説明

光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体、並びに、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体の製造方法

医薬品等の中間体として有用な光学活性なR体又はS体の2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩を各種不純物の混入を高度に抑制し得る、有用な新規製造中間体および新規合成法を開発し、工業的生産規模において簡便且つ効率的に、高純度の光学活性なR体又はS体の2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩を製造する方法を提供する。不純物を除去した高純度の光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体を製造中間体とし、この中間体の硫黄−硫黄結合を還元的に開裂して、除去困難な不純物を副生させることなく、対応する光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体に変換することを特徴とする、高純度の2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、医薬品等の中間体として有用な光学活性なR体又はS体の2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩、並びに、光学活性な(2R,2’R)又は(2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
光学活性なR体又はS体の2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩の製造方法としては、以下の様な方法が知られている。
1)光学活性システインとピバルアルデヒドより得られる光学活性チアゾリジン化合物への不斉メチル化による方法(WO01/72702)。
2)光学活性アラニンとベンズアルデヒドより得られる光学活性オキサゾロン化合物への不斉チオメチル化による方法(J.Org.Chem.,1996,61,3350〜3357)。
3)システインとベンズアルデヒドより得られるオキサゾロン化合物への不斉メチル化による方法(J.Org.Chem.,1992,57,5568〜5573)。
4)光学活性バリンとアラニンより合成される光学活性ジケトピペラジン化合物を不斉ブロモメチル化し、得られた化合物の臭素原子をアルカリ金属アルキルチオラートで置換する方法(Synthesis,1983,37〜38)。
5)2−メチル−2−プロペン−1−オールのシャープレス不斉酸化により得られる光学活性な2−メチルグリシドールから光学活性アジリジンを合成し、これにチオールを反応させる方法(J.Org.Chem.,1995,60,790〜791)。
6)アミノマロン酸誘導体をメチル化した後に、豚肝臓エステラーゼ(以下PLEと略す)による非対称化を行い、得られた非対称エステルをチオ酢酸アルカリ金属塩と反応させる方法(J.Am.Chem.Soc.,1993,115,8449〜8450)。
しかしながら、2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩は、水溶性が高く、有機溶媒での抽出が難しい傾向にある。特に、無置換の2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸又はその塩は、水溶性が非常に高く、いかなるpHにおいても有機溶媒で抽出できないため、その単離は極めて難しい。光学活性なR体又はS体の2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩の単離方法としては、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸の塩酸水溶液を濃縮して、塩酸塩として固化させる方法が上記1)の製造方法(WO01/72702)に記載されているのみである。
ところで、上記1)〜6)の製造方法ではいずれも、高い立体選択性を発現させて所望の立体配置を有する光学活性体を取得するために、立体選択的反応に供する製造原料に適切な補助基を導入している。従って、目的とする光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩を取得するためには、立体選択的反応により得られた光学活性な製造中間体、即ち、補助基を有する光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩から補助基を除去する必要がある。尚、ここで言う補助基とは、前記立体選択的反応において、立体選択性を向上させる効果を有する置換基、或いは、反応を阻害する官能基を無害化する効果を有する置換基(いわゆる保護基)を表す。
前記光学活性な製造中間体から、前記補助基を除去して光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩に変換する際には、該補助基、或いは、その除去に用いた試剤に由来する有機物又は無機物が不純物として副生する。また、中和などの反応後処理において無機物が不純物として副生する場合もある。これらの不純物の内でも、特に無機物等の水溶性不純物は、水溶性が高い光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体との分離が極めて困難である。従って、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩は、これらの水溶性不純物を含んだままの状態で、上記1)の製造方法に記載の単離方法に供されることになる。その結果、該水溶性不純物が、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩と共存することとなり、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩の製品中に混入する傾向にある。以下に、上記3)の製造方法で得られる、光学活性2−アミノ−3−ベンジルチオ−2−メチルプロピオン酸の硫黄原子上のチオエーテル型補助基であるベンジル基を除去して、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸に変換する場合を例に挙げて説明する。
ベンジルチオエーテル型補助基は、金属ナトリウムと液体アンモニアを用いる方法(いわゆるBirch還元)を用いて除去するのが一般的である。この方法では、反応後の処理として、通常、アルコール及び水により未反応の金属ナトリウムを分解した後、還元生成物を有機溶媒で抽出して、水酸化ナトリウム等の水溶性のナトリウム化合物を除去する。ところが、この方法を光学活性2−アミノ−3−ベンジルチオ−2−メチルプロピオン酸に適用した場合には、生成物である2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸は、いかなるpHにおいても有機溶媒で抽出できず、必然的に水酸化ナトリウム等のナトリウム化合物を含んだままの状態で塩酸を添加して、上記1)の製造方法に記載の単離方法に供さなければならなかった。その結果、ナトリウム化合物と添加した塩酸により生成する塩化ナトリウム等は、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩と共に固化して、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩の製品中に混入することが分かった。
更に、本発明者らは、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸が比較的不安定であり、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸に由来すると考えられる不純物が副生しやすいこと、この不純物が一旦生成するとその除去が容易ではなく、製品中への混入抑制が難しいことを見出した。光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸に由来する不純物であれば、当然2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸と共通する部分構造を有する構造類似化合物であると考えられる。周知のように、構造類似化合物は、目的化合物と構造が類似しているが故に、反応から後処理までの操作過程において目的化合物と同様の挙動を示す結果、最終製品にまで混在しやすい。特に最終製品が医薬品である場合は、不純物の混在が、例え極微量であっても極めて重大な問題を引き起こすこともある。従って、この不純物の副生及び混入を高度に制御したプロセスの構築も重要である。
このように、従来の技術においては、前述した各種不純物の混入を抑制する方法が確立された状態にはなく、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩の工業的製造方法としては問題があった。従って、工業的に実施可能な、高品質の光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体及びその塩の製造方法の確立が強く望まれていた。
【発明の開示】
本発明は、上記に鑑み、医薬品等の中間体として有用な光学活性なR体又はS体の2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩の製造において、各種不純物の混入を高度に抑制し得る、有用な新規製造中間体および新規合成法を開発し、工業的生産規模において簡便且つ効率的に、高純度の光学活性なR体又はS体の2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩を製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題の解決に向け、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩より、補助基、或いは、これらの除去に用いた試剤に由来して副生する不純物、中和などの反応後処理において副生する無機物、並びに、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体由来の不純物といった、前述の各種不純物の混入を高度に抑制する方法について鋭意検討を行った。その結果、硫黄原子上の補助基(保護基)が対称ジスルフィド型保護基である光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体が、上記課題を解決する優れた製造中間体であることを見出した。すなわち、不純物を除去して高純度の光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体を容易に取得できること、並びに、この光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体の硫黄−硫黄結合を還元的に開裂して、除去困難な不純物を副生させることなく、対応する光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(目的物)に定量的に変換し得ることを見出した。
この方法により、従来では避けられなかった光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体製品中への各種不純物の混入量を最少化できること、更には、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体由来の不純物の副生量をも最少化できることを見出した。このように、光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体を経由することによって、従来除去が困難であった光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体製品中への各種副生物の混入抑制を簡便且つ効率的に達成することができた。
尚、本発明における重要な製造中間体である、上記3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体には、(2R,2’R)体、(2S,2’S)体、メソ体[すなわち、(2R,2’S)体、又は、(2S,2’R)体]の3種の光学異性体が存在する。このうち、本発明が目的とする光学活性体とは、(2R,2’R)体、或いは、(2S,2’S)体の2種を指す。
すなわち本発明は、下記一般式(1):

(式中、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表すか、Y及びZが一緒になって2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩の製造において、下記式(2):

(式中、Y及びZは前記Y及びZと同一であっても異なってもよく、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表すか、Y及びZが一緒になって2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩を還元することにより、硫黄−硫黄結合を開裂させ、必要に応じてYをYに、及び/又は、ZをZに変換することを特徴とする、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(1)又はその塩の製造方法に関する。
また、本発明は、前記一般式(2)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩の製造において、下記一般式(3):

(式中、Y及びZは前記Y及びZと同一であっても異なってもよく、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表すか、Y及びZが一緒になって2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される光学活性3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩を酸化することにより、2分子間で硫黄−硫黄結合を形成させ、必要に応じてYをYに、及び/又は、ZをZに変換することを特徴とする、光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)又はその塩の製造方法に関する。
また、本発明は、前記一般式(2)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩を含有する水性媒体溶液を、塩基性に調整することにより不純物を該溶液より分離させて除去する、光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)又はその塩の精製方法に関する。
また、本発明は、前記一般式(2)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩を含有する水性媒体溶液を、中性〜酸性に調整することにより光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)を晶析して不純物を除去する、光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)の精製方法に関する。
また、本発明は、前記一般式(2)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩を含有する水性媒体溶液を、強酸性に調整することにより光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)の酸との塩を晶析して不純物を除去する、光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)の酸との塩の精製方法に関する。
さらに、本発明は、下記式(4):

(式中、−Y−Z−は2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される、光学活性な(2R,2’R)又は(2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。まず、本発明の化合物について説明する。
第一に、前記一般式(1)で表される2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体[以下、化合物(1)とも称する]について説明する。化合物(1)において、*は不斉炭素を表す。Y及びZはそれぞれ独立した1価基であっても良く、またY及びZが一緒になった2価基であっても良い。Y及びZがそれぞれ独立した1価基である場合、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表す。
前記Y及びZがそれぞれ独立した1価基である場合の置換アミノ基における置換基としては、炭素数1〜20のアミノカルボニル基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアシル基、炭素数1〜20の1価有機基等が挙げられる。これら置換基は置換されていても無置換でも良い。上記置換アミノ基は1置換でも2置換でも良く、また2置換の場合には上記置換基を任意の組み合わせで用いることができる。炭素数1〜20のアミノカルボニル基としては、例えば、メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基、ベンジルアミノカルボニル基があげられる。炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等、アミノ基のカーバメート型保護基が挙げられる。炭素数1〜20のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、フタロイル基等、アミノ基のアミド型若しくはイミド型保護基が挙げられる。炭素数1〜20の1価有機基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素数1〜20のアルキル基、ベンジル基、4−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、2−メチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、2−メトキシベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−(4−メチルフェニル)エチル基、1−(4−メトキシフェニル)エチル基、3−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基などの炭素数7〜20のアラルキル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−ニトロフェニル基、4−フェニルフェニル基、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基などの炭素数6〜20のアリール基を挙げることができる。
上記置換アミノ基における置換基は、本発明の本質を損なわない限り(一連の反応に特に支障がない限り)、官能基を有していてもよい。上記官能基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、フェニル基、アリール基、アルカノイル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
前記Y及びZがそれぞれ独立した1価基である場合の組み合わせとしては、Y及びZがそれぞれ無置換の水酸基および置換若しくは無置換のアミノ基であるか、それぞれ無置換の水酸基および置換若しくは無置換のウレイド基(−NHCONH)であるのが好ましく、Y及びZがそれぞれ無置換の水酸基及び無置換のアミノ基であるか、それぞれ無置換の水酸基及び無置換のウレイド基であるのがより好ましく、とりわけY及びZがそれぞれ無置換の水酸基及び無置換のアミノ基であるのが好ましい。
及びZが一緒になって2価基を表す場合、Yは置換の水酸基又は置換のアミノ基を、Zは置換のアミノ基を表す。つまり、Y側の末端が、酸素原子又は窒素原子であり、Z側の末端が窒素原子である2価基を表す。Y側の末端(酸素原子又は窒素原子)とZ側の末端(窒素原子)以外は特に制限されないが、化合物(1)の構造に含まれることにより、5員環又は6員環を形成するものが好ましい。
この2価基(−Y−Z−と表す)の具体例としては、例えば、置換若しくは無置換のウレイレン基(−NHCONH−)、置換若しくは無置換の1−オキサ−3−アザ−2−プロパノン−1,3−ジイル基(−OCONH−)、置換若しくは無置換の1−オキサ−3−アザ−プロパン−1,3−ジイル基(−OCHNH−)、置換若しくは無置換の1−オキサ−3−アザ−2−プロペン−1,3−ジイル基(−OCH=N−)、置換若しくは無置換の1,4−ジアザ−2−ブタノン−1,4−ジイル基(−NHCHCONH−)等が挙げられる。上記2価基における置換基としては、前述の炭素数1〜20のアミノカルボニル基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアシル基、炭素数1〜20の1価有機基等が挙げられる。
上記2価基における置換基は、本発明の一連の反応に特に支障がない限り、官能基を有していてもよい。上記官能基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、フェニル基、アリール基、アルカノイル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
前記Y及びZが一緒になって2価基を表す場合の組み合わせとしては、Y及びZが一緒になって、置換若しくは無置換のウレイレン基(−NHCONH−)であるのがより好ましく、とりわけ無置換のウレイレン基であるのが好ましい。
第二に、前記一般式(2)で表される3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体[以下、化合物(2)とも称する]について説明する。化合物(2)において、*は前記に同じである。Y及びZはそれぞれ独立した1価基であっても良く、またY及びZが一緒になった2価基であっても良く、前記Y及びZと同一であっても良い。Y及びZがそれぞれ独立した1価基である場合、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表す。
尚、Y及びZの具体例としては、前記Y及びZとして例示したものを挙げることができる。
前記Y及びZがそれぞれ独立した1価基である場合の組み合わせとしては、Y及びZがそれぞれ無置換の水酸基および置換若しくは無置換のアミノ基であるか、それぞれ無置換の水酸基および置換若しくは無置換のウレイド基(−NHCONH)であるのが好ましく、Y及びZがそれぞれ無置換の水酸基および無置換のアミノ基であるか、それぞれ無置換の水酸基および無置換のウレイド基であるのがより好ましく、とりわけY及びZがそれぞれ無置換の水酸基及び無置換のアミノ基であるのが好ましい。
前記Y及びZが一緒になって2価基を表す場合の組み合わせとしては、Y及びZが一緒になって、置換若しくは無置換のウレイレン基(−NHCONH−)であるのがより好ましく、とりわけ無置換のウレイレン基であるのが好ましい。
第三に、前記一般式(3)で表される3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体[以下、化合物(3)とも称する]について説明する。化合物(3)において、*は前記に同じである。Y及びZはそれぞれ独立した1価基であっても良く、またY及びZが一緒になった2価基であっても良く、前記Y及びZと同一であっても良い。Y及びZがそれぞれ独立した1価基である場合、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表す。
尚、Y及びZの具体例としては、前記Y及びZとして例示したものを挙げることができる。
前記Y及びZがそれぞれ独立した1価基である場合の組み合わせとしては、Y及びZがそれぞれ無置換の水酸基および置換若しくは無置換のアミノ基であるか、それぞれ無置換の水酸基および置換若しくは無置換のウレイド基(−NHCONH)であるのが好ましく、Y及びZがそれぞれ無置換の水酸基および無置換のアミノ基であるか、それぞれ無置換の水酸基および無置換のウレイド基であるのがより好ましく、とりわけY及びZがそれぞれ無置換の水酸基及び無置換のアミノ基であるのが好ましい。
前記Y及びZが一緒になって2価基を表す場合の組み合わせとしては、Y及びZが一緒になって、置換若しくは無置換のウレイレン基(−NHCONH−)であるのがより好ましく、とりわけ無置換のウレイレン基であるのが好ましい。
尚、本発明によると、後ほど詳述するように各種副生物の除去効果が期待できることから、化合物(3)としては、該化合物の製造過程において生成する無機物等の副生物や、該化合物由来の不純物等の各種不純物を含有するものであっても特に支障なく用いることができる。むしろ、このような不純物を含有する化合物(3)に対してこそ、本発明はその真価を存分に発揮することができる。
第四に、前記一般式(4)で表される光学活性な(2R,2’R)又は(2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩[以下、化合物(4)とも称する]について説明する。化合物(4)は医薬品中間体として本発明で見出された有用な化合物である。
化合物(4)の光学活性体は、(2R,2’R)体、及び、(2S,2’S)体の何れも、全て本発明に含まれる。
化合物(4)中、*は前記に同じである。−Y−Z−は2価基を表し、化合物(4)の構造に含まれることにより、5員環又は6員環を形成するものが好ましい。この2価基の具体例としては、例えば、置換若しくは無置換のウレイレン基(−NHCONH−)、置換若しくは無置換の1−オキサ−3−アザ−2−プロパノン−1,3−ジイル基(−OCONH−)、置換若しくは無置換の1−オキサ−3−アザ−プロパン−1,3−ジイル基(−OCHNH−)、置換若しくは無置換の1−オキサ−3−アザ−2−プロペン−1,3−ジイル基(−OCH=N−)、置換若しくは無置換の1,4−ジアザ−2−ブタノン−1,4−ジイル基(−NHCHCONH−)等が挙げられる。上記2価基における置換基としては、前述の炭素数1〜20のアミノカルボニル基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアシル基、炭素数1〜20の1価有機基等が挙げられる。
上記2価基における置換基は、本発明の一連の反応に特に支障がない限り、官能基を有していてもよい。上記官能基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、フェニル基、アリール基、アルカノイル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
−Y−Z−は、置換若しくは無置換のウレイレン基(−NHCONH−)であるのがより好ましく、とりわけ無置換のウレイレン基(−NHCONH−)であるのが好ましく、化合物(4)としては下記式(5);

で表される光学活性な(2R,2’R)又は(2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)[(5R,5’R)又は(5S,5’S)−5,5−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)]誘導体であるのが好ましい。
以下に各反応工程について詳述する。
まず、本発明の還元反応に用いる3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)又はその塩の製造方法について説明する。
化合物(2)の製造方法としては特に制限されず、あらゆる方法を際限なく利用することができるが、なかでも、3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(3)又はその塩の分子間硫黄−硫黄結合を形成し、必要に応じてYをYに、及び/又は、ZをZに変換する方法が好適である。ここで、「YをYに、及び/又は、ZをZに変換する」とは、例えば、置換アミノ基の置換基を誘導化して別の置換アミノ基に変換したり、置換基を除去して無置換アミノ基に変換したり、無置換アミノ基に置換基を導入して置換アミノ基に変換すること等を表す。また、Y、Zが一緒になって2価基を形成している場合は、当該2価基を誘導化して別の2価基に変換したり、前記Y、Zで示した1価基に変換すること等を表す。尚、YをYに、及び/又は、ZをZに変換する場合は、上記の化合物(3)又はその塩の分子間硫黄−硫黄結合を形成した後に、YをYに、及び/又は、ZをZに変換しても良いし、硫黄−硫黄結合を形成する前に、化合物(3)のYをYに、及び/又は、ZをZに変換しても良い。また、硫黄−硫黄結合形成反応と同時に、YをYに、及び/又は、ZをZに変換しても良い。
3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(3)又はその塩の分子間硫黄−硫黄結合を形成し、必要に応じてYをYに、及び/又は、ZをZに変換する方法としては、例えば、下記式(2a):

(前記一般式(2)において、Yが無置換の水酸基、Zが無置換のアミノ基である化合物)[以下化合物(2a)とも称する]で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−メチルプロピオン酸)又はその塩を製造する場合、下記式(3b):

(前記一般式(3)において、Y及びZが一緒になってウレイレン基(−NHCONH−)である化合物)[以下化合物(3b)とも称する]で表される5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントイン又はその塩の分子間硫黄−硫黄結合を形成させて、下記式(2’b):

で表される光学活性5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)[以下化合物(2’b)とも称する]又はその塩に変換し、次いで、ウレイレン基を加水分解することによりヒダントイン環を開裂させて、光学活性3,3’−ジチオビス(2−メチルプロピオン酸)(2a)又はその塩に変換してもよいし、下記式(3a):

(前記一般式(3)において、Yが無置換の水酸基、Zが無置換のアミノ基である化合物)[以下化合物(3a)とも称する]で表される2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸又はその塩の分子間硫黄−硫黄結合を形成させて、化合物(2a)又はその塩を製造してもよい。
言うまでもなく、上記化合物(3a)又はその塩は、上記化合物(3b)又はその塩のウレイレン基を加水分解して得られるものを使用しても良く、このように、化合物(3b)から化合物(3a)を経て化合物(2a)を製造する態様も本発明に含まれる。
まず、化合物(3)又はその塩の分子間硫黄−硫黄結合を形成する方法について説明する。
上記分子間硫黄−硫黄結合を形成する方法としては、例えば、ハロゲン化スルホニル化合物、ハロゲン化スルフェニル化合物やスルフィン酸化合物の還元反応、チオシアナート化合物からのシアノ基の開裂を伴う反応、チオール化合物の酸化反応等を挙げることができる。とりわけ、チオール化合物の酸化反応が、簡便かつ効率的に、高純度の化合物(2)又はその塩を製造できるため、特に好ましい。以下に、化合物(3)又はその塩の酸化反応により分子間硫黄−硫黄結合を形成して、化合物(2)又はその塩を製造する方法について説明する。
チオール化合物の酸化反応における酸化剤としては特に制限されず、酸素(空気);過酸化水素水;臭素、ヨウ素等のハロゲン類;次亜塩素酸等の次亜ハロゲン酸類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;酸化マンガン(IV)、塩化鉄(III)、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム等の遷移金属類等の各種酸化剤を用いることができる。酸化剤の使用量としては、酸化剤の種類によって一律に規定することはできないが、反応速度及び収率向上の観点からは、化合物(3)に対して化学量論量以上であるのが好ましい。
上記酸化剤としては、酸素、過酸化水素水、ハロゲン類、次亜ハロゲン酸類等が好適であるが、なかでも、酸素を酸化剤として用いると、簡便かつ効率的に、副反応を高度に抑制して高品質の化合物(2)又はその塩を製造できるため、特に好ましい。一般的に酸化反応は、反応選択性に乏しい場合が多く、チオールの酸化反応においても、スルホン酸等が副生したり、スルホキシド(チオスルフィネート)体等まで過剰酸化を受ける等、副反応の抑制が難しいことがある。また、酸素を酸化剤として用いる酸素酸化(空気酸化)は、酸化力に乏しく、実用的な反応速度を得られない場合がある。しかしながら、本発明者らが検討した結果、意外にも、化合物(3)又はその塩は、選択的に所望の化合物(2)又はその塩に変換できること、並びに、一般に酸化力に乏しいとされる酸素酸化によっても実用的な反応速度で化合物(2)又はその塩に変換できることが分かった。以下に、酸素酸化による酸化反応を例に挙げて、詳細に説明する。
酸化剤として用いる酸素の導入法としては特に制限されず、酸素を含有する気体として、例えば、ボンベ、又は、圧縮機を用いて圧縮空気を反応缶に導入すれば良い。当然ながら、液化酸素のボンベを用い、酸素をそのまま、或いは、窒素等の不活性ガス等により希釈した混合気として導入しても良い。この場合には、反応缶中の酸素濃度、或いは、導入する混合気の酸素濃度を調整して、反応液中の溶存酸素量を適切に制御することも可能である。
酸素を供給するためには、反応缶の気相部、又は、液相部に上記酸素を含有する気体(酸素、圧縮空気、又は、混合気)を導入しつつ排気口より排気する(いわゆる通気条件)か、或いは、缶内圧を所定の圧力(特に制限されないが好ましくは常圧又は加圧状態)とし、必要に応じて酸化反応で消費された分圧分の酸素を補給する等の方法が採用できる。
通気による酸素の補給においては、酸素を含有する気体(酸素、圧縮空気、又は、混合気)の導入法により反応速度は大きく影響を受ける。酸素の補給効率の観点からは、気相部よりも液相部へ導入する方法がより効率が良い。また、その導入方式により、酸素の補給効率(酸化反応速度)は大きく影響を受ける。効率的に酸素を補給するためには、酸素を含有する気体と、反応液との接触効率を高めることが重要である。反応液との接触効率を高めるためには、上記酸素を含有する気体を液相部に導入した際に発生する気泡をできる限り細分化し、且つ、分散させることにより、気泡表面積を大きくして酸素移動を促進するのが好ましい。従って、単管の先端を反応液中に挿入した通気ノズルの場合は、その先端を、小さい穴を複数開けた多孔式の開口部としておくのが好ましい。また、反応缶底部の撹拌翼下部に多孔分散管(スパージャ)を設置した場合には、気泡が反応缶底部から上昇する過程で撹拌翼によって細分化されるため、特に好ましい。
反応時の撹拌に関しては、弱すぎると反応液表面の気−液界面における気体(酸素)の抱き込み、並びに、液中における気泡の分散が不充分となる傾向がある。従って、酸素の補給を効率よく行い、酸化反応を速やかに進行させるためには、中程度以上で、できるだけ強撹拌を行うのが好ましい。また、撹拌翼による撹拌に限らず、反応液を循環させることも効果的である。循環方法としては、例えば、反応缶内に仕切板、又は、邪魔板を設置することで、反応液の上昇流及び下降流を生じさせる方法(反応缶内部循環)、或いは、反応缶の外部に設けた流路により反応液を循環させる方法(外部循環)等を挙げることができる。
酸素酸化においては、反応液を塩基性とすることで反応が促進される傾向にある。反応液を塩基性とするためには、塩基性物質を共存させるか又は添加すればよい。上記塩基性物質としては特に限定されないが、無機塩基が好ましく用いられる。無機塩基としては、水酸化リチウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物類;炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩類;炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩類等を挙げることができる。
上記塩基性物質の使用量は特に制限されないが、例えば、化合物(3)に対し、通常は0.1〜10倍モル量、好ましくは0.5〜5倍モル量、更に好ましくは、0.5〜2倍モル量である。尚、塩基性物質を添加した際の反応液の塩基性度を、pHを指標(目安)として表す場合、通常はpH8以上であり、pH9以上が好ましく、pH10以上がより好ましい。また、pHが高すぎると、化合物(3)、又は、化合物(2)の分解等の副反応が起こりやすい傾向にある。これらの副反応を抑止する観点からは、通常はpH14以下であり、pH13以下が好ましく、pH12以下がより好ましい。
反応溶媒としては特に制限されず、各種溶媒を使用することができる。また、反応容媒として1種の溶媒を単独で用いても良いし、2種以上の溶媒を混合して用いても良い。前記塩基性物質として無機塩基を使用する場合には、反応溶媒として水を単独、或いは、水を他の溶媒と混合して用いるのが特に好ましい。
本反応の温度としては特に制限されず、反応液が固化しない温度(凝固点)より高温であれば良い。通常、−10℃以上であり、好ましくは0℃以上であり、より好ましくは10℃以上である。また、反応速度向上の観点からは反応温度を高くするのが好ましい。反応温度の上限としては特に制限されず、反応液の沸点以下であれば良い。当然ながら、還流条件下に反応させることも可能である。尚、温度を高くするほど、反応液中の酸素の飽和濃度は低くなるため、温度が高すぎる場合は反応速度が遅くなる可能性もある。これらの影響を考慮した上で、適切な反応温度を設定すれば良く、通常、100℃以下であり、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは60℃以下である。
上記酸素酸化においては、反応を促進する目的で、必要に応じて酸化反応触媒を適当量共存させるか又は添加しても良い。これによって、より低い温度で反応を速やかに進行させることができるので、より穏和な処理温度で酸化反応を実施することができる。この場合の処理温度は、通常は40℃以下であり、更には25℃以下でも実用的な反応速度を維持することが可能である。
酸化反応触媒としては、本反応を促進する効果があれば特に限定されず、例えば、塩化鉄(II)や水酸化鉄(II)等の2価、或いは、塩化鉄(III)や水酸化鉄(III)等の3価の鉄イオン化合物;硫酸銅(II)や水酸化銅(II)等の銅イオン化合物;フタロシアニンコバルト等のコバルト錯体;等の重金属(遷移金属)イオン化合物を挙げることができる。なかでも、後述する後処理において、容易に除去可能なものとして、鉄イオン化合物および銅イオン化合物が好ましく、とりわけ、鉄イオン化合物が好ましい。
上記酸化反応では、高い反応変換率で、化合物(3)又はその塩の分子間硫黄−硫黄結合を形成することができる。変換率としては、少なくとも95%以上、通常、98%以上、好ましくは99%以上、更に好ましくは99.9%以上が期待できる。
以上の酸化反応等により、化合物(3)又はその塩の分子間硫黄−硫黄結合を形成することができる。YとY及び/又はZとZは同じであっても異なっても良く、異なる場合には、3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)又はその塩を製造するために、YをYに、及び/又は、ZをZに変換する必要がある。YをYに、及び/又は、ZをZに変換する反応は、分子間硫黄−硫黄結合を形成した後に実施しても良いし、硫黄−硫黄結合を形成する前に実施しても良いし、硫黄−硫黄結合を形成する反応と同時に実施しても良い。以下に上記YをYに、及び/又は、ZをZに変換する方法について述べる。
上記YをYに、及び/又は、ZをZに変換する方法としては特に制限されず、例えば、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS)、第2版、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(JOHN WILLY&SONS)出版(1991年)に記載されている方法等を用いることができる。Y、Zの種類により好適な方法は異なるが、例えば、酸処理、塩基処理、加水分解、亜硝酸酸化、Na/NH処理等を挙げることができる。操作性の点から加水分解処理が好ましく、酸を用いる加水分解処理がさらに好ましい。以下に、化合物(3b)又はその塩の2分子間で硫黄−硫黄結合を形成させて、化合物(2’b)又はその塩に変換し、次いで、化合物(2a)又はその塩へと変換する場合を例に挙げて説明する。
まず、前記方法により、化合物(3b)又はその塩の2分子間で硫黄−硫黄結合を形成させ、化合物(2’b)へ変換する。さらに、化合物(2’b)又はその塩を化合物(2a)又はその塩に変換する場合には、ウレイレン基(−NHCONH−、−Y−Z−)を無置換の水酸基(Y)及び無置換のアミノ基(Z)に変換すれば良い。具体的には、化合物(2’b)又はその塩を、例えば塩酸等を用いて酸性条件下で加水分解を行うことによりヒダントイン環を開裂させて、化合物(2a)又はその塩に変換することができる。
以上により、化合物(2)又はその塩は、化合物(3)又はその塩の分子間硫黄−硫黄結合を形成し、必要に応じてYをYに、及び/又は、ZをZに変換することにより、簡便かつ効率的に製造することができる。
続いて、化合物(2)又はその塩の精製・単離方法について説明する。化合物(2)の精製・単離は、目的とする化合物(1)に混入した場合に除去が困難な不純物、或いは、その前駆体等を、化合物(2)の段階で予め除去する、本発明において重要な操作である。該不純物としては、その由来は特に制限されないが、例えば、化合物(2)を製造する工程で用いる酸化反応触媒などの試剤およびその由来物、化合物(3)などの原料に微量に混入しているものなどがあげられる。本発明者らは、該不純物の除去に優れた効率的な単離精製方法について検討した結果、化合物(2)を含有する水性媒体溶液の酸性度、又は、塩基性度を適切に調整することにより、化合物(2)と不純物、特に化合物(1)に混入した場合に除去が困難な無機物を効率的に分離できることを見出し、化合物(2)の精製・単離方法を確立するに至った。前記無機物としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属などの典型金属イオン化合物や、前記酸化反応触媒である鉄、銅、コバルトなどの重金属(遷移金属)イオン化合物などがあげられる。特に、本精製法は、酸化反応後に不要となった触媒の重金属イオン化合物、なかでも、鉄イオン化合物を効率的に分離できる。本精製・単離方法は大きく、以下の3種に分類できる。
1)水性媒体溶液を塩基性に調整する化合物(2)の塩基との塩の精製方法
2)水性媒体溶液を中性〜酸性に調整する化合物(2)の精製方法
3)水性媒体溶液を強酸性に調整する化合物(2)の酸との塩の精製方法
まず、第1の精製方法として、化合物(2)又はその塩を含有する水性媒体溶液を塩基性に調整して、不純物を該溶液から分離させて除去することにより、化合物(2)の塩基との塩を精製する方法について述べる。
第1の精製方法では、化合物(2)又はその塩を含有する水性媒体溶液を塩基性に調整することにより、化合物(2)の塩基との塩を水性媒体に溶解させると共に、該水性媒体に難溶性の不純物を溶液から分離させる。上記溶液を塩基性に調整する際には、該溶液のpHを指標(目安)とすればよい。pHの下限としては、不純物除去の観点から、通常pH8以上であり、pH9以上が好ましく、pH10以上がより好ましい。塩基性に調整するために添加する塩基性物質に特に制限はなく、一般に用いられている有機塩基及び/又は無機塩基を使用すればよい。
該不純物の分離は、不純物の種類によって異なるが、該水性媒体より固体として析出する場合と液体として分離する場合とがある。不純物が水性媒体より固体として析出する場合には、例えば、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過等の一般的な固−液分離操作により、固体として析出した不純物を分離、除去することができる。例えば、不純物が水酸化鉄(III)等の鉄イオン化合物の場合、塩基性条件下における溶解度が低いため、前記鉄イオン化合物を固体として析出させることができる。ただし、上記鉄イオン化合物は、粒径の非常に小さい微粉末となる傾向が高いため、上記微粉末状不純物の捕集に適した濾材(形式、孔径、材質)を適切に設定する必要がある。例えば、濾材の孔径としてはおよそ1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。また、上記微粉末状不純物の捕集における濾過性を向上する目的で、濾過助剤を用いることも好適に実施できる。上記濾過助剤としては特に限定されず、例えば、ケイソウ土やセルロース繊維、活性炭等の公知のものを使用することができるが、なかでも、活性炭が好適に使用できる。また、その用法についても特に限定されず、ボディフィードおよびプリコートの何れも好適に用いることができる。
一方、該不純物が該水性媒体より液体として分離する場合には、例えば、必要に応じて遠心分離等の一般的な液−液分離操作を施して分液可能な上層と下層とからなる2層を形成させて、分離した液体を不純物層として分液除去することができる。また、該不純物が有機溶媒に溶解する場合には、該不純物を有機溶媒層に分配させて除去できる場合もある。
更に、該不純物の分離が不十分な場合でも、活性炭や活性白土等の公知の吸着剤により、該不純物を効果的に吸着除去することができる。濾過助剤として活性炭を使用した場合には、濾過性向上効果のみならず、このような吸着による不純物除去効果も期待できるため、特に好ましい。
次に、第2の精製方法として、化合物(2)又はその塩を含有する水性媒体溶液を中性〜酸性に調整することにより、遊離型の化合物(2)を晶析して、不純物を除去する方法について述べる。
第2の精製方法では、化合物(2)又はその塩を含有する水性媒体溶液を中性〜酸性に調整することにより、化合物(2)を水性媒体より析出させると共に、不純物を該水性媒体中に溶解させる。析出した化合物(2)は、例えば、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過等の一般的な固−液分離操作により単離、精製することができる。例えば、不純物が水酸化鉄(III)等の鉄イオン化合物の場合、塩基性条件下と比べ、中性〜酸性条件下における溶解度が高いため、前記鉄イオン化合物を該水性媒体中に溶解させることができる。上記溶液を中性〜酸性に調整する際には、該溶液のpHを指標(目安)として、酸性物質を添加すればよい。中性〜酸性に調整するために添加する酸性物質としては特に制限されず、一般に用いられているものを使用すればよい。pHの上限としては、化合物(2)の回収率確保の視点から、通常pH9以下であり、pH8以下が好ましく、pH7以下がより好ましい。また、例えば、不純物が水酸化鉄(III)等の鉄イオン化合物の場合、不純物除去の観点から、通常pH5以下であり、pH4以下が好ましく、pH3以下がより好ましい。pHの下限としては、化合物(2)の回収率確保の観点から、通常pH1以上である。
最後に、第3の精製方法として、化合物(2)又はその塩と水性媒体とからなる溶液を強酸性に調整することにより、化合物(2)の酸との塩を晶析して、不純物を除去する方法について述べる。
第3の精製方法では、化合物(2)又はその塩を含有する水性媒体溶液を強酸性に調整することにより、化合物(2)の酸との塩を水性媒体より析出させると共に、不純物を該水性媒体中に溶解させる。第3の精製方法は、塩基性基を持つ塩基性化合物や酸性基と塩基性基を併せ持つ両性化合物、例えば、前記式(2a)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)に好適に適用することができる。析出した化合物(2)の酸との塩は、例えば、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過等の一般的な固−液分離操作により単離、精製することができる。例えば、不純物が水酸化鉄(III)等の鉄イオン化合物の場合、化合物(2)の酸との塩と比べ、強酸性条件下における溶解度が高いため、前記鉄イオン化合物を該水性媒体中に溶解させることができる。上記溶液を酸性に調整する際には、化合物(2)に対する当量を指標として酸性物質を添加すればよい。強酸性に調整するために添加する酸性物質としては特に制限されないが、電離指数(pK)が1以下の強酸性物質が好ましく、一般に用いられている強酸性物質を使用すればよい。添加する酸性物質の当量は、添加する酸性物質の種類により一律に規定できないが、通常、化合物(2)に対して1倍モル当量以上であり、好ましくは5倍モル当量以上であり、より好ましくは10倍モル当量以上である。また、該溶液のpHを指標(目安)とした場合、pHの上限としては、化合物(2)の回収率確保の観点から、通常pH1以下であり、pH0以下が好ましい。
以下に、化合物(2a)を例に挙げて、上記3種の精製方法について具体的に説明する。
化合物(3a)の塩酸塩および塩化鉄(III)を水に溶解させ、続いて水酸化ナトリウムを添加してpH10に調整した後、液相部に空気を吹き込みながら反応させると、定量的に化合物(2a)へと変換できる。反応の進行と共に反応液のpHが上がり、反応終了時にはpHは11となり、赤褐色の微粉末が析出する。
このようにして得られた反応液を孔径0.45μmの酢酸セルロースメンブレンフィルターで濾過、又は、濾過助剤としてセルロース繊維や活性炭等を用いて濾過することにより、上記赤褐色の微粉末を好適に濾別することができる。こうして得られた化合物(2a)の塩基との塩を含有する濾液は、鉄分含量が好適に低減されており、鉄分が効率的に除去できる。以上が、上記第1の精製方法の実例である。
一方、上記反応液をそのまま用いて、濃塩酸を添加してpH3に調整することにより、化合物(2a)が固体として析出する。この時、鉄分は濾液中に好適に溶解しているため、化合物(2a)を濾過、分離することにより、効率的に鉄分を除去できる。以上が、上記第2の精製方法である。
更に、上記反応液をそのまま用いて、濃塩酸を添加してpH0に調整することにより、化合物(2a)の塩酸塩が固体として析出する。この時、鉄分は濾液中に好適に溶解しているため、化合物(2a)の塩酸塩を濾過、分離することにより、効率的に鉄分を除去できる。以上が、上記第3の精製方法である。
上記3種の精製方法は、それぞれ単独で用いても良いし、2種又は3種の精製方法を組み合わせて用いても良い。これら3種の精製方法の組み合わせとしては特に制限されないが、第1の精製方法を実施した後に、第2又は第3の精製方法を実施するのが好適であり、第1の精製方法を実施した後に、第2の精製方法を実施するのが特に好適である。更に、得られた高純度の化合物(2)又はその塩は、必要に応じてpHを調整することにより、化合物(2)の塩基との塩、化合物(2)の遊離型および化合物(2)の酸との塩の3種の中で任意の形態を選択して自由に変換することが可能である。
上記精製方法により得られた高純度の化合物(2)又はその塩を引き続く還元反応に用いることにより、本発明の目的である高純度の化合物(1)の製造を好適に実施することができる。
続いて、3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)又はその塩の硫黄−硫黄結合を還元反応により開裂する方法について説明する。
還元反応としては、硫黄−硫黄結合を開裂することができる方法であれば特に制限されず、例えば、還元剤としてナトリウム等のアルカリ金属;亜鉛、スズ等の金属と酸;水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化金属試薬;硫化カリウム等のアルカリ金属硫化物;ホスフィン化合物等を用いる化学還元法、或いは、電解還元法などを使用することができる。これらの還元法では、いずれも化合物(2)又はその塩の硫黄−硫黄結合を開裂して、2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(1)に変換することができる。
ところで、従来の技術の説明においても述べたように、化合物(1)は比較的不安定であり、化合物(1)由来と考えられる不純物が副生する傾向にあるが、本発明の還元反応によれば、上記不純物がほとんど含まれない高純度の化合物(1)を取得できることが分かった。また、化合物(1)は塩基性条件下では比較的不安定であり、上記不純物が副生する傾向にあることが分かった。従って、還元反応液を中性〜酸性に調整、より好ましくは還元反応を通じて中性〜酸性条件を維持することにより、化合物(1)の安定性を向上させて不純物の副生をより高度に抑制することができる。pHの上限としては、通常pH9以下であり、pH7以下が好ましく、pH5以下がより好ましい。
還元反応液を中性〜酸性に調整する方法としては特に制限されず、酸性物質を還元反応開始前若しくは反応途中に添加するなどして、還元反応中に共存させておいても良いし反応終了後に添加しても良い。還元反応を通じて中性〜酸性条件を維持する場合には、酸性物質を還元反応開始前に共存させておき、必要に応じて反応途中若しくは反応終了後に酸性物質を添加する方法が特に好適である。添加する酸性物質としては特に限定されないが、強酸性物質が好ましい。具体的には、塩酸等のハロゲン化水素酸や、硫酸、亜硫酸、硝酸等の無機酸類;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、o−、m−又はp−ニトロベンゼンスルホン酸等のスルホン酸類;トリフルオロ酢酸等のカルボン酸類等を挙げることができる。なかでも、ハロゲン化水素酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。
上記の還元法のなかでも、化学還元法は、電解還元法のように特殊な設備を必要としないことから、簡便に用いることができる。なかでも、還元剤として亜鉛、スズ等の金属と酸、又は、ホスフィン化合物を用いる化学還元法は、中性〜酸性条件下で還元反応を比較的容易に進行させることができるため、前述した塩基性条件下で不安定な化合物(1)を好適に用いることができる。とりわけ、還元剤としてホスフィン化合物を用いる化学還元法は、還元剤に由来する副生物(不純物)の除去が容易であることから、特に好適に用いることができる。以下に、ホスフィン化合物を用いる化学還元法を例に挙げて、その操作条件について説明する。
還元剤として用いるホスフィン化合物としては特に限定されないが、通常3級ホスフィン化合物が好ましい。3級ホスフィン化合物としては、具体的には、置換もしくは無置換のトリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィン類や、トリ−n−ブチルホスフィンやトリ−n−オクチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン類等が好適であり、とりわけトリフェニルホスフィンが好適に用いられる。尚、これらのホスフィン化合物は、還元反応において対応するホスフィンオキシド化合物へと変換される。
ホスフィン化合物の使用量は、化合物(2)又はその塩やホスフィン化合物の種類、反応温度等の諸条件により一律に規定することはできないが、収率向上の観点からは、化合物(2)に対して1倍モル当量以上使用するのが好ましい。ただし、ホスフィン化合物を大過剰に使用した場合には、還元反応に使用したホスフィン化合物の余剰分、並びに、還元反応において副生するホスフィンオキシド化合物といったホスフィン化合物に由来する不純物が増量して、これらの除去に対する反応後処理における負荷も増大するため、経済性の観点からも、ホスフィン化合物の使用量の上限としては、化合物(2)に対して2倍モル当量以下が好ましく、1.5倍モル当量以下がより好ましく、1.3倍モル当量以下が特に好ましい。
ホスフィン化合物を用いる還元反応に使用する反応溶媒としては特に制限されず、一般的な溶媒を使用することができる。反応溶媒は、水単独でも良いし、有機溶媒単独でも良いし、これらの溶媒を2種以上混合して用いても良い。また、2種以上の溶媒を混合する場合には、これらが均一相を形成しても、多相系を形成しても良い。特に、反応溶媒として水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合には、2相系(多相系)を形成する、水性媒体と混和しない有機溶媒を選択することにより、反応後の処理において、生成物の回収や不純物の除去が容易になることから特に好適である。
上記有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール等のアルコール類;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。なかでも、水性媒体と混和しない芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類が好ましく、とりわけ、芳香族炭化水素類が好ましい。さらに、芳香族炭化水素類の中でもトルエンが好ましい。
反応溶媒の使用量は、化合物(2)又はその塩や反応溶媒の種類、反応温度等の諸条件により一律に規定することはできないが、通常、化合物(2)に対して1000倍重量以下であり、収率、容積効率の点から、好ましくは100倍重量以下、さらに好ましくは10倍重量以下である。
還元反応の温度としては特に制限されず、反応液が固化しない温度(凝固点)より高温であれば良い。また、反応速度向上の観点からは反応温度を高くするのが好ましい。反応温度の上限としては特に制限されず、反応液の沸点以下であれば良い。当然ながら、還流条件下に反応させることも好適に実施できる。
以上のように、本発明の還元反応では、高い反応変換率で、化合物(2)又はその塩の硫黄−硫黄結合を開裂して、化合物(1)又はその塩にほぼ定量的に変換することができる。変換率としては、少なくとも99%以上、好ましくは99.9%以上が期待できる。
以上、還元反応により化合物(2)又はその塩の硫黄−硫黄結合を開裂することができる。Y及びZはY及びZと同じであっても異なっても良いが、Y及びZがY及びZと異なる場合には、化合物(1)又はその塩を製造するために、YをYに、及び/又は、ZをZに変換する必要がある。ここで、「YをYに、及び/又は、ZをZに変換する」とは、例えば、置換アミノ基の置換基を誘導化して別の置換アミノ基に変換したり、置換基を除去して無置換アミノ基に変換したり、無置換アミノ基に置換基を導入して置換アミノ基に変換すること等を表す。また、Y、Zが一緒になって2価基を形成している場合は、当該2価基を誘導化して別の2価基に変換したり、前記Y、Zで示した1価基に変換すること等を表す。YをYに、及び/又は、ZをZに変換する場合は、上記の化合物(2)又はその塩の還元反応を行った後に実施しても良いし、還元反応を行う前に、化合物(2)のYをYに、及び/又は、ZをZに変換しても良い。また、還元反応と同時に、YをYに、及び/又は、ZをZに変換しても良い。
上記YをYに、及び/又は、ZをZに変換する方法は、YをYに、及び/又は、ZをZに変換する方法と同様な方法で実施できる。
一方、本発明の還玩反応は、本発明の目的化合物である、化合物(1)に不純物として含まれる化台物(2)に対しても、同様に適用することができる。例えば、還元反応において予期できない酸素の混入などにより還元剤が失活し、上記期待される変換率を充分達成しないまま反応が停止してしまった場合にも、再度本発明の還元反応に供することにより、上記期待される変換率まで反応を完結させることができる。更に、化合物(2)を不純物として含有する化合物(1)を精製する方法として、不純物として含まれる化合物(2)を本発明の還元反応により還元して化合物(1)へと変換することも、当然ながら好適に実施できる。上記不純物として含まれる化合物(2)の含量としては特に制限されず、1%以上でも、或いは、0.1%以上でも、本発明の還元反応に供することにより、化合物(2)の含量を低減させることができる。
以上のように、本発明の還元反応では、高い反応変換率で、化合物(1)又はその塩に不純物として含まれる化合物(2)又はその塩の硫黄−硫黄結合を開裂して、化合物(1)又はその塩に変換することもできる。
尚、以上の還元反応においては、還元剤の酸化による失活や、還元生成物である化合物(1)の酸化による副反応を抑止する観点から、念のために、反応缶内を窒素やアルゴン等の不活性ガスに置換して反応系中の酸素濃度を低減しておくのが好ましい。反応缶内における酸素濃度としては、通常0.5%以下であり、好ましくは0.2%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。
続いて、還元反応により得られた化合物(1)に混入した不純物を除去する精製方法について説明する。例えば、化合物(2)を還元して化合物(1)を製造する場合に、ホスフィン化合物を還元剤として用いた場合には、還元剤であるホスフィン化合物および還元剤に由来するホスフィンオキシド化合物等が不純物として副生する。また化合物(1)および化合物(2)に由来すると思われる不純物の副生も認められる。これらの不純物は脂溶性化合物である場合が多く、各種有機溶媒に対して溶解度が高い。なかでもホスフィン化合物およびホスフィンオキシド化合物等の還元剤に由来する成分(不純物)は一般的に脂溶性であり、各種有機溶媒に対して溶解度および抽出時の分配率が高い。一方、化合物(1)はいかなるpHにおいても水に対する溶解度が高く、また各種有機溶媒による抽出も非常に困難な傾向にある。
従って、このような脂溶性不純物を含有する化合物(1)の水性媒体溶液は、水性媒体と混和しない有機溶媒で洗浄することで、該脂溶性不純物を有機溶楳層に効率的に除去して、化合物(1)又はその塩を含有する水性媒体溶液を精製することができる。
上記洗浄に用いる有機溶媒は特に限定されず、一般的な有機溶媒を使用することができる。上記有機溶媒としては、例えば、前記還元反応に使用する反応溶媒等を好適に使用することができるが、特に、水性媒体と混和しない有機溶媒である、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;t−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル類;メチルイソブチルケトン等のケトン類;等を挙げることができる。なかでも、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類が好ましく、とりわけ、芳香族炭化水素類が好ましい。芳香族炭化水素類の中でも、トルエンが特に好ましい。
上記有機溶媒による洗浄の方法としては特に制限されない。通常、洗浄に用いる有機溶媒を、化合物(1)を含有する水性媒体溶液と接触させて脂溶性不純物を該有機溶媒相に抽出した後、得られた有機溶媒層を分液除去すれば良い。当然ながら、上記洗浄に用いる有機溶媒は、還元反応に使用した反応溶媒をそのまま使用しても良い。また還元反応後にそのまま添加しても良く、必要に応じて反応溶媒を留去した後に添加(溶媒置換)しても良い。
有機溶媒を接触させる際の、化合物(1)を含有する水性媒体溶液のpHは特に限定されないが、該水性媒体溶液のpHを適切に調整して、化合物(1)の回収率、並びに、不純物の除去率を向上させるのが好ましい。上記適切なpHとしては、化合物(1)の種類により一律に規定できないが、酸性基と塩基性基を併せ持つ両性化合物の場合は、pH4〜5の範囲外に調整するのが好ましく、特にpH3以下に調整するのが好ましい。
両性化合物としては、例えば、下記式(1a);

(前記一般式(1)において、Yが無置換の水酸基、Zが無置換のアミノ基である化合物)[以下化合物(1a)とも称する]で表される光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸のようなアミノ酸があげられる。
また、化合物(1)が、酸性化合物の場合は、pH6以上の中性〜塩基性に調整するのが好ましい。酸性化合物としては、例えば、下記式(1b);

(前記一般式(1)において、Y及びZが一緒になってウレイレン基である化合物)[以下化合物(1b)とも称する]で表される光学活性5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントインのようなヒダントイン誘導体等があげられる。
以上のように精製することにより、各種不純物が除去された化合物(1)又はその塩を含有する水性媒体溶液を取得することができる。従って、本発明により製造した化合物(1)の水性媒体溶液を用いれば、例えば、前記WO01/72702に記載の単離方法により固化して単離しても、従来の製造方法の場合と異なり、高品質の化合物(1)の酸との塩を固体として取得することができる。
また、有機溶媒の共存下に、化合物(1)またはその塩を晶析することもできる。具体的には、有機溶媒の共存下において水を濃縮して有機溶媒に置換することで、化合物(1)又はその塩を好適に晶析することができる。
化合物(1)又はその塩としては特に限定されず、化合物(1)、化合物(1)の酸との塩、化合物(1)の塩基との塩が挙げられるが、好ましくは酸との塩である。
前記化合物(1)の酸との塩における酸としては特に限定されないが、強酸が好ましい。具体的には、塩酸等のハロゲン化水素酸や、硫酸、亜硫酸、硝酸等の無機酸類;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、o−、m−又はp−ニトロベンゼンスルホン酸等のスルホン酸類;トリフルオロ酢酸等のカルボン酸類等を挙げることができる。なかでも、ハロゲン化水素酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。
また、塩基との塩における塩基としては、アンモニア、トリエチルアミン、アニリン、ピリジン等のアミン類を挙げることができる。
本晶析方法の実施にあたっては、有機溶媒の添加に先立ち、化合物(1)又はその塩を含有する水性媒体溶液を予備的に濃縮しておくこともできる。置換する有機溶媒の種類は、特には限定されないが、水と共沸する有機溶媒が好ましく、水性媒体と混和しない有機溶媒が更に好ましい。
有機溶媒としては特には限定されず、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;t−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル類等を挙げることができる。なかでも、芳香族炭化水素類、エステル類、エーテル類が好ましく、とりわけ、水性媒体、並びに、化合物(1)又はその塩の溶解性が低く、溶媒の回収再利用が容易である点から、芳香族炭化水素類が好ましい。芳香族炭化水素類としては中でも、トルエンが好ましい。
上記有機溶媒への置換においては、留出と有機溶媒の供給を同時に実施(連続式)しても良いし、留出と有機溶媒の供給を複数回に分割して交互に実施(バッチ式)しても良い。また、置換する有機溶媒の使用量は、有機溶媒の種類、濃縮時の減圧度、内温により異なるので一律に規定できないが、例えばトルエンの場合、水溶液の全重量に対して、通常は100倍重量以下であり、好ましくは50倍重量以下であり、より好ましくは10倍重量以下である。
有機溶媒の共存下において水を濃縮して有機溶媒に置換して、化合物(1)又はその塩を晶析する際の化合物(1)又はその塩の濃度としては、0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましい。上限値としては、通常70重量%以下であり、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは30重量%以下である。
上記操作により、系外に水を除去した後に最終的に残存する水の量としては、化合物(1)又はその塩に対して、100重量%以下であることが好ましく、得られる結晶の性状、濾過性、晶析回収率、スラリーの流動性の観点からは、40重量%以下まで水を減じることがより好ましい。
濃縮を行う際の蒸発速度としては、装置の形状や能力に依存するので一概には言えないが、蒸発速度を大きくすると発泡が激しくなり、得られるスラリーの流動性が極めて悪くなり、また化合物(1)の結晶が凝集・塊状化する傾向にある。従って、単位蒸発面積及び単位時間あたりの蒸発速度は、1000L/h・m以下に制御するのが好ましく、600L/h・m以下がより好ましく、300L/h・m以下が更に好ましく、100L/h・m以下が特に好ましい。
有機溶媒を添加した後、濃縮を行う際の減圧度としては、有機溶媒種により異なるが、通常500mmHg以下であり、好ましくは200mmHg以下である。下限は特に制限されないが、通常0.1mmHg以上である。
濃縮時の温度は、減圧度、装置の能力に依存するが、取り扱いが容易で、かつ高品質の結晶を取得する為には、通常0℃〜150℃であり、好ましくは10℃〜100℃、より好ましくは30〜70℃である。
以上のように、本発明によれば、前記一般式(3)で表される化合物又はその塩から、前記一般式(2)で表される化合物又はその塩、並びに、前記一般式(1)表される化合物又はその塩を、不純物の混入を高度に抑制しつつ、工業的生産規模において簡便かつ効率的に製造することができる。
本発明における各化合物の組み合わせとしては特に制限されず、上記化合物(1)、(2)及び(3)を自由に組み合わせて反応を行うことができる。最も好ましい化合物の組み合わせとしては、例えば、化合物(3b)で表される光学活性5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントイン又はその塩の分子間硫黄−硫黄結合を形成させて、化合物(2’b)又はその塩に変換し、次いで、化合物(2’b)又はその塩を加水分解することにより、ヒダントイン環を開裂させて、化合物(2a)又はその塩に変換し、更に、(2a)又はその塩を還元することにより硫黄−硫黄結合を開裂させて、化合物(1a)又はその塩を製造する態様を挙げることができる。
更に、本発明によれば、前記一般式(2)で表される化合物又はその塩を不純物として含有する、低品質の前記一般式(3)で表される化合物又はその塩、前記一般式(1)で表される化合物又はその塩を精製することもできる。化合物(3)に上記不純物として含まれる化合物(2)の含量としては特に制限されず、1%以上でも、或いは、0.1%以上でも、上記精製方法に供することにより、化合物(2)の含量を低減させることができる。
例えば、上記低品質の化合物(3)又はその塩が、化合物(1)からの除去が困難である無機物等の水溶性不純物を含有する場合は、本発明の方法により、一旦、化合物(3)を酸化して化合物(2)へと変換した後に、水溶性不純物を精製除去し、次いで得られた化合物(2)を定量的に還元することで、高品質の化合物(1)が得られる。
化合物(3)に上記不純物として含まれる化合物(2)の含量としては特に制限されず、1%以上でも、或いは、0.1%以上でも、上記精製方法に供することにより、化合物(2)の含量を低減させることができる。一方、前述したように、化合物(2)以外に化合物(1)からの除去が困難な不純物を含有しない、低品質の化合物(1)の場合は、不純物として含まれる化合物(2)を、本発明の方法により定量的に還元することで、高品質の化合物(1)が得られる。
このように、本発明によれば、何れの場合でも、工業的生産規模において簡便かつ効率的に低品質の化合物(1)又は化合物(3)を精製することができる。
次に、本発明の製造法において用いられる、光学活性3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(3)又はその塩の製造法について説明する。化合物(3)又はその塩の製造法としては特に限定されず、従来の技術として例示した方法を含め、種々の方法を用いることができるが、本発明の目的からは、これらの中で工業的に適した方法を用いるのが好ましい。好ましい方法としては、例えば、WO03/106689記載のラセミ体2−カルバモイルアミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸又はその塩にヒダントイナーゼを作用させることによりD体選択的に環化させ、D−5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントイン誘導体又はその塩及びL−2−カルバモイルアミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸又はその塩を得る方法を挙げることができる。
以上の方法により、光学活性3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(3)又はその塩を工業的生産規模において簡便かつ効率的に製造することができる。従って、本発明によれば、この光学活性3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(3)又はその塩から、光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)又はその塩、並びに、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(1)又はその塩を、不純物の混入を高度に抑制しつつ、工業的生産規模において簡便かつ効率的に製造することができる。
【実施例】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例中の各種分析は、以下の方法で行った。HPLC−1[カラム:Cosmosil 5C18−ARII(ナカライテスク社製)、移動相:リン酸二水素カリウム・リン酸水溶液(pH2.0)/アセトニトリル=97/3、流速:1.0ml/min、検出皮長:210nm、カラム温度:40℃];HPLC−2[カラム:Cosmosil 5C18−AR(ナカライテスク社製)、移動相:リン酸二水素カリウム・リン酸・ヘプタンスルホン酸ナトリウム水溶液(pH2.5)/アセトニトリル=95/5、流速:1.0ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:40℃];HPLC−3[カラム:Cosmosil 5C8−MS(ナカライテスク社製) 150mm×4.6mm I.D.、移動相:リン酸二水素カリウム・水酸化ナトリウム水溶液(pH6.8)/アセトニトリル=1/1、流速:1.0ml/min、検出波長:215nm、カラム温度:40℃];HPLC−4[カラム:CAPCELL PAK SCX(資生堂社製) 250mm×4.6mm I.D.、移動相:リン酸二水素カリウム・リン酸水溶液(pH2.0)/アセトニトリル=95/5、流速:0.3ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:40℃];キラルHPLC−1[カラム:CHIRALPAK AS(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール/トリクロロ酢酸=9/1/0.01、流速:0.5ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃];キラルHPLC−2[カラム:CHIRALPAK AS(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/イソプロパノール=9/1、流速:1.0ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃];比旋光度[光源:ナトリウムランプ、セル長:10cm];鉄分(原子吸光分析法)[原子化法:フレーム法(空気−アセチレン)、測定波長:248.3nm(Fe)];ナトリウム含量(イオンクロマトグラフィー)[カラム:TSKgel IC−Cation(TOSOH社製)、移動相:2mM硝酸水溶液、流速:1.0ml/min、検出器:電気伝導度、カラム温度:40℃];IR[装置:シングルビームFT−IR、試料:KBrペレット法]
又、実施例中の変換率および残存率は、それぞれ以下の式により計算を行った。
変換率=生成物面積値/(原料面積値+生成物面積値)*100(%)
残存率=原料面積値/(原料面積値+生成物面積値)*100(%)
(参考例1)ラセミ体5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインの製法
窒素雰囲気下、5wt%水酸化ナトリウム水溶液9.6g、t−ブチルメルカプタン1.13mLを0℃で混合し、10分間攪拌した。これにクロロアセトン0.79mLを加え、室温に昇温して2時間反応させた。このとき反応溶液は淡黄色で二相分離していた。
続いて、NaCN588mg、(NH)HCO2.77g、30wt%アンモニア水3.1mLを加え、均一な溶液とした後、55〜60℃に昇温した。6時間加熱攪拌した後、0℃に冷却し、反応溶液に濃塩酸を加えpH=7.0〜7.6に調整した。生成した白色結晶を濾別し、ラセミ体5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン1.84gを得た。
(参考例2)ラセミ体2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸の製法
ラセミ体5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン4.77gを10%水酸化ナトリウム水溶液75gに溶解し、72時間還流させた。室温まで放冷後、反応液を一部抜き取り、HPLCにてラセミ体2−アミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸の生成を確認した。濃塩酸にてpHを8に調整した後、溶液を70℃に加熱、シアン酸カリウム2.07gを蒸留水10mLに溶解した溶液を20分かけて滴下した。滴下終了後、5時間攪拌した後、反応液の一部を抜き取りHPLC分析(HPLC−1)したところ未反応のラセミ体2−アミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸が認められたので、さらにシアン酸カリウム4.14gを蒸留水20mLに溶かした溶液を20分かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間攪拌し室温まで放冷、濃塩酸にてpHを2とし、析出した固体をろ取した。得られた固体を水洗、乾燥させて、ラセミ体2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸3.38gを得た。
(参考例3)L−2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸及びD−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインの製法
WO96/20275記載の培養方法と固定化酵素の調製方法に従い、バチルス sp.KNK245株(寄託した寄託機関の名称:通産産業省工業技術院生命工学工業技術研究所、宛名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305)、当該寄託機関に寄託した日付:平成6年11月2日、当該寄託機関が寄託について付した寄託番号:FERM BP−4863)を培養、集菌後、超音波破砕して得た酵素液に、固定化用担体である陰イオン交換樹脂、Duolite A−568を添加して酵素を吸着させ、さらにグルタルアルデヒドで架橋処理することで固定化ヒダントイナーゼを得た。
次に、参考例2で得たラセミ体の2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸15mgに0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)1.5mlと0.5M硫酸マンガン水溶液0.003mlを加え10N水酸化ナトリウム水溶液によりpH6.5に調整した溶液に、上記の様にして得られた固定化ヒダントイナーゼ200mg(湿重量)を加えて、40℃、48時間攪拌して反応させた。反応中は6N塩酸によりpHを6.5付近に保った。反応液をHPLC分析(HPLC−1)した結果、2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸の残存率は41%であった。さらに、反応液中の2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸の光学純度をHPLC分析(キラルHPLC−1)したところ、光学純度96.7%eeのL−2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸であることを確認した。一方、上記酵素反応中に生成し析出した化合物を酢酸エチルで抽出した後、HPLC分析(キラルHPLC−2)して、D−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインであることを確認した。
L−2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸:H NMR(300MHz,CDOD)δ:3.22(d,1H),3.16(d,1H),1.52(s,3H),1.29(s,9H)
D−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン:H NMR(300MHz,CDCl with 3 drops of CDOD)δ:2.90(d,1H),2.80(d,1H),1.49(s,3H),1.30(s,9H)。
(参考例4)バチルス属細菌を用いたL−2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸の製法
バチルス sp.KNK245株(FERM BP−4863)の乾燥保存菌体を、500ml容坂口フラスコ中、120℃で15分間殺菌した100ml液体培地(10g/l ポリペプトン、10g/l 肉エキス、5g/l イーストエキス、pH7.5)に植菌し、45℃にて15時間振とう培養した。この培養液2mlを、上記培地戊分にさらに1g/l ウラシル、20mg/l 塩化マンガンを加えた培地に植菌し、45℃にて24時間振とう培養した。この培養液15mlから遠心分離により得られた菌体を1.5mlの0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、ラセミ体の2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸150mgと0.5M硫酸マンガン水溶液0.003mlを添加後、10N水酸化ナトリウム水溶液によりpHを6.5に調整した。そして、6N塩酸によりpHを6.5付近に保ちつつ、40℃で19時間攪拌して反応させた。反応液をHPLC分析した結果、2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸の残存率は44%であった。さらに、反応液中の2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸の光学純度をHPLC分析(キラルHPLC−1)したところ99.0%eeのL−2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸であることを確認した。
(参考例5)D−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインの製法
参考例3の方法により得られた酵素とD−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインの混合物50gに不純物として含まれる2−アミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸を除去するために、水400gを加え攪拌した後に不溶分をろ取し、水200gでさらに洗浄した。これに5wt%水酸化ナトリウム水溶液120gを加え、攪拌した。酵素を不溶分としてろ別し、ろ液を濃塩酸にてpHを9に調整した。析出した結晶をろ取し、これを水洗した後に、減圧下にて乾燥を行い、粗生成物19.7gを結晶として得た。これをHPLCにて分析したところ、純度87.5wt%であった。また光学純度は、HPLC分析(キラルHPLC−2)より、97.6%eeであった。
(参考例6)D−5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントインの製法
参考例4により得られたD−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン4.38gを濃塩酸100gに溶解して、80℃で18.5時間反応させた。室温まで放冷後、約半量となるまで濃縮し、30wt%水酸化ナトリウム水溶液を30.5g加えてpHを10とした。酢酸エチル(100mL×3)で抽出後、有機相を全量の10%となるまで濃縮した後、トルエン30mLを加えて析出した結晶をろ取し、目的のD−5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントイン2.65gを得た。このものの光学純度をHPLC(キラルHPLC−2)により測定したところ、L体は検出されなかった。
H NMR(400MHz、MeOH−d4)δ:1.32(s、3H)、2.60(d、1.6Hz、1H)、2.72(d、1.6Hz、1H)。
(参考例7)D−2−アミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸の製法
参考例5と同様にして取得したD−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインと酵素の混合物80gに、10wt%水酸化リチウム水溶液150mLを加えて溶解させた。酵素をろ別した後に、母液中に含まれるD−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインをHPLCにて定量したところ44.2g含有していた。この溶液に水酸化リチウム54g、蒸留水51gを加え38時間加熱還流した。室温まで放冷し、生じた固体をろ別した。母液を内温20℃付近に保ち、濃塩酸110gを加えpHを6.7に調整し、内温2℃に冷却し2時間攪拌を続けた。次に生じた固体をろ別し、40℃で24時間真空乾燥し、乾燥結晶34.9gを取得した。HPLCで分析(HPLC−1)して、表題化合物であることを確認した(純度96.7wt%)。
(参考例8)L−2−アミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸の製法
L−2−カルバモイルアミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸82.4gを18%水酸化リチウム水溶液630gに溶解し、窒素下、41時間還流させた。室温まで放冷後、不溶分をろ別した後の溶液に濃塩酸180.1gを加えてpHを6に調整し、そのまま約1時間攪拌した後に4〜5℃に冷却し、さらに1時間攪拌した。得られた結晶をろ別し、水洗の後に減圧下乾燥を行い、白色固体53.9gを得た。
H NMR(300MHz,DO)δ:3.18(d,1H),2.91(d,1H),1.60(s,3H),1.35(s,9H)。
(参考例9)L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩の製法
参考例8の方法で得られたL−2−アミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸38.4gに濃塩酸345.3gを加え、24時間還流し、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩の水溶液を得た。
この水溶液を67.5gにまで濃縮(減圧度30〜60mmHg、温度45℃)し、トルエン206gを加え、減圧濃縮操作(減圧度40〜60mmHg、温度40℃、留出速度107L/h・m)を行い、全量109gとした。さらにトルエン206gを加えて濃縮し、同様の操作を合計6回繰り返し、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩のトルエンスラリー104gを得た。このスラリーはL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩に対して30重量%の水分を含有していた。結晶をろ過してトルエンにて洗浄後、減圧乾燥して、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩32.2gを白色固体として得た。
H NMR(300MHz,DO)δ:3.18(d,1H),2.89(d,1H),1.60(s,3H)
[α]20=+8.77°(c1.15,HO)であり、符号が文献値(Tetrahedron,1993,49,2131〜2138,WO98/38177)と一致することから、立体が目的とするL体であることが確認できた。
[実施例1](5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)の製法
参考例5と同様にして取得したD−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントイン50gを濃塩酸1000gに溶解し、80℃で18時間反応させて、D−5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントインの水溶液を得た。D−5−t−ブチルチオメチル−5−メチルヒダントインの残存率(HPLC−2)は1%であった。
得られた反応溶液を208gまで濃縮した後、室温にて、30wt%水酸化ナトリウム水溶液を133g加えてpHを9.0に調整した。この溶液に三塩化鉄13mg(鉄分4mg相当)を添加し、液中に空気を吹き込みながら、強撹拌下、室温で4日間反応させて、(5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)29.3gを含有する水溶液270gを得た。
得られた水溶液中の鉄分は16ppm(鉄分4mg相当)であった。D−5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントインは検出されなかった(HPLC−2にて0.1%未満)。
[実施例2](5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)の鉄分除去(活性炭処理)
実施例1で得られた水溶液231g(鉄分4mgを含有)に、30wt%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを11.0に調整したところ、赤褐色の結晶が析出した。この溶液を、予め0.01M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した活性炭(武田薬品工業製:活性炭白鷺A)1.5gを通してろ過し、0.01M水酸化ナトリウム水溶液10mlで更に洗浄して清澄液238gを得た。尚、得られた清澄液中の鉄分は0.02ppm(鉄分0.006mg相当)であった。
この清澄液237gに、室温下にて濃塩酸20gを加えて中和してpHを1.8に調整し、析出した結晶をろ過、水洗の後に減圧下乾燥を行い、(5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)28.5gを白色固体として得た。得られた結晶中の鉄分は0.01ppm(0.003mg相当)であった。
H NMR(300MHz,NaOD/DO)δ:3.15(d,1H),3.05(d,1H),1.35(s,3H)
13C NMR(300MHz,NaOD/DO)δ:196.9,176.2,68.3,50.2,25.6
IR(cm−1,KBr)1770.5,1701.1,1409.9,1305.7,1024.1,773.4,763.8,648.0,578.6,426.2
[α]20=+161.23°(c0.53,1N NaOH)。
[実施例3](5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)の鉄分除去(フィルター処理)
実施例1で得られた水溶液23.1g(鉄分0.4mgを含有)に、30wt%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを11.0に調整したところ、赤褐色の結晶が析出した。この溶液を、メンブレンフィルター(孔径0.45μm、酢酸セルロース製)を通してろ過して、清澄液23.2gを得た。尚、得られた清澄液中の鉄分は0.09ppm(鉄分0.002mg相当)であった。
[実施例4](5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)の晶析
実施例1で得られた水溶液12g(鉄分0.2mgを含有)に、室温下にて濃塩酸10gを加えて中和してpHを1.8に調整し、析出した結晶をろ過、水洗の後に減圧下乾燥を行い、(5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)14.6gを白色固体として得た。得られた結晶中の鉄分は98ppm(0.1mg相当)であった。
[実施例5](2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の製法
塩酸耐性のある500mL容量の耐圧反応装置に、実施例2で得られた(5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)25gと濃塩酸160gを封入し、120℃の油浴中で36時間反応させた。HPLC分析(HPLC−2)の結果、得られた反応液中に(5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)は検出されなかった(0.1%未満)。
得られた反応液(pHは0未満であった)を3℃まで冷却し、析出した結晶をろ過、冷濃塩酸25mLで洗浄した後に減圧乾燥して、(2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)塩酸塩23.8gを白色固体として得た。
H NMR(300MHz,NaOD/DO)δ:3.31(d,1H),2.92(d,1H),1.30(s,3H)
H NMR(300MHz,DO)δ:3.59(d,1H),3.20(d,1H),1.63(s,3H)
13C NMR(300MHz,NaOD/DO)δ:185.1,61.7,54.0,28.8
13C NMR(300MHz,DO)δ:175.7,63.2,47.1,24.9
[α]20=+40.75°(c0.53,1N NaOH)
[α]20=−148.35°(c1.02,1N HCl)。
[実施例6](2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の還元によるD−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸の製法
実施例5で得られた(2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)5.0gおよびトリフェニルホスフィン6.4gに、室温、窒素気流下に、トルエン50gおよび濃塩酸6.4gを順次加えた後、80℃に昇温した。続いて、水7.75gを2回に分割して添加して、(2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の結晶を完全に溶解させた。その後、更に24時間反応させて、D−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩5.9gを含有する反応液67gを得た。尚、得られた反応液中の(2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の残存率(HPLC−3)は0.3%であった。
この反応液よりトルエン層を分液して得られた水溶液(pHは0であった)を更に50gのトルエンで4回洗浄したところ、水溶液中にトリフェニルホスフィンおよびトリフェニルホスフィンオキシドは検出されなくなった(HPLC−3にて0.01%未満)。こうして、純度99.6area%のD−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩水溶液を得た。
この水溶液を13gにまで濃縮(減圧度30〜60mmHg、温度45℃)し、トルエン40gを加え、減圧濃縮操作(減圧度40〜60mmHg、温度40℃、留出速度107L/h・m)を行い、全量15gとした。さらにトルエン40gを加えて濃縮し、同様の操作を合計5回繰り返した後、トルエンを添加してD−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩のトルエンスラリー184gを得た。結晶をろ過してトルエンにて洗浄後、減圧乾燥して、D−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩5.9gを白色固体として得た。HPLC分析(HPLC−4)の結果、得られた結晶のD−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩の純度は99.6area%、(2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の含量は0.3area%であった。
H NMR(300MHz,DO)δ:3.18(d,1H),2.89(d,1H),1.60(s,3H)
[α]20=−8.76°(c1.01,HO)。
[実施例7](5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)の還元によるD−5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントインの製法
実施例4で得られた(5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)5.9gおよびトリフェニルホスフィン6.4gに、室温、窒素気流下に、トルエン50g、水15.5gおよび濃塩酸6.4gを順次加えた後、80℃で24時間反応させた。この反応液をHPLC分析(HPLC−3)した結果、(5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)の残存率は0.9%であった。
この反応液に30wt%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH9.0に調整した後にトルエン層を分液して得られた水溶液を、更に50gのトルエンで4回洗浄して、水溶液22gを得た。
HPLC分析の結果、得られた水溶液はD−5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントイン5.8gを含有しており、純度は99.6area%であった。またトリフェニルホスフィンおよびトリフェニルホスフィンオキシドは検出されなかった(HPLC−3にて0.01%未満)。
この水溶液21gを、室温下にて濃塩酸を加えてpH2.8に調整し、析出した結晶をろ過、水洗の後に減圧下乾燥して、D−5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントイン5.3gを白色固体として得た。HPLC分析(HPLC−2)の結果、得られた結晶のD−5−メルカプトメチル−5−メチルヒダントインの純度は99.6area%であった。
H NMR(300MHz,NaOD/DO)δ:2.69(s,2H),1.33(s,3H)
[α]20=+98.26°(c0.50,1N NaOH)。
[実施例8](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の製法(ヨウ素酸化)
参考例9と同様の方法で得られたL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩30gを水72gに溶解し、内温を25℃以下に維持して30wt%水酸化ナトリウム水溶液26.1gを加えた。そのまま内温を20〜25℃に維持して、強撹拌下、ヨウ素27.6gを30分かけて3分割添加し、更に1時間反応させた。得られた反応液をHPLC分析(HPLC−2)した結果、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸は0.6%残存していた。
得られた反応液を、室温下にて濃塩酸で中和してpHを2.8に調整し、析出した結晶をろ過、水洗の後に減圧して、(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)23.0gを白色固体として得た。
H NMR(300MHz,NaOD/DO)δ:3.31(d,1H),2.92(d,1H),1.30(s,3H)
[α]20=+217.53°(c1.00,1N HCl)。
[実施例9](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の還元によるL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸の製法
実施例8で得られた(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)5.0gおよびトリフェニルホスフィン6.4gに、室温、窒素気流下に、テトラヒドロフラン50gおよび濃塩酸6.4gを順次加えた後、60℃で4時間反応させて、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩6.3gを含有する反応液67gを得た。尚、得られた反応液中の(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の残存率(HPLC−3)は0.3%であった。
[実施例10](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の還元によるL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸の製法
実施例8で得られた(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)5.0gおよびトリフェニルホスフィン6.4gに、室温、窒素気流下に、トルエン50gおよび濃塩酸6.4gを順次加えた後、80℃に昇温した。続いて、水7.75gを2回に分割して添加して、(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の結晶を完全に溶解させた。その後、更に24時間反応させて、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩5.9gを含有する反応液67gを得た。尚、得られた反応液中の(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の残存率(HPLC−3)は0.3%であった。
この反応液よりトルエン層を分液して得られた水溶液を更に50gのトルエンで4回洗浄したところ、水溶液中にトリフェニルホスフィンおよびトリフェニルホスフィンオキシドは検出されなくなった(HPLC−3にて0.01%未満)。こうして、純度99.6area%(HPLC−2)のL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩水溶液を得た。
この水溶液を13gにまで濃縮(減圧度30〜60mmHg、温度45℃)し、トルエン40gを加え、減圧濃縮操作(減圧度40〜60mmHg、温度40℃、留出速度107L/h・m)を行い、全量15gとした。さらにトルエン40gを加えて濃縮し、同様の操作を合計5回繰り返した後、トルエンを添加してL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩のトルエンスラリー184gを得た。結晶をろ過してトルエンにて洗浄後、減圧乾燥して、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩6.2gを白色固体として得た。HPLC分析(HPLC−4)の結果、得られた結晶のL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩の純度は99.6area%、(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の含量は0.3area%であった。
H NMR(300MHz,DO)δ:3.18(d,1H),2.89(d,1H),1.60(s,3H)。
[実施例11](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の製法(酸素酸化)
参考例9で得られたL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩10gを水100gに溶解し、内温を25℃以下に維持して30wt%水酸化ナトリウム水溶液12gを加えた。そのまま内温を20〜25℃に維持して、液中に空気を吹き込みながら、強撹拌下反応させたところ、反応完結に3日間を要した。得られた反応液を、室温下にて濃塩酸10gで中和してpHを2.8に調整し、析出した結晶をろ過、水洗の後に減圧乾燥して、(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)6.6gを白色固体として得た。HPLC分析(HPLC−2)の結果、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸含量は0.3%であった。
H NMR(300MHz,NaOD/DO)δ:3.31(d,1H),2.92(d,1H),1.30(s,3H)。
[実施例12](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の製法(鉄触媒酸素酸化)
参考例9で得られたL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩10gおよび三塩化鉄1mg(鉄分0.3mg相当)を水30gに溶解し、内温を25℃以下に維持して30wt%水酸化ナトリウム水溶液9gを加えた。そのまま内温を20〜25℃に維持して、液中に空気を吹き込みながら、強撹拌下反応させたところ、反応完結に30時間を要した。尚、反応の進行と共に生成物が析出して、反応液はスラリーとなった。pHは9.4であった。
この反応液に、30wt%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを11.0に調整したところ、析出した生成物が溶解した。このようにして得られた水溶液51gは、(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)7.6gを含有していた。また、微量の赤褐色結晶が溶解せずに残存していた。
得られた水溶液中の鉄分は12ppm(0.6mg相当)であった。L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸は検出されなかった(HPLC−2にて0.1%未満)。
[実施例13](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の鉄分除去(活性炭濾加助剤処理)
実施例12で得られた水溶液10g(鉄分0.1mgを含有)に、予め0.01M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した活性炭(武田薬品工業製:活性炭白鷺A)100mgを加え、濾紙(孔径0.8μm、セルロース製)を通してろ過し、0.01M水酸化ナトリウム水溶液1mlで更に洗浄して清澄液11gを得た。尚、得られた清澄液中の鉄分は0.1ppm(鉄分0.001mg相当)であった。
室温下にて、この清澄液10gを濃塩酸で中和してpHを1.8に調整し、析出した結晶をろ過、水洗の後に減圧乾燥して、(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)1.3gを白色固体として得た。得られた結晶中の鉄分は0.8ppm(0.001mg相当)であった。
H NMR(300MHz,NaOD/DO)δ:3.15(d,1H),3.05(d,1H),1.35(s,3H)
13C NMR(300MHz,NaOD/DO)δ:196.9,176.2,68.3,50.2,25.6
[α]20=+216.43°(c1.04,1N HCl)。
[実施例14](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の鉄分除去(セルロース濾過助剤処理)
実施例12で得られた水溶液10g(鉄分0.1mgを含有)に、予め0.01M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した粉末セルロース(日本製紙ケミカル製:KCフロック)100mgを加え、濾紙(孔径0.8μm、セルロース製)を通してろ過し、0.01M水酸化ナトリウム水溶液1mlで更に洗浄して清澄液11gを得た。尚、得られた清澄液中の鉄分は0.1ppm(鉄分0.001mg相当)であった。
[実施例15/比較例1](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の鉄分除去(フィルター処理)
実施例12で得られた水溶液10g(鉄分0.1mgを含有)を、メンブレンフィルター(孔径0.45μm、酢酸セルロース製)を通してろ過して、0.01M水酸化ナトリウム水溶液1mlで更に洗浄して清澄液11gを得た。尚、得られた清澄液中の鉄分は0.1ppm(鉄分0.001mg相当)であった。(実施例15)
一方、実施例11で得られた水溶液10g(鉄分0.1mgを含有)を、濾紙(孔径4μm、セルロース製)を通してろ過したところ、赤褐色の結晶が透過した。0.01M水酸化ナトリウム水溶液1mlで更に洗浄して混濁液11gを得た。尚、得られた混濁液中の鉄分は12ppm(鉄分0.1mg相当)であった。(比較例1)
[実施例16](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の晶析
実施例12で得られた水溶液10g(鉄分0.1mgを含有)を濃塩酸で中和してpHを1.8に調整し、析出した結晶をろ過、水洗の後に減圧乾燥して、(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)1.3gを白色固体として得た。尚、得られた湿結晶中の鉄分は2ppm(鉄分0.05mg相当)であった。
(参考例10)L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩の製法
工業用グレードの濃塩酸における鉄分の規格は20ppm以下であるが、通常は0.2ppm以下のものが入手できる。以下の参考例は、鉄分含量の高い濃塩酸を使用したL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩の製造例である。
参考例8の方法で得られたL−2−アミノ−3−t−ブチルチオ−2−メチルプロピオン酸7.8gに濃塩酸64.4g(鉄分4ppm/0.3mg相当)を加え、24時間還流し、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩の水溶液70gを得た。得られた反応液中の鉄分は4ppm(0.3mg相当)であった。
この水溶液69gを13gにまで濃縮(減圧度30〜60mmHg、温度45℃)し、トルエン41gを加え、減圧濃縮操作(減圧度40〜60mmHg、温度40℃)を行い、全量22gとした。さらにトルエン41gを加えて濃縮し、同様の操作を合計6回繰り返し、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩のトルエンスラリー21gを得た。結晶をろ過してトルエンにて洗浄後、減圧乾燥して、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩6.4gを白色固体として得た。
得られた結晶中の鉄分は52ppm(0.3mg相当)、(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)含量(HPLC−2)は0.7%であった。尚、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩は、鉄分含量が高いほど、安定性が悪い傾向が認められている。
[実施例17](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の製法
参考例10で得られたL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩5g(鉄分0.3mgを含有)を水15gに溶解し、内温を25℃以下に維持して30wt%水酸化ナトリウム水溶液4.5gを加えた。そのまま内温を20〜25℃に維持して、気相部に空気を通気しながら、強撹拌下に60時間反応させた。得られた反応液をHPLC分析(HPLC−2)した結果、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸は6.3%残存していた。
続いて、液中に空気を吹き込みながら、強撹拌下に24時間反応させた。得られた反応液のpHは13.3であり、極微量の赤褐色結晶が析出していた。HPLC分析(HPLC−2)した結果、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸は検出されなかった(0.1%未満)。
この反応液を濃塩酸で中和してpHを11.2に調整した後、強撹拌下に一晩熟成したところ、赤褐色の結晶が析出した。
このようにして得られた水溶液22gは、(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)3.7gを含有していた。また、得られた水溶液中の鉄分は14ppm(0.3mg相当)であった。
[実施例18](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の鉄分除去(活性炭濾加助剤処理)
実施例17で得られた水溶液10g(鉄分0.14mgを含有)に、予め0.01M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した活性炭(武田薬品工業製:活性炭白鷺A)100mgを通してろ過し、0.01M水酸化ナトリウム水溶液1mlで更に洗浄して清澄液11gを得た。尚、得られた清澄液中の鉄分は0.9ppm(鉄分0.01mg相当)であった。
[実施例19](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の鉄分除去(セルロース濾加助剤処理)
実施例17で得られた水溶液10g(鉄分0.14mgを含有)に、予め0.01M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した粉末セルロース(日本製紙ケミカル製:KCフロック)100mgを通してろ過し、0.01M水酸化ナトリウム水溶液1mlで更に洗浄して清澄液11gを得た。尚、得られた清澄液中の鉄分は3.8ppm(鉄分0.04mg相当)であった。
[実施例20](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の製法
参考例10と同様にして得られた、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩湿結晶105g[L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩純分88g、鉄分19mgおよびトルエン16gを含有]を水313gに溶解し、減圧下に206gまで濃縮した。溶液中のトルエン濃度は28ppmであった。次いで、25℃に調整したこの溶液に水228gおよび30wt%水酸化ナトリウム水溶液170gを30分かけて加えた。溶液の温度は35℃まで上昇し、溶液のpHは9.5になった。続いて、強撹拌下、液中に空気を吹き込みながら、内温を35〜40℃に維持して12時間反応させた。次いで、内温を20〜25℃まで冷却し、更に同温度を維持して12時間反応させた。得られた反応液584gは、pH11.2であり、赤褐色の結晶が析出していた。尚、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸は検出されなかった(HPLC−2にて0.1%未満)。
得られた反応液281gを、予め0.01M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した活性炭(武田薬品工業製:活性炭白鷺A)2.07gを通してろ過し、0.01M水酸化ナトリウム水溶液10mlで更に洗浄してろ液284gを得た。このろ液280gを、室温下にて濃塩酸31gで中和してpHを4.5に調整し、析出した結晶をろ過、水洗して、(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)38.9gを含有する湿結晶47.6gを得た。尚、得られた湿結晶中の鉄分は2ppm(鉄分0.1mg相当)であった。
[実施例21](2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の還元によるL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸の製法
実施例20で得られた(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)湿結晶23.2g[(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)19.0g.鉄分0.04mgを含有]およびトリフェニルホスフィン24gに、室温、窒素気流下、水38g、濃塩酸19gおよびトルエン190gを順次加えた後、80℃で20時間反応させた。得られた反応液中の(2R,2’R)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)の残存率(HPLC−3)は0.1%であった。
反応液よりトルエン層を分液して得られた水溶液を更に190gのトルエンで4回洗浄したところ、水溶液中にトリフェニルホスフィンおよびトリフェニルホスフィンオキシドは検出されなくなった(HPLC−3にて0.01%未満)。こうして、純度99.9area%(HPLC−2)のL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩水溶液を得た。
この水溶液を45gにまで濃縮(減圧度30〜60mmHg、温度45℃)し、トルエン72gを加え、減圧濃縮操作(減圧度40〜60mmHg、温度40℃、留出速度107L/h・m)を行い、全量60gとした。さらにトルエン72gを加えて濃縮し、同様の操作を合計5回繰り返した後、トルエンを添加してL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩のトルエンスラリー184gを得た。結晶をろ過してトルエンにて洗浄後、減圧乾燥して、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩21.7gを白色固体として得た。得られた結晶のL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩の純度(HPLC−4)は99.9area%、鉄分は2ppm(鉄分0.04mg相当)、ナトリウム含量は0.2wt%であった。又参考例10で得られたL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩と比べて安定であることを確認している。
(比較例2)2−アミノ−3−ベンジルチオ−2−メチルプロピオン酸の還元による2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸の製法
2−アミノ−3−ベンジルチオ−2−メチルプロピオン酸11.3gを−78℃に冷却した液体アンモニア2000mLに添加し、金属ナトリウム4.0gを1時間かけて少しずつ加えた。次いで、−33℃まで昇温して1時間反応させた後、室温まで昇温してアンモニアを留去した。得られた反応液に脱気した水500mLを加えて更に濃縮した後に、濃塩酸25gを添加して、水溶液82gを得た。
HPLC分析(HPLC−2)の結果、得られた水溶液はL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩8.0gを含有しており、純度は96.2area%であった。また2−アミノ−3−ベンジルチオ−2−メチルプロピオン酸は検出されなかった(HPLC−1にて0.1%未満)。
この水溶液80gを16gにまで濃縮(減圧度30〜60mmHg、温度45℃)し、トルエン50gを加え、減圧濃縮(減圧度40〜60mmHg、温度40℃、留出速度107L/h・m)を行い、全量27gとした。さらにトルエン50gを加えて濃縮し、同様の操作を合計5回繰り返した後、トルエンを添加してL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩のトルエンスラリー25gを得た。結晶をろ過してトルエンにて洗浄後、減圧乾燥して、L−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩11.8gを白色固体として得た。
HPLC分析(HPLC−4)の結果、得られた結晶のL−2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸塩酸塩の含量は66wt%であり、また純度は95.9area%であった。尚、ナトリウム含量は13wt%であった。
【図面の簡単な説明】
第1図は実施例2により得られた、(5S,5’S)−5,5’−[ジチオビス(メチレン)]ビス(5−メチルヒダントイン)のIRスペクトルである。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、医薬品等の中間体として有用な光学活性なR体又はS体の2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩の製造において、各種不純物の混入を高度に抑制し得る新規製造中間体を得ることができる。また、この新規製造中間体を用いることで、工業的生産規模において簡便且つ効率的に、高純度の光学活性なR体又はS体の2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩を製造することができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):

(式中、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表すか、Y及びZが一緒になって2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩の製造において、下記式(2):

(式中、Y及びZは前記Y及びZと同一であっても異なってもよく、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表すか、Y及びZが一緒になって2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩を還元することにより、硫黄−硫黄結合を開裂させ、必要に応じてYをYに、及び/又は、ZをZに変換することを特徴とする、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(1)又はその塩の製造方法。
【請求項2】
還元反応の還元剤として、水素化金属試薬、アルカリ金属、金属と酸、アルカリ金属硫化物、ホスフィン化合物のいずれかを用いる請求の範囲第1項記載の製造方法。
【請求項3】
還元反応中に酸性物質を共存させる請求の範囲第1項または第2項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の方法で製造した前記式(1)で表される光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩を含有する水性媒体溶液中の不純物を、該水性媒体と混和しない有機溶媒相に除去することにより、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(1)又はその塩を精製することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
水性媒体と混和しない有機溶媒が芳香族炭化水素系溶媒である請求の範囲第4項記載の製造方法。
【請求項6】
水性媒体溶液のpHを4〜5の範囲外に調整する請求の範囲第4項または第5項に記載の製造方法。
【請求項7】
水性媒体溶液のpHを3以下に調整する請求の範囲第4項〜第6項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
が無置換の水酸基であり、Zが無置換のアミノ基である請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
がYであり、ZがZである請求の範囲第1項〜第8項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記式(2)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩として、下記一般式(3):

(式中、Y及びZは前記Y及びZと同一であっても異なってもよく、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表すか、Y及びZが一緒になって2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される光学活性3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩の2分子間で、硫黄−硫黄結合を形成させ、必要に応じてYをYに、及び/又は、ZをZに変換することにより製造したものを用いる請求の範囲第1項〜第9項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
酸化剤を用いる酸化反応により硫黄−硫黄結合を形成する請求の範囲第10項記載の製造方法。
【請求項12】
酸化剤が酸素である請求の範囲第11項記載の製造方法。
【請求項13】
酸化反応触媒として鉄イオン化合物を用いる請求の範囲第12項記載の製造方法。
【請求項14】
が無置換の水酸基であり、Zが無置換のアミノ基である請求の範囲第10項〜第13項記載の製造方法。
【請求項15】
およびZが一緒になってウレイレン基(−NHCONH−)である請求の範囲第10項〜第13項記載の製造方法。
【請求項16】
が無置換の水酸基であり、Zが無置換のアミノ基である請求の範囲第10項〜第15項記載の製造方法。
【請求項17】
がYであり、ZがZである請求の範囲第10項〜第15項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
硫黄−硫黄結合を形成させた後、加水分解によりYをYに、及び/又は、ZをZに変換する請求の範囲第10項〜第16項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
酸性条件下で加水分解を行う請求の範囲第18項記載の製造方法。
【請求項20】
前記一般式(2)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩が、前記一般式(1)で表される光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩に含まれるものである請求の範囲第1項〜第9項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項21】
前記一般式(1)で表される光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩に含まれる、前記一般式(2)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩の含量が0.1%以上である請求の範囲第20項記載の製造方法。
【請求項22】
前記一般式(3)で表される光学活性3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩が、前記一般式(2)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩に含まれるものである請求の範囲第10項〜第19項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項23】
前記一般式(2)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩に含まれる、前記一般式(3)で表される光学活性3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩の含量が0.1%以上である請求の範囲第22項記載の製造方法。
【請求項24】
請求の範囲第1項〜第23項のいずれかに記載の方法により製造された前記一般式(1)で表される光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩を含有する水性媒体溶液から、有機溶媒の共存下に晶析することを特徴とする、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(1)又はその塩の製造方法。
【請求項25】
光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(1)の酸との塩を晶析する請求の範囲第24項記載の製造方法。
【請求項26】
有機溶媒の共存下に濃縮を行い、水を系外に除去すると共に有機溶媒に置換して、該化合物を晶析する請求の範囲第24項または第25項記載の製造方法。
【請求項27】
水性媒体と混和しない有機溶媒を用いる請求の範囲第24項〜第26項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項28】
残存する水量が、光学活性2−アミノ−3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体(1)又はその塩に対して100重量%以下となるまで濃縮、溶媒置換して晶析する請求の範囲第24項〜第27項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項29】
濃縮時の蒸発速度を、1000L/h・m以下に制御して行う請求の範囲第26項〜第28項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項30】
下記一般式(2):

(式中、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表すか、Y及びZが一緒になって2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩の製造において、下記一般式(3):

(式中、Y及びZは前記Y及びZと同一であっても異なってもよく、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表すか、Y及びZが一緒になって2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される光学活性3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩を酸化することにより、2分子間で硫黄−硫黄結合を形成させ、必要に応じてYをYに、及び/又は、ZをZに変換することを特徴とする、光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)又はその塩の製造方法。
【請求項31】
酸化が酸素酸化である請求の範囲第30項記載の製造方法。
【請求項32】
酸化反応触媒として鉄イオン化合物を用いる請求の範囲第31項記載の製造方法。
【請求項33】
が無置換の水酸基であり、Zが無置換のアミノ基である請求の範囲第30項〜第32項記載の製造方法。
【請求項34】
およびZが一緒になってウレイレン基(−NHCONH−)である請求の範囲第30項〜第32項記載の製造方法。
【請求項35】
が無置換の水酸基であり、Zが無置換のアミノ基である請求の範囲第30項〜第34項記載の製造方法。
【請求項36】
がYであり、ZがZである請求の範囲第30項〜第34項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項37】
硫黄−硫黄結合を形成させた後、加水分解によりYをYに、及び/又は、ZをZに変換する請求の範囲第30項〜第35項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項38】
酸性条件下で加水分解を行う請求の範囲第37項記載の製造方法。
【請求項39】
前記一般式(3)で表される光学活性3−メルカプト−2−メチルプロピオン酸誘導体又はその塩が、前記一般式(2)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩に含まれるものである請求の範囲第30項〜第38項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項40】
下記一般式(2):

(式中、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表すか、Y及びZが一緒になって2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩を含有する水性媒体溶液を、塩基性に調整することにより不純物を該溶液より分離させて除去する、光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)又はその塩の精製方法。
【請求項41】
塩基性に調整した水性媒体溶液のpHが10以上である請求の範囲第40項記載の精製方法。
【請求項42】
析出した不純物を濾過により除去する請求の範囲第40項又は第41項記載の精製方法。
【請求項43】
下記一般式(2):

(式中、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表すか、Y及びZが一緒になって2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩を含有する水性媒体溶液を、中性〜酸性に調整することにより光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)を晶析して不純物を除去する、光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)の精製方法。
【請求項44】
中性〜酸性に調整した水性媒体溶液のpHが9以下である請求の範囲第43項記載の精製方法。
【請求項45】
下記一般式(2):

(式中、Yは無置換の水酸基又は置換若しくは無置換のアミノ基を、Zは置換若しくは無置換のアミノ基を表すか、Y及びZが一緒になって2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩を含有する水性媒体溶液を、強酸性に調整することにより光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)の酸との塩を晶析して不純物を除去する、光学活性3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体(2)の酸との塩の精製方法。
【請求項46】
強酸性に調整した水性媒体溶液のpHが1以下である請求の範囲45項記載の精製方法。
【請求項47】
不純物が無機物である請求の範囲第40項〜第46項のいずれかに記載の精製方法。
【請求項48】
無機物が重金属イオン化合物である請求の範囲第47項に記載の精製方法。
【請求項49】
請求の範囲第40項〜第48項記載の方法を用いて精製した前記式(2)で表される光学活性3,3‘−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩を用いることを特徴とする請求の範囲第1項〜第9項記載の製造方法。
【請求項50】
請求の範囲第30項〜第39項のいずれかに記載の方法により製造された前記式(2)で表される化合物を請求の範囲第40項〜第48項のいずれかに記載の方法により精製することを特徴とする前記式(2)で表される化合物の製造方法。
【請求項51】
下記一般式(4):

(式中、−Y−Z−は2価基を表す;*は不斉炭素を表す)で表される、光学活性な(2R,2’R)又は(2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩。
【請求項52】
−Y−Z−が置換若しくは無置換のウレイレン基(−NHCONH−)である請求の範囲第51項に記載の光学活性な(2R,2’R)又は(2S,2’S)−3,3’−ジチオビス(2−アミノ−2−メチルプロピオン酸)誘導体又はその塩。

【国際公開番号】WO2005/026110
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513827(P2005−513827)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012157
【国際出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】