説明

光学ローパスフィルタ及びその製造方法

【課題】屈折板と1/2波長板との接合を容易に行えるとともに薄くしても広い波長領域で色ムラが目立たない光学ローパスフィルタを提供する。
【解決手段】第1複屈折板11、第2複屈折板12及び1/2波長板13をそれぞれ水晶から形成してこれらの光学部品間の接合を容易に行う。しかも、1/2波長板13を、光学軸がその主面においては第1複屈折板11の光学軸に対して第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°として設計することで、1/2波長板の厚さが29μmと薄くなっても、400nm〜700nmという広い波長領域において色ムラが目立たない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1/2波長板の両面に複屈折板がそれぞれ配置されるとともに疑似信号を抑制する光学ローパスフィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ等の撮像装置は、CCDやCMOS等の撮像素子を含んで構成され、所定ピッチで配列される有限個の画素によって光学像を電気信号に変換し、映像を撮影する。このような撮像装置では、光学像の空間周波数が画素の配列ピッチにより決まるサンプリング周波数の1/2以下であれば、モアレなどの擬似信号を発生することがないが、光学像の空間周波数がサンプリング周波数の1/2を越えると、擬似信号を発生して画質を低下させる。
前述したモアレ等の擬似信号の発生を抑制するために、従来の撮像装置では、撮像素子の前面に、光学像の空間周波数の高域成分を抑制する光学ローパスフィルタが配置されている。
【0003】
位相板の従来例として、第1位相板から出射した常光線、異常光線を波長によって位相差が異なるランダム偏光とする1枚からなる水晶位相板や、水晶板を複数貼り合わせて1/2波長板としたものがある。しかし、これらの従来例は厚みが大きく、例えば、1枚からなる水晶位相板は厚さ0.1mm以上と大きく、光学ローパスフィルタを組み込む撮像装置が大型化する。
【0004】
また、従来の光学ローパスフィルタとしては、それぞれ水晶からなる2枚の複屈折板の間に複屈折性を有する高分子フィルムを設けたものがある(特許文献1)。
この特許文献1で示される従来例では、ポリカーボネートを主原料とするフィルムを延伸することで複屈折性をもたせたものである。
【特許文献1】特開2004−70340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示される従来例は、高分子フィルムの厚さが70μm程度あり、他の従来例と同様に厚さに関する課題が達成できていないだけでなく、波長板として機能する高分子フィルムを無機材料からなる複屈折板と貼り合わせることが困難となる。さらに、従来例で用いられる高分子フィルムは耐久性や耐光性が十分ではない。
つまり、有機材料からなる高分子フィルムと無機材料の複屈折板とでは線膨張係数が10倍程度異なるので、これらの材料からなる光学ローパスフィルタは温度環境に弱く、紫外線による黄変で透過率の減少、湿度環境での吸湿による膨潤といった問題がある。
ここで、特許文献1で示される光学ローパスフィルタにおいて、1/2波長板として機能する光学部品を水晶とするとともにこの光学部品を単に薄くすることが考えられるが、光学部品を単に薄くするだけでは波長による色ムラが生じてしまい、光学ローパスフィルタとして十分に機能しなくなる。
【0006】
本発明の目的は、複屈折板と1/2波長板との接合を容易に行えるとともに薄くしても広い波長領域での色ムラが目立たない光学ローパスフィルタ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタは、水晶からなる1/2波長板の一方の面に水晶からなる第1複屈折板が配置されるとともに他方の面に水晶からなる第2複屈折板が配置され、これらの第1複屈折板と第2複屈折板との少なくとも一方が前記1/2波長板に接合された光学ローパスフィルタであって、前記第1複屈折板は光入射側に配置され、前記1/2波長板の光学軸は、その主面においては前記第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°であることを特徴とする。
この構成の本適用例では、第1複屈折板により入射光が分離して複数の出射光が形成され、これらの出射光の偏光状態を1/2波長板によって直線偏光を所定角度回転させ、さらに、1/2波長板から出射する複数の出射光を第2複屈折板によってそれぞれ分離して複数の出射光を形成する。
本適用例では、光学ローパスフィルタを構成する第1複屈折板、第2複屈折板及び1/2波長板がそれぞれ水晶から形成されているため、これらの光学部品間の接合を容易に行うことができる。
しかも、本適用例では、水晶から形成されている1/2波長板を、光学軸がその主面においては第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°として設計したので、1/2波長板の厚さが薄く(例えば、29μm程度)なっても、広い波長領域において色ムラが目立たない。
【0008】
[適用例2]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタは、前記第1複屈折板と前記第2複屈折板との双方が前記1/2波長板に接合されたことを特徴とする。
この構成の適用例では、光学ローパスフィルタとしてよりコンパクトな構造とすることができる。
【0009】
[適用例3]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記1/2波長板を成形するための水晶製板材を前記第1複屈折板に接合する接合工程と、前記水晶製板材の厚みを薄くして前記1/2波長板を形成する薄肉化工程とを備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、水晶製板材を第1複屈折板に接合した状態で薄肉化するので、この薄肉化された水晶製板材が割れることがなくなり、薄肉化のための作業を容易に行うことができる。
【0010】
[適用例4]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記接合工程は、互いに接合しようとする接合面にシランカップリング剤を塗布し、この塗布されたシランカップリング剤を加熱し、加熱されたシランカップリング剤に活性エネルギーを付与して反応性官能基を導入し、前記反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせ、互いに貼り合わせて一体化した接合面を加熱することを特徴とする。
この構成の本適用例では、塗布に際して接合面に塗布されたシランカップリング剤は、加熱時においてシラノールがOH基と脱水縮合してシロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成して接合面同士を結合する。そして、表面を活性化する工程においてシランカップリング剤中の反応官能基が励起され、親水性が高められた互いの接合面が貼り合わされた後に接合面同士が加熱処理されることで、接合面のシランカップリング剤よりなる薄膜中の反応性官能基が化学結合して、白濁することなく薄膜同士が強固に密着する。
この適用例では、加熱処理時での白濁の発生を低減し、接合強度を大きなものにすることができるとともに、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【0011】
[適用例5]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記接合工程は、放電プラズマ接合で行うことを特徴とする。
この構成の本適用例では、予め鏡面研磨加工した接合面をプラズマ処理により活性化しておき、これらを加圧して直接接合するものでもよい。プラズマ処理にあたり、CF4、Ar、又はN2ガスを用いてもよい。
この適用例では、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【0012】
[適用例6]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記1/2波長板を成形するために水晶製板材の厚みを前記1/2波長板の厚さと同じまで薄くする薄肉化工程と、この薄肉化されて形成された水晶製板材を前記第1複屈折板に接合する接合工程とを備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、1/2波長板と同じ厚さにまで水晶製板材を成形した後に、この水晶製板材を第2複屈折板に接合するので、1/2波長板の厚さの管理を精度よく行うことができる。
[適用例7]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記薄肉化工程はエッチング処理で行うことを特徴とする。水晶製板材を薄くするために、水晶製板材の表面にエッチング液を塗布、滴下等する。エッチング液としてはフッ化アンモニウムを例示できる。
この構成の本適用例では、1/2波長板を形成するために、エッチング処理により水晶製板材を容易に所望の薄さにすることができる。
【0013】
[適用例8]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記エッチング処理は前記水晶製板材の周縁部を残して中心部に対して行い、前記接合工程の後に、前記水晶製板材の周縁部を切断することを特徴とする。この水晶製板材の周縁部を切断することで前記1/2波長板が成形される。
この構成の本適用例では、周縁部を残してエッチング処理を行うので、水晶製板材が薄肉化しても、その周縁部は厚いままなので、その周縁部をもって作業を行うことができるから、光学ローパスフィルタの製造作業を容易に行うことができる。
【0014】
[適用例9]
本適用例にかかる光学ローパスフィルタの製造方法は、前記1/2波長板の前記第1複屈折板が接合された面と反対側の面に前記第2複屈折板を接合する後工程を備えたことを特徴する。
この構成の本適用例では、1/2波長板の両面に複屈折板が接合されるので、コンパクトな構造の光学ローパスフィルタを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には本実施形態にかかる光学ローパスフィルタ1が取り付けられた撮像装置100の概略構成が示されている。
図1において、撮像装置100は、撮像モジュール110と、光入射側に配置されるレンズ120と、撮像モジュール110から出力される撮像信号の記録・再生等を行う本体部130とを含んで構成される。
この本体部130には、撮像信号の補正等を行う信号処理部、撮像信号を磁気テープ等の記録媒体に記録する記録部及びこの撮像信号を再生する再生部、再生された映像を表示する表示部など各種の構成要素が含まれる。
撮像モジュール110は、本実施形態にかかる光学ローパスフィルタ1と、CCD等のセンサからなり光学像を電気信号に変換する撮像素子140と、この撮像素子140を駆動する駆動部150とを含んで構成されている。
【0016】
光学ローパスフィルタ1の構造が図2から図4に示されている。
図2は光学ローパスフィルタ1の断面図である。図2において、光学ローパスフィルタ1は、それぞれ水晶からなる第1複屈折板11及び第2複屈折板12と、これらの第1複屈折板11と第2複屈折板12との間に設けられた1/2波長板13とを備えて構成されている。
1/2波長板13の一方の面は第1複屈折板11に接合され、その他方の面は第2複屈折板12に接合されている。
【0017】
図3及び図4は、光学ローパスフィルタ1の構造について、主に光学軸と光線の進行方向に着目して詳細に説明するために用いられるものであり、図3は光学ローパスフィルタ1の分解斜視図であり、図4は光学ローパスフィルタ1を構成する各層を通過することによる入射光の分離状態を説明する説明図である。
図3及び図4において、光入射側に配置される第1複屈折板11は、光入射面と直交し、かつ紙面と平行な面(x−z平面)において、z軸と所定の方位角をなす方向(矢印A1により示す方向)に光学軸(光学的主軸)を有している。この第1複屈折板11の光線L1が入射し(図4(A)参照)、第1複屈折板11に入射した光線L1は第1複屈折板11の有する複屈折性によって、2つの光線L11、L12に分離されて出射する(図4(B)参照)。これらの光線L11、L12は、それぞれ偏光状態が直線偏光に変化して出射する。
【0018】
1/2波長板13は、光入射面(x−y平面)において、x軸と所定の方位角をなす方向(矢印A2により示す方向)に光学軸を有している。これにより、1/2波長板13に入射した光線L11、L12は、2つの光線L13、L14となって出射する。
光出射側に配置される第2複屈折板12は、光入射面と直交し、かつ紙面と直交する面(y−z平面)において、y軸と所定の方位角をなす方向(矢印A3により示す方向)に光学軸を有している。この第2複屈折板12に入射した光線L13は、第2複屈折板12の有する複屈折性によって、2つの光線L15、L16に分離されて出射する(図4(C)参照)。同様に、第2複屈折板12に入射した光線L14は、2つの光線L17、L18に分離されて出射する(図4(C)参照)。
つまり、本実施形態の光学ローパスフィルタ1では1つの入射光線L1が4点の光線Ll5、L16、L17、Ll8に分離されるものであり、分離された光線Ll5、L16、L17、Ll8のうち2つが常光であり、残り2つが異常光である。
【0019】
次に、本実施形態の1/2波長板13を用いた光学ローパスフィルタ1の光学的な特性について、図5から図8に基づいて説明する。
本実施形態では、1/2波長板13の光学軸が主面において第1複屈折板11の光学軸に対してθであり、法線方向において90°である。1/2波長板13の光学軸θは、22.5°<θ≦25°の範囲である。1/2波長板13の厚さは従来の1/2波長板より薄くされており、例えば、20μm〜40μmである。
図5には、光学軸θが25°、24°、22.5°、20°である1/2波長板13を有する光学ローパスフィルタ1の波長と光強度比率との関係が示されている。なお、図5に示される実施例では、1/2波長板13の厚さは全て29μmである。
【0020】
図5において、符号P1は光学軸θを25°とした1/2波長板13の場合の常光線データであり、符号Q1が光学軸θを25°とした場合の異常光線のデータであり、符号P2は光学軸θを24°とした場合の常光線のデータであり、符号Q2が光学軸θを24°とした場合の異常光線のデータであり、符号P3は光学軸θを22.5°とした場合の常光線のデータであり、符号Q3が光学軸θを22.5°とした場合の異常光線のデータであり、符号P4は光学軸θを20°とした場合の常光線のデータであり、符号Q4が光学軸θを20°とした場合の異常光線のデータである。
【0021】
図5のデータを得るに際して、例えば、有限会社マクシス・ワン製の測定装置を用いる。この測定装置は、光源と、微小エリアの光を取り出すピンホールと、特定波長の光のみ透過する干渉フィルタと、測定対象となる光学ローパスフィルタと、拡大用のレンズと、CCDカメラとが直線上に配置されるものであり、干渉フィルタで透過した所定波長の光を光学ローパスフィルタで4点に分離した後、その光強度比率をCCDカメラを用いて測定する構造である。この測定装置の干渉フィルタは、図6に示される通り、符号R1で示される479nmの波長、R2で示される546nmの波長、R3で示される586nmの波長及びR4で示される643nmの波長のみを透過させるものである。
【0022】
図5において、1/2波長板13の光学軸θが25°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P1で示される常光線のデータは40%程度であり、符号Q1で示される異常光線のデータは60%程度である。これらの光強度比率差は略20%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P1で示される常光線のデータは57%程度であり、符号Q1で示される異常光線のデータは44%程度である。これらの光強度比率差は略13%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P1で示される常光線のデータは52%程度であり、符号Q1で示される異常光線のデータは48%程度である。これらの光強度比率差は略4%である。つまり、1/2波長板13の光学軸θが25°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は中心領域の20%である。
【0023】
1/2波長板13の光学軸θが24°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P2で示される常光線のデータは45%程度であり、符号Q2で示される異常光線のデータは55%程度である。これらの光強度比率差は略10%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P2で示される常光のデータは58%程度であり、符号Q2で示される異常光線のデータは40%程度である。これらの光強度比率差は略18%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P2で示される常光線のデータは55%程度であり、符号Q2で示される異常光線のデータは45%程度である。これらの光強度比率差は略10%である。つまり、1/2波長板13の光学軸θが24°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の18%である。
【0024】
1/2波長板13の光学軸θが22.5°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P3で示される常光線のデータは50%程度であり、符号Q3で示される異常光線のデータは50%程度である。これらの光強度比率差は略0%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P3で示される常光のデータは63%程度であり、符号Q3で示される異常光線のデータは37%程度である。これらの光強度比率差は略26%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P3で示される常光線のデータは58%程度であり、符号Q3で示される異常光線のデータは42%程度である。これらの光強度比率差は略16%である。つまり、1/2波長板13の光学軸θが22.5°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の28%である。
【0025】
1/2波長板13の光学軸θが20°の場合、波長の中心領域(500nm〜550nm)では、符号P4で示される常光線のデータは58%程度であり、符号Q4で示される異常光線のデータは42%程度である。これらの光強度比率差は略16%である。短波領域(400nm近傍)では、符号P4で示される常光のデータは70%程度であり、符号Q4で示される異常光線のデータは30%程度である。これらの光強度比率差は略40%である。長波領域(700nm近傍)では、符号P4で示される常光線のデータは67%程度であり、符号Q4で示される異常光線のデータは33%程度である。これらの光強度比率差は略34%である。つまり、1/2波長板13の光学軸θが20°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の40%である。
【0026】
図5のグラフにおいて、光強度比率は常光線と異常光線とでは反転する関係にあり、常光線と異常光線とでの光強度比率の差が大きいと色ムラが多くなり、光強度比率差が小さいと色ムラが少なくなる関係にある。つまり、常光線と異常光線の一方の光強度比率が大きいと他方の光強度比率が小さくなり、光学ローパスフィルタ1で分離された4点の出射光のうち2点が明るく、残り2点が暗くなるので色ムラが生じる。
符号P3,Q3で示される光学軸θが22.5°は従来の光学軸の角度であり、本実施例では、1/2波長板13の厚さを従来の1/2波長板より薄くした構成であるため、色ムラが従来の波長板より大きくなる(最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の28%)。
【0027】
符号P4,Q4で示される光学軸θが20°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の40%であり、22.5°の場合より大きい。
これに対して、符号P1,Q1で示される光学軸θが25°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は中心領域の20%であり、従来の光学軸22.5°の場合の28%より小さく、色ムラが少ない。
さらに、符号P2,Q2で示される光学軸θが24°の場合では、最も光強度比率差が大きな領域は短波領域の18%であり、光学軸25°の場合の20%より小さく、色ムラがより少ない。従って、光学軸θが24°の場合が色ムラの最も小さくなる。
【0028】
次に、本実施形態にかかる光学ローパスフィルタ1を製造する方法について図7及び図8に基づいて説明する。
まず、光学ローパスフィルタの製造方法の第1実施形態を図7に基づいて説明する。
[接合工程]
図7(A)に示される通り、水晶からなる第1複屈折板11を用意しておき、その後、図7(B)に示される通り、第1複屈折板11の上に水晶製板材13Aを接合する。なお、第1複屈折板11と水晶製板材13Aとは平面上の同じ大きさのものを用意しておく。
ここで、この接合に際しては、接着剤を用いた場合や、シランカップリング剤を用いた場合や、放電プラズマを用いた場合等を例示できる。
【0029】
(1)接着剤を用いた接合工程
第1複屈折板11の接合面と水晶製板材13Aとの接合面を予め洗浄しておき、これらの接合面に接着剤を塗布して互いに接合する。
使用する接着剤は、接着が容易で比較的高温度に耐えうる一液性エポキシ又は一液性アクリル系の紫外線硬化型接着剤を用いることが好ましい。望ましい紫外線硬化型接着剤の一例としては、サンライズMSI株式会社製のPHOTOボンド(登録商標)が挙げられる。紫外線硬化型接着剤は塗布した後、ケミカルランプや高圧水銀灯を用いて積算光量600mj/cm(照度2mW/cm)程度、照射して硬化される。硬化された接着剤の厚さは30nm〜300nmが好ましい。
【0030】
(2)シランカップリング剤を用いた接合工程
第1複屈折板11の接合面と水晶製板材13Aとの接合面にシランカップリング剤を塗布する。塗布方法として、スピン、ディップ、フロー、バーコード、スリッタ等の塗布方法が例示できる。
ここで使用されるシランカップリング剤は、下記の一般式(1)及び一般式(2)に示されるシラン化合物を用いることが好ましい。
【0031】
Si(OR1) …(1)
R1は炭素数1から4のアルキル基を示す。
一般式(1)で表されるシラン化合物の例としては。テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシランが例示できる。
【0032】
R2Si(OR1)4−n …(2)
R1はアルキル基を示し、R2は炭素数1から8のアルキル又は(X−R3)を表す。ここで、R3は炭素数が0〜10の直鎖状、分岐状、環状アルキレン基又はアルキルフェニル基を表し、間にN、O、S、Pが入ってもよい。Xは、エポキシ基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基、アミノ基、メルカプト基等の官能基を表す。nは0〜3の整数であり、nが2又は3の場合には、(X−R3)は同種でも異種でもよい。
一般式(2)で表されるシラン化合物の具体例としては、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン等を例示することができる。
これらのシラン化合物は、そのまま用いることができるが、溶媒を用いて希釈してもよい。この溶媒としては、親水性有機溶媒剤が好ましい。親水性有機溶媒剤としては、メタノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類、グリセリン等のグリコールエーテル類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類を例示できる。
【0033】
その後、第1複屈折板11の接合面と水晶製板材13Aとの接合面に塗布されたシランカップリング剤を加熱する。この加熱により、シランカップリング剤が脱水縮合されてシラノールが第1複屈折板11の接合面と水晶製板材13Aの接合面とに化学結合する。つまり、接合面に化学結合したシランカップリング剤よりなる薄膜が形成される。
加熱方法としては、例えば、シランカップリング剤が塗布された第1複屈折板11と水晶製板材13Aとを、60℃〜300℃程度の内部温度に設定された乾燥炉に投入して行う。加熱温度が300℃を超える場合には、シランカップリング剤中の有機物が分解されて化学結合反応が低下する。60℃未満の場合にはシラノールの十分な脱水縮合反応が得られない。加熱時間は、加熱温度により異なるが、1時間〜6時間である。
【0034】
第1複屈折板11と水晶製板材13Aとを乾燥炉から取り出した後に、これらの間に形成された薄膜に活性化エネルギーを付与する。
活性化エネルギーの付与方法としては、プラズマ処理、オゾン処理又は活性化エネルギー線照射等が例示できる。これにより、シランカップリング剤の薄膜表面に、反応性官能基の励起及びOH基などの活性種の導入が行われ、親水性が高まる。
そして、反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせる。そのため、第1複屈折板11と水晶製板材13Aとを位置だしして接合面同士を押し付ける。接合面の加圧力は200MPa程度の範囲であるが、部材の損傷防止の観点から0.5MPa〜1MPa程度が好ましい。
さらに、第1複屈折板11と水晶製板材13Aとの接合面が加熱される。この加熱処理は前述の薄膜形成の加熱と略同じである。
【0035】
(3)放電プラズマを用いた接合工程
第1複屈折板11と水晶製板材13Aとの接合面を鏡面研磨加工する。
この加工された接合面をプラズマ処理により活性化しておき、これらを加圧して直接接合する。
プラズマ処理にあたり、CF4、Ar、又はN2ガスを用いる。これらのガスを接合面に向けて照射し、所定の押圧力によって第1複屈折板11と水晶製板材13Aとの接合面同士を加圧する。
【0036】
[薄肉化工程]
第1複屈折板11の上に水晶製板材13Aを接合したら、図7(C)に示される通り、水晶製板材13Aを薄肉化して厚さ20〜33μmの1/2波長板13を成形する。
この薄肉化のために種々の手段、例えば、研磨加工を採用することができる。
この研磨加工に際しては、図7(C)に示される通り、一面に第1複屈折板11が接合された1/2波長板13の他面に研磨部材30を当接させ、この研磨部材30を回転させながら水晶製板材13Aを移動させる。なお、研磨加工に代えて後述するエッチングを採用してもよい。
【0037】
[後工程]
次に、図7(D)に示される通り、1/2波長板13の第1複屈折板11が接合された面と反対側の面に第2複屈折板12を接合して光学ローパスフィルタ1を製作する。
この際、第2複屈折板12の大きさを予め1/2波長板13の大きさにカットしておき、両者を接合するものでもよく、あるいは、第2複屈折板12を大きめに形成し、1/2波長板13に接合した後、1/2波長板13と同じ大きさにカットするものでもよい。
また、1/2波長板13と第2複屈折板12との接合は、第1複屈折板11と水晶製板材13Aとの接合と同じ手法、つまり、接着剤を用いた接合や、シランカップリング剤を用いた接合や、放電プラズマを用いた接合を採用することができる。
【0038】
次に、光学ローパスフィルタの製造方法の第2実施形態を図8に基づいて説明する。
[薄肉化工程]
図8(A)に示される通り、1/2波長板を成形するために厚さ0.1mm程度の水晶製板材13Aを用意する。この水晶製板材13Aは成形しようとする1/2波長板13と平面上の大きさよりも縦横寸法をそれぞれ大きくし、予め保持できるように形成しておく。
図8(B)に示される通り、水晶製板材13Aの上面外周縁部にマスク31を載せてマスキングをする。このマスク31の大きさは水晶製板材13Aの縁を保持できる程度の大きさであればよく、マスク31で囲まれた中心部の大きさは1/2波長板13となる大きさと同じである。
マスク31は後述するエッチング液に浸食されない材質のものを用いる。
【0039】
図8(C)に示される通り、水晶製板材13A上面にエッチング液を塗布してエッチングする。エッチングは水晶製板材13Aが薄肉化して厚さ20〜33μm程度となるまで行う。
エッチング液としては、フッ酸、フッ化アンモニウム等を例示できる。本実施形態では、マスク31の部分がマスキングしているのでエッチング処理は水晶製板材13Aのマスク31がされている部分(水晶製板材13Aの周縁部)を残して中心部に対して行われることになる。
図8(D)に示される通り、エッチング処理が終了したら、洗浄液を用いて水晶製板材13Aを洗浄するとともに、マスク31を剥がす。
【0040】
[接合工程]
そして、図8(D)に示される通り、中心部が薄く形成された水晶製板材13Aを第1複屈折板11に接合する。この接合方法は第1実施形態の接合方法を採用することができるが、このうち接着剤を用いた接合方法が好ましい。つまり、一液性エポキシ又は一液性アクリル系の紫外線硬化型接着剤を用い、紫外線硬化型接着剤を水晶製板材13Aと第1複屈折板11との接合面に塗布した後、ケミカルランプや高圧水銀灯を用いて硬化する。
[切断工程]
図8(E)に示される通り、水晶製板材13Aの周縁部を、カッタ等を用いて切断して1/2波長板13を成形する。
[後工程]
図8(F)に示される通り、1/2波長板13の第1複屈折板11が接合された面と反対側の面に第2複屈折板12を接合して光学ローパスフィルタ1を製作する。
【0041】
従って、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)光学ローパスフィルタ1を構成する第1複屈折板11、第2複屈折板12及び1/2波長板13がそれぞれ水晶から形成されているため、これらの光学部品間の接合を容易に行うことができる。
(2)水晶から形成されている1/2波長板13を、光学軸がその主面においては第1複屈折板11の光学軸に対して第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°として設計したので、1/2波長板の厚さが29μmと薄くなっても、400nm〜700nmという広い波長領域において色ムラが目立たない。
【0042】
(3)1/2波長板13の両面が第1複屈折板11と第2複屈折板12とに接合されているので、光学ローパスフィルタ1としてよりコンパクトな構造とすることができる。そのため、撮像装置100のより小型化を図ることができる。
【0043】
(4)光学ローパスフィルタ1を製造するにあたり、水晶製板材13Aを第1複屈折板11に接合し、その後、水晶製板材13Aの厚みを薄くして1/2波長板13を形成した。そのため、水晶製板材13Aを第1複屈折板11に接合した状態で薄肉化するので、この薄肉化された水晶製板材13Aが割れることがなくなり、薄肉化のための作業を容易に行うことができる。
【0044】
(5)水晶製板材13Aを第1複屈折板11に接合するに際して、互いに接合しようとする接合面に接着剤を塗布し、この接着剤を硬化させる方法を採用すれば、水晶製板材13Aと第1複屈折板11との接合を容易に行うことができる。
【0045】
(6)水晶製板材13Aを第1複屈折板11に接合するに際して、互いに接合しようとする接合面にシランカップリング剤を塗布し、この塗布されたシランカップリング剤を加熱し、加熱されたシランカップリング剤に活性エネルギーを付与して反応性官能基を導入し、反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせ、互いに貼り合わせて一体化した接合面を加熱する方法を採用すれば、加熱処理時での白濁の発生を低減し、接合強度を大きなものにすることができるとともに、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【0046】
(7)水晶製板材13Aを第1複屈折板11に接合するに際して、互いに接合しようとする接合面に放電プラズマで接合する方法を採用すれば、接着剤を用いた場合に比べて接着厚さを薄くすることができる。
【0047】
(8)また、光学ローパスフィルタ1を製造するため、水晶製板材13Aの厚みを1/2波長板13の厚さと同じまで薄くし、この水晶製板材13Aを第1複屈折板11に接合する方法を採用すれば、1/2波長板13の厚さの管理を精度よく行うことができる。
(9)この製造方法において、水晶製板材13Aの薄肉化をエッチング処理で行うので、エッチング処理により水晶製板材13Aを容易に所望の薄さにすることができる。
【0048】
(10)エッチング処理を水晶製板材13Aの周縁部を残して中心部に対して行い、水晶製板材13Aと第1複屈折板11との接合の後に、水晶製板材13Aの周縁部を切断して1/2波長板13を成形した。そのため、水晶製板材13Aが薄肉化しても、その周縁部は厚いままとなるので、この周縁部をもって光学ローパスフィルタの製造作業を容易に行うことができる。
【0049】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、1/2波長板13の両面を第1複屈折板11と第2複屈折板12とに接合したが、本発明では、図9及び図10に示される通り、1/2波長板13の一方の面に第1複屈折板11と第2複屈折板12とのいずれか一方を接合する構成としてもよい。
図9は変形例にかかる光学ローパスフィルタ1Aが取り付けられた撮像装置の概略構成図であり、図10は、光学ローパスフィルタ1Aの断面図である。
図9及び図10において、光学ローパスフィルタ1Aでは第1複屈折板11と1/2波長板13とが分離されており、互いに所定間隔をもって配置されている。第1複屈折板11の表面には必要に応じて赤外線カットコート14が形成されてもよい。
また、本発明の光学ローパスフィルタ1,1Aは撮像装置以外の装置にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、撮像装置、その他の装置に用いられ1/2波長板を有する光学ローパスフィルタに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態にかかる光学ローパスフィルタが取り付けられた撮像装置の概略構成図。
【図2】光学ローパスフィルタの断面図。
【図3】光学ローパスフィルタの構造について、主に光学軸と光線の進行方向に着目して詳細に説明する分解斜視図。
【図4】(A)〜(C)は光学ローパスフィルタを構成する各層を通過することによる入射光の分離状態を説明する説明図。
【図5】光学ローパスフィルタの波長と光強度比率との関係を示すグラフ。
【図6】光強度比率を測定する装置で使用される干渉フィルタで所定波長を透過することを説明するためのグラフ。
【図7】(A)〜(D)は本発明の第1実施形態にかかる光学ローパスフィルタの製造方法を示す模式図。
【図8】(A)〜(F)は本発明の第2実施形態にかかる光学ローパスフィルタの製造方法を示す模式図。
【図9】本発明の変形例にかかる光学ローパスフィルタが取り付けられた撮像装置の概略構成図。
【図10】変形例にかかる光学ローパスフィルタの断面図。
【符号の説明】
【0052】
1,1A…光学ローパスフィルタ、11…第1複屈折板、12…第2複屈折板、13…1/2波長板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶からなる1/2波長板の一方の面に水晶からなる第1複屈折板が配置されるとともに他方の面に水晶からなる第2複屈折板が配置され、これらの第1複屈折板と第2複屈折板との少なくとも一方が前記1/2波長板に接合された光学ローパスフィルタであって、
前記第1複屈折板は光入射側に配置され、前記1/2波長板の光学軸は、その主面においては前記第1複屈折板の光学軸に対して22.5°<θ≦25°であることを特徴とする光学ローパスフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載された光学ローパスフィルタにおいて、
前記第1複屈折板と前記第2複屈折板との双方が前記1/2波長板に接合されたことを特徴とする光学ローパスフィルタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された光学ローパスフィルタを製造する方法であって、
前記1/2波長板を成形するための水晶製板材を前記第1複屈折板に接合する接合工程と、前記水晶製板材の厚みを薄くして前記1/2波長板を形成する薄肉化工程とを備えたことを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載された光学ローパスフィルタの製造方法において、
前記接合工程は、互いに接合しようとする接合面にシランカップリング剤を塗布し、この塗布されたシランカップリング剤を加熱し、加熱されたシランカップリング剤に活性エネルギーを付与して反応性官能基を導入し、前記反応性官能基が導入された接合面同士を貼り合わせ、互いに貼り合わせて一体化した接合面を加熱することを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載された光学ローパスフィルタの製造方法において、
前記接合工程は、放電プラズマ接合で行うことを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載された光学ローパスフィルタを製造する方法であって、
前記1/2波長板を成形するために水晶製板材の厚さを前記1/2波長板の厚さと同じまで薄くする薄肉化工程と、この薄肉化されて形成された水晶製板材を前記第1複屈折板に接合する接合工程とを備えたことを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載された光学ローパスフィルタの製造方法において、
前記薄肉化工程はエッチング処理で行うことを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載された光学ローパスフィルタの製造方法において、
前記エッチング処理は前記水晶製板材の周縁部を残して中心部に対して行い、前記接合工程の後に、前記水晶製板材の周縁部を切断することを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。
【請求項9】
請求項3から請求項8のいずれかに記載された光学ローパスフィルタの製造方法において、
前記1/2波長板の前記第1複屈折板が接合された面と反対側の面に前記第2複屈折板を接合する後工程を備えたことを特徴とする光学ローパスフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−122407(P2009−122407A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296352(P2007−296352)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】