説明

光学フィルムの製造方法

【課題】ポリプロピレン系樹脂を含有する原反フィルムを延伸して、製造後の位相差変動が少ない光学フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる長尺状の原反フィルムを110〜150℃の範囲内の温度Tmsで縦延伸し(S10)、その後得られる縦延伸フィルムを横延伸して(S20)、Nz係数が1.2〜3の範囲である光学フィルムを製造する方法である。S20は、縦延伸フィルムを温度Tcで10〜120秒間保温し(S21)、その後温度Ttsで横延伸し(S22)、そして90〜150℃の温度で10〜120秒間保持して熱固定する(S23)。温度Tcは、温度Tms以上でかつ温度Tmsの+15℃以下の温度であり、温度Ttsは、温度Tmsの−10℃以上でかつ+5℃以下の温度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が低く、低電圧で動作し、軽量でかつ薄型の液晶表示装置が、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、およびテレビ等の情報用表示デバイスとして急速に普及している。このような液晶表示技術の発展に伴い、さまざまなモードの液晶表示装置やそれに用いる光学部材が提案され、応答速度、コントラスト、視野角、および色再現性等の諸特性が改良されている。
【0003】
たとえば、携帯電話等に代表される反射型、または半透過反射型液晶表示装置を構成する光学部材では、1/4波長板として機能する光学フィルムや、1/4波長板と1/2波長板とを組み合わせて広帯域で1/4波長板として機能する光学フィルムを直線偏光板に所定の角度で貼り合わせた楕円偏光板が使用されている。このような光学フィルムとしては、ポリカーボネート系樹脂の延伸フィルム(たとえば、特許文献1参照)、環状ポリオレフィン系樹脂の延伸フィルム(たとえば、特許文献2参照)が用いられている。
【0004】
最近では液晶表示装置の薄型化への要求が高まるに伴い、偏光板に代表される光学部材にも、これを構成する光学フィルムの薄膜化が強く求められている。その要求に応える薄膜の光学フィルムを得る方法として、横一軸延伸による方法がある。しかし、ポリカーボネート系樹脂や環状ポリオレフィン系樹脂では、薄膜で、かつ液晶表示装置に要求される位相差値を合わせるのに必要な高倍率の延伸を行うと、フィルムがその高倍率延伸に耐えられずに破断するため、所望の薄膜品が得られないという問題があった。
【0005】
そこで、薄膜で、かつ液晶表示装置に要求される位相差値に合わせた光学フィルムを得るために、縦一軸延伸を採用することが考えられる。しかしこの場合は、高倍率延伸を避けるために、原料である未延伸フィルムも薄膜品を用いる必要があり、また、縦一軸延伸では避けられないネックインにより、得られる光学フィルムの幅が減少するなど、いずれもコストアップの要因となり、生産性の面で不利である。
【0006】
一方、ポリプロピレン系樹脂フィルムを延伸して光学フィルムに用いることも知られている(たとえば、特許文献3参照)。ポリプロピレン系樹脂を用いると、比較的破断伸度が大きいため、高倍率で横一軸延伸することが可能であり、薄膜で、かつ液晶表示装置に要求される位相差値に合わせた光学フィルムを得ることができる。しかし、ポリプロピレン系樹脂からなる光学フィルムは、フィルムの結晶状態の変化により、製造後の位相差値が経時的に変動し、実用に供し難い場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−100114号公報
【特許文献2】特開平11−149015号公報
【特許文献3】特開2007−286615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ポリプロピレン系樹脂を含有する原反フィルムを延伸して光学フィルムを製造する方法であって、製造後の位相差変動が少ない光学フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光学フィルムの製造方法は、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる長尺状の原反フィルムを110〜150℃の範囲内の温度Tmsで縦延伸する縦延伸工程と、当該縦延伸工程の後、得られる縦延伸フィルムを横延伸する横延伸工程と、を有し、当該横延伸工程は、当該縦延伸フィルムを温度Tcで10〜120秒間保温する保温工程と、当該縦延伸フィルムを温度Ttsで横延伸する横延伸処理工程と、横延伸されたフィルムを90〜150℃の温度で10〜120秒間保持して熱固定する熱固定工程と、をこの順で行い、面内遅相軸方向の屈折率をn、面内進相軸方向の屈折率をn、厚み方向の屈折率をnとしたときに、(n−n)/(n−n)で定義されるNz係数が1.2〜3の範囲である光学フィルムを製造する方法である。さらに、上記保温工程の温度Tcは、上記縦延伸工程の温度Tms以上でかつ温度Tmsの+15℃以下の温度であり、上記横延伸処理工程の温度Ttsは、上記縦延伸工程の温度Tmsの−10℃以上でかつ+5℃以下の温度である。
【0010】
本発明において、上記横延伸工程は、上記縦延伸フィルムをその長手方向に速度1〜50m/分で走行させながら行うことが好ましい。
【0011】
本発明において、上記樹脂組成物は、上記脂環族飽和炭化水素樹脂を0.1〜30重量%含有することが好ましい。また、上記脂環族飽和炭化水素樹脂の軟化点は、110℃〜145℃であることが好ましい。
【0012】
本発明において、上記ポリプロピレン系樹脂は、10重量%以下のエチレンユニットを含有するプロピレンとエチレンの共重合体、または、実質的にプロピレンの単独重合体からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造後における面内位相差値の経時変化が十分に抑制された光学フィルムを製造することができる。このような面内位相差値の経時変化が小さい光学フィルムを用いることにより、液晶表示装置の表示性能の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明のポリプロピレン系樹脂からなる光学フィルムの製造方法の好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の光学フィルムの製造方法を示すフローチャートである。図1に示すように、本発明の光学フィルムの製造方法は、樹脂組成物からなる長尺状の原反フィルムを縦延伸する縦延伸工程(S10)と、縦延伸工程の後、当該原反フィルムを横延伸する横延伸工程(S20)とを有する。横延伸工程(S20)では、縦延伸工程(S10)で得られる縦延伸フィルムを保温する保温工程(S21)と、当該縦延伸フィルムを横延伸する横延伸処理工程(S22)と、横延伸されたフィルムを熱固定する熱固定工程(S23)とをこの順に行う。本明細書においては、縦延伸工程(S10)前の原反フィルムを、「未延伸フィルム」ともいう。
【0017】
(原反フィルム)
本発明の光学フィルムの製造方法においては、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる長尺状の原反フィルムを用いる。
【0018】
<脂環族飽和炭化水素樹脂>
本発明の光学フィルムの製造方法に用いる原反フィルムを構成する脂環族飽和炭化水素樹脂は、石油樹脂に分類される樹脂である。石油樹脂とは、石油類の熱分解により生成する分解油留分を重合し固化させた熱可塑性樹脂であって、たとえば、C5留分を原料とした脂肪族系石油樹脂;C9留分を原料とした芳香族系石油樹脂;C5留分とC9留分の2種を共重合して得られる共重合系石油樹脂;ならびに、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、または共重合系石油樹脂を水素化した水素化系石油樹脂等が挙げられる。
【0019】
本発明においては、上記石油樹脂のなかでも、特に、脂環族飽和炭化水素樹脂を用いる。脂環族飽和炭化水素樹脂は典型的には、芳香族系石油樹脂を水素化して得られる水素化系石油樹脂である。脂環族飽和炭化水素樹脂は、経時的な面内位相差値変動を抑制する効果が高く、また、無色透明であり、耐候性に優れるという光学フィルム原料として有利な特性を兼備している。
【0020】
本発明で用いる脂環族飽和炭化水素樹脂は、軟化点が110℃以上、145℃以下であることが好ましい。より好ましくは、115℃以上、135℃以下である。軟化点が110℃より低いと光学フィルムの耐熱性が低下する傾向にあり、また、軟化点が145℃を超えると、原反フィルムの延伸性が悪くなり、光学フィルムの生産性が低下する傾向にある。
【0021】
脂環族飽和炭化水素樹脂として、市販品を用いることもできる。このような市販品としては、荒川化学工業(株)製の「アルコン(登録商標)」シリーズが挙げられる。「アルコン(登録商標)」シリーズは、芳香族系石油樹脂を水素化した水素化系石油樹脂である。
【0022】
本発明に用いられる原反フィルムを構成する樹脂組成物は、脂環族飽和炭化水素樹脂を0.1〜30重量%の範囲内で含有することができ、好ましくは3〜20重量%の範囲内で含有する。脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量が0.1重量%未満であると、経時的な面内位相差値変動を抑制する効果が十分に得られず、30重量%を超えると、光学フィルムに経時的な脂環族飽和炭化水素樹脂のブリードアウトが生じる懸念がある。
【0023】
<ポリプロピレン系樹脂>
本発明の光学フィルムの製造方法に用いる原反フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、実質的にプロピレンの単独重合体からなる樹脂であってもよいし、プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体からなる樹脂であってもよい。プロピレンの単独重合体は、プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体に比べて、結晶化度がより高くなるため、フィルム剛性と降伏強度をより高くすることができる点において有利である。したがって、ポリプロピレン系樹脂として、実質的にプロピレンの単独重合体からなる樹脂を用いることにより、本発明の光学フィルムの製造工程での取り扱い性をより向上させることが可能となる。
【0024】
ここで、「実質的にプロピレンの単独重合体」は、プロピレンユニットの含有量が100重量%である重合体のほか、原反フィルムの生産性向上等を目的として0.6重量%程度以下の範囲でエチレンユニットが含有されたプロピレン/エチレン共重合体も含むものとする。
【0025】
プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーの1種または2種以上を少量共重合させたものであることが好ましい。具体的には、このような共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、コモノマーユニットを、たとえば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下の範囲で含有する樹脂であることができる。共重合体におけるコモノマーユニットの含有量は、少なくとも0.6重量%を超え、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。コモノマーユニットの含有量を1重量%以上とすることにより、加工性や透明性を有意に向上させ得る。一方、コモノマーユニットの含有量が20重量%を超えると、ポリプロピレン系樹脂の融点が下がり、耐熱性が低下する傾向にある。なお、2種以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれる全てのコモノマーに由来するユニットの合計含有量が、上記範囲であることが好ましい。
【0026】
プロピレンに共重合されるコモノマーは、たとえば、エチレンや、炭素原子数4〜20のα−オレフィンであることができる。この場合のα−オレフィンとして具体的には、次のようなものを挙げることができる。1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上C4);1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上C5);1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上C6);1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上C7);1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上C8);1−ノネン(C9);1−デセン(C10);1−ウンデセン(C11);1−ドデセン(C12);1−トリデセン(C13);1−テトラデセン(C14);1−ペンタデセン(C15);1−ヘキサデセン(C16);1−ヘプタデセン(C17);1−オクタデセン(C18);1−ノナデセン(C19)など。
【0027】
α−オレフィンの中で好ましいものは、炭素原子数4〜12のα−オレフィンであり、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン;1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン;1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン;1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン;1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン;1−ノネン;1−デセン;1−ウンデセン;1−ドデセンなどを挙げることができる。共重合性の観点からは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、および1−オクテンが好ましく、とりわけ1−ブテン、および1−ヘキセンがより好ましい。
【0028】
共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。好ましい共重合体として、プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体を挙げることができる。プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体において、エチレンユニットの含有量や1−ブテンユニットの含有量は、たとえば、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法により赤外線(IR)スペクトル測定を行い、求めることができる。本明細書中において示す、プロピレンとエチレンの共重合体からなるポリプロピレン系樹脂中のエチレンユニットの含有量は、上記のようにして求める値である。
【0029】
光学フィルムとしての透明度や加工性を上げる観点からは、共重合体は、プロピレンを主体とするプロピレンと上記不飽和炭化水素とのランダム共重合体であることが好ましく、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体であることがより好ましい。プロピレン/エチレンランダム共重合体におけるエチレンユニットの含有量は、上述のとおり、1〜20重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがより好ましく、3〜7重量%であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の光学フィルムの製造方法に用いる原反フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、公知の重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法や、プロピレンと他の共重合性コモノマーとを共重合する方法によって製造することができる。公知の重合用触媒としては、たとえば、次のようなものを挙げることができる。
【0031】
(1)マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第三成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒、など。
【0032】
これら触媒系の中でも、本発明の光学フィルムに用いるポリプロピレン系樹脂の製造においては、マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と電子供与性化合物とを組み合わせたものが、最も好適に使用できる。より具体的には、有機アルミニウム化合物として好ましくは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物、テトラエチルジアルモキサンなどが挙げられ、電子供与性化合物として好ましくは、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチルプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0033】
一方、マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては、たとえば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報などに記載の触媒系が挙げられ、またメタロセン系触媒としては、たとえば、特許第2587251号公報、特許第2627669号公報、特許第2668732号公報などに記載の触媒系が挙げられる。
【0034】
ポリプロピレン系樹脂は、たとえばヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンのような炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶液重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマーをそのまま重合させる気相重合法などによって、製造することができる。これらの方法による重合は、バッチ式で行なってもよいし、連続式で行ってもよい。
【0035】
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、またはアタクチックのいずれであってもよい。本発明においては、耐熱性の点から、シンジオタクチックまたはアイソタクチックのポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0036】
本発明の光学フィルムの製造方法に用いる原反フィルムを形成するポリプロピレン系樹脂は、JIS K 7210に準拠して、温度230℃、荷重21.18Nで測定されるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜200g/10分、特に0.5〜50g/10分の範囲にあることが好ましい。MFRがこの範囲にあるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく均一なフィルム状物を得ることができる。
【0037】
<添加物>
本発明の光学フィルムの製造方法において用いる原反フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる。この樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の添加物が配合されていてもよい。添加物としては、たとえば酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤などを挙げることができる。酸化防止剤としては、たとえばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられ、また、1分子中にたとえば、フェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤も用いることができる。紫外線吸収剤としては、たとえば2−ヒドロキシベンゾフェノン系やヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系のような紫外線吸収剤、ベンゾエート系の紫外線遮断剤などが挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型のいずれであってもよい。滑剤としては、エルカ酸アミドやオレイン酸アミドのような高級脂肪酸アミド、ステアリン酸のような高級脂肪酸およびその塩などが挙げられる。アンチブロッキング剤としては、球状、またはそれに近い形状の微粒子が、無機系、有機系を問わず使用できる。
【0038】
また、造核剤は、無機系造核剤、有機系造核剤のいずれでもよい。無機系造核剤としては、タルク、クレイ、炭酸カルシウム等が挙げられる。有機系造核剤としては、芳香族カルボン酸の金属塩類、芳香族リン酸の金属塩類などの金属塩類、高密度ポリエチレン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリシクロペンテン、ポリビニルシクロヘキサンなどが挙げられる。これらの中でも有機系造核剤が好ましく、さらに好ましくは前記の金属塩類および高密度ポリエチレンである。造核剤の添加量は、樹脂組成物に含有されるポリプロピレン系樹脂100重量%に対して0.01〜3重量%の範囲内であることが好ましく、0.05〜1.5重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0039】
これらの添加物は、複数種が併用されてもよい。またこれらの添加物を配合する場合、原反フィルムとなるポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物中に有効量存在していればよく、その配合段階は任意である。たとえば、ポリプロピレン系樹脂に添加物が配合された状態で脂環族飽和炭化水素樹脂と混合する方法、脂環族飽和炭化水素樹脂に添加物が配合された状態でポリプロピレン系樹脂と混合する方法、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物に添加物を配合する方法などによって、これらの添加物を組成物中に含有させることができる。
【0040】
<原反フィルムの作製>
本発明の光学フィルムの製造方法に用いる原反フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物を製膜することにより作製される。当該樹脂組成物の調製方法は、少なくとも脂環族飽和炭化水素樹脂が、得られる樹脂組成物中に均一に分散される方法である限り特に限定されるものではなく、たとえば、ポリプロピレン系樹脂を調製する重合工程における重合反応途中または重合反応直後の重合反応混合物に脂環族飽和炭化水素樹脂を添加する方法を挙げることができる。脂環族飽和炭化水素樹脂は、溶剤に溶解した溶液として添加してもよいし、容易に分散し得るように粉末状に粉砕し、粉体として添加してもよいし、加熱して溶融状態で添加してもよい。
【0041】
また、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練しながら脂環族飽和炭化水素樹脂を添加した後、さらに溶融混練する方法によっても樹脂組成物を得ることができる。これら溶融混練は、たとえば、リボンブレンダー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ロール、各種ニーダー、単軸押出機、二軸押出機などの混練機を用いて行なうことができる。このようにして得られた樹脂組成物は、溶融混練後、冷却することなく溶融状態のまま原反フィルムへの成形加工に供してもよいし、冷却してペレット体等の成形物にした後、これを再度加熱して原反フィルムへの成形加工に供してもよい。また、冷却した後、冷却状態のままプレス成形等の方法により原反フィルムに成形することもできる。
【0042】
上記樹脂組成物を、任意の方法で製膜することにより原反フィルムとすることができる。この原反フィルムは、透明で実質的に面内位相差のないものである。製膜方法としては、たとえば、1)溶融状態(一旦ペレット体とした後加熱して溶融状態としたものであってもよい)の樹脂組成物を押出成形する方法、2)溶剤を含む樹脂組成物(樹脂組成物に別途溶剤を添加してもよい)を平板上に流延し、溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法、および3)樹脂組成物をプレス成形する方法などを挙げることができる。これらの方法によって、面内位相差が実質的にない樹脂組成物の原反フィルムを得ることができる。
【0043】
原反フィルムを製造する好ましい方法の一例として、押出成形による製膜法について詳しく説明する。押出成形においては、樹脂組成物は、押出機中でスクリューの回転によって溶融混練され、Tダイからシート状に押出される。押出される溶融状シートの温度は、180〜300℃程度とすることができる。溶融状シートの温度が180℃を下回ると、延展性が十分でなく、得られる原反フィルムの厚みが不均一になり、位相差ムラのあるフィルムとなる可能性がある。また、溶融状シートの温度が300℃を超えると、樹脂の劣化や分解が起こりやすく、溶融状シート中に気泡が生じたり、炭化物が含まれたりすることがある。
【0044】
押出機は、単軸押出機であっても二軸押出機であってもよい。たとえば単軸押出機の場合は、スクリューの長さLと直径Dとの比であるL/Dが24〜36程度、樹脂供給部におけるねじ溝の空間容積V1と樹脂計量部におけるねじ溝の空間容積V2との比である圧縮比V1/V2が1.5〜4程度であって、フルフライトタイプ、バリアタイプまたはマドック型の混練部分を有するタイプなどのスクリューを用いることが好ましい。樹脂組成物の劣化や分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点から、L/Dが28〜36であり、圧縮比V1/V2が2.5〜3.5であるバリアタイプのスクリューを用いることがより好ましい。
【0045】
また、樹脂組成物の劣化や分解を可及的に抑制するため、押出機内は、窒素雰囲気、または真空にすることが好ましい。さらに、樹脂組成物が劣化したり分解したりすることで生じる揮発ガスを取り除くため、押出機の先端に1mmφ以上でかつ5mmφ以下のオリフィスを設け、押出機先端部分の樹脂圧力を高めることも好ましい。オリフィスの押出機先端部分の樹脂圧力を高めるとは、先端での背圧を高めることを意味しており、これにより押出の安定性を向上させることができる。用いるオリフィスの直径は、より好ましくは2mmφ以上でかつ4mmφ以下である。
【0046】
押出に使用されるTダイは、樹脂組成物の流路表面に微小な段差や傷のないものが好ましく、また、そのリップ部分は、溶融した樹脂組成物との摩擦係数の小さい材料でめっき、またはコーティングされ、さらにリップ先端が0.3mmφ以下に研磨されたシャープなエッジ形状のものが好ましい。摩擦係数の小さい材料としては、タングステンカーバイド系やフッ素系の特殊めっきなどが挙げられる。このようなTダイを用いることにより、目ヤニの発生を抑制でき、同時にダイラインを抑制できるので、外観の均一性に優れる原反フィルムが得られる。Tダイは、マニホールドがコートハンガー形状であって、かつ以下の条件(1)または(2)を満たすことが好ましく、さらには条件(3)または(4)を満たすことがより好ましい。
【0047】
(1)Tダイのリップ幅が1500mm未満:Tダイの厚み方向長さ>180mm、
(2)Tダイのリップ幅が1500mm以上:Tダイの厚み方向長さ>220mm、
(3)Tダイのリップ幅が1500mm未満:Tダイの高さ方向長さ>250mm、
(4)Tダイのリップ幅が1500mm以上:Tダイの高さ方向長さ>280mm。
【0048】
このような条件を満たすTダイを用いることにより、Tダイ内部での溶融状樹脂組成物の流れを整えることができ、かつ、リップ部分でも厚みムラを抑えながら押出すことができるため、より厚み精度に優れ、面内位相差が極めて低いレベルでより均一化された原反フィルムを得ることができる。
【0049】
なお、樹脂組成物の押出変動を抑制する観点から、押出機とTダイとの間にアダプターを介してギアポンプを取り付けることが好ましい。また、樹脂組成物中の異物を取り除くため、リーフディスクフィルターを取り付けることが好ましい。
【0050】
Tダイから押出された溶融状シートは、金属製冷却ロール(チルロール、またはキャスティングロールともいう)と、その金属製冷却ロールの周方向に圧接して回転する弾性体を含むタッチロールとの間で挟圧され、両ロールによって冷却固化されて、原反フィルムとなる。タッチロールは、ゴムなどの弾性体がそのまま表面となっているものでもよいし、弾性体ロールの表面を金属スリーブからなる外筒で被覆したものでもよい。弾性体ロールの表面が金属スリーブからなる外筒で被覆されたタッチロールを用いる場合は、通常、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に、樹脂組成物の溶融状シートを直接挟んで冷却する。一方、表面が弾性体となっているタッチロールを用いる場合は、樹脂組成物の溶融状シートとタッチロールとの間に熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを介在させて挟圧することもできる。
【0051】
樹脂組成物の溶融状シートを、前記のような金属製冷却ロールとタッチロールとで挟んで冷却固化させるにあたり、冷却ロールとタッチロールは、いずれもその表面温度を低くしておき、溶融状シートを急冷させることが好ましく、具体的には、両ロールの表面温度は0℃以上でかつ30℃以下の範囲に調整されることが好ましい。これらの表面温度が30℃を超えると、溶融状シートの冷却固化に時間がかかるため、溶融状シート中の結晶成分が成長してしまい、得られる原反フィルムの透明性が低下することがある。両ロールの表面温度は、より好ましくは30℃未満、さらに好ましくは25℃未満である。一方、両ロールの表面温度が0℃を下回ると、金属製冷却ロールの表面に結露が生じて水滴が付着し、原反フィルムの外観を悪化させる場合がある。
【0052】
使用する金属製冷却ロールは、その表面状態が原反フィルムの表面に転写されるため、その表面に凹凸があると、得られる原反フィルムの厚み精度を低下させる場合がある。そこで、金属製冷却ロールの表面は、フィルムの剥離が可能な限りできるだけ鏡面状態に近い方が好ましい。具体的には、金属製冷却ロールの表面の粗度は、最大高さの標準数列で表して0.4S以下であることが好ましく、0.05S〜0.2Sであることがより好ましい。
【0053】
金属製冷却ロールとニップ部分を形成するタッチロールは、その弾性体における表面硬度が、JIS K 6301に規定されるスプリング式硬さ試験(A形)で測定される値として、65〜80であることが好ましく、70〜80であることがより好ましい。このような表面硬度のタッチロールを用いることにより、溶融状シートにかかる線圧を均一に維持することが容易となり、かつ、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に溶融状シートのバンク(樹脂溜り)を生じさせることなくフィルムに成形することが容易となる。
【0054】
溶融状シートを挟圧するときの圧力(線圧)は、金属製冷却ロールに対してタッチロールを押し付ける圧力により決まる。線圧は、50N/cm以上でかつ300N/cm以下とすることが好ましく、100N/cm以上でかつ250N/cm以下とすることがより好ましい。線圧を前記範囲とすることにより、バンクを形成することなく、一定の線圧を維持しながら原反フィルムを製造することが容易となる。
【0055】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で、樹脂組成物の溶融状シートとともに熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを挟圧する場合、この二軸延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、溶融状シートと強固に熱融着しない樹脂であればよく、具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。これらの中でも、湿度や熱などによる寸法変化の少ないポリエステルが最も好ましい。二軸延伸フィルムの厚さは、通常、5〜50μm程度であり、好ましくは10〜30μmである。
【0056】
Tダイのリップから金属製冷却ロールとタッチロールとで挟圧されるまでの距離(エアギャップ)は、200mm以下とすることが好ましく、160mm以下とすることがより好ましい。Tダイから押出された溶融状シートは、リップからロールまでの間引き伸ばされて、配向が生じやすくなる。エアギャップを前記のように短くすることで、配向のより小さい原反フィルムを得ることができる。エアギャップの下限値は、使用する金属製冷却ロールの径とタッチロールの径、および使用するリップの先端形状により決定され、通常、50mm以上である。
【0057】
原反フィルムの加工速度は、溶融状シートを冷却固化するために必要な時間により決定される。使用する金属製冷却ロールの径が大きくなると、溶融状シートがその冷却ロールと接触している距離が長くなるため、より高速での製造が可能となる。具体的には、600mmφの金属製冷却ロールを用いる場合、加工速度は、最大で5〜20m/分程度となる。
【0058】
金属製冷却ロールとタッチロールとにより挟圧され、冷却固化されて得られる原反フィルムは、必要に応じて端部をスリットした後、通常、巻き取り機によってロール状に巻き取られる。この際、原反フィルムを使用するまでの間、その表面を保護するために、その片面、または両面に別の熱可塑性樹脂からなる表面保護フィルムを貼り合わせた状態で巻き取ってもよい。溶融状シートを熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムとともに金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧する場合には、その二軸延伸フィルムを一方の表面保護フィルムとすることもできる。
【0059】
本発明の光学フィルムの製造方法に用いる樹脂組成物からなる原反フィルムの膜厚は、特に制限されるものではないが、10〜140μmが好ましく、30〜110μmがより好ましい。膜厚が140μmを超えると、延伸後に所望の位相差を得ることが難しくなる。また、膜厚が10μmを下回ると、延伸後の光学フィルムにシワなどが発生しやすくなり、巻き取りや貼合時の取り扱い性に劣る場合がある。
【0060】
(縦延伸工程)
本発明の光学フィルムの製造方法では、まず、上述の樹脂組成物からなる原反フィルムを、温度Tmsで縦延伸する。このときの温度Tmsは以下の式(1)を満たす。
【0061】
110℃≦Tms≦150℃ (1)
縦延伸方法としては、二つ以上のロールの回転速度差により原反フィルムを延伸する方法や、ロングスパン延伸法が挙げられる。ロングスパン延伸法とは、二対のニップロールとその間にオーブンを有する縦延伸機を用い、該オーブン中で原反フィルムを加熱しながら前記二対のニップロールの回転速度差により延伸する方法である。光学的な均一性が高い光学フィルムが得られるため、ロングスパン縦延伸法が好ましい。とりわけエアーフローティング方式のオーブンを用いることが好ましい。エアーフローティング方式のオーブンとは、該オーブン中に原反フィルムを導入した際に、該原反フィルムの両面に上部ノズルと下部ノズルから熱風を吹き付けることが可能な構造である。複数の上部ノズルと下部ノズルがフィルムの流れ方向に交互に設置されている。該オーブン中、原反フィルムが前記上部ノズルと下部ノズルのいずれにも接触しないようにしながら、延伸する。
【0062】
縦延伸工程の温度Tms(上記エアーフローティング方式のオーブンを用いる場合は、当該オーブン中の雰囲気の最高温度)は、未延伸原反フィルムの融点付近の温度が好ましい。具体的には110℃〜150℃の範囲内の温度、好ましくは115℃〜145℃の範囲内の温度で縦延伸を行う。この縦延伸温度が110℃に満たないと、未延伸原反フィルムに熱が十分に与えられず、フィルムが延伸されるときに応力が不均一にかかり、光学フィルムとしての軸精度や位相差の均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、縦延伸温度が150℃を超えると、必要以上に熱がフィルムに与えられるために部分的に溶融し、ドローダウンする(下に垂れる)場合がある。オーブンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの温度設定は同じでもよいし、異なってもよい。
【0063】
(横延伸工程)
横延伸とは、一般に、長尺状のフィルムを幅方向(横方向)に延伸することをいう。本発明では、縦延伸されたフィルムを横延伸する処理を行う。代表的な横延伸の方法としては、テンター法が挙げられる。テンター法は、チャックでフィルム幅方向の両端を固定したフィルムを、オーブン中でチャック間隔を広げながら延伸する方法である。テンター法に用いる延伸機(テンター延伸機)は、通常、保温工程(S21)を行うゾーン、横延伸処理工程(S22)を行うゾーン、および熱固定工程(S23)を行うゾーンにおいて、それぞれの温度を独立に調節できる機構を備えている。このようなテンター延伸機を用いて横延伸工程(S20)を行うことにより、軸精度に優れ、かつ均一な位相差を有する光学フィルムを得ることができる。
【0064】
<保温工程>
本発明の光学フィルムの製造方法においては、次に、上記の樹脂組成物からなる長尺状の縦延伸されたフィルムを、下記式(2)を満たす温度Tcで滞留時間10〜120秒の範囲内で保温する(S21)。
【0065】
Tms≦Tc≦Tms+15℃ (2)
テンター延伸機の保温工程を行う保温ゾーンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの温度設定は同じでもよいし、異なってもよい。
【0066】
この保温工程(S21)での滞留時間は10〜120秒であり、好ましくは30〜90秒、さらに好ましくは30〜60秒である。滞留時間とは、原反フィルムがテンター延伸機の保温工程(S21)を行う保温ゾーン内に存在する時間を意味する。この保温工程(S21)での滞留時間が10秒に満たないと、縦延伸後のフィルムに熱が十分に与えられず、続く横延伸処理工程(S22)でフィルムが横延伸されるときに応力が不均一にかかり、光学フィルムとしての軸精度や位相差の均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、その滞留時間が120秒を超えると、縦延伸後のフィルムに与えられる熱が必要以上に多くなるため、フィルムが部分的に溶融し、ドローダウンする(下に垂れる)場合がある。
【0067】
<横延伸処理工程>
本発明の光学フィルムの製造方法においては、縦延伸され、保温された後のフィルムを、次に、下記式(3)を満たす温度Ttsで横方向に延伸する(S22)。
【0068】
Tms−10℃≦Tts≦Tms+5℃ (3)
テンター延伸機の延伸工程を行うゾーンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの温度設定は同じでもよいし、異なってもよい。
【0069】
また、横延伸処理工程(S22)を含む横延伸工程(S20)におけるフィルムの走行速度Vtsは、下記式(4−1)を満たすものであることが好ましく、下記式(4−2)を満たすものがより好ましい。フィルムの走行速度Vtsが50m/分を超えると、生産安定性が悪く、延伸フィルムの均一性が得られない場合がある。また、フィルムの走行速度Vtsが1m/分未満では、生産性が乏しい。
【0070】
1m/分≦Vts≦50m/分 (4−1)
2m/分≦Vts≦30m/分 (4−2)
上記式(3)および(4−1)または(4−2)を同時に満たす条件で横延伸処理工程(S22)を行うことによって、得られる光学フィルムにおける面内位相差値の経時変化が一層抑制されるという効果が奏される。
【0071】
<熱固定工程>
本発明の光学フィルムの製造方法においては、次に、上記各工程を経たフィルムを温度90〜150℃、かつ滞留時間10〜120秒の範囲内で熱固定する(S23)。横延伸後の熱固定は、テンター延伸機の横延伸処理工程を行うゾーンを通過した延伸フィルムを引き続き、熱固定工程を行うゾーンを通過させることにより行うことができる。また、滞留時間とは、延伸フィルムがテンター延伸機の熱固定工程を行うゾーン内に存在する時間を意味する。テンター延伸機の熱固定工程を行うゾーンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの温度設定は同じでもよいし、異なってもよい。
【0072】
熱固定工程は、延伸されたフィルムの位相差値や光軸等、光学的特性の安定性を効果的に確保するために実施される。この工程では、横延伸処理工程(S22)におけるフィルムの幅をそのまま保持した状態で、所定の熱固定温度のゾーンに通過させる。
【0073】
熱固定温度は、90℃〜150℃であり、90℃〜120℃が好ましい。熱固定温度が90℃に満たないと、熱安定性に劣り、たとえば、高温環境下で位相値の変動が生じる場合がある。また、150℃を超えると、必要以上の熱がフィルムに加わり、本発明の製造方法による位相差変動の抑制効果が現れず、逆に常温下での位相差変動が過大になる場合がある。
【0074】
縦延伸工程(S10)における延伸温度Tmsの設定と、横延伸工程(S20)の保温工程(S21)における温度Tcの設定および横延伸処理工程(S22)における温度Ttsの設定は、上記式(1)、(2)および(3)を満たす範囲内であれば特に制限されない。たとえば、上記式(1)、(2)および(3)を満たす特定温度の一定値であってもよいし、傾斜した温度勾配であってもよい。また、熱処理装置の温度設定区域に対応した段階的な温度変化であってもよい。
【0075】
縦延伸工程(S10)における延伸温度Tmsと、横延伸工程(S20)の保温工程(S21)における温度Tcおよび横延伸処理工程(S22)における温度Ttsが前記式(1)、(2)および(3)で規定される範囲を超えると、製造された光学フィルムの位相差値変動が十分抑制されず、位相差値が安定しない場合がある。
【0076】
(位相差値変動)
本明細書において、「製造後における面内位相差値変動」は、光学フィルム製造直後における光学フィルムの面内位相差値(nm)と、製造後21日経過した光学フィルムの面内位相差値(nm)との差の絶対値で計測する。さらに、面内位相差値が異なる光学フィルムの位相差値安定性を比較するため、下記の式(5)で算出される「面内位相差値変動量(140nm換算)」を定義している。
【0077】
ΔR140=|R(21)−R(0)|/R(0)×140 (5)
ここで、ΔR140は「面内位相差値変動量(140nm換算)」(単位:nm)を表し、R(21)は製造後21日経過した光学フィルムを測定した面内位相差値(単位:nm)を表し、R(0)は製造直後に測定した面内位相差値(単位:nm)を表す。
【0078】
光学フィルムの面内位相差値は、位相差測定装置を用いて、測定波長590nmにて測定される値である。本明細書でいう「製造後における面内位相差値の経時変化が十分に抑制された」状態であるためには、上記のように定義された「面内位相差値変動量(140nm換算)」が1.0nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5nm以下である。
【0079】
製造後における「面内位相差値変動(140nm換算)」が1.0nm以下であれば、その光学フィルムを用いた液晶表示装置の表示性能が安定する。逆に、製造後における「面内位相差値変動(140nm換算)」が1.0nmを超えると、その光学フィルムを用いた液晶表示装置の表示性能がばらつき、その視認性を低下させる場合がある。
【0080】
(横延伸工程後の処理)
上述した熱固定工程(S23)を経た後のフィルムは、通常、ロール状に巻き取られる。本発明においては、このような熱固定が施された後の延伸フィルムを温度20〜25℃、相対湿度50〜60%の環境下に7日間以上養生してもよい。このような養生を施すことにより、位相差値をさらに安定化させることができる。養生を採用する場合は、養生直後の光学フィルムが製造直後の光学フィルムとなる。以上の工程を経て、位相差値変動の安定化された光学フィルムを得ることができる。
【0081】
(光学フィルム)
本発明の光学フィルムの製造方法によって得られる光学フィルムの膜厚は、特に制限されるものではないが、5〜35μmが好ましく、8〜30μmがより好ましい。膜厚が35μmを超えると、薄膜化の効果が十分に現れない場合がある。また、膜厚が5μmを下回ると、光学フィルムにシワなどが発生しやすくなり、巻き取りや貼合時の取り扱い性に劣る場合がある。
【0082】
この光学フィルムにおいて、面内の位相差値Rは、70〜400nmが好ましく、80〜330nmがより好ましい。厚み方向の位相差値Rthは、28〜240nmが好ましい。またNz係数は、1.2〜3の範囲であり、好ましくは、1.3〜2の範囲である。これらの範囲から、適用される液晶表示装置に要求される特性に合わせて、適宜選択すればよい。
【0083】
なお、フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をn、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をn、厚み方向の屈折率をn、そして厚みをdとしたときに、面内の位相差値R、厚み方向の位相差値Rth、およびNz係数は、それぞれ下式(I)、(II)、および(III)で定義される。
【0084】
=(n−n)×d (I)
th=〔(n+n)/2−n〕×d (II)
Nz=(n−n)/(n−n) (III)
また、これらの式(I)、(II)および(III)から、Nz係数と面内の位相差値Rおよび厚み方向の位相差値Rthとの関係は、次の式(IV)で表すことができる。
【0085】
Nz=Rth/R+0.5 (IV)
このような本発明の方法で製造された光学フィルムを1/4波長板として用いる場合、その面内位相差値Rは、70〜200nmの範囲にあることが好ましく、さらには80〜170nmの範囲にあることがより好ましい。1/4波長板は、直線偏光で入射する光を、円偏光をはじめとする楕円偏光に、また円偏光をはじめとする楕円偏光で入射する光を直線偏光に、それぞれ変換して出射する機能を有する。一方、この光学フィルムを1/2波長板として用いる場合、その面内位相差値Rは、200〜400nmの範囲にあることが好ましく、さらには240〜330nmの範囲にあることがより好ましい。1/2波長板は、直線偏光の向きを回転させる機能を有する。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。以下、含有量を表す%および部は、特記ないかぎり重量基準である。また、フィルム厚みの測定、位相差値およびNz係数の測定、ならびに時間経過による面内位相差値変動の測定は、次に示す方法で行った。
【0087】
<未延伸の原反フィルムおよび光学フィルムの厚みの測定>
デジタルマイクロメーターMH−15M((株)ニコン製)を用いて測定した。
【0088】
<光学特性の測定>
位相差測定装置KOBRA−WPR(王子計測機器(株)製)を用いて、測定波長590nmで、位相差値R、RthおよびNz係数を測定した。
【0089】
<時間経過による面内位相差値変動の測定>
製造直後の面内位相差値R(0)および製造から21日経過後の面内位相差値R(21)を測定し、前記式(5)によりΔR140(面内位相差値変動量(140nm換算))(単位:nm)を算出した。
【0090】
<実施例1>
ポリプロピレン系樹脂(住友化学(株)製「ノーブレン(登録商標)FS2011DG3」、MFR=約2.3g/10分、エチレン含量=約0.5%)90部と、脂環族飽和炭化水素樹脂(荒川化学工業(株)製「アルコン(登録商標) P−125」、軟化点125℃)10部とからなる樹脂組成物(以下、「樹脂組成物1」とする)を二軸造粒機で溶融混練し、ペレットを得た後、単軸押出機を用いて樹脂温度250℃で溶融押出を行ない、20℃の冷却ロールにて急冷することにより厚さ110μmの未延伸フィルム(原反フィルム)を得た。
【0091】
この未延伸フィルムを、テンター延伸機でロングスパン延伸法にて縦延伸した(縦延伸工程)。入口ライン速度を3m/分とし、温度が138℃に調節された1mの保温ゾーンに通し、続いて、温度が138℃に調節された延伸ゾーンに通し、延伸倍率が1.5倍となるように延伸した。
【0092】
なお、各ゾーンを通過するフィルム温度を、各ゾーンの中央および出口にて放射温度計で測定したところ、いずれのゾーンとも設定温度と等しい値を示した。よって、今後温度制御は各温度制御ゾーンの設定温度で表す。
【0093】
次いで、上記のようにして縦延伸されたフィルムに、テンター延伸機で横延伸工程を施した。具体的には、縦延伸されたフィルムの走行速度を2m/分とし、まず温度が149℃に調節された1mの保温ゾーンに通し(保温工程)、続いて、温度が139℃に調節された2mの横延伸ゾーンで延伸倍率が4.4倍となるように延伸し(横延伸処理工程)、さらに温度が110℃に調節された1mの熱固定ゾーンを通し(熱固定工程)、得られた延伸フィルム(光学フィルム)をロール状に巻き取った。なお、保温ゾーンおよび熱固定ゾーンの滞留時間は双方ともに30秒となった。ここで採用した条件は、前記式(1)〜(3)および(4−1)のすべてを満たしており、得られた光学フィルムの光学特性を測定したところ、Nz係数は1.5であった。
【0094】
得られた光学フィルムについて、厚みdを測定した。また、位相差値の安定性を評価するため、製造から21日経過後の面内位相差値R(21)を求め、これと製造直後の面内位相差値R(0)とから、式(5)によりΔR140(面内位相差値変動量(140nm換算))を算出した。
【0095】
<実施例2>
ポリプロピレン系樹脂および脂環族飽和炭化水素樹脂の使用量をそれぞれ、80部、20部とし(以下、「樹脂組成物2」とする)、縦延伸工程の保温ゾーンおよび延伸ゾーンの温度を133℃とし、横延伸工程の保温工程を134℃、横延伸処理工程を温度124℃に変更した以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。ここで採用した条件も、上記式(1)〜(3)および(4−1)のすべてを満たし、得られた光学フィルムのNz係数は1.6であった。
【0096】
<実施例3>
横延伸工程の保温工程を144℃、横延伸処理工程を温度134℃に変更した以外は、実施例2と同様にして光学フィルムを作製した。ここで採用した条件も、上記式(1)〜(3)および(4−1)のすべてを満たし、得られた光学フィルムのNz係数は1.6であった。
【0097】
<比較例1>
横延伸処理工程を延伸倍率が5.5倍となるようにした以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。ここで採用した条件は、上記式(1)〜(3)および(4−1)のすべてを満たすものの、得られた光学フィルムのNz係数は1.0であった。
【0098】
<比較例2>
横延伸工程の保温工程を129℃、横延伸処理工程を温度119℃に変更した以外は、実施例2と同様にして光学フィルムを作製した。ここで採用した条件は、前記式(1)および(4−1)を満たすものの、式(2)および(3)を満たしていない。また、得られた光学フィルムのNz係数は1.7であった。
【0099】
<比較例3>
横延伸処理工程を延伸倍率が5.5倍となるようにした以外は、実施例3と同様にして光学フィルムを作製した。ここで採用した条件は、上記式(1)〜(3)および(4−1)のすべてを満たすものの、得られた光学フィルムのNz係数は1.1であった。
【0100】
<比較例4>
横延伸工程の保温工程を149℃、横延伸処理工程を温度139℃、横延伸処理工程を延伸倍率が5.5倍に変更した以外は、実施例2と同様にして光学フィルムを作製した。ここで採用した条件は、前記式(1)および(4−1)を満たすものの、式(2)および(3)を満たしていない。また、得られた光学フィルムのNz係数は1.1であった。
【0101】
以上の実施例1〜3および比較例1〜4で採用した条件を表1に記載した。また、得られた光学フィルムの光学特性と評価結果を表2に示した。表2中、「ΔR140」は、前述のとおり、製造直後の面内位相差値R(0)と製造から21日経過後の面内位相差値R(21)とから算出したΔR140(面内位相差値変動量(140nm換算))(単位:mm)である。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
表2に示す結果からわかるように、比較例1〜4の光学フィルムにおいては、面内位相差値変動量(140nm換算)が1.0nmを超える値となっており、液晶表示装置に用いた場合に表示性能がばらつき、視認性を低下させることがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる長尺状の原反フィルムを110〜150℃の範囲内の温度Tmsで縦延伸する縦延伸工程と、
前記縦延伸工程の後、得られる縦延伸フィルムを横延伸する横延伸工程と、を有し、
前記横延伸工程は、前記縦延伸フィルムを温度Tcで10〜120秒間保温する保温工程と、前記縦延伸フィルムを温度Ttsで横延伸する横延伸処理工程と、横延伸されたフィルムを90〜150℃の温度で10〜120秒間保持して熱固定する熱固定工程と、をこの順で行い、
面内遅相軸方向の屈折率をn、面内進相軸方向の屈折率をn、厚み方向の屈折率をnとしたときに、(n−n)/(n−n)で定義されるNz係数が1.2〜3の範囲である光学フィルムを製造する方法であって、
前記保温工程の温度Tcは、前記縦延伸工程の温度Tms以上でかつ温度Tmsの+15℃以下の温度であり、
前記横延伸処理工程の温度Ttsは、前記縦延伸工程の温度Tmsの−10℃以上でかつ+5℃以下の温度である、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記横延伸工程は、前記縦延伸フィルムをその長手方向に速度1〜50m/分で走行させながら行う、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、前記脂環族飽和炭化水素樹脂を0.1〜30重量%含有する請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記脂環族飽和炭化水素樹脂の軟化点が110℃〜145℃である請求項1〜3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリプロピレン系樹脂は、10重量%以下のエチレンユニットを含有するプロピレンとエチレンの共重合体からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ポリプロピレン系樹脂は、実質的にプロピレンの単独重合体からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−154238(P2011−154238A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16353(P2010−16353)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】