説明

光学ガラスの研削加工方法及び光学ガラスレンズの製造方法

【課題】光学ガラスである難硝材からなるガラス成形体に対して、品質を低減させることなく低コストで研削加工を実行する。
【解決手段】光学ガラスである難硝材からなるガラス成形体の粗研削加工前の被研削面に対して精研削加工用の研削面を有する導電性のカップ砥石を当接させて回転駆動させることで精研削を行い(S6b)、この研削工程時に、カップ砥石の研削面と対向する位置に配設された電極とカップ砥石との間に導電性研削液を供給しながら、電極とカップ砥石間に所定の電圧を印加することで、研削面のドレッシングを実行することで実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスの研削加工方法及び光学ガラスレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラなどの光学機器に使用される光学ガラスレンズ(以下、単にレンズとも呼ぶ。)は、所望の光学的特性を有するように調合された硝材(ガラス材料)から製造されたガラス成形体を、研削加工し、さらに研磨加工をすることで得ることができる。
【0003】
このうち研削加工は、粗さなど加工面の品位よりも加工能率を優先する加工工程である粗研削加工を行ってから、形状精度と表面状態を整える加工工程である精研削加工を行うという2段階の工程を必要としている。具体的には、以下に示すような研削加工法が考案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、球面創成機(以下CG)を用いて、粗研削工程を行い、続いて同じくCGによる精研削工程を行うことでレンズの研削工程を実行している。
【0005】
また、特許文献2では、球面レンズの粗加工方式として広く知られている、カップ砥石を使用したミル・グラインディング加工により球面を粗加工する研削法に、導電性砥石を用い、この砥石を電解ドレッシングしながら被加工物(ワーク)を研削加工する電解インプロセスドレッシング研削法(ELID:Electrolytic In-process Dressing)を適用する手法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、CG加工による研削手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−132340号公報
【特許文献2】特開2000−246613号公報
【特許文献3】実用新案登録第2600063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光学ガラスレンズは、様々な手法によって製造されるが、研削加工、研磨加工により減少する分をなるべく少なくし加工時間の短縮によるコスト削減を図るために、最終的に生産する光学ガラスレンズに近似させた形状を有する成形品を用いることが多い。
【0009】
光学ガラスの成形品(ガラス成形体)は、それぞれ光学機器に使用される光学ガラスレンズの機能に応じて適宜選択された硝材(ガラス材料)からなる。例えば、以下に示すような特殊な光学的特性を有するように調合された硝材からなる光学ガラスがある。
【0010】
近年、光学ガラスレンズの形成材料として、光学ガラスの一種である難硝材が用いられることがある。難硝材とは、レンズ製造工程におけるレンズ加工プロセス上で何らかの工夫を必要とするガラス材料であり、例えば難硝材以外の材料に比べて柔らかく傷が付きやすい性質や硬すぎて加工が進み難い性質(すなわち加工困難性)を有するといったものである。
【0011】
ところが、難硝材により形成されたガラス成形体に対して研削加工を実行する場合、難硝材の加工困難性に起因して、表面に傷が深く入ってしまうなど、光学ガラスレンズに適した品質の被研削面を得ることが困難となる虞がある。
【0012】
このような傷に対して、研削加工の後に表面の傷を除去する研磨処理を行うことも考えられる。しかし、表面に深く入った傷を除去するためには、研磨処理に多くの時間(例えば通常の硝材に比べて2〜3倍の時間)を要してしまい、また熟練技能がないと適切な研磨処理に対応できないことも考えられ、その結果として難硝材により形成されたガラス成形体に対する加工コストの増大を招来してしまう虞がある。
【0013】
具体的には、加工困難性を有する難硝材からなるガラス成形体を研削加工する場合、例えば、CG加工などにより、被研削面に対して砥石の研削面を当接させる際に、極めて慎重を期して実行しないと、上述したような傷の発生を招いてしまう可能性が高い。
【0014】
つまり、難硝材からなるガラス成形体を研削加工する場合、当業者にとって一般的である、例えば、特許文献1で開示されているような、CG加工により、粗さなどの加工面の品位よりも加工能率を優先する粗研削加工を実行してから、形状精度と表面状態を整える精研削加工を実行するという2段階の研削加工を行ったとしても、被研削面の品質を確保するためには、傷を除去するための上述したような研磨処理を必要とする可能性が高く、加工コストの増大を招いてしまう虞がある。
【0015】
また、特許文献2では、光学ガラスの一種であるBK7(ボロシリケートクラウンガラス、日本光学硝子工業会規格JOGIS−10に基づいて測定した摩耗度が118)からなるガラス成形体に対して、粒度表示♯325、♯600、♯4000の3種類の砥石を使用し、粗加工(粗研削加工)と仕上げ加工(精研削加工)とに分けた多段研削加工を行っている。したがって、特許文献2においても、難硝材からなるガラス成形体を研削加工する場合には、特許文献1と同様に、2段階の研削加工を行ったとしても、被研削面の品質を確保するためには、傷を除去するための上述したような研磨処理を必要とする可能性が高く、加工コストの増大を招いてしまう虞がある。
【0016】
そこで、本発明は、上述した問題を解決するために案出されたものであり、加工困難性を有する硝材である難硝材からなるガラス成形体に対して、品質を低減させることなく(被研削面の品質確保)、低コスト(加工コストの抑制)で研削加工を実行することができる光学ガラスの研削加工方法及び光学ガラスレンズの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様は、光学ガラスである難硝材からなるガラス成形体の粗研削加工前の被研削面に対して精研削加工用の研削面を有する導電性のカップ砥石を当接させて回転駆動させることで精研削を行う研削工程と、前記研削工程時に、前記カップ砥石の研削面と対向する位置に配設された電極と前記カップ砥石との間に導電性研削液を供給しながら、前記電極と前記カップ砥石間に所定の電圧を印加することで、前記研削面のドレッシングを行う電解インプロセスドレッシング工程とを備えることを特徴とする光学ガラスの研削加工方法である。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、前記難硝材は、フツリン酸ガラス、リン酸ガラス、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラス、または、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスのいずれか1つからなることを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第1または第3の態様に記載の発明において、前記カップ砥石は、前記被研削面を研削する砥粒と、当該砥粒を結合するボンド材を含み、前記砥粒の粒度が#2000〜#8000であることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の発明において、前記砥粒の平均粒子径は、1.0〜10.0μmであることを特徴とする。
本発明の第5の態様は、第1〜第4のいずれか1態様に記載の発明において、前記研削工程における前記カップ砥石の回転数は、18000rpm以上30000rpm以下であることを特徴とする。
本発明の第6の態様は、第1〜第5のいずれか1態様に記載の発明において、前記研削工程における前記ガラス成形体と前記カップ砥石の当接可変方向における相対位置移動の送り速度は、1.0μm/sec以上15.0μm/sec以下であることを特徴とする。
本発明の第7の態様は、第3の態様に記載の発明において、前記ボンド材は、メタルボンド、または、レジンボンドからなることを特徴とする。
本発明の第8の態様は、第1〜第7のいずれか1態様に記載の光学ガラスの研削加工方法を用いて、前記ガラス成形体から光学ガラスレンズを製造する光学ガラスレンズの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、加工困難性を有する硝材である難硝材からなるガラス成形体に対して、品質を低下させることなく低コストで研削加工を実行することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態として示す光学ガラス研削装置の概略構成について説明するための図である。
【図2】一般的な光学ガラスレンズの製造手順の一例を示すフロー図である。
【図3】本発明の実施の形態における光学ガラスレンズの製造手順の一例を示すフロー図である。
【図4】ELID研削法による電解ドレッシングのメカニズムについて説明するための図である。
【図5】本発明の実施例1〜実施例7における加工条件を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例8〜実施例10における加工条件を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例11〜実施例12における加工条件を示す説明図である。
【図8】本発明の実施例13〜実施例15における加工条件を示す説明図である。
【図9】本発明の比較例1〜比較例2における加工条件を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の形態について図面を用いて説明をする。
本実施の形態においては、光学ガラス研削装置を用いた光学ガラス研削加工方法及び光学ガラスレンズの製造方法について次の順序で説明を行う。
【0021】
1.難硝材についての説明
2.光学ガラス研削装置の構成
3.光学ガラス研削装置の動作例
4.本実施の形態の効果
【0022】
<1.難硝材についての説明>
本実施の形態において研削加工の被研削物を形成する難硝材は、光学ガラスのガラス材料の一種に相当するが、他種のガラス材料(すなわち難硝材以外)とは異なり、レンズ製造工程におけるレンズ加工プロセス上で何らかの工夫を必要とするガラス材料である。そのため、難硝材は加工時に傷が発生しやすい性質を有するガラス、または、加工がし難いガラスと捉えることができる。
このような性質の難硝材は、例えば、後述する摩耗度(FA)を基準にすることで、難硝材以外の硝材と区分することができる。ここでは、一例として後述する摩耗度(FA)を測定する際に日本光学硝子工業会により指定された標準試料(難硝材以外の硝材であり、摩耗度FA=100)を用いて摩耗度を測定した場合について説明する。難硝材により形成される被研削物(ガラス成形体)は、例えば、標準試料の被研削物(ガラス成形体)に比べて、柔らかく傷が付きやすいという性質(以下に記載するガラスのうち、フツリン酸ガラス、リン酸ガラス、および、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラス)や、硬過ぎて加工が進み難い性質(以下に記載するガラスのうち、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラス)、すなわち加工困難性を有していることから、その加工困難性に対応するために何らかの工夫を必要とするのである。なお、硬過ぎて加工が進み難いガラスを加工する場合には、通常粗い砥石(例えば#270)を使う必要があり、かえって大きい傷の原因になる。
上述の説明において、難硝材以外の硝材として標準試料を例に挙げ、ガラスの性質について説明したが、これに限定されるものではなく、本発明における「難硝材」とは摩耗度FAが45以上95以下である光学ガラス、または、160以上500以下となる光学ガラスであり、難硝材以外の硝材とは摩耗度FAが95超160未満となる光学ガラスを意味している。このような範囲のガラスに本発明を適用することができる。
【0023】
このような難硝材からなる光学ガラスの具体例としては、フツリン酸ガラス、リン酸ガラス、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラス、または、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスが挙げられる。つまり、ここで例に挙げたガラスの形成材料となるものを、本明細書では「難硝材」として定義する。本実施形態では、これらフツリン酸ガラス、リン酸ガラス、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラス、または、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスのいずれか一つのガラスにより形成されたものを、球面創成加工の被研削物(ガラス成形体)とする。
【0024】
フツリン酸ガラスは、低屈折率低分散ガラスであり、以下のような構成を有している。フツリン酸ガラスは、必須カチオン成分としてP5+、Al3+およびアルカリ土類金属イオンを含むとともに、必須アニオン成分としてFおよびO2−を含む光学ガラスであって、屈折率(nd)が1.45以上で、アッベ数(νd)が65以上という光学特性を有する光学ガラスである。特に、P5+は3〜50カチオン%、Al3+は3〜40カチオン%を含むことが好ましい。また、Fは20〜95アニオン%を含み、O2−は5〜80アニオン%とすることが好ましく、FとO2−の合計含有量が100アニオン%とすることが好ましい。また、アルカリ土類金属イオンとしては、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。さらに、フツリン酸塩ガラスの揮発性、侵蝕性を抑制する上から、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上にすることが望ましい。
具体的には、フツリン酸ガラスとして、カチオン%表示にて、P5+;3〜50%、Al3+;5〜40%、Mg2+;0〜10%、Ca2+;0〜30%、Sr2+;0〜30%、Ba2+;0〜40%、Li;0〜30%、Y3+;0〜10%、La3+;0〜10%、を含有し、アニオン%表示にて、F;20〜95%、O2−;5〜80%を含有する光学ガラスが挙げられる。また、フツリン酸ガラスの摩耗度(FA)は380〜500であることが好ましく、より好ましくは400〜460とするのがよい。
【0025】
リン酸ガラスは、低分散ガラスであり、以下のような構成を有している。リン酸ガラスは、必須成分としてP、B、LiO、MgO、CaOおよびBaOを含み、屈折率(nd)が1.50〜1.70、アッベ数(νd)が60〜70という光学特性を有する光学ガラスである。
具体的には、リン酸ガラスとして、質量%表示で、P;18〜70%、B;1〜35%、Al;0〜8%、LiO;0〜20%(ただし、0%を除く)、NaO;0〜18%、KO;0〜15%、MgO;1〜25%、CaO;0〜18%(ただし、MgO+CaO>4%)、SrO;0〜20%、BaO;1〜40%、ZnO;0〜14%、Gd;0〜18%、Sb;0〜1%を含有する光学ガラスが挙げられる。また、リン酸ガラスの摩耗度(FA)は250〜350であることが好ましく、より好ましくは270〜310とするのがよい。
【0026】
リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラスは、W、Ti、BiおよびNbからなる易還元成分を少なくとも一種含有する光学ガラスからなり、これらの易還元成分の含有量の合計が5〜60モル%であり、屈折率(nd)が1.80以上で、アッベ数(νd)が30以下という光学特性を有する光学ガラスである。
具体的には、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラスとして、モル%表示で、P;10〜45%、Nb;3〜35%、LiO;2〜35%、TiO;0〜25%、WO;0〜20%、Bi;0〜40%、B;0〜20%、BaO;0〜25%、ZnO;0〜25%、NaO;0〜50%、KO;0〜20%、Al;0〜15%、SiO;0〜15%、(ただし、WO、TiO、BiおよびNbの合計量が10%以上65%未満)を含有する光学ガラスが挙げられる。また、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラスの摩耗度(FA)は150〜300であることが好ましく、より好ましくは160〜290とするのがよい。
【0027】
ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスは、W、Ti、Bi、Nbからなる易還元成分を少なくとも一種含有するほか、必須成分としてB、La、ZnOを含む光学ガラスであって、屈折率(nd)が1.8以上、アッベ数(νd)が25〜50という光学特性を有する光学ガラスである。この光学ガラスにおいて、Bはガラスのネットワーク構成のために必須の成分であり、Laは高屈折率、低分散特性を付与するために必須の成分であって、両成分が共存することにより、ガラスの安定性がより一層向上する。
具体的には、ホウ酸ランタン含有高屈折率分散ガラスとして、モル%表示で、SiO;0〜50%、B;5〜70%、LiO;0〜20%、NaO;0〜10%、KO;0〜10%、ZnO;1〜50%、CaO:0〜10%、BaO:0〜10%、SrO:0〜10%、MgO:0〜10%、La;5〜50%、Gd;0〜22%、Yb;0〜10%、Nb;0〜15%、WO;0〜20%、TiO;0〜40%、Bi;0〜20%、ZrO;0〜15%、Ta;0〜20%、GeO;0〜10%を含有する光学ガラスが挙げられる。また、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスの摩耗度(FA)は45〜95であることが好ましく、より好ましくは50〜80とするのがよい。
【0028】
このような難硝材からなる光学ガラスのうち、フツリン酸ガラスについては、その具体例としてFCD1(HOYA株式会社製、nd=1.49700、νd=81.61)が挙げられる。ここで例に挙げたFCD1は、例えばヌープ硬さHk≦350N/mmで磨耗度FA≧400という機械的性質を有している。したがって、難硝材以外の硝材により形成される光学ガラス(例えばHk≧500N/mm、FA≦200)に比べると柔らかく加工の際に傷が付きやすいという特徴がある。
また、リン酸ガラスについては、その具体例としてPCD4(HOYA株式会社製、nd=1.61800、νd=63.40)、および、PCD51(HOYA株式会社製、nd=1.59349、νd=67.00)が挙げられる。
また、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラスについては、その具体例として、E-FDS1(HOYA株式会社製、nd=1.92286、νd=20.88)、FDS18(HOYA株式会社製、nd=1.94595、νd=17.98)、FDS90(HOYA株式会社製、nd=1.84666、νd=23.78)が挙げられる。
また、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスについては、その具体例として、TAFD25(HOYA株式会社製、nd=1.90366、νd=31.32)、TAFD35(HOYA株式会社製、nd=1.91082、νd=35.25)、TAFD40(HOYA株式会社製、nd=2.00069、νd=25.46)が挙げられる。
【0029】
なお、上述の摩耗度(FA)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS-10に基づいて測定している。その測定方法は、測定面積が9cmの試料を、水平に毎分60回転する鋳鉄製平面皿の中心より80mmの定位置に保持し、平均粒径20μmのアルミナ砥粒10gに水20mlを添加したラップ駅を5分間一様に供給し、9.807Nの荷重をかけてラップする。ラップ前後の試料質量を秤量して摩耗質量mを求める。同様にして、日本光学硝子工業会で指定された標準試料の摩耗質量mを測定し、次式により摩耗度(FA)を算出した。
摩耗度(FA)=(m/d)/(m/d)×100 ・・・(1)式
ここで、dは試料の比重であり、dは標準試料の比重である。
【0030】
<2.光学ガラス研削装置の構成>
図1は、難硝材からなるガラス成形体を研削加工する光学ガラス研削装置1の概略構成例について説明するための模式的な図である。
【0031】
図1に示す光学ガラス研削装置1は、一般に研削加工の粗研削加工にて球面に研削する際に用いられるカーブ・ジェネレーター(CG:Curve Generator)によるカーブジェネレーティング加工研削法(以下「CG加工工程」という)対して、電解インプロセスドレッシング(ELID:Electrolytic In-process Dressing)による電解インプロセスドレッシング研削法(以下「ELID工程」という)を適用した装置構成となっている。なお、「CG加工工程」、「ELID工程」については、後で詳細に説明をする。
【0032】
図1に示すように、本実施の形態で説明する光学ガラス研削装置1は、回転テーブル2と、カップ砥石3と、電極4と、研削液供給部5と、電圧印加部6と、動作コントローラ7とを備えている。
【0033】
このような光学ガラス研削装置1は、動作コントローラ7の制御に応じて、ELID工程によるELIDサイクルによりカップ砥石3の研削面のドレッシング(目立て)を自動的に実行しながら、GG加工工程によってカップ砥石3による光学ガラス(難硝材)製のプレス品10の被研削面を球面形状へと研削していくことができる。
【0034】
なお、図1に示す光学ガラス研削装置1は、いわゆる縦型であり、凸面を研削するカーブ・ジェネレーターに対して、電解インプロセスドレッシング研削法を適用した装置構成を示している。図1に示す光学ガラス研削装置1は、いわゆる横型としてもよいし、凹面を研削するカーブ・ジェネレーターに対して、電解インプロセスドレッシング研削法を適用するようにしてもよい。
【0035】
回転テーブル2は、被研削物である難硝材からなるガラス成形体のプレス品10を保持するチャック部2aを有している。このチャック部2aは、プレス品10を保持した状態で図示しない駆動源により回転駆動されるように構成されている。チャック部2aによるプレス品10の保持は、真空吸着または固定治具利用等の公知技術を用いて行えばよい。また、回転テーブル2を回転駆動する駆動源についても、電動モータ等といった公知のものを用いればよい。
【0036】
カップ砥石3は、カップ状(開放端を有する円筒状)に形成されており、開放端が回転テーブル2のチャック部2aと対向するように配されるとともに、チャック部2aと対向する側の端面付近に研削面である砥粒部3aが設けられている。
【0037】
つまり、カップ砥石3は、回転テーブル2のチャック部2aに保持された難硝材からなるガラス成形体のプレス品10に対して、砥粒部3aを当接させ得るように構成されている。
【0038】
砥粒部3aは、ダイヤモンド砥粒を鋳鉄や青銅等の金属材料からなる結合材(ボンド材)で固めたものである。結合材として金属材料を用いることで、カップ砥石3は、導電性を有したメタルボンド砥石として機能するようになっている。ただし、導電性を有していれば、レジンボンド砥石であってもよい。
【0039】
また、カップ砥石3は、電動モータ等の図示せぬ駆動源により回転駆動されるように構成されている。カップ砥石3の回転軸は、回転テーブル2の回転軸に対して角度αをなす線上に位置している。この角度αは作製する球面レンズの曲率によって1対1で決まるものであり、レンズの曲率に合わせて角度αを決めた後、原則的にはその角度αを維持したまま連続加工される。複数のレンズ形状に対応可能なように、角度αについては、図示せぬ揺動機構により、所定の範囲(例えば0°〜60°)で可変させ得るようになっている。
【0040】
さらに、カップ砥石3は、図示せぬ移動機構により、当該カップ砥石3の送り方向に沿って、回転テーブル2との相対位置を可変させ得るように構成されている。「送り方向」とは、難硝材からなるガラス成形体のプレス品10と砥粒部3aとの当接圧を可変させる方向のことをいう。送り方向の相対位置可変のための移動機構は、電動モータや送りねじ等の公知技術を利用して構成すればよい。
【0041】
なお、移動機構は、回転テーブル2とカップ砥石3との相対位置を可変させ得るものであれば、カップ砥石3ではなく回転テーブル2を移動させるものであってもよい。
【0042】
電極4は、カップ砥石3の砥粒部3aと所定の隙間(例えば0.1〜0.3mmであり、好ましくは0.2mm程度)を隔てて対向するように配されたものである。
【0043】
研削液供給部5は、カップ砥石3の砥粒部3aと電極4との間、および、カップ砥石3の砥粒部3aと被研削物である難硝材からなるガラス成形体のプレス品10との間に、導電性研削液を供給するものである。
【0044】
導電性研削液は、砥粒部3aと電極4との間の電気抵抗を低減させる機能を有するものであればよい。具体的には、導電性研削液として、ある程度の電気伝導度(例えば1300〜1800μS/cmであり、好ましくは1500〜1600μS/cm程度)を有したELID研削用の水溶性研削液を用いることが考えられる。
【0045】
電圧印加部6は、メタルボンド砥石であるカップ砥石3を陽極(プラス)とし、これに対向する電極4を陰極(マイナス)として、これらの極間に直流パルス電圧を印加するものである。
【0046】
そのため、電圧印加部6は、所定の直流パルス電圧を発生させるELID電源6aと、カップ砥石3の回転軸に摺動しながら接触する給電ブラシ6bと、ELID電源6aと給電ブラシ6bとの間およびELID電源6aと電極4との間を接続する電流供給ライン6cとを備えて構成されている。
【0047】
動作コントローラ7は、上述した各部2〜6の動作を制御するものである。この動作コントローラ7の制御によって、少なくとも、カップ砥石3の回転数と、回転テーブル2とカップ砥石3の送り方向における相対位置移動の送り速度とが、詳細を後述するように設定されるようになっている。
【0048】
<3.光学ガラス研削装置の動作例>
次に、上述した構成の光学ガラス研削装置1の動作例について説明をする。
ここでは、光学ガラスレンズの製造方法に、上述した構成の光学ガラス研削装置1を用いる場合を例に挙げる。
【0049】
(光学ガラスレンズの製造方法の概要)
光学ガラスレンズは、様々な手法によって製造され得るが、研削加工、研磨加工による減少分をなるべく少なくし加工時間の短縮によるコスト削減を図るために、最終的なレンズ形状に近似させた形状を有するプレス品を用いることが多い。プレス品は、プレス品を成形するためのガラス素材を加熱、軟化させ金型内でプレスすることで得られるリヒートプレス(Reheat Press、以下「RP」と略す。)品と、熔融ガラス塊を下型上に供給して上型と下型を用いてプレスすることにより得られるダイレクトプレス(Direct Press、以下「DP」と略す。)品とがある。RP品は、製品の屈折率を測定してから再加熱し、軟化させてプレスするため屈折率の正確性に優れている。一方、DP品は、バッチなどのガラス材料を熔融し、清澄、均質化させた熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、熔融ガラス塊が高温で軟らかいうちに、そのまま上下の成形型でプレスしたもので、外形、肉厚などの寸法精度に優れている。なお、このようにして成形されるプレス品は、RP品とDP品のいずれについても、その表面粗さRzが2.0μm以下になる。
【0050】
(一般的な製造手順)
一般に、光学ガラスレンズは、例えば、RP品またはDP品といったプレス品に対して、粗研削を行う粗研削加工工程、精研削を行う精研削加工工程を順に実行することでガラス成形体のレンズ表面となる被研削面を球面形状に研削し、さらに、この被研削面に対して研磨を行う研磨加工工程を実行することで製造される。
【0051】
図2は、一般的な光学ガラスレンズの製造手順の一例を示すフロー図である。
【0052】
(S1;バッチの調整・混合)
光学ガラスレンズの製造にあたっては、先ず、所望の光学特性を有した光学ガラスが得られるように、当該光学ガラスを構成する上述の組成物を、上述した所定割合で調合して、当該光学ガラスの基になるガラス材料(すなわち難硝材)を得る(S1)。ここでいうガラス材料とは、バッチと呼ばれる金属酸化物や無機酸化物などからなる粉体、および/又は、バッチを一度粗熔解して冷却することにより得られるカレットを意味し、多くの場合はバッチを指す。
【0053】
(S2;ガラスの溶融・清澄)
その後は、上述したステップS1で得られたガラス材料を、熔融炉内に投入して熔融(熔解)し、清澄(脱泡含む)して、均質化された熔融ガラス(すなわち、バッチが熔融した状態のガラス)をガラス流出パイプの流出口から流出する。
【0054】
(S3;ガラスの成形〜S5A;RP品)
そして、例えばRP品を用いる場合であれば、パイプから流出した熔融ガラスを鋳型上で水平方向へ取り出す。鋳型から取り出した熔融ガラスは、連続式アニール炉内へと水平移動し、炉内でアニールされる。これは、冷却後のガラスに歪等が残らないように窒素などの不活性ガス雰囲気中で徐冷する工程である。これにより、熔融ガラスを成形したガラス成形体が得られる(S3)。アニール後、所望の長さでガラス成形体から分離されたものが、所定形状のEバー(板状のガラス体)となる(S4A)。その後は、連続するガラス成形体から分離したEバー(板状のガラス)を、カットピースと呼ばれる例えば立方体状の複数のガラス片に分割し、研削あるいは研磨などの冷間加工を行う(立方体の面取りや重量バラツキを整える)工程があり、その工程を経て所定形状・所定体積にすることで、リヒートプレス成形用のガラス素材を得る。このようにして得られたリヒートプレス成形用ガラス素材を加熱して軟化した状態で成形型を用いてプレス成形することにより、光学ガラスレンズの製造するための素材となるRP品を得る(S5A)。このとき、リヒートプレス成形用ガラス素材は、予め加熱したものを成形型に供給してもよく(非等温プレス成形)、また、成形型に供給した後、成形型と共に加熱してプレスしてもよい(等温プレス成形)。
【0055】
(S3;ガラスの成形〜S5B;DP品)
一方、例えばDP品を用いる場合であれば、熔融ガラス塊を回転テーブルに配置された下型上に供給し、上型と下型により熔融ガラス塊を所望の形状となるようにプレス成形する(S3,S4B,S5B)。このとき、下型上に供給(キャスト)される熔融ガラス塊が下型との接触により急激に冷却されてプレス成形不能にならないように下型の温度は調整されている。下型温度は熔融ガラスの温度よりも低いので、キャストからプレス成形、そして成形されたガラス成形体(DP品、レンズブランク)がプレス成形型から取り出される(テイクアウト)まで、ガラスと下型の接触面からガラス成形品のもつ熱量が奪われて行く。さらに、プレス成形時においても、上型の温度は調整されているものの、一般に熔融ガラスの温度よりも低いので、上型が熔融ガラス塊あるいはプレス成形品に触れている間は、上型によっても、熔融ガラス塊およびガラス成形品のもつ熱量が奪われていく。なお、熔融ガラス流から熔融ガラス塊を分離する際には、得ようとするガラス塊の重量により自然滴下してもよく、或いは熱融着しないように冷却された一対のシアブレードを用いて熔融ガラスを挟んで切断し、熔融ガラス塊を得ることができる。この他に熔融ガラスの切断方法として、下型をガラス流出パイプの流出口の下方に上昇させて熔融ガラスを受け、所定重量に達した後、下型を熔融ガラスの流下速度より速い速度で降下させることにより熔融ガラスを切断する降下切断法を採用してもよい。このDP品に関する説明において、熔融ガラスはバッチが熔融した状態のガラスの呼称であり、熔融ガラス流はパイプから流下する熔融ガラスであり、熔融ガラス塊は熔融ガラス流から分離(滴下または切断)したガラスの塊であり、ガラス成形体はプレス後のガラス品(すなわちDP品)を意味している。なお、上述の説明においては、下型上に熔融ガラス塊を供給し、熔融ガラス塊と下型とが接触する例について説明したが、下型に熔融ガラス塊を浮上させるためのガス孔が形成された浮上成形型を採用し、熔融ガラス塊を浮上した状態でプレス成形することができる。
【0056】
(S6;RP品・DP品研削)
以上のような手順を経てRP品またはDP品を得た後は、RP品またはDP品に対して、所望形状のレンズ表面を得るための研削加工を行う(S6)。研削加工は、例えば、粗研削を行う粗研削工程(S6a)と、精研削を行う精研削工程(S6b)とを、順に経て行う。粗研削工程(S6a)は、表面粗さ等の研削面の品位よりも加工能率を優先して実行する研削工程であり、例えば砥石の粒度表示の番手が#600未満、さらに具体的には#325程度のカップ砥石を用いて実行する研削工程である。一方、精研削工程(S6b)は、主として形状精度と表面状態を整えるために実行する研削工程であり、例えば砥石の粒度表示の番手が#600以上、さらに具体的には#1500〜#8000程度のカップ砥石を用いて実行する研削工程である。
【0057】
(S7;研削品を研磨)
研削工程(S6,S6a,S6b)を経てRP品またはDP品のレンズ表面となる部分を球面形状に研削した後は、その研削品に対して、研削加工後のレンズ表面の傷を除去する、または、レンズ表面の表面粗さをより小さくする研磨処理を行う(S7)。以上のような一連の手順を経て、レンズ表面が球面形状に加工された光学ガラスレンズ(球面レンズ)が製造されるのである(S8)。
【0058】
(本実施の形態における製造手順)
以上に説明した光学ガラスレンズの一般的な製造手順に対し、本実施の形態では、粗研削加工工程、精研削加工工程というように研削加工工程を2段階に実行するのではなく、上述した構成の光学ガラス研削装置1により、精研削加工用の複数の砥粒によって形成された研削面である砥粒部3aを有するカップ砥石3を用いて、1段階のみの研削加工工程にて、結果的に粗研削加工工程と、精研削加工工程とを同時に実行することができる。
【0059】
図3は、本実施の形態における光学ガラスレンズの製造手順の一例を示すフロー図である。
【0060】
図3に示す製造手順は、RP品またはDP品に対する研削加工(S6)が、上述した一般的な製造手順の場合とは異なる。上述した図2に示す一般的な製造手順の場合は、粗研削工程(S6a)と精研削工程(S6b)とを段階的に行っている。これに対して、図3に示す製造手順の場合は、粗研削工程(S6a)を経ずに、いきなり精研削工程(S6b)を行っている。つまり、研削加工(S6)において、粗研削工程(S6a)を省いている。これは、本実施の形態で説明する光学ガラス研削装置1によれば、詳細を後述するように、ELID研削法による電解ドレッシングを行うため、CG加工を実行しながらカップ砥石3に対する目立てを行うことができ、効率的に研削加工を行うことができるからである。さらには、本実施形態で説明する光学ガラス研削装置1によれば、後述するように加工面の品質確保と加工コスト抑制との両立が実現可能であり、粗研削前の硝材成形品に対して短い研削時間で精研削後の加工品質が得られるようになるからである。
【0061】
(光学ガラス研削装置の動作例の詳細)
続いて、光学ガラス研削装置1における動作例を説明する。
光学ガラス研削装置1は、上述した工程中において、被研削物である難硝材からなるガラス成形体のプレス品(RP品またはDP品)10に対して研削加工を行う。
【0062】
光学ガラス研削装置1が行う研削加工は、上述したCG加工工程に対して、ELID工程が適用される。以下、これらの各工程について順に説明する。
【0063】
(CG加工工程)
CG加工工程は、難硝材からなる光学ガラス(ガラス成形体)のプレス品10に対してCG加工を行って、当該光学ガラスのプレス10の被研削面(すなわちレンズ表面となる箇所)を球面形状に研削する工程である。
【0064】
まず、CG加工工程では、被研削物である難硝材からなるガラス成形体のプレス品10を、回転テーブル2のチャック部2aに保持させる。次に、動作コントローラ7からの制御指示により、揺動機構を動作させてカップ砥石3の回転軸を、研削するレンズ表面の曲率に対応した角度αを有し、かつ、砥粒部3aとレンズ表面との接触箇所がレンズ光軸上に存在することになる位置に固定する。
【0065】
このような状態で、動作コントローラ7からの制御指示により、回転テーブル2を所定の回転数で回転駆動させるとともに、カップ砥石3を回転テーブル2とは別の所定の回転数で回転駆動させる。
【0066】
そして、動作コントローラ7からの制御指示により移動機構を動作させて、回転テーブル2のチャック部2aに保持された難硝材からなるガラス成形体のプレス品10に対してカップ砥石3の砥粒部3aを当接させるとともに、回転テーブル2とカップ砥石3との送り方向における相対位置を所定の送り速度で可変させる。
【0067】
以上の動作を行うことで、CG加工工程では、回転テーブル2の回転によるカップ砥石3の公転と、カップ砥石3の回転による当該カップ砥石3の自転とにより、難硝材からなるガラス成形体のプレス品10に対するCG加工を行う。
【0068】
つまり、難硝材からなるガラス成形体のプレス品10においてガラス成形体のレンズ表面となる被研削面に対し、回転駆動されるカップ砥石3の研削面である砥石部3aを当接させることで、この被研削面を球面形状に研削する。
【0069】
(ELID工程)
ELID工程は、CG加工工程の実行中に、カップ砥石3に対してELID研削法による電解ドレッシングを行う工程である。
【0070】
したがって、ELID工程では、少なくとも難硝材からなる光学ガラスのプレス品10へのカップ砥石3の当接開始から当該カップ砥石3による研削終了までの間、動作コントローラ7が研削液供給部5および電圧印加部6に対して以下のような制御指示を与える。
【0071】
すなわち、研削液供給部5は、動作コントローラ7からの制御指示に従い、カップ砥石3の砥粒部3aと電極4との間、および、カップ砥石3の砥粒部3aと被研削物である難硝材からなるガラス成形体のプレス品10との間に、導電性研削液を供給する。
【0072】
また、電圧印加部6は、動作コントローラ7からの制御指示に従い、ELID電源6aに所定の直流パルス電圧を発生させる。
【0073】
以上の動作を行うことで、ELID工程では、電圧印加部6の電流供給ライン6cおよび給電ブラシ6bを通じて、カップ砥石3と電極4との間に直流パルス電圧を印加することになり、これによりカップ砥石3の研削面である砥粒部3aに対して自動的に目立て(電解ドレッシング)を行うのである。
【0074】
つまり、CG加工工程の実行中に、カップ砥石3と電極4との間に導電性研削液を供給しつつ電圧を印加して、カップ砥石3に対する電解ドレッシングを行う。
【0075】
図4は、ELID研削法による電解ドレッシングのメカニズムを示す説明図である。
ELID研削法では、電圧印加によって、先ず、砥粒部3aの結合材3bが電解され、適度なダイヤモンド砥粒3cの突出が得られる(図4(a)参照)。この間に、電解溶出した結合材3bが一部不導体化されて砥石端面に堆積して不導体被膜3dを形成するため、電解電流が自動的に低下する。このタイミングにおいて初期ドレッシング完了となる(図4(b)参照)。
【0076】
この状態で実際に研削を実行すると、砥石端面の不導体被膜3dが、被研削物の表面(すなわち難硝材からなる光学ガラスのプレス品10の被研削面)と接触して摩擦により剥離除去されていき、またこれと同時にダイヤモンド砥粒3cが被研削物を研削し始めて砥粒摩耗が生じる(図4(c)参照)。
【0077】
すると、砥石端面の絶縁性が低下して、電解電流が回復する。これにより、摩耗したダイヤモンド砥粒3c間の不導体被膜3dが薄くなった箇所から電解溶出が再開され(図4(d)参照)、再びダイヤモンド砥粒3cの突出が得られることになる(図4(b)参照)。
【0078】
(本実施の形態における加工条件)
次に、光学ガラス研削装置1が上述したCG加工工程およびELID工程を実行する際の加工条件について説明する。
【0079】
光学ガラス研削装置1は、粗研削加工を経ずに精研削加工だけを実行することが困難である難硝材からなるガラス成形体のプレス品10を被研削物とする。したがって、既に説明したように、難硝材以外の硝材からなるガラス成形体を想定した従来の加工条件では、加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立させることが非常に困難である。
【0080】
そこで、光学ガラス研削装置1は、以下に述べる加工条件で、難硝材からなるガラス成形体のプレス品10に対する加工、すなわち上述したCG加工工程およびELID工程を実行する。かかる加工条件は、従来の技術常識にはない発想による本願発明者らの知見に基づくものである。
【0081】
難硝材からなるガラス成形体のプレス品10に対する加工条件は、CG加工工程において、カップ砥石3の回転数と、回転テーブル2とカップ砥石3との送り方向における相対位置移動の送り速度とが、粗研削加工と精研削加工という2段階の研削加工を実行する場合よりも高く設定されている、というものである。これらの加工条件は、動作コントローラ7からの制御指示として、カップ砥石3の回転駆動源や移動機構等に対して与えられる。
【0082】
具体的には、カップ砥石3の回転数については、粗研削加工と精研削加工という2段階の研削加工を実行する場合の回転数である10000rpm(rotation per minute)以下(例えば特許文献3参照)という条件に対して、これよりも高回転数である18000rpm以上という条件に設定する。回転数の上限値は、カップ砥石3の回転軸受部の許容回転数内(すなわち装置の機械的仕様の範囲内)であればよい。ただし、ELID工程の際に供給する導電性研削液の膜切れが生じてしまうのを回避すべく、例えば40000rpm程度を上限とすることも考えられる。つまり、カップ砥石3の回転数は、18000rpm以上40000rpm以下、好ましくは20000rpm〜30000rpm程度に設定する。
【0083】
また、回転テーブル2とカップ砥石3との相対位置移動の送り速度については、1.0μm/sec以上15.0μm/sec以下であればよく、好ましくは2.0μm/sec以上15.0μm/sec以下という条件に設定する。
【0084】
他の加工条件については、難硝材以外の硝材からなるガラス成形体に対して研削を行う場合と同様で構わない。例えば、回転テーブル2の回転数であれば、1〜100rpmという条件であればよく、好ましくは50rpm程度という条件に設定することが考えられる。また、例えば、電圧印加部6による印加電圧については、30〜150Vという条件であればよく、好ましくは150V程度という条件に設定することが考えられる。
【0085】
なお、本実施の形態では、以上に説明した加工条件を採用しつつ、CG加工工程の実行中にELID工程を実行し、カップ砥石3の砥粒部3aに対して自動的に目立て(電解ドレッシング)を行う。
【0086】
したがって、本実施の形態では、カップ砥石3の砥粒部3aの砥粒径について、粗いものから細かいものへ段階的に遷移させるといった手法ではなく、はじめから精研削加工用の砥粒径(例えば、砥粒の粒度の番手が#1500〜#8000であればよく、好ましくは粒度表示#2000、平均粒径1μm〜5μm)を用いて研削加工を行うこと、すなわち研削加工(S6)において、粗研削工程(S6a)を経ずに、いきなり精研削工程(S6b)を行うことが可能となる。
【0087】
つまり、粗研削加工前の被研削面に対して、粗研削工程と精研削工程とで2段階に研削加工を行うのではなく、はじめから精研削加工用の複数の砥粒によって形成された研削面である砥粒部3aを有するカップ砥石3を用いて研削加工を行うのである。
【0088】
このように、精研削加工用の砥粒部3aを有するカップ砥石3を用い、ELID工程を併用すれば、常に目立てを行うことが可能となるため、難硝材からなるガラス成形体のプレス品10を研削加工する場合であっても、被研削面に対して加工時間を増大させるような深い傷を付けることなく、研削加工を行うことが可能となり、その結果として加工面の品質確保を実現する上で非常に好適なものとなる。
【0089】
<4.本実施の形態の効果>
本実施の形態で説明した光学ガラス研削装置1、当該光学ガラス研削装置1が実行する光学ガラスの研削加工方法、および、当該光学ガラスの研削加工方法を用いて行う光学ガラスレンズの製造方法によれば、以下に述べる効果が得られる。
【0090】
本実施の形態によれば、難硝材からなるガラス成形体のプレス品10に対して研削加工を行う場合に、CG加工工程の実行中にELID工程を実行しつつ、カップ砥石3の回転数および送り速度の両方が、粗研削加工と精研削加工という2段階の研削加工を実行する場合よりも高く設定されているという加工条件で当該CG加工工程を実行する。
【0091】
したがって、難硝材からなるガラス成形体のプレス品10を被研削物とする場合であっても、従来技術による2段階の研削加工を実行する場合を想定した加工条件では実現することが困難であった加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立させることができる。
【0092】
つまり、精研削加工用の複数の砥粒によって形成された研削面である砥粒部3aを有するカップ砥石3で研削加工を実行する場合であっても、粗研削加工前の被研削面に対して加工時間を増大させるような深い傷を付けることなく、研削加工を行うことが可能となり、ガラスレンズに適した品質の被研削面が確実に得られるようになる。
【0093】
ここで、ガラスレンズに適した品質とは、研削加工後かつ研磨処理前の状態において、例えば被研削面の表面粗さRzが1μm以下であることをいう。表面粗さRzが1μm以下であれば、その後に行う研磨処理を、高い精度で、かつ、短時間で効率的に行うことができるからである。また、レンズ表面の傷を抑制できるので、必要以上に研磨処理に多くの時間や熟練技能等を要することがなく、さらには送り速度等の高速化によりCG加工工程の迅速化(加工時間短縮)も図れるので、その結果として難硝材により成形されたガラス成形体に対する加工コストが増大してしまうのを抑えることができる。
【0094】
これらのことは、以下に述べる理由によるものと推測される。
本実施の形態では、CG加工工程の実行中にELID工程を実行する。そのため、ELID工程による目立て(電解ドレッシング)の作用により、カップ砥石3の砥粒部3aは、ダイヤモンド砥粒が結合材から突出した状態を十分に維持し得るもの、すなわちいわゆる刃が立ったものとなる。
【0095】
しかも、カップ砥石3は、粗研削加工と精研削加工という2段階の研削加工を実行する場合よりも高速で回転駆動されている。したがって、難硝材からなる光学ガラスのプレス品10の被研削面(すなわちレンズ表面となる箇所)からみれば、ELID作用により刃が立った状態のダイヤモンド砥粒が、通常の加工条件の場合よりも単位時間当たり多く擦り付けられることになる。
【0096】
これにより、ガラス成形体のプレス品10の被研削面は、削り残しがなく良好に削られた状態となる。また、削り残しが生じないことから、カップ砥石3による研削加工の際の抵抗を低減させることにもなる。これらのことが相俟って、すなわちELID工程を実行しつつカップ砥石3を高速回転させることで、難硝材からなるガラス成形体のプレス品10の被研削面は、加工時間を増大させるような深い傷を付けることなく、レンズに適した品質の被研削面となる。
【0097】
さらに、本実施の形態では、回転テーブル2とカップ砥石3との送り方向における相対位置移動の送り速度が、粗研削加工と精研削加工という2段階の研削加工を実行する場合よりも高く設定されている。
【0098】
つまり、単位時間当たりの相対位置移動の送り量が、通常の研削加工における場合よりも大きい。一般的には、送り量が大きいと、被研削面に傷が入り易くなる。ところが、本実施の形態では、カップ砥石3を高速で回転駆動している。したがって、相対位置移動の送り量を大きくすることが可能となり、また送り量を大きくした場合であっても被研削面に傷が入るのを抑制できるのである。
【0099】
このように、単位時間当たりの相対位置移動の送り量を大きくすれば、研削加工に要する時間の短縮が実現可能となり、これに伴って難硝材からなる光学ガラスのプレス品10に対する研削加工の効率も向上させることができる。故に、難硝材からなるガラス成形体のプレス品10に対する加工コスト増大の抑制が実現可能となる。
【0100】
また、本実施の形態では、カップ砥石3の回転数および送り速度の両方について、粗研削加工と精研削加工という2段階の研削加工を実行するよりも高く設定する。したがって、被研削面の品質確保と加工コスト抑制との両立が確実なものとなる。
【0101】
例えば、送り速度のみを高速化しても、回転数を高速化しなければ、送りによって被研削面に傷が入る可能性が非常に高くなり、この場合は被研削面の品質確保と加工コスト抑制とを両立できるとはいえない。つまり、回転数および送り速度の両方の高速化によって、被研削面の品質確保と加工コスト抑制との両立が実現可能となるのである。
【0102】
一方、回転数のみを高速化すれば、被研削面の品質確保が実現可能である。ただし、被研削面の品質確保と加工コスト抑制とを両立させるためには、送り速度を高速化して研削加工の効率向上を図ることが好ましい。
【0103】
なお、本実施の形態は、本発明の好適な実施の一態様を示すものである。すなわち、本発明は、本実施の形態の内容に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0104】
次に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明が、以下の実施例に限定されないことは勿論である。
図5〜図8は、本発明の実施例1〜実施例15における加工条件を示す説明図である。また、図9は、本発明の比較例1〜比較例2における加工条件を示す説明図である。
【0105】
<実施例1>
実施例1では、難硝材であるFCD1(HOYA株式会社製、nd=1.49700、νd=81.61)により形成されたプレス品に対して研削加工を行い、レンズ径35.8mm、表面曲率半径44.72mmの光学ガラスレンズ(球面レンズ)を製造した。研削加工は、粗研削工程と精研削工程とを纏めた一つの研削工程において、CG加工工程の実行中にELID工程を実行することによって行った。CG加工工程は、カップ径40mm、砥石番手#2000のカップ砥石3を用い、カップ砥石3の回転軸をα=14°傾けた状態で、以下に述べる加工条件で行った。すなわち、カップ砥石3の回転数を20000rpm、送り速度を2μm/secとした。なお、回転テーブル2の回転数は50rpm、電圧印加部6による印加電圧は150Vとした。また、研削液供給部5が供給する導電性研削液としては、シミロンCG−7(大同化学工業株式会社製)を用いた。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.18μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、50秒であった。
【0106】
<実施例2>
実施例2では、上述した実施例1の場合とは、カップ砥石3の回転数および送り速度が異なる。実施例2では、カップ砥石3の回転数を30000rpm、送り速度を5μm/secとした。他の条件は、実施例1の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.20μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、25秒であった。
【0107】
<実施例3>
実施例3では、上述した実施例1の場合とは、カップ砥石3の送り速度が異なる。実施例3では、カップ砥石3の送り速度を1μm/secとした。他の条件は、実施例1の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.60μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、90秒であった。
【0108】
<実施例4>
実施例4では、上述した実施例1の場合とは、カップ砥石3の送り速度および砥石番手が異なる。実施例4では、カップ砥石3の送り速度を10μm/sec、砥石番手を#1500とした。他の条件は、実施例1の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.22μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、20秒であった。
【0109】
<実施例5>
実施例5では、上述した実施例4の場合とは、カップ砥石3の送り速度が異なる。実施例5では、カップ砥石3の送り速度を15μm/secとした。他の条件は、実施例4の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.27μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、20秒であった。
【0110】
<実施例6>
実施例6では、上述した実施例4の場合とは、カップ砥石3の送り速度およびボンド材の材質が異なる。実施例6では、カップ砥石3の送り速度を2μm/sec、ボンド材の材質をメタルボンドではなくレジンボンドとした。他の条件は、実施例4の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.16μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、50秒であった。
【0111】
<実施例7>
実施例7では、上述した実施例3の場合とは、カップ砥石3の回転数が異なる。実施例2では、カップ砥石3の回転数を18000rpmとした。他の条件は、実施例3の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.87μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、90秒であった。
【0112】
<実施例8>
実施例8では、上述した実施例4の場合とは、難硝材の種類およびカップ砥石3の送り速度が異なる。実施例8では、研削対象物をE-FDS1(HOYA株式会社製、nd=1.92286、νd=20.88)、カップ砥石3の送り速度を5μm/secとした。他の条件は、実施例4の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.08μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、25秒であった。
【0113】
<実施例9>
実施例9では、上述した実施例8の場合とは、難硝材の種類が異なる。実施例9では、研削対象物をFDS18(HOYA株式会社製、nd=1.94595、νd=17.98)とした。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.05μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、25秒であった。
【0114】
<実施例10>
実施例10では、上述した実施例8の場合とは、難硝材の種類が異なる。実施例10では、研削対象物をFDS90(HOYA株式会社製、nd=1.84666、νd=23.78)とした。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.50μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、25秒であった。
【0115】
<実施例11>
実施例11では、上述した実施例8の場合とは、難硝材の種類およびカップ砥石3の送り速度が異なる。実施例11では、研削対象物をPCD4(HOYA株式会社製、nd=1.61800、νd=63.40)、カップ砥石3の送り速度を4μm/secとした。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.56μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、30秒であった。
【0116】
<実施例12>
実施例12では、上述した実施例11の場合とは、カップ砥石3の送り速度および砥石番手が異なる。実施例12では、カップ砥石3の送り速度を3μm/sec、石番手を#2000とした。他の条件は、実施例11の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.30μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、40秒であった。
【0117】
<実施例13>
実施例13では、上述した実施例8の場合とは、難硝材の種類およびカップ砥石3の送り速度が異なる。実施例13では、研削対象物をTAFD25(HOYA株式会社製、nd=1.90366、νd=31.32)、カップ砥石3の送り速度を8μm/secとした。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.40μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、20秒であった。
【0118】
<実施例14>
実施例14では、上述した実施例13の場合とは、難硝材の種類が異なる。実施例14では、研削対象物をTAFD35(HOYA株式会社製、nd=1.91082、νd=35.25)とした。他の条件は、実施例13の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.19μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、20秒であった。
【0119】
<実施例15>
実施例15では、上述した実施例13の場合とは、難硝材の種類が異なる。実施例15では、研削対象物をTAFD40(HOYA株式会社製、nd=2.00069、νd=25.46)とした。他の条件は、実施例13の場合と同様である。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.49μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、20秒であった。
【0120】
<比較例1>
比較例1では、上述した実施例1〜15の場合とは異なり、粗研削加工と精研削加工という2段階の研削加工を行っている。粗研削加工では、カップ砥石3の送り速度を20μm/sec、砥石番手を#325とした。一方、精研削加工では、カップ砥石3の送り速度を10μm/sec、砥石番手を#1500とした。カップ砥石3の回転数は、粗研削加工と精研削加工のいずれも6000rpmとした。なお、回転テーブル2の回転数は50rpm、電圧印加部6による印加電圧は0V(すなわちELID工程を実行せず)とした。また、導電性研削液としては、シミロンCG−7(大同化学工業株式会社製)を用いた。
以上の加工条件で研削加工を行った結果、粗研削加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが15.0μmであった。削り代を80μmとした場合の粗研削加工の加工時間は15秒であった。また、精研削加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが1.0μmであった。削り代を80μmとした場合の粗研削加工の加工時間は18秒であった。
【0121】
<比較例2>
比較例2では、上述した比較例1の場合とは、カップ砥石3の回転数が異なる。比較例2では、カップ砥石3の回転数を15000rpmとした。他の条件は、比較例1の場合と同様である。
以上の加工条件で検索加工を行った結果、粗研削加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが13.5μmであった。削り代を80μmとした場合の粗研削加工の加工時間は15秒であった。また、精研削加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが1.0〜2.0μmであった。1.0〜2.0μmというばらつきが生じているのは、カップ砥石3の目立て状態による粗さのばらつきがあるためと考えられる。削り代を80μmとした場合の粗研削加工の加工時間は18秒であった。
【0122】
<まとめ>
以上に挙げた実施例1〜15および比較例1〜2の結果を勘案すると、難硝材からなるガラス成形体の粗研削加工前の被研削面に対して、粗研削工程(S6a)を経ずにいきなり精研削工程(S6b)を行う場合において、研削加工後に加工面の表面粗さRzを1μm以下とするためには、難硝材により形成されたガラス成形体に対する加工条件につき、カップ砥石3の回転数を18000rpm〜30000rpm、送り速度を1.0μm/sec以上15.0μm/sec以下、砥粒の粒度の番手を#2000〜#8000、砥粒の平均粒径1.0μm〜10.0μm、印加電圧を30V〜150V、ボンド材をメタルボンドまたはレジンボンドのいずれか、回転テーブルの回転数を1rpm〜100rpmとすればよい。
【符号の説明】
【0123】
1 光学ガラス研削装置
2 回転テーブル
3 カップ砥石
3a 砥粒部
4 電極
5 研削液供給部
6 電圧印加部
7 動作コントローラ
10 プレス品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学ガラスである難硝材からなるガラス成形体の粗研削加工前の被研削面に対して精研削加工用の研削面を有する導電性のカップ砥石を当接させて回転駆動させることで精研削を行う研削工程と、
前記研削工程時に、前記カップ砥石の研削面と対向する位置に配設された電極と前記カップ砥石との間に導電性研削液を供給しながら、前記電極と前記カップ砥石間に所定の電圧を印加することで、前記研削面のドレッシングを行う電解インプロセスドレッシング工程と
を備えることを特徴とする光学ガラスの研削加工方法。
【請求項2】
前記難硝材は、フツリン酸ガラス、リン酸ガラス、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラス、または、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスのいずれか1つからなる
ことを特徴とする請求項1記載の光学ガラスの研削加工方法。
【請求項3】
前記カップ砥石は、前記被研削面を研削する砥粒と、当該砥粒を結合するボンド材を含み、
前記砥粒の粒度が#2000〜#8000である
ことを特徴とする請求項1または2記載の光学ガラスの研削加工方法。
【請求項4】
前記砥粒の平均粒子径は、1.0〜10.0μmである
ことを特徴とする請求項3記載の光学ガラスの研削加工方法。
【請求項5】
前記研削工程における前記カップ砥石の回転数は、18000rpm以上30000rpm以下である
ことを特徴とする請求項1〜4記載の光学ガラスの研削加工方法。
【請求項6】
前記研削工程における前記ガラス成形体と前記カップ砥石の当接可変方向における相対位置移動の送り速度は、1.0μm/sec以上15.0μm/sec以下である
ことを特徴とする請求項1〜5記載の光学ガラスの研削加工方法。
【請求項7】
前記ボンド材は、メタルボンド、または、レジンボンドからなる
ことを特徴とする請求項3記載の光学ガラスの研削加工方法。
【請求項8】
請求項1〜7記載のいずれか1項に記載の光学ガラスの研削加工方法を用いて、前記ガラス成形体から光学ガラスレンズを製造する光学ガラスレンズの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−210701(P2012−210701A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−53776(P2012−53776)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】