説明

光ファイバ

【課題】コアの周囲のクラッド中に複数の空孔を有する光ファイバであって破断強度を大きく伝送損失を小さくすることができる光ファイバを提供する。
【解決手段】光ファイバ1Aは、ガラスからなるコア10と、このコア10の周囲を取り囲むガラスからなるクラッド20と、このクラッド20中に形成されファイバ軸方向に延在する複数の空孔30とを備える。複数の空孔30は、コアを中心とする円の周上に一定間隔で設けられ、断面が略円状である。クラッド20は、クラッド21とクラッド22とに区分される。クラッド20にはハロゲン元素が添加されており、複数の空孔30の外接円より内側の領域におけるハロゲン元素のモル濃度を、外側の領域より高くすることにより、内側の領域の粘性を低くして、内側の領域の残留応力を圧縮応力とする。これにより、破断強度を大きくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアの周囲のクラッド中に複数の空孔を有する光ファイバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有する光ファイバが知られている。このような空孔を有する光ファイバは、空孔を有しない中実の光ファイバと比較して様々な特性を有することができる。
【0003】
特許文献1に記載された光ファイバは、空孔が形成された内側領域と、この内側領域の周囲の外側領域とを含み、内側領域の材料の軟化点温度が外側領域の材料の軟化点温度より高い。これにより、線引工程の際の空孔の変形を抑制することができて、所望の特性を有する光ファイバを製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−538029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された光ファイバは、線引工程の際に内側材料に伸び歪が存在する状態で外側材料が先に固まるので、内側領域の残留応力が引張応力になり、空孔壁面が引張応力になる。したがって、特許文献1に記載された光ファイバは、空孔壁面を起点として破断が生じやすく、また、レイリー散乱に因り伝送損失が高くなる。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、コアの周囲のクラッド中に複数の空孔を有する光ファイバであって破断強度を大きく伝送損失を小さくすることができる光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光ファイバは、コアと、このコアの周囲を取り囲むクラッドと、このクラッド中に形成されファイバ軸方向に延在する複数の空孔とを備え、複数の空孔の外接円より内側の領域の残留応力が圧縮応力であることを特徴とする。圧縮応力の値が15MPa以上であるのが好適である。
【0008】
また、本発明の光ファイバは、内側の領域におけるハロゲン元素のモル濃度が、その領域の周囲のクラッドにおけるハロゲン元素のモル濃度より高いのが好適である。このとき、内側の領域にCl元素およびF元素が共添加されているのが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光ファイバは、コアの周囲のクラッド中に複数の空孔を有し、破断強度を大きく伝送損失を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の光ファイバ1Aの断面構造例を示す図である。
【図2】本実施形態の光ファイバ1Bの断面構造例を示す図である。
【図3】本実施形態の光ファイバ1Cの断面構造例を示す図である。
【図4】比較例の光ファイバの屈折率分布および応力分布を示す図である。
【図5】実施例の光ファイバの屈折率分布および応力分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
図1〜図3それぞれは、本実施形態の光ファイバの断面構造例を示す図である。各図(a)は断面を示し、各図(b)は断面図中の破線に沿った屈折率分布を示す。これらの図に示される光ファイバ1A〜1Cは、HAF(Hole-Assisted Fiber)と呼ばれるものであり、ガラスからなるコア10と、このコア10の周囲を取り囲むガラスからなるクラッド20と、このクラッド20中に形成されファイバ軸方向に延在する複数の空孔30とを備える。複数の空孔30は、コア10を中心とする円の周上に一定間隔で設けられ、断面が略円状である。空孔30の個数は図では10個であるが、これに限られない。
【0013】
クラッド20は、クラッド21とクラッド22とに区分される。図1に示される光ファイバ1Aでは、クラッド21とクラッド22との境界は、複数の空孔の外接円より外側にある。図2に示される光ファイバ1Bでは、クラッド21とクラッド22との境界は、複数の空孔の内接円より内側にある。図3に示される光ファイバ1Cでは、クラッド21とクラッド22との境界は、複数の空孔の外接円と内接円との間にある。クラッド21およびクラッド22は、光ファイバ母材製造時に異なる起源のガラスであることを示している。
【0014】
コア10の屈折率はクラッド20の屈折率より高い。コア10は、GeOが添加された石英ガラスであってもよい。クラッド20は、ハロゲン元素が添加された石英ガラスであってもよい。クラッド21およびクラッド22それぞれの屈折率は、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0015】
このようなHAF構造の光ファイバ1A〜1Cは、コア10の周囲に空孔30が設けられていることにより、空孔30より外側への光の浸み出しが少なく、コア10を導波する光の大部分を空孔30より内側の領域に閉じ込めることができる。HAF構造の光ファイバ1A〜1Cは、コア10の周囲に設けられた空孔30により曲げ損失の低減を実現することができる。
【0016】
したがって、光ファイバ母材を線引してHAF構造の光ファイバを製造する際に、その線引工程において空孔径を高精度に制御することが重要である。そして、線引工程において空孔径を制御するためには、空孔の内圧を安定化することが必要であり、また、高張力線引を行ってガラスの粘性が比較的大きい状態で線引きすることが必要である。しかし、高張力線引を行うと、コア近傍に引張応力が残留しやすくなり、ガラス強度の低下や伝送損失の悪化の原因となる。
【0017】
本実施形態の光ファイバは、複数の空孔の外接円より内側の領域の残留応力が圧縮応力となっている。これにより、本実施形態の光ファイバは、破断強度を大きくすることができ、また、伝送損失を小さくすることができる。圧縮応力の値が15MPa以上であるのが好適であり、この場合には、より確実に、破断強度を大きくすることができ、また、伝送損失を小さくすることができる。
【0018】
本実施形態の光ファイバは、内側の領域におけるハロゲン元素のモル濃度が、その領域の周囲のクラッドにおけるハロゲン元素のモル濃度より高いのが好適であり、これにより、内側の領域の粘性が低くなり、内側の領域を圧縮応力とするために好都合である。また、内側の領域にCl元素およびF元素が共添加されているのが好適である。屈折率を上昇させるドーパントであるCl元素と、屈折率を低下させるドーパントであるF元素と、を内側の領域に共添加することで、内側の領域の屈折率を所望の値に設計しながら、内側の領域の粘性を低下させることができる。
【0019】
図4は、比較例の光ファイバの屈折率分布および応力分布を示す図である。比較例の光ファイバは、複数の空孔の外接円より内側の領域の残留応力が引張応力となっている。コア10には濃度7.24wt%のGeOが添加されている。クラッド21には濃度0.12wt%のClが添加されている。クラッド22には濃度0.39wt%のClが添加されている。クラッド21のCl濃度はクラッド22のCl濃度より小さい。したがって、クラッド21の粘性はクラッド22の粘性より大きくなり、空孔が存在するクラッド21の残留応力は引張応力となっている。この比較例の光ファイバの波長1.55μmの伝送損失は0.22dB/kmである。
【0020】
図5は、実施例の光ファイバの屈折率分布および応力分布を示す図である。実施例の光ファイバは、複数の空孔の外接円より内側の領域の残留応力が圧縮応力となっている。コア10には濃度7.24wt%のGeOが添加されている。クラッド21には濃度0.12wt%のClおよび濃度0.05wt%のFが添加されている。クラッド22には濃度0.12wt%のClが添加されている。クラッド21のハロゲン濃度はクラッド22のハロゲン濃度より大きい。したがって、クラッド21の粘性はクラッド22の粘性より小さくなり、空孔が存在するクラッド21の残留応力は15MPa以上の圧縮応力となっている。この実施例の光ファイバの波長1.55μmの伝送損失は0.20dB/kmでおり、残留応力が圧縮応力であることにより伝送損失は低減している。また、実施例の光ファイバは、空孔壁面が圧縮応力であることから、空孔壁面起点の破断強度が大きくなり、破断強度が改善する。
【0021】
なお、空孔壁面を圧縮応力にする場合、線引時に空孔壁面の粘性が小さくなることから空孔が歪むことが懸念される。周期的に2次元配置された複数の空孔によって光を閉じ込めるフォトニック結晶ファイバの場合には、空孔の歪みにより、伝送損失の悪化が懸念される。一方、HAFの場合には、空孔数が10個程度と少なく、また、コアおよび光学クラッドそれぞれの屈折率の差により光を閉じ込めて導波するので、空孔の歪みによる伝送損失への影響は小さく、問題とはならない。
【符号の説明】
【0022】
1A〜1C…光ファイバ、10…コア、20…クラッド、21…クラッド1、22…クラッド2、30…空孔。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、このコアの周囲を取り囲むクラッドと、このクラッド中に形成されファイバ軸方向に延在する複数の空孔とを備え、
前記複数の空孔の外接円より内側の領域の残留応力が圧縮応力である、
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記圧縮応力の値が15MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記内側の領域におけるハロゲン元素のモル濃度が、その領域の周囲のクラッドにおけるハロゲン元素のモル濃度より高い、ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記内側の領域にCl元素およびF元素が共添加されていることを特徴とする請求項3に記載の光ファイバ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−61559(P2013−61559A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201039(P2011−201039)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】