説明

光変調器における動作条件推定方法及び光スペクトラムアナライザ

【課題】大掛かりな測定系の構築を必要とせず、簡便に光送信機に搭載される光変調器の動作条件を推定する。
【解決手段】光送信機20に搭載された光変調器22の仮定の動作条件である仮定動作パラメータを設定入力し、光変調器22を搭載した光送信機20からの被測定光のスペクトラムを測定するとともに、設定された仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムを算出する。そして、測定した被測定光のスペクトラムと各仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとの2乗平均誤差値を算出し、このうち最小の誤差値となる仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムを判別抽出し、この抽出した光スペクトラムと被測定光の光スペクトラムのピーク値を合せた状態のスペクトラム波形とこれらの2乗平均誤差値とを表示部17に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信用光送信機に搭載される光変調器おける動作条件の推定方法、及びこの推定方法を備えた光スペクトラムアナライザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信におけるビットレートは高速化しており、このような高速光通信用光送信機(以下、「光送信機」と称する)では、光通信用光源としての半導体レーザダイオードモジュール(以下、「LDモジュール」と称する)へ供給する電流のON/OFFによる変調ではなく、LDモジュールの注入電流を一定とし、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO3 )結晶を用いた外部光変調器(以下、「光変調器」と称する)、光変調器ドライバ、パルスパターン発生器などを用いてLDモジュールからの出射光を変調している。
【0003】
この種の光送信機から出力された被測定光のスペクトラム測定をする場合、従来から多く用いられている波長分解能が50pm(1. 55μm帯の光周波数に換算して6.2GHz)程度の低波長分解能による光スペクトラムアナライザでは、例えば高速光通信で使用される10GHz程度で強度変調された信号を測定しても、図4に示すような単純な単峰性のスペクトラム波形(図中実線)しか表示することができなかった。そこで、変調によって発生する側帯波の強度や発生する周波数などの光スペクトラムの詳細な情報をより正確に得るため、現在では波長分解能5pm(1. 55μm帯の光周波数に換算して0.62GHz)以下に設定できる高波長分解能による光スペクトラムアナライザを用いることで、同図において点線で示すような被測定光の詳細なスペクトラム波形の表示が可能となっている。
【0004】
また、光送信機の開発から製造における調整に至るまでの各段階において、光変調器の特性、光変調器の駆動電圧やバイアス電圧、光送信機としての信号光波長などの光変調器の動作条件となる下記4種類の動作パラメータの測定や調整をすることが必要となる。
【0005】
以下、光変調器の動作条件となる4種類の動作パラメータについて示す。
・αパラメータ
光変調器の波長チャーピングの量を表すαパラメータを測定する場合、例えば非特許文献1に開示されるようにマッハ・ツェンダー干渉計と受光器とオシロスコープを用いた方法により、光送信機の開発段階において、採用した光変調器を光送信機に組み込み、実際の信号を与えた状態でαパラメータが設計値内に収まっているかを観測する方法や、特許文献1に開示されるような方法を用いている。
・駆動電圧偏差εA
光変調器に印可する駆動電圧の駆動電圧偏差εA を測定する場合は、光送信機の製造における調整段階において、受光器とオシロスコープを用いてアイ波形を観測する方法を用いている。また、電圧調整の際には、誤り測定器を用いて誤り率の最も少なくなるように調整している。
・バイアス電圧偏差εB
光変調器に印可するバイアス電圧のバイアス電圧偏差εB を測定する場合は、光送信機の製造における調整段階において、受光器とオシロスコープを用いてアイ波形を観測する方法を用いている。また、電圧調整の際には、誤り測定器を用いて誤り率の最も少なくなるように調整している。
・発振波長λC
光送信機の製造における調整段階において、信号光波長が仕様に入るよう、LDモジュールの発振波長を光スペクトラムアナライザを用いて観測する方法を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3866082号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R.A.Saunders,et.al.,“Wideband chirp measurement technique for high bit rate sources”,Electronics Letters,Vol.30,No.16,p.1336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年では光通信装置の大量生産とコストダウン要求により、時間を掛けて正確に測定するのではなく、多少精度が低くても高速、且つ安価な構成で測定できることが求められている。しかしながら、上述した4項目の動作パラメータを測定する場合、図5に示すような大掛かりな測定系を測定する度に構築する必要があり、測定系の構築の手間や測定時間が長くなるばかりでなく、多額の費用が掛かるという問題があった。
【0009】
また、被測定光のパラメータの一つであるαパラメータを測定する方法が特許文献1に開示されているが、この方法では変調用信号源として正弦波発生器を用いるいう特殊な動作状態におけるαパラメータを測定しているため、光送信機が通信に用いられる際の動作状態におけるαパラメータの測定を行うにはパルスパターン発生器と使い分ける必要があった。
【0010】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、大掛かりな測定系の構築を必要とせず、簡便に光変調器を搭載した光送信機の動作条件を推定することのできる光変調器における動作条件推定方法及び光スペクトラムアナライザを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、請求項1記載の光変調器の動作条件推定方法は、光送信機20に搭載される光変調器22の動作条件推定方法であって、
前記光変調器から出力される被測定光のスペクトラムを測定し得られた測定値を記憶する記憶ステップと、
前記光変調器の仮定の動作条件となる仮定動作パラメータと、該仮定動作パラメータにおける光スペクトラムの算出開始時の値となる前記仮定動作パラメータの初期値と、算出終了時の値となる前記仮定動作パラメータの最終値と、前記初期値から前記最終値に達するまでの間に、光スペクトラムを算出する毎に前記仮定動作パラメータの現在値に加算するステップ値と、をそれぞれ設定する入力ステップと、
前記光変調器からの出力光のスペクトラムを、前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出するとともに、前記記憶した被測定光のスペクトラムの測定値と、前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムの計算値との2乗平均誤差値を算出する算出処理ステップと、
前記仮定動作パラメータの現在値が前記最終値であるか否かを判別し、前記現在値が前記最終値であった場合に、前記算出処理ステップで算出した2乗平均誤差値が最小となる前記仮定動作パラメータを判別し抽出する判別ステップと、
を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の光変調器の動作条件推定方法は、請求項1記載の光変調器の動作条件推定方法において、前記判別ステップで抽出された前記仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムの計算値と、前記記憶した被測定光のスペクトラムの測定値とのピーク値を合せたスペクトラム波形と、前記2乗平均誤差値の最小値とを表示部17に表示制御する表示制御ステップを含むことを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の光変調器の動作条件推定方法は、請求項1又は2記載の光変調器の動作条件推定方法において、前記算出処理ステップは、前記光変調器22から出力される被測定光の光スペクトラムの測定値と、前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出する光スペクトラムの計算値とのピーク値を合せた状態で記憶部13に記憶するステップを含むことを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の光変調器の動作条件推定方法は、請求項1〜3の何れかに記載の光変調器の動作条件推定方法前記判別ステップは、前記仮定動作パラメータの現在値が前記最終値でなかった場合に、前記現在値に前記ステップ値を加算処理して再度前記算出処理ステップで前記ステップ値が加算された前記仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムを算出するためのステップ値加算信号を出力するステップを含むことを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の光スペクトラムアナライザは、光変調器22を搭載した光送信機20から出射される被測定光の光スペクトラムを測定する光スペクトラムアナライザ1であって、
前記被測定光のスペクトラムを測定する測定部11と、
前記光変調器の仮定の動作条件となる仮定動作パラメータと、該仮定動作パラメータにおける光スペクトラムの算出開始時の値となる前記仮定動作パラメータの初期値と、算出終了時の値となる前記仮定動作パラメータの最終値と、前記初期値から前記最終値に達するまでの間に、光スペクトラムを算出する毎に、前記仮定動作パラメータの現在値に加算するステップ値と、をそれぞれ設定する入力部12と、
前記光送信機から出射される光のスペクトラムを前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出するとともに、前記測定部で測定した前記被測定光のスペクトラムと、前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとの2乗平均誤差値を算出する算出処理部14と、
前記仮定動作パラメータの現在値が前記最終値であるか否かを判別し、前記現在値が前記最終値であった場合に、前記算出処理部で算出した2乗平均誤差値が最小となる前記仮定動作パラメータを判別し抽出する判別部15と、
前記判別部で抽出された前記仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムと、前記測定部で測定した被測定光のスペクトラムとのピーク値を合せたスペクトラム波形と、前記2乗平均誤差値の最小値とを表示部17に表示制御する表示制御部16と、
を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の光スペクトラムアナライザは、請求項5記載の光スペクトラムアナライザにおいて、前記算出処理部14は、前記光変調器22から出力される被測定光のスペクトラムと、前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとのピーク値を合せた状態で記憶部13に記憶することを特徴とする。
【0017】
請求項7記載の光スペクトラムアナライザは、請求項5又は6記載の光スペクトラムアナライザにおいて、前記判別部15は、前記仮定動作パラメータの現在値が前記最終値でなかった場合に、前記現在値に前記ステップ値を加算処理して再度前記ステップ値が加算された前記仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムを算出するためのステップ値加算信号を前記算出処理部14に出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光変調器の仮定動作パラメータを設定入力するだけで、その都度各仮定仮定動作パラメータを得るための測定系を構築する必要がなく、高速で、且つ簡易的に測定対象となる光送信機に搭載された光変調器における動作条件を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る光スペクトラムアナライザの装置構成を示す概略ブロック図である。
【図2】同装置における光スペクトラムの表示例を示す概念図である。
【図3】同装置における光変調器動作条件推定時の処理動作を説明するためのフローチャート図である。
【図4】光スペクトラムアナライザの波長分解能の違いによるスペクトラム波形を示す説明図である。
【図5】光変調器の動作パラメータを従来の方法で測定する際に使用する装置構成例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
[本発明の実施形態]
<装置のシステム構成>
まず、本発明に係る光スペクトラムアナライザの構成について、図1、2を参照しながら説明する。
【0022】
本例の光スペクトラムアナライザ1は、光通信用光源としての光通信用半導体レーザダイオードモジュール21(以下、「LDモジュール21」と称する)への注入電流を一定とし、ニオブ酸リチウム(LiNbO3 )結晶を用いた外部光変調器22(以下、「光変調器22」と称する)、光変調器22用の光変調器ドライバ23、所望のパルスパターン(擬似ランダムビット系のPseudo−Random Bit Sequence:PRBSなど)を発生させるパルスパターン発生器24を備えた光送信機20と光ファイバ30を介して接続され、光変調器22によって変調された被測定光のスペクトラムを測定するとともに、ユーザが任意に設定する光変調器22の仮定の動作条件である仮定動作パラメータの設定入力に基づき、被測定光のスペクトラムから光変調器22の動作条件を推定している。
【0023】
図1に示すように、本例の光スペクトラムアナライザ1は、測定部11、入力部12、記憶部13、算出処理部14、判別部15、表示制御部16、表示部17とを備えて構成される。
【0024】
測定部11は、従来より公知の光スペクトラムアナライザにおける分光手段、光電変換手段、A/D変換手段の機能(例えば特許第2892670号を参照のこと)を備えており、光送信機20からの被測定光を分光、光電変換処理して電気信号に変換し、さらにこの電気信号をA/D処理したディジタル信号を算出処理部14に出力している。
【0025】
具体的構成としては、光ファイバ30を介して光送信機20から出力された被測定光を入力する光入力端子と、回折格子,プリズム,干渉フィルタなどの分光素子を利用した分光によって入力した被測定光から特定波長を抽出して出力する分光手段と、分光手段から出力される抽出光を受光してこれを電気信号に変換するフォトダイオード(PD)などの光電変換素子からなる光検出手段と、光検出手段で検出された微小電気信号を増幅する増幅手段、増幅手段から出力されるアナログ信号を量子化してディジタル信号に変換するA/D(アナログ/ディジタル)変換手段とを備えている。
【0026】
入力部12は、例えば各種操作ボタンやテンキー、キーボードなどの入力機器で構成され、使用する光送信機20の装置構成や仕様に基づきユーザが任意に設定する光変調器22の仮定の動作条件である仮定動作パラメータの入力時に操作される。なお、入力された仮定動作パラメータは、記憶部13に記憶される。
【0027】
ここで、入力される仮定動作パラメータについて説明する。仮定動作パラメータとは、測定対象となる光変調器22を搭載した光送信機20からの被測定光のスペクトラムを測定することで推定可能となる光変調器22の仮定の動作条件(数値)を、光送信機20の装置構成や変調方式(例えば、Non−Return to Zero, ON−Off Keying、以下「NRZ−OOK」と称する)に基づき、ユーザが任意に設定するものであり、下記(1)〜(5)がある。
(1)ビットレートB(例:B=10Gbit/s)
(2)光変調器22の駆動回路の帯域Be (例:Be =8GHz)
(3)光変調器22の振幅オフセット値εA (例:εA =0)
(4)光変調器22のバイアスオフセット値εB (例:εB =0)
(5)光変調器22のαパラメータ(例:α=0.8)
【0028】
ここで、推定対象となる仮定動作パラメータについては、(1)は固定値とし、(2)〜(5)について光スペクトラム算出時における算出開始時の値となる初期値、算出終了時の値となる最終値、初期値から最終値に達するまでの間で光スペクトラムの算出に使用した現在のパラメータ値(以下、「現在値」と称する)に対して算出する毎に加算するステップ値を、ユーザが知得したい光変調器22の動作条件に応じて適宜入力する。
【0029】
数値入力例としては、εA の場合であれば初期値=−0.1、ステップ値=0.01、最終値=0.1とする。この推定対象となる仮定動作パラメータの数は1つでも複数でも良く、通常Be は既知であり、上記εA 、εB 、αパラメータが推定対象となるが、試験内容によっては帯域Be も推定対象となり得る。また、初期値及び最終値が同値である場合は、ステップ値を「0」として設定することで、算出時は初期値で設定した値を常時使用することになる。
【0030】
記憶部13は、入力部12で設定入力された仮定動作パラメータ、算出処理部14が算出処理時に用いる計算式等の処理プログラム、測定部11で測定された被測定光のスペクトラム、及び算出処理部14で算出された仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムや、被測定光のスペクトラムと設定された仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとの2乗平均誤差値、判別部15で判別された最小の2乗平均誤差値となる仮定動作パラメータの判別結果の他、光スペクトラムアナライザを構成する各部の駆動制御に係る各種制御情報を記憶している。
【0031】
算出処理部14は、スペクトラム算出処理手段14a、2乗平均誤差値算出処理手段14bとで構成され、入力部12で設定した仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムの算出、被測定光のスペクトラムと設定された仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとの2乗平均誤差値を算出し、算出した光スペクトラムや2乗平均誤差値を記憶部13に記憶している。
【0032】
なお、算出処理部14における各手段が算出処理時に用いる計算式等の処理プログラムは、設定入力された仮定動作パラメータ、変調方式、装置構成等に応じた算出処理が行えるよう予め記憶部13に記憶されており、算出処理内容に応じて処理プログラムを適宜選択して算出処理を行っている。
【0033】
スペクトラム算出処理手段14aは、光送信機20からの被測定光のスペクトラムを、入力部12から設定入力された仮定動作パラメータに基づき算出している。また、スペクトラム算出処理手段14aは、後述する仮定動作パラメータ判別手段15aからステップ値加算信号を入力すると、現在値にステップ値を加算処理した仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムを再度算出している。さらに、スペクトラム算出処理手段14aは、被測定光のスペクトラムと仮定動作パラメータに基づき算出した各光スペクトラムのピーク値をそれぞれ合せた状態で記憶部13に記憶している。
【0034】
なお、光スペクトラムの算出に際し、光スペクトラムアナライザ1の波長分解能λRES の値も必要であるが、これは測定時における光スペクトラムアナライザ1の設定内容(装置仕様)から求めることができる。
【0035】
2乗平均誤差値算出処理手段14bは、測定部11で測定した被測定光のスペクトラムと、スペクトラム算出処理手段14aにおいて、仮定動作パラメータを初期値から最終値までステップ値毎に変化させながらそれぞれ算出した各光スペクトラムとの2乗平均誤差値をそれぞれ算出し、この算出した2乗平均誤差値を記憶部13に記憶している。
【0036】
判別部15は、仮定動作パラメータ判別手段15aと、2乗平均誤差値判別手段15bとで構成され、スペクトラム算出処理手段14aでステップ値毎に変化させている仮定動作パラメータが最終値であるか否かの判別や、記憶部13に記憶された被測定光のスペクトラムと仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムとの2乗平均誤差値が最小となる仮定動作パラメータを判別抽出している。
【0037】
仮定動作パラメータ判別手段15aは、入力部12で設定された仮定動作パラメータにおける現在値がその仮定動作パラメータの最終値であるか否かを判別している。このとき、最終値であった場合は、全ての仮定動作パラメータについての算出処理が完了したと判別し、被測定光のスペクトラムと、仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとの2乗平均誤差値の判別を行うための判別開始信号を2乗平均誤差値判別手段15bに出力している。また、仮定動作パラメータの現在値が最終値でなかった場合は、現在値にステップ値を加算処理した仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムを算出するためのステップ値加算信号をスペクトラム算出処理手段14aに出力している。
【0038】
2乗平均誤差値判別手段15bは、仮定動作パラメータ判別手段15aから判別開始信号を入力すると、記憶部13に記憶された被測定光のスペクトラムと仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとの2乗平均誤差値を比較して最小の誤差値となる仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムを判別抽出し、この判別結果を表示制御部16に出力している。なお、この判別結果は、記憶部13に記憶される。
【0039】
表示制御部16は、仮定動作パラメータを入力部12から設定入力する際の入力画面表示、光送信機20からの被測定光のスペクトラムや仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムの表示や各光スペクトラムのピーク値を合せた重ね表示、算出処理部14で算出した各種算出結果など、光スペクトラムアナライザ1を駆動する上で必要な表示内容を制御するための表示制御信号を表示部17に出力している。また、表示制御部16は、2乗平均誤差値判別手段15bから判別結果を入力すると、2乗平均誤差値の最小値と、記憶部13に記憶された被測定光のスペクトラムと、前記2乗平均誤差値が最小となる仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとのピーク値を合せたスペクトラム波形を表示するための表示制御信号を出力している。
【0040】
表示部17は、例えば液晶ディスプレイ(LCD)などの表示機器で構成され、図2に示すような被測定光のスペクトラムと仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとの重ね表示や2乗平均誤差値など、表示制御部16からの表示制御信号に基づく表示内容を表示している。
【0041】
<装置の処理動作>
次に、上述した光スペクトラムアナライザ1における、仮定動作パラメータ設定入力から仮定動作パラメータの推定に至るまでの一連の処理動作について、図3を参照しながら説明する。
【0042】
図3に示すように、まず測定対象となる光変調器22を搭載した光送信機20からの被測定光のスペクトラムを測定し、この光スペクトラムを表示する(ST1)。次に、ユーザは、光変調器22の仮定動作パラメータ(初期値、最終値、ステップ値)を入力部12から設定入力する(ST2)。
【0043】
仮定動作パラメータの設定入力が終わると、この仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムを初期値から順に算出し(ST3)、算出した光スペクトラムと被測定光のスペクトラムとのピーク値に合せた状態で記憶部13に記憶する(ST4)。そして、被測定光のスペクトラムと仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムの2乗平均誤差値を算出し(ST5)、記憶部13に記憶した後(ST6)、仮定動作パラメータの現在値が最終値であるか否かを判別する(ST7)。
【0044】
このとき、仮定動作パラメータの現在値が最終値である場合は(ST7−Yes)、仮定動作パラメータ判別手段15aから2乗平均誤差値判別手段15bに判別開始信号を出力し、測定した被測定光のスペクトラムと仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムの2乗平均誤差値のうち、どの仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとの誤差値が最小となる光スペクトラムであるかを判別し抽出する(ST8)。
そして、誤差値が最小となる仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムが抽出されると、この光スペクトラムと被測定光のスペクトラムのピーク値を合せた状態のスペクトラム波形とこれらの2乗平均誤差値とを表示部17に表示して(ST9)、処理を終了する。
【0045】
一方、仮定動作パラメータの現在値が最終値でない場合は(ST7−No)、仮定動作パラメータの現在値にステップ値を加算処理した仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムを算出するため、仮定動作パラメータ判別手段15aからスペクトラム算出処理手段14aにステップ値加算信号を出力し(ST10)、再度ST3へ戻る。
【0046】
なお、上記処理動作では、設定入力された仮定動作パラメータのうちの1つパラメータにおける処理動作であるが、通常は設定した仮定動作パラメータが複数であるため、それぞれの仮定動作パラメータの組み合わせに応じてST3〜ST7までの処理内容を入れ子構造として処理を行う。
【0047】
[実施例]
以下、本発明に係る光スペクトラムアナライザ1における具体的な処理動作例(図3に示す処理動作におけるST3,ST4に相当)について説明する。
なお、下記実施例は本発明を限定するものではなく、前・後記の趣旨に照らし合わせて設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0048】
上述した光スペクトラムアナライザ1による具体的な実施例について説明する。ここでは、光送信機20に対しパルスパターン発生器24から供給される信号として擬似ランダムビット系のPRBSを使用し、光送信機20からの被測定光の変調方式としてNRZ−OOKを使用し、光変調器22動作条件として上述した(1)〜(5)を変調方式に応じた任意の値を入力した場合について説明する。
【0049】
まず、デ−タ信号をa[n],n=0,1,・・・,N−1とおく。a[n]の値は0または1で、Nはデ−タ数を表し、ここではPRBSのデータ列を入れる。次に1ビット内を時間的に分割する数Rを適宜定める。この値は時間分解能に相当する。NR個のメモリ領域b[m], m=0,1,・・・,(NR−1)を用意し、下記数1で定める値を格納する。
【0050】
【数1】

【0051】
光変調器ドライバ23を帯域幅Be のフィルタとみたて、信号b[m]をこのフィルタを通過させて得られる信号をc[m]とおく。具体的には、b[m]を離散Fourier変換(以下、「DFT」と称する)した後、Be とビットレートB,およびフィルタの周波数特性(例えば5次ベッセルフィルタなど)に対応する関数形から定まる数値を掛け算し、その結果を逆DFTすることでc[m]が得られる。
【0052】
光変調器22からの出力電場を表す信号e[m]=x[m]+jy[m]を、下記数2〜数6の一連の式を用いて算出する。電場e[m]は複素信号であり、x[m]、y[m]はその実部と虚部を、jは虚数単位をそれぞれ表す。
【0053】
【数2】

【0054】
【数3】

【0055】
【数4】

【0056】
【数5】

【0057】
【数6】

【0058】
なお、数5のεA は光変調器22において最大振幅を与える駆動電圧を1とした場合のオフセット値を、εB は50%透過時の駆動電圧をバイアス電圧とした場合のこれに対するオフセット値を、数6のαは光変調器22のαパラメータ値を表す。
【0059】
以上で、NRZ−OOKの場合のe[m]の算出までが終了する。RZ−OOK信号の場合は数1におけるb[・]の定め方を、またOOK以外の変調方式の場合には、数3〜数6を変調方式に応じて変更すればよい。
【0060】
下記数7は、求めたe[m]より光スペクトラムI[m]を求める方法であり、各変調方式に共通である。信号e[m]をDFTして電場の周波数成分をE[m]を求め、I[m]を下記数7で算出する。
【0061】
【数7】

【0062】
そして、数7で得られた光スペクトラムに対し、光スペクトラムアナライザ1の波長分解能に応じた丸め処理を行う。丸め処理の一実施例を説明する。デ−タ数Kを適宜定め、フィルタ特性G[k]を下記数8で算出する。
【0063】
【数8】

【0064】
但し、Cは規格化定数、WはλRES に応じて定める数である。またKは数8でG[K]が十分小さくなるように定める。
【0065】
次に、丸め処理した光スペクトラムI’[m]を数9で算出する。
【0066】
【数9】

【0067】
数9の右辺で、G[・]の引数は添字kの絶対値|k|であり、和の中のI[・]の添字m+kが負となる場合はNRを足し、NR以上となる場合はNRを引くことで0以上NR−1以下となるようにする。算出された光スペクトラムI’[m]のピークを、被測定光のスペクトラムのピーク値に合わせて再配置し、記憶部13に記憶する。そして、この算出した値を用いて被測定光のスペクトラムと仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムの2乗平均誤差値を算出している。
【0068】
以上説明したように、上述した光スペクトラムアナライザ1は、光変調器22の仮定の動作条件である仮定動作パラメータを設定入力し、光変調器22を搭載した光送信機20からの被測定光のスペクトラムを、設定された仮定動作パラメータに基づき算出する。そして、測定した被測定光のスペクトラムと各仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとの2乗平均誤差値を算出し、このうち最小の誤差値となる仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムを判別抽出し、この抽出した光スペクトラムと被測定光のスペクトラムのピーク値を合せた状態のスペクトラム波形とこれらの2乗平均誤差値とを表示部17に表示する。
【0069】
これにより、光変調器22の仮定動作パラメータを設定入力するだけで、高速、且つ簡易的に測定対象となる光送信機20に搭載された光変調器22における動作条件を推定することができる。また、装置構成として光スペクトラムアナライザ1のみで推定することができるため、仮定動作パラメータを得るためにその都度測定系を構築する必要がなく測定作業が簡素化し、また安価に光変調器22の動作条件の推定を行うことができる。
【0070】
ところで、上述した形態において、変調方式としてNon−Return to Zero, ON−Off Keyingを用いた例としたが、Return to Zero, Differential Phase Shift Keyingなど他の変調方式の場合でも同様に光変調器22の動作条件推定を行うことができる。
【0071】
また、上述した光変調器22の動作条件推定に係る各構成は、光スペクトラムアナライザ1内部にプログラムを有する他、光スペクトラムアナライザ1に接続されたパソコンに上述した処理プログラムを保有し、測定データを転送して算出することもできる。
【符号の説明】
【0072】
1…光スペクトラムアナライザ
11…測定部
12…入力部
13…記憶部
14…算出処理部(14a…スペクトラム算出処理手段、14b…2乗平均誤差値算出処理手段)
15…判別部(15a…仮定動作パラメータ判別手段、15b…2乗平均誤差値判別手段)
16…表示制御部
17…表示部
20…光送信機
21…半導体レーザダイオードモジュール(LDモジュール)
22…光変調器
23…光変調器ドライバ
24…パルスパターン発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光送信機(20)に搭載される光変調器(22)の動作条件推定方法であって、
前記光変調器から出力される被測定光のスペクトラムを測定し得られた測定値を記憶する記憶ステップと、
前記光変調器の仮定の動作条件となる仮定動作パラメータと、該仮定動作パラメータにおける光スペクトラムの算出開始時の値となる前記仮定動作パラメータの初期値と、算出終了時の値となる前記仮定動作パラメータの最終値と、前記初期値から前記最終値に達するまでの間に、光スペクトラムを算出する毎に前記仮定動作パラメータの現在値に加算するステップ値と、をそれぞれ設定する入力ステップと、
前記光変調器からの出力光のスペクトラムを、前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出するとともに、前記記憶した被測定光のスペクトラムの測定値と、前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムの計算値との2乗平均誤差値を算出する算出処理ステップと、
前記仮定動作パラメータの現在値が前記最終値であるか否かを判別し、前記現在値が前記最終値であった場合に、前記算出処理ステップで算出した2乗平均誤差値が最小となる前記仮定動作パラメータを判別し抽出する判別ステップと、
を含むことを特徴とする光変調器の動作条件推定方法。
【請求項2】
前記判別ステップで抽出された前記仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムの計算値と、前記記憶した被測定光のスペクトラムの測定値とのピーク値を合せたスペクトラム波形と、前記2乗平均誤差値の最小値とを表示部(17)に表示制御する表示制御ステップを含むことを特徴とする請求項1記載の光変調器の動作条件推定方法。
【請求項3】
前記算出処理ステップは、前記光変調器(22)から出力される被測定光の光スペクトラムの測定値と、前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出する光スペクトラムの計算値とのピーク値を合せた状態で記憶部(13)に記憶するステップを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の光変調器の動作条件推定方法。
【請求項4】
前記判別ステップは、前記仮定動作パラメータの現在値が前記最終値でなかった場合に、前記現在値に前記ステップ値を加算処理して再度前記算出処理ステップで前記ステップ値が加算された前記仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムを算出するためのステップ値加算信号を出力するステップを含むことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光変調器の動作条件推定方法。
【請求項5】
光変調器(22)を搭載した光送信機(20)から出射される被測定光の光スペクトラムを測定する光スペクトラムアナライザ(1)であって、
前記被測定光のスペクトラムを測定する測定部(11)と、
前記光変調器の仮定の動作条件となる仮定動作パラメータと、該仮定動作パラメータにおける光スペクトラムの算出開始時の値となる前記仮定動作パラメータの初期値と、算出終了時の値となる前記仮定動作パラメータの最終値と、前記初期値から前記最終値に達するまでの間に、光スペクトラムを算出する毎に、前記仮定動作パラメータの現在値に加算するステップ値と、をそれぞれ設定する入力部(12)と、
前記光送信機から出射される光のスペクトラムを前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出するとともに、前記測定部で測定した前記被測定光のスペクトラムと、前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとの2乗平均誤差値を算出する算出処理部(14)と、
前記仮定動作パラメータの現在値が前記最終値であるか否かを判別し、前記現在値が前記最終値であった場合に、前記算出処理部で算出した2乗平均誤差値が最小となる前記仮定動作パラメータを判別し抽出する判別部(15)と、
前記判別部で抽出された前記仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムと、前記測定部で測定した被測定光のスペクトラムとのピーク値を合せたスペクトラム波形と、前記2乗平均誤差値の最小値とを表示部(17)に表示制御する表示制御部(16)と、
を備えたことを特徴とする光スペクトラムアナライザ。
【請求項6】
前記算出処理部(14)は、前記光変調器(22)から出力される被測定光のスペクトラムと、前記設定された仮定動作パラメータに基づき算出した光スペクトラムとのピーク値を合せた状態で記憶部(13)に記憶することを特徴とする請求項5記載の光スペクトラムアナライザ。
【請求項7】
前記判別部(15)は、前記仮定動作パラメータの現在値が前記最終値でなかった場合に、前記現在値に前記ステップ値を加算処理して再度前記ステップ値が加算された前記仮定動作パラメータに基づく光スペクトラムを算出するためのステップ値加算信号を前記算出処理部(14)に出力することを特徴とする請求項5又は6記載の光スペクトラムアナライザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−13328(P2011−13328A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155648(P2009−155648)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】