説明

光モジュール

【課題】レーザダイオードのバイアス制御中に生じたトラッキングエラーを解消する。
【解決手段】光モジュールは、レーザダイオードと、レーザダイオードの後方光出力をモニタしてバイアス電流を制御するAPC回路と、温度条件の変化による前方光出力のトラッキングエラー(TE)を補正した状態で出力する導波路型合波器とを備える。導波路型合波器としての機能は、導波路型合波器の透過中心波長を予め高温域の波長(λ’)に設定しておくことで得られる(A)。TEによる損失が高温域で増加したり(B)、逆に低温域で損失が減少したりしても(B)、導波路型合波器の分光特性によって損失の変動分が補正され、光出力が安定する(C)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)伝送システムは、波長の異なる複数の光信号を1本の光ファイバで伝送することで、高速・大容量のデータ伝送を可能にする先行技術である。複数の光信号は、それぞれ異なる単波長光源器から出力され、合波器で合波(多重化)されて多波長光信号となる。また多波長光信号は受信側の分波器で分波され、複数の単波長光信号として受信される(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記の先行技術において、単波長光源器には半導体レーザが用いられており、合波器や分波器にはアレイ導波路型のものが用いられている。一般に半導体レーザ等の発光素子は、バイアス電流の供給時に前方及び後方に光を発しており、このとき前方の光出力と後方の光出力との間には一定の相関関係(例えば比例関係)が成り立つ。このため単波長光源器の内部には、半導体レーザが発した光のうち、前方を光信号として出力する一方で、後方の光出力をフォトダイオードでモニタし、得られたモニタ電圧の目標誤差を増幅してバイアス電流にフィードバックすることで、前方の光出力を一定に保持するAPC(Automatic Power Control)回路が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−297559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、半導体レーザ等の発光素子は、温度条件の変化によって発振波長がシフトしていくだけでなく、前方の光出力に対する後方の光出力の比率(以下、「前方後方比率」と言う。)にも変化が表れる。このため、通常のAPC回路によるバイアス電流の制御には、前方後方比率の変化に起因して、前方の光出力が変動するという問題(いわゆるトラッキングエラー)がある。
【0006】
そこで本発明は、温度条件の変化による発光素子のトラッキングエラーを解消し、光出力を安定化させることができる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、バイアス電流の供給を受けて前方及び後方に光を発する、複数の発光素子と、モニタ用受光素子を有し、発光素子が発する後方の光出力をモニタ用受光素子でモニタし、モニタした後方の光出力が目標の光出力となるようにバイアス電流を制御する制御回路と、複数の発光素子が発した複数の前方の光が入力され、入力された複数の光を合波し、合波した光を出力する導波路型合波器と、を備え、発光素子は、温度条件の変化に応じて、前方の光出力に対する後方の光出力の比率が変化することにより、前方の光出力が変動し、導波路型合波器は、前方の光出力の変動を補正し、導波路型合波器出力後の光出力の変動が小さくなるような分光特性を有する、光モジュールを一態様とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光モジュールによれば、温度条件の変化による発光素子のトラッキングエラーを解消し、光出力を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】波長多重伝送システムの構成を概略的に示す図である。
【図2】APC回路の構成例を概略的に示す図である。
【図3】導波路型合波器の構成例を概略的に示す図である。
【図4】第1実施形態の光モジュールに用いられる導波路型合波器の分光特性を示す図である。
【図5】波長域λに対応するレーザダイオードについての検証例を示す図である。
【図6】第2実施形態の光モジュールに用いられる導波路型合波器の分光特性を示す図である。
【図7】第2実施形態における波長域λに対応するレーザダイオードについての検証例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、波長多重伝送システムの構成を概略的に示す図である。本発明の光モジュールは、例えば図1に示される波長多重伝送システムに適用することができる。ただし、以下は1つの適用例として示すものであり、光モジュールの適用範囲は以下の適用例に限られるものではない。
【0012】
波長多重伝送システムは、例えば送信側の光トランシーバ10から4波長多重化した光信号を出力し、1芯の光ファイバ22を伝送路として光信号を伝送する。伝送区間が長距離に及ぶ場合、伝送路の途中には中継器24を設置することができ、中継器24は光増幅器24aで光信号を増幅しながら伝送する。伝送された光信号は、受信側の光トランシーバ40で4つの単波長光信号に分波される。なお、ここでは送信側、受信側としてそれぞれ簡略化しているが、双方の光トランシーバ10,40には、光送信機能と光受信機能とが合わせて装備されていてもよい。
【0013】
この適用例において、光モジュールは送信側の光トランシーバ10に内蔵されている。光トランシーバ10は、光源器12及び導波路型合波器20を備えている。光源器12は、複数の発光素子及びAPC回路(制御回路)を含む。光モジュールは、複数の発光素子、APC回路、及び導波路型合波器から構成される。なお、光モジュールとしての実施形態(第1実施形態及び第2実施形態)については後述するものとし、ここでは光トランシーバ10の各構成要素について概略的に説明する。
【0014】
光源器12には、光モジュールを構成する複数の発光素子として、例えば4つのレーザダイオード(LD:Laser Diode)12a〜12dが含まれている。これら4つのレーザダイオード12a〜12dは、バイアス電流の供給を受けて、それぞれ異なる波長(λ,λ,λ,λ)の光を発する。
【0015】
また光源器12には、複数の発光素子及びAPC(Automatic Power Control)回路だけでなく、図示しない変調(駆動)回路も含む。APC回路は、レーザダイオード12a〜12dが発する後方の光出力をモニタし、モニタした後方の光出力が目標の光出力となるように、バイアス電流を制御する。また変調回路は、レーザダイオード12a〜12dに対し変調電流を供給して光を直接変調する。前方の変調された光は、光信号として導波路型合波器20へ入力される。
【0016】
導波路型合波器は、複数の発光素子が発した複数の前方の光(光信号)が入力され、入力された複数の光を合波し、合波した光を出力する。図1に示す導波路型合波器20は、4つのレーザダイオード12a〜12dが発した4つの異なる波長λ,λ,λ,λの光信号を合波して出力する。導波路型合波器20の詳細については後述する。
【0017】
受信側の光トランシーバ40は、導波路型分波器30及び受光器32を備えている。導波路型分波器30は、光ファイバ22を通じて入力された多重化信号を4つの単波長λ,λ,λ,λの光信号に分波する。
【0018】
また受光器32には、例えば4つのフォトダイオード(PD:Photo Diode)32a〜32dが含まれており、これら4つのフォトダイオード32a〜32dは、それぞれ単波長λ,λ,λ,λに分波された光信号を電気信号に変換する。
【0019】
〔APC回路の構成例〕
図2は、光トランシーバ10に内蔵されたAPC回路50の構成例を概略的に示す図である。ここでは便宜上、光源器12に含まれる1つのレーザダイオード12aを対象として説明するが、その他の3つのレーザダイオード12b,12c,12dについても同様のAPC回路50が設けられている。
【0020】
APC回路50は、モニタ用のフォトダイオード(モニタ用受光素子)(以下、「モニタ用PD」と言う。)52を有している。APC回路50は、レーザダイオード12aが発する後方の光出力をモニタ用PDでモニタし、モニタした後方の光出力が目標の光出力となるように、バイアス電流を制御する。後方の光出力に対する目標の光出力は、APC回路50の制御により一定にしようとする、前方の光出力に対する目標の光出力に従って設定される。
具体的に、APC回路50は、差動増幅器54及び電流源56を有している。モニタ用PD52は、レーザダイオード12aが発する後方の光出力をモニタ(受光)し、モニタ電流Imtを発生させる。モニタ電流Imtは、グランドされた抵抗器(図示していない)でモニタ電圧Vmに変換され、このモニタ電圧Vmが差動増幅器54の反転入力端子に入力されている。
【0021】
APC回路50の入力端子58は、差動増幅器54の非反転入力端子に接続されている。入力端子58には、例えば図示しない内部電源又はロジック回路から目標電圧Vtが印加されている。目標電圧Vtは、後方の光出力に対する目標の光出力に従って設定される。差動増幅器54は、目標電圧Vtに対するモニタ電圧Vmの誤差を増幅して電流源56に供給する。
【0022】
電流源56は、差動増幅器54の出力に基づいて、目標電圧Vtに対するモニタ電圧Vmの誤差がなくなるように、レーザダイオード12aに供給されるバイアス電流Ibsを制御する。これにより、レーザダイオード12aが発する前方の光出力が一定の出力で安定する。なお、レーザダイオード12aから発せられる前方の光(波長λ)は図示しないレンズで集光され、上記の導波路型合波器20に入力される。
【0023】
また光源器12は、APC回路50の他に変調回路60を有している。変調回路60は、上記のようにレーザダイオード12aに供給される変調電流Imdを制御する。変調回路60の入力端子62には、例えば図示しない制御IC(Integrated Circuit)から変調電流Imdの設定値が入力されている。これにより、レーザダイオード12aが発する前方への光出力が二値の光信号に変調される。
【0024】
〔バイアス電流制御と温度変化との関係〕
公知のように、レーザダイオード12aが発する前方の光出力と後方の光出力との間には相関関係(例えば比例関係)があるため、APC回路50によるバイアス電流Ibsの制御が光出力の安定化に有効である。
ここで、例えばレーザダイオード12aの温度条件が常温域(例えば25°C程度)から高温域(例えば85°C程度)、又は低温域(例えば0°C程度)に変化した場合を考える。このような温度条件の変化に応じて、レーザダイオード12aが発する前方の光出力が変化しても、APC回路50によるバイアス電流Ibsの制御が有効に作用することで光出力を一定に保持することができる。
なお、この場合、温度条件の変化に従ってレーザダイオード12aの光出力特性(バイアス電流と光出力の関係)が変化するため、光源器12は温度条件に応じた目標電圧Vtの設定値を有する。また、光源器12は、温度条件を測定するための図示しない温度センサを備える。光源器12は、温度センサから温度条件を測定し、測定した温度条件に応じた目標電圧Vtの設定値を用いて、バイアス電流Ibsを制御する。
【0025】
〔トラッキングエラーの発生〕
ただし、レーザダイオード12a等の発光素子には、使用時に温度条件の変化に応じて前方後方比率(前方の光出力に対する後方の光出力の比率)が変化する特性がある。このため、前方後方比率の変化に起因する前方の光出力の変動(トラッキングエラー)は、APC回路50のバイアス電流制御で除去することができない。
例えば、高温域で常温域より前方後方比率が大きくなる場合、高温域では、APC回路50でバイアス電流Ibsを制御していても、前方の光出力は低下する傾向にある。逆に、高温域で常温域より前方後方比率が小さくなる場合、高温域では、前方の光出力が上昇する傾向にある。
【0026】
そこで本発明では、上記のようなトラッキングエラーによる前方の光出力の変動を補正し、導波路型合波器20出力後の光出力の変動が小さくなるような分光特性を有する導波路型合波器20を用いている。以下、トラッキングエラーの補正に有効な導波路型合波器20を用いた光モジュールの実施形態(第1実施形態及び第2実施形態)について説明する。
【0027】
〔導波路型合波器の構成例〕
図3は、導波路型合波器20の構成例を概略的に示す図である。図3に示される構成例は、第1実施形態及び第2実施形態について共通である。
【0028】
導波路型合波器20は、例えば3つのマッハツェンダ干渉計20a〜20cを多段に接続して構成されている。具体的には、光信号の入力段に2つのマッハツェンダ干渉計20b,20cが位置し、残る1つのマッハツェンダ干渉計20aが出力段に位置している。3つのマッハツェンダ干渉計20a〜20cは、いずれも構造的には同等(ただし分光特性は個別に異なる)の光導波路素子であるが、配置によって機能が異なる。
【0029】
入力段に位置する2つのマッハツェンダ干渉計20b,20cは、導波路型合波器20全体としての入力ポート200を形成している。入力ポート200には、第1ポート200a〜第4ポート200dまでの4つが含まれる。このうち第1ポート200a及び第2ポート200bが1つのマッハツェンダ干渉計20bで構成されており、第3ポート200c及び第4ポート200dがもう1つのマッハツェンダ干渉計20cで構成されている。
【0030】
4つある入力ポート200のうち、第1ポート200aには波長λの光信号が入力され、第2ポート200bには波長λの光信号が入力される。また第3ポート200cには波長λの光信号が入力され、第4ポート200dには波長λの光信号が入力されるものとなっている。なお、同一のマッハツェンダ干渉計20bに入力される2つの光信号(波長λ,λ)の間には、標準グリッドよりも大きい波長間隔が確保されている。同様に、同一のマッハツェンダ干渉計20cに入力される2つの光信号(波長λ,λ)の間にも、標準グリッドより大きい波長間隔が確保されているものとする。
【0031】
出力段に位置する1つのマッハツェンダ干渉計20aは、導波路型合波器20全体としての出力ポート210を形成している。マッハツェンダ干渉計20aと他の2つのマッハツェンダ干渉計20b,20cとは、それぞれ中間導波路200e,200fで接続されている。入力段のマッハツェンダ干渉計20bで合波された光信号(波長λ,λ)は、中間導波路200eを通じて出力段のマッハツェンダ干渉計20aに入力され、また、別の入力段のマッハツェンダ干渉計20cで合波された光信号(波長λ,λ)は、中間導波路200fを通じて出力段のマッハツェンダ干渉計20aに入力されている。
【0032】
出力段のマッハツェンダ干渉計20aは、入力された2つの光信号(波長λ,λが合波されたものと波長λ,λが合波されたもの)をさらに合波し、4波長多重化した光信号(波長λ〜λ)を出力ポート210から出力する。
【0033】
〔第1実施形態〕
図4は、第1実施形態の光モジュールに用いられる導波路型合波器20の分光特性を示す図である。導波路型合波器20は、短波長域から長波長域に向かって波長λ’,λ’,λ’,λ’の順に、光損失を極小化する各透過中心波長がほぼ一定間隔で配置された分光特性を有している。ここでは透過中心波長の間隔を一定としているが、波長間隔は一定でなくてもよい。
【0034】
ここで、レーザダイオード12a〜12d等の発光素子は、温度条件が常温域から高温域、又は低温域に変化すると、発振波長のずれ(温度ドリフト)が生じる特性を有している。このとき第1実施形態の光モジュールでは、予め高温域での発振波長λ’〜λ’に導波路型合波器20の透過中心波長を一致させた分光特性を採用している。したがって第1実施形態では、温度条件が高温域の場合に導波路型合波器20での光損失(Lh)が最小となるが、常温域で得られる各波長λ〜λでは高温域より光損失(Ln)が大きくなり、低温域で得られる各波長λ”〜λ”では光損失(Lc)が最大となる。
【0035】
〔トラッキングエラーとの関係〕
このような導波路型合波器20の分光特性は、温度条件が高温域に向かって変化すると、発振波長が長波方向に変化し、かつ、前方の光出力に対する後方の光出力の比率が上昇する変動特性を有する発光素子に対して有効である。以下、この点について、より具体的に検証する。
【0036】
図5は、波長域λに対応するレーザダイオード12aについての検証例を示す図である。図5中(A)は、第1実施形態で用いられる導波路型合波器20の分光特性を示している。また図5中(B)は、温度条件の変化に応じたトラッキングエラー(図中「TE」と表記)の変化特性を示している。そして図5中(C)は、導波路型合波器20出力後の光出力を示している。
【0037】
この検証例において、温度条件は、レーザダイオード12aが使用される温度範囲として、低温域0°Cから高温域85°Cまでの間で変化するものとする。ただし、温度条件の設定はこれ以外でもよい。
このときレーザダイオード12aとしてDFB−LD(Distributed Feed Back Laser Diode)を使用し、Δ0.1nm/°Cの波長シフトが発生する場合を考える。
【0038】
この場合、常温域25°Cから高温域85°Cへの温度変化(ΔT=60°C)では、レーザダイオード12aの発振波長は6.0nmだけ長波長側へ変化する。一方、常温域25°Cから低温域0°Cへの温度変化(ΔT=25°C)に対し、レーザダイオード12aの発振波長は2.5nmだけ短波長側へ変化する。したがって、例えば波長域λのレーザダイオード12aは、常温域での発振波長を1271nmとすると、高温域では発振波長が1277nmにシフトし、低温域では発振波長が1268.5nmにシフトすると予測できる。
【0039】
〔分光特性〕
図5中(A)に示されているように、第1実施形態の導波路型合波器20では、予め透過中心波長を高温域での発振波長(λ’:1277nm)に合わせて設計している。導波路型合波器20は、レーザダイオード12aが使用される温度範囲(低温域0°Cから高温域85°C)において、温度条件が高温域に向かって変化すると、光損失が減少する分光特性を有する。この場合、高温域で光損失(Lh)は最小となるが、常温域の発振波長(λ:1271nm)では光損失(Ln)が大きくなり、低温域での発振波長(λ”:1268.5nm)では光損失(Lc)が最大となる。
【0040】
〔トラッキングエラー特性〕
レーザダイオード12aが、温度条件が高温域に向かって変化すると、前方の光出力に対する後方の光出力の比率が上昇する変動特性を有する場合、APC回路50によって制御される前方の光出力は、温度条件が高温域に向かって変化すると、減少する。言い換えると、トラッキングエラーによる光出力の損失は、温度条件が高温域に向かって変化すると、増加する。
図5中(B)に示されるトラッキングエラーの特性は、例えば常温域での損失を中間値(0)とすると、高温域で光損失(Lth)は最大となり、逆に低温域で光損失(Ltc)は最小となる傾向を示す。なお「中間値(0)」は、厳密な意味で最大と最小の中央(平均)値である必要はない(第2実施形態についても同様。)。
【0041】
〔補正による光出力の安定化〕
図5中(C)に示されるように、図5中(A)の分光特性と図5中(B)のトラッキングエラー特性の両者により光損失が相殺され、温度条件の全域で、導波路型合波器20出力後の光出力を略一定値(Ps)に抑えることができる。具体的には、各温度条件で以下の補正が作用している。
【0042】
〔常温域〕
常温域では、トラッキングエラーによる光損失は中間値(0)にある。このとき、常温域での発振波長λに対する導波路型合波器20の光損失(Ln)を足し合わせると、導波路型合波器20出力後の光出力は上記の一定値(Ps)になる。
【0043】
〔高温域〕
高温域では、トラッキングエラーによる光損失が中間値(0)より増加して最大値(Lth)となる。この場合、トラッキングエラーによる損失の増加分(0→Lth)に対して、シフト後の発振波長λ’では導波路型合波器20の光損失が減少(Ln→Lh)する。このため、両者の相殺により導波路型合波器20出力後の光出力は上記の一定値(Ps)に補正されることになる。
【0044】
〔低温域〕
また低温域では、トラッキングエラーによる光損失が中間値(0)より減少して最小値(Ltc)となる。この場合、トラッキングエラーによる損失の減少分(0→Ltc)に対し、シフト後の発振波長λ”では導波路型合波器20の光損失が増加(Ln→Lc)する。このため、ここでも両者の相殺により導波路型合波器20出力後の光出力は上記の一定値(Ps)に補正されることになる。
【0045】
以上のように第1実施形態の光モジュールによれば、温度条件の変化に応じてトラッキングエラーによる光損失の変動が生じても、その変動分を導波路型合波器20の分光特性によって補正し、導波路型合波器20出力後の光出力の変動を小さくできる。結果として、光モジュールは、その光出力を安定化させることができる。
【0046】
〔第2実施形態〕
図6は、第2実施形態の光モジュールに用いられる導波路型合波器20の分光特性を示す図である。以下、第1実施形態との相違点を中心として説明する。
【0047】
第2実施形態の光モジュールでは、温度条件を低温域とした場合に得られるレーザダイオード12a〜12dの発振波長λ”〜λ”に対し、予め導波路型合波器20の透過中心波長を一致させた分光特性を採用している点が第1実施形態と異なっている。したがって第2実施形態では、温度条件が低温域の場合に導波路型合波器20での光損失(Lc)が最小となるが、常温域で得られる各波長λ〜λでは光損失(Ln)が大きくなり、高温域で得られる各波長λ’〜λ’では光損失(Lh)が最大となっている。
【0048】
〔トラッキングエラーとの関係〕
第2実施形態で用いられる導波路型合波器20の分光特性は、温度条件が高温域に向かって変化すると、発振波長が長波方向に変化し、かつ、前方の光出力に対する後方の光出力の比率が減少する変動特性を有する発光素子に対して有効である。
【0049】
図7は、第2実施形態における波長域λに対応するレーザダイオードについての検証例を示す図である。図7中(A)は、第2実施形態で用いられる導波路型合波器20の分光特性を示している。また図7中(B)は、温度条件の変化に応じたトラッキングエラーの変化特性を示している。そして図7中(C)は、導波路型合波器20出力後の光出力を示している。
【0050】
〔分光特性〕
図7中(A)に示されているように、第2実施形態の導波路型合波器20では、予め透過中心波長を低温域での発振波長(λ”:1268.5nm)に合わせて設計している。導波路型合波器20は、レーザダイオード12aが使用される温度範囲(低温域0°Cから高温域85°C)において、温度条件が高温域に向かって変化すると、光損失が増加する分光特性を有する。この場合、低温域で光損失(Lc)は最小となるが、常温域の発振波長(λ:1271nm)では光損失(Ln)が大きくなり、高温域での発振波長(λ’:1277nm)では光損失(Lh)が最大となる。
【0051】
〔トラッキングエラー特性〕
レーザダイオード12aが、温度条件が高温域に向かって変化すると、前方の光出力に対する後方の光出力の比率が減少する変動特性を有する場合、APC回路50によって制御される前方の光出力は、温度条件が高温域に向かって変化すると、増加する。言い換えると、トラッキングエラーによる光出力の損失は、温度条件が低温域に向かって変化すると、増加する。
図7中(B)に示されるトラッキングエラーの特性は、常温域での損失を中間値(0)としたとき、低温域で光損失(Ltc)が最大となり、逆に高温域で光損失(Lth)が最小となる傾向を示す(第1実施形態と逆の傾向)。
【0052】
〔補正による光出力の安定化〕
第2実施形態においても、図7中(C)に示されるように両者により光損失が相殺され、温度条件の全域で、導波路型合波器20出力後の光出力を略一定値(Ps)に抑えることができる。具体的には、各温度条件で以下の補正が作用している。
【0053】
〔常温域〕
常温域でトラッキングエラーによる光損失が中間値(0)にある点は第1実施形態と同様である。そして、常温域での発振波長λに対する導波路型合波器20の光損失(Ln)を足し合わせると、導波路型合波器20出力後の光出力は上記の一定値(Ps)になる。
【0054】
〔高温域〕
高温域では、トラッキングエラーによる光損失が中間値(0)より減少して最小値(Lth)となる。この場合、トラッキングエラーによる損失の減少分(0→Lth)に対して、シフト後の発振波長λ’での導波路型合波器20の光損失は増加(Ln→Lh)する。このため、同じく両者の相殺により導波路型合波器20出力後の光出力は上記の一定値(Ps)に補正されることになる。
【0055】
〔低温域〕
また低温域では、トラッキングエラーによる光損失が中間値(0)より増加して最大値(Ltc)となる。この場合、トラッキングエラーによる損失の増加分(0→Ltc)に対して、シフト後の発振波長λ”での導波路型合波器20の光損失は減少(Ln→Lc)する。このため、ここでも両者の相殺により導波路型合波器20出力後の光出力は上記の一定値(Ps)に補正されることになる。
【0056】
以上のように第2実施形態の光モジュールについても、温度条件の変化に応じて生じたトラッキングエラーによる光損失の変動分を導波路型合波器20の分光特性によって補正し、導波路型合波器20出力後の光出力の変動を小さくできる。結果として、光モジュールは、その光出力を安定化させることができる。
【0057】
上述した第1及び第2実施形態の光モジュールによれば、予め導波路型合波器20の分光特性をトラッキングエラーの特性(温度条件の変化に対する損失の変化傾向)に合わせて設計しておくことで、使用時の温度条件の変化による光トランシーバ10の出力変動を抑え、波長多重化伝送システムによるデータ伝送の安定化に大きく寄与することができる。
【0058】
また、第1及び第2実施形態で挙げた検証例は、1つの波長λに対応するレーザダイオード12aについてのものであるが、その他の波長λ,λ,λに対応するレーザダイオード12b,12c,12dについても同様の分光特性を適用することができる。これにより、光モジュール全体として、全ての波長λ〜λで前方光出力のトラッキングエラー補正を実現することができる。
【0059】
光モジュールは、4波長よりチャンネル数が多い(例えば10チャンネル)導波路型合波器20を有していてもよい。この場合であっても、第1及び第2実施形態で挙げた分光特性によるトラッキングエラー補正を適用することにより、チャンネル毎にレーザダイオードの前方の光出力を安定化させることができる。
【0060】
また、各実施形態で挙げた温度条件や発振波長、透過中心波長等の値は好ましい例示であり、本発明の実施に際して個々の値を適宜に変更できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
10,40 光トランシーバ
12a,12b,12c,12d レーザダイオード
20 導波路型合波器
20a,20b,20c マッハツェンダ干渉計
22 光ファイバ
30 導波路型分波器
50 APC回路
52 モニタ用PD
54 差動増幅器
56 電流源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアス電流の供給を受けて前方及び後方に光を発する、複数の発光素子と、
モニタ用受光素子を有し、前記発光素子が発する後方の光出力を前記モニタ用受光素子でモニタし、モニタした後方の光出力が目標の光出力となるようにバイアス電流を制御する制御回路と、
複数の前記発光素子が発した複数の前方の光が入力され、入力された複数の光を合波し、合波した光を出力する導波路型合波器と、
を備え、
前記発光素子は、温度条件の変化に応じて、前方の光出力に対する後方の光出力の比率が変化することにより、前方の光出力が変動し、
前記導波路型合波器は、前方の光出力の前記変動を補正し、前記導波路型合波器出力後の光出力の前記変動が小さくなるような分光特性を有する、
光モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の光モジュールにおいて、
前記導波路型合波器は、
温度条件が高温域に向かって変化すると前記発光素子が発する前方の光出力が減少する場合、温度条件が高温域に向かって変化すると光損失が減少する分光特性を有し、
温度条件が高温域に向かって変化すると前記発光素子が発する前方の光出力が増加する場合、温度条件が高温域に向かって変化すると光損失が増加する分光特性を有する、
光モジュール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光モジュールにおいて、
前記発光素子は、
温度条件が高温域に向かって変化すると、発振波長が長波方向に変化し、かつ、前方の光出力に対する後方の光出力の比率が上昇する変動特性を有しており、
前記導波路型合波器は、
高温域の温度条件で得られる前記発光素子の発振波長に合わせて、光損失を極小化する透過中心波長が設定された分光特性を有している、
光モジュール。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光モジュールにおいて、
前記発光素子は、
温度条件が高温域に向かって変化すると、発振波長が長波方向に変化し、かつ、前方の光出力に対する後方の光出力の比率が減少する変動特性を有しており、
前記導波路型合波器は、
低温域の温度条件で得られる前記発光素子の発振波長に合わせて、光損失を極小化する透過中心波長が設定された分光特性を有している、
光モジュール。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の光モジュールにおいて、
前記導波路型合波器は、多段に接続した複数のマッハツェンダ干渉計から構成される、光モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−42323(P2013−42323A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177458(P2011−177458)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】