説明

光学活性な2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンの製造方法

本発明は、2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンのエナンチオマー混合物を加水分解酵素の存在下でアシル化剤と反応させるトランス−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン又はシス−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンのエナンチオ選択的アシル化方法を提供する。本発明は、2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンの光学活性なトランス立体異性体の製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス−又はシス−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンのエナンチオ選択的アシル化方法、及び2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンの光学活性なトランス立体異性体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの場合、特定の光学活性異性体のみが治療活性を有しているので、光学活性な化合物は特に製薬業界において非常に大きな重要性を有している。よって、活性成分をエナンチオ選択的合成するための前駆体としての光学活性化合物に対する需要が増え続けている。新規な活性成分を合成するための主要構築ブロックの1つは光学活性なトランス−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンである。
【0003】
(特許文献1)は、エステルを加水分解酵素の存在下で反応させ、その後ヘテロ原子置換アミンのエナンチオ選択的にアシル化されたエナンチオマーを未反応エナンチオマーから分離することにより第1級及び第2級ヘテロ原子置換アミンのラセミ化合物を分割する方法を概説している。しかしながら、生成物のエナンチオマー純度はなお不満足である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第96/23894号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンの実質的にエナンチオマー的に純粋なトランス及びシス立体異性体を製造するための効率的な方法を提供することである。この方法は特に、実質的にエナンチオマー的に純粋な(R,R)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンを特に少なくとも99%ee、好ましくは少なくとも99.5%ee、特に少なくとも99.9%eeのエナンチオマー純度で製造できるように意図されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くことに、光学活性な2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンが、エナンチオマーの混合物、特に前記アミンのラセミ化合物を加水分解酵素の存在下でエナンチオ選択的にN−アシル化することにより得られることが知見された。
【0007】
さらに、それぞれのシス又はトランスエナンチオマーは、酸(例えば、カルボン酸、無機酸)を添加することによりその酸付加塩の形態で沈殿させた場合にかなり純粋な形態で得られることが知見された。
【0008】
よって、本発明は、式(I):
【化1】

【0009】
で表される化合物のトランス立体異性体又はシス立体異性体のエナンチオマーの混合物を、加水分解酵素の存在下でアシル化剤と反応させ、トランス又はシス立体異性体の1つのエナンチオマーが実質的にアシル化された形態で存在し、トランス又はシス立体異性体の他のエナンチオマーが実質的にアシル化されていない形態で存在している混合物を得る、トランス−又はシス−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン(I)をエナンチオ選択的にアシル化するための方法(方法A)に関する。
【0010】
本発明はさらに、式((R,R)-I)及び/又は((S,S)−I)
【化2】

【0011】
で表される光学活性化合物の製造方法(方法B)に関し、その方法は
(a)上に定義した式(I)で表される化合物のトランス立体異性体のエナンチオマーの混合物(すなわち、化合物((R,R)-I)及び((S,S)−I)の混合物)を、加水分解酵素の存在下でアシル化剤と反応させ、化合物(I)のトランス立体異性体の1つのエナンチオマーが実質的にアシル化された形態で存在し、化合物(I)のトランス立体異性体の他のエナンチオマーが実質的にアシル化されていない形態で存在している混合物を得るステップ;
(b)ステップ(a)で得た混合物から化合物(I)のトランス立体異性体のアシル化されていないエナンチオマーを除去するステップ;
(c)ステップ(b)で得た化合物(I)のトランス立体異性体の実質的にアシル化されたエナンチオマーを、対応する非アシル化エナンチオマーに加水分解するステップ;
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に記載されている本発明の方法の好ましい特徴及び実施形態は、各場合独立して、又は特に相互に組み合わせて適用する。
【0013】
用語「トランス」及び「シス」は、本発明の関係においてシクロヘキシル環上の2つの置換基の相互の相対配置を示す。よって、表現「トランス立体異性体」は(R,R)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン及び(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンからなる。表現「シス立体異性体」は(R,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン及び(S,R)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンから構成される他のジアステレオマーからなる。
【0014】
表現「エナンチオ選択的」は、相互の鏡像である考えられる反応生成物が、等しくない割合で形成される反応を指す。本発明の関係において、この表現は、所望のエナンチオマーが好ましくは少なくとも95%ee、特に好ましくは少なくとも96%ee、より好ましくは少なくとも98%ee、さらにより好ましくは少なくとも99%ee、特に少なくとも99.5%ee、具体的には少なくとも99.9%eeで形成されている反応を表す。
【0015】
表現「実質的にエナンチオマー的に純粋な」は、本発明の関係において少なくとも95%ee、好ましくは少なくとも96%ee、より好ましくは少なくとも98%ee、さらにより好ましくは少なくとも99%ee、特に少なくとも99.5%ee、具体的には少なくとも99.9%eeのエナンチオマー純度を表す。
【0016】
単位“%ee”はエナンチオマー過剰率を指し、よって光学純度とも称されるエナンチオマー純度の尺度である。これは、エナンチオマー混合物中の2つのエナンチオマーのモル比率の差から計算される。例えば、95%eeは、エナンチオマーの混合物中の主エナンチオマーの比率が97.5%であり、その鏡像である化合物の比率が2.5%であることを意味する。
【0017】
化合物(I)のトランス立体異性体をエナンチオ選択的にアシル化すると、好ましくは(S,S)エナンチオマーが実質的にアシル化されていない形態で存在し、(R,R)エナンチオマーが実質的にアシル化された形態で存在している混合物が生ずる。
【0018】
表現「実質的にアシル化されていないエナンチオマー」は、このエナンチオマーの少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、特に少なくとも98%がアシル化されていない状況を指す。同様に、表現「実質的にアシル化されたエナンチオマー」は、このエナンチオマーの少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、特に好ましくは少なくとも98%がアシル化された形態であることを意味する。
【0019】
対応して、表現「化合物(I)の実質的にアシル化されていない(S,S)エナンチオマー」は、化合物(I)の(S,S)のエナンチオマーの少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、特に少なくとも98%がアシル化されていないことを意味すると理解される。同様に、表現「化合物(I)の実質的にアシル化された(R,R)のエナンチオマー」は、化合物(I)の(R,R)エナンチオマーの少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、特に好ましくは少なくとも98%がアシル化された形態であることを意味する。
【0020】
本発明の方法において使用される加水分解酵素は、好ましくはプロテアーゼ、特にリパーゼである。これにより、化合物(I)のトランス立体異性体又はシス立体異性体、好ましくは化合物(I)のトランス立体異性体のそれぞれの2つのエナンチオマーの1つのみが選択的にN−アシル化(アミド化)される。化合物(I)の(R,R)エナンチオマーが選択的にアミド化されることが特に好ましい。
【0021】
加水分解酵素が微生物、特に細菌又は酵母から得られることが好ましい。組換え方法により得られ得る加水分解酵素も好適である。加水分解酵素は精製又は部分精製された形態で、又は微生物そのものの形態で使用され得る。微生物から加水分解酵素を獲得し、精製する方法は、例えば欧州特許出願公開第1149849号明細書又は欧州特許出願公開第1069183号明細書から当業者に公知である。加水分解酵素を精製形態で使用することが好ましい。
【0022】
加水分解酵素は遊離(すなわち、天然形態)で使用しても、固定化してもよい。固定化酵素は不活性担体上に固定した酵素を意味する。適当な担体材料及びこの担体材料上に固定化される酵素は、欧州特許出願公開第1149849号明細書、欧州特許出願公開第1069183号明細書及び独国特許出願公開第10019377号明細書、並びにこれらの中で引用されている参考文献に開示されている。これらの刊行物の開示内容は参照により本明細書に組み入れる。適当な担体材料には、例えば粘土、粘土鉱物(例えば、カオリン、珪藻土、ペーライト、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム)、セルロース粉末、アニオン性交換材料、合成ポリマー(例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタン、及びポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン)が含まれる。担体材料は、通常担体結合酵素を作製するために微細な粒状形態で、好ましくは多孔質形態で使用される。担体材料の粒子サイズは通常5mm以下、特に2mm以下(グレーディング曲線)である。
【0023】
好ましくは、リパーゼ(トリアシルグリセロールアシル加水分解酵素;EC3.1.1.3)が使用される。これらの中でも、バークホルデリア(Burkholderia)属又はシュードモナス(Pseudomonas)属の細菌から、あるいはカンジダ(Candida)属の酵母から得られるリパーゼが好ましい。
【0024】
バークホルデリア種の例は、バークホルデリア・アンビファリア(Burkholderia ambifaria)(例えば、ATCC BAA-244株、CCUG44356株、LMG19182株);バークホルデリア・アンドロポゴニス(Burkholderia andropogonis)(例えば、ATCC23061株、CCUG32772株、CFBP2421株、CIP105771株、DSM9511株、ICMP2807株、JCM10487株、LMG2129株、NCPPB934株、NRRL B−14296株);バークホルデリア・カレドニカ(Burkholderia caledonica)(例えば、W50D株、CCUG42236株、CIP107098株、LMG19076株);バークホルデリア・カリベンシス(Burkholderia caribensis)(例えば、MWAP64株、CCUG42847株、CIP106784株、DSM13236株、LMG18531株);バークホルデリア・カリオフィリ(Burkholderia caryophylli)(例えば、ATCC25418株、CCUG20834株、CFBP2429株、CFBP3818株、CIP105770株、DSM50341株、HAMBI2159株、ICMP512株、JCM9310株、JCM10488株、LMG2155株、NCPPB2151株);バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)(例えば、Ballard717株、717−ICPB25株、ATCC25416株、CCUG12691株、CCUG13226株、CFBP2227株、CIP80.24株、DSM7288株、HAMBI1976株、ICMP5796株、IFO14074株、JCM5964株、LMG1222株、NCCB76047、NCPPB2993株、NCTC10743株、NRRL B−14810株);バークホルデリア・ココベネナンス(Burkholderia cocovenenans)(例えば、ATCC33664株、CFBP4790株、DSM11318株、JCM10561株、LMG11626株、NCIMB9450株);バークホルデリア・フンゴルム(Burkholderia fungorum)(例えば、Croize P763−2株、CCUG31961株、CIP107096株、LMG16225株);バークホルデリア・グラジオリ(Burkholderia gladioli)(例えば、ATCC10248株、CCUG1782株、CFBP2427株、CIP105410株、DSM4285株、HAMBI2157株、ICMP3950株、IFO13700株、JCM9311株、LMG2216株、NCCB38018株、NCPPB1891株、NCTC12378株、NRRL B-793株);バークホルデリア・グラテイ(Burkholderia glathei)(例えば、ATCC29195株、CFBP479株、CIP105421株、DSM50014株、JCM10563株、LMG14190株);バークホルデリア・グルマエ(Burkholderia glumae)(例えば、ATCC33617株、CCUG20835株、CFBP4900株、CFBP2430株、CIP106418株、DSM9512株、ICMP3655株、LMG2196株、NCPPB2981株、NIAES1169株);バークホルデリア・グラミニス(Burkholderia graminis)(例えば、C4D1M株、ATCC700544株、CCUG42231株、CIP106649株、LMG18924株);バークホルデリア・クルリエンシス(Burkholderia kururiensis)(例えば、KP23株、ATCC700977株、CIP106643株、DSM13646株、JCM10599株、LMG19447株);バークホルデリア・マレイ(Burkholderia mallei)(例えば、ATCC23344株、NCTC12938株);バークホルデリア・マルチボランス(Burkholderia multivorans)(例えば、ATCC BAA−247株、CCUG34080株、CIP105495株、DSM13243株、LMG13010株、NCTC13007株);バークホルデリア・ノリムベルゲンシス(Burkholderia norimbergensis)(例えば、R2株、ATCC BAA−65株、CCUG39188株、CFBP4792株、DSM11628株、CIP105463株、JCM10565株、LMG18379株);バークホルデリア・フェナジニウム(Burkholderia phenazinium)(例えば、ATCC33666株、CCUG20836株、CFBP4793株、CIP106502株、DSM10684株、JCM10564株、LMG2247株、NCIB11027株);バークホルデリア・ピケッテイ(Burkholderia pikettii)(例えば、ATCC27511株、CCUG3318株、CFBP2459株、CIP73.23株、DSM6297株、HAMBI2158株、JCM5969株、LMG5942株、NCTC11149株);バークホルデリア・プランタリイ(Burkholderia plantarii)(例えば、AZ8201株、ATCC43733株、CCUG23368株、CFBP3573株、CFBP3997株、CIP105769株、DSM9509株、ICMP9424株、JCM5492株、LMG9035株、NCPPB3590株、NIAES1723株);バークホルデリア・シュードマレイ(Burkholderia pseudomallei)(例えば、WRAIR286株、ATCC23343株、NCTC12939株);バークホルデリア・ピロシニア(Burkholderia pyrrocinia)(例えば、ATCC15958株、CFBP4794株、CIP105874株、DSM10685株、LMG14191株);バークホルデリア・サッカリ(Burkholderia sacchari)(例えば、CCT6771株、CIP107211株、IPT101株、LMG19450株);バークホルデリア・ソラナセアルム(Burkholderia solanacearum)(例えば、A.Kelman60−1株、ATCC11696株、CCUG14272株、CFBP2047株、CIP104762株、DSM9544株、ICMP5712株、JCM10489株、LMG2299株、NCAIMB.01459株、NCPPB325株、NRRL B−3212株);バークホルデリア・スタビリス(Burkholderia stabilis)(例えば、ATCC BAA−67株、CCUG34168株、CIP106845株、LMG14294株、NCTC13011株);バークホルデリア・タイランデンシス(Burkholderia thailandensis)(例えば、E264株、ATCC700388株、CIP106301株、DSM13276株);バークホルデリア・ウボネンシス(Burkholderia ubonensis)(例えば、EY3383株、CIP107078株、NCTC13147株);バークホルデリア・バンディイ(Burkholderia vandii)(例えば、VA-1316株、ATCC51545株、CFBP4795株、DSM9510株、JCM7957株、LMG16020株);バークホルデリア・ベトナミエンシス(Burkholderia vietnamiensis)(例えば、TVV75株、ATCC BAA−248株、CCUG34169株、CFBP4796株、CIP105875株、DSM11319株、JCM10562株、LMG10929株)である。
【0025】
シュードモナス種の例は、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(例えば、ATCC10145株、DSM50071株)、シュードモナス・アガリシ(Pseudomonas agarici)(例えば、ATCC25941株、DSM11810株)、シュードモナス・アルカリゲネス(Pseudomonas alcaligenes)(例えば、ATCC14909株、DSM50342株)、シュードモナス・アミグダリ(Pseudomonas amygdali)(例えば、ATCC337614株、DSM7298株)、シュードモナス・アングイリセプティカ(Pseudomonas anguiliseptica)(例えば、ATCC33660株、DSM12111株)、シュードモナス・アンチミクロビカ(Pseudomonas antimicrobica)(例えば、DSM8361株、NCIB9898株、LMG18920株)、シュードモナス・アスプレニ(Pseudomonas aspleni)(例えば、ATCC23835株、CCUG32773株)、シュードモナス・オーランチアカ(Pseudomonas aurantiaca)(例えば、ATCC33663株、CIP106710株)、シュードモナス・オーレオファシエンス(Pseudomonas aureofaciens)(例えば、ATCC13985株、CFBP2133株)、シュードモナス・アベラナエ(Pseudomonas avellanae)(例えば、DSM11809株、NCPPB3487株)、シュードモナス・アゾトフォルマンス(Pseudomonas azotoformans)(例えば、CIP106744株、JCM7733株)、シュードモナス・バレアリカ(Pseudomonas balearica)(例えば、DSM6083株、CIP105297株)、シュードモナス・ベイジェリンスキイ(Pseudomonas beijerinsckii)(例えば、ATCC19372株、DSM6083株)、シュードモナス・ベテリ(Pseudomonas beteli)(例えば、ATCC19861株、CFBP4337株)、シュードモナス・ボレオポリス(Pseudomonas boreopolis)(例えば、ATCC33662株、CIP106717株)、シュードモナス・カルボキシハイドロゲナ(Pseudomonas carboxyhydrogena)(例えば、ATCC29978株、DSM1083株)、シュードモナス・カリカパパイエ(Pseudomonas caricapapayae)(例えば、ATCC33615株、CCUG32775株)、シュードモナス・チコリ(Pseudomonas cichorii)(例えば、ATCC10857株、DSM50259株)、シュードモナス・シシコラ(Pseudomonas cissicola)(例えば、ATCC33616株、CCUG18839株)、シュードモナス・シトロネロリス(Pseudomonas citronellolis)(例えば、ATCC13674株、DSM50332株)、シュードモナス・コロナファシエンス(Pseudomonas coronafaciens)(例えば、DSM50261株、DSM50262株)、シュードモナス・コルガタ(Pseudomonas corrugata)(例えば、ATCC29736株、DSM7228株)、シュードモナス・ドウドロフィイ(Pseudomonas doudoroffii)(例えば、ATCC27123株、DSM7028株)、シュードモナス・エキノイデス(Pseudomonas echinoides)(例えば、ATCC14820株、DSM1805株)、シュードモナス・エロンガータ(Pseudomonas elongata)(例えば、ATCC10144株、DSM6810株)、シュードモナス・フィクセレクタエ(Pseudomonas ficuserectae)(例えば、ATCC35104株、CCUG32779株)、シュードモナス・フラベセンス(Pseudomonas flavescens)(例えば、ATCC51555株、DSM12071株)、シュードモナス・フレクテンス(Pseudomonas flectens)(例えば、ATCC12775株、CFBB3281株)、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)(例えば、ATCC13525株、DSM50090株)、シュードモナス・フラジ(Pseudomonas fragi)(例えば、ATCC4973株、DSM3456株)、シュードモナス・フルバ(Pseudomonas fulva)(例えば、ATCC31418株、CIP106765株)、シュードモナス・フスコバギナエ(Pseudomonas fuscovaginae)(例えば、CCUG32780株、DSM7231株)、シュードモナス・ゲリジコラ(Pseudomonas gelidicola)(例えば、CIP106748株)、シュードモナス・ゲニクラタ(Pseudomonas geniculata)(例えば、ATCC19374株、LMG2195株)、シュードモナス・グラセイ(Pseudomonas glathei)(例えば、ATCC29195株、DSM50014株)、シュードモナス・ハロフィラ(Pseudomonas halophila)(例えば、ATCC49241株、DSM3050株)、シュードモナス・ヒビシコラ(Pseudomonas hibiscicola)(例えば、ATCC19867株、LMG980株)、シュードモナス・フティエンシス(Pseudomonas huttiensis)(例えば、ATCC14670株、DSM10281株)、シュードモナス・イナース(Pseudomonas iners)(例えば、CIP106746株)、シュードモナス・ランセロタ(Pseudomonas lancelota)(例えば、ATCC14669株、CFBP5587株)、シュードモナス・レモイグネイ(Pseudomonas lemoignei)(例えば、ATCC17989株、DSM7445株)、シュードモナス・ルンデンシス(Pseudomonas lundensis)(例えば、ATCC19968株、DSM6252株)、シュードモナス・ルテオラ(Pseudomonas luteola)(例えば、ATCC43273株、DSM6975株)、シュードモナス・マルギナリス(Pseudomonas marginalis)(例えば、ATCC10844株、DSM13124株)、シュードモナス・メリアエ(Pseudomonas meliae)(例えば、ATCC33050株、DSM6759株)、シュードモナス・メンドシナ(Pseudomonas mendocina)(例えば、ATCC25411株、DSM50017株)、シュードモナス・ムシドレンス(Pseudomonas mucidolens)(例えば、ATCC4685株、CCUG1424株)、シュードモナス・モンテイリイ(Pseudomonas monteilli)(例えば、ATCC700476株、DSM14164株)、シュードモナス・ノーティカ(Pseudomonas nautica)(例えば、ATCC27132株、DSM50418株)、シュードモナス・ニトロレデュセンス(Pseudomonas nitroreducens)(例えば、ATCC33634株、DSM14399株)、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)(例えば、ATCC8062株、DSM1045株)、シュードモナス・オリジハビタンス(Pseudomonas oryzihabitans)(例えば、ATCC43272株、DSM6835株)、シュードモナス・ペルツチノゲーナ(Pseudomonas pertucinogena)(例えば、ATCC190株、CCUG7832株)、シュードモナス・フェナジニウム(Pseudomonas phenazinium)(例えば、ATCC33666株、DSM10684株)、シュードモナス・ピクトルム(Pseudomonas pictorum)(例えば、ATCC23328株、LMG981株)、シュードモナス・シュードアルカリゲネス(Pseudomonas pseudoalcaligenes)(例えば、ATCC17440株、DSM50188株)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)(例えば、ATCC12633株、DSM291株)、シュードモナス・ピロチニア(Pseudomonas pyrrocinia)(例えば、ATCC15958株、DSM10685株)、シュードモナス・レシノボランス(Pseudomonas resinovorans)(例えば、ATCC14235株、CCUG2473株)、シュードモナス・ローデシアエ(Pseudomonas rhodesiae)(例えば、CCUG38732株、DSM14020株)、シュードモナス・サッカロフィラ(Pseudomonas saccharophila)(例えば、ATCC15946株、DSM654株)、シュードモナス・サバスタノイ(Pseudomonas savastanoi)(例えば、ATCC13522株、CFBP1670株)、シュードモナス・スピノサ(Pseudomonas spinosa)(例えば、ATCC14606株)、シュードモナス・スタニエリ(Pseudomonas stanieri)(例えば、ATCC27130株、DSM7027株)、シュードモナス・ストラミナエ(Pseudomonas straminae)(例えば、ATCC33636株、CIP106745株)、シュードモナス・スツツェリ(Pseudomonas stutzeri)(例えば、ATCC17588株、DSM5190株)、シュードモナス・シンクサンタ(Pseudomonas synxantha)(例えば、ATCC9890株、CFBP559株1)、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)(例えば、ATCC19310株、DSM6693株)、シュードモナス・シジギィ(Pseudomonas syzygii)(例えば、ATCC49543株、DSM7385株)、シュードモナス・タエトロレンス(Pseudomonas taetrolens)(例えば、ATCC4683株、CFBP5592株)、シュードモナス・トラシイ(Pseudomonas tolaasii)(例えば、ATCC33618株、CCUG32782株)、シュードモナス・ベロニイ(Pseudomonas veronii)(例えば、ATCC700272株、DSM11331株)、シュードモナス・ビリディフラバ(Pseudomonas viridiflava)(例えば、ATCC13223株、DSM11124株)、シュードモナス・ブルガリス(Pseudomonas vulgaris)、シュードモナス・ウィスコンシネンシス(Pseudomonas wisconsinensis)及びシュードモナ種DSM8246である。これらの中で、バークホルデリア・グルマエ、バークホルデリア・プランタリイ、バークホルデリア・セパシア、シュードモナス・アエルギノーサ、シュードモナス・フルオレセンス、シュードモナス・フラジ、シュードモナス・ルテオラ、シュードモナス・ブルガリス、シュードモナス・ウィスコンシネンシス及びシュードモナス種DSM8246由来のリパーゼが好ましい。シュードモナス種DSM8246由来のリパーゼが特に好ましい。
【0026】
カンジダ種の例は、カンジダ・アルボマルギナタ(Candida albomarginata)(例えば、DSM70015株)、カンジダ・アンタルクティカ(Candida antarctica)(例えば、DSM70725株)、カンジダ・バカルム(Candida bacarum)(例えば、DSM70854株)、カンジダ・ボゴリエンス(Candida bogoriensis)(例えば、DSM70872株)、カンジダ・ボイジニイ(Candida boidinii)(例えば、DSM70026株、70024株、70033株、70034株)、カンジダ・ボビナ(Candida bovina)(例えば、DSM70156株)、カンジダ・ブルムプティ(Candida brumptii)(例えば、DSM70040株)、カンジダ・カカオイ(Candida cacaoi)(例えば、DSM2226株)、カンジダ・カリオシリグニコラ(Candida cariosilignicola)(例えば、DSM2148株)、カンジダ・カルメルシ(Candida chalmersii)(例えば、DSM70126株)、カンジダ・シフェリ(Candida ciferii)(例えば、DSM70749株)、カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)(例えば、DSM2031株)、カンジダ・エルノビイ(Candida ernobii)(例えば、DSM70858株)、カンジダ・ファマタ(Candida famata)(例えば、DSM70590株)、カンジダ・フレイシュシイ(Candida freyschussii)(例えば、DSM70047株)、カンジダ・フリエデリチイ(Candida friederichii)(例えば、DSM70050株)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)(例えば、DSM6425株、11226株、70614株、70615株)、カンジダ・グイレルモンディ(Candida guillermondi)(例えば、DSM11947株、70051株、70052株)、カンジダ・ハエムロニイ(Candida haemulonii)(例えば、DSM70624株)、カンジダ・インコンスピクア(Candida inconspicua)(例えば、DSM70631株)、カンジダ・インゲンス(Candida ingens)(例えば、DSM70068株、70069株)、カンジダ・インテルメディア(Candida intermedia)(例えば、DSM70753株)、カンジダ・ケフィール(Candida kefyr)(例えば、DSM70073株、70106株)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)(例えば、DSM6128株、11956株、70075株、70079株、70086株)、カンジダ・ラクチスコンデンシ(Candida lactiscondensi)(例えば、DSM70635株)、カンジダ・ランビカ(Candida lambica)(例えば、DSM70090株、70095株)、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)(例えば、DSM1345株、3286株、8218株、70561株又は70562株)、カンジダ・ルシタニアエ(Candida lusitaniae)(例えば、DSM70102株)、カンジダ・マセドニエンシス(Candida macedoniensis)(例えば、DSM70106株)、カンジダ・マグノリアエ(Candida magnoliae)(例えば、DSM70638株、70639株)、カンジダ・メンブラナエファシエンス(Candida membranaefaciens)(例えば、DSM70109株)、カンジダ・ムルチゲムニス(Candida multigemnis)(例えば、DSM70862株)、カンジダ・ミコデルマ(Candida mycoderma)(例えば、DSM70184株)、カンジダ・ネモデンドラ(Candida nemodendra)(例えば、DSM70647株)、カンジダ・ニトラトフィラ(Candida nitratophila)(例えば、DSM70649株)、カンジダ・ノルベジカ(Candida norvegica)(例えば、DSM70862株)、カンジダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)(例えば、DSM5784株、4237株、11224株、70125株、70126株)、カンジダ・ペリキュローサ(Candida pelliculosa)(例えば、DSM70130株)、カンジダ・ピニ(Candida pini)(例えば、DSM70653株)、カンジダ・プロケリマ(Candida pulcherrima)(例えば、DSM70336株)、カンジダ・プニセア(Candida punicea)(例えば、DSM4657株)、カンジダ・プスツラ(Candida pustula)(例えば、DSM70865株)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)(例えば、DSM70761株)、カンジダ・サケ(Candida sake)(例えば、DSM70763株)、カンジダ・シルビコラ(Candida silvicola)(例えば、DSM70764株)、カンジダ・ソラニ(Candida solani)(例えば、DSM3315株)、カンジダ(Candida)種(例えば、DSM1247株)、カンジダ・スパンドベンシス(Candida spandovensis)(例えば、DSM70866株)、カンジダ・サクシフィラ(Candida succiphila)(例えば、DSM2149株)、カンジダ・ウチリス(Candida utilis)(例えば、DSM2361株、70163株又は70167株)、カンジダ・バリダ(Candida valida)(例えば、DSM70169株、70178株、70179株)、カンジダ・ベルサティリス(Candida versatilis)(例えば、DSM6956株)、カンジダ・ビニ(Candida vini)(例えば、DSM70184株)及びカンジダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)(例えば、DSM70185株)である。
【0027】
カンジダ属の酵母、特にカンジダ・アントラクティカ由来のリパーゼが本発明の方法において特に好ましく使用される。従って、本発明の方法の具体的実施形態では、カンジダ・アントラクティカ由来のLipaseBを使用する。このリパーゼの固定化形態、例えばアクリル樹脂上に固定化されているカンジダ・アントラクティカ由来のLipaseBが好ましく、これは“Novozyme435(登録商標)”の名前で市販されている。
【0028】
本発明の方法のエナンチオ選択的アシル化において使用しようとする加水分解酵素の量は、加水分解酵素の種類及び酵素製剤の活性に依存する。反応に最適な酵素の量は簡単な予備検査により容易に確定され得る。通常、分離しようとするエナンチオマーの混合物1ミリモルあたり約1000単位の加水分解酵素を使用する。
【0029】
単位「ユニット」は加水分解酵素の活性を表し、規定の標準条件下で加水分解酵素により変換される基準化合物の量を指す。
【0030】
本発明の方法で使用されるアシル化剤を、酸成分がカルボニル炭素原子の付近に電子豊富なヘテロ原子(例えば、フッ素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択される)を有するものから選択することが好ましい。アシル化剤は好ましくはエステルである。アシル化剤を、酸成分がカルボニル炭素原子に対してα、β又はγ位に酸素−、窒素−、フッ素−又は硫黄−含有基を有しているエステルから選択することが特に好ましい。特に好ましいアシル化剤は、ヘテロ原子それ自体がカルボニル炭素原子に対してα、β又はγ位、特にα位に結合しているものである。
【0031】
酸素含有基は例えばヒドロキシ基又はアルコキシ基である。窒素含有基は例えばアミノ基であり、硫黄含有基はチオール基(SH)又はアルキルチオ基であり得る。
【0032】
エステルのアルコール成分は好ましくは直鎖状又は分岐状C〜C10アルコールから誘導され、前記アルコールは置換されていてもよいが、未置換であることが好ましい。しかしながら、アルコール成分を第2級アルコール、例えばイソプロパノール、2−ブタノール、2−又は3−ペンタノール等から誘導することが特に好ましい。具体的にはイソプロパノールから誘導する。
【0033】
特に適当なエステルは、式(III)
【化3】

【0034】
[式中、
はC〜C10−アルキルであり、
は水素又はC〜C10−アルキルであり、
は水素、C〜C10−アルキル、又は場合によりNH、OH、C〜C−アルコキシもしくはハロゲンで置換されているフェニルであり、
AはO、S又はNRであり、好ましくはOであり、
は水素、C〜C10−アルキル、又は場合によりNH、OH、C〜C−アルコキシもしくはハロゲンで置換されているフェニルであり、
nは0、1又は2である]
を有するものである。
【0035】
は好ましくは直鎖状又は分岐状C〜C−アルキルである。Rは特に第2級アルコールから誘導され、従って特に好ましく第3級炭素原子を介して結合しているC〜C−アルキル基、例えばイソプロピル又は2−ブチルである。Rは具体的にはイソプロピルである。
【0036】
は好ましくは水素又はC〜C−アルキル、特に水素である。
【0037】
は好ましくはC〜C−アルキル、特に好ましくはメチル又はエチル、具体的にはメチルである。
【0038】
Aは好ましくはOである。
【0039】
本発明の関係において、表現「C〜C−アルキル」は、1〜4個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル又はtert−ブチルを表す。
【0040】
表現「C〜C10−アルキル」は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状アルキル基である。その例は上記したC-C-アルキル基以外にペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、ネオノニル、デシル及びネオデシルである。
【0041】
表現「C〜C−アルコキシ」は、酸素を介して連結している1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表す。その例はメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、sec−ブトキシ、イソブトキシ及びtert−ブトキシである。
【0042】
表現「C〜C10アルコール」は、少なくとも1個のヒドロキシ基で置換されている1〜10個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素を表す。C〜C10−アルコールは、好ましくはヒドロキシ基で置換されているアルカンを表す。その例はメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール及びデカノールである。
【0043】
本発明の関係において、ハロゲンは好ましくはフッ素、塩素又は臭素、特に好ましくはフッ素又は塩素である。
【0044】
本発明の方法のエナンチオ選択的アシル化において、アシル化される式(I)を有する化合物のエナンチオマーの量に基づいて好ましくは1〜3モル当量、特に好ましくは1〜2モル当量、より好ましくは1〜1.5モル当量、特に1〜1.2モル当量のアシル化剤を使用する。本明細書中、表現「モル当量」は、アシル化される化合物(I)のエナンチオマー1モルと反応し得るアシル化剤のカルボキシル基の数をモルで指す。従って、式(III)を有するエステルを使用する場合、アシル化される式(I)を有する化合物のエナンチオマー1モルあたり好ましくは1〜3モル、特に好ましくは1〜2モル、より好ましくは1〜1.5モル、特に1〜1.2モルのエステルを使用する。あるいは、式(III)を有するエステルを使用する場合、特にこの混合物がラセミ化合物の場合には、分離しようとするエナンチオマーの混合物1モルに基づいて0.5〜1.5モル、特に好ましくは0.5〜1モル、より好ましくは0.5〜0.75モル、特に0.5〜0.6モルのエステルを使用する。
【0045】
本発明の方法の好ましい実施形態では、方法Aにおける反応及び方法Bのステップ(a)における反応は希釈せずに、すなわち水性又は有機溶媒を添加することなく実施する。
【0046】
別の好ましい実施形態では、本発明の方法のアシル化を非水性反応媒体中で実施する。非水性反応媒体は、反応媒体の全重量に基づいて1重量%未満の水、好ましくは0.5重量%未満の水、特に好ましくは0.1重量%未満の水、特に0.05重量%未満の水しか含んでいない反応媒体を意味する。この実施形態では、アシル化を好ましくは有機溶媒中で実施する。適当な溶媒の例は脂肪族及び脂環式炭化水素、好ましくは5〜8個の炭素原子を有するもの(例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン又はシクロオクタン);ハロゲン化脂肪族炭化水素、好ましくは1又は2個の炭素原子を有するもの(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン又はテトラクロロエタン);芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロペンゼン又はジクロロベンゼン);脂肪族非環式及び環式エーテル、好ましくは4〜8個の炭素原子を有するもの(例えば、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、エチルtert−ブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトセヒドロフラン又はジオキサン);あるいは上記した溶媒の混合物である。上記したエーテル及び芳香族炭化水素が特に好ましくは使用される。具体的にはトルエンが使用される。
【0047】
式(I)で表される化合物とアシル化剤との反応は、通常使用する加水分解酵素の失活温度以下の反応温度、特に−10℃以上の温度で起こる。特に好ましくは0〜80℃、特に10〜40℃の範囲である。反応は具体的には室温で起こる。
【0048】
例えば、式(I)で表される化合物のトランス又はシス立体異性体のエナンチオマーの混合物を加水分解酵素、アシル化剤及び適当ならば溶媒と、例えば攪拌又は振とうすることにより十分に混合することによって実施され得る。しかしながら、反応器(例えば、カラム)中に加水分解酵素を固定化し、その反応器にエナンチオマー混合物及びアシル化剤からなる混合物を流すこともできる。この目的で、所望の変換に達するまで混合物を反応器中に循環させることができる。この間、アシル化剤のカルボキシル基はエナンチオ選択的にアシル化される化合物(I)のエナンチオマーのアミドに逐次変換され、他のエナンチオマーは実質的に未変化のままである。アシル化は通常、混合物中に存在し、エナンチオ特異的にアシル化される化合物(I)のエナンチオマーに基づいて少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%、特に少なくとも99%の変換率まで実施される。さらに、反応の進行、すなわち逐次のアミド形成は通常の方法、例えばガスクロマトグラフィー又はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により追跡され得る。
【0049】
反応混合物は慣用の方法で、例えば適当ならば加水分解酵素を反応混合物から例えば濾過又は遠心により除去し、濾液又は遠心分離液から溶媒を除去した後、残渣を分離操作にかけることにより後処理され得る。
【0050】
本発明の方法の具体的実施形態では、使用されるエナンチオマーの混合物はアミン(I)のラセミ化合物であるが、エナンチオマーの1つを多く含む混合物も同様に好適である。
【0051】
化合物(I)のトランス又はシス異性体のエナンチオマーの混合物をエナンチオ選択的に反応させると、化合物(I)の実質的にアシル化されたエナンチオマー(すなわち、アミド)及び実質的にアシル化されていない反対のエナンチオマーが生ずる。ここに存在するアミンとアミドの混合物は慣用の方法により容易に分離され得る。適当な分離操作の例は抽出、蒸留、結晶化又はクロマトグラフィーである。アミン及びアミドを蒸留により分離することが好ましい。代替の好ましい分離方法では、有機溶媒中に溶解又は懸濁されている反応混合物を酸性塩形成剤と混合して、非アシル化エナンチオマーのアンモニウム塩を形成し、沈殿させる。次いで、このアンモニウム塩を化合物(I)の反対のエナンチオマーのアミドを含む上清から濾過又は遠心により分離し得る。適当な酸性塩形成剤は、例えばプロトン酸、特に無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸又は硝酸)、有機酸(例えば、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸又はp−トルエンスルホン酸)及びそのアルカリ金属塩であるが、酸、特に無機酸、具体的には塩酸又は硫酸が好ましい。酸を好ましくは非アシル化エナンチオマーの量に対してほぼ等モル量で、例えば非アシル化エナンチオマー1モルに基づいて0.9〜1.5モル、好ましくは1〜1.2モル、特に約1モルの量で使用する。硫酸のようなポリプロトン酸の場合のモル比は勿論酸中に存在する酸性プロトンの数に基づいている。
【0052】
除去された化合物(I)の実質的にアシル化されていないエナンチオマーは、適当ならば当業者に公知の方法を用いてさらに精製してもよい。アシル化後除去される非アシル化エナンチオマーは特に(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン((S,S)−I)[すなわち、特に(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン((S,S)−I)は方法Bのステップ(b)において得られる]である。
【0053】
化合物(I)の実質的にアシル化されていないエナンチオマーが、本分離方法によりアンモニウム塩の形態で得られる場合は、アミンは適当な塩基を用いてアンモニウム塩から遊離される。適当な塩基の例は、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム)、アルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウム)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム又は炭酸カルシウム)である。好ましくはアルカリ水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム)が使用される。中和は好ましくは水性媒体中で行う。アミンの単離を容易とするために、遊離された化合物が中性の形態であるように塩基を使用することが好ましい。得られた遊離アミンをその後所望により更なる精製ステップにかけてもよい。
【0054】
本発明の方法においてエナンチオ選択的にアシル化された他のエナンチオマーは、アシル化で得られた化合物(I)の実質的にアシル化されたエナンチオマー、すなわち化合物(I)のアミドを加水分解してアシル官能基を除去して、化合物(I)の対応するエナンチオマーを生じさせることにより得られ得る。得られる生成物は、好ましくは(R,R)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン((R,R)−I)[すなわち、好ましくは(R,R)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン((R,R)−I)は方法Bのステップ(c)で得られる]である。
【0055】
この場合、加水分解は通常アミドの加水分解について公知の反応条件下で起こる。反応条件は、例えばいずれも参照により本明細書に組み入れる独国特許出願公開第19534208号明細書;Organikum, VEB Deutscher Verlag der Wissenschaften, Berlin, 1988, 17th edition, p.419;又はJerry March, Advanced Organic Chemistry, 3rd edition, John Wiley and Sons, p.338以降に記載されている。アミンを与えるための加水分解は好ましくは塩基との反応により起こる。適当な塩基の例は、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム)、アルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化カルシウム)、アルカリ金属及びアルカリ土類金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸カルシウム)、アンモニア、アミン(例えば、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン及びジイソプロピルエチルアミン)、又はアミノアルコール(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン)である。上記したアルカリ金属水酸化物が特に好ましく使用され、適当ならばアミン又はアミノアルコールと組み合わせて使用される。
【0056】
加水分解は水中、有機溶媒中、又は水と有機溶媒の混合物中で実施され得る。適当な有機溶媒はアルコール、好ましくは1〜3個の炭素原子を有するもの(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール又はイソプロパノール);グリコール、特に2〜8個の炭素原子を有するもの(例えば、エチレングリコール、ジ−及びトリエチレングリコール);アミン及びアミノアルコール(例えば、上記したアミン及びアミノアルコール);並びに上記した溶媒の混合物及び上記した溶媒と水の混合物である。加水分解を高温で、例えば使用する溶媒の沸点で行うことが好ましい。
【0057】
反応生成物を通常の方法により、例えば蒸留、昇華、抽出又はクロマトグラフィーにより精製してもよい。
【0058】
例えばアシル化生成物を酸で加水分解したために化合物(I)の加水分解されたエナンチオマーがアンモニウム塩の形態で生じたならば、アミンを実質的にアシル化されていないエナンチオマーについて上記した適当な塩基を用いてアンモニウム塩から遊離させる。この場合も、適当ならば得られた遊離アミンをその後当業者に公知の更なる精製ステップにかけることができる。
【0059】
また、化合物(I)の(R,S)及び(S,R)エナンチオマーを製造するためにシス立体異性体を使用することも同様に可能である。
【0060】
本発明の方法の好ましい実施形態では、方法Bのステップ(b)又は(c)で得られた式((R,R)−I)又は((S,S)−I)を有する光学活性化合物は、所望により化学純度及び/又は光学純度を向上させるために酸性塩形成剤を添加することによりそのアンモニウム塩に変換し(ステップ(d))、そのまま単離し(ステップ(e))、その後再び遊離塩基として単離する(ステップ(f))。これらのステップは、ステップ(b)及び(c)で得たエナンチオマーの光学純度又は化学純度がまだ十分でないときに特に適当である。
【0061】
塩形成を化合物((R,R−I)又は((S,S)−I)の酸付加塩の沈殿と一緒に起こすことが有利である。手順、特に酸性塩形成剤の選択に関して、実質的にアシル化されていないエナンチオマーの沈殿による分離(ステップ(b))に関する記述が当てはまる。
【0062】
この目的で、精製しようとするエナンチオマーを有機溶媒に導入し、その溶液に酸性塩形成剤を添加することが好ましい。無論、適当ならば溶媒中の酸性塩形成剤にエナンチオマーを添加することも可能であるが、第1の形態が好ましい。遊離塩基、すなわち精製しようとするエナンチオマー(R,R)−I)又は((S,S)−I)のアミン形態を溶解し得るが、そのアンモニウム塩を本質的に溶解させない、すなわち多くとも5%、好ましくは多くとも2%、特に多くとも1%しか溶解させないように溶媒を選択することが好ましい。適当な溶媒の例は脂肪族及び脂環式炭化水素、好ましくは5〜8個の炭素原子を有するもの(例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン又はシクロオクタン);ハロゲン化脂肪族炭化水素、好ましくは1又は2個の炭素原子を有するもの(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン又はテトラクロロエタン);芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン又はジクロロベンゼン);脂肪族非環式及び環式エーテル、好ましくは4〜8個の炭素原子を有するもの(例えば、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、エチルtert−ブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサン);上記した溶媒の混合物である。上記したエーテル及び芳香族炭化水素が特に好ましく使用される。具体的には、トルエンが使用される。
【0063】
式(I)を有する化合物のアンモニウム塩を沈殿させる際に酸性塩形成剤を水溶液の形態で添加することが特に好ましい。無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸,硫酸、硝酸又はリン酸)の水溶液が好ましく使用される。塩酸が酸性塩形成剤として特に適当である。これは、水が存在しているにもかかわらず収率を無視できる程度しかロスせずに精製しようとするエナンチオマーのアンモニウム塩が選択的に沈殿するので驚くことである。
【0064】
本発明の方法のこの具体的実施形態では、酸性塩形成剤と一緒に添加した水を再び当業者に公知の方法により完全又は部分的に除去することが有利であり得る。この目的のために、溶媒に応じて例えば共沸蒸留が適当である。
【0065】
有利なことに、最終生成物が満たさなければならない仕様に応じて、反応混合物中の水含量により、沈殿から得られる式(I)で表される化合物の塩の純度及び収率に対し目標通りに影響を与えることが可能である。
【0066】
形成されたアンモニウム塩は、沈殿した固体を除去するための一般的な慣用方法(例えば、濾過、沈降、遠心等)により単離されるが、この場合、場合により反応混合物中に存在する液相を予め除去してもよい。液相は、例えばデカント又は蒸留により除去され得る。所望により、除去されたアンモニウム塩を該塩が不溶性の溶媒を用いて洗浄又は消化するような更なる精製ステップにかけてもよい。
【0067】
実質的にエナンチオマー的に純粋な化合物(I)は、沈殿した生成物を単離した後塩基で中和することによりそのアンモニウム塩から再び遊離され得る。ステップ(b)についての適当な塩基についてなされた記述はここでも当てはまる。中和は特に水性NaOH溶液中で起こる。
【0068】
この好ましい実施形態によれば、実質的にエナンチオマー的に純粋な化合物(I)(特に、(R,R)−I及び(S,S)−I)の光学純度及び化学純度をさらに向上させることができる。純度が余り低いために本発明の関係において実質的にエナンチオマー的に純粋な化合物(I)とは称されない式(I)を有する光学活性化合物の化学純度及び/又は光学純度もこのように向上させ得る。
【0069】
この好ましい実施形態によれば、2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンエナンチオマーの化学純度及び光学純度をそれぞれ少なくとも99%及び少なくとも99%ee、好ましくは少なくとも99.5%及び少なくとも99.5%ee、特に少なくとも99.9%及び少なくとも99.9%eeとすることができる。
【0070】
化学純度及び/又は光学純度を向上させるために酸性塩形成剤を添加することによりアンモニウム塩の形態で化合物(I)を沈殿させると達成し得る収率は、出発化合物の化学純度及び光学純度、並びに出発物質から得られる生成物の所望純度に依存している。収率のロスは、単離しようとする両エナンチオマーの全量に基づいて好ましくは15%未満、特に10%未満である。
【0071】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、式(I)で表される化合物のトランス立体異性体は、
(i)シクロヘキセンオキシド(エポキシシクロヘキサン)をアンモニアと反応させて、式(II):
【化4】

【0072】
で表される化合物を得、次いで
(ii)式(II)で表される化合物のトランス立体異性体を適当なベンジル化合物と反応させて、式(I)を有する化合物のトランス立体異性体を得るか、又は
(iii)式(II)で表される化合物のシス及びトランス異性体の混合物を適当なベンジル化合物と反応させて、対応するシス−及びトランス−ベンジルエーテルの混合物を形成し(すなわち、化合物Iのトランス及びシス異性体の混合物を得)、この混合物から式(I)を有する化合物のトランス立体異性体を単離する、ことにより得られる。
【0073】
本発明の関係においてステップ(i)と称されるシクロヘキセンオキシドからのアミノシクロヘキサノールの製造は、例えばSchlichter及びFrahm(Arch. Pharm. (Weinheim), 326, 429-436 (1993))により公表されている方法により実施され得る。この場合、水性35〜40%濃度のアンモニア溶液にシクロヘキセンオキシドを添加し、一晩攪拌し、溶液を蒸発乾固する。こうすると、反応は通常立体特異的に進行し、トランス−2−アミノシクロヘキサノールが選択的に生ずる。
【0074】
化合物(II)の対応するベンジルエーテルへの変換は、ステップ(ii)において化合物(II)のトランス異性体を適当なベンジル化合物と反応させることにより起こる。適当なベンジル化合物は、例えばハロゲン化ベンジル(例えば、臭化ベンジル又は塩化ベンジル)である。反応は通常塩基の存在下で実施される。適当な塩基は上記したアルカリ金属及びアルカリ土類金属水酸化物、並びにアルカリ金属及びアルカリ土類金属炭酸塩である。このようにして得られるエナンチオマーの混合物は、適当ならば当業者に公知の方法により単離、精製され得る。蒸留及び抽出方法がこの目的で特に適している。
【0075】
上記した反応シーケンスにより、通常ステップ(i)では実質的に化合物(II)のトランス立体異性体が生じ、その後のステップ(ii)では実質的に化合物(I)のトランス立体異性体、特に少なくとも99%deのジアステレオマー過剰率を有するトランス立体異性体が生ずる。エナンチオマーの単離混合物は具体的には化合物(I)のトランスジアステレオマーのラセミ化合物である。しかしながら、ステップ(i)の反応混合物がかなりの量、すなわちシス/トランス異性体の全重量に基づいて1%以上のシス異性体を含んでいるならば、適当な方法によりトランス異性体から除去することが好ましい。通常、ステップ(i)からの反応混合物を分離方法にかける。すなわち、ステップ(ii)を実施する前のステップ(i)の反応混合物はシス異性体を含有していない。しかしながら、ステップ(i)で得た混合物をステップ(iii)にかけることも可能である。すなわち、まずシス/トランス混合物を適当なベンジル化合物と反応させた後、このベンジル化反応の反応混合物を分離する。ベンジル化反応の反応混合物は化合物Iのトランス及びシス異性体を含む。この混合物からトランス異性体を単離する。適当な及び好ましいベンジル化合物及びベンジル化反応条件に関しては、上記を参照されたい。適当な分離方法は当業者に公知であり、例えば抽出及びクロマトグラフィー方法を含む。
【0076】
このようにして得た化合物(I)のトランス立体異性体を単離し、適当ならば例えばクロマトグラフィー、抽出又はアンモニウム塩としての沈殿により精製し得る。
【0077】
本発明の方法により、化合物(I)の個々のエナンチオマーが非常に高い光学純度及び化学純度で、高い収率で得られ得る。具体的には、本発明の方法(B)により、(R,R)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンが好ましくは少なくとも98%ee、特に好ましくは少なくとも99%ee、より好ましくは少なくとも99.5%ee、特に少なくとも99.9%eeのエナンチオマー過剰率(ee値)で得ることができる。対応する(S,S)エナンチオマーのエナンチオマー純度は好ましくは少なくとも97%ee、特に好ましくは少なくとも98%ee、より好ましくは少なくとも99%ee、さらにより好ましくは少なくとも99.5%ee、特に少なくとも99.9%eeである。エナンチオマーの化学純度は好ましくは少なくとも97%、特に好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、さらにより好ましくは少なくとも99.5%、特に少なくとも99.9%である。
【0078】
アミン((R,R)−I)及び((S,S)−I)のエナンチオマー過剰率は慣用の方法により、例えば比旋光度を測定することにより、又はキラル相を用いたクロマトグラフィー(例えば、キラルカラムを用いるHPLC又はガスクロマトグラフィー)により求められ得る。
【実施例】
【0079】
以下の非限定的実施例により本発明を説明する。
【0080】
1.)エナンチオ選択的アシル化及びラセミ化合物分割
等部の(R,R)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン及び(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンからなるラセミトランス−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン(1537g、7.49モル)をイソプロピルメトキシアセテート(IPMA)(425g、3.97モル、0.53当量)と混合し、15℃に冷却した後、Novozyme435(登録商標)(30g)を添加した。冷却浴を外した後、酵素がちょうど懸濁状態を維持するように攪拌速度を調節しながら反応溶液を一晩攪拌した。20時間後、酵素を濾別し、フィルター上の残渣をトルエン(0.5l)で洗浄し、真空(15ミリバール)中50℃の最高温度で濾液から揮発性成分を除去した。蒸留残渣をトルエン(2.5l)に取り、温度が20℃を越えないように注意しながら冷却しつつ10%濃度の硫酸(約1.8l)を添加することによってpHを1に調節した。水性相を分離し、トルエン(毎回200ml)で抽出した。合わせた有機抽出物を10%濃度の硫酸(100ml)及び水(200ml)で洗浄した。次いで、溶媒を減圧下で除去し、0.5ミリバール及び180℃の浴温度で蒸留残渣から低沸点成分を除去した。(R,R)−N−(2−ベンジルオキシシクロヘキシル)メトキシアセトアミド(920g、89%)を残渣として、高粘性油状物として得た。高温シクロヘキサン及びn−ペンタンから再結晶して、生成物を結晶性固体(融点45〜48℃)として得た。eeは>99.9%であった。(S,S)エナンチオマーは抽出の合わせた水性相中に実質的に塩の形態で存在していた。
【0081】
(R,R)−N−(2−ベンジルオキシシクロヘキシル)メトキシアセトアミドの1H-NMR (400MHz,CDCl3): δ = 1.22 (m, 2H), 1.38 (m, 2H), 1.58-1.68 (m, 1H), 1.80 (m, 2H), 2.15 (m, 2H), 3.25 (m, 1H), 3.40 (s, 3H), 3.84 and 3.92 (JAB = 20Hz, 2H), 3.05 (m, 1H), 4.48 and 4.68 (JAB = 16Hz, 2H), 6.55 (s, broad, 1H), 7.22-7.40 (m, 5H)。
【0082】
2.)エナンチオマーの単離
2.1)(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンの単離
1で得た合わせた水性相をトルエン(2l)と混合した。混合物を冷却することにより30℃未満の温度に維持しながら水性NaOH溶液(50%濃度)を用いてpHを約13に調節した。ガラスウールを介して濾過した後、水性相を分離し、トルエンで2回(毎回200ml)抽出した。合わせた有機相を水(200ml)で洗浄した。次いで、水性相を捨て、有機相の溶媒を回転蒸発器を用いて除去した。褐色油状物(950g)を、溶媒残渣の他に主成分として87%(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンを含む残渣として得た。減圧下で(0.5ミリバール/100℃)蒸留して、(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン(653g,85%)を97%の化学純度及び97.3%のeeで得た。
【0083】
1H-NMR (400MHz, CDCl3): δ = 1.08-1.38 (m, 4H), 1.58-1.82 (m, 4H), 1.90 (m, 1H), 2.25 (m, 1H), 2.65 (m, 1H), 3.05 (m, 1H), 4.45 and 4.70 (JAB = 16Hz, 2H), 7.22-7.40 (m, 5H)。
【0084】
2.2)(R,R)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンの製造
(R,R)−N−(2-ベンジルオキシシクロヘキシル)メトキシアセトアミド(1687g、6.08モル)をトリエタノールアミン(300g)で希釈し、攪拌しながら水性水酸化ナトリウム溶液(50%濃度、780g、9.75モル)を添加した。混合物を120℃の内部温度まで加熱し、激しく攪拌した。7時間後、反応混合物を水(500ml)で希釈した。室温まで冷却した後、トルエン(2l)を添加し、相を相互に分離した。水性相を再びトルエン(200ml)で抽出し、有機相を合わせ、合わせた有機相を水(200ml)で洗浄した。水性相を除去した後、溶媒を回転蒸発器を用いて除去し、残渣を減圧下で(沸点:0.4〜0.5ミリバール下で100℃)分別蒸留した。(R,R)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンは透明無色液体として1125g(90%)の収率で得た。eeは>99.9%であった。
【0085】
比旋光度[α]=−96.8(メタノール中c=2);H−NMRスペクトルは(S,S)エナンチオマーと同一であった。
【0086】
3.)化学及び/又は光学純度の増加
以下の実施例は本発明の沈殿の高い効率を示すのに役立つ。
【0087】
3.1)(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン塩酸塩の沈殿
98.5%の化学純度及び89.6%eeの光学純度((R,R)エナンチオマーと混合して調節)を有する(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンをトルエン(90ml)に導入し、攪拌しながら濃塩酸を添加した。添加完了後、混合物を還流加熱し、トルエンを充填した水トラップを介して留出物を反応容器に戻した。水の除去が完了したら、水トラップを還流冷却器に取り替え、イソプロパノール(10ml)を添加した。室温まで冷却した後、沈殿した固体を濾過により単離し、冷トルエン(10ml)で洗浄し、減圧下で乾燥した。(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンの塩酸塩を182〜184℃の融点を有する無色固体(20.1g,83%)として得た。水性水酸化ナトリウム溶液により遊離させた遊離2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンのサンプルは>99.9%の化学純度及び>99.9%eeの光学純度を有していた。
【0088】
3.2)(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン塩酸塩の沈殿
85%eeの光学純度((R,R)エナンチオマーと混合して調節)を有する(S,S)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンを用いて実施例3.1)の方法を適用すると、95%eeの光学純度を有する塩酸塩を82.5%の収率で得た。
【0089】
沈殿を繰り返すと、>99%eeの生成物が得られた。
【0090】
アンモニウム塩の比旋光度[α]=+78.8°(メタノール中c=2)。
【0091】
塩酸塩の1H-NMR (400MHz, CDCl3): δ = 1.05-1.38 (m=3H), 1.70 (m, 3H), 2.10 (m, 1H), 2.35 (m, 1H), 3.05 (m, 1H), 3.55 (m, 1H), 4.50 and 4.70 (JAB = 16Hz, 2H), 7.25- 7.50 (m, 5H), 8.50 (s, broad, 3H)。
【0092】
3.3)(R,R)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン塩酸塩の沈殿
96%の化学純度及び>99.9%eeの光学純度を有する(R,R)−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミンから出発して、塩酸塩(324.3g,85%)を無色固体として得た。水性水酸化ナトリウム溶液により遊離させた遊離アミンのサンプルは>99.9%の化学純度及び>99.9%eeの光学純度を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

で表される化合物のトランス立体異性体又はシス立体異性体のエナンチオマーの混合物を、加水分解酵素の存在下でアシル化剤と反応させ、トランス又はシス立体異性体の1つのエナンチオマーが実質的にアシル化された形態で存在し、トランス又はシス立体異性体の他のエナンチオマーが実質的にアシル化されていない形態で存在している混合物を得る、トランス−又はシス−2−ベンジルオキシシクロヘキシルアミン(I)のエナンチオ選択的アシル化方法。
【請求項2】
式(I)で表される化合物のトランス立体異性体を使用すると、実質的にアシル化された(R,R)エナンチオマーと実質的にアシル化されていない(S,S)エナンチオマーの混合物が得られる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)請求項1に定義されている式(I)で表される化合物のトランス立体異性体のエナンチオマーの混合物を、加水分解酵素の存在下でアシル化剤と反応させ、化合物(I)のトランス立体異性体の1つのエナンチオマーが実質的にアシル化された形態で存在し、化合物(I)のトランス立体異性体の他のエナンチオマーが実質的にアシル化されていない形態で存在している混合物を得るステップ;
(b)ステップ(a)で得た混合物から化合物(I)のトランス立体異性体の非アシル化エナンチオマーを除去するステップ;
(c)ステップ(b)で得た化合物(I)のトランス立体異性体の実質的にアシル化されたエナンチオマーを、対応するアミン(I)の非アシル化エナンチオマーに加水分解するステップ;
を含む、式((R,R)−I)及び/又は((S,S)−I)
【化2】

で表される光学活性化合物の製造方法。
【請求項4】
ステップ(a)で得た実質的にアシル化されていないエナンチオマーは化合物(I)の(S,S)エナンチオマーであり、実質的にアシル化されたエナンチオマーは化合物(I)の(R,R)エナンチオマーである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アシル化剤が、酸成分がカルボニル炭素原子に対してα、β又はγ位に酸素−、窒素−、フッ素−又は硫黄−含有基を有しているエステルから選択される請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
アシル化剤が、ステップ(a)において、アシル化しようとするエナンチオマーのモル量に基づき1.0〜1.5当量の量で用いられる請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
加水分解酵素が、バークホルデリア(Burkholderia)属又はシュードモナス(Pseudomonas)属の細菌、あるいはカンジダ(Candida)属の酵母に由来するリパーゼから選択される請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
リパーゼが、カンジダ・アンタルクティカ(Candida antarctica)由来のLipaseBである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アシル化剤との反応が、溶媒を添加することなく加水分解酵素の存在下で実施される請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
アシル化剤との反応が、非水性反応媒体中で加水分解酵素の存在下で実施される請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
以下のステップ:
(d)ステップ(b)又は(c)で得た式((R,R)−I)又は((S,S)−I)で表される光学活性化合物を、酸性塩形成剤を添加することによりそのアンモニウム塩に変換するステップ;
(e)アンモニウム塩を単離するステップ;及び
(f)アンモニウム塩から式((R,R)−I)又は((S,S)−I)の遊離塩基を遊離させるステップ;
をさらに含む請求項3〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
酸性塩形成剤を水溶液の形態で添加する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
水溶液を添加後、水を反応溶液から少なくとも一部除去する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
酸性塩形成剤が、プロトン酸及びそのアルカリ金属塩から選択される請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
式(I)で表される化合物のトランス立体異性体を、
(i)シクロヘキセンオキシドをアンモニアと反応させて、式(II):
【化3】

で表される化合物を得、次いで
(ii)式(II)で表される化合物のトランス立体異性体を、適当なベンジル化合物と反応させて、請求項1に記載の式(I)で表される化合物のトランス立体異性体を得;又は
(iii)式(II)で表される化合物のシス及びトランス異性体の混合物を、適当なベンジル化合物と反応させ、対応するシス−及びトランス−ベンジルエーテルの混合物を形成し、この混合物からトランス立体異性体を単離する;
ことにより得る、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2010−503393(P2010−503393A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527820(P2009−527820)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059594
【国際公開番号】WO2008/031852
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】