説明

光ファイバ心線

【課題】温度変化が起きやすい長期間の使用においてもガラスファイバの断線が生じず、狭いスペースでの配線に必須の小径曲げ時にも被覆の割れが起こらないので配線自由度が高く、製造性にも優れる光ファイバ心線を提供すること。
【解決手段】ガラスコア及びガラスクラッドからなるガラスファイバと、該ガラスファイバの外周面上に該ガラスファイバに隣接する非剥離性密着層と、該非剥離性密着層の外周面上を被覆する紫外線硬化型樹脂からなるオーバーコート層とを備えた光ファイバ心線であって、該非剥離性密着層は、層厚みが2.5μm〜32.5μmであるとともに、ウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を主成分とし、アミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種をベース樹脂に対して1〜10質量%含有し、且つ、シランカップリング剤を含まないことを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ心線に関し、特に機器内及び機器間における光配線に好適に利用可能な光ファイバ心線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機器内又は機器間で大量の情報を高速で伝送するために、光ファイバを使用する要求が高くなってきている。これは車載ネットワークの需要の高まりや、FTTH(Fiber To The Home)の導入による光ファイバネットワークの急速な普及などを背景とするものである。このような機器内及び機器間での光ファイバの接続は、被覆を残して接続することが望ましい。
【0003】
特許文献1では、図3に示すように、コア部41とクラッド部42とからなる裸ファイバの外周に非剥離性の予備被覆層43と、軟質被覆層(プライマリ層)44と、硬質被覆層(セカンダリ層)45と、着色層46とを設けた光ファイバ素線40を開示している。該光ファイバ素線40は、予備被覆層43の厚みが2μm以上で且つその外径が125μmであるとともに、予備被覆層43のガラス転移温度が硬化被覆層45のガラス転移温度よりも高い構成であり、これにより被覆除去を容易に行なうことができるとされている。被覆除去時には、非剥離性である予備被覆層43までを残して軟質被覆層44を含めた樹脂層が除去され、すなわち予備被覆層43を有した状態で光ファイバの接続が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3902201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では予備被覆層43を構成する素材については何ら検討されていない。今般、本発明者等の鋭意検討の結果、上記構成を有する光ファイバは、外部からせん断力を受けた時(例えば、光ファイバ切断時、被覆除去時)に当該予備被覆層43に応力集中が生じ易いことによって、クラッド部42と予備被覆層43とが剥離し易いという問題があることが判った。
【0006】
光ファイバ切断時や被覆除去時に剥離が生じると、光ファイバをフェルールに挿入する際に、ガラスファイバが剥き出しのままコネクタ付けされることになり、ガラスファイバの表面に傷が生じやすい状態となる。ガラスファイバ表面に傷が生じると、微小な傷であっても温度変化などの外部環境に影響を受けて使用中に拡大し、ひいてはガラスファイバの断線に至ることもある。したがって、クラッド部42と予備被覆層43とは強固に密着していることが求められる。
【0007】
一般的に、層間の密着性を向上させる手段として、樹脂層にエポキシ官能性ポリシロキサンなどのシランカップリング剤を添加することが知られている。しかし、シランカップリング剤は失活し易く使用時毎に調製される必要があり、製造性に劣る問題があるとともに、紫外線硬化型樹脂の樹脂種によってはシランカップリング剤を含むことによって相溶性が悪くなり、品質が不安定になる問題がある。
【0008】
一方、機器内又は機器間などの狭いスペースに配線される光配線においては、光ファイバの使用長は短いため(〜数メートル)、図3のように裸ファイバ(ガラスファイバ)の周囲を複数層の樹脂層で被覆することで単位長当りのロスの増加を防止する必要はあまりない。それよりも、配線される光ファイバがスペースを占めず、また、小径曲げが可能であるなどの配線作業性が良いことが望まれる。特に、複数のボード間で光信号を分配・集約するための光バックプレーン等のように、多数の光ファイバが高密度で配線される光機器類で用いられる光回路基板の場合には、その要求がさらに強い。また、高密度実装の電子光素子が混載された光回路基板の場合にも、光ファイバは基板上で高密度実装されたデバイスをかわして配線する必要があるので、スペースを占めないことが特に要求されるとともに、配線自由度が高いことが求められている。
【0009】
例えば、ガラスファイバに隣接する非剥離性の紫外線硬化型樹脂層としてノボラック系エポキシ樹脂を使用することが知られているが、そのリジッドな分子構造を考慮すると、ファイバの被覆材として十分な伸びが得られず、狭いスペースにおいて小径で使用した場合に被覆割れの発生が懸念される。またその硬化に際しては、例えば光酸発生剤によるエポキシ官能基の重合反応が利用されるが、硬化速度が遅いことから製造性に劣るものである。
【0010】
本発明は、従来の光ファイバ心線における上記課題に鑑みてなされたものであって、温度変化が起きやすい長期間の使用においてもガラスファイバの断線が生じず、狭いスペースでの配線に必須の小径曲げ時にも被覆の割れが起こらないので配線自由度が高く、製造性にも優れる光ファイバ心線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ガラスファイバの外周面上に該ガラスファイバに隣接するように設けられた非剥離性の紫外線硬化型樹脂層(以下、非剥離性密着層という)を有し、さらにその外周上に紫外線硬化型樹脂からなるオーバーコート層を有する光ファイバ心線において、非剥離性密着層を特定の厚さとし、且つ、その組成をウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を主成分としてアミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーの少なくとも1種を特定量含有させて構成することで、ガラスファイバと非剥離性密着層との密着力を顕著に向上できること、また小径曲げにも優れた適性を有し、狭いスペースでの配線に必須の小径曲げ時にも被覆の割れが起こらないことを知見するに至った。
また、かかる非剥離性密着層は、その形成材料としてシランカップリング剤を含まず、またベース樹脂の主成分がウレタンアクリレートであるため、製造性にも優れたものである。
本発明は、上記知見に基づいて達成されたものである。
【0012】
すなわち本発明の光ファイバ心線は、
ガラスコア及びガラスクラッドからなるガラスファイバと、該ガラスファイバの外周面上に該ガラスファイバに隣接する非剥離性密着層と、該非剥離性密着層の外周面上を被覆する紫外線硬化型樹脂からなるオーバーコート層とを備え、
該非剥離性密着層は、層厚みが2.5μm〜32.5μmであるとともに、ウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を主成分とし、アミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種をベース樹脂に対して1〜10質量%含有し、且つ、シランカップリング剤を含まないことを特徴とする(請求項1)。
このように本発明の光ファイバ心線は、ガラスファイバの外周面上に形成された特定の厚さの非剥離性密着層に、ウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を主成分としてアミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種を特定量含有する樹脂組成物を用いることによって、ガラスファイバと硬質層である該非剥離性密着層との密着性を顕著に向上させている。従って、せん断による非剥離性密着層のガラスファイバからの剥離が抑制される。また、かかる構成の非剥離性密着層は小径曲げにも優れた適性を有しており、狭いスペースでの配線に必須の小径曲げ時にも被覆の割れが生じることはなく、優れた配線自由度を有する。さらに、非剥離性密着層の外周面上を被覆するオーバーコート層を備えることによって、光ファイバ心線の機械的強度や取り扱い性(作業性)を向上させることができる。
【0013】
本発明の光ファイバ心線の好適形態は、上記光ファイバ心線において、前記アミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種がアクリレート構造のモノマーであることを特徴とする(請求項2)。
アミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種として、アクリレート構造のモノマーを用いることによって、ガラスファイバと非剥離性密着層との密着性が特に良好となる。
【0014】
本発明の光ファイバ心線の別の好適形態は、上記光ファイバ心線において、開口数が0.18〜0.35であることを特徴とする(請求項3)。
開口数を当該値とすることで、一般的に使用される62.5μmのコア径を有するマルチモードファイバに分類される機器間、機器内配線用の光ファイバ心線として、高密度実装が可能となり、また、良好なマイクロベンド特性となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、温度変化が起きやすい長期間の使用においてもガラスファイバの断線が生じず、狭いスペースでの配線に必須の小径曲げ時にも被覆の割れが起こらないので配線自由度が高く、製造性にも優れる新規な光ファイバ心線を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の光ファイバ心線の一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明の光ファイバ心線を用いた光ファイバテープ心線の一例を示す模式断面図である。
【図3】先行技術文献の光ファイバ素線の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の光ファイバ心線の好ましい一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る光ファイバ心線20は、図1の模式断面図に示すように、ガラスコア11とガラスクラッド12とからなるガラスファイバ13の外周面上に、単層の紫外線硬化型樹脂からなる非剥離性密着層14を有し、さらにその外周面上を被覆するオーバーコート層21を有する。
【0018】
ガラスファイバ13は、機器内又は機器間などの狭いスペースに敷設される光配線に使用する目的のため、マルチモード光ファイバであることが好ましい。ガラスコア11にはゲルマニウムを添加した石英を用いることができ、ガラスクラッド12には純石英、或いはフッ素が添加された石英を用いることができる。
ガラスコア11とガラスクラッド12との比屈折率差Δnは1.0〜2.2%程度であることが好ましく、1.5〜2.0%程度であることがより好ましい。また、コア形状はグレーデッドインデックス型が好ましく、また、コア部の外側にマクロベンド損失耐性を向上する為のトレンチ部(周囲よりも屈折率の低い部分)を設けることが好ましい。
【0019】
図1において、コア径(D1)は30〜80μm程度であることが好ましく、クラッド径(D2)は70〜120μm程度であることが好ましい。コア径が30μmより小さいと受光素子との結合効率が悪くなり、80μmより大きいと高速伝送に不適当となる場合がある。また、クラッド径は70μmより小さいと光ファイバを製造する時に取り扱い性(作業性)が悪いために生産性が低下し、120μmより大きいと小径に曲げた時の曲げ歪みが大きくなるので、静疲労により破断する危険が高くなる場合がある。すなわち機器内又は機器間などの狭いスペースに使用する目的に適さなくなる場合がある。
【0020】
非剥離性密着層14の厚さは、2.5μm〜32.5μmであり、10〜30μm程度が好ましい。2.5μmより小さいと、周囲の微小なゴミなどが非剥離性密着層14を貫通し破断する危険性があり、32.5μmより大きいと光ファイバの外径が大きくなり、インターコネクション用途を考えた場合、狭い筐体内のスペースに入れるためには不利となる。光ファイバ心線20は、非剥離性密着層14を除去することなくコネクタに接続可能である。
非剥離性密着層14の外径(D3)は160μm以下とすることが好ましく、125μmとすることがより好ましい。160μmより大きいと、機器内での使用には不利となる場合がある。
【0021】
また、非剥離性密着層14のヤング率は600MPa以上とすることが好ましく、1500MPa以下とすることが好ましい。非剥離性密着層14の弾性率が低いと光ファイバ心線20を切断する時に、非剥離性密着層14の切断面の平滑性が悪くなり、接続時に対向するガラス同士の接触が出来なくなる場合がある。このため、非剥離性密着層14のヤング率を600MPa以上とすることで、十分に硬く、脆性も高いので平滑な切断面を容易に得られる傾向となる。所望のヤング率は以下で説明する紫外線硬化型樹脂組成物の組成や配合を調整することで得られる。ヤング率は当該樹脂をシート状に硬化させて試験片を作製し、JISK7113の規格に基づいて測定することができる。
【0022】
非剥離性密着層14は、ウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を主成分とし、ベース樹脂に対してアミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種を1〜10質量%含有し、且つ、シランカップリング剤を含まない。本明細書における「ベース樹脂」とは、オリゴマーとモノマーからなる紫外線硬化型樹脂を意味する。但し、本明細書におけるベース樹脂には、アミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種、並びに光開始剤は含まない。
非剥離性密着層14は、ウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を主成分としているため、小径曲げ等による被覆材の割れも生じることがなく、アミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種を1〜10質量%含有することによって、ガラスファイバ13と非剥離性密着層14との密着性が良好なものとなる。またシランカップリング剤を含まないことが、製造性と品質安定性に寄与する。シランカップリング剤の添加は紫外線硬化型樹脂組成物の使用直前に行われるが、シランカップリング剤は失活し易いので使用時毎に調製する必要があるからである。さらにシランカップリング剤は紫外線硬化型樹脂組成物との相溶性が悪く、品質を不安定にするからである。
【0023】
このように、非剥離性密着層14を形成するための紫外線硬化型樹脂組成物には、ウレタンアクリレート、アミン系モノマー、必要に応じてベース樹脂の一種として添加される反応性モノマー、光開始剤及びその他の添加剤が含まれ、かかる紫外線硬化型樹脂組成物を硬化することにより、非剥離性密着層14が形成される。なお、主成分となるウレタンアクリレートは、紫外線硬化型樹脂組成物中にオリゴマーとして50〜60質量%含まれることが好ましい。また、非剥離性密着層14を形成するための紫外線硬化型樹脂組成物には反応性モノマーを配合することが好ましく、ベース樹脂中に35〜55質量%とすることが好ましい。
【0024】
紫外線硬化型樹脂組成物に含まれるウレタンアクリレートとしては、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物、水酸基含有アクリレート化合物を反応させて得られるものが挙げられる。
ポリオール化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリヘプタメチレングリコール、ポリデカメチレングリコールなどが挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートなどが挙げられ、なかでも2,4−トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが好ましい。水酸基含有アクリレート化合物としては、2−ヒドロキシアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどが挙げられる。
【0025】
紫外線硬化型樹脂組成物に含まれる反応性モノマーとしては、環状構造を有するN−ビニルモノマー、例えばN−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタムが挙げられる。これらのモノマーを含むと硬化速度が向上するので好ましい。この他、イソボルニルアクリレート、トリシクロデカニルアクリレート、ベンジルアクリレート、ジシクロペンタニルアクレート、アクリロイルモルホリン、2−ヒドロキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレートなどの単官能モノマーや、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジイルジメチレンジアクリレート、エチレンオキサイドを付加させたビスフェノールAのジアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートなどの多官能モノマーが用いられる。
【0026】
紫外線硬化型樹脂組成物に含まれる光開始剤としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等が挙げられる。また、酸化防止剤などが添加されていても良い。
【0027】
紫外線硬化型樹脂組成物に必須成分として含まれるアミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種としては特に限定されることはないが、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、N−ビニルホルムアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどのアクレート構造やビニル構造のモノマーが挙げられ、特にアクレート構造のモノマーであることが好ましい。アミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種は、ベース樹脂に対して1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%含まれる。
【0028】
アミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種の含有量を上記範囲とすることによって、ガラスファイバ13と非剥離性密着層14との密着性を顕著に向上させることができ、光ファイバ心線20が外部からせん断力を受けた場合においてもガラスファイバ13と非剥離性密着層14とが剥離することがない。
また、光ファイバ心線20は、高温・高湿環境下でも安定したガラス強度を維持することができる。この理由は、ガラスファイバ13と非剥離性密着層14との密着性が向上したことに起因するものと推測される。一方、含有量が10質量%を超えると吸水率が高くなるためガラス強度の維持が困難となり、1質量%未満では密着性向上の効果が得られない。
【0029】
オーバーコート層21は、非剥離性密着層14の外周に設けられた除去性の被膜であり、単層であっても、二層以上が積層された構造であっても良く、その外径(D4)は250μm〜500μm程度である。オーバーコート層21を有することで、光ファイバ心線20の配線時などにおける取り扱い性(作業性)が向上する。
【0030】
オーバーコート層21としては、非剥離性密着層14と剥離し易い紫外線硬化型樹脂層であることが望ましい。本発明では、剥離効果を有するシリコーン添加剤と膨潤効果を有するエステル系化合物とをウレタンアクリレート樹脂などのベース樹脂に含んで構成される紫外線硬化型樹脂層とすることが好ましい。
【0031】
剥離効果を有するシリコーン添加剤としては、Siを含む非反応性の高分子添加剤(Si系高分子添加剤)が望ましい。
Si系高分子添加剤は少量の添加量でもオーバーコート層21を滑りやすくして除去性を向上させることができるが、市販されているSi系高分子添加剤は、例えば平均分子量が約17000であっても分子量1000以下の低分子量成分も含まれており、これらの低分子量成分は湿熱環境下では拡散や他層への移行の可能性がある。従って、Si系高分子添加剤の添加量は、ベース樹脂に対して1質量%〜3質量%とすることが望ましい。
【0032】
また、膨潤効果を有するエステル系化合物としては、−20℃以上+40℃以下の温度条件で液体であり分子量分布のピークが1000以上6000以下であるSi及びFを含まない非反応性のエステル系高分子膨潤剤であることが好ましい。
【0033】
上記エステル系高分子膨潤剤は、分子量1000未満の低分子量成分をほとんど含まない。分子量分布は、例えば分子量が約4000の単一ピークを有する。また元素にF、Siを含まないため、ベース樹脂(基材)と相溶性がよく、多量に添加することができる。高分子膨潤剤を多量に添加することで、硬化時及び低温時での収縮を抑えることができ、オーバーコート層21の除去が容易になる。また、この高分子膨潤剤は1000未満の分子量成分をほとんど持たないことにより、多量に添加しても湿熱環境下での拡散や他層への移行可能性は低い。また、高分子膨潤剤は非反応性で架橋に取り込まれないため、膨潤させる力が大きい。したがって、下地のガラスファイバ13を締め付ける力を弱くでき、オーバーコート層21を除去しやすくしている。エステル系高分子膨潤剤は、ベース樹脂に対して10質量%〜20質量%添加されることが望ましい。
【0034】
オーバーコート層21を上記の組成とすることで、低温下でも、換言すれば非加熱の状態でも、被覆に刃を切り込ませて心線の長手方向に移動させることで被覆を引き抜く方式の除去具を用いた手作業によってオーバーコート層21を非剥離性密着層14から所定の長さ(例えば50mm)筒状に抜いて除去できるので、被覆除去性が向上する。
【0035】
上述のように、光ファイバ心線20は細径であり、好ましくは開口数を0.18〜0.35とすることで、一般的に使用される62.5μmのコア径を有するマルチモードファイバに分類される機器内又は機器間などの光ファイバ心線として、高密度実装に好適に使用することができる。また非剥離性密着層14はガラスファイバ13と強固に密着しているので、オーバーコート層21を除去するときに一緒に除去されることない。そのため非剥離性密着層14をつけたままでコネクタ接続ができるのでガラスファイバ13の表面に傷がつきにくく、コネクタ部分での断線を防止することができる。
【0036】
図2に、本発明の光ファイバ心線20を使用した光ファイバテープ心線30の好ましい一実施形態の模式断面図を示す。
図2に示す光ファイバテープ心線30は、図1に示した光ファイバ心線20を複数本並列に並べ、これらの複数本の光ファイバ心線20の周囲を全長に渡って外被(外被層(テープ材層))31により一体化してなる。図2では、非剥離性密着層14の外径を125μmとしているので、市販されているリムーバ(加熱式または非加熱式)を用いることで、外被層31及びオーバーコート層21を一括して除去可能であり、複数本の非剥離性密着層14を有する光ファイバ心線20を露出させることができる。
外被層31となるテープ材としては、公知のウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂などを好適に使用でき、その厚さは280〜450μm程度である。
【0037】
以上、光ファイバ心線20の実施形態を一例として本発明の光ファイバ心線を説明したが、本発明は当該構成に限定されることはなく、例えばガラスファイバ13をシングルモード光ファイバに置換することも可能であり、またオーバーコート層21をガラスファイバ13から離れる方向に軟質層、硬質層、着色層の3層から構成される紫外線硬化型樹脂層としてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0039】
[非剥離性密着層を形成するための紫外線硬化型樹脂組成物の調製]
(1)実施例1の紫外線硬化型樹脂組成
ウレタンアクリレートとして、ポリテトラメチレングリコール、イソホロンジイソシアネート、ヒドロキシエチルアクリレートをおおよそ1:2:2の割合で反応させたものを用い、反応性モノマーとして、N-ビニルピロリドン、イソボルニルアクリレート、EO変性ビスフェノール含有ジアクリレートを加えたものをベース樹脂とした。このベース樹脂に対し、アミド系モノマーとして、ヒドロキシエチルアクリルアミドを3質量%、光開始剤として2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドを1質量%添加し、実施例1の樹脂組成物を調製した。
【0040】
(2)比較例1の紫外線硬化型樹脂組成
比較例1の紫外線硬化型樹脂組成物は、ヒドロキシエチルアクリルアミドを非添加とする以外は実施例1と同様の組成で調製した。
【0041】
(3)比較例2の紫外線硬化型樹脂組成(エポキシ官能性ポリシロキサン樹脂組成物)
下記式のエポキシ官能性ポリシロキサン95質量部と下記触媒配合物5質量部を十分混合することにより、紫外線硬化型樹脂組成物を調製した。下記式のa:bの比は1:1であり、Rはメチル基であった。この配合物を次いで琥珀色ガラス瓶中の0.2μmのポリスルホンフィルターディスクを通して濾過した。3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1部を加えて、十分混合した。
前記触媒配合物は、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート40質量部、C10〜C14アルコール混合物60質量部および2−イソプロピルチオキサントン4質量部を用いた。
【0042】
【化1】

【0043】
[オーバーコート層を形成するための紫外線硬化型樹脂組成物の調製]
(1)プライマリ層を構成する紫外線硬化型樹脂組成物の調整
攪拌機を備えた反応容器に、2,4−トリレンジイソシアナート150g、ジブチル錫ジラウレート1gおよび重合開始剤として2,6−ジt−ブチル−4−メチルフェノール1gを仕込んだ。次に、ポリプロピレングリコール(旭ガラス(株)製:商品名EXENOL3020、数平均分子量3000)1680gを仕込み、約30分間攪拌した後、ジブチル錫ジラウレート1gを加え、約2時間にわたって温度を40〜50℃に保ちながら反応させた。次いで、温度を40〜50℃に保持しながらヒドロキシエチルアクリレート65gを添加して反応を完結させ、重合体を得た。得られた重合体の数平均分子量は約6800であった。
次に、この重合体70質量部に、アロニックスM114 19質量部、n−ドデシルアクリレート5質量部、N−ビニルカプロラクタム6質量部および2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド1.5質量部を加え、粘度が5000cP(25℃)の組成物を得た。なお、使用したn−ドデシルアクリレートのホモポリマーのガラス転移温度は−60℃であった。
【0044】
(2)セカンダリ層を構成する紫外線硬化型樹脂組成物の調整
反応容器にトリシクロデカンジメタノールジアクリレート720g、イソホロンジイソシアネート1255g、ジブチル錫ジラウレート4g、フェノチアジン0.4gおよび2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール1gを仕込んだ。反応容器を氷水で冷却しながら、これに2−ヒドロキシエチルアクリレート921gを内温が20℃を超えない様にして内液を撹拌しながら添加した。添加終了後、内温を5〜20℃に保持し、1時間攪拌を継続した後、トリシクロデカンジメタノール160gを内温が50℃を超えない様にして、内液を攪拌しながら添加した。添加終了後、内温を40〜50℃に保持し、1時間攪拌を継続した後、数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール(三菱化成製、TMG2000)1725gを内温を40〜50℃に保持して残留イソシアネートが0.1質量%以下になるまで攪拌を継続した。
得られたウレタンアクリレートの溶液のウレタンアクリレートとトリシクロデカンジメタノールジアクリレートの質量比は(100:17.7)である。
このウレタンアクリレート799質量部に、ヒドロキシエチルアクリレートブチルカルバメート68質量部、N−ビニルピロリドン80質量部、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート35質量部、ルシリン(商標)LR8728(BASF社製)10質量部、イルガキュア(商標)907(BASF社製)5質量部およびイルガノックス(商標)1035(BASF社製)を混合し、40〜50℃で3時間攪拌し、組成物を得た。
【0045】
[光ファイバ心線の作成]
ガラスファイバとして、石英を主成分とするコア径(D1)が80μm、クラッド径(D2)が100μm、開口数が0.30のGIファイバを使用した。そして、該ガラスファイバの外周面を、上記実施例1、比較例1および2の紫外線硬化性樹脂組成物を紫外線照射によって硬化させてなる非剥離性密着層にて被覆し、非剥離性密着層の外径(D3)を125μmとした。次いでオーバーコート層用の紫外線硬化型樹脂組成物を用いて、二層(ガラスファイバ側からプライマリ、セカンダリ)で構成されたオーバーコート層にて被覆し、オーバーコート層の外径(D4)を245μmとして実施例1及び比較例1〜2の光ファイバ心線を得た。
また比較例3として、クラッド径(D2)が125μmの非剥離性密着層を有さないガラスファイバについて、オーバーコート層用の紫外線硬化型樹脂組成物を用いて、二層(ガラスファイバ側からプライマリ、セカンダリ)で構成されたオーバーコート層(外径:245μm)にて被覆し、光ファイバ心線を得た。
【0046】
[光ファイバ心線の評価]
光ファイバ心線の評価方法およびその評価結果は以下の通りである。
【0047】
<コネクタ内断線改善効果>
(1)実施例1及び比較例3の光ファイバ心線について、リムーバを使用して二層で構成されたオーバーコート層を除去した後、紙ヤスリ(粒度No.1000)を表面に押付け(荷重:10g、時間:1秒間)、それをコネクタ付けした(各例について、n=100)。実施例1では非剥離性密着層が残るが、比較例3ではガラスファイバが露出する。
(2)上記で得られたコネクタ付けした光ファイバ心線について、100℃〜−20℃(両端の温度で1時間保持、1℃/分で温度を上下)×100サイクルのヒートサイクル試験を行った。
(3)上記ヒートサイクル試験後、コネクタの先端から波長0.85nmの光を入れて他方の端でその光が検出されるか否かを観察した。光が検出されれば断線なしとした。
【0048】
(結果)
実施例1では、断線したものは0/100(本)であった。一方、比較例3では1/100(本)の断線が確認された。
【0049】
<ファイバ被覆破れ>
(1)実施例1及び比較例1の光ファイバ心線について、1mの光ファイバ心線をマンドレル7φに巻き付けたものを100℃で保持した(各例について、n=15)。
(2)10日後、被覆破れについて、目視で観察した。
【0050】
(結果)
実施例1では、被覆破れしたものは0/15(サンプル)であった。一方、比較例1では3/15(サンプル)の被覆破れが確認された。
【0051】
<製造性>
実施例1及び比較例2(シリコーン系エポキシ樹脂の光ファイバ)の紫外線硬化型樹脂組成物について、シートを作成し、紫外線を100mJ/cm照射してシートを硬化させ、そのシートのゲル分率を測定した。ヤング率の測定は、JIS K 7113−1995の引張弾性率の試験方法に準拠してダンベル型の2号試験片を作成し、引張速度1mm/分でN=5で測定した。ゲル分率は、シートの重量をW0とし、このシートから未硬化ゲル成分をMEK(メチルエチルケトン)で抽出した後の重量をWとするとき、ゲル分率=W/W0で表される。N=2で測定した。
【0052】
(結果)
測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1より、比較例2のヤング率は593MPa、ゲル分率は96.2%と、実施例2と比較して低いことが分かる。実施例1ではゲル分率が98%を超えほぼ完全に硬化した(フルキュア)が、比較例2では硬化が遅い。このことから実施例1の硬化性は比較例2と比較して良好であり、製造性が優れることが認められた。
【符号の説明】
【0055】
20 光ファイバ心線、 11 ガラスコア、 12 ガラスクラッド、 13 ガラスファイバ、 14 非剥離性密着層、 21 オーバーコート層、 30 光ファイバテープ心線、 31 外被(外被層)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスコア及びガラスクラッドからなるガラスファイバと、該ガラスファイバの外周面上に該ガラスファイバに隣接する非剥離性密着層と、該非剥離性密着層の外周面上を被覆する紫外線硬化型樹脂からなるオーバーコート層とを備えた光ファイバ心線であって、
該非剥離性密着層は、層厚みが2.5μm〜32.5μmであるとともに、ウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を主成分とし、アミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種をベース樹脂に対して1〜10質量%含有し、且つ、シランカップリング剤を含まないことを特徴とする光ファイバ心線。
【請求項2】
前記アミン系モノマーおよび非環状アミド系モノマーから選ばれる少なくとも1種がアクリレート構造のモノマーであることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ心線。
【請求項3】
開口数が0.18〜0.35であることを特徴とする請求項1又は2記載の光ファイバ心線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−131667(P2012−131667A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285506(P2010−285506)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】