説明

光ファイバケーブル

【課題】 苛酷な環境下においても伝送特性が劣化せず、温度変化に対する耐久性を有し、かつ、容易に被覆除去可能な光ファイバケーブルを提供すること。
【解決手段】 本発明の光ファイバケーブルは、光ファイバ心線がポリアミド系熱可塑性樹脂からなるシース層で被覆されている。前記光ファイバ心線は、石英系ガラスファイバの外周に紫外線硬化型樹脂からなる被覆層が2層形成されており、外側の被覆層は、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含有し、かつ、被覆層樹脂100重量部に対してシリコーン系アクリレートを1〜20重量部、並びに、アルキル系エステル化合物、アルケニル系エステル化合物、及びトリメリット酸エステル化合物の少なくともいずれかを1〜40重量部含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高精度画像情報伝送など、伝送速度の増加が求められ、LANや機器間配線に光ファイバが適用されることが増えている。また、使用環境も多様化し始め高温で長期間にわたり使用される事例も生じてきた。
【0003】
現在よく使用されるメタルのハーネスでも800Mbps以上の大容量の通信用途に適用することは可能であるが、ノイズ対策としてシールド線が必要であり、かつ複数本の電線が束ねられるので全体として太くなり空間使用効率が悪くなる。
一方、光ファイバを用いたハーネスも提案されている。例えば、特許文献1にはプラスチック系光ファイバケーブルが開示されている。このプラスチック系光ファイバケーブルは屈曲性が高く自在に曲げて配線することが可能なので、短距離の通信に適している。
特許文献2には、ガラスファイバが紫外線硬化型樹脂により被覆された光ファイバが熱可塑性樹脂によりさらに被覆された光ファイバドロップケーブルについて開示されている。また、特許文献3及び特許文献4には、光ファイバ用の紫外線硬化型樹脂組成物が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−212871号公報
【特許文献2】特開2004−21110号公報
【特許文献3】特開2005−338240号公報
【特許文献4】特開2005−283773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようなプラスチック系光ファイバは、一般に石英系光ファイバに比べて透明性が低いため85℃以上の高温に曝されると伝送特性が劣化するという問題があり、高温環境下で使用することが困難である。
【0006】
特許文献2に記載されている光ファイバケーブルではガラスファイバを用いるため上記の問題は解消できるが、本発明者らの検討により、ヒートショック試験(例えば−40〜125℃)のような過酷な温度履歴を付与した際にガラスファイバ部分が突き出てくる現象(ピストニング)が認められることがわかった。
これは、温度履歴を付与する際に熱可塑樹脂成型時に残存していた加工歪が解放されて、熱収縮が長手方向に発生し、ケーブル内部の樹脂層界面で最も密着力の弱い部分に剥離が発生するために起こると考えられる。光ファイバ心線がガラスファイバの周囲に紫外線硬化型樹脂からなる被覆層を2層有し、その光ファイバ心線が熱可塑性樹脂からなるシース層で被覆された構造である場合、内側の紫外線硬化樹脂とガラスファイバが突き出てくる現象が認められ、最も密着力の弱い部分は2層の紫外線硬化型樹脂の間であると考えられる。ピストニングが起こると突き出し部分の光ファイバに力が加わり、伝送損失が大きくなるという問題がある。さらには光源側の受光素子を破損させてしまう恐れもある。
【0007】
上記のピストニングを解消する手段としては、紫外線硬化型樹脂からなる被覆層どうしの密着力を向上させることが考えられる。
しかしながら、熱可塑性樹脂を除去した上に外側にある被覆層を被覆除去して内側の被覆層を露出させ、それにコネクタを取り付ける場合、被覆層どうしの密着力を高くしすぎるとこの被覆除去がうまく行かず、問題となる。
【0008】
特許文献3及び4に記載の樹脂組成物は、被覆除去性を改善させるべく、特殊な添加剤が所定量配合されている。しかしながら、これらの特許文献に記載の樹脂組成物では、ヒートショック後にピストニングが生じず、かつ外側の紫外線硬化型樹脂からなる被覆層の除去性が良好であることを満足させることができないことを確認した。
【0009】
本発明は、以上の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、苛酷な環境下においても伝送特性が劣化せず、温度変化に対する耐久性を有し(ピストニングが生じない)、かつ、容易に被覆除去可能な光ファイバケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は下記手段により解決することができる。
1.外径が80〜250μmの光ファイバ心線をポリアミド系熱可塑性樹脂からなるシース層で被覆した光ファイバケーブルであって、
前記光ファイバ心線は、石英系ガラスファイバの外周に紫外線硬化型樹脂からなる被覆層が2層形成されたものであり、内側の被覆層のヤング率が500〜1000Mpaであり、外側の被覆層が、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含有し、かつ、被覆層樹脂100重量部に対してシリコーン系化合物を1〜20重量部、並びに、アルキル系エステル化合物、アルケニル系エステル化合物、及びトリメリット酸エステル化合物の少なくともいずれかを1〜40重量部含有し、外側の被覆層のヤング率が50〜300Mpaであり、
前記シース層の厚みが0.8〜1.2mmであり、前記シース層のヤング率が800〜1300Mpaであることを特徴とする光ファイバケーブル。
2.上記1に記載の光ファイバケーブルをその端末でコネクタ付けしたコネクタ付き光ファイバケーブルであって、
前記コネクタが、前記光ファイバ心線の外径と実質的に等しい内径の挿通孔をその一端に有し、前記光ファイバケーブル本体を固定する固定部分を他端に有し、かつ前記挿通孔と前記固定部分との間に前記光ファイバ心線を撓ませる空間を有し、
前記光ファイバケーブルの一端のシース層及び外側の被覆層を除去して、前記石英系ガラスファイバと内側の被覆層とを一体化した状態で前記挿通孔に挿通し、前記光ファイバケーブルを前記固定部分で前記コネクタに固定したコネクタ付き光ファイバケーブル。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、石英系ガラスファイバを用いるので伝送容量を大きくすることができ、苛酷な環境下においても伝送損失が小さい。さらに、外側の被覆層に特定の紫外線硬化型樹脂を用いることにより、内側の被覆層と外側の被覆層との密着力を有するとともに、内側の被覆層と外側の被覆層との間に剥離性を付与することができる。従って、高温環境下においてもピストニングが発生せず、コネクタ・受光部分との良好な接続状態を維持でき、しかも容易に外側の紫外線硬化型樹脂被覆層の除去が可能であるため加工効率に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明に係る光ファイバケーブル(以下、「光ファイバケーブル」と略称する。)の好適な一実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、光ファイバケーブル10は、2本の光ファイバ心線13がシース層14によって一体化された構造をしている。光ファイバ心線13は、ガラスファイバ30の外周が紫外線硬化型樹脂からなる2層の被覆層によって被覆されている。2層の被覆層のうち内側の被覆層を第1被覆層31、外側の被覆層を第2被覆層32とする。光ファイバ心線の外径は80〜250μmの範囲とすることができる。
【0013】
ガラスファイバ30は、コア及びクラッドが石英系ガラスからなるガラスファイバ(石英系ガラスファイバ)を用いる。ここで、石英系ガラスとは、石英を主成分とするガラスを意味する。石英系ガラスファイバを用いることで800Mbps以上の伝送容量を実現することができ、画像データ通信に適したケーブルが得られる。また、石英系ガラスファイバはプラスチック系のものに比べて耐熱性が高く、85℃以上の高温環境においても高い伝送特性を維持することができる。
【0014】
ガラスファイバ30としては石英系細径マルチモードファイバを使用することが好ましい。石英系細径マルチモードファイバを使用することにより、800Mbps以上の大伝送量を実現できるとともに伝送距離を飛躍的に向上することができる。
【0015】
ガラスファイバ30のクラッド径は60〜125μmの範囲とすることが好ましく、80μmであることがより好ましい。このように、細径の光ファイバを使用することでガラスファイバに付与される実効的な曲げ歪を軽減させることができ、耐衝撃性が得られる。
【0016】
第1被覆層31に用いる紫外線硬化型樹脂としては、特に限定されるものではないが、たとえば、ウレタン(メタ)アクリレート、反応性希釈モノマー、光開始剤を主原料とし、これに溶剤、酸化防止剤、アミン化合物、シランカップリング剤等の添加剤を適宜添加した樹脂組成物を硬化させたものを用いることができる。なお、「ウレタン(メタ)アクリレート」は、ウレタンアクリレート又はウレタンメタアクリレートを包括して示すものである。第1被覆層31として前記紫外線硬化型樹脂を用いることで、ガラスファイバ30との適正な密着力を得ることができる。
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、反応性希釈モノマー及び光重合開始剤の添加割合としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを40〜85重量部、反応性希釈モノマーを10〜60重量部、光重合開始剤を0.1〜5重量部とすることができる。
【0017】
第1被覆層31に用いる反応性希釈モノマー、光開始剤としては後述するものを用いることができる。
また、第1被覆層31には、ガラスファイバとの密着力向上をさせる目的でシランカップリング剤を配合することができる。シランカップリング剤としては、メルカプト系シランカップリング剤を使用することができ、具体的には、γ−メルカプトプロピルシランカップリング剤、γ−アミノプロピルシランカップリング剤等を使用することができる。
【0018】
第1被覆層31のヤング率は、500〜1000Mpaの範囲であり、700〜900Mpaの範囲とすることが好ましい。オリゴマーと反応希釈モノマーの配合量比率を調整することによりヤング率を前記範囲とすることができる。第1被覆層31のヤング率を前記範囲とすることにより、ガラスファイバ30を保護し、第1被覆層31により被覆された状態でのフェルールへの収納が可能となる。
【0019】
第2被覆層32を構成する紫外線硬化型樹脂は、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含有する。第2被覆層32としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、反応性希釈モノマー、光重合開始剤、溶剤を添加した樹脂組成物を硬化させたものをベース樹脂として用いることができる。
【0020】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの製造に使用されるジイソシアネートとしては、芳香族イソシアネート、脂環族イソシアネート等が挙げられる。芳香族イソシアネートとしては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネートが挙げられ、脂環族イソシアネートとしては、例えばイソフォロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独でも複数使用してもよい。
【0021】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの製造に使用される水酸基(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独でも複数使用してもよい。
【0022】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの製造に使用されるポリオールとしては、脂肪族ポリエーテルジオール(具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソブテンオキシド、2−メチルテトラヒドロフラン等)、脂環式ポリエーテルジオール(具体的には水添ビスフェノールAアルキレンオキシド、1,4−シクロヘキサンジオールのアルキレンオキシド等)、芳香族ポリエーテルジオール類(ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加ジオール、ヒドロキノンのアルキレンオキシド付加ジオール等)、ポリカーボネートジオール(ポリテトラヒドロフランのポリカーボネート等)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独でも複数使用してもよい。
【0023】
反応性希釈モノマーとしては、Nビニル−ピロリドン、Nビニル−カプロラクタム、イソボルニルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独でも複数使用してもよい。
【0024】
光開始剤としては、例えば、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−メトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独でも複数使用してもよい。
【0025】
また、第2被覆層32に用いる紫外線硬化型樹脂には、シリコーン系化合物を含有する。シリコーン系化合物を所定量含有することにより、第1被覆層31との間の適度な剥離性が得られる。
本発明において、シリコーン系化合物とは、ポリシロキサンの側鎖の一部または末端にアクリレート基を1つ以上導入したものを意味する。ポリシロキサン骨格にメチル基、アルコキシ基等の修飾基を付加したものを用いてもよい。シリコーン系化合物としては、アクリレート基を1つ有するシリコーンアクリレート、アクリレート基を2つを有するシリコーンジアクリレートを用いることができる。
【0026】
シリコーン系化合物の配合量は、被覆層樹脂100重量部に対して、1〜20重量部の範囲であり、5〜15重量部の範囲であることが好ましい。シリコーン系化合物が1重量部未満の場合には、第1被覆層31と第2被覆層32の剥離が難しくなる。一方、シリコーン系化合物が20重量部より多い場合には、第1被覆層31と第2被覆層32とが滑るので適正な密着力を得ることができなくなり、ピストニングが発生してしまう。
【0027】
第2被覆層32に用いる紫外線硬化型樹脂は、上記シリコーン系化合物に加え、アルキル系エステル化合物、アルケニル系エステル化合物、及びトリメリット酸エステル化合物の少なくともいずれかを含有する。
アルキル系エステル化合物、アルケニル系エステル化合物、及びトリメリット酸エステル化合物、の少なくともいずれかを含有することにより、第2被覆層32を膨潤させて界面剥離を促し、被覆除去を更に容易にすることができる。
【0028】
アルキル系エステル化合物、アルケニル系エステル化合物、及びトリメリット酸エステル化合物の配合量は、被覆層樹脂100重量部に対して、1〜40重量部の範囲であり、1〜20重量部の範囲であることが好ましい。
アルキル系エステル化合物、アルケニル系エステル化合物またはトリメリット酸エステル化合物が1重量部未満であると、第2被覆層32を膨潤させることができず、第2被覆32の被覆除去が困難となる。一方、アルキル系エステル化合物、アルケニル系エステル化合物またはトリメリット酸エステル化合物が40重量部より多い場合には、これらの添加剤に由来する可塑効果が大きくなり、第2被覆層32のガラス転移温度が低温側にシフトしてしまう。そうすると、特にケーブルをバンドル状に束ねて使用した場合に125℃等の高温下に長期間保持すると、厚いシース層の影響を受けて、熱による変形を受けてしまい、ケーブルの長手方向に渡りマイクロベンドロスが発生してしまう。
【0029】
アルケニル系エステル化合物の具体例としては、4−シクロヘキセン1,2−ジカルボン酸無水物、3−メチル4−シクロヘキセン1,2−ヘキサノンジカルボン酸、アルキル系エステル化合物としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチル1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、等を例示することができるが、例示されるものに限られない。
トリメリット酸エステル化合物の具体例としては、トリメリット酸トリアリル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸無水物、等を例示することが出来るが、例示されるものに限られない。
【0030】
第2被覆層32のヤング率は、50〜300Mpaの範囲であり、100〜250Mpaの範囲とすることが好ましい。第2被覆層32のヤング率を前記範囲とすることで、締め付け力が最適化されて、ピストニングと被覆除去の問題が両方解決されるという利点が得られる。
以上のようにシリコーン系化合物及びアルキル系エステル化合物、アルケニル系エステル化合物、及びトリメリット酸エステル化合物を所定量配合することにより、第1被覆層31と第2被覆層32の剥離性を確保して被覆除去性を改善し、同時に第2被覆層のヤング率を50〜300MPaの範囲とすることで第1被覆層の滑りを抑えてピストニングを抑制できる程度の密着力を付与し、ピストニング抑制と被覆除去性の両立を実現できる。
【0031】
シース層14は、ポリアミド系熱可塑性樹脂から形成される。ポリアミド系熱可塑性樹脂としては、ナイロン12、ナイロン612等を用いることができる。
シース層14のヤング率は、800〜1300Mpaの範囲であり、850〜1200Mpaの範囲とすることが好ましい。シース層14のヤング率を前記範囲とすることで、ハーネス加工時における衝撃により光ファイバが断芯する等の問題、またハーネス加工性という面でシース材がある程度柔軟でなければならないという問題が各々克服されるという利点が得られる。
【0032】
また、シース層14の厚み(図1の厚みd)は、樹脂のヤング率にもよるが、0.8〜1.2mmの範囲であり、0.8〜1.0mmの範囲とすることがより好ましい。
厚みdが上記範囲より小さいとガラスファイバ30が断芯する場合がある。例えば、ヤング率が850Mpaのナイロン12を用いた場合、厚みdが0.8mm未満であると、光ファイバケーブルに衝撃が加わったときにガラスファイバが断線に至ることがある。耐衝撃性の観点では、厚みdの下限は0.9mmとすることがより好ましい。
また、厚みdが1.2mmより大きくなると、曲げ剛性が高くなりハーネスとして自在な加工が難しくなる。
【0033】
次に、図2および図3に基づいて、本発明に係るコネクタ付き光ファイバケーブルの実施形態について説明する。
図2はオス型コネクタ20Aを装着したコネクタ付き光ファイバケーブル10Gaと、メス型コネクタ20Bを装着したコネクタ付き光ファイバケーブル10Gbとを嵌合させる前の状態を示す断面図、図3は両コネクタ20A、20Bを嵌合させて両ケーブルを接続した状態を示す断面図である。
【0034】
コネクタ付き光ファイバケーブル10Ga、10Gbは、前述した光ファイバケーブル10の端末にコネクタ20A、20Bを付けたものである。コネクタ20A、20Bは、光ファイバケーブル10に含まれる光ファイバ心線13の径と実質的に等しい内径の挿通孔21をその一端(オス型コネクタ20Aについては左端、メス型コネクタ20Bについては右端)に有し、光ファイバケーブル10本体を固定する固定部分22を他端に有し、かつ挿通孔21と固定部分22との間に光ファイバ心線13を撓ませる空間23を有している。
【0035】
固定部分22にはケーブル固定部材22aが設けられており、ケーブル固定部材22aが光ファイバケーブル10のシース層14に食い込むようになっている。また、光ファイバ心線13を上方へ撓ませる空間23においては、空間23の底面23aが挿通孔21の底面と同じ高さで設けられており、光ファイバ心線13をスムーズに挿通孔21へ挿入できるようになっている。
【0036】
メス型コネクタ20Bの先端部には、オス型コネクタ20Aを嵌合させて接続するためのハウジング26が設けられており、ハウジング26の内径がオス型コネクタ20Aの外径に対応している。オス型コネクタ20Aの先端には位置合せ用凸部24が設けられており、メス型コネクタ20Bの先端に設けられている位置合せ用凹部25に嵌合して、両コネクタ20A、20Bの挿通孔21の位置を容易に合わせることができるようになっている。また、メス型コネクタ20Bのハウジング26内部には、オス型コネクタ20Aの先端の外周壁28を嵌合して固定するための嵌合凹部27が設けられている。
なお、オス型コネクタ20Aの位置合せ用凸部24の先端からは、オス型コネクタ20Aに取り付けられている光ファイバケーブル10の光ファイバ心線13の先端がわずかに突出しており、メス型コネクタ20Bの位置合せ用凹部25の内部にはメス型コネクタ20Bに取り付けられている光ファイバ心線13の先端が突出している。
【0037】
従って、コネクタ20A、20Bを光ファイバケーブル10に取り付ける際には、光ファイバケーブル10の一端のシース層14を除去して光ファイバ心線13を剥き出し、光ファイバ心線13を挿通孔21に挿通し、光ファイバケーブル10を固定部分22でコネクタ20A、20Bに固定する。この時に、接続する2本の光ファイバ心線13の先端面は、光学的に接続可能となるように研磨等の処理を施していておくことが望ましい。
【0038】
図3に示すように、光ファイバケーブル10に装着されたコネクタ20A、20B同士を接続すると、オス型コネクタ20Aの先端部の外周壁28がメス型コネクタ20Bのハウジング26の嵌合凹部27に挿嵌されて固定されるとともに、オス型コネクタ20Aの位置合せ用凸部24がメス型コネクタ20Bの位置合せ用凹部25に挿嵌されて両挿通孔21が芯合せされる。このとき、位置合せ用凸部24から突出している光ファイバ心線13の先端面と、位置合せ用凹部25に突出している光ファイバ心線13の先端面とが当接して押し合い、その結果両光ファイバ心線13が図3中左右両外向きに押し込まれて各々空間23において撓む(撓み部分29が生じる)ことになる。
【0039】
このように構成されたコネクタ付き光ファイバケーブル10Gにおいては、光ファイバケーブル10の一端のシース層14を除去して光ファイバ心線13を剥き出し、光ファイバ心線13の径と実質的に等しい内径でコネクタ20に設けられている挿通孔21に光ファイバ心線13を挿入して固定部分22において固定するので、光ファイバ心線13の被覆部がついたままコネクタ20を取り付けることができる。このため、被覆部を除去する作業が不要となるばかりでなく、被覆屑等をふき取るといった清掃作業も不要となり、光ファイバケーブル10にコネクタ20を容易に取り付けることができるので、コネクタ20の組み立て作業性が向上する。
また、挿通孔21と固定部分22との間には、光ファイバ心線13を撓ませる空間23を有するので、光ファイバ心線13の先端は、挿通孔21に沿って軸心を大きくずらすことなく後方へ移動可能な状態となる。従って、オス型コネクタ20Aとメス型コネクタ20Bとを接続した際に空間23において生じる両光ファイバ心線13の撓み部分29が真っ直ぐになろうとして両端面を押し合うので、接続端を固定することなく光学的に確実に接続することができることになる。
【0040】
なお、以上の実施形態において例示した各部材の形状、寸法、数、配置個所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【実施例】
【0041】
〔光ファイバケーブルの作製〕
図1に示す光ファイバケーブル10と同様の構成の光ファイバケーブルを作製した。ガラスファイバ30としては、石英系ガラスよりなる細径マルチモードファイバ(コア径 50μm、クラッド径 80μm)を使用した。
第1被覆層31には、ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂(ヤング率 850MPa)を使用した。第2被覆層32は、第1被覆層31の上に表1に示す組成の樹脂組成物を塗布し硬化させて形成した。光ファイバ心線13の外径は0.125mmであった。
シース層14としては、ポリアミド系熱可塑性樹脂を使用した。シース層14の厚みdを0.85mmとした。
【0042】
【表1】

【0043】
表1における各化合物は以下のものを示す。
・ウレタンアクリレートオリゴマー:トリレンジジイソシアネート、ポリプロピレングリコール、及び2−ヒドロキシエチルアクリレートの共重合体(共重合比は2:1:2)。
・N−ビニルピロリドン
・光開始剤:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、商品名:ルシリンTPO
・シリコーンアクリレート
・シクロヘキセンジカルボン酸
・酸化防止剤
・助剤
【0044】
〔評価〕
作製した光ファイバケーブルを用いて下記項目について評価を行った。
1)伝送特性
−40〜125℃のヒートサイクル試験を行った後、伝送損失増加量を測定した。なお、ヒートサイクル試験は5サイクルとし、各温度での保持時間は2時間以上とした。また、伝送損失測定においては、サンプル長さを50mとし、測定波長を1.3μmとした。
【0045】
2)被覆除去性
細径インドアケーブル用のジャケットリムーバ(住電ハイプレシジョン社製、ケーブル端末処理工具を用いて、上記で作製した光ファイバケーブルからシース層及び第2被覆層を除去する時に、作業者が重さを感じる、ガラスファイバの破断する、一括被覆が蛇腹状に変形する等の被覆除去し難い状況が発生した場合を×、これらのような問題が発生しなかった場合を○として評価した。なお、除去長は100mmとした。
【0046】
3)ピストニング性
−40〜125℃のヒートショック試験を100回実施し、光ファイバ心線(第1被覆層より内側)の突き出し量を電子顕微鏡で測定した。なお、ヒートショック試験における各温度での保持時間は30分とし、温度転移(例:−40→125℃)は、ほぼ瞬時であった。突き出し量が30μm未満の場合を○とし、30μm以上の場合を×として評価した。
【0047】
〔結果〕
表1に示すように、本発明に係る光ファイバケーブル(実施例1〜6)は伝送特性、被覆除去性、ピストニング性のいずれにおいても優れた性能を示すものであった。また、いずれの実施例ともコネクタ付け時の取り扱い性は良好であった。一方、比較例1は第2被覆層にシリコーンアクリレートが添加されていないために被覆除去性が悪い。比較例2は第2被覆層にシリコーンアクリレートが多すぎるためピストニングが生じる。比較例3は第2被覆層にシクロヘキセンジカルボシ酸エチルが添加されていないので被覆除去性が悪い。比較例4は第2被覆層にシクロヘキセンジカルボン酸エチルが多すぎるためにピストニングが生じ、ヒートサイクル後の伝送損失も大きくなる。また、比較例4の光ファイバケーブルについては長期の熱耐性(125℃、3000時間程度)が低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る光ファイバケーブルの一実施形態を示す断面図である。
【図2】オス型コネクタを装着したコネクタ付き光ファイバケーブルとメス型コネクタを装着したコネクタ付き光ファイバケーブルとを接続する前の状態を示す断面図である。
【図3】オス型コネクタを装着したコネクタ付き光ファイバケーブルとメス型コネクタを装着したコネクタ付き光ファイバケーブルとを接続した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 光ファイバケーブル
13 光ファイバ心線
14 シース層
30 ガラスファイバ
31 第1被覆層
32 第2被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径が80〜250μmの光ファイバ心線をポリアミド系熱可塑性樹脂からなるシース層で被覆した光ファイバケーブルであって、
前記光ファイバ心線は、石英系ガラスファイバの外周に紫外線硬化型樹脂からなる被覆層が2層形成されたものであり、内側の被覆層のヤング率が500〜1000Mpaであり、外側の被覆層が、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含有し、かつ、被覆層樹脂100重量部に対してシリコーン系化合物を1〜20重量部、並びに、アルキル系エステル化合物、アルケニル系エステル化合物、及びトリメリット酸エステル化合物の少なくともいずれかを1〜40重量部含有し、外側の被覆層のヤング率が50〜300Mpaであり、
前記シース層の厚みが0.8〜1.2mmであり、前記シース層のヤング率が800〜1300Mpaであることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバケーブルをその端末でコネクタ付けしたコネクタ付き光ファイバケーブルであって、
前記コネクタが、前記光ファイバ心線の外径と実質的に等しい内径の挿通孔をその一端に有し、前記光ファイバケーブル本体を固定する固定部分を他端に有し、かつ前記挿通孔と前記固定部分との間に前記光ファイバ心線を撓ませる空間を有し、
前記光ファイバケーブルの一端のシース層及び外側の被覆層を除去して、前記石英系ガラスファイバと内側の被覆層とを一体化した状態で前記挿通孔に挿通し、前記光ファイバケーブルを前記固定部分で前記コネクタに固定したコネクタ付き光ファイバケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−233274(P2008−233274A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69616(P2007−69616)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】