説明

光学フィルム用組成物、およびこれを用いた光学フィルム、偏光板、液晶表示装置

【課題】光学フィルムとして好ましいレターデーション値、具体的には、負のRthを発現し、さらに、ブリードアウトの発生を抑制した光学フィルム用組成物および光学フィルムを提供する。また、この光学フィルムを用いた偏光板、液晶表示装置を提供する。
【解決手段】セルロース化合物と、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体の少なくとも1種を含む光学フィルム用組成物である。
【化1】


は水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表す。Xは芳香環を表し、置換基として水酸基を少なくとも1つ有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学フィルム用組成物、およびこれを用いた光学フィルム、偏光板、液晶表示装置に係り、特に、好ましいレターデーション値を発現する光学フィルム用組成物、およびこれを用いた光学フィルム、偏光板、液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムはその透明性、強靭性および光学的等方性から、液晶表示装置向けの偏光板保護フィルムとして広く利用されている。近年、液晶表示装置の普及に伴い、表示性能や耐久性に対する要求がより高くなり、応答速度の向上や、表示画像に対して斜め方向から観察した場合のコントラストやカラーバランスといった視野角をより広範囲で補償することが課題となっている。これらの課題を解決すべく、VA(Vertical Alignment)方式、OCB(Optical Compensated Bend)方式、あるいはIPS(In−Plane Switching)方式の表示素子が開発され、それぞれの液晶方式に応じた、様々なレターデーション発現性を有する光学フィルム材料が要求されている。とりわけ、位相差フィルムは、面内のレターデーション(Re)および、厚み方向のレターデーション(Rth)の値を多様な液晶方式に応じて制御することが求められている。
【0003】
このような要求に対して、光学フィルム材料として従来から広く用いられているセルロースアセテートは、延伸倍率が上げにくいという特徴を有することから、レターデーションの発現範囲に限界があった。
【0004】
これらの課題を解決する手段として、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどの脂肪酸セルロースエステルセルロース混合アシレートを製膜して用いる光学フィルムが提案されている(特許文献1、2)。これらの脂肪酸セルロースはセルロースアセテートのレターデーション発現性を拡大する可能性を有する優れた素材である。また、物性および光学的性質が優れたセルロースアシレートとして、芳香族カルボン酸に特定の置換基を結合させたセルロースアシレートが提案されている(特許文献3)。また、Rthの発現範囲を拡大する方法として、セルロースエステルにアクリル系ポリマーを混合する手法が提案されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開2001−188128号公報
【特許文献2】特開2000−352620号公報
【特許文献3】特開2002−179701号公報
【特許文献4】特開2003−12859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載されている方法では、光学フィルムで制御できるRthの値は、例えばセルロースアセテートプロピオネートで、60〜300nmの範囲で限定されていた。したがって、多様化した液晶方式に応じた十分なレターデーションの発現には至っていなかった。また、特許文献3に記載されているセルロースアシレートにおいても、十分なレターデーションの発現には至っていなかった。また、特許文献4に記載されている方法では、発現範囲の下限を拡大することはできるが、負のRthの発現には、至っていなかった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、光学フィルムとして好ましいレターデーション値、具体的には、負のRthを発現し、さらに、ブリードアウトの発生を抑制した光学フィルム用組成物および光学フィルムを提供する。また、この光学フィルムを用いた偏光板、液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、セルロース化合物と、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体の少なくとも1種を含む光学フィルム用組成物を提供する。
【0008】
【化1】

は水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表す。Xは芳香環を表し、置換基として水酸基を少なくとも1つ有する。
【0009】
請求項1によれば、重合体のモノマーに芳香環を有しているため、厚み方向のレターデーション(Rth)の絶対値を上げることができる。また、主鎖に直接、芳香環が結合しているため、負のRthを発生させることができる。さらに、水酸基を有することにより、光学フィルムのブリードアウトの発生を抑制することができる。
【0010】
請求項2は、請求項1において、上記一般式(1)中のXが、置換基として少なくとも一つの水酸基を有する芳香族炭化水素環を表すことを特徴とする。
【0011】
請求項2によれば、上記一般式(1)中のXが、芳香族炭化水素であるため、Rthの絶対値をさらに向上させることができる。
【0012】
請求項3は、請求項1において、上記一般式(1)が、下記一般式(2)で表されることを特徴とする。
【0013】
【化2】

は水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表す。Rは置換基を表し、2つ以上ある場合は環構造を有していても良い。ただし1≦m+p≦5であり、Rが水酸基を有さない置換基である場合、m≠0である。
【0014】
請求項4は、請求項3において、上記一般式(2)で、p=0であることを特徴とする。
【0015】
請求項5は、請求項3において、上記一般式(2)で、1≦m≦3であることを特徴とする。
【0016】
請求項3から5によれば、主鎖に直接、ベンゼン環を有しているため、更に負のRthの絶対値を挙げることができる。また、ベンゼン環の置換基を水酸基のみとすることのより、水酸基のブリードアウトの発生を抑制する効果を効果的に発揮させることができる。
【0017】
請求項6は、請求項1から5において、重合体の重量平均分子量が500〜20000であることを特徴とする。
【0018】
請求項6によれば、重合体の重量平均分子量を上記範囲とすることにより、光学フィルムの材料として好適に用いることができる。
【0019】
請求項7は、上記目的を達成するために、請求項1から6いずれかに記載の光学フィルム用組成物から形成された光学フィルムである。
【0020】
請求項8は、上記目的を達成するために、延伸処理が施されている請求項7に記載の光学フィルムである。
【0021】
請求項9は、前記目的を達成するために、請求項7または8に記載の光学フィルムが偏光子の少なくとも片側に配置されている偏光板である。
【0022】
請求項10は、前記目的を達成するために、請求項9に記載の偏光板を少なくとも1層含有する液晶表示装置である。
【0023】
請求項7から10は、本発明の光学フィルム用組成物を用いた光学フィルム、偏光板および液晶表示装置である。本発明のセルロースフィルムは、延伸することにより負のRthを発現するし、さらに、ブリードアウトの発生を抑制することができるため、上記用途に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、光学フィルム用組成物に用いられる重合体の主鎖に直接、芳香環が結合しているため、負のRthを発現させることができる。また、Rthの調節も可能である。さらに、芳香環の置換基として水酸基を有することにより、ブリードアウトの発生を抑制することができる。したがって、光学用のフィルムとして好適に用いることができる光学フィルム用組成物、およびこれを用いた光学フィルム、偏光板、液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0026】
本発明の光学フィルム用組成物は、セルロース化合物と、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体の少なくとも一種を含んでなることが特徴である。
【0027】
【化3】

ここで、Rは水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表す。好ましくは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子またはCHである。
【0028】
Xは芳香環を表し、置換基として少なくとも1つは水酸基を有する。芳香環としては炭化水素環でもヘテロ環でもよいが、芳香族炭化水素環が好ましい。
【0029】
芳香族炭化水素環として好ましくは炭素数6〜30の単環または多環の芳香族炭化水素環(例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられる。)であり、より好ましくは炭素数6〜20の芳香族炭化水素環、さらに好ましくは炭素数6〜14の芳香族炭化水素環である。
【0030】
芳香族ヘテロ環として好ましくは酸素原子、窒素原子あるいは硫黄原子を含む芳香族ヘテロ環である。ヘテロ環の具体例としては、例えば、フラン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデンなどが挙げられる。
【0031】
Xは置換基として、少なくとも1つ水酸基を有している必要があり、1〜20個が好ましく、1〜10個がより好ましい。1〜5個がさらに好ましい。
【0032】
また、Xは、水酸基以外の置換基を有していてもよく、置換基としては具体的に以下の置換基が挙げられる。アルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばメチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチルなどが挙げられる。)、置換又は未置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜10、特に好ましくは炭素数0〜6であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜10であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜16、特に好ましくは炭素数0〜12であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、ピペリジル、モルホリノ、ベンゾオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリルなどが挙げられる。)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは、炭素数3〜24であり、例えば、トリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる)などが挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0033】
さらに、一般式(1)は、下記一般式(2)で表される重合体であることが好ましい。
【0034】
【化4】

は、上記記載のRと同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0035】
は置換基を表し、具体的には上記Xの置換基として記載の、種々置換基を挙げることが出来る。Rはさらに置換されていてもよく、置換基として水酸基を有することがより好ましい。また、互いに連結して環を形成してもよく、特に芳香環を形成していることが好ましい。
【0036】
mとpは1≦m+p≦5の関係にあり、Rが水酸基を有している場合、1≦m+p≦4の関係にあることが好ましい。Rが水酸基を有さない場合、m≠0かつ1≦m+p≦5であり、m≠0かつ1≦m+p≦4であることが好ましい。一般式(2)において、p=0かつ1≦m≦3であることがさらに好ましい。
【0037】
下記に上記重合体の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によって何ら限定されない。
【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

上記重合体の重量平均分子量は、溶解性やセルロースエステルとの相溶性を考慮し、500〜20000であるが、500〜15000であることが好ましく、500〜10000であることがより好ましい。
【0040】
上記重合体は、共重合体であってもよく、他の構成単位は特に制限されるものではない。上記重合体同士の共重合体でもよく、また、上記重合体に含まれない構成単位を含んでも良い。ただし、溶解性やセルロースエステルとの相溶性を考慮する必要がある。構成単位としては、例えば、スチレンやメチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートから導出される繰返し単位等が挙げられる。その際、共重合組成比は任意で構わないが、やはり溶解性やセルロースエステルとの相溶性、また、性能を考慮し、上記重合体構成単位を30〜99モル%含んでいることが好ましく、50〜99モル%含んでいることがより好ましい。好ましい分子量の範囲は上述した範囲と同様であることが好ましい。
【0041】
上記重合体の合成法は限定されない。繰返し単位の構造を有するモノマーを既知の方法(例えばラジカル重合、アニオン重合)で重合してもよく、また、繰返し単位構造を生成出来る前駆体ポリマーを合成した後、修飾反応や脱離反応などにより所望の構造を有する重合体を得る方法でもよい。
【0042】
本発明の光学フィルム用組成物は、セルロースエステルに対し、上記重合体を2〜40質量%添加した組成物であることが好ましく、2〜30質量%添加した組成物がより好ましい。2〜20質量%がさらに好ましい。
【0043】
一般式(1)で表される重合体は、光学フィルム用のレターデーション制御剤としての役割を果たす。特に負のRthを発現するフィルムを得るためのレターデーション制御剤として好適な役割を果たす。
【0044】
[セルロース化合物]
本発明において、「セルロース化合物」とは、例えば、セルロースを基本構造とする化合物であって、セルロースを原料として生物的あるいは化学的に官能基を導入して得られるセルロース骨格を有する化合物を含むものをいう。セルロース化合物として好ましいものはセルロースエステルであり、より好ましくはセルロースアシレート(セルローストリアシレート、セルロースアシレートプロピオネート等)である。また、本発明においては異なる2種類以上のセルロース化合物を混合して用いてもよい。
【0045】
本発明に用いられるセルロース化合物に関して詳細に説明する。本発明に用いられるセルロース化合物は、好ましくはセルロースアシレートである。以下、セルロースアシレートを例にして、本発明の好ましい態様を説明する。
【0046】
[セルロースアシレート原料綿]
本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明の光学フィルム用組成物に対しては特に限定されるものではない。
【0047】
前記の特定のセルロースアシレートは、セルロースの水酸基をアセチル基及び炭素原子数が3以上のアシル基で置換して得られたセルロースの混合脂肪酸エステルであって、セルロースの水酸基への置換度が下記数式(3)及び数式(4)を満足するセルロースアシレートであることが好ましい。
【0048】
数式(3):2.0≦A+B≦3.0
数式(4):0<B
上記式中Aは、セルロースの水酸基に置換されているアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に置換されている炭素原子数3以上のアシル基の置換度を表す。
【0049】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部又は全部を、アシル基によってエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
【0050】
[セルロースアシレートの重合度]
本発明におけるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であることが好ましく、セルロースアシレートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400がさらに好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度を700以下とすることにより、セルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなり過ぎず、流延によるフィルム製造が容易になる傾向にある。また、重合度を180以上とすることにより、作製したフィルムの強度がより向上する傾向にあり好ましい。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫著、「繊維学会誌」、第18巻、第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。具体的には、特開平9−95538号公報に記載の方法に従って測定することができる。
【0051】
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.0であることがより好ましく、1.0〜1.6であることがさらに好ましい。
【0052】
低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低くなるため有用である。低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。なお、低分子成分の少ないセルロースアシレートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量部に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。本発明で用いるセルロースアシレートの製造時に使用される際には、セルロースアシレートの含水率は2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましい。通常のセルロースアシレートは、2.5〜5質量%の割合で含水していることが知られている。このような場合、上記本発明において好ましい含水率にするため、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥方法は目的とする含水率とすることができる方法であれば特に限定されない。
【0053】
また、本発明におけるセルロースアシレートの原料綿や合成方法としては、例えば、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、7頁〜12頁、2001年3月15日発行、発明協会)に記載のものを好ましく採用できる。
【0054】
[添加剤]
本発明の光学フィルム用組成物には、種々の添加剤(例えば、紫外線吸収剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤等)を加えることができる。添加剤の添加時期はドープ作製工程の何れにおいて添加してもよく、また、ドープ調製工程の最後に調製工程としてこれらの添加剤を添加してもよい。
【0055】
これらの添加剤は、固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば、20℃以下の紫外線吸収剤と20℃以上の紫外線吸収剤を混合して用いたり、同様に可塑剤を混合して用いたりすることができる。具体的には、特開2001−151901号公報に記載の方法を採用できる。
【0056】
[紫外線吸収剤]
紫外線吸収剤としては、目的に応じ任意の種類のものを選択することができ、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、シアノアクリレート系、ニッケル錯塩系等の吸収剤を用いることができ、好ましくはベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系である。
【0057】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−アセトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジ−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジ−ヒドロキシ−4,4’−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシ)プロポキシベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0058】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等を挙げることができる。
【0059】
サリチル酸エステル系としては、フェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、p−tert−ブチルフェニルサリシレート等を挙げることができる。
【0060】
これら例示した紫外線吸収剤の中でも、特に2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジ−ヒドロキシ−4,4’−メトキシベンゾフェノン、2(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールが特に好ましい。
【0061】
紫外線吸収剤は、吸収波長の異なる複数の吸収剤を複合して用いることが、広い波長範囲で高い遮断効果を得ることができるので好ましい。液晶用紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、且つ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。特に好ましい紫外線吸収剤は、上述のベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物、サリチル酸エステル系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースエステルに対する不用な着色が少ないことから、好ましい。
【0062】
また、紫外線吸収剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載の化合物も用いることができる。
【0063】
紫外線吸収剤の添加量は、セルロースアシレートに対し0.001〜5質量%が好ましく、0.01〜1質量%がより好ましい。添加量が0.001質量%以上であれば添加効果が十分に発揮されうるので好ましく、添加量が5質量%以下であればフィルム表面への紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制できるので好ましい。
【0064】
また紫外線吸収剤は、セルロースアシレート溶解時に同時に添加してもよいし、溶解後のドープに添加してもよい。特にスタティックミキサ等を用い、流延直前にドープに紫外線吸収剤溶液を添加する形態が、分光吸収特性を容易に調整することができるので好ましい。
【0065】
[劣化防止剤]
前記劣化防止剤は、セルローストリアセテート等が劣化、分解するのを防止するために添加してもよい。劣化防止剤としては、ブチルアミン、ヒンダードアミン化合物(特開平8−325537号公報)、グアニジン化合物(特開平5−271471号公報)、ベンゾトリアゾール系UV吸収剤(特開平6−235819号公報)、ベンゾフェノン系UV吸収剤(特開平6−118233号公報)などの化合物を用いることができる。
【0066】
[可塑剤]
可塑剤としては、リン酸エステルおよび/またはカルボン酸エステルであることが好ましい。リン酸エステル系可塑剤としては、例えばトリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が好ましい。また、カルボン酸エステル系可塑剤としては、例えばジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)、ジエチルヘキシルフタレート(DEHP)、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等が好ましい。さらに、前記可塑剤が、(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、グリセロールエステル類、ジグリセロールエステル類であることが好ましい。
【0067】
[剥離促進剤]
剥離促進剤としては、クエン酸のエチルエステル類が好ましい例として挙げることができる。
【0068】
[赤外吸収剤]
赤外吸収剤としては、例えば特開2001−194522号公報に記載のものが好ましく用いられる。
【0069】
[染料]
本発明では、色相調整のための染料を添加してもよい。染料の含有量は、セルロースアシレートに対する質量割合で10〜1000ppmが好ましく、50〜500ppmがさらに好ましい。この様に染料を含有させることにより、セルロースアシレートフィルムのライトパイピングが減少でき、黄色味を改良することができる。これらの化合物は、セルロースアシレート溶液の調製の際に、セルロースアシレートや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。またインライン添加する紫外線吸収剤液に添加してもよい。染料としては、特開平5−34858号公報に記載の染料を用いることができる。
【0070】
[マット剤微粒子]
本発明の光学フィルム用組成物には、マット剤として微粒子を加えてもよい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は、ケイ素を含むものが、濁度が低くなる点でより好ましく、特に二酸化ケイ素が好ましい。二酸化ケイ素の微粒子は、1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0071】
これらの微粒子は、通常平均粒子サイズが0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子サイズは0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。1次/2次粒子サイズはフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子サイズとした。
【0072】
二酸化ケイ素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、いずれも商品名、日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上、いずれも商品名、日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0073】
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが、1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化ケイ素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0074】
本発明において2次平均粒子サイズの小さな粒子を有するセルロースアシレートフィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作製し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化ケイ素微粒子の分散性がよく、二酸化ケイ素微粒子が更に再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行い、これを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化ケイ素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化ケイ素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましく、15〜20質量%がさらに好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1mあたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gが更に好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
【0075】
使用される溶剤は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0076】
[添加剤の比率]
本発明のセルロースアシレートフィルムにおいては、分子量が3000以下の化合物の総量は、セルロースアシレート重量に対して5〜45質量%であることが好ましい。より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは15〜30質量%である。これらの化合物としては上述したように、光学異方性を低下する化合物、波長分散調整剤、紫外線吸収剤、可塑剤、劣化防止剤、マット微粒子、剥離促進剤、赤外吸収剤、染料などが挙げられる。さらに、分子量が2000以下の化合物の総量が上記範囲内であることがより好ましい。これら化合物の総量を5質量%以上とすることにより、セルロースアシレート単体の性質が出にくくなり、例えば、温度や湿度の変化に対して光学性能や物理的強度が変動しにくくなる。またこれら化合物の総量を45質量%以下とすることにより、セルロースアシレートフィルム中に化合物が相溶する限界を超え、化合物がフィルム表面に析出して、フィルムが白濁(フィルムからの泣き出し)することを抑制する傾向にあり好ましい。
【0077】
[セルロースアシレート溶液(光学フィルム用組成物溶液)の有機溶媒]
本発明では、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造することが好ましく、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いて製造することが好ましい。本発明の主溶媒として好ましく用いられる有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、および炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0078】
以上、本発明の光学フィルム用組成物に対しては塩素系のハロゲン化炭化水素、例えばメチレンクロライドなどを主溶媒としてもよく、例えば公開技法(公開技報2001−1745、12頁〜16頁、2001年発行、発明協会)に記載されているように、非塩素系溶媒を主溶媒としてもよい。
【0079】
その他、本発明の光学フィルム用組成物溶液についての溶媒は、その溶解方法も含め以下の特許文献に開示されているものを、好ましい態様としてあげることができる。
【0080】
特開2000−95876号、特開平12−95877号、特開平10−324774号、特開平8−152514号、特開平10−330538号、特開平9−95538号、特開平9−95557号、特開平10−235664号、特開平12−63534号、特開平11−21379号、特開平10−182853号、特開平10−278056号、特開平10−279702号、特開平10−323853号、特開平10−237186号、特開平11−60807号、特開平11−152342号、特開平11−292988号、特開平11−60752号、特開平11−60752号の各公報
これらの特許文献によると本発明のセルロースアシレートに好ましい溶媒だけでなく、その溶液物性や共存させる共存物質についても記載があり、それらも、本発明においても好ましい態様である。
【0081】
[セルロースアシレートフィルムの製造工程]
次にセルロースアシレートフィルムの製造工程について説明する。
【0082】
(溶解工程)
本発明のセルロースアシレート溶液(ドープ)の調製は、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよく、冷却溶解法または高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施することができる。本発明におけるセルロースアシレート溶液の調製、さらには溶解工程に伴う溶液濃縮、ろ過の各工程に関しては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、22頁〜25頁、2001年3月15日発行、発明協会)にて詳細に記載されている製造工程が好ましく用いられる。
【0083】
本発明におけるセルロースアシレート溶液のドープ透明度としては85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。本発明においてはセルロースアシレート溶液に各種の添加剤が十分に溶解していることを確認し、次工程に用いる。具体的なドープ透明度の算出方法としては、ドープ溶液を1cm角のガラスセルに注入し、分光光度計(UV−3150、商品名、島津製作所)で550nmの吸光度を測定する。溶媒のみをあらかじめブランクとして測定しておき、ブランクの吸光度との比からセルロースアシレート溶液の透明度を算出する。
【0084】
(流延、乾燥、巻き取り工程)
次に、セルロースアシレート溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する方法及び設備は、従来のセルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置を広く採用することができる。溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば、回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送る。ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延し、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて得られたフィルムを乾燥装置のロール群で機械的に搬送し乾燥を終了して巻き取り機でロール状に所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせは、その目的により変更することが可能である。セルロースアシレートフィルムの主な用途である、電子ディスプレイ用の光学部材である機能性保護膜やハロゲン化銀写真感光材料に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。これらについては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、25頁〜30頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、流延(共流延を含む)、金属支持体、乾燥、剥離などに分類され、本発明において好ましく用いることができる。
【0085】
[延伸処理]
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムは、延伸処理によりレターデーション値を調整することができる。特に、セルロースアシレートフィルムの面内レターデーション値を高い値とする場合には、積極的に幅方向に延伸する方法、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、及び特開平11−48271号の各公報などに記載されている、製造したフィルムを延伸する方法を用いることができる。
【0086】
フィルムの延伸は、常温又は加熱条件下で実施する。加熱温度は、フィルムのガラス転移温度以下であることが好ましい。フィルムの延伸は、縦又は横だけの一軸延伸でもよく、同時又は逐次2軸延伸でもよい。フィルムは、1〜200%の延伸を行うことが好ましく、1〜100%の延伸を行うことがより好ましく、1〜50%の延伸を行うことがさらに好ましい。
【0087】
偏光板を斜めから見たときの光漏れを抑制するためには、偏光膜の透過軸とセルロースアシレートフィルムの面内の遅相軸を平行に配置する必要がある。連続的に製造されるロールフィルム状の偏光膜の透過軸は、一般的に、ロールフィルムの幅方向に平行である。したがって、前記ロールフィルム状の偏光膜とロールフィルム状のセルロースアシレートフィルムからなる保護膜を連続的に貼り合せるためには、ロールフィルム状の保護膜の面内遅相軸は、フィルムの幅方向に平行であることが必要となる。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。また延伸処理は、製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。前者の場合には残留溶媒を含んだ状態で延伸を行ってもよく、残留溶媒量が2〜30質量%で好ましく延伸することができる。
【0088】
乾燥後得られる、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムの厚さは、使用目的によって異なり、5〜500μmの範囲であることが好ましく、20〜300μmの範囲であることがより好ましく、30〜150μmの範囲であることがさらに好ましい。また、特にVA液晶表示装置用としては、40〜110μmであることが好ましい。フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節することにより行うことができる。
【0089】
以上のようにして得られた、セルロースアシレートフィルムの幅は0.5〜3mが好ましく、より好ましくは0.6〜2.5m、さらに好ましくは0.8〜2.2mである。長さは、1ロール当たり100〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0090】
セルロースアシレートフィルムの幅方向のRe(550)値のばらつきは、±5nmであることが好ましく、±3nmであることが更に好ましい。また幅方向のRth(550)値のバラツキは±10nmが好ましく、±5nmであることが更に好ましい。また、長さ方向のRe値、及びRth値のバラツキも、幅方向のバラツキの範囲内であることが好ましい。
【0091】
[セルロースアシレートフィルムの光学特性]
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は、それぞれ波長λにおける面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)は“KOBRA 21ADH”(王子計測機器(株)製)において、波長λnmの光をフィルムの法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は、前記Re(λ)、面内の遅相軸(“KOBRA 21ADH”により判断される)を傾斜軸(回転軸)として、フィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、及び面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)として、フィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の、合計3つの方向で測定したレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に“KOBRA 21ADH”が算出する。
【0092】
ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、“KOBRA 21ADH”はnx、ny、nzを算出する。
【0093】
[セルロースアシレートフィルムの透湿度]
本発明の光学フィルムに用いるセルロースアシレートフィルムの透湿度は、JIS規格JISZ0208をもとに、温度60℃、湿度95%RH(相対湿度)の条件において測定し、膜厚80μmに換算して400〜2000g/m・24hであることが好ましい。500〜1800g/m・24hであることがより好ましく、600〜1600g/m・24hであることが特に好ましい。2000g/m・24h以下とすることにより、光学フィルムのRe値、Rth値の湿度依存性の絶対値が0.5nm/%RHを超えにくくなり、好ましい。また、本発明のセルロースアシレートフィルムに光学異方性層を積層して光学フィルムとした場合も、Re値、Rth値の湿度依存性の絶対値が0.5nm/%RHを超えにくくなり、好ましい。上記範囲外の光学フィルムや偏光板が液晶表示装置に組み込まれた場合、色味の変化や視野角の低下を引き起こすため、好ましくない。また、セルロースアシレートフィルムの透湿度を400g/m・24h以上とすることにより、偏光膜の両面などに貼り付けて偏光板を作製する場合に、接着剤が乾燥しにくくなり、接着不良を生じにくくできる。
【0094】
セルロースアシレートフィルムの膜厚が厚ければ透湿度は小さくなり、膜厚が薄ければ透湿度は大きくなる傾向にある。そこで、本発明における透湿度は、膜厚を80μmに換算した値として述べている。膜厚の換算は、(80μm換算の透湿度=実測の透湿度×実測の膜厚μm/80μm)として求める。
【0095】
透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4,共立出版)の285頁〜294頁:蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)に記載の方法を適用することができ、本発明のセルロースアシレートフィルム試料70mmφを25℃、90%RH及び60℃、95%RHでそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置(KK−709007、商品名、東洋精機(株))にて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量を算出(g/m2)し、透湿度=調湿後重量−調湿前重量で求める。
【0096】
[セルロースアシレートフィルムの残留溶剤量]
本発明では、セルロースアシレートフィルムに対する残留溶剤量が、0.01〜1.5質量%の範囲となる条件で乾燥することが好ましい。より好ましくは0.01〜1.0質量%である。本発明のセルロースアシレートフィルムを支持体に用いる場合、残留溶剤量を該範囲内とすることでカールをより抑制できる。これは、前述のソルベントキャスト方法による成膜時の残留溶剤量を少なくすることで、自由体積が小さくなることが主要な効果要因であると思われる。
【0097】
[セルロースアシレートフィルムの吸湿膨張係数]
本発明では、セルロースアシレートフィルムの吸湿膨張係数は30×10−5/%RH以下とすることが好ましく、15×10−5/%RH以下とすることがより好ましく、10×10−5/%RH以下であることがさらに好ましい。また、下限値は特に定めるものではなく、吸湿膨張係数は小さい方が好ましい傾向にあるが、より好ましくは、1.0×10−5/%RH以上の値である。吸湿膨張係数は、一定温度下において相対湿度を変化させた時の試料の長さの変化量を示す。この吸湿膨張係数を調節することで、本発明のセルロースアシレートフィルムを光学フィルム支持体として用いた際、光学フィルムの光学補償機能を維持したまま、額縁状の透過率上昇すなわち歪みによる光漏れを防止することができる。
【0098】
[表面処理]
セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えば、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10−3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、また、大気圧下でのプラズマ処理でもよい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、30頁〜32頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0099】
[アルカリ鹸化処理]
アルカリ鹸化処理は、セルロースアシレートフィルムを鹸化液の槽に直接浸漬する方法、又は鹸化液をセルロースアシレートフィルムに塗布する方法により実施することが好ましい。塗布方法としては、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法及びE型塗布法を挙げることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液をセルロースアシレートフィルムに塗布するために、濡れ性がよく、また鹸化液溶媒によってセルロースアシレートフィルム表面に凹凸が形成されず、面状を良好に保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒〜5分が好ましく、5秒〜5分がさらに好ましく、20秒〜3分が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗、あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。
【0100】
[機能層]
本発明の光学フィルム用組成物から形成されたセルロースフィルムは、その用途として光学用途に適用される。特に光学用途が液晶表示装置であることが好ましく、液晶表示装置が、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学フィルムを配置した構成であることがさらに好ましい。これらの液晶表示装置としては、TN、IPS、FLC、AFLC、OCB、STN、ECB、VAおよびHANが好ましい。
【0101】
前述の光学用途に本発明のセルロースフィルムを用いるに際し、各種の機能層を付与することが実施される。それらは、例えば、帯電防止層、硬化樹脂層(透明ハードコート層)、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層、配向層、液晶層などである。本発明のセルロースフィルムを用いることができるこれらの機能層及びその材料としては、界面活性剤、滑り剤、マット剤、帯電防止層、ハードコート層などが挙げられ、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、32頁〜45頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0102】
[用途(偏光板)]
本発明の光学フィルム用組成物から形成されたセルロースフィルムの用途について説明する。本発明の光学フィルム用組成物から形成されたセルロースフィルムは特に偏光板保護膜用として有用である。偏光板保護膜として用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロースフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。
【0103】
保護膜処理面と偏光膜を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
【0104】
偏光板は偏光膜及びその両面を保護する保護膜で構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成してもよい。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
【0105】
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明のセルロースフィルムを適用した偏光板保護膜はどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護膜には透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護膜をこの部分に用いることが得に好ましい。
【0106】
[用途(光学フィルム)]
また、本発明のセルロースフィルムは、液晶表示装置の光学フィルムとして、特に効果的に用いることができる。なお、光学フィルムとは、一般に液晶表示装置に用いられる光学材料のことを指し、位相差板、光学補償シートなどを含む。光学フィルムは液晶表示装置の表示画面の着色を取り除いたり、視野角特性を改善したりする目的で用いられる。
【0107】
(一般的な液晶表示装置の構成)
セルロースフィルムを光学フィルムとして用いる際、偏光膜の透過軸と、セルロースフィルムからなる光学フィルムの遅相軸とをどのような角度で配置しても構わない。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光膜、および該液晶セルと該偏光膜との間に少なくとも一枚の光学フィルムを配置した構成を有している。
【0108】
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層(下塗り層)を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、好ましくは50μm〜2mmの厚さを有する。
【0109】
(液晶表示装置の種類)
本発明のセルロースフィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。具体的には、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)、およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)等の表示モードが挙げられる。また、上記表示モードを配向分割した表示モードにおいても用いることができる。また、本発明のセルロースフィルムは、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても好ましく用いることができる。
【0110】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明のセルロースフィルムは、また、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムに好ましく用いることができる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、54頁〜57頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、本発明のセルロースフィルムを好ましく用いることができる。
【0111】
(写真フィルム支持体)
さらに、本発明のセルロースフィルムは、ハロゲン化銀写真感光材料の支持体としても適用できる。具体的には、特開2000−105445号公報にカラーネガティブに関する記載に従って、本発明のセルロースフィルムが好ましく用いられる。またカラー反転ハロゲン化銀写真感光材料の支持体としての適用も好ましく、特開平11−282119号公報に記載されている各種の素材や処方さらには処理方法に従って、作製することができる。
【0112】
(透明基板)
本発明のセルロースフィルムは、光学的異方性がゼロに近く、優れた透明性を持たせることもできることから、液晶表示装置の液晶セルガラス基板の代替、すなわち駆動液晶を封入する透明基板としても用いることができる。
【0113】
液晶を封入する透明基板はガスバリアー性に優れる必要があることから、必要に応じて本発明のセルロースフィルムの表面にガスバリアー層を設けてもよい。ガスバリアー層の形態や材質は特に限定されないが、本発明のセルロースフィルムの少なくとも片面にSiO2等を蒸着したり、塩化ビニリデン系ポリマーやビニルアルコール系ポリマーなど相対的にガスバリアー性の高いポリマーのコート層を設ける方法が考えられ、これらを適宜使用できる。
【0114】
また液晶を封入する透明基板として用いるために、電圧印加によって液晶を駆動するための透明電極を設けてもよい。透明電極としては特に限定されないが、本発明のセルロースフィルムの少なくとも片面に、金属膜、金属酸化物膜などを積層することによって透明電極を設けることができる。中でも透明性、導電性、機械的特性の点から、金属酸化物膜が好ましく、なかでも酸化スズを主として酸化亜鉛を2〜15%含む酸化インジウムの薄膜が好ましく使用できる。これら技術の詳細は例えば、特開2001−125079号公報や特開2000−227603号公報に記載の方法を用いることができる。
【0115】
本発明の光学フィルムのRe値とRth値をそれぞれ好ましい範囲に制御するためには、使用する一般式(1)で表される重合体(レターデーション制御剤)の種類および量、ならびにフィルムの延伸倍率を適宜調整することが好ましい。特に、本発明では、一般式(1)で表される重合体の中から、所望のRth値を達成し得るレターデーション制御剤を選択し、かつ、所望のRe値が得られるように、該レターデーション制御剤の添加量およびフィルムの延伸倍率を適宜設定することにより、所望のRe値およびRth値を有する光学フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0116】
(光学用フィルム用組成物の調整)
下記セルロースアセテート溶液組成の各成分をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、組成物1〜9を調製した。なお、下記重合体の番号は、「発明を実施するための最良の形態」に記載した化学式の番号を示す。
【0117】
<実施例1:組成物1>
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
P1(重量平均分子量;2740) 5質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
<実施例2:組成物2>
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
P1(重量平均分子量;2740) 10質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
<実施例3:組成物3>
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
P1(重量平均分子量;2740) 15質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
<実施例4:組成物4>
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
P1(重量平均分子量;5670) 3質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
<実施例5:組成物5>
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
P2(重量平均分子量;2550) 10質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
<実施例6:組成物6>
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
P6(重量平均分子量;7890) 10質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
<比較例1:組成物7>
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
<比較例2:組成物8>
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
特許文献4の実施例に記載のポリマー1 15質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
<比較例3:組成物9>
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
スチレンオリゴマー(重量平均分子量;1050) 3質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
<比較例4:組成物10>
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
比較重合体(1)(重量平均分子量;1560) 5質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
【0118】
【化7】

(光学フィルムの作製)
上記で調整した組成物1から10の光学フィルム用組成物を、バンド流延機を用いて流延した。溶媒含有率70質量%の状態で剥ぎ取り、フィルムの巾方向の両端をピンテンター(特開平4−1009号の図3に記載のピンテンター)で固定し、溶媒含有率が3〜5質量%の状態で、横方向(機械方向に垂直な方向)の延伸率が3%となる間隔を保ちつつ乾燥した。その後、熱処理装置のロール間を搬送することにより、さらに乾燥し、厚み80μmの実施例1から6および比較例1から3の光学フィルムを作製した。
【0119】
作製した光学フィルムについて、波長550nmにおけるRth値を上述の方法により算出した。結果を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
表1から分かるように、上記一般式(1)に記載の重合体を含まない比較例1は、正のRthを示しているのに対して、本発明の光学フィルム用組成物からなるフィルムは、負のRthを示していた。また上記一般式(1)に記載の重合体に該当しない別種のポリマー(芳香環を有さないポリマー)を含む比較例2は、Rthを低下させる効果はあるものの、その効果は小さかった。また、OH基を有さないスチレンオリゴマーを用いた比較例3は、ブリードアウトの発生がみられ、フィルムが白濁し光学フィルム用途には不適であった。芳香環が主鎖に直結していない重合体を含む比較例4では、Rthが若干上昇しており、本発明の重合体の構造がRthを低減させるのに極めて効果的であることが分かる。
【0122】
なお、ブリードアウトとは、フィルム表面に添加剤等が粉化して析出してくる現象を言う。本発明の光学フィルム用組成物から形成された実施例1から6の光学フィルムは、いずれも無色透明であり、ブリードアウトの発生やフィルムの白化は観察されず、光学フィルム用途に好適であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース化合物と、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体の少なくとも1種を含む光学フィルム用組成物。
【化1】

は水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表す。Xは芳香環を表し、置換基として水酸基を少なくとも1つ有する。
【請求項2】
上記一般式(1)中のXが、置換基として少なくとも一つの水酸基を有する芳香族炭化水素環を表す、請求項1に記載の光学フィルム用組成物。
【請求項3】
上記一般式(1)が、下記一般式(2)で表される、請求項1に記載の光学フィルム用組成物。
【化2】

は水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表す。Rは置換基を表し、2つ以上ある場合は環構造を有していても良い。ただし1≦m+p≦5であり、Rが水酸基を有さない置換基である場合、m≠0である。
【請求項4】
上記一般式(2)で、p=0である請求項3に記載の光学フィルム用組成物。
【請求項5】
上記一般式(2)で、1≦m≦3である請求項3に記載の光学フィルム用組成物。
【請求項6】
前記重合体の重量平均分子量が500〜20000である請求項1から5いずれかに記載の光学フィルム用組成物。
【請求項7】
請求項1から6いずれかに記載の光学フィルム用組成物から形成された光学フィルム。
【請求項8】
延伸処理が施されている請求項7に記載の光学フィルム。
【請求項9】
請求項7または8に記載の光学フィルムが偏光子の少なくとも片側に配置されている偏光板。
【請求項10】
請求項9に記載の偏光板を少なくとも1層含有する液晶表示装置。

【公開番号】特開2008−255166(P2008−255166A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96617(P2007−96617)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】