説明

光増幅モジュール、光増幅器およびレーザ発振器

【課題】 高品質の光出力を得ることができる光増幅器及びレーザ発振器、並びに、これら光増幅器およびレーザ発振器において好適に用いられる光増幅モジュールを提供する。
【解決手段】 光増幅モジュール要部10Aは、ウィンドウ122,123を有する真空容器121の内部に、ヒートシンク130、固体レーザ媒質151、透明部材152、透明部材153、インジウム箔154、インジウム箔155および断熱部材156を収納したものである。インジウム箔154、透明部材152、固体レーザ媒質151、透明部材153およびインジウム箔155は、各々ディスク形状のものであり、この順に積層されている。透明部材152,153それぞれの熱伝導率は、固体レーザ媒質151の熱伝導率より高い。固体レーザ媒質151とヒートシンク130との間に設けられた断熱部材156の熱伝導率は、固体レーザ媒質151の熱伝導率より低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起光が照射されることにより放出光を発生する固体レーザ媒質を含む光増幅モジュール、このような光増幅モジュールおよび励起手段を含む光増幅器、ならびに、このような光増幅器および共振器を含むレーザ発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体レーザ媒質を含む光増幅器は、励起光源から出力された励起光を固体レーザ媒質に照射して、固体レーザ媒質に含まれている活性元素(例えば希土類元素または遷移金属元素)を励起し、この固体レーザ媒質における誘導放射現象を利用して所定波長の光を光増幅する。また、レーザ発振器は、このような光増幅器および共振器を備えて構成される。例えば、固体レーザ媒質はYb添加YAGであり、励起光源はレーザダイオードであり、光増幅し得る光の波長は1030nmである。
【0003】
このような構成の光増幅器またはレーザ発振器では、動作時に固体レーザ媒質が発熱することから、安定した動作を得るとともに高品質の光出力を得るには、固体レーザ媒質を放熱または冷却する必要がある。例えば、特許文献1に開示されたレーザ発振器では、活性元素を含まない多結晶質透明セラミックと固体レーザ媒質(活性元素を添加した多結晶質透明セラミック)とが互いに接していて、また、これらの両側面にヒートシンクが接している。このような構成とすることで、固体レーザ媒質で発生した熱は、活性元素を含まない多結晶質透明セラミックやヒートシンクを伝播していくので、固体レーザ媒質の温度上昇が抑制されるとされている。
【特許文献1】特開2002−57388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたレーザ発振器であっても、固体レーザ媒質の放熱または冷却は充分では無く、高品質の光出力が得られない場合がある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、高品質の光出力を得ることができる光増幅器およびレーザ発振器、ならびに、これら光増幅器およびレーザ発振器において好適に用いられる光増幅モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る光増幅モジュールは、(1) 互いに対向する第1主面および第2主面を有し、活性元素が添加されており、励起光が照射されることにより放出光を発生する固体レーザ媒質と、(2) 固体レーザ媒質の第1主面に接して設けられ、活性元素が添加されておらず、励起光および放出光の双方を透過させる第1透明部材と、(3) 固体レーザ媒質の第2主面に接して設けられ、活性元素が添加されておらず、励起光および放出光の双方を透過させる第2透明部材と、(4) 固体レーザ媒質に接することなく、第1透明部材および第2透明部材それぞれの主面に接して設けられたヒートシンクと、を備えることを特徴とする。更に、本発明に係る光増幅モジュールでは、第1透明部材および第2透明部材それぞれの熱伝導率は固体レーザ媒質の熱伝導率より高く、固体レーザ媒質とヒートシンクとの間の空間の熱伝導率は固体レーザ媒質の熱伝導率より低いことを特徴とする。なお、固体レーザ媒質とヒートシンクとの間の空間は、固体または液体であってもよいし、空気その他の気体であってもよいし、真空であってもよい。
【0007】
本発明に係る光増幅モジュールは、ヒートシンクを冷却する冷却手段を更に備えるのが好適であり、また、ヒートシンクを加熱する加熱手段を更に備えるのが好適である。また、本発明に係る光増幅モジュールは、固体レーザ媒質、第1透明部材および第2透明部材を密閉空間の内部に収納し、励起光および放出光を透過させるウィンドウを有し、その密閉空間の内部を真空に保つ真空容器を更に備えるのが好適である。
【0008】
本発明に係る光増幅モジュールでは、固体レーザ媒質の主面に接して熱伝導率が高い第1透明部材および第2透明が設けられ、また、固体レーザ媒質の側面に接して熱伝導率が低い断熱部材が設けられている。このことから、励起光照射により固体レーザ媒質で発生した熱は、固体レーザ媒質の両主面に接している透明部材へ伝導し、さらにヒートシンクへ伝導していく。一方、固体レーザ媒質の側面から断熱部材の方へ伝導していく熱の量は僅かである。したがって、固体レーザ媒質への励起光照射に因る熱レンズ効果が低減され、固体レーザ媒質で光増幅されて出力される光の波面の乱れが抑制されて、高品質の光出力を得ることができる。また、ヒートシンクを冷却する冷却手段や、ヒートシンクを加熱する加熱手段が設けられている場合には、固体レーザ媒質の温度が適切に設定されて、好適な条件の下で固体レーザ媒質における光増幅が行われる。また、固体レーザ媒質等を内部に収納する真空容器が設けられている場合には。固体レーザ媒質等の結露が防止される。
【0009】
本発明に係る光増幅器は、上記の本発明に係る光増幅モジュールと、この光増幅モジュールに含まれる固体レーザ媒質に励起光を照射する励起手段と、を備えることを特徴とする。この光増幅器では、励起手段により励起光が照射されることにより固体レーザ媒質の活性元素が励起され、そのときに固体レーザ媒質に入射した所定波長の光は固体レーザ媒質において光増幅される。固体レーザ媒質を含む光増幅モジュールは上記の本発明に係るものであることから、この光増幅器により光増幅されて出力される光は高品質・高出力のものとなる。
【0010】
本発明に係るレーザ発振器は、上記の本発明に係る光増幅モジュールと、この光増幅モジュールに含まれる固体レーザ媒質に励起光を照射する励起手段と、この光増幅モジュールに含まれる固体レーザ媒質を共振光路上に有する共振器と、を備えることを特徴とする。このレーザ発振器では、励起手段により励起光が照射されることにより固体レーザ媒質の活性元素が励起され、光共振器の作用により固体レーザ媒質において誘導放射現象が生じてレーザ光が得られる。固体レーザ媒質を含む光増幅モジュールは上記の本発明に係るものであることから、このレーザ発振器から出力されるレーザ光は高品質・高出力のものとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高品質の光出力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しておらず、各要素の寸法や材質等は一例にすぎない。
【0013】
先ず、本発明に係る光増幅モジュールの実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る光増幅モジュール10の全体構成図である。この図に示される光増幅モジュール10は、基盤101および支持部102,103により支持されていて、真空ポンプ104、第1液体窒素保存タンク111、第2液体窒素保存タンク112、冷却装置外壁113、真空容器121、ヒートシンク130および温度コントローラ141等を備える。なお、真空容器121内に収納される光増幅モジュール要部については後述する。
【0014】
冷却装置外壁113は、基盤101に対して固定された支持部102,103により支持されており、例えばステンレスからなり、その内部に第1液体窒素保存タンク111および第2液体窒素保存タンク112が設けられている。第1液体窒素保存タンク111は、冷却装置外壁113の上蓋に固定されていて、この上蓋を貫通する液体窒素注入口114,115が設けられていて、これら液体窒素注入口114,115を介して、液体窒素を内部に注入し、或いは、気化した窒素を外部へ排出する。
【0015】
第2液体窒素保存タンク112は、第1液体窒素保存タンク111の下方に設けられ、ニードル弁116の先端が挿入される微小孔を介して第1液体窒素保存タンク111と接続されている。ニードル弁116の先端が微小孔に挿入されて微小孔が塞がっているときには、第2液体窒素保存タンク112は第1液体窒素保存タンク111と分離される。一方、ニードル弁116の先端が微小孔に挿入されていないときには、第2液体窒素保存タンク112は第1液体窒素保存タンク111と接続され、第1液体窒素保存タンク111の内部にある液体窒素が第2液体窒素保存タンク112の内部に注入される。そのときの注入量は、ニードル弁116の位置により調整可能である。また、第2液体窒素保存タンク112は、排気口117が設けられていて、この排気口117を介して気化した窒素を外部へ排出する。
【0016】
真空容器121およびヒートシンク130は、第2液体窒素保存タンク112の下方に設けられている。ヒートシンク130を含む光増幅モジュール要部は、真空容器121の内部に設けられる。ヒートシンク130には内部空間が設けられ、この内部空間が第2液体窒素保存タンク112の内部空間と接続されていて、この内部空間に液体窒素が流入することで、ヒートシンク130が冷却される。ヒートシンク130にはヒータ142および熱電対が設けられていて、これらヒータ142および熱電対は温度コントローラ141に接続されている。温度コントローラ141は、熱電対によるヒートシンク130の温度を測定した結果をモニタし、また、ヒータ142に通電することでヒートシンク130の温度を上昇させる。
【0017】
第1液体窒素保存タンク111および第2液体窒素保存タンク112と冷却装置外壁113との間の空間は、真空容器121の内部空間と接続され、また、排気管105を介して真空ポンプ104と接続されていている。これらの空間が真空ポンプ104により真空に保持されることにより、液体窒素による冷却時に結露を防止することができ、また、第1液体窒素保存タンク111または第2液体窒素保存タンク112を断熱することができる。
【0018】
図2は、本実施形態に係る光増幅モジュール10に含まれるヒートシンク130の構成図である。同図(a)は正面図であり、同図(b)は側面図であり、同図(c)は平面図である。ヒートシンク130は、ヒートシンク本体131と押え板132とからなる。ヒートシンク本体131は、略矩形状部分と上部の円柱状部分とを有し、上部円柱状部分には8個のねじ穴133が設けられ、これによりヒートシンク本体131は第2液体窒素保存タンク112の底面にネジ留めされる。なお、このとき、ヒートシンク本体131の上部円柱状部分と第2液体窒素保存タンク112の底面との間の密着度を高めて熱伝導をよくするために、両者間に例えば厚さ100μmのインジウム箔が挟み込まれるのが好適である。この場合には、このインジウム箔はヒートシンク130の一構成要素であると言える。
【0019】
ヒートシンク本体131の略矩形状部分の下部には4個のネジ穴134および貫通孔136が設けられている。一方、押え板132にも4個のネジ穴135および貫通孔137が設けられている。これらヒートシンク本体131および押え板132は、ネジ穴134,135により互いにねじ留めされ、そのときに、両者間に固体レーザ媒質等を挟むとともに、貫通孔136,137が互いに同じ位置に重なる。
【0020】
ヒートシンク本体131の周囲には、ヒータ142が巻き付けられ、また、熱電対143が設けられている。これらヒータ142および熱電対143は、温度コントローラ141と接続されている。また、ヒートシンク本体131には、上部が開放されている内部空間138が設けられている。ヒートシンク本体131が第2液体窒素保存タンク112の底面にネジ留めされているときに、このヒートシンク本体131の内部空間138は、第2液体窒素保存タンク112の内部空間と接続されており、第2液体窒素保存タンク112から液体窒素が流入し得る。
【0021】
ヒートシンク本体131および押え板132は、熱伝導率が高い媒質からなり、例えば金属からなるのが好適であり、また、例えば銅からなるのが好適である。ヒートシンク本体131の上部円柱状部分は、例えば、直径40mmであり、厚さ5mmである。ヒートシンク本体131の下部矩形状部分は、例えば、縦50mmであり、幅15mmであり、厚さ7mmである。押え板132の形状は例えば15mm×15mm×厚さ2mmである。貫通孔136,137の形状は例えば直径2mmの円形である。内部空間138の上部開放部の形状は例えば10mm×3mmの矩形である。ヒータ142は、例えば、電気抵抗合金マンガニン製であり、最大供給電力が40Wである。液体窒素による冷却およびヒータ142による加熱により、ヒートシンク130の温度は例えば77K〜300Kの範囲で設定可能である。
【0022】
図3は、本実施形態に係る光増幅モジュール要部10Aの断面図であり、図2に示される貫通孔136,137の中心軸を含む断面を示す。また、図4は、本実施形態に係る光増幅モジュール要部10Aの説明図である。光増幅モジュール要部10Aは、ウィンドウ122,123を有する真空容器121の内部に、ヒートシンク130、固体レーザ媒質151、透明部材152、透明部材153、インジウム箔154、インジウム箔155および断熱部材156を収納したものである。インジウム箔154、透明部材152、固体レーザ媒質151、透明部材153およびインジウム箔155は、各々ディスク形状のものであり、この順に積層されている。インジウム箔154,155は、中央に開口が設けられている。
【0023】
固体レーザ媒質151は、互いに対向する第1主面および第2主面を有し、活性元素が添加されており、励起光が照射されることにより放出光を発生することができる。固体レーザ媒質151の第1主面に接して透明部材152が設けられ、固体レーザ媒質151の第2主面に接して透明部材153が設けられている。固体レーザ媒質151および透明部材152,153それぞれの主面のうち相互に接する主面は、互いの密着度がよくなるように、光学研磨されているのが好適である。透明部材152,153は、活性元素が添加されておらず、上記励起光および上記放出光の双方を透過させることができる。ウィンドウ122,123も、上記励起光および上記放出光の双方を透過させることができる。透明部材152,153およびウィンドウ122,123それぞれの主面は、上記励起光および上記放出光それぞれの波長における反射を低減するための誘電体多層膜フィルタが形成されているのが好適である。
【0024】
固体レーザ媒質151の4つの側面に接して断熱部材156が設けられている。ヒートシンク130は、固体レーザ媒質151に接することなく、透明部材152および透明部材153それぞれの主面および側面に接して設けられている。なお、透明部材152,153とヒートシンク130との間の密着度を高めて熱伝導をよくするために、透明部材152とヒートシンク130との間に例えば厚さ100μmのインジウム箔154が設けられ、透明部材153とヒートシンク130との間に例えば厚さ100μmのインジウム箔155が設けられているのが好適である。この場合には、これらのインジウム箔152,153はヒートシンク130の一構成要素であると言える。
【0025】
透明部材152,153それぞれの熱伝導率は、固体レーザ媒質151の熱伝導率より高い。また、固体レーザ媒質151とヒートシンク130との間に設けられた断熱部材156の熱伝導率は、固体レーザ媒質151の熱伝導率より低い。
【0026】
固体レーザ媒質151は、例えば、組成が25at%のYb元素が添加されたYAGであり、寸法が3mm×3mm×0.8mmである。透明部材152,153それぞれは、例えば、組成がサファイアガラスであり、寸法が6mm×6mm×1.5mmである。インジウム箔154,155それぞれの開口は例えば直径2mmの円形である。断熱部材156は、例えば、組成がテフロン(登録商標)等の樹脂であり、幅1mmであり、厚さ0.8mmであり、シリコンポッティングにより固体レーザ媒質151の側面に接着される。
【0027】
なお、透明部材152,153の主面寸法(上記の例では6mm×6mm)と比べて、固体レーザ媒質151および断熱部材156の全体の主面寸法(上記の例では5mm×5mm)が小さすぎると、熱歪みによって両者間に隙間ができて、固体レーザ媒質151から透明部材152,153への熱伝導の効率が低下する場合がある。したがって、透明部材152,153の主面寸法は、固体レーザ媒質151および断熱部材156の全体の主面寸法と同程度であるのが好ましい。
【0028】
以上に説明した構成を有する光増幅モジュール10では、液体窒素注入口114,115から液体窒素が第1液体窒素保存タンク111に注入され、ニードル弁116の調整により、第1液体窒素保存タンク111から液体窒素が第2液体窒素保存タンク112に注入され、さらに、その液体窒素がヒートシンク130の内部空間138に流入して、これにより、ヒートシンク130が冷却される。また、ヒータ142によりヒートシンク140が加熱される。
【0029】
固体レーザ媒質151に含まれる活性元素を励起するための励起光は、固体レーザ媒質151の主面に対して垂直に入射する。固体レーザ媒質151において光増幅されるべき光も、固体レーザ媒質151の主面に対して垂直に入射する。また、固体レーザ媒質151において誘導放射された光は、固体レーザ媒質151の主面に対して垂直に出射する。これらの光は、ヒートシンク130の貫通孔136,137、および、インジウム箔154,155の開口を通過し、また、透明部材152,153を透過する。
【0030】
固体レーザ媒質151に励起光が照射されると、その励起光のエネルギの一部は活性元素を励起するのに消費されるが、残部は固体レーザ媒質151に温度上昇をもたらす。このとき固体レーザ媒質151で発生した熱は、固体レーザ媒質151の両主面に接している透明部材152,153へ伝導し、さらに、インジウム箔154,155を経てヒートシンク130へ伝導していく。一方、熱伝導率が低い断熱部材156が固体レーザ媒質151の側面に設けられているので、固体レーザ媒質151の側面から断熱部材156の方へ伝導していく熱の量は僅かである。
【0031】
常温(300K)において、透明部材152,153の一例であるサファイアガラスの熱伝導率(20W/m・K)は、固体レーザ媒質151の一例であるYb:YAGの熱伝導率(12W/m・K)と同程度である。しかし、透明部材152,153の一例であるサファイアガラスの低温(77K)における熱伝導率(1000W/m・K)は、常温(300K)における熱伝導率と比較して2桁ほど高い。このような透明部材152,153の特性を活用すべく、ヒートシンク130は液体窒素により冷却され、さらに、固体レーザ媒質151および透明部材152,153は伝導冷却される。したがって、透明部材152,153を設けること無く固体レーザ媒質151を直接冷却する場合と比較して、熱伝導率が高い透明部材152,153を介して固体レーザ媒質151を冷却する場合には、固体レーザ媒質151で発生して熱は効果的に排出される。
【0032】
図5は、本実施形態に係る光増幅モジュール10に含まれる固体レーザ媒質151における温度分布を示す図である。同図(a)は光増幅モジュール要部10Aの断面を示し、同図(b)は固体レーザ媒質151における光軸に沿った温度分布を示し、また、同図(c)は固体レーザ媒質151における光軸に垂直な方向に沿った温度分布を示す。なお、同図(b)および(c)では、本実施形態の場合の温度分布が実線で示されているだけでなく、比較例の場合の温度分布も破線で示されている。同図(b)における比較例1では、透明部材152,153が設けられておらず、固体レーザ媒質151の主面がヒートシンク130に接している。また、同図(c)における比較例2では、断熱部材156が設けられておらず、固体レーザ媒質151の側面がヒートシンク130に接している。
【0033】
同図(b)に示されるように、固体レーザ媒質151の主面がヒートシンク130に接している比較例1と比較すると、熱伝導率が高い透明部材152,153が固体レーザ媒質151の主面とヒートシンク130との間に設けられている本実施形態では、固体レーザ媒質151における光軸に沿った温度分布は、ピーク値が低く、かつ、変化が小さい。一方、同図(c)に示されるように、固体レーザ媒質151の側面がヒートシンク130に接している比較例2と比較すると、熱伝導率が低い断熱部材156が固体レーザ媒質151の側面とヒートシンク130との間に設けられている本実施形態では、固体レーザ媒質151における光軸に垂直な方向に沿った温度分布は、均一化される。
【0034】
図6は、本実施形態に係る光増幅モジュール10に含まれる固体レーザ媒質151における励起光吸収パワーと熱レンズの度(焦点距離の逆数)との関係を示す図である。この図に示されるように、比較例と比較して、本実施形態に係る光増幅モジュール10では、固体レーザ媒質151への励起光照射に因る熱レンズ効果が低減され、固体レーザ媒質151の光軸に垂直な方向に沿った熱勾配が1/3程度に抑えられる。したがって、この光増幅モジュール10を用いた光増幅器やレーザ発振器では、高品質の光出力を得ることができる。
【0035】
また、本実施形態では、固体レーザ媒質151を透明部材152,153で挟んで、固体レーザ媒質151の両主面から冷却しているので、熱破壊限界に因る固体レーザ媒質151の厚さの上限は、一方の主面のみから冷却する場合と比較すると4倍となる。その結果、寄生発振に因る制限が無ければ、固体レーザ媒質151の体積を4倍にすることができ、固体レーザ媒質151に多くのエネルギを蓄積することができ、高利得・高出力の光増幅器やレーザ発振器を実現することができる。また、光増幅器やレーザ発振器の構成の簡略化にもつながり、これらの装置の小型化にも寄与することができる。
【0036】
次に、本発明に係る光増幅器の実施形態について説明する。図7は、本実施形態に係る光増幅器1の構成図である。この図に示される光増幅器1は、前述した本実施形態に係る光増幅モジュール10を備える。ただし、この図には、光増幅モジュール10のうちの光増幅モジュール要部10Aが示されている。また、この光増幅器1は、レーザダイオード11a,11b、光ファイバ12a,12b、レンズ系14a,14b、および、ミラー15a,15bをも備える。
【0037】
レーザダイオード11a,11bそれぞれは、光増幅モジュール要部10Aの固体レーザ媒質151に含まれる活性元素を励起し得る波長の励起光を出力する。光ファイバ12aは、レーザダイオード11aから出力された励起光を一端に入力して導光し、その励起光を出射端13aから外部へ出射する。レンズ系14aは、出射端13aから出射された励起光を入力して、その励起光を固体レーザ媒質151に集光照射させる。光ファイバ12bは、レーザダイオード11bから出力された励起光を一端に入力して導光し、その励起光を出射端13bから外部へ出射する。レンズ系14bは、出射端13bから出射された励起光を入力して、その励起光を固体レーザ媒質151に集光照射させる。レンズ系14aから固体レーザ媒質151へ入射する励起光と、レンズ系14bから固体レーザ媒質151へ入射する励起光とは、各々の入射方向が互いに対向している。レンズ系14a,14bは、励起光波長における透過率が高い材料からなり、また、励起光波長における反射率を低減するための誘電体多層膜フィルタがレンズ面に形成されているのが好適である。
【0038】
ミラー15aは、光増幅モジュール要部10Aとレンズ系14aとの間の励起光の光路上に設けられている。ミラー15bは、光増幅モジュール要部10Aとレンズ系14bとの間の励起光の光路上に設けられている。ミラー15a,15bは、光増幅モジュール要部10Aに対向する面が凹面となっていて、固体レーザ媒質151で発生する放出光を該凹面で反射させることができ、その一方で励起光を透過率させることができる。このような透過および反射の特性を有すべく、ミラー15a,15bそれぞれの凹面にはダイクロイックコーティングが施されている。
【0039】
例えば、固体レーザ媒質151がYb:YAGであって、励起光波長が940nmであり、放出光波長が1030nmである場合、各構成要素の具体例は以下のとおりである。レーザダイオード11a,11bは、出力光波長が940nmであり、最大出力パワーが140Wである。レンズ系14a,14bは、例えば、波長940nmにおける透過率が99.6%となるような誘電体多層膜フィルタが形成され、2つの平凸レンズが組み合わされたものであり、一方の平凸レンズの凸面の反射面の曲率半径が150nmであり、他方の平凸レンズの凸面の反射面の曲率半径が300nmであって、固体レーザ媒質151における励起光のビーム径を180μmまで絞ることができる。ミラー15a,15bは、凹面の反射面の曲率半径が100mmであり、励起光波長における透過率が97.6%であり、凹面の反射面での放出光波長における反射率が99.6%である。
【0040】
このように構成される本実施形態に係る光増幅器1は以下のように動作する。レーザダイオード11aから出力された励起光は、光ファイバ12aにより導光されて出射端13aから出射され、レンズ系14aにより収斂され、ミラー15aを透過し、ウィンドウ122を透過し真空容器121内に導入され、透明部材152を透過して、固体レーザ媒質151の一方の主面に垂直に照射される。また、レーザダイオード11bから出力された励起光は、光ファイバ12bにより導光されて出射端13bから出射され、レンズ系14bにより収斂され、ミラー15bを透過し、ウィンドウ123を透過し真空容器121内に導入され、透明部材153を透過して、固体レーザ媒質151の他方の主面に垂直に照射される。このように、固体レーザ媒質151の双方の主面それぞれに励起光が垂直に照射されて、固体レーザ媒質151に含まれる活性元素が励起される。
【0041】
光増幅されるべき光Lは、ミラー15aの凹面に対して所定方位で入射し、ミラー15aの凹面により反射され、ウィンドウ122を透過し真空容器121内に導入され、透明部材152を透過し、固体レーザ媒質151の一方の主面に垂直に入射して、この固体レーザ媒質151における誘導放射現象により光増幅される。固体レーザ媒質151において光増幅された後の光Lは、固体レーザ媒質151の他方の主面から垂直に出射し、透明部材153およびウィンドウ123を透過し、ミラー15bの凹面により反射される。ミラー15bの凹面により反射された光が、光増幅器1の出力光となる。
【0042】
以上のように、本実施形態に係る光増幅器1では、光増幅モジュール10に含まれる固体レーザ媒質151の双方の主面それぞれに励起光が垂直に入射し、また、固体レーザ媒質151の一方の主面に被増幅光Lが垂直に入射する。仮に透明部材152,153が設けられていないとすれば、励起光照射による固体レーザ媒質151における熱レンズ効果により、被増幅光Lが固体レーザ媒質151で光増幅されて出力光Lとして出射する際に、該出力光Lの波面が乱れる。しかし、本実施形態では、固体レーザ媒質151の主面に接して熱伝導率が高い透明部材152,153が設けられ、さらに、固体レーザ媒質151の側面に接して熱伝導率が低い断熱部材156が設けられていることにより、図5および図6で説明したように、固体レーザ媒質151への励起光照射に因る熱レンズ効果が低減され、被増幅光Lが固体レーザ媒質151で光増幅されて出力光Lとして出射する際の該出力光Lの波面の乱れが抑制されて、高品質の光出力を得ることができる。
【0043】
次に、本発明に係るレーザ発振器の第1実施形態について説明する。図8は、第1実施形態に係るレーザ発振器2の構成図である。この図に示されるレーザ発振器2は、前述した本実施形態に係る光増幅モジュール10を備える。ただし、この図には、光増幅モジュール10のうちの光増幅モジュール要部10Aが示されている。また、このレーザ発振器2は、レーザダイオード11a,11b、光ファイバ12a,12b、レンズ系14a,14b、ミラー15a,15b、リアミラー21および出力ミラー22をも備える。図7に示した光増幅器1の構成と比較すると、この図8に示したレーザ発振器2は、リアミラー21および出力ミラー22を更に備える点で相違する。
【0044】
リアミラー21は、反射面が凹面であり、固体レーザ媒質151で発生する放出光を該凹面で反射させることができる。出力ミラー22は、平面ミラーであり、固体レーザ媒質151で発生する放出光が入射すると、その放出光の一部を透過させ、残部を反射させる。例えば、放出光の波長は1030nmであり、放出光波長におけるリアミラー21の反射率は99.6%であり、放出光波長における出力ミラー22の反射率は85%である。また、例えば、リアミラー21の凹面の反射面の曲率半径は1000mmである。
【0045】
リアミラー21および出力ミラー22はファブリペロー型の共振器を構成している。この共振器の共振光路上に、固体レーザ媒質151、透明部材152,153、および、ミラー15a,15bが設けられている。ミラー15a,15b、リアミラー21および出力ミラー22それぞれの反射面の曲率半径は、レーザ発振器2が安定共振器として動作するように、且つ、固体レーザ媒質151において共振光のビーム径が最も小さくなるように、設定されている。共振器の共振光路は、固体レーザ媒質151の主面に垂直である。また、共振光路上にミラー15a,15bが設けられていることにより、X字型の共振器が構成されている。
【0046】
このように構成される第1実施形態に係るレーザ発振器2は以下のように動作する。レーザダイオード11aから出力された励起光は、光ファイバ12aにより導光されて出射端13aから出射され、レンズ系14aにより収斂され、ミラー15aを透過し、ウィンドウ122を透過し真空容器121内に導入され、透明部材152を透過して、固体レーザ媒質151の一方の主面に垂直に照射される。また、レーザダイオード11bから出力された励起光は、光ファイバ12bにより導光されて出射端13bから出射され、レンズ系14bにより収斂され、ミラー15bを透過し、ウィンドウ123を透過し真空容器121内に導入され、透明部材153を透過して、固体レーザ媒質151の他方の主面に垂直に照射される。このように、固体レーザ媒質151の双方の主面それぞれに励起光が垂直に照射されて、固体レーザ媒質151に含まれる活性元素が励起される。
【0047】
固体レーザ媒質151に含まれる活性元素がレーザ上準位から下準位へ遷移する際に放出光が発生し、その放出光がリアミラー21と出力ミラー22との間で共振して、固体レーザ媒質151において誘導放射が生じる。そして、この誘導放射で発生した光の一部は、出力ミラー22を透過して、レーザ発振器2の出力光となる。
【0048】
例えば、固体レーザ媒質151が25at%のYb元素が添加されたYAGであって、励起光の波長が940nmであり、励起光パワーが580mWであり、固体レーザ媒質151への励起光照射のビーム径が180μmであり、固体レーザ媒質151への励起光照射のエネルギ密度が2.3kW/cmである。このとき、固体レーザ媒質151に入射した励起光の98%以上のエネルギが固体レーザ媒質151により吸収された。共振器がX字型となっていることから、レーザダイオード11a,11bから固体レーザ媒質151までに存在する光学素子をミラー15a,15bのみとすることができ、励起光の損失を最低限に抑えることができた。励起された固体レーザ媒質151で発生し出力ミラー22を透過して出力する波長1030nmのレーザ光のパワーは430mWであった。スロープ効率として理論限界値(91%)に極めて近い90%という高い値が得られ、光-光変換効率は74%であった。
【0049】
なお、このレーザ発振器2において、リアミラー21に替えて可飽和吸収型ミラーが用いられてもよく、このようにすることにより、モード同期したパルスレーザ発振が可能となる。上記と同じ条件では、パルス周期が6.8ピコ秒の安定したパルス発振が得られた。
【0050】
以上のように、第1実施形態に係るレーザ発振器2では、光増幅モジュール10に含まれる固体レーザ媒質151の双方の主面それぞれに励起光が垂直に入射し、また、固体レーザ媒質151の双方の主面それぞれが共振器の共振光路に垂直である。本実施形態では、固体レーザ媒質151の主面に接して熱伝導率が高い透明部材152,153が設けられ、さらに、固体レーザ媒質151の側面に接して熱伝導率が低い断熱部材156が設けられていることにより、図5および図6で説明したように、固体レーザ媒質151への励起光照射に因る熱レンズ効果が低減され、固体レーザ媒質151から誘導放射光が出射する際の該誘導放射光の波面の乱れが抑制されて、高品質のレーザ光出力を得ることができる。
【0051】
次に、本発明に係るレーザ発振器の第2実施形態について説明する。図9は、第2実施形態に係るレーザ発振器3の構成図である。この図に示されるレーザ発振器3は、前述した本実施形態に係る光増幅モジュール10を備える。ただし、この図には、光増幅モジュール10のうちの光増幅モジュール要部10Aが示されている。また、このレーザ発振器3は、レーザダイオード11a,11b、光ファイバ12a,12b、レンズ系14a,14b、ミラー15a,15b、リアミラー21、1/2波長板31、偏光板32、ポッケルスセル33およびミラー34をも備える。図8に示したレーザ発振器2の構成と比較すると、この図9に示したレーザ発振器3は、出力ミラー22に替えて、1/2波長板31、偏光板32、ポッケルスセル33およびミラー34を備える点で相違する。
【0052】
1/2波長板31は、ミラー15aと偏光板32との間の光路上に設けられ、直線偏光の光が入射すると、その光の偏光方位を90度だけ回転させて出射する。偏光板32は、P偏光の光を透過させ、1/2波長板31から入射したS偏光の光をポッケルスセル33へ反射させ、また、ポッケルスセル33から入射したS偏光の光を1/2波長板31へ反射させる。ポッケルスセル33は、偏光板32とミラー34との間の光路上に設けられ、直線偏光の光が入射すると、その光の偏光方位を回転させて出射するものである。ポッケルスセル33は、KDP結晶からなり、このKDP結晶に印加する電圧値を調整することで、その偏光方位回転角を変更することができる。ミラー34は、ポッケルスセル33から到達した光をポッケルスセル33へ反射させるものであり、その反射面が凹面となっている。例えば、ミラー34は、凹面の反射面の曲率半径が2000mmであり、放出光波長における反射率が99.6%である。
【0053】
リアミラー21およびミラー34はファブリペロー型の共振器を構成している。この共振器の共振光路上に、固体レーザ媒質151、透明部材152,153、ミラー15a,15b、1/2波長板31、偏光板32およびポッケルスセル33が設けられている。ミラー15a,15b、リアミラー21およびミラー34それぞれの反射面の曲率半径は、レーザ発振器3が安定共振器として動作するように、且つ、固体レーザ媒質151において共振光のビーム径が最も小さくなるように、設定されている。共振器の共振光路は、固体レーザ媒質151の主面に垂直である。また、共振光路上にミラー15a,15bが設けられていることにより、X字型の共振器が構成されている。
【0054】
このように構成される第2実施形態に係るレーザ発振器3は以下のように動作する。レーザダイオード11aから出力された励起光は、光ファイバ12aにより導光されて出射端13aから出射され、レンズ系14aにより収斂され、ミラー15aを透過し、ウィンドウ122を透過し真空容器121内に導入され、透明部材152を透過して、固体レーザ媒質151の一方の主面に垂直に照射される。また、レーザダイオード11bから出力された励起光は、光ファイバ12bにより導光されて出射端13bから出射され、レンズ系14bにより収斂され、ミラー15bを透過し、ウィンドウ123を透過し真空容器121内に導入され、透明部材153を透過して、固体レーザ媒質151の他方の主面に垂直に照射される。このように、固体レーザ媒質151の双方の主面それぞれに励起光が垂直に照射されて、固体レーザ媒質151に含まれる活性元素が励起される。
【0055】
外部からP偏光のパルスレーザ種光Lが偏光板32に入射すると、そのレーザ種光Lは、偏光板32を透過し、所定電圧が印加されて1/4波長板として作用するポッケルスセル33により偏光方位が45度だけ回転され、ミラー34により反射され、再びポッケルスセル33により偏光方位が45度だけ回転されて、偏光板32に入射する。このときに偏光板32に入射するレーザ種光Lは、S偏光となっているので、偏光板32により反射され、1/2波長板31により偏光方位が90度だけ回転されて、ミラー15aにより反射され、透明部材152を透過し、固体レーザ媒質151の主面に垂直に入射して、この固体レーザ媒質151における誘導放射現象により光増幅される。
【0056】
この固体レーザ媒質151において光増幅された後の光は、固体レーザ媒質151の他方の主面から垂直に出射し、透明部材153を透過し、ミラー15bにより反射されて、リアミラー21により反射される。このリアミラー21により反射された光は、ミラー15b、固体レーザ媒質151およびミラー15aを経て、1/2波長板31により偏光方位が90度だけ回転され、偏光板32により反射されて、ポッケルスセル33に入射する。
【0057】
しかし、このときまでにポッケルスセル33に印加される電圧値が変更されていて、これ以降、ポッケルスセル33は1/2波長板として作用し、ポッケルスセル33を通過する光の偏光方位は90度だけ回転される。したがって、レーザ種光Lは、リアミラー21とミラー34との間を往復し、その間に、固体レーザ媒質151において光増幅される。その後、一定時間経過すると、ポッケルスセル33に印加される電圧値が再び変更されて、これ以降、ポッケルスセル33は1/4波長板として作用し、ポッケルスセル33を通過する光の偏光方位は45度だけ回転される。したがって、それまでに共振器において増幅された光は、偏光板32を透過して、レーザ出力光Lとして出力される。
【0058】
例えば、固体レーザ媒質151が25at%のYb元素が添加されたYAGであって、励起光の波長が940nmであり、励起光パワーが140mWであり、固体レーザ媒質151への励起光照射のビーム径が2mmであり、固体レーザ媒質151への励起光照射のエネルギ密度が2.3kW/cmである。外部から偏光板32に入射するP偏光のパルスレーザ種光Lは、波長が1030nmであり、パルス幅が6.8ピコ秒であり、パルス周波数が50Hzである。偏光板32は、波長1030nmにおいて、P偏光の透過率が98.7%であり、S偏光の反射率が99.7%である。ミラー34は、波長1030nmにおける反射率が99.7%である。リアミラー21とミラー34との間の共振光路に沿った光路長は2100mmである。このとき、ポッケルスセル33が1/2波長板として作用する期間が140ナノ秒間であるとすると、この期間にレーザ種光Lは共振器内を10往復して増幅される。そして、ポッケルスセル33が1/4波長板として作用するように転じると、それまでに共振器において増幅された光は、偏光板32を透過して、レーザ出力光Lとして出力される。
【0059】
以上のように、第2実施形態に係るレーザ発振器3でも、光増幅モジュール10に含まれる固体レーザ媒質151の双方の主面それぞれに励起光が垂直に入射し、また、固体レーザ媒質151の双方の主面それぞれが共振器の共振光路に垂直である。本実施形態では、固体レーザ媒質151の主面に接して熱伝導率が高い透明部材152,153が設けられ、さらに、固体レーザ媒質151の側面に接して熱伝導率が低い断熱部材156が設けられていることにより、図5および図6で説明したように、固体レーザ媒質151への励起光照射に因る熱レンズ効果が低減され、固体レーザ媒質151から誘導放射光が出射する際の該誘導放射光の波面の乱れが抑制されて、高品質のレーザ光出力を得ることができる。
【0060】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。固体レーザ媒質151はYb:YAGに限られるものではなく、例えば、固体レーザ媒質151に添加される活性元素はNd,Tm,Ho,Cr等の希土類元素や遷移金属元素であってもよいし、固体レーザ媒質151のホスト材料はルビー,YLF,サファイア,ガラス,S-FAP,YVO等であってもよい。透明部材152,153は、サファイアガラスに限られるものではなく、固体レーザ媒質151より熱伝導率が高い他の透明材料からなるものであってもよく、例えば、ダイアモンド,酸化イットリウム,無添加のYAG等であってもよい。ダイアモンドは、室温で1000W/m・Kという高い熱伝導率を有するので、冷却機構を小型化・簡易化することができ、或いは、液体窒素冷却を行わなくても固体レーザ媒質を充分に冷却できる場合がある。断熱部材156は、テフロン等の樹脂に限られるものではなく、固体レーザ媒質151より熱伝導率が低い他の材料からなるものであってもよく、例えば、発泡ガラス,空気その他の気体などであってもよいし、また、真空であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施形態に係る光増幅モジュール10の全体構成図である。
【図2】本実施形態に係る光増幅モジュール10に含まれるヒートシンク130の構成図である。
【図3】本実施形態に係る光増幅モジュール要部10Aの断面図である。
【図4】本実施形態に係る光増幅モジュール要部10Aの説明図である。
【図5】本実施形態に係る光増幅モジュール10に含まれる固体レーザ媒質151における温度分布を示す図である。
【図6】本実施形態に係る光増幅モジュール10に含まれる固体レーザ媒質151における励起光吸収パワーと熱レンズの度との関係を示す図である。
【図7】本実施形態に係る光増幅器1の構成図である。
【図8】第1実施形態に係るレーザ発振器2の構成図である。
【図9】第2実施形態に係るレーザ発振器3の構成図である。
【符号の説明】
【0062】
1…光増幅器、2,3…レーザ発振器、10…光増幅モジュール、10A…光増幅モジュール要部、11a,11b…レーザダイオード、12a,12b…光ファイバ、13a,13b…出射端、14a,14b…レンズ系、15a,15b…ミラー、21…リアミラー、22…出力ミラー、31…1/2波長板、32…偏光板、33…ポッケルスセル、34…ミラー。
【0063】
101…基盤、102,103…支持部、104…真空ポンプ、105…排気管、111…第1液体窒素保存タンク、112…第2液体窒素保存タンク、113…冷却装置外壁、114,115…液体窒素注入口、116…ニードル弁、117…排気口、121…真空容器、122,123…ウィンドウ、130…ヒートシンク、131…ヒートシンク本体、132…押え板、133,134,135…ねじ穴、136,137…貫通孔、138…内部空間、141…温度コントローラ、142…ヒータ、143…熱電対、151…固体レーザ媒質、152.153…透明部材、154,155…インジウム箔、156…断熱部材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1主面および第2主面を有し、活性元素が添加されており、励起光が照射されることにより放出光を発生する固体レーザ媒質と、
前記固体レーザ媒質の前記第1主面に接して設けられ、活性元素が添加されておらず、前記励起光および前記放出光の双方を透過させる第1透明部材と、
前記固体レーザ媒質の前記第2主面に接して設けられ、活性元素が添加されておらず、前記励起光および前記放出光の双方を透過させる第2透明部材と、
前記固体レーザ媒質に接することなく、前記第1透明部材および前記第2透明部材それぞれの主面に接して設けられたヒートシンクと、
を備え、
前記第1透明部材および前記第2透明部材それぞれの熱伝導率が前記固体レーザ媒質の熱伝導率より高く、
前記固体レーザ媒質と前記ヒートシンクとの間の空間の熱伝導率が前記固体レーザ媒質の熱伝導率より低い、
ことを特徴とする光増幅モジュール。
【請求項2】
前記ヒートシンクを冷却する冷却手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載の光増幅モジュール。
【請求項3】
前記ヒートシンクを加熱する加熱手段を更に備えることを特徴とする請求項2記載の光増幅モジュール。
【請求項4】
前記固体レーザ媒質、前記第1透明部材および前記第2透明部材を密閉空間の内部に収納し、前記励起光および前記放出光を透過させるウィンドウを有し、その密閉空間の内部を真空に保つ真空容器を更に備えることを特徴とする請求項2記載の光増幅モジュール。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の光増幅モジュールと、
この光増幅モジュールに含まれる前記固体レーザ媒質に励起光を照射する励起手段と、
を備えることを特徴とする光増幅器。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか1項に記載の光増幅モジュールと、
この光増幅モジュールに含まれる前記固体レーザ媒質に励起光を照射する励起手段と、
この光増幅モジュールに含まれる前記固体レーザ媒質を共振光路上に有する共振器と、
を備えることを特徴とするレーザ発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−186230(P2006−186230A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380393(P2004−380393)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(591114803)財団法人レーザー技術総合研究所 (36)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】