説明

光ファイバ及びその製造方法並びに光ファイバ製造装置

【課題】光ファイバ断面形状の幾何学構造や光ファイバの設置形状を最適化することなく、励起光を利得コア中に効率的に結合できる光ファイバを提供する。
【解決手段】利得媒質となる希土類が添加されたコア2と、コア2の外周に形成されたクラッド3とを備え、クラッド3を伝搬する励起光をコア2中に結合させる光ファイバ1において、クラッド3が、クラッド3の長手方向に沿って凹凸形状を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバレーザやファイバアンプのような、利得媒質となるコア(利得コア)を有する光ファイバに係り、特に、励起光を効率的に利得コア中に結合させる光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工や医療用途への適用を目的として、より高出力で安価な光源の開発が求められている。これらの要求に対し、ファイバレーザや、ファイバアンプなどの光増幅器は、高効率でしかもシングルモードのレーザ光を容易に取り出すことができるという理由で注目を集めている。
【0003】
このようなファイバレーザやファイバアンプに用いられる従来の光ファイバが研究・開発されている。
【0004】
特許文献1には、光ファイバの断面が円対称の場合、内側クラッドを伝搬(伝播)する励起光の大半を運ぶスキュー光線は、コア周囲の円形領域に集中するためコアと交差することがないことが記載されている。
【0005】
コアは、中央すなわち励起光の大部分の位置から離れて位置するため、そのような円対称な光ファイバ構造は、比較的非効率的にしか利用可能な励起光量を使用することができない。円対称ファイバにおける不均一なモード分布は幾何学構造の結果であり、円形幾何学構造および中央コア位置は励起光を効率よく利用するためには非効率である。そのため、ファイバレーザやファイバアンプにおいて励起光を効率的に利得コア中に結合する検討が、非特許文献1,2でなされている。
【0006】
特許文献1や非特許文献1の技術は、ファイバ断面において励起光を長手方向(軸方向)に伝搬することを目的とした、利得媒質となる希土類を添加されたコアを含む内側クラッドの形状を非矩形、凸型多角形とすることにより、励起光が伝搬する内側クラッド内にて不均一なフィールドを生成し、様々な放射モードを内側クラッド内部にあるコアに集中させることである。その結果により、より多くのモードがコアと交差するため、励起光と利得コアとの結合効率が増加し、励起光を利得コア中に効率的に結合できる。
【0007】
また、非特許文献2では、その光ファイバの設置形状を図7に示すような腎臓(Kidney)型にすることにより、内側クラッド内を伝搬する励起光を効率的に利得コアへ結合できることが知られている。
【0008】
このように、従来技術では、利得コアを有するマルチクラッド光ファイバに対し、光ファイバ断面の幾何学構造の最適化、光ファイバの設置形状の最適化を実施することにより、励起光を効率的に利得コア中に結合することが行われている。
【0009】
【特許文献1】特許第3039993号公報
【特許文献2】特開平11−84150号公報
【非特許文献1】Martin H. Muendel,“Optimal inner cladding shapes for double-clad fiber lasers”,Conference on Laser and Electro-Optics, OSA Technical Digest Series, pp.209,1996
【非特許文献2】H. Zellmer他,“Double-Clad Fiber Laser with 30W OutputPower”, OSA TOPS Vol.16 Optical Amplifiers and Their Applications, pp.137-140,1997
【非特許文献3】Vengsarkar,A.M.他,“Long-Period Fiber Gratings as Band-Rejection Filters”, JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, Vol.14,issue 1 page 58,1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1や非特許文献1のような内部クラッドの形状を工夫した光ファイバは、光ファイバ母材の断面を最適化し、その光ファイバ母材を線引きすることにより断面が最適化された光ファイバを製造することが一般的である。しかし、光ファイバ母材を特許文献1に記載されたような構造にするためには、通常の光ファイバを製造する場合に比べて高度な製造技術が必要であり、母材の加工や組み立てなどに時間・コストを必要とする。
【0011】
光ファイバの設置形状を最適化するためには、非特許文献2に記載の通り、伝送路として使用される光ファイバの形状を腎臓型にするなど結合効率が最適となる形状に固定する必要がある。そのため、装置に組み込む際に配置箇所などの制約が発生し、使い勝手が悪い。また、光ファイバ長が短い場合、最適な形状にすることが難しく、少なくとも最適形状にすることが可能な所定の長さを必要とする。
【0012】
そこで、本発明の目的は、光ファイバ断面形状の幾何学構造や光ファイバの設置形状を最適化することなく、励起光を利得コア中に効率的に結合できる光ファイバ及びその製造方法並びに光ファイバ製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、利得媒質となる希土類が添加されたコアと、上記コアの外周に形成されたクラッドとを備え、上記クラッドを伝搬する励起光を上記コア中に結合させる光ファイバにおいて、上記クラッドが、該クラッドの長手方向に沿って凹凸形状を有する光ファイバである。
【0014】
請求項2の発明は、上記クラッドの凹凸形状は、上記励起光が全反射して上記クラッド内に伝搬するグレーティング周期により形成されている請求項1記載の光ファイバである。
【0015】
請求項3の発明は、上記コアが該コアの長手方向に沿って凹凸形状を有する請求項1または2記載の光ファイバである。
【0016】
請求項4の発明は、上記クラッドは、凹凸形状を有する内側クラッドと、上記内側クラッドの外周に設けられる外側クラッドとからなる請求項1〜3いずれかに記載の光ファイバである。
【0017】
請求項5の発明は、上記コア及び/又は上記クラッドは、その横断面が円形状あるいは異円形状である請求項1〜4いずれかに記載の光ファイバである。
【0018】
請求項6の発明は、請求項1〜5いずれかに記載した光ファイバの製造方法において、光ファイバ母材の線引き中に、上記コア及び/又は上記クラッドへCO2 レーザなどの高出力熱エネルギーを周期的に与えて凹凸を形成する光ファイバの製造方法である。
【0019】
請求項7の発明は、請求項1〜5いずれかに記載した光ファイバの製造装置において、光ファイバ母材の線引き中に、上記コア及び/又は上記クラッドへCO2 レーザなどの高出力熱エネルギーを周期的に与える凹凸形成部を備えた光ファイバ製造装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光ファイバ断面形状の幾何学構造や光ファイバの設置形状を最適化することなく、励起光を利得コア中に効率的に結合できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
非特許文献2により、光ファイバを曲げて光ファイバを伝搬する励起光の放射モードを周期的に変化させると、励起光のコアへの吸収効率が向上することが分かっている。また、非特許文献2によると、10cmの巻き取り半径の光ファイバが吸収率10%であるのに対し、腎臓形状(r=2.5cm)にした場合に吸収率60%程度まで向上する。これは、光ファイバの曲げが変化する場所にて、モード結合(mode mixing)が形成されたためであり、周期的な形状変化が励起効率向上に大きく寄与することを意味している。
【0022】
本発明者らは、これらの知見に基づいて鋭意研究した結果、上記課題を解決するために、本発明を完成した。
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0024】
図1(a)は本発明の好適な第1の実施形態を示す光ファイバの縦断面図、図1(b)はその1B−1B線断面図(横断面図)である。
【0025】
図1(a)および図1(b)に示すように、第1の実施形態に係る光ファイバ1は、ファイバレーザやファイバアンプに用いられるものであり、利得媒質となる希土類が添加されたコア(利得コア)2と、そのコア2を囲み、励起光(ポンプ光)を受け取って長手方向に沿って伝搬させるクラッド3とを備え、そのクラッド3が長手方向に沿った凹凸部4を形成してなる凹凸形状を有する。
【0026】
すなわち、光ファイバ1は、コア2と、コア2の外周に形成されたクラッド3とを備え、クラッド3を伝搬する励起光をコア2中に吸収して増幅させる光ファイバである。
【0027】
コア2は、石英にGeなどの屈折率を上げる材料を添加すると共に、Nd、Yb、Er、Thなどの希土類元素(希土類材料)を添加したものである。
【0028】
クラッド3は、コア2よりも屈折率が低い部分であり、石英にFなどの屈折率を下げる材料を添加したものである。ここで凹凸形状とは、クラッド3の外周部に、長手方向に沿ってクラッド径が連続して細くなったり太くなったりするように、周期的な波形を形成した形状のことをいう。凹凸部4は、少なくともクラッド3の両側外周部に形成すればよく、クラッド3の全周にわたって形成してもよい。
【0029】
クラッド3の凹凸形状の周期(凹凸周期)Cは、光ファイバ1内を伝搬する励起光が、光ファイバ1の外に(クラッド3外部へ)放射して減衰することのないグレーティング周期に設定される。
【0030】
光ファイバの長手方向に形成した凹凸周期については、特許文献2に記載のように、その周期構造によりグレーティングが形成される。特許文献2の目的は、光ファイバのコア径を光ファイバの長手方向に周期的に変化させることにより、コアを伝搬するモードとクラッドを伝搬するモードを結合させ、特定波長の光をコア外に放射させ減衰させることにある(長周期グレーティング)。
【0031】
一般的に、光をコア外に放射する波長(長周期グレーティングの中心波長:放射波長)は、コアモードとクラッド伝搬モードの結合効率により決定される。例えば、非特許文献3に記載の凹凸周期(グレーティング周期)と放射波長の関係は、図8に示す通り、グレーティング周期が200μm以下では、少なくとも波長1000nm以下にて複数個の放射波長が存在し、これらの放射波長とすることにより光がコア外に放射される。
【0032】
これに対し、光ファイバ1は、コア2へ添加する希土類材料により励起光波長が異なるが、例えば、Ybをコアに添加したファイバレーザやファイバアンプの場合、励起光の波長は、その吸収特性に合わせて900〜1000nm(特に、吸収ピークに合わせて915nmや975nm)の範囲に設定されて使用される。
【0033】
よって、Ybを添加したコア2を有する光ファイバ1の場合、光がコア外へ放出することによる伝送損失の増加を抑制するために、クラッド3に形成した凹凸部4の長手方向の周期を、900〜1000nmの範囲で使用する励起光が放射せずに全反射してクラッド3内を伝搬するグレーティング周期に設定すればよい。
【0034】
これにより、光ファイバ1では、励起光をクラッド3の外へ放射させることなく、凹凸形状にて励起光を希土類が添加されたコア2へ効率的に吸収させることができる。
【0035】
一例としてコア2に添加する希土類材料をYbとしたが、Erなどの他の希土類材料をコア2に添加した場合においても、上記と同様に、使用される波長範囲(例えば、Er:980〜1480nm)内に設定された励起光が放射波長とならないように、凹凸周期Cをクラッド3に形成すれば、励起光をコア2へ効果的に吸収させることができる。
【0036】
クラッド3の凹凸形状の変化量(凹凸変化量)Aは、クラッド3の最大外径と最小外径の差である。
【0037】
さらに、光ファイバ1では、コア2が長手方向に沿った凹凸部5を形成してなる凹凸形状を有する。コア2の凹凸形状の周期は、クラッド3の凹凸周期Cと同じにするとよい。コア2の凹凸形状の変化量は、クラッド3の凹凸変化量Aよりも小さくする。光ファイバ1では、コア2、クラッド3共に、横断面が円形状である。
【0038】
次に、光ファイバ1の製造に適した光ファイバ製造装置を図3で説明する。図3に示すように、本実施形態に係る光ファイバ製造装置31は、後述する凹凸形成部20を除き、慣用の光ファイバ製造装置とほぼ同じ構成である。
【0039】
この光ファイバ製造装置31は、光ファイバ母材32を下方に線引きし、凹凸形成部20を通過させて光ファイバ1とし、その光ファイバ1に被覆材料を被覆し、被覆材料が被覆された光ファイバ(光ファイバ心線10)を巻取るものである。
【0040】
光ファイバ製造装置31は、光ファイバ母材32を加熱する線引炉33と、線引炉33で溶融して線引きされた光ファイバの外径を測定する第1外径測定器34と、第1外径測定器34aを経た光ファイバに図1の凹凸部4を形成し、光ファイバ1とする凹凸形成部20と、光ファイバ1に被覆材料を被覆するためのダイス(ファイバ被覆樹脂用ダイス)35と、被覆材料を硬化させ、光ファイバ心線10とする硬化部(被覆樹脂硬化装置)36と、硬化部36を経た光ファイバ心線10の外径を測定する第2外径測定器34bと、光ファイバ心線10を方向転換して下流側に送るターンプーリ37と、ターンプーリ37からの光ファイバ心線10を巻き取る巻き取り装置38とを備える。
【0041】
硬化部36は、被覆材料の種類に応じて適宜変更でき、ポリイミド樹脂のような熱硬化性樹脂の場合はヒーター、UV(紫外線)硬化樹脂の場合はUVランプなどが用いられる。巻き取り装置38は、線引き中の光ファイバ1や光ファイバ心線10に張力を付与するための張力付与手段も兼ねる。
【0042】
図1(a)および図1(b)の光ファイバ1を製造する方法の一例としては、このように、第1外径測定器34aとダイス35間に凹凸形成部20を設置した光ファイバ製造装置31を用いる方法がある。これにより、所望の外径に合わせた光ファイバ1を製造することが可能である。
【0043】
ここで、凹凸形成部20の一例を図2でより詳細に説明する。
【0044】
図2に示すように、凹凸形成部20は、線引き中の光ファイバに高出力熱エネルギーを周期的(間欠的)に与えるものである。この凹凸形成部20は、線引き中の光ファイバの周囲に複数個設けられる熱エネルギー源として、パルスレーザLを照射するためのパルスレーザ装置21と、各パルスレーザ装置21と線引き中の光ファイバ1間に進退自在に設けられ、パルスレーザLを集光する集光レンズ22とを備える。
【0045】
パルスレーザ装置21に内蔵されるレーザとしては、CO2 レーザ、YAGレーザ、半導体レーザ、ファイバレーザなどの高出力熱エネルギーを線引き中の光ファイバに局所的に供給(与えることが)でき、かつ集光性を有するものであればよい。
【0046】
パルスレーザ装置21は、後述する線引き速度を考慮し、凹凸周期Cの1/2にあたるパルス幅を有し、かつ凹凸変化量Aに対応するパルス高さを有するパルス信号pが入力されることで、線引き中の光ファイバに高出力熱エネルギーを周期的に与える。
【0047】
光ファイバ1の製造方法を光ファイバ製造装置31の動作と共に説明する。
【0048】
まず、線引炉33で光ファイバ母材32を加熱溶融しながら垂直下方に線引きする。線引きは、第1外径測定器34aで線引き直後の光ファイバ1pの外径を測定し、かつ線引炉33内温度、巻き取り装置38において張力T、線引き速度(巻き取り速度)を制御しながら行う。
【0049】
そして、線引き直後の光ファイバ1pが凹凸形成部20を通過するとき、線引き直後の光ファイバ1pに、パルスレーザ装置21からパルス信号pに応じたパルスレーザ光Lを照射し、局所的に高出力熱エネルギーを周期的に与える。
【0050】
線引き中の光ファイバへ局所的に高出力熱エネルギーを与えると、光ファイバはその部分にて溶融し、軟らかくなる(軟化する)。このとき、光ファイバには張力Tが巻き取り装置38で印加されているため、その溶融した箇所が伸びて細くなる。
【0051】
第1の実施形態では、線引き直後の光ファイバ1pに照射するパルスレーザ光Lの焦点を、集光レンズ22を進出あるいは後退させることで、コア2の軸近傍にした。つまり、第1の実施形態では、コア2及びクラッド3へパルスレーザ光Lを照射する。
【0052】
これにより、コア2とクラッド3の外周部に、それぞれ長手方向に沿った凹凸部4が形成され、光ファイバ1が得られる。
【0053】
凹凸部4を形成する際、凹凸周期Cや凹凸変化量Aは、パルス周期、レーザエネルギー、張力Tなどで変化させることが可能であり、これらを適宜変更して凹凸周期Cや凹凸変化量Aを変化させることにより、励起光の吸収効率を所望の値に変化させることも可能である。
【0054】
その後、ダイス35、硬化部36を経て光ファイバ1に被覆材料を被覆し、光ファイバ心線10とし、これを巻き取り装置38で巻き取って製品とする。
【0055】
第1の実施形態の作用を説明する。
【0056】
光ファイバ1では、例えば、入射端のクラッド3から半導体レーザなどの励起光が入射され、その励起光が光ファイバ1の内部で増幅され、さらに入射端から所定の距離に形成された2つのFBG(ファイバブラッググレーティング)がレーザ共振器の全反射鏡および出力鏡として働くことで、レーザ発振光が生成されて出射端から出力される。つまり、光ファイバ1をファイバレーザとして使用できる。
【0057】
光ファイバ1は、クラッド3が長手方向に沿った凹凸部4からなる凹凸形状を有するため、クラッドが長手方向に沿って平坦な従来の光ファイバと比べ、励起光の吸収効率を向上でき、励起光をコア2中に効率的に結合できる。
【0058】
特に、光ファイバ1は、クラッド3の凹凸形状の周期Cを、光ファイバ1内を伝搬する励起光が、光ファイバ1の外に放射せずに全反射してクラッド3内を伝搬するグレーティング周期に設定している。
【0059】
これにより、光ファイバ1では、励起光をクラッド3の外へ放射させることなく、凹凸形状にて励起光を希土類が添加されたコア2へ効率的に吸収させることができる。
【0060】
さらに、光ファイバ1は、クラッド3の凹凸形状と同様に、コア2も長手方向に沿った凹凸部5からなる凹凸形状を有するため、コア2の放射モードも所望のモードに変化させることができる。
【0061】
また、光ファイバ1は、グレーティングによる共振器構造を形成せず、誘導放出光の波長に一致する信号光を励起光と重畳させて伝搬させれば、ファイバアンプなどの光増幅器としても機能する。
【0062】
光ファイバ1は、励起光を有効に利用するためのファイバ構造である。光ファイバ1の第1の目的は、希土類添加コアの放射モードを変化させることではなく、励起光の吸収効率向上、すなわち励起光の放射モードを、クラッド3が凹凸形状を有する簡単な構成で変化させることにある。
【0063】
したがって、光ファイバ1によれば、従来のように光ファイバ断面形状の幾何学構造や光ファイバの設置形状を最適化する必要がなく、簡単な構成で励起光を利得コア中に効率的に結合できる。
【0064】
これにより、光ファイバ1は、励起光を有効に利用するためのファイバ構造であり、光ファイバ1を用いれば、ファイバレーザやファイバアンプに使用できる最適な光ファイバ構造を低コストで実現できる。
【0065】
また、光ファイバ1の製造方法によれば、慣用の光ファイバ製造装置に凹凸形成部20を設けるだけで、簡単かつ精度よく凹凸形状を有する光ファイバ1を製造できる。
【0066】
上述したように、本実施形態に係る光ファイバでは、少なくとも励起光の吸収効率を向上する目的を達成すればよい。このため、図4(a)および図4(b)に示す第2の実施形態に係る光ファイバ41のように、励起光が導波するクラッド3のみが凹凸形状を有し、コア42が凹凸形状を有しない構造としてもよい。
【0067】
光ファイバ41は、例えば、線引き中の光ファイバに対し、図2の状態に比べて集光レンズ22を適宜後退させるなど、熱エネルギーの供給位置(パルスレーザ光Lの焦点位置)を制御することで製造できる。つまり、第2の実施形態では、クラッド3のみへパルスレーザ光Lを照射する。
【0068】
また、光ファイバ1ではコア2、クラッド3共に、横断面が円形状の例で説明したが、図5(a)〜図5(c)の各光ファイバ51a〜51cのように、横断面が、片側がやや膨らんだ楕円形状、楕円形状、片側が大きく膨らんだ異円形状であってもよい。この場合、特許文献1記載の効果も得られ、励起光の吸収率がさらに向上する。その際、各コア52a〜52cは、図5(a)〜図5(c)のような各クラッド53a〜53cのような異円形状でなくてもよく、円形状でもよい。
【0069】
これら各光ファイバ51a〜51cは、光ファイバ母材を製造する際に、その横断面が異円形状となるように形成したり、線引き中の光ファイバに対し、図2の集光レンズ22を適宜進出あるいは後退させるなど、熱エネルギーの供給位置を制御することで製造できる。
【0070】
図6(a)および図6(b)に示す第3の実施形態に係る光ファイバ61のように、図1の光ファイバ1の構成に加え、外側クラッド62をさらに有するものでもよい。
【0071】
光ファイバ61では、クラッドは、内側クラッド3(図1(a)および図1(b)のクラッド3)と、その内側クラッド3の外周に設けられ、内側クラッド3よりも屈折率が低く、長手方向に沿って平坦な外側クラッド62とからなる。この外側クラッド62は横断面が円形状であるが、図5(a)〜図5(c)のような横断面が異円形状であってもよい。
【0072】
光ファイバ61では、図1の光ファイバ1に比べると、光ファイバ61内に励起光をより効率よく閉じこめることができる。
【0073】
図2で説明した凹凸形成部20では、熱エネルギー源としてパルスレーザ装置21を用いた例で説明したが、熱エネルギー源としては、線引き中の光ファイバに、間欠的に高出力熱エネルギーを与えることができるものであればよく、例えば、ヒータ、高周波加熱装置などでもよい。
【0074】
また、凹凸形成部としては、熱エネルギー源として連続レーザ光を出射するレーザ装置と、図2の集光レンズ22と、その集光レンズ22と線引き中の光ファイバ間に複数個設けられ、連続レーザ光をチョッピングするチョッピング手段とを備えたものでもよい。
【0075】
チョッピング手段としては、回転自在に設けられる円板と、その円板面の周方向に沿って複数個形成されたスリットとからなる機械チョッパがある。この場合、円板の回転数と線引き速度を制御して、光ファイバに所望の凹凸周期Cを有する凹凸部を形成する。
【0076】
本発明は、特許文献1に記載されているような特殊な幾何学構造を有する光ファイバにおいても、適用可能である。このような幾何学構造を有する光ファイバに対し、光ファイバの設置形状を最適化することなく、結合効率の向上を実現できる。
【0077】
上記実施形態では、コア2及びクラッド3や、クラッド3のみにパルスレーザ光Lを照射する例で説明したが、コア2のみパルスレーザ光Lを照射してもよく、この場合も上述と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1(a)は本発明の好適な第1の実施形態を示す光ファイバの縦断面図、図1(b)はその1B−1B線断面図(横断面図)である。
【図2】凹凸形成部と図1に示した光ファイバの製造方法の一例を説明する概略図である
【図3】本実施形態に係る光ファイバ製造装置の概略図である。
【図4】図4(a)は第2の実施形態を示す光ファイバの縦断面図、図4(b)はその4B−4B線断面図(横断面図)である。
【図5】図5(a)〜図5(b)は、本実施形態に係る光ファイバの変形例をそれぞれ示す横断面図である。
【図6】図6(a)は第3の実施形態を示す光ファイバの縦断面図、図6(b)はその6B−6B線断面図(横断面図)である。
【図7】従来の光ファイバの設置状態を示す図である。
【図8】グレーティング周期と放射波長の関係を示す図(非特許文献3より抜粋)である。
【符号の説明】
【0079】
1 光ファイバ
2 コア
3 クラッド
4 クラッドの凹凸部
5 コアの凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利得媒質となる希土類が添加されたコアと、上記コアの外周に形成されたクラッドとを備え、上記クラッドを伝搬する励起光を上記コア中に結合させる光ファイバにおいて、上記クラッドが、該クラッドの長手方向に沿って凹凸形状を有することを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
上記クラッドの凹凸形状は、上記励起光が全反射して上記クラッド内に伝搬するグレーティング周期により形成されている請求項1記載の光ファイバ。
【請求項3】
上記コアが該コアの長手方向に沿って凹凸形状を有する請求項1または2記載の光ファイバ。
【請求項4】
上記クラッドは、凹凸形状を有する内側クラッドと、上記内側クラッドの外周に設けられる外側クラッドとからなる請求項1〜3いずれかに記載の光ファイバ。
【請求項5】
上記コア及び/又は上記クラッドは、その横断面が円形状あるいは異円形状である請求項1〜4いずれかに記載の光ファイバ。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載した光ファイバの製造方法において、光ファイバ母材の線引き中に、上記コア及び/又は上記クラッドへCO2 レーザなどの高出力熱エネルギーを周期的に与えて凹凸を形成することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5いずれかに記載した光ファイバの製造装置において、光ファイバ母材の線引き中に、上記コア及び/又は上記クラッドへCO2 レーザなどの高出力熱エネルギーを周期的に与える凹凸形成部を備えたことを特徴とする光ファイバ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−273769(P2008−273769A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117277(P2007−117277)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(592032636)学校法人トヨタ学園 (57)
【Fターム(参考)】