説明

光学式エンコーダ及びリニアゲージ

【課題】光電素子において良好な信号出力を得る。
【解決手段】送光部72から上方に出射された平行光は、貫通孔71に挿入されている第1スリット5を透過した後、第2スリット731を透過しフォトダイオードアレイ732の4つのフォトダイオードに到達し、電気信号に変換される。第1スリット5と第2スリット731のスリットのピッチをp、送光部72で生成する平行光の波長をλとして、第1スリット5のスリットと第2スリット731のスリットのギャップ(間隔)Gは、0.85≦K≦0.92、さらに望ましくは、0.869≦K≦0.913として、G = Kp2/λに設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被計測物の直動方向の変位を測定するリニアゲージ等に用いられる光学式エンコーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学式エンコーダとしては、被計測物の移動に伴い移動する第1スリットと、第1のスリットと所定のギャップを持たせて平行に配置した相互に位相の異なる複数の第2スリットを設けると共に、送光光学系で生成した平行光を各スリットに垂直な方向から照射し、各第2スリットの各々に対応して設けた光電素子で、対応する第2スリットと第1スリットとを透過した光を電気信号に変換する光学式エンコーダが知られている(たとえば、特許文献1)。ここで、このような光学式エンコーダを用いることにより、各光電素子で変換した電気信号に基づいて、第1スリットしたがって被計測物の移動速度や移動方向や、これらに基づく変位を測定することができる。
【0003】
また、このような光学式エンコーダにおいて、第1のスリットと第2のスリットとの間のギャップGを、各スリットのピッチをp、平行光の波長をλ、nを正の整数として、G = n p2/λとすることにより、第2のスリット上に第1のスリットの明瞭な像を結像し、これにより光学式エンコーダの高分解能を実現することも提案されている(同特許文献1、非特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-257593号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ロータリエンコーダ用高精度LED光源の開発とその応用」、山田和明、服部昌 梁川敏、「Koyo Engineering Journal No.166 (2004)」、pp64-69
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの試験、研究によれば、第1のスリットと第2のスリットとの間のギャップGを、各スリットのピッチをp、平行光の波長をλ、nを正の整数として、G = n p2/λとした場合には、光電素子において充分に良好な信号が得られないことが判明した。
そこで、本発明は、光電素子においてより良好な信号が得られる光学式エンコーダを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題達成のために、本発明は、検出ユニットと、前記検出ユニットに対して相対的に移動する、ピッチpのスリットが設けられた第1スリットとを備えた光学式エンコーダを提供する。ここで、前記検出ユニットは、前記第1スリットに対して、波長λの平行光を照射する送光部と、前記第1スリットと離間して平行に配置された、前記ピッチpのスリットが設けられた第2スリットと、前記第1スリットと前記第2スリットとを透過した平行光を検出する光電素子とを備えており、前記第1スリットと前記第2スリットとの間隔の大きさGは、0.85≦K≦0.92として、G = Kp2/λである。また、望ましくは、前記第1スリットと前記第2スリットとの間隔の大きさGは、0.869≦K≦0.913として、G = Kp2/λである。
【0008】
このような光学式エンコーダによれば、上述のように前記第1スリットと前記第2スリットとの間隔の大きさGを設定することにより、前記第1スリットと前記第2スリットとの間隔の大きさGを上述した理論値G = p2/λとするよりも、より良好に光電素子の出力を得ることができる。
【0009】
ここで、本発明は、併せて、以上のような光学式エンコーダを用いたリニアゲージも提供する。
すなわち、本発明は、フレームと、前記第1の方向に移動可能に前記フレームに支持されたシャフトとを備え、前記検出ユニットは前記フレームに固定され、前記第1スリットは前記シャフトに固定されているリニアゲージも提供する。
また、本発明は、光学式エンコーダと、フレームと、前記第1の方向に移動可能に前記フレームに支持されたシャフトとを備え、前記検出ユニットは前記シャフト固定され、前記第1スリットは前記フレームに固定されリニアゲージも提供する。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、光電素子においてより良好な信号が得られる光学式エンコーダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るリニアゲージの構造を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るリニアゲージの検出ユニットの構成を示す図である。
【図3】第1スリットと第2スリットのギャップと、フォトダイオードアレイの出力との関係についての実験結果を表す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るリニアゲージの他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、被計測物の直動方向の変位を測定するリニアゲージへの適用を例にとり説明する。
図1a1-a5に、リニアゲージの構造を示す。
前後左右上下方向を図1a1、a2に示すように定義するものとして、図1a1はリニアゲージの上面を、図1a2はリニアゲージの右側面を、図1a3はリニアゲージを右後上方の視点より見たようすを、図1a4はリニアゲージを左前上方の視点より見たようすを、図1a5はリニアゲージを右前上方の視点より見たようすを表している。
【0013】
さて、図示するようにリニアゲージは、フレーム1、軸方向に移動可能にフレーム1に軸受されたシャフト2、シャフト2の一端に固定された測定子3、シャフト2の他端に固定されたホルダ4、ホルダ4に固定された第1スリット5、一端がフレーム1に他端がホルダ4に固定されホルダ4を測定子3の方向に付勢するバネ6、検出ユニット7とを備えている。
【0014】
なお、リニアゲージには、実際には、図1a5に破線で示すようにカバー8で覆われる。
ここで、検出ユニット7には前後方向に貫通した孔71が設けられており、第1スリット5は、この貫通孔71に挿入されている。
そして、このような構成において、図1b1、b2に示すように、測定子3が被計測物当接された状態で、シャフト2がフレーム1に対して前後に移動すると、シャフト2にホルダ4を介して固定された第1スリット5が前後に移動することになる。
次に、検出ユニット7の構成を図2に示す。
図2aに模式的に示すように、検出ユニット7は、第1スリット5が前後方向に挿入されている貫通孔71の下方に設けられた送光部72と、貫通孔71の上方に設けられた受光部73とを有する。
そして、送光部72は、下から順に、光源であるLED721、レンズ722を有している。
そして、受光部73は、下から順に、第2スリット731と、フォトダイオードアレイ732とを備えている。
フォトダイオードアレイ732の下面には、図2b1に示すように、A、B、invA、invBの4つのフォトダイオードの受光面が形成されており、この4つのフォトダイオードの受光面は2行2列の格子状に配置されている。
また、第2スリット731には、図2b2に示すように、90°スリット領域、180°スリット領域、270°スリット領域、360°スリット領域の4つのスリット領域が2行2列の格子状に設けられている。ここで、第2スリット731は透明なガラス製であり、第2スリット731の各スリット領域の下面には、各々前後方向に並んだ同ピッチのスリットがクロム蒸着により形成されている。また、360°スリット領域のスリットに対して90°スリット領域のスリットは位相が90°異なり、360°スリット領域のスリットに対して180°スリット領域のスリットは位相が180°異なり、360°スリット領域のスリットに対して270°スリット領域のスリットは位相が270°異なる。
【0015】
そして、90°スリット領域が、フォトダイオードアレイ732のAのフォトダイオードを覆い、270°スリット領域が、フォトダイオードアレイ732のinvAのフォトダイオードを覆い、180°スリット領域が、フォトダイオードアレイ732のBのフォトダイオードを覆い、360°スリット領域が、フォトダイオードアレイ732のinvBのフォトダイオードを覆うように、第2スリット731は、フォトダイオードアレイ732の下方に重ねて配置される。
【0016】
なお、貫通孔71に挿入されている第1スリット5も透明なガラス製であり、その上面には、図2b3に示すように、クロム蒸着により形成された、第2スリット731と同じピッチのスリットが前後方向に形成されている
一方、送光部72において、レンズ722は、LED721から出射された光を上方に向かう平行光に変換する。
【0017】
そして、このような検出ユニット7の構成において、送光部72から上方に出射された平行光は、貫通孔71に挿入されている第1スリット5を透過した後、第2スリット731を透過しフォトダイオードアレイ732の4つのフォトダイオードの受光面に到達し、電気信号に変換される。
【0018】
ここで、第1スリット5が前後方向に移動している場合、第1スリット5と第2スリット731の各スリット領域のスリットの作用により、フォトダイオードアレイ732では、A、B、invA、invBの4つのフォトダイオードからは、第1スリット5の移動速度に応じた周期の正弦波の電気信号が出力される。また、第2スリット731の各スリット領域のスリットの位相差に応じて、A、B、invA、invBの4つのフォトダイオードが出力する正弦波の信号の位相は、当該順序で順次90°ずつ、ずれることになる。また、これにより、(A出力-invA出力)により生成したA相信号と、(B出力-invB出力)により生成したB相信号には、90°の位相差が生じる。
【0019】
そこで、このようなA相信号とB相信号とより、第1スリット5したがってシャフト2、測定子3、測定子3が当接している被計測物の移動速度や移動方向や、これらに基づく変位を測定することができる。
さて、このような検出ユニット7において、本実施形態では、図2aに示す、第1スリット5のクロム蒸着によって形成されたスリットと、第2スリット731の各スリット領域にクロム蒸着によって形成されたスリットとのギャップ(間隔)Gを、第1スリット5と第2スリット731のスリットのピッチをp、送光部72で生成する平行光の波長をλ、0.85≦K≦0.92として、G = Kp2/λに設定する。また、さらに望ましくは、0.869≦K≦0.913とする。
【0020】
以下に、このようにギャップGを設定する理由について説明する。
図3に、ギャップGと、フォトダイオードアレイ732の出力の関係についての実験結果を示す。
図3aは、平行光の波長λを890nm、第1スリット5と第2スリット731のスリットのピッチpを20.0μmとしたときに、ギャップGを50μmから500μmまで、50μm刻みで変化させて、A相信号とB相信号のコントラストと、出力波形形状を観察した結果をまとめたものである。
【0021】
ここで、A相信号とB相信号は、前述のようにフォトダイオードアレイ732のA、B、invA、invBの4つのフォトダイオードが出力から生成されるものであり、A相信号は(A出力-invA出力)により、B相信号は(B出力-invB出力)により生成される。
また、A相信号のコントラストはA相信号の振幅の最小値AminとA相信号の振幅の最大値Amaxを用いて(Amax-Amin)/(Amax+Amin)により求め、B相信号のコントラストはB相信号の振幅の最小値BminとB相信号の振幅の最大値Bmaxを用いて(Bmax-Bmin)/(Bmax+Bmin)として求めた。
【0022】
さて、図3aに示すように、平行光の波長λを890nm、第1スリット5と第2スリット731のスリットのピッチpを20.0μmとした場合には、ギャップGが350μm、400μm、450μmのときに、A相信号とB相信号の出力波形として綺麗な正弦波が観測された。また、他のギャップGの場合には、幾分歪んだ正弦波が観測されたり、A相信号とB相信号の位相差が本来そうあるべき90°とならなかった。
【0023】
また、ギャップGが350μm、400μm、450μmのときのコントラストは、0.13から0.19と相対的に比較的良好であった。
そこで、本実験結果よりは、ギャップGが350μm、400μm、450μmの中心値となるギャップG=400μm周辺に最適なギャップGの値が存在することが導かれる。ここで、このギャップG=400μmの、従来のギャップGの理論値G = p2/λ=449.4μmに対する比率は、89%となる。
【0024】
次に、図3bは、平行光の波長λを890nm、第1スリット5と第2スリット731のスリットのピッチpを25.6μmとしたときに、ギャップGを400μmから700μmまで、50μm刻みで変化させて、A相信号とB相信号のコントラストと、出力波形形状を観察した結果をまとめたものである。
【0025】
平行光の波長λを890nm、第1スリット5と第2スリット731のスリットのピッチpを25.6μmとした場合には、ギャップGが650μmのときに、A相信号とB相信号の出力波形として綺麗な正弦波が観測された。また、他のギャップGの場合には、幾分歪んだ正弦波が観測されたり、A相信号とB相信号の位相差が本来そうあるべき90°とならなかった。
【0026】
また、ギャップGが650μmのときのコントラストは、0.24から0.25と相対的に比較的良好であった。
そこで、本実験結果よりは、650μm周辺に最適なギャップGの値が存在することが導かれる。ここで、このギャップG=650μmの、従来のギャップGの理論値G = p2/λ=736.4μmに対する比率は、88.3%となる。
したがって、以上の実験結果よりは、ギャップGの理論値G = p2/λの88から89%の値付近に最適なギャップGの値が存在することが推定される。
そこで、さらに、平行光の波長λを890nmとして、第1スリット5と第2スリット731のスリットのピッチpが12.8μm、16.0μm、32.0μmの場合のそれぞれについて同様の実験をしたところ、最も良好なA相信号とB相信号の出力が得られるギャップGと、そのギャップGの理論値p2/λに対する比率は以下のようになった。
【0027】
ピッチpが12.8μmのとき:ギャップG=184.090μm、理論値p2/λに対する比率=86.9%
ピッチpが16.0μmのとき:ギャップG=287.640μm、理論値p2/λに対する比率=86.9%
ピッチpが32.0μmのとき:ギャップG=1150.562μm、理論値p2/λに対する比率=91.3%
以上より、G = Kp2/λとして、最適なギャップGはKが 0.869≦K≦0.913となる範囲内にあり、当該範囲内でKを選択することにより良好なフォトダイオードアレイ732の出力が得られることが導かれる。また、当該事項と、図3の実験結果より、K を0.88前後の値、望ましくは、0.85≦K≦0.92の範囲でKを選択することにより、およそ良好なフォトダイオードアレイ732の出力が得られることを推認することができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明した。
なお、以上で示した実施形態は、図4a、bに示すように第1スリット5をフレーム1に固定し、シャフト2に連結した検出ユニット7を移動するように構成したリニアゲージにおいても同様に適用することができる。
また、以上の実施形態では、リニアゲージへの適用を例にとり説明したが、以上で示した第1スリット5と、検出ユニット7からなる光学式エンコーダは、第1スリット5を被計測物と共に回転させるロータリエンコーダなどの、移動速度や移動方向を計測する任意の装置に同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1…フレーム、2…シャフト、3…測定子、4…ホルダ、5…第1スリット、6…バネ、7…検出ユニット、8…カバー、71…貫通孔、72…送光部、73…受光部、721…LED、722…レンズ、731…第2スリット、732…フォトダイオードアレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出ユニットと、前記検出ユニットに対して相対的に移動する、ピッチpのスリットが設けられた第1スリットとを備え、
前記検出ユニットは、
前記第1スリットに対して、波長λの平行光を照射する送光部と、
前記第1スリットと離間して平行に配置された、前記ピッチpのスリットが設けられた第2スリットと、
前記第1スリットと前記第2スリットとを透過した平行光を検出する光電素子とを備え、
前記第1スリットと前記第2スリットとの間隔の大きさGは、0.85≦K≦0.92として、G=Kp2/λであることを特徴とする光学式エンコーダ。
【請求項2】
請求項1記載の光学式エンコーダであって、
前記第1スリットと前記第2スリットとの間隔の大きさGは、0.869≦K≦0.913として、G=Kp2/λであることを特徴とする光学式エンコーダ。
【請求項3】
請求項1または2記載の光学式エンコーダと、
フレームと、前記第1の方向に移動可能に前記フレームに支持されたシャフトとを有し、
前記検出ユニットは前記フレームに固定され、前記第1スリットは前記シャフトに固定されていることを特徴とするリニアゲージ。
【請求項4】
請求項1または2記載の光学式エンコーダと、
フレームと、前記第1の方向に移動可能に前記フレームに支持されたシャフトとを有し、
前記検出ユニットは前記シャフト固定され、前記第1スリットは前記フレームに固定されていることを特徴とするリニアゲージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−123021(P2011−123021A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283098(P2009−283098)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】