説明

光ピックアップ、及び、コマ収差抑制方法

【課題】コマ収差を適切に抑制できる光ピックアップを提供する。
【解決手段】光ピックアップは、光源から出射される光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズ17を備える。光ピックアップには、対物レンズ17そのものが有するコマ収差を打ち消すように、対物レンズ17の偏った位置に熱を加える熱源50が設けられている。この熱源50はコイルであってもよく、このコイルはレンズホルダ41の外面に取り付けられてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ピックアップに関し、詳細にはコマ収差を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ディスクに記録される情報の読み取りや、光ディスクへの情報の書き込みを行うために光ピックアップが使用されている。光ピックアップは、光源と、該光源から出射された光を光ディスクの情報記録面に集光する対物レンズと、光ディスクの情報記録面で反射された反射光を受光して光電変換する受光素子と、を備える。
【0003】
このような光ピックアップにおいては、球面収差、コマ収差、非点収差といった波面収差の影響で、読み取りや書き込みの性能が悪くなることが知られている。このため、従来、不要な波面収差の発生を抑制するための様々な技術が提案されている(例えば特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−73094号公報
【特許文献2】特開2010−92535号公報
【特許文献3】特開2010−123213号公報
【特許文献4】特開2010−198705号公報
【特許文献5】WO2008/105281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブルーレイディスク(以下、単にBDと表現する)対応の光ピックアップでは、球面収差の補正を行う機能が必須となっている。これは、BDの規格の中に、情報記録面が光ディスクの厚み方向に複数配置される多層光ディスクが含まれることに対応するためである。その他、量産性向上や軽量化等の観点から対物レンズの材料がプラスチック(樹脂)とされるのが一般的となっており、温度変化によって球面収差の発生量が変化することに対応するためでもある。
【0006】
なお、球面収差を行う機構については、従来種々の提案があるが、その構成が簡単になる等の理由で、コリメートレンズの位置を光軸方向に移動させる方式がよく使用される(例えば特許文献2や3参照)。
【0007】
ところで、光ピックアップに備えられる対物レンズは、それ自体がコマ収差を有することが多い。このために、光ピックアップの組み立て時には、対物レンズ或いは対物レンズが搭載されるアクチュエータの傾きを調整して、対物レンズ自体が有するコマ収差が打ち消された状態となるように光ピックアップの組み立てが行われる。すなわち、光ピックアップの対物レンズ(の光軸)は、光ピックアップの光学系の光軸に対して傾いた状態となっていることが多い。
【0008】
このように対物レンズが傾いた状態で、球面収差を補正するためにコリメートレンズを移動させると、コマ収差の発生量が変動する(例えば特許文献2や3参照)。そして、これが原因で、読み取り等の性能が悪くなることがある。このために、従来の光ピックアップでは、コリメートレンズの移動を行った場合に、対物レンズのチルト量(傾斜量)の調整を行う必要があった。
【0009】
光ピックアップの組み立て時に、対物レンズ自体が有するコマ収差を打ち消すべく、対物レンズ(或いはそれが搭載されるアクチュエータ)の傾角調整を行っても、コリメートレンズの位置の移動でコマ収差が発生するようでは、組み立て時の傾角調整作業の意味が薄れる。また、このような傾角調整を行う必要があると、例えば対物レンズ(或いは、対物レンズを搭載するアクチュエータ)を傾けるための構造的な余裕が必要となるために、アクチュエータへの要求が厳しくなるといった問題もある。このようなことから、対物レンズ自体が有するコマ収差を適切に抑制するための、より良い手法が求められていた。
【0010】
以上の点に鑑みて、本発明の目的は、コマ収差を適切に抑制できる光ピックアップを提供することである。また、本発の他の目的は、球面収差とともにコマ収差を適切に抑制できる光ピックアップを提供することである。更に、本発の他の目的は、光ピックアップにおいて、コマ収差を適切に抑制するコマ収差抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、光源から出射される光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズを備える光ピックアップにおいて、前記対物レンズそのものが有するコマ収差を打ち消すように、前記対物レンズの偏った位置に熱を加える熱源を設けた構成(第1の構成)が採用されている。
【0012】
本構成によれば、熱源によって対物レンズそのものが有するコマ収差を打ち消せるために、光ピックアップの組み立て時において、対物レンズそのものが有するコマ収差を打ち消すための傾角調整を不要とできる。
【0013】
上記第1の構成の光ピックアップにおいて、前記熱源は通電によって熱を発生するように設けられ、前記熱源への通電量を制御する制御部を備える構成(第2の構成)とするのが好ましい。本構成によれば、制御部による通電量の制御によって対物レンズの偏った位置に加える熱量を調整できるために、コマ収差の抑制を適切に行える。
【0014】
上記第1及び第2の構成の光ピックアップにおいて、前記対物レンズは、レンズホルダに保持されており、前記熱源は、前記レンズホルダに取り付けられている構成(第3の構成)とするのが好ましい。本構成では、対物レンズの偏った位置(特定の方向)に熱を加え易く、コマ収差を適切に抑制し易い。
【0015】
上記第3の構成の光ピックアップにおいて、前記熱源は、前記レンズホルダの外面に取り付けられている構成(第4の構成)とするのが好ましい。熱源をレンズホルダの外面に取り付けることで不要な熱を放熱し易く、対物レンズの偏った位置(特定の方向)に熱を加えてコマ収差を適切に抑制し易い。
【0016】
上記第1から第4のいずれかの構成の光ピックアップにおいて、前記熱源はコイルである構成(第5の構成)としてもよい。コイルであれば、通電による熱を得やすく、更に熱源を軽量とできるために、対物レンズを保持するレンズホルダへの搭載が行い易い。
【0017】
上記第1から第5のいずれかの構成の光ピックアップにおいて、前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、球面収差を補正するための可動レンズを備える構成としてもよい。本構成では、対物レンズそのものが有するコマ収差を打ち消すために対物レンズを傾けておく必要がない。このために、球面収差を補正するために可動レンズ(例えばコリメートレンズやエキスパンダーレンズ等)を動かしても、従来のようにコマ収差が変動しないようにできる。すなわち、本構成によれば、波面収差を適切に抑制できる光ピックアップを提供でき、この光ピックアップは例えばBD対応用の光ピックアップとして好適である。
【0018】
また、上記目的を達成するために本発明のコマ収差抑制方法は、光源から出射される光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズを備える光ピックアップにおけるコマ収差抑制方法であって、前記対物レンズそのものが有するコマ収差を打ち消すように、前記対物レンズの偏った位置に熱を加えることを特徴としている。
【0019】
本構成によれば、熱源によって対物レンズそのものが有するコマ収差を打ち消せるために、光ピックアップの組み立て時において、対物レンズそのものが有するコマ収差を打ち消すための傾角調整を不要とできる。このために、球面収差を補正するために可動レンズ(例えばコリメートレンズやエキスパンダーレンズ等)を動かしても、従来のようにコマ収差が変動しないようにできる。すなわち、本構成は、BD対応用の光ピックアップに対して好適な技術を提供可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コマ収差を適切に抑制できる光ピックアップを提供できる。また、本発明によれば、球面収差とともにコマ収差を適切に抑制できる光ピックアップを提供できる。更に、本発によれば、光ピックアップにおいて、コマ収差を適切に抑制するコマ収差抑制方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態の光ピックアップの外観構成を示す概略斜視図
【図2】本実施形態の光ピックアップの光学構成を示す概略図
【図3】本実施形態の光ピックアップが備えるレンズ駆動装置の構成を示す概略平面図
【図4】本実施形態の光ピックアップが備える対物レンズアクチュエータのレンズホルダの構成を示す模式図
【図5】本実施形態の光ピックアップで使用されているコマ収差抑制方法を説明するための模式図
【図6】本実施形態の光ピックアップが備える、対物レンズの偏った位置に熱を加える熱源の変形例を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の光ピックアップの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
(光ピックアップの概略構成)
図1は、本実施形態の光ピックアップ1の外観構成を示す概略斜視図である。光ピックアップ1を構成するピックアップベース10には、光源、光学部材、該光学部材の1つであるコリメートレンズを光軸方向に移動するレンズ駆動装置、対物レンズアクチュエータ、光検出器(これらについては後述する)が搭載される。また、ピックアップベース10には、光ピックアップ1の動作を制御する上で必要となる各種の回路基板や配線部材(いずれも不図示)等も取り付けられる。
【0024】
なお、ピックアップベース10の左右の端部には軸受け部10a、10bが設けられている。ピックアップベース10は、この軸受け部10a、10bによって、光ディスク装置(光ディスクの再生や記録を行うための装置)に設けられるガイドシャフト(図示せず)に摺動可能に支持されることになる。そして、ガイドシャフトに対して摺動可能に設けられる光ピックアップ1は、回転する光ディスクの所望のアドレスにアクセスして情報の読み取りや書き込みを行うことが可能になる。
【0025】
図2は、本実施形態の光ピックアップ1の光学構成を示す概略図である。図2には、理解を容易とするために、光ディスク60(本発明の光記録媒体の一例)も合わせて示している。図2における符号11は光源であり、本実施形態では半導体レーザが使用される。半導体レーザ11から出射されるレーザ光の波長は、光ピックアップ1が情報の読み取り等を行う光ディスク60の種類によって決められる。例えば光ピックアップ1がBD対応の場合には、半導体レーザ11からは、波長405nm帯のレーザ光が出射されるように設計される。
【0026】
半導体レーザ11から出射されたレーザ光は、回折素子12によって主光と2つの副光とに分けられる。このように半導体レーザ11からのレーザ光が3つの光に分けられるのは、トラッキング制御を行う上で必要となる信号を得るためである。回折素子12を経たレーザ光は偏光ビームスプリッタ13によって反射され、1/4波長板14へと送られる。
【0027】
なお、偏光ビームスプリッタ13は、1/4波長板14と協働して光アイソレータとして役目を果す。偏光ビームスプリッタ13は、半導体レーザ11から出射される直線偏光については反射する。一方、光ディスク60で反射され、1/4波長板14で偏光方向が90°回転された(半導体レーザ11から出射された直線偏光を基準とした表現である)直線偏光は透過する。
【0028】
偏光ビームスプリッタ13から1/4波長板14へと送られたレーザ光は、円偏光とされてコリメートレンズ15を透過し、立ち上げミラー16で反射される。立ち上げミラー16で反射されたレーザ光は、対物レンズ17へと送られ、対物レンズ17によって光ディスク60の情報記録面60aへと集光される。なお、本実施形態においては、対物レンズ17は樹脂レンズとなっている。ただし、対物レンズ17を構成する材料は樹脂に限られず、ガラス等としてもよい。
【0029】
情報記録面60aで反射されたレーザ光(戻り光)は、対物レンズ17を通過後、立ち上げミラー16で反射され、コリメートレンズ15、1/4波長板14、偏光ビームスプリッタ13を順に透過する。偏光ビームスプリッタ13を透過した戻り光は、シリンドリカル面を有するセンサーレンズ18へと送られる。センサーレンズ18は、入射した戻り光に非点収差を与え、受光素子19の所定の領域に戻り光を集光させる。なお、センサーレンズ18によって戻り光に非点収差を与えるのは、フォーカス制御を行う上で必要となる信号を得るためである。
【0030】
受光素子19は、受光した光信号を電気信号に変換する光電変換手段として機能する。受光素子19から出力された電気信号は信号処理部20に送られ、この信号処理部20で、再生信号、フォーカスエラー(FE)信号、トラッキングエラー(TE)信号等が生成される。信号処理部20で生成された各種の信号は、光ピックアップ1の全体的な制御を行うコントローラ21に送信される。コントローラ21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えるマイクロコンピュータ(マイコン)によって構成される
【0031】
ところで、光ピックアップ1に備えられるコリメートレンズ15は、レンズ駆動装置30によって、その光軸方向(図2に矢印Xで示す方向)に移動可能となっている。このようにコリメートレンズ15を光軸方向に移動可能とするのは、対物レンズ17に入射する光の収束・発散度合いを調節して、球面収差の影響を適切に抑制できるようにするためである。
【0032】
例えばBDは、情報記録面を厚み方向に複数有する多層ディスクが一般的となっている。このため、BD対応の場合にはレイヤージャンプが行われるのが一般的であり、球面収差を適切に補正する機構が必要になる。また、本実施形態のように対物レンズ17を樹脂レンズとした場合には、温度変化によって球面収差の発生量が変動し易いために、球面収差を補正する機構が必要となる。本実施形態の光ピックアップ1では、このようなことを考慮して、コリメートレンズ15を光軸方向に移動させるレンズ駆動装置30が備えられている。
【0033】
レンズ駆動装置30は、コリメートレンズ15の光軸方向の位置調整ができれば、その構成は特に限定されるものではないが、例えば図3に示すような構成とできる。なお、図3は、本実施形態の光ピックアップ1が備えるレンズ駆動装置30の構成を示す概略平面図である。
【0034】
図3を参照して、レンズ駆動装置30は、コリメートレンズ15を保持するとともに移動可能に設けられる可動ホルダ31と、可動ホルダ31が光軸方向に移動するようにガイドする2本のガイドシャフト32と、可動ホルダ31に取り付けられたリードナット33に螺合するリードスクリュ34と、リードスクリュ34を回転するステッピングモータ35と、を備える。また、図示しないが、レンズ駆動装置30には基準位置を定められるようにフォトインタラプタも備えられている。
【0035】
このように構成することにより、ステッピングモータ35でリードスクリュ34を回転することによって、コリメータレンズ15を可動ホルダ31と共に光軸方向に移動できる。ステッピングモータ35のステップ数から、コリメートレンズ15の位置は管理可能である。なお、このレンズ駆動装置30は、コントローラ21によってその動きを制御されるようになっている。
【0036】
また、対物レンズ17は、ピックアップベース10に取り付けられる対物レンズアクチュエータ40(図1参照)に搭載された状態で、ピックアップベース10に搭載される。対物レンズアクチュエータ40は、光ピックアップ1に備えられる対物レンズ17をフォーカス方向F(図1参照)及びトラッキング方向T(図1参照)に移動可能とする装置である。なお、フォーカス方向Fは、対物レンズ17が光ディスク60に接離する方向(図2の上下方向)である。また、トラッキング方向Tは、光ディスク60の半径方向に平行な方向(図2では紙面と垂直な方向)である。
【0037】
光ピックアップ1においては、情報の読み取りや書き込みを行う際に、対物レンズ17の焦点位置が常に光ディスク60の情報記録面60aに合うようにフォーカス制御を行う必要がある。また、光ピックアップ1においては、情報の読み取りや書き込みを行う際に、対物レンズ17によって光ディスク60の情報記録面60aに集光される光スポットの位置が、光ディスク60のトラックに常に追随するようにトラッキング制御を行う必要がある。対物レンズアクチュエータ40は、例えば、これらフォーカス制御及びトラッキング制御を行う際に駆動される。
【0038】
なお、対物レンズアクチュエータ40の動きはコントローラ21によって制御され、コントローラ21は、信号処理部20から得られるFE信号やTE信号に基づいて、上述のフォーカス制御及びトラッキング制御を実行させる。
【0039】
また、対物レンズアクチュエータ40は、対物レンズ17を保持するレンズホルダ41を有し、レンズホルダ41をワイヤ42で揺動可能に支持する構成のものである。そして、コイル(フォーカスコイルやトラッキングコイルが含まれる)及び磁石を利用して発生させた力でレンズホルダ41(すなわち対物レンズ17)を動かすものである。このようなタイプの対物レンズアクチュエータは公知であるので、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0040】
(コマ収差抑制機能)
本実施形態の光ピックアップ1の概略構成は以上のようであるが、本実施形態の光ピックアップ1は、コマ収差を抑制する機能(構造及び方法)について特徴を有する。以下、これについて説明する。
【0041】
図4は、本実施形態の光ピックアップ1が備える対物レンズアクチュエータ40のレンズホルダ41の構成を示す模式図である。図4に示すように、対物レンズ17を保持するレンズホルダ41の外面には、本発明の熱源の一例であるコマ収差抑制用コイル50が取り付けられている。
【0042】
なお、レンズホルダ41の外面には、この他にレンズホルダ41をトラッキング方向T(図1参照)に移動させる駆動力を発生させるために必要となるトラッキングコイル等も取り付けられているが、図4では図示を省略している。
【0043】
このコマ収差抑制用コイル50への給電は、例えばレンズホルダ41を揺動可能に支持するワイヤ42(図1参照)を用いて行うようにできるが、場合によっては別の配線を用いてもよい。通電することによって熱を発生するコマ収差抑制用コイル50は、対物レンズ50の偏った位置のみを加熱するように設けられている。なお、コマ収差抑制用コイル50の制御はコントローラ21(本発明の制御部の一例)によって行われる。
【0044】
対物レンズ17は、それ自体がコマ収差を有している。このコマ収差は、対物レンズ個々に決まる固有の量及び方向性を有しており、これら(発生量及び発生方向)は、光ピックアップ1に実装する前に予め測定によって得ることができる。このために、レンズホルダ41に対物レンズ17を搭載するにあたって、コマ収差の発生方向が特定の方向に向くように調整することが可能である。
【0045】
なお、特定の方向は、対物レンズアクチュエータ40の設計上の都合等を考慮して適宜決めればよく、特に限定されるものではないが、例えばラジアル方向(トラッキング方向Tに平行な方向)やタンジャンシャル方向(フォーカス方向F及びトラッキング方向Tに直交する方向)等とできる。
【0046】
図5は、本実施形態の光ピックアップ1で使用されているコマ収差抑制方法を説明するための模式図である。図5(a)は、レンズホルダ41に搭載された対物レンズ17が、それ自体が有するコマ収差の発生方向が特定の方向(図では左方向)を向くように配置されているイメージを示す図である。図5(b)は、レンズホルダ41に搭載された対物レンズ17に、コマ収差抑制用コイル50から偏った方向に熱が与えられ、その熱が原因となってコマ収差が前述の特定の方向と反対向き(図では右方向)に発生しているイメージを示す図である。
【0047】
なお、コマ収差抑制用コイル50の位置は、それによって発生する熱が原因となって発生するコマ収差の方向が、前述の特定の方向と反対向きとなるように位置調整されている。この位置は、予め実験やシミュレーション等によって決めておけばよい。
【0048】
コマ収差抑制用コイル50に通電する通電量を調整することによって、コイル50から発生する熱量は調整でき、図5(b)の矢印方向(右方向)に発生するコマ収差の量も調整できる。すなわち、コマ収差抑制用コイル50への通電が原因となって対物レンズ17に発生するコマ収差の量は、対物レンズ17そのものが有するコマ収差の量とほぼ等しくできる。上述のように、コマ収差抑制用コイル50への通電が原因となって発生するコマ収差と、対物レンズ17そのものが有するコマ収差とは、その発生方向が逆向きとなるように調整されている。このために、コマ収差抑制用コイル50への通電量の調整によって、この2つのコマ収差を打ち消し合うことが可能である(図5(c)参照)。
【0049】
対物レンズ17そのものが有するコマ収差の量は、上述のように予め測定によって得られる。このために、このコマ収差を打ち消すために必要となる通電量を予め実験等によって調べておけば、上述したコマ収差の打ち消し合いが可能になる。以下、このようなコマ収差の打ち消し合いが実現される光ピックアップ1の組み立て手順例を説明する。
【0050】
まず、対物レンズ17そのものが有するコマ収差量と、それを打ち消すために必要となるコマ収差抑制用コイル50への通電量との関係を示すテーブルや関係式を実験等によって求める。なお、本実施形態では、対物レンズ17は光軸に対して傾斜配置させない(対物レンズ17の光軸を光ピックアップ1の光学系の光軸に平行にする)構成が前提とされており、この前提で上記テーブルや関係式は求められる。
【0051】
次に、光ピックアップ1に搭載する対物レンズ17そのものが有するコマ収差量を調べ、それを打ち消すために必要となるコマ収差抑制用コイル50への通電量を上記テーブル或いは関係式に基づいて求める。そして、求めた通電量を、コマ収差抑制用コイル50の通電制御を行うコントローラ21のメモリに記憶しておく。
【0052】
その後、対物レンズ17を、それ自体が有するコマ収差の発生方向が特定の方向を向くように(本実施形態では対物レンズ17は光軸に対して傾斜させない)レンズホルダ41に取り付ける。また、設計値(巻数、コイル径等)にしたがって形成されたコマ収差抑制用コイル50を、レンズホルダ41の予め決定した位置に取り付ける(接着固定する)。
【0053】
このような手順によって形成された光ピックアップ1では、コントローラ21がメモリに記憶された通電量となるようにコマ収差抑制用コイル50への通電制御を行うことで、対物レンズ17を傾けることなく、対物レンズ17そのものが有するコマ収差が無いものとできる。そして、本実施形態の光ピックアップ1では、対物レンズ17そのものが有するコマ収差を抑制するために対物レンズ17を傾ける必要がないので、球面収差を補正するためにコリメートレンズ15を移動させてもコマ収差の発生量が変動しない。したがって、本実施形態の光ピックアップ1では、波面収差を適切に抑制して情報の読み取りや書き込みを行える。
【0054】
なお、以上においては、対物レンズ17そのものが有するコマ収差を抑制するために必要となる、コマ収差抑制用コイル50への通電量を予め求めて、求めた値をメモリに記憶させることとにした。しかし、これに限らず、例えば、メモリに上記テーブルや関係式を記憶させ、対物レンズ17そのものが有するコマ収差量をメモリに記憶させるようにしてもよい。この場合には、コントローラ21が必要な通電量を算出し、この算出した通電量がコマ収差抑制用コイル50に通電されることになる。
【0055】
また、以上のようにコマ収差抑制用コイル50をレンズホルダ41に取り付ける場合には、例えば次の点に留意する必要がある。まず、コマ収差抑制用コイル50によって、ワイヤ42に支持されるレンズホルダ41のバランスが崩れないように留意する。このために、必要に応じて錘等を用いたバランス調整を行う。また、コマ収差抑制用コイル50を流れる電流と、対物レンズアクチュエータ40を構成する磁石とが作用して、レンズホルダ41を駆動する不要な力が発生しないように留意する。このために、例えばコマ収差抑制用コイル50を設ける位置やコイルのサイズ等について注意する。
【0056】
(その他)
以上に示した実施形態は本発明の一例であり、本発明の適用範囲は、以上に示した実施形態の構成に限定されるものではない。
【0057】
例えば、以上に示した実施形態では、コマ収差抑制用コイル50がレンズホルダ41の外面側に取り付けられる構成としたが、場合によってはコマ収差抑制用コイル50がレンズホルダ41の内部側に設けられても構わない。ここで内部側とは、レンズホルダ41の内面に取り付けられる構成のみならず、レンズホルダ41を構成する部材内部にインサート成形等によって組み込まれた構成も含む趣旨である。なお、本実施形態のようにコマ収差抑制用コイル50がレンズホルダ41の外面側に設けられる構成は、放熱性が良いといった利点を有する。
【0058】
また、以上に示した実施形態では、対物レンズ17の偏った位置に熱を加える熱源としてのコマ収差抑制用コイル50を、レンズホルダ41に取り付けられるフォーカスコイルやトラッキングコイル等のサーボ用コイルとは別途設ける構成とした。しかし、場合によっては、コマ収差抑制用コイルがサーボ用コイルと兼用されてもよい。
【0059】
また、以上に示した実施形態では、対物レンズ17の偏った位置に熱を加える熱源がコマ収差抑制用コイル50である場合を示したが、これはあくまでも一例である。例えば、レンズホルダ41に取り付けられる熱源が、ペルティエ素子のような半導体、抵抗器、特定配置される金属線等であってもよい。
【0060】
図6は、本実施形態の光ピックアップ1が備える、対物レンズ17の偏った位置に熱を加える熱源の変形例を説明するための模式図である。図6における熱源51は、上記特定配置される金属線の一例を示すものである。該金属線(熱源)51は、レンズホルダ41の外面(或いは内部;この内部は上述のように内面のみではなく部材内部も含む)に、左右方向に行ったり来たりするように配置される。このように金属線51が配置されると、レンズホルダ41に配置される金属線51の長さが長くなり、金属線51を熱源として効果的に使用できる。なお、図6では、左右に行ったり来たりしているが、行ったり来たりする方向はこれに限らず、上下方向や斜め方向でも構わない。
【0061】
また、以上に示した実施形態では、対物レンズ17の偏った位置に熱を加える熱源がレンズホルダ41に取り付けられる構成とした。しかし、この構成に限らず、該熱源はレンズホルダ41に取り付けられないものであってもよい。このような構成では、熱源を例えば電球としたり、光ピックアップ1に備えられる光源やメイン基板上のIC等から発生する熱を放熱するためのヒートシンクとしたりすることも可能である。
【0062】
また、以上に示した本実施形態では、球面収差を補正すべく、レンズ駆動装置30によって移動されるレンズがコリメートレンズ15である場合を示した。しかし、本発明の適用範囲はこの構成に限らず、球面収差を補正するために移動されるレンズがエキスパンダーレンズ等の可動レンズである場合にも本発明は適用可能である。
【0063】
また、以上に示した実施形態では、光ピックアップ1は1つの光ディスクに対応する構成とした。しかしながら、本発明は、光ピックアップが対応可能な光ディスクの種類が複数である場合にも適用可能である。このような場合には光ピックアップが備える対物レンズの数が複数である場合も含まれるが、対物レンズが複数となる場合には、少なくともいずれかに一つの対物レンズに対応させて本発明の熱源が設けられていれば、その構成は本発明に含まれる。
【0064】
また、以上に示した実施形態では、対物レンズ17を保持するレンズホルダが、いわゆるワイヤ支持タイプの対物レンズアクチュエータに含まれる構成とした。しかし、本発明のレンズホルダは、この構成に限定される趣旨ではない。すなわち、本発明のレンズホルダは、例えば、レンズホルダを摺動軸に対して摺動可能に支持する構成が採用される、いわゆる軸摺動タイプの対物レンズアクチュエータに含まれるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の光ピックアップは、例えばBD対応の光ピックアップに好適である。
【符号の説明】
【0066】
1 光ピックアップ
11 半導体レーザ(光源)
15 コリメートレンズ(可動レンズ)
17 対物レンズ
21 コントローラ(制御部)
41 レンズホルダ
50 コマ収差抑制用コイル(熱源)
51 熱源
60 光ディスク(光記録媒体)
60a 情報記録面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射される光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズを備える光ピックアップにおいて、
前記対物レンズそのものが有するコマ収差を打ち消すように、前記対物レンズの偏った位置に熱を加える熱源を設けたことを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】
前記熱源は通電によって熱を発生するように設けられ、
前記熱源への通電量を制御する制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項3】
前記対物レンズは、レンズホルダに保持されており、
前記熱源は、前記レンズホルダに取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ピックアップ。
【請求項4】
前記熱源は、前記レンズホルダの外面に取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の光ピックアップ。
【請求項5】
前記熱源はコイルであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光ピックアップ。
【請求項6】
前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、球面収差を補正するための可動レンズを備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光ピックアップ。
【請求項7】
光源から出射される光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズを備える光ピックアップにおけるコマ収差抑制方法であって、
前記対物レンズそのものが有するコマ収差を打ち消すように、前記対物レンズの偏った位置に熱を加えることを特徴とするコマ収差抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−16224(P2013−16224A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147945(P2011−147945)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】