説明

光学物品およびその製造方法

【課題】十分な反射防止効果を有するとともに、反射防止層形成時にクラックの生じない光学物品およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】プラスチック基材の上にハードコート層が形成され、前記ハードコート層の上に反射防止層が形成された光学物品であって、前記反射防止層は、ハードコート層側より、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体からなる高屈折率層と、酸化ケイ素を含有する低屈折率層とを含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡やカメラ等のプラスチックレンズとして使用される光学物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて軽量であり、成形性、加工性、染色性等に優れ、しかも割れにくく安全性も高いため、眼鏡レンズ分野において急速に普及し、その大部分を占めている。また、近年では薄型化、軽量化のさらなる要求に応えるべく、チオウレタン系樹脂やエピスルフィド系樹脂等の高屈折率素材が開発されている。
また、プラスチックレンズの耐擦傷性を向上させるために、レンズ基材の上にハードコート層を形成することも多い。一方、レンズ基材の屈折率を高くした場合、干渉縞の発生を防ぐために、ハードコート層についてもレンズ基材と同等の屈折率を持たせる必要がある。例えば、種々の金属酸化物をフィラーとしてハードコート層に含有させ、高屈折率化することが一般的である。
しかしながら、ハードコート層の屈折率が高くなると、必然的にレンズ表面における光線反射率も高くなり、プラスチックレンズとしての実用性に乏しくなる。
そこで、ハードコート層の表面に、有機ケイ素化合物と中空シリカからなる低屈折率層を設け反射防止層とする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、反射防止効果をより向上させるため、基材表面に酸化チタンからなる高屈折率層を形成し、その上に低屈折率層を積層することによって、広い波長領域の光の反射を効果的に防止する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−222703号公報(〔特許請求の範囲〕)
【特許文献2】特開2004−294565号公報(明細書段落〔0028〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された反射防止層では、反射防止効果が不十分である。また、特許文献2における酸化チタン層をプラスチックレンズ基材表面に形成しようとすると、焼成時に酸化チタン層にクラックが発生してしまう。
そこで本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、十分な反射防止効果を有するとともに、反射防止層にクラックの生じない光学物品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決すべく、本発明は、プラスチック基材の上にハードコート層が形成され、前記ハードコート層の上に反射防止層が形成された光学物品であって、前記反射防止層は、ハードコート層側より、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体からなる高屈折率層と、酸化ケイ素を含有する低屈折率層とを含んで構成されることを特徴とする。
【0006】
ここで、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体とは、酸化チタンが有機高分子と少なくとも部分的に化学結合して複合体となっている構造をいう。また、低屈折率層における酸化ケイ素には、SiOだけでなく、SiO結合を含む無機高分子化合物あるいは有機高分子化合物(シリコーン等の有機ケイ素化合物)も含まれる。
本発明の光学物品によれば、ハードコート層の屈折率自体を高くすることができなくても、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体からなる高屈折率層を別途、ハードコート層の上に形成するので、さらにその上に形成される低屈折率層との屈折率差を大きくすることができ、反射防止効果を高めることが可能となる。
そして、高屈折率層が酸化チタンと少なくとも部分的に化学結合して有機高分子複合体となった構造を有するため、高屈折率層自体が柔軟性に富む。それ故、例えば、高屈折率層形成時に高温で焼成され、プラスチック基材が熱で膨張しても高屈折率層にクラックが生じにくい。
【0007】
本発明では、前記高屈折率層における有機高分子化合物複合体が、チタン化合物と、該チタン化合物と反応しうる有機化合物とから形成されることが好ましく、チタン化合物としてはチタンアルコキシドであることが好ましい。
この発明によれば、前記高屈折率層における有機高分子化合物複合体が、チタン化合物と、該チタン化合物と反応しうる有機化合物とから形成されるので、高屈折率を容易に発現できるとともに、柔軟性に富む高屈折率層の形成が容易である。特に、チタン化合物がチタンアルコキシドであると、加水分解により容易に酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体を得ることができる。
また、前記チタンアルコキシドが、チタンテトラアルコキシドであると、加水分解により容易に3次元構造となりやすく有機高分子化合物複合体をさらに容易に得ることができるので好ましい。
【0008】
本発明では、前記有機化合物がポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールのうち少なくともいずれかであることが好ましい。
この発明によれば、ポリアルキレングリコールやポリビニルピロリドンあるいはポリビニルアルコールのような反応性の有機化合物を用いるので、アルコキシチタン等のチタン化合物と容易に反応して酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体とすることができる。そして、ポリアルキレングリコールやポリビニルピロリドンあるいはポリビニルアルコールを含んだ有機高分子化合物複合体は柔軟性に非常に優れており、クラックが極めて生じにくい高屈折率層を提供する。
また、前記ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコールであることが好ましい。
【0009】
本発明では、前記低屈折率層が、下記の(A)および(B)成分から形成されることが好ましい。
(A)下記式(1)で示される有機ケイ素化合物。
SiX3−n (1)
(式中、Rは重合可能な反応基を有する有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Xは加水分解基であり、nは0または1である。)
(B)シリカ系微粒子
【0010】
この発明によれば、低屈折率で堅牢な低屈折率層を前記した高屈折率層の上に形成することができる。
また、本発明では、前記(B)成分が、内部空洞を有するシリカ系微粒子であることが好ましい。
この発明によれば、シリカ系微粒子は、内部空洞を有するので、シリカよりも屈折率の低い気体、溶媒を包含することができる。これにより、内部空洞を有するシリカ系微粒子は、内部空洞を有しないシリカ系微粒子よりも屈折率が低くなり、低屈折率層の屈折率がより低くなる。そして、低屈折率層の屈折率を低くすることで、それより下層との屈折率の差が大きくなり、反射防止機能をより向上させることができる。
【0011】
本発明の光学物品は、前記した特徴を持っているので、プラスチックレンズとして好ましく適用できる。例えば、眼鏡レンズをはじめ、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズなど各種の光学レンズとして幅広く使用することができる。なお、プラスチックレンズ以外でも、反射防止特性が要求されるディスプレイ、自動車等の窓ガラス、あるいは各種光学機器にも適用可能である。
【0012】
本発明の光学物品の製造方法は、プラスチック基材の上にハードコート層を形成するハードコート層形成工程と、前記ハードコート層の上に反射防止層を形成する反射防止層形成工程とを含む光学物品の製造方法であって、前記反射防止層形成工程は、チタン化合物と、該チタン化合物と反応しうる有機化合物とから、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体からなる高屈折率層を湿式法により形成する高屈折率層形成工程と、前記高屈折率層の上に、酸化ケイ素を含有する有機高分子化合物複合体からなる低屈折率層を形成する低屈折率層形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の光学物品の製造方法によれば、反射防止層形成工程として、チタン化合物と、該チタン化合物と反応しうる有機化合物とから、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体からなる高屈折率層を湿式法により形成する高屈折率層形成工程を備えている。それ故、高屈折率層の柔軟性に優れるので、高屈折率層形成時に焼成等の加熱処理を行っても、高屈折率層にクラックが生じにくい。従って、最終的に得られる物品外観に悪影響を与えず、耐擦傷性、反射防止性に優れた光学物品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の光学物品について実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の光学物品は、眼鏡用のプラスチックレンズであって、プラスチックレンズ基材(以下、単に「レンズ基材」ともいう)と、レンズ基材の上にハードコート層が形成され、前記ハードコート層の上に反射防止層が形成されている。また。この反射防止層は、ハードコート層側より、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体からなる高屈折率層と、酸化ケイ素を含有する低屈折率層とを含んで構成されている。
以下、本実施形態の光学物品について詳細に説明する。
【0015】
(1.レンズ基材)
レンズ基材としては、プラスチック樹脂であれば特に限定されないが、眼鏡レンズの薄型化の観点より、レンズ基材の屈折率が1.60以上であることが好ましい。また、レンズの強度や耐熱性等の品質面を考慮すると、チオウレタン系プラスチックや、チオエポキシ系プラスチックが、本発明に対しては好ましい。
【0016】
チオウレタン系プラスチックの具体例としては、ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物を重合することにより得られる物が挙げられる。ここで、ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリック型ジフェニルメタンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,5−ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8−ビス(イソシアネートメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6 ]−デカン、3,9−ビス(イソシアネートメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6 ]−デカン、4,8−ビス(イソシアネートメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6 ]−デカン、4,9−ビス(イソシアネートメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6 ]−デカン、ダイマー酸ジイソシアネート等のポリイソシアネート化合物およびそれらの化合物のアロファネート変性体、ビュレット変性体、イソシアヌレート変性体が挙げられ、これらの化合物を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
また、ポリチオール化合物としては、例えば、4−メルカプトメチル−3,6−ジチオ−1,8−オクタンジチオール、ペンタエリスリトールテトラ(3−メルカプトプロピオネート)、4,8or4,7or5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト
−3,6,9トリチアウンデカンなどが挙げられる。
チオウレタン系プラスチックを重合する際の、ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物の混合割合は、イソシアネート基とチオール基の官能基の割合がNCO/SH(モル比)=0.5〜3.0、特に0.5〜1.5の範囲が好ましい。
上述のチオウレタン系プラスチックを用いたレンズ基材としては、セイコーエプソン(株)製「セイコースーパールーシャス(SLU、屈折率 1.60)」やセイコーエプソン(株)製「セイコースーパーソブリン(SSV、屈折率 1.67)」などがある。
【0018】
チオエポキシ系プラスチックの具体例としては、エピスルフィド基を1分子中に少なくとも1個以上有する化合物を含む組成物を重合硬化させて得られるプラスチックが挙げられる。本発明において使用されるエピスルフィド基を1分子中に少なくとも1個以上有する化合物については特に制限はなく、公知のエピスルフィド基を有する化合物が何ら制限なく使用できるが、具体例としては、既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全てをエピスルフィド化して得られるエピスルフィド化合物が挙げられる。また、プラスチックレンズの高屈折率化と高アッベ数化のためにはエピスルフィド基以外にも分子中に硫黄原子を含有する化合物が好ましい。具体例としては、ビス−(2,3エピチオプロピル)ジスルフィド、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5
−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン等が挙げられる。
【0019】
(2.ハードコート層)
ハードコート層は、金属酸化物微粒子を含むコーティング組成物から形成される。金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化スズ(SnO)あるいは、酸化ジルコニウム(ZnO)等である。これらは単体で用いてもよく、あるいは複合微粒子として用いてもよい。
また、ハードコート層における金属酸化物微粒子は、有機ケイ素化合物などを原料とする樹脂バインダー中に分散されることが好ましい。例えば、金属酸化物微粒子と有機ケイ素化合物とを含んだコーティング組成物を、前記したレンズ基材の上に塗布することでハードコート層が形成される。有機ケイ素化合物としては、たとえば前記した式(1)で示される化合物を好適に用いることができる。
【0020】
そして、金属酸化物微粒子と有機ケイ素化合物とを含んだコーティング組成物(ハードコート液)を調製する際には、金属酸化物微粒子が分散したゾルと、有機ケイ素化合物とを混合することが好ましい。金属酸化物微粒子の配合量は、ハードコート層の硬度や、屈折率等により決定されるものであるが、ハードコート液中の固形分の5〜80質量%、特に10〜60質量%であることが好ましい。配合量が少なすぎると、ハードコート層の耐磨耗性や屈折率が不十分となり、配合量が多すぎると、ハードコート層にクラックが生じることがある。また、ハードコート層を染色する場合には、染色性が低下する場合もある。
【0021】
なお、ハードコート層は、金属酸化物微粒子と有機ケイ素化合物だけでなく、多官能性エポキシ化合物を含有することが非常に有用である。多官能性エポキシ化合物は、プライマー層に対するハードコート層の密着性を向上させるとともに、ハードコート層の耐水性およびプラスチックレンズとしての耐衝撃性を向上させることができる。多官能性エポキシ化合物としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス−2,2−ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等の脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物等が挙げられる。
【0022】
さらに、ハードコート層に硬化触媒を添加してもよい。硬化触媒としては、例えば、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類、Cu(II)、Zn(II)、Co(II)、Ni(II)、Be(II)、Ce(III)、Ta(III)、Ti(III)、Mn(III)、La(III)、Cr(III)、V(III)、Co(III)、Fe(III)、Al(III)、Ce(IV)、Zr(IV)、V(IV)等を中心金属原子とするアセチルアセトナート、アミン、グリシン等のアミノ酸、ルイス酸、有機酸金属塩等が挙げられる。
【0023】
このようにして得られるハードコート層形成用のコーティング組成物は、必要に応じ、溶剤に希釈して用いることができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。また、ハードコート層形成用のコーティング用組成物は、必要に応じて、少量の金属キレート化合物、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油溶染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤等を添加し、コーティング液の塗布性、硬化速度および硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【0024】
また、コーティング用組成物の塗布・硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、あるいは、フローコート法によりコーティング用組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥することにより、ハードコート被膜を形成する。なお、ハードコート層の層厚は、0.05〜30μmであることが好ましい。層厚が0.05μm未満では、基本性能が実現できない。また、層厚が30μmを越えると表面の平滑性が損なわれたり、光学歪みが発生してしまう場合がある。
【0025】
(3.反射防止層)
反射防止層は、ハードコート層上に形成される薄層である。本実施形態における反射防止層は、ハードコート層側より、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体からなる高屈折率層と、酸化ケイ素を含有する有機高分子化合物複合体からなる低屈折率層との2層から構成される。以下、これら高屈折率層と低屈折率層について説明する。
【0026】
(3.1 高屈折率層)
高屈折率層は、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体からなる薄層である。以下、この薄層を酸化チタン薄層ともいう。
本実施形態における酸化チタン薄層は、湿式法により形成される。具体的には、チタンアルコキシドを含水アルコール溶媒中で加水分解させ、縮合重合させてゾルを得るゾル化工程と、そのゾルに特定の有機化合物を混合して混合ゾルを得る混合工程と、混合ゾルを薄層状に形成する薄層化工程と、そして該ゾル薄層を加熱焼成する焼成工程により形成される。
【0027】
(3.1.1 ゾル化工程)
ゾル化工程では、チタンアルコキシド(アルコキシチタン)として、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン(チタンn−ブトキシド)、テトライソブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタンなどのテトラアルコキシチタン、あるいはその誘導体が好適に用いられる。また、アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどの低級脂肪族アルコール溶媒が使用可能である。
【0028】
ここで、ゾル化工程では、ヒドラジン塩酸塩誘導体、ヒドロキシルアミン誘導体およびアセトアミジン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物が反応促進剤として用いられる。これに水を加えて、室温あるいは加温しながら、攪拌混合することにより、テトラアルコキシチタンあるいはその誘導体の少なくとも一部が加水分解し、ついでその加水分解物間の縮合重合反応が生起し、縮合重合物が生成する。
【0029】
また、チタンアルコキシドの加水分解と縮合重合に際して、弱酸と弱塩基との塩、ヒドラジン誘導体の塩、ヒドロキシルアミン誘導体の塩、およびアセトアミジン誘導体の塩からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物(塩触媒、縮合重合反応促進剤)を存在させることが好ましい。弱酸と弱塩基との塩の例としては、カルボン酸アンモニウム( 例、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム)、炭酸アンモニウム、および炭酸水素アンモニウムを挙げることができる。また、ヒドラジン塩酸塩誘導体、ヒドロキシルアミン誘導体の塩およびアセトアミジン誘導体の塩については、特開2000−26849号公報に記載があり、本実施形態においても、該公報に記載の化合物を好適に用いることができる。
【0030】
(3.1.2 混合工程)
混合工程では、チタンアルコキシドの加水分解と縮合重合により得られたゾルに対して特定の有機化合物が混合される。具体的には、前記したゾル化工程で生成した酸化チタンゾルに対して、縮合重合の進展が充分でない状態で、特定の有機化合物を混合して、酸化ケイ素を含有する有機高分子化合物複合体ゾルを生成させる。
このような有機化合物としては、例えば、ポリアルキレングリコールやポリビニルピロリドンやポリビニルアルコールが挙げられる。またポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール(PEG)やポリプロピレングリコール(PPG)が挙げられるが、PEGが好ましい。
また、前記した有機化合物として、分子量は好ましくは100〜100000であり、より好ましくは200〜50000であり、さらに好ましくは300〜10000であり、最も好ましくは300〜5000である。
【0031】
(3.1.3 薄層化工程)
前記した混合工程で得られた組成物は、基材上に薄層状に形成される。ゾル薄層の形成は、例えば、ゾルを基材上に、スピンコートなどの方法で均一に塗布するか、あるいはゾル中に基材を浸漬した後、引き上げるディップコート法などの公知の方法を利用して行なうことができる。なお、用いる基材は、酸素ガス存在下のプラズマ処理などの表面処理を施しておくことが望ましい。
【0032】
(3.1.4 焼成工程)
前記の工程で得られたゾル薄層は次いで、加熱焼成されて、酸化チタン薄層とされる。加熱焼成は、通常、80〜150℃の範囲の温度で行なわれる。なお、先のゾル形成時に加える水の量を変えることにより、最終的な酸化チタン薄層(高屈折率層)の屈折率を調整できる。例えば、水の量を増やすと屈折率、粒子径が増加し架橋度が向上する。
ここで、高屈折率層の屈折率は、1.65〜2.1とすることが好ましい。屈折率が1.65以上であると、後述する低屈折率層との屈折率差を大きくすることができ反射防止効果を向上させることが可能となる。ただし、屈折率が2.1を超えると、反射防止効果がむしろ低下するおそれがある。
また、高屈折率層の厚みは、100〜300nmが好ましく、140〜220nmがより好ましい。高屈折率層の厚みが100nm未満であるか、または300nmを超えると反射防止効果に悪影響を与える。
【0033】
(3.2 低屈折率層)
低屈折率層は、前記した高屈折率層上に形成され、酸化ケイ素を含有する薄層である。この低屈折率層は、反射防止の観点より前記した高屈折率層との屈折率差が0.1以上あることが好ましい。
低屈折率層としては、耐熱性、耐薬品性、耐擦傷性、などの諸特性を考慮した場合に、シリコーン系樹脂を含む低屈折率層とすることが好ましく、この際に、表面硬度の向上や、屈折率の調整のため、微粒子状無機物などを添加することがより好ましい。この微粒子状無機物としては、コロイド状に分散したゾルなどが挙げられ、具体的には、シリカゾル、フッ化マグネシウムゾル、フッ化カルシウムゾルなどが挙げられる。
【0034】
特に、下記(A)および(B)成分を含有するコーティング用組成物を用いて、低屈折率層を形成することが好ましい。
(A)下記式(1)で示される有機ケイ素化合物。
SiX3−n (1)
(式中、Rは重合可能な反応基を有する有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Xは加水分解基であり、nは0または1である。)
(B)シリカ系微粒子
ここで、上記(A)成分におけるRは重合可能な反応基をもつ有機基であり、ここでの重合可能な反応基の具体例としては、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。また、Xは加水分解可能な官能基であり、その具体例は、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。上記(A)のシラン化合物の具体例としては、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトシキ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン等が挙げられる。
この成分(A)は2種以上を混合して用いてもかまわない。また、加水分解を行ってから用いた方が、より有効である。
【0035】
上記(B)成分の具体例としては、例えば、粒径10〜1000nmのシリカ系微粒子からなるシリカゾルが挙げられる。シリカゾルは、分散媒たとえば水、アルコール類、セロソルブ類などの有機溶媒にコロイド状に分散させたものが使用されることが多い。
【0036】
ここで、より低屈折率層の屈折率を下げ、反射防止効果をより高めるために、上記(B)成分として、シリカ系微粒子の内部に、空洞が形成されている中空球状のシリカ系微粒子を用いることがより好ましい。これは、中空球状のシリカ系微粒子の場合、内部に空洞が形成され、その空洞内に気体または溶媒が包含されることによって、屈折率の低減が達成されるためである。このような中空シリカ系微粒子は、特開2001−233611号公報に記載されている方法等で製造することができるが、平均粒径が1〜150nmの範囲にあり、かつ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用することが望ましい。
【0037】
前記した低屈折率層用のコーティング組成物は、上記(A)、(B)成分の他に、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の各種樹脂や、これらの樹脂原料となるメタアクリレート類、アクリレート類、エポキシ類、ビニル類等の各種モノマーを、添加することが可能である。中でも屈折率を低減する意味で、フッ素含有の各種ポリマー、またはフッ素含有の各種モノマーを添加することが好ましい。このときのフッ素含有ポリマーとしては、フッ素含有ビニルモノマーを重合して得られるポリマーが好ましく、さらに他の成分と共重合可能な官能基を有することが好ましい。
【0038】
このような、低屈折率層用のコーティング組成物は、必要に応じ、溶剤に希釈して用いることができる。溶剤としては、水、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。
【0039】
なお、本実施形態における低屈折率層用のコーティング組成物は、上記成分の他に、必要に応じて、少量の硬化触媒、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ヒンダートアミン・ヒンダートフェノール等の光安定剤、分散染料・油溶染料・蛍光染料・顔料、等を添加しコーティング液の塗布性の向上や、硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【0040】
本実施形態における低屈折率層の成層方法としては、特に制限はされず、具体的には、ディッピング法、スピンナー法、スプレー法、フロー法などの公知の方法が使用可能である。各種成層方法の中でプラスチックレンズの様なRの付いた形状に、薄層をムラなく成層することを考慮すると、ディッピング法、またはスピンナー法が好ましい。
【0041】
具体的には、以下の様な手順をとり作製することが可能である。まず、上記(A)成分であるシラン化合物を、有機溶剤で希釈し、必要に応じて水または薄い塩酸、酢酸等を添加して加水分解を行う。さらに、上記(B)成分である、シリカ系微粒子が5〜50重量
%の分率で有機溶剤中にコロイド状に分散した品を添加する。その後、必要に応じ、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを添加し、十分に撹拌した後にコーティング液として用いる。このとき、硬化後の固形分に対して、コーティング液の希釈する濃度は、好ましくは固形分濃度として1〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。固形分濃度が15質量%を越えた場合には、ディッピング法で引き上げ速度を遅くしたり、スピンナー法で回転数を早くしたりしても、所定の層厚を得ることが困難であり、層厚が必要以上に厚くなってしまう。
【0042】
前記した低屈折率層は、前記コーティング組成物をレンズ基材(高屈折率層)に塗布後、熱または紫外線によって硬化させることによって得られるが、加熱処理によって硬化させることが好ましい。この際に、加熱温度はコーティング組成物の組成、レンズ基材の耐熱性等を考慮して適宜決定されるが、50℃〜250℃が好ましく、より好ましくは80℃〜150℃である。低屈折率層の層厚は50〜150nmの範囲が好ましい。この範囲より厚すぎたり薄すぎると十分な反射防止効果が得られないおそれがある。
【0043】
上述した本実施形態によれば、眼鏡レンズ基材に対して、ハードコート層と、その上に反射防止層が形成されているので、耐擦傷性と反射防止効果を併せ持つ眼鏡レンズを提供できる。また、前記した反射防止層は、ハードコート層側より、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体からなる高屈折率層と、酸化ケイ素を含有する有機高分子化合物複合体からなる低屈折率層とを含んで構成されている。それ故、たとえ、ハードコート層自体の屈折率をあまり高くできなくても、その上の高屈折率層の屈折率を十分高くすることで、低屈折率層との屈折率差を大きく設定でき、結果として反射防止効果に非常に優れた眼鏡レンズを提供できる。
そして、高屈折率層形成時に高温で焼成され、プラスチック基材やハードコート層が熱で膨張しても高屈折率層にはクラックが生じにくい。従って、眼鏡レンズの外観上も非常に優れる。
このような効果の発現機構は、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。上述した高屈折率層は、酸化チタンと少なくとも部分的に化学結合して有機高分子複合体となった構造を有する。そのため、高屈折率層自体が非常に柔軟性に富み、緩衝作用を発揮しやすくなる。それ故、例えば、高屈折率層形成時に高温で焼成され、プラスチック基材やハードコート層が熱で膨張しても高屈折率層にはクラックが生じにくくなるものと推定される。
【0044】
なお、前記実施形態では、レンズ基材の上に直接ハードコート層を形成したが、プライマー層を設け、その上にハードコート層を形成することも好ましい。プライマー層は、レンズ基材の最表面に形成され、レンズ基材と後述するハードコート層双方の界面に存在して、基本的にレンズ基材とハードコート層双方への密着性や耐衝撃性を発揮する性質を有する。例えば、特開2007−86413号公報に記載された方法でプライマー層を形成すればよい。プライマー層をレンズ基材上に形成する場合は、その層厚は、0.01〜50μm、特に0.1〜30μmの範囲が好ましい。プライマー層が薄すぎると耐水性や耐衝撃性などの基本性能が劣るおそれがあり、逆に厚すぎると、表面の平滑性が損なわれたり、光学的歪みや白濁、曇りなどの外観欠点を発生する場合がある。
【0045】
さらに、反射防止層の上に、必要に応じて防汚層を形成してもよい。例えば、レンズ表面の撥水撥油性能を向上させる目的で、反射防止層の上にフッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる防汚層を形成してもよい。フッ素を含有する有機ケイ素化合物としては、例えば、特開2005−301208号公報や特開2006−126782号公報に記載されている含フッ素シラン化合物を好適に使用することができる。
含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液を用いて有機系反射防止層上に塗布する方法を採用することができる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法等を用いることができる。なお、撥水処理液を金属ペレットに充填した後、真空蒸着法などの乾式法を用いて防汚層を形成することも可能である。
防汚層の層厚は、特に限定されないが、0.001〜0.5μmが好ましい。より好ましくは0.001〜0.03μmである。防汚層の層厚が薄すぎると撥水撥油効果が乏しくなり、厚すぎると表面がべたつくので好ましくない。また、防汚層の厚さが0.03μmより厚くなると反射防止効果が低下するため好ましくない。
【実施例1】
【0046】
次に、本発明の実施形態に基づく実施例および比較例を説明する。具体的には、以下に示す方法で眼鏡用のプラスチックレンズを製造して、反射防止効果およびレンズ表面におけるクラック発生の有無を評価した。
【0047】
〔実施例1〜4、比較例1、参考例〕
(1)プラスチックレンズ基材(チオウレタン系レンズ基材)の作成
ポリイソシアネート化合物としてm−キシリレンジイソシアネート103gと4,8or4,7or5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン(混合物)100g、内部離型剤0.15g、紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール3.0gを混合し、1時間ほど十分に攪拌した。この後、重合触媒としてジブチルスズジクロライド0.06gを添加し、撹拌して溶解させた後、5mmHgの真空下で60分脱気を行った。
その後、中心厚1.2mmのレンズ成形用のガラス型とテープよりなるモールド中に注入した。これを大気重合炉中で40℃から120℃まで10時間かけて昇温し、重合硬化させた。その後、モールドより離型し、120℃で2時間加熱してアニール処理を行い、
チオウレタン系プラスチックレンズ基材を得た。
このレンズ基材は、屈折率1.66、アッベ数32であり、TgをTMAペネトレーション法(荷重50gf(490mN)、先端0.5mmφ、昇温10℃/min)で測定したところ、101℃であった。
また、上述のレンズ基材に対して、セイコースーパーソブリン(セイコーエプソン(株)製)用ハードコート加工(セイコーエプソン(株)製、1層タイプ、屈折率約1.66、層厚約2μm)を行い、ハードコート層付きレンズ基材を得た。
【0048】
(2)反射防止層の形成
(2.1)高屈折率層の形成
<酸化チタン−PEGゾルの調製>
チタンn−ブトキシドの濃度が0.69mol/L(後述する2液混合後の濃度、他の実施例・比較例も同様)になるように溶媒(n−ブタノール)6.27gに混合して撹拌した。並行して、触媒のヒドラジン−塩酸塩0.88mmolと加水分解用の蒸留水を溶媒(n−ブタノール)24.36gに混合して、蒸留水の濃度が1.46mol/L(後述する2液混合後の濃度、他の実施例・比較例も同様)になるようにした。次に、前記した2種の混合溶液を混ぜ合わせて、常温(25℃)で2時間撹拌し、さらに1時間氷冷して混合物ゾルを得た。
この混合物ゾルに対して、数平均分子量200のポリエチレングリコール(PEG)を混合し、30分間攪拌して酸化チタン−PEGゾル(コーティング組成物)とした。
ここで、実施例1〜4では、PEGの添加量を各々3.5、4.0、4.5、5.0vol%とし、比較例1では、PEGを添加しなかった。また、参考例では、高屈折率層自体を形成しなかった。

【0049】
<酸化チタン−PEGゾルの塗布>
次に、スピンコーターを用いて、前記したこの酸化チタン−PEGゾルを、(1)で得られたチオウレタン系レンズ基材(ハードコート層)の上に塗布した。次いで、塗布後のレンズ基材を125℃で2時間焼成して、PEGが分散した酸化チタン薄層(高屈折率層:有機高分子化合物複合体)を得た。
用いた各試薬の量や濃度等について表1に示す。併せて、高屈折率層の層厚および屈折率も表1に示す。
【0050】
(2.2)低屈折率層の形成
<コーティング組成物の調製>
プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGME)18.8g、γ−グリシドキシトリメトキシシラン8.1gを混合した後、0.1規定塩酸水溶液2.2gを撹拌しながら滴下し、5時間撹拌した。この液にイソプロパノール分散中空シリカゾル(固形分濃度20wt%)20.7gを加えて十分に混合した後、硬化触媒としてAl(Cを0.04g、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製 L7604)を0.015g添加して撹拌、溶解することにより、固形分濃度が20質量%のコーティング原液を得た。このコーティング液を希釈するために、300質量ppm濃度のシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製 L7604)入りPGME溶液を準備し、コーティング原液を35.3g、希釈用界面活性剤入りPGME溶液114.7gを混合して十分に撹拌し、固形分濃度が約4.7質量%の低屈折率層用のコーティング組成物を調製した。
【0051】
<コーティング組成物の塗布>
次に、スピンコーターを用いて、上述のコーティング組成物を、(2.1)で得られたレンズ基材(高屈折率層)の上に塗布した。次いで、塗布後のレンズ基材を125℃で90分間焼成して、低屈折率層付きのプラスチックレンズを得た。低屈折率層の層厚は90nmであり、低屈折率層の屈折率は、1.44であった。
【0052】
(実施例5〜7、比較例2)
高屈折率層の形成時に、酸化チタン−PEGゾルの調製を以下のようにして行った以外は、実施例1と同様である。
チタンn−ブトキシドの濃度が0.60mol/Lになるように溶媒(n−ブタノール)2.089gに混合して撹拌した。並行して、触媒のヒドラジン−塩酸塩1.05mmolと加水分解用の蒸留水を溶媒(n−ブタノール)4.06gに混合して、蒸留水の濃度が1.27mol/Lになるようにした。次に、前記した2種の混合溶液を混ぜ合わせて、常温(25℃)で2時間撹拌し、さらに1時間氷冷して混合物ゾルを得た。
この混合物ゾルに対して、数平均分子量200のポリエチレングリコール(PEG)を添加し、30分間攪拌して酸化チタン−PEGゾル(コーティング組成物)とした。
ここで、実施例5〜7では、PEGの添加量を各々2.5、3.0、5.0vol%とし、比較例2では、PEGを添加しなかった。
用いた各試薬の量や濃度等について表2に示す。併せて、高屈折率層の層厚および屈折率も表2に示す。
【0053】
(実施例8〜10、比較例3)
高屈折率層の形成時に、酸化チタン−PEGゾルの調製を以下のようにして行った以外は、実施例1と同様である。
チタンn−ブトキシドの濃度が0.54mol/Lになるように溶媒(n−ブタノール)16.08gに混合して撹拌した。平行して、触媒のヒドラジン−塩酸塩0.80mmolと加水分解用の蒸留水を溶媒(n−ブタノール)22.33gに混合して、蒸留水の濃度が1.15mol/Lになるようにした。次に、前記した2種の混合溶液を混ぜ合わせて、常温(25℃)で2時間撹拌し、さらに1時間氷冷して混合物ゾルを得た。
この混合物ゾルに対して、数平均分子量200のポリエチレングリコール(PEG)を添加し、30分間攪拌して酸化チタン−PEGゾル(コーティング組成物)とした。
ここで、実施例8〜10では、PEGの添加量を各々2.0、2.5、3.0vol%とし、比較例2では、PEGを添加しなかった。
用いた各試薬の量や濃度等について表3に示す。併せて、高屈折率層の層厚および屈折率も表3に示す。
【0054】
(実施例11〜17、比較例4)
高屈折率層の形成時に、酸化チタン−PEGゾルの調製を以下のようにして行った以外は、実施例1と同様である。
チタンn−ブトキシドの濃度が0.50mol/Lになるように溶媒(n−ブタノール)7.52gに混合して撹拌した。平行して、触媒のヒドラジン−塩酸塩0.29mmolと加水分解用の蒸留水を溶媒(n−ブタノール)8.12gに混合して、蒸留水の濃度が1.05mol/Lになるようにした。次に、前記した2種の混合溶液を混ぜ合わせて、常温(25℃)で2時間撹拌し、さらに1時間氷冷して混合物ゾルを得た。
この混合物ゾルに対して、数平均分子量200のポリエチレングリコール(PEG)を添加し、30分間攪拌して酸化チタン−PEGゾル(コーティング組成物)とした。
ここで、実施例11〜17では、PEGの添加量を各々1.5、2.0、2.5、3.0、5.0、15.0、30.0vol%とし、比較例4では、PEGを添加しなかった。
用いた各試薬の量や濃度等について表4に示す。併せて、高屈折率層の層厚および屈折率も表4に示す。
【0055】
〔評価方法〕
得られた各プラスチックレンズについて、下記の各方法により評価を行った。評価項目は、視感反射率およびクラック発生の有無である。結果を表1〜4に示す。
(a)視感反射率:
可視領域全域における入射光束強度に対する反射光束強度の比率であり、視感度の重み付けがなされたものである。反射率の測定には、反射率分光膜厚計「大塚電子株式会社製FE-3000」を用いた。
(b)クラック:
蛍光灯からの光をプラスチックレンズを通して目視で観察し、レンズ表面におけるクラック発生の有無を判断した。参考までに、実施例1および比較例1における各レンズの光学顕微鏡写真をそれぞれ図1および図2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
1)チタンn−ブトキシドを溶媒(n−ブタノール)に混合する際に用いた、n−ブタノールの量。
2)蒸留水と触媒を混合する際に用いるn−ブタノールの量。
【0061】
〔評価結果〕
表1〜4より、実施例1〜17では、高屈折率層が酸化チタンとPEGとからなる高分子複合体により形成されているので、レンズにはクラックの発生が認められない。しかも視感反射率は、参考例のレンズ(高屈折率層なし)よりも優れる。一方、比較例1〜4は、ハードコート層の上に高屈折率層が形成されているものの、高屈折率層形成時にPEGが配合されておらず、いずれもクラックの発生が認められ、実用上問題がある。
ここで、クラックの発生機構については必ずしも明確ではないが、高屈折率層形成時に行う焼成工程でレンズ基材やハードコート層が熱膨張を生じ、一方、酸化チタン薄層が熱収縮を起こすために発生するものと推定される。それに対して、各実施例では、酸化チタン薄層中にPEGが存在して、しかも酸化チタンと化学的に結合しているので、焼成工程における熱収縮の際に、酸化チタン−PEG複合体が緩衝作用を発揮してクラックの発生を抑制しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の光学物品は、プラスチックレンズとして好適に使用することができる。例えば、眼鏡レンズ、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズ等の光学レンズを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施例1におけるレンズの光学顕微鏡写真。
【図2】本発明の比較例1におけるレンズの光学顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材の上にハードコート層が形成され、前記ハードコート層の上に反射防止層が形成された光学物品であって、
前記反射防止層は、ハードコート層側より、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体からなる高屈折率層と、酸化ケイ素を含有する低屈折率層とを含んで構成される
ことを特徴とする光学物品。
【請求項2】
請求項1に記載の光学物品において、
前記高屈折率層における有機高分子化合物複合体が、チタン化合物と、該チタン化合物と反応しうる有機化合物とから形成される
ことを特徴とする光学物品。
【請求項3】
請求項2に記載の光学物品において、
前記チタン化合物がチタンアルコキシドである
ことを特徴とする光学物品。
【請求項4】
請求項3に記載の光学物品において、
前記チタンアルコキシドが、チタンテトラアルコキシドである
ことを特徴とする光学物品。
【請求項5】
請求項2〜請求項4のいずれかに記載の光学物品において、
前記有機化合物がポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールのうち少なくともいずれかである
ことを特徴とする光学物品。
【請求項6】
請求項5に記載の光学物品において、
前記ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである
ことを特徴とする光学物品。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の光学物品において、
前記低屈折率層が、下記の(A)および(B)成分から形成される
ことを特徴とする光学物品。
(A)下記式(1)で示される有機ケイ素化合物
SiX3−n (1)
(式中、Rは重合可能な反応基を有する有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Xは加水分解基であり、nは0または1である。)
(B)シリカ系微粒子
【請求項8】
請求項7に記載の光学物品において、
前記(B)成分が、内部空洞を有するシリカ系微粒子である
ことを特徴とする光学物品。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載の光学物品がプラスチックレンズであることを特徴とする光学物品。
【請求項10】
プラスチック基材の上にハードコート層を形成するハードコート層形成工程と、前記ハードコート層の上に反射防止層を形成する反射防止層形成工程とを含む光学物品の製造方法であって、
前記反射防止層形成工程は、
チタン化合物と、該チタン化合物と反応しうる有機化合物とから、酸化チタンを含有する有機高分子化合物複合体からなる高屈折率層を湿式法により形成する高屈折率層形成工程と、
前記高屈折率層の上に、酸化ケイ素を含有する有機高分子化合物複合体からなる低屈折率層を形成する低屈折率層形成工程と、を含む
ことを特徴とする光学物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−237306(P2009−237306A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83819(P2008−83819)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】