説明

光学物品

【課題】 ブルーハザードを軽減し、かつ青色信号を視認できるサングラスや防眩メガネに適するレンズや、380〜500nmの可視光線の少なくとも一部をカットできる光学フィルター、光学物品を提供する。
【解決手段】 青色光の吸収成分としてフラーレンを含有することを特徴にする光学物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブルーハザードが軽減されたサングラス、防眩レンズ、シールドおよび光学フィルターなどの光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
サングラスや防眩メガネは、太陽光のような強い可視光線を減光したり、太陽光の紫外線をカットしたりするために使われる。
その機能は、通常、レンズ基材を染料や顔料によって着色し、可視光線を選択的に吸収したり、紫外線吸収剤を配合し、紫外線をカットしたりすることによって発現される。
【0003】
また、偏光子と組み合わせることによって、反射光の減光機能を付与することが行われる(例えば、特許文献特開平8−52817号公報)。
【特許文献1】特開平8−52817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
紫外線が目に与える悪影響はつとに知られている。ただ幸いなことには、紫外線対策には紫外線吸収剤があり、太陽光程度であれば、サングラスや防眩メガネのレンズ基材に紫外線吸収剤を添加する方法で、問題ないレベルまで紫外線を遮断できた。
【0005】
近年、サングラスや防眩メガネの側面からの散乱紫外線の有害性が強調されるようになったが、その対策として、目の側面を覆うゴーグルタイプのものが実用化されている。
【0006】
可視光線の場合は、紫外線吸収剤の代わりに色素をレンズ基材に添加する方法がとられてきた。その場合、トータル可視光の何割をカットできるか、つまり、トータルな可視光線透過率を目安にしてきた歴史がある。
【0007】
しかし最近の研究によれば、紫外線ほどではないにしても、可視光線のうちの380〜500nmが目に有害であることが徐々に知られてきた。これをブルーハザードといい、サングラスや防眩メガネでは、この部分の波長をカットすることが好ましいといわれている。
【0008】
ところが、380〜500nmの波長を全面的にカットしてしまうと、人間の色覚に影響を及ぼし、信号機の青色を視認することが困難となり、街を歩くにしても、車を運転するにしても、不都合が生じる。
【0009】
かくして、本発明の目的は、ブルーハザードを軽減し、かつ交通信号を視認できるサングラスや防眩メガネに適するレンズを提供することにある。
また、本発明のもう1つの目的は、380〜500nmの可視光線の少なくとも一部をカットできる光学フィルターなどの光学物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは青色光吸収成分としてのフラーレンに着色することにより、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)青色光の吸収成分としてフラーレン類を含有することを特徴とする光学物品、
(2)フラーレン類が、炭素数70のフラーレンまたはその誘導体であることを特徴とする(1)記載の光学物品、
(3)光学材料が、偏光レンズであることを特徴とする(1)または(2)記載の光学物品、および
(4)光学材料が、ポリカーボネートまたは透明ナイロンを主成分とすることを特徴とする(1)〜(3)いずれか1記載の光学物品
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ブルーハザードを軽減し、かつ交通信号を視認できるサングラスや防眩メガネに適するレンズを提供できる。
また、本発明により、380〜500nmの可視光線の少なくとも一部をカットできる光学フィルターなどの光学物品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明の光学物品において青色光の吸収成分として含有されるフラーレン類とは、炭素原子が球状のネットワーク構造を成しているものの総称である。例えば、炭素数60のフラーレンを“C60”と表記することにすれば、C60のほか、C70,C76,C78,C82,C84などが知られている。
【0014】
またフラーレン類には化学修飾も含まれ、水素添加したり、水酸基を付与したりして、樹脂などへの分散性を改善したり、光学性質、化学的性質を変化したりできるが、化学修飾によって分光透過率が大幅に変化しないかぎり、いずれも本発明に使用できる。
【0015】
本発明では、全てのフラーレン類が含まれ得るが、分光透過率特性が特に好適なことから、C70またはその誘導体であることが好ましい。
さらに、本発明の目的を達成するうえで、フラーレン類としては、炭素数の異なるフラーレン類の混合物であってもよく、この場合には、C70またはその誘導体を全フラーレン類中10重量%〜100重量%含有することが好ましい。
【0016】
また、フラーレン類と共に、染料類や顔料類などフラーレン以外の色素を補充的に使用することもできる。
本発明の好ましい態様においては、フラーレン類が樹脂類に含まれ、フラーレン類を含む樹脂類がサングラスや防眩メガネのレンズや光学フィルターなどの光学物品に加工される。
【0017】
樹脂類は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれであってもよいが、透明樹脂であることが好ましい。
本発明を限定するものではないが、本発明に好適に用いられる熱可塑性樹脂の例としては、ポリカーボネート樹脂、透明ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、ノルボルネン樹脂およびセルロース系樹脂などが挙げられる。
【0018】
このうち、サングラスや防眩メガネのレンズや光学フィルターなどの用途では、高い耐衝撃強度と高い透明性の観点から、ポリカーボネート樹脂および透明ナイロン樹脂が特に好ましい。
【0019】
熱可塑性樹脂の場合、フラーレン類を熱可塑性樹脂の粉末と混合したもの、あるいは既成のペレットと混合したものを射出成形して、サングラスや防眩メガネのレンズや光学フィルターなどの光学物品を製造することができる。
また、一旦フラーレンを練りこんだペレットをつくり、それを射出成形する方法もとり得る。
【0020】
本発明を限定するものでないが、本発明に好適に用いられる熱硬化性樹脂の例としては、ジエチレングリコールジアリルカーボネートモノマー、ジアリルフタレートモノマー、イソシアネート系化合物とポリオールやポリチオールなどの混合物、およびアクリルモノマーなどの矯正レンズの製造に使われるモノマー類の硬化物が挙げられる。
【0021】
熱硬化性樹脂の場合、フラーレン類を熱硬化性樹脂のモノマーに混合、分散し、いわゆるキャスト成形法により硬化して、サングラスや防眩メガネのレンズや光学フィルターなどの光学物品を製造することができる。
本発明を偏光レンズに適用する場合は、上記した光学物品の製造過程において偏光子が1枚加えられる。
【0022】
すなわち、本発明を熱可塑性樹脂で実施する場合は、通常、一軸延伸したポリビニルアルコールフィルムを、偏光子の基体とし、そこへヨウ素あるいは2色性色素を染着して偏光子とし、偏光子の両面にポリカーボネート、透明ナイロン、またはアセチルセルロースなどで作成された保護シートを接着剤を介在して貼付し、偏光子を中心とするサンドウィッチ構造の偏光板を作成する。
【0023】
次いで、偏光板をレンズ状に曲げ、レンズ状に曲げた偏光板を射出成形の金型に挿入し、ポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂を、いわゆるインサート射出成形法によって偏光板の背面へ肉厚状に付与する。
【0024】
この場合は、フラーレン類を含有させる方法としては、射出成形する熱可塑性樹脂に練りこむ方法のほか、偏光板の保護シートに練りこんだり、あるいは偏光子と保護シートを貼付する接着剤に練りこんだりする方法がある。
【0025】
また、本発明を熱硬化性樹脂で実施する場合は、偏光子のレンズ状に曲げたもの、あるいは、偏光子に1枚の保護シートを貼付した偏光板、あるいは2枚の保護シートでサンドウィッチ構造にした偏光板をレンズ状に曲げたものをキャスト成形用のモールドに挿入し、キャスト成形の常法に従い、熱硬化性樹脂のモノマーを充填し、硬化、成形する。
【0026】
この場合は、フラーレン類を含有させる方法としては、熱硬化性樹脂のモノマーに混合、分散したり、偏光板の保護シートに練りこんだり、偏光子と保護シートを貼付する接着剤に練りこんだりする方法がある。
別法として、レンズ状に予め曲げた偏光板と、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂のレンズ状成形物とを接着剤によって接着する方法がある。
【0027】
この場合は、フラーレン類を含有させる方法としては、偏光板の保護シートや偏光子と保護シートを貼付する接着剤、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂モノマー、偏光板とレンズ状成形物とを貼付する接着剤にフラーレン類を練りこむ方法がある。
【0028】
フラーレン類の添加率は、フラーレンの種類、サングラスや防眩メガネレンズなど光学物品の使用目的、およびレンズや接着剤などフラーレン類を添加する場所によって異なるが、完成した光学物品の視感透過率τV(後記参照)が、一般には、12重量%〜85重量%の範囲内で決められるべきである。視感透過率が12重量%未満であると、例えばドライビング用途で問題が生じるおそれがあり、85重量%を超えると透明に近くなり減光効果がなくなるおそれがある。例えば、混合フラーレンの場合、例えばレンズ厚み2.15mmでポリカーボネート樹脂へ混合するのであれば、フラーレン類の添加率は0.001重量%〜0.1重量%である。
【0029】
特に、本発明をサングラスや防眩メガネのレンズに適用する場合、ブルーハザード対策はフラーレンを多重に添加することによって達成される。しかし、無制限の添加は、交通信号の視認を困難とする問題が生じる。
【0030】
そこで、フラーレン類の添加率は、前記視感透過率の範囲を考慮した上で、ブルーハザードの防止効果が十分であり、かつ交通信号を十分視認できる範囲内で決められるべきである。具体的には、例えば、規格を満たすようにフラーレン類の添加率は決められるべきである。
【0031】
サングラスと防眩フィルターについてのヨーロッパ規格(EN 1836)によれば、ブルーハザードと交通信号の視認性は次のように定義される。
【0032】
ブルーハザード:
D65光源の波長380〜780nmについて、10nm刻みに測定した分光透過率から計算した視感透過率をτVとする。
D65光源の波長380〜500nmについて、10nm刻みに測定した分光透過率から計算した青色光線透過率をτBとする。
ブルーハザードをクリアーするための要件は、τB<1.2τVであることが望ましい。
【0033】
信号の視認性:
D65光源の波長380〜780nmについて、10nm刻みに測定した各分光透過率と、波長380〜780nmについて、10nm刻みに別途定められたブルー、グリーン、イエロー、およびレッドの各係数とを、各波長毎に掛け合わせ、その総和を各色の信号灯認識透過率(τsign)とする。
【0034】
各色のQファクターは次のように定義される。
Qファクター=信号灯認識透過率/τV
【0035】
信号の視認性をクリアーするための要件は以下の通りである。
Qファクター(ブルー) ≧0.4
Qファクター(グリーン)≧0.6
Qファクター(イエロー)≧0.8
Qファクター(レッド) ≧0.8
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
【0037】
実施例1
ポリカーボネート樹脂(出光興産(株)製:タフロンFN−2200A)100重量部に対しフロンティア・カーボン(株)製:フラーレンC70(C70 98%以上)を0.005重量部混合し、押出機(池貝(株)製)にて押し出して、C70、0.005重量部混入ポリカーボネート樹脂ペレットを得た。
【0038】
上記樹脂を射出成形し、外形80φ、凸面カーブ65mmR、中心厚み2.15mmのサングラス用レンズを成形し、(i)C70 0.005重量部混入光学物品を得た。
(i)の光学物品を日立製分光光度測定機U−4100にて測定し、透過率τV、ブルーライトτB、信号の視認性を算出した。結果を表1に示す。
また、(i)C70 0.005重量部混入光学物品の分光透過率曲線を図1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
EN 1836に従い、τV=72.3%、τB=56.6%と算出され、青色光線透過率τBは1.2τV以下となり、ブルーハザードに問題はないことが判明した。
【0041】
実施例2−4
ポリカーボネート樹脂(出光興産(株)製:タフロンFN−2200A)100重量部に対しJF79(城北化学製:紫外線吸収剤)0.1重量部、フロンティア・カーボン(株)製:ナノムミックスMF−F(C60 約60%、C70 約25% その他炭素数76以上の高次フラーレンの混合物)を(ii)MF−F 0.005重量部(実施例2)と(iii)MF−F 0.05重量部(実施例3)それぞれに混合し、押出機(池貝(株)製)にて押し出して、(ii)と(iii)の2種類のフラーレン混入ポリカーボネート樹脂ペレットを得た。
【0042】
上記樹脂を射出成形し、外形80φ、凸面カーブ65mmR、および中心厚み2.15mmのサングラス用レンズを成形し、(ii)MF−F 0.005重量部混入光学物品(実施例2)と(iii)MF−F 0.05重量部混入光学物品(実施例3)とを得た。
【0043】
また、ポリカーボネート製偏光シート(筒中プラスチック工業製PGC-1301 厚み0.8mm)を65mmRの球面状に曲げ加工し、金型にインサートして、(ii)MF−F 0.005重量部混合物ポリカーボネート樹脂で成形して外形82φ、凸面カーブ65mmR、および中心厚み2.15mmの(iv)MF−F 0.005重量部混合+偏光シート光学物品(実施例4)を得た。
【0044】
(i)〜(iv)の光学物品を日立製分光光度測定機U−4100にて測定し、EN(欧州)・ANSI(米国)・AS(豪州)のサングラス規格に基づき、それぞれの分光透過率、青色光線透過率、および信号の視認性を算出した。EN規格についての結果を表2に、ANSI規格についての結果を表3に、およびAS規格についての結果を表4に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
実施例2の(ii)MF−F 0.005重量部混合光学物品、実施例3の(iii)MF−F 0.05 重量部混合光学物品の分光透過率曲線の図、および実施例4の(iv)MF−F 0.005重量部混合+偏光シート光学物品の、各々の分光透過率曲線のグラフを図2に示す。
【0049】
実施例2、(ii)MF−F 0.005重量部混合の光学物品と実施例3、(iii)MF−F 0.05 重量部混合の光学物品 及び実施例4、(iv)MF−F 0.005重量部混合+偏光シートの光学物品は各国の規格を満足し、分光曲線から380〜500nmまでのブルーライト光を適度に減光するものであった。
【0050】
実施例1〜4の光学物品をレンズ形状にカットし、サングラス完成品にして実使用した。レンズは黒点・色ムラ等の欠点もなく、分散状態は良好であった。野外でのフィールドテストでもブルーライト光を適度に減光し、散乱光を押さえるため、遠方の建物や雲の輪郭がはっきり見え、快適であった。また青信号も十分に視認でき、黄・赤信号も問題なく識別できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1で得られたC70(0.0005重量部)混入光学物品の分光透過率曲線を表すグラフである。
【図2】実施例2で得られたMF−F(0.0005重量部)混入光学物品、実施例3で得られたMF−F(0.05重量部)混入光学物品、および実施例4で得られたMF−F(0.005重量部)混合+偏光シート光学物品の、各分光透過率曲線を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色光の吸収成分としてフラーレン類を含有することを特徴とする光学物品。
【請求項2】
フラーレン類が、炭素数70のフラーレンまたはその誘導体であることを特徴とする請求項1記載の光学物品。
【請求項3】
光学材料が、偏光レンズであることを特徴とする請求項1または2記載の光学物品。
【請求項4】
光学材料が、ポリカーボネートまたは透明ナイロンを主成分とすることを特徴とする請求項1〜3いずれか1記載の光学物品。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−93927(P2007−93927A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282294(P2005−282294)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000179926)山本光学株式会社 (49)
【Fターム(参考)】