説明

光学モジュール

【課題】フェルールと球状レンズの位置調整を不要とし、簡単な組立でコリメート光学系を実現できる光学モジュールを提供する。
【解決手段】光学モジュール1は、光ファイバ4を実装し光ファイバ4の光軸に対して端面が斜めに研磨されたフェルール3と、屈折率が1.56より大きく2.0より小さい球状レンズ2とを有する。フェルール3の端面と球状レンズ2とを接触させたときに、球状レンズ2の焦点距離fと、球状レンズ2の中心から光ファイバ4の端面までの距離bとが一致する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信に用いられる光学モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信の進展に伴って、様々な光機能部品を光伝送路中に挿入することが行われているが、このような光機能部品の中には、例えば、光アイソレータのように、入出力端に光ファイバを取り付ける構造となる部品がある。このような光機能部品を含む光伝送系では、光ファイバから光が出射されるときの出射面での反射による反射光成分が光ファイバに逆進するのを防止するために、光ファイバの出射端面を斜めにする、すなわち、出射端面の法線方向と光ファイバの光軸方向とが所定の角度をなすように出射端面を斜めに形成することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、円筒状スリーブの一端側に球レンズを固定すると共に、他端側から端面が斜めに研磨されたフェルールを挿入し、これら球レンズとフェルールとの間で位置調整を行った後に固定することで、光ファイバの出射光を平行光に変換する光部品が記載されている。また、特許文献2には、円柱状レンズ、フェルール、及びこれらの部品を収容するスリーブを高精度に加工することで、光ファイバの出射光を平行光に変換するようにした光部品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2551877号明細書
【特許文献2】特開2003−107276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、平行光を得るために、フェルール(光ファイバ)と球レンズとの位置調整(距離の調整)を行う必要がある。この位置調整をなくすためには各部品の精度を上げる必要がある。また、上記特許文献2では、精密スリーブに、光ファイバの実装されたフェルールと、球状レンズとを高精度に実装し、無調芯で組み立てるようにしているが、フェルール及び球状レンズの外径と、精密スリーブの内径とが誤差なく製造されていることが前提となるため、かなりの精度が要求され、現実的には実現が困難である。
【0006】
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、フェルールと球状レンズの位置調整を不要とし、簡単な組立でコリメート光学系を実現できる光学モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による光学モジュールは、光ファイバの出射光をコリメートする光学モジュールであって、光ファイバを実装し光ファイバの光軸に対して端面が斜めに研磨されたフェルールと、屈折率が1.56より大きく2.0より小さい球状レンズとを有し、フェルールの端面と球状レンズとを接触させたときに、球状レンズの焦点距離と、球状レンズの中心から光ファイバの端面までの距離とが一致する。
また、球状レンズの屈折率をn、フェルールの端面の傾斜角をθとすると、
cosθ=2×(1−1/n)
の関係を満たすように、球状レンズの屈折率n、フェルールの端面の傾斜角θが決定されている。
【0008】
また、フェルールと球状レンズの外径が等しく、フェルール及び球状レンズは、同一の割スリーブに実装されている。また、フェルールと球状レンズの外径が等しく、フェルール及び球状レンズは、その外径より大きい内径を有する同一の精密スリーブに実装されている。
【0009】
また、フェルールよりも球状レンズの外径が大きく、フェルール及び球状レンズは、フェルールの外径よりも大きく且つ球状レンズの外径よりも小さい内径を有する同一の精密スリーブに実装されている。また、精密スリーブは、球状レンズと接触する内径部を有し、内径部には、球状レンズとの接点から外側に向かって広がるテーパ部が形成されている。
【0010】
また、球状レンズがスリーブに固定され、フェルールが弾性体により球状レンズ側に押し当てられている。また、フェルールがスリーブに固定され、球状レンズが弾性体によりフェルール側に押し当てられている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フェルール端面と球状レンズとを接触させたときに、球状レンズの焦点距離と、球状レンズ中心から光ファイバ端面までの距離とが一致するため、フェルールと球状レンズの位置調整を不要とし、簡単な組立でコリメート光学系を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による光学モジュールの一例を示す図である。
【図2】フェルールの端面傾斜角θと球状レンズの屈折率nとの関係を示す図である。
【図3】本発明による光学モジュールにおいて軸調整を不要とする構造例を示す図である。
【図4】本発明による光学モジュールにおいて軸調整を不要とする他の構造例を示す図である。
【図5】図4の光学モジュールの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の光学モジュールに係る好適な実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明による光学モジュールの一例を示す図で、図中、1は光学モジュールを示す。光学モジュール1は、光ファイバ4を実装し光ファイバ4の光軸に対して端面が斜めに研磨されたフェルール3と、屈折率が1.56より大きく2.0より小さい球状レンズ2とを有している。そして、フェルール3の端面と球状レンズ2とを接触させたときに、球状レンズ2の焦点距離fと、球状レンズ2の中心から光ファイバ4の端面までの距離bとが一致するように構成されている。なお、図中、Oは球状レンズ2の中心を示し、Cは球状レンズ2の中心Oを通る中心軸を示し、光ファイバ4の光軸と一致する。
球状レンズ主面は、Oを通り、Cに垂直な面となる。
【0015】
図1において、球状レンズ2の屈折率をn(1.56<n<2.0)、外径(直径)をr(mm)とすると、球状レンズ2の焦点距離f(mm)は、以下の式で算出される。
f=n×(r/4)/(n−1) …式(1)
また、フェルール3の端面の傾斜角をθ(以下、θを端面傾斜角という)とすると、球状レンズ2の中心から光ファイバ4の端面までの距離b(mm)は、以下の式で算出される。
b=(r/2)/cosθ …式(2)
【0016】
そして、球状レンズ2の焦点距離fと、光ファイバ4の端面と球状レンズ2の中心間の距離bとが一致する、すなわち、上記式(1)及び(2)において、f=bの関係を満たすとき、以下の関係式が成立する。
cosθ=2×(1−1/n) …式(3)
但し、1.56<n<2.0
【0017】
この式(3)より、フェルール3の端面傾斜角θは、球状レンズ2の外径rによらず、球状レンズ2の屈折率nによって決定できることがわかる。なお、球状レンズ2とフェルール3の外径は等しいものとする。フェルール3の端面傾斜角θと球状レンズ2の屈折率nとの関係を図2に示す。図2において、球状レンズ2の屈折率nを1.56とした場合、端面傾斜角θは43.6°となる。一方、ファイバコア屈折率は1.45であり、この際、端面傾斜角θが43.6°以上(つまり、屈折率nが1.56以下)になると、全反射となり、実現不可能となるため、球状レンズ2の屈折率nは1.56より大きくする。
【0018】
また、球状レンズ2の屈折率nを2.0とした場合、端面傾斜角θは0°となる。また、屈折率nを2.0以上にすると、球状レンズ2のレンズ焦点がレンズ内に位置することになり、やはり実現不可能となるため、球状レンズ2の屈折率nは2.0より小さくする。これより、球状レンズ2の屈折率nの範囲を、1.56より大きく2.0より小さくし、この範囲で屈折率n及び端面傾斜角θを決定すればよい。すなわち、球状レンズ2の屈折率nを1.56より大きく2.0より小さい範囲で決定すれば、上記式(3)により、フェルール3の端面傾斜角θが決定される。
【0019】
ここで、球状レンズを用いたコリメート光学系では、フェルールの端面、すなわち、光ファイバの光出射端を球状レンズの焦点に一致させる必要がある。本発明の場合、フェルール3の端面は、反射光成分が光ファイバ4に逆進するのを防止するため、斜めに研磨されている。このため、フェルール3の端面と球状レンズ2とは、球状レンズ2の中心軸Cから少しずれた位置で接触し、光ファイバ4から出射された光は一旦空気中を通り、球状レンズ2に入射される。そして、本発明では、フェルール3の端面と球状レンズ2とを接触させたときに、球状レンズ2の焦点距離fと、球状レンズ2の中心から光ファイバ4の端面までの距離bとが一致するように、球状レンズ2の屈折率n及びフェルール3の端面の傾斜角θが決定されている。このため、フェルール3の端面と球状レンズ2とを接触させるだけで、互いの位置調整を不要とし、コリメート光学系を実現することができる。
【0020】
すなわち、本発明によるコリメート光学系では、端面が斜めに研磨されたフェルール3と、屈折率nが1.56より大きく2.0より小さい球状レンズ2とを有し、フェルール3の端面に球状レンズ2を接触させる。この際、光ファイバ4の光出射端と、球状レンズ2との間に空隙が形成され、さらに、球状レンズ2の屈折率n(1.56<n<2.0)によりフェルール3の端面傾斜角θが適切に決定されているため、光ファイバ4の光出射端を球状レンズ2の焦点に一致させることができる。このため、フェルール3と球状レンズ2との位置調整を行うことなく、光ファイバ4からの出射光を球状レンズ2によって平行光に変換することができる。
【0021】
図3は、本発明による光学モジュールにおいて軸調整を不要とする構造例を示す図で、図中、5はスリーブを示す。このスリーブ5は、割スリーブ5aあるいは精密スリーブ5bで構成される。本例の場合、フェルール3と球状レンズ2の外径が略等しく、フェルール3及び球状レンズ2は、同一の割スリーブ5a、あるいは、フェルール3及び球状レンズ2の外径より大きい内径を有する同一の精密スリーブ5bに実装されている。
【0022】
通常、フェルール3と球状レンズ2の軸調整、すなわち、フェルール3に実装された光ファイバ4の光軸と球状レンズ2の中心軸Cとを一致させる軸調整を行う必要があるが、このように、割スリーブ5aあるいは精密スリーブ5bに、球状レンズ2及びフェルール3を挿入し、球状レンズ2をフェルール3の端面に接触させ、固定することで、軸調整を不要にすることができる。この際、球状レンズ2及びフェルール3の外径は、ある程度一致させておく必要がある。割スリーブ5aを用いた場合、スリーブ内径は球状レンズ2及びフェルール3のうちの外径の大きいほうで規定される。このため軸調整の精度は、球状レンズ2及びフェルール3の外径誤差で決まり、スリーブ内径の誤差は無視することができる。但し、割スリーブ5aを用いる場合、球状レンズ2、フェルール3の接着固定強度に問題が残る。
【0023】
これに対して、精密スリーブ5bを用いた場合、上記の接着固定強度の問題は解決できるが、軸調整の精度は、球状レンズ2及びフェルール3の外径誤差に加え、スリーブ内径の誤差の影響も受けることになる。このように、割スリーブ5a及び精密スリーブ5bでは、接着固定強度とスリーブ内径誤差とがトレードオフの関係にあるため、使用目的等に応じて、適宜使い分けるようにすればよい。
【0024】
ここで、球状レンズ2及びフェルール3をスリーブ5に固定した場合、固定強度劣化や、熱膨張のため、長期的に端面が離れてしまう可能性がある。これを回避するために、球状レンズ2のみをスリーブ5に固定し、フェルール3が弾性体(図示せず)により球状レンズ2側に押し当てられるようにすることが望ましい。あるいは、フェルール3のみをスリーブ5に固定し、球状レンズ2が弾性体によりフェルール3側に押し当てられるようにしてもよい。
【0025】
図4は、本発明による光学モジュールにおいて軸調整を不要とする他の構造例を示す図で、図中、6は球状レンズを示す。本例の場合、フェルール3よりも球状レンズ6の外径が大きく、フェルール3及び球状レンズ6は、フェルール3の外径よりも大きく且つ球状レンズ6の外径よりも小さい内径を有する同一の精密スリーブ5bに実装されている。
【0026】
このように、精密スリーブ5bの内径とフェルール3の外径は、フェルール3が精密スリーブ5bにガタツキなく挿入できる程度に、精度よく仕上げられており、球状レンズ6の外径は、精密スリーブ5bの内径よりも大きくなっている。球状レンズ6を精密スリーブ5bの端面に実装した場合、球状レンズ6の中心軸Cと精密スリーブ5bの軸とが完全に一致する。従って、球状レンズ6とフェルール3の軸調整精度(光ファイバ4の光軸調整精度)は、スリーブ内径とフェルール外径との誤差で決まり、球状レンズ6の外径誤差は無視することができる。
【0027】
図5は、図4の光学モジュールの変形例を示す図である。本例の場合も、図4の例と同様に、フェルール3よりも球状レンズ6の外径が大きく、フェルール3及び球状レンズ6は、フェルール3の外径よりも大きく且つ球状レンズ6の外径よりも小さい内径を有する同一の精密スリーブ5bに実装されるが、精密スリーブ5bの構造が図4の例とは異なる。本例の精密スリーブ5bは、球状レンズ6と接触する内径部50を有し、内径部50には、球状レンズ6との接点51から外側(外径方向)に向かって広がるテーパ部52が形成されている。このような加工を行うことで、テーパ部52と球状レンズ6との間に形成される隙間に接着樹脂を充填することができるため、接着固定強度をより強くすることができる。
【0028】
図4、図5の例の場合も同様に、球状レンズ6及びフェルール3を精密スリーブ5bに固定した場合、固定強度劣化や、熱膨張のため、長期的に端面が離れてしまう可能性がある。これを回避するために、球状レンズ6のみを精密スリーブ5bに固定し、フェルール3が弾性体(図示せず)により球状レンズ6側に押し当てられるようにすることが望ましい。あるいは、フェルール3のみを精密スリーブ5bに固定し、球状レンズ6が弾性体によりフェルール3側に押し当てられるようにしてもよい。
【0029】
このように本発明によれば、フェルール端面と球状レンズとを接触させたときに、球状レンズの焦点距離と、球状レンズ中心から光ファイバ端面までの距離とが一致するように構成されているため、フェルールと球状レンズの位置調整を不要とし、簡単な組立でコリメート光学系を実現することができる。
【符号の説明】
【0030】
1…光学モジュール、2,6…球状レンズ、3…フェルール、4…光ファイバ、5…スリーブ、5a…割スリーブ、5b…精密スリーブ、50…内径部、51…接点、52…テーパ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの出射光をコリメートする光学モジュールであって、
前記光ファイバを実装し該光ファイバの光軸に対して端面が斜めに研磨されたフェルールと、屈折率が1.56より大きく2.0より小さい球状レンズとを有し、前記フェルールの端面と前記球状レンズとを接触させたときに、前記球状レンズの焦点距離と、前記球状レンズの中心から前記光ファイバの端面までの距離とが一致することを特徴とする光学モジュール。
【請求項2】
前記球状レンズの屈折率をn、前記フェルールの端面の傾斜角をθとすると、
cosθ=2×(1−1/n)
の関係を満たすように、前記球状レンズの屈折率n、前記フェルールの端面の傾斜角θが決定されていることを特徴とする請求項1に記載の光学モジュール。
【請求項3】
前記フェルールと前記球状レンズの外径が等しく、前記フェルール及び前記球状レンズは、同一の割スリーブに実装されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学モジュール。
【請求項4】
前記フェルールと前記球状レンズの外径が等しく、前記フェルール及び前記球状レンズは、その外径より大きい内径を有する同一の精密スリーブに実装されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学モジュール。
【請求項5】
前記フェルールよりも前記球状レンズの外径が大きく、前記フェルール及び前記球状レンズは、該フェルールの外径よりも大きく且つ前記球状レンズの外径よりも小さい内径を有する同一の精密スリーブに実装されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学モジュール。
【請求項6】
前記精密スリーブは、前記球状レンズと接触する内径部を有し、該内径部には、前記球状レンズとの接点から外側に向かって広がるテーパ部が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の光学モジュール。
【請求項7】
前記球状レンズがスリーブに固定され、前記フェルールが弾性体により前記球状レンズ側に押し当てられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学モジュール。
【請求項8】
前記フェルールがスリーブに固定され、前記球状レンズが弾性体により前記フェルール側に押し当てられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−25006(P2013−25006A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158553(P2011−158553)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】