一致しているため、NAを大きくした効果がそのまま現れ、スポット径はNAの比に応じて小さくなる。一方、入射面に平行な偏光であるP偏光では、図19に示すように、θに依存して電場ベクトルEの方向が一致せず、NAを大きくした効果が減殺されスポットがNAの比ほど小さくならない。このため、直線偏光の光ビームでsinθを大きくするとP偏光となる方向にスポット径が大きくなり、楕円状のスポットとなる。
【0008】
この対策として、ラジアル方向に偏光をそろえたラジアル偏光の光ビームでスポットを形成する例があった(例えば、非特許文献1参照)。図20は、ラジアル方向に偏光をそろえた光ビームの例である。収束点での光のエネルギーを光軸に垂直なItrans.成分と光軸に平行なIlong.成分に分けて表している。ラジアル偏光の光ビームではθが小さいとIlong.成分が小さく、スポットは中央部が暗いドーナツ状となるが、θを90度に近づけ、光軸に平行なIlong.成分が主な成分となるようなスポットを形成すれば、スポット径を小さくできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−213435号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Tzu-Hsiang LAN and Chung-Hao TIEN 著、 "Study on Focusing Mechanism of Radial Polarization with Immersion Objective"、Japanese Journal of Applied Physics Vol.47,2008 p.5806-5808、2008年7月18日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記従来の構成では、直線偏光の方向により強度を変えているだけなので、方向による光量差は減少しているが、本質的に透過効率は増加しておらず、光の利用効率が低下してしまうという課題を有していた。また、円偏光を使う光学系には方向によりP偏光とS偏光の割合が一定なので、前記従来の構成が適用できないという課題を有していた。
【0012】
また、ラジアル方向に偏光をそろえても、sinθがほぼ1となるようなθが90度に非常に近い角度の光ビームとしないと光軸に垂直なIlong.成分が主な成分となるスポットを形成できないので、構成が困難であるという課題を有していた。
【0013】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、スポットのsinθが0.8〜0.9前後でも実効NAの低下を抑え、微小スポットを形成できる光ピックアップ、光記録再生装置、及び微小スポット生成法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記従来の課題を解決するために、本発明の光ピックアップは、光源と光記録媒体に1を超える開口数で光ビームを収束する対物レンズ系と偏光変換素子を有し、対物レンズ系で収束する光ビームの偏光分布を光軸に対して軸対称で、光軸上では円偏光とし、光軸から離れるに従って楕円偏光となり、楕円偏光の楕円率が次第に減少するように変化し、各楕円偏光は楕円の長軸が光軸を中心とする円の円周方向となす角度が45度未満となるような分布として、スポットの形成を行う(楕円率は長軸と短軸の比で定義し、楕円率0は直線偏光、楕円率1は円偏光を表す)。
【0015】
本構成によって、光ビームの光軸から離れた光線はS偏光成分がP偏光成分に比べて大きくなり、エバネッセントによる伝播をしたときにも高い透過率で光が伝播でき、スポットを形成する際もS偏光成分が増えるため、電場ベクトルの向きが揃う成分が増加し、より微小なスポットを生成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光ピックアップ、光記録再生装置及び微小スポット生成方法によれば、SIL方式の光学系で微小なスポットを形成し、高い記録密度の情報を記録再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1における光ピックアップの構成図
【図2】(a)本発明の実施の形態1における光ビームの断面の偏光分布の例を示す概念図(b)本発明の実施の形態1における波長板の断面の複屈折の主軸の方位角と位相差の大きさの分布の例を示す概念図
【図3】(a)光の偏光状態を表すポアンカレ球の概念図(b)ポアンカレ球状で直線偏光の光を別の偏光状態に変換する場合の概念図
【図4】(a)本発明の実施の形態1における波長板の複屈折の主軸の方位角の分布の一例を示す等高線図(b)本発明の実施の形態1における波長板の複屈折の位相差の分布の一例を示す等高線図(c)本発明の実施の形態1における波長板により生成された偏光分布の模式図
【図5】(a)本発明の実施の形態1における波長板の複屈折の主軸の方位角の分布の別の例を示す等高線図(b)本発明の実施の形態1における波長板の複屈折の位相差の分布の別の例を示す等高線図(c)本発明の実施の形態1における別の例の波長板により生成された偏光分布の模式図
【図6】(a)本発明の実施の形態1におけるスポットの断面プロファイル図(b)従来例の全面円偏光であった場合におけるスポットの断面プロファイル図
【図7】屈折率2.068の物質の間の間隔30nmのエアギャップを波長405nmの光が伝播する際の入射角に対する各偏光成分の透過率を示すプロット図
【図8】本発明の実施の形態1における液浸方式対物レンズ部の例の構成図
【図9】(a)本発明の実施の形態1における偏光分布の楕円率の光軸からの距離の依存性の一例を示すプロット図(b)〜(d)本発明の実施の形態1における偏光分布の楕円率の光軸からの距離の依存性の更に別の例を示すプロット図
【図10】本発明の実施の形態1における光ビームの断面の偏光分布の別の例を示す概念図
【図11】(a)本発明の実施の形態2における光ピックアップの構成図(b)本発明の実施の形態2における透過フィルタの透過率分布の半径依存性の例を示すプロット図
【図12】本発明の実施の形態3における光記録再生装置の構成図
【図13】本発明の実施の形態4におけるコンピュータの構成図
【図14】本発明の実施の形態5における光ディスクレコーダの構成図
【図15】本発明の実施の形態1の微小スポット形成方法の手順の一例を示す流れ図
【図16】屈折率1.9の物質の間の間隔50nmのエアギャップを波長650nmの光が伝播する際のNAに対する各偏光成分の透過率を示すプロット図
【図17】従来の光ピックアップの構成図
【図18】直線偏光の光が収束する際のS偏光波成分の集光時の電場ベクトルの方向を示す概念図
【図19】直線偏光の光が収束する際のP偏光波成分の集光時の電場ベクトルの方向を示す概念図
【図20】従来の光ピックアップのラジアル偏光の光ビームと収束した際の光の強度ベクトルを示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における光ピックアップの構成図である。図1において、図17と同じ構成要素については同じ符号を用いる。
【0020】
図1において、半導体レーザ101は直線偏光の光ビーム102を出射する。光ビーム102は集光レンズ103で略平行光となり、ビームスプリッタ104、201を透過して、偏光変換素子である波長板202に入射する。波長板202は光ビーム中の中心である光軸に対して軸対称に光線位置により異なる偏光の変化を与える。波長板202を経た光ビーム102は対物レンズ光学系105に入射する。対物レンズ光学系105は、レンズ105aとソリッドイマルジョンレンズのSIL105bから成り、SIL105bの出射端面と、それに対向する光記録媒体106の表面との間に存在するエアギャップを波長より短い距離であるエバネッセント減衰長さより短くしてエバネッセント光による光伝播が行われるようにしている。光記録媒体106により反射・回折された光ビームは対物レンズ径105で再び略平行光に戻され、波長板201を経た後、ビームスプリッタ201、104でそれぞれ一部の光が反射される。ビームスプリッタ104で反射された光ビームは検出レンズ203で収束光に変換され、光検出器204で受光される。検出レンズ203では収束光への変換と同時に非点収差を与える。光検出器204は図示しないが4分割された受光部を持ち、非点収差法によりフォーカス信号が検出される。またトラッキング信号はプッシュ法により検出される。また、検出器203で受光された光量の和信号からRF信号が生成される。ビームスプリッタ201で反射された光ビームは検出レンズ205で収束光に変換され、検出器206で受光される。検出器206からは、SIL105bと光記録媒体106のエアギャップの間隔を検出するためのギャップ信号が得られる。
【0021】
図2(a)は波長板202から出射される光ビーム102の断面の偏光分布の例を示す概念図である。光ビーム102の中心である光軸210では円偏光。光軸より離れるに従い楕円偏光となり、最外周の光線は直線偏光となる。各楕円偏光の長軸は、光軸210を中心とする円の円周方向を向いている。このような偏光分布を作る波長板202の複屈折の主軸の向きと位相差の分布の例の概略を図2(b)に概念図として示す。直線偏光である入射光の偏光方向(電場ベクトルの振動方向)を図のようにY軸方向に取る。光軸210では円偏光に変換されるため、複屈折の主軸の向きはX軸と45度の角度で、位相差は90度とすればよい。X軸上の各点は原点である光軸上を離れるに従い、入射光の偏光方向に近い楕円偏光とするため、複屈折の主軸の向きは45度のまま位相差が90度から小さくし、0度に近づける。(図2(b)では矢印の長さで位相差の大きさを示している。)Y軸上の各点は原点から離れるに従い、入射光の偏光方向とは直交した方向に長軸が向いた楕円偏光とするため、複屈折の主軸の向きは45度のまま位相差が90度から大きくし、180度に近づける。X軸とY軸が共に正である第1象限、及びX軸とY軸が共に負である第3象限では、楕円偏光の長軸の向きが右下がりとなる。Y軸方向の直線偏光から、これを得るためには複屈折の主軸の向きは45度より小さくする。必要な位相差は各点の位置に応じて決まる。またX軸が負でY軸が正である第2象限、及びX軸が正でY軸が負である第4象限では、楕円偏光の長軸の向きが右上がりとなる。Y軸方向の直線偏光から、これを得るためには複屈折の主軸の向きは45度より大きくする。必要な位相差は各点の位置に応じて決まる。
【0022】
目的の偏光を得るための具体的方法を更に詳細に説明する。図3(a)は偏光の状態を示すポアンカレ球の例の説明図である。球の上側半分のみを図示している。ポアンカレ球では、(1)赤道上はすべて直線偏光(楕円率0)表す。(2)北極および南極は円偏光(楕円率1)を表す。(3)赤道、北極、南極以外はすべて楕円偏光を表す。(4)基準点からの経度の半分の角度が直線あるいは楕円偏光の方位角に相当し、同じ経度では方位角が同じ偏光を表す。(5)北半球は右回りの偏光、南半球は左回りの偏光を表す。という特徴がある。ポアンカレ球上の点は任意の偏光状態を表し、どのような偏光状態もこの球上に表示できる。図3(a)では基準となる経度0の直線偏光の向きを経線に平行と定義する。入射した偏光からある別の偏光状態を作ることは、このポアンカレ球の表面で入射偏光に相当する点をある別の点に移動することに相当する。今、緯度0、経度0の直線偏光を入射光の偏光状態とし、複屈折の主軸の方位角φ、位相差δの波長板を通った光の偏光状態をポアンカレ球状で得る方法を図3(b)を使って説明する。入射光の偏光を表す緯度0、経度0の点を点Pとする。赤道面内に、ポアンカレ球の中心を通り、中心と点Pと角度2φをなす直線を引く。これを回転軸として、点Pを角度δだけ回転した点を点Mとする。点Mの経度を2Φとすると、楕円偏光の長軸の方位角がΦとなる、点Mの緯度を2χとすると、tan-1(χ)が楕円率を表す。
【0023】
逆に求めたい偏光状態を得るための波長板の特性φとδを得るためには、今の関係を逆にたどればよく、
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
と一意に求めることができる。
【0027】
光ビームの光線各点の光軸からの距離を光ビーム半径で規格化したものをr、X軸正方向とのなす角をθとすると、得たい偏光状態は、一般的には、
楕円率=f(r), f(0)=1
長軸の方位角=θ+π/2,
となる。
【0028】
f(r)=1−0.5rとしたときの波長板の方位角φ、位相差δの分布の例を図4に示す。図4(a)が複屈折の主軸の方位角の分布を等高線図として示したものである。図4(b)が複屈折の位相差の分布を等高線図として示したものである。図4(c)は、この波長板透過後の偏光分布の模式図である。
【0029】
また、f(r)=1−0.9rとしたときの波長板の方位角φ、位相差δの分布の例を図5に示す。図5(a)がこの例の複屈折の主軸の方位角の分布を等高線図として示したものである。図5(b)が複屈折の位相差の分布を等高線図として示したものである。図5(c)はこの波長板透過後の偏光分布の模式図である。
【0030】
図6にf(r)=1−0.5rとしたときのスポットの断面を示す。SIL及び光記録媒体の屈折率を共にn=2.068、NA=1.84、波長405nm、ギャップ間隔0μmとし、本実施の形態のf(r)=1−0.5rとした場合のスポット断面プロファイルが図6(a)であり、従来例として全面円偏光の場合が図6(b)である。半値全幅で比較すると円偏光の場合が0.126μmであるのに対して、本実施の形態では0.122μmと約3%ビーム径が小さくなっており、実効NAが増加していることがわかる。また中心の光量であるストレール強度も円偏光の場合0.776であるのに対し、本実施の形態では0.796と増加しており、大きな入射角の光線で電場ベクトルの向きの揃う成分を増やしている効果がストレール強度の観点からも確認できる。ちなみに同条件で直線偏光の光ビームを入射した場合、S偏光の光が入射する側のスポット半値幅は0.111μmまで小さくなるが、P偏光の光が入射する側のスポット半値幅は0.145μmとかなり大きくなる。
【0031】
また、屈折率2.068のSILと光記録媒体の間の間隔30nmのエアギャップを波長405nmの光が透過する際の各偏光の透過率を図7に示す。入射角が大きいとS偏光の方がP偏光より透過率が高くなる。本実施の形態の分布の光ビームでは入射角の大きい光線はP偏光成分に比べS偏光成分が大きくなるため、エアギャップを通る際の透過率の点でも全面円偏光の場合と比べ有利となる。
【0032】
本実施の形態で示したような波長板202は通常を複屈折性結晶から切り出して作製することは難しいが、フォトニック結晶等では微細構造によって複屈折の主軸の向きを作りこむことができるため、主軸の向き及び位相差を任意の形状に作製することが可能である。
【0033】
このように、光源から出射された光ビームから光軸を対称軸として軸対称な偏光状態を作り、中央は円偏光とし、光軸から離れるに従って偏光の楕円率が次第に減少するように変化し、各楕円偏光は楕円の長軸が光軸を中心とする円の円周方向を向くような偏光状態とする。これにより、エバネッセント波が効率よく伝播し、また入射角が大きくてもS偏光成分がP偏光成分より多いので、電場ベクトルの向きが揃う成分が増加し、より微小なスポットを生成することができる。このため、実効NAが上がり、より高密度に情報を記録したり再生したりできる。
【0034】
なお、本実施の形態において、フォーカス検出は非点収差法、トラッキング検出はプッシュプル法を例として示したが、これらに限定されるものではなく、他の検出方式と組み合わせても良い。更にギャップ検出はフォーカス検出やトラッキング検出と検出器を分けた構成を示したがこれらを統合した検出器としても良い。
【0035】
また、本実施の形態では、SIL105bと光記録媒体106の間をエアギャップとし、その間をエバネッセント光で光が伝播する例を示した。しかし、図8に示すように、SIL105bと光記録媒体106の間に屈折率の高いオイル220を充填保持する構成とし、液浸レンズとしても良い。オイル220は必要に応じてオイル溜まり221から供給される。この場合でも本実施の形態に示したような分布の偏光を実現すれば円偏光等に比べ実効NAをあげることができ、微小スポットを生成できるので、本実施の形態で示した場合と同様の効果を得ることができる。
【0036】
さらに、本実施の形態では、偏光の楕円率が光軸からの距離に応じて変わる関数f(r)として1次関数の例(図9(a))を示したが、これに限る必要は無い。関数としては、2次関数(図9(b))やもっと複雑な関数でもよい。もしくは所定のr0までf(r)=1とフラットで、所定のr0より大きな場所で減少するような関数(図9(c))や、何段階かの階段関数等でもよい。関数として、光軸付近に比べて光軸から離れた光線の楕円率が低下していれば本実施の形態で示したのとほぼ同様の効果が得られる(図9では、rは光ビームの直径で規格化した規格化半径を示す)。
【0037】
また、本実施の形態では楕円偏光の長軸が完全に円周方向を向いている例を示したが、これに限定されるものではなく、S偏光成分がP偏光成分に比べて大きくなればよいので図10のように長軸方向が円周方向とやや角度を持っていても良い。角度が±45度未満であれば、円偏光よりはS偏光成分が増えるので、本実施の形態で示したのとほぼ同様の効果が得られる。
【0038】
また、本実施の形態では、目的の偏光分布を得るための波長板の複屈折の主軸の方位角と位相差の分布の例を示したが、ここに示したものに限定されるものではない。本実施の形態では、主軸の方位角と位相差は滑らかに変わる理想的な分布を示しているが、実際の作製を考えてこれらをいくつかの領域に分け、その領域内では一定の方位角と位相差を持つような波長板としても、本実施の形態で示したのとほぼ同様の効果が得られる。
【0039】
また、本実施の形態の所望の偏光分布を得る方法として波長板を用いる例を示したが、これに限定されるものではない。たとえば、球状の誘電体のミラーに円偏光の光線を照射すると、その反射光の偏光分布は図2(a)になる。これは球状のミラーの中心を通る位置に照射された光線は垂直入射となるため円偏光が保たれるが、それ以外の光線は各方位に従って斜め入射となり、反射する際に一般に楕円偏光となるためである。一般に入射角が垂直入射からブリュースター角の方向に変化するにつれ、反射波の偏光はP偏光の成分が減り、S偏光の成分が多くなる。ブリュースター角ではS偏光の直線偏光となる。このように誘電体での反射光を利用して図2(a)のような分布を得た場合でもその偏光を保ったまま収束させれば、本実施の形態で示したのと同様の効果が得られる。
【0040】
また、本実施の形態は、図15に示すように、光源から光ビームを出射するステップ(S401)と出射された光ビームの偏光状態の分布を変換するステップ(S402)、変換された光ビームを1を超える開口数で光記録媒体に収束するステップ(S403)を順に実行することにより微小スポットを生成している。その際、偏光状態の分布は光軸を対称軸とする軸対称であり、光軸上の光ビームは円偏光とし、光軸から離れるに従って偏光の楕円率が次第に減少するように変化し、各楕円偏光は楕円の長軸が光軸を中心とする円の円周方向となす角度が±45度未満であるような分布とすることにより、本実施の形態で述べてきたのと同様の効果を得ることができる。
【0041】
(実施の形態2)
図11(a)は、本発明の実施の形態2の光ピックアップの構成図である。図11(a)において、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0042】
図11(a)において、透過フィルタ240は半導体レーザ101から出射された光ビーム102の中央部の光量を端に対して減少させる。図11(b)に透過フィルタ240の透過率分布を示す。光軸を中心に中央部では透過率が低く、光軸から遠い位置では光ビームの透過率が高い。
【0043】
このような構成にした場合、実施の形態1で示した偏光の分布の効果と相まって、入射角の大きな光線の全体に占める割合が大きくなり、スポットをより小さく絞ることができる。そのため、より高密度に情報を記録したり再生したりできる。
【0044】
尚、図11(b)には透過率分布の具体例を示したが、これに限定されるものではなく、光軸付近の透過率が光軸より離れた位置の透過率より低いと、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0045】
(実施の形態3)
本発明の光ピックアップを用いた光記録再生装置の実施の形態を図12に示す。図12において光記録媒体106は、ターンテーブル305に搭載され、クランパー306により保持され、モータ304によって回転される。実施形態1または2に示した光ピックアップ302は、光記録媒体106の所望の情報の存在するトラックのところまで、駆動装置301によって移送される。
【0046】
光ピックアップ302は、光記録媒体106との位置関係に対応して、フォーカス信号やトラッキング信号、ギャップ信号、RF信号を電気回路303へ送る。電気回路303はこの信号に対応して、光ヘッド302へ、対物レンズアクチュエータを駆動させるための信号を送る。この信号によって、光ピックアップ302は、光記録媒体106に対してフォーカス制御、トラッキング制御もしくはギャップ制御を行い、情報の読み出し、書き込み又は消去を行う。
【0047】
以上の説明において、搭載する光記録媒体106は、近接場光により記録再生のための記録層を有す光記録媒体である。本実施の形態の光記録再生装置307は、前記本発明の光ピックアップを用いることにより、1つの光ピックアップで、微小なスポットにより記録層に情報を高い密度で記録または再生することができる。
【0048】
(実施の形態4)
本実施の形態は、前記実施形態3に係る光記録再生装置307を具備したコンピュータ装置の実施の形態である。図13は、本実施の形態に係るコンピュータの斜視図である。図13に示したコンピュータ309は、実施形態3に係る光記録再生装置307と、情報の入力を行うためのキーボード311とマウス312などの入力装置と、入力装置から入力された情報や、光記録再生装置307から読み出した情報などに基づいて演算を行うCPUなどの演算装置308と、演算装置308によって演算された結果の情報を表示するブラウン管や、液晶表示装置などの出力装置310とを備えている。
【0049】
本実施の形態に係るコンピュータ装置は、前記実施形態3に係る光記録再生装置307を具備しており、近接場光により記録再生のための記録層を持つ光記録媒体を安定に記録又は再生できるので、広い用途に使用できる。
【0050】
(実施の形態5)
本実施の形態は、前記実施形態3に係る光記録再生装置307を具備した光ディスクレコーダの実施の形態である。図14は、本実施の形態に係る光ディスクレコーダの斜視図である。図14に示した光ディスクレコーダ315は、実施形態3に係る光記録再生装置307と、画像信号を光記録再生装置307によって、光記録媒体へ記録する情報信号に変換する記録信号処理回路313を備えている。
【0051】
光記録再生装置307から得られる情報信号を、画像信号に変換する再生信号処理回路314も有することが望ましい。この構成によれば、既に記録した部分を再生することも可能となる。更に、情報を表示するブラウン管、液晶表示装置などの出力装置310を備えてもよい。
【0052】
本実施の形態に係る光ディスクレコーダは、前記実施形態3に係る光記録再生装置307を具備しており、近接場光により記録再生のための記録層を持つ光記録媒体に情報を安定に記録又は再生できるので、広い用途に使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る光ピックアップ及び光記録再生装置は、開口数が1を超えるような高い開口数の対物レンズで作られる微小スポットによる光記録再生法において安定した情報の記録または再生ができ光記録媒体への高密度記録が可能になる。よって、この応用機器である大容量の光ディスクレコーダやコンピュータ用メモリ装置などに利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
101 半導体レーザ
102 光ビーム
103 集光レンズ
104 ビームスプリッタ
105 対物レンズ系
105a 絞りレンズ
105b SIL
106 光記録媒体
201 ビームスプリッタ
202 波長板
203,205 検出レンズ
204,206 検出器
220 オイル
221 オイル溜まり
240 透過フィルタ
301 駆動装置
302 光ピックアップ
303 電気回路
304 モータ
305 ターンテーブル
306 クランパー
307 光記録再生装置
308 演算装置
309 コンピュータ
310 出力装置
311 キーボード
312 マウス
313 記録信号処理回路
314 再生信号処理回路
315 光ディスクレコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光記録媒体に、光源から出射された光ビームを照射して情報を記録または再生する光ピックアップ装置であって、
前記光源から出射された光ビームの偏光状態を変換する偏光変換素子と、光ビームを1を超える開口数で前記光記録媒体に収束する対物レンズ光学系を備え、
前記偏光変換素子は場所により異なる偏光状態を持つ光ビームを作り出し、その分布は光軸を対称軸とする軸対称であり、光軸上の光線は円偏光とし、光軸から離れるに従って偏光の楕円率が次第に減少するように変化し、各楕円偏光は楕円の長軸が光軸を中心とする円の円周方向となす角度が45度未満であるような分布とすることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】
前記楕円偏光の楕円の長軸が光軸を中心とする円の円周方向と平行であることを特徴とする請求項1記載の光ピックアップ。
【請求項3】
前記光源は直線偏光の光ビームを出射し、前記偏光変換素子は場所により複屈折主軸方位角と位相差の異なる波長板としての光学特性を有し、光軸中央ではλ/4板の特性を有し、前記入射光の直線偏光の電場ベクトルの偏光方向と平行な方向では光軸から離れるに従い、位相差がλ/2板の傾向に近づき、電場ベクトルの偏光と垂直な方向では、位相差が0となる傾向に近づき、これらの中間の角度の方向では複屈折主軸方位角と位相差それぞれが場所に応じて変化することを特徴とする請求項1もしくは2記載の光ピックアップ。
【請求項4】
前記偏光変換素子はフォトニック結晶による素子であることを特徴とする請求項3記載の光ピックアップ。
【請求項5】
光軸付近の光量が端に比べ低い透過率分布フィルターを光源から対物レンズ光学系の間に備えることを特徴とする請求項1から4記載の光ピックアップ。
【請求項6】
前記対物レンズ系と前記光記録媒体は波長より短い距離に保たれ、その間をエバネッセント光の伝播により光が透過することを特徴とする請求項1から5記載の光ピックアップ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の光ピックアップと、光記録媒体を回転するモータと、前記光ピックアップから得られる信号に基づいて、前記モータ、前記光ピックアップに用いたレンズ、及び前記光源の少なくともいずれかを制御及び駆動する電気回路とを備えたことを特徴とする光記録再生装置。
【請求項8】
請求項7に記載の光記録再生装置を備え、入力された情報、及び前記光記録再生装置から再生された情報の少なくともいずれかに基づいて演算を行う演算装置と、前記入力された情報、前記光記録再生装置から再生された情報、及び前記演算装置によって演算された結果の少なくともいずれかを出力する出力装置を備えたことを特徴とするコンピュータ装置。
【請求項9】
請求項7に記載の光記録再生装置と、画像情報を前記光記録再生装置に記録する情報に変換する記録用信号処理回路と、前記光記録再生装置から得られる信号を画像に変換する再生用信号処理回路とを備えた光ディスクレコーダ。
【請求項10】
光源から光ビームを出射するステップと、
前記光ビームの偏光状態を変換するステップと、
前記偏光状態を変換された光ビームを1を超える開口数で光記録媒体に収束するステップ
からなり、
前記偏光状態を変換するステップでは場所により異なる偏光状態を有する光ビームを作り出し、その分布は光軸を対称軸とする軸対称であり、光軸上の光線は円偏光とし、光軸から離れるに従って偏光の楕円率が次第に減少するように変化し、各楕円偏光は楕円の長軸が光軸を中心とする円の円周方向となす角度が±45度以下であるような分布とすることを特徴とする微小スポット形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−8401(P2013−8401A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242021(P2009−242021)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】