説明

光学用フィルムの製造方法

【課題】光学用途の逐次二軸延伸フィルムの製造工程に関して、ロール縦延伸時に生じるフィルム幅方向の剥離ムラの発生がない光学用フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係わるフィルムの製造方法は、距離を隔てて配置された2つの延伸ロール1・2により、熱可塑性樹脂からなるフィルム5に対してロール縦延伸を行う際に用いられるものである。ここで、ニップロール3・4は、挟持部6が接触領域8延伸ロール2側の端部となるとともに、挟持部7が接触領域9の延伸ロール1側の端部になるように配置されている。このようにして、フィルム5を延伸する際のフィルムと延伸ロール1の接触時間tが0.5秒<t<2.5秒、かつ、延伸ロール1の表面温度TがフィルムTg−6℃<T<フィルムTgでロール縦延伸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学用フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコン、ワードプロセッサ、携帯電話、携帯情報端末等の小型化・薄型化・軽量化にともない、これらの電子機器に軽量・コンパクトという特長を生かした液晶表示装置が多く用いられるようになってきている。液晶表示装置には、その表示品位を保つために偏光フィルム等の各種フィルムが用いられている。また、携帯情報端末や携帯電話向けに液晶表示装置を更に軽量化するため、ガラス基板の代わりに樹脂フィルムを用いた液晶表示装置も実用化されている。
【0003】
液晶表示装置のように偏光を取り扱う装置に用いるプラスチックフィルムには、適切な機械的特性と、高度に制御されたフィルム面内およびフィルム厚み方向の複屈折とが要求される。上記のプラスチックフィルムの機械的特性を改善し、かつ、フィルム面内およびフィルム厚み方向の複屈折を高度に制御しつつ付与するためには、二軸延伸を必要とする。この場合の二軸延伸としては、縦横の逐次延伸からなる逐次二軸延伸が一般的である。ここで、逐次二軸延伸における一軸目の縦延伸の方法として、ロール縦延伸法やゾーン縦延伸法が用いられる。
【0004】
ロール縦延伸法とは、たとえば特許文献1に、ポリアミドフィルムをロール縦延伸法によって延伸する技術が記載されている。しかし、この方法では、ロールにより加熱されたフィルムが、延伸ロールから剥離する際にフィルムの粘着性により幅方向に剥離ムラが発生する。
【0005】
ゾーン縦延伸法とは、たとえば特許文献2に記載されているように、間に加熱ゾーンを設けた2組のニップロールによってフィルムを搬送する方法である。この方法では、2組のニップロール間の間に設けられた加熱ゾーンにおける熱によりフィルムが延伸される。この方法によれば、2つのニップロール間の間に設けられた加熱ゾーンで延伸を行うため、搬送中のロールでの加熱の必要がなく、フィルム表面性が良好なフィルムが得られる。しかし、ゾーン縦延伸法では、ゾーン内のフィルムの支持を精密に制御することが難しく、光学的な均質性を得るためには高価な設備コストを必要とする。
【0006】
ロール縦延伸における剥離ムラを解決する方法として、たとえば特許文献3に記載されているように、延伸ロール間に赤外線ヒーターを設置したフィルムの縦延伸の方法が報告されている。この方法では、延伸ロール間に赤外線ヒーターを設置し、フィルムを温め延伸を行うため、ロールでフィルムを加熱する必要がないため、フィルムが延伸ロールから剥離する際の幅方向に剥離ムラが発生しない。しかし、この方法では、赤外ヒーターを設置することにより設備が複雑化して高価になると共に、赤外線ヒーターの温度バラツキによるフィルム幅方向の延伸ムラが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−286054号公報
【特許文献2】特開2000−147257号公報
【特許文献3】特開2007−268971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は従来技術が有する上記課題を解決すべく、ロール縦延伸時に生じるフィルム幅方向の剥離ムラの発生がない光学用フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、以下に関する。
【0010】
(i)非晶性の熱可塑性樹脂からなるフィルムに対して、第1延伸ロール及びこれに近接する第1ニップロールと、第2延伸ロール及びこれに近接する第2ニップロールとを用いてロール縦延伸処理を行う延伸工程を含む光学用フィルムの製造方法において、フィルムと第1延伸ロールの接触時間tが0.5秒<t<2.5秒、かつ、第1延伸ロールの表面温度Tが(Tg−6)℃≦T≦Tg℃(Tgはガラス転移温度)でロール縦延伸することを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【0011】
(ii)フィルムと第1延伸ロールとの接触領域と、フィルムと第2延伸ロールとの接触領域との間隔Lが、第1延伸ロールの半径R1、第2延伸ロールの半径R2とすると(R1+R2)<L<(R1+R2)×10であることを特徴とする、(i)に記載の光学用フィルムの製造方法。
【0012】
(iii)2つの延伸ロールによるロール縦延伸処理の延伸倍率が約1.1倍以上、約3倍以下であることを特徴とする、(i)または(ii)に記載の光学用フィルムの製造方法。
【0013】
(iv) 非晶性の熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂であることを特徴とする(iii)に記載の光学用フィルムの製造方法。
(v)前記アクリル系樹脂が、下記の一般式(1)で表される単位と、下記の一般式(2)で表される単位を有するイミド樹脂である事を特徴とする、(iv)の光学用フィルムの製造方法。
【0014】
【化1】

【0015】
(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0016】
【化2】

【0017】
(但し、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光学用フィルムの製造方法では、フィルムが第1延伸ロールから剥離する際に発生する剥離紋の発生を抑制し、外観美麗なフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ロール縦延伸方法の一例を示す概略図である。
【図2】ロール縦延伸方法の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態の一例を示すものであり、ロール縦延伸方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る光学用フィルムの製造方法は、非晶性の熱可塑性樹脂からなるフィルムに対して、第1延伸ロール及びこれに近接する第1ニップロールと、第2延伸ロール及びこれに近接する第2ニップロールとを用いてロール縦延伸処理を行う延伸工程を含む光学用フィルムの製造方法において、フィルムと第1延伸ロールの接触時間tが0.5秒<t<2.5秒、かつ、第1延伸ロールの表面温度TがフィルムTg−6℃<T<フィルムTgでロール縦延伸処理を行うことを特徴とする。
【0021】
以下本発明について説明する。
【0022】
まず未延伸の溶融押出アクリル系樹脂フィルムについて説明する。アクリル系樹脂としては、特に制限されないが、グルタル酸無水物樹脂、ラクトン環構造を有する樹脂、グルタルイミド樹脂などを挙げることができる。グルタル酸無水物樹脂としては、特に制限されないが、特開2007−254703記載の方法などに従って製造することができる。ラクトン環構造を有する樹脂としては、特開2008−9378記載の方法などに従って製造することができる。
グルタルイミド樹脂については、以下に詳述する。グルタルイミド樹脂としては具体的には、例えば、下記一般式(1)
【0023】
【化3】

【0024】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「グルタルイミド単位」ともいう)と、
下記一般式(2)
【0025】
【化4】

【0026】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう)とを含むグルタルイミド樹脂を好適に用いることができる。
【0027】
また、上記グルタルイミド樹脂は、必要に応じて、下記一般式(3)
【0028】
【化5】

【0029】
(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)をさらに含んでいてもよい。
【0030】
上記一般式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素またはメチル基であり、R3は水素、メチル基、ブチル基、またはシクロヘキシル基であることが好ましく、R1はメチル基であり、R2は水素であり、R3はメチル基であることがより好ましい。
【0031】
上記グルタルイミド樹脂は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR1、R2、およびR3が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0032】
グルタルイミド単位は、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより、形成することができる。
【0033】
また、無水マレイン酸等の酸無水物、または、このような酸無水物と炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸等をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成させることができる。
【0034】
上記一般式(2)において、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素またはメチル基であり、R6は水素またはメチル基であることが好ましく、R4は水素であり、R5はメチル基であり、R6はメチル基であることがより好ましい。
【0035】
上記グルタルイミド樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR4、R5、およびR6が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0036】
上記グルタルイミド樹脂は、上記一般式(3)で表される芳香族ビニル構成単位として、スチレン、α−メチルスチレン等を含むことが好ましく、スチレンを含むことがより好ましい。
【0037】
また、上記グルタルイミド樹脂は、芳香族ビニル構成単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R7、およびR8が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0038】
上記グルタルイミド樹脂において、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、R3の構造等に依存して変化させることが好ましい。
【0039】
一般的には、上記グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミド樹脂の1重量%以上とすることが好ましく、1重量%〜95重量%とすることがより好ましく、2重量%〜90重量%とすることがさらに好ましく、3重量%〜80重量%とすることが特に好ましい。
【0040】
グルタルイミド単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性および透明性が低下したり、成形加工性、およびフィルムに加工したときの機械的強度が低下したりすることがない。
【0041】
一方、グルタルイミド単位の含有量が上記範囲より少ないと、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれたりする傾向がある。また、上記範囲よりも多いと、不必要に耐熱性および溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなったり、フィルム加工時の機械的強度が極端に脆くなったり、透明性が損なわれたりする傾向がある。
【0042】
上記グルタルイミド樹脂において、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、特に限定されるものではなく、求められる物性に応じて適宜設定することが可能である。使用される用途によっては、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は0であってもよい。一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含む場合は、グルタルイミド樹脂の総繰り返し単位を基準として、10重量%以上とすることが好ましく、10重量%〜40重量%とすることがより好ましく、15重量%〜30重量%とすることがさらに好ましく、15重量%〜25重量%とすることが特に好ましい。
【0043】
芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足したり、フィルム加工時の機械的強度が低下したりすることがない。
【0044】
一方、芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲より多いと、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足する傾向がある。
【0045】
上記グルタルイミド樹脂には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに共重合されていてもよい。
【0046】
その他の単位としては、例えば、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を挙げることができる。
【0047】
これらのその他の単位は、上記グルタルイミド樹脂中に、直接共重合していてもよいし、グラフト共重合していてもよい。
【0048】
上記グルタルイミド樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、1×104〜5×105であることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。
【0049】
一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0050】
また、上記グルタルイミド樹脂のガラス転移温度は特に限定されるものではないが、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の適用範囲を広げることができる。
【0051】
上記グルタルイミド樹脂の製造方法は特に制限されないが、例えば、特開2008−273140に記載されている方法などがあげられる。
【0052】
次に未延伸アクリル樹脂フィルムについて説明する。未延伸アクリル系樹脂フィルムの製造方法に関して、特に制限は無いが、特開2002−212312に記載する方法を用いることが好ましい。
【0053】
次にロール縦延伸について説明する。ロール縦延伸はフィルムを近接した低周速ロール及び高周速ロールによって所定の温度に加熱しながら進行方向に延伸する方法である。ロール縦延伸の方法としては、特に制限されないが、前記周速差の異なる一組のロールによって延伸を行う一段延伸と、二組以上の延伸ロールによって延伸を行う多段延伸などがあげられ、前者の一段延伸により延伸を行うことが好ましい。
【0054】
一段延伸には、例えば、図1のように、延伸ロール1、延伸ロール2とそれぞれ近接するニップロール3、ニップロール4によってフィルム5が挟持される部分を挟持部6、挟持部7とする時、この挟持部間においてフィルムが各ロールに接触するような方法と、図2のように前記挟持部間においてフィルムが各ロールに接触しないような方法があげられるが、本発明においては、後者に示すような挟持部間においてフィルムが各ロールに接触しないような方法を用いる。なかでも、図3に示すように、延伸ロール1と延伸ロール2の回転軸を含む面とフィルムの搬送面が平行になるように且つ、延伸ロール1と延伸ロール2の回転方向が同一方向となるような延伸方法を用いることが好ましい。
【0055】
多段延伸であっても、一組の延伸ロールが上記のように挟持部間においてフィルムが各ロールに接触しないような構成であれば、本発明の範囲内である。
【0056】
本発明において、は、第1延伸ロールの接触時間tが0.5秒≦t≦2.5秒である。「接触時間」とは、搬送中のフィルムが第1延伸ロールに接触している時間で定義される。すなわち以下の式により定義される。
【0057】
(接触時間)=(フィルムが第1延伸ロールに接触している距離)/(第1延伸ロールの速度)
ここで第1延伸ロールの速度とは、第1延伸ロールの外周速度のことで、以下の式により定義される。
【0058】
(第1延伸ロールの速度)=(第1延伸ロールの外周長さ)×(第1延伸ロールの回転数)
フィルムが第1延伸ロールに接触している距離とは、フィルムが第1延伸ロールに接触し始める点(接点)からフィルムが第1延伸ロールから離れる点(接点)、即ち、ニップロールとの狭持部までの距離である。
【0059】
接触時間は、0.5秒≦t≦2.5秒であることが特に好ましい。0.5秒未満であると予熱不足によりフィルムが破断し、2.5秒より大きいと剥離ムラが発生する。
【0060】
本発明においては、上記縦延伸時に、さらに、第1延伸ロールの表面温度Tが、(Tg−6)℃≦T≦Tg℃(Tgはガラス転移温度)であることを特徴とする。(Tg−6)℃未満であると予熱不足によりフィルムが破断し、Tgより大きいと剥離ムラが発生する。
【0061】
本発明において、剥離ムラ(剥離紋)とは、フィルム幅方向のスジがフィルム長手方向に等間隔に発生する現象のことであり、フィルム温度が不均一の状態で延伸を行いフィルム厚みが安定しないような延伸ムラとは異なる。
【0062】
本発明においては、フィルムと第1延伸ロールとの接触領域と、フィルムと第2延伸ロールとの接触領域の間隔Lが、第1延伸ロールの半径をR1,第2延伸ロールの半径をR2とすると、
(R1+R2)<L<(R1+R2)×10
であることが好ましい。
【0063】
次に挟持部間距離Lの定義について図3を用いて説明する。本発明では、一定間隔を置いて配置された両延伸ロールと両延伸ロールに個々近接したニップロールによってそれぞれフィルムを挟持することで、フィルムの搬送と縦延伸を行っている。このとき両挟持部間の距離をLとする。
【0064】
延伸倍率は第1延伸ロールと第2延伸ロールの周速比によって定義される。すなわち以下の式により表される。
【0065】
延伸倍率=(第2延伸ロールの周速)/(第1延伸ロールの周速)
好ましい延伸倍率は延伸温度にも依存するが、約1.1倍以上約3.0倍以下の範囲で選択されることが好ましく、約1.3倍以上約2.5倍以下がより好ましく、約1.5倍以上約2.0倍以下が特に好ましい。例えば、延伸倍率が約1.1倍以下である場合、フィルムは延伸工程にて実質的に殆ど延伸されていないため、フィルムの機械的特性を充分に改善することができない。これにより、延伸後のフィルムは破断しやすくなる。また、延伸倍率が約3.0倍以上である場合は、延伸前のフィルムが厚くなりすぎてしまい、未延伸フィルム製造時に破断してしまう。
【実施例】
【0066】
以下、実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
(製造例1)
押出反応機を2台直列に並べたタンデム型反応押出機を用いて、樹脂を製造した。タンデム型反応押出機に関しては、第1押出機(1)、第2押出機(2)共に直径75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74の同方向噛合型二軸押出機を使用し、定重量フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機原料供給口に原料樹脂を供給した。又、第1押出機、第2押出機に於ける各ベントの減圧度は−0.095MPaとした。更に、直径38mm、長さ2mの配管で第1押出機と第2押出機を接続し、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機原料供給口を接続する部品内圧力制御機構には定流圧力弁を用いた。第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザーでカッティングしペレットとした。ここで、第1押出機の樹脂の吐出口と第2押出機原料供給口を接続する部品内圧力調整、又は押出変動を見極める為に、第1押出機出口、第1押出機と第2押出機接続部品中央部、第2押出機出口に樹脂圧力計を設けた。
【0067】
第1押出機に関して、原料の樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド樹脂中間体1を製造した。この際、押出機最高温部温度を280℃、スクリュー回転数は55rpm、原料樹脂供給量は150kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100部に対して2.0部とした。又、定流圧力弁は第2押出機原料供給口直前に設置し、第1押出機モノメチルアミン圧入部圧力を8MPaになるように調整した。 第2押出機に関して、リアベント及び真空ベントで残存しているイミド化反応試剤及び副生成物を脱揮したのち、エステル化剤として炭酸ジメチルとトリエチルアミンの混合溶液を添加しイミド樹脂中間体2を製造した。この際、押出機各バレル温度を260℃、スクリュー回転数は55rpm、炭酸ジメチルの添加量は原料樹脂100部に対して3.2部、トリエチルアミンの添加量は原料樹脂100部に対して0.8部とした。更に、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し、水槽で冷却した後、ペレタイザーでペレット化することで、樹脂組成物を得た。 この樹脂組成物のイミド化率は3.7%、酸価は0.29mmol/g、カルボン酸量は0.05mmol/gであった。
【0068】
ここで、イミド化率とは、1H−NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂の1H−NMR測定を行い、3.5から3.8ppm付近のメタクリル酸メチルのO−CH3プロトン由来のピークの面積Aと、3.0から3.3ppm付近のグルタルイミドのN−CH3プロトン由来のピークの面積Bより、次式で求めた。
【0069】
I%=B/(A+B)×100
得られたペレットを100℃ で5時間乾燥した後、40mm単軸押出機と400mm幅のTダイとを用いて240℃で押出し、平均厚み130μm 、幅300mmの未延伸アクリル樹脂系フィルムを得た。この未延伸フィルムは成形した後、必要に応じて一旦フィルムを保管もしくは移動して、その後にフィルムの延伸を行ってもよい。
【0070】
(実施例1〜4)及び(比較例1〜3)
得られたフィルムを本発明における縦延伸工程によって、ロール縦延伸を行った。本実施例の縦延伸工程における第1延伸ロールと第2延伸ロール及びニップロールは図3に記載された位置関係であった。フィルム幅は1000mmである。第1延伸ロールの半径R1及び第2延伸ロールの半径R2は供に100mmである。図3に記載するように、フィルムの搬送経路が両延伸ロールの回転軸を含む面と平行になるように、延伸ロール及び延伸ロールよりも半径の小さいニップロールを配置して両延伸ロールと両延伸ロールに個々近接したニップロールによってそれぞれフィルムを挟持することで、フィルムの搬送と縦延伸を行った。そして、両延伸ロールを、共にフィルムの搬送方向であり、互いに同方向に回転させた。また挟持部間隔Lを250mmとした。
【0071】
そして表1に示す表中の実施例1〜4の条件によって、製造例1で得られたフィルムを縦延伸し、縦延伸時のフィルム幅方向の剥離ムラ評価を行った。また、比較例1〜3も上記の評価を行った。
【0072】
【表1】

【0073】
表1において「接触時間」とは、搬送中のフィルムが第1延伸ロールに接触している時間で定義される。すなわち以下の式により定義される。
(接触時間)=(フィルムが第1延伸ロールに接触している距離)/(第1延伸ロールの速度)
ここで第1延伸ロールの速度とは、第1延伸ロールの外周速度のことで、以下の式により定義される。
(第1延伸ロールの速度)=(第1延伸ロールの外周長さ)×(第1延伸ロールの回転数)
表1において「第1延伸ロール表面温度」とは、第1延伸ロールの表面を接触温度計にて測定した温度のことである。
【0074】
表1において「剥離紋観察結果」とは、各実施例および比較例で延伸したフィルムの表面を観察した結果で、○は剥離紋の発生がない状態のことで、×はフィルム幅方向全面に剥離紋が発生している状態のことであり、△はフィルム幅方向に部分的に剥離ムラが発生している状態を観察した評価方法である。ここで剥離ムラとは、フィルム幅方向のスジがフィルム長手方向に等間隔に発生する現象のことである。
【0075】
表1より、実施例1〜4及び比較例1〜3における評価結果の検証を行う。まず、第1延伸ロール表面温度がフィルムTg−6℃の実施例1〜3では接触時間が0.5秒〜2.5秒まで剥離ムラは発生していない。また、第1延伸ロール表面温度がフィルムTgの実施例4も剥離ムラは発生していない。しかし、第1延伸ロール表面温度がフィルムTg+2℃の比較例1および2は、接触時間が0.5秒〜2.5秒で剥離ムラが発生している。第1延伸ロール表面温度がフィルムTg−8℃の比較例3では延伸時にフィルムが破断し、延伸できなかった。すなわち、フィルムと第1延伸ロールの接触時間が0.5秒〜2.5秒では、第1延伸ロール表面温度がフィルムTg−6℃〜フィルムTgであればフィルムの破断がなく安定して延伸でき、かつ、剥離ムラも発生しないことが分かる。
【符号の説明】
【0076】
1.延伸ロール
2.延伸ロール
3.ニップロール
4.ニップロール
5.フィルム
6.挟持部
7.挟持部
8.接触領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性の熱可塑性樹脂からなるフィルムに対して、第1延伸ロール及びこれに近接する第1ニップロールと、第2延伸ロール及びこれに近接する第2ニップロールとを用いてロール縦延伸処理を行う延伸工程を含む光学用フィルムの製造方法において、フィルムと第1延伸ロールの接触時間tが0.5秒<t<2.5秒、かつ、第1延伸ロールの表面温度Tが(Tg−6)℃≦T≦Tg℃(Tgはガラス転移温度)でロール縦延伸することを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
フィルムと第1延伸ロールとの接触領域と、フィルムと第2延伸ロールとの接触領域との間隔Lが、第1延伸ロールの半径R1、第2延伸ロールの半径R2とすると(R1+R2)<L<(R1+R2)×10であることを特徴とする、請求項1に記載の光学用フィルムの製造方法。
【請求項3】
2つの延伸ロールによるロール縦延伸処理の延伸倍率が約1.1倍以上、約3倍以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光学用フィルムの製造方法。
【請求項4】
非晶性の熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の光学用フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記アクリル系樹脂が、下記の一般式(1)で表される単位と、下記の一般式(2)で表される単位を有するイミド樹脂である事を特徴とする、請求項4に記載の光学用フィルムの製造方法。
【化1】

(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化2】

(但し、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−245624(P2011−245624A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117567(P2010−117567)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】