説明

光学式エンコーダ装置

【課題】本発明は、受光手段により検出された変位信号の高調波成分を、従来より少ないスリットパターン数で、変位信号の振幅低下を低減しつつ、より効果的に除去することができる光学式エンコーダ装置を提供する。
【解決手段】本発明による光学式エンコーダ装置は、第2のスリットに設けられているスリットパターンが、2つのスリットパターンを有し、各パターン部の透過部は互いに第1のスリットのピッチの1/3の透過スリット幅をもち、かつ互いに1/12の位相差をもち、高調波成分を効果的に除去されるように配置されていることを特徴とする光学式エンコーダ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式エンコーダ装置に関し、特に、受光手段から得られる信号の高調波成分を除去するための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
図6A(a)は光学式エンコーダ装置の一例を示す斜視構造図であり、第1スリット1に対して図示矢印方向に相対移動する第2スリット2が第1スリットの後方に配置され、光電変換素子3が第2スリット2の後方に各々配置されている。第1スリット1及び第2スリット2には、光を透過させる部分(以下、透過部という)及び透過させない部分(以下、非透過部という)が所定の長さ(以下、スリットピッチという)で繰返されているパターン部が設けられている。
【0003】
このような構成において、平行光束Lを第1スリットに照射すると、第1スリット1及び第2スリット2を透過した光が光電変換素子3に入射する。そして、光電変換素子3は入射光をその光強度に応じた電気信号に変換して出力する。この電気信号は、第1スリット1と第2スリット2との相対変位によって第1スリット1及び第2スリット2を透過する光量が変化することにより得られるものであり、その周期がスリットピッチの変位信号である。この変位信号は、本来、第1スリット1と第2スリット2との重なり具合により発光側から見た見掛け上の透過部の変化に比例した三角波信号となるはずであるが、実際には光の回折等により三角波が鈍って疑似正弦波となっている。そして、この疑似正弦波を変位信号に利用して位置検出が行われている。
【0004】
また、上述した従来の光学式エンコーダで得られる変位信号はフーリエ級数で表され下記(1)式となる。
【0005】
【数1】

【0006】
この変位信号は第1スリット1と第2スリット2との間隙が変化すると上記高調波成分の影響により大きく歪んでしまう。この変位信号の歪みは下記歪み率で表される。
【0007】
【数2】

【0008】
この変位信号の歪みは主に3次高調波、5次高調波、7次高調波といった低次の高調波成分によるものである。従って、このような変位信号を利用して求めた位置検出値は大きな誤差を伴っていた。
【0009】
そこで、歪成分を除去するためにスリットを半径方向に分割し、分割したスリットを所定の位相差を有して配置することでn次の歪成分を除去する光学式エンコーダが提案され
ている(特許文献1参照)。特許文献1には図7に示す第2スリットに設けられているスリットパターンを、図8に示すように2C,2D,2E,2Fの透過パターンが1組となって前記第1スリットのピッチで繰返し配設し、前記2Cの透過パターンに対して、前記2D,2E,2Fの透過パターンは、それぞれ前記第1スリットのピッチの1/12,1/6,1/4の位相差をもった間隔で配置され、受光手段により検出された信号の高調波成分を効果的に除去されるように構成されたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−218603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
第1スリットと相対変位する第2スリットの両スリットより得た透過光を検出する受光手段を有する光学式エンコーダでは、上述した従来の光学式エンコーダで得られる変位信号は、主に3次高調波、5次高調波、7次高調波といった低次の高調波成分を含み、その結果、このような変位信号を利用して求めた位置検出値は大きな誤差を伴っていた。
【0012】
特許文献1の第2スリット2は、スリット部が従来の光学式エンコーダと異なり、図8に示すようにピッチPで繰返す透過部と非透過部(図示黒色部)とで成るスリット部2C,2D,2E,2Fが配設されている。そして、スリット部2D,2E,2Fはスリット部2Cを基準とするとそれぞれの位相がP/12,P/6,P/4ずれている。
【0013】
これにより、高調波成分の除去は可能となる。しかし、図8に示すように2Cから2Fのスリットパターンに位相のズレがあるため、2Cのスリット端から2Fのスリット端までのスリット幅が3P/4(=P/2+P/4)となり、第1スリットの透過部と非透過部の比率は1:1のため、第1スリットの透過部の幅であるP/2より大きくなる。
【0014】
そのため、図9(a)に示すように従来、変位信号が最大値を示す場合において、第1のスリットを透過した光が第2スリットを全て透過できず、従来と比べ変位信号の最大値が低下する。この低下量は従来の変位信号の最大値の25%となる。また、図9(b)に示すように変位信号が最小値を示す場合においても、第1スリットの非透過部に隣接する透過部を透過した光が第2スリットを透過し、従来と比べ変位信号の最小値が増加する。この増加量は従来の変位信号の最小値の25%となる。よって、図9(c)に示すように第2スリットに位相のズレが無い従来の高調波を除去しない場合より、光電変換素子にて検出される変位信号の振幅が50%低下するという課題があった。
【0015】
また通常、検出される変位信号はノイズの影響を受けて、変位信号波形にノイズが重畳されてしまう。この場合、図6A(b)に示すように180度位相差を持つよう、第2スリットを2−1と2−2を配置し、図6B(c)に示すような回路構成にて差動増幅信号を生成し、ノイズの影響を低減しているが、平行光束の光強度の分布が不均一となると変位信号の振幅に振幅差が生じ、図6B(d)に示すように差動増幅信号の振幅中心が基準電圧からずれてしまい、光強度の分布の調整による振幅値の中心の調整を必要とし、かつ第2スリットを2つ必要とする為、工数、部品点数、およびコストが増加するという課題があった。
【0016】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものにおいて、その目的は、変位信号の高調波成分を効果的に除去すると共に、変位信号の最大値の低下および最小値の増加を低減でき、変位信号の振幅低下を低減することができる光学式エンコーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するため、第1の発明は、第1のスリットと相対変位する第2のスリットの両スリットより得た透過光を検出する受光手段を有する光学式エンコーダ装置において、前記第2のスリットに設けられているスリットパターンは、2つのスリットパターンを有し、各々のパターン部は透過部と非透過部の比率が前記第1のスリットのピッチに対し1:2とし、かつ互いに前記第1のスリットのピッチの1/12の位相差となるように構成されている。
【0018】
なお、第1および第2の透過パターンが、第1のスリットの半径方向に沿ってならび1組となって前記第1のスリットのピッチの同じ周期で繰返し配置され、前記第1の透過パターンに対して、前記第2の透過パターンが前記第1のスリットのピッチの1/12の位相差をもった間隔で配置されるよう構成されている。
【0019】
このような構成により、透過部と非透過部の比率が前記第1のスリットのピッチに対し1:2となるように構成することにより、3次高調波成分が除去できる。また、1/12の位相差となるように2つのスリットを配置することで、5次,7次の高調波成分が低減できる。
【0020】
また、第2のスリットの透過部と非透過部の比率を1:2とすることで透過部の幅は第1のスリットピッチの1/3となり、前記第1のスリットのピッチの1/12の位相差をもつ2つのスリットパターンを合わせた透過部の幅は、前記第1のスリットのピッチの5/12(=1/3+1/12)となる。これは、前記第1のスリットのピッチの透過部の幅が1/2より小さく、前記第1のスリットを透過した光は全て第2スリットを透過することができ、約33%の最大値の低下となるが、前記第1のスリットの非透過部に隣接する透過部を透過した光が前記第2のスリットを透過し、変位信号の最小値を増加させることはない。したがって、受光手段により検出された変位信号の振幅低下を33%の低減に抑えることができ、かつ、高調波成分を効果的に除去することができる。
【0021】
第2の発明は、第2のスリットの透過部の幅は、前記第1のスリットのピッチの5/12であり、前記第1のスリットのピッチの透過部の幅が1/2より小さいため、ノイズの影響を低減するために180度の位相差を持った2つの変位信号を1つの第2スリットで実現し差動増幅信号を生成するように構成されている。
【0022】
このような構成により、2つの変位信号を生成する第2のスリットの透過部を隣接して配設することが可能となり、平行光束の光強度分布が不均一になっても光強度の差異が緩和され、2つの変位信号の振幅値がほぼ同一値となり、差動増幅後の変位信号の振幅値の中心と基準電圧のズレを抑制することができる。
【0023】
第3の発明は、第1の発明では第1および第2の透過パターンが第1のスリットの半径方向に沿ってならび1組となっているのに対して、本発明は、第1および第2の透過パターンが、第1のスリットの移動方向に沿ってならび1組となって前記第1のスリットのピッチと2倍の周期で繰り返し配置され、前記第1の透過パターンに対して、前記第2の透過パターンが前記第1のスリットのピッチの1/12の位相差をもった間隔で配置され構成されている。この発明においても、検出される変位信号の振幅低下を低減することができ、また、高調波成分を効果的に除去することができる。
【0024】
第4の発明は、第2の発明と同様に、ノイズの影響を低減するために180度の位相差を持った2つの変位信号にて差動増幅信号を生成することを1つの第2スリットで実現することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、受光手段により検出された変位信号の振幅低下を低減し、また、高調波成分を効果的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)本発明の一実施形態を示す斜視構造図、(b)本発明の一実施形態を示す斜視構造図
【図2】(a)本発明の一実施形態における第2スリット部の一例の図、(b)本発明の一実施形態における第2スリット部の一例の図
【図3】(a)本発明の一実施形態における変位信号波形、(b)合成信号より得られる「(a)」と同値の信号波形、(c)本発明より得られる変位信号波形図
【図4】本発明の一実施形態における変位信号波形の振幅の図
【図5】本発明の一実施形態における第2スリット部の他の一例の図
【図6A】(a)従来の斜視構造図、(b)従来の180度位相差を持つ2信号の斜視構造図
【図6B】(c)増幅信号の回路構成例、(d)電気信号の振幅が一定でない場合の増幅信号の図
【図7】従来の高調波成分を除去可能な構成の斜視構造図
【図8】従来の高調波成分を除去可能なスリット部の一例の図
【図9】(a)従来の高調波成分を除去可能なスリット部での変位信号が最大値を示す場合の模式図、(b)従来の高調波成分を除去可能なスリット部での変位信号が最小値を示す場合の模式図、(c)は従来の高調波成分を除去可能なスリット部での変位信号の振幅の図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。図1は本発明の光学式エンコーダの第1の実施例を図6A、図6B、図7に対応させて示す斜視構造図であり、同一構成箇所は同符号を付して説明を省略する。この光学式エンコーダは第2スリット2に設けられているスリット部が従来の光学式エンコーダと異なり、図2(a)に示すようにピッチPで繰返す透過部(図示斜線部)と非透過部とで成る透過スリット部2A、透過スリット部2Bが配設されている。そして、透過スリット部2A、透過スリット部2Bは、各々透過部と非透過部の比率を1:2としており、また、透過スリット部2Bは透過スリット部2Aを基準とするとそれぞれの位相がP/12ずれている。
【0028】
次に上記のように構成された光学式エンコーダ装置の作用を説明する。
【0029】
このような構成において、例えば透過スリット部2Aを透過して来た光量の変化、即ち変位信号IA(x)は、図3(a)に示すような台形波となる。透過率100%が台形波の山の上面で透過率0%が台形波の谷の下面となり、台形波の上面、下面がそれぞれπ/3の位相となる。変位信号IA(x)は、式(1)で示される従来の光学式エンコーダで得られる変位信号のうち、主成分である基本波成分と3次高調波成分と5次高調波成分と7次高調波成分に着目すると、図3(b)に示すように、式(2)で示される変位信号f(x)と、式(3)で示したπ/3の位相をもつ変位信号f’(x)を合成した式(4)で示される。
【0030】
【数3】

【0031】
【数4】

【0032】
【数5】

【0033】
これに対して各スリット部2Bを透過して来た光の変化は、図3(c)に示すようにスリット部2Bがスリット部2Aに対してP/12だけ位相がずれた次式(5)で示される変位信号IB(x)となる。
【0034】
【数6】

【0035】
従って、各スリット部2A,2Bを同面積にして同光量が透過するようにし、各スリット部2A,2Bを透過して来た光を光電変換するようにすればそれぞれの光を加算したことになり、下記(6)式に示す式が算出される。
【0036】
【数7】

【0037】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
【0038】
各スリット部2A,2Bを同面積にして同光量が透過するようにし、各スリット部2A,2Bを透過して来た光を光電変換するようにすればそれぞれの光を加算したことになり、式(6)に示すように3次高調波が相殺される。本実施例での7次高調波成分までの変位信号の歪み率は、計算上1.2%となり従来の提案での7次高調波成分までの歪み率と同等の結果となり歪み率を改善できる。
【0039】
また、スリット部2A端からスリット部2B端までのスリット幅が5P/12であり、第1スリットの透過部のスリット幅P/2より小さいため、変位信号の振幅低減を抑制した精度の高い変位信号を得ることができる。
【0040】
図2(a)に示す実施例は、第2のスリットのスリットパターンを半径方向に分割したものであるが、半径方向の各スリットパターンを連結せずに個々のスリットパターンとしても同様の効果が得られる。
【0041】
また、ノイズの影響を低減するために180度の位相差を持った2つの変位信号にて差動増幅信号を生成する場合、本発明では図2(b)に示すように、図2(a)にて検出される変位信号をa、180度の位相差を有する変位信号を/aとすると、aおよび/aを隣接して配設すると共に、図1(b)に示すように光電変換素子を櫛形に配置し、櫛形の上下の光電変換素子の配置のピッチは第2スリットのaおよびa/の配置に合わせ、P/2とする。このような構成により、2つの変位信号を隣接して配設することにより、平行光束の光強度分布が不均一になっても光強度の差異が緩和され、aおよび/aの変位信号の振幅値を同一値とし、差動増幅後の変位信号の基準電圧からのずれを抑制することができる。
【0042】
また、図5の実施例に示すように第2スリットのスリットパターンを移動方向に分割しても同様の効果が得られる。
【0043】
なお、上述した実施例ではロータリ型の光学式エンコーダ装置について述べたものであるが、リニア型のエンコーダ装置についても同様の効果を呈する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明による光学式エンコーダ装置は、ロータリ型およびリニア型に適用でき、高調波成分を効果的に除去することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 第1スリット
2 第2スリット
2A、2B 透過スリット部
3 光電変換素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスリットと相対変位する第2のスリットの両スリットより得た透過光を検出する受光手段を有する光学式エンコーダ装置において、
前記第2のスリットに設けられているスリットパターンは、第1および第2の透過パターンが、第1のスリットの半径方向に沿ってならび1組となって前記第1のスリットのピッチの同じ周期で繰返し配置され、
前記第1の透過パターンに対して、前記第2の透過パターンが前記第1のスリットのピッチの1/12の位相差をもった間隔で配置され、
第1および第2の透過パターンは透過部と非透過部の比率が前記第1のスリットのピッチに対し1:2であることを特徴とする光学式エンコーダ装置。
【請求項2】
第1のスリットと相対変位する第2のスリットの両スリットより得た透過光で、互いに180度の位相差をもった2つの変位信号を検出する受光手段を有する光学式エンコーダ装置において、
前記第2のスリットに設けられているスリットパターンは、第1および第2の透過パターンが、第1のスリットの半径方向に沿ってならび1組となって前記第1のスリットのピッチの1/2の周期で繰返し配置され、
前記第1の透過パターンに対して、前記第2の透過パターンが前記第1のスリットのピッチの1/12の位相差をもった間隔で配置され、
第1および第2の透過パターンは透過部と非透過部の比率が前記第1のスリットのピッチに対し1:2であることを特徴とする光学式エンコーダ装置。
【請求項3】
第1のスリットと相対変位する第2のスリットの両スリットより得た透過光を検出する受光手段を有する光学式エンコーダ装置において、
前記第2のスリットに設けられているスリットパターンは、第1および第2の透過パターンが、第1のスリットの移動方向に沿ってならび1組となって前記第1のスリットのピッチと2倍の周期で繰り返し配置され、
前記第1の透過パターンに対して、前記第2の透過パターンが前記第1のスリットのピッチの1/12の位相差をもった間隔で配置され、
第1および第2の透過パターンは透過部と非透過部の比率が前記第1のスリットのピッチに対し1:2であることを特徴とする光学式エンコーダ装置。
【請求項4】
第1のスリットと相対変位する第2のスリットの両スリットより得た透過光で、互いに180度の位相差をもった2つの変位信号を検出する受光手段を有する光学式エンコーダ装置において、
前記第2のスリットに設けられているスリットパターンは、第1および第2の透過パターンが、第1のスリットの移動方向に沿ってならび1組となって前記第1のスリットのピッチと同じ周期で繰り返し配置され、
前記第1の透過パターンに対して、前記第2の透過パターンが前記第1のスリットのピッチの1/12の位相差をもった間隔で配置され、
第1および第2の透過パターンは透過部と非透過部の比率が前記第1のスリットのピッチに対し1:2であることを特徴とする光学式エンコーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−83465(P2013−83465A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221615(P2011−221615)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】