説明

光ピックアップ

【課題】光ピックアップの小型化、及び比較的簡便な方法により迷光の影響を抑制する。
【解決手段】光ピックアップ(1)は、光源(LD1、LD2)から出射された光ビームの光ディスク(2)の複数の記録層(21)のうち記録又は再生の対象とする一の記録層からの反射光である信号光の0次回折光である0次信号光を受光する第1受光部(9a)、前記信号光の1次回折光である1次信号光の一部を受光すると共に直流信号を出力する第2受光部(9b、9c)、及び前記1次信号光の他の部分を受光すると共に交流信号を出力する第3受光部(9d、9e)を含む受光素子(109)を備える。第2受光部は、受光素子上において、前記1次信号光の一部と、迷光の0次回折光である0次迷光とが干渉しない位置に配置されており、第3受光部は、受光素子上において、前記1次信号光の他の部分と、0次迷光とが干渉しない位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばBD(Blu−ray Disc)等の光ディスクに情報を光学的に記録し、或いは光ディスクに記録されている情報を光学的に読み出す光ピックアップの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の光ピックアップでは、多層光ディスクの複数の記録層のうち記録又は再生の対象とする一の記録層以外の記録層において反射された光(即ち、迷光)の影響を抑制することが図られる。
【0003】
例えば、特許文献1には、トラッキングエラー信号を検出するための、回折素子により回折された1次回折光ビームを受光する受光部群を、受光素子上における迷光入射領域から離して配置する技術が記載されている。或いは、特許文献2には、対物レンズを内周部、中周部、外周部の3ゾーンから構成することによって、受光素子上における迷光の光量を抑制する技術が記載されている。
【0004】
或いは、特許文献3には、信号光の偏光方向と、迷光の偏光方向とを互いに異ならせることによって、受光部における迷光に起因する光の干渉の影響を抑制する技術が記載されている。或いは、特許文献4には、副ビームの光ディスクからの反射光を受光する光検出器の中央部に不感帯を設けることによって、主ビームの迷光に起因する干渉の影響を効率的に除去する技術が記載されている。
【0005】
尚、この種の光ピックアップにおけるトラッキングエラー信号の生成方法として、例えば特許文献5には、光ディスク面上の記録又は再生される位置により、トラッキングエラー信号を算出する関係式を変更する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−305459号公報
【特許文献2】特開2008−186511号公報
【特許文献3】再表WO2007/114283号公報
【特許文献4】特開2009−266361号公報
【特許文献5】特開2006−252691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、受光素子が比較的大きくなり、光ピックアップの小型化が困難になる可能性があるという技術的問題点がある。また、特許文献2乃至4に記載の技術では、特殊な部材を用いることによって製造コストが増加したり、制御が複雑化したりする可能性があるという技術的問題点がある。また、特許文献5に記載の技術では、迷光の影響を抑制することは極めて困難であるという技術的問題点がある。
【0008】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、装置の小型化を図ることができ、且つ比較的簡便な方法により迷光の影響を抑制することができる光ピックアップを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光ピックアップは、上記課題を解決するために、複数の記録層を有する光ディスクに対して、光学的に情報を記録又は再生する光ピックアップであって、光源と、前記光源から出射された光ビームの前記複数の記録層のうち記録又は再生の対象とする一の記録層からの反射光である信号光を、少なくとも0次回折光である0次信号光、及び1次回折光である1次信号光に分割する回折素子と、前記0次信号光を受光する第1受光部、前記1次信号光の一部を受光すると共に直流信号を出力する第2受光部、及び前記1次信号光の他の部分を受光すると共に交流信号を出力する第3受光部を含む受光素子とを備え、前記第2受光部は、前記受光素子上において、前記1次信号光の一部と、前記光源から出射された光ビームの前記複数の記録層のうち他の記録層からの反射光である迷光の0次回折光である0次迷光とが干渉しない位置に配置されており、前記第3受光部は、前記受光素子上において、前記1次信号光の他の部分と、前記0次迷光とが干渉しない位置に配置されている。
【0010】
本発明の光ピックアップによれば、当該光ピックアップは、複数の記録層を有する光ディスク(所謂、多層光ディスク)に対して、光学的に、情報を記録する又は記録された情報を再生する光ピックアップである。
【0011】
例えばホログラム等である回折素子は、例えばレーザダイオード等である光源から出射された光ビームの光ディスクの記録又は再生の対象とする一の記録層からの反射光である信号光を、少なくとも0次回折光である0次信号光、及び1次回折光である1次信号光に分割(即ち、回折)する。
【0012】
受光素子は、0次信号光を受光する第1受光部と、1次信号光の一部を受光すると共に直流信号を出力する第2受光部と、1次信号光の他の部分を受光すると共に交流信号を出力する第3受光部とを含んで構成されている。
【0013】
尚、第1受光部は、例えば4分割された受光面を有しており、各受光面から出力される信号に基づいて、RF(Radio Frequency)信号やFE(Focus Error)信号が生成される。他方、第2受光部から出力される直流信号、及び第3受光部から出力される交流信号に基づいて、TE(Tracking Error)信号が生成される。
【0014】
本発明では特に、受光素子上において、第2受光部は、1次信号光の一部(即ち、第2受光部に入射する1次信号光)と、迷光の0次回折光である0次迷光とが干渉しない位置に配置されており、第3受光部は、1次信号光の他の部分(即ち、第3受光部に入射する1次信号光)と、0次迷光とが干渉しない位置に配置されている。
【0015】
尚、受光素子上において、1次信号光の一部と0次迷光とが干渉する領域、及び1次信号光の他の部分と0次迷光とが干渉する領域は限られており、それらの領域さえ避ければ、受光素子上における0次迷光のスポットの内側であっても、第2受光部及び第3受光部を配置可能であることが、本願発明者の研究により判明している。
【0016】
従って、本発明の光ピックアップによれば、比較的簡便な方法により迷光の影響を抑制することができる。特に、上述の如く、第2受光部及び第3受光部に入射する1次信号光は、0次迷光と干渉しないため、迷光の影響がない又は抑制されたTE信号を生成することができる。加えて、0次迷光のスポットの内側であっても第2受光部及び第3受光部を配置することができるので、受光素子及び光ピックアップ自体の小型化を図ることができる。
【0017】
本発明の光ピックアップの一態様では、前記回折素子は、前記1次信号光が前記第2受光部に入射する第1部分と、前記1次信号光が前記第3受光部に入射する第2部分とを含む透過領域を有しており、前記第2受光部は、前記受光素子上における前記0次迷光のスポットのうち、前記第1部分を透過した迷光に起因する部分を避けて配置されており、前記第3受光部は、前記受光素子上における前記0次迷光のスポットのうち、前記第2部分を透過した迷光に起因する部分を避けて配置されている。
【0018】
この態様によれば、回折素子は、1次信号光が第2受光部に入射する第1部分と、1次信号光が第3受光部に入射する第2部分とを含む透過領域を有している。つまり、回折素子は、第1部分及び第2部分を含む透過領域を有しており、第1部分に入射した信号光の1次信号光が第2受光部に入射し、第2部分に入射した信号光の1次信号光が第3受光部に入射する。
【0019】
本願発明者の研究によれば、以下の事項が判明している。即ち、第2受光部に入射する1次信号光は、透過領域の第1部分に入射した迷光に起因する0次迷光と干渉する。他方、第3受光部に入射する1次信号光は、透過領域の第2部分に入射した迷光に起因する0次迷光と干渉する。従って、受光素子上における0次迷光のスポットのうち、透過領域の第1部分を透過した迷光に起因する部分を避けて、第2受光部を受光素子上に配置すれば、迷光の影響を抑制できる。同様に、受光素子上における0次迷光のスポットのうち、透過領域の第2部分を透過した迷光に起因する部分を避けて、第3受光部を受光素子上に配置すれば、迷光の影響を抑制できる。
【0020】
以上の結果、この態様によれば、迷光の影響がない又は抑制されたTE信号を生成することができる。
【0021】
本発明の光ピックアップの他の態様では、前記複数の記録層の互いに隣接する記録層の間隔は、10μm(マイクロメートル)〜52.5μmであり、前記第2受光部は、前記受光素子上において、前記間隔を52.5μmと仮定した場合の前記受光素子上における前記0次迷光のスポットの内側、且つ前記1次信号光の一部と前記0次迷光とが干渉しない位置に配置されており、前記第3受光部は、前記受光素子上において、前記間隔を52.5μmと仮定した場合の前記受光素子上における前記0次迷光のスポットの内側、且つ前記1次信号光の他の部分と前記0次迷光とが干渉しない位置に配置されている。
【0022】
この態様によれば、光ディスクにおける複数の記録層の互いに隣接する記録層の間隔は、10μm〜52.5μmである。尚、当該光ピックアップの光学系は、該間隔が52.5μmである場合に、受光素子上における0次迷光のスポットが最も大きくなるように構成されている。また、0次迷光のスポットが大きくなる程、受光素子上における1次信号光と0次迷光とが干渉する領域が大きくなる。
【0023】
第2受光部及び第3受光部のいずれも、上記間隔を52.5μmと仮定した場合の受光素子上における0次迷光のスポットの内側に配置されているので、受光素子の小型化を図ることができる。尚、少なくとも第2受光部を、0次迷光のスポットの外周付近に配置すれば、0次迷光に起因する直流信号のオフセットを低減することができる。
【0024】
或いは、本発明の光ピックアップの他の態様では、前記複数の記録層の互いに隣接する記録層の間隔は、10μm〜52.5μmであり、前記第2受光部は、前記受光素子上において、前記間隔を52.5μmと仮定した場合の前記受光素子上における前記0次迷光のスポットの外側、且つ前記1次信号光の一部と前記0次迷光とが干渉しない位置に配置されており、前記第3受光部は、前記受光素子上において、前記間隔を52.5μmと仮定した場合の前記受光素子上における前記0次迷光のスポットの内側、且つ前記1次信号光の他の部分と前記0次迷光とが干渉しない位置に配置されている。
【0025】
この態様によれば、直流信号を出力する第2受光部が、上記間隔を52.5μmと仮定した場合の受光素子上における0次迷光のスポットの外側に配置されているので、第2受光部から出力される信号が、0次迷光の影響を受けることを回避することができる。
【0026】
本発明の光ピックアップの他の態様では、前記回折素子は、その中央部に、前記信号光が透過する中央透過部を有しており、前記中央透過部の、前記信号光の前記光ディスクの半径方向に対応する方向に沿う方向である一の方向の幅である第1幅は、前記回折素子上における前記信号光のスポットの直径の30%〜50%の範囲内であり、前記中央透過部の、前記一の方向と直交する方向である他の方向の幅である第2幅は、前記回折素子上における前記信号光のスポットの直径の50%〜80%の範囲内であり、前記第2受光部は、前記受光素子上で平面的に見て、前記第1受光部の中心を通り前記一の方向に延びる直線を基準として、前記第1受光部の中心回りに±θの範囲内に配置されており、前記θは、42.5度〜66.5度の範囲内で、前記第1幅が大きくなる程小さくなり、前記第2幅が大きくなる程大きくなり、前記第3受光部は、前記受光素子上で平面的に見て、前記第1受光部の中心を通り前記他の方向に延びる直線を基準として、前記第1受光部の中心回りに±φの範囲内に配置されており、前記φは、15度〜27.5度の範囲内で、前記第1幅が大きくなる程大きくなる。
【0027】
尚、中央透過部の第1幅及び第2幅は、当該光ピックアップの製造工程において、上記範囲内で予め固定値として定められる。そして、中央透過部の第1幅及び第2幅が決定されると、上記角度θ及び角度φは一義的に決定される。また、回折素子上における信号光のスポットの直径は、当該光ピックアップの光学系により一義的に決定される。
【0028】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る光ピックアップの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るAPPホログラムの透過領域を模式的に示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る受光ICの受光部を模式的に示す模式図である。
【図4】1次信号光と0次迷光とが干渉する領域の一例を示すシミュレーション結果である。
【図5】光ディスクに係る“RADIAL方向”及び“TANGENTIAL方向”と、APPホログラム等に係る“RADIAL方向”及び“TANGENTIAL方向”との関係を示す概念図である。
【図6】信号光の1次回折光を受光し、交流信号を出力する受光部を配置可能な、受光IC上の領域の一例を示す模式図である。
【図7】信号光の1次回折光を受光し、交流信号を出力する受光部を配置可能な角度と、APPホログラムの中央透過部のRAD幅との関係の一例を示すシミュレーション結果である。
【図8】信号光の1次回折光を受光し、直流信号を出力する受光部を配置可能な、受光IC上の領域の一例を示す模式図である。
【図9】信号光の1次回折光を受光し、直流信号を出力する受光部を配置可能な角度と、APPホログラムの中央透過部のRAD幅との関係の一例を、該中央透過部のTAN幅毎に示すシミュレーション結果である。
【図10】本発明の実施形態の変形例に係る受光ICの受光部を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る光ピックアップの実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0031】
先ず、本実施形態に係る光ピックアップの構成について図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る光ピックアップの構成を示すブロック図である。
【0032】
図1において、光ピックアップ1は、例えば405nm(ナノメートル)等の波長を有する光を出射可能なLD(Laser Diode)である光源LD1と、例えば660nm等の波長を有する光を出射可能なLDである光源LD2と、例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなるコントローラ10と、APP(Advanced Push Pull)ホログラム107と、複数の受光部を備えてなる受光IC(Integrated Circuit)109とを備えて構成されている。
【0033】
光源LD1から出射された光は、合成プリズム101の反射面で反射され、90度光路が曲げられる。続いて、ハーフミラー102の反射面で反射され、更に90度光路が曲げられる。尚、光源LD1から出射された光の一部は、ハーフミラー102を透過して、フロントモニタ114に入射する。コントローラ10は、フロントモニタ114から出力される信号に基づいて、光源LD1等を制御する。
【0034】
ハーフミラー102で反射された光は、コリメートレンズ103及びミラー111を介して、ミラー104に入射する。ミラー104に入射した光は、該ミラー104の反射面で反射され、光ディスク2の方向へ90度光路が曲げられる。尚、ミラー111は、405nmの波長を有する光を透過するように設計されている。
【0035】
ミラー104で反射された光は、4分の1波長板105を透過して円偏光となった後、対物レンズ106により光ディスク2の複数の記録層21のうち、記録又は再生の対象とする一の記録層上に集光される。
【0036】
該一の記録層で反射された光は、対物レンズ106を介して、4分の1波長板105を透過することで、入射光に対して偏光方向が90度回転した直線偏光となる。4分の1波長板105を透過した光は、入射時とは逆の光路を辿り、ハーフミラー102を透過して、APPホログラム107に入射する。該APPホログラム107に入射した光は、少なくとも0次回折光と1次回折光とに分割され、センサーレンズ108を介して、受光IC109に入射する。
【0037】
他方、光源LD2から出射された光は、グレーティング110及び合成プリズム101を介して、ハーフミラー102に入射する。ハーフミラー102に入射した光は、該ハーフミラー102の反射面で反射され、90度光路が曲げられる。尚、光源LD2から出射された光の一部は、ハーフミラー102を透過して、フロントモニタ114に入射する。
【0038】
ハーフミラー102で反射された光は、コリメートレンズ103を介して、ミラー11に入射する。ミラー111は、660nmの波長を有する光を反射するように構成されているので、ミラー111に入射した光は、該ミラー111の反射面で反射され、光ディスク2の方向へ90度光路が曲げられる。
【0039】
ミラー111で反射された光は、4分の1波長板112を透過して円偏光となった後、対物レンズ113により光ディスク2の複数の記録層21のうち、記録又は再生の対象とする一の記録層上に集光される。
【0040】
該一の記録層で反射された光は、対物レンズ113を介して、4分の1波長板112を透過することで、入射光に対して偏光方向が90度回転した直線偏光となる。4分の1波長板112を透過した光は、入射時とは逆の光路を辿り、ハーフミラー102を透過して、APPホログラム107に入射する。該APPホログラム107に入射した光は、少なくとも0次回折光と1次回折光とに分割され、センサーレンズ108を介して、受光IC109に入射する。
【0041】
尚、本実施形態に係る「APPホログラム107」及び「受光IC109」は、夫々、本発明に係る「回折素子」及び「受光素子」の一例である。
【0042】
次に、APPホログラム107について、図2を参照して説明を加える。図2は、本実施形態に係るAPPホログラムの透過領域を模式的に示す模式図である。尚、図2における点線円S0は、光ディスク2の複数の記録層21のうち、記録又は再生の対象とする一の記録層からの反射光(以降、適宜“信号光”と称する)の、APPホログラム107上におけるスポットを示している。
【0043】
図2に示すように、APPホログラム107の透過領域は、複数の透過部7a〜7iに分割されている。各透過部7a〜7iは、夫々異なる回折特性を有している。このため、APPホログラム107に入射した信号光は、入射位置に応じて異なる方向に回折されることになる。
【0044】
次に、受光IC109について、図3を参照して説明を加える。図3は、本実施形態に係る受光ICの受光部を模式的に示す模式図である。
【0045】
図3に示すように、受光IC109は、複数の受光部9a〜9eを備えている。受光部9aは、受光面が4分割されており、主に、信号光の0次回折光(以降、適宜“0次信号光”と称する)を受光する。
【0046】
コントローラ10は、受光部9aから出力される信号に基づいて、RF信号及びFE信号を生成する。コントローラ10は、生成されたFE信号に基づいて、レンズアクチュエータ(図示せず)を制御して、対物レンズ106又は113と光ディスク2との間隔を調節する。
【0047】
受光部9b及び9cは、主に、APPホログラム107の透過部7b、7c、7d及び7eに入射した信号光の1次回折光を受光する。受光部9b及び9cは、夫々、受光した光量に応じた直流信号を出力する。
【0048】
受光部9d及び9eは、主に、APPホログラム107の透過部7f、7g、7h及び7iに入射した信号光の1次回折光を受光する。受光部9d及び9eは、夫々、受光した光量に応じた交流信号を出力する。
【0049】
コントローラ10は、受光部9b、9c、9d及び9eの各々から出力された信号に基づいて、TE信号を生成する。コントローラ10は、生成されたTE信号に基づいて、レンズアクチュエータを制御する。
【0050】
尚、本実施形態に係る「受光部9a」は、本発明に係る「第1受光部」の一例であり、本実施形態に係る「受光部9b及び9c」は、本発明に係る「第2受光部」の一例であり、本実施形態に係る「受光部9d及び9e」は、本発明に係る「第3受光部」の一例である。また、本実施形態に係る「透過部7a」は、本発明に係る「中央透過部」の一例であり、本実施形態に係る「透過部7b、7c、7d及び7e」は、本発明に係る「第1部分」の一例であり、本実施形態に係る「透過部7f、7g、7h及び7i」は、本発明に係る「第2部分」の一例である。
【0051】
ところで、複数の記録層21を有する光ディスク2のような、多層光ディスクを記録又は再生の対象とする場合、複数の記録層21のうち、記録又は再生の対象である一の記録層からの反射光(即ち、信号光)に加えて、記録又は再生の対象ではない他の記録層からの反射光(以降、適宜“迷光”と称する)も、受光IC109に入射することとなる。
【0052】
特に、受光IC109上の位置によっては、信号光の1次回折光と、迷光の0次回折光(以降、適宜“0次迷光”と称する)とが干渉し、TE信号が干渉ノイズの影響を受けることが、本願発明者の研究により判明している。
【0053】
具体的には、受光IC109上における0次迷光のスポットのうち、APPホログラム107の透過部7f、7g、7h及び7iを透過した迷光に起因する部分と、APPホログラム107の透過部7f、7g、7h及び7iを透過した信号光の1次回折光のスポットとが重なると、TE信号が干渉ノイズの影響を受ける。
【0054】
より具体的には、図4(a)における白色および白っぽい部分に、受光部9d及び9eのうち少なくとも一方が配置されると、TE信号が干渉ノイズの影響を受ける。該干渉ノイズの影響は、色がより白くなる程大きくなる。他方、黒い領域は干渉ノイズが発生しない領域である。図4(a)は、APPホログラム107の透過部7f、7g、7h及び7iを透過した信号光の1次回折光と、0次迷光とが干渉する領域の一例を示すシミュレーション結果である。
【0055】
尚、シミュレーション結果は、上半分についてしか示されていないが、下半分についてのシミュレーション結果は、図4(a)を上下反転させたものとほぼ同じになる。
【0056】
また、受光IC109上における0次迷光のスポットのうち、APPホログラム107の透過部7b、7c、7d及び7eを透過した迷光に起因する部分と、APPホログラム107の透過部7b、7c、7d及び7eを透過した信号光の1次回折光のスポットとが重なると、TE信号が干渉ノイズの影響を受ける。
【0057】
より具体的には、図4(b)における白色および白っぽい部分に、受光部9b及び9cのうち少なくとも一方が配置されると、TE信号が干渉ノイズの影響を受ける。該干渉ノイズの影響は、色が白くなる程大きくなる。他方、黒い領域は干渉ノイズが発生しない領域である。図4(b)は、APPホログラム107の透過部7b、7c、7d及び7eを透過した信号光の1次回折光と、0次迷光とが干渉する領域の一例を示すシミュレーション結果である。
【0058】
そこで、本実施形態では、受光部9d及び9eは、受光IC109上における0次迷光のスポットのうち、APPホログラム107の透過部7f、7g、7h及び7iを透過した迷光に起因する部分(つまり、図4(a)における白色および白っぽい部分)を避けて配置されている。
【0059】
同様に、受光部9b及び9cは、受光IC109上における0次迷光のスポットのうち、APPホログラム107の透過部7b、7c、7d及び7eを透過した迷光に起因する部分(つまり、図4(b)における白色および白っぽい部分)を避けて配置されている。
【0060】
つまり、信号光の1次回折光と0次迷光とが干渉する領域を避けさえすれば、受光IC109上における0次迷光のスポットの内側に、受光部9b、9c、9d及び9eを配置することができる。このため、TE信号が干渉ノイズの影響を受けることを抑制しつつ、受光IC109、更には光ピックアップ1の小型化を図ることができる。
【0061】
加えて、受光IC109のサイズを抑制できるため、例えば製造コストを低減できる、或いは、光ピックアップ1の設計の自由度が増加する。更に、本発明の効果を得ることができるAPPホログラム107の回折格子を比較的容易に製造することができる。また、光ピックアップ1の光学系の復路倍率の設計に起因する制限の影響が少ない。
【0062】
ここで、受光IC109上における0次迷光のスポットのサイズは、光ディスク2における、互いに隣接する記録層の間隔に応じて変化する。即ち、0次迷光のスポットのサイズに応じて、受光IC109上における信号光の1次回折光と0次迷光とが干渉する領域が変化する。具体的には例えば、図4(a)における白色および白っぽい部分が、0次迷光のスポットのサイズに応じて相似的に変化する。
【0063】
尚、光ディスク2において、互いに隣接する記録層の間隔は、例えば10μm〜52.5μmである。光ピックアップ1の光学系は、互いに隣接する記録層の間隔が52.5μmである場合に、受光IC109上における0次迷光のスポットが最も大きくなるように構成されている。
【0064】
そこで、本願発明者は、受光IC109上における0次迷光のスポットのサイズが変化しても、TE信号が干渉ノイズの影響を受けない領域を、受光IC109の受光部9aの中心回りの角度範囲として特定した。
【0065】
尚、上記角度範囲は、APPホログラム107における中央透過部7a(図2参照)のサイズ、具体的には、中央透過部7aの、信号光の光ディスク2のラジアル(RADIAL)方向に対応する方向(図5参照)に沿う方向の幅(即ち、図2におけるy方向の幅:以降、適宜“RAD幅”と称する)と、信号光の光ディスク2のタンジェンシャル(TANGENTIAL)方向に対応する方向(図5参照)に沿う方向の幅(即ち、図2におけるz方向の幅:以降、適宜“TAN幅”と称する)と、に応じて変化する。
【0066】
図5は、光ディスクに係る“RADIAL方向”及び“TANGENTIAL方向”と、APPホログラム等に係る“RADIAL方向”及び“TANGENTIAL方向”との関係を示す概念図である。光ピックアップ1では、信号光Lがミラー104又は111で反射され、90度光路が曲げられるので、図5に示すように、光ディスク2における“TANGENTIAL方向”と、APPホログラム107及び受光IC109における“TANGENTIAL方向”とは互いに直交する。
【0067】
信号光の1次回折光を受光して交流信号を出力する受光部9d及び9eは、図6に示すように、受光部9aの中心を通り且つz軸に沿う直線である直線z1(一点鎖線)を基準として、受光部9aの中心回りに±φの範囲内(網掛けの範囲内)に配置されれば、受光部9d及び9eから夫々出力される交流信号が干渉ノイズの影響を受けることはない。
【0068】
上記角度φは、APPホログラム107の中央透過部7aのRAD幅に応じて変化する。具体的には、図7に示すように、RAD幅が、APPホログラム107上における信号光のスポットS0直径の30%〜50%の範囲内である場合、角度φは、15度〜27.5度の範囲内で、RAD幅が大きくなる程大きくなる。尚、角度φは、中央透過部7aのTAN幅には依存しない。
【0069】
図6は、信号光の1次回折光を受光し、交流信号を出力する受光部を配置可能な、受光IC上の領域の一例を示す模式図であり、図7は、信号光の1次回折光を受光し、交流信号を出力する受光部を配置可能な角度と、APPホログラムの中央透過部のRAD幅との関係の一例を示すシミュレーション結果である。尚、図6における点線円S1は、光ディスク2において互いに隣接する記録層の間隔が52.5μmである場合の、受光IC109上における0次迷光のスポットを示している(以降の図において同じ)。
【0070】
他方、信号光の1次回折光を受光して直流信号を出力する受光部9b及び9cは、図8に示すように、受光部9aの中心を通り且つy軸に沿う直線である直線y1(一点鎖線)を基準として、受光部9aの中心回りに±θの範囲内(網掛けの範囲内)に配置されれば、受光部9b及び9cから夫々出力される直流信号が干渉ノイズの影響を受けることはない。
【0071】
上記角度θは、APPホログラム107の中央透過部7aのRAD幅及びTAN幅に応じて変化する。具体的には、図9に示すように、RAD幅が、APPホログラム107上における信号光のスポットS0直径の30%〜50%の範囲内であり、TAN幅が、該スポットS0の直径の50%〜80%の範囲内である場合、角度θは、42.5度〜66.5度の範囲内で、RAD幅が大きくなる程小さくなり、TAN幅が大きくなる程大きくなる。
【0072】
図8は、信号光の1次回折光を受光し、直流信号を出力する受光部を配置可能な、受光IC上の領域の一例を示す模式図であり、図9は、信号光の1次回折光を受光し、直流信号を出力する受光部を配置可能な角度と、APPホログラムの中央透過部のRAD幅との関係の一例を、該中央透過部のTAN幅毎に示すシミュレーション結果である。
【0073】
尚、本実施形態に係る「y方向」、「z方向」、「RAD幅」及び「TAN幅」は、夫々、本発明に係る「一の方向」、「他の方向」、「第1幅」及び「第2幅」の一例である。
【0074】
<変形例>
本実施形態に係る光ピックアップ1の変形例について、図10を参照して説明する。本変形例では、受光IC109上における受光部9b及び9cが配置されている領域が異なる以外は、上述した光ピックアップ1の構成と同様である。図10は、本変形例に係る受光ICの受光部を模式的に示す模式図である。尚、図10における点線円S1は、光ディスク2において互いに隣接する記録層の間隔が52.5μmである場合の、受光IC109上における0次迷光のスポットを示している。
【0075】
図10に示すように、本変形例では、信号光の1次回折光を受光して、直流信号を出力する受光部9b及び9cが、受光IC109上における0次迷光のスポットS1の縁よりも外側に配置されている。このように構成すれば、受光部9b及び9cから夫々出力される直流信号に、0次迷光に起因するオフセット成分(即ち、受光部9b又は9cに入射した0次迷光の光量に応じた電圧値)が含まれることを防止することができる。
【0076】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う光ピックアップもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0077】
1…光ピックアップ、2…光ディスク、7a…中央透過部、7b、7c、7d、7e、7f、7g、7h、7i…透過部、9a、9b、9c、9d、9e…受光部、10…コントローラ、21…記録層、107…APPホログラム、109…受光IC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録層を有する光ディスクに対して、光学的に情報を記録又は再生する光ピックアップであって、
光源と、
前記光源から出射された光ビームの前記複数の記録層のうち記録又は再生の対象とする一の記録層からの反射光である信号光を、少なくとも0次回折光である0次信号光、及び1次回折光である1次信号光に分割する回折素子と、
前記0次信号光を受光する第1受光部、前記1次信号光の一部を受光すると共に直流信号を出力する第2受光部、及び前記1次信号光の他の部分を受光すると共に交流信号を出力する第3受光部を含む受光素子と
を備え、
前記第2受光部は、前記受光素子上において、前記1次信号光の一部と、前記光源から出射された光ビームの前記複数の記録層のうち他の記録層からの反射光である迷光の0次回折光である0次迷光とが干渉しない位置に配置されており、
前記第3受光部は、前記受光素子上において、前記1次信号光の他の部分と、前記0次迷光とが干渉しない位置に配置されている
ことを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】
前記回折素子は、前記1次信号光が前記第2受光部に入射する第1部分と、前記1次信号光が前記第3受光部に入射する第2部分とを含む透過領域を有しており、
前記第2受光部は、前記受光素子上における前記0次迷光のスポットのうち、前記第1部分を透過した迷光に起因する部分を避けて配置されており、
前記第3受光部は、前記受光素子上における前記0次迷光のスポットのうち、前記第2部分を透過した迷光に起因する部分を避けて配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項3】
前記複数の記録層の互いに隣接する記録層の間隔は、10μm〜52.5μmであり、
前記第2受光部は、前記受光素子上において、前記間隔を52.5μmと仮定した場合の前記受光素子上における前記0次迷光のスポットの内側、且つ前記1次信号光の一部と前記0次迷光とが干渉しない位置に配置されており、
前記第3受光部は、前記受光素子上において、前記間隔を52.5μmと仮定した場合の前記受光素子上における前記0次迷光のスポットの内側、且つ前記1次信号光の他の部分と前記0次迷光とが干渉しない位置に配置されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ピックアップ。
【請求項4】
前記複数の記録層の互いに隣接する記録層の間隔は、10μm〜52.5μmであり、
前記第2受光部は、前記受光素子上において、前記間隔を52.5μmと仮定した場合の前記受光素子上における前記0次迷光のスポットの外側、且つ前記1次信号光の一部と前記0次迷光とが干渉しない位置に配置されており、
前記第3受光部は、前記受光素子上において、前記間隔を52.5μmと仮定した場合の前記受光素子上における前記0次迷光のスポットの内側、且つ前記1次信号光の他の部分と前記0次迷光とが干渉しない位置に配置されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ピックアップ。
【請求項5】
前記回折素子は、その中央部に、前記信号光が透過する中央透過部を有しており、
前記中央透過部の、前記信号光の前記光ディスクの半径方向に対応する方向に沿う方向である一の方向の幅である第1幅は、前記回折素子上における前記信号光のスポットの直径の30%〜50%の範囲内であり、
前記中央透過部の、前記一の方向と直交する方向である他の方向の幅である第2幅は、前記回折素子上における前記信号光のスポットの直径の50%〜80%の範囲内であり、
前記第2受光部は、前記受光素子上で平面的に見て、前記第1受光部の中心を通り前記一の方向に延びる直線を基準として、前記第1受光部の中心回りに±θの範囲内に配置されており、
前記θは、42.5度〜66.5度の範囲内で、前記第1幅が大きくなる程小さくなり、前記第2幅が大きくなる程大きくなり、
前記第3受光部は、前記受光素子上で平面的に見て、前記第1受光部の中心を通り前記他の方向に延びる直線を基準として、前記第1受光部の中心回りに±φの範囲内に配置されており、
前記φは、15度〜27.5度の範囲内で、前記第1幅が大きくなる程大きくなる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光ピックアップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−18740(P2012−18740A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156816(P2010−156816)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(510130675)パイオニアデジタルデザインアンドマニュファクチャリング株式会社 (7)
【Fターム(参考)】