説明

光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法

【課題】色相安定性に優れた高品質の光学用ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ビスフェノール類と炭酸ジエステルとをアルカリ性化合物触媒の存在下に溶融重縮合させた後、得られた反応生成物を冷却することなく反応後直ちに、ポリカーボネートに対して、pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体を0.1〜7ppmの範囲で添加し、(B)亜リン酸を0.1〜10ppm添加したのち、ついで、(C)pKaが3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体および(D)炭素数10〜22の1価の脂肪酸と多価アルコールとから誘導されるエステルとを、ポリカーボネートに対して、(C)酸性化合物を0.1〜3ppm、(D)エステルを50〜1000ppmの量で配合する光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関し、さらに詳しくは、色相安定性、成形性に優れ、特に光ディスク基板用に好適な光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、耐衝撃性などの機械的特性に優れ、しかも耐熱性、透明性などに優れており、各種機械部品、光学用ディスク、自動車部品などの用途に広く用いられている。特にメモリー用光ディスク、光ファイバー、レンズなどの光学用途への期待が大きく、種々の研究が盛んになされている。
【0003】
このようなポリカーボネートの製造方法としては、ビスフェノールAなどのビスフェノール類とホスゲンとを直接反応させる方法(界面法)、あるいはビスフェノールAなどのビスフェノール類とジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステルとを溶融重縮合反応(エステル交換反応)させる方法などが知られている。
【0004】
このうち、ホスゲンを用いる界面法は、塩化メチレンなどの溶媒を大量に使用するため、塩素の除去が非常に難しく、必ずしも光学用ポリカーボネートとしては好ましいものではなかった。
【0005】
一方、溶融重縮合反応法は、界面法と比較して安価にポリカーボネートを製造することができるという利点を有している。またホスゲンのような毒性物質を使用せず、さらに塩化メチレンなどの溶媒も必要としないため、光学用ポリカーボネートの製造方法として大きく期待されている。
【0006】
ところで、光学用に使用されるポリカーボネート樹脂組成物には、成形時の加熱によって着色したりすることなく、色相安定性に優れていることが望まれている。
このようなポリカーボネートの成形時の色相安定性を向上させる試みとしては、特開平10−60247号公報、特開平4−81457号公報に、ポリカーボネートに各種亜リン酸エステル系化合物を配合することが提案されているが、これらの方法は、いずれもホスゲンを使用した界面法によって得られるポリカーボネートを対象としたものであり、そのまま溶融縮合法に転用しても、十分にポリカーボネート樹脂の色相安定性を向上させることはできなかった。
【0007】
このため、本出願人は、特開平4−175368号公報、特開平4−328156号および特開平5−262969号公報にて、溶融重縮合法で得られた反応生成物に、酸性化合物を添加することによって、色相安定性が向上したポリカーボネートが得られることを見出し、提案している。
【特許文献1】特開平4−175368号公報
【特許文献2】特開平4−328156号公報
【特許文献3】特開平5−262969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このようなポリカーボネート樹脂組成物は、比較的低温での色相は安定しているものの、近年、DVD、DVD−Rなどの高密度ディスクなど、さらに高温での色相安定性、成形性が要求される用途には、必ずしも不十分であり、改良が望まれていた

【0009】
本発明者らは、このような諸問題を鑑み、鋭意研究を重ねた結果、ポリカーボネートに各種離型剤を配合する際に、再度酸性化合物を特定量添加することによって、高温での色相安定性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであり、高温での色相安定性および成形性に優れた光学用ポリカーボネートの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、
(A)ビスフェノール類と炭酸ジエステルとをアルカリ性化合物触媒の存在下に溶融重縮合させた後、
得られた反応生成物を冷却することなく反応後直ちに、ポリカーボネートに対して、pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体を0.1〜7ppmの範囲で
添加し、
(B)亜リン酸を0.1〜10ppm添加したのち、
ついで、(C)pKaが3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体および(D)炭素数10〜22の1価の脂肪酸と多価アルコールとから誘導されるエステルとを、ポリカーボネートに対して、(C)酸性化合物を0.1〜3ppm、(D)エステルを50〜1000ppmの量で配合することを特徴とする。
【0012】
上記製造方法は、
(C)酸性化合物および(D)エステルとともに、(E)亜リン酸エステルおよびリン酸トリメチルから選ばれる少なくとも1種の化合物を、ポリカーボネートに対して、10〜1000ppmの量で配合することが好ましい。
【0013】
また、上記製造方法は、(C)酸性化合物および(D)エステルとともに、(F)炭素数8〜22の一価脂肪酸とポリエチレングリコールとのエステルを、ポリカーボネートに対して50〜500ppmの量で配合することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法で得られるポリカーボネート樹脂組成物は、透明性、色相、耐熱性、耐水性などに優れている。
こうして得られたポリカーボネート樹脂組成物は、一般の成形材料はもとより、シートなどの建築材料、自動車用ヘッドランプレンズ、眼鏡等の光学用レンズ類、光学用記録材料等に好適に用いられ、特に光ディスク用成形材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法について具体的に説明する。
(A)ポリカーボネートの調製
本発明では、ビスフェノール類と炭酸ジエステルとをアルカリ性化合物触媒の存在下に溶融重縮合させて得られた反応生成物に、pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体を0.1〜7ppmの範囲で添加してポリカーボネートを調製する。
【0016】
ビスフェノール類としては、特に限定されないが、たとえば下記式[I]で示される。
【0017】
【化1】

【0018】
上記のような式[I]で示されるビスフェノール類としては、具体的には、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ブタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-1-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類などが挙げられる。
【0019】
また本発明では、上記式中、Xが−O−、−S−、−SO−または−SO2−であるよ
うなビスフェノール類も挙げられ、たとえば4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルフェニルエーテルなどのビス(ヒドロキシアリール)エーテル類、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルジフェニルスルフィドなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルフィド類、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルジフェニルスルホキシドなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルホキシド類、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルジフェニルスルホンなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルホン類などを挙げることもできる。
【0020】
またビスフェノール類として下記式[II]で示される化合物も挙げられる。
【0021】
【化2】

【0022】
(式中、Rfはハロゲン原子または炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン置換炭化
水素基であり、nは0〜4の整数である。nが2以上のとき、Rfは同一であっても異な
っていてもよい。)
この式[II]で示されるビスフェノール類としては、具体的に、レゾルシンおよび3-メ
チルレゾルシン、3-エチルレゾルシン、3-プロピルレゾルシン、3-ブチルレゾルシン、3-t-ブチルレゾルシン、3-フェニルレゾルシン、3-クミルレゾルシン、2,3,4,6-テトラフルオロレゾルシン、2,3,4,6-テトラブロムレゾルシンなどの置換レゾルシン、カテコール、ハイドロキノンおよび3-メチルハイドロキノン、3-エチルハイドロキノン、3-プロピルハイドロキノン、3-ブチルハイドロキノン、3-t-ブチルハイドロキノン、3-フェニルハイドロキノン、3-クミルハイドロキノン、2,3,5,6-テトラメチルハイドロキノン、2,3,5,6-テトラ-t-ブチルハイドロキノン、2,3,5,6-テトラフルオロハイドロキノン、2,3,5,6-テト
ラブロムハイドロキノンなどの置換ハイドロキノンを挙げることができる。
【0023】
ビスフェノール類としては、さらに下記式で示される2,2,2',2'-テトラヒドロ-3,3,3',3'-テトラメチル-1,1'-スピロビ-[IH-インデン]-6,6'-ジオールを用いることもできる。
【0024】
【化3】

【0025】
これらのうちでも、上記式[I]で示されるビスフェノール類が好ましく、特にビスフェノールAが好ましい。また、炭酸ジエステルとして、具体的には、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどを用いることができ、これらを2種以上併用することもできる。これらのうちでも特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0026】
このような炭酸ジエステル中には、ジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステルが含有されていてもよい。具体的に、炭酸ジエステルは、ジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステルを好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量で含有していてもよい。
【0027】
このようなジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニルなどの芳香族ジカルボン酸類、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、セバシン酸ジフェニル、デカン二酸ジフェニル、ドデカン二酸ジフェニルなどの脂肪族ジカルボン酸類、シクロプロパンジカルボン酸、1,2-シクロブタンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,2-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸ジフェニル、1,2-シクロブタンジカルボン酸ジフェニル、1,3-シクロブタンジカルボン酸ジフェニル、1,2-シクロペンタンジカルボン酸ジフェニル、1,3-シクロペンタンジカルボン酸ジフェニル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジフェニル、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸ジフェニル、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジフェニルなどの脂環族ジカルボン酸類を挙げることができる。炭酸ジエステルは、これらのジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステルを2種以上含有していてもよい。
【0028】
本発明では、これらの炭酸ジエステルは、予め溶融状態にあるうちに、フィルターで濾
過処理されていてもよい。このような濾過処理によって、原料炭酸ジエステル中に含まれる微粒子などが濾過され、後述するフッ素系樹脂メンブレンフィルターの交換頻度を少なくすることができる。
【0029】
このような炭酸ジエステルの濾過処理に使われるフィルターとしては、前記ビスフェノール類を濾過する際に使用されたものと同様のものが使用される。上記炭酸ジエステルとビスフェノール類とは、炭酸ジエステルがビスフェノール類1モルに対して、通常1.00〜1.30モル、好ましくは1.01〜1.20モルとなるように混合される。
【0030】
このとき、炭酸ジエステルとビスフェノール類との混合液中に、溶融重縮合触媒が含まれていてもよい。溶融重縮合触媒としては、通常、(a)アルカリ金属化合物および/また
はアルカリ土類金属化合物(以下(a) アルカリ(土類)金属化合物ともいう)が使用される。
【0031】
(a)アルカリ(土類)金属化合物としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の有
機酸塩、無機酸塩、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコラートなどが好ましく用いられる。
【0032】
具体的には、アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、ビスフェノールAの二ナトリウム塩、二カリウム塩、二リチウム塩、フェノール類のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられ、アルカリ土類金属化合物としては、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウムなどが挙げられる。これら化合物を2種以上併用することもできる。
【0033】
このようなアルカリ(土類)金属化合物は、ビスフェノール類1モルに対して、1×10-8〜1×10-3モル、好ましくは1×10-7〜2×10-6モル、さらに好ましくは1×10-7〜8×10-7モルの量で、溶融重縮合反応中に含まれていることが望ましい。また、溶融重縮合反応の原料であるビスフェノール類中に予めアルカリ(土類)金属化合物が含まれている場合、溶融重縮合反応時に存在するアルカリ(土類)金属化合物の量が、ビスフェノール類1モルに対して、前記範囲となるように添加量を制御することが望ましい。
【0034】
また、溶融重縮合触媒として、上記のような(a)アルカリ(土類)金属化合物に加えて(b)塩基性化合物を併用されていてもよい。このような(b)塩基性化合物としては、たとえ
ば高温で易分解性あるいは揮発性の含窒素塩基性化合物が挙げられ、具体的には、以下のような化合物を挙げることができる。
【0035】
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(Me4NOH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(Et4NOH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(Bu4NOH)、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド(φ−CH2(Me)3NOH)などのアルキル、アリール、アルア
リール基などを有するアンモニウムヒドロオキシド類、トリメチルアミン、トリエチルア
ミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミンなどの三級アミン類、R2NH(式
中Rはメチル、エチルなどのアルキル、フェニル、トルイルなどのアリール基などである)で示される二級アミン類、RNH2(式中Rは上記と同じである)で示される一級アミン類、4-ジメチルアミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、4-ピロリジノピリジンなどのピリジン類、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類、あるいはアンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド(Me4NBH4)、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド(Bu4NBH4)、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート(Bu4NBPh4)、テトラメチルアンモニウムテトラフェニルボレート(Me4NBPh4)などの塩基性塩。
【0036】
これらのうち、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド類が好ましく用いられる。上記のような(b) 含窒素塩基性化合物は、ビスフェノール類1モルに対して、1×10-6〜1×10-1モル好ましくは1×10-5〜1×10-2モルの量で用いることができる。
【0037】
またさらに触媒として、(c)ホウ酸化合物を用いることもできる。このような(c) ホウ
酸化合物としては、ホウ酸およびホウ酸エステルなどを挙げることができる。
ホウ酸エステルとしては、下記一般式で示されるホウ酸エステルを挙げることができる。
B(OR)n(OH)3-n
式中、Rはメチル、エチルなどのアルキル、フェニルなどのアリールなどであり、nは1,2または3である。
【0038】
このようなホウ酸エステルとしては、具体的には、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリヘキシル、ホウ酸トリヘプチル、ホウ酸トリフェニル、ホウ酸トリトリル、ホウ酸トリナフチルなどが挙げられる。
【0039】
このような(c) ホウ酸またはホウ酸エステルは、ビスフェノール類1モルに対して、1×10-8〜1×10-1モル、好ましくは1×10-7〜1×10-2モル、さらに好ましくは1×10-6〜1×10-4モルの量で用いることができる。
【0040】
本発明では、溶融重縮合触媒としては、たとえば(a)アルカリ(土類)金属化合物と(b)含窒素塩基性化合物とを組合せて、さらには(a)アルカリ(土類)金属化合物と(b)含窒素塩基性化合物と(c)ホウ酸またはホウ酸エステルとの三者を組合せて用いることが好まし
い。
【0041】
触媒として、上記のような量の(a)アルカリ(土類)金属化合物と(b)含窒素塩基性化合物とを組合せて用いると、重縮合反応を十分な速度で進行させることができるとともに、高分子量のポリカーボネートを高い重合活性で生成させることができて好ましい。
【0042】
なお、(a)アルカリ(土類)金属化合物と(b)含窒素塩基性化合物とを併用する場合、あるいは(a)アルカリ(土類)金属化合物と(b)含窒素塩基性化合物と(c)ホウ酸またはホウ
酸エステルとを併用する場合、各触媒成分を混合したものを、ビスフェノール類と炭酸ジエステルとの溶融混合物に添加してもよく、また、個別にビスフェノール類と炭酸ジエステルとの溶融混合物に添加してもよい。
【0043】
以上のようなビスフェノール類と炭酸ジエステル類とを上記溶融重縮合触媒の存在下に溶融重縮合を行う。なお、ビスフェノール類と炭酸ジエステル類は予め、混合液中の微粒子などの不純物を、フッ素系樹脂メンブレンフィルターを用いて除去してもよい。
【0044】
ビスフェノール類と炭酸ジエステルとの重縮合反応は、従来知られている重縮合反応条
件と同様な条件下で行なうことが可能であり、たとえば2段以上の反応段で行うことができる。
【0045】
具体的には、第一段目の反応を80〜250℃、好ましくは100〜230℃、さらに好ましくは120〜190℃の温度で、0.01〜5時間、好ましくは0.01〜4時間、さらに好ましくは0.01〜3時間、常圧下、ビスフェノール類と炭酸ジエステルとを反応させる。次いで反応系を減圧にしながら反応温度を高めて、ビスフェノール類と炭酸ジエステルとの反応を行ない、最終的には5mmHg以下、好ましくは1mmHg以下の減圧下で、240〜320℃でビスフェノール類と炭酸ジエステルとの重縮合反応を行なう。
【0046】
上記のような重縮合反応は、連続式で行なってもよく、バッチ式で行なってもよい。また上記の反応を行なうに際して用いられる反応装置は、槽型であっても管型であっても塔型であってもよい。
【0047】
また本発明では、ポリカーボネートを製造するに際して、上記のようなビスフェノール類と炭酸ジエステルとともに、1分子中に3個以上の官能基を有する多官能化合物を用いることもできる。多官能化合物としては、フェノール性水酸基またはカルボキシル基を有する化合物が好ましく、特にフェノール性水酸基を3個含有する化合物が好ましい。このような多官能化合物としては、たとえば1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル) エタン
、2,2',2"-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン、α-メチル-α,α',α'-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジエチルベンゼン、α, α',α"-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン-2、1,3,5-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,2-ビス-[4,4-(4,4'-ジヒドロキシフェニル)-シクロヘキシル]-プロパン、トリメリット酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0048】
これらのうちでは、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル) エタン、α,α',α"-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリイソプロピルベンゼンなどが好ましく用いられる。
このような多官能化合物は、ビスフェノール類1モルに対して、通常0.03モル以下
、好ましくは0.001〜0.02モル、さらに好ましくは0.001〜0.01モルの量で用いることができる。
【0049】
ポリカーボネートを製造する際には、上記のような芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとともに、末端封止剤を使用してもよい。このような末端封止剤として、得られるポリカーボネートの分子末端に下記一般式[I]で表わされる末端基を導入しうるアリロキシ化合物が用いられる。
ArO− …[I]
式中、Arは炭素原子数6〜50の芳香族炭化水素基を表す。芳香族炭化水素基は特に限定されず、フェニル基およびナフチル基、アンスラニル基などの縮合環であってもよく、さらにこれら芳香環と飽和炭化水素および/または複素原子とで環を形成していてもよい。また、これらの芳香族環は、ハロゲン、炭素原子数1〜9のアルキル基で置換されていてもよい。
【0050】
このようなアリロキシ化合物として、具体的には、フェノール、ジフェニルカーボネート、p-tert-ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェニルフェニルカーボネート、p-tert-
ブチルフェニルカーボネート、p-クミルフェノール、p-クミルフェニルフェニルカーボネート、p-クミルフェニルカーボネート、 2,2,4-トリメチル-4-(4-ヒドロキシフェニル)クロマン、2,2,4,6-テトラメチル-4-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)クロマン、2,2,3-トリメチル-3-(4-ヒドロキシフェニル)クロマン、2,2,3,6-テトラメチル-3-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)クロマン、2,4,4-トリメチル-2-(2-ヒドロキシフェニル)クロマン、2,4,4,6-テトラメチル-2-(3,5-ジメチル-2-ヒドロキシフェニル)クロマンなどのクロマン化合物を挙げることができる。
【0051】
上記のようなアリロキシ化合物は、単独で使用することもできるし、組み合わせて使用することもできる。このようなアリロキシ化合物は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、0.01〜0.2モル、好ましくは0.02〜0.15モル、さらに好ましくは0.02〜0.1モルの量で用いられることが望ましい。
【0052】
末端封止剤としてアリロキシ化合物をこのような量で用いることにより、得られるポリカーボネートの分子末端は、1〜95%、好ましくは10〜95%、さらに好ましくは20〜90%の割合で、上記一般式[I]で表される末端基で封止される。
【0053】
上記のように、一般式[I]で表される末端基が、上記割合で導入されたポリカーボネートは、耐熱性に優れるとともに、低分子量でも耐衝撃性などの機械的特性に優れる。
本発明では、末端封止剤として、上記ようなアリロキシ化合物とともに、必要に応じて下記一般式[III]で表される脂肪族炭化水素ユニットを導入可能な脂肪族モノカルボキ
シ化合物を用いてもよい。
【0054】
【化4】

【0055】
式中、Rは炭素原子数10〜30のアルキルであり、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、またハロゲンで置換されてもよい。このような脂肪族モノカルボキシ化合物として、具体的には、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、ヘネイコサノイック酸、トリコサノイック酸、メリシック酸などのアルキルモノカルボン酸、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸フェニルなどの上記アルキルモノカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、フェニルエステルなどのアルキルモノカルボン酸エステルを挙げることができる。
【0056】
これらは、単独で用いてもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。上記のような脂肪族モノカルボキシ化合物は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、0.0
1〜0.20モルの量で、好ましくは0.02〜0.15モルの量で、さらに好ましくは0.02〜0.10モルの量で用いることが望ましい。
【0057】
なお、以上のような末端封止剤は、合計で芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、0.2モル以上の量で用いると、重合速度が低下することがある。以上のようにして得ら
れる反応生成物(ポリカーボネート)の20℃塩化メチレン中で測定した極限粘度は、通常0.10〜1.0dl/g好ましくは0.30〜0.65dl/gである。
【0058】
このような反応生成物(ポリカーボネート)のメルトフローレートは、高粘度品では、温度300℃、荷重1.2kgで測定して1〜70g/10分、好ましくは2〜50g/10分
であり、低粘度品では、温度250℃、荷重1.2kgで測定して同様に測定して5〜20
g/10分、好ましくは8〜16g/10分であることが望ましい。
【0059】
本発明では、上記のようにして得られる反応生成物((A)ポリカーボネート)を冷却することなく重縮合反応後ただちに、下記のようなpKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物および/または該酸性化合物から形成される誘導体(以下酸性化合物ということ
もある)が添加される。
【0060】
イオウ含有酸性化合物および該酸性化合物から形成される誘導体としては、亜硫酸、硫酸、スルフィン酸系化合物、スルホン酸系化合物およびこれらの誘導体を挙げることができる。具体的に、亜硫酸誘導体としては、ジメチル亜硫酸、ジエチル亜硫酸、ジプロピル亜硫酸、ジブチル亜硫酸、ジフェニル亜硫酸などを挙げることができる。
【0061】
硫酸誘導体としては、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、ジプロピル硫酸、ジブチル硫酸、ジフェニル硫酸などを挙げることができる。スルフィン酸系化合物としては、ベンゼンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸、ナフテレンスルフィン酸などを挙げることができる。
【0062】
またスルホン酸系化合物およびこの誘導体としては、下記一般式[IV]で表わされる化合物またはそのアンモニウム塩を挙げることができる。
【0063】
【化5】

【0064】
式中、Rgは炭素数1〜50の炭化水素基またはハロゲン置換炭化水素基であり、Rhは水素原子または炭素数1〜50の炭化水素基またはハロゲン置換炭化水素基であり、nは0〜3の整数である。
【0065】
このようなスルホン酸系化合物およびこの誘導体としては、たとえばベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのスルホン酸、ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、ベンゼンスルホン酸オクチル、ベンゼンスルホン酸フェニル、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、p-トルエンスルホン酸ブチル、p-トルエンスルホン酸オクチル、p-トルエンスルホン酸フェニルなどのスルホン酸エステル、p-トルエンスルホン酸アンモニウムなどのスルホン酸アンモニウム塩が挙げられる。
【0066】
さらにトリフルオロメタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、スルホン化ポリスチレン、アクリル酸メチル-スルホン化スチレン共重合体などのスルホン酸化合物を用いても
よい。
【0067】
これらを2種以上併用することもできる。このうち酸性化合物として、上記一般式[IV]で表されるスルホン酸系化合物およびこの誘導体が好ましく用いられる。
特に上記一般式[IV]において、Rgは炭素数1〜6の置換脂肪族炭化水素基、Rhは炭素数1〜8の置換脂肪族炭化水素基、nは0〜3の整数で表されるエステル化合物が好ましく用いられ、具体的に、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、p-トルエンスルホン酸ブチルなどが好ましく用いられる。
【0068】
これらのうちでも、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、p-トルエンスルホン酸ブチルが特に好ましく用いられる。これらを2種以上併用することもできる。
【0069】
本発明で使用される(A)ポリカーボネートには、以上のような酸性化合物を、反応生成物に対し、0.1〜7ppm、好ましくは0.2〜3ppmの量で含んでいる。
このような量で酸性合物が反応生成物(ポリカーボネート)に配合されていると、ポリカーボネート中に残存する触媒のアルカリ性金属化合物が中和、あるいは弱められて、最終的に滞留安定性および耐水性がさらに向上されたポリカーボネートを得ることができる。
【0070】
上記の酸性化合物とともに水が添加されていてもよい。水の量は、反応生成物(ポリカーボネート)に対して5〜1000ppm 好ましくは10〜500ppm さらに好ましくは20〜300ppm の量で添加することが望ましい。
【0071】
反応生成物と酸性化合物との混練は、一軸押出機、二軸押出機、スタティックミキサ−などの通常の混練機により行われ、これらの混練機はベント付きでもベントなしでも有効に使用される。具体的には、重縮合反応により得られた反応生成物が反応器内または押出機内で溶融状態にある間に、酸性化合物と水とを添加することが好ましい。
【0072】
より具体的には、たとえば、反応器内にある重縮合反応で得られた反応生成物に、酸性化合物と、必要に応じて水を添加してポリカーボネートを形成した後、押出機を通してペレタイズしてもよく、また重縮合反応で得られたポリカーボネートが反応器から押出機を通ってペレタイズされる間に、酸性化合物と水を添加して、これらを混練してポリカーボネートとすることもできる。
【0073】
本発明では、生成したポリカーボネートが溶融状態にある間に、ポリカーボネートをフィルターで濾過処理してもよい。このような濾過処理によって、重縮合反応中に生成するゲルなどの異物を除去することができる。
【0074】
また、このような濾過処理は、反応生成物に、酸性化合物などを添加したのち、混練したものを濾過してもよい。このようなビスフェノール類の濾過処理に使われるフィルターとしては、特に限定されるものではなく、通常汎用されているものが用いられる。具体的には、キャンドルタイプ、プリーツタイプ、リーフタイプ等のフィルターが使用される。このようなフィルターは、絶対濾過精度(孔径)が50μm以下、さらに好ましくは20μm以下のものが好ましい。このようなフィルターを使用すると、濾過時のポリカーボネートの滞留時間を少なくすることが可能であり、ポリカーボネートの熱劣化を防止することができる。また、フィルターも長い寿命で使用することができる。
ポリカーボネート樹脂組成物の製造
本発明に係る光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、上記方法で(A)ポリカーボネートを調製し、(B)亜リン酸、(C)pKaが3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体、および(D)炭素数10〜22の1価の脂肪酸と多価アルコールとから誘導されるエステルを配合する。
【0075】
使用される(B)亜リン酸は、例えばナトリウム塩、カリウム塩などの塩であってもよい。このような(B)亜リン酸の配合量は、(A)ポリカーボネートに対して、0.1〜10ppm、好ましくは0.2〜5ppmの量であることが好ましい。このような量で(B)亜リン酸を含んでいると、不純物として混入した重金属イオンに起因する各種の弊害を防止することができる。なお、亜リン酸(B)は前記した酸性化合物とともに、反応終了後のポリカーボネートに配合してもよい。
【0076】
また(C)pKaが3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体としては、上記(A)ポリカーボネート中に含まれている酸性化合物と同様のものが挙げられる。この(C)酸性化合物の配合量は、(A)ポリカーボネートに対して、0.1〜3ppm、好ま
しくは0.2〜3ppmの量であることが好ましい。なお、従来より、(C)酸性化合物は
、溶融重縮合触媒を失活させるために、添加されることは知られていたが、触媒を失活させたのち、さらにまた特定量の(C)酸性化合物を添加することによって、成形時の加熱によるポリカーボネートの着色を抑制することができる。
【0077】
(D)炭素数10〜22の1価の脂肪酸と多価アルコールとから誘導されるエステルとしては、たとえばミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、硫化魚油の脂肪酸などの炭素数10〜22の一価脂肪酸と、たとえばエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールから誘導される部分エステルの単独または混合物などが使用される。このときのエステル化率は、多価アルコールを完全にエステル化したときのエステル化率を100%とすると、10〜80%、好ましくは20〜60%の範囲にあることが望ましい。このような(D)エステルは、完全に縮合体となっていても、一部が縮合体となっているものであってもよい。このような(D)エステルの配合量は、(A)ポリカーボネートに対して、10〜1000ppmの量であることが好ましい。このような量で(D)エステルを含んでいると、(D)エステルの配合量が、10ppmより少ないと、溶融成形時の離型性が低下し、成形品に曇りや離型歪みに基づく光学的歪みを生じることがあり、1000ppmより多いと、溶融成形時に熱分解により、成形品に銀条を生じさせたり、基板やスタンパーに汚れを発生させるようになる。
【0078】
また本発明では、上記(B)〜(D)成分に加えて、(E)亜リン酸エステルまたはリン酸トリメチルから選ばれる少なくとも1種の化合物を配合してもよい。このような(E)成分の配合量は、(A)ポリカーボネートに対して、10〜1000ppm、好ましくは10〜500ppmの量であることが好ましい。
【0079】
亜リン酸エステルとしては、下記一般式で表される化合物を挙げることができる。
P(OR)3
(式中、Rは脂環族炭化水素基、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を表す。これらは同一であっても異なっていてもよい。)
このような式で表される化合物としては、たとえば、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリス(2-クロロエチル)ホスファイト、トリス(2,3-ジクロロプロピル)ホスファイトなどのトリアルキルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイトなどのトリシクロアルキルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(エチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t- ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ヒドロキシフェニル)ホスファイトなどのトリアリールホスファイト、フェニルジデシルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、フェニルイソオクチルホスファイト、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイトなどのアリールアルキルホスファイトなどを挙げることができる。
【0080】
さらに亜リン酸エステルとしては、たとえば、ジステアリルペンタエリスリチルジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t- ブチルフェニル)ペンタエリスリチルジホスファイトなどを挙げることができる。これらを2種以上併用することもできる。
【0081】
これらのうちでは、上記一般式で表される亜リン酸エステルが好ましく、さらに芳香族亜リン酸エステルが好ましく、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトが好
ましく用いられる。
【0082】
また本発明では、さらにまた(F)炭素数8〜22の一価脂肪酸とポリエチレングリコ
ールとのエステルが配合されてもよい。
このような(F)成分の配合量は、(A)ポリカーボネートに対して、50〜1000ppm、好ましくは50〜500ppmの量であることが好ましい。このような(F)成分としては、たとえばカプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などの脂肪酸と、2〜20個のエチレングリコールユニットを有するポリエチレングリコールとのモノエステル、ジエステル、さらには、モノエステルとジエステルとの混合物などが挙げられる。
【0083】
(A)ポリカーボネートと、(B)〜(D)および(E)、(F)成分との混練は、一軸押出機、二軸押出機、スタティックミキサ−などの通常の混練機により行われ、これらの混練機はベント付きでもベントなしでも有効に使用される。たとえば、反応器内にある重縮合反応で得られた(A)ポリカーボネートに、(B)〜(D)および(E)、(F)成分を添加してポリカーボネートを形成した後、押出機を通してペレタイズしてもよく、また重縮合反応で得られた(A)ポリカーボネートがペレタイズされる間に、(B)〜(D)および(E)、(F)成分を添加して、これらを混練してポリカーボネートとすることもできる。
【0084】
一般的にポリカーボネートを使用する時にはポリカーボネートペレットを再溶融して耐熱安定剤などの種々添加剤を配合している。本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物ペレットは、各種添加剤の配合時あるいは成形時に溶融しても、上記(B)〜(D)成分を必須成分として特定量含んでいるため、熱安定性が向上され、溶融時の滞留安定性に優れているので、溶融による熱分解が特に抑制されて分子量が低下しにくく、着色しにくい。
【0085】
さらに本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリカーボネート樹脂組成物には、[G]添加剤を添加してもよい。このような[G]添加剤は、溶融状態にあるポリカーボネートに(B)〜(D)および(E)、(F)成分を添加する際に、同時に添加することもできるし、別々に添加することもできる。本発明では、以下に示すような[G]添加剤のうちでも、反応性の添加剤は、[C]酸性化合物を添加した後に添加することが好ましい。
【0086】
本発明で用いられる[G]添加剤としては、具体的に、使用目的に応じて一般的にポリカーボネートに添加される添加剤を広く挙げることができ、耐熱安定剤、エポキシ化合物、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、滑剤、防曇剤、天然油、合成油、ワックス、有機系充填剤、無機系充填剤などを挙げることができる。
【0087】
これらのうちでも、以下に示すような耐熱安定剤、エポキシ化合物、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤などが好ましく用いられる。これらを2種以上併用することもできる。
このような本発明で得られるポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じてペレタイズされ、各用途に用いられる。本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物は、成形時の色相安定性、成形性に優れ、光学用材料とくに光ディスク成形材料として好適である。
【0088】
本発明の方法で得られるポリカーボネート樹脂組成物は、透明性、色相、耐熱性、耐水性などに優れている。
こうして得られたポリカーボネート樹脂組成物は、一般の成形材料はもとより、シートなどの建築材料、自動車用ヘッドランプレンズ、眼鏡等の光学用レンズ類、光学用記録材料等に好適に用いられ、特に光ディスク用成形材料として好適である。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定さ
れるものではない。
[参考例1〜4]
ビスフェノールA(日本ジーイープラスチックス(株)製)と、ジフェニルカーボネート(エニィケム社製)を、特開平5−239334号公報に記載の方法で、連続的に重合し、最終段階で7ppmのp-トルエンスルホン酸ブチルを添加して、(A)ポリカーボネートを調製した。得られた(A)ポリカーボネートに対して2ppmの(B)亜リン酸を配合したのち(ポリカーボネートのPS換算重量平均分子量は17500)、(D)グリセリンモノステアレ
ート(以後、GMSと略す)、(F)ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(以後、Atme
rと略す)、(C)p-トルエンスルホン酸ブチル、(E)トリスノニルフェニルフォスファイト(以後TNTと略す)、リン酸トリメチルおよび亜リン酸エステル(トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、以後TBPPと略す)を、表1に示す量で添加し、溶融混
練したのち、単軸押出機で混練し、ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを得た。
【0090】
得られたポリカーボネート樹脂組成物ペレットを使用して、直径120mmのCDを、シリンダー温度380℃で成形した。得られたCDの色相安定性評価として、380℃で10分間の滞留後の変色をDelta YIから評価した。
【0091】
なお、Delta YIは、380℃で10分間滞留させたときのYIから滞留前のYIを引いたものである。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
[実施例1]
ビスフェノールA(日本ジーイープラスチックス(株)製)と、ジフェニルカーボネート(エニィケム社製)を、特開平5−239334号公報に記載の方法で、連続的に重合し、最終段階で7ppmのp-トルエンスルホン酸ブチルと2ppmの(B)亜リン酸を配合したポリカーボネート(PS換算重量平均分子量17500)に対し、(D)GMS、(F)Atmer、(C)p-トルエンスルホン酸ブチルの量を表2に示す量で配合し、溶融混練したのち、単軸押出機で混練し、ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを得た。
【0094】
得られたポリカーボネート樹脂組成物ペレットを使用して、直径120mmのCDを、シリンダー温度380℃で成形したのち、得られたCDの色相安定性評価として、380℃で10分間の滞留後の変色をDelta YIから評価した。
【0095】
結果を表2に示す。
[実施例2および3、比較例1および2]
実施例1において、(F)Atmerおよび(C)p-トルエンスルホン酸ブチルの量を表2に示す
量にした以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを作製した。得られたペレットを使用して、実施例1と同様にしてDelta YIを評価した。
【0096】
結果を表2に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
表2から明らかなように、酸性化合物を配合することによって、優れた色相安定性を示すポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
[実施例4]
実施例1において、ポリカーボネートに対し、(D)GMS、(F)Atmer、および(C)p-トルエンスルホン酸ブチルの量を表3に示す量で配合した以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを作製した。得られたペレットを使用して、実施例1と同様にしてDelta YIを評価した。
[実施例5および6、比較例3および4]
実施例4において、(E)亜リン酸エステル(TBPP)、(F)Atmerおよび(C)p-トルエンスルホン酸ブチルの量を表3に示す量にした以外は、実施例4と同様にして、ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを作製した。得られたペレットを使用して、実施例4と同様にしてDelta YIを評価した。
【0099】
結果を表3に示す。
【0100】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビスフェノール類と炭酸ジエステルとをアルカリ性化合物触媒の存在下に溶融重縮合させた後、
得られた反応生成物を冷却することなく反応後直ちに、ポリカーボネートに対して、pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体を0.1〜7ppmの範囲で
添加し、
(B)亜リン酸を0.1〜10ppm添加したのち、
ついで、(C)pKaが3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体および(D)炭素数10〜22の1価の脂肪酸と多価アルコールとから誘導されるエステルとを、ポリカーボネートに対して、(C)酸性化合物を0.1〜3ppm、(D)エステルを50
〜1000ppmの量で配合することを特徴とする光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製
造方法。
【請求項2】
(C)酸性化合物および(D)エステルとともに、(E)亜リン酸エステルおよびリン酸トリメチルから選ばれる少なくとも1種の化合物を、ポリカーボネートに対して、10〜1000ppmの量で配合することを特徴とする請求項1に記載の光学用ポリカーボネー
ト樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
(C)酸性化合物および(D)エステルとともに、(F)炭素数8〜22の一価脂肪酸とポリエチレングリコールとのエステルを、ポリカーボネートに対して50〜500ppm
の量で配合することを特徴とする請求項1または2に記載の光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
アルカリ性化合物触媒が、アルカリ(土類)金属化合物であり、かつ該化合物を、ビスフェノール類1モルに対して、1×10-8〜1×10-3モル〜8×10-7モルの量で、溶融重縮合反応中に含まれることことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール類と炭酸ジエステルとをアルカリ性化合物触媒の存在下に溶融重縮合させ 得られた反応生成物に、pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体を0.1〜7ppmの範囲で
添加して(A)ポリカーボネートを得、
前記(A)ポリカーボネートに、(B)亜リン酸、(C)pKaが3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体および(D)炭素数10〜22の1価の脂肪酸と多価アルコールとから誘導されるエステルとを、ポリカーボネートに対して、(B)亜リン酸を0.1〜10ppm、(C)酸性化合物を0.1〜3ppm、(D)エステルを50〜10
00ppmの量で配合することを特徴とする光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法

【請求項2】
ビスフェノール類と炭酸ジエステルとをアルカリ性化合物触媒の存在下に溶融重縮合させ
得られた反応生成物に、pKa値が3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体を0.1〜7ppm、及び(B)亜リン酸を0.1〜10ppm添加して(A)ポリカー
ボネートを得、
前記(A)ポリカーボネートに、(C)pKaが3以下であるイオウ含有酸性化合物またはその誘導体および(D)炭素数10〜22の1価の脂肪酸と多価アルコールとから誘導されるエステルとを、ポリカーボネートに対して、(C)酸性化合物を0.1〜3ppm
、(D)エステルを50〜1000ppmの量で配合することを特徴とする光学用ポリカー
ボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
(C)酸性化合物および(D)エステルとともに、(E)亜リン酸エステルおよびリン酸トリメチルから選ばれる少なくとも1種の化合物を、ポリカーボネートに対して、10〜1000ppmの量で配合することを特徴とする請求項1または2に記載の光学用ポリカ
ーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
(C)酸性化合物および(D)エステルとともに、(F)炭素数8〜22の一価脂肪酸とポリエチレングリコールとのエステルを、ポリカーボネートに対して50〜500ppm
の量で配合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
アルカリ性化合物触媒が、アルカリ(土類)金属化合物であり、かつ該化合物を、ビスフェノール類1モルに対して、1×10-8〜1×10-3モル〜8×10-7モルの量で、溶融重縮合反応中に含まれることことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−144026(P2006−144026A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16967(P2006−16967)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【分割の表示】特願平10−348852の分割
【原出願日】平成10年12月8日(1998.12.8)
【出願人】(390000103)日本ジーイープラスチックス株式会社 (36)
【Fターム(参考)】