説明

光ファイバ素線の製造方法

【課題】光ファイバ母材から線引された光ファイバ裸線の周囲に、前記光ファイバ裸線の外周部よりも屈折率の低いクラッドを形成して光ファイバ素線を製造するにあたり、前記クラッドのコーティング層の厚みが前記光ファイバ裸線の外周部内を伝搬する光が前記クラッドに浸み出すのを防止するために所定の厚み以上になる光ファイバ素線の製造方法を提供する。
【解決手段】前記クラッドのコーティング材料として前記光ファイバ裸線の外周部よりも屈折率の低い低屈折率硬化性樹脂を用い、前記光ファイバ裸線にクラッド1層目のコーティングを行い、続いてそのクラッド1層目コーティング層が未硬化の状態で、前記1層目コーティング層と同一の低屈折率硬化性樹脂によりクラッド2層目のコーティングを行った後、クラッド1層目コーティング層および2層目コーティング層の硬化性樹脂層を同時に硬化させることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバ素線を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、所望の屈折率分布を有する光ファイバ母材を製造し、約2000℃に熱した電気炉に前記光ファイバ母材を縦方向に挿入し、前記光ファイバ母材の主な材料である石英ガラスが溶けてその自重で糸状に引き伸ばされて垂れてきたものを光ファイバ裸線とした後に、前記光ファイバ裸線に保護被覆を施し、ボビン等に巻き取り光ファイバ素線とする工程を経て製造される。
【0003】
前述の方法により製造される光ファイバのうち、ポリマクラッド(樹脂クラッド)光ファイバはクラッドの材料としてプラスチックなどの樹脂を用いたものであり、前記クラッドは光ファイバの外周部の光が光ファイバ外部に浸み出さないようにするためのものである。また、ポリマクラッド光ファイバには外傷から守るための保護層として最外部に保護被覆が施されることが多い。
【0004】
これらのクラッドや保護被覆の材料の樹脂は、その樹脂の硬化方法に合わせて種類が選択されるが、種々の硬化性樹脂のうちでも特に紫外線硬化樹脂の硬化速度が他の種類の硬化性樹脂に比べて圧倒的に速いことから、最近の光ファイバ製造工程においては紫外線硬化樹脂が用いられるのが通例である。
【0005】
ところで、一般の光ファイバ裸線のコーティング材料として用いられる硬化性樹脂は、光ファイバ裸線の材料である石英ガラスよりも屈折率が高い。そのような高屈折率の硬化性樹脂をクラッド層として光ファイバ裸線にコーティングしても、そのコーティング層の屈折率が光ファイバ裸線の屈折率より高くなるために、前述のようにこのコーティング層は光ファイバ裸線外周部の光を外部に浸み出させないためのクラッドとして機能しない。
そこで、ポリマクラッド光ファイバのクラッド用硬化性樹脂としては、通常の紫外線硬化樹脂にフッ素を添加することにより屈折率を下げたフッ素添加紫外線硬化樹脂を使用することが望まれる。さらに、クラッドコーティング層が光ファイバ裸線外周部内を伝搬する光の浸み出しを防ぐように機能するためには、フッ素添加紫外線硬化樹脂の如く低屈折率の硬化性樹脂によるクラッドコーティング層が所定の厚みより厚くコーティングされることが好ましい。
クラッド用のフッ素添加紫外線硬化樹脂は、屈折率だけでなく、硬化性やヤング率、ガラスとの密着性等の諸特性を鑑みた上で適宜選択される。
なお、前記保護被覆の材料の硬化性樹脂にはクラッド用硬化性樹脂とは異なる無添加の紫外線硬化樹脂が用いられる。
【0006】
従来の光ファイバ素線の製造工程においては、光ファイバ裸線に特性の異なる2種類の硬化性樹脂をコーティングすることも行われており、そのような2層コーティング方法について、図6を参照して説明する。
図6に示すように、線引炉24で光ファイバ母材23から線引された光ファイバ裸線25に、樹脂被覆装置26aで樹脂クラッドまたは保護被覆として1層目の硬化性樹脂がコーティングされる。続いて、光ファイバ30にコーティングされた1層目硬化性樹脂が樹脂硬化装置28aで硬化される。1層目硬化性樹脂層がコーティングされた光ファイバ32には、樹脂被覆装置26bで保護被覆として1層目硬化性樹脂とは異なる2層目用の硬化性樹脂がコーティングされる。光ファイバ34にコーティングされた2層目被覆樹脂は樹脂硬化装置28bで硬化される。1層目および2層目硬化性樹脂層がコーティングされた光ファイバ36は、巻き取り機29で巻き取られ、光ファイバ素線となる。
【0007】
2種類の硬化性樹脂を連続的にコーティングしてから硬化させる被覆法とその被覆方法で用いる複層一括被覆装置に関しては、硬化性樹脂の粘性とその温度依存性、せん断速度などの多数のパラメータを前記硬化性樹脂の最適なコーティング状態に設定することにより、光伝送特性及び機械的強度の優れた高品質の光ファイバ素線を高速に製造することが可能であることが示されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。また、複層一括被覆装置の調芯やダイスの位置決めについても工夫が重ねられ、硬化性樹脂のコーティング層の厚みの調整が容易で偏肉の発生を防止することができる光ファイバ素線の製造方法が先行技術文献で示されている(例えば、特許文献3および特許文献4参照)。
【0008】
特に特許文献2では、光ファイバの線引速度V(m/秒)、被覆装置のダイスに挿入する光ファイバの半径Rf(m)、前記ダイスの穴の半径Rd(m)、被覆材料である硬化性樹脂の臨界せん断速度γc(1/秒)に関する条件として、V/Rf/log(Rd/Rf)<γcを満たすようにV、Rf、Rd、γcをそれぞれ設定することにより、線引速度16m/秒以上の光ファイバの高速線引工程で前記樹脂のせん断速度が臨界せん断速度を超えることがなく、安定した硬化性樹脂のコーティングを行うことを可能とする光ファイバ素線製造方法が示されている。
【0009】
また特許文献5には、複層一括被覆装置の1層目コーティング用の第1のダイに2層目コーティング用の第2のダイのそれぞれの中心線を合わせて結合し、前記第1のダイを大気圧下にあるようにし、第2のダイの2層目コーティング用の硬化性樹脂は少なくとも大気圧以上の加圧状態とすることにより、光ファイバ芯材に対して芯材の線引速度によらず、偏肉が生じずに径変動のない被覆を施す複層一括被覆用ダイについて示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−338549号公報
【特許文献2】特開平10−338551号公報
【特許文献3】特開2000−1913424号公報
【特許文献4】特開平9−255372号公報
【特許文献5】特開昭62−53763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ポリマクラッド光ファイバのクラッドのコーティング材料として保護被覆用の紫外線硬化樹脂にフッ素を添加した低屈折率硬化性樹脂を使用し、従来の光ファイバ素線の製造方法で光ファイバ裸線にクラッド層を形成しても、クラッド層の厚みが光ファイバ裸線の外周部内を伝搬する光の浸み出しを防ぎ得る厚み以上に得られないという問題があった。
ポリマクラッド光ファイバのクラッドコーティング層が所定の厚みを満たさなければ、光ファイバ裸線の外周部内を伝搬する光がクラッドに浸み出し、ポリマクラッド光ファイバの伝搬特性を劣化させる虞がある。
【0012】
本発明は、上述の事情を背景としてなされたもので、ポリマクラッド光ファイバのクラッドコーティング層の厚みが、光ファイバ裸線の外周部内を伝搬する光を外部に浸み出させないための所定の厚みに達するようにコーティングすることを課題とするものである。また本発明は、このようなクラッドコーティング層を施し得る光ファイバ素線の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは光ファイバ素線製造の経験と知見に基づき、クラッドのコーティング材料として光ファイバ裸線の外周部より低い屈折率を有する硬化性樹脂を用いた場合に、クラッドコーティング層が所定の厚みより薄くなってしまう主な原因は、クラッド用低屈折率硬化性樹脂、特にフッ素添加により低屈折率化した紫外線硬化樹脂の臨界せん断速度が保護被覆用硬化性樹脂に比べて(1/100)未満程度であることと考えた。これについて次に具体的に説明する。
【0014】
図1に光ファイバの保護被覆材料として用いられるフッ素化アクリレート樹脂およびウレタンアクリレート樹脂のせん断速度と樹脂粘度の関係を示す。臨界せん断速度は“せん断速度−粘度曲線の平坦部から高せん断速度側になるほど樹脂粘度が急激に低下する範囲”によって定義される。図1に示すように低屈折率紫外線硬化樹脂の場合、前記臨界せん断速度は10(1/s)近傍であるのに対し、一般に使用される保護被覆用紫外線硬化樹脂は1000(1/s)以上である。紫外線硬化樹脂のせん断速度が臨界せん断速度を超えると、例えば複層一括被覆装置の被覆ダイス内の紫外線硬化樹脂の粘度が下がることにより、コーティング層の厚みが大きく変動するという状況が発生する。
【0015】
そこで、上述のように塗布性の低い低屈折率硬化性樹脂からなるクラッド材料を厚く被覆するための手法について本発明者が鋭意実験・検討を重ねた結果、塗布性に劣る樹脂でも、そのコーティングを2回に分けて行うことにより、コーティング層の厚みを、より大きくし得ることを見出し、本発明を示すに至った。
2層コーティングによりクラッド層の厚みが大きくなる理由は、必ずしも明らかではないが、定性的には次のように考えられる。すなわち、光ファイバ裸線に対して1層だけで未硬化の硬化性樹脂をコーティングする場合は、光ファイバ裸線の外周にコーティングされた時点でのコーティング層の流動速度(光ファイバ裸線に対する相対的な流動速度)は、コーティング層の厚み方向に連続的に変化するが、前述のように2層に分けてコーティングする場合、光ファイバ裸線に1層目の樹脂をコーティングしてから、2層目の樹脂をコーティングする時点では、1層目の樹脂の表面部分は、光ファイバ裸線に対する相対的な流動速度が既に低下しているため、次の2層目の樹脂が光ファイバ素線との1層目の樹脂の表面に接する際に、その2層目の樹脂の相対的な流動速度と、1層目表面の流動速度との間に差が生じ、そのため2層目における1層目表面に接する領域に境界層が生じて、1層目の表面と2層目とでは厚み方向に流動速度が不連続となり、その結果、2層目もある程度の厚みで形成することができ、そのため1層目と2層目との合計で1層コーティングの場合よりも厚い厚みでコーティングし得るため、と考えられる。
【0016】
すなわち、本発明ではクラッドコーティング層を2層に分けてコーティングすることにより、クラッドコーティング層の最小層厚が所定の厚みより厚くなるようにした。このことにより、光ファイバ裸線の外周部内を伝搬する光がクラッドに浸み出すことを防ぎ、ポリマクラッド光ファイバとしての機能を確実に発揮させ、前記課題を解決することとした。
【0017】
なお、クラッドコーティング層を2層に分けてコーティングする際に、1層目および2層目の硬化性樹脂を少なくとも大気圧以上の加圧状態とすることにより、硬化性樹脂を大気圧状態でコーティングする場合に比べてクラッドコーティング層の厚みをより厚くでき、より望ましいコーティングが可能となる。これは、1層目および2層目の硬化性樹脂は少なくとも大気圧以上の加圧状態とすることにより、樹脂のせん断速度が下がり、安定して厚く樹脂を塗布できるようになるためである。
【0018】
さらに、ポリマクラッド光ファイバの製造において、コアとクラッド(以降、第1クラッドと称する)とを有する石英ガラス系の光ファイバ裸線に第1クラッドよりも屈折率の低い硬化性樹脂をコーティングすれば、この硬化性樹脂層を第1クラッド内部を伝搬する光がクラッド外部に浸み出すのを防ぐための、第1クラッドに対する外部クラッド(以降、第2クラッドと称する)として機能させることができる。したがって、このようなポリマクラッド光ファイバは図2に示すようなダブルクラッドファイバとなる。
【0019】
図2のダブルクラッドファイバ1はコア2とその周囲の第1クラッド3と、第1クラッド3の周囲にコーティングされた第2クラッド4と、第2クラッド4の周囲にコーティングされた保護被覆層5から構成される。第1クラッド3の屈折率はコア2の屈折率よりも低く、第2クラッド4の屈折率は第1クラッド3の屈折率よりもさらに低くされている。
【0020】
また、石英ガラス系の第1クラッドが屈折率の異なる複数のクラッド層であってもかまわない。このようなポリマクラッド光ファイバはマルチクラッドファイバとよばれる。例えば、第1クラッドが屈折率の異なる2層のクラッド層である場合、トリプルクラッドファイバとよばれる構造となる。
【0021】
上述のようなダブルクラッドファイバあるいはマルチクラッドファイバは、例えばコア内を伝搬する光を増幅するために必要な励起光を光ファイバの第1クラッド内で伝搬させて光増幅器やファイバレーザに供給するためのクラッドポンプ構造用光ファイバとして使用される。このようなクラッドポンプ構造の光増幅器にはコアに光を増幅するために、希土類元素などの活性元素が添加された増幅用光ファイバが用いられる。
一例として、クラッドポンプ構造の光増幅器の全体構成を図3に示す。励起光伝搬用ファイバ10a〜10dと増幅用ファイバ12にはダブルクラッドファイバが用いられている。
光増幅器20においては、種光源6から出射された種光が種光伝搬用ファイバ8のコア内を伝搬してコンバイナ9に入射され、複数の励起光源7a〜7dから出射された励起光は励起光伝搬用ファイバ10a〜10dのコア内を伝搬し、コンバイナ9に入射される。コンバイナ9に入射した種光はダブルクラッドファイバ11のコア内を伝搬し、増幅用ファイバ12に入射し、コア内を伝搬する。一方、コンバイナ9に入射された大部分の励起光はダブルクラッドファイバ11の第1クラッド内を伝搬し、増幅用ファイバ12に入射して、第1クラッド内を伝搬する。そして、励起光が増幅用ファイバ12のコアを通過するときにコア中の活性元素に吸収され、活性元素を励起する。励起された活性元素では誘導放出が発生し、種光が増幅されるとともに増幅された光が出力光として増幅用ファイバ12の出力端から出射される。
【0022】
このような光増幅器やファイバレーザにクラッドコーティング層の厚さが薄かったり偏肉状態が悪かったりしてクラッドコーティング層の薄い部分が存在するポリマクラッド光ファイバを使用すると、第1クラッド内を伝搬する励起光の伝搬損失が増加することは公知である。
【0023】
なお、前述の特許文献1〜5で示されている硬化性樹脂の2層コーティング方法はフッ素添加紫外線硬化樹脂の如く、臨界せん断速度が通常の樹脂より格段に低くて塗布性が極端に劣る樹脂をコーティングする場合については考慮されていない。したがって、特許文献1〜5に示される技術をダブルクラッド構造の光ファイバ裸線の製造に適した低屈折率の硬化性樹脂のコーティングに適用しても、充分に厚いコーティング層を形成し得るか否かは不明である。
【0024】
次に、本発明における第1〜第8の態様の光ファイバの被覆方法について説明する。
本発明の第1の態様の光ファイバ素線の製造方法は、光ファイバ母材から線引された光ファイバ裸線に、光ファイバ裸線の外周部より低い屈折率を有するクラッド用の未硬化の硬化性樹脂によりクラッド1層目のコーティングを行い、続いてそのクラッド1層目のコーティング層が未硬化の状態で、そのクラッド1層目コーティング層の表面に前記硬化性樹脂と同一の未硬化の樹脂によりクラッド2層目のコーティングを行い、その後、クラッド1層目コーティング層および2層目コーティング層の硬化性樹脂層を同時に硬化させることによりクラッドを形成することを特徴とするものである。
【0025】
第1の態様の光ファイバ素線の製造方法によれば、クラッドコーティング層の最小層厚が厚くなり、ある程度の偏肉が生じても、製造された光ファイバ素線がポリマクラッド光ファイバとして優れた伝搬特性を持つために必要なクラッドコーティング層の厚みが所定の厚み以上になる。
【0026】
本発明の第2の態様による光ファイバ素線の製造方法は、第1の態様の光ファイバ素線の製造方法において、クラッド1層目のコーティングを行うための第1ダイスと、クラッド2層目のコーティングを行うための第2ダイスとが隣り合って配列され、かつ第1ダイスの出口が第2ダイスの入口部分に開口している複層一括被覆用ダイスを用いて、クラッド各層のコーティングを行うことを特徴とするものである。
【0027】
第2の態様の光ファイバ素線の製造方法によれば、前記複層一括被覆用ダイスの第1ダイスと第2ダイスに同じ硬化性樹脂を供給することにより、複層一括被覆用ダイス内でクラッド1層目のコーティングおよび2層目のコーティングを連続して行うことができる。また、クラッド1層目および2層目のコーティングを行うためのコーティング装置の小型化が図れるとともに光ファイバ素線の製造装置の大型化を回避することができる。さらに、第1ダイスの出口から引き出された光ファイバがダイス外部にさらされることなく直ちに第2ダイスに引き入れられるため、クラッドの1層目コーティング層と2層目コーティング層との境界面に外気中の不純物が付着することを防ぐことができる。
【0028】
本発明の第3の態様による光ファイバ素線の製造方法は、第1の態様および第2の態様の光ファイバの被覆方法において、前記硬化性樹脂の1層目のコーティングと2層目のコーティングとを加圧下で行うことを特徴とするものである。
【0029】
第3の態様の光ファイバ素線の製造方法によれば、1層目および2層目のクラッドのコーティングで硬化性樹脂に圧力が加えられるため、1層目および2層目の硬化性樹脂がそれぞれ光ファイバ裸線および1層目コーティング層に厚くコーティングされ、クラッドコーティング層の厚みを更に大きくできる。
【0030】
本発明の第4の態様による光ファイバ素線の製造方法は、第1〜第3のいずれかの態様に記載の光ファイバ素線の方法において、前記硬化性樹脂の1層目のコーティングにおける樹脂圧よりも2層目のコーティングにおける樹脂圧を高くすることを特徴とするものである。
【0031】
第4の態様の光ファイバ素線の製造方法によれば、1層目と2層目の硬化性樹脂の流動速度の差が大きくなり、クラッド2層目のコーティング層の厚みが厚くなることにより、クラッド全体の厚みを容易に所定の厚み以上に大きくすることができる。
【0032】
本発明の第5の態様による光ファイバ素線の製造方法は、第1〜第4のいずれかの態様に記載の光ファイバ素線の製造方法において、前記硬化性樹脂として紫外線硬化樹脂を用いることを特徴とするものである。
【0033】
本発明の第6の態様による光ファイバ素線の製造方法は、第1〜第5のいずれかの態様に記載の光ファイバ素線の製造方法において、前記硬化性樹脂としてフッ素添加アクリレート樹脂を用いることを特徴とするものである。
【0034】
本発明の第7の態様による光ファイバ素線の製造方法は、第1〜第6のいずれかの態様に記載の光ファイバ素線の製造方法において、前記光ファイバ母材から線引された光ファイバ裸線を、中心部のコアと、その外周上にコアよりも屈折率の低い第1クラッドとを有する光ファイバ裸線とし、前記第1クラッドより低い屈折率を有する硬化性樹脂により前記クラッド1層目コーティング層および2層目コーティング層を形成して、これらの1層目コーティング層および2層目コーティング層を第2クラッドとしたダブルクラッド構造の光ファイバ素線を製造することを特徴とするものである。
【0035】
第7の態様の光ファイバ素線の製造方法によれば、前記低屈折率硬化性樹脂によるコーティング層が光ファイバ裸線の第1クラッド内を伝搬する光を第1クラッドの外部に浸み出すことを防ぐための第2クラッドになり、さらに第2クラッドコーティング層の厚みが充分に厚くなることにより、伝搬特性のよいダブルクラッドファイバを製造することができる。
【0036】
本発明の第8の態様による光ファイバ素線の製造方法は、第1〜第6のいずれかの態様に記載の光ファイバ素線の製造方法において、前記光ファイバ母材から線引された光ファイバ裸線を、中心部のコアと、その外周の第1クラッド内にコアよりも屈折率の低いクラッド層を複数有する光ファイバ裸線とし、前記第1クラッドの最外層より低い屈折率を有する硬化性樹脂により前記クラッド1層目コーティング層および2層目コーティング層を形成して、これらの1層目コーティング層および2層目コーティング層を最外層のクラッドとした複数のクラッドを持つ構造の光ファイバ素線を製造することを特徴とするものである。
【0037】
第8の態様の光ファイバ素線の製造方法によれば、前記低屈折率硬化性樹脂によるコーティング層が光ファイバ裸線の第1クラッドの最外層内を伝搬する光を前記最外層の外部に浸み出すことを防ぐためのクラッドになり、さらに前記低屈折率硬化性樹脂によるクラッドコーティング層の厚みが充分に厚くなることにより、伝搬特性のよい複数のクラッドを持つファイバを製造することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の光ファイバ素線の製造方法によれば、ポリマクラッド光ファイバのクラッド層の厚みが確実に、光ファイバ裸線の外周部内を伝搬する光が前記クラッド層に浸み出さないようにするための所定の厚み以上になり、優れた伝搬特性のポリマクラッド光ファイバが得られる。
したがって、このようなポリマクラッド光ファイバや、ポリマクラッド光ファイバを使用した製品の歩留まりも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】硬化性樹脂のせん断速度と粘度の関係を表すグラフである。
【図2】ダブルクラッドファイバの断面図と屈折率分布を示す略解図である。
【図3】ダブルクラッドファイバを用いた光増幅器の全体構成を示す略解図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による光ファイバ素線の製造方法で用いる光ファイバ素線製造装置の全体構成を示す略解図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による光ファイバ素線の製造方法で用いる複層一括被覆用ダイスの全体構成を示す略解図である。
【図6】従来の光ファイバ素線の製造方法で用いる装置の全体構成を示す略解図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明の実施の形態について、図4および図5を参照して以下で説明する。
【0041】
図4には、本発明の第1の実施形態の光ファイバ素線の製造方法で用いる光ファイバ素線製造装置の構成を示す。
この光ファイバ素線製造装置は光ファイバ母材の線引炉24と、クラッドコーティング用の低屈折率紫外線硬化樹脂の1層目と2層目をコーティングするための複層一括被覆用ダイス26cと、1層目クラッドコーティング層と2層目クラッドコーティング層とを同時に硬化させるための樹脂硬化装置28cと、保護被覆用硬化性樹脂を塗布するためのコーティング装置26bと、前記保護被覆用硬化性樹脂を硬化させるための樹脂硬化装置28bと、ファイバ素線の巻き取り機29とを有している。また、複層一括被覆用ダイス26cはニップル15と、1層目のクラッドを光ファイバ裸線にコーティングするための第1ダイス16と、1層目のクラッドコーティング層が未硬化の状態である光ファイバに2層目のクラッドをコーティングするための第2ダイス17を有している。
【0042】
図5は複層一括被覆用ダイス26cの構成を詳しく示している。
複層一括被覆ダイス26cはホルダー14内にニップル15と第1ダイス16と前記第2ダイス17が隣り合って配列され、かつニップル15の出口は第1ダイス16の入口部分に開口するとともに第1ダイス16の出口が第2ダイス17の入口部分に開口している。ニップル15は、ホルダー14および上部押さえプレート18によって固定され、第2ダイス17は下部支えプレート19によって固定されている。また、第1ダイス16と第2ダイス17との外周とホルダー14の内周との間には、弾性体20が配置されている。また、ホルダー14には図示しない調芯装置が取り付けられている。前記調芯装置により、第1ダイス16と第2ダイス17とを水平に動かすことができる。
【0043】
次に、図4に示す光ファイバ素線製造装置を用いた光ファイバ素線の製造工程について説明する。
図4の光ファイバ素線製造装置において、光ファイバ母材23の線引炉24への挿入により、線引炉24で線引された光ファイバ裸線25は、複層一括被覆用ダイス26cのニップル15を通り、第1ダイス16および第2ダイス17でそれぞれ1層目および2層目の低屈折率硬化性樹脂がコーティングされる。続いて、光ファイバ30にコーティングされた前記1層目と2層目の低屈折率硬化性樹脂は樹脂硬化装置28cで硬化される。低屈折率硬化性樹脂によるクラッドコーティング層をコーティングされた光ファイバ32は、樹脂被覆装置26bで保護被覆用硬化性樹脂がコーティングされ、光ファイバ34にコーティングされた保護被覆用硬化性樹脂は樹脂硬化装置28bで硬化される。クラッドコーティング層および保護被覆用硬化性樹脂層がコーティングされた光ファイバ36は、巻き取り機29で巻き取られ、ポリマクラッド光ファイバ素線となる。
【0044】
続いて、複層一括被覆用ダイス26cを用いて線引された光ファイバ裸線に2層のクラッドがコーティングされる原理を説明する。
第1ダイス16を固定しておき、ニップル15と第1ダイス16と第2ダイス17とを、前記調芯装置により操作し、また弾性体20の反発力を利用することにより、水平方向に調心移動させて偏肉を調整する。前述の調整が完了した状態で、第1ダイス16と第2ダイス17に低屈折率紫外線硬化樹脂を図示しない供給経路から加圧して供給する。
ニップル15に挿入された光ファイバ裸線はニップル15を通り、その出口から引き出されると同時に第1ダイス16の入口部分から第1ダイス16に入り、第1ダイス16内に充填されているクラッド1層目の低屈折率紫外線硬化樹脂に浸かり、光ファイバ裸線には低屈折率紫外線硬化樹脂がコーティングされる。このときのクラッド1層目のコーティング層の厚みは第1ダイスの穴径によって決まる。
1層目コーティング層が未硬化の状態で、クラッド1層目がコーティングされた光ファイバ裸線は第1ダイスの出口から引き出されるとともに第2ダイスの入口部分から第2ダイス17に入り、第2ダイス17内に充填されているクラッド1層目と同じ低屈折率紫外線硬化樹脂に浸かり、クラッド1層目の低屈折率紫外線硬化樹脂層の外周にクラッド2層目として同じ低屈折率紫外線硬化樹脂層がコーティングされる。クラッド1層目および2層目の低屈折率紫外線硬化樹脂層がコーティングされた光ファイバ裸線は第2ダイスの出口から引き出され、前述の光ファイバ素線の製造工程で説明したように樹脂硬化装置28cへと引かれる。
【0045】
光ファイバ裸線の線引速度を高速にしていくと、ある線引速度で硬化性樹脂のコーティングの厚さが急激に変動するため、硬化性樹脂がコーティングできなくなる。
この原因の1つとして、線引速度の高速化により第1ダイス16と第2ダイス17と樹脂被覆装置26bとの内部の硬化性樹脂のせん断速度が、硬化性樹脂の臨界せん断速度を超えることが挙げられる。硬化性樹脂のせん断速度が臨界せん断速度を超えると、第1ダイス16と第2ダイス17と樹脂被覆装置26bの内部の硬化性樹脂の流動が不安定になり、硬化性樹脂のコーティング層の厚みが大きく変動する。
【0046】
第1ダイス16と第2ダイス17と樹脂被覆装置26bの内部において、光ファイバ裸線が線引されることにより流動する硬化性樹脂のせん断速度ηは引用文献3に記載されているように、
η=V/Rf/log(Rd/Rf)
+P/L/4μ{2Rf−(Rd−Rf)/Rf/log(Rd/Rf)}
で表される。ここで、
V:線引き速度
Rf:光ファイバ裸線およびコーティングされた光ファイバの外径
Rd:(第1ダイス16/第2ダイス17/樹脂被覆装置26b)の出口の半径
P:硬化性樹脂の樹脂圧
L:(第1ダイス16/第2ダイス17/樹脂被覆装置26b)の長さ
μ:硬化性樹脂の粘度
である。前記式の右辺第1項は光ファイバに引きずられる硬化性樹脂の流れによるせん断速度を、右辺第2項は圧力の流れによるせん断速度を表している。前記式を第1ダイス16/第2ダイス17/樹脂被覆装置26bにそれぞれ適用すると、第1ダイス16/第2ダイス17/樹脂被覆装置26bのそれぞれの内部でのせん断速度の最大値は、前記右辺第1項の最大値に略等しくなる。そして、前記硬化性樹脂の臨界せん断速度をγcとすると、
V/Rf/log(Rd/Rf)<γc
が成り立つ。したがって、前記式の条件が成り立つように第1ダイス16と第2ダイス17と樹脂被覆装置26bに関する各パラメータおよび線引速度を設定するとともに、光ファイバ裸線へのクラッドのコーティングは低屈折率紫外線硬化樹脂の2層コーティングを行うことにより、光ファイバ裸線の外周に低屈折率かつ厚い硬化性樹脂コーティング層が形成される。
【0047】
ここで、光ファイバ母材から線引された光ファイバ裸線を、中心部のコアと、その外周上にコアよりも屈折率の低い第1クラッドとを有する光ファイバ裸線とし、第1クラッドよりも低い屈折率を有する硬化性樹脂として前記フッ素添加紫外線硬化樹脂を用いれば、前記2層コーティング方法をダブルクラッドファイバの第2クラッドコーティング層の形成に好適に適用できる。
そこで以下の実施例でも、ダブルクラッドファイバの第2クラッド層の形成に低屈折率紫外線硬化樹脂を用いて、2層コーティング方法を適用し、コーティング層の厚みが充分厚くなるかということについて確認した。
【実施例】
【0048】
以下に、第1の実施形態において、コアと第1クラッドとを有する光ファイバ裸線に第2クラッド層および保護被覆層のコーティングを行ったダブルクラッドファイバの製造の実施例について説明する。
【0049】
比較例1
図6に示す従来の光ファイバ素線製造装置を用い、コアと第1クラッドとを有する光ファイバ母材23から線引炉24により線引された光ファイバ裸線に第2クラッド層および保護被覆層をコーティングした。
本比較例では、前記光ファイバ裸線の線引速度を15m/min、ファイバ径を125μmとし、第2クラッドのコーティング材料としては低屈折率の紫外線硬化樹脂を用いた。低い屈折率(1.38〜1.47;波長589nm、温度25℃)と透明性を兼備したフッ素化アクリル樹脂である。また、第2クラッドコーティング用の複層一括被覆用ダイス26cの第1ダイス径16および第2ダイス17のダイス径は0.23mm、前記樹脂の温度は42℃、樹脂圧は0.03MPaとした。このとき、硬化性樹脂のせん断速度は6.51×10(1/s)となり、樹脂粘度は0.095(Pa・s)となった。なお、保護被覆材料の紫外線硬化樹脂はせん断速度によって樹脂粘度が変わらない樹脂を用いた。
【0050】
上述の条件において1kmの光ファイバ線引を行い、製造された光ファイバ素線の10箇所の断面のファイバ径と、第2クラッドとしてコーティングされた低屈折率紫外線硬化樹脂層の径(以降、第2クラッド径)と、保護被覆用硬化性樹脂層の径(以降、保護被覆径)を計測した結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1
図4に示す光ファイバ素線製造装置を用い、コアと第1クラッドとを有する光ファイバ母材23から線引炉24により線引された光ファイバ裸線に第2クラッド層および保護被覆層をコーティングした。
本実施例においても比較例1と同様に、前記光ファイバ裸線の線引速度を15m/min、ファイバ径を125μmとし、第2クラッドのコーティング材料として前記樹脂を用いた。また、1層目および2層目の第2クラッドのコーティングには複層一括被覆用ダイスを使用し、2層分の樹脂を塗布し、複層一括被覆用ダイスの第1ダイスおよび第2ダイスのダイス径は、それぞれ0.23mm、0.25mmとした。樹脂温度および樹脂圧は1層目および2層目とも、それぞれ42℃、0.03MPaとした。その結果、第2クラッドコーティング用の低屈折率紫外線硬化型樹脂のせん断速度は、1層目が6.51×10(1/s)、2層目が6.48×10(1/s)となり、樹脂粘度は1層目が0.095(Pa・s)、2層目が0.098(Pa・s)となった。なお、保護被覆材料の紫外線硬化樹脂には、第2クラッドコーティング用の低屈折率紫外線硬化樹脂とは異なり、低屈折率ではない紫外線硬化樹脂を用い、保護被覆の樹脂被覆装置には従来技術の一層のみのコーティングを行うものを用いた。また前記屈折率ではない紫外線硬化樹脂はウレタンアクリレート樹脂を主体とするものである。
【0053】
上述の条件において1kmの光ファイバ線引を行い、製造された光ファイバ素線の10箇所の断面のファイバ径と、第2クラッド径と、保護被覆径を計測した結果を表2に示す。
表2からわかるように、ファイバ径が125μmのファイバにおいて、1層目および2層目の第2クラッドのコーティングに複層一括被覆用ダイスを用いたコーティング方法により、従来技術の光ファイバ素線製造方法で行うよりも第2クラッド径が厚くなっており、製造された光ファイバ素線ではダブルクラッドファイバとして使用されるために十分な第2クラッドコーティング層の厚みが得られた。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例2
図4に示す被覆装置を用い、樹脂の加圧条件を変化させてコアと第1クラッドとを有する光ファイバ母材23から線引炉24により線引された光ファイバ裸線に第2クラッド層および保護被覆層をコーティングした。
本実施例においては実施例1と同じ前記光ファイバ裸線の線引速度、ファイバ径を設定し、第2クラッドのコーティング材料として実施例1と同じ低屈折率の紫外線硬化樹脂を用いた。また、1層目および2層目の第2クラッドには複層一括被覆用ダイスを使用し、2層分の低屈折率紫外線硬化樹脂を塗布した。複層一括被覆用ダイスの1層目の第1ダイスおよび第2ダイスのダイス径と樹脂温度は実施例1と同様とした。
樹脂圧は第2クラッド1層目および2層目で、それぞれ0.03MPa、0.06MPaとした。その結果、第2クラッドコーティング用の低屈折率紫外線硬化樹脂のせん断速度は、1層目が6.51×10(1/s)、2層目が6.43×10(1/s)となり、低屈折率紫外線硬化樹脂の粘度は1層目が0.095(Pa・s)、2層目が0.101(Pa・s)となった。なお、実施例1と同様に保護被覆のコーティング材料の紫外線硬化樹脂にはウレタンアクリレート樹脂を主体とするものを用い、2次被覆の樹脂被覆装置には従来技術の一層のみのコーティングを行うものを用いた。
【0056】
上述の条件において1kmの光ファイバ線引を行い、製造された光ファイバ素線の10箇所の断面のファイバ径と、第2クラッド径と保護被覆径を計測した結果を表3に示す。
表3からわかるように、ファイバ径が125μmのファイバにおいて、光ファイバ裸線に第2クラッド1層目および2層目のコーティングを行うために複層一括被覆用ダイスを用いたコーティング方法で、第2クラッド用低屈折率紫外線硬化樹脂の加圧条件を変化させることにより、前記加圧条件を変えずに第2クラッドをコーティングした実施例1の光ファイバ素線の第2クラッド径よりも、実施例2で製造された光ファイバ素線の第2クラッド径がさらに厚くなっており、製造された光ファイバ素線ではダブルクラッドファイバとして良好に機能するために十分な第2クラッドコーティング層の厚みが確保されていることがわかる。
【0057】
【表3】

【0058】
比較例2
次に、ファイバ径を400μmとして、図6に示す従来の被覆装置を用い、コアと第1クラッドとを有する光ファイバ母材23から線引炉24により線引された光ファイバ裸線に第2クラッド層および保護被覆層をコーティングした。
本比較例では、前記光ファイバ裸線の線引速度、第2クラッド層および保護被覆のコーティング材料の硬化性樹脂、前記硬化性樹脂の温度および樹脂圧は比較例1と同様とした。また、第2クラッドコーティング用の複層一括被覆用ダイス26cの第1ダイス16および第2ダイス17のダイス径は0.53mmとした。このとき、第2クラッドコーティング用の低屈折率紫外線硬化性樹脂のせん断速度は4.40×10(1/s)となり、樹脂粘度は0.146Pa・sとなった。さらに、保護被覆用の樹脂被覆装置27aのダイス径は0.60mmとした。このときの保護被覆用紫外線硬化樹脂のせん断速度は4.09×10(1/s)となり、樹脂粘度は3.0Pa・sとなった。
【0059】
上述の条件において1kmの光ファイバ線引を行い、製造された光ファイバ素線の10箇所の断面のファイバ径と、第2クラッド径と保護被覆径を計測した結果を表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
実施例3
図4に示す光ファイバ素線製造装置を用い、コアと第1クラッドとを有する光ファイバ母材23から線引炉24により線引されたファイバ径400μmの光ファイバ裸線に第2クラッド層および保護被覆層をコーティングした。
本比較例においても光ファイバ裸線の線引速度、第2クラッドおよび保護被覆のコーティング材料の硬化性樹脂の種類、硬化性樹脂の温度および樹脂圧は実施例1と同様とした。また、前記複層一括被覆用ダイスの1層目の第1ダイスおよび第2ダイスのダイス径は、それぞれ0.53mm、0.58mmとした。このとき、低屈折率紫外線硬化性樹脂の1層目および2層目のコーティングにおけるせん断速度は、それぞれ4.40×10(1/s)、4.34×10(1/s)となり、低屈折率紫外線硬化性樹脂の第2クラッド1層目および2層目の樹脂粘度は、それぞれ0.146Pa・s、0.150Pa・sとなった。さらに、保護被覆用の樹脂被覆装置27aのダイス径は比較例2と同様に0.60mmとした。このときの保護被覆用硬化樹脂のせん断速度は4.67×10(1/s)となり、樹脂粘度は3.0Pa・sであった。
【0062】
上述の条件において1kmの光ファイバ線引を行い、製造された光ファイバ素線の10箇所の断面のファイバ径と、第2クラッド径と保護被覆径を計測した結果を表5に示す。
表5からわかるように、ファイバ径が400μmのファイバにおいて、1層目および2層目の第2クラッドのコーティングに複層一括被覆用ダイスを用いたコーティング方法により、従来技術の光ファイバ素線製造方法で硬化性樹脂のコーティングを行うよりも第2クラッド径が厚くなっており、製造された光ファイバ素線ではダブルクラッドファイバとして使用されるために十分な第2クラッド層の厚みが得られていることがわかる。
【0063】
【表5】

【0064】
実施例4
図4に示す被覆装置を用い、樹脂の加圧条件を変化させてコアと第1クラッドとを有する光ファイバ母材23から線引炉24により線引されたファイバ径400μmの光ファイバ裸線に第2クラッド層および保護被覆層をコーティングした。
本実施例においては実施例3と同じ光ファイバ裸線のファイバ径および線引速度とし、実施例3と同じ第2クラッドおよび保護被覆のコーティング材料の硬化性樹脂を用いた。また、第2クラッド1層目および2層目のコーティングには複層一括被覆用ダイスを使用し、2層分の低屈折率紫外線硬化性樹脂を前記光ファイバ裸線にコーティングし、複層一括被覆用ダイスの第1ダイスおよび第2ダイスのダイス径、および樹脂温度は、実施例1と同様とした。
低屈折率紫外線硬化性樹脂の樹脂圧は第2クラッド1層目および2層目で、それぞれ0.03MPa、0.06MPaとした。その結果、低屈折率紫外線硬化性樹脂のせん断速度は、第2クラッド1層目が4.40×10(1/s)、第2クラッド2層目が4.30×10(1/s)となり、樹脂粘度は第2クラッド1層目が0.146(Pa・s)、第2クラッド2層目が0.152(Pa・s)となった。
【0065】
上述の条件において1kmの光ファイバ線引を行い、製造された光ファイバ素線の10箇所の断面のファイバ径と、第2クラッド径と保護被覆径を計測した結果を表6に示す。
表6からわかるように、ファイバ径が400μmのファイバにおいて、1層目および2層目の第2クラッドのコーティングを行うために複層一括被覆用ダイスを用いたコーティング方法で、第2クラッド用低屈折率紫外線硬化樹脂のコーティング時の加圧条件を変化させることにより、加圧条件を変えずに第2クラッドを前記光ファイバ裸線にコーティングした実施例2の光ファイバ素線の第2クラッド径よりも、実施例4で製造された光ファイバ素線の第2クラッド径はさらに厚くなっており、ダブルクラッドファイバとして良好に機能するために十分な第2クラッドコーティング層の厚みが確保されていることがわかる。
【0066】
【表6】

【0067】
なお、上述の実施例および比較例においてはコアと第1クラッドとを有する光ファイバ裸線を用いたが、本発明における光ファイバ裸線は必ずしもコアと第1クラッドとを有していなくともよい。さらには、コアと複数のクラッド有していてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…ダブルクラッドファイバ、2…コア、3…第1クラッド、4…第2クラッド、5…保護被覆硬化性樹脂層、14…ホルダー、15…ニップル、16…第1ダイス、17…第2ダイス、18…上部押さえプレート、19…下部支えプレート、20…弾性体、23…光ファイバ母材、24…線引炉、25,30,32,34,36…光ファイバ、26a,26b…樹脂被覆装置、26c…複層一括被覆用ダイス、28a、28b…樹脂硬化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ母材から線引された光ファイバ裸線に、前記光ファイバ裸線の外周部より低い屈折率を有するクラッド用の未硬化の硬化性樹脂によりクラッド1層目のコーティングを行い、続いてそのクラッド1層目コーティング層が未硬化の状態で、そのクラッド1層目コーティング層の表面に前記硬化性樹脂と同一の未硬化の樹脂によりクラッド2層目のコーティングを行い、その後、クラッド1層目コーティング層および2層目コーティング層の硬化性樹脂層を同時に硬化させることによりクラッドを形成することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバ素線の製造方法において、
前記クラッド1層目のコーティングを行うための第1ダイスと、前記クラッドの2層目のコーティングを行うための第2ダイスとが隣り合って配列され、かつ第1ダイスの出口が第2ダイスの入口部分に開口している複層一括被覆用ダイスを用いて、クラッド各層のコーティングを行うことを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項3】
請求項1および請求項2に記載の光ファイバ素線の製造方法において、
前記硬化性樹脂の1層目のコーティングと2層目のコーティングとが加圧下で行われることを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかの請求項に記載の光ファイバ素線の製造方法において、
前記硬化性樹脂の1層目のコーティングにおける樹脂圧よりも2層目のコーティングにおける樹脂圧を高くすることを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかの請求項に記載の光ファイバ素線の製造方法において、
前記硬化性樹脂として紫外線硬化樹脂を用いることを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかの請求項に記載の光ファイバ素線の製造方法において、
前記硬化性樹脂としてフッ素添加アクリル系樹脂を用いることを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかの請求項に記載の光ファイバ素線の製造方法において、
中心部のコアと前記コアの外周にコアよりも屈折率の低い第1クラッドとを有する前記光ファイバ裸線に、前記第1クラッドより低い屈折率を有する硬化性樹脂により前記クラッド1層目コーティング層および2層目コーティング層を形成することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項8】
請求項7の請求項に記載の光ファイバ素線の製造方法において、
前記第1クラッド内において、コアよりも屈折率の低いクラッド層を複数有する前記光ファイバ裸線に、前記第1クラッドの最外層より低い屈折率を有する硬化性樹脂により前記クラッド1層目コーティング層および2層目コーティング層を形成することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−254911(P2012−254911A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130430(P2011−130430)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】