光ファイバ
【課題】焼損の危険性を低減することができる光ファイバを提供する。
【解決手段】光ファイバ1は、コア11およびクラッド12を有するガラスファイバ10と、ガラスファイバ10の外周面に設けられクラッド12の屈折率より低い屈折率を有する透明樹脂からなる第1被覆層13と、第1被覆層13の外周面に設けられ不透明樹脂からなる第2被覆層14と、を備える。長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層13および第2被覆層14が除去されて、ガラスファイバ10の滑らかな外周面が露出している。第2範囲W2において、第2被覆層14が除去されて、第1被覆層13がガラスファイバ10を覆っている。第3範囲W3において、第1被覆層13および第2被覆層14がガラスファイバ10を覆っている。第2範囲に含まれる第4範囲W4において、光を散乱させる散乱部13Aが第1被覆層13に設けられている。
【解決手段】光ファイバ1は、コア11およびクラッド12を有するガラスファイバ10と、ガラスファイバ10の外周面に設けられクラッド12の屈折率より低い屈折率を有する透明樹脂からなる第1被覆層13と、第1被覆層13の外周面に設けられ不透明樹脂からなる第2被覆層14と、を備える。長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層13および第2被覆層14が除去されて、ガラスファイバ10の滑らかな外周面が露出している。第2範囲W2において、第2被覆層14が除去されて、第1被覆層13がガラスファイバ10を覆っている。第3範囲W3において、第1被覆層13および第2被覆層14がガラスファイバ10を覆っている。第2範囲に含まれる第4範囲W4において、光を散乱させる散乱部13Aが第1被覆層13に設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイパワーのレーザ光を導波する際に好適に用いられ得る光ファイバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、光通信システムにおいて信号光を伝送する通信用途に用いられるだけでなく、光源から出力された光を加工対象物へ導光して該加工対象物を加工(治療を含む。)する加工用途にも用いられる。特に、加工用途の場合には、加工対象物を加工する為にハイパワーのレーザ光を光ファイバにより導光する必要がある。
【0003】
ところで、一般に光ファイバは、コアおよびクラッドを有するガラスファイバと、このガラスファイバの外周面を覆う樹脂からなる被覆層と、を含んで構成される。このような光ファイバの端面に光を集光して入射させると、入射した光の一部はコアに閉じ込められて導波するが、他の一部は被覆層に達する。ハイパワー光が被覆層に達すると、その被覆層が光を吸収して焼損する場合がある。
【0004】
特に、LD(レーザダイオード)アレイが積層されてなるLDスタックを光源として用い、このLDスタックから出力されるレーザ光を集光して光ファイバの端面に入射させる場合に、上記の焼損の問題が大きい。すなわち、LDスタックにおいて2次元配列された複数のLDそれぞれからレーザ光が大きな発散角で出射されるので、これらのレーザ光をレンズにより光ファイバ端面に集光したときに、集光パターンが大きく、且つ、端面入射のNAが大きい。このことから、光ファイバ端面に入射した光のうち、コアに閉じ込められること無く被覆層に達して吸収される光の割合が大きい。
【0005】
そこで、このような問題を解決することを意図した発明が特許文献1,2に開示されている。
【0006】
図12は、特許文献1に開示された第1従来例の光ファイバ8の断面図である。この光ファイバ8は、ガラスからなるコア81と、このコア81の外周面に設けられた透明樹脂からなるクラッド82と、このクラッド82の外周面に設けられ樹脂からなる被覆層83と、を備える。そして、光ファイバ8の一端から始まる長手方向の所定範囲において、クラッド82および被覆層83が除去されて、コア81の外周面が露出しており、そのコア81の露出した外周面が散乱面とされている。
【0007】
このような光ファイバ8の一端の端面に大きい入射角で入射した光Aは、コア81の露出した外周面に達して外部へ散乱される。一方、光ファイバ8の一端の端面に小さい入射角で入射した光Bは、コア81の露出した外周面に達することなく、コア81とクラッド82との界面に達して全反射され、コア81内に閉じ込められて導波される。
【0008】
図13は、特許文献2に開示された第2従来例の光ファイバ9の断面図である。この光ファイバ9は、コア91およびクラッド92を有するガラスファイバ90と、このガラスファイバ90の外周面に設けられ樹脂からなる被覆層93と、を供える。そして、光ファイバ9の一端から始まる長手方向の所定範囲において、被覆層93が除去されて、ガラスファイバ90の外周面が露出しており、その露出したガラスファイバ90の周囲に円環状の散乱部材95が設けられている。散乱部材95は、クラッド92の屈折率より大きい屈折率を有する材料からなる。
【0009】
このような光ファイバ9の一端の端面に大きい入射角で入射した光Aは、クラッド92から散乱部材95に達して該散乱部材95により外部へ散乱される。一方、光ファイバ9の一端の端面に小さい入射角で入射した光Bは、散乱部材95に達することなく、コア91とクラッド92との界面に達して全反射され、コア91内に閉じ込められて導波される。
【0010】
このように、これらの特許文献1,2に開示された光ファイバでは、被覆層が不透明であって光を吸収する材料であっても、被覆層へ光が達することを防止することを意図している。
【特許文献1】特開昭58−037602号公報
【特許文献2】特開2003−107294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1,2に開示されたような光ファイバの構成としても、LDスタックから出力されるハイパワーのレーザ光を集光して光ファイバの端面に入射さて該光ファイバに導波させようとすると、その光ファイバは焼損してしまう危険が依然としてある。また、特許文献1に開示された光ファイバ構成では、光源から出力されたレーザ光を光ファイバ端面に入射させる際の光結合効率がよくない。
【0012】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、更にハイパワーのレーザ光を導波させようとした場合にも焼損の危険性を低減することができ、且つ、端面入射の際の光結合効率の低減を抑制することができる光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る光ファイバは、コアおよびクラッドを有するガラスファイバと、ガラスファイバの外周面に設けられクラッドの屈折率より低い屈折率を有する透明樹脂からなる第1被覆層と、第1被覆層の外周面に設けられ不透明樹脂からなる第2被覆層と、を備えることを特徴とする。さらに、本発明に係る光ファイバは、ガラスファイバの一端から始まる長手方向の第1範囲において、第1被覆層および第2被覆層が除去されて、ガラスファイバの滑らかな外周面が露出しており、第1範囲に続く第2範囲において、第2被覆層が除去されて、第1被覆層がガラスファイバを覆っており、第2範囲に続く第3範囲において、第1被覆層および第2被覆層がガラスファイバを覆っており、第2範囲に含まれる第4範囲において、光を散乱させる散乱部が第1被覆層に設けられていることを特徴とする。
【0014】
この光ファイバの一端に入射する光のうち入射角が所定角以上の光は、ガラスファイバから第1樹脂層に進み、第4範囲において第1樹脂層に設けられた散乱部に達して、この散乱部において散乱される。したがって、ガラスファイバから第1樹脂層に進む光のパワーが低減され、第2樹脂層における光のパワーも低減される。これにより、この光ファイバでは、ハイパワーのレーザ光を導波させようとした場合にも、焼損の危険性を低減することができる。また、この光ファイバでは、ガラスファイバとして従来と同様のものを用いることができるので、端面入射の際の光結合効率の低減を抑制することができる。
【0015】
本発明に係る光ファイバでは、第3範囲と第4範囲とが互いに離間しているのが好適である。この場合には、第1樹脂層に設けられた散乱部により散乱された後に第2樹脂層に入射する光のパワーが低減されるので、第2樹脂層の焼損の可能性は更に低減される。
【0016】
本発明に係る光ファイバでは、第3範囲と第4範囲との間において第1被覆層の周囲に設けられ、第4範囲において外部空間に漏れた光を第3範囲の側へ進むのを遮蔽する光遮蔽板を更に備えるのが好適である。この場合には、光遮蔽板が設けられていることにより、第1樹脂層に設けられた散乱部により散乱された光が第2樹脂層に入射することが防止されるので、第2樹脂層の焼損の可能性は更に低減される。
【0017】
本発明に係る光ファイバでは、第4範囲における散乱部は、第1被覆層の外周面が散乱部材で覆われてなるのが好適である。また、第4範囲における散乱部は、第1被覆層の外周面に溝が形成されてなるのが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光ファイバは、更にハイパワーのレーザ光を導波させようとした場合にも焼損の危険性を低減することができ、また、端面入射の際の光結合効率の低減を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る光ファイバ1の斜視図である。図2は、本実施形態に係る光ファイバ1の断面図である。この光ファイバ1は、コア11およびクラッド12を有するガラスファイバ10と、このガラスファイバ10の外周面に設けられた第1被覆層13と、この第1被覆層13の外周面に設けられた第2被覆層14と、を備える。ガラスファイバ10は石英ガラスを主成分とするものであり、コア11またはクラッド12に不純物が添加されて、コア11の屈折率よりクラッド12の屈折率が低い。第1被覆層13は、クラッド12の屈折率より低い屈折率を有する透明樹脂からなり、例えばシリコーン樹脂からなる。第2被覆層14は、不透明樹脂からなり、例えばポリアミド樹脂からなる。
【0021】
この光ファイバ1において、ガラスファイバ10の一端から長手方向に順に第1範囲W1,第2範囲W2および第3範囲W3に区分される。ガラスファイバ10の一端から始まる長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層13および第2被覆層14が除去されて、ガラスファイバ10の滑らかな外周面が露出している。なお、ガラスファイバ10の滑らかな外周は、プリフォームの一端を加熱溶融して線引して得られた状態のままが好ましいが、特別な処理(研磨やエッチング等の表面処理)を施すことで形成しても良い。第1範囲W1に続く第2範囲W2において、第2被覆層14が除去されて、第1被覆層13がガラスファイバ10を覆っている。また、第2範囲W2に続く第3範囲W3において、第1被覆層13および第2被覆層14がガラスファイバ10を覆っている。
【0022】
第2範囲W2に含まれる第4範囲W4において、光を散乱させる散乱部13Aが第1被覆層13に設けられている。この散乱部13Aは、例えば第1被覆層13の外周面の粗度を大きくすることで実現され得る。第3範囲W3と第4範囲W4とは、互いに隣接していてもよいが、互いに離間しているのが好適である。
【0023】
このように構成される光ファイバ1の一端に光が入射すると、入射角が小さければ、その入射した光は、コア11とクラッド12との界面で全反射されて、コア11に閉じ込められて導波される。入射角が大きくなると、その入射した光は、クラッド12と透明な第1樹脂層13との界面で全反射されて、コア11およびクラッド12に閉じ込められて導波される。更に入射角が大きくなって所定角以上になると、その入射した光は、ガラスファイバ10から第1樹脂層13に進み、第4範囲W4において第1樹脂層13に設けられた散乱部13Aに達して、この散乱部13Aにおいて散乱される。
【0024】
したがって、ガラスファイバ10から第1樹脂層13に進む光のパワーが低減され、第2樹脂層14における光のパワーも低減される。これにより、この光ファイバ1では、ハイパワーのレーザ光を導波させようとした場合にも、焼損の危険性を低減することができる。また、この光ファイバ1では、ガラスファイバ10として従来と同様のものを用いることができるので、端面入射の際の光結合効率の低減を抑制することができる。
【0025】
なお、第3範囲W3と第4範囲W4とが互いに隣接している場合には、第4範囲W4において第1樹脂層13に設けられた散乱部13Aにより散乱された光の一部は、すぐ隣の第3範囲W3における第2樹脂層14に入射して吸収されるので、光パワーによっては第2樹脂層14が焼損する可能性がある。これに対して、第3範囲W3と第4範囲W4とが互いに離間している場合には、第1樹脂層13に設けられた散乱部13Aにより散乱された後に第2樹脂層14に入射する光のパワーが低減されるので、第2樹脂層14の焼損の可能性は更に低減される。
【0026】
図3は、本実施形態に係る光ファイバ1およびコネクタの断面図である。コネクタは、固定ブラケット16、フェルール17、保持スリーブ18および保護管19を備える。光ファイバ1は、第2樹脂層14が設けられた第3範囲W3において、保持スリーブ18の内部に挿通された状態で保持スリーブ18により保持され、また、保持管19の内部に挿通された状態で保持管19により保持されており、この状態で保持スリーブ18および保護管19とともにフェルール17の内部に収められている。このとき、光ファイバ1の第1範囲W1のガラスファイバ10の先端部は、フェルール17の一端に設けられた開口に挿通されている。フェルール17の側壁にネジ孔が設けられており、これにより、保持スリーブ18および保護管19それぞれはフェルール17に対して位置固定される。また、フェルール17は、固定ブラケット16に対して位置固定される。
【0027】
次に、本実施形態に係る光ファイバ1の作用・効果について、図4に示される比較例の光ファイバ7の作用・効果と対比しつつ、図5〜図8を用いて説明する。
【0028】
図4は、比較例の光ファイバ7の断面図である。図5は、比較例の光ファイバ7における光パワー分布を示す図である。図6は、本実施形態に係る光ファイバ1における光パワー分布を示す図である。図5および図6それぞれの横軸は、光ファイバ中における光軸に対する光の伝搬角度を表している。
【0029】
図4に示される比較例の光ファイバ7は、石英ガラスを主成分とするコア71およびクラッド72を有するガラスファイバ70と、このガラスファイバ70の外周面に設けられた第1被覆層73と、この第1被覆層73の外周面に設けられた第2被覆層74と、を備える。第1被覆層73はクラッド72の屈折率より低い屈折率を有する透明樹脂からなる。第2被覆層74は不透明樹脂からなる。ガラスファイバ70の一端から始まる長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層73および第2被覆層74が除去されて、ガラスファイバ70の外周面が露出している。第1範囲W1に続く第2範囲W2において、第2被覆層74が除去されて、第1被覆層73がガラスファイバ70を覆っている。また、第2範囲W2に続く第3範囲W3において、第1被覆層73および第2被覆層74がガラスファイバ70を覆っている。比較例の光ファイバ7では、第2範囲W2における第1樹脂層73に散乱部が設けられているのでは無く、第1範囲W1におけるクラッド12の外周面に散乱部72Aが設けられている。
【0030】
このような比較例の光ファイバ7を光が導波する場合、散乱部72Aに達する前の光の光パワー分布が図5中の実線で示されるのに対して、散乱部72Aを経た後の光の光パワー分布は図5中の破線で示される。この図に示されるように、比較例の光ファイバ7では、散乱部72Aにおける光散乱作用により、クラッド72における光パワーが減少するものの、第1樹脂73における光パワーが却って増加する。このことから、不透明樹脂からなる第2樹脂層74の焼損の問題の解消にはならない。
【0031】
これに対して、本実施形態に係る光ファイバ1を光が導波する場合、散乱部13Aに達する前の光の光パワー分布が図6中の実線で示されるのに対して、散乱部13Aを経た後の光の光パワー分布は図6中の破線で示される。この図に示されるように、本実施形態に係る光ファイバ1では、散乱部13Aにおける光散乱作用により、第1樹脂13における光パワーのみが減少するので、このことから、光導波効率を低下させることなく、不透明樹脂からなる第2樹脂層14の焼損の問題が解消される。
【0032】
図7および図8は、第1範囲におけるクラッドおよび第2範囲における第1樹脂層それぞれの外周面を滑面および散乱面の何れかとした場合において、光ファイバの他端から出射される光のパワーおよび第2樹脂層の焼損の有無について纏めた図表である。ここでは、LDスタックから出力された光をNA0.25の非球面レンズを介してコア径0.8mmの光ファイバの一端に入射させた。図7は入射光パワーが約380Wである場合を示し、図8は入射光パワーが約480Wである場合を示す。なお、第1範囲におけるクラッドおよび第2範囲における第1樹脂層の何れも滑面にした場合の光ファイバの出射光パワーを100%とした。
【0033】
これらの図表から判るように、第1範囲におけるクラッドの外周面を滑面とし、第2範囲における第1樹脂層の外周面を散乱面とする場合のみ、第2樹脂層は焼損することが無かった。しかも、この場合の光ファイバの出射光パワーの低減は、第1範囲におけるクラッドの外周面を散乱面とした場合より小さかった。この結果は、図5および図6で説明した作用・効果を裏付けるものであると言える。
【0034】
次に、本発明に係る光ファイバの他の実施形態について、図9〜図11を用いて説明する。
【0035】
図9は、他の実施形態に係る光ファイバ2の断面図である。この光ファイバ2は、コア21およびクラッド22を有するガラスファイバ20と、このガラスファイバ20の外周面に設けられた第1被覆層23と、この第1被覆層23の外周面に設けられた第2被覆層24と、光を遮蔽する光遮蔽板25と、を備える。この第2実施形態におけるコア21およびクラッド22を有するガラスファイバ20、第1樹脂層23ならびに第2樹脂層24は、第1実施形態における同一名称の要素と同様のものである。
【0036】
この光ファイバ2において、ガラスファイバ20の一端から長手方向に順に第1範囲W1,第2範囲W2および第3範囲W3に区分される。ガラスファイバ20の一端から始まる長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層23および第2被覆層24が除去されて、ガラスファイバ20の滑らかな外周面が露出している。第1範囲W1に続く第2範囲W2において、第2被覆層24が除去されて、第1被覆層23がガラスファイバ20を覆っている。また、第2範囲W2に続く第3範囲W3において、第1被覆層23および第2被覆層24がガラスファイバ20を覆っている。第2範囲W2に含まれる第4範囲W4において、光を散乱させる散乱部23Aが第1被覆層23に設けられている。第3範囲W3と第4範囲W4とは、互いに隣接していてもよいが、互いに離間しているのが好適である。
【0037】
更に、この第2実施形態では、第3範囲W3と第4範囲W4との間において第1被覆層23の周囲に光遮蔽板25が設けられている。この光遮蔽板25は、第4範囲W4において外部空間に漏れた光を第3範囲W3の側へ進むのを遮蔽する。このような光遮蔽板25が設けられていることにより、第1樹脂層23に設けられた散乱部23Aにより散乱された光が第2樹脂層24に入射することが防止されるので、第2樹脂層24の焼損の可能性は更に低減される。
【0038】
図10は、他の実施形態に係る光ファイバ3の断面図である。この光ファイバ3は、コア31およびクラッド32を有するガラスファイバ30と、このガラスファイバ30の外周面に設けられた第1被覆層33と、この第1被覆層33の外周面に設けられた第2被覆層34と、光を散乱させる散乱部材35と、を備える。この第3実施形態におけるコア31およびクラッド32を有するガラスファイバ30、第1樹脂層33ならびに第2樹脂層34は、第1実施形態における同一名称の要素と同様のものである。
【0039】
この光ファイバ3において、ガラスファイバ30の一端から長手方向に順に第1範囲W1,第2範囲W2および第3範囲W3に区分される。ガラスファイバ30の一端から始まる長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層33および第2被覆層34が除去されて、ガラスファイバ30の滑らかな外周面が露出している。第1範囲W1に続く第2範囲W2において、第2被覆層34が除去されて、第1被覆層33がガラスファイバ30を覆っている。また、第2範囲W2に続く第3範囲W3において、第1被覆層33および第2被覆層34がガラスファイバ30を覆っている。
【0040】
この第3実施形態では、第2範囲W2に含まれる第4範囲W4において光を散乱させる散乱部は、第1被覆層33の外周面が散乱部材35で覆われてなる。散乱部を形成する散乱部材35は、例えば耐熱性のテープであり、好適には白色テープである。第3範囲W3と第4範囲W4とは、互いに隣接していてもよいが、互いに離間しているのが好適である。この第3実施形態に係る光ファイバ3も、第1実施形態に係る光ファイバ1と同様に作用し同様の効果を奏することができる。
【0041】
図11は、他の実施形態に係る光ファイバ4の断面図である。この光ファイバ4は、コア41およびクラッド42を有するガラスファイバ40と、このガラスファイバ40の外周面に設けられた第1被覆層43と、この第1被覆層43の外周面に設けられた第2被覆層44と、を備える。この第4実施形態におけるコア41およびクラッド42を有するガラスファイバ40、第1樹脂層43ならびに第2樹脂層44は、第1実施形態における同一名称の要素と同様のものである。
【0042】
この光ファイバ4において、ガラスファイバ40の一端から長手方向に順に第1範囲W1,第2範囲W2および第3範囲W3に区分される。ガラスファイバ40の一端から始まる長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層43および第2被覆層44が除去されて、ガラスファイバ40の滑らかな外周面が露出している。第1範囲W1に続く第2範囲W2において、第2被覆層44が除去されて、第1被覆層43がガラスファイバ40を覆っている。また、第2範囲W2に続く第3範囲W3において、第1被覆層43および第2被覆層44がガラスファイバ40を覆っている。
【0043】
この第4実施形態では、第2範囲W2に含まれる第4範囲W4において光を散乱させる散乱部43Aは、第1被覆層43の外周面に溝が形成されてなる。この散乱部43Aとしての溝は、第1被覆層43の外周面に周方向に形成されているのが好適であり、また、長手方向に複数のものが並設されているのが好適である。また、この散乱部43Aとしての溝の底部は、クラッド42の外周面まで達していてもよい。第3範囲W3と第4範囲W4とは、互いに隣接していてもよいが、互いに離間しているのが好適である。この第4実施形態に係る光ファイバ4も、第1実施形態に係る光ファイバ1と同様に作用し同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態に係る光ファイバ1の斜視図である。
【図2】本実施形態に係る光ファイバ1の断面図である。
【図3】本実施形態に係る光ファイバ1およびコネクタの断面図である。
【図4】比較例の光ファイバ7の断面図である。
【図5】比較例の光ファイバ7における光パワー分布を示す図である。
【図6】本実施形態に係る光ファイバ1における光パワー分布を示す図である。
【図7】第1範囲におけるクラッドおよび第2範囲における第1樹脂層それぞれの外周面を滑面および散乱面の何れかとした場合において、光ファイバの他端から出射される光のパワーおよび第2樹脂層の焼損の有無について纏めた図表である。
【図8】第1範囲におけるクラッドおよび第2範囲における第1樹脂層それぞれの外周面を滑面および散乱面の何れかとした場合において、光ファイバの他端から出射される光のパワーおよび第2樹脂層の焼損の有無について纏めた図表である。
【図9】他の実施形態に係る光ファイバ2の断面図である。
【図10】他の実施形態に係る光ファイバ3の断面図である。
【図11】他の実施形態に係る光ファイバ4の断面図である。
【図12】第1従来例の光ファイバ8の断面図である。
【図13】第2従来例の光ファイバ9の断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1〜4…光ファイバ、10…ガラスファイバ、11…コア、12…クラッド、13…第1被覆層、14…第2被覆層、20…ガラスファイバ、21…コア、22…クラッド、23…第1被覆層、24…第2被覆層、25…光遮蔽板、30…ガラスファイバ、31…コア、32…クラッド、33…第1被覆層、34…第2被覆層、35…散乱部材、40…ガラスファイバ、41…コア、42…クラッド、43…第1被覆層、44…第2被覆層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイパワーのレーザ光を導波する際に好適に用いられ得る光ファイバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、光通信システムにおいて信号光を伝送する通信用途に用いられるだけでなく、光源から出力された光を加工対象物へ導光して該加工対象物を加工(治療を含む。)する加工用途にも用いられる。特に、加工用途の場合には、加工対象物を加工する為にハイパワーのレーザ光を光ファイバにより導光する必要がある。
【0003】
ところで、一般に光ファイバは、コアおよびクラッドを有するガラスファイバと、このガラスファイバの外周面を覆う樹脂からなる被覆層と、を含んで構成される。このような光ファイバの端面に光を集光して入射させると、入射した光の一部はコアに閉じ込められて導波するが、他の一部は被覆層に達する。ハイパワー光が被覆層に達すると、その被覆層が光を吸収して焼損する場合がある。
【0004】
特に、LD(レーザダイオード)アレイが積層されてなるLDスタックを光源として用い、このLDスタックから出力されるレーザ光を集光して光ファイバの端面に入射させる場合に、上記の焼損の問題が大きい。すなわち、LDスタックにおいて2次元配列された複数のLDそれぞれからレーザ光が大きな発散角で出射されるので、これらのレーザ光をレンズにより光ファイバ端面に集光したときに、集光パターンが大きく、且つ、端面入射のNAが大きい。このことから、光ファイバ端面に入射した光のうち、コアに閉じ込められること無く被覆層に達して吸収される光の割合が大きい。
【0005】
そこで、このような問題を解決することを意図した発明が特許文献1,2に開示されている。
【0006】
図12は、特許文献1に開示された第1従来例の光ファイバ8の断面図である。この光ファイバ8は、ガラスからなるコア81と、このコア81の外周面に設けられた透明樹脂からなるクラッド82と、このクラッド82の外周面に設けられ樹脂からなる被覆層83と、を備える。そして、光ファイバ8の一端から始まる長手方向の所定範囲において、クラッド82および被覆層83が除去されて、コア81の外周面が露出しており、そのコア81の露出した外周面が散乱面とされている。
【0007】
このような光ファイバ8の一端の端面に大きい入射角で入射した光Aは、コア81の露出した外周面に達して外部へ散乱される。一方、光ファイバ8の一端の端面に小さい入射角で入射した光Bは、コア81の露出した外周面に達することなく、コア81とクラッド82との界面に達して全反射され、コア81内に閉じ込められて導波される。
【0008】
図13は、特許文献2に開示された第2従来例の光ファイバ9の断面図である。この光ファイバ9は、コア91およびクラッド92を有するガラスファイバ90と、このガラスファイバ90の外周面に設けられ樹脂からなる被覆層93と、を供える。そして、光ファイバ9の一端から始まる長手方向の所定範囲において、被覆層93が除去されて、ガラスファイバ90の外周面が露出しており、その露出したガラスファイバ90の周囲に円環状の散乱部材95が設けられている。散乱部材95は、クラッド92の屈折率より大きい屈折率を有する材料からなる。
【0009】
このような光ファイバ9の一端の端面に大きい入射角で入射した光Aは、クラッド92から散乱部材95に達して該散乱部材95により外部へ散乱される。一方、光ファイバ9の一端の端面に小さい入射角で入射した光Bは、散乱部材95に達することなく、コア91とクラッド92との界面に達して全反射され、コア91内に閉じ込められて導波される。
【0010】
このように、これらの特許文献1,2に開示された光ファイバでは、被覆層が不透明であって光を吸収する材料であっても、被覆層へ光が達することを防止することを意図している。
【特許文献1】特開昭58−037602号公報
【特許文献2】特開2003−107294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1,2に開示されたような光ファイバの構成としても、LDスタックから出力されるハイパワーのレーザ光を集光して光ファイバの端面に入射さて該光ファイバに導波させようとすると、その光ファイバは焼損してしまう危険が依然としてある。また、特許文献1に開示された光ファイバ構成では、光源から出力されたレーザ光を光ファイバ端面に入射させる際の光結合効率がよくない。
【0012】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、更にハイパワーのレーザ光を導波させようとした場合にも焼損の危険性を低減することができ、且つ、端面入射の際の光結合効率の低減を抑制することができる光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る光ファイバは、コアおよびクラッドを有するガラスファイバと、ガラスファイバの外周面に設けられクラッドの屈折率より低い屈折率を有する透明樹脂からなる第1被覆層と、第1被覆層の外周面に設けられ不透明樹脂からなる第2被覆層と、を備えることを特徴とする。さらに、本発明に係る光ファイバは、ガラスファイバの一端から始まる長手方向の第1範囲において、第1被覆層および第2被覆層が除去されて、ガラスファイバの滑らかな外周面が露出しており、第1範囲に続く第2範囲において、第2被覆層が除去されて、第1被覆層がガラスファイバを覆っており、第2範囲に続く第3範囲において、第1被覆層および第2被覆層がガラスファイバを覆っており、第2範囲に含まれる第4範囲において、光を散乱させる散乱部が第1被覆層に設けられていることを特徴とする。
【0014】
この光ファイバの一端に入射する光のうち入射角が所定角以上の光は、ガラスファイバから第1樹脂層に進み、第4範囲において第1樹脂層に設けられた散乱部に達して、この散乱部において散乱される。したがって、ガラスファイバから第1樹脂層に進む光のパワーが低減され、第2樹脂層における光のパワーも低減される。これにより、この光ファイバでは、ハイパワーのレーザ光を導波させようとした場合にも、焼損の危険性を低減することができる。また、この光ファイバでは、ガラスファイバとして従来と同様のものを用いることができるので、端面入射の際の光結合効率の低減を抑制することができる。
【0015】
本発明に係る光ファイバでは、第3範囲と第4範囲とが互いに離間しているのが好適である。この場合には、第1樹脂層に設けられた散乱部により散乱された後に第2樹脂層に入射する光のパワーが低減されるので、第2樹脂層の焼損の可能性は更に低減される。
【0016】
本発明に係る光ファイバでは、第3範囲と第4範囲との間において第1被覆層の周囲に設けられ、第4範囲において外部空間に漏れた光を第3範囲の側へ進むのを遮蔽する光遮蔽板を更に備えるのが好適である。この場合には、光遮蔽板が設けられていることにより、第1樹脂層に設けられた散乱部により散乱された光が第2樹脂層に入射することが防止されるので、第2樹脂層の焼損の可能性は更に低減される。
【0017】
本発明に係る光ファイバでは、第4範囲における散乱部は、第1被覆層の外周面が散乱部材で覆われてなるのが好適である。また、第4範囲における散乱部は、第1被覆層の外周面に溝が形成されてなるのが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光ファイバは、更にハイパワーのレーザ光を導波させようとした場合にも焼損の危険性を低減することができ、また、端面入射の際の光結合効率の低減を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る光ファイバ1の斜視図である。図2は、本実施形態に係る光ファイバ1の断面図である。この光ファイバ1は、コア11およびクラッド12を有するガラスファイバ10と、このガラスファイバ10の外周面に設けられた第1被覆層13と、この第1被覆層13の外周面に設けられた第2被覆層14と、を備える。ガラスファイバ10は石英ガラスを主成分とするものであり、コア11またはクラッド12に不純物が添加されて、コア11の屈折率よりクラッド12の屈折率が低い。第1被覆層13は、クラッド12の屈折率より低い屈折率を有する透明樹脂からなり、例えばシリコーン樹脂からなる。第2被覆層14は、不透明樹脂からなり、例えばポリアミド樹脂からなる。
【0021】
この光ファイバ1において、ガラスファイバ10の一端から長手方向に順に第1範囲W1,第2範囲W2および第3範囲W3に区分される。ガラスファイバ10の一端から始まる長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層13および第2被覆層14が除去されて、ガラスファイバ10の滑らかな外周面が露出している。なお、ガラスファイバ10の滑らかな外周は、プリフォームの一端を加熱溶融して線引して得られた状態のままが好ましいが、特別な処理(研磨やエッチング等の表面処理)を施すことで形成しても良い。第1範囲W1に続く第2範囲W2において、第2被覆層14が除去されて、第1被覆層13がガラスファイバ10を覆っている。また、第2範囲W2に続く第3範囲W3において、第1被覆層13および第2被覆層14がガラスファイバ10を覆っている。
【0022】
第2範囲W2に含まれる第4範囲W4において、光を散乱させる散乱部13Aが第1被覆層13に設けられている。この散乱部13Aは、例えば第1被覆層13の外周面の粗度を大きくすることで実現され得る。第3範囲W3と第4範囲W4とは、互いに隣接していてもよいが、互いに離間しているのが好適である。
【0023】
このように構成される光ファイバ1の一端に光が入射すると、入射角が小さければ、その入射した光は、コア11とクラッド12との界面で全反射されて、コア11に閉じ込められて導波される。入射角が大きくなると、その入射した光は、クラッド12と透明な第1樹脂層13との界面で全反射されて、コア11およびクラッド12に閉じ込められて導波される。更に入射角が大きくなって所定角以上になると、その入射した光は、ガラスファイバ10から第1樹脂層13に進み、第4範囲W4において第1樹脂層13に設けられた散乱部13Aに達して、この散乱部13Aにおいて散乱される。
【0024】
したがって、ガラスファイバ10から第1樹脂層13に進む光のパワーが低減され、第2樹脂層14における光のパワーも低減される。これにより、この光ファイバ1では、ハイパワーのレーザ光を導波させようとした場合にも、焼損の危険性を低減することができる。また、この光ファイバ1では、ガラスファイバ10として従来と同様のものを用いることができるので、端面入射の際の光結合効率の低減を抑制することができる。
【0025】
なお、第3範囲W3と第4範囲W4とが互いに隣接している場合には、第4範囲W4において第1樹脂層13に設けられた散乱部13Aにより散乱された光の一部は、すぐ隣の第3範囲W3における第2樹脂層14に入射して吸収されるので、光パワーによっては第2樹脂層14が焼損する可能性がある。これに対して、第3範囲W3と第4範囲W4とが互いに離間している場合には、第1樹脂層13に設けられた散乱部13Aにより散乱された後に第2樹脂層14に入射する光のパワーが低減されるので、第2樹脂層14の焼損の可能性は更に低減される。
【0026】
図3は、本実施形態に係る光ファイバ1およびコネクタの断面図である。コネクタは、固定ブラケット16、フェルール17、保持スリーブ18および保護管19を備える。光ファイバ1は、第2樹脂層14が設けられた第3範囲W3において、保持スリーブ18の内部に挿通された状態で保持スリーブ18により保持され、また、保持管19の内部に挿通された状態で保持管19により保持されており、この状態で保持スリーブ18および保護管19とともにフェルール17の内部に収められている。このとき、光ファイバ1の第1範囲W1のガラスファイバ10の先端部は、フェルール17の一端に設けられた開口に挿通されている。フェルール17の側壁にネジ孔が設けられており、これにより、保持スリーブ18および保護管19それぞれはフェルール17に対して位置固定される。また、フェルール17は、固定ブラケット16に対して位置固定される。
【0027】
次に、本実施形態に係る光ファイバ1の作用・効果について、図4に示される比較例の光ファイバ7の作用・効果と対比しつつ、図5〜図8を用いて説明する。
【0028】
図4は、比較例の光ファイバ7の断面図である。図5は、比較例の光ファイバ7における光パワー分布を示す図である。図6は、本実施形態に係る光ファイバ1における光パワー分布を示す図である。図5および図6それぞれの横軸は、光ファイバ中における光軸に対する光の伝搬角度を表している。
【0029】
図4に示される比較例の光ファイバ7は、石英ガラスを主成分とするコア71およびクラッド72を有するガラスファイバ70と、このガラスファイバ70の外周面に設けられた第1被覆層73と、この第1被覆層73の外周面に設けられた第2被覆層74と、を備える。第1被覆層73はクラッド72の屈折率より低い屈折率を有する透明樹脂からなる。第2被覆層74は不透明樹脂からなる。ガラスファイバ70の一端から始まる長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層73および第2被覆層74が除去されて、ガラスファイバ70の外周面が露出している。第1範囲W1に続く第2範囲W2において、第2被覆層74が除去されて、第1被覆層73がガラスファイバ70を覆っている。また、第2範囲W2に続く第3範囲W3において、第1被覆層73および第2被覆層74がガラスファイバ70を覆っている。比較例の光ファイバ7では、第2範囲W2における第1樹脂層73に散乱部が設けられているのでは無く、第1範囲W1におけるクラッド12の外周面に散乱部72Aが設けられている。
【0030】
このような比較例の光ファイバ7を光が導波する場合、散乱部72Aに達する前の光の光パワー分布が図5中の実線で示されるのに対して、散乱部72Aを経た後の光の光パワー分布は図5中の破線で示される。この図に示されるように、比較例の光ファイバ7では、散乱部72Aにおける光散乱作用により、クラッド72における光パワーが減少するものの、第1樹脂73における光パワーが却って増加する。このことから、不透明樹脂からなる第2樹脂層74の焼損の問題の解消にはならない。
【0031】
これに対して、本実施形態に係る光ファイバ1を光が導波する場合、散乱部13Aに達する前の光の光パワー分布が図6中の実線で示されるのに対して、散乱部13Aを経た後の光の光パワー分布は図6中の破線で示される。この図に示されるように、本実施形態に係る光ファイバ1では、散乱部13Aにおける光散乱作用により、第1樹脂13における光パワーのみが減少するので、このことから、光導波効率を低下させることなく、不透明樹脂からなる第2樹脂層14の焼損の問題が解消される。
【0032】
図7および図8は、第1範囲におけるクラッドおよび第2範囲における第1樹脂層それぞれの外周面を滑面および散乱面の何れかとした場合において、光ファイバの他端から出射される光のパワーおよび第2樹脂層の焼損の有無について纏めた図表である。ここでは、LDスタックから出力された光をNA0.25の非球面レンズを介してコア径0.8mmの光ファイバの一端に入射させた。図7は入射光パワーが約380Wである場合を示し、図8は入射光パワーが約480Wである場合を示す。なお、第1範囲におけるクラッドおよび第2範囲における第1樹脂層の何れも滑面にした場合の光ファイバの出射光パワーを100%とした。
【0033】
これらの図表から判るように、第1範囲におけるクラッドの外周面を滑面とし、第2範囲における第1樹脂層の外周面を散乱面とする場合のみ、第2樹脂層は焼損することが無かった。しかも、この場合の光ファイバの出射光パワーの低減は、第1範囲におけるクラッドの外周面を散乱面とした場合より小さかった。この結果は、図5および図6で説明した作用・効果を裏付けるものであると言える。
【0034】
次に、本発明に係る光ファイバの他の実施形態について、図9〜図11を用いて説明する。
【0035】
図9は、他の実施形態に係る光ファイバ2の断面図である。この光ファイバ2は、コア21およびクラッド22を有するガラスファイバ20と、このガラスファイバ20の外周面に設けられた第1被覆層23と、この第1被覆層23の外周面に設けられた第2被覆層24と、光を遮蔽する光遮蔽板25と、を備える。この第2実施形態におけるコア21およびクラッド22を有するガラスファイバ20、第1樹脂層23ならびに第2樹脂層24は、第1実施形態における同一名称の要素と同様のものである。
【0036】
この光ファイバ2において、ガラスファイバ20の一端から長手方向に順に第1範囲W1,第2範囲W2および第3範囲W3に区分される。ガラスファイバ20の一端から始まる長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層23および第2被覆層24が除去されて、ガラスファイバ20の滑らかな外周面が露出している。第1範囲W1に続く第2範囲W2において、第2被覆層24が除去されて、第1被覆層23がガラスファイバ20を覆っている。また、第2範囲W2に続く第3範囲W3において、第1被覆層23および第2被覆層24がガラスファイバ20を覆っている。第2範囲W2に含まれる第4範囲W4において、光を散乱させる散乱部23Aが第1被覆層23に設けられている。第3範囲W3と第4範囲W4とは、互いに隣接していてもよいが、互いに離間しているのが好適である。
【0037】
更に、この第2実施形態では、第3範囲W3と第4範囲W4との間において第1被覆層23の周囲に光遮蔽板25が設けられている。この光遮蔽板25は、第4範囲W4において外部空間に漏れた光を第3範囲W3の側へ進むのを遮蔽する。このような光遮蔽板25が設けられていることにより、第1樹脂層23に設けられた散乱部23Aにより散乱された光が第2樹脂層24に入射することが防止されるので、第2樹脂層24の焼損の可能性は更に低減される。
【0038】
図10は、他の実施形態に係る光ファイバ3の断面図である。この光ファイバ3は、コア31およびクラッド32を有するガラスファイバ30と、このガラスファイバ30の外周面に設けられた第1被覆層33と、この第1被覆層33の外周面に設けられた第2被覆層34と、光を散乱させる散乱部材35と、を備える。この第3実施形態におけるコア31およびクラッド32を有するガラスファイバ30、第1樹脂層33ならびに第2樹脂層34は、第1実施形態における同一名称の要素と同様のものである。
【0039】
この光ファイバ3において、ガラスファイバ30の一端から長手方向に順に第1範囲W1,第2範囲W2および第3範囲W3に区分される。ガラスファイバ30の一端から始まる長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層33および第2被覆層34が除去されて、ガラスファイバ30の滑らかな外周面が露出している。第1範囲W1に続く第2範囲W2において、第2被覆層34が除去されて、第1被覆層33がガラスファイバ30を覆っている。また、第2範囲W2に続く第3範囲W3において、第1被覆層33および第2被覆層34がガラスファイバ30を覆っている。
【0040】
この第3実施形態では、第2範囲W2に含まれる第4範囲W4において光を散乱させる散乱部は、第1被覆層33の外周面が散乱部材35で覆われてなる。散乱部を形成する散乱部材35は、例えば耐熱性のテープであり、好適には白色テープである。第3範囲W3と第4範囲W4とは、互いに隣接していてもよいが、互いに離間しているのが好適である。この第3実施形態に係る光ファイバ3も、第1実施形態に係る光ファイバ1と同様に作用し同様の効果を奏することができる。
【0041】
図11は、他の実施形態に係る光ファイバ4の断面図である。この光ファイバ4は、コア41およびクラッド42を有するガラスファイバ40と、このガラスファイバ40の外周面に設けられた第1被覆層43と、この第1被覆層43の外周面に設けられた第2被覆層44と、を備える。この第4実施形態におけるコア41およびクラッド42を有するガラスファイバ40、第1樹脂層43ならびに第2樹脂層44は、第1実施形態における同一名称の要素と同様のものである。
【0042】
この光ファイバ4において、ガラスファイバ40の一端から長手方向に順に第1範囲W1,第2範囲W2および第3範囲W3に区分される。ガラスファイバ40の一端から始まる長手方向の第1範囲W1において、第1被覆層43および第2被覆層44が除去されて、ガラスファイバ40の滑らかな外周面が露出している。第1範囲W1に続く第2範囲W2において、第2被覆層44が除去されて、第1被覆層43がガラスファイバ40を覆っている。また、第2範囲W2に続く第3範囲W3において、第1被覆層43および第2被覆層44がガラスファイバ40を覆っている。
【0043】
この第4実施形態では、第2範囲W2に含まれる第4範囲W4において光を散乱させる散乱部43Aは、第1被覆層43の外周面に溝が形成されてなる。この散乱部43Aとしての溝は、第1被覆層43の外周面に周方向に形成されているのが好適であり、また、長手方向に複数のものが並設されているのが好適である。また、この散乱部43Aとしての溝の底部は、クラッド42の外周面まで達していてもよい。第3範囲W3と第4範囲W4とは、互いに隣接していてもよいが、互いに離間しているのが好適である。この第4実施形態に係る光ファイバ4も、第1実施形態に係る光ファイバ1と同様に作用し同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態に係る光ファイバ1の斜視図である。
【図2】本実施形態に係る光ファイバ1の断面図である。
【図3】本実施形態に係る光ファイバ1およびコネクタの断面図である。
【図4】比較例の光ファイバ7の断面図である。
【図5】比較例の光ファイバ7における光パワー分布を示す図である。
【図6】本実施形態に係る光ファイバ1における光パワー分布を示す図である。
【図7】第1範囲におけるクラッドおよび第2範囲における第1樹脂層それぞれの外周面を滑面および散乱面の何れかとした場合において、光ファイバの他端から出射される光のパワーおよび第2樹脂層の焼損の有無について纏めた図表である。
【図8】第1範囲におけるクラッドおよび第2範囲における第1樹脂層それぞれの外周面を滑面および散乱面の何れかとした場合において、光ファイバの他端から出射される光のパワーおよび第2樹脂層の焼損の有無について纏めた図表である。
【図9】他の実施形態に係る光ファイバ2の断面図である。
【図10】他の実施形態に係る光ファイバ3の断面図である。
【図11】他の実施形態に係る光ファイバ4の断面図である。
【図12】第1従来例の光ファイバ8の断面図である。
【図13】第2従来例の光ファイバ9の断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1〜4…光ファイバ、10…ガラスファイバ、11…コア、12…クラッド、13…第1被覆層、14…第2被覆層、20…ガラスファイバ、21…コア、22…クラッド、23…第1被覆層、24…第2被覆層、25…光遮蔽板、30…ガラスファイバ、31…コア、32…クラッド、33…第1被覆層、34…第2被覆層、35…散乱部材、40…ガラスファイバ、41…コア、42…クラッド、43…第1被覆層、44…第2被覆層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアおよびクラッドを有するガラスファイバと、前記ガラスファイバの外周面に設けられ前記クラッドの屈折率より低い屈折率を有する透明樹脂からなる第1被覆層と、前記第1被覆層の外周面に設けられ不透明樹脂からなる第2被覆層と、を備え、
前記ガラスファイバの一端から始まる長手方向の第1範囲において、前記第1被覆層および前記第2被覆層が除去されて、前記ガラスファイバの滑らかな外周面が露出しており、
前記第1範囲に続く第2範囲において、前記第2被覆層が除去されて、前記第1被覆層が前記ガラスファイバを覆っており、
前記第2範囲に続く第3範囲において、前記第1被覆層および前記第2被覆層が前記ガラスファイバを覆っており、
前記第2範囲に含まれる第4範囲において、光を散乱させる散乱部が前記第1被覆層に設けられている、
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記第3範囲と前記第4範囲とが互いに離間していることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記第3範囲と前記第4範囲との間において前記第1被覆層の周囲に設けられ、前記第4範囲において外部空間に漏れた光を前記第3範囲の側へ進むのを遮蔽する光遮蔽板を更に備えることを特徴とする請求項2記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記第4範囲における前記散乱部は、前記第1被覆層の外周面が散乱部材で覆われてなる、ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記第4範囲における前記散乱部は、前記第1被覆層の外周面に溝が形成されてなる、ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項1】
コアおよびクラッドを有するガラスファイバと、前記ガラスファイバの外周面に設けられ前記クラッドの屈折率より低い屈折率を有する透明樹脂からなる第1被覆層と、前記第1被覆層の外周面に設けられ不透明樹脂からなる第2被覆層と、を備え、
前記ガラスファイバの一端から始まる長手方向の第1範囲において、前記第1被覆層および前記第2被覆層が除去されて、前記ガラスファイバの滑らかな外周面が露出しており、
前記第1範囲に続く第2範囲において、前記第2被覆層が除去されて、前記第1被覆層が前記ガラスファイバを覆っており、
前記第2範囲に続く第3範囲において、前記第1被覆層および前記第2被覆層が前記ガラスファイバを覆っており、
前記第2範囲に含まれる第4範囲において、光を散乱させる散乱部が前記第1被覆層に設けられている、
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記第3範囲と前記第4範囲とが互いに離間していることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記第3範囲と前記第4範囲との間において前記第1被覆層の周囲に設けられ、前記第4範囲において外部空間に漏れた光を前記第3範囲の側へ進むのを遮蔽する光遮蔽板を更に備えることを特徴とする請求項2記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記第4範囲における前記散乱部は、前記第1被覆層の外周面が散乱部材で覆われてなる、ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記第4範囲における前記散乱部は、前記第1被覆層の外周面に溝が形成されてなる、ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−188000(P2007−188000A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7728(P2006−7728)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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