説明

光学機器用絞り装置

【課題】絞り駆動リングを用いて複数枚の絞り羽根を同時に同じ方向へ往復回転させて絞り開口を制御する絞り装置であって、個体差調整を、組立完了後に羽根室外で簡単に行えるようにした光学機器用絞り装置を提供すること。
【解決手段】地板1とカバー板2との間に構成された羽根室に、絞り駆動リング6と3枚の絞り羽根7,8,9が配置されている。地板1の羽根室外には、電磁アクチュエータM1が取り付けられていて、回転子14と一体の腕部14aに設けられた出力ピン14cが、羽根室内で絞り駆動リング6の長孔6dに嵌合している。地板1には、出力ピン14cを羽根室に挿入させるための長孔1eの長さ方向の両側に、偏心部材10,11を取り付けていて、それらを回転させて腕部14aの当接位置を変えることにより、最大絞り開口と最小絞り開口の個体差調整が可能になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の絞り羽根が、絞り駆動リングによって同時に同じ方向へ往復回転させられ、協働して形成する絞り開口の大きさを連続的又は段階的に変化させるようにした光学機器用絞り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数枚の絞り羽根が、絞り駆動リングによって同時に同じ方向へ往復回転させられ、協働して形成する絞り開口の大きさを連続的又は段階的に変化させるようにした絞り装置であって、絞り駆動リングの駆動源として、回転子の回転を所定の回転角度範囲内における任意の位置で停止させ得るようにした電流制御式の電磁アクチュエータを用いているものが、下記の特許文献1に記載されている。そして、この絞り装置は、特許文献1においては、主にプロジェクタに採用されるものとして記載されているが、種々のカメラに採用することも可能なものである。
【0003】
また、複数枚の絞り羽根が、絞り駆動リングによって同時に同じ方向へ往復回転させられ、協働して形成する絞り開口の大きさを連続的又は段階的に変化させるようにした絞り装置であって、絞り駆動リングの駆動源として、ステップモータを用いているものが、下記の特許文献2に記載されている。そして、この絞り装置は、特許文献2においては、種々のカメラに採用されるものとして記載されているが、プロジェクタに採用することも可能なものである。また、この絞り装置の場合は、製作上での個体差によって絞り駆動リングの回転開始位置(初期位置)が微妙に異なってしまうのを調整するために、絞り駆動リングの回転開始位置を直接調整するために偏心部材(偏心軸)を備えている。
【0004】
本発明は、特許文献1に記載されている種類の電磁アクチュエータを駆動源として採用した絞り装置であって、特許文献2に記載されているような偏心部材を利用することによって、製作上の個体差で生じる絞り駆動リングの絞り開口制御位置のずれを好適に調整できるようにした光学機器用の絞り装置に関するものである。
【0005】
【特許文献1】特開2006−251333号公報
【特許文献2】特開2002−258347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2に記載されている絞り装置は、絞り駆動リングの駆動源がステップモータであるため、各絞り開口は、絞り駆動リングの初期位置を基準にして与えられるパルス数に対応して制御される。それゆえ、例えば、初期位置を最大絞り開口の制御位置とした絞り装置の場合において、組立完了後にテストしたところ、最小絞り開口の制御位置は基準どおりに得られたが、最大絞り開口の制御位置が基準位置からずれていたとき、偏心部材によって最大絞り開口の制御位置を単純に基準位置に合わせようとすると、逆に、最小絞り開口の制御位置が基準位置からずれてしまうことになる。しかも、その場合には、他の中間の絞り開口の制御位置もずれることになる。そのため、全ての絞り開口制御位置を全体的に基準位置に近似させることは容易でない。そして、これと同じようなことは、特許文献1に記載されている電流制御式の電磁アクチュエータを駆動源とした場合にも言えることである。
【0007】
また、特許文献2に記載されている絞り装置の場合には、ステップモータと絞り駆動リングとの間に歯車を介在させていることから、偏心部材によって絞り駆動リングの初期位置を直接的に調整する必要があって、偏心部材を羽根室内に取り付けている。そのため、組立完了後のテストで不具合が判明した場合には、地板から、地板との間に羽根室を構成しているカバー板を取り外さなければ、調整作業をすることができないという問題点もある。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、複数枚の絞り羽根を同時に同じ方向へ往復回転させて絞り開口の大きさを連続的又は段階的に変化させるようにした絞り駆動リングを、電流制御式の電磁アクチュエータによって往復回転させるようにした絞り装置において、羽根室内にある絞り駆動リングの最大絞り開口制御位置と最小絞り制御位置とを、組立完了後の状態において羽根室外で適切に調整することができると共に、それによって複数の中間絞り開口制御位置も適切に得られるようにした光学機器用絞り装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の光学機器用絞り装置は、各々が光軸を中心にした円形の開口部を有していて両者の間に羽根室を構成している地板及びカバー板と、羽根室内において各々が光軸を中心にして略等角度間隔となる位置で前記地板又はカバー板に対し回転可能に取り付けられている複数枚の絞り羽根と、光軸を中心にして略等角度間隔に形成された複数のカム溝と一つの長孔とを有していて羽根室内において光軸を中心にして回転可能に配置されており該複数のカム溝には前記各絞り羽根の連結ピンを個別に嵌合させている絞り駆動リングと、永久磁石を有していて所定の角度範囲で回転する回転子と該回転子から径方向へ張り出して一体的に形成されている腕部と該腕部に設けられた出力ピンと該回転子を軸受けしていて該回転子の回転位置検出手段を備えている固定子枠と該固定子枠に巻回された少なくとも一つの固定子コイルとを有していて前記地板の羽根室外の面に取り付けられており該出力ピンを羽根室内に挿入し前記絞り駆動リングの前記長孔に嵌合させている電磁アクチュエータと、前記腕部又は前記出力ピンの作動軌跡の略両端近傍部で前記地板の羽根室外の面に取り付けられており製作時において個別に回転させられることによって前記腕部又は前記出力ピンとの当接位置を変え前記回転子の回転角度範囲の両端位置を規制可能にしている二つの偏心部材と、を備えているようにする。その場合、前記二つの偏心部材は、少なくとも一方が、前記固定子枠に取り付けられているようにしてもよい。
【0010】
また、前記地板は、前記出力ピンを羽根室内に挿入させるための長孔を有していて、前記固定子枠は、該長孔の長手方向の両端近傍部に個別に張り出した二つの張出部を有しており、前記二つの偏心部材は、それらの張出部に取り付けられているようにしてもよい。更に、前記固定子枠は、前記出力ピンを挿入させるための長孔を有しており、前記二つの偏心部材は、該長孔の両端近傍部に個別に取り付けられているようにしてもよい。
【0011】
更に、本発明においては、前記出力ピンが前記地板の羽根室外に配置されていて、前記地板には、駆動ピンを有していて前記出力ピンの作動に連動して往復回転させられる仲介部材が取り付けられており、該駆動ピンが、羽根室内に挿入され前記絞り駆動リングの前記長孔に嵌合させられているようにしてもよい。その場合、前記二つの偏心部材は、前記仲介部材に当接されるようにし、その当接位置を変えることによって、前記回転子の回転角度範囲の両端位置を規制するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、複数枚の絞り羽根を同時に同じ方向へ往復回転させて絞り開口の大きさを連続的又は段階的に変化させるようにした絞り駆動リングを、電流制御式の電磁アクチュエータによって往復回転させるようにした絞り装置において、電磁アクチュエータの回転子の回転角度範囲の両端位置を、装置の外部に取り付けられていて回転子の往復回転のストッパとなる二つの偏心部材を回転させることによって調整しつつ、羽根室内にある絞り駆動リングの最大絞り開口制御位置と最小絞り開口制御位置との両方を間接的に調整するようにしたものであるから、装置を分解することなく、組立て完了状態のまま絞り駆動リングの回転角度範囲を調整することが可能であると共に、固定子枠に取り付けられている回転位置検出手段が回転子の回転位置を検出することによって、複数の中間絞り開口も好適に制御することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態を、図示した二つの実施例によって説明する。上記のように、本発明の光学機器用絞り装置は、プロジェクタ用の絞り装置とすることも、カメラ用の絞り装置とすることも可能なものであるが、二つの実施例は、いずれも、カメラ用の絞り装置として構成したものである。また、カメラ用の絞り装置の場合には、それらの実施例のように、単体の絞り装置として構成される場合のほか、シャッタ装置と共に一つのユニットとして構成されることも良く知られている。そのため、本発明の光学機器用絞り装置には、そのようにシャッタ装置と共にユニット化した絞り装置も含まれる。尚、図1〜図5は、実施例1を説明するためのものであり、図6〜図10は、実施例2を説明するためのものである。
【実施例1】
【0014】
図1〜図5を用いて本発明の実施例1を説明する。図1は、最大絞り開口の制御状態を示した平面図であり、図2は、図1の一部拡大図である。また、図3は、本実施例に用いられている電磁アクチュエータを、フレキシブルプリント配線板を取り除いた状態で示した平面図であり、図4は、本実施例の一部を断面で示した図である。更に、図5は、最小絞り開口の制御状態を示した平面図である。尚、図1は、羽根室内の一部が見えるようにするために、地板の一部を破断して示してある。
【0015】
先ず、本実施例の構成を説明する。地板1とカバー板2は、合成樹脂製であって略同じ平面形状をしており、カバー板2を三つのビス3,4,5によって地板1に取り付け、地板1とカバー板2との間に羽根室を構成している。また、地板1とカバー板2の略中央部には、光軸を中心にして円形の開口部1a,2aが重なるようにして形成されており、外周近傍部の3箇所には、カメラ本体への取付孔1b,1c,1d,2b,2c,2dが重ねて形成されている。
【0016】
また、地板1には、羽根室まで貫通した円弧状の長孔1eが形成されている。そして、表面側には、図2において主として破線でL字形に示されている取付部1fと、破線だけで示されている円柱状の取付部1gとが、手前側に高くなるようにして形成されている。更に、地板1の羽根室側の面には、開口部1aの縁に沿って筒部1hが形成されているほか、三つの羽根取付軸1i,1j,1kが立設されている。図4には、それらのうちの羽根取付軸1iが示されていて、その先端を、カバー板2の孔2eに挿入しているが、他の羽根取付軸1j,1kの場合も同様であって、それらの先端を夫々の孔に挿入している。
【0017】
羽根室内には、絞り駆動リング6と、3枚の絞り羽根7,8,9が配置されている。それらのうち、絞り駆動リング6は、光軸を中心にして略等角度間隔に形成された三つのカム溝6a,6b,6cと長孔6dとを有していて、上記の筒部1hの周りで光軸を中心にして回転可能になっており、光軸に沿った方向の移動は、図4に示されているように、地板1の外周部に沿って形成された突条部1mの先端と、カバー板2の外周部に沿って形成された突条部2fの先端とによって制限されている。
【0018】
3枚の絞り羽根7,8,9は、全く同じ形状をしており、図4に示されている絞り羽根7のように、一体化されている管部材を上記の羽根取付軸1i,1j,1kに回転可能に嵌合させている。また、これらの絞り羽根7,8,9には連結ピン7a,8a,9aが設けられていて、それらを絞り駆動リング6のカム溝6a,6b,6cに嵌合させている。
【0019】
尚、本実施例の場合は、絞り羽根を3枚備えているが、絞り駆動リング6のカム溝の数を増やすことによって、4枚以上にしても差し支えない。また、本実施例の場合は、3枚の絞り羽根7,8,9を、いわゆる編み込み式といわれている方法で組み付けている。即ち、全ての絞り羽根の先端が、隣接している地板1側の絞り羽根に対して、必ずカバー板2側となるようにして重ねられている。しかしながら、本発明は、このような構成に限定されず、全ての絞り羽根を、地板1側から順に、単純に重ねた構成にしてもよい。
【0020】
地板1の羽根室外の面には、電磁アクチュエータM1とフレキシブルプリント配線板Pとが順に取り付けられているほか、円弧状をした長孔1eの長さ方向の両端近傍部には、二つの偏心部材10,11が取り付けられている。そこで、それらの具体的な取付け構成を、図2〜図4を用いて詳しく説明する。
【0021】
本実施例の電磁アクチュエータM1の構成は、基本的には、例えば、特開2004−93874号公報に記載の第1実施例に用いられているものと似ている。即ち、コップ状をしている第1固定子枠12と比較的板状をしている第2固定子枠13との間に収容室が構成されており、永久磁石を有する回転子14は、その収容室内に配置され、それらの固定子枠12,13に軸受けされている。そして、この回転子14は、略径方向へ張り出して一体的に形成した合成樹脂製の腕部14aと、その腕部14aの先端に設けた合成樹脂製の出力ピン14bとを有しており、腕部14aの大部分と出力ピン14bとは、収容室外に存在するようになっている。
【0022】
また、図3に示されているように、固定子枠12,13の外部には、それらの軸受け部を囲むようにして二つの固定子コイル15,16が一緒に巻回されている。そして、それらの固定子コイル15,16の両端は、第1固定子枠12に設けられた四つの端子ピン12a,12b,12c,12dに夫々巻き付けられている。また、第1固定子枠12には、固定子コイル15,16をも包囲するようにして円筒形をしたヨーク17が嵌装されている。
【0023】
また、図3に示されているように、第2固定子枠13には周辺に四つの張出部13a,13b,13c,13dが形成されており、電磁アクチュエータM1は、この第2固定子枠13の張出部13a,13cに形成されている二つの孔13e,13fを利用し、二つのビス18,19によって地板1に取り付けられているが、その取付け状態においては、回転子14の出力ピン14bが、地板1の円弧状の長孔1eから羽根室内に挿入されており、羽根室内で絞り駆動リング6の長孔6dに嵌合するようになっている。
【0024】
尚、本実施例では、上記のように、固定子枠12,13に二つの固定子コイル15,16を巻回している。一般にこのように構成した場合は、一方の固定子コイル15に電流を供給すると、その電流値に対応して回転子14を時計方向へ回転させる力が生じ、他方の固定子コイル16に電流を供給すると、その電流値に対応して回転子14を反時計方向へ回転させる力が生じるようになっていて、回転子14は、それらの力がバランスした位置で停止させられるようになっている。しかしながら、上記の特開2004−93874号公報にも記載されているように、固定子コイルを一つだけ巻回していても、回転子を所定の回転位置で停止させ得ることも知られている。従って、本発明の電磁アクチュエータは、いずれの構成を採用したものであっても構わない。
【0025】
フレキシブルプリント配線板Pには、硬質のプリント配線板20が半田付けされている。また、そのプリント配線板20には、回転子14の回転位置検出手段として、ホール素子21が取り付けられている。そして、フレキシブルプリント配線板Pは、図3に示されている第1固定子枠12の凹部12eに硬質のプリント配線板20を差し込んで、ホール素子21を回転子14の周面に対向させ、且つ四つの孔に上記の端子ピン12a,12b,12c,12dを貫通させてから、二つのビス22,23によって、地板1の上記の取付部1f,1gに取り付けられ、その後、端子ピン12a,12b,12c,12dを半田付けしている。尚、図1及び図5においては、硬質のプリント配線板20とホール素子21の図示を省略してある。
【0026】
長孔1eの長さ方向の両端近傍位置に取り付けられている二つの偏心部材10,11は、全く同じ形状をしており、通常、偏心ピンと言われているものである。これらの偏心部材10,11は、円柱形をした頭部10a,11aと、それらの偏心位置に設けられたピン10b,11bとからなっており、頭部10a,11aの頂面には、スリワリ10c,11cとマーク孔10d,11dが形成されている。そして、それらの偏心部材10,11は、ピン10b,11bを、地板1に形成された二つの基準孔1nに夫々嵌合させているが、図4には、それらの二つの基準孔1nのうち、偏心部材10のピン10bを嵌合させている基準孔1nが示されている。尚、本実施例の偏心部材10,11は、偏心ピンとして製作されているが、本発明の偏心部材は、偏心ねじであっても構わない。そして、このことは、実施例2の場合も同じである。
【0027】
本実施例は以上のような構成をしているが、ここで、本実施例における個体差調整方法を説明する。本実施例における個体差調整は、図1に示されているような全ての構成部材の組立完了状態において、羽根室外で行なえるという特徴がある。先ず、偏心部材10,11を、図2に示すように、マーク孔10d,11dがスリワリ10c,11cの同じ側に位置するようにしておき、回転子14の腕部14aが頭部10a,11aに接触したとき、スリワリ10c,11cが腕部14aと略平行になるようにしておく。この状態が、偏心部材10,11にとっての、回転子14の基準の回転角度範囲の規制状態である。即ち、この状態にある偏心部材10の頭部10aに回転子14の腕部14aが接触しているときには、3枚の絞り羽根7,8,9が正規の最大絞り開口制御位置にあるはずであるし、偏心部材11の頭部11aに回転子14の腕部14aが接触しているときには、3枚の絞り羽根7,8,9が正規の最小絞り開口制御位置にあるはずであるということである。
【0028】
ところが、実際には、部品加工や組立加工の影響で個体差が生じてしまう。そこで先ず、偏心部材10の頭部10aに回転子14の腕部14aが接触した状態で、正規の最大絞り開口が得られていないときは、偏心部材10を正規の最大絞り開口が得られる位置まで所定の方向へ回転させ、接着剤で固定する。その後、偏心部材11の頭部11aに回転子14の腕部14aが接触した状態にし、その状態で正規の最小絞り開口が得られていないときは、偏心部材11を正規の最小絞り開口が得られる位置まで所定の方向へ回転させ、接着剤で固定する。この調整によって、ホール素子21による回転子14の検出状態も変わることになるため、調整後の回転子14の回転角度範囲に対応して、中間絞り開口も適切に検出できるように、検出回路も調整するようにする。
【0029】
このように、本実施例は、二つの偏心部材10,11が、いずれも地板1に取り付けられている。そのため、ホール素子21のような回転位置検出手段を備えた電流制御式の電磁アクチュエータであって、地板に対する取り付け方にさえ問題がないものであるならば、本実施例の電磁アクチュエータM1とは若干異なる仕様の電磁アクチュエータであっても適用することができるので、特に修理のときなどは、それらの仕様の電磁アクチュエータを交換部品として使用することも可能であるという特徴がある。
【0030】
尚、本実施例の場合には、偏心部材10,11の頭部10a,11aに回転子14の腕部14aを当接させるようにしているが、出力ピン14bを当接させるようにしても構わない。また、本実施例の場合には、磁気感応素子であるホール素子21によって、回転子14の回転位置を検出するようにしているが、他の磁気感応素子や光電センサを用いても回転子14の回転位置を検出することが可能である。そのため、本発明の回転位置検出手段は、本実施例のようなホール素子21に限定されるものではない。そして、このことは、下記の実施例2の場合も同じである。
【0031】
次に、本実施例の作動を、図1及び図5を用いて簡単に説明する。図1は、撮影開始前の状態であって、3枚の絞り羽根7,8,9が開口部1aを全開にしている状態、即ち最大絞り開口の制御状態を示したものである。被写体光が、所定のお軽さの場合又は所定の明るさよりも暗い場合には、このままで撮影が行われるが、被写体光が、所定の明るさよりも明るい場合には、電磁アクチュエータM1の回転子14が反時計方向へ回転させられる。それにより、出力ピン14bが絞り駆動リング6を時計方向へ回転させるので、3枚の絞り羽根7,8,9は、連結ピン7a,8a,9aをカム溝6a,6b,6cに押され、同時に反時計方向へ回転させられて開口部1a内に進入し、それらの協働によって絞り開口を小さくしていく。
【0032】
そして、本実施例の絞り装置がスチルカメラに採用されている場合は、所定の絞り開口が得られたところで回転子14が停止し、その後、撮影が行われることになるし、ムービーカメラに採用されている場合は、被写体光の変化に対応して、回転子14が時計方向へ回転させられたり反時計方向へ回転させられたりして、常に適正な露光条件での撮影が行われるように絞り開口を変化させることになる。図5は、そのようにして、回転子14の腕部14aが偏心部材11に当接し、3枚の絞り羽根7,8,9が、最小絞り開口の制御位置に達した状態を示したものである。
【0033】
このようにして、撮影が終了すると、回転子14は、時計方向へ回転させられ、出力ピン14bによって絞り駆動リング6を反時計方向へ回転させる。そのため、3枚の絞り羽根7,8,9は、同時に時計方向へ回転させられる。そして、それらの回転は、回転子14の腕部14aが偏心部材10に当接することによって停止させられる。その後、電磁アクチュエータM1に対する通電を断つと、図1に示された撮影開始前の状態に復帰したことになる。尚、本実施例は、図1が撮影開始前の状態であることにして説明したが、図5に示された状態を撮影開始前の状態にしてもよいことは言うまでもない。
【実施例2】
【0034】
次に、図6〜図10を用いて実施例2を説明する。図6は、最大絞り開口の制御状態を示した平面図であり、図7は、図6の一部拡大図である。また、図8は、本実施例に用いられている電磁アクチュエータを、フレキシブルプリント配線板を取り除いた状態で示した平面図であり、図9は、本実施例の一部を断面で示した図である。更に、図10は、組立調整後の状態の一例を図7と同様にして示した一部拡大図である。尚、図6は、実施例1の説明に用いた図1と同様に、羽根室内の一部が見えるようにするため、地板の一部を破断して示してある。
【0035】
上記の実施例1においては、二つの偏心部材10,11が地板1に直接取り付けられていた。それに対して、本実施例は、それらの偏心部材10,11を本実施例の電磁アクチュエータM2に取り付けるようにしたものである。そのため、本実施例の地板1には、実施例1の地板1に形成されていた、偏心部材10,11のピン10a,11aを嵌合させるための二つの基準孔(一つの基準孔1nが図4に示されている)が形成されていない。そして、電磁アクチュエータM2の構成を除く、本実施例のその他の構成は、実施例1の場合と全く同じである。そのため、各図においては、偏心部材10,11も含めて、それらの構成部材と部位に、実施例1の場合と同じ符号を付けてある。従って、それらについての説明を省略するが、それらについて実施例1で述べたことは、全て本実施例にも適用される。
【0036】
また、本実施例の電磁アクチュエータM2は、実施例1の電磁アクチュエータM1とは構成が異なるとはいえ、実質的には、実施例1における第2固定子枠13の形状が異なるだけであり、機能上は全く同じである。そのため、本実施例の電磁アクチュエータM2の場合にも、電磁アクチュエータM1の場合と実質的に同じ構成部材,部位に同じ符号を付けてある。従って、第2固定子枠13の形状についての説明を除き、実施例1の電磁アクチュエータM1について述べたことは、全て本実施例にも適用される。
【0037】
そこで、実施例1とは異なる本実施例の構成、即ち第2固定子枠13の形状を、主に図7〜図9を用いて説明する。図8に示されているように、本実施例の第2固定子枠13にも四つの張出部13a,13b,13c,13dが形成されており、電磁アクチュエータM2は、この第2固定子枠13の張出部13a,13cに形成されている二つの孔13e,13fを利用し、図7に示されているように、二つのビス18,19によって、地板1に取り付けられている。
【0038】
ところが、本実施例の張出部13c,13dは、実施例1の張出部13c,13dよりも張出し面積が大きくて、地板1の長孔1eの長さ方向の両端近傍部まで張り出している。そして、それらの近傍部に張り出している領域には、夫々、基準孔13gが形成されていて、偏心部材10,11のピン10b,11bを嵌合させているが、図9には、それらの基準孔13gのうち、偏心部材10のピン10bを嵌合させている基準孔13gが示されている。
【0039】
本実施例は以上のような構成をしており、偏心部材10,11が、実施例1のように地板1に対してではなく、電磁アクチュエータM2の第2固定子枠13に取り付けられているが、本実施例の個体差調整も、実施例1の個体差調整の場合と同様に、偏心部材10,11を回転させることによって行なわれる。そのため、その具体的な調整方法の説明は省略するが、その調整結果の一例として、図7の状態から偏心部材10を反時計方向へ回転させ、偏心部材11を時計方向へ回転させることによって、回転子14の回転角度範囲を小さくした場合、即ち絞り駆動リング6の回転角度範囲を小さくした場合の一例が、図9に示されている。
【0040】
このように、本実施例においては、二つの偏心部材10,11が、いずれも、電磁アクチュエータM2に取り付けられるようになっている。そのため、このような構成の電磁アクチュエータM2は、地板に対する取り付け方にさえ問題がなければ、基準の回転角度範囲が若干異なる絞り駆動リングを備えている絞り装置にも適用することができる。また、実施例1に使用されている電磁アクチュエータM1が故障したような場合には、電磁アクチュエータM1の代わりに使用することも可能である。
【0041】
尚、本実施例の場合には、二つの偏心部材10,11を、第2固定子枠13に形成されている二つの張出部13c,13dに夫々取り付けているが、このような構成のほかに、二つの張出部13c,13dを繋いで一つの張出部として形成しておき、その張出部に出力ピン14bを挿入させるための長孔を、長孔1eのようにして形成し、その長孔の長さ方向の両端近傍部に取り付けるようにしても差し支えない。
【0042】
本実施例の作動は、図6に示されている最大絞り開口の制御状態を撮影開始前の状態として、実施例1の場合と全く同じようにして行なわれる。また、図示していないが、3枚の絞り羽根7,8,9によって最小絞り開口を制御している状態は、上記の図5に示されている状態と実質的に同じである。そのため、その作動説明は省略する。
【0043】
尚、上記の実施例1においては、二つの偏心部材10,11は、いずれも、地板1に取り付けられている。また、実施例2においては、二つの偏心部材10,11は、いずれも、第2固定子枠13に取り付けられている。しかしながら、本発明は、そのような構成に限定されず、例えば、一方の偏心部材10を地板1に取り付け、他方の偏心部材11を第2固定子枠13に取り付けても構わない。また、上記の各実施例においては、回転子14の一方の軸受け部が第1固定子枠12に設けられ、他方の軸受け部が第2固定子枠13に設けられているが、本発明の固定子枠は、このような構成に限定されない。この種の電磁アクチュエータの固定子枠には種々の構成をしたものが知られている。
【0044】
更に、上記の各実施例においては、回転子14と一体の出力ピン14bを、羽根室内で、絞り駆動リング6の長孔6dに嵌合させている。しかしながら、本発明は、そのような構成に限定されるものではない。本実施例の出力ピン14cを羽根室内に挿入せず、羽根室外に配置しておくようにすると共に、地板1の羽根室外には、その出力ピン14cに連動して往復回転させられる仲介部材を取り付けておき、その仲介部材に設けられた駆動ピンを羽根室内に挿入し、絞り駆動リング6の長孔6dに嵌合させるようにしてもよい。そして、そのようにした場合には、腕部14aや出力ピン14bを、二つの偏心部材10,11の頭部10a,11aに当接させるようにしてもよいし、その仲介部材や駆動ピンを二つの偏心部材10,11の頭部10a,11aに当接させるようにしても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】最大絞り開口の制御状態を示した実施例1の平面図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】実施例1に用いられている電磁アクチュエータを、フレキシブルプリント配線板を取り除いて示した平面図である。
【図4】実施例1の一部を示した断面図である。
【図5】最小絞り開口の制御状態を示した実施例1の平面図である。
【図6】最大絞り開口の制御状態を示した実施例2の平面図である。
【図7】図6の一部拡大図である。
【図8】実施例2に用いられている電磁アクチュエータを、フレキシブルプリント配線板を取り除いて示した平面図である。
【図9】実施例2の一部を示した断面図である。
【図10】組立調整後の状態の一例を図7と同様にして示した一部拡大図である。
【符号の説明】
【0046】
1 地板
1a,2a 開口部
1b,1c,1d,2b,2c,2d 取付孔
1e,6d 長孔
1f,1g 取付部
1h 筒部
1i,1j,1k 羽根取付軸
1m,2f 突条部
1n,13g 基準孔
2 カバー板
2e,13e,13f 孔
3,4,5,18,19,22,23 ビス
6 絞り駆動リング
6a,6b,6c カム溝
7,8,9 絞り羽根
7a,8a,9a 連結ピン
M1,M2 電磁アクチュエータ
P フレキシブルプリント配線板
10,11 偏心部材
10a,11a 頭部
10b,11b ピン
10c,11c スリワリ
10d,11d マーク孔
12 第1固定子枠
12a,12b,12c,12d 端子ピン
12e 凹部
13 第2固定子枠
13a,13b,13c,13d 張出部
14 回転子
14a 腕部
14b 出力ピン
15,16 固定子コイル
17 ヨーク
20 プリント配線板
21 ホール素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が光軸を中心にした円形の開口部を有していて両者の間に羽根室を構成している地板及びカバー板と、羽根室内において各々が光軸を中心にして略等角度間隔となる位置で前記地板又はカバー板に対し回転可能に取り付けられている複数枚の絞り羽根と、光軸を中心にして略等角度間隔に形成された複数のカム溝と一つの長孔とを有していて羽根室内において光軸を中心にして回転可能に配置されており該複数のカム溝には前記各絞り羽根の連結ピンを個別に嵌合させている絞り駆動リングと、永久磁石を有していて所定の角度範囲で回転する回転子と該回転子から径方向へ張り出して一体的に形成されている腕部と該腕部に設けられた出力ピンと該回転子を軸受けしていて該回転子の回転位置検出手段を備えている固定子枠と該固定子枠に巻回された少なくとも一つの固定子コイルとを有していて前記地板の羽根室外の面に取り付けられており該出力ピンを羽根室内に挿入し前記絞り駆動リングの前記長孔に嵌合させている電磁アクチュエータと、前記腕部又は前記出力ピンの作動軌跡の略両端近傍部で前記地板の羽根室外の面に取り付けられており製作時において個別に回転させられることによって前記腕部又は前記出力ピンとの当接位置を変え前記回転子の回転角度範囲の両端位置を規制可能にしている二つの偏心部材と、を備えていることを特徴とする光学機器用絞り装置。
【請求項2】
前記二つの偏心部材は、少なくとも一方が、前記固定子枠に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の光学機器用絞り装置。
【請求項3】
前記地板は、前記出力ピンを羽根室内に挿入させるための長孔を有していて、前記固定子枠は、該長孔の長手方向の両端近傍部に個別に張り出した二つの張出部を有しており、前記二つの偏心部材は、それらの張出部に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の光学機器用絞り装置。
【請求項4】
前記固定子枠は、前記出力ピンを挿入させるための長孔を有しており、前記二つの偏心部材は、該長孔の両端近傍部に個別に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の光学機器用絞り装置。
【請求項5】
前記出力ピンが前記地板の羽根室外に配置されていて、前記地板には、駆動ピンを有していて前記出力ピンの作動に連動して往復回転させられる仲介部材が取り付けられており、該駆動ピンが、羽根室内に挿入され前記絞り駆動リングの前記長孔に嵌合させられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学機器用絞り装置。
【請求項6】
前記二つの偏心部材は、前記仲介部材に当接されるようにし、その当接位置を変えることによって、前記回転子の回転角度範囲の両端位置を規制するようにしたことを特徴とする請求項5に記載の光学機器用絞り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−265607(P2009−265607A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305152(P2008−305152)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000001225)日本電産コパル株式会社 (755)
【Fターム(参考)】