説明

光分解性能を付与するコーティング方法、及び光分解性能を付与した加工物

【課題】空気中の有害な化学成分の分解、防臭、固体表面の汚れ防止(防汚)、抗菌等に効果を発揮する光分解性能を付与することができるコーティング方法、及び光分解性能を付与した加工物を提供する。
【解決手段】本発明の光分解性能を付与するコーティング方法は、紙、合成紙、非木材紙、フィルムの何れか一種から選ばれる基材の表面に形成された印刷面の上に、可視光型の光触媒又は紫外線型の光触媒であるアナターゼ型二酸化チタンを、コーティング剤中の固形分の2重量%から等量までの範囲で混合した組成物を塗布する第一の工程、コーティング剤の塗布層を乾燥する第二の工程、光触媒の粒子の一部を活性化する第三の工程からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の有害な化学成分の分解、防臭、固体表面の汚れ防止(防汚)、抗菌等に効果を発揮する光分解性能を付与することができるコーティング方法、及び光分解性能を付与した加工物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線の照射や、可視光の照射により、特殊な酸化チタンが、空気中の有害な化学物質を無害な二酸化炭素と水に分解するものを光触媒と言い、空気清浄機や防汚外壁等の各種の分野で実際に適用され、その効果は良く知られている。
【0003】
この光触媒としては、酸化チタン(TiO2)、特にアナターゼ型二酸化チタンが広く使用され、このアナターゼ型二酸化チタンは、光触媒として使用されると、紫外光において触媒活性を示すことが知られている。また、可視光領域で動作できる可視光動作型光触媒としては、窒素が導入された酸窒化チタン酸窒化チタン(Ti−O−N)が注目されている(例えば特許文献1等)。
【特許文献1】特開2002−154823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のように従来の適用製品としては、フィルター中に光触媒を担持させたり、無機質硬化物等の微細空隙内に光触媒を担持させるタイプのものであって、光触媒の有する各種の効果を各種の印刷物に施す事はできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記に鑑み提案されたものであり、紙、合成紙、非木材紙、フィルムの何れか一種から選ばれる基材の表面に形成された印刷面の上に、可視光型の光触媒を、コーティング剤中の固形分の2重量%から等量までの範囲で混合した組成物を塗布する第一の工程、コーティング剤の塗布層を乾燥する第二の工程、光触媒の粒子の一部を活性化する第三の工程からなることを特徴とする光分解性能を付与するコーティング方法に関するものである。
【0006】
さらに、本発明は、紙、合成紙、非木材紙、フィルムの何れか一種から選ばれる基材の表面に形成された印刷面の上に、紫外線型の光触媒であるアナターゼ型二酸化チタンを、コーティング剤中の固形分の2重量%から等量までの範囲で混合した組成物を塗布する第一の工程、コーティング剤の塗布層を乾燥する第二の工程、光触媒の粒子の一部を活性化する第三の工程からなることを特徴とする光分解性能を付与するコーティング方法をも提案する。
【0007】
また、本発明は、上記コーティング方法において、第二の工程は、加熱、又は紫外線照射、又はその両方により行うことを特徴とする方法をも提案する。
【0008】
また、本発明は、上記コーティング方法において、第三の工程は、紫外線を照射する処理であることを特徴とする方法をも提案する。
【0009】
また、本発明は、上記コーティング方法において、コーティング剤の乾燥後の厚みは、光触媒の粒子径の1.5〜0.5倍であることを特徴とする方法をも提案する。
【0010】
さらに、本発明は、前記コーティング方法により、光分解性能を有するコーティング層を形成してなることを特徴とする光分解性能を付与した加工物をも提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光分解性能を付与するコーティング方法は、可視光や紫外線を照射することにより、空気中の有害な化学成分を分解、防臭、固体表面の汚れ防止(防汚)、抗菌等に効果を発揮する光分解性能を、各種の印刷物やラミネートフィルムに付与することができるものである。そのため、各種の印刷物やラミネートフィルムは、例えば壁紙や各種ポスターとして、或いはその他、多くの室内用商品として、室内の壁、或いは室内装飾品等に貼り付けるなどして前述の多種の光分解性能を室内、即ち生活環境にもたらせることができるものである。
【0012】
また、本発明の光分解性能を付与した加工物は、基本的に出版物、パッケージ、ステーショナリー、CD・DVDカバー、クリアファイル、壁紙等の印刷物であるから、印刷による装飾効果を有するものであって、さらに加えて光分解性能をも有するものであり、付加価値の高い商品として広範な用途に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、紙、合成紙、非木材紙、フィルムの何れか一種から選ばれる基材を対象とするものであって、その表面に各種の印刷を施し、光分解性能を有する層は、印刷物の最表面に形成する。
【0014】
基材の表面に施す印刷は、印刷形式や印刷インク等を限定するものではなく、透明クリア等の塗工をも含む。
【0015】
光分解性能を有する層は、可視光型の光触媒をコーティング剤中に混合した組成物、或いは紫外線型の光触媒であるアナターゼ型二酸化チタンをコーティング剤中に混合した組成物にて形成される。
【0016】
可視光型の光触媒は、可視光反応タイプの光触媒であって、可視光ばかりでなく、紫外線にも強く反応するものであって、既に豊田通商社製「VCT−01SD」、「VCT−02SD」等が市販されている。
紫外線型の光触媒であるアナターゼ型二酸化チタンは、既にバイオエコ社製「#1007MC」等が市販されている。
【0017】
前記光触媒を混合するコーティング剤は、乾燥(硬化)後に形成対象面に密着し、且つ前記光触媒を担持できるものであれば、特に限定するものではなく、各種のものを使用できる。例えば水系のコーティング剤でもよいし、有機溶剤系、或いは無溶剤系のコーティング剤でもよく、また、熱硬化型のコーティング剤でもよいし、或いは紫外線硬化型のコーティング剤でもよい。特に水系、又は無溶剤系の熱硬化、或いは紫外線硬化型のアクリル樹脂系のコーティング剤が好ましい。
【0018】
前記コーティング剤中に混合する前記光触媒は、コーティング剤中の固形分の2重量%から等量までの範囲で混合する。この混合量が、コーティング剤中の固形分の2重量%に満たない場合には、コーティング剤中の固形分が多すぎて前記光触媒の粒子を被覆してしまい、光分解性能が発揮できない。また、コーティング剤中の固形分の等量を越える場合には、コーティング剤中の固形分が少なすぎて前記光触媒の粒子を保持(担持)できずに前記光触媒の粒子が脱離してしまう。
【0019】
本発明の第一の工程として、前記光触媒をコーティング剤中に混合した組成物を塗布する方法としては、周知の塗布方法を適用することができ、例えば各種印刷機による印刷や各種塗工機による塗工を用いることができ、さらにフィルム転写にて塗布するようにしてもよい。
【0020】
その際、コーティング剤の乾燥後の厚みは、使用する光触媒の粒子径に応じて選択すればよく、使用する光触媒1.5〜0.5倍とすることが好ましい。この厚みが、使用する光触媒の粒子径の1.5倍よりも厚い場合には、光触媒の粒子がコーティング層中に埋没して後述する第三の工程の後もコーティング層の表面から露出しにくい。また、光触媒の粒子径の0.5倍よりも薄い場合には、コーティング層から光触媒の粒子が脱離し易くなる。
【0021】
本発明の第二の工程として、コーティング剤の塗布層を乾燥する方法としては、選択したコーティング剤に応じて適宜に行えばよく、例えば周知の熱乾燥装置、紫外線照射装置、或いはそれらを組み合わせて適宜に用いばよい。
【0022】
本発明の第三の工程として、光触媒の粒子の一部を活性化する方法としては、紫外線を照射する処理を施す。具体的には後述する実施例に示したように複数の紫外線ランプを照射するようにすればよい。この処理により、光触媒の粒子の表面に付着したコーティング層が光分解されて消失し、粒子表面が露出して活性化する。
【実施例】
【0023】
以下の実施例1,4で用いた「VCT−01SD」、実施例3で用いた「VCT−02SD」、実施例5,6で用いた試作品は、何れも豊田通商社製の可視光反応タイプの光触媒である。
また、実施例2で用いた「#1007MC」は、バイオエコ社製のアナターゼ型の酸化チタンである紫外線反応タイプの光触媒である。
【0024】
[実施例1]
坪量135g/m2のコート紙に、大豆油インキにて、オフセット印刷を施し、グラビア塗工機にて、豊田通商社製の光触媒「VCT−01SD」(粒径0.3〜0.5μm)固形分換算として0.67kgに対して、東洋インキ製造社製のアクリル樹脂系のコーティング剤「アクワコート5900」固形分として1kgを混合し、さらに蒸留水にて希釈したものを、第一の工程として0.4μm(乾燥固形分)で塗工し、第二の工程として熱乾燥を行い、第三の工程として120w/cmの紫外線ランプ5灯を0.86秒/枚照射した。
得られた加工物は、外観が良好で、印刷面と「VCT−01SD+アクワコート5900」のコーティング剤の密着が良好で、且つ、可視光による光分解性能を持つことが別途試験にて確認された。また、抗菌効果も確認された。
【0025】
[実施例2]
バイオエコ社製のアナターゼ型の二酸化チタン「#1007MC」(粒径0.3〜0.5μm)固形分として0.02kgを、東洋インキ製造社製のアクリル樹脂系のコーティング剤「アクワコート5900」固形分として1kgに混合して用いた以外は、前記実施例1と同様の操作を行い、加工物を得た。
得られた加工物は、外観や密着が良好で、且つ、紫外線による光分解性能を持つことが別途試験にて確認された。
【0026】
[実施例3]
豊田通商社製の光触媒「VCT−02SD」(粒径0.3〜0.5μm)固形分として0.67kgと、東洋インキ製造社製の「J124PPメジウム」固形分として1kgを混合し、トルエンにて希釈し、第一の工程としてグラビア塗工機を用いて、0.4μm(乾燥固形分)にて塗工した以外は、前記実施例1と同様の操作を行い、加工物を得た。
得られた加工物は、外観が良好で、可視光による光分解性能を持つことが別途試験にて確認された。
【0027】
[実施例4]
15μmの厚みのポリプロピレンフィルムの表面に透明クリアを塗工したものを、印刷物の表面にラミネートし、さらにその表面に、前記実施例1と同様の可視光型の光触媒をコートして加工物を得た。
得られた加工物は、仕上り外観が良好であり、光分解性を持つものであった。
【0028】
[実施例5]
粒径0.2〜0.3μmの豊田通商社製の光触媒(試作品)を用い、第一の工程として0.2μm(乾燥固形分)で塗工した以外は、前記実施例1と同様の操作を行い、加工物を得た。
得られた加工物は、仕上り外観が良好であり、光分解性を持つものであった。
【0029】
[実施例6]
粒径1.5〜2.0μmの豊田通商社製の光触媒(試作品)を用い、第一の工程として1.5μm(乾燥固形分)で塗工した以外は、前記実施例1と同様の操作を行い、加工物を得た。
得られた加工物は、仕上り外観が良好であり、光分解性を持つものであった。
【0030】
[比較例1]
市販の酸化チタン(ルチル型)を用いた以外は、前記実施例1と同様の操作を行い、加工物を得た。
外観が良好で密着も良好だが、可視光による光分解性能と、抗菌効果は確認されなかった。
【0031】
[比較例2]
第一の工程として1.5μm(乾燥固形分)で塗工した以外は、前記実施例1と同様の操作を行い、加工物が得られた。
外観が良好で密着も良好だが、可視光による光分解性能と、抗菌効果は確認されなかった。
【0032】
[比較例3]
第一の工程として0.1μm(乾燥固形分)で塗工した以外は、前記実施例1と同様の操作を行い、加工物が得られた。
可視光による光分解性能と、抗菌効果は確認されたが、光触媒の粒子の脱離が観察された。
【0033】
[比較例4]
粒径0.2〜0.3μmの豊田通商社製の光触媒(試作品)を用いた以外は、前記実施例1と同様の操作を行い、加工物を得た。
外観が良好で密着も良好だが、可視光による光分解性能と、抗菌効果は確認されなかった。
【0034】
〔光分解性能試験〕
前記実施例1の加工物と、光触媒を含むコーティングを行っていない基材(ブランク)を、AAガス(アセトアルデヒド)の存在下で可視光を照射した環境下(1000ルックス)に放置し、AAガスの濃度が12時間後、24時間後にどの程度まで減少したのかを測定し、表1に示した。また、AAガスが分解されて生じるCO2の濃度が12時間後、24時間後にどの程度まで増加したのかを測定し、表1に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1より明らかなように、本発明の実施例1の加工物は、空気中の有害な化学成分であるAAガスに対し、明らかな分解効果が確認され、それに伴い、CO2濃度が増加していた。
【0037】
〔耐光性試験〕
評価条件;前記実施例1の加工物と、光触媒を含むコーティングを行っていないブランク(=大豆油インキにてオフセット印刷した印刷物)を試験対象とし、スガ試験機社製の紫外線オートフェードメーター U48AU(光源;カーボンアーク,ブラックパネル温度;63℃)を使用し、20時間、40時間、60時間紫外線を照射した後のインキの退色を調べた。
その結果として、実施例1の光触媒を添加したものも、添加しないブランクも、インキの退色に差は表れなかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
出版物、パッケージ、ステーショナリー、CD・DVDカバー、クリアファイル、壁紙等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙、合成紙、非木材紙、フィルムの何れか一種から選ばれる基材の表面に形成された印刷面の上に、可視光型の光触媒を、コーティング剤中の固形分の2重量%から等量までの範囲で混合した組成物を塗布する第一の工程、コーティング剤の塗布層を乾燥する第二の工程、光触媒の粒子の一部を活性化する第三の工程からなることを特徴とする光分解性能を付与するコーティング方法。
【請求項2】
紙、合成紙、非木材紙、フィルムの何れか一種から選ばれる基材の表面に形成された印刷面の上に、紫外線型の光触媒であるアナターゼ型二酸化チタンを、コーティング剤中の固形分の2重量%から等量までの範囲で混合した組成物を塗布する第一の工程、コーティング剤の塗布層を乾燥する第二の工程、光触媒の粒子の一部を活性化する第三の工程からなることを特徴とする光分解性能を付与するコーティング方法。
【請求項3】
第二の工程は、加熱、又は紫外線照射、又はその両方により行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の光分解性能を付与するコーティング方法。
【請求項4】
第三の工程は、紫外線を照射する処理であることを特徴とすることを特徴とする光分解性能を付与するコーティング方法。
【請求項5】
コーティング剤の乾燥後の厚みは、光触媒の粒子径の1.5〜0.5倍であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の光分解性能を付与するコーティング方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載のコーティング方法により、光分解性能を有するコーティング層を形成してなることを特徴とする光分解性能を付与した加工物。

【公開番号】特開2008−73664(P2008−73664A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258951(P2006−258951)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(503098791)株式会社トーツヤ・エコー (12)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】