説明

光ファイバーケーブル用ジェリーの洗浄除去剤および方法

【課題】 光ファイバーケーブルリサイクル時の分別の妨げとなる被覆、スロット、テープ心線等に付着しているジェリーを除去することが可能な、洗浄除去剤および方法を提供すること。
【解決手段】 廃光ファイバーケーブル解体後の光ファイバーケーブル構成材料に付着している光ファイバーケーブル用ジェリーを、一般式(I)で表される化合物により洗浄除去する。
1 −X−(AO)n−R2 ・・・・・(I)
(式中、R1 は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、R2 は水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基であり、XはOまたはCOである。また、Aは炭素原子数2〜3のアルキレン基を、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す0〜10の整数である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が単独で付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していても良い。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバーケーブル用ジェリーの洗浄除去剤および方法に関し、詳細には、廃光ファイバーケーブル解体後の被覆やスロット、テープ心線等に付着している光ファイバーケーブル用ジェリーの洗浄除去剤および該ジェリーを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバーは通信での利用拡大のため使用量が急増しており、今後の廃光ファイバーの量も増大すると予測されているが、そのリサイクル技術は確立されていない。リサイクルには、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルがあるが、最も環境負荷が少ない循環型社会の構築に相応しいリサイクルは、マテリアルリサイクルであると考えられている。
【0003】
マテリアルリサイクルを行うには分別が必要であるが、光ファイバーケーブルは、石英ガラスからなる光ファイバー心線(clad)、プラスチック被覆材および金属材から主に構成されており、各構成材料は強固に固定されているため、構成材料を簡便に分離回収することは難しい。本発明者らは既に、解砕等の手段により、光ファイバーケーブルから構成材料を分別する有効な方法を提案している(特許文献1〜2等)。
【0004】
しかし、特に電力系で使用されている光ファイバーケーブルには、特許文献3〜4等に例示するように、光ファイバーをジェリーと呼ばれるグリース状のコンパウンドの中に緩く収納したものがある。光ファイバーは、摩擦、衝撃などの応力を受けることによる光伝送損失が発生するとともに、端末または損傷箇所から水、特に海水が浸入すると走水現象を起こし、光ファイバ被覆層の特性を局部的に劣化させるなどにより、寿命も短くなる。そこで、外部からの曲げ、摩擦、衝撃などの応力を緩和し、かつ水の浸入を防ぐ手段の一つとして、光ファイバーをジェリーの中に収納している。
【特許文献1】特願2004−357996
【特許文献2】特願2005−074267
【特許文献3】特開平7−104158号公報
【特許文献4】特開平7−270657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このジェリーは一般に、石油系のベースオイルをゲル成分とし、稠度調整用のシリカ、酸化防止剤などから調製される。そのため、光ファイバーケーブル解体後の被覆やスロット及びテープ心線等の構成材料にジェリーが付着していると、このジェリーが分別装置に付着してマテリアルリサイクルの際の分別の妨げになる。ところが、このジェリーの除去方法は未だ確立されていない。
【0006】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、光ファイバーケーブルリサイクル時の分別の妨げとなる被覆等に付着しているジェリーを除去することが可能な、洗浄除去剤および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の化合物からなる洗浄除去剤を用いることにより、常法にて簡便に光ファイバーケーブル用ジェリーを完全に除去することができ、また、光ファイバーケーブル用ジェリーが付着している光ファイバーケーブル構成材料を、水熱分解処理に供することによって、該ジェリーを分解除去できるとの知見に基づいてなされたのである。
【0008】
すなわち、本発明は、一般式(I)で表される化合物を含有することを特徴とする光ファイバーケーブル用ジェリーの洗浄除去剤を提供する。
1 −X−(AO)n−R2 ・・・・・(I)
(式中、R1 は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、R2 は水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基であり、XはOまたはCOである。また、Aは炭素原子数2〜3のアルキレン基を、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す0〜10の整数である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が単独で付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していても良い。)
【0009】
一般式(I)において、R1 は炭素原子数1〜3のアルキル基であり、R2は水素原子または炭素原子数1〜2のアルキル基であり、XはOまたはCOであり、nは0であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、光ファイバーケーブル用ジェリーが付着している廃光ファイバーケーブル解体後の光ファイバーケーブル構成材料を、上記の一般式(I)で表される化合物により洗浄することを特徴とする方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、光ファイバーケーブル用ジェリーが付着している廃光ファイバーケーブル解体後の光ファイバーケーブル構成材料を、水熱分解処理することを特徴とする方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光ファイバーケーブルから分別した構成材料(被覆等)に付着しているジェリーを、完全に洗浄除去することができる。同様のジェリーを、95%以上の高剥離率で分解除去することができる。これにより、光ファイバーケーブルからの各構成材料の分別が容易になり、ひいては各構成材料の回収率を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で用いる一般式(I)で表される化合物について、好ましい例を挙げて説明する。一般式(I)中、R1 は炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。また、R2 は水素原子または炭素原子数1〜2のアルキル基が好ましい。また、Aは炭素原子2〜3個のアルキレン基であるのが好ましく、nは0〜5の整数であるのが好ましい。
【0014】
特にXがOの場合、R1 は炭素原子数2〜3のアルキル基が好ましく、R2 は水素原子が好ましく、nは0であるのが好ましい。また、特にXがCOの場合、R1およびR2 は炭素原子数1〜2のアルキル基が好ましく、nは0であるのが好ましい。
【0015】
一般式(I)で示される化合物の好ましい具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ジメチルケトン(アセトン)、メチルエチエルケトン(MEK)等のケトン類がある。本発明ではこれらの化合物をそれぞれ単独で使用しても良いし、2種類以上を適宜組み合わせて使用しても良い。
【0016】
上記化合物中、特に、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、およびジメチルケトン(アセトン)等のケトン類は、安価で、入手しやすく、沸点も比較的高い上に、ジェリーが付着している被覆樹脂が侵されにくい点より、好ましい。
【0017】
洗浄除去剤を選択する場合は、光ファイバーケーブル用ジェリー(以下、単に「ジェリー」と称する。)の分子量や稠度などによって、洗浄除去剤に対する溶解性が異なるため、ジェリーの種類に応じて適宜の除去剤を選択するのが良い。
【0018】
本発明による洗浄除去剤を用いてジェリーを除去する場合は、光ファイバーケーブル解体後の分別した光ファイバーケーブル構成材料(被覆、スロット、テープ心線等)を洗浄除去剤の中に浸漬する、あるいは洗浄除去剤をスプレーするなど、常法の洗浄手段により行えば良い。必要に応じて攪拌、加温、加圧等の手段を採用することができる。洗浄時には超音波を加振しながら洗浄することもできる。
【0019】
洗浄除去剤の使用量は、ジェリーが付着している光ファイバーケーブル構成材料1(質量)に対して、3(容量)以上用いることが好ましく、より好ましくは10〜50(容量)である。洗浄除去剤の使用量が少なすぎる場合は、ジェリーの剥離率が低下し、多すぎる場合は経済性に劣るものとなる。ジェリーをする際の洗浄除去剤の温度は、常温以下とするのが良い。
【0020】
また、水熱分解によりジェリーを分解除去する場合は、上記したジェリーが付着している光ファイバーケーブル構成材料を、水熱分解処理に供する。水熱分解処理に用いられる反応器としては、オートクレーブなどの耐高温および耐高圧用の一般的な反応容器が挙げられる。
【0021】
反応条件としては、反応温度は100〜180℃が好ましく、より好ましくは110〜150℃である。反応圧力は0.1〜1MPaが好ましく、より好ましくは0.1〜0.2MPaである。反応温度が低すぎるとジェリーの分解率が低くなり、一方、反応温度が高くなると分解反応速度は増大するが、構成材料が軟化し、投入エネルギーも増大し無駄になる。また、反応圧力が低すぎると、ジェリーの分解率が低くなり、一方、反応圧力が高すぎると投入エネルギーも増大し無駄になる。
【0022】
反応時間は、通常、30分〜180分、好ましくは60分〜180分である。反応時間が短すぎるとジェリーの分解が不十分となり、一方、反応時間が長すぎても反応が平衡状態に達するので無意味となり、除去効率が低下する。
【0023】
具体的には、反応器内に光ファイバーケーブル構成材料と溶媒としての水を供給し、温度および圧力を、所望の温度および圧力範囲内に保たれるように保持する。また、分解反応を促進するため、必要に応じて、溶媒に、過酸化水素、酸素などの酸化剤を添加してもよく、酸化剤濃度は酸化剤と溶媒の合計量に対する質量比で5〜30%程度が好ましい。
【0024】
反応器内の光ファイバーケーブル構成材料は、高温および高圧下で溶媒である水と接触することにより、ジェリーが分解される。
【0025】
反応器に供給する溶媒の使用量は、前記反応器内の光ファイバーケーブル構成材料供給質量に対して3(容量)以上が好ましく、より好ましくは10〜50(容量)である。反応器に供給する溶媒の量を多くすると、反応率は向上するが、システムのポンプ、配管、熱交換器等の装置を大型化せざるを得なくなって、コスト的に不利となり、好ましくない。一方、少な過ぎると反応が不安定になり反応率が低下したり、適正な反応温度を維持することができなくなる。また、反応器が閉塞したりする原因となり、好ましくない。
【0026】
水熱分解後は反応器内より構成材料を取り出し、ジェリー分解物を水等により洗浄してジェリーを剥離させる。
【0027】
ジェリー除去後の光ファイバーケーブル構成材料は、そのままリサイクル材として使用しても良いし、必要に応じて後処理を施し、心線等を分別回収しても良い。
【実施例】
【0028】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。各例中、特に言及しない限り、部および%は質量基準である。
【0029】
(試験例1)
ジェリーの試料として試料A、試料B、試料C、試料D、および試料Eの5種類を用意し、ポリエチレンまたは難燃性ポリエチレンからなる被覆材約12gに、ジェリー約0.2gを塗布し、実験用試料を調製した。
【0030】
1000ml容ビーカーに上記の実験用試料、および洗浄液として表1に示す各種溶剤250〜500mlを入れた後、超音波を加振しながら、常温常圧で60分間洗浄した。洗浄前のジェリー塗布量に対する、洗浄後のジェリー減量の値より、洗浄によるジェリー剥離率(wt%)を求めた。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から明らかなように、ジェリーAは、エタノールでは剥離率が低かったが、イソプロピルアルコールにより完全に除去することができた。ジェリーB、ジェリーC、ジェリーD、およびジェリーEは、エタノールにより完全に除去することができた。またジェリーDは、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンのいずれの溶媒によっても完全に除去することができた。
【0033】
一方、加水エタノールを用いた場合は、水の割合が増加するにしたがい、ジェリーの剥離率が低下した。
【0034】
(試験例2)
内容量100mLのオートクレーブに、試験例1で準備した実験用試料、および溶媒として、表2に示す量の水を2ml/minの速度で入れ、オートクレーブ内の最高温度、および圧力を、表2に示す条件に120分間維持した。反応終了後、反応器内により実験用試料を取り出してビーカーに移し、水600mlを入れた後、超音波を加振しながら、常温常圧で60分間洗浄した。
【0035】
試験前のジェリー塗布量に対する、水熱分解によるジェリー減量の値より、水熱分解による分解率(wt%)を求め、さらに、水洗後のジェリー減量の値より、洗浄によるジェリー剥離率(wt%)を求めた。その結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から明らかなように、水熱分解処理することによって、ジェリーを分解することができ、さらにその後、水洗浄することによって、ジェリーを96%剥離させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される化合物を含有することを特徴とする光ファイバーケーブル用ジェリーの洗浄除去剤。
1 −X−(AO)n−R2 ・・・・・(I)
(式中、R1 は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、R2 は水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基であり、XはOまたはCOである。また、Aは炭素原子数2〜3のアルキレン基を、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す0〜10の整数である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が単独で付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していても良い。)
【請求項2】
一般式(I)において、R1 は炭素原子数1〜3のアルキル基であり、R2 は水素原子または炭素原子数1〜2のアルキル基であり、XはOまたはCOであり、nは0である請求項1に記載の光ファイバーケーブル用ジェリーの洗浄除去剤。
【請求項3】
光ファイバーケーブル用ジェリーが付着している廃光ファイバーケーブル解体後の光ファイバーケーブル構成材料を、一般式(I)で表される化合物により洗浄することを特徴とする方法。
1 −X−(AO)n−R2 ・・・・・(I)
(式中、R1 は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、R2 は水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基であり、XはOまたはCOである。また、Aは炭素原子数2〜3のアルキレン基を、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す0〜10の整数である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が単独で付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していても良い。)
【請求項4】
光ファイバーケーブル用ジェリーが付着している廃光ファイバーケーブル解体後の光ファイバーケーブル構成材料を、水熱分解処理することを特徴とする方法。

【公開番号】特開2007−2159(P2007−2159A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186216(P2005−186216)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】