説明

光偏向器

【課題】光偏向器の解像点数を増大する。
【解決手段】本発明によれば、KTNなどの電気光学結晶に電圧を印加して偏向角を制御する光偏向器と、薄層ホログラム導波路を組み合わせることによって、光偏向器の単体での解像点数をさらに増大することができる。本発明の一実施形態によれば、薄層ホログラムは、シングルモードの平面型導波路にグレーティングを形成することによって実現することができる。このグレーティングは、グレーティングの波数ベクトルと、入射光の波数ベクトルとの和の絶対値に等しい大きさの波数ベクトルを有する導波光が存在するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の進行方向を変える、光偏向器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の進行方向を変える光偏向器のうち、空間電荷制限電流と2次の電気光学効果を利用するKTN光偏向器やKLTN光偏向器(特許文献1)、1次の電気光学効果を利用する電気光学光偏向器、および、超音波と光弾性効果を利用する音響光学光偏向器は、ガルバノミラーやポリゴンミラー、MEMSミラー等と異なり、可動部を持たない固体素子である。従って、偏向角度を変更する際に慣性質量をもつミラーの加速減速の必要が無く、従って、剛性も要求しない為、小型で高速の光偏向器となる。しかし、これら固体素子の光偏向器は、振れ角が小さく、解像度を大きくすることができないという欠点がある。
【0003】
光偏向器で言うところの解像点数とは、光をスキャンする幅を光スポットの直径で割った値である。スポット径は光の波長にも依存するので、偏向器単体での性能指数は、Φtanθで与えられる。ここで、Φは光偏向器に入射可能なビーム径であり、θは最大偏向半角である。偏向可能な全角度は2θである。光偏向器の出射端から距離fの位置に、焦点距離fの凸レンズを置いたとする。光偏向器から出射したコリメート光は、出射端から2fの位置で集光されることになるが、そのスポットサイズは、波長をλとして概ね2λf/Φで表され、集光点は2ftanθが移動範囲となる。すなわち、移動範囲をスポット径で割った値、Φtanθ/λが、解像点数を表すことになる。λは必要な波長が用途によって変わるので、波長に依存しないΦtanθが光偏向器に関わる指標となる。
【0004】
例えば、1次の電気光学効果を利用するプリズム型電気光学光偏向器の典型例としては、±15mrad.の振れ角と、ビーム径1mmφを例にとると、λ=532nmにおいて、解像点数は28点になる。あるいは、空間電荷制限電流と2次の電気光学効果を利用するKTN光偏向器の典型例として、±125mrad.の振れ角と、ビーム径0.5mmφを例にとると、λ=532nmにおいて、解像点数は118点になる。
【0005】
超音波と光弾性効果を利用する音響光学光偏向器を含め、これら固体素子は、解像点数が大きくないために、印刷や表示などの分野では使用されず、光ディスクのマスタリングや、レーザーのスイッチングなど、適用分野は産業用・研究用の分野に限られている。
【0006】
ところで、フォトポリマーのような光に反応する材料に実際に複数光束を同時照射し、光の干渉縞を記録する体積ホログラムが知られている(特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】国際公開第2006/137408号パンフレット
【特許文献2】特許第3323146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
振れ角そのものは、レンズや回折素子のような光学部品によって大きくすることが可能である。しかし、レンズの場合には光ビームそのものの広がり角も同時に大きくしてしまうために、解像点数は不変である。回折素子の場合、回折格子の設計にも依存するが、量産可能なレリーフ型ホログラムの場合、入射角を変化させても回折が起きるためにクロストークは不可避であり、結果として解像点数を大きくすることはできない。この事は、散逸を含まない光学素子は、入射光の情報を増やしも減らしもしないという、より根本的な原理に由来するものであり、入射光の持つ何らかの情報を犠牲にしない限り解像点数を増やすことは出来ないと言うことを示すものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、体積多重ホログラムを用いて、入射光の僅かな入射角変化でブラッグ条件に応じて回折を制御する方法を用いる。振れ角の連続性を犠牲にして、解像点数を増やすことを基本原理とする。しかし、体積多重ホログラムはホログラム媒体の奥行き方向にグレーティングを形成する必要があるため、フォトポリマーのような光に反応する材料に実際に複数光束を同時照射し、光の干渉縞を記録する手段しか知られていない。この方法は大量生産には不向きな上、複数の干渉縞をN種類露光すると、回折効率はN-2に比例して減衰してしまうという欠点がある。そこで、量産性があって、かつ、干渉縞の種類の数を増やしても回折効率が減少しない、ホログラムパターンを機械的に転写して作られた導波路ホログラムを体積ホログラムとして用いる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光偏向素子の偏向角度の連続性を犠牲にして、偏向角度を大きくし、解像点数を増やすことが可能となる。ガルバノミラー、ポリゴンミラー、MEMSミラー等の機械式の光偏向器に対して、高速性では有利であるものの偏向角度範囲に劣るKTN光偏向器、電気光学偏向器、音響光学偏向器などの固体素子に本発明を組み合わせることができる。すなわち、ブラック条件を満足した体積ホログラムによる回折を用いると解像点数が増加できる。さらに、薄層ホログラムによる回折を起こさない条件とすると入射光強度の損失を起こさず、光強度の高い回折光を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に、本発明の基本構成図を示す。図1は同じものを見る方向を変えて示したものであり、図1(a)では、光の偏向方向が紙面に垂直方向であり、図1(b)では、紙面内にある。進行方向が固定され、コリメートされた入射ビーム(1−1)をKTN光偏向器(1−2)に入射する。KTNに設けられた電極(1−3)への電圧制御によって、図1(b)において紙面内(x−y面)でビームが偏向される。ここでは、解像点数が少ない光偏向器としてKTN光偏向器を例示しているが、プリズム型電気光学光偏向器や音響光学光偏向器であっても良い。
【0012】
KTN光偏向器(1−2)から出射した光(1−4)は、シリンドリカルレンズ(1−5)によって集光(1−6)され、x−y面に拡がりz方向に光が閉じこめられたスラブ導波路(1−7)の端面にて焦点を結び、y方向に伸びた直線状になる。スラブ導波路(1−7)は、クラッド(1−8)に挟まれたコア(1−9)と、コアクラッド界面に転写によって機械的に凹凸が形成されてできた導波路ホログラム(1−10)からなる。スラブ導波路(1−7)のコア(1−9)に結合した入射導波光(1−11)は、導波路ホログラム(1−10)によって回折され、回折光(1−12)を発生する。導波路ホログラムの回折効率が、ブラッグ条件が成立したときにはほぼ100%になるよう、ホログラムの凹凸サイズと導波長が設計されていれば、導波路への入射光(1−11)の光はほぼ0に減衰し、回折光(1−12)のみが導波路外へ出射し、x−y面内で偏向し、z方向に拡がる出射光(1−13)となる。z方向への拡散をシリンドリカルレンズ(1−14)によって平行に戻し、x−y面に偏向したコリメート光(1−15)とする。
【0013】
図2に、導波路面内での入射光、回折光、ホログラムの関係を示す。図2(a)は、一対の入射導波光(2−1)と回折光(2−2)、および、導波路ホログラム(2−3)を逆空間で示している。入射導波光(2−1)の波数ベクトル(
【0014】
【数1】

【0015】
)及び回折光(2−2)の波数ベクトル(
【0016】
【数2】

【0017】
)は、大きさ(k)が等しく、すなわち、
【0018】
【数3】

【0019】
であり、
【0020】
【数4】

【0021】
である。ここで、導波路の有効屈折率(neff)はコアの屈折率(ncore)とクラッドの屈折率(nclad)の中間であり、ncoreに近い値を持つ。図2(b)は、同じものを実空間で示したものであるが、入射導波光の進行方向(2−5)及び回折光の進行方向(2−4)は、図2(a)の波数ベクトルの向きと同じである。ホログラムであるグレーティング(2−6)は、グレーティングピッチをΛとして、波数ベクトル
【0022】
【数5】

【0023】
の大きさは
【0024】
【数6】

【0025】
で表され、方向は実空間の屈折率が変化する方向を向いている。
【0026】
ブラッグ条件とは、
【0027】
【数7】

【0028】
を満足することである。ここで、符号は正負どちらでも良い。ブラッグ条件を満たす場合、回折効率(η)は
【0029】
【数8】

【0030】
で表される。ここで、δnはグレーティングの屈折率変調の振幅、Lはグレーティングと入射光の相互作用長、θは、グレーティングベクトルと入射光の波数ベクトルとのなす角度である。
【0031】
本発明の目的である「解像点数を増やすこと」を実現するためには、図2(c)および(d)に示されるように複数のグレーティングを重畳し、入射導波光の向きが微小に変わると、ブラッグ条件を満足するグレーティングがグレーティング1(2−7,2−10)、グレーティング2(2−8,2−12)、グレーティング3(2−9,2−11)のように変わり、回折される回折光の向きも次々変わる必要がある。なお、図2(c)は、複数のグレーティング1、2および3からなる導波路ホログラムを逆空間で示し、図2(d)は、実空間で示した図である。
【0032】
ただし、本発明では、グレーティングは導波路のコアクラッド界面内に作られた導波路ホログラムであるから、グレーティングの波数ベクトルはz成分を持たず、x−y面内にある。この事は、通常の体積多重ホログラムと異なる状況をもたらす。
【0033】
図3は、逆空間で導波路ホログラムの回折を説明する図である。図3(a)は、導波面を上から見た逆空間の図であり、図3(b)は、導波面を横から見た逆空間の図である。グレーティングの波数ベクトルは、すべてx−y面内にある。符号(3−1)は、半径が2πneff/λのエバルト球の表面を示している。入射導波光の波数ベクトル
【0034】
【数9】

【0035】
をとする。x−y面内にあるグレーティングベクトルの始点をPとして、三種類のグレーティングベクトル
【0036】
【数10】

【0037】
を考える。A点は0点を含むx−y面内でエバルト球上にある。B点を始点とするx−y面の法線はエバルト球(3−1)と交点(B′)にて交差する。ここで、B′点は、
【0038】
【数11】

【0039】
とz軸のなす角θが、
【0040】
【数12】

【0041】
を満たす領域(3−2)にあるものとする。一方、C点を始点とする法線とエバルト球(3−1)の交点C′は、式(5)を満たす領域(3−2)の外にあるものとする。
【0042】
本発明で意図している導波路ホログラムを用いた体積多重ホログラムとは、
【0043】
【数13】

【0044】
を入射し、
【0045】
【数14】

【0046】
によって回折され、
【0047】
【数15】

【0048】
を波数ベクトルとする回折光を発生するものである。
【0049】
【数16】

【0050】
はx−y面内にある。つまり、回折光も導波光である。
【0051】
B点はエバルト球面上にないから、
【0052】
【数17】

【0053】
をそれぞれ、
【0054】
【数18】

【0055】
として、ブラッグ条件である式(3)を満足せず、体積ホログラムならば回折を起こさないはずである。しかし、B′点が図3の領域(3−2)に含まれている場合、
【0056】
【数19】

【0057】
ベクトルを波数ベクトルとする回折光が発生する。これは、
【0058】
【数20】

【0059】
が薄膜型ホログラムとして
【0060】
【数21】

【0061】
に作用した結果である。一方、C′点が領域(3−2)の外にある場合、
【0062】
【数22】

【0063】
の波数ベクトルをもつ光は導波路内に閉じこめられる。従って、
【0064】
【数23】

【0065】
は導波路構造を持つが故に波数ベクトルとして禁止される。
【0066】
【数24】

【0067】
の波数ベクトルはエネルギー保存則から禁止されるので、
【0068】
【数25】

【0069】

【0070】
【数26】

【0071】
によって回折されないことになる。
【0072】
図4において、複数のグレーティングの作用を説明する。図は、導波路面上(z=0)の逆空間で描かれている。符号(4−1)は、半径が2πneff/λの円であり、図3におけるエバルト球(3−1)のz=0との交線である。二種類の導波路への入射光の波数ベクトルを、
【0073】
【数27】

【0074】
とする。A、Bは円(4−1)上にあるので、
【0075】
【数28】

【0076】
をそれぞれ、
【0077】
【数29】

【0078】
としたとき、および、
【0079】
【数30】

【0080】
をそれぞれ、
【0081】
【数31】

【0082】
としたとき、ブラッグ条件の式(3)を満足するから、
【0083】
【数32】

【0084】
および
【0085】
【数33】

【0086】
を波数ベクトルとする回折光を生じる。
【0087】
OPに対して回折を生じさせた
【0088】
【数34】

【0089】
は、平行移動して始点をPにすると、終点Bはエバルト球の外になるので、
【0090】
【数35】

【0091】
の入射光に対しては作用しない。
【0092】
しかし、
【0093】
【数36】

【0094】
に対して回折を生じさせた
【0095】
【数37】

【0096】
は、平行移動して始点をPに合わせたとき、終点Aが半径2πneffclad/ncoreλの円板(4−2)内に入るので、図3のB点と同様の効果が起き、
【0097】
【数38】

【0098】
は導波路外に回折する薄膜ホログラムとして働くことになる。従って、
【0099】
【数39】

【0100】
の入射光に対しては、二種類のグレーティングが両方とも作用し、導波路外への回折を不要なものとして遮蔽したとしても、必要な導波路面内の回折
【0101】
【数40】

【0102】
が減殺されることになる。従って、グレーティングを多重化する際には、このような薄膜ホログラムによる回折を生じないように、作用させるべきグレーティングを選ぶ必要がある。
【0103】
図5に、導波路への入射光と導波路からの出射光の進行方向(手前から奥)を示す。図5(a)はブラッグ条件を満たす最も左よりの入射と回折を示し、図5(b)はブラッグ条件を満たす右から2番目の入射と回折を示している。図5(c)はブラッグ条件を満たす最も左よりの入射と回折を示し、図5(d)はブラッグ条件を満たさない入射と回折を示している。
【0104】
符号(5−1)は、導波路への入射光が取り得る進行方向の角度範囲である。その角度範囲の中で、目盛り(5−2)が打たれた角度にブラッグ条件を満たすグレーティングが存在し、符号(5−3)で示される角度範囲で目盛り(5−4)で打たれた角度に回折を生じるようにする。目盛り(5−2)が打たれた角度間隔では図5(a)と(b)でビーム(5−5)とビーム(5−7)は投影面で分離されないが、導波路ホログラムによって回折された場合は目盛り(5−4)の間隔は拡がり、ビーム(5−6)とビーム(5−8)が投影面で互いに分離できるようにする。図5(c)において、入射ビーム(5−9)を最も右に傾けると、回折光(5−10)の角度は最も左に傾いている。この説明では、入射光の傾きと回折光の傾きが逆方向になっているが、必ずしもこのようにする必要はない。ただし、入射光と回折光を逆方向にすることで、薄膜ホログラムを起こしにくい構成とすることができる。
【0105】
図5(d)は入射ビーム(5−11)がブラッグ条件を満たさない角度で入射したときの状況を示している。ブラッグ条件の導波路内での入射角度に対する角度分解能(δθ)は、
【0106】
【数41】

【0107】
で表される。ここで、Lは導波光とグレーティングの相互作用長、θはグレーティングベクトルと導波光の波数ベクトルのなす角度である。Lが十分長く、入射角のブラッグ条件からのずれが式(6)で表されるδθよりも大きい場合には回折は生じない。しかし、Lが短い場合には、ブラッグ条件に近い複数のグレーティングによって、弱い回折が複数生じ、(5−12)に示されるように複数のビームを発生することになる。
【0108】
本発明では、ホログラムの原理を使うため、入射光の位相が一意に定まっている必要があり、従って、導波路はシングルモードでなければならない。その為、コアの厚み(d)は、
【0109】
【数42】

【0110】
でなければならない。例えば、λ=650nmで、ncore=1.52、nclad=1.50の時、d<1.32μmである。この様な狭いコアにビームを結合させる為には、システムを厳密にアライメントした後、動かないように固めるか、あるいは、ビームがコア位置に来るように変更できるようにするか、どちらかのシステムを組む必要がある。
【0111】
図6は、後者の方式を採用した場合の構成を示している。図6(a)は、積層された導波路を断面方向から見た図であり、図6(b)は、積層された導波路を上から見た図である。シリンドリカルレンズで線状に集光したビームがコアに沿うように制御するために、x−z平面内でビームを偏向する電極(6−6)が形成されたKTN偏向器(6−5)を用いる。入射ビーム(6−1)は、電極(6−3)が形成されたKTN偏向器(6−2)によってx−y面内で偏向され、次いで、λ/2板(6−17)によって偏向面を90°回転した後、前述のKTN偏向器(6−5)に入射する。2個のKTN偏向器を通過したビーム(6−7)は2次元に偏向されており、シリンドリカルレンズ(6−8)によって線状に集光される。集光線のz方向の位置はKTN偏向器(6−5)によって変えることが出来るので、コアへの結合効率が高くなるように電極(6−6)への印加電圧を調節すればよい。
【0112】
図6では、積層した導波路(6−10)を用いている。ビームのz方向の位置を変調できるのであるから、導波路を積層しておけば、結合する導波層を選択することにより、x−z面内での偏向も可能となる。導波路の出射端側にギャップ(6−16)を設けておけば、x−z面内での偏向角度を大きくすることが可能である。ただし、x−z面内での偏向に関しては、解像点数を増やすわけではなく、偏向角度を変更するだけならシリンドリカルレンズ(6−14)の焦点距離を変えることでも可能なので、ギャップ(6−16)は、必ずしも必要ではない。このように、x−z面内で偏向を可能にするKTN偏向器(6−5)を追加することで、導波路への結合を大きくする手段を与えることができる。また、積層することによって、薄層ホログラムによる回折を生じさせないグレーティングを選択することができる。
【0113】
次に、図7に、入射光(7−1)の導波路(7−2)への結合を保証するための方法を示す。本図においても、導波路間にギャップを設けているが、このようなギャップは必ずしも必要ではなく、導波路を単に積層して構成することができる。図7において、スラブ導波路(7−2)は、積層されている図を描いたが、必ずしも導波路が積層されている必要はない。導波路の中に導波路外に回折を起こすグレーティングが描かれた領域(7−3)と、導波路外に回折した回折光(7−7)の光強度を検出できる受光素子(7−9)を配置する。導波路外に回折を生じさせるためのグレーティングとは、図3において、
【0114】
【数43】

【0115】
なる波数ベクトルをもつグレーティングである。このグレーティングによって、回折光は導波路面の法線方向に回折されるので、受光素子(7−9)の受光量が最大になる電圧を電極(6−6)に印加すれば良い。本発明の核心である導波路内での回折領域(7−4)よりも前にこの領域(7−3)を設けることで、入射導波路の進行方向の振れ幅が小さく、従って、回折光(7−7)の出射角度の振れ角も小さくなり、受光素子(7−9)の受光面積を小さくできるというメリットが生じる。
【0116】
さらに、導波路内での回折光に対して、導波路外に回折(7−8)を生じさせるグレーティング(7−5,7−6)と受光素子群(7−10)を設けることで、KTN偏向器と導波路の設置角度誤差やKTN偏向器の劣化をモニタリングし、それらを補償することが可能となる。なお、最終的に導波路端からの出射光(7−11,7−12,7−13,7−14)の光量を減殺させないために、モニタリングのグレーティング領域(7−2,7−5,7−6)の回折効率は小さくしておく必要がある。具体的には、グレーティングの幅(x方向の長さ)を短くすることで制御を行う。
【0117】
本発明では、体積ホログラムの原理を用いているので、式(4)で示されるように回折効率は100%が可能である。しかし、熱膨張やアライメントずれなど様々な要因によって、常に100%の回折効率を補償することは困難である。その場合、入射光と回折光の両方が導波路端から出射され、用途によっては問題となる場合がある。そこで、100%以下の回折効率において、入射光を遮る工夫をする。
【0118】
図8は、回折効率が100%でない場合に入射光を除去する方法を説明するための図である。図8(a)において、1層目のスラブ導波路(8−1)は、(8−2)の入射角度範囲に対して、(8−3)の回折角度で回折光を生じるようにする。2層目のスラブ導波路(8−4)は、同じ入射角度(8−2)に対して、1層目とは逆方向の領域(8−5)に回折を生じせしめる。図8(b)は、これら二つの導波路を積層した導波路(8−6)を示しており、入射導波路を選択することによって、回折光の範囲を(8−3)から(8−5)まで広げることが可能となる。しかし、単に積層しただけの状態(A)では、100%以下の回折効率の場合、0次光である入射光が弱い光量ながらも出射(8−2)されるのでクロストークを生じる。
【0119】
そこで、図8(c)では、0次光を遮る遮光板(8−7)の追加によって、回折効率の大小に関わらず、0次光を除去するようにしている。ただし、この構成では、あまり光を偏向しない状態が死角となってしまう。そこで、図8(d)では、プリズム(8−8)を追加することによって、偏向角度範囲内に死角を無くすことが可能となる。
【実施例1】
【0120】
図1および図9を参照して、実施例1について説明する。図9は、導波路を上から見た図であり、導波路上での複数のグレーティングの構成を説明するための図である。
【0121】
使用光(1−1)を、コリメートされた波長830nmのレーザー光とする。KTN光偏向器(1−2)の偏向角度は±5°のものを使用し、ビーム径は0.5mmφとする。Φtanθ=0.0437mmであるから、λ=830nmにおいて、KTN光偏向器単独での解像点数は52点である。
【0122】
導波路(1−7)のコア、クラッドの屈折率をそれぞれ、1.53,1.50とすると、導波路の開口数はNA=0.3であるから、シリンドリカルレンズ(1−5)の焦点距離を1mmとして、レンズのNAを導波路のNAより若干低いNA=0.24とする。コアの厚みは、シングルモード条件である1.38μmより若干薄い1.2μmとする。シリンドリカルレンズによる集光線の幅は3.46μm、焦点深度は±7.2μmである。従って、シリンドリカルレンズ(1−5)と導波路(1−7)の入射端面のアライメントは顕微鏡を用いて±5μmの精度で行う。
【0123】
入射導波光の振れ角度は、スネルの法則に従って±3.27°となる。解像点数として260点を要求すると、導波路外で振れ幅は50°必要であり、導波路内では5°〜33.5°の振れ角に変換できれば目的を達成することになる。グレーティングは、深さ50nm、幅70nmの溝を、要求されるグレーティングベクトルを形成するよう周期的に配置する。ただし、複数のグレーティングを重畳するとき、溝が重なり合った部分の深さを変化させることはしない。70nmに統一する。さらに、図9のように回折次数の領域を分けたグレーティング(9−5〜9−8)を作製する。
【0124】
第m番目の回折光の導波路内の角度φを、導波路外で一定角度間隔になるよう、
【0125】
【数44】

【0126】
とする。ここで、mは、0から259の整数である。一方、φに対応する入射光の導波路内の角度Φは、ΔΦ=Φm+1−Φ、Φ=−3.27°、Φ259=3.27°として、漸化式
【0127】
【数45】

【0128】
を満足するように係数Aを決定する。例えば、Aの計算値は、A=0.000036509341466となる。
【0129】
各回折に寄与するグレーティングベクトル
【0130】
【数46】

【0131】
は、
【0132】
【数47】

【0133】
で与えられ、m番目のグレーティングの周期を
【0134】
【数48】

【0135】
とし、各溝の方向は導波面内でグレーティングベクトルに垂直方向に伸びるものとする。グレーティングの周期(Λ)は、m=0に対する0.8μmから、m=259に対する17.96μmまで存在する。
【0136】
つぎに、グレーティングを描画する位置をmに応じて変更する。図9に示すように、ここでは、面積が15×20mmの導波面をもつスラブ導波路の入射端をx=0として、0≦m<65のグレーティング(9−8)を、2mm<x<4mmの位置に、65≦m<130のグレーティング(9−7)を、4mm<x<6mmの位置に、130≦m<195のグレーティング(9−6)を、6mm<x<8mmの位置に、195≦m<260のグレーティング(9−5)を、8mm<x<10mmの位置にそれぞれを重畳して描画する。ただし、グレーティングの各溝は上記xの領域内で繋がった溝ではなく、最短の長さを4μmとしたランダム長、ランダムギャップの破線からなり、線の被覆率(ζ)は、Λの単位をμmとして
ζ=0.05Λ (11)
となるようにする。図9において、入射光(9−2)に対して(9−4)の方向に回折光が出射し、さらに、回折効率が100%でない場合には、0次光(9−3)が出射される。このように、回折次数ごとにグレーティングを分けて配置することによって薄層ホログラム回折を生じさせないようにすることができる。なお、導波路内の回折光の方向は、式(10)に従って変化する。
【実施例2】
【0137】
上記実施例1の図9で示したグレーティングパターンを紙面において上下反転したパターンを作製すると、図10(a)に示すようにグレーティング(9−9)による回折は(9−10)方向に発生する。図9を第一層に、図10(a)を第2層に配置して、お互いのコアを隔てるクラッド厚みを10μmとして積層導波路(9−11)を作製すると、図9(b)に示すように、層選択によって偏向範囲(9−13)は広がり、解像点数が260点の2倍の520点にまで増大する。図9(b)では、0次光を遮蔽する0.5mm幅×0.1mm高さの遮蔽板(9−12)を配置し、残留0次光を遮蔽する構成を例示している。
【0138】
さらに、1mm<x<1.5mmの範囲で、波数ベクトル
【0139】
【数49】

【0140】

【0141】
【数50】

【0142】
なるグレーティング(9−14)を形成したものである。グレーティング(9−14)からの回折光は導波路の鉛直上下方向に回折されるので、この光を受光素子で受け、ピークサーチをすることによって導波路への結合を最大にすることが可能となる。
【0143】
以上、本発明について、具体的にいくつかの実施形態について説明したが、本発明の原理を適用できる多くの実施可能な形態に鑑みて、ここに記載した実施形態は、単に例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。例えば、上記の実施形態においては、偏向器として、KTN偏向器を用いて説明したが、KTNと同様に空間電荷制限電流と2次の電気光学効果を利用するLLTN(K1−yLiTa1−xNb)を用いることもできるし、LN(LiNbO)、BT(BaTiO)、SBN(Sr1−xBaNb)を用いた1次の電気光学効果を利用するプリズム方電気光学光偏向器を用いることもできる。このように、ここに例示した実施形態は、本発明の趣旨から逸脱することなくその構成と詳細を変更することができる。さらに、説明のための構成要素および手順は、本発明の趣旨から逸脱することなく変更、補足、またはその順序を変えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】本発明の基本構成を示す図であり、図1(a)は導波路の断面方向から見た図であり、図1(b)は、導波路面を上から見た図である。
【図2】グレーティングを有する導波路面内での入射光、回折光、および導波路ホログラムの関係を示す図であり、図2(a)は入射光、回折光、および導波路ホログラムを逆空間で示した図であり、図2(b)は入射光、回折光、および導波路ホログラムを実空間で示した図であり、図2(c)は複数のグレーティングからなる導波路ホログラムを逆空間で示した図であり、図2(d)は複数のグレーティングからなる導波路ホログラムを実空間で示した図である。
【図3】導波路ホログラムの回折を逆空間で説明する図であり、図3(a)は導波路面を上から見た逆空間の図であり、図3(b)は導波路面を横から見た逆空間の図である。
【図4】導波路ホログラムでの多重ホログラムを逆空間で説明する図である。
【図5】導波路への入射光と導波路からの出射光の進行方向を示す図であり、図5(a)はブラッグ条件を満たす最も右よりの入射光と回折光を示し、図5(b)はブラッグ条件を満たす右から2番目の入射光と回折光を示し、図5(c)はブラッグ条件を満たす最も左よりの入射光と回折光を示し、図5(d)はブラッグ条件を満たさない入射光と回折光を示す図である。
【図6】本発明において、入射光のビームが導波路コアに入射するようにする構成を示す図であり、図6(a)は導波路の断面方向から見た図であり、図6(b)は導波路面を上から見た図である。
【図7】本発明において、入射光のビームが導波路に結合する強度をモニタするようにする構成を示す図であり、図7(a)は導波路の断面方向から見た図であり、図7(b)は導波路面を上から見た図である。
【図8】本発明において、回折効率が100%でない場合に入射光を除去する方法を説明するための図であり、図8(a)は1層目および2層目のそれぞれの入射光の入射角度範囲に対する回折光の回折角度範囲を示し、図8(b)は1層目および2層目を組み合わせた場合の入射光の入射角度範囲に対する回折光の回折角度範囲を示し、図8(c)は0次光を遮る遮光版を追加した構成を示し、図8(d)はさらにプリズムを追加した構成を示している。
【図9】本発明の実施例1を説明するための図である。
【図10】本発明の実施例2を説明するための図である。
【符号の説明】
【0145】
1−1 入射ビーム
1−2 光偏向器
1−3 電極
1−4 出射光
1−5 シリンドリカルレンズ
1−6 集光ビーム
1−7 スラブ導波路
1−8 クラッド
1−9 コア
1−10 導波路ホログラム
1−11 入射導波光
1−12 回折光
1−13 出射光
1−14 シリンドリカルレンズ
1−15 コリメート光
2−1 入射導波光
2−2 回折光
2−3 導波路ホログラム
2−4 回折光の進行方向
2−5 入射導波光の進行方向
2−6,2−7,2−8,2−9,2−10,2−11,2−12 グレーティング
3−1 エバルト球
3−2 領域
4−1 円
4−2 円板
5−1 入射光が取り得る進行方向の角度範囲
5−2 ブラッグ条件を満たすグレーティングの存在を示す目盛り
5−3 回折を生じる角度範囲
5−4 回折を生じる目盛り
5−5,5−6,5−7,5−8 ビーム
5−9 入射ビーム
5−10 回折光
5−11 入射ビーム
5−12 複数のビーム
6−1 入射ビーム
6−2 偏向器
6−3 電極
6−4 偏向した光
6−5 偏向器
6−6 電極
6−7 ビーム
6−8 シリンドリカルレンズ
6−9 集光ビーム
6−10 積層導波路
6−11 入射導波光
6−12 回折光
6−13 出射光
6−14 シリンドリカルレンズ
6−15 コリメート光
6−16 ギャップ
6−17 半波長板
7−1 入射光
7−2 導波路
7−3 導波路外に回折を起こすグレーティングが描かれた領域
7−4 導波路内での回折領域
7−5 導波路外に回折を生じさせるグレーティング
7−6 導波路外に回折を生じさせるグレーティング
7−7,7−8 導波路外に回折した回折光
7−9 受光素子
7−10 受光素子群
7−11,7−12,7−13,7−14 出射光
8−1 スラブ導波路
8−2 入射角度範囲
8−3 回折角度範囲
8−4 スラブ導波路
8−5 回折角度範囲
8−6 積層導波路
8−7 遮光板
8−8 プリズム
8−9,8−10 回折角度範囲
9−1 スラブ導波路
9−2 入射光
9−3 0次光
9−4 回折光の方向
9−5,9−6,9−7,9−8 グレーティング領域
9−9 グレーティング領域群
9−10 回折光の方向
9−11 積層導波路
9−12 遮蔽板
9−13 偏向範囲
9−14 グレーティング領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の進行方向を変える光偏向器であって、
入射光に対してシングルモードである平面型導波路と、
前記平面型導波路に対して、前記入射光の水平方向の入射角を変える偏向手段とを備え、
前記平面型導波路は、iを回折次数として、導波路内に波数ベクトルKiを有するグレーティングを備え、
前記グレーティングは、前記波数ベクトルKiと、前記入射光の波数ベクトルkとの和の絶対値に等しい大きさの波数ベクトルkを有する導波光が存在するように構成されたことを特徴とする光偏向器。
【請求項2】
請求項1に記載の光偏向器であって、
前記平面型導波路は、前記導波光の一部を導波路外に回折する回折手段を備えたことを特徴とする光偏向器。
【請求項3】
請求項2に記載の光偏向器であって、
前記平面型導波路は、前記導波路外に回折された光を検出する受光手段をさらに備えたことを特徴とする光偏向器。
【請求項4】
請求項3に記載の光偏向器であって、
前記平面型導波路に対して、前記入射光の垂直方向の入射角を変える第2の偏向手段をさらに備え、
前記垂直方向の入射角は、前記受光手段で検出される光の強度に基づいて、前記第2の偏向手段により変えられるように構成されたことを特徴とする光偏向器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の光偏向器であって、
前記グレーティングは、前記波数ベクトルKiと、前記導波光の波数ベクトルkとを足し合わせたベクトルの終点のエバルト球面上への射影が、前記平面型導波路のコアおよびクラッドの屈折率をそれぞれncoreおよびncladとして、ncoresinθ<ncladを満たすように構成されたことを特徴とする光偏向器。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の光偏向器であって、
前記平面型導波路が複数積層されたことを特徴とする光偏向器。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の光偏向器であって、
前記偏向手段は、KTNまたはKLTNを用いたことを特徴とする光偏向器。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の光偏向器であって、
前記偏向手段は、LN、BT、またはSBNを用いたことを特徴とする光偏向器。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の光偏向器であって、
前記偏向手段は、超音波と光弾性効果を利用した音響光学光偏向器を用いたことを特徴とする光偏向器。
【請求項10】
請求項1から6のいずれかに記載の光偏向器であって、
前記平面型導波路は、その出射端面にプリズムおよび光遮蔽板の少なくとも一方を備えたことを特徴とする光偏向器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−85916(P2010−85916A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257499(P2008−257499)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】