説明

光回路およびその調整方法

【課題】光回路の複数箇所の光学特性(屈折率)を調整する。
【解決手段】本発明の一実施形態によれば、光回路において複数の箇所で導波路の屈折率を調整することができる。まず、第1の箇所で導波路に紫外線を照射し(ステップ302)、第1の温度で光回路を熱処理する(ステップ304)。次に、第2の箇所で導波路に紫外線を照射し(ステップ306)、第1の温度よりも低い第2の温度で光回路を熱処理する(ステップ308)。このように、光回路のそれぞれの箇所で紫外線の照射と熱処理を行い、熱処理の加熱温度を順次的に下げて行くことによって、先にトリミングした箇所の特性が後の熱処理によって影響を受けないようにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の光回路を1つの光回路基板に含む光集積回路の光学特性の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の平面光波回路(PLC)では、光回路の集積度が増加し、複雑な光回路が実現されるに至っている。図1に、光集積回路の例をいくつか示す。図1(a)は、計8個のアレイ導波路回折格子(AWG)102−1〜8と、可変光減衰器(VOA)104とを含む光集積回路100、図1(b)は、ラティス型光回路112と、2個のAWG114−1,114−2を集積した光回路110、図1(c)は、6段のラティス型光回路120、図1(d)は、2個の同期型マッハツェンダ干渉計(MZI)集積AWGの光回路130の例を示している。これらの光回路においては、製造上の作製誤差によって、所望の特性が得られない為、光学特性の調整が不可欠になっている。
【0003】
例えば、図1(a)の例の場合、AWGの透過率が最大となる中心波長λcは、導波路の実効屈折率をn、アレイ導波路の隣り合う導波路の長さの差をΔL、回折次数をmとして、次式で与えられる。
λc=n×ΔL/m
【0004】
しかし、製造誤差などにより、各導波路の平均的な実効屈折率nが変動し、AWGの透過中心波長λcが設計値からずれることがある。逆に言えば、各導波路の実効屈折率を調整することができれば、透過中心波長λcのずれを目標とする設計値に設定し直すことができる。また、紫外光を部分的にさえぎる遮光マスクを用いることにより、アレイ導波路の一部のみに光を照射して、中心波長を変える事もできる。この場合、アレイ導波路の隣り合う導波路で紫外光が照射される光路長の差をΔl、UV照射によって変化する実効屈折率をΔnとして、中心波長変化量Δλcは、次式であらわされる。
Δλc=Δn×Δl/m
【0005】
製造に起因する屈折率の誤差は、上記のように、AWG光回路の中心波長の誤差を生じるだけでなく、MZI光回路の透過/遮断波長や、AWGのアーム導波路の位相誤差による波長クロストークの劣化、VOA光回路のアーム導波路の位相誤差による消光比の劣化、透過スペクトル形状の劣化、分岐回路の分岐比の設計からのズレなど、さまざまな光学特性の劣化を引き起こすことが知られている。
【0006】
これらの光学特性を変化させる手法としては、紫外線などの光を導波路に照射する技術が知られている。これは、Geドープされた導波路の一部に紫外線を照射することにより、その部分の屈折率を調整することができるというものであり、光ファイバ中にグレーティングを形成したFBG(Fiber Bragg Grating)や導波路を集積した平面光波回路(PLC)の屈折率の調整に適用されている。また、屈折率の虚部も若干調整できる為、損失特性も微調整できる。
【0007】
この技術では、光の照射前に、導波路のコア部分に水素を含浸させると(水素処理)、光の感受性が高くなり、屈折率の変化量が大きくなることが知られている。また、水素処理後は、導波路中の水素濃度が時間とともに減少する為、光の感受性が徐々に減少していくが、光の照射後に導波路を数百度に加熱すると(熱処理)永続的に光感受性を高く保つことが出来る(以下では、この工程を前処理と呼ぶ)。光を照射すると屈折率が変化するが、生じた屈折率変化は比較的不安定な成分を含むことが知られている。加熱によって安定化熱処理を行なうと、屈折率変化の一部が緩和し、その後は屈折率が安定することが知られている。このように、製造段階において、水素処理、前処理、紫外線の照射および熱処理の条件を適切に設定することによって導波路の屈折率を所望の値に調整することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、光集積回路においては、多数の光回路が集積され、それぞれの光回路の光学特性を調整する事が必要とされている。この場合、複数の箇所の調整量はそれぞれ異なること、複数個所が関連して光学特性を決定する事が多い事などの為に、これら箇所を一括してトリミングすることは容易ではない。また、複数の箇所を順次的にトリミングする場合、紫外線照射後の熱処理の累積により、先にトリミングした箇所の特性が変化してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光回路の複数箇所の光学特性(屈折率)を、目的とする値に調整する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、光回路において複数の箇所で導波路の屈折率を調整する方法であって、第1の箇所で導波路に紫外線を照射し、第1の温度で光回路を熱処理するステップと、第2の箇所で導波路に紫外線を照射し、前記第1の温度よりも低い第2の温度で光回路を熱処理するステップとを備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の方法であって、前記第2の温度は、前記第1の温度よりも20℃以上低いことを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の方法であって、 前記熱処理することは、30分以上熱処理することを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の方法であって、光回路の特性を測定して、その結果に応じて個々の紫外線の照射条件および個々の熱処理の条件を決定することを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の方法であって、光回路の偏波依存性を測定して、その結果に応じて個々の熱処理の条件を決定することを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、光回路において複数の箇所で導波路の屈折率を調整する方法であって、前記複数の箇所でそれぞれの調整量に応じて導波路に紫外線を照射し、第1の温度で光回路を熱処理するステップと、前記光回路の特性を測定し、各箇所での調整量を特定するステップと、前記特定した各箇所での調整量に応じて導波路に紫外線を照射し、前記第1の温度よりも低い第2の温度で光回路を熱処理するステップとを備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の方法であって、前記第2の温度は、前記第1の温度よりも20℃以上低いことを特徴とする。
【0017】
また、請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の方法であって、前記熱処理することは、30分以上熱処理することを特徴とする。
【0018】
また、請求項9に記載の発明は、請求項6から8のいずれかに記載の方法であって、光回路の特性を測定して、その結果に応じて個々の紫外線の照射条件および個々の熱処理の条件を決定することを特徴とする。
【0019】
また、請求項10に記載の発明は、光回路であって、請求項1から9のいずれかの方法で導波路の屈折率を調整したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、平面光波回路(PLC)において複数の箇所で光学特性(屈折率)のトリミングを行うに際に、それぞれの箇所で紫外線照射と熱処理を行い、熱処理の加熱温度を順次的に下げて行くことによって、先にトリミングした箇所の特性が後の熱処理によって影響を受けないようにすることができる。これにより、複数の箇所で精度良く個々に光学特性(屈折率)のトリミングを行うことができる。
【0021】
また、複数個所を一括してトリミングする場合にも、再トリミングを繰り返し行なう際の熱処理の過熱温度を順次下げていくことによって、先にトリミングした箇所の特性があとの熱処理によって、影響を受けないようにする事が出来る。これにより、複数個所の光学特性(屈折率)のトリミングを効率よく、高精度にトリミングを行なう事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
(第1の実施形態)
本発明では、1チップ中に複数のAWGが含まれる光集積回路において、AWGの中心波長を調整する例を示す。多数のAWGを含む集積回路においては、中心波長は作製上の誤差によって、通常少なからずターゲットとするITU−Grid波長からのズレを有している。
【0023】
図2の初期値は、目的とする中心波長からのズレを示している。AWGの中心波長は、アレイ導波路の一部に紫外線を照射し、熱処理を施すことによって調整可能である。具体的には、紫外光を照射する領域(紫外光の遮光マスク)の形状、水素処理(導波路への水素の含浸)の有無、紫外線の照射強度および時間ならびにその後の熱処理条件(熱処理温度と時間)によって調整することができる。特に、屈折率変化を安定させるためには、おおむね150℃1h以上の熱処理が欠かせず、その熱処理の条件によって最終的な中心波長が決まる。
【0024】
図3に、熱処理による屈折率変化の緩和率の変化の一例を示す。ここで、緩和率とは、紫外線照射後の初期の屈折率変化を1として、熱処理によって低下した屈折率変化の割合を意味する。図3から明らかなように、紫外線照射後の屈折率変化は、その後の熱処理によって低下する。これは、熱処理によって紫外線照射により生じた屈折率変化のうち不安定な状態が除去されるためと考えられ、これによって導波路の屈折率変化が安定し、信頼性が改善される。
【0025】
また、図3に見られるように、屈折率変化の緩和率は、熱処理の条件(加熱温度および加熱時間)に応じて変化することがわかる。したがって、紫外線照射後の熱処理の条件設定によって屈折率を微調整することができる。また、この緩和率は、既に加えられた加熱温度以上の温度で加熱されなければ、比較的安定である。
【0026】
例えば、図4は、中心波長を1nm変化させた後に、250℃、もしくは、200℃で60分間加熱して安定化させたのち、150℃で加熱した時の中心波長の変化の様子を観測したものである。250℃で安定化させたサンプルは、150℃では、2週間以上中心波長が変化しない事が確認された。また、200℃で安定化させたサンプルは、2週間以上の熱処理で、中心波長がわずかに変化するが、その変化量は、許容できる範囲に収まっていると考えられる。すなわち熱処理温度が50℃違うだけで、少なくとも2週間程度の熱処理に耐えられる事が確認された。なお、このような実験に基づく中心波長の信頼性試験により、100℃の環境下で20年以上の長期信頼性が得られることが推定されている。逆に、150℃で60分加熱された導波路は、その後、200℃で加熱されると大きな中心波長変化を示す。そのため、複数箇所の屈折率を個別にトリミングする場合、熱処理の温度を順次下げながら熱処理を行うことによって、先にトリミングした箇所の特性が後の熱処理によって影響を受けないようにすることができる。
【0027】
図5を参照しながら、図1(a)に示す各AWGの中心波長を順次調整する方法について説明する。まず、紫外光に対する増感効果を得るためにチップ100の前処理を行う(ステップ300)。この前処理では、チップ100を高圧下で水素処理(導波路への水素の含浸)し、微量の紫外線を照射し(例えば、数J/cm2程度)、引き続き熱処理(一例として300℃)を行う。これにより、余分な水素が導波路から排出されるとともに、増感効果の安定化がはかれる。なお、この前処理により、チップ上のAWGの特性が若干変化するが、後の工程でこの変化量を含めて調整することができる。
【0028】
次に、一番目のAWG102−1に紫外線を照射する(ステップ302)。このとき照射する紫外線の強度および時間は、その後の熱処理による中心波長変化(屈折率変化)の緩和率を見込んで設定する。すなわち、紫外光照射終了時の中心波長変化をΔλi、緩和率をαとすると、紫外線の照射後に安定化熱処理を行なった後に得られる中心波長変化Δλは、次式で与えられる。
Δλ=Δλi×α
したがって、紫外線の照射強度および時間は、この中心波長変化Δλが得られる条件に設定する必要がある。
【0029】
次に、チップ100を第1の加熱温度で所定の時間だけ熱処理を行う(ステップ304)。これにより、紫外線を照射した一番目のAWG102−1の中心波長変化Δλiが緩和し、最終的にはΔλだけ調整される。なお、この温度は、増感効果の安定化に用いた温度より低く設定する。
【0030】
次に、二番目のAWG102−2に紫外線を照射する(ステップ306)。このとき照射する紫外線の強度および時間もまた、その後の熱処理による屈折率変化の緩和率を見込んで設定する。紫外線を照射後、チップ100を第1の加熱温度よりも低い第2の加熱温度で所定の時間だけ熱処理を行う(ステップ308)。これにより、既に中心波長を調整したAWG102−1に影響を与えることなく、紫外線を照射した二番目のAWG102−2の中心波長を所定の値に調整することができる。
【0031】
さらに、三番目のAWG102−3の一部に紫外線を照射する(ステップ306)。このとき照射する紫外線の強度および時間もまた、その後の熱処理による屈折率変化の緩和率を見込んで設定する。紫外線を照射後、チップ100を第2の加熱温度よりも低い第3の加熱温度で所定の時間だけ熱処理を行う(ステップ308)。これにより、既に屈折率を調整した一番目および二番目のAWG102−1,102−2に影響を与えることなく、紫外線を照射した三番目のAWG102−3の中心波長を所定の値に設定することができる。
【0032】
四番目以降のAWG102−4についても、同様に紫外線の照射と熱処理を繰り返す。ここで、熱処理の加熱温度は、長期的な信頼性を確保するために、200℃を下回らないことが望ましい。150℃で熱処理安定化することもできるが、この場合には使用環境の条件として室温付近であることが、20年以上の長期信頼性を得る為には望ましい。また、先のトリミングが後のトリミングによって影響を受けないようにするために、熱処理の時間はすくなくとも30分以上、望ましくは1時間以上とし、加熱温度は20℃以上の差をつけて下げていくことが望ましい。なお、この温度差を持たせれば、低温側の熱処理に少なくとも6時間程度は耐えられる。
【0033】
また、上述の緩和率αは、図3に示すように、時間の関数になっているので、加熱時間により屈折率の微調整をすることができる。さらに、上記の工程では、随時AWGの特性を測定しながら、紫外線の照射条件や熱処理の条件を決めるようにしてもよい。以上の工程によって、図2のトリミング後の線に示すように、中心波長はいずれもターゲット値に設定する事ができた。
【0034】
以上の例では、AWGの中心波長のトリミングの例を示したが、紫外光の遮光マスクを適切に設計する事により、AWGの特性調整全般、例えば、分散調整、波形形状調整、クロストーク改善などに適用できる。
【0035】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、第1の実施形態のトリミングを効率的にする手法を示す。すなわち、1)複数ある調整箇所にそれぞれの調整量に応じて紫外光を照射してトリミングを行ない(粗調整)、2)熱処理をして安定化させる。3)中心波長の設定値からの誤差を測定する。5)中心波長誤差が許容値を超える箇所のみ選択して紫外光を照射してトリミングを行なう(微調整)。6)前回の熱処理条件よりも20℃以上、のぞましくは50℃の温度差を付けて熱処理を行なう。7)中心波長誤差を測定し、誤差が許容値を越える箇所があれば、5)以下を繰り返す。
【0036】
なお、この実施形態では、第1の工程が前処理と同等な光感受性の増感安定化の働きを有する為、第1の実施形態で記載した、前処理は省いても構わない。
【0037】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、図1の(d)に示す同期型MZI集積AWG光回路130のトリミング例を示す。この例では、低損失かつ、高い透過スペクトル平坦性を有する、同期型MZI集積AWGが2回路含まれている場合を示す。
【0038】
この回路130においては、2つのAWG回路132−1,132−2ならびに2つのMZI回路134−1,134−2合わせて、4箇所の調整箇所がある。透過スペクトル形状ならびに損失は、AWG回路とMZI回路の波長差に応じて変化する特性を有している。このため、2回路ともに有効に利用する為には、全ての箇所が最適に調整されている必要がある。
【0039】
最終的に、透過スペクトルの中心波長と波形形状を最適な値とする為には、
a)AWG132−1,132−2の中心波長を調整。(モニタポート136−1,136−2により確認可能)
b)MZI134−1,134−2の中心波長を調整し、スペクトル形状を調整
という2段階の手順で調整することが望ましい。これは、AWGの中心波長はモニタ入力ポートを用いる事で容易に評価できるのに対して、MZIの波長特性はモニタがなく評価が困難な為である。a)につづいてb)という手順とする事によって、スペクトル形状から、MZIの必要調整量が容易に推定できる為である。
【0040】
具体的な手順としては、
a)AWGの調整において、
a−1)水素含浸処理を行ない、
a−2)それぞれのAWGに紫外光を照射して、中心波長を調整し、
a−3)それぞれのMZI部に微量の紫外光を照射して、増感効果の安定化をはかり、
a−4)第1の熱処理を行ない、
b)MZIの調整において、
b−1)それぞれのAWGのフラットポートのスペクトル形状から、調整量を推定し(損失・波形等から可能)、
b−2)MZI部に紫外光を照射して、スペクトル形状もしくは損失が最適となるように調整を行ない、
b−3)第2の熱処理を行なう
という手順によって実現することができる。このとき第2の熱処理によって、AWGの特性が変化しない為、容易に特性の調整を行なう事ができる。具体的にトリミング前後の波形例を図6に示す。この図に示すように二つの回路ともに良好な特性が得られている。
【0041】
(第4の実施形態)
図7は、本発明の第4の実施形態に係るマッハツェンダ干渉計の一例を示す。このマッハツェンダ干渉計(MZI)700は、入力導波路702と、等分の光カプラ704と、2つのアーム導波路706と、方向性結合器708と、2つの出力導波路710とから構成されている。
【0042】
このような構成において、複数の波長を有する光が入力導波路702に入射すると、光カプラ704で2つのアーム導波路706に分岐され、アーム導波路間の光路長の差により、波長に応じて位相差が生じる。アーム導波路706を通過した光は方向性結合器708で干渉し、その位相差(すなわち波長)に応じて2つの出力導波路710の一方から出射する。したがって、MZI700に入射した光は、波長に応じて、2つの出力導波路710のいずれかから出射するので、このMZIは、波長分波器として使用することができる。また、このMZI700は、出力導波路710からそれぞれ波長の異なる光を入射すると、入力導波路702から波長多重された光が出射され、波長合波器として使用することができる。
【0043】
一般に、MZIの透過率が最大となる中心波長λcは、アーム導波路の光路長差をΔσとして、次式で与えられる。
λc=Δσ/k (k:整数)
【0044】
図7の場合、光路長差Δσは、アーム導波路の長い方の実効屈折率をnl、アーム導波路の短い方の実効屈折率をns、アーム導波路の長い方の導波路長の長さをLl、アーム導波路の短い方の導波路長の長さLsとして、次式で表される。
Δσ=(nl×Ll−ns×Ls)
【0045】
しかし、製造誤差により、各アーム導波路の実効屈折率および導波路長が変動し、MZIの中心波長λcが設計値からずれることがある。したがって、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、MZIのアーム導波路706の一部(図7の斜線部分)に紫外線を照射し、熱処理を施すことによって各アーム導波路の実効屈折率nl,nsを個別に調整し、中心波長λcのずれを目標とする設計値に設定し直すことができる。
【0046】
ここで、紫外線照射による導波路の屈折率調整を行うと、図8に一例を示すように、偏波依存性を生じる。なお、以下の説明は、水素含浸処理を行なわない場合に生じる偏波依存性に関するものであり、水素含浸処理を行なった場合には、偏波依存性が小さくなることに留意されたい。この偏波依存性βは、紫外線照射による屈折率変化に起因するMZIのTEモードおよびTMモードでの波長変化をそれぞれΔλTEおよびΔλTMとし、平均の波長変化をΔλaveとすると、次式であらわすものとする。
β=(ΔλTE−ΔλTM)/Δλave
【0047】
図8から明らかなように、紫外線照射後の波長変化は、両モードともその後の熱処理によって低下する。しかし、熱処理による波長変化の度合いは、両モードで異なっており、その差は高い加熱温度で小さく、低い加熱温度で大きい。したがって、この偏波依存性を解消するには、短い方のアーム導波路に紫外線を照射して屈折率の調整を行った後、高い加熱温度で熱処理を行い、その後、長い方のアーム導波路に紫外線を照射して屈折率の調整を行った後、低い加熱温度で熱処理を行うことにより達成できる(図9)。これにより、MZI回路の偏波依存性を解消しつつ、中心波長調整を行うことができる。図9では、中心波長を変化させないように調整した例を示した。
【0048】
また、製造プロセスにおける複屈折の導入により生じた偏波依存性を予め測定しておけば、初期の偏波依存性を含めて、紫外線照射後の熱処理により全体の偏波依存性を解消することができる。これにより、中心波長λcのばらつきが少なく、偏波無依存のMZIを作製することができる。
【0049】
以上、本発明について、具体的にいくつかの実施形態について説明したが、本発明の原理を適用できる多くの実施可能な形態に鑑みて、ここに記載した実施形態は、単に例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。ここに例示した実施形態は、本発明の趣旨から逸脱することなくその構成と詳細を変更することができる。さらに、説明のための構成要素および手順は、本発明の趣旨から逸脱することなく変更、補足、またはその順序を変えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】光集積回路の例を示す図である。
【図2】本発明によるトリミング前後での中心波長誤差を示す図である。
【図3】熱処理による屈折率変化の緩和率の変化の一例を示す図である。
【図4】熱処理による安定化後の中心波長変化の様子を示す図である。
【図5】本発明による調整方法を示す流れ図である。
【図6】本発明の第3の実施形態によるトリミング前後の波形例を示す図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係るマッハツェンダ干渉計の一例を示す図である。
【図8】紫外線照射によるトリミングにおける偏波依存性の一例を示す図である。
【図9】本発明の第4の実施形態において偏波依存性を解消した結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
100 光集積回路
102−1〜8 アレイ導波路回折格子(AWG)
104 可変光減衰器(VOA)
110 光回路
112 ラティス型光回路
114−1,2 アレイ導波路回折格子(AWG)
120 ラティス型光回路
130 光回路
132−1,2 AWG回路
134−1,2 MZI回路
136−1,2 モニタポート
700 マッハツェンダ干渉計(MZI)
702 入力導波路
704 光カプラ
706 アーム導波路
708 方向性結合器
710 出力導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光回路において複数の箇所で導波路の屈折率を調整する方法であって、
第1の箇所で導波路に紫外線を照射し、第1の温度で光回路を熱処理するステップと、
第2の箇所で導波路に紫外線を照射し、前記第1の温度よりも低い第2の温度で光回路を熱処理するステップと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記第2の温度は、前記第1の温度よりも20℃以上低いことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、
前記熱処理することは、30分以上熱処理することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法であって、
光回路の特性を測定して、その結果に応じて個々の紫外線の照射条件および個々の熱処理の条件を決定することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の方法であって、
光回路の偏波依存性を測定して、その結果に応じて個々の熱処理の条件を決定することを特徴とする方法。
【請求項6】
光回路において複数の箇所で導波路の屈折率を調整する方法であって、
前記複数の箇所でそれぞれの調整量に応じて導波路に紫外線を照射し、第1の温度で光回路を熱処理するステップと、
前記光回路の特性を測定し、各箇所での調整量を特定するステップと、
前記特定した各箇所での調整量に応じて導波路に紫外線を照射し、前記第1の温度よりも低い第2の温度で光回路を熱処理するステップと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
前記第2の温度は、前記第1の温度よりも20℃以上低いことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の方法であって、
前記熱処理することは、30分以上熱処理することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項6から8のいずれかに記載の方法であって、
光回路の特性を測定して、その結果に応じて個々の紫外線の照射条件および個々の熱処理の条件を決定することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかの方法で導波路の屈折率を調整した光回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−145603(P2009−145603A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322538(P2007−322538)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(591230295)NTTエレクトロニクス株式会社 (565)
【Fターム(参考)】