説明

光ファイバープローブによる分光測定装置

【課題】 マイクロプレートにおける測定対象物の高精度な分光測定を実現する。
【解決手段】 測定対象物に照射する励起光を生成する光源と、励起光を測定対象物近傍へと伝送する投光用ファイバと、励起光の光路を屈折させ所定のポイントに集光するレンズと、測定対象物から出力される蛍光を伝送する受光用ファイバとを有し、投光用ファイバの出射端面を外周側に、受光用ファイバの入光端面を中心側に、同心円周上に配置、規制するためバンドル手段を有することにより、S/N比の高い安定した分光測定を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
マイクロプレート等を用いた、微小量の測定対象物において、特定の波長光の投光によって得られる拡散反射光、または燐光・蛍光発光を受光することで測定対象物の特性を判定する分光測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多数の測定対象物を一括して測定する場合には96、384、1536穴等の多数のウェルが設けられたマイクロプレートが多く用いられている。マイクロプレートを用いた分光測定では、各ウェルに注入された測定対象物にそれぞれ所定の波長光を投光することにより得られる、拡散反射光、または燐光・蛍光の光強度を測定することで、測定対象物内部に含まれる成分の定量が可能となる。
【0003】
図8,9は、従来の測定対象物11が投入されたマイクロプレート10の蛍光測定に関する例を示したものである。光源1から発せられた励起光は、投光用ファイバ2により伝送され、図9(a),(b)で示したごとく、円筒バンドル金具4で受光用ファイバ3とランダムに束ねられた投光用ファイバ2の出射端面より出力される。出力された励起光は、マイクロプレート10の底面側から、ウェル12内の測定対象物11に照射される。このとき測定対象物11からは、照射された励起光のエネルギにより基底状態から励起状態へと遷移した物質が蛍光を発光する。
【0004】
ここで、円筒バンドル金具4によって固定された受光用ファイバ3の入力端面に、蛍光および励起光の反射光が入光され、受光用ファイバ3内を伝播し出射端面から蛍光フィルタ5へと導かれる。蛍光フィルタ5では、蛍光波長成分のみを透過し、他波長成分はすべて反射することで、蛍光波長成分に限定した光を検出器6へと入力する。検出器6では、蛍光の光強度に応じた電流または電圧に変換され、さらに信号処理部7にて増幅、フィルタリング等の処理が施されたデジタル値へと変換され、演算・制御部8によって所望の計算が行われ、測定対象物内部に含まれる成分の定量化が実施される。電源9は光源1に電力供給を行い、演算・制御部8により点灯時間、電流制限等が実行される。
【0005】
また、投光用ファイバ2の開口角が受光用ファイバ3の開口角より小さくなっていることで、測定対象物11内から発せられる蛍光をより多く取り込むことを可能にしている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−281994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べた分光測定装置では、近年益々進むマイクロプレートの多穴化による測定対象物の少量化において、投光用ファイバの開口角が極力小さなものを選定した場合でも、励起光の多くがウェル内の測定対象物に達することができず、十分な光量を照射することが困難となってきている。また、測定対象物が発する蛍光検出過程においても、測定対象物が少量であるが故に非常に微弱なものであり、測定対象物に達することができなかった励起光の反射光等は所謂ノイズ成分となるため、このノイズ成分と蛍光との分離・検出を効果的に行うことが大きな問題となっている。
【0008】
よって、本発明は、多穴・少量化が進むマイクロプレートにおける測定対象物の高精度な分光測定を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、請求項1に係わる発明では、第一の特定波長光を生成する光源と、光源で生成された第一の特定波長光を伝送する複数本のオプティカルファイバにより構成された投光用ファイバと、投光用ファイバから伝送された第一の特定波長光を、所定のポイントに集光する中心部分が空洞化されたドーナツ形状をもった集光レンズと、集光レンズで集光された第一の特定波長光が照射された測定対象物から発せられた出力光を、伝送する単数または複数本のオプティカルファイバにより構成された受光用ファイバと、投光用ファイバの出射端面を円周上外周部に、加えて投光用ファイバ出射端面の前方に集光レンズを配設、更に受光用ファイバが集光レンズ中心空洞部に導かれ、受光用ファイバの受光面は円周上中心部に、かつ集光レンズの出射面に対して同一平面または前方に配設された状態で、位置決め規制するためバンドル手段と、受光用ファイバによって伝送された測定対象物からの出力光の内、第一の特定波長光または、第一の特定波長と異なる第二の特定波長光のみ選択する分光手段と、分光手段によって選択された第一のまたは第二の特定波長光を電気信号に変換し検出する手段とを有することを特徴とする。
【0010】
請求項1に係わる発明よれば、より多くの励起光をマイクロプレートのウェル内にある測定対象物に照射することが可能となり、かつ蛍光を発する測定対象物により近い位置にて、蛍光を受光用ファイバ入光端面に捕らえることが可能となる。また、受光用ファイバ入光端面の中心を集光した励起光の光軸線上に垂直に配設可能となる。
【0011】
請求項2に係わる発明では、請求項1記載のバンドル手段において、投光用ファイバの出射端面より前方に位置する受光用ファイバ部分を被い、内外面が鏡面である円筒部材を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に係わる発明よれば、請求項1記載の特徴に加えて、投光用ファイバの出射面と受光用ファイバ受光面を光学的に分離可能となる。
請求項3に係わる発明では、請求項1記載の投光用ファイバの出射端面から前方に向かい、前記集光レンズの出射端面前方までを覆う位置に配設された筒形状であり、かつ内面が鏡面であるフードを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項3に係わる発明よれば、請求項1記載の特徴に加えて、内面が鏡面のフードは、レンズによって集光されず光軸から外れてしまう励起光および受光用ファイバ受光面の開口角から外れる蛍光を反射することで、光軸の向きを変えることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明は、投光用ファイバの出射端面から発せられる励起光が、レンズによって集められ測定対象物に集中して照射されるため、光源の光強度をアップすることなく、より多くの励起光エネルギが測定対象物に入力され、発生する蛍光強度も増加する。また、受光用ファイバ入光端面が測定対象物に近づくことが可能となり、蛍光を発している測定対象物との距離を短くし、空気中を伝送する間の蛍光減衰を抑えて受光することができる。
【0015】
請求項2記載の発明は、投光用ファイバから出射される励起光において発生する迷光が、受光用ファイバによって伝送される蛍光との間に発生する干渉、または受光用ファイバが蛍光の受光時に発生する迷光と、投光用ファイバから出射される励起光との干渉を防止することができる。
【0016】
請求項3記載の発明は、本来、入射角度によりレンズをもってしても集光できなかった励起光を、フード内面で反射させることにより測定対象物に導き、かつ受光用ファイバにおいても同様に、測定対象物から発する蛍光のなかで開口角から外れる角度成分を入光端面に導くことが可能となる。したがって、光源の出力を低く抑えられた省電力構成でありながら、S/N比の高い安定した分光測定ができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施形態の全体構成)
以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。図1,2は、本発明に関する蛍光測定装置の例を示したものである。
図1にあるマイクロプレート110は直方体をしたプラスチック成型品であり、ほぼ一定量のくぼみがマトリックス状に存在する。前記くぼみはウェル112と呼ばれ、通常液体である測定対象物111が注入されている。
光源101は、図1において省略されてはいるが、レーザー光に代表される単波長光源、またはハロゲン、キセノン等の白色光源にバンドパスフィルタ等を、組合せて単波長化した光源である。
【0018】
次に図2を用いて投光用ファイバ102と受光用ファイバ103の構成について説明する。投光用ファイバ102は、複数本のオプティカルファイバ202により、受光用ファイバ103は、同じく複数本のオプティカルファイバ203によりバンドル構成された光波伝達手段であり、通常、直線にて構成される光軸をフレキシブルに任意角度で屈折させることが可能となる。
【0019】
投光用ファイバ102のオプティカルファイバ202は受光用ファイバ103の外周を取り囲み、オプティカルファイバ202の端面よりも受光用ファイバ103の端面が突出する突出部103aを形成するように、受光用ファイバ103と交わって円筒バンドル金具104によってバンドルされ、オプティカルファイバ202の端面は円筒バンドル金具104の円筒端部と同一若しくはやや前方に突き出して構成され、突出部103aには円筒状の投受光分離筒206が嵌合装着される。
【0020】
集光レンズ205は、中心部分が円筒状にくり抜かれた孔205aを有するドーナツ形状のレンズで一端面は平面で、他端面は凸形状面に形成されたプラッスチックレンズある。集光レンズ205の孔205aは受光用ファイバ103の突起部103aに装着された投受光分離筒206に嵌合して、一端面がオプティカルファイバ202の端面と当接すると共に、他端面である凸形状面は受光用ファイバ103の端面と略同一平面をなし、集光レンズ205の外周部には他端面である凸形状面よりも突出する長さの円筒形状の内面反射鏡フード204が被せられている。
【0021】
なお、投受光分離筒206は円筒の内面および外面ともに鏡面加工が施され、内面反射鏡フード204は円筒の内面に鏡面加工が施されている。
図1戻り、受光フィルタ105は任意の波長帯のみを透過し、その他の波長はすべて遮光する光学素子であり前記測定対象物111から発せられる蛍光波長分のみが透過する。検出器106は、受光した光エネルギに応じた電流を発生する光電変換素子であり、前記測定対象物111から発せられる蛍光強度に応じた電流を出力する。信号処理部107では、前記検出器106からの出力電流を増幅、フィルタリング等の処理を施したのち、デジタル値へと変換し出力する。演算・制御部108では前記信号処理部107でデジタル化された、蛍光検出値を元に予め決められた計算処理を行う。電源109では前記光源101への電力供給と、前記演算・制御部108の制御値に応じた点灯時間、電流制限等が実行される。
【0022】
次いで、本実施例の蛍光測定装置の動作を説明する。
光源101から発せられた光(以下、励起光)は、投光用ファイバ102により伝送され、円筒バンドル金具104において、投光用ファイバ102の出射端面前方に配設された集光レンズ205を介し、図3(a)で示したごとく測定対象物111に向けて集光し照射される。ここで、投光用ファイバ102から出謝された励起光の中で、集光レンズ205の開口角の関係上、集光不能な光成分も存在する。しかしながら、この集光不能な光成分の多くは内面反射鏡フード204により反射され、その多くは測定対象物111に照射される。
【0023】
励起光が照射された測定対象物111からは、励起光のエネルギにより基底状態から励起状態へと遷移した物質から光(以下、蛍光)が発せられる。ここで、図3(b)で示したごとく、円筒バンドル金具104によって固定された受光用ファイバ103の入力端面に、受光用ファイバ103の開口角内の蛍光および励起光の反射光は直接に、また、開口角外でも多くは内面反射鏡フード204における反射を経て入光される。受光用ファイバ103内を伝播した蛍光および励起光は、出射端面から蛍光フィルタ105へと導かれる。蛍光フィルタ105では、蛍光波長成分のみが透過し、検出器106の受光面へと入力する。検出器106では、蛍光の光強度に応じた信号が出力され、さらに信号処理部107にて増幅、フィルタリング処理が施され、最終的にはデジタルデータ化される。ここで、演算・制御部108ではデジタルデータに所望の計算が行われ、測定対象物111内部に含まれる成分の定量化が実施される。また、入力されるデジタルデータの不備があった場合等では、条件判断により演算・制御部108が点灯時間、電流制限等が新たに実行される。前記分光測定サイクルの再動作を行う。
【0024】
図4は、蛍光物質CY3を数種類の濃度にて混入した測定サンプルを、従来の分光測定装置にて蛍光強度を測定した結果である。また図6は、同様に蛍光物質CY5を数種類の濃度にて混入した測定サンプルを、従来の分光測定装置にて蛍光強度を測定した結果である。図5は前記CY3の測定サンプルを、図7は前記CY5の測定サンプルを本発明の分光測定装置により蛍光強度を測定した結果である。本発明による分光測定装置の蛍光強度測定が明らかに信頼度が高いことを証明している。
(他の実施形態)
図10は、本発明の他の実施例を示すものであって、励起光の集光にコリメートレンズ315とフレネルレンズ316により実現している。コリメート315については、図10にあるボールレンズや、ロッドレンズ等のアレイにより実現される。
【0025】
上記構成によると、レンズの厚み方向の短縮可能となり、よりコンパクトな構成となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態である蛍光測定装置の全体説明図である。
【図2】(a)は本発明の蛍光測定装置のファイババンドル部を示す部分断面図である。(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】(a)は本発明の蛍光測定装置におけるファイババンドル部での励起光の投光状態を示した部分断面図である。(b)はファイババンドル部での検出光の受光状態を示した部分断面図である。
【図4】従来の蛍受光装置において、測定対象物CY3を測定した場合の精度を示すグラフである。
【図5】本発明の蛍光測定装置において、測定対象物CY3を測定した場合の精度を示すグラフである。
【図6】従来の蛍受光装置において、測定対象物CY5を測定した場合の精度を示すグラフである。
【図7】本発明の蛍光測定装置において、測定対象物CY5を測定した場合の精度を示すグラフである。
【図8】従来の蛍光測定装置の全体説明図である。
【図9】(a)は従来の蛍光測定装置におけるファイババンドル部での励起光の投光状態を示した部分断面図である。(b)はファイババンドル部での検出光の受光状態を示した部分断面図である。(c)は投光ファイバおよび受光ファイバ部における断面図である。
【図10】本発明の別の実施形態である蛍光測定装置のファイババンドル部を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0027】
110 マイクロプレート
111 測定対象物
112 ウエル
101 光源
102 投光用ファイバ
103 受光用ファイバ
104 円筒バンドル金具
105 受光フィルタ
106 検出器
107 信号処理部
108 演算・制御部
202 投光用ファイバ単芯
203 受光用ファイバ単芯
204 内面反射鏡フード
205 集光レンズ
206 投受光分離筒
315 コリメートレンズアレイ
316 フレネルレンズ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の特定波長光を生成する光源と、
前記光源で生成された第一の特定波長光を伝送する複数本のオプティカルファイバにより構成された投光用ファイバと、
前記投光用ファイバから伝送された第一の特定波長光を、所定のポイントに集光する中心部分が空洞化されたドーナツ形状をもった集光レンズと、
前記集光レンズで集光された第一の特定波長光が照射された測定対象物から発せられた出力光を、伝送する単数または複数本のオプティカルファイバにより構成された受光用ファイバと、
前記投光用ファイバの出射面を円周上外周部に、加えて投光用ファイバ出射面の前方に前記集光レンズを配設、更に前記受光用ファイバが集光レンズ中心空洞部に導かれ、受光用ファイバの受光面は円周上中心部に、かつ集光レンズの出射面に対して同一平面または前方に配設された状態で、位置決め規制するためバンドル手段と、
前記受光用ファイバによって伝送された測定対象物からの出力光の内、前記第一の特定波長光または、第一の特定波長と異なる第二の特定波長光のみ選択する分光手段と、
前記分光手段によって選択された第一のまたは、第二の特定波長光を電気信号に変換し検出する手段とを有することを特徴とする分光測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバンドル手段は、前記受光用ファイバが集光レンズ中心空洞部に嵌合装着され、投光用ファイバの出射端面より前方に位置する受光用ファイバ部分を被い、投光用ファイバをと分離する、内外面が鏡面である円筒部材を備えたことを特徴とする分光測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の投光用ファイバの出射端面から前方に向かい、前記集光レンズの出射端面前方までを覆う位置に配設された筒形状で、かつ内面が鏡面であるフードを備えたことを特徴とする分光測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−198883(P2007−198883A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17277(P2006−17277)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】