説明

光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体およびその合成中間体の製造法

医薬品中間体として有用な光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を安価な原料から簡単に製造できる方法を提供する。 酵素による不斉還元反応により比較的容易に得られる光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体を、光学活性β−ラクトン誘導体に環化させ、これに硫黄化合物を反応させることにより、収率良く光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、医薬品等の中間体として有用な、光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体の製造法と、その合成に有用な中間体およびその製造法に関する。
【背景技術】
光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体の製造法としては、大別してラセミ体の2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を分割する方法、非光学活性な原料から目的物に誘導する方法、及び、光学活性な化合物を原料として目的物に誘導する方法の3種の方法が知られている。
ラセミ体を分割する方法としては、ラセミ体2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を光学活性なアミンとの塩とするか、光学活性アミノ酸と結合させてジアステレオマーの混合物とし、これらを晶析して分割する方法がある。アミン塩としては、例えば、エフェドリン塩(特開平08−59606)、N−イソプロピルアラニノール塩(J.Med.Chem.,1992,35(3),602〜608頁)、1−アミノ−インダノール塩(特開平11−228532)などを用いた例が、アミノ酸と結合させた例としてはアラニンを用いた例(特表平4−501868)が報告されている。また、硫黄原子上のアセチル基を酵素により立体選択的に加水分解する方法(US5177006AおよびBiotechnol.Appl.Biochem.,1992,16(1),34〜37頁)も報告されている。しかしながら、これらの方法は分割法であるがゆえに最高収率は50%であり、工業的な製造方法としては実用的かつ経済的な方法とは言い難い。
非光学活性な原料から誘導する方法としては、α−ヒドロキシメチル桂皮酸誘導体またはそのエステルの不斉水素化反応を利用する方法が知られており、数種の不斉触媒を用いた例が報告されている(FR2772027A1、特開2000−229907、Aust.J.Chem.,1998,51(6),511〜514頁、Enantiomer,1998,3(2),191〜195頁等)。しかしながら、いずれの例も触媒が高価かつ安定入手が困難、あるいは選択性が低い等の課題を有しており、現実的ではない。
光学活性な原料から誘導する方法としては、光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸に光延(Mitsunobu)試薬とチオ酢酸カリウムを反応させる方法(特表平11−503470)や、光学活性2−スルホニルオキシ−3−フェニル−1−プロパノール誘導体若しくは光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を光学活性2−スルホニルオキシ−3−フェニルプロピオン酸誘導体とし、これに硫黄化合物を反応させて目的物とする方法(WO98/05634)が報告されている。しかしながら、これらの方法は、目的物の単離精製が煩雑である、硫黄化合物との反応効率が十分でない等の問題があり、工業的な製法としてはさらに改善すべき点が存在する。
【発明の開示】
上記に鑑み、本発明の目的は、光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を簡便かつ工業的に有利に製造できる実用的な方法を提供することにある。
本発明者等は上記に鑑み鋭意検討を行った結果、光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体又は光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を光学活性β−ラクトン誘導体とし、これに硫黄化合物を反応させることにより光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、一般式(1);

(式中、*は不斉炭素原子を表し、Rは置換基を有していても良いフェニル基を表し、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基または置換基を有していても良いC〜C20のアリール基を表す)で表される光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を環化させることを特徴とする一般式(2);

(式中、*、Rは前記と同じ)で表される光学活性β−ラクトン誘導体の製造法である。
また本発明は、上記式(2)で表される光学活性β−ラクトン誘導体に一般式(6);
SR (6)
(式中、Rは水素原子またはアルカリ金属原子を表し、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基、置換基を有していても良いC〜C20のアリール基、置換基を有していても良いC〜C20のアシル基または置換基を有していても良いC〜C20のアロイル基を表す)で表される硫黄化合物を反応させることを特徴とする一般式(7);

(式中、*、R、Rは前記と同じ)で表される光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体の製造法である。
また本発明は、一般式(8);

(式中、*は前記と同じ)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体を環化させて上記式(2)で表される光学活性β−ラクトン誘導体とし、次いで上記式(6)で表されるる硫黄化合物を反応させることを特徴とする、上記式(7)で表される光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体の製造法である。
さらに本発明は、一般式(10);

(式中、*は前記と同じ、Rは置換基を有するフェニル基を表す)で表される光学活性β−ラクトン誘導体である。
また本発明は、一般式(11);

(式中、*、R、R、Rは前記と同じ)で表される光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体である。
さらに本発明は、一般式(12);

(式中、*、Rは前記と同じ)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体である。
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において「光学活性」とは、不斉炭素原子をひとつ有する化合物において、互いに不斉炭素原子の絶対配置の異なる2種の鏡像異性体のうち、どちらか片方の存在比が高いことを示す。
まず、本発明で使用する原料、およびその製造法について説明する。
本願発明においては、一般式(1);

で表される光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体、または、一般式(8);

で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体を原料として用いる。
前記式(1)および(8)において*は不斉炭素原子を表す。また、前記式(1)においてRは置換基を有していても良いフェニル基を表す。置換基を有していても良いフェニル基としては、例えば、フェニル基、2,3−メチレンジオキシフェニル基、2,3−エチレンジオキシフェニル基、2,3−プロピレンジオキシフェニル基、3,4−メチレンジオキシフェニル基、3,4−エチレンジオキシフェニル基、3,4−プロピレンジオキシフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、o−フェノキシフェニル基、m−フェノキシフェニル基、p−フェノキシフェニル基、o−フェニルフェニル基、m−フェニルフェニル基、p−フェニルフェニル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−ブロモフェニル基、m−ブロモフェニル基、p−ブロモフェニル基、o−フルオロフェニル基、m−フルオロフェニル基、p−フルオロフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、o−シアノフェニル基、m−シアノフェニル基、p−シアノフェニル基、o−ヒドロキシフェニル基、m−ヒドロキシフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,3−ジメトキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,5−ジメトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、2,3−ジフルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2,5−ジフルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、2,3−ジヒドロキシフェニル基、2,4−ジヒドロキシフェニル基、2,5−ジヒドロキシフェニル基、2,6−ジヒドロキシフェニル基、3,4−ジヒドロキシフェニル基などが挙げられ、好ましくはフェニル基または3,4−メチレンジオキシフェニル基である。
また、前記式(1)において、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基または置換基を有していても良いC〜C20のアリール基を表す。ここで、炭素数は置換基を含まない値であり、特に断りのない限り、以下も同様である。
置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基等が挙げられる。置換基を有していても良いC〜C20のアリール基としては、例えばフェニル基、p−トリル基、o−トリル基、m−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基などが挙げられる。上記のなかでも、不純物の生成を抑え、純度良く目的物を得るためには、メチル基、p−トリル基、フェニル基、ベンジル基、トリフルオロメチル基であることが好ましい。
なお、前記式(8)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体は、本発明者らによって光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体合成における有用性が見出された新規化合物である。
前記式(1)で表される光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体は、例えば、相当するラセミ体の2−ホルミル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体を酵素により不斉還元することより一般式(3);

で示される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体とし(特開昭60−199383)、この光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体(3)をスルホニル化し、次いで加水分解することにより得ることができる。また、前記式(8)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体は、上記の光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体(3)においてRが3,4−メチレンジオキシフェニル基である化合物を加水分解することにより、得ることができる。
以下に、光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体(3)から光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体(1)を製造法する方法について説明する。
前記式(3)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体において、*およびRは前記と同じであり、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基または置換基を有していても良いC〜C20のアリール基を表す。
〜C10の置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基などが挙げられる。置換基を有していても良いC〜C20のアリール基としては、例えばフェニル基、p−トリル基、o−トリル基、m−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基などが挙げられる。上記のなかでも、後工程の加水分解を収率良く進行させ、目的物を良好な収率で得るには、メチル基、エチル基、t−ブチル基のいずれかであることが好ましい。
光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体(3)のスルホニル化は、一般的な方法で行えばよく、例えば、適当な塩基の共存下、前記式(4);
SOX (4)
で示されるスルホン酸ハロゲン化物と反応させることにより実施できる。前記式(4)においてRは前記と同じであり、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては例えばヨウ素原子、臭素原子、塩素原子などが挙げられ、好ましくは塩素原子である。共存させる塩基としては、生成する酸を補足し得るものであれば特に限定されるものではないが、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、ルチジン等の3級アミンが好ましい。
スルホン酸ハロゲン化物(4)および塩基の使用量は、光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体(3)に対して、1〜5倍モル量が好ましく、経済的観点から1〜2倍モル量がより好ましい。
反応は適当な有機溶媒中で行われ、用いる溶媒としてはベンゼンあるいはトルエン等の置換ベンゼン類、塩化メチレン等のクロロアルカン類、テトラヒドロフランあるいはジエチルエーテル等のエーテル類、ヘキサンあるいはペンタン等のアルカン類が好ましく、より好ましくはトルエンである。
反応温度については、好ましくは−10〜50℃であり、より好ましくは−5〜30℃である。反応時間は原料が消失した時点で反応を止めれば良いが、好ましくは1〜10時間程度である。
上記操作により、一般式(5);

で示される光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体を得ることができる。前記式(5)において、*、R、R、Rは前記と同じである。
なお、前記式(5)においてRが無置換フェニル基以外の基である化合物、即ち、一般式(11);

(式中、*、R、Rは前記と同じ、RはC〜C20の置換基を有するフェニル基を表す)で表される光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体は、本発明者らにより、光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体合成における有用性が見出された新規化合物である。
上記光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体(5)は、加水分解することにより光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体(1)とすることができる。加水分解は、アルカリ条件下で行うとスルホニルオキシ基が速やかに脱離して不飽和エステルを与えるため、通常、酸性条件下で行うことが望ましい。ただし、ベンゼン環上の置換基が、酸性条件下において何らかの反応を起こす可能性を有する場合には慎重に反応条件を検討する必要がある。例えば、ベンゼン環上に、酸に比較的弱いメチレンジオキシ基を有する場合について反応条件の詳細を説明する。
用いる酸としては、酢酸、ギ酸、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、およびトリフルオロメタンスルホン酸からなる群より選択される1種または2種以上の酸を用いることが好ましく、硫酸またはp−トルエンスルホン酸のいずれかと酢酸を併用するのがより好ましい。
硫酸またはp−トルエンスルホン酸はいずれも水溶液として加えることが好ましく、その濃度は2〜30wt%が好ましく、より好ましくは5〜20wt%である。加える量は、光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体(5)に対して、0.1〜5倍モル量が好ましく、より好ましくは0.25〜2倍モル量である。酢酸との混合比については、硫酸水溶液またはp−トルエンスルホン酸水溶液の、2〜20倍重量の酢酸を使用することが好ましく、より好ましくは2〜10倍重量である。
反応温度は50℃から還流温度の範囲で行うことが好ましく、60〜100℃の範囲で行うことがより好ましい。反応時間は、3〜48時間程度が好ましく、あまり長時間行うと、生成物の分解による収率低下を招くため、3〜30時間がより好ましい。
反応後の後処理は、例えば、加えた硫酸あるいはp−トルエンスルホン酸をアルカリで中和した後に、減圧下、酢酸を留去し、水と有機溶媒を加え抽出を行うことにより実施できる。ここで用いるアルカリとしては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸水素化物、アルカリ金属炭酸塩が好ましく、なかでも水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムが好ましい。抽出溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジエチルエーテル、酢酸エチルが好ましく、より好ましくはトルエン、酢酸エチルである。
得られた有機層を濃縮して得られた粗生成物は特に精製することなく次工程に供しても良いし、例えばクロマトグラフィー等により精製してから使用しても良い。
ベンゼン環が無置換あるいは、酸性に対して分解等の恐れのない置換基のみを有する場合には、通常のエステルの酸性加水分解方法により反応を行うことができる。用いる酸としては、特に制限されるものではないが、例えば塩酸、硫酸などの鉱酸類の他に、三塩化ホウ素等のルイス酸や、トリフルオロ酢酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられ、塩酸、硫酸、三塩化ホウ素、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸等が好ましい。
反応溶媒としては、有機溶媒と水の混合溶媒、酢酸、ギ酸等が用いられ、好ましくはジオキサン、テトラヒドロフラン、アルコール類等の水と混じり得る有機溶媒と水の混合溶媒あるいは酢酸、ギ酸である。反応温度は、反応が進行する温度であれば特に制限されるものではないが、好ましくは0℃から還流温度、より好ましくは0℃から100℃程度である。反応時間は、目的物の収率が最高になった時点で止めれば良く、特に制限されるものではないが、一般的には1〜48時間程度が好ましい。
次に、光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体(3)においてRが3,4−メチレンジオキシフェニル基である化合物から光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体(8)を製造法する方法について説明する。
光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体(8)は、光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体(3)においてRが3,4−メチレンジオキシフェニル基である化合物の加水分解により容易に得ることができる。加水分解の方法は特に制限されるものではないが、酸性条件下で行うとメチレンジオキシ基が分解する恐れがあるため、アルカリ条件で行うことが必要である。用いるアルカリとしては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸水素化物、アルカリ金属炭酸塩が好ましく、なかでも水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムが好ましい。
反応は水溶液中あるいは水と混じり得る有機溶媒との混合溶媒中で行われる。水と混じりあう有機溶媒としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が好ましい。反応温度は0℃から還流温度の範囲で行うことが好ましく、あまり高いとラセミ化の恐れがあるため0〜60℃の範囲で行うことがより好ましい。反応時間は原料消失を確認後速やかに停止することが好ましく、あまり長時間行うとラセミ化の恐れがあるため、2〜48時間程度で停止することがより好ましい。
加水分解を酸性条件で行う場合には、特に一般的な方法を用いて行えば良く、用いる酸としては、特に制限されるものではないが、例えば塩酸、硫酸などの鉱酸類の他に、三塩化ホウ素等のルイス酸や、トリフルオロ酢酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられ、塩酸、硫酸、三塩化ホウ素、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸等が好ましい。
反応溶媒としては、有機溶媒と水の混合溶媒、酢酸、ギ酸等が用いられ、好ましくはジオキサン、テトラヒドロフラン、アルコール類等の水と混じり得る有機溶媒と水の混合溶媒あるいは酢酸、ギ酸である。反応温度は、反応が進行する温度であれば特に制限されるものではないが、好ましくは0℃から還流温度、より好ましくは0℃から100℃程度である。反応時間は、目的物の収率が最高になった時点で止めれば良く、特に制限されるものではないが、一般的には1〜48時間程度である。
次に、本願発明における一般式(2);

(式中、*、Rは前記と同じ)で表される光学活性β−ラクトン誘導体の製造法について説明する。まず、光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体(1)を環化する方法について説明する。
反応は、水と適当な有機溶媒の混合溶媒中で行うと、環化反応により生成した光学活性β−ラクトン誘導体(2)は有機層に存在し、加水分解による開環反応が進行しないため、一般的に不安定なβ−ラクトン誘導体(2)を高収率で得ることができる。使用する有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、アニソール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、および四塩化炭素からなる群より選択される1種または2種以上の溶媒を用いることが好ましく、特に好ましくはトルエンあるいは酢酸エチルである。
上記有機溶媒中に光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体(1)を加えた後に、水を加えて反応を開始するが、この時に適当なアルカリを加え、反応混合物のpHを調整する必要がある。使用するアルカリはpHを調整でき得るものであれば特に制限されるものではないが、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸水素化物、アルカリ金属炭酸塩が好ましく、なかでも水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムが好ましい。これらアルカリにより、pHを4以上に調整することが好ましく、さらに収率良く目的物を得るためには4〜12の範囲に調整することが特に好ましい。
水と有機溶媒の混合比は、加える有機溶媒の体積が水の1〜10倍が好ましく、より好ましくは1〜5倍である。反応温度は、0℃から還流の範囲で行うことが好ましいが、あまり低いと反応が遅く、また、あまり高いと生成物の分解による収率の低下が懸念されるため、10〜50℃の範囲で行うことがより好ましい。反応時間は、目的物の収率が最高となった時点で反応を止めれば良いが、5〜48時間程度が好ましく、特に好ましくは5〜30時間程度である。
反応後は、目的物である光学活性β−ラクトン誘導体(2)は、有機層に存在しており、分液操作のみで原料と分離することができる。得られた有機層は、濃縮後、精製することなくそのまま次工程に供することができるが、例えばクロマトグラフィー等の方法により純度を上げてから使用しても良い。
次に、前記式(8)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体を環化させて光学活性β−ラクトン誘導体(2)を製造する方法について説明する。
光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体(8)の環化反応による光学活性β−ラクトン誘導体(2)の合成は、脱水縮合反応を行える方法であれば特に制限されるものではないが、例えば下記に示す5種の方法により環化させることができる。
1)前記式(8)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体を、一般式(13);
C−N=N−CO (13)
で表されるアゾジカルボン酸エステルと一般式(14);
P (14)
で表されるホスフィン化合物の存在下、環化させる方法。
2)前記式(4)で示されるスルホン酸ハロゲン化物を塩基の共存下で反応させる方法。
3)ジシクロヘキシルカルボジイミド等の縮合剤を用いる方法。
4)ハロゲン化エステルとの反応による混合酸無水物を経由する方法。
5)塩素化剤との反応による酸塩化物を経由する方法。
まず、前記1)の環化方法について説明する。前記式(13)においてRおよびRはそれぞれ独立に置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基、置換基を有していても良いC〜C20のアリール基を表し、互いに異なっていても同じであっても良い。
置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基等が挙げられる。置換基を有していても良いC〜C20のアリール基としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基等が挙げられる。収率良く目的物を得るためには、RおよびRは共にエチル基あるいは共にイソプロピル基であることが好ましい。
前記式(14)において、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基、置換基を有していても良いC〜C10のアルコキシ基、置換基を有していても良いC〜C20のアリールオキシ基、置換基を有していても良いC〜C20のアリール基を表す。
置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基などが挙げられる。置換基を有していても良いC〜C10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、トリフルオロメチルオキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。置換基を有していても良いC〜C20のアリールオキシ基としては、フェニルオキシ基、o−トリルオキシ基、m−トリルオキシ基、p−トリルオキシ基、o−クロロフェニルオキシ基、m−クロロフェニルオキシ基、p−クロロフェニルオキシ基、o−ニトロフェニルオキシ基、m−ニトロフェニルオキシ基、p−ニトロフェニルオキシ基等が挙げられる。置換基を有していても良いC〜C20のアリール基としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、o−シアノフェニル基、m−シアノフェニル基、p−シアノフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、3,4−メチレンジオキシフェニル基、2,3−メチレンジオキシフェニル基等が挙げられる。良好な収率で目的物を得るためには、フェニル基であることが好ましい。
前記式(13)で表されるアゾジカルボン酸エステルと前記式(14)で表されるホスフィン化合物の使用量は、ともに光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体(8)に対して1〜5倍モル量が好ましく、さらに好ましくは1〜3倍モル量である。
反応は−78〜30℃で行うことが好ましく、より好ましくは−78〜0℃の範囲である。反応は通常、数時間で原料の消失が確認されるが、好ましくは2〜24時間程度である。反応は有機溶媒中で行うが、溶媒としては、ベンゼンあるいはトルエン等の置換ベンゼン類、塩化メチレン等のクロロアルカン類、エーテル類、アルカン類、テトラヒドロフランが好ましく、より好ましくはテトラヒドロフラン、トルエン、塩化メチレンである。
反応後は、不溶分を濾過により除去し、得られたろ液を濃縮することで目的物を得ることができ、これを精製することなく次工程に供することができるが、例えばクロマトグラフィー等の方法により精製してから使用しても良い。
次に、前記2)の環化方法について説明する。反応は、スルホン酸ハロゲン化物(4)と塩基の共存下に行われるが、共存させる塩基としては、生成する酸を補足し得るものであれば特に限定されるものではないが、例えばトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、ルチジン等の3級アミンが好ましい。スルホン酸ハロゲン化物および塩基の使用量は、光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体(8)に対して1〜5倍モル量が好ましく、経済的観点から1〜2倍モル量がより好ましい。
反応は適当な有機溶媒中、あるいは無溶媒で行われるが、用いる溶媒としてはベンゼンあるいはトルエン等の置換ベンゼン類、塩化メチレン等のクロロアルカン類、エーテル類、アルカン類、テトラヒドロフランが好ましく、より好ましくはテトラヒドロフラン、トルエン、塩化メチレンであり、無溶媒の場合には共存させる塩基を過剰量加え、反応を実施することができる。無溶媒の場合、過剰に用いる塩基としては、上記の3級アミンから選択すれば良いが、好ましくはピリジンである。反応温度については、好ましくは−10〜50℃であり、より好ましくは−5〜30℃である。反応時間は原料が消失した時点で反応を止めれば良いが、好ましくは3〜10時間程度である。
本法においては、生成物が光学活性β−ラクトン(2)と光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸(1)においてRが3,4−メチレンジオキシフェニル基である化合物との混合物になる場合があるが、例えば、前述の方法により、生成した光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸(1)においてRが3,4−メチレンジオキシフェニル基である化合物を有機溶媒と水の混合溶媒中で環化させることにより、最終的に光学活性β−ラクトン(2)を生成物として取得することができる。
反応後、反応液を水洗した後に濃縮し、これをそのまま次工程に供することができるが、例えばクロマトグラフィー等の方法により精製してから使用しても良い。反応溶媒にテトラヒドロフラン等の水と混じり得る溶媒を用いた場合には、水を加える前に溶媒を除去し、水と適当な有機溶媒を加えて抽出を実施することができる。
次に、前記3)の縮合剤を用いる環化方法について説明する。縮合剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、N−エチル−N’−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミドおよびその塩酸塩、ベンゾトリアゾール−1−イル−トリス−(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩、ジフェニルホスホリルアジド等を用いることが好ましい。これらの使用量は、光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体(8)に対して1〜5倍モル量が好ましく、経済的観点からは1〜2倍モル量がより好ましい。
反応は、適当な有機溶媒中で行われるが、用いる溶媒としてはベンゼンあるいはトルエン等の置換ベンゼン類、塩化メチレン等のクロロアルカン類、エーテル類、アルカン類、テトラヒドロフランが好ましく、より好ましくは塩化メチレンである。反応温度については、好ましくは−10〜50℃であり、より好ましくは−5〜30℃である。反応時間は原料が消失した時点で反応を止めれば良いが、好ましくは5〜24時間程度である。
反応後、反応液を水洗した後に濃縮し、これをそのまま次工程に供することができるが、例えばクロマトグラフィー等の方法により純度を上げてから使用しても良い。反応溶媒にテトラヒドロフラン等の水と混じり得る溶媒を用いた場合には、水を加える前に溶媒を除去し、水と適当な有機溶媒を加えて抽出を実施することができる。抽出に用いる溶媒としては、例えば、ベンゼンあるいはトルエン等の置換ベンゼン類、塩化メチレン等のクロロアルカン類、エーテル類、アルカン類が好ましく、より好ましくはトルエン、酢酸エチル、塩化メチレンである。
さらに、前記4)の環化方法について説明する。ハロゲン化エステルは、例えば一般式(15);

(式中、Xはハロゲン原子を表し、R10は置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基を表す)で表され、Xで表されるハロゲン原子としては、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子等が好ましく、より好ましくは塩素原子である。R10で表される置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基あるいはエチル基である。
反応は塩基共存下、適当な有機溶媒中で実施されるが、有機溶媒としては、ベンゼンあるいはトルエン等の置換ベンゼン類、塩化メチレン等のクロロアルカン類、エーテル類、アルカン類、テトラヒドロフランが好ましく、より好ましくはテトラヒドロフラン、塩化メチレンである。共存させる塩基としては、生成する酸を補足し得るものであれば特に限定されるものではないが、例えばトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、ルチジン等の3級アミンが好ましい。ハロゲン化ギ酸エステルおよび塩基の使用量は、光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体(8)に対して1〜5倍モル量が好ましく、経済的観点からは1〜2倍モル量がより好ましい。
反応は−20〜30℃で行うことが好ましく、より好ましくは−10〜10℃の範囲である。反応は極めて速やかに進行し、数分で原料の消失が確認される。反応後、不溶分である無機塩等を濾過により除去し、得られたろ液を濃縮することで目的物を得ることができ、これを精製することなく次工程に供することができるが、クロマトグラフィー等の方法により精製してから使用することもできる。
最後に前記5)の環化方法について説明する。反応させる塩素化剤としては、特に制限されるのもではないが、塩化チオニル等を用いることが好ましく、使用量は、光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体(8)に対して1〜50倍モル量が好ましく、経済的観点からは1〜20倍モル量がより好ましい。
反応は適当な有機溶媒中で実施されるが、有機溶媒としては、ベンゼンあるいはトルエン等の置換ベンゼン類、塩化メチレン等のクロロアルカン類、エーテル類、アルカン類、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が好ましく、より好ましくはジメチルホルムアミドもしくはジメチルスルホキシドである。反応温度は5〜60℃が好ましく、さらに好ましくは5〜40℃である。反応時間は収率が最高となった時点で止めれば良いが、通常、5〜120時間程度が好ましい。反応後、反応液を濃縮し、これをそのまま次工程に供することができるが、例えばクロマトグラフィー等の方法により純度を上げてから使用しても良い。
なお、前記式(2)において、Rが無置換フェニル基以外の基である化合物、即ち、一般式(10);

(式中、*は前記と同じ、Rは置換基を有するフェニル基を表す。)で表される光学活性β−ラクトン誘導体は、本発明者らによって、光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸合成における有用性が見出された新規化合物である。
次に、得られた光学活性β−ラクトン誘導体(2)に、一般式(6);
SR (6)
で示される硫黄化合物を反応させて、一般式(7);

で表される光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を製造する方法について説明する。
前記式(6)において、Rは水素原子またはアルカリ金属原子を表し、アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。収率良く目的物を得るには、水素原子あるいはカリウム原子であることが好ましい。
前記式(6)および(7)において、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基、置換基を有していても良いC〜C20のアリール基、置換基を有していても良いC〜C20のアシル基または置換基を有していても良いC〜C20のアロイル基を表す。置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基などが挙げられる。置換基を有していても良いC〜C20のアリール基としては例えば、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基などが挙げられる。置換基を有していても良いC〜C20のアシル基としては、アセチル基、エチリル基、プロピリル基、ブチリル基、イソブチリル基、トリフルオロアセチル基等が挙げられ、置換基を有していても良いC〜C20のアロイル基としては、ベンゾイル基、o−トルイル基、m−トルイル基、p−トルイル基、o−アニソイル基、m−アニソイル基、p−アニソイル基等が挙げられる。良好な収率で反応を進行させるためには、アセチル基であることが好ましい。
硫黄化合物(6)の使用量は、光学活性β−ラクトン(2)に対して、1〜5当量であることが好ましく、より好ましくは1〜2当量である。
反応は有機溶媒中あるいは有機溶媒と水の二相系で行うことができる。有機溶媒単独で行う場合には、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリルなどを用いることが好ましく。これらは1種あるいは2種以上の混合溶媒として用いることも可能である。有機溶媒と水の二相系で行う場合の有機溶媒としては、酢酸エチル、トルエン、アセトニトリル、ベンゼン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム等を用いることが好ましく、反応収率および環境への配慮等から酢酸エチルまたトルエンを用いることが特に好ましい。水と有機溶媒の量比は、特に制限されるものではないが、有機溶媒が水の1〜10倍の体積であることが好ましく、さらに好ましくは1〜5倍量である。
反応温度は、0℃から還流温度の範囲で行うことが好ましく、より好ましくは0〜60℃の範囲である。反応時間は1〜5時間程度で原料の消失が認められるので、ここで停止すればよい。後処理は、有機溶媒を減圧下、留去した後に、酸を加えpHを酸性に調整後、有機溶媒で抽出を行う。用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が好ましい。pHは1〜7の範囲に調整することが好ましく、1〜4の範囲にすることがより好ましい。抽出溶媒は、通常の有機溶媒であれば特に制限されるものではないが、トルエン、酢酸エチル、塩化メチレン等が好ましく、特に好ましくはトルエンあるいは酢酸エチルである。
前記式(6)において、Rが水素原子である硫黄化合物では、上記反応条件では反応が進行しにくいことがあり、このような場合にはアルカリあるいはアミン類を共存させると良い場合がある。
使用するアルカリとしては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属水素炭酸化物、アルカリ水素炭酸化物等が挙げられ、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムが好ましく、アルカリ金属水素炭酸化物としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウムが好ましく、アルカリ金属炭酸化物としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムが好ましい。これらのアルカリ共存下で反応を行う場合には、反応は有機溶媒と水の混合溶媒中で行われ、有機溶媒としては、酢酸エチル、トルエン、アセトニトリル、ベンゼン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム等を用いることが好ましく、反応収率および環境への配慮等から酢酸エチルまたトルエンを用いることが特に好ましい。水と有機溶媒の量比は、特に制限されるものではないが、有機溶媒が水の1〜10倍の体積であることが好ましく、さらに好ましくは1〜5倍量である。
使用するアミンとしては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、ルチジン等が好ましく、反応は適当な有機溶媒中で行われる。使用する有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリルなどを用いることが好ましく、これらは1種あるいは2種以上の混合溶媒として用いることも可能である。
アミン、アルカリいずれを用いた場合も、反応温度、反応時間、後処理等については、これらを共存させない上記の方法を特に変更することなく、同様に実施することができる。
【産業上の利用可能性】
本発明により、医薬品中間体として有用な光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を安価な原料から、簡便かつ工業的に有利に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(参考例1)(S)−2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルエステル
組換え大腸菌HB101(pTSBG1)受託番号FERM BP−7119を、500ml容坂口フラスコ中で滅菌した50mlの2×YT培地(トリペプトン 1.6%、イーストエキス 1.0%、NaCl 0.5%、pH=7.0)に接種し、37℃で18時間振とう培養した。得られた培養液50mlに2−ホルミル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エチル0.5g、NADP2.5mg、グルコース0.5gを添加し、30℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応液からトルエンを用いて抽出、濃縮することにより、茶色油状物0.49gを得た。GC(カラム:TC−FFAP 5m×0.25mmI.D.(GLサイエンス社製)、キャリアーガス:He=30kPa、検出:FID、カラム温度:150℃)およびHPLC(カラム:Chiralcel AS(ダイセル化学工業株式会社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール=98/2、流速:1mL/min.、検出波長:210nm、カラム温度:40℃、検出時間:R体16.1分、S体18.3分)により、生成物の化学純度と光学純度を分析したところ、化学純度96.8%、光学純度43%eeで表題化合物が得られていることを確認した。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.73−6.56(3H,m),5.93(2H,s),4.12−4.23(2H,q),3.76−3.64(2H,m),2.95−2.69(3H,m),1.27(3H,t)。
(参考例2)(R)−2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルエステル
組換え大腸菌HB101(pNTCRG)受託番号FERM BP−6898を、500ml容坂口フラスコ中で滅菌した50mlの2×YT培地(トリペプトン 1.6%、イーストエキス 1.0%、NaCl 0.5%、pH=7.0)に接種し、37℃で18時間振とう培養した。得られた培養液550mlに2−ホルミル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エチル87g、NADP27.5mg、グルコース89gを添加し、30℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応液からトルエンを用いて抽出、濃縮することにより、茶色油状物84.1gを得た。参考例2と同様の分析法で、生成物の化学純度と光学純度を分析したところ、化学純度96.5%、光学純度96.4%eeで表題化合物が得られている事を確認した。
(実施例1)(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エチルエステル
例えば参考例1のようにして得られた、(S)−2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エチルエステル(70.62g、279.94mmol)およびトリエチルアミン(58.53mL、419.91mmol)をトルエン(630mL)に溶解し、反応容器内部を窒素で置換する。溶液を氷浴につけ、内温を0℃まで冷やす。内温を10℃以下に保ちながら塩化メタンスルホニル(32.5mL、419.91mmol)を約1.5時間かけてゆっくり滴下する。滴下終了後、氷浴を取り外し、さらに2時間、攪拌を続けたところで反応液を一部抜き取り、HPLC(カラム:Lichrosphere、移動相:リン酸・リン酸二水素カリウム水溶液/アセトニトリル=1/1、流速:1mL/min.、検出波長:210nm、カラム温度:30℃)にて分析を行ったところ原料が消失していた。反応溶液を水で洗浄(400mL×2)した。洗浄液を念のためトルエンで抽出(500mL×1)し、洗浄済みの反応溶液に加えた。減圧下、溶媒を留去し表題化合物を赤色オイルとして得た。このオイルをH NMRおよびHPLCにて分析したところ、表題化合物であることを確認した(92.04g、純度96.18wt%、収率95.70%)。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.71−6.58(3H,m),5.90(2H,s),4.33−4.26(2H,m),4.13(2H,m),3.00−2.74(4H,m),1.21(3H,t)。
(実施例2)(R)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エチルエステル
例えば参考例2のようにして得られた(R)−2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルエステル(75.08g、297.62mmol)より実施例1と同様の方法で反応を行い、表題化合物を得た(102.09g、純度92.50wt%、収率96.0%)。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.71−6.58(3H,m),5.90(2H,s),4.33−4.26(2H,m),4.13(2H,m),3.00−2.74(4H,m),1.21(3H,t)。
(実施例3)(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸
(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エチルエステル(1.92g、5.82mmol)、10wt%硫酸水溶液(2.85g、2.91mmol)を酢酸(10g)に加え、90℃で攪拌した。20時間後に室温まで放冷、酢酸ナトリウム(477.41mg、5.82mmol)を加え、減圧下、酢酸を留去した。全量が約1/3程度となったところで、酢酸エチル(50mL)を加え、これを水(20mL)で3回洗浄した。洗浄液を酢酸エチル(30mL)で抽出、抽出液と先の酢酸エチル層を混合し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、減圧下、溶媒を留去することにより赤色オイルを得た。これをH NMRおよびHPLC(カラム:COSMOSIL 5C18−AR(ナカライ社製)、移動相:リン酸・リン酸二水素カリウム水溶液(pH=2)/アセトニトリル=7/3、流速:1mL/min.、検出波長:210nm、カラム温度:40℃)にて分析したところ、表題化合物であることを確認した(1.99g、純度67.80wt%、収率76.60%)。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:9.50(1H,br),6.75−6.63(3H,m),5.93(2H,s),3.07−2.90(5H,m),2.85−2.81(1H,m)。
(実施例4)(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸
(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エチルエステル(250mg、740.9μmol)、10wt%p−トルエンスルホン酸水溶液(720.0mg、378.4μmol)を酢酸(2.5g)に加え、70℃で攪拌した。65時間後に90℃に温度を上げ、さらに22時間、反応を行った。室温まで放冷後、反応液をHPLC(分析条件は実施例3と同じ)にて分析したところ、収率80.0%で表題化合物が得られていることを確認した。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:9.50(1H,br),6.75−6.63(3H,m),5.93(2H,s),3.07−2.90(5H,m),2.85−2.81(1H,m)。
(実施例5)(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸
(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エチルエステル(250mg、740.9μmol)、10wt%硫酸水溶液(181.5mg、185.23μmol)を酢酸(2.5g)に加え、90℃で49時間、攪拌した。室温まで放冷後、反応液をHPLC(分析条件は実施例3と同じ)にて分析したところ、収率58.0%で表題化合物が得られていることを確認した。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:9.50(1H,br),6.75−6.63(3H,m),5.93(2H,s),3.07−2.90(5H,m),2.85−2.81(1H,m)。
(実施例6)(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸
(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エチルエステル(250mg、740.9μmol)、10wt%硫酸水溶液(90.8mg、92.62μmol)を酢酸(2.5g)に加え、90℃で49時間、攪拌した。室温まで放冷後、反応液をHPLC(分析条件は実施例3と同じ)にて分析したところ、収率50.0%で表題化合物が得られていることを確認した。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:9.50(1H,br),6.75−6.63(3H,m),5.93(2H,s),3.07−2.90(5H,m),2.85−2.81(1H,m)。
(実施例7)(R)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸
(R)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エチルエステル(961.8mg、2.91mmol)より実施例3と同様の方法にて反応を行い、反応液をHPLC(分析条件は実施例3と同じ)にて分析したところ、表題化合物が収率83%で得られていることを確認した。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:9.50(1H,br),6.75−6.63(3H,m),5.93(2H,s),3.07−2.90(5H,m),2.85−2.81(1H,m)。
(実施例8)(S)−3−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−2−オキセタノン
(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸(3.0g、9.92mmol)を酢酸エチル(27g)に溶解し、30%NaOH水溶液を加え(1.72g)、pH=8.14に調整した。室温で22時間攪拌し、水層を分液ロートにて除去し、有機層を水で洗浄し水のpH=6付近となったところで洗浄を終了した。得られた有機層を減圧下、濃縮し赤色オイルを得た。このオイルをH NMRおよびHPLC(カラム:COSMOSIL 5C18−AR(ナカライ社製)、移動相:リン酸・リン酸二水素カリウム水溶液(pH=2)/アセトニトリル=6/4、流速:1mL/min.、検出波長:210nm、カラム温度:40℃)にて分析したところ、表題化合物であることを確認した(1.92g、収率93.8%)。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.78−6.57(3H,m),5.90(2H,s),4.35(1H,m),4.05−3.90(2H,m),3.10−2.96(2H,m)。
(実施例9)(S)−3−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−2−オキセタノン
(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸(3.0g、9.92mmol)を酢酸エチル(27g)に溶解し、1M NaOH水溶液を加え(4.04g)、pH=5.99に調整した。40℃で8時間攪拌し、反応液をHPLC(分析条件は実施例8と同じ)にて分析したところ、表題化合物が収率40.1%で得られていることを確認した。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.78−6.57(3H,m),5.90(2H,s),4.35(1H,m),4.05−3.90(2H,m),3.10−2.96(2H,m)。
(実施例10)(R)−3−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−2−オキセタノン
(R)−2−メシルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸(267.13mg、883.67μmol)を実施例8と同様の方法により環化反応を行い、反応液をHPLC(分析条件は実施例8と同じ)にて分析したところ、表題化合物が収率89%で得られていることを確認した。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.78−6.57(3H,m),5.90(2H,s),4.35(1H,m),4.05−3.90(2H,m),3.10−2.96(2H,m)。
(実施例11)(S)−2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸
例えば参考例1のようにして得られた(S)−2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルエステル(252.26mg、1.0mmol)をイソプロピルアルコール(3mL)に溶解し0℃に冷却し、水酸化ナトリウム(80mg)の水溶液(1mL)を加えた。そのまま0℃にて13時間攪拌した後、水(10mL)を加え、溶液を酢酸エチル(10mL)にて洗浄した。水層を濃塩酸にてpH=1〜3に調整後、酢酸エチルにて抽出した(10mL×2)。無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、減圧下、溶媒を留去することで白色固体を得た。この白色固体をH NMRおよびHPLC(分析条件は実施例3と同じ)にて分析したところ、表題化合物であることを確認した(231.0mg、収率98.80%)。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.75−6.58(3H,m),5.90(2H,s),3.80−3.61(2H,m),3.00−2.73(3H,m)。
(実施例12)(R)−2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸
例えば参考例2のようにして得られた(R)−2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸エチルエステル(252.26mg、1.0mmol)より実施例11と同様の方法で表題化合物を得た(224.0mg、収率95.80%)。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.75−6.58(3H,m),5.90(2H,s),3.80−3.61(2H,m),3.00−2.73(3H,m)。
(実施例13)(S)−3−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−2−オキセタノン
(S)−2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸(250mg、1.04mmol)を窒素雰囲気、テトラヒドロフラン(2.5mL)に溶解し、−5℃に冷却した。トリエチルアミン(144.96μL、1.04mmol)およびクロロギ酸エチル(99.35μL、1.04mmol)を加え、−5℃で攪拌した。15分後、温度を0℃に上げ、さらに15分反応を行った。反応液を、HPLC(分析条件は実施例8と同じ)にて分析したところ、表題化合物が収率68.2%で得られていることを確認した。H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.78−6.57(3H,m),5.90(2H,s),4.35(1H,m),4.05−3.90(2H,m),3.10−2.96(2H,m)。
(実施例14)(S)−3−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−2−オキセタノン
窒素雰囲気下、トリフェニルホスフィン(262.3mg、1.0mmol)をテトラヒドロフラン(4mL)に溶解し、−78℃に冷却した。アゾジカルボン酸イソプロピルエステル(202.2mg、1.0mmol)のテトラヒドロフラン(4mL)溶液を約10分かけて滴下した。滴下終了後、さらに10分攪拌し、(S)−2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸(224.0mg、1.0mmol)のテトラヒドロフラン(4mL)溶液を約10分かけて滴下した。滴下終了後、20分攪拌し、室温に戻してさらに3時間攪拌した。反応液を、HPLC(分析条件は実施例8と同じ)にて分析したところ、表題化合物が収率72.2%で得られていることを確認した。H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.78−6.57(3H,m),5.90(2H,s),4.35(1H,m),4.05−3.90(2H,m),3.10−2.96(2H,m)。
(実施例15)(S)−3−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−2−オキセタノン
窒素雰囲気下、(S)−2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸(116.4mg、1.0mmol)をピリジン(1mL)に溶解し、−20℃に冷却した。塩化メタンスルホニル(0.12ml)をゆっくり滴下した。滴下終了後、同温度で1時間攪拌した。反応液を、HPLC(分析条件は実施例8と同じ)にて分析したところ、表題化合物が収率4.9%で生成し、(S)−2−メタンスルホニルオキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸が収率23.7%で生成していることを確認した。
(実施例16)(S)−2−アセチルチオメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸
窒素雰囲気下、(S)−3−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−2−オキセタノン(0.80g、3.88mmol)をトルエン(12mL)および水(4mL)の混合物中に加え、チオ酢酸カリウム(665.00mg、5.82mmol)を加え、40℃に加熱した。2時間後、5℃に冷却し、97%硫酸を加えpH=1に調整した。水層を廃棄し、さらに残った有機層を2回水洗した。得られた有機層を濃縮し、得られた黄色オイルをH NMRおよびHPLC(分析条件は実施例8と同じ)にて分析したところ、表題化合物が得られていることを確認した(937.00mg、収率85.5%)。H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.78−6.57(3H,m),5.90(2H,s),3.22−2.79(5H,m),2.32(3H,s)。
(実施例17)(S)−2−アセチルチオメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸
窒素雰囲気下、(S)−3−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−2−オキセタノン(0.80g、3.88mmol)を酢酸エチル(12mL)および水(4mL)の混合物中に加え、チオ酢酸カリウム(665.00mg、5.82mmol)を加え、40℃に加熱した。2時間後、5℃に冷却し、97%硫酸を加えpH=1に調整した。水層を廃棄し、さらに残った有機層を2回水洗した。得られた有機層を濃縮し、得られた黄色オイルをH NMRおよびHPLC(カラム:COSMOSIL 5C18−AR(ナカライ社製)、移動相:リン酸・リン酸二水素カリウム水溶液(pH=2)/アセトニトリル=7/3、流速:1mL/min.、検出波長:210nm、カラム温度:40℃)にて分析したところ、表題化合物が得られていることを確認した(927.00mg、収率84.6%)。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.78−6.57(3H,m),5.90(2H,s),3.22−2.79(5H,m),2.32(3H,s)。
(実施例18)(R)−2−アセチルチオメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−プロピオン酸
(R)−3−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−2−オキセタノン(240mg、1.16mmol)を実施例16と同様の方法で行い、反応液をHPLC(分析条件は実施例8と同じ)にて分析したところ、表題化合物が収率81.5%で得られていることを確認した。
H NMR(400Hz,CDCl)δ:6.78−6.57(3H,m),5.90(2H,s),3.22−2.79(5H,m),2.32(3H,s)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);

(式中、*は不斉炭素原子を表し、Rは置換基を有していても良いフェニル基を表し、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基または置換基を有していても良いC〜C20のアリール基を表す)で表される光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体を環化させることを特徴とする一般式(2);

(式中、*、Rは前記と同じ意味を表す)で表される光学活性β−ラクトン誘導体の製造法。
【請求項2】
環化反応を水と有機溶媒の混合溶媒中で行うことを特徴とする請求項1記載の製造法。
【請求項3】
有機溶媒としてトルエン、ベンゼン、キシレン、アニソール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルムおよび四塩化炭素からなる群より選択される1種あるいは2種以上を用いる請求項2に記載の製造法。
【請求項4】
環化反応をpH4以上で行う請求項1から3のいずれかに記載の製造法。
【請求項5】
環化反応をpH4〜12の範囲で行う請求項1から3のいずれかに記載の製造法。
【請求項6】
前記式(1)で表される光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体が、一般式(3);

(式中、*、Rは前記と同じ、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基またはC〜C20の置換基を有していても良いC〜C20のアリール基を表す)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体に、一般式(4);
SOX (4)
(式中、Rは前記と同じ、Xはハロゲン原子を表す)で表されるスルホン酸ハロゲン化物を反応させて得られる一般式(5);

(式中、*、R、R、Rは前記と同じ)で表される光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体を加水分解して得られたものである請求項1から5のいずれかに記載の製造法。
【請求項7】
加水分解を、酢酸、ギ酸、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、およびトリフルオロメタンスルホン酸からなる群より選択される1種または2種以上の酸を用いて行う請求項6記載の製造法。
【請求項8】
加水分解を、硫酸またはp−トルエンスルホン酸、および、酢酸を用いて行う請求項6記載の製造法。
【請求項9】
加水分解を50℃から還流温度の範囲で行う請求項6から8のいずれかに記載の製造法。
【請求項10】
が、メチル基、p−トリル基、フェニル基、ベンジル基またはトリフルオロメチル基である請求項6から9のいずれかに記載の製造法。
【請求項11】
がメチル基、エチル基またはt−ブチル基である請求項6から10のいずれかに記載の製造法。
【請求項12】
一般式(2);

(式中、*は不斉炭素原子を表し、Rは置換基を有していても良いフェニル基を表す)で表される光学活性β−ラクトン誘導体に一般式(7);
SR (6)
(式中、Rは水素原子またはアルカリ金属原子を表し、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基、置換基を有していても良いC〜C20のアリール基、置換基を有していても良いC〜C20のアシル基または置換基を有していても良いC〜C20のアロイル基を表す)で表される硫黄化合物を反応させることを特徴とする一般式(7);

(式中、*、R、Rは前記と同じ)で表される光学活性2−チオメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体の製造法。
【請求項13】
前記式(2)で表される光学活性β−ラクトン誘導体が請求項1から11のいずれかに記載の方法で得られたものである請求項12記載の製造法。
【請求項14】
が水素原子またはカリウム原子である請求項12または13記載の製造法。
【請求項15】
がアセチル基である請求項12から14のいずれかに記載の製造法。
【請求項16】
がフェニル基、2,3−メチレンジオキシフェニル基、2,3−エチレンジオキシフェニル基、2,3−プロピレンジオキシフェニル基、3,4−メチレンジオキシフェニル基、3,4−エチレンジオキシフェニル基、3,4−プロピレンジオキシフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、o−フェノキシフェニル基、m−フェノキシフェニル基、p−フェノキシフェニル基、o−フェニルフェニル基、m−フェニルフェニル基、p−フェニルフェニル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−ブロモフェニル基、m−ブロモフェニル基、p−ブロモフェニル基、o−フルオロフェニル基、m−フルオロフェニル基、p−フルオロフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、o−シアノフェニル基、m−シアノフェニル基、p−シアノフェニル基、o−ヒドロキシフェニル基、m−ヒドロキシフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,3−ジメトキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,5−ジメトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、2,3−ジフルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2,5−ジフルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、2,3−ジヒドロキシフェニル基、2,4−ジヒドロキシフェニル基、2,5−ジヒドロキシフェニル基、2,6−ジヒドロキシフェニル基および3,4−ジヒドロキシフェニル基からなる群より選択されるいずれかである請求項1から15のいずれかに記載の製造法。
【請求項17】
がフェニル基または3,4−メチレンジオキシフェニル基である請求項1から16のいずれかに記載の製造法。
【請求項18】
前記式(2)で表される光学活性β−ラクトン誘導体が、一般式(8);

(式中、*は不斉炭素原子を表す)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体を環化させることにより得られたものである請求項12記載の製造法。
【請求項19】
前記式(8)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸誘導体が、一般式(9);

(式中、*は不斉炭素を表し、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基または置換基を有していても良いC〜C20のアリール基を表す)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロピオン酸エステル誘導体を加水分解することにより得られたものである請求項18記載の製造法。
【請求項20】
がメチル基、エチル基またはt−ブチル基である請求項19記載の製造法。
【請求項21】
不斉炭素原子の絶対配置がSである請求項1から20のいずれかに記載の製造法。
【請求項22】
不斉炭素原子の絶対配置がRである請求項1から20のいずれかに記載の製造法。
【請求項23】
一般式(10);

(式中、*は不斉炭素原子を表し、Rは置換基を有するフェニル基を表す)で表される光学活性β−ラクトン誘導体。
【請求項24】
が2,3−メチレンジオキシフェニル基、2,3−エチレンジオキシフェニル基、2,3−プロピレンジオキシフェニル基、3,4−メチレンジオキシフェニル基、3,4−エチレンジオキシフェニル基、3,4−プロピレンジオキシフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、o−フェノキシフェニル基、m−フェノキシフェニル基、p−フェノキシフェニル基、o−フェニルフェニル基、m−フェニルフェニル基、p−フェニルフェニル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−ブロモフェニル基、m−ブロモフェニル基、p−ブロモフェニル基、o−フルオロフェニル基、m−フルオロフェニル基、p−フルオロフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、o−シアノフェニル基、m−シアノフェニル基、p−シアノフェニル基、o−ヒドロキシフェニル基、m−ヒドロキシフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,3−ジメトキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,5−ジメトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、2,3−ジフルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2,5−ジフルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、2,3−ジヒドロキシフェニル基、2,4−ジヒドロキシフェニル基、2,5−ジヒドロキシフェニル基、2,6−ジヒドロキシフェニル基および3,4−ジヒドロキシフェニル基からなる群より選択されるいずれかの基である請求項23記載の化合物。
【請求項25】
が3,4−メチレンジオキシフェニル基である請求項23記載の化合物。
【請求項26】
一般式(11);

(式中、*は不斉炭素原子を表し、Rは置換基を有するフェニル基を表し、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基または置換基を有していても良いC〜C20のアリール基を表し、Rは置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基または置換基を有していても良いC〜C20のアリール基を表す)で表される光学活性2−スルホニルオキシメチル−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体。
【請求項27】
が、メチル基、p−トリル基、フェニル基、ベンジル基またはトリフルオロメチル基である請求項26記載の化合物。
【請求項28】
がメチル基、エチル基またはt−ブチル基である請求項26または27のいずれかに記載の化合物。
【請求項29】
が3,4−メチレンジオキシフェニル基、3,4−エチレンジオキシフェニル基、3,4−プロピレンジオキシフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−ブロモフェニル基、m−ブロモフェニル基、p−ブロモフェニル基、o−フルオロフェニル基、m−フルオロフェニル基、p−フルオロフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、o−シアノフェニル基、m−シアノフェニル基、p−シアノフェニル基、o−ヒドロキシフェニル基、m−ヒドロキシフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,3−ジメトキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,5−ジメトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基および3,4−ジメトキシフェニル基からなる群より選択されるいずれかの基である請求項26から28のいずれかに記載の化合物。
【請求項30】
一般式(12);

(式中、*は不斉炭素原子を表し、Rは置換基を有するフェニル基を表す)で表される光学活性2−ヒドロキシメチル−3−フェニルプロピオン酸誘導体。
【請求項31】
が2,3−メチレンジオキシフェニル基、2,3−エチレンジオキシフェニル基、2,3−プロピレンジオキシフェニル基、3,4−メチレンジオキシフェニル基、3,4−エチレンジオキシフェニル基、3,4−プロピレンジオキシフェニル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−ブロモフェニル基、m−ブロモフェニル基、p−ブロモフェニル基、o−フルオロフェニル基、m−フルオロフェニル基、p−フルオロフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、o−シアノフェニル基、m−シアノフェニル基、p−シアノフェニル基、o−ヒドロキシフェニル基、m−ヒドロキシフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,3−ジメトキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,5−ジメトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基および3,4−ジメトキシフェニル基からなる群より選択されるいずれかの基である請求項30記載の化合物。
【請求項32】
不斉炭素原子の絶対配置がSである請求項23から31のいずれかに記載の化合物。
【請求項33】
不斉炭素原子の絶対配置がRである請求項23から31のいずれかに記載の化合物。

【国際公開番号】WO2004/060885
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564485(P2004−564485)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015821
【国際出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】