説明

光学ガラス、レンズプリフォーム及び光学素子

【課題】屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、低い温度で軟化し易く、且つプレス成形時におけるガラスの失透や着色が低減された光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォーム及び光学素子を得る。
【解決手段】この光学ガラスは、必須成分としてSiO成分、Nb成分、ZrO成分及びLiO成分を含有し、1.78以上の屈折率(nd)と、30以下のアッベ数(ν)と、0.620以下の部分分散比(θg,F)と、を有する。また、光学素子は、この光学ガラスを母材とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、レンズプリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器をはじめ、各種光学機器に用いられるレンズ等の光学素子に対する高精度化、軽量、及び小型化の要求は、ますます強まっている。
【0003】
光学素子を作製する光学ガラスの中でも、1.80以上1.90以下の屈折率(n)を有し、20以上30以下のアッベ数(ν)を有する高屈折率高分散ガラスの需要が非常に高まっている。このような高屈折率高分散ガラスとして、特許文献1には、屈折率(nd)が1.825〜1.870、アッベ数(ν)が22〜27未満の範囲内にあるようなガラスが開示されている。
【0004】
また、光学素子の中でも高屈折率高分散ガラスの非球面レンズの要望が非常に高くなっている。非球面レンズは、精密微細転写プレス(精密プレス成形)を用いて光学面を維持したままレンズ形状に成形することで、研磨でレンズ形状を形成するよりも安価で、高効率に製造できる。その中でも特に、精密プレス成形を用いて成形できる光学ガラスは、市場からの需要が特に高い。このような精密プレス成形が可能なガラスとして、特許文献2にはリン酸ニオブ系のガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/110492号パンフレット
【特許文献2】特開平08−157231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうしたガラスを用いて光学素子を作製する場合には、ガラスを加熱軟化して成形(リヒートプレス成形)して得られたガラス成形品を研削研磨する方法や、ゴブ又はガラスブロックを切断し研磨したプリフォーム材、若しくは公知の浮上成形等により成形されたプリフォーム材を加熱軟化して、高精度な成形面を持つ金型で加圧成形する方法(精密プレス成形)が用いられている。
【0007】
しかしながら、特許文献1で開示されたガラスには、ガラス転移点(Tg)が高いものが多く、これらのガラスは加熱しても軟化し難かった。このため、特許文献1のガラスからプリフォーム材を作製し、プリフォーム材を加熱軟化及びプレス成形して光学素子を作製しようとすると、プリフォーム材を加熱軟化してプレス成形する温度を高める必要があるため、プレス成形に用いた金型とプリフォーム材とが融着を起こしたり、光学素子の光学特性に影響が及んだりしていた。また、特許文献2で開示されたリン酸ニオブ系のガラスは、プレス成形を行った後にガラスが失透し易くなったり、ガラスが着色したりするため、生産性や光学特性の面で不具合があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、低い温度で軟化し易く、且つプレス成形時におけるガラスの失透や着色が低減された光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォーム及び光学素子を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、SiO成分、Nb成分、ZrO成分、及びLiO成分を併用することによって、ガラスの高屈折率化が図られ、所望のアッベ数が得られるとともに、ガラス転移点(Tg)が低くなり、再加熱後における失透や着色が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 必須成分としてSiO成分、Nb成分、ZrO成分及びLiO成分を含有し、1.78以上の屈折率(nd)と、30以下のアッベ数(ν)と、0.620以下の部分分散比(θg,F)と、を有する光学ガラス。
【0011】
(2) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上60.0%以下、Nb成分を10.0%以上65.0%以下、ZrO成分を0.1%以上25.0%以下、及びLiO成分を1.0%以上25.0%以下含有する(1)記載の光学ガラス。
【0012】
(3) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でNb成分の含有量が40.0%以上である(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0013】
(4) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
NaO成分 0〜20.0%、及び/又は
O成分 0〜15.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0014】
(5) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でNaO成分の含有量が1.0%より多い(4)記載の光学ガラス。
【0015】
(6) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でKO成分の含有量が5.0%以下である(4)又は(5)記載の光学ガラス。
【0016】
(7) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分(式中、Rnは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)の質量和が8.0%以上30.0%以下である(1)から(6)のいずれか記載の光学ガラス。
【0017】
(8) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜15.0%、及び/又は
CaO成分 0〜20.0%、及び/又は
SrO成分 0〜20.0%、及び/又は
BaO成分 0〜20.0%、及び/又は
ZnO成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(7)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(9) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上である)の質量和が20.0%以下である(8)記載の光学ガラス。
【0019】
(10) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
La成分 0〜20.0%、及び/又は
Gd成分 0〜15.0%、及び/又は
成分 0〜10.0%、及び/又は
Yb成分 0〜10.0%、及び/又は
Lu成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(9)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(11) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分(式中、Lnは、La、GdY、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上である)の質量和が20.0%以下である(10)記載の光学ガラス。
【0021】
(12) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜20.0%、及び/又は
GeO成分 0〜15.0%、及び/又は
Al成分 0〜15.0%、及び/又は
Ga成分 0〜15.0%、及び/又は
TiO成分 0〜25.0%、及び/又は
Ta成分 0〜10.0%、及び/又は
WO成分 0〜20.0%、及び/又は
TeO成分 0〜20.0%、及び/又は
Bi成分 0〜20.0%、及び/又は
CeO成分 0〜10.0%、及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(11)のいずれか記載の光学ガラス。
【0022】
(13) 1.78以上2.20以下の屈折率(nd)と、10以上30以下のアッベ数(ν)を有する(1)から(12)のいずれか記載の光学ガラス。
【0023】
(14) ガラス転移点(Tg)が650℃以下である(1)から(13)のいずれか記載の光学ガラス。
【0024】
(15) 前記光学ガラスは、下記条件による再加熱試験(イ)を行う前の試験片の透過率が70%となる波長(λ70)と、前記再加熱試験(イ)を行った後の試験片の透過率が70%となる波長(λ70’)との差が30nm以下である(1)から(15)いずれかに記載の光学ガラス。
〔再加熱試験(イ):対向する2面を両面研磨した試験片φ10mm×10mmを再加熱し、室温から10分で各試料の屈伏点(At)より90℃高い温度まで昇温し、前記光学ガラスの屈伏点(At)よりも90℃高い温度で1分間保温し、その後常温まで自然冷却する。〕
【0025】
(16) 前記光学ガラスは、下記条件による再加熱試験(ロ)を行った後の試験片を、目視観察による内部失透数が再加熱試験(ロ)の前後で変化しない(1)から(16)いずれかに記載の光学ガラス。
〔再加熱試験(ロ):試験片15mm×15mm×30mmを再加熱し、室温から150分で各試料の屈伏点(At)より100℃高い温度まで昇温し、前記光学ガラスの屈伏点(At)よりも100℃高い温度で30分間保温し、その後常温まで自然冷却し、試験片の対向する2面を厚み10mmに研磨した後に目視観察する。〕
【0026】
(17) (1)から(16)のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【0027】
(18) (1)から(16)のいずれか記載の光学ガラスからなるレンズプリフォーム。
【0028】
(19) (1)から(16)のいずれか記載の光学ガラスからなるモールドプレス成形用のレンズプリフォーム。
【0029】
(20) (18)又は(19)記載のレンズプリフォームを成形してなる光学素子。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、SiO成分、Nb成分、ZrO成分、及びLiO成分を併用することによって、ガラスの高屈折率化が図られ、所望のアッベ数が得られるとともに、ガラス転移点(Tg)が低くなり、再加熱後における失透や着色が低減される。このため、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、低い温度で軟化し易く、且つプレス成形時におけるガラスの失透や着色が低減された光学ガラスと、これを用いた光学素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の光学ガラスは、必須成分としてSiO成分、Nb成分、ZrO成分及びLiO成分を含有し、1.78以上の屈折率(nd)及び30以下のアッベ数(ν)を有する。SiO成分、Nb成分、ZrO成分、及びLiO成分を併用することによって、ガラスの高屈折率化が図られ、所望のアッベ数が得られるとともに、ガラス転移点(Tg)が低くなり、再加熱後における失透や着色が低減される。このため、1.78以上の屈折率(n)と30以下のアッベ数(ν)とを有しながら、低い温度で軟化し易く、且つプレス成形時におけるガラスの失透や着色が低減された光学ガラスと、これを用いた光学素子を得ることができる。
【0032】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0033】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0034】
<必須成分、任意成分について>
SiO成分は、ガラス形成成分であり、モールドプレス成形時における失透を低減する成分である。特に、SiO成分の含有率を1.0%以上にすることで、モールドプレス成形時における失透を低減することができる。一方で、SiO成分の含有率を60.0%以下にすることで、低いガラス転移点(Tg)を確保しつつ、SiO成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有率は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは10.0%、最も好ましくは18.0%を下限とし、好ましくは60.0%、より好ましくは50.0%、最も好ましくは40.0%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0035】
Nb成分は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの分散を大きくする成分である。特に、Nb成分の含有率を10.0%以上にすることで、ガラスの屈折率及びアッベ数を所望の値に調整し易くすることができる。一方で、Nb成分の含有率を65.0%以下にすることで、モールドプレス成形時における失透を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは30.0%を下限とし、好ましくは65.0%、より好ましくは60.0%、最も好ましくは58.0%を上限とする。特に、1.78以上の高い屈折率(nd)が得られ易くなる観点では、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有率は、好ましくは35.0%、より好ましくは37.0%、最も好ましくは40.0%を下限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有することができる。
【0036】
ZrO成分は、モールドプレス成形時における失透を低減し、ガラスの屈折率を高め、ガラスの化学的耐久性を高める成分である。特に、ZrO成分の含有率を0.1%以上にすることで、ガラスの着色を低減しつつ、モールドプレス成形時における失透を低減できる。一方で、ZrO成分の含有率を15.0%以下にすることで、ガラスの液相温度が低くなるため、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有率は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは9.0%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0037】
LiO成分は、モールドプレス成形時における失透を低減するとともに、低いガラス転移点(Tg)を確保し、ガラスの溶融性を向上する成分である。特に、LiO成分の含有率を1.0%以上にすることで、モールドプレス成形時における失透を低減しつつ、低いガラス転移点(Tg)を確保し、ガラスの屈折率及びアッベ数を所望の値に調整することができる。一方で、LiO成分の含有率を25.0%以下にすることで、アッベ数を所望の値に調整し易くするとともに、モールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の含有率は、好ましくは1.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは5.5%を下限とし、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは15.0%、最も好ましくは13.0%を上限とする。
【0038】
NaO成分は、モールドプレス成形時における失透を低減しつつ、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、NaO成分の含有率を20.0%以下にすることで、モールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは12.0%を上限とする。本発明において、NaO成分は含有しなくとも所望の物性を有する光学ガラスは製造することはできるが、ガラス転移点(Tg)を低くし、ガラスの溶融性を向上する効果を奏し易くするためには、好ましくは1.0%、より好ましくは1.3%、最も好ましくは1.5%を下限とする。NaO成分は、原料として例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0039】
O成分は、ガラス転移点(Tg)を低下し、ガラスの分散を大きくする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、KO成分の含有率を15.0%以下にすることで、モールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するKO成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0040】
本発明の光学ガラスは、RnO(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)成分の質量和が30.0%以下であることが好ましい。この質量和を30.0%以下にすることで、RnO成分の過剰な含有によるモールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分の質量和は、好ましくは30.0%、より好ましくは28.0%、最も好ましくは25.0%を上限とする。なお、本発明の光学ガラスは、RnO成分を含有しなくとも所望の物性を有する光学ガラスを得ることは可能であるが、RnO成分の質量和を8.0%以上にすることで、モールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減しつつ、低いガラス転移点(Tg)を得易くしてガラスの成形性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分の質量和は、好ましくは8.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは12.0%を下限とする。
【0041】
MgO成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上し、ガラスの光学恒数を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、MgO成分の含有率を15.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するMgO成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgCO、MgF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0042】
CaO成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上し、ガラスの光学恒数を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CaO成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCaO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0043】
SrO成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上し、ガラスの光学恒数を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SrO成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSrO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0044】
BaO成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上し、ガラスの光学恒数を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、BaO成分の含有率を25.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0045】
ZnO成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上し、屈折率を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有率を20.0%以下にすることで、モールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZnO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは8.0%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0046】
本発明の光学ガラスは、RO(式中、RはZn、Mg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)成分の質量和が20.0%以下であることが好ましい。この質量和を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分の質量和は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0047】
La成分は、高屈折率を実現しつつ、モールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減する成分である。特に、La成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、La成分の過剰な含有によるガラス形成時の失透を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0048】
Gd成分は、高屈折率を実現し、硬度やヤング率等の特性を向上する成分である。特に、Gd成分の含有率を15.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGd成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0049】
成分は、高屈折率を実現し、硬度やヤング率等の特性を向上する成分である。特に、Y成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するY成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0050】
Yb成分は、高屈折率を実現し、硬度やヤング率等の特性を向上する成分である。特に、Yb成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するYb成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0051】
Lu成分は、高屈折率を実現し、硬度やヤング率等の特性を向上する成分である。特に、Lu成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLu成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0052】
本発明の光学ガラスは、Ln成分(LnはY、La、Gd、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上)の質量和が20.0%以下であることが好ましい。この質量和を20.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分の質量和は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0053】
成分は、ガラス転移点(Tg)を低くし、モールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、B成分の含有率を20.0%以下にすることで、所望の屈折率を得ることができるとともに、B成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減し、可視光の光線透過性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは8.0%を上限とする。なお、特にLa成分を多量に含有するガラスでは、B成分を添加することで成形性が悪化し難くなるため、B成分を含有させること好ましい。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0054】
GeO成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスを安定化させてモールドプレス成形時の失透を低減する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、GeO成分の含有量を15.0%以下にすることで、GeO成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGeO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0055】
Al成分は、ガラスの化学的耐久性を高めるのに有効な成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Al成分の含有率を15.0%以下にすることで、モールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するAl成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0056】
Ga成分は、ガラスの屈折率を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ga成分の含有量を15.0%以下にすることで、高価なGa成分の使用量が低減されるため、ガラスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGa成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Ga成分は、原料として例えばGa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0057】
TiO成分は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの分散を大きくする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、一方で、TiO成分の含有率を25.0%以下にすることで、ソラリゼーションを低く抑え、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。なお、TiO成分は含有しなくとも所望の特性を備えた光学ガラスを形成できるが、TiO成分の含有率を0.1%以上にすることで、ガラスのアッベ数を低く抑えながらも、ガラスの屈折率をより高めることができる。この場合、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.5%を下限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0058】
Ta成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの耐失透性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ta成分の含有率を10.0%以下にすることで、希少鉱物資源であるTa成分の使用量が減少し、ガラスがより低温で溶解し易くなるため、ガラスの生産コストを低減することができる。また、Ta成分の含有率を低減することで、ガラス形成時やモールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTa成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0059】
WO成分は、ガラス転移点(Tg)を下げ、ガラスのプレス成形性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。WO成分は、少量添加することでモールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減できるが、過剰に含有させるとかえってガラスの失透を促進させる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するWO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0060】
成分は、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、P成分の含有量を10.0%以下にすることで、モールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するP成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いてガラス内に含有できる。
【0061】
TeO成分は、ガラスの屈折率を上げ、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、TeO成分の含有量を25.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減し、ガラスの内部透過率を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。特に、プレス成形時におけるTeO成分の揮発を低減させてレンズ表面のクモリを低減させる観点では、TeO成分の含有量はより低減させることが好ましい。この場合、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTeO成分の含有率は、好ましくは5.0%、より好ましくは4.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0062】
Bi成分は、ガラスの屈折率を上げ、ガラス転移点(Tg)を低くし、モールドプレス成形時におけるガラスの失透を低減する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Bi成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減し、ガラスの内部透過率を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。特に、プレス成形時におけるBi成分の揮発を低減させてレンズ表面のクモリを低減させる観点では、Bi成分の含有量はより低減させることが好ましい。この場合、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBi成分の含有率は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.5%を上限とし、最も好ましくは含有しない。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラス内に含有することができる。
【0063】
CeO成分は、ガラスの光学定数を調整し、ガラスのソラリゼーションを改善する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CeO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスのソラリゼーションを低下させることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCeO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。但し、CeO成分を含有すると可視域の特定の波長に吸収が生じ易くなるため、ガラスの着色の面では、CeO成分を実質的に含まないことが好ましい。CeO成分は、原料として例えばCeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0064】
Sb成分は、ガラスの脱泡を促進し、ガラスを清澄する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Sb成分の含有率を1.0%以下にすることで、ガラス溶融時における過度の発泡を生じ難くすることができ、Sb成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb成分の含有率は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは0.5%を上限とする。特に、光学ガラスの環境上の影響を重視する場合には、Sb成分を含有しないことが好ましい。Sb成分は、原料として例えばSb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0065】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0066】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0067】
本発明の光学ガラスには、他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。
【0068】
ただし、Ti、Zr、Nb、Ta、La、Gd、Y、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0069】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0070】
本発明のガラス組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
SiO成分 1.0〜65.0mol%、
Nb成分 3.0〜22.0mol%、
ZrO成分 0.1〜17.0mol%、及び
LiO成分 3.0〜60.0mol%、
並びに
NaO成分 0〜35.0mol%及び/又は
O成分 0〜15.0mol%及び/又は
MgO成分 0〜35.0mol%及び/又は
CaO成分 0〜30.0mol%及び/又は
SrO成分 0〜20.0mol%及び/又は
BaO成分 0〜13.0mol%及び/又は
ZnO成分 0〜25.0mol%及び/又は
La成分 0〜7.0mol%及び/又は
Gd成分 0〜5.0mol%及び/又は
成分 0〜4.0mol%及び/又は
Yb成分 0〜3.0mol%及び/又は
Lu成分 0〜3.0mol%及び/又は
成分 0〜30.0mol%及び/又は
GeO成分 0〜15.0mol%及び/又は
Al成分 0〜15.0mol%及び/又は
Ga成分 0〜7.0mol%及び/又は
TiO成分 0〜30.0mol%及び/又は
Ta成分 0〜3.0mol%及び/又は
WO成分 0〜20.0mol%及び/又は
TeO成分 0〜18.0mol%及び/又は
Bi成分 0〜12.0mol%及び/又は
CeO成分 0〜7.0mol%及び/又は
Sb成分 0〜0.3mol%
【0071】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1200〜1400℃の温度範囲で3〜10時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1250℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0072】
[物性]
本発明の光学ガラスは、所望の屈折率(n)及び分散(アッベ数ν)を有することが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.78、より好ましくは1.80、最も好ましくは1.82を下限とし、好ましくは2.20、より好ましくは2.00、最も好ましくは1.90を上限とする。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは10、より好ましくは15、最も好ましくは22を下限とし、好ましくは30、より好ましくは28、最も好ましくは25を上限とする。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
【0073】
また、本発明の光学ガラスは、高い部分分散比(θg,F)を有し、レンズの色収差をより高精度に補正できる。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは0.620以下であり、より好ましくは0.618以下であり、最も好ましくは0.615以下である。これにより、高い部分分散比(θg,F)を有する光学ガラスが得られるため、光学機器におけるレンズの色収差を高精度に補正することができる。
【0074】
また、本発明の光学ガラスは、650℃以下のガラス転移点(Tg)を有する。これにより、ガラスがより低い温度で軟化するため、より低い温度でガラスをプレス成形し易くできる。また、プレス成形に用いる金型の酸化を低減することで金型とプリフォーム材との融着を低減し、金型の長寿命化を図ることもできる。従って、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)は、好ましくは650℃、より好ましくは620℃、最も好ましくは600℃を上限とする。なお、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)の下限は特に限定されないが、本発明によって得られるガラスのガラス転移点(Tg)は、概ね100℃以上、具体的には300℃以上、さらに具体的には500℃以上であることが多い。
【0075】
また、本発明の光学ガラスは、670℃以下の屈伏点(At)を有する。これにより、プレス成形温度がより低くなるため、容易にプレス成形を行うことができる。従って、本発明の光学ガラスの屈伏点(At)は、好ましくは670℃、より好ましくは700℃、最も好ましくは730℃を上限とする。なお、本発明の光学ガラスの屈伏点(At)の下限は特に限定されないが、本発明によって得られるガラスの屈伏点(At)は、概ね100℃以上、具体的には150℃以上、さらに具体的には200℃以上であることが多い。
【0076】
また、本発明の光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)が460nm以下であり、より好ましくは450nm以下であり、最も好ましくは440nm以下である。これにより、可視域の低波長側におけるガラスの透明性が高められるため、可視域の波長の入射光を光学素子に透過させたときの色収差を高精度に補正しつつ、透過光のカラーバランスを入射光に近づけることができる。従って、透過光における入射光の再現性を高めることができる。
【0077】
また、本発明の光学ガラスは、プレス成形時におけるガラスの着色が小さい。より具体的には、再加熱試験(イ)を行う前の試験片の透過率が70%となる波長の値(λ70)と、再加熱試験(イ)を行った後の試験片の透過率が70%となる波長の値(λ70’)との差(Δλ70)は、好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm、さらに好ましくは20nmを上限とする。一方で、Δλ70の下限は、0nmである。これにより、着色が低減されたガラスがプレス成形により得られるため、可視域に対して用いられるレンズやプリズム等の光学素子をリヒートプレス加工で成形することができる。なお、再加熱試験(イ)は、対向する2面を両面研磨したφ10mm×高さ10mmの光学ガラスの試験片を再加熱し、室温から各試料の屈伏点(At)より90℃高い温度まで10分で昇温し、この光学ガラスの屈伏点(At)よりも90℃高い温度で1分間保温し、その後常温まで自然冷却することにより行われる。
【0078】
また、本発明の光学ガラスは、プレス成形時におけるガラスの失透が起こり難い。より具体的には、再加熱試験(ロ)によっても内部に失透が発生しないことが好ましい。これにより、プレス成形を行ってもガラスが失透し難くなるため、ガラスに光を透過させるレンズやプリズム等の光学素子を、リヒートプレス加工で成形することができる。なお、再加熱試験(ロ)は、縦15mm×横15mm×高さ30mmの光学ガラスの試験片を再加熱し、室温から各試料の屈伏点(At)より100℃高い温度まで150分で昇温し、この光学ガラスの屈伏点(At)よりも100℃高い温度で30分間保温し、その後常温まで自然冷却し、試験片の対向する2面を厚み10mmに研磨した後に、これら研磨面を透過する光の透過率を測定することにより行われる。また、本願における「内部に失透の発生した」ガラスとは、再加熱試験(ロ)を行った後の試験片の波長587.56nmの光線(d線)の透過率を、再加熱試験(ロ)を行う前の試験片のd線の透過率で除した値が、0.95より小さいガラスのことである。
【0079】
[レンズプリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のレンズプリフォームを作製し、このレンズプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したレンズプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0080】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、透過光のカラーバランスが入射光に近づけられる。そのため、この光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物の色彩をより正確に表現でき、この光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより彩色よく投影できる。
【実施例】
【0081】
本発明の実施例(No.1〜No.12)及び比較例(No.1)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、分光透過率で70%を示す透過波長(λ70)、ガラス転移点(Tg)、屈伏点(At)、及びモールドプレス試験の結果を表1〜表2に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0082】
本発明の実施例(No.1〜No.12)の光学ガラス及び比較例(No.1)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表1〜表3に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1200〜1400℃の温度範囲で3〜10時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1200℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0083】
ここで、実施例(No.1〜No.12)の光学ガラス及び比較例(No.1)のガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、及び部分分散比(θg,F)は、徐冷降温速度を−25℃/hにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0084】
また、実施例(No.1〜No.12)の光学ガラス及び比較例(No.1)のガラスのガラス転移点(Tg)及び屈伏点(At)は、横型膨張測定器を用いた測定を行うことで求めた。ここで、測定を行う際のサンプルはφ4.5mm、長さ5mmのものを使用し、昇温速度4℃/minとした。
【0085】
また、実施例(No.1〜No.12)の光学ガラス及び比較例(No.1)のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無とその程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ70(透過率70%時の波長)を求めた。
【0086】
また、実施例(No.1〜No.12)の光学ガラス及び比較例(No.1)のガラスのプレス成形時におけるガラスの着色は、以下のように測定した。すなわち対向する2面を両面研磨したφ10mm×高さ10mmの光学ガラスの試験片を再加熱し、室温から各試料の屈伏点(At)より90℃高い温度まで10分で昇温し、この光学ガラスの屈伏点(At)よりも90℃高い温度で1分間保温し、その後常温まで自然冷却した。この再加熱試験(イ)を行う前の上述のλ70の値と、再加熱試験(イ)を行った後における透過率が70%となる波長の値(λ70’)の差(Δλ70)を求めた。
【0087】
また、実施例(No.1〜No.12)の光学ガラス及び比較例(No.1)のガラスのプレス成形時におけるガラスの失透は、以下のように測定した。すなわち、縦15mm×横15mm×高さ30mmの光学ガラスの試験片を再加熱し、室温から各試料の屈伏点(At)より100℃高い温度まで150分で昇温し、この光学ガラスの屈伏点(At)よりも100℃高い温度で30分間保温し、その後常温まで自然冷却し、試験片の対向する2面を厚み10mmに研磨した。この再加熱試験(ロ)を行う前の試験片に対して波長587.56nmの光線(d線)を透過させたときの透過率(t)と、再加熱試験(ロ)を行った後のd線の透過率(t)を測定し、その比率(t/t)が0.95以上の試験片を「失透せず」と判定し、表1〜表2の「再加熱試験(ロ)」欄に「○」を記載した。一方で、比率(t/t)が0.95より小さい試験片を「失透した」と判定し、表1〜表2の「再加熱試験(ロ)」欄に「×」を記載した。
【0088】
また、実施例(No.1〜No.12)の光学ガラス及び比較例(No.1)のガラスの精密プレス試験は、市販の成形機を用いた。ここで、試験に用いたプリフォームは浮上成形し、若しくは金型に流し出して得られたブロックを切断・研磨することにより、球体状のサンプルを得た。試験は、屈伏点(At)から(At+70)℃まで5〜15分で昇温して、炭素系若しくは貴金属系の膜を蒸着したWC(タングステンカーバイド)からなる上下2対の金型の間にプリフォームを挟み、50〜300秒、20〜300kgfの圧力でプレスした後、ガラス転移点(Tg)まで冷却速度0.1〜5℃/secで冷却した。プレス成形後のガラスに失透、カン、曇りが無く、且つ、金型の曇りと離型膜の剥離が無いものについて、表1〜表2の「精密プレス試験」欄に「○」を記載した。一方で、これらのいずれかがあるものについては、表1〜表2の「精密プレス試験」欄に「×」を記載した。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表1〜表2に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも再加熱試験(イ)を行う前の試験片の透過率が70%となる波長の値(λ70)と、再加熱試験(イ)を行った後の試験片の透過率が70%となる波長の値(λ70’)との差(Δλ70)が30nm以下、より詳細には21nm以下であった。一方で、比較例のガラスは、Δλ70が30nmより大きかった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べてプレス成形時におけるガラスの着色が小さいことが明らかになった。
【0092】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも再加熱試験(ロ)によって失透が発生しなかった。一方で、比較例のガラスは、再加熱試験(ロ)によって失透が発生した。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べて、プレス成形時におけるガラスの失透が起こり難いことが明らかになった。
【0093】
また、表1〜表2に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもモールドプレス試験において、成形後のガラスへの失透、カン、曇りが無く、且つ、金型の曇りや離型膜の剥離が見られなかった。一方で、比較例のガラスは、成形後のガラスに失透が生じた。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べて精密プレス成形に好適に用いられることが明らかになった。
【0094】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス転移点(Tg)が650℃以下、より詳細には580℃以下であった。一方で、比較例1のガラスは、ガラス転移点(Tg)が580℃より高かった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例1のガラスに比べて低いガラス転移点(Tg)を有しており、低い温度で軟化し易く、プレス成形時における金型とプリフォーム材との融着が起こり難いことが明らかになった。
【0095】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈伏点(At)が670℃以下、より詳細には610℃以下であった。一方で、比較例1のガラスは、屈伏点(At)が630℃より高かった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例1のガラスに比べて低い屈伏点(At)を有しており、プレス成形を行い易いことが明らかになった。
【0096】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.78以上、より詳細には1.82以上であるとともに、この屈折率(n)は2.20以下、より詳細には1.90以下であり、所望の範囲内であった。
【0097】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が10以上、より詳細には24以上であるとともに、このアッベ数(ν)は30以下であり、所望の範囲内であった。
【0098】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもλ70(透過率70%時の波長)が460nm以下、より詳細には420nm以下であり、所望の範囲内であった。
【0099】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、低い温度で軟化し易く、且つプレス成形時におけるガラスの失透や着色が低減されていることが明らかになった。
【0100】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いて精密プレス成形用のレンズプリフォームを形成し、このレンズプリフォームを精密プレス成形加工したところ、安定に様々なレンズ形状に加工することができた。
【0101】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分としてSiO成分、Nb成分、ZrO成分及びLiO成分を含有し、1.78以上の屈折率(nd)と、30以下のアッベ数(ν)と、0.620以下の部分分散比(θg,F)と、を有する光学ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上60.0%以下、Nb成分を10.0%以上65.0%以下、ZrO成分を0.1%以上25.0%以下、及びLiO成分を1.0%以上25.0%以下含有する請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でNb成分の含有量が40.0%以上である請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
NaO成分 0〜20.0%、及び/又は
O成分 0〜15.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でNaO成分の含有量が1.0%より多い請求項4記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でKO成分の含有量が5.0%以下である請求項4又は5記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分(式中、Rnは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)の質量和が8.0%以上30.0%以下である請求項1から6のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜15.0%、及び/又は
CaO成分 0〜20.0%、及び/又は
SrO成分 0〜20.0%、及び/又は
BaO成分 0〜20.0%、及び/又は
ZnO成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から7のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上である)の質量和が20.0%以下である請求項8記載の光学ガラス。
【請求項10】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
La成分 0〜20.0%、及び/又は
Gd成分 0〜15.0%、及び/又は
成分 0〜10.0%、及び/又は
Yb成分 0〜10.0%、及び/又は
Lu成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から9のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項11】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分(式中、Lnは、La、GdY、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上である)の質量和が20.0%以下である請求項10記載の光学ガラス。
【請求項12】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜20.0%、及び/又は
GeO成分 0〜15.0%、及び/又は
Al成分 0〜15.0%、及び/又は
Ga成分 0〜15.0%、及び/又は
TiO成分 0〜25.0%、及び/又は
Ta成分 0〜10.0%、及び/又は
WO成分 0〜20.0%、及び/又は
TeO成分 0〜20.0%、及び/又は
Bi成分 0〜20.0%、及び/又は
CeO成分 0〜10.0%、及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から11のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項13】
1.78以上2.20以下の屈折率(nd)と、10以上30以下のアッベ数(ν)を有する請求項1から12のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項14】
ガラス転移点(Tg)が650℃以下である請求項1から13のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項15】
前記光学ガラスは、下記条件による再加熱試験(イ)を行う前の試験片の透過率が70%となる波長(λ70)と、前記再加熱試験(イ)を行った後の試験片の透過率が70%となる波長(λ70’)と、の差(Δλ70)が30nm以下である請求項1から15いずれかに記載の光学ガラス。
〔再加熱試験(イ):対向する2面を両面研磨した試験片φ10mm×10mmを再加熱し、室温から10分で各試料の屈伏点(At)より90℃高い温度まで昇温し、前記光学ガラスの屈伏点(At)よりも90℃高い温度で1分間保温し、その後常温まで自然冷却する。〕
【請求項16】
請求項1から15のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【請求項17】
請求項1から15のいずれか記載の光学ガラスからなるレンズプリフォーム。
【請求項18】
請求項1から15のいずれか記載の光学ガラスからなるモールドプレス成形用のレンズプリフォーム。
【請求項19】
請求項17又は18記載のレンズプリフォームを成形してなる光学素子。

【公開番号】特開2011−37660(P2011−37660A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185323(P2009−185323)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】