光ファイバおよびその製造方法ならびに製造装置
【課題】外部的要因によるPMDの増加を、最終製品でも確実かつ安定して抑制し得るようにする。
【解決手段】光ファイバ裸線が樹脂被覆層により被覆された光ファイバ素線における裸線の部分に、第1の弾性ねじれが与えられており、かつ第1の弾性ねじれが、その戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力により保持され、しかも素線全体に、第1の弾性ねじれと異なる第2の弾性ねじれが付与された光ファイバ。製法として、加熱溶融された光ファイバ母材から引き出された裸線が固化してから液体樹脂で被覆し、樹脂を硬化させて光ファイバ素線とするに際して、樹脂被覆前でかつ固化後の裸線に第1の弾性ねじれを付与して、その第1の弾性ねじれが被覆層により保持されるようにし、さらに異種の第2の弾性ねじれを素線全体に付与する。
【解決手段】光ファイバ裸線が樹脂被覆層により被覆された光ファイバ素線における裸線の部分に、第1の弾性ねじれが与えられており、かつ第1の弾性ねじれが、その戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力により保持され、しかも素線全体に、第1の弾性ねじれと異なる第2の弾性ねじれが付与された光ファイバ。製法として、加熱溶融された光ファイバ母材から引き出された裸線が固化してから液体樹脂で被覆し、樹脂を硬化させて光ファイバ素線とするに際して、樹脂被覆前でかつ固化後の裸線に第1の弾性ねじれを付与して、その第1の弾性ねじれが被覆層により保持されるようにし、さらに異種の第2の弾性ねじれを素線全体に付与する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス系光ファイバで代表される光ファイバおよびその製造方法、製造装置に関し、とりわけ光ファイバの偏波モード分散(Polarization Mode Dispersion;以下“PMD”と記す)を低減する技術、特に側圧や曲がりなどの外乱が加わってもPMDの増加量が少ない光ファイバおよびその製造方法、製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、PMDは、光ファイバ中の二つの直交する偏波モード成分間に伝搬時間差(遅延差)が生じる現象であり、このようなPMDが大きくなれば、デジタル伝送においてファイバ中を伝送される信号光に波形劣化が生じて隣り合うパルスの分離が困難となったり、また伝送容量が制限されてしまうなどの問題が生じるから、PMDはできるだけ小さく抑制することが望まれる。
【0003】
PMDは、光ファイバの光学的異方性によって生じる現象であり、その発生要因は、光ファイバの内部の構造や材質などに由来して光学的異方性が生じる内部的要因と、光ファイバの外部からの応力などにより光学的異方性が生じる外部的要因とに大別される。
【0004】
内部的要因のうち、もっとも大きい影響をあたえるのは、光ファイバの断面形状である。すなわち、光ファイバ素線の製造においては、ファイバ母材の製造方法やファイバ母材を紡糸(線引き)して光ファイバ裸線とするための方法の如何を問わず、光ファイバ素線のコア部分およびその周囲のクラッド部分を含め、断面形状を完全な真円形とすることは実際上困難であり、実際の製品では、わずかながらも楕円形状その他の形状に歪んだ断面形状を有するものとなる。このような断面形状の異方性が大きくなれば、断面における屈折率分布が完全な同心円状ではなくなり、複屈折が生じてPMDが大きくなってしまう。
【0005】
また一方、外部的要因の大きなものとしては、光ファイバにその外部から加えられる曲げや側圧など、非等方的に加えられる応力が挙げられ、このような非等方的な外部からの応力によっても複屈折が生じてPMDが増加してしまう。
【0006】
ところで光ファイバのPMDの低減のためには、光ファイバ素線にねじれを加えておくことが有効であるとされ、従来から特許文献1〜5に示すような提案がなされている。
【0007】
これらの特許文献のうち、特許文献1、特許文献2においては、光ファイバ裸線の紡糸時において、未だ光ファイバ母材が固化しないうちにねじれを加え、これによってねじれを永久的に固定する方法が示されている。これは、光ファイバ裸線に塑性変形としてねじれ(塑性ねじれ)を与えておき、光ファイバ素線への外力が解放された状態でもねじれがそのまま残るもの、すなわち永久変形としてねじれ状態が残るものと言うことができる。以下このような永久変形として残る塑性ねじれを、“スパン”と称することがある。
【0008】
一方、特許文献3〜5には、光ファイバが紡糸されて固化した後に、光ファイバ素線にねじれを与える方法が示されている。この場合のねじれは、弾性変形によるものであり、外力が解放されて光ファイバ素線がフリー状態となれば、ねじれが戻ってしまう弾性ねじれと言うことができる。この場合、その弾性ねじれが保持された状態のまま、最終的にケーブルなどの最終使用形態の製品に使用すること、すなわちケーブルなどの最終使用形態の製品としてその内部の光ファイバ素線にねじれが保持された状態で使用することを想定している。以下このような弾性ねじれを、“ツイスト”と称することがある。
【0009】
前述のようにPMDの発生原因は、内部的要因と外部的要因とに大別されるが、内部的要因によるPMDについては、特許文献1、特許文献2に示されるようなスパン(塑性ねじれ)を光ファイバ素線に加えておく方法が有効である。しかしながらこのようなスパンを与えても、外部的要因によるPMDの増加抑制に対しては有効でないことが知られている(例えば特許文献3参照)。
【0010】
一方、特許文献3〜5に示すように、ツイスト(弾性ねじれ)を与えておく方法は、側圧や曲げなどの外部的要因によるPMDの増加抑制に有効である。但しこのツイストは、外力が解放されれば、弾性的にねじれが戻ってしまうものである。ここで、ツイストを与えた光ファイバ素線を光ケーブルなどの最終使用形態の製品とするための実際の量産工程、例えば着色、テープ化、ケーブル化などの工程や、その工程間などにおいては、光ファイバ素線に与えられている摩擦力などの外力が解放されたり、あるいは摩擦力などの外力が著しく小さくなってしまうことがあり、その場合、ねじれが解放されてしまうかまたは著しく小さくなってしまって、外部的要因によるPMDの増加を抑制する効果が消失してしまうから、ケーブルなどの最終製品として、外部的要因によるPMDの増加を確実かつ安定して抑制することが困難であるという問題があった。
【0011】
ところで、上述のように光ファイバにツイスト(弾性ねじれ)を与える場合、特許文献3〜5にも記載されているように、周期的にねじれの方向(時計方向かまたは反時計方向か)を反転させることが望ましい。すなわち、ねじれ方向を、時計方向、反時計方向に周期的に反転させること(すなわち反転ねじれを付与すること)が、外部的要因によるPMDの増加抑制に対してより有効となり、また最終使用形態とするまでの間においてねじれが比較的解放されにくくなる。
【0012】
ここで、ねじれ方向を周期的に反転させる場合、光ファイバ素線の長手方向の距離に対するねじれ角度(連続するねじれについて、一定方向へのねじれ角度を累積させた角度、すなわち累積ねじれ角度)を、反転ねじれプロファイルとして、例えば正弦波状の曲線として描くことができる。そしてこの反転ねじれプロファイルにおいて、ある方向、たとえば時計方向へのねじれが開始されて、その時計方向でのねじれが付与された後、ねじれ方向が反転されて、反時計方向にねじれが付与され、その反時計方向のねじれが終了するまでの、光ファイバ素線上での長さを、ねじれの反転周期と称することとする。言い換えれば、ねじれの反転周期とは、ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との、連続する2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さ、と言うこともできる。そしてこの反転ねじれプロファイルにおける振幅は、1反転周期内での累積ねじれ角度の最大値(最大累積ねじれ角度)をあらわすことになる。
【0013】
しかるにツイスト(弾性ねじれ)として反転ねじれを付与した場合、ケーブルなどの最終使用形態において光ファイバ素線に残留するツイストの反転ねじれプロファイルを考慮すれば、その反転周期や振幅(最大累積ねじれ角度)のわずかな変化によって、PMD低減効果が大きく変動してしまう(例えば特許文献5のFig.5参照)という問題がある。この問題に対しては、特許文献3では、反転ねじれの反転周期や振幅を細かく変調させたり、ランダムにしたりするなどの方策を講じることとしているが、この場合でも、最終使用形態までの間でのねじれの解放という問題は解決されておらず、そのため、やはりPMD低減効果の安定化は不充分であった。例えば、反転周期や振幅が細かく変調された反転ねじれプロファイルであっても、最終使用形態とするまでの工程でねじれがすべて解放されてしまったり、またたとえ一部解放されずに最終使用形態まで残っていたとしても、短い周期の変調成分が解放されたり、細かい振幅の変調成分がなまったりして、最終使用形態では、結局は長い周期成分の反転ねじれしか残留しないことも多く、したがってケーブルなどの最終使用形態の製品として、その品質、特に外部的要因によるPMD増加防止性能を安定化させることは困難であった。
【0014】
以上のように、従来は、光ファイバに加えられる側圧や曲げなどの非等方的な外力などの外部的要因によるPMDの増加を、最終使用形態の製品においても確実かつ安定して抑制することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平8−295528号公報
【特許文献2】米国特許第6324872号明細書
【特許文献3】国際公開第2009/107667号パンフレット
【特許文献4】特開2010−122666号公報
【特許文献5】米国特許第7317855号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたもので、側圧や曲げなどの非等方的外力で代表される外部的要因に起因するPMDの増加を、ケーブルなどの最終使用形態の製品でも、確実かつ安定して抑制し得る光ファイバ、およびその製造方法、製造装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、前述の課題を解決するべく種々実験、検討を重ねた結果、光ファイバの製造過程の異なる段階で、異なる種類の弾性ねじれ(ツイスト)、すなわち第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを与えることとし、しかもそのうちの第1の弾性ねじれについては、加熱溶融された光ファイバ母材から線引きされて固化した光ファイバ裸線に液体状態(未硬化)の硬化性樹脂を被覆、硬化させる過程において、光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間に光ファイバ裸線に弾性ねじれを付与することによって、その弾性ねじれを、硬化した被覆樹脂によって固定(保持)させ、さらに前記硬化性樹脂の硬化後の光ファイバ素線の全体に、第2の弾性ねじれを付与することを考えた。そしてこの場合、第1の弾性ねじれは、光ケーブルなど最終使用形態内の光ファイバ素線においても、弾性ねじれ(ツイスト)として確実に保持することが可能となり、その結果、外部的要因によるPMDの増加を確実かつ安定して抑制し得ること、さらに第2の弾性ねじれも、多少なりとも最終使用形態まで残ることが多く、これらの2種の弾性ねじれの相乗的な効果によって、外部的要因によるPMDの増加を、より確実かつ安定して抑制し得ることを見い出した。
【0018】
ここで、硬化した被覆樹脂も弾性を有していて、一般にそのヤング率はガラスよりも小さいから、前記第1の弾性ねじれとして、前述のように光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間において光ファイバ裸線に弾性ねじれを付与しても、そのねじれをそのまま被覆樹脂によって固定すること、すなわちねじれの戻りを被覆樹脂によって完全に防止することは困難であり、ねじれ付与後に外力が解放されてフリー状態となれば、ある程度光ファイバ裸線部分のねじれが戻ってしまうことは避けられない。しかしながら、光ファイバ裸線部分のねじれが戻る際には、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りに伴って被覆樹脂層にその戻り方向のねじれが加えられ、この被覆樹脂層に与えられる戻り方向のねじれに対する被覆樹脂の弾性的反発力と、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りの力とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りは停止する。したがって、ねじれ付与後に外力が解放される際の光ファイバ裸線部分のねじれの戻りは100%行なわれるのではなく、被覆樹脂の弾性的反発力によって必ずある程度の割合で光ファイバ裸線部分のねじれが残る。そしてこの残ったねじれ分が、外力解放状態でも被覆樹脂によって保持され、弾性ねじれ(ツイスト)として機能するのである。後に改めて説明するように、通常は、このようにして与えた第1の弾性ねじれのうち、少なくとも20〜30%程度のねじれは残留して被覆樹脂によって保持されることが確認されている。そしてこのように被覆樹脂によって保持、固定された第1の弾性ねじれ(ツイスト)は、さらにテープ化、ケーブル化などの過程を経て最終使用形態の製品とするにあたって、仮に外力が解放されたとしても、確実に保持され、外部的要因によるPMDの増加の抑制に安定して有効となるのである。さらに、上述のような第1の弾性ねじれに加えて、光ファイバ裸線に被覆樹脂層を形成してその被覆樹脂が硬化した後の段階の光ファイバ素線に対し、別に第2の弾性ねじれを加えておくことによって、光ファイバ裸線の弾性ねじれを、確実かつ安定して保持することが可能となり、特に第1の弾性ねじれと第2の弾性ねじれとの関係を適切に設定することによって、外部的要因によるPMDの増加の抑制効果を、有効に発揮し得ることを見い出し、本発明をなすに至ったのである。
【0019】
したがって本発明の基本的な態様(第1の態様)による光ファイバは、光ファイバ裸線が硬化性樹脂からなる被覆層によって被覆された光ファイバ素線を有する光ファイバにおいて、
前記光ファイバ裸線の部分に、第1の弾性ねじれが与えられており、かつその光ファイバ裸線部分の第1の弾性ねじれが、そのねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持されており、しかも前記光ファイバ裸線および被覆層からなる光ファイバ素線の全体に、第2の弾性ねじれが付与されていることを特徴とするものである。
【0020】
このような態様の光ファイバにおいては、ファイバ裸線部分に付与された第1の弾性ねじれ(ツイスト)が、そのねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力により、ねじり付与時のねじれ量の少なくとも一部として保持されていて、最終使用形態である光ケーブルなどの状態でも、ファイバ裸線部分の弾性ねじれが確実かつ安定して保持され、そのため外部的要因によるPMDの増加を、確実かつ安定して抑制することができる。
【0021】
また本発明の第2の態様による光ファイバは、前記第1の態様の光ファイバにおいて、
前記光ファイバ裸線の部分の第1の弾性ねじれとして、その長手方向の所定長さ置きに、交互に逆方向のねじれが与えられており、かつ前記光ファイバ素線の全体の第2の弾性ねじれとして、その長手方向の所定長さ置きに、交互に逆方向のねじれが与えられていることを特徴とするものである。
【0022】
この第2の態様に示すように、第1の弾性ねじれ、第2の弾性ねじれとして、光ファイバ裸線部分にその長手方向の所定長さ置きに交互に逆方向の弾性ねじれが与えられている場合には、一方向のみに連続して弾性ねじれが付与されている場合と比較してねじれが解放されにくくなり、その結果、外部的要因によるPMDの増加を、より確実かつ安定して抑制することができる。
【0023】
また本発明の第3の態様による光ファイバは、前記第2の態様の光ファイバにおいて、
ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さをねじれの反転周期と定義し、前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、前記第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも大きく定められていることを特徴とするものである。
【0024】
このような第3の態様の光ファイバにおいては、第2の弾性ねじれの反転周期T2を、第1の弾性ねじれの反転周期T1より大きく設定しておくことによって、外部的要因によるPMDの増加を、より一層確実かつ安定して抑制することができる。
【0025】
さらに本発明の第4の態様による光ファイバは、前記第3の態様の光ファイバにおいて、第1の弾性ねじれの反転周期T1が5〜10mの範囲内とされ、かつ前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、第1の弾性ねじれの反転周期T1の4倍〜8倍の範囲内にあることを特徴とし、さらに第5の態様による光ファイバは、第1の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度が、前記被覆層の弾性反発力によって残留保持された状態で、100×T1deg 〜1200×T1degの範囲内にあり、かつ第2の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度が、300deg 〜5000degの範囲内にあることを特徴とするものである。
【0026】
これらの第4、第5の態様の光ファイバにおいては、第1、第2の弾性ねじれの反転周期T1、T2を適切に設定し、さらには第1、第2の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度を適切に規制することによって、外部的要因によるPMDの増加を、より一層確実かつ安定して抑制することができる。
【0027】
さらに本発明の第6の態様による光ファイバは、前記第1〜第5のいずれかの態様の光ファイバにおいて、前記光ファイバ裸線の部分に付与された第1の弾性ねじれを戻す方向に、被覆層に生じた弾性ねじれ量が、1400deg/m〜12800deg/mの範囲内にあることを特徴とするものである。
【0028】
ここで、被覆層に生じた弾性ねじれ量とは、第1の弾性ねじれを戻す方向に被覆層がねじられ、そのねじり力に抗する被覆層の弾性反発力によって第1の弾性ねじれの戻りが停止されるまでの間の被覆層ねじれ量を意味する。すなわち、光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれ量(被覆層硬化前)をA(deg)とし、付与された第1の弾性ねじれのうち、被覆層硬化後の状態(外力が解放されている状態)で、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれ力と被覆層の弾性反発力とのバランスによって光ファイバ裸線部分に残留している弾性ねじれ量をB(deg)とし、かつ第1の弾性ねじれの反転周期をT1(m)とすれば、次式
(A−B)/(T1/4)
によって与えられるねじれ量(deg/m)である。
【0029】
上記のような第6の態様による光ファイバにおいては、第1の弾性ねじれの付与に伴って生じる被覆層の弾性ねじれ量が適切に設定されているため、被覆層に適切な弾性反発力を生じさせ、これにより光ファイバ素線に付与された弾性ねじれの少なくとも一部を裸線部分に確実に保持させ、これによって外部的要因によるPMDの増加を、より一層確実かつ安定して抑制することができ、さらには被覆層に生じる剥がれや割れを防ぐことができる。
【0030】
さらに本発明の第7〜第15の態様は、上述のような第1、第2の弾性ねじれを付与した光ファイバを製造する方法についてのものである。
【0031】
すなわち第7の態様の光ファイバの製造方法は、光ファイバ裸線を未硬化の硬化性樹脂によって被覆し、その硬化性樹脂を硬化させてなる被覆層を形成した光ファイバ素線を有する光ファイバを製造する方法において;
前記硬化性樹脂が硬化する以前の段階で光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与し、その第1の弾性ねじれについて、素線に与えたねじれ量の少なくとも一部を前記被覆層によって光ファイバ裸線の部分に残留保持させ、さらに前記硬化性樹脂の硬化後の光ファイバ素線の全体に、第2の弾性ねじれを付与することを特徴とするものである。
【0032】
このような第7の態様の光ファイバ製造方法によれば、最終使用形態に至るまでの間の工程で、仮に第2の弾性ねじれが完全に解放されてしまったとしても、第1の弾性ねじれの残留分によって、外部的要因によるPMDの増加を抑制することができる。
【0033】
また第8の態様の光ファイバの製造方法は、前記第7の態様の製造方法において、
光ファイバ母材を加熱溶融して、所定の径の光ファイバ裸線を引き出し、その光ファイバ裸線が固化してからその外周上を液体状態の硬化性樹脂で被覆し、さらにその樹脂を硬化させて光ファイバ素線としてから、第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、
第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、第1のねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ固化後の光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれが付与されるとともに、その第1の弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその被覆樹脂が硬化することにより、被覆層によって第1の弾性ねじれの少なくとも一部が光ファイバ裸線の部分に保持され、
さらに、前記硬化性樹脂の硬化後の光ファイバ素線の全体に、第2のねじれ付与装置によって第2の弾性ねじれを付与することを特徴とするものである。
【0034】
このような第8の態様の光ファイバの製造方法においては、固化した光ファイバ裸線に付与された第1の弾性ねじれ(ツイスト)が硬化した被覆層によって保持された光ファイバ、すなわち外力解放後も弾性ねじれが光ファイバ裸線部分に残る光ファイバを製造することができる。
【0035】
そしてまた本発明の第9の態様による光ファイバの製造方法は、前記第8の態様の光ファイバの製造方法において、前記第1のねじれ付与装置よりも上流側に、光ファイバ裸線のねじれの伝搬を阻止する部材がない状態で第1の弾性ねじれを付与することを特徴とするものである。
【0036】
このような第9の態様の光ファイバの製造方法においては、第1のねじれ付与装置からその上流側に円滑にねじれが伝搬されるため、確実かつ安定して光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれを付与することができる。
【0037】
また本発明の第10の態様の光ファイバの製造方法は、前記第8の態様、第9の態様のうちのいずれかの態様の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ裸線に硬化性樹脂を被覆するにあたり、その液体状態の樹脂の被覆時の粘度を、0.1〜3Pa・secの範囲内とし、かつ前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、ねじれの方向を周期的に反転させることを特徴とするものである。
【0038】
このような第10の態様の光ファイバの製造方法においては、被覆時の液体状態の樹脂の粘度を、0.1Pa・sec以上とすることによって、光ファイバ素線の被覆外径の変動を抑制して均一な被覆外径の光ファイバ素線を得ることができるとともに、3Pa・sec以下とすることによって、液体状態の樹脂が第1のねじれ付与装置からのねじれの伝搬の抵抗となってしまうことを防止し、特に第1の弾性ねじれの方向を周期的に反転させる場合において、ねじれの伝搬とねじれ方向の反転を確実化して、外部的要因によるPMDの増加を、より確実に抑制することができる。
【0039】
さらに本発明の第11の態様の光ファイバの製造方法は、前記第8〜第10のいずれかの態様の光ファイバの製造方法において、
ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さをねじれの反転周期と定義し、
前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、ねじれの方向を周期的に反転させるとともに、前記第2のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第2の弾性ねじれを付与するにあたって、ねじれの方向を周期的に反転させ、しかも前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、前記第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも大きくなるようにすることを特徴とするものである。
【0040】
このような第11の態様の光ファイバの製造方法によれば、外部的要因によるPMDの増加を確実に抑制した光ファイバを製造することができる。
【0041】
さらに本発明の第12の態様の光ファイバの製造方法は、前記第11の態様の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれの反転周期T1が、光ファイバ素線の長手方向の距離に関して、5〜10mの範囲内となり、かつその第1の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルとして、累積ねじれ角の最大振幅が、500×T1deg〜4000×T1degの範囲内となるようにすることを特徴とするものである。
【0042】
このような第12の態様の光ファイバの製造方法においては、第1の弾性ねじれの反転周期T1を上記の範囲内とするとともに累積ねじれ角の最大振幅を上記範囲内とすることによって、光ファイバ素線に対する外力が解放されたときに残留する第1の弾性ねじれを十分に確保すると同時に、過大な応力によって被覆層の剥離や割れが発生することを防止できる。
【0043】
また本発明の第13の態様の光ファイバの製造方法は、前記第11、第12のいずれかの態様の光ファイバの製造方法において、光ファイバ素線に付与した第1の弾性ねじれの少なくとも一部が、被覆層の弾性反発力によって光ファイバ裸線に保持されている状態で、光ファイバ裸線に残留している弾性ねじれについて、その反転周期Tが、光ファイバ素線の長手方向の距離に関して5〜10mの範囲内となり、かつ反転ねじれプロファイルにおける累積ねじれ角の最大振幅MAが、100×Tdeg〜1200×Tdegの範囲内となるようにすることを特徴とするものである。
【0044】
このような第13の態様の光ファイバの製造方法においては、付与された第1の弾性ねじれとそれに抗する被覆層の弾性反発力とがバランスして、与えた第1の弾性ねじれの少なくとも一部が光ファイバ裸線の部分に残留している状態での、第1の弾性ねじれの反転周期T1を上記の範囲内とするとともに、累積ねじれ角の最大振幅MAを上記の範囲内とすることによって、充分な量の弾性ねじれを残留させて、外部的要因によるPMDの増加を、より確実かつ安定して抑制することができる。
【0045】
また本発明の第14の態様の光ファイバの製造方法は、前記第11〜第13のいずれかの態様の光ファイバの製造方法において、前記光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれの少なくとも一部を光ファイバ裸線に保持させるために、その第1の弾性ねじれを戻す方向に被覆層に生じる弾性ねじれ量を、1400deg/m〜12800deg/mの範囲内とすることを特徴とするものである。
【0046】
このような第14の態様の光ファイバの製造方法においては、第1の弾性ねじれの付与に伴って生じる被覆層の弾性ねじれ量を適切に設定することによって、被覆層に適切な弾性反発力を生じさせ、これにより光ファイバ裸線に付与された弾性ねじれの少なくとも一部を確実に保持し、これによって外的要因によるPMDの増加を、より一層確実かつ安定して抑制することができ、さらには被覆層に生じる剥がれや割れを防ぐことができる。
【0047】
さらに本発明の第15の態様の光ファイバの製造方法は、前記第11〜第14のいずれかの態様の光ファイバの製造方法において、
前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、第1の弾性ねじれの、ねじれ付与時の反転周期T1の4〜8倍の範囲内となり、かつその第2の弾性ねじれのねじれ付与時における累積ねじれ角の最大振幅が、300deg〜5000degの範囲内となるようにすることを特徴とするものである。
【0048】
この第15の態様の光ファイバの製造方法によれば、第2の弾性ねじれの反転周期T2を適切に設定し、かつ第2の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度を適切に規制することによって、外部的要因によるPMDの増加を、より一層確実かつ安定して抑制し得る光ファイバを製造することができる。
【0049】
また本発明の第16の態様は、前記第1〜第6の態様のうちのいずれかの態様の光ファイバを製造するための装置であって、
光ファイバ母材を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉と、紡糸用加熱炉から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線を強制冷却して固化させるための冷却装置と、冷却・固化された光ファイバ裸線を、保護被覆用の硬化性樹脂により被覆するための被覆装置と、その被覆装置により被覆された未硬化の硬化性樹脂を硬化させるための被覆硬化装置と、その硬化性樹脂が硬化された状態で光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを与えるための第1のねじれ付与装置と、さらにその第1の弾性ねじれが付与された光ファイバ素線に、第1の弾性ねじれとは異なる第2の弾性ねじれを付与するための第2のねじれ付与装置とを有し、
前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、第1のねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ光ファイバ裸線固化後の光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれが付与されるとともに、その第1の弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその硬化性樹脂が硬化することにより、光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれの少なくとも一部が硬化性樹脂被覆層によって光ファイバ裸線の部分に保持されるように構成し、さらに光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれ少なくとも一部が保持された状態で、光ファイバ素線の全体に第2のねじれ付与装置により第2の弾性ねじれが付与されるように構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0050】
本発明の光ファイバにおいては、光ファイバ裸線部分に与えられた第1の弾性ねじれ(第1のツイスト)が、外力を解放した状態でもその弾性ねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持されるため、最終使用形態である光ケーブルなどの状態でも、ファイバ裸線部分の第1の弾性ねじれを確実かつ安定して保持することができ、さらに第2の弾性ねじれ(第2のツイスト)をも付与しておくことによって、その第2の弾性ねじれを最終使用形態まで若干でも残留させておくことが可能となり、その結果、曲げや側圧などの外部的要因によるPMDの増加を、確実かつ安定して抑制することができ、また従来提案されている技術のように弾性ねじれを交互に反対方向に加える場合において、その反転プロファイルの周期や振幅を細かく変調したりする必要がなく、そのため最終使用形態となるまでに反転プロファイルの細かい変調成分が消失もしくはなまってしまって、PMD低減効果が低下してしまうような事態の発生を有効に防止することができる。
また本発明の光ファイバの製造方法、製造装置によれば、上述のように曲げや側圧などの外部的要因によるPMDの増加を確実かつ安定して抑制し得る光ファイバを、実際的に容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の光ファイバを製造するための装置のうち、素線製造装置の部分の一例を示す略解図である。
【図2】本発明の光ファイバを製造するための装置に使用される第1のねじれ付与装置の一例を示す図で、(a)はその上方から見た平面図、(b)は正面図である。
【図3】本発明の光ファイバを製造するための装置に使用される第1のねじれ付与装置の他の例を示す正面図である。
【図4】本発明の光ファイバの製造過程における、被覆層硬化直後の段階の光ファイバ素線の一例の状況を模式的に示す部分切欠斜視図である。
【図5】本発明の光ファイバについて、外力を解放する際の状況を模式的に示す、光ファイバ素線の模式的な断面図である。
【図6】図4に示す光ファイバ素線について、被覆層硬化直後の段階での状態と外力解放後の状態とを比較して示す部分切欠斜視図で、(a)は被覆層硬化直後の段階での状態を、(b)は外力解放後の状態を示す。
【図7】本発明の光ファイバにおける、反転ねじれのプロファイルの一例を示すグラフである。
【図8】本発明の光ファイバを製造するための装置のうち、素線製造装置の部分の他の例の全体構成を示す略解図である。
【図9】本発明の光ファイバを製造するための装置に使用される第2のねじれ付与装置の一例を示す略解図である。
【図10】光ファイバ素線に弾性ねじれとして周期的にねじれ方向が反転する1種類のねじれを付与した場合における、ねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第1の例を示すグラフである。
【図11】光ファイバ素線に弾性ねじれとして周期的にねじれ方向が反転する2種類のねじれを付与した場合において、図10と同様に、ねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第1の例を示すグラフである。
【図12】図11と同様に、光ファイバ素線に弾性ねじれとして周期的にねじれ方向が反転する2種類のねじれを付与した場合において、ねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第2の例を示すグラフである。
【図13】図11と同様に、2種類のねじれを付与した場合におけるねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第3の例を示すグラフである。
【図14】図11と同様に、2種類のねじれを付与した場合におけるねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第4の例を示すグラフである。
【図15】図11と同様に、2種類のねじれを付与した場合におけるねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第5の例を示すグラフである。
【図16】図11と同様に、2種類のねじれを付与した場合におけるねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第6の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0053】
本発明においては、光ファイバ素線に、2種類の弾性ねじれ、すなわち第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付与する。そしてこれらに弾性ねじれのうち、第1の弾性ねじれは、光ファイバ母材から光ファイバ裸線を線引きして樹脂被覆層を形成する過程、すなわち光ファイバ素線を製造する過程で第1のねじれ付与装置により付与する。一方第2の弾性ねじれは、樹脂被覆層が硬化されて、光ファイバ素線となった段階以降、すなわち光ファイバ素線製造過程において製造された光ファイバが巻き取られる以前の段階、あるいは製造された光ファイバ素線が一旦巻き取られた後の段階で、第2のねじれ付与装置により付与するが、以下の実施形態では、説明の簡略化のため、第2の弾性ねじれは、製造された光ファイバ素線が一旦巻き取られた後の段階で付与するものとし、その場合について、第1のねじれ付与装置を備えた光ファイバ素線製造装置と、それにより製造されて巻き取られた光ファイバ素線を改めて巻き戻して第2の弾性ねじれを付与する装置とを、個別に説明する。
【0054】
先ず図1に、本発明の光ファイバを製造するための装置のうち、光ファイバ素線を製造する装置、すなわち第1のねじれ付与装置を備えた光ファイバ素線製造装置10の一例を示し、この図1を参照しながら、第1の弾性ねじれを付与しつつ光ファイバ素線を製造する過程について説明する。
【0055】
図1において、光ファイバ素線製造装置10は、例えば石英系ガラスなどからなる光ファイバ母材12を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉14と、紡糸用加熱炉14から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線16を強制冷却して固化させるための冷却装置18と、冷却・固化された光ファイバ裸線16を、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などの保護被覆用の硬化性樹脂により被覆するための被覆装置20と、その被覆装置20により被覆された未硬化(液体状態)の硬化性樹脂を、紫外線照射や加熱などにより硬化させるための被覆硬化装置22と、保護被覆用の硬化性樹脂が硬化された状態で光ファイバ素線24に第1の弾性ねじれを与えるための第1のねじれ付与装置26と、第1の弾性ねじれが付与された光ファイバ素線24を、ガイドプーリ28や図示しないダンサーローラを経て引き取るための図示しない引取装置と、最終的に光ファイバ素線を巻き取るための図示しない巻取装置とを備えた構成とされている。
【0056】
ここで、第1のねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24に一定方向のねじれを連続して与える構成としたものであってもよいが、通常は、後に改めて説明するように、周期的にねじれの方向(時計方向かまたは反時計方向か)が反転されるように構成することが望ましい。その具体的構成は特に限定されるものではないが、例えば図2に示すようなねじれ付与装置(特許文献4の図11に示されるねじれ付与装置と同様のもの)、あるいは図3に示すようなねじれ付与装置(特許文献1の図2、特許文献4の図10に示されるねじれ付与装置と同様のもの)を適用すればよい。
【0057】
図2に示すねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24をその両側から挟みながら回転する2組各一対のねじれ付与ローラ26Aa、26Ab;26Ba、26Bbによって構成されており、一方の組のねじれ付与ローラ26Aa、26Abの下流側に近接して、他方の組のねじれ付与ローラ26Ba、26Bbが前記一方の組のねじれ付与ローラ26Aa、26Abに対して90°ずれた位置に配置されている。そして各ねじれ付与ローラ26Aa、26Ab;26Ba、26Bbは、光ファイバ素線24をその両側から挟みながら、光ファイバ素線24の長さ方向(線引き方向)に直交する方向に対して所定の小角度だけ傾斜した軸線を中心として回転することによって、光ファイバ素線24にねじれを付与することができる。そして光ファイバ素線24に対する各ねじれ付与ローラ26Aa、26Ab;26Ba、26Bbの傾斜方向を反対方向に変えることによって、光ファイバ素線24に与えるねじれの方向を転換することができる。
【0058】
また図3に示すねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24が外周上に巻きかけられて、線引き方向に対して傾斜する回転軸を中心として回転するねじれ付与ローラ26Cと、その下流側に配設された、線引き方向に対して直交する回転軸を中心として回転する固定位置ローラ26Dとからなるものであり、光ファイバ素線24がねじれ付与ローラ26Cの外周上を回転軸線方向に沿って転動することによって光ファイバ素線24にねじれが付与され、かつねじれ付与ローラ26Cの傾斜方向を反転させるように揺動させることによって、ねじれ方向を反転させることができる。
【0059】
なお、第1のねじれ付与装置26の設置位置は、冷却・固化された光ファイバ裸線16を保護被覆用の硬化性樹脂により被覆してその硬化性樹脂が硬化した後にねじれを付与するように定めることが望ましい。ただし、第1のねじれ付与装置26よりも上流側には、光ファイバ素線24もしくは光ファイバ裸線16に接してねじれの伝達を阻止するような機構、部材が存在しないようにすることが望ましい。そして図1に示す光ファイバ素線製造装置10では、これらの条件を満たすべく、第1のねじれ付与装置26を、被覆硬化装置22とガイドローラ28との間の位置に配置している。この場合、第1のねじれ付与装置26よりも上流側では、硬化性被覆樹脂以外は、光ファイバ素線24もしくは光ファイバ裸線16の表面に物理的に接触する部材が存在しないため、第1のねじれ付与装置26により付与されたねじれをその上流側に連続的かつ円滑に伝搬させて、本発明で目的とする弾性ねじれ(ツイスト)を付与することが可能となる。但し、ある程度の溝幅を有する平溝プーリなど、光ファイバの転動が許容されるような部材であれば、その部材が接してもねじれの伝搬を阻害するおそれが少なく、そのような部材が第1のねじれ付与装置26よりも上流側に存在することは許容される。
【0060】
また被覆装置20により被覆する硬化性樹脂は、1層でもよいが、一般には、一次被覆層(プライマリ材料)と二次被覆層(セカンダリ材料)との2層構造とすることが多く、本発明の場合も、2層構造の樹脂被覆層を形成することが望ましい。すなわち、一次被覆層として、エポキシアクリレート樹脂やウレタンアクリレート樹脂などの紫外線硬化性樹脂あるいはシリコン樹脂などの熱硬化性樹脂からなり、かつ硬化後のヤング率が5MPa程度以下の低ヤング率(一般には常温でのヤング率が0.3〜1,5MPa)のものを用いることが望ましく、一方二次被覆層としては、エポキシアクリレート樹脂やウレタンアクリレート樹脂などの紫外線硬化性樹脂あるいは変性シリコン樹脂などの熱硬化性樹脂からなり、かつ硬化後のヤング率が100MPa程度以上の高ヤング率(一般には常温でのヤング率が300〜1500MPa)のものを用いることが望ましい。このように一次被覆層として低ヤング率のものを用いることにより、光ファイバ裸線に対して良好なクッション効果を示すとともに、光ファイバ裸線に対する被覆層の密着性を高めることができ、一方、二次被覆層として、高ヤング率のものを用いることにより、外部からの損傷や摩擦、側圧などに対して十分に耐え得るようになるが、特に本発明の光ファイバの場合、光ファイバ裸線部分に対する密着性を高めると同時に被覆層全体の見かけ上のヤング率を高めることが、被覆層により光ファイバ裸線部分の第1の弾性ねじれ(第1のツイスト)を保持する上で有利となり、その観点からも、上述のように硬化後のヤング率が異なる2層構造の被覆層を形成することが望ましい。
【0061】
なおこのような2層構造の被覆層を形成する場合の被覆方法および硬化方法としては、図1に示しているように、被覆装置20および被覆硬化装置22を1箇所のみに設けて、1基の被覆装置20により2層被覆を行なってその2層を3基の被覆硬化装置22により一括的に硬化させてもよく、あるいは後に説明する図8に示すように、被覆装置20および被覆硬化装置22をそれぞれ2箇所に設けて、一次被覆層の樹脂を被覆してそれを硬化させてから、二次被覆層の樹脂を被覆し、硬化させるようにしてもよい。
なおまた、光ファイバ裸線に硬化性樹脂を被覆する際の液体状態の樹脂の粘度も第1の弾性ねじれの付与状況などに影響を与えるファクターであるが、それについては、後に項を改めて説明する。
【0062】
次に以上のような光ファイバ素線製造装置を用いて、第1の弾性ねじれ(第1のツイスト)を付与しながら光ファイバ素線を製造する方法について説明する。
【0063】
上述のような光ファイバ素線製造装置によって光ファイバ素線を製造するにあたっては、光ファイバ裸線の原料となる石英系ガラス母材などの光ファイバ母材12を紡糸用加熱炉14において2000℃以上の高温に加熱して溶融させ、その紡糸用加熱炉14の下部から、高温状態で光ファイバ裸線16として伸長させながら下方に引き出し、その光ファイバ裸線16を、冷却装置18により冷却して固化させる。冷却装置18により所要の温度まで冷却されて固化した光ファイバ裸線16には、例えば2層コーティング用の被覆装置20において紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などの2種類の硬化性樹脂が液体状態で一次被覆層、二次被覆層として被覆され、さらにそれらの被覆樹脂が、被覆硬化装置22において加熱硬化あるいは紫外線硬化などの樹脂の種類に応じた適宜の硬化手段により硬化され、2層の被覆層を備えた光ファイバ素線24となり、引き続き、例えば図2あるいは図3に示したような第1のねじれ付与装置26によって、所定のねじれTW1、TW2が付与されてから、ガイドプーリ28を経て図示しない引取装置によって所定速度で引き取られ、さらに図示しない巻取装置により巻き取られる。
【0064】
図1に示す装置において、第1のねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に加えられたねじれTW1、TW2は、図1中の矢印Y1、Y2で示すように、第1のねじれ付与装置26の前後(上流側、下流側)に伝搬されていくが、ここでは、特に光ファイバ母材側(上流側)に伝搬していくねじれTW1について注目すると、そのねじれTW1は、被覆硬化装置22を経て被覆装置20を通り、さらにその上方の冷却装置18に向けて伝搬される。したがって、光ファイバ裸線16が冷却装置18により固化されてから、その裸線の外周上に被覆装置20により未硬化(液体状態)の硬化性樹脂が被覆され、さらにその被覆樹脂が被覆硬化装置22により硬化されるまでの間(図1の符号S1の領域付近)において、ねじれが加えられることになる。ここで光ファイバ裸線が固化してから加えられるねじれは、外力を解放すれば戻ってしまうねじれ、すなわち弾性ねじれ(ツイスト)となっている。一方、被覆樹脂の硬化後に第1のねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に加えられたねじれは、当然のことながら光ファイバ裸線部分と一体化された被覆層にも加えられるが、被覆装置20において液体状態で被覆されてからその樹脂が硬化するまでの間(図1の領域S2付近)においては、被覆樹脂は流動し得る状態であるため、弾性的な挙動はせず、したがってその間S2においては、被覆層には弾性ねじれが実質的に加えられないことになる。そして液体状態で光ファイバ裸線の外周上に被覆された樹脂が硬化する際に、それまでに加えられた光ファイバ裸線の第1の弾性ねじれ(第1のツイスト)が、被覆層の樹脂によって固定される(保持される)ことになる。
【0065】
ここで、上述のような図1の装置により製造された光ファイバ素線24の製造過程における、被覆硬化装置22により被覆層が硬化された時点の段階での光ファイバ素線24の一例を、図4に模式的に示す。図4において、符号32Aは被覆層の一次被覆層、32Bは二次被覆層であり、また図4中の光ファイバ裸線16の外周上に描いた太い実線および破線は、付与されたねじれを表わしており、この図では、光ファイバ素線の製造時における下流側から見て時計方向のねじれが加えられて、光ファイバ裸線16の部分に、下側から見て時計方向のねじれを有する状態を示している。既に述べたように、被覆層32A、32Bは、光ファイバ裸線16の外周上に液体状態で被覆されてから硬化するまでの間は、弾性的な挙動を示さないから、図4に示す段階では、被覆層32A、32Bには実質的にねじれが与えられていない。但し、図4に示しているのは、次に説明するように、摩擦などの外力が解放されていない段階での光ファイバ素線であることに留意されたい。
【0066】
ところで、硬化した被覆樹脂は、光ファイバ裸線部分よりも軟質でその剛性が低いから、前述のように光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間において光ファイバ素線に弾性ねじれを付与しても、その弾性ねじれをそのまま完全に被覆樹脂によって固定すること、すなわち外力が解放されたときのねじれの弾性力による戻りを被覆樹脂によって完全に防止することは困難である。すなわち、ねじれを付与した光ファイバ素線について、その後に摩擦力などの外力が解放されてしまえば、光ファイバ素線の内部の光ファイバ裸線部分の弾性戻り力によって樹脂被覆層がその戻り方向にねじられ、ファイバ裸線部分の弾性ねじれもある程度戻ってしまうことは避けられない。しかしながら、硬化した被覆樹脂も弾性を有しているから、光ファイバ裸線部分のねじれが戻る際に被覆樹脂層に加わる戻り方向のねじれも弾性ねじれとして機能し、この被覆樹脂層の弾性ねじれに対する反発力と、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りの力とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りが停止することになる。したがって、外力が解放されたときの光ファイバ裸線部分のねじれの戻りは100%行なわれるのではなく、被覆樹脂の弾性反発力によって必ずある程度の割合で光ファイバ裸線部分のねじれが残る。このようにして残留した第1の弾性ねじれのねじれ成分が、被覆樹脂によって保持、固定され、最終使用形態の製品においてもPMD抑制に寄与する弾性ねじれ(ツイスト)として機能する。
【0067】
上述のように光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放される際の力のバランスとねじれとの関係について、図5に模式的に示し、また光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放された後のフリー状態の光ファイバ素線のねじれの状況を、図6の(b)に模式的に示す。なお比較のため、図6の(a)には、被覆層が硬化された直後の段階でのねじれ状況を示す(図4と実質的に同じ)。この図6(a)、(b)において太い実線、太い破線は、それぞれねじれの状況を示している。但しこれらの図5、図6においては、説明の簡略化のため、被覆層としては1層のもの(符号32)を示している。
【0068】
図5において、光ファイバ素線に対する外力が解放される直前までは、光ファイバ裸線16の部分に例えば反時計方向の弾性ねじれTP1が与えられているが、外力が解放されてフリー状態となる際には、時計方向に弾性復帰力F1が働き、反時計方向の弾性ねじれTP1が減少する。これは、時計方向に光ファイバ裸線16がねじられることを意味する。それに伴って、光ファイバ裸線16に密着している被覆層32も、時計方向にねじられることになる(ねじれTP2)。このとき、被覆層32も弾性を有しているため、時計方向ねじれTP2に対して反対方向(反時計方向)の弾性反発力F2が発生する。そして被覆層32の反時計方向の弾性反発力F2と、前述の光ファイバ裸線16の時計方向の弾性反発力F1とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線16の部分の弾性ねじれTP1が保持される。したがって光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放された後のフリー状態の光ファイバ素線においては、図6の(b)に示しているように、光ファイバ裸線16の部分と被覆層32の部分とでは、逆方向のねじれTP1、TP2が存在しており、光ファイバ裸線16の部分のねじれTP1は、被覆層硬化直後の段階でのねじれ(図6(a)の太い実線、破線)よりも小さい状態で残留していることになる。
【0069】
ここで、硬化した被覆樹脂のヤング率は、一般に光ファイバガラスと比較してかなり低いが、ゼロではないから、外力解放時の光ファイバ裸線部分のねじれの戻りに伴う樹脂被覆層のねじれによる弾性反発力は必ず発生し、したがって上述のように反発力が釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分に付与した弾性ねじれの一部が残留するのである。
【0070】
一般的な光ファイバに使用されている2層構造の被覆層では、一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては常温でのヤング率が0.3〜1.5MPa程度のものが用いられ、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては常温でのヤング率が300〜1500MPa程度のものが用いられており、また光ファイバ裸線部分の径は125μm程度、被覆層の外径は、一次被覆層(プライマリ層)の外径は170〜210μm程度、二次被覆層(セカンダリ層)の外径は230〜260μm程度であり、このような光ファイバ素線について、前述のようにして弾性ねじれを付与し、その後外力を解放した状態で残留する光ファイバ裸線部分の弾性ねじれを調べたところ、付与したねじれの20〜30%程度の弾性ねじれが残ることが確認されている。
【0071】
また、第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に加えるねじれ(第1の弾性ねじれ)は、一方向に連続するものであってもよいが、既に述べたように、ねじれ方向を、時計方向、反時計方向に周期的に反転させることが、外部的要因によるPMDの増加抑制に対してより有効となる。
【0072】
このようにねじれ方向を周期的に反転させる場合、被覆装置で被覆する際の液体状態の被覆樹脂の粘度は、2層被覆の各被覆層を含め、0.1〜3Pa・secの範囲内であることが望ましい。被覆時の液体状態の樹脂の粘度が0.1Pa・sec未満では、粘度が低すぎるため、均一にコーティングして均一な膜厚の被覆層を得ることが困難となり、光ファイバ素線の被覆外径の変動量が±2μmを越えてしまい、光ファイバ素線として不良品となってしまうおそれがある。一方被覆時の液体状態の樹脂の粘度が3Pa・secを越えれば、第1のねじれ付与装置からその上流側へのねじれの伝搬に対して被覆樹脂の粘性が抵抗として作用し、その結果第1のねじれ付与装置と被覆装置との間でねじれが溜まる現象が顕著となってしまい、それに伴って被覆硬化装置と被覆装置との間へのねじれの伝搬も遅くなってしまう傾向を示す。その場合、ある方向(例えば時計方向)のねじれが被覆硬化装置と被覆装置との間で被覆層によって確実に保持される以前に、反対方向(例えば反時計方向)のねじれが伝搬されてきて、時計方向のねじれが戻されてしまい、結果的に被覆層硬化後に残るねじれが少なくなってしまうか、またはねじれがほぼ完全に消失してしまうおそれがある。したがって、ねじれ方向を周期的に反転させる場合には、被覆時の液体状態の樹脂の粘度を、上記のような適切な範囲内に調整することが望まれる。
【0073】
また前述のようにねじれ方向を周期的に反転させる場合、光ファイバ素線の長手方向の距離に対するねじれ角度(連続するねじれについて、一定方向へのねじれ角度を累積させた角度、すなわち累積ねじれ角度)を、反転ねじれプロファイルとして、例えば正弦波状の曲線として描くことができる。そしてこの反転ねじれプロファイルにおいて、ある方向、たとえば時計方向へのねじれが開始されて、その時計方向でのねじれが付与された後、ねじれ方向が反転されて、反時計方向にねじれが付与され、その反時計方向のねじれが終了するまでの、光ファイバ素線上での長さを、ねじれの反転周期と称することとする。言い換えれば、ねじれの反転周期とは、ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との、連続する2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さ、と言うこともできる。そしてこの反転ねじれプロファイルにおける振幅は、1反転周期内での累積ねじれ角度の最大値(最大累積ねじれ角度)をあらわすことになる。
【0074】
反転ねじれプロファイルの波形は、一般には正弦波状とすればよいが、その他、三角波状、あるいは台形波状など、特に限定されるものではない。正弦波を採用した場合の反転ねじれプロファイルの一例を図7に示す。図7において、実線は光ファイバ素線の長手方向の距離に対するねじれ角(単位長さあたりのねじれ角度)の推移を示し、破線は光ファイバ素線の長手方向の距離に対する累積ねじれ角度の推移を示す。
【0075】
ここで、第1のねじれ付与装置により付与する第1の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルにおいて、ねじれの反転周期T1は、5〜10mの範囲内が好ましい。ねじれの反転周期T1が5m未満では、時計方向のねじれと反時計方向のねじれが伝搬中に相殺されやすくなるおそれがあり、一方ねじれの反転周期T1が10mを越えれば、より多くのねじれを加えなければ外部的要因によるPMDの増加の抑制効果が得られなくなるおそれがある。
【0076】
さらに、第1の弾性ねじれを光ファイバ素線に付与する際(被覆層未硬化状態)における、第1の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルについては、累積ねじれ角の最大振幅MA(図7参照)は、ねじれの反転周期T1との関係において、500×T1〜4000×T1degの範囲内が望ましい。累積ねじれ角の最大振幅MAが500×T1deg未満では、光ファイバ素線に対する外力を解放した後に残留する光ファイバ裸線部分の弾性ねじれが少なくなって、外部的要因によるPMDの増加を抑制する効果が少なくなってしまう。一方、累積ねじれ角の最大振幅MAが4000×T1degを越えれば、光ファイバ素線に対する外力を解放したときに光ファイバ裸線部分から被覆層に加えられる応力が大きすぎて、光ファイバ裸線部分と被覆層との間に剥離が生じたり、被覆層に割れが発生したりするおそれがある。
【0077】
一方、被覆層が硬化しかつ外力が解放されて、被覆層の弾性反発力によって第1の弾性ねじりを戻す方向の力が作用し、それらがバランスして、素線に加えた第1の弾性ねじりの一部が裸線部分に残留保持されている状態での反転ねじれプロファイルについては、累積ねじれ角の最大振幅は、ねじれの反転周期T1との関係において、100×T1〜1200×T1degの範囲内が望ましい。その状態での累積ねじれ角の最大振幅MAが100×T1deg未満では、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれが少なく、外部的要因によるPMDの増加を抑制する効果が少なくなってしまう。一方、累積ねじれ角の最大振幅MAが1200×T1degを越えれば、光ファイバ裸線部分から被覆層に加えられる応力が大きすぎて、光ファイバ裸線部分と被覆層との間に剥離が生じたり、被覆層に割れが発生したりするおそれがある。
【0078】
なお、被覆層が硬化した後の外力解放状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれ量は、例えば次のような方法によって測定することができる。
すなわち、
a):光ファイバ素線を1m程度切り取り、サンプルとする。
b):サンプルの片端を固定し、垂直方向に吊り下げる。
c):吊り下げたサンプルのねじれを解放させ、サンプルの下端にクリップを取り付けて、静止させ、クリップを固定する。
d):前記c)の状態を保ったまま、サンプル(光ファイバ素線)の被覆層を、1mの長さにわたって除去(剥離)する。
e):クリップの固定状態を解放して、自由垂下状態とする。
f):前記e)の固定状態から解放したときのクリップの回転角度を測定する。
g):必要に応じて上記のa)〜f)の過程を複数回繰り返して、回転角度のプロファイル(分布)を求める。
ここで、上述のように光ファイバ素線を吊り下げて被覆層を除去し、その状態でf)のように固定を解放させたときの回転角度は、弾性的にねじれが戻った量、すなわち裸線に残留保持されていたねじれ量に対応する。したがってその回転角度が、裸線1mあたりの残留弾性ねじれ量(deg/m)に相当する。
【0079】
さらに、前記同様に、被覆層が硬化しかつ外力が解放されて、被覆層の弾性反発力によって、その被覆層が第1の弾性ねじりを戻す方向にねじられ、それらの第1の弾性ねじれによる力と被覆層の弾性ねじれによる力(弾性反発力)とがバランスして、第1の弾性ねじりが裸線部分に残留保持されている状態で、被覆層に生じた弾性ねじれは、1400deg/m〜12800deg/mの範囲内とすることが望ましい。被覆層の弾性ねじれが1400deg/m未満では、被覆層のヤング率や厚さ等の被覆特性のバランスが悪くなり、マイクロベンド特性や耐環境特性、取扱い性などが悪くなる。一方被覆層の弾性ねじれが12800deg/mを越えれば、被覆層に剥がれや割れが生じるおそれがある。なおここで、被覆層の弾性ねじれは、既に述べたように、光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれ量(被覆層硬化前)をA(deg)、付与された第1の弾性ねじれのうち、被覆層硬化後の状態(外力が解放されている状態)で、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれ力と被覆層の弾性反発力とのバランスによって光ファイバ裸線部分に残留している弾性ねじれ量をB(deg)とし、かつ第1の弾性ねじれの反転周期をT1(m)とすれば、次式
(A−B)/(T1/4)
によって与えられるねじれ量(deg/m)である。
【0080】
図8には、本発明の光ファイバを製造するための装置のうち、光ファイバ素線製造装置の部分の別の実施形態を示す。この図8に示す光ファイバ素線製造装置は、2層構造の被覆層を有する光ファイバ素線を製造するために、被覆装置および被覆硬化装置を、それぞれ2箇所に設置したものである。すなわち、紡糸用加熱炉14から引き出された光ファイバ裸線16を冷却、固化させるための冷却装置18の直下に一次被覆装置20Aを設置し、さらにその下流側に一次被覆硬化装置22Aを設置して、先ず一次被覆層の被覆、硬化を行い、さらに一次被覆硬化装置の下流に二次被覆装置20Bおよび二次被覆硬化装置22Bをその順に設置して、一次被覆層上に改めて二次被覆層の被覆、硬化を行い、その下流で第1のねじれ付与装置26により第1の弾性ねじれを付与するように構成している。このように2層構造の被覆層を有する光ファイバ素線を製造するにあたって、2箇所で別々に被覆層を被覆、硬化する場合も、ねじれの付与、保持および残留については、図1に基づいて説明したものと同様であり、またその望ましい条件についても前記と同様である。
【0081】
次に図9には、前述のようにして製造された光ファイバ素線(第1の弾性ねじれが付与されている光ファイバ素線)に、改めて第2のねじれ付与装置により第2の弾性ねじれを付与するための設備の1例を示し、図9を参照しながら第2の弾性ねじれを付与する状況、および第2の弾性ねじれの好ましい条件について説明する。
【0082】
図9において、送り出しボビン41には、例えば図1に示したような光ファイバ製造装置10によって製造された光ファイバ素線(既に第1の弾性ねじれが付与されている素線)24が巻き付けられており、この送り出しボビン41から光ファイバ素線24が、送り出し側ダンサーロール43、送り出し側キャプスタン45を経て第2のねじれ付与装置47に導かれる。この第2のねじれ付与装置47は、公知のものと同様であればよく、例えば光ファイバ素線が外周上に巻き掛けられる溝つきロール49がねじれ付与方向に回転するように構成されていればよく、その他、第1のねじれ付与装置として図2あるいは図3に示したようなねじれ付与装置を適宜適用することができる。
第2のねじれ付与装置47によりねじれが付与された光ファイバ素線24は、さらにプーリー50、巻取り側キャプスタン51、巻取り側ダンサーロール53を経て、巻取りボビン55によって巻き取られる。
【0083】
上述のような第2のねじれ付与装置によって光ファイバ素線に付与される第2の弾性ねじれは、光ファイバ素線の樹脂被覆層が既に硬化している状態で付与されるため、第1の弾性ねじれとは異なり、外力が完全に解放されれば、ねじれが戻ってしまう(ねじれがなくなる)ねじれである。すなわち、その後の光ケーブルなどの最終使用形態とするまでの工程で戻ってしまうことがあるねじれである。ただし一般には、この第2の弾性ねじれも、最終使用形態においても若干は残留していることが多い。なお、既に述べたように、第1の弾性ねじれは樹脂被覆層によって保持されているため、与えた第1の弾性ねじれの20%程度以上は、最終使用形態でも確実に残留している。
【0084】
また、第2のねじれ付与装置により光ファイバ素線に加えるねじれ(第2の弾性ねじれ)は、一方向に連続するものであってもよいが、第1の弾性ねじれと同様に、ねじれ方向を、時計方向、反時計方向に周期的に反転させることが、外部的要因によるPMDの増加抑制に対してより有効となる。このように第2の弾性ねじれとして、ねじれの方向が反転するねじれを付与する場合の反転ねじれプロファイルの波形は、一般には正弦波状とすればよいが、その他、三角波状、あるいは台形波状など、特に限定されるものではない。
【0085】
ここで、第2の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルの反転周期T2、ねじれ角(最大累積ねじれ角=反転ねじれプロファイルの振幅)は、第1の弾性ねじれとの関係で好ましい値が選択される。具体的なこれらの数値については、後に改めて詳細に説明するが、第2の弾性ねじれの反転周期T2は、第1の弾性ねじれの反転周期T1とは異ならしめることが望ましい。この場合、第2の弾性ねじれの反転周期T2を第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも短くするケースと、第2の弾性ねじれの反転周期T2を第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも長くするケースとがある。PMDの低減効果の観点からすれば、ねじれの反転周期は短いことが好ましく、その点からは、第2の弾性ねじれの反転周期T2を第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも短くすることが考えられる。一方、ねじれの戻り易さの観点からすれば、反転周期が短いほど、戻りやすくなる。すなわち、ねじれ付与後の工程において、ねじれ戻りを阻止するプーリなどの部材に接していない自由距離とねじれ戻り量との間には相関関係があり、その自由距離内における反転回数が多いほど戻りやすくなるから、反転周期が短いほどねじれが戻りやすくなる。ここで第2の弾性ねじれは、第1の弾性ねじれとは異なり、樹脂被覆層により保持されないねじれであるから、ねじれの戻り易さを重視することが好ましく、そこで本発明の場合、第2の弾性ねじれの反転周期T2は、第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも長く定めることが望ましい。
【0086】
次に、第1の弾性ねじれ、第2の弾性ねじれについて、それぞれねじれの方向を反転させる場合の反転ねじれプロファイルの反転周期、ねじれ角(最大累積ねじれ角=ねじれプロファイルの振幅)の好ましい数値範囲について、PMDの抑制効果との関係に基づき、本発明者らの実験結果(図10〜図16)を参照しつつ、詳細に説明する。
【0087】
先ずPMDの計算方法について説明すれば、PMDの計算には、JME法を適用した。具体的には、次の文献し示される方法を適用した。
B. L. Heffner, “Automated measurement of polarization mode dispersion using Jones matrix eigenanalysis,”Photonics Technology Lett., vol.4, no.9, p.1066, 1992
ここで、計算に用いたジョーンズマトリクスは、互いに薄い(Δz)の側圧により生じる直線複屈折媒質中を平面波が伝搬するとして近似した。直線複屈折媒質中のある周波数をもつ平面波の伝搬定数をβa(ω)、βb(ω)とした場合、各層、各周波数ごとのジョーンズマトリクスは、
【0088】
【数1】
【0089】
と示せる。ここで、θは、ねじれによって生じるΔz間における旋光能による偏光面の回転角度を示す。
したがって、ファイバ長N×Δz全体でのジョーンズマトリクスは、
【0090】
【数2】
【0091】
と算出することができる。
以上の方法にて、PMDの計算を実施した。計算は下記の条件で実施し、一定の一方向側圧印加状態を仮定し、その時に生じるPMDの変化を計算した。ただし、ファイバ内部的要因により生じる複屈折に対して、外部的要因により生じる複屈折は、通常は1桁以上大きなオーダーとなるから、ファイバ内部的要因により生じる複屈折は無視した。
【0092】
付与する弾性ねじれの条件を種々変化させて、上記方法によりPMDを測定した結果を図10〜図16に示す。なお図10〜図16において、縦軸のPMD変化率とは、弾性ねじれを全く付与していない状態(したがってねじれの振幅が0の状態)で光ファイバ素線に外力(側圧)を加えたときのPMD値を1とし、光ファイバ素線に外力(側圧)を加えていない状態でのPMD値を0として、その間のPMD値の割合を表したものである。
【0093】
先ず図10には、1種類のみの弾性ねじれが印加された状態でのPMD変化率について、弾性ねじれの周期、振幅に対する依存性を示す。なおこの弾性ねじれの種類は特に第1、第2のいずれかに拘泥されるものではなく、要は弾性ねじれが全く解放されていない状態で測定したものである。ここで、反転ねじれプロファイルは正弦波とし、ねじれの反転周期を、5m、10m、20m、30mの4段階に変え、それらの各周期における反転ねじれ振幅(最大累積ねじれ角度)によるPMDの変化を示している。この結果から、ねじれの反転周期が短いほど、短い反転周期でPMDが減少しやすいことがわかる。例えば30m周期では、PMDが減少するのに必要な振幅が大きくなってしまう。一方で、振幅の変化によるPMD減少率が振動していることも明らかである。これは、ねじれの戻りのわずかな違いによるPMDの変化が大きいことを示している。言い換えれば、弾性ねじれについては、その戻りについてまで厳密にコントロールしなければ、PMDに関する品質補償ができないということを示している。
【0094】
図11〜図13には、2種類の弾性ねじれ(第1および第2の弾性ねじれ)を印加した状態でのPMDの変化率を示す。すなわち図11には、第1の弾性ねじれの反転周期T1が5m、振幅が2500deg(残留する振幅500deg)の場合について、第2の弾性ねじれの反転周期T2を、5m、10m(5m×2)、15m(5m×3)、20m(5m×4)として、第2の弾性ねじれの振幅を変化させたときのPMD変化率について示している。また図12には、第1の弾性ねじれの反転周期T1が10m、振幅が5000deg(残留する振幅1000deg)の場合について、第2の弾性ねじれの周期T2を、10m(10m×1)、20m(10m×2)、30m(10m×3)、40m(10m×4)として、第2の弾性ねじれの振幅を変化させたときのPMD変化率について示している。さらに図13には、第1の弾性ねじれの周期T1が15m、振幅が7500deg(残留する振幅1500deg)の場合について、第2の弾性ねじれの周期T2を、15m(15m×1)、30m(15m×2)、45m(15m×3)、60m(15m×4)として、第2の弾性ねじれの振幅を変化させたときのPMD変化率について示している。
【0095】
また、図14〜16には、第2の弾性ねじれの周期T2が第1の弾性ねじれの周期T1と同じ場合(×1)、および第2の弾性ねじれの周期T2が第1の弾性ねじれの周期T1の6倍(×6)以上に大きな場合について示した。すなわち図14には、第1の弾性ねじれの周期T1が5mに対し、第2の弾性ねじれの周期T2が5m(5m×1)、30m(5m×6)、40m(5m×8)、50m(5m×10)、60m(5m×12)、70m(5m×14)の場合を示す。さらに図15には、第1の弾性ねじれの周期T1が10mに対し、第2の弾性ねじれの周期T2が10m(10m×1)、60m(10m×6)、80m(10m×8)、100m(10m×10)の場合を示す。また図16には、第1の弾性ねじれの周期T1が15mに対し、第2の弾性ねじれの周期T2が15m(15m×1)、90m(15m×6)、120m(15m×8)、150m(15m×10)、の場合を示す。
【0096】
これらの結果から、
A: 第1の弾性ねじれとして付与したねじれの残留分の影響により、第2の弾性ねじれが完全に解放されてしまっても、PMD変化率は1にはならず、PMD抑制効果が得られる。
B: 第2の弾性ねじれの反転周期T2を、第1の弾性ねじれの反転周期T1に対して4倍以上とし(図11の場合は20m以上、図12の場合は40m以上)、かつ第2の弾性ねじれの振幅を500〜5000degとすることにより、PMD変化率が小さくなり、PMD抑制効果が大きくなる。
C: 第2の弾性ねじれの振幅を5000deg以上としても、PMD変化率の値が小さくなる傾向、すなわちPMD抑制効果が高くなる傾向が認められなくなる。
D: 図13から、第1の弾性ねじれの周期T1が15mである場合について、第2の弾性ねじれの周期T2が60m以上では、PMD変化率が低くならず、PMD抑制効果が得られない。
E: 第2の弾性ねじれの周期T2を、第1の弾性ねじれの周期T1(図14の場合5、図15の場合10m)に対して8倍以下(図14の場合、40m以下、図15の場合80m以下)とし、第2の弾性ねじれの振幅を500〜5000degとすることにより、PMD変化率が小さくなっていること、すなわちPMD低減効果が大きいことがわかる。
以上から、第1の弾性ねじれの反転ねじれの周期T1は5〜10mの範囲内が望ましく、同じく第1の弾性ねじれの振幅(最大累積ねじれ角度)は、ねじれの印加時において500×T1〜4000×T1degの範囲内、残留分で100×T1〜1200×T1degの範囲内が好ましいこと、さらにその場合において、第2の弾性ねじれについては、反転ねじれの周期T2が第1の弾性ねじれの周期T1の4〜8倍の範囲内、振幅(最大累積ねじれ角度)が、ねじれ印加時にて300〜5000degの範囲内が望ましいことが確認された。
【0097】
以下に本発明の実施例を、比較例とともに説明する。なお以下の実施例は、本発明の作用効果を明確化するためのものであって、実施例に記載された条件が本発明の技術的範囲を限定しないことはもちろんである。
【実施例】
【0098】
〔実施例1〕
一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線を製造するにあたり、本発明に従って第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付与した光ファイバ素線を製造した。光ファイバ素線製造装置としては図1に示す装置を用い、かつその製造装置内における第1のねじれ付与装置として図3に示すような装置を用い、さらに第2のねじれ付与装置として図9に示すような装置を用いた。
【0099】
光ファイバ母材からの紡糸速度(線引き速度)は、2000mm/minとし、また被覆装置は、1箇所で2種類の被覆樹脂をコーティングする2層同時コーティング方式(wet on wet方式)を適用した。一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率0.5MPa)を用い、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1000MPa)を用いた。またこれらの被覆時の液体樹脂の粘度は、ともに1Pa・secとし、被覆装置により塗布後、被覆硬化装置としてのUVランプによって硬化させた。第1の弾性ねじれは、被覆硬化装置によって被覆樹脂が硬化した直後に与えた。なお第1のねじれ付与装置よりも上流側には、被覆樹脂以外は、光ファイバ素線に物理的に接触するものがないような状態で線引きした。
【0100】
ここで、第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500deg(500×5)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。第1のねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、ガイドプーリを経て引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取り、光ファイバ裸線部分に第1の弾性ねじれ(第1のツイスト)が付与されている光ファイバ素線を得た。なお仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径(一次被覆層外径)は200μm、セカンダリ径(二次被覆層外径)は250μmであった。
【0101】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が20m、最大振幅が500degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0102】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、鉄製のφ400mmのボビンに巻張力200gfで1000mの長さをファイバ同士が重ならないように1層になるように巻き返し、光ファイバ素線に側圧を意図的に与えた。すなわち外部的要因によりPMDが生じやすい条件とした。巻き返し後の素線のねじれを測定したところ、第2の弾性ねじれとして付与したねじれについては、周期T2は20mで変わらず、最大振幅は400degとなっており、第2の弾性ねじれのうち20%が解放されていることを確認した。
【0103】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ裸線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去し、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が500degであることが確認された。
【0104】
その後、ファイバ温度の安定化のため1時間以上放置後、PMDを測定した。なおPMDの測定は、ヒューレットパッカード社製のHP8509Bを使用し、JME法(Jones Matrix Eigenanalysis法)による測定を行った。測定波長は1510〜1600nmとし、2nmステップでスキャンした。その結果、張力付与巻きによる巻き返しの側圧が加わった状態でのPMD値(PMD1)は、0.05ps/√kmと非常に小さかった。
【0105】
次に、同様の張力巻による巻き返しを再度実施した。巻き返しの後のねじれを測定したところ、第2の弾性ねじれについては、周期T2は20mで変わらず、最大振幅は300degとなっており、第2の弾性ねじれのうちさらに約20%が解放されていることを確認した。なお光ファイバ裸線に付与した第1の弾性ねじれについては、変化がないことが確認された。放置後、PMD測定を実施した結果、PMD(第2回目張力付与による巻き返しの側圧が加わった状態でのPMD値=PMD2)は、0.10ps/√kmと非常に小さかった。
【0106】
さらに、同様の張力巻による巻き返しを再度実施した。巻き返し後のねじれを測定したところ、第2の弾性ねじれについては、周期T2は20mで変わらず、最大振幅は250degとなっており、第2の弾性ねじれのうちさらに約20%が解放されていることを確認した。なお光ファイバ裸線に付与した第1の弾性ねじれについては、変化がないことが確認された。放置後、PMD測定を実施した結果、PMD(第3回目張力付与による巻き返しの側圧が加わった状態でのPMD値=PMD3)は0.13ps/√kmと非常に小さかった。
【0107】
最後に、巻き返し装置にて、フリー長(光ファイバにプーリ等の接触のしない距離)を10m確保し、光ファイバ素線を巻き返し、光ファイバに加えられている第2の弾性ねじれを意図的に解放した。その後、同様の張力巻による巻き返しを再度実施し、PMD測定を実施した結果、PMD(第2の弾性ねじれ解放後のPMD値=PMD4)は、0.18ps/√kmであった。
【0108】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは、第2の弾性ねじれを解放して第1の弾性ねじれだけが残留している状態のPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めると0.05ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0109】
〔比較例1〕
第1の弾性ねじれを付与しないこと以外は、実施例1と同様にして光ファイバ素線を製造した。そして実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。その結果、ねじれが完全には解放されていない段階でのPMD1=0.05(残留ねじれ最大振幅2000deg)、PMD2=0.21(残留ねじれ最大振幅1600deg)、PMD3=0.23(残留ねじれ最大振幅1250deg)であり、さらに第2の弾性ねじれの完全解放後のPMD4=0.55であり、標準偏差は0.21ps/√kmであった。
【0110】
以上から、PMD1〜PMD3は、ねじれ解放後のPMD4よりは小さいものの、標準偏差が大きくなっていることがわかる。これは、この比較例1の場合、第1の弾性ねじれを付与していないため、ねじれ解放後のファイバには、残留ねじれ分が存在しないことが原因と解される。
【0111】
〔実施例2〕
一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線を製造するにあたり、本発明に従って第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付与した光ファイバ素線を製造した。光ファイバ素線製造装置としては図8に示す装置を用い、かつその製造装置内における第1のねじれ付与装置として図3に示すような装置を用い、さらに第2のねじれ付与装置として図9に示すような装置を用いた。
【0112】
光ファイバ母材からの紡糸速度(線引き速度)は、1500mm/minとした。被覆―硬化方式としては、図8に示しているように、2箇所でそれぞれ別の被覆樹脂をコーティングする方式(wet on dry方式)を適用した。一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1.0MPa)を用い、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率500MPa)を用いた。またこれらの被覆時の液体樹脂の粘度は、プライマリ材料は3Pa・sec、セカンダリ材料は0.1Pa・secとし、一次被覆装置20Aにより液体状態のプライマリ材料を被覆した後、一次被覆硬化装置22AとしてのUVランプによって硬化させてから、二次被覆装置20Bによりセカンダリ材料を被覆して、二次被覆硬化装置22BとしてのUVランプによって硬化させた。第1の弾性ねじれは、二次被覆硬化装置22Bによってセカンダリ材料が硬化した直後に与えた。なお第1のねじれ付与装置26よりも上流側については、被覆樹脂以外は光ファイバ素線に物理的に接触するものがないような状態で線引きした。
【0113】
ここで、第1のねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に反転させる三角波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが20000degとなるように、第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。第1のねじれ付与装置26を通過後の光ファイバ素線24は、ガイドプーリ28を経て図示しない引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径(一次被覆層外径)は190μm、セカンダリ径(二次被覆層外径)は240μmであった。
【0114】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0115】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が20m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0116】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない段階でのPMD1=0.08ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2=0.04(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3=0.06(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4=0.16であり、標準偏差は0.05ps/√kmであった。
【0117】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.05ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0118】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が4000degであることが確認された。
【0119】
〔実施例3〕
実施例2と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時(液体状態)の粘度は、プライマリ材料は0.1Pa・sec、セカンダリ材料は3Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる台形波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが5000deg(500×10)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。第1のねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は180μm、セカンダリ径は260μmであった。
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0120】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m、最大振幅が300degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0121】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.10ps/√km(残留ねじれ最大振幅240deg)、PMD2は0.14(残留ねじれ最大振幅200deg)、PMD3は0.20(残留ねじれ最大振幅160deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.28であり、標準偏差は0.08ps/√kmであった。
【0122】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差は0.08ps/√kmと、非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0123】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1000degであることが確認された。
【0124】
〔実施例4〕
実施例3と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時(液体状態)の粘度は、実施例3と同じくプライマリ材料は0.1Pa・sec、セカンダリ材料は3Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが40000degとなるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。第1のねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0125】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0126】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0127】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.04ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.05(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.03(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.12であり、標準偏差は0.04ps/√kmであった。
【0128】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差は0.04ps/√kmと、非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0129】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が8000degであることが確認された。
【0130】
〔比較例2〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500°となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0131】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0132】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が5m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0133】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.04ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.20(残留ねじれ最大振幅2500deg)、PMD3は0.24(残留ねじれ最大振幅1000deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.18であり、標準偏差は0.09ps/√kmであった。
【0134】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは、第2の弾性ねじれを完全に解放させて第1の弾性ねじれのみのPMD4ではなく、PMD3であり、第2の弾性ねじれが残っているにも拘わらず、PMDが高くなっていることがわかる。これは、第1の弾性ねじれの周期T1と第2の弾性ねじれの周期T2が同じ場合、最終的な反転ねじれプロファイルは、第1の弾性ねじれ残留振幅と第2の弾性ねじれ振幅の単純な足し合わせとなり、図10に示した5m周期の波形のようにPMD減少率が周期的に変動するためである。つまり、第1の弾性ねじれの残留振幅がPMD変動率の変動周期のピーク位置に残留しない限り、第2の弾性ねじれ印加により、PMDが上昇する場合があり、第2の弾性ねじれを第1の弾性ねじれと分けて印加している意味がないといえる。
また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.09ps/√kmとばらつきは小さくなっているが、上記の理由により、より細かく残留ねじれに対するPMDを測定すればPMD値が振動している筈と考えられ、その場合、ばらつきも大きくなっていると解される。
【0135】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が500degであることが確認された。
【0136】
〔比較例3〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500degとなるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0137】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0138】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が10m、最大振幅が4000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0139】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.10ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.05(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.20(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.18であり、標準偏差は0.07ps/√kmであった。
【0140】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは、第2の弾性ねじれを完全に解放して第1の弾性ねじれのみの状態でのPMD4ではなく、PMD3であり、第2の弾性ねじれが残っているにも関わらず、PMDが高くなっていることがわかる。すなわち、比較例2と同様に、第1の弾性ねじれの周期T1に対して第2の弾性ねじれの周期T2が4倍未満の場合、第2の弾性ねじれを印加している意味がないといえる。
また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.07ps/√kmとばらつきは小さくなっているが、上記の理由により、より細かく残留ねじれに対するPMDを測定すればPMD値が振動している筈であり、そうなればばらつきも大きくなると考えられる。
【0141】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が500degであることが確認された。
【0142】
〔比較例4〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料は3.5Pa・sec、セカンダリ材料は0.5Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる三角波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500degとなるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は180μm、セカンダリ径は260μmであった。
【0143】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0144】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が20m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0145】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.05ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.12(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.15(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.35であり、標準偏差は0.13ps/√kmであった。
【0146】
以上のように、この比較例4の場合、第1の弾性ねじれ付与時のプライマリ樹脂粘度が高いために、紫外線硬化前にガラスに加えられたねじれが相殺され、残留ねじれ減少してしまい、そのため、第2の弾性ねじれ解放後のPMD4も高くなってしまった。またこの影響で標準偏差が大きくなってしまっており、好ましくない結果となった。
【0147】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が250degであることが確認された。
【0148】
〔比較例5〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料は2Pa・sec、セカンダリ材料は0.05Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる三角波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500degとなるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は180μm、セカンダリ径の平均は260μmであったが、セカンダリ径の変動が±5μm以上と非常に大きくなってしまった。これは、セカンダリ材料の樹脂粘度が小さすぎるためにコーティングが安定しなかったことが原因である。そのため、以降の第2の弾性ねじれ印加およびPMDの評価は実施しなかった。
【0149】
〔比較例6〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が3m、累積ねじれ角の最大振幅MAが1500deg(500×3)となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0150】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0151】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が30m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0152】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.28ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.30(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.38(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.40であり、標準偏差は0.13ps/√kmであった。
【0153】
この比較例6では、第1の弾性ねじれの周期T1が短いために、紫外線硬化前にガラスに加えられたツイストが相殺され、残留ねじれが減少した。そのため、第2の弾性ねじれを解放した後のPMD4が高くなった。この影響で第1の弾性ねじれを印加した効果が少なくなっており、好ましくないことが判明した。
【0154】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が100degであることが確認された。
【0155】
〔比較例7〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する弾性ねじれは、その反転ねじれプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが25000deg(4000×5=20000以上)となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0156】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0157】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が20m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0158】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.04ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.10(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.12(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.12であり、標準偏差は0.03ps/√kmであり、PMD抑制効果は良好であった。
しかしながら、この比較例7による光ファイバ素線を恒温槽に入れ、−40℃〜+80℃のヒートサイクル試験を行った後、被覆観察を行ったところ、被覆層に割れが見られた。第1の弾性ねじれの量(振幅)が大きすぎたために、被覆層にかかる応力が大きくなり、割れが生じたものと考えられる。したがって比較例7による光ファイバ素線は、実用上好ましくないことが分かる。
【0159】
ここで、比較例7について、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が5000degであることが確認された。このことから、被覆層に加わっている弾性ねじれは、反転周期5mについて、
25000deg−5000deg=20000deg
であって、この累積弾性ねじれが、周期T1の1/4で被覆層に加わるため,被覆層の弾性ねじれとしては、16000deg/m相当の過大な弾性ねじれ力が被覆層に加わっているとみなすことができる。
【0160】
そして以上の各実施例、各比較例における、被覆層硬化後に外力を解放した状態で被覆層に加わっている弾性ねじれについての調査結果から、被覆層の弾性ねじれ量として、1400〜12800deg/mの範囲内では被覆層の剥離や割れが認められなかったが、比較例7に示しているように、16000deg/mでは被覆層の剥離や割れが生じたことから、被覆層に加える弾性ねじれ量は、1400〜12800deg/mの範囲内が好ましいことが分かる。
【0161】
〔比較例8〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大振幅MAが5000degとなるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0162】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m、最大振幅が200degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0163】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.28ps/√km(残留ねじれ最大振幅0deg)、PMD2は0.28(残留ねじれ最大振幅0deg)、PMD3は0.28(残留ねじれ最大振幅0deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.28であった。
【0164】
この比較例8では、第2の弾性ねじれの印加ねじれ量(振幅)が少なすぎるため、1回の巻き返しによってほぼねじれが解放され、第2の弾性ねじれを入れた効果がなかった。このことから、第2の弾性ねじれの振幅としては、300deg以上が望ましいことが分かる。
【0165】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1000degであることが確認された。
【0166】
〔比較例9〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大振幅MAが5000degとなるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0167】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m、最大振幅が8000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0168】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.2ps/√km(残留ねじれ最大振幅6600deg)、PMD2は0.15(残留ねじれ最大振幅6000deg)、PMD3は0.2(残留ねじれ最大振幅5000deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.28であった。
【0169】
この比較例9では、第2の弾性ねじれの印加ねじれ量(振幅)が大きすぎるため、実施例3と比較して、PMD1〜3が高い結果となっている。すなわち、第2の弾性ねじれの印加ねじれ量(振幅)が大きすぎても、効果的にPMDを低減することができないことが確認された。したがってこのことから、第2の弾性ねじれの振幅を5000deg以下とすることが、効率的にPMDを低減するために望ましいといえる。
【0170】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1000degであることが確認された。
【0171】
〔実施例5〕
一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線を製造するにあたり、本発明に従って第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付与した光ファイバ素線を製造した。光ファイバ素線製造装置としては図8に示す装置を用い、かつその製造装置内における第1のねじれ付与装置として図3に示すような装置を用い、さらに第2のねじれ付与装置として図9に示すような装置を用いた。
【0172】
光ファイバ母材からの紡糸速度(線引き速度)は、1000mm/minとした。被覆―硬化方式としては、図8に示しているように、2箇所でそれぞれ別の被覆樹脂をコーティングする方式(wet on dry方式)を適用した。一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1.2MPa)を用い、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1300MPa)を用いた。またこれらの被覆時の液体樹脂の粘度は、プライマリ材料は3Pa・sec、セカンダリ材料は1Pa・secとし、一次被覆装置20Aにより液体状態のプライマリ材料を被覆した後、一次被覆硬化装置22AとしてのUVランプによって硬化させてから、二次被覆装置20Bによりセカンダリ材料を被覆して、二次被覆硬化装置22BとしてのUVランプによって硬化させた。第1の弾性ねじれは、二次被覆硬化装置22Bによってセカンダリ材料が硬化した直後に与えた。なお第1のねじれ付与装置26よりも上流側については、被覆樹脂以外は光ファイバ素線に物理的に接触するものがないような状態で線引きした。
【0173】
ここで、第1のねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に反転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500degとなるように、第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。第1のねじれ付与装置26を通過後の光ファイバ素線24は、ガイドプーリ28を経て図示しない引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径(一次被覆層外径)は190μm、セカンダリ径(二次被覆層外径)は260μmであった。
【0174】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0175】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m(周期T1の8倍)、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0176】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない段階でのPMD1=0.03ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2=0.08(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3=0.1(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4=0.15であり、標準偏差は0.05ps/√kmであった。
【0177】
以上から、周期T1と比較して周期T2が8倍という条件においても、4回の測定PMDのうち、最もPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.05ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0178】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が750degであることが確認された。
【0179】
〔実施例6〕
実施例5と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが20000deg(400×5)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。その他の点は、実施例5と同様とした。
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0180】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m、最大振幅が500degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0181】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.04ps/√km(残留ねじれ最大振幅400deg)、PMD2は0.06(残留ねじれ最大振幅320deg)、PMD3は0.11(残留ねじれ最大振幅160deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.13であり、標準偏差は0.04ps/√kmであった。
【0182】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が6000degであることが確認された。
【0183】
以上から、周期T1と比較して周期T2が8倍という条件においても、4回の測定PMDのうち、最もPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.04ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0184】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が6000degであることが確認された。
【0185】
〔実施例7〕
実施例5と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが5000deg(500×10)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。その他の点は、実施例5と同様とした。
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0186】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が80m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0187】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.12ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.15(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.18(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.25であり、標準偏差は0.06ps/√kmであった。
【0188】
以上から、周期T1と比較して周期T2が8倍という条件においても、4回の測定PMDのうち、最もPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.06ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0189】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1500degであることが確認された。
【0190】
〔実施例8〕
実施例5と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが40000deg(4000×10)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。その他の点は、実施例5と同様とした。
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0191】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が80m、最大振幅が500degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0192】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.1ps/√km(残留ねじれ最大振幅400deg)、PMD2は0.17(残留ねじれ最大振幅320deg)、PMD3は0.14(残留ねじれ最大振幅250deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.23であり、標準偏差は0.05ps/√kmであった。
【0193】
以上から、周期T1と比較して周期T2が8倍という条件においても、4回の測定PMDのうち、最もPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.05ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0194】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1200degであることが確認された。
【0195】
〔比較例10〕
実施例8と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが5000deg(500×10)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。その他の点は、実施例5と同様とした。
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0196】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が100m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0197】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.04ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.17(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.26(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.3であり、標準偏差は0.12ps/√kmであった。
【0198】
以上から、4回の測定PMDのうち、最もPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっているが、4回のPMD測定結果の標準偏差は、0.12ps/√kmと、非常にばらつきが大きいことが分かる。すなわち、周期T1と比較して周期T2が10倍と、8倍より大きい条件下では、第2の弾性ねじれ量によるPMD変動が大きくなり、好ましくない結果となった。
【0199】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1500degであることが確認された。最大振幅が1500degであることが確認された。
【0200】
以上の実施例、比較例における弾性ねじれの付与条件を表1に、またそれらの結果(PMD抑制効果)を表2に、それぞれまとめて示す。
【0201】
【表1】
【0202】
【表2】
【符号の説明】
【0203】
10 光ファイバ素線製造装置
12 光ファイバ母材
14 紡糸用加熱炉
16 光ファイバ裸線
18 冷却装置
20 被覆装置
22 被覆硬化装置
24 光ファイバ素線
26 第1のねじれ付与装置
47 第2のねじれ付与装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス系光ファイバで代表される光ファイバおよびその製造方法、製造装置に関し、とりわけ光ファイバの偏波モード分散(Polarization Mode Dispersion;以下“PMD”と記す)を低減する技術、特に側圧や曲がりなどの外乱が加わってもPMDの増加量が少ない光ファイバおよびその製造方法、製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、PMDは、光ファイバ中の二つの直交する偏波モード成分間に伝搬時間差(遅延差)が生じる現象であり、このようなPMDが大きくなれば、デジタル伝送においてファイバ中を伝送される信号光に波形劣化が生じて隣り合うパルスの分離が困難となったり、また伝送容量が制限されてしまうなどの問題が生じるから、PMDはできるだけ小さく抑制することが望まれる。
【0003】
PMDは、光ファイバの光学的異方性によって生じる現象であり、その発生要因は、光ファイバの内部の構造や材質などに由来して光学的異方性が生じる内部的要因と、光ファイバの外部からの応力などにより光学的異方性が生じる外部的要因とに大別される。
【0004】
内部的要因のうち、もっとも大きい影響をあたえるのは、光ファイバの断面形状である。すなわち、光ファイバ素線の製造においては、ファイバ母材の製造方法やファイバ母材を紡糸(線引き)して光ファイバ裸線とするための方法の如何を問わず、光ファイバ素線のコア部分およびその周囲のクラッド部分を含め、断面形状を完全な真円形とすることは実際上困難であり、実際の製品では、わずかながらも楕円形状その他の形状に歪んだ断面形状を有するものとなる。このような断面形状の異方性が大きくなれば、断面における屈折率分布が完全な同心円状ではなくなり、複屈折が生じてPMDが大きくなってしまう。
【0005】
また一方、外部的要因の大きなものとしては、光ファイバにその外部から加えられる曲げや側圧など、非等方的に加えられる応力が挙げられ、このような非等方的な外部からの応力によっても複屈折が生じてPMDが増加してしまう。
【0006】
ところで光ファイバのPMDの低減のためには、光ファイバ素線にねじれを加えておくことが有効であるとされ、従来から特許文献1〜5に示すような提案がなされている。
【0007】
これらの特許文献のうち、特許文献1、特許文献2においては、光ファイバ裸線の紡糸時において、未だ光ファイバ母材が固化しないうちにねじれを加え、これによってねじれを永久的に固定する方法が示されている。これは、光ファイバ裸線に塑性変形としてねじれ(塑性ねじれ)を与えておき、光ファイバ素線への外力が解放された状態でもねじれがそのまま残るもの、すなわち永久変形としてねじれ状態が残るものと言うことができる。以下このような永久変形として残る塑性ねじれを、“スパン”と称することがある。
【0008】
一方、特許文献3〜5には、光ファイバが紡糸されて固化した後に、光ファイバ素線にねじれを与える方法が示されている。この場合のねじれは、弾性変形によるものであり、外力が解放されて光ファイバ素線がフリー状態となれば、ねじれが戻ってしまう弾性ねじれと言うことができる。この場合、その弾性ねじれが保持された状態のまま、最終的にケーブルなどの最終使用形態の製品に使用すること、すなわちケーブルなどの最終使用形態の製品としてその内部の光ファイバ素線にねじれが保持された状態で使用することを想定している。以下このような弾性ねじれを、“ツイスト”と称することがある。
【0009】
前述のようにPMDの発生原因は、内部的要因と外部的要因とに大別されるが、内部的要因によるPMDについては、特許文献1、特許文献2に示されるようなスパン(塑性ねじれ)を光ファイバ素線に加えておく方法が有効である。しかしながらこのようなスパンを与えても、外部的要因によるPMDの増加抑制に対しては有効でないことが知られている(例えば特許文献3参照)。
【0010】
一方、特許文献3〜5に示すように、ツイスト(弾性ねじれ)を与えておく方法は、側圧や曲げなどの外部的要因によるPMDの増加抑制に有効である。但しこのツイストは、外力が解放されれば、弾性的にねじれが戻ってしまうものである。ここで、ツイストを与えた光ファイバ素線を光ケーブルなどの最終使用形態の製品とするための実際の量産工程、例えば着色、テープ化、ケーブル化などの工程や、その工程間などにおいては、光ファイバ素線に与えられている摩擦力などの外力が解放されたり、あるいは摩擦力などの外力が著しく小さくなってしまうことがあり、その場合、ねじれが解放されてしまうかまたは著しく小さくなってしまって、外部的要因によるPMDの増加を抑制する効果が消失してしまうから、ケーブルなどの最終製品として、外部的要因によるPMDの増加を確実かつ安定して抑制することが困難であるという問題があった。
【0011】
ところで、上述のように光ファイバにツイスト(弾性ねじれ)を与える場合、特許文献3〜5にも記載されているように、周期的にねじれの方向(時計方向かまたは反時計方向か)を反転させることが望ましい。すなわち、ねじれ方向を、時計方向、反時計方向に周期的に反転させること(すなわち反転ねじれを付与すること)が、外部的要因によるPMDの増加抑制に対してより有効となり、また最終使用形態とするまでの間においてねじれが比較的解放されにくくなる。
【0012】
ここで、ねじれ方向を周期的に反転させる場合、光ファイバ素線の長手方向の距離に対するねじれ角度(連続するねじれについて、一定方向へのねじれ角度を累積させた角度、すなわち累積ねじれ角度)を、反転ねじれプロファイルとして、例えば正弦波状の曲線として描くことができる。そしてこの反転ねじれプロファイルにおいて、ある方向、たとえば時計方向へのねじれが開始されて、その時計方向でのねじれが付与された後、ねじれ方向が反転されて、反時計方向にねじれが付与され、その反時計方向のねじれが終了するまでの、光ファイバ素線上での長さを、ねじれの反転周期と称することとする。言い換えれば、ねじれの反転周期とは、ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との、連続する2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さ、と言うこともできる。そしてこの反転ねじれプロファイルにおける振幅は、1反転周期内での累積ねじれ角度の最大値(最大累積ねじれ角度)をあらわすことになる。
【0013】
しかるにツイスト(弾性ねじれ)として反転ねじれを付与した場合、ケーブルなどの最終使用形態において光ファイバ素線に残留するツイストの反転ねじれプロファイルを考慮すれば、その反転周期や振幅(最大累積ねじれ角度)のわずかな変化によって、PMD低減効果が大きく変動してしまう(例えば特許文献5のFig.5参照)という問題がある。この問題に対しては、特許文献3では、反転ねじれの反転周期や振幅を細かく変調させたり、ランダムにしたりするなどの方策を講じることとしているが、この場合でも、最終使用形態までの間でのねじれの解放という問題は解決されておらず、そのため、やはりPMD低減効果の安定化は不充分であった。例えば、反転周期や振幅が細かく変調された反転ねじれプロファイルであっても、最終使用形態とするまでの工程でねじれがすべて解放されてしまったり、またたとえ一部解放されずに最終使用形態まで残っていたとしても、短い周期の変調成分が解放されたり、細かい振幅の変調成分がなまったりして、最終使用形態では、結局は長い周期成分の反転ねじれしか残留しないことも多く、したがってケーブルなどの最終使用形態の製品として、その品質、特に外部的要因によるPMD増加防止性能を安定化させることは困難であった。
【0014】
以上のように、従来は、光ファイバに加えられる側圧や曲げなどの非等方的な外力などの外部的要因によるPMDの増加を、最終使用形態の製品においても確実かつ安定して抑制することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平8−295528号公報
【特許文献2】米国特許第6324872号明細書
【特許文献3】国際公開第2009/107667号パンフレット
【特許文献4】特開2010−122666号公報
【特許文献5】米国特許第7317855号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたもので、側圧や曲げなどの非等方的外力で代表される外部的要因に起因するPMDの増加を、ケーブルなどの最終使用形態の製品でも、確実かつ安定して抑制し得る光ファイバ、およびその製造方法、製造装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、前述の課題を解決するべく種々実験、検討を重ねた結果、光ファイバの製造過程の異なる段階で、異なる種類の弾性ねじれ(ツイスト)、すなわち第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを与えることとし、しかもそのうちの第1の弾性ねじれについては、加熱溶融された光ファイバ母材から線引きされて固化した光ファイバ裸線に液体状態(未硬化)の硬化性樹脂を被覆、硬化させる過程において、光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間に光ファイバ裸線に弾性ねじれを付与することによって、その弾性ねじれを、硬化した被覆樹脂によって固定(保持)させ、さらに前記硬化性樹脂の硬化後の光ファイバ素線の全体に、第2の弾性ねじれを付与することを考えた。そしてこの場合、第1の弾性ねじれは、光ケーブルなど最終使用形態内の光ファイバ素線においても、弾性ねじれ(ツイスト)として確実に保持することが可能となり、その結果、外部的要因によるPMDの増加を確実かつ安定して抑制し得ること、さらに第2の弾性ねじれも、多少なりとも最終使用形態まで残ることが多く、これらの2種の弾性ねじれの相乗的な効果によって、外部的要因によるPMDの増加を、より確実かつ安定して抑制し得ることを見い出した。
【0018】
ここで、硬化した被覆樹脂も弾性を有していて、一般にそのヤング率はガラスよりも小さいから、前記第1の弾性ねじれとして、前述のように光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間において光ファイバ裸線に弾性ねじれを付与しても、そのねじれをそのまま被覆樹脂によって固定すること、すなわちねじれの戻りを被覆樹脂によって完全に防止することは困難であり、ねじれ付与後に外力が解放されてフリー状態となれば、ある程度光ファイバ裸線部分のねじれが戻ってしまうことは避けられない。しかしながら、光ファイバ裸線部分のねじれが戻る際には、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りに伴って被覆樹脂層にその戻り方向のねじれが加えられ、この被覆樹脂層に与えられる戻り方向のねじれに対する被覆樹脂の弾性的反発力と、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りの力とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りは停止する。したがって、ねじれ付与後に外力が解放される際の光ファイバ裸線部分のねじれの戻りは100%行なわれるのではなく、被覆樹脂の弾性的反発力によって必ずある程度の割合で光ファイバ裸線部分のねじれが残る。そしてこの残ったねじれ分が、外力解放状態でも被覆樹脂によって保持され、弾性ねじれ(ツイスト)として機能するのである。後に改めて説明するように、通常は、このようにして与えた第1の弾性ねじれのうち、少なくとも20〜30%程度のねじれは残留して被覆樹脂によって保持されることが確認されている。そしてこのように被覆樹脂によって保持、固定された第1の弾性ねじれ(ツイスト)は、さらにテープ化、ケーブル化などの過程を経て最終使用形態の製品とするにあたって、仮に外力が解放されたとしても、確実に保持され、外部的要因によるPMDの増加の抑制に安定して有効となるのである。さらに、上述のような第1の弾性ねじれに加えて、光ファイバ裸線に被覆樹脂層を形成してその被覆樹脂が硬化した後の段階の光ファイバ素線に対し、別に第2の弾性ねじれを加えておくことによって、光ファイバ裸線の弾性ねじれを、確実かつ安定して保持することが可能となり、特に第1の弾性ねじれと第2の弾性ねじれとの関係を適切に設定することによって、外部的要因によるPMDの増加の抑制効果を、有効に発揮し得ることを見い出し、本発明をなすに至ったのである。
【0019】
したがって本発明の基本的な態様(第1の態様)による光ファイバは、光ファイバ裸線が硬化性樹脂からなる被覆層によって被覆された光ファイバ素線を有する光ファイバにおいて、
前記光ファイバ裸線の部分に、第1の弾性ねじれが与えられており、かつその光ファイバ裸線部分の第1の弾性ねじれが、そのねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持されており、しかも前記光ファイバ裸線および被覆層からなる光ファイバ素線の全体に、第2の弾性ねじれが付与されていることを特徴とするものである。
【0020】
このような態様の光ファイバにおいては、ファイバ裸線部分に付与された第1の弾性ねじれ(ツイスト)が、そのねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力により、ねじり付与時のねじれ量の少なくとも一部として保持されていて、最終使用形態である光ケーブルなどの状態でも、ファイバ裸線部分の弾性ねじれが確実かつ安定して保持され、そのため外部的要因によるPMDの増加を、確実かつ安定して抑制することができる。
【0021】
また本発明の第2の態様による光ファイバは、前記第1の態様の光ファイバにおいて、
前記光ファイバ裸線の部分の第1の弾性ねじれとして、その長手方向の所定長さ置きに、交互に逆方向のねじれが与えられており、かつ前記光ファイバ素線の全体の第2の弾性ねじれとして、その長手方向の所定長さ置きに、交互に逆方向のねじれが与えられていることを特徴とするものである。
【0022】
この第2の態様に示すように、第1の弾性ねじれ、第2の弾性ねじれとして、光ファイバ裸線部分にその長手方向の所定長さ置きに交互に逆方向の弾性ねじれが与えられている場合には、一方向のみに連続して弾性ねじれが付与されている場合と比較してねじれが解放されにくくなり、その結果、外部的要因によるPMDの増加を、より確実かつ安定して抑制することができる。
【0023】
また本発明の第3の態様による光ファイバは、前記第2の態様の光ファイバにおいて、
ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さをねじれの反転周期と定義し、前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、前記第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも大きく定められていることを特徴とするものである。
【0024】
このような第3の態様の光ファイバにおいては、第2の弾性ねじれの反転周期T2を、第1の弾性ねじれの反転周期T1より大きく設定しておくことによって、外部的要因によるPMDの増加を、より一層確実かつ安定して抑制することができる。
【0025】
さらに本発明の第4の態様による光ファイバは、前記第3の態様の光ファイバにおいて、第1の弾性ねじれの反転周期T1が5〜10mの範囲内とされ、かつ前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、第1の弾性ねじれの反転周期T1の4倍〜8倍の範囲内にあることを特徴とし、さらに第5の態様による光ファイバは、第1の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度が、前記被覆層の弾性反発力によって残留保持された状態で、100×T1deg 〜1200×T1degの範囲内にあり、かつ第2の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度が、300deg 〜5000degの範囲内にあることを特徴とするものである。
【0026】
これらの第4、第5の態様の光ファイバにおいては、第1、第2の弾性ねじれの反転周期T1、T2を適切に設定し、さらには第1、第2の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度を適切に規制することによって、外部的要因によるPMDの増加を、より一層確実かつ安定して抑制することができる。
【0027】
さらに本発明の第6の態様による光ファイバは、前記第1〜第5のいずれかの態様の光ファイバにおいて、前記光ファイバ裸線の部分に付与された第1の弾性ねじれを戻す方向に、被覆層に生じた弾性ねじれ量が、1400deg/m〜12800deg/mの範囲内にあることを特徴とするものである。
【0028】
ここで、被覆層に生じた弾性ねじれ量とは、第1の弾性ねじれを戻す方向に被覆層がねじられ、そのねじり力に抗する被覆層の弾性反発力によって第1の弾性ねじれの戻りが停止されるまでの間の被覆層ねじれ量を意味する。すなわち、光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれ量(被覆層硬化前)をA(deg)とし、付与された第1の弾性ねじれのうち、被覆層硬化後の状態(外力が解放されている状態)で、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれ力と被覆層の弾性反発力とのバランスによって光ファイバ裸線部分に残留している弾性ねじれ量をB(deg)とし、かつ第1の弾性ねじれの反転周期をT1(m)とすれば、次式
(A−B)/(T1/4)
によって与えられるねじれ量(deg/m)である。
【0029】
上記のような第6の態様による光ファイバにおいては、第1の弾性ねじれの付与に伴って生じる被覆層の弾性ねじれ量が適切に設定されているため、被覆層に適切な弾性反発力を生じさせ、これにより光ファイバ素線に付与された弾性ねじれの少なくとも一部を裸線部分に確実に保持させ、これによって外部的要因によるPMDの増加を、より一層確実かつ安定して抑制することができ、さらには被覆層に生じる剥がれや割れを防ぐことができる。
【0030】
さらに本発明の第7〜第15の態様は、上述のような第1、第2の弾性ねじれを付与した光ファイバを製造する方法についてのものである。
【0031】
すなわち第7の態様の光ファイバの製造方法は、光ファイバ裸線を未硬化の硬化性樹脂によって被覆し、その硬化性樹脂を硬化させてなる被覆層を形成した光ファイバ素線を有する光ファイバを製造する方法において;
前記硬化性樹脂が硬化する以前の段階で光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与し、その第1の弾性ねじれについて、素線に与えたねじれ量の少なくとも一部を前記被覆層によって光ファイバ裸線の部分に残留保持させ、さらに前記硬化性樹脂の硬化後の光ファイバ素線の全体に、第2の弾性ねじれを付与することを特徴とするものである。
【0032】
このような第7の態様の光ファイバ製造方法によれば、最終使用形態に至るまでの間の工程で、仮に第2の弾性ねじれが完全に解放されてしまったとしても、第1の弾性ねじれの残留分によって、外部的要因によるPMDの増加を抑制することができる。
【0033】
また第8の態様の光ファイバの製造方法は、前記第7の態様の製造方法において、
光ファイバ母材を加熱溶融して、所定の径の光ファイバ裸線を引き出し、その光ファイバ裸線が固化してからその外周上を液体状態の硬化性樹脂で被覆し、さらにその樹脂を硬化させて光ファイバ素線としてから、第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、
第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、第1のねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ固化後の光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれが付与されるとともに、その第1の弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその被覆樹脂が硬化することにより、被覆層によって第1の弾性ねじれの少なくとも一部が光ファイバ裸線の部分に保持され、
さらに、前記硬化性樹脂の硬化後の光ファイバ素線の全体に、第2のねじれ付与装置によって第2の弾性ねじれを付与することを特徴とするものである。
【0034】
このような第8の態様の光ファイバの製造方法においては、固化した光ファイバ裸線に付与された第1の弾性ねじれ(ツイスト)が硬化した被覆層によって保持された光ファイバ、すなわち外力解放後も弾性ねじれが光ファイバ裸線部分に残る光ファイバを製造することができる。
【0035】
そしてまた本発明の第9の態様による光ファイバの製造方法は、前記第8の態様の光ファイバの製造方法において、前記第1のねじれ付与装置よりも上流側に、光ファイバ裸線のねじれの伝搬を阻止する部材がない状態で第1の弾性ねじれを付与することを特徴とするものである。
【0036】
このような第9の態様の光ファイバの製造方法においては、第1のねじれ付与装置からその上流側に円滑にねじれが伝搬されるため、確実かつ安定して光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれを付与することができる。
【0037】
また本発明の第10の態様の光ファイバの製造方法は、前記第8の態様、第9の態様のうちのいずれかの態様の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ裸線に硬化性樹脂を被覆するにあたり、その液体状態の樹脂の被覆時の粘度を、0.1〜3Pa・secの範囲内とし、かつ前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、ねじれの方向を周期的に反転させることを特徴とするものである。
【0038】
このような第10の態様の光ファイバの製造方法においては、被覆時の液体状態の樹脂の粘度を、0.1Pa・sec以上とすることによって、光ファイバ素線の被覆外径の変動を抑制して均一な被覆外径の光ファイバ素線を得ることができるとともに、3Pa・sec以下とすることによって、液体状態の樹脂が第1のねじれ付与装置からのねじれの伝搬の抵抗となってしまうことを防止し、特に第1の弾性ねじれの方向を周期的に反転させる場合において、ねじれの伝搬とねじれ方向の反転を確実化して、外部的要因によるPMDの増加を、より確実に抑制することができる。
【0039】
さらに本発明の第11の態様の光ファイバの製造方法は、前記第8〜第10のいずれかの態様の光ファイバの製造方法において、
ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さをねじれの反転周期と定義し、
前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、ねじれの方向を周期的に反転させるとともに、前記第2のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第2の弾性ねじれを付与するにあたって、ねじれの方向を周期的に反転させ、しかも前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、前記第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも大きくなるようにすることを特徴とするものである。
【0040】
このような第11の態様の光ファイバの製造方法によれば、外部的要因によるPMDの増加を確実に抑制した光ファイバを製造することができる。
【0041】
さらに本発明の第12の態様の光ファイバの製造方法は、前記第11の態様の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれの反転周期T1が、光ファイバ素線の長手方向の距離に関して、5〜10mの範囲内となり、かつその第1の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルとして、累積ねじれ角の最大振幅が、500×T1deg〜4000×T1degの範囲内となるようにすることを特徴とするものである。
【0042】
このような第12の態様の光ファイバの製造方法においては、第1の弾性ねじれの反転周期T1を上記の範囲内とするとともに累積ねじれ角の最大振幅を上記範囲内とすることによって、光ファイバ素線に対する外力が解放されたときに残留する第1の弾性ねじれを十分に確保すると同時に、過大な応力によって被覆層の剥離や割れが発生することを防止できる。
【0043】
また本発明の第13の態様の光ファイバの製造方法は、前記第11、第12のいずれかの態様の光ファイバの製造方法において、光ファイバ素線に付与した第1の弾性ねじれの少なくとも一部が、被覆層の弾性反発力によって光ファイバ裸線に保持されている状態で、光ファイバ裸線に残留している弾性ねじれについて、その反転周期Tが、光ファイバ素線の長手方向の距離に関して5〜10mの範囲内となり、かつ反転ねじれプロファイルにおける累積ねじれ角の最大振幅MAが、100×Tdeg〜1200×Tdegの範囲内となるようにすることを特徴とするものである。
【0044】
このような第13の態様の光ファイバの製造方法においては、付与された第1の弾性ねじれとそれに抗する被覆層の弾性反発力とがバランスして、与えた第1の弾性ねじれの少なくとも一部が光ファイバ裸線の部分に残留している状態での、第1の弾性ねじれの反転周期T1を上記の範囲内とするとともに、累積ねじれ角の最大振幅MAを上記の範囲内とすることによって、充分な量の弾性ねじれを残留させて、外部的要因によるPMDの増加を、より確実かつ安定して抑制することができる。
【0045】
また本発明の第14の態様の光ファイバの製造方法は、前記第11〜第13のいずれかの態様の光ファイバの製造方法において、前記光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれの少なくとも一部を光ファイバ裸線に保持させるために、その第1の弾性ねじれを戻す方向に被覆層に生じる弾性ねじれ量を、1400deg/m〜12800deg/mの範囲内とすることを特徴とするものである。
【0046】
このような第14の態様の光ファイバの製造方法においては、第1の弾性ねじれの付与に伴って生じる被覆層の弾性ねじれ量を適切に設定することによって、被覆層に適切な弾性反発力を生じさせ、これにより光ファイバ裸線に付与された弾性ねじれの少なくとも一部を確実に保持し、これによって外的要因によるPMDの増加を、より一層確実かつ安定して抑制することができ、さらには被覆層に生じる剥がれや割れを防ぐことができる。
【0047】
さらに本発明の第15の態様の光ファイバの製造方法は、前記第11〜第14のいずれかの態様の光ファイバの製造方法において、
前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、第1の弾性ねじれの、ねじれ付与時の反転周期T1の4〜8倍の範囲内となり、かつその第2の弾性ねじれのねじれ付与時における累積ねじれ角の最大振幅が、300deg〜5000degの範囲内となるようにすることを特徴とするものである。
【0048】
この第15の態様の光ファイバの製造方法によれば、第2の弾性ねじれの反転周期T2を適切に設定し、かつ第2の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度を適切に規制することによって、外部的要因によるPMDの増加を、より一層確実かつ安定して抑制し得る光ファイバを製造することができる。
【0049】
また本発明の第16の態様は、前記第1〜第6の態様のうちのいずれかの態様の光ファイバを製造するための装置であって、
光ファイバ母材を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉と、紡糸用加熱炉から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線を強制冷却して固化させるための冷却装置と、冷却・固化された光ファイバ裸線を、保護被覆用の硬化性樹脂により被覆するための被覆装置と、その被覆装置により被覆された未硬化の硬化性樹脂を硬化させるための被覆硬化装置と、その硬化性樹脂が硬化された状態で光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを与えるための第1のねじれ付与装置と、さらにその第1の弾性ねじれが付与された光ファイバ素線に、第1の弾性ねじれとは異なる第2の弾性ねじれを付与するための第2のねじれ付与装置とを有し、
前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、第1のねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ光ファイバ裸線固化後の光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれが付与されるとともに、その第1の弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその硬化性樹脂が硬化することにより、光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれの少なくとも一部が硬化性樹脂被覆層によって光ファイバ裸線の部分に保持されるように構成し、さらに光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれ少なくとも一部が保持された状態で、光ファイバ素線の全体に第2のねじれ付与装置により第2の弾性ねじれが付与されるように構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0050】
本発明の光ファイバにおいては、光ファイバ裸線部分に与えられた第1の弾性ねじれ(第1のツイスト)が、外力を解放した状態でもその弾性ねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持されるため、最終使用形態である光ケーブルなどの状態でも、ファイバ裸線部分の第1の弾性ねじれを確実かつ安定して保持することができ、さらに第2の弾性ねじれ(第2のツイスト)をも付与しておくことによって、その第2の弾性ねじれを最終使用形態まで若干でも残留させておくことが可能となり、その結果、曲げや側圧などの外部的要因によるPMDの増加を、確実かつ安定して抑制することができ、また従来提案されている技術のように弾性ねじれを交互に反対方向に加える場合において、その反転プロファイルの周期や振幅を細かく変調したりする必要がなく、そのため最終使用形態となるまでに反転プロファイルの細かい変調成分が消失もしくはなまってしまって、PMD低減効果が低下してしまうような事態の発生を有効に防止することができる。
また本発明の光ファイバの製造方法、製造装置によれば、上述のように曲げや側圧などの外部的要因によるPMDの増加を確実かつ安定して抑制し得る光ファイバを、実際的に容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の光ファイバを製造するための装置のうち、素線製造装置の部分の一例を示す略解図である。
【図2】本発明の光ファイバを製造するための装置に使用される第1のねじれ付与装置の一例を示す図で、(a)はその上方から見た平面図、(b)は正面図である。
【図3】本発明の光ファイバを製造するための装置に使用される第1のねじれ付与装置の他の例を示す正面図である。
【図4】本発明の光ファイバの製造過程における、被覆層硬化直後の段階の光ファイバ素線の一例の状況を模式的に示す部分切欠斜視図である。
【図5】本発明の光ファイバについて、外力を解放する際の状況を模式的に示す、光ファイバ素線の模式的な断面図である。
【図6】図4に示す光ファイバ素線について、被覆層硬化直後の段階での状態と外力解放後の状態とを比較して示す部分切欠斜視図で、(a)は被覆層硬化直後の段階での状態を、(b)は外力解放後の状態を示す。
【図7】本発明の光ファイバにおける、反転ねじれのプロファイルの一例を示すグラフである。
【図8】本発明の光ファイバを製造するための装置のうち、素線製造装置の部分の他の例の全体構成を示す略解図である。
【図9】本発明の光ファイバを製造するための装置に使用される第2のねじれ付与装置の一例を示す略解図である。
【図10】光ファイバ素線に弾性ねじれとして周期的にねじれ方向が反転する1種類のねじれを付与した場合における、ねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第1の例を示すグラフである。
【図11】光ファイバ素線に弾性ねじれとして周期的にねじれ方向が反転する2種類のねじれを付与した場合において、図10と同様に、ねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第1の例を示すグラフである。
【図12】図11と同様に、光ファイバ素線に弾性ねじれとして周期的にねじれ方向が反転する2種類のねじれを付与した場合において、ねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第2の例を示すグラフである。
【図13】図11と同様に、2種類のねじれを付与した場合におけるねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第3の例を示すグラフである。
【図14】図11と同様に、2種類のねじれを付与した場合におけるねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第4の例を示すグラフである。
【図15】図11と同様に、2種類のねじれを付与した場合におけるねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第5の例を示すグラフである。
【図16】図11と同様に、2種類のねじれを付与した場合におけるねじれの反転プロファイルの振幅(最大累積ねじれ角度)、反転周期と、PMD変化率との関係を調べた第6の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0053】
本発明においては、光ファイバ素線に、2種類の弾性ねじれ、すなわち第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付与する。そしてこれらに弾性ねじれのうち、第1の弾性ねじれは、光ファイバ母材から光ファイバ裸線を線引きして樹脂被覆層を形成する過程、すなわち光ファイバ素線を製造する過程で第1のねじれ付与装置により付与する。一方第2の弾性ねじれは、樹脂被覆層が硬化されて、光ファイバ素線となった段階以降、すなわち光ファイバ素線製造過程において製造された光ファイバが巻き取られる以前の段階、あるいは製造された光ファイバ素線が一旦巻き取られた後の段階で、第2のねじれ付与装置により付与するが、以下の実施形態では、説明の簡略化のため、第2の弾性ねじれは、製造された光ファイバ素線が一旦巻き取られた後の段階で付与するものとし、その場合について、第1のねじれ付与装置を備えた光ファイバ素線製造装置と、それにより製造されて巻き取られた光ファイバ素線を改めて巻き戻して第2の弾性ねじれを付与する装置とを、個別に説明する。
【0054】
先ず図1に、本発明の光ファイバを製造するための装置のうち、光ファイバ素線を製造する装置、すなわち第1のねじれ付与装置を備えた光ファイバ素線製造装置10の一例を示し、この図1を参照しながら、第1の弾性ねじれを付与しつつ光ファイバ素線を製造する過程について説明する。
【0055】
図1において、光ファイバ素線製造装置10は、例えば石英系ガラスなどからなる光ファイバ母材12を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉14と、紡糸用加熱炉14から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線16を強制冷却して固化させるための冷却装置18と、冷却・固化された光ファイバ裸線16を、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などの保護被覆用の硬化性樹脂により被覆するための被覆装置20と、その被覆装置20により被覆された未硬化(液体状態)の硬化性樹脂を、紫外線照射や加熱などにより硬化させるための被覆硬化装置22と、保護被覆用の硬化性樹脂が硬化された状態で光ファイバ素線24に第1の弾性ねじれを与えるための第1のねじれ付与装置26と、第1の弾性ねじれが付与された光ファイバ素線24を、ガイドプーリ28や図示しないダンサーローラを経て引き取るための図示しない引取装置と、最終的に光ファイバ素線を巻き取るための図示しない巻取装置とを備えた構成とされている。
【0056】
ここで、第1のねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24に一定方向のねじれを連続して与える構成としたものであってもよいが、通常は、後に改めて説明するように、周期的にねじれの方向(時計方向かまたは反時計方向か)が反転されるように構成することが望ましい。その具体的構成は特に限定されるものではないが、例えば図2に示すようなねじれ付与装置(特許文献4の図11に示されるねじれ付与装置と同様のもの)、あるいは図3に示すようなねじれ付与装置(特許文献1の図2、特許文献4の図10に示されるねじれ付与装置と同様のもの)を適用すればよい。
【0057】
図2に示すねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24をその両側から挟みながら回転する2組各一対のねじれ付与ローラ26Aa、26Ab;26Ba、26Bbによって構成されており、一方の組のねじれ付与ローラ26Aa、26Abの下流側に近接して、他方の組のねじれ付与ローラ26Ba、26Bbが前記一方の組のねじれ付与ローラ26Aa、26Abに対して90°ずれた位置に配置されている。そして各ねじれ付与ローラ26Aa、26Ab;26Ba、26Bbは、光ファイバ素線24をその両側から挟みながら、光ファイバ素線24の長さ方向(線引き方向)に直交する方向に対して所定の小角度だけ傾斜した軸線を中心として回転することによって、光ファイバ素線24にねじれを付与することができる。そして光ファイバ素線24に対する各ねじれ付与ローラ26Aa、26Ab;26Ba、26Bbの傾斜方向を反対方向に変えることによって、光ファイバ素線24に与えるねじれの方向を転換することができる。
【0058】
また図3に示すねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24が外周上に巻きかけられて、線引き方向に対して傾斜する回転軸を中心として回転するねじれ付与ローラ26Cと、その下流側に配設された、線引き方向に対して直交する回転軸を中心として回転する固定位置ローラ26Dとからなるものであり、光ファイバ素線24がねじれ付与ローラ26Cの外周上を回転軸線方向に沿って転動することによって光ファイバ素線24にねじれが付与され、かつねじれ付与ローラ26Cの傾斜方向を反転させるように揺動させることによって、ねじれ方向を反転させることができる。
【0059】
なお、第1のねじれ付与装置26の設置位置は、冷却・固化された光ファイバ裸線16を保護被覆用の硬化性樹脂により被覆してその硬化性樹脂が硬化した後にねじれを付与するように定めることが望ましい。ただし、第1のねじれ付与装置26よりも上流側には、光ファイバ素線24もしくは光ファイバ裸線16に接してねじれの伝達を阻止するような機構、部材が存在しないようにすることが望ましい。そして図1に示す光ファイバ素線製造装置10では、これらの条件を満たすべく、第1のねじれ付与装置26を、被覆硬化装置22とガイドローラ28との間の位置に配置している。この場合、第1のねじれ付与装置26よりも上流側では、硬化性被覆樹脂以外は、光ファイバ素線24もしくは光ファイバ裸線16の表面に物理的に接触する部材が存在しないため、第1のねじれ付与装置26により付与されたねじれをその上流側に連続的かつ円滑に伝搬させて、本発明で目的とする弾性ねじれ(ツイスト)を付与することが可能となる。但し、ある程度の溝幅を有する平溝プーリなど、光ファイバの転動が許容されるような部材であれば、その部材が接してもねじれの伝搬を阻害するおそれが少なく、そのような部材が第1のねじれ付与装置26よりも上流側に存在することは許容される。
【0060】
また被覆装置20により被覆する硬化性樹脂は、1層でもよいが、一般には、一次被覆層(プライマリ材料)と二次被覆層(セカンダリ材料)との2層構造とすることが多く、本発明の場合も、2層構造の樹脂被覆層を形成することが望ましい。すなわち、一次被覆層として、エポキシアクリレート樹脂やウレタンアクリレート樹脂などの紫外線硬化性樹脂あるいはシリコン樹脂などの熱硬化性樹脂からなり、かつ硬化後のヤング率が5MPa程度以下の低ヤング率(一般には常温でのヤング率が0.3〜1,5MPa)のものを用いることが望ましく、一方二次被覆層としては、エポキシアクリレート樹脂やウレタンアクリレート樹脂などの紫外線硬化性樹脂あるいは変性シリコン樹脂などの熱硬化性樹脂からなり、かつ硬化後のヤング率が100MPa程度以上の高ヤング率(一般には常温でのヤング率が300〜1500MPa)のものを用いることが望ましい。このように一次被覆層として低ヤング率のものを用いることにより、光ファイバ裸線に対して良好なクッション効果を示すとともに、光ファイバ裸線に対する被覆層の密着性を高めることができ、一方、二次被覆層として、高ヤング率のものを用いることにより、外部からの損傷や摩擦、側圧などに対して十分に耐え得るようになるが、特に本発明の光ファイバの場合、光ファイバ裸線部分に対する密着性を高めると同時に被覆層全体の見かけ上のヤング率を高めることが、被覆層により光ファイバ裸線部分の第1の弾性ねじれ(第1のツイスト)を保持する上で有利となり、その観点からも、上述のように硬化後のヤング率が異なる2層構造の被覆層を形成することが望ましい。
【0061】
なおこのような2層構造の被覆層を形成する場合の被覆方法および硬化方法としては、図1に示しているように、被覆装置20および被覆硬化装置22を1箇所のみに設けて、1基の被覆装置20により2層被覆を行なってその2層を3基の被覆硬化装置22により一括的に硬化させてもよく、あるいは後に説明する図8に示すように、被覆装置20および被覆硬化装置22をそれぞれ2箇所に設けて、一次被覆層の樹脂を被覆してそれを硬化させてから、二次被覆層の樹脂を被覆し、硬化させるようにしてもよい。
なおまた、光ファイバ裸線に硬化性樹脂を被覆する際の液体状態の樹脂の粘度も第1の弾性ねじれの付与状況などに影響を与えるファクターであるが、それについては、後に項を改めて説明する。
【0062】
次に以上のような光ファイバ素線製造装置を用いて、第1の弾性ねじれ(第1のツイスト)を付与しながら光ファイバ素線を製造する方法について説明する。
【0063】
上述のような光ファイバ素線製造装置によって光ファイバ素線を製造するにあたっては、光ファイバ裸線の原料となる石英系ガラス母材などの光ファイバ母材12を紡糸用加熱炉14において2000℃以上の高温に加熱して溶融させ、その紡糸用加熱炉14の下部から、高温状態で光ファイバ裸線16として伸長させながら下方に引き出し、その光ファイバ裸線16を、冷却装置18により冷却して固化させる。冷却装置18により所要の温度まで冷却されて固化した光ファイバ裸線16には、例えば2層コーティング用の被覆装置20において紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などの2種類の硬化性樹脂が液体状態で一次被覆層、二次被覆層として被覆され、さらにそれらの被覆樹脂が、被覆硬化装置22において加熱硬化あるいは紫外線硬化などの樹脂の種類に応じた適宜の硬化手段により硬化され、2層の被覆層を備えた光ファイバ素線24となり、引き続き、例えば図2あるいは図3に示したような第1のねじれ付与装置26によって、所定のねじれTW1、TW2が付与されてから、ガイドプーリ28を経て図示しない引取装置によって所定速度で引き取られ、さらに図示しない巻取装置により巻き取られる。
【0064】
図1に示す装置において、第1のねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に加えられたねじれTW1、TW2は、図1中の矢印Y1、Y2で示すように、第1のねじれ付与装置26の前後(上流側、下流側)に伝搬されていくが、ここでは、特に光ファイバ母材側(上流側)に伝搬していくねじれTW1について注目すると、そのねじれTW1は、被覆硬化装置22を経て被覆装置20を通り、さらにその上方の冷却装置18に向けて伝搬される。したがって、光ファイバ裸線16が冷却装置18により固化されてから、その裸線の外周上に被覆装置20により未硬化(液体状態)の硬化性樹脂が被覆され、さらにその被覆樹脂が被覆硬化装置22により硬化されるまでの間(図1の符号S1の領域付近)において、ねじれが加えられることになる。ここで光ファイバ裸線が固化してから加えられるねじれは、外力を解放すれば戻ってしまうねじれ、すなわち弾性ねじれ(ツイスト)となっている。一方、被覆樹脂の硬化後に第1のねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に加えられたねじれは、当然のことながら光ファイバ裸線部分と一体化された被覆層にも加えられるが、被覆装置20において液体状態で被覆されてからその樹脂が硬化するまでの間(図1の領域S2付近)においては、被覆樹脂は流動し得る状態であるため、弾性的な挙動はせず、したがってその間S2においては、被覆層には弾性ねじれが実質的に加えられないことになる。そして液体状態で光ファイバ裸線の外周上に被覆された樹脂が硬化する際に、それまでに加えられた光ファイバ裸線の第1の弾性ねじれ(第1のツイスト)が、被覆層の樹脂によって固定される(保持される)ことになる。
【0065】
ここで、上述のような図1の装置により製造された光ファイバ素線24の製造過程における、被覆硬化装置22により被覆層が硬化された時点の段階での光ファイバ素線24の一例を、図4に模式的に示す。図4において、符号32Aは被覆層の一次被覆層、32Bは二次被覆層であり、また図4中の光ファイバ裸線16の外周上に描いた太い実線および破線は、付与されたねじれを表わしており、この図では、光ファイバ素線の製造時における下流側から見て時計方向のねじれが加えられて、光ファイバ裸線16の部分に、下側から見て時計方向のねじれを有する状態を示している。既に述べたように、被覆層32A、32Bは、光ファイバ裸線16の外周上に液体状態で被覆されてから硬化するまでの間は、弾性的な挙動を示さないから、図4に示す段階では、被覆層32A、32Bには実質的にねじれが与えられていない。但し、図4に示しているのは、次に説明するように、摩擦などの外力が解放されていない段階での光ファイバ素線であることに留意されたい。
【0066】
ところで、硬化した被覆樹脂は、光ファイバ裸線部分よりも軟質でその剛性が低いから、前述のように光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間において光ファイバ素線に弾性ねじれを付与しても、その弾性ねじれをそのまま完全に被覆樹脂によって固定すること、すなわち外力が解放されたときのねじれの弾性力による戻りを被覆樹脂によって完全に防止することは困難である。すなわち、ねじれを付与した光ファイバ素線について、その後に摩擦力などの外力が解放されてしまえば、光ファイバ素線の内部の光ファイバ裸線部分の弾性戻り力によって樹脂被覆層がその戻り方向にねじられ、ファイバ裸線部分の弾性ねじれもある程度戻ってしまうことは避けられない。しかしながら、硬化した被覆樹脂も弾性を有しているから、光ファイバ裸線部分のねじれが戻る際に被覆樹脂層に加わる戻り方向のねじれも弾性ねじれとして機能し、この被覆樹脂層の弾性ねじれに対する反発力と、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りの力とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りが停止することになる。したがって、外力が解放されたときの光ファイバ裸線部分のねじれの戻りは100%行なわれるのではなく、被覆樹脂の弾性反発力によって必ずある程度の割合で光ファイバ裸線部分のねじれが残る。このようにして残留した第1の弾性ねじれのねじれ成分が、被覆樹脂によって保持、固定され、最終使用形態の製品においてもPMD抑制に寄与する弾性ねじれ(ツイスト)として機能する。
【0067】
上述のように光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放される際の力のバランスとねじれとの関係について、図5に模式的に示し、また光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放された後のフリー状態の光ファイバ素線のねじれの状況を、図6の(b)に模式的に示す。なお比較のため、図6の(a)には、被覆層が硬化された直後の段階でのねじれ状況を示す(図4と実質的に同じ)。この図6(a)、(b)において太い実線、太い破線は、それぞれねじれの状況を示している。但しこれらの図5、図6においては、説明の簡略化のため、被覆層としては1層のもの(符号32)を示している。
【0068】
図5において、光ファイバ素線に対する外力が解放される直前までは、光ファイバ裸線16の部分に例えば反時計方向の弾性ねじれTP1が与えられているが、外力が解放されてフリー状態となる際には、時計方向に弾性復帰力F1が働き、反時計方向の弾性ねじれTP1が減少する。これは、時計方向に光ファイバ裸線16がねじられることを意味する。それに伴って、光ファイバ裸線16に密着している被覆層32も、時計方向にねじられることになる(ねじれTP2)。このとき、被覆層32も弾性を有しているため、時計方向ねじれTP2に対して反対方向(反時計方向)の弾性反発力F2が発生する。そして被覆層32の反時計方向の弾性反発力F2と、前述の光ファイバ裸線16の時計方向の弾性反発力F1とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線16の部分の弾性ねじれTP1が保持される。したがって光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放された後のフリー状態の光ファイバ素線においては、図6の(b)に示しているように、光ファイバ裸線16の部分と被覆層32の部分とでは、逆方向のねじれTP1、TP2が存在しており、光ファイバ裸線16の部分のねじれTP1は、被覆層硬化直後の段階でのねじれ(図6(a)の太い実線、破線)よりも小さい状態で残留していることになる。
【0069】
ここで、硬化した被覆樹脂のヤング率は、一般に光ファイバガラスと比較してかなり低いが、ゼロではないから、外力解放時の光ファイバ裸線部分のねじれの戻りに伴う樹脂被覆層のねじれによる弾性反発力は必ず発生し、したがって上述のように反発力が釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分に付与した弾性ねじれの一部が残留するのである。
【0070】
一般的な光ファイバに使用されている2層構造の被覆層では、一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては常温でのヤング率が0.3〜1.5MPa程度のものが用いられ、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては常温でのヤング率が300〜1500MPa程度のものが用いられており、また光ファイバ裸線部分の径は125μm程度、被覆層の外径は、一次被覆層(プライマリ層)の外径は170〜210μm程度、二次被覆層(セカンダリ層)の外径は230〜260μm程度であり、このような光ファイバ素線について、前述のようにして弾性ねじれを付与し、その後外力を解放した状態で残留する光ファイバ裸線部分の弾性ねじれを調べたところ、付与したねじれの20〜30%程度の弾性ねじれが残ることが確認されている。
【0071】
また、第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に加えるねじれ(第1の弾性ねじれ)は、一方向に連続するものであってもよいが、既に述べたように、ねじれ方向を、時計方向、反時計方向に周期的に反転させることが、外部的要因によるPMDの増加抑制に対してより有効となる。
【0072】
このようにねじれ方向を周期的に反転させる場合、被覆装置で被覆する際の液体状態の被覆樹脂の粘度は、2層被覆の各被覆層を含め、0.1〜3Pa・secの範囲内であることが望ましい。被覆時の液体状態の樹脂の粘度が0.1Pa・sec未満では、粘度が低すぎるため、均一にコーティングして均一な膜厚の被覆層を得ることが困難となり、光ファイバ素線の被覆外径の変動量が±2μmを越えてしまい、光ファイバ素線として不良品となってしまうおそれがある。一方被覆時の液体状態の樹脂の粘度が3Pa・secを越えれば、第1のねじれ付与装置からその上流側へのねじれの伝搬に対して被覆樹脂の粘性が抵抗として作用し、その結果第1のねじれ付与装置と被覆装置との間でねじれが溜まる現象が顕著となってしまい、それに伴って被覆硬化装置と被覆装置との間へのねじれの伝搬も遅くなってしまう傾向を示す。その場合、ある方向(例えば時計方向)のねじれが被覆硬化装置と被覆装置との間で被覆層によって確実に保持される以前に、反対方向(例えば反時計方向)のねじれが伝搬されてきて、時計方向のねじれが戻されてしまい、結果的に被覆層硬化後に残るねじれが少なくなってしまうか、またはねじれがほぼ完全に消失してしまうおそれがある。したがって、ねじれ方向を周期的に反転させる場合には、被覆時の液体状態の樹脂の粘度を、上記のような適切な範囲内に調整することが望まれる。
【0073】
また前述のようにねじれ方向を周期的に反転させる場合、光ファイバ素線の長手方向の距離に対するねじれ角度(連続するねじれについて、一定方向へのねじれ角度を累積させた角度、すなわち累積ねじれ角度)を、反転ねじれプロファイルとして、例えば正弦波状の曲線として描くことができる。そしてこの反転ねじれプロファイルにおいて、ある方向、たとえば時計方向へのねじれが開始されて、その時計方向でのねじれが付与された後、ねじれ方向が反転されて、反時計方向にねじれが付与され、その反時計方向のねじれが終了するまでの、光ファイバ素線上での長さを、ねじれの反転周期と称することとする。言い換えれば、ねじれの反転周期とは、ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との、連続する2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さ、と言うこともできる。そしてこの反転ねじれプロファイルにおける振幅は、1反転周期内での累積ねじれ角度の最大値(最大累積ねじれ角度)をあらわすことになる。
【0074】
反転ねじれプロファイルの波形は、一般には正弦波状とすればよいが、その他、三角波状、あるいは台形波状など、特に限定されるものではない。正弦波を採用した場合の反転ねじれプロファイルの一例を図7に示す。図7において、実線は光ファイバ素線の長手方向の距離に対するねじれ角(単位長さあたりのねじれ角度)の推移を示し、破線は光ファイバ素線の長手方向の距離に対する累積ねじれ角度の推移を示す。
【0075】
ここで、第1のねじれ付与装置により付与する第1の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルにおいて、ねじれの反転周期T1は、5〜10mの範囲内が好ましい。ねじれの反転周期T1が5m未満では、時計方向のねじれと反時計方向のねじれが伝搬中に相殺されやすくなるおそれがあり、一方ねじれの反転周期T1が10mを越えれば、より多くのねじれを加えなければ外部的要因によるPMDの増加の抑制効果が得られなくなるおそれがある。
【0076】
さらに、第1の弾性ねじれを光ファイバ素線に付与する際(被覆層未硬化状態)における、第1の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルについては、累積ねじれ角の最大振幅MA(図7参照)は、ねじれの反転周期T1との関係において、500×T1〜4000×T1degの範囲内が望ましい。累積ねじれ角の最大振幅MAが500×T1deg未満では、光ファイバ素線に対する外力を解放した後に残留する光ファイバ裸線部分の弾性ねじれが少なくなって、外部的要因によるPMDの増加を抑制する効果が少なくなってしまう。一方、累積ねじれ角の最大振幅MAが4000×T1degを越えれば、光ファイバ素線に対する外力を解放したときに光ファイバ裸線部分から被覆層に加えられる応力が大きすぎて、光ファイバ裸線部分と被覆層との間に剥離が生じたり、被覆層に割れが発生したりするおそれがある。
【0077】
一方、被覆層が硬化しかつ外力が解放されて、被覆層の弾性反発力によって第1の弾性ねじりを戻す方向の力が作用し、それらがバランスして、素線に加えた第1の弾性ねじりの一部が裸線部分に残留保持されている状態での反転ねじれプロファイルについては、累積ねじれ角の最大振幅は、ねじれの反転周期T1との関係において、100×T1〜1200×T1degの範囲内が望ましい。その状態での累積ねじれ角の最大振幅MAが100×T1deg未満では、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれが少なく、外部的要因によるPMDの増加を抑制する効果が少なくなってしまう。一方、累積ねじれ角の最大振幅MAが1200×T1degを越えれば、光ファイバ裸線部分から被覆層に加えられる応力が大きすぎて、光ファイバ裸線部分と被覆層との間に剥離が生じたり、被覆層に割れが発生したりするおそれがある。
【0078】
なお、被覆層が硬化した後の外力解放状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれ量は、例えば次のような方法によって測定することができる。
すなわち、
a):光ファイバ素線を1m程度切り取り、サンプルとする。
b):サンプルの片端を固定し、垂直方向に吊り下げる。
c):吊り下げたサンプルのねじれを解放させ、サンプルの下端にクリップを取り付けて、静止させ、クリップを固定する。
d):前記c)の状態を保ったまま、サンプル(光ファイバ素線)の被覆層を、1mの長さにわたって除去(剥離)する。
e):クリップの固定状態を解放して、自由垂下状態とする。
f):前記e)の固定状態から解放したときのクリップの回転角度を測定する。
g):必要に応じて上記のa)〜f)の過程を複数回繰り返して、回転角度のプロファイル(分布)を求める。
ここで、上述のように光ファイバ素線を吊り下げて被覆層を除去し、その状態でf)のように固定を解放させたときの回転角度は、弾性的にねじれが戻った量、すなわち裸線に残留保持されていたねじれ量に対応する。したがってその回転角度が、裸線1mあたりの残留弾性ねじれ量(deg/m)に相当する。
【0079】
さらに、前記同様に、被覆層が硬化しかつ外力が解放されて、被覆層の弾性反発力によって、その被覆層が第1の弾性ねじりを戻す方向にねじられ、それらの第1の弾性ねじれによる力と被覆層の弾性ねじれによる力(弾性反発力)とがバランスして、第1の弾性ねじりが裸線部分に残留保持されている状態で、被覆層に生じた弾性ねじれは、1400deg/m〜12800deg/mの範囲内とすることが望ましい。被覆層の弾性ねじれが1400deg/m未満では、被覆層のヤング率や厚さ等の被覆特性のバランスが悪くなり、マイクロベンド特性や耐環境特性、取扱い性などが悪くなる。一方被覆層の弾性ねじれが12800deg/mを越えれば、被覆層に剥がれや割れが生じるおそれがある。なおここで、被覆層の弾性ねじれは、既に述べたように、光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれ量(被覆層硬化前)をA(deg)、付与された第1の弾性ねじれのうち、被覆層硬化後の状態(外力が解放されている状態)で、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれ力と被覆層の弾性反発力とのバランスによって光ファイバ裸線部分に残留している弾性ねじれ量をB(deg)とし、かつ第1の弾性ねじれの反転周期をT1(m)とすれば、次式
(A−B)/(T1/4)
によって与えられるねじれ量(deg/m)である。
【0080】
図8には、本発明の光ファイバを製造するための装置のうち、光ファイバ素線製造装置の部分の別の実施形態を示す。この図8に示す光ファイバ素線製造装置は、2層構造の被覆層を有する光ファイバ素線を製造するために、被覆装置および被覆硬化装置を、それぞれ2箇所に設置したものである。すなわち、紡糸用加熱炉14から引き出された光ファイバ裸線16を冷却、固化させるための冷却装置18の直下に一次被覆装置20Aを設置し、さらにその下流側に一次被覆硬化装置22Aを設置して、先ず一次被覆層の被覆、硬化を行い、さらに一次被覆硬化装置の下流に二次被覆装置20Bおよび二次被覆硬化装置22Bをその順に設置して、一次被覆層上に改めて二次被覆層の被覆、硬化を行い、その下流で第1のねじれ付与装置26により第1の弾性ねじれを付与するように構成している。このように2層構造の被覆層を有する光ファイバ素線を製造するにあたって、2箇所で別々に被覆層を被覆、硬化する場合も、ねじれの付与、保持および残留については、図1に基づいて説明したものと同様であり、またその望ましい条件についても前記と同様である。
【0081】
次に図9には、前述のようにして製造された光ファイバ素線(第1の弾性ねじれが付与されている光ファイバ素線)に、改めて第2のねじれ付与装置により第2の弾性ねじれを付与するための設備の1例を示し、図9を参照しながら第2の弾性ねじれを付与する状況、および第2の弾性ねじれの好ましい条件について説明する。
【0082】
図9において、送り出しボビン41には、例えば図1に示したような光ファイバ製造装置10によって製造された光ファイバ素線(既に第1の弾性ねじれが付与されている素線)24が巻き付けられており、この送り出しボビン41から光ファイバ素線24が、送り出し側ダンサーロール43、送り出し側キャプスタン45を経て第2のねじれ付与装置47に導かれる。この第2のねじれ付与装置47は、公知のものと同様であればよく、例えば光ファイバ素線が外周上に巻き掛けられる溝つきロール49がねじれ付与方向に回転するように構成されていればよく、その他、第1のねじれ付与装置として図2あるいは図3に示したようなねじれ付与装置を適宜適用することができる。
第2のねじれ付与装置47によりねじれが付与された光ファイバ素線24は、さらにプーリー50、巻取り側キャプスタン51、巻取り側ダンサーロール53を経て、巻取りボビン55によって巻き取られる。
【0083】
上述のような第2のねじれ付与装置によって光ファイバ素線に付与される第2の弾性ねじれは、光ファイバ素線の樹脂被覆層が既に硬化している状態で付与されるため、第1の弾性ねじれとは異なり、外力が完全に解放されれば、ねじれが戻ってしまう(ねじれがなくなる)ねじれである。すなわち、その後の光ケーブルなどの最終使用形態とするまでの工程で戻ってしまうことがあるねじれである。ただし一般には、この第2の弾性ねじれも、最終使用形態においても若干は残留していることが多い。なお、既に述べたように、第1の弾性ねじれは樹脂被覆層によって保持されているため、与えた第1の弾性ねじれの20%程度以上は、最終使用形態でも確実に残留している。
【0084】
また、第2のねじれ付与装置により光ファイバ素線に加えるねじれ(第2の弾性ねじれ)は、一方向に連続するものであってもよいが、第1の弾性ねじれと同様に、ねじれ方向を、時計方向、反時計方向に周期的に反転させることが、外部的要因によるPMDの増加抑制に対してより有効となる。このように第2の弾性ねじれとして、ねじれの方向が反転するねじれを付与する場合の反転ねじれプロファイルの波形は、一般には正弦波状とすればよいが、その他、三角波状、あるいは台形波状など、特に限定されるものではない。
【0085】
ここで、第2の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルの反転周期T2、ねじれ角(最大累積ねじれ角=反転ねじれプロファイルの振幅)は、第1の弾性ねじれとの関係で好ましい値が選択される。具体的なこれらの数値については、後に改めて詳細に説明するが、第2の弾性ねじれの反転周期T2は、第1の弾性ねじれの反転周期T1とは異ならしめることが望ましい。この場合、第2の弾性ねじれの反転周期T2を第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも短くするケースと、第2の弾性ねじれの反転周期T2を第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも長くするケースとがある。PMDの低減効果の観点からすれば、ねじれの反転周期は短いことが好ましく、その点からは、第2の弾性ねじれの反転周期T2を第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも短くすることが考えられる。一方、ねじれの戻り易さの観点からすれば、反転周期が短いほど、戻りやすくなる。すなわち、ねじれ付与後の工程において、ねじれ戻りを阻止するプーリなどの部材に接していない自由距離とねじれ戻り量との間には相関関係があり、その自由距離内における反転回数が多いほど戻りやすくなるから、反転周期が短いほどねじれが戻りやすくなる。ここで第2の弾性ねじれは、第1の弾性ねじれとは異なり、樹脂被覆層により保持されないねじれであるから、ねじれの戻り易さを重視することが好ましく、そこで本発明の場合、第2の弾性ねじれの反転周期T2は、第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも長く定めることが望ましい。
【0086】
次に、第1の弾性ねじれ、第2の弾性ねじれについて、それぞれねじれの方向を反転させる場合の反転ねじれプロファイルの反転周期、ねじれ角(最大累積ねじれ角=ねじれプロファイルの振幅)の好ましい数値範囲について、PMDの抑制効果との関係に基づき、本発明者らの実験結果(図10〜図16)を参照しつつ、詳細に説明する。
【0087】
先ずPMDの計算方法について説明すれば、PMDの計算には、JME法を適用した。具体的には、次の文献し示される方法を適用した。
B. L. Heffner, “Automated measurement of polarization mode dispersion using Jones matrix eigenanalysis,”Photonics Technology Lett., vol.4, no.9, p.1066, 1992
ここで、計算に用いたジョーンズマトリクスは、互いに薄い(Δz)の側圧により生じる直線複屈折媒質中を平面波が伝搬するとして近似した。直線複屈折媒質中のある周波数をもつ平面波の伝搬定数をβa(ω)、βb(ω)とした場合、各層、各周波数ごとのジョーンズマトリクスは、
【0088】
【数1】
【0089】
と示せる。ここで、θは、ねじれによって生じるΔz間における旋光能による偏光面の回転角度を示す。
したがって、ファイバ長N×Δz全体でのジョーンズマトリクスは、
【0090】
【数2】
【0091】
と算出することができる。
以上の方法にて、PMDの計算を実施した。計算は下記の条件で実施し、一定の一方向側圧印加状態を仮定し、その時に生じるPMDの変化を計算した。ただし、ファイバ内部的要因により生じる複屈折に対して、外部的要因により生じる複屈折は、通常は1桁以上大きなオーダーとなるから、ファイバ内部的要因により生じる複屈折は無視した。
【0092】
付与する弾性ねじれの条件を種々変化させて、上記方法によりPMDを測定した結果を図10〜図16に示す。なお図10〜図16において、縦軸のPMD変化率とは、弾性ねじれを全く付与していない状態(したがってねじれの振幅が0の状態)で光ファイバ素線に外力(側圧)を加えたときのPMD値を1とし、光ファイバ素線に外力(側圧)を加えていない状態でのPMD値を0として、その間のPMD値の割合を表したものである。
【0093】
先ず図10には、1種類のみの弾性ねじれが印加された状態でのPMD変化率について、弾性ねじれの周期、振幅に対する依存性を示す。なおこの弾性ねじれの種類は特に第1、第2のいずれかに拘泥されるものではなく、要は弾性ねじれが全く解放されていない状態で測定したものである。ここで、反転ねじれプロファイルは正弦波とし、ねじれの反転周期を、5m、10m、20m、30mの4段階に変え、それらの各周期における反転ねじれ振幅(最大累積ねじれ角度)によるPMDの変化を示している。この結果から、ねじれの反転周期が短いほど、短い反転周期でPMDが減少しやすいことがわかる。例えば30m周期では、PMDが減少するのに必要な振幅が大きくなってしまう。一方で、振幅の変化によるPMD減少率が振動していることも明らかである。これは、ねじれの戻りのわずかな違いによるPMDの変化が大きいことを示している。言い換えれば、弾性ねじれについては、その戻りについてまで厳密にコントロールしなければ、PMDに関する品質補償ができないということを示している。
【0094】
図11〜図13には、2種類の弾性ねじれ(第1および第2の弾性ねじれ)を印加した状態でのPMDの変化率を示す。すなわち図11には、第1の弾性ねじれの反転周期T1が5m、振幅が2500deg(残留する振幅500deg)の場合について、第2の弾性ねじれの反転周期T2を、5m、10m(5m×2)、15m(5m×3)、20m(5m×4)として、第2の弾性ねじれの振幅を変化させたときのPMD変化率について示している。また図12には、第1の弾性ねじれの反転周期T1が10m、振幅が5000deg(残留する振幅1000deg)の場合について、第2の弾性ねじれの周期T2を、10m(10m×1)、20m(10m×2)、30m(10m×3)、40m(10m×4)として、第2の弾性ねじれの振幅を変化させたときのPMD変化率について示している。さらに図13には、第1の弾性ねじれの周期T1が15m、振幅が7500deg(残留する振幅1500deg)の場合について、第2の弾性ねじれの周期T2を、15m(15m×1)、30m(15m×2)、45m(15m×3)、60m(15m×4)として、第2の弾性ねじれの振幅を変化させたときのPMD変化率について示している。
【0095】
また、図14〜16には、第2の弾性ねじれの周期T2が第1の弾性ねじれの周期T1と同じ場合(×1)、および第2の弾性ねじれの周期T2が第1の弾性ねじれの周期T1の6倍(×6)以上に大きな場合について示した。すなわち図14には、第1の弾性ねじれの周期T1が5mに対し、第2の弾性ねじれの周期T2が5m(5m×1)、30m(5m×6)、40m(5m×8)、50m(5m×10)、60m(5m×12)、70m(5m×14)の場合を示す。さらに図15には、第1の弾性ねじれの周期T1が10mに対し、第2の弾性ねじれの周期T2が10m(10m×1)、60m(10m×6)、80m(10m×8)、100m(10m×10)の場合を示す。また図16には、第1の弾性ねじれの周期T1が15mに対し、第2の弾性ねじれの周期T2が15m(15m×1)、90m(15m×6)、120m(15m×8)、150m(15m×10)、の場合を示す。
【0096】
これらの結果から、
A: 第1の弾性ねじれとして付与したねじれの残留分の影響により、第2の弾性ねじれが完全に解放されてしまっても、PMD変化率は1にはならず、PMD抑制効果が得られる。
B: 第2の弾性ねじれの反転周期T2を、第1の弾性ねじれの反転周期T1に対して4倍以上とし(図11の場合は20m以上、図12の場合は40m以上)、かつ第2の弾性ねじれの振幅を500〜5000degとすることにより、PMD変化率が小さくなり、PMD抑制効果が大きくなる。
C: 第2の弾性ねじれの振幅を5000deg以上としても、PMD変化率の値が小さくなる傾向、すなわちPMD抑制効果が高くなる傾向が認められなくなる。
D: 図13から、第1の弾性ねじれの周期T1が15mである場合について、第2の弾性ねじれの周期T2が60m以上では、PMD変化率が低くならず、PMD抑制効果が得られない。
E: 第2の弾性ねじれの周期T2を、第1の弾性ねじれの周期T1(図14の場合5、図15の場合10m)に対して8倍以下(図14の場合、40m以下、図15の場合80m以下)とし、第2の弾性ねじれの振幅を500〜5000degとすることにより、PMD変化率が小さくなっていること、すなわちPMD低減効果が大きいことがわかる。
以上から、第1の弾性ねじれの反転ねじれの周期T1は5〜10mの範囲内が望ましく、同じく第1の弾性ねじれの振幅(最大累積ねじれ角度)は、ねじれの印加時において500×T1〜4000×T1degの範囲内、残留分で100×T1〜1200×T1degの範囲内が好ましいこと、さらにその場合において、第2の弾性ねじれについては、反転ねじれの周期T2が第1の弾性ねじれの周期T1の4〜8倍の範囲内、振幅(最大累積ねじれ角度)が、ねじれ印加時にて300〜5000degの範囲内が望ましいことが確認された。
【0097】
以下に本発明の実施例を、比較例とともに説明する。なお以下の実施例は、本発明の作用効果を明確化するためのものであって、実施例に記載された条件が本発明の技術的範囲を限定しないことはもちろんである。
【実施例】
【0098】
〔実施例1〕
一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線を製造するにあたり、本発明に従って第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付与した光ファイバ素線を製造した。光ファイバ素線製造装置としては図1に示す装置を用い、かつその製造装置内における第1のねじれ付与装置として図3に示すような装置を用い、さらに第2のねじれ付与装置として図9に示すような装置を用いた。
【0099】
光ファイバ母材からの紡糸速度(線引き速度)は、2000mm/minとし、また被覆装置は、1箇所で2種類の被覆樹脂をコーティングする2層同時コーティング方式(wet on wet方式)を適用した。一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率0.5MPa)を用い、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1000MPa)を用いた。またこれらの被覆時の液体樹脂の粘度は、ともに1Pa・secとし、被覆装置により塗布後、被覆硬化装置としてのUVランプによって硬化させた。第1の弾性ねじれは、被覆硬化装置によって被覆樹脂が硬化した直後に与えた。なお第1のねじれ付与装置よりも上流側には、被覆樹脂以外は、光ファイバ素線に物理的に接触するものがないような状態で線引きした。
【0100】
ここで、第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500deg(500×5)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。第1のねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、ガイドプーリを経て引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取り、光ファイバ裸線部分に第1の弾性ねじれ(第1のツイスト)が付与されている光ファイバ素線を得た。なお仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径(一次被覆層外径)は200μm、セカンダリ径(二次被覆層外径)は250μmであった。
【0101】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が20m、最大振幅が500degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0102】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、鉄製のφ400mmのボビンに巻張力200gfで1000mの長さをファイバ同士が重ならないように1層になるように巻き返し、光ファイバ素線に側圧を意図的に与えた。すなわち外部的要因によりPMDが生じやすい条件とした。巻き返し後の素線のねじれを測定したところ、第2の弾性ねじれとして付与したねじれについては、周期T2は20mで変わらず、最大振幅は400degとなっており、第2の弾性ねじれのうち20%が解放されていることを確認した。
【0103】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ裸線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去し、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が500degであることが確認された。
【0104】
その後、ファイバ温度の安定化のため1時間以上放置後、PMDを測定した。なおPMDの測定は、ヒューレットパッカード社製のHP8509Bを使用し、JME法(Jones Matrix Eigenanalysis法)による測定を行った。測定波長は1510〜1600nmとし、2nmステップでスキャンした。その結果、張力付与巻きによる巻き返しの側圧が加わった状態でのPMD値(PMD1)は、0.05ps/√kmと非常に小さかった。
【0105】
次に、同様の張力巻による巻き返しを再度実施した。巻き返しの後のねじれを測定したところ、第2の弾性ねじれについては、周期T2は20mで変わらず、最大振幅は300degとなっており、第2の弾性ねじれのうちさらに約20%が解放されていることを確認した。なお光ファイバ裸線に付与した第1の弾性ねじれについては、変化がないことが確認された。放置後、PMD測定を実施した結果、PMD(第2回目張力付与による巻き返しの側圧が加わった状態でのPMD値=PMD2)は、0.10ps/√kmと非常に小さかった。
【0106】
さらに、同様の張力巻による巻き返しを再度実施した。巻き返し後のねじれを測定したところ、第2の弾性ねじれについては、周期T2は20mで変わらず、最大振幅は250degとなっており、第2の弾性ねじれのうちさらに約20%が解放されていることを確認した。なお光ファイバ裸線に付与した第1の弾性ねじれについては、変化がないことが確認された。放置後、PMD測定を実施した結果、PMD(第3回目張力付与による巻き返しの側圧が加わった状態でのPMD値=PMD3)は0.13ps/√kmと非常に小さかった。
【0107】
最後に、巻き返し装置にて、フリー長(光ファイバにプーリ等の接触のしない距離)を10m確保し、光ファイバ素線を巻き返し、光ファイバに加えられている第2の弾性ねじれを意図的に解放した。その後、同様の張力巻による巻き返しを再度実施し、PMD測定を実施した結果、PMD(第2の弾性ねじれ解放後のPMD値=PMD4)は、0.18ps/√kmであった。
【0108】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは、第2の弾性ねじれを解放して第1の弾性ねじれだけが残留している状態のPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めると0.05ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0109】
〔比較例1〕
第1の弾性ねじれを付与しないこと以外は、実施例1と同様にして光ファイバ素線を製造した。そして実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。その結果、ねじれが完全には解放されていない段階でのPMD1=0.05(残留ねじれ最大振幅2000deg)、PMD2=0.21(残留ねじれ最大振幅1600deg)、PMD3=0.23(残留ねじれ最大振幅1250deg)であり、さらに第2の弾性ねじれの完全解放後のPMD4=0.55であり、標準偏差は0.21ps/√kmであった。
【0110】
以上から、PMD1〜PMD3は、ねじれ解放後のPMD4よりは小さいものの、標準偏差が大きくなっていることがわかる。これは、この比較例1の場合、第1の弾性ねじれを付与していないため、ねじれ解放後のファイバには、残留ねじれ分が存在しないことが原因と解される。
【0111】
〔実施例2〕
一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線を製造するにあたり、本発明に従って第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付与した光ファイバ素線を製造した。光ファイバ素線製造装置としては図8に示す装置を用い、かつその製造装置内における第1のねじれ付与装置として図3に示すような装置を用い、さらに第2のねじれ付与装置として図9に示すような装置を用いた。
【0112】
光ファイバ母材からの紡糸速度(線引き速度)は、1500mm/minとした。被覆―硬化方式としては、図8に示しているように、2箇所でそれぞれ別の被覆樹脂をコーティングする方式(wet on dry方式)を適用した。一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1.0MPa)を用い、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率500MPa)を用いた。またこれらの被覆時の液体樹脂の粘度は、プライマリ材料は3Pa・sec、セカンダリ材料は0.1Pa・secとし、一次被覆装置20Aにより液体状態のプライマリ材料を被覆した後、一次被覆硬化装置22AとしてのUVランプによって硬化させてから、二次被覆装置20Bによりセカンダリ材料を被覆して、二次被覆硬化装置22BとしてのUVランプによって硬化させた。第1の弾性ねじれは、二次被覆硬化装置22Bによってセカンダリ材料が硬化した直後に与えた。なお第1のねじれ付与装置26よりも上流側については、被覆樹脂以外は光ファイバ素線に物理的に接触するものがないような状態で線引きした。
【0113】
ここで、第1のねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に反転させる三角波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが20000degとなるように、第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。第1のねじれ付与装置26を通過後の光ファイバ素線24は、ガイドプーリ28を経て図示しない引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径(一次被覆層外径)は190μm、セカンダリ径(二次被覆層外径)は240μmであった。
【0114】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0115】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が20m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0116】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない段階でのPMD1=0.08ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2=0.04(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3=0.06(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4=0.16であり、標準偏差は0.05ps/√kmであった。
【0117】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.05ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0118】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が4000degであることが確認された。
【0119】
〔実施例3〕
実施例2と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時(液体状態)の粘度は、プライマリ材料は0.1Pa・sec、セカンダリ材料は3Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる台形波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが5000deg(500×10)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。第1のねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は180μm、セカンダリ径は260μmであった。
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0120】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m、最大振幅が300degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0121】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.10ps/√km(残留ねじれ最大振幅240deg)、PMD2は0.14(残留ねじれ最大振幅200deg)、PMD3は0.20(残留ねじれ最大振幅160deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.28であり、標準偏差は0.08ps/√kmであった。
【0122】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差は0.08ps/√kmと、非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0123】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1000degであることが確認された。
【0124】
〔実施例4〕
実施例3と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時(液体状態)の粘度は、実施例3と同じくプライマリ材料は0.1Pa・sec、セカンダリ材料は3Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが40000degとなるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。第1のねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0125】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0126】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0127】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.04ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.05(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.03(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.12であり、標準偏差は0.04ps/√kmであった。
【0128】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差は0.04ps/√kmと、非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0129】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が8000degであることが確認された。
【0130】
〔比較例2〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500°となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0131】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0132】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が5m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0133】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.04ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.20(残留ねじれ最大振幅2500deg)、PMD3は0.24(残留ねじれ最大振幅1000deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.18であり、標準偏差は0.09ps/√kmであった。
【0134】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは、第2の弾性ねじれを完全に解放させて第1の弾性ねじれのみのPMD4ではなく、PMD3であり、第2の弾性ねじれが残っているにも拘わらず、PMDが高くなっていることがわかる。これは、第1の弾性ねじれの周期T1と第2の弾性ねじれの周期T2が同じ場合、最終的な反転ねじれプロファイルは、第1の弾性ねじれ残留振幅と第2の弾性ねじれ振幅の単純な足し合わせとなり、図10に示した5m周期の波形のようにPMD減少率が周期的に変動するためである。つまり、第1の弾性ねじれの残留振幅がPMD変動率の変動周期のピーク位置に残留しない限り、第2の弾性ねじれ印加により、PMDが上昇する場合があり、第2の弾性ねじれを第1の弾性ねじれと分けて印加している意味がないといえる。
また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.09ps/√kmとばらつきは小さくなっているが、上記の理由により、より細かく残留ねじれに対するPMDを測定すればPMD値が振動している筈と考えられ、その場合、ばらつきも大きくなっていると解される。
【0135】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が500degであることが確認された。
【0136】
〔比較例3〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500degとなるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0137】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0138】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が10m、最大振幅が4000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0139】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.10ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.05(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.20(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.18であり、標準偏差は0.07ps/√kmであった。
【0140】
以上から、4回の測定PMDのうち、もっともPMDが高かったのは、第2の弾性ねじれを完全に解放して第1の弾性ねじれのみの状態でのPMD4ではなく、PMD3であり、第2の弾性ねじれが残っているにも関わらず、PMDが高くなっていることがわかる。すなわち、比較例2と同様に、第1の弾性ねじれの周期T1に対して第2の弾性ねじれの周期T2が4倍未満の場合、第2の弾性ねじれを印加している意味がないといえる。
また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.07ps/√kmとばらつきは小さくなっているが、上記の理由により、より細かく残留ねじれに対するPMDを測定すればPMD値が振動している筈であり、そうなればばらつきも大きくなると考えられる。
【0141】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が500degであることが確認された。
【0142】
〔比較例4〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料は3.5Pa・sec、セカンダリ材料は0.5Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる三角波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500degとなるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は180μm、セカンダリ径は260μmであった。
【0143】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0144】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が20m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0145】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.05ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.12(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.15(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.35であり、標準偏差は0.13ps/√kmであった。
【0146】
以上のように、この比較例4の場合、第1の弾性ねじれ付与時のプライマリ樹脂粘度が高いために、紫外線硬化前にガラスに加えられたねじれが相殺され、残留ねじれ減少してしまい、そのため、第2の弾性ねじれ解放後のPMD4も高くなってしまった。またこの影響で標準偏差が大きくなってしまっており、好ましくない結果となった。
【0147】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が250degであることが確認された。
【0148】
〔比較例5〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料は2Pa・sec、セカンダリ材料は0.05Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる三角波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500degとなるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は180μm、セカンダリ径の平均は260μmであったが、セカンダリ径の変動が±5μm以上と非常に大きくなってしまった。これは、セカンダリ材料の樹脂粘度が小さすぎるためにコーティングが安定しなかったことが原因である。そのため、以降の第2の弾性ねじれ印加およびPMDの評価は実施しなかった。
【0149】
〔比較例6〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が3m、累積ねじれ角の最大振幅MAが1500deg(500×3)となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0150】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0151】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が30m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0152】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.28ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.30(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.38(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.40であり、標準偏差は0.13ps/√kmであった。
【0153】
この比較例6では、第1の弾性ねじれの周期T1が短いために、紫外線硬化前にガラスに加えられたツイストが相殺され、残留ねじれが減少した。そのため、第2の弾性ねじれを解放した後のPMD4が高くなった。この影響で第1の弾性ねじれを印加した効果が少なくなっており、好ましくないことが判明した。
【0154】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が100degであることが確認された。
【0155】
〔比較例7〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する弾性ねじれは、その反転ねじれプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが25000deg(4000×5=20000以上)となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0156】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0157】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が20m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0158】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.04ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.10(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.12(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.12であり、標準偏差は0.03ps/√kmであり、PMD抑制効果は良好であった。
しかしながら、この比較例7による光ファイバ素線を恒温槽に入れ、−40℃〜+80℃のヒートサイクル試験を行った後、被覆観察を行ったところ、被覆層に割れが見られた。第1の弾性ねじれの量(振幅)が大きすぎたために、被覆層にかかる応力が大きくなり、割れが生じたものと考えられる。したがって比較例7による光ファイバ素線は、実用上好ましくないことが分かる。
【0159】
ここで、比較例7について、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が5000degであることが確認された。このことから、被覆層に加わっている弾性ねじれは、反転周期5mについて、
25000deg−5000deg=20000deg
であって、この累積弾性ねじれが、周期T1の1/4で被覆層に加わるため,被覆層の弾性ねじれとしては、16000deg/m相当の過大な弾性ねじれ力が被覆層に加わっているとみなすことができる。
【0160】
そして以上の各実施例、各比較例における、被覆層硬化後に外力を解放した状態で被覆層に加わっている弾性ねじれについての調査結果から、被覆層の弾性ねじれ量として、1400〜12800deg/mの範囲内では被覆層の剥離や割れが認められなかったが、比較例7に示しているように、16000deg/mでは被覆層の剥離や割れが生じたことから、被覆層に加える弾性ねじれ量は、1400〜12800deg/mの範囲内が好ましいことが分かる。
【0161】
〔比較例8〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大振幅MAが5000degとなるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0162】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m、最大振幅が200degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0163】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.28ps/√km(残留ねじれ最大振幅0deg)、PMD2は0.28(残留ねじれ最大振幅0deg)、PMD3は0.28(残留ねじれ最大振幅0deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.28であった。
【0164】
この比較例8では、第2の弾性ねじれの印加ねじれ量(振幅)が少なすぎるため、1回の巻き返しによってほぼねじれが解放され、第2の弾性ねじれを入れた効果がなかった。このことから、第2の弾性ねじれの振幅としては、300deg以上が望ましいことが分かる。
【0165】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1000degであることが確認された。
【0166】
〔比較例9〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれを付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料、セカンダリ材料ともに1Pa・secとした。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大振幅MAが5000degとなるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0167】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m、最大振幅が8000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0168】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.2ps/√km(残留ねじれ最大振幅6600deg)、PMD2は0.15(残留ねじれ最大振幅6000deg)、PMD3は0.2(残留ねじれ最大振幅5000deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.28であった。
【0169】
この比較例9では、第2の弾性ねじれの印加ねじれ量(振幅)が大きすぎるため、実施例3と比較して、PMD1〜3が高い結果となっている。すなわち、第2の弾性ねじれの印加ねじれ量(振幅)が大きすぎても、効果的にPMDを低減することができないことが確認された。したがってこのことから、第2の弾性ねじれの振幅を5000deg以下とすることが、効率的にPMDを低減するために望ましいといえる。
【0170】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1000degであることが確認された。
【0171】
〔実施例5〕
一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線を製造するにあたり、本発明に従って第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付与した光ファイバ素線を製造した。光ファイバ素線製造装置としては図8に示す装置を用い、かつその製造装置内における第1のねじれ付与装置として図3に示すような装置を用い、さらに第2のねじれ付与装置として図9に示すような装置を用いた。
【0172】
光ファイバ母材からの紡糸速度(線引き速度)は、1000mm/minとした。被覆―硬化方式としては、図8に示しているように、2箇所でそれぞれ別の被覆樹脂をコーティングする方式(wet on dry方式)を適用した。一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1.2MPa)を用い、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1300MPa)を用いた。またこれらの被覆時の液体樹脂の粘度は、プライマリ材料は3Pa・sec、セカンダリ材料は1Pa・secとし、一次被覆装置20Aにより液体状態のプライマリ材料を被覆した後、一次被覆硬化装置22AとしてのUVランプによって硬化させてから、二次被覆装置20Bによりセカンダリ材料を被覆して、二次被覆硬化装置22BとしてのUVランプによって硬化させた。第1の弾性ねじれは、二次被覆硬化装置22Bによってセカンダリ材料が硬化した直後に与えた。なお第1のねじれ付与装置26よりも上流側については、被覆樹脂以外は光ファイバ素線に物理的に接触するものがないような状態で線引きした。
【0173】
ここで、第1のねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に反転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500degとなるように、第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。第1のねじれ付与装置26を通過後の光ファイバ素線24は、ガイドプーリ28を経て図示しない引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径(一次被覆層外径)は190μm、セカンダリ径(二次被覆層外径)は260μmであった。
【0174】
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0175】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのツイストプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m(周期T1の8倍)、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0176】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない段階でのPMD1=0.03ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2=0.08(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3=0.1(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4=0.15であり、標準偏差は0.05ps/√kmであった。
【0177】
以上から、周期T1と比較して周期T2が8倍という条件においても、4回の測定PMDのうち、最もPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.05ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0178】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が750degであることが確認された。
【0179】
〔実施例6〕
実施例5と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が5m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが20000deg(400×5)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。その他の点は、実施例5と同様とした。
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0180】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が40m、最大振幅が500degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0181】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.04ps/√km(残留ねじれ最大振幅400deg)、PMD2は0.06(残留ねじれ最大振幅320deg)、PMD3は0.11(残留ねじれ最大振幅160deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.13であり、標準偏差は0.04ps/√kmであった。
【0182】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が6000degであることが確認された。
【0183】
以上から、周期T1と比較して周期T2が8倍という条件においても、4回の測定PMDのうち、最もPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.04ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0184】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が6000degであることが確認された。
【0185】
〔実施例7〕
実施例5と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが5000deg(500×10)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。その他の点は、実施例5と同様とした。
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0186】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が80m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0187】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.12ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.15(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.18(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.25であり、標準偏差は0.06ps/√kmであった。
【0188】
以上から、周期T1と比較して周期T2が8倍という条件においても、4回の測定PMDのうち、最もPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.06ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0189】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1500degであることが確認された。
【0190】
〔実施例8〕
実施例5と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが40000deg(4000×10)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。その他の点は、実施例5と同様とした。
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0191】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が80m、最大振幅が500degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0192】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.1ps/√km(残留ねじれ最大振幅400deg)、PMD2は0.17(残留ねじれ最大振幅320deg)、PMD3は0.14(残留ねじれ最大振幅250deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.23であり、標準偏差は0.05ps/√kmであった。
【0193】
以上から、周期T1と比較して周期T2が8倍という条件においても、4回の測定PMDのうち、最もPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっていることがわかる。また、4回のPMD測定結果の標準偏差を求めれば、0.05ps/√kmと非常にばらつきが小さいことがわかる。
【0194】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1200degであることが確認された。
【0195】
〔比較例10〕
実施例8と同様にして、第1の弾性ねじれおよび第2の弾性ねじれを付加した2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与する第1の弾性ねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期T1が10m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが5000deg(500×10)となるように第1のねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。その他の点は、実施例5と同様とした。
その後、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を20m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれ(第1の弾性ねじれの一部)を解放させた。
【0196】
次いで、図9に示される第2の弾性ねじれ付与装置によって、第2の弾性ねじれを加えた。第2の弾性ねじれのプロファイルは、回転方向の変わる正弦波とし、周期T2が100m、最大振幅が5000degとなるように第2の弾性ねじれ付与装置の揺動角度、速度の設定をした。
【0197】
以上のようにして得られた光ファイバ素線サンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態での、それぞれのPMD値(PMD1〜PMD4)を測定した。
その結果、第2の弾性ねじれが完全には解放されていない各段階でのPMD値、すなわちPMD1は0.04ps/√km(残留ねじれ最大振幅4000deg)、PMD2は0.17(残留ねじれ最大振幅3200deg)、PMD3は0.26(残留ねじれ最大振幅2500deg)であり、第2の弾性ねじれが完全に解放された状態でのPMD4は0.3であり、標準偏差は0.12ps/√kmであった。
【0198】
以上から、4回の測定PMDのうち、最もPMDが高かったのは第2の弾性ねじれが完全に解放されて第1の弾性ねじれのみが残っている状態でのPMD4であり、第2の弾性ねじれが若干でも残っている場合(PMD1〜PMD3)には、PMDは低くなっているが、4回のPMD測定結果の標準偏差は、0.12ps/√kmと、非常にばらつきが大きいことが分かる。すなわち、周期T1と比較して周期T2が10倍と、8倍より大きい条件下では、第2の弾性ねじれ量によるPMD変動が大きくなり、好ましくない結果となった。
【0199】
なお、第1の弾性ねじれとして光ファイバ素線に付与して、被覆層硬化後に外力を解放した状態で光ファイバ裸線部分に残留保持されている弾性ねじれについては、前述のような測定方法に従い、外力を解放した光ファイバ素線の被覆層を除去して、被覆層除去後の光ファイバ裸線の回転角を測定することによって、最大振幅が1500degであることが確認された。最大振幅が1500degであることが確認された。
【0200】
以上の実施例、比較例における弾性ねじれの付与条件を表1に、またそれらの結果(PMD抑制効果)を表2に、それぞれまとめて示す。
【0201】
【表1】
【0202】
【表2】
【符号の説明】
【0203】
10 光ファイバ素線製造装置
12 光ファイバ母材
14 紡糸用加熱炉
16 光ファイバ裸線
18 冷却装置
20 被覆装置
22 被覆硬化装置
24 光ファイバ素線
26 第1のねじれ付与装置
47 第2のねじれ付与装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ裸線が硬化性樹脂からなる被覆層によって被覆された光ファイバ素線を有する光ファイバにおいて、
前記光ファイバ裸線の部分に、第1の弾性ねじれが与えられており、かつその光ファイバ裸線部分の第1の弾性ねじれが、そのねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持されており、しかも前記光ファイバ裸線および被覆層からなる光ファイバ素線の全体に、第2の弾性ねじれが付与されていることを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバにおいて、
前記光ファイバ裸線の部分の第1の弾性ねじれとして、その長手方向の所定長さ置きに、交互に逆方向のねじれが与えられており、かつ前記光ファイバ素線の全体の第2の弾性ねじれとして、その長手方向の所定長さ置きに、交互に逆方向のねじれが与えられていることを特徴とする光ファイバ。
【請求項3】
請求項2に記載の光ファイバにおいて、
ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さをねじれの反転周期とし、前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、前記第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも大きく定められていることを特徴とする光ファイバ。
【請求項4】
請求項3に記載の光ファイバにおいて、
前記第1の弾性ねじれの反転周期T1が5〜10mの範囲内とされ、かつ前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、第1の弾性ねじれの反転周期T1の4倍〜8倍の範囲内にあることを特徴とする光ファイバ。
【請求項5】
請求項4に記載の光ファイバにおいて、
前記第1の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度が、前記被覆層の弾性反発力によって残留保持された状態で、100×T1deg 〜1200×T1degの範囲内にあり、かつ前記第2の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度が、300deg 〜5000degの範囲内にあることを特徴とする光ファイバ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかの請求項に記載の光ファイバにおいて、
前記光ファイバ裸線の部分に付与された第1の弾性ねじれを戻す方向に、被覆層に生じた弾性ねじれ量が、1400deg/m〜12800deg/mの範囲内にあることを特徴とする光ファイバ。
【請求項7】
光ファイバ裸線を未硬化の硬化性樹脂によって被覆し、その硬化性樹脂を硬化させてなる被覆層を形成した光ファイバ素線を有する光ファイバを製造する方法において、
前記硬化性樹脂が硬化する以前の段階で光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与し、その第1の弾性ねじれについて、素線に与えたねじれ量の少なくとも一部を前記被覆層によって光ファイバ裸線の部分に残留保持させ、さらに前記硬化性樹脂の硬化後の光ファイバ素線の全体に、第2の弾性ねじれを付与することを特徴とする、請求項1〜請求項6のうちのいずれかの請求項に記載の光ファイバを製造するための、光ファイバの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ母材を加熱溶融して、所定の径の光ファイバ裸線を引き出し、その光ファイバ裸線が固化してからその外周上を液体状態の硬化性樹脂で被覆し、さらにその樹脂を硬化させて光ファイバ素線としてから、第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、
第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、第1のねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ固化後の光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれが付与されるとともに、その第1の弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその被覆樹脂が硬化することにより、被覆層によって第1の弾性ねじれの少なくとも一部が光ファイバ裸線の部分に保持され、
さらに、前記硬化性樹脂の硬化後の光ファイバ素線の全体に、第2のねじれ付与装置によって第2の弾性ねじれを付与することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の光ファイバの製造方法において、
前記第1のねじれ付与装置よりも上流側に、光ファイバ裸線のねじれの伝搬を阻止する部材がない状態で、第1の弾性ねじれを付与することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項10】
請求項8および請求項9のうちのいずれかの請求項に記載の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ裸線に硬化性樹脂を被覆するにあたり、その液体状態の樹脂の被覆時の粘度を、0.1〜3Pa・secの範囲内とし、かつ前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、ねじれの方向を周期的に反転させることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項11】
請求項8〜請求項10のいずれかの請求項に記載の光ファイバの製造方法において、
ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さをねじれの反転周期と定義し、
前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、ねじれの方向を周期的に反転させるとともに、前記第2のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第2の弾性ねじれを付与するにあたって、ねじれの方向を周期的に反転させ、しかも前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、前記第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも大きくなるようにすることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、第1の弾性ねじれの反転周期T1が、光ファイバ素線の長手方向の距離に関して5〜10mの範囲内となり、かつその第1の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルとして、累積ねじれ角の最大振幅が、500×T1deg〜4000×T1degの範囲内となるようにすることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項13】
請求項11、請求項12のいずれかの請求項に記載の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ素線に付与した第1の弾性ねじれの少なくとも一部が、被覆層の弾性反発力によって光ファイバ裸線に保持されている状態で、光ファイバ裸線に残留している弾性ねじれについて、その反転周期Tが、光ファイバ素線の長手方向の距離に関して5〜10mの範囲内となり、かつ反転ねじれプロファイルにおける累積ねじれ角の最大振幅MAが、100×Tdeg〜1200×Tdegの範囲内となるようにすることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項14】
請求項11〜請求項13のいずれかの請求項に記載の光ファイバの製造方法において、
前記光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれの少なくとも一部を光ファイバ裸線に保持させるために、その第1の弾性ねじれを戻す方向に被覆層に生じる弾性ねじれ量を、1400deg/m〜12800deg/mの範囲内とすることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項15】
請求項11〜請求項14のいずれかの請求項に記載の光ファイバの製造方法において、
前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、第1の弾性ねじれの、ねじれ付与時の反転周期T1の4〜8倍の範囲内となり、かつその第2の弾性ねじれのねじれ付与時における累積ねじれ角の最大振幅が、300deg〜5000degの範囲内となるようにすることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項16】
請求項1〜請求項6のうちのいずれかの請求項に記載の光ファイバを製造するための装置であって、
光ファイバ母材を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉と、紡糸用加熱炉から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線を強制冷却して固化させるための冷却装置と、冷却・固化された光ファイバ裸線を、保護被覆用の硬化性樹脂により被覆するための被覆装置と、その被覆装置により被覆された未硬化の硬化性樹脂を硬化させるための被覆硬化装置と、その硬化性樹脂が硬化された状態で光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを与えるための第1のねじれ付与装置と、さらにその第1の弾性ねじれが付与された光ファイバ素線に、第1の弾性ねじれとは異なる第2の弾性ねじれを付与するための第2のねじれ付与装置とを有し、
前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、第1のねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ光ファイバ裸線固化後の光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれが付与されるとともに、その第1の弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその硬化性樹脂が硬化することにより、光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれの少なくとも一部が硬化性樹脂被覆層によって光ファイバ裸線の部分に保持されるように構成し、さらに光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれの少なくとも一部が保持された状態で、光ファイバ素線の全体に第2のねじれ付与装置により第2の弾性ねじれが付与されるように構成したことを特徴とする光ファイバの製造装置。
【請求項1】
光ファイバ裸線が硬化性樹脂からなる被覆層によって被覆された光ファイバ素線を有する光ファイバにおいて、
前記光ファイバ裸線の部分に、第1の弾性ねじれが与えられており、かつその光ファイバ裸線部分の第1の弾性ねじれが、そのねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持されており、しかも前記光ファイバ裸線および被覆層からなる光ファイバ素線の全体に、第2の弾性ねじれが付与されていることを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバにおいて、
前記光ファイバ裸線の部分の第1の弾性ねじれとして、その長手方向の所定長さ置きに、交互に逆方向のねじれが与えられており、かつ前記光ファイバ素線の全体の第2の弾性ねじれとして、その長手方向の所定長さ置きに、交互に逆方向のねじれが与えられていることを特徴とする光ファイバ。
【請求項3】
請求項2に記載の光ファイバにおいて、
ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さをねじれの反転周期とし、前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、前記第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも大きく定められていることを特徴とする光ファイバ。
【請求項4】
請求項3に記載の光ファイバにおいて、
前記第1の弾性ねじれの反転周期T1が5〜10mの範囲内とされ、かつ前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、第1の弾性ねじれの反転周期T1の4倍〜8倍の範囲内にあることを特徴とする光ファイバ。
【請求項5】
請求項4に記載の光ファイバにおいて、
前記第1の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度が、前記被覆層の弾性反発力によって残留保持された状態で、100×T1deg 〜1200×T1degの範囲内にあり、かつ前記第2の弾性ねじれの累積ねじれ角度の最大角度が、300deg 〜5000degの範囲内にあることを特徴とする光ファイバ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかの請求項に記載の光ファイバにおいて、
前記光ファイバ裸線の部分に付与された第1の弾性ねじれを戻す方向に、被覆層に生じた弾性ねじれ量が、1400deg/m〜12800deg/mの範囲内にあることを特徴とする光ファイバ。
【請求項7】
光ファイバ裸線を未硬化の硬化性樹脂によって被覆し、その硬化性樹脂を硬化させてなる被覆層を形成した光ファイバ素線を有する光ファイバを製造する方法において、
前記硬化性樹脂が硬化する以前の段階で光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与し、その第1の弾性ねじれについて、素線に与えたねじれ量の少なくとも一部を前記被覆層によって光ファイバ裸線の部分に残留保持させ、さらに前記硬化性樹脂の硬化後の光ファイバ素線の全体に、第2の弾性ねじれを付与することを特徴とする、請求項1〜請求項6のうちのいずれかの請求項に記載の光ファイバを製造するための、光ファイバの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ母材を加熱溶融して、所定の径の光ファイバ裸線を引き出し、その光ファイバ裸線が固化してからその外周上を液体状態の硬化性樹脂で被覆し、さらにその樹脂を硬化させて光ファイバ素線としてから、第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、
第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、第1のねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ固化後の光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれが付与されるとともに、その第1の弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその被覆樹脂が硬化することにより、被覆層によって第1の弾性ねじれの少なくとも一部が光ファイバ裸線の部分に保持され、
さらに、前記硬化性樹脂の硬化後の光ファイバ素線の全体に、第2のねじれ付与装置によって第2の弾性ねじれを付与することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の光ファイバの製造方法において、
前記第1のねじれ付与装置よりも上流側に、光ファイバ裸線のねじれの伝搬を阻止する部材がない状態で、第1の弾性ねじれを付与することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項10】
請求項8および請求項9のうちのいずれかの請求項に記載の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ裸線に硬化性樹脂を被覆するにあたり、その液体状態の樹脂の被覆時の粘度を、0.1〜3Pa・secの範囲内とし、かつ前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、ねじれの方向を周期的に反転させることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項11】
請求項8〜請求項10のいずれかの請求項に記載の光ファイバの製造方法において、
ある方向へのねじれが連続する区間とその区間に隣接しかつ反対方向へのねじれが連続する区間との2区間にまたがっての光ファイバ素線上での長さをねじれの反転周期と定義し、
前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、ねじれの方向を周期的に反転させるとともに、前記第2のねじれ付与装置により光ファイバ素線に第2の弾性ねじれを付与するにあたって、ねじれの方向を周期的に反転させ、しかも前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、前記第1の弾性ねじれの反転周期T1よりも大きくなるようにすることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを付与するにあたり、第1の弾性ねじれの反転周期T1が、光ファイバ素線の長手方向の距離に関して5〜10mの範囲内となり、かつその第1の弾性ねじれの反転ねじれプロファイルとして、累積ねじれ角の最大振幅が、500×T1deg〜4000×T1degの範囲内となるようにすることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項13】
請求項11、請求項12のいずれかの請求項に記載の光ファイバの製造方法において、
光ファイバ素線に付与した第1の弾性ねじれの少なくとも一部が、被覆層の弾性反発力によって光ファイバ裸線に保持されている状態で、光ファイバ裸線に残留している弾性ねじれについて、その反転周期Tが、光ファイバ素線の長手方向の距離に関して5〜10mの範囲内となり、かつ反転ねじれプロファイルにおける累積ねじれ角の最大振幅MAが、100×Tdeg〜1200×Tdegの範囲内となるようにすることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項14】
請求項11〜請求項13のいずれかの請求項に記載の光ファイバの製造方法において、
前記光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれの少なくとも一部を光ファイバ裸線に保持させるために、その第1の弾性ねじれを戻す方向に被覆層に生じる弾性ねじれ量を、1400deg/m〜12800deg/mの範囲内とすることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項15】
請求項11〜請求項14のいずれかの請求項に記載の光ファイバの製造方法において、
前記第2の弾性ねじれの反転周期T2が、第1の弾性ねじれの、ねじれ付与時の反転周期T1の4〜8倍の範囲内となり、かつその第2の弾性ねじれのねじれ付与時における累積ねじれ角の最大振幅が、300deg〜5000degの範囲内となるようにすることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項16】
請求項1〜請求項6のうちのいずれかの請求項に記載の光ファイバを製造するための装置であって、
光ファイバ母材を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉と、紡糸用加熱炉から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線を強制冷却して固化させるための冷却装置と、冷却・固化された光ファイバ裸線を、保護被覆用の硬化性樹脂により被覆するための被覆装置と、その被覆装置により被覆された未硬化の硬化性樹脂を硬化させるための被覆硬化装置と、その硬化性樹脂が硬化された状態で光ファイバ素線に第1の弾性ねじれを与えるための第1のねじれ付与装置と、さらにその第1の弾性ねじれが付与された光ファイバ素線に、第1の弾性ねじれとは異なる第2の弾性ねじれを付与するための第2のねじれ付与装置とを有し、
前記第1のねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、第1のねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ光ファイバ裸線固化後の光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれが付与されるとともに、その第1の弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその硬化性樹脂が硬化することにより、光ファイバ素線に付与された第1の弾性ねじれの少なくとも一部が硬化性樹脂被覆層によって光ファイバ裸線の部分に保持されるように構成し、さらに光ファイバ裸線に第1の弾性ねじれの少なくとも一部が保持された状態で、光ファイバ素線の全体に第2のねじれ付与装置により第2の弾性ねじれが付与されるように構成したことを特徴とする光ファイバの製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−11860(P2013−11860A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−107801(P2012−107801)
【出願日】平成24年5月9日(2012.5.9)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月9日(2012.5.9)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
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