説明

光学ガラス素子の金型清掃方法及び金型清掃装置

【課題】 金型の成形面に傷を発生させるおそれがなく、確実な密閉空間を形成して除去した異物を周囲に再付着させることなく確実に収集又は外部に排出することができ、大掛かりな装置を必要とせず簡単な構造で迅速に清掃でき、比較的小型の金型清掃に適した光学ガラス素子の金型清掃方法及び金型清掃装置を提供する。
【解決手段】 金型(下型7)の成形面12を覆って密閉空間Sを形成し、該密閉空間Sに清掃ガスを吹込んで前記成形面Sを清掃するとともに、該密閉空間S内の清掃ガスを周囲に拡散させることなく排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形装置の金型の清掃方法及び装置に関する。より詳しくは、光学ガラス素子をプレスしてレンズやプリズム等を成形する際に用いる金型の清掃方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズ等の光学ガラス素子は、金型を用いてプレス成形される。
図6は光学ガラス素子をプレス成形するための金型の断面図である。
金型10は、下型7、上型8、胴型9で構成される。この金型10を用いて光学ガラス素子をプレス成形する場合、まず円筒状の胴型9内にセットされた下型7の成形面12上に予め所定の球状に形成されたレンズ素材(不図示)を載置する。この状態でレンズ素材が塑性変形できる程度まで加熱する。この後、上型8を胴型9内に挿入し、レンズ素材を下型7と上型8の成形面12で挟んでプレスする。これにより、レンズ素材は成形面12に沿った所定の形状に成形され、レンズやプリズム等の光学ガラス素子が得られる。成形後、上型8(又は下型7)を外して光学ガラス素子を取出し、下型7及び上型8の成形面12を清掃する。
【0003】
光学ガラス素子をプレス成形する場合、成形サイクルごとにプレス成形用金型に付着するバリ等の微小なガラス片を完全に除去しないと、次の成形サイクルで前記ガラス片が不純物として光学ガラス素子に混入し不良品となる。したがって、前記ガラス片を成形サイクルごとに完全に除去する必要がある。
【0004】
金型清掃方法として綿棒やブラシ等の掃除体を用いる方法があるが、これによると、成形面に損傷を与えるおそれがある。また、エッチング処理により成形面への損傷を抑えつつ清掃を行う方法があるが、これによると清掃時間が長くなり、成形サイクル時間が長くなって生産性が著しく低下する。また、成形面に対し圧縮空気を吹付けて異物を吹飛ばす方法がある。しかしこの方法では、吹飛ばされた異物が作業スペース内を舞い上がり、次の成形で用いる光学ガラス素子の素材に付着するおそれがある。
【0005】
特に、レンズ等をプレス成形する場合はその精度が高く、成形装置自体が小さいため、微小のガラス片等の異物が品質に与える影響は大きい。したがって、確実に金型の成形面から異物を除去する必要がある。また、除去した異物が次の成形で用いる光学ガラス素子の素材に付着しないようにするため、異物を周囲に拡散させずに確実に収集又は外部に排出する必要がある。
【0006】
金型のクリーニング装置が特許文献1に記載されている。このクリーニング装置は、クリーニングテープを金型の球面部に当接させて清掃するものである。しかし、特許文献1のクリーニング装置は、金型の成形面である球面部に直接クリーニングテープを当接させるので、成形面に損傷を与える可能性がある。また、新しいテープ繰り出しのための装置が必要であり、費用、スペース確保等の問題点がある。
【0007】
光学素子成形用金型をフッ酸、硝酸に浸漬後、純水でリンスし、次に綿布に酸化セリウム、純水を含浸させたもので研磨し、さらに純水中で超音波洗浄し、最後に熱処理する方法が特許文献2に記載されている。しかし、特許文献2の清掃方法は、洗浄時間が非常に長く、成形サイクルの間に実施すると生産性が低くなる問題があり、オンラインでの実施には不向きである。
【0008】
金型の成形面表面に紫外線を照射してカーボンを除去する方法が特許文献3に記載されている。しかし、特許文献3の清掃方法は、紫外線の照射装置やこれを旋回/伸長させる手段が必要であり装置が複雑で高価になる。また、カーボン以外の微少なガラス片等を紫外線照射で短時間のうちに除去することは困難である。
【0009】
金型に付着したバリをエアブロー装置により清掃する金型清掃装置が特許文献4に記載されている。この金型清掃装置は、金型に圧縮空気を噴出してバリを吹き飛ばすものである。しかし、特許文献4の金型清掃装置は、上型と下型でプレス成形する金型成形装置の上型の清掃に使用するものである。下型を清掃する場合には金型の清掃面を下向きとする機構が必要となり、装置が複雑となる。また、バリ受けカバーを、バリの飛散を想定してある程度大きめに形成する必要があり、装置が大型化し、スペース確保の問題がある。
【0010】
金型のキャビティ面(成形面)を洗浄する金型洗浄装置及び金型洗浄方法が特許文献5に記載されている。この装置及び方法は、金型のキャビティ面を密閉状とする空間に洗浄液を噴射させ、この後エアを噴出させて洗浄液を汚れとともに排出するものである。しかし、特許文献5の金型洗浄装置及び金型洗浄方法は、洗浄液を用いて清掃するため、洗浄時間が長くかかるほか、洗浄液の漏れ対策が必要となる。また、洗浄液を排出する際、エアの噴出が不十分で洗浄液がキャビティ面に残留した場合、成形品に悪影響を及ぼすおそれがあるため、乾燥させる時間も長時間を要し、手間がかかり面倒である。また、上下の金型の表面でフレームを挟持して密閉空間を形成するため、金型の表面に凹凸がある場合に金型とフレーム間に隙間が生じ、洗浄液や汚れがここから漏れるおそれがある。また、密閉空間を形成するために上型と下型が必要であるため、上型のみ又は下型のみを清掃したい場合に適用することができない。
【0011】
【特許文献1】特開昭63−42782号公報
【特許文献2】特開平6−40729号公報
【特許文献3】特開平11−35331号公報
【特許文献4】特開平12−141383号公報
【特許文献5】特開平11−156865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、金型の成形面に傷を発生させるおそれがなく、確実な密閉空間を形成して除去した異物を周囲に再付着させることなく確実に収集又は外部に排出することができ、大掛かりな装置を必要とせず簡単な構造で迅速に清掃でき、比較的小型の金型清掃に適した光学ガラス素子の金型清掃方法及び金型清掃装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、金型の成形面を覆って密閉空間を形成し、該密閉空間に清掃ガスを吹込んで前記成形面を清掃するとともに、該密閉空間内の清掃ガスを周囲に拡散させることなく排出することを特徴とする光学ガラス素子の金型清掃方法を提供する。
【0014】
請求項2の発明では、金型の成形面を覆って密閉空間を形成する遮蔽部材を備え、前記密閉空間に清掃ガスを吹込む導入路及び該密閉空間から清掃ガスを排出する排出路を有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス素子の金型清掃方法を実施するための金型清掃装置を提供する。
【0015】
請求項3の発明では、請求項2の発明において、前記導入路及び排出路は、前記遮蔽部材に設けられたことを特徴としている。
【0016】
請求項4の発明では、請求項2の発明において、前記導入路及び/又は排出路は、前記金型に設けられた通気口を介して前記密閉空間と連通することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明によれば、清掃すべき金型の成形面を覆って密閉空間を形成し、この密閉空間に清掃ガスを吹込むというガスを使用した非接触な方法によりガラス屑や埃を清掃するため、プレス成形用金型の成形面(キャビティ面)を掃除体が触れることなくプレス成形用金型の清掃を行える。したがって、プレス成形用金型の成形面を傷つけることなく清掃が可能となる。また、密閉空間内に吹込まれた清掃ガスは周囲に拡散することなく密閉空間から排出されるため、ガスを吹付けた際のガラス屑や埃の飛散を防止することができ、周囲の雰囲気を汚すことなく清掃が可能となって、周囲に置かれた次のプレス成形用のガラス素材等への再付着が防止される。
【0018】
請求項2の発明によれば、金型の成形面を密閉する遮蔽部材を用いて密閉空間を形成し、成形面に綿棒等の掃除体を直接当接させずにガス導入路から清掃ガスを吹出して成形面に付着したバリ等の異物を除去するため、成形面の損傷を防止できる。除去した異物は清掃ガスとともに排出路を通して密閉空間から外部に排出され確実に収集され、又は成形に影響のない場所に放出される。これにより、異物の飛散を防止できる。また、清掃ガスにより成形面を清掃するため、洗浄液を用いて清掃するよりも乾燥時間を省略できる等、短時間で効率よく清掃できる。また、そのための設備も不要となるため、装置が小型化し、小型の金型を使用する光学ガラス素子の金型清掃に適している。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、密閉空間を形成するための遮蔽部材に清掃ガスの導入路及び排出路を設けるため、清掃ガスにより確実に金型の清掃を行うことができる。この場合、金型の構成については、上型及び下型のみからなるもの又は胴型を有するもの等種類を問わず清掃すべき成形面に遮蔽部材をセットできれば清掃が可能となる。
【0020】
請求項4の発明によれば、上型、下型及び胴型からなる金型を清掃する場合に胴型に設けられたプレス時の空気抜き用通気口を利用して清掃ガスを密閉空間に導入又は密閉空間から排出できるため、密閉空間を形成するための遮蔽部材の構造を簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明に係る光学ガラス素子の金型清掃装置で金型を清掃する際の状態を示す断面図である。
光学ガラス素子のプレス成形後、上型とプレス成形された光学ガラス素子を胴型9内から取出し、胴型9内に下型7を残す。この状態で本発明に係る光学ガラス素子の金型清掃装置を構成する遮蔽部材1が、胴型9に被せられる。これにより、下型7の成形面(キャビティ面)12は胴型9の内壁及び遮蔽部材1で覆われ、密閉空間Sが形成される。なお、図では省略するが、胴型9は作業台に載置される。なお、成形機上に載置したままでもよい。遮蔽部材1は、蓋部材2と円筒状のリング部材3で構成される。蓋部材2には、清掃ガスの排出路5が備わり、リング部材3には清掃ガスの導入路4が備わる。清掃ガスは導入路4から密閉空間に流入し、下型7の成形面12のガラス屑や埃等の異物を舞い上げ、異物とともに排出路5から排出される(図中矢印参照)。導入路4は、ホース等を介して不図示のブロア又はコンプレッサに接続されている。排出路5は、不図示のホース等を介してプレス成形や清掃場所その他成形素材や成形品の周囲から離れた場所に連通している。
【0022】
密閉空間Sに吹込む清掃ガスは空気でもよく、窒素ガス等の非酸化性ガスであるとさらに好ましい。還元性ガスであると特に好ましい。
【0023】
密閉空間Sへのガスの流入手段としては、送風機により圧送する方法又はコンプレッサにより圧縮ガスを吹付ける方法でもよい。また、ガスの排出路5からの排出は、ガスを効率的に密閉空間Sの外へ排出できる手段であればどのような方法(吸引ブロア又は自然排出)を用いてもよい。
【0024】
なお、本発明に係る光学ガラス素子の金型清掃装置で清掃される金型は下型に限らず、上型を清掃することもできる。この場合、上型を逆向きにすれば下型と同様に清掃できる。また、ガスの導入路4や排出路5は、リング部材3だけでなく、蓋部材2に設けてもよいし、蓋部材2又はリング部材3のいずれかに少なくとも1つ以上あればよい。蓋部材2とリング部材3は一体でもよいし、別部材でもよい。
【0025】
本発明に係る光学ガラス素子の金型清掃装置で金型を清掃する場合、光学ガラス素子をプレス成形するための金型成形装置に備わる円筒状の胴型9から上型と成形後の光学ガラス素子を取出す。この後、胴型9に遮蔽部材1を被せて遮蔽部材1のリング部材3と蓋部材2で下型7の成形面12を覆って成形面12上に密閉空間Sを形成する。この状態でリング部材3に備わる導入路4から窒素ガス等の清掃ガスを例えば吹出圧力180kPaで流入させ、成形面12に残留するガラス屑や埃等の異物を排出路5から清掃ガスとともに例えば排出圧力90kPaで排出する。
【0026】
このように、本発明に係る光学ガラス素子の金型清掃装置を用いた成形面の清掃は、清掃ガスを用いて成形面に対して非接触清掃方式であるため、成形面に掃除体が触れることがない。したがって、成形面12を傷つけることがない。また、異物は排出路5から確実に排出されるため、周囲への異物の飛散を防止できる。また、清掃ガスを吹付けると同時に異物を排出路5から排出するため、短時間で効率よく清掃できる。
【0027】
金型清掃装置を構成する遮蔽部材1の実際の寸法としては、例えば、蓋部材2の直径Aが24mmで、排出路5の内径Bが15mm、リング部材3の長さCが10mmである。金型の直径Dは18mmであり、高さEは15mmである。このように、本発明に係る光学ガラス素子の金型清掃装置は、小型で精度の高い光学ガラス素子のプレス成形用の金型に適用できる大きさであり、このような金型の清掃に適している。
【0028】
図2は本発明に係る別の光学ガラス素子の金型清掃装置で金型を清掃する際の状態を示す断面図である。
図示したように、図2の例は、胴型9に通気口13が形成され(図では2箇所)、この通気口13に導入路4を接続して清掃ガスを密閉空間Sに吹込むものである。通気口13は、光学ガラス素子のプレス成形の際に胴型9内の空気抜きとして用いられる。その他の構成、作用、効果は図1の例と同様である。
【0029】
図3は本発明に係るさらに別の光学ガラス素子の金型清掃装置で金型を清掃する際の状態を示す断面図である。
図示したように、図3の例は、胴型9に形成された2箇所の通気口13をそれぞれ一方に導入路4を接続し、他方に排出路5を接続したものである。このように、胴型9に導入路4と排出路5を接続したため、遮蔽部材1は胴型9の開口を塞ぐ蓋部材2のみで足りる。その他の構成、作用、効果は図1の例と同様である。
【0030】
図4は本発明に係るさらに別の光学ガラス素子の金型清掃装置で金型を清掃する際の状態を示す断面図である。
図示したように、図4の例は、リング部材3を図1に比して長くして、胴型を用いずに密閉空間を形成するものである。光学ガラス素子のプレス成形において、胴型を用いずに上型と下型のみで行う場合がある。このような場合、上型又は下型をリング部材3に挿入することにより、成形面12を密閉することができる。その他の構成、作用、効果は図1の例と同様である。
【0031】
図5は本発明に係る別の光学ガラス素子の金型清掃装置で金型を清掃する際の状態を示す断面図である。
図示したように、図5の例は、上型8と下型7を同時に清掃するものである。遮蔽部材1をリング部材3のみで構成し、このリング部材3の両端から上型8及び下型7を挿入することにより、成形面12を密閉する。清掃ガスはリング部材3に備わる導入路4(図では2箇所)から密閉空間S内に流入し、異物とともに排出路5から排出される。このような構成とすれば、上型8と下型7の両方を同時に清掃できるので、清掃工程が簡略化され、効率よく迅速に清掃できる。その他の構成、作用、効果は図1の例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、樹脂や金属等を成形する金型の清掃にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る光学ガラス素子の金型清掃装置で金型を清掃する際の状態を示す断面図。
【図2】本発明に係る別の光学ガラス素子の金型清掃装置で金型を清掃する際の状態を示す断面図。
【図3】本発明に係るさらに別の光学ガラス素子の金型清掃装置で金型を清掃する際の状態を示す断面図。
【図4】本発明に係るさらに別の光学ガラス素子の金型清掃装置で金型を清掃する際の状態を示す断面図。
【図5】本発明に係るさらに別の光学ガラス素子の金型清掃装置で金型を清掃する際の状態を示す断面図。
【図6】光学ガラス素子をプレス成形するための金型の断面図。
【符号の説明】
【0034】
1:遮蔽部材、2:蓋部材、3:リング部材、4:導入路、5:排出路、7:下型、8:上型、9:胴型、10:金型、12:成形面、13:通気口、S:密閉空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の成形面を覆って密閉空間を形成し、
該密閉空間に清掃ガスを吹込んで前記成形面を清掃するとともに、
該密閉空間内の清掃ガスを周囲に拡散させることなく排出することを特徴とする光学ガラス素子の金型清掃方法。
【請求項2】
金型の成形面を覆って密閉空間を形成する遮蔽部材を備え、
前記密閉空間に清掃ガスを吹込む導入路及び該密閉空間から清掃ガスを排出する排出路を有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス素子の金型清掃方法を実施するための金型清掃装置。
【請求項3】
前記導入路及び排出路は、前記遮蔽部材に設けられた請求項2記載の金型清掃装置。
【請求項4】
前記導入路及び/又は排出路は、前記金型に設けられた通気口を介して前記密閉空間と連通する請求項2記載の金型清掃装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−306643(P2006−306643A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128836(P2005−128836)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】