説明

光学用成形体

【課題】光透過率が高く、光伝送損失が小さい光学用成形体を提供すること。
【解決手段】フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物を開環メタセシス重合して得られ、重量平均分子量(Mw)が10,000〜500,000であるノルボルネン化合物開環重合体の成形体であって、該成形体は、周期表第4族〜第8族遷移金属を含み、該成形体中における周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量が、重量比率で、10ppm以下である光学用成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体からなる光学用成形体に係り、さらに詳しくは、光透過率が高く、光伝送損失が小さい光学用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体は、主鎖中に炭素―炭素二重結合を有するため、耐熱性や耐候性が劣るという性質を有するが、主鎖中の炭素―炭素二重結合を水素化すると、耐熱性、透明性および低吸湿性に優れるものとなるため、光学レンズや光学フィルムなどの光学用樹脂として広く使用されている。しかしながら、このように二重結合を水素化する工程を経た場合には、ノルボルネン化合物開環メタセシス重合体中の主鎖二重結合を水素化する製造工程が加わる上、残存する二重結合を完全に水素化するのは容易ではない。また、得られる重合体は透明性に優れていたとしても、特定の波長の光を当てると、光を吸収したり、重合体が劣化したりして、光線の光伝送損失は必ずしも十分ではなかった。
【0003】
そこで、さらに優れた光透過性を有するノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体として、フッ素原子を有するノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体やその水素化物が報告されている。たとえば、特許文献1,2には、フッ素原子を含有するカルボニルオキシ基を有するノルボルネン化合物や橋頭位に酸素原子を有するオキソノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体が報告されている。しかしながら、これら特許文献1,2の重合体は、酸素原子を含有するものであるため、吸湿性が高くなるという問題点がある。
【0004】
また、特許文献3には、フッ素原子を有するノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体を水素化した重合体が、特許文献4および非特許文献1には、フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体が、それぞれ記載されている。しかしながら、特許文献3においては、水素化前の開環重合体が耐熱性および耐候性に劣るため、安定性が低いという問題があった。また、これら特許文献3,4、非特許文献1のいずれにおいても、光線の光伝達損失が大きく、たとえば、光ファイバーなどの光伝達損失が小さいことが要求される用途に用いるには不十分であった。さらに、これらいずれの文献にも、重合後の触媒残渣と得られる重合体の光透過性との関係について何らの知見も示されていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2006−342075号公報
【特許文献2】特開2007−63351号公報
【特許文献3】特開2007−177046号公報
【特許文献4】特開2005−248081号公報
【非特許文献1】Makromolecular Chemie Rapid Communication 12巻、pp107−112、1991年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体からなり、光透過率が高く、光伝送損失が小さい光学用成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物を開環メタセシス重合して得られる重合体の成形体において、成形体を構成する重合体の分子量を所定の範囲とし、成形体中における周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量を特定量に制御することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物を開環メタセシス重合して得られ、重量平均分子量(Mw)が10,000〜500,000であるノルボルネン化合物開環重合体の成形体であって、該成形体は、周期表第4族〜第8族遷移金属を含み、該成形体中における周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量が、重量比率で、10ppm以下である光学用成形体が提供される。
【0009】
好ましくは、前記ノルボルネン化合物開環重合体が、下記式(1)で示される重合体である。
【化2】

(式中、R〜Rは、フッ素原子または炭素数1〜6のフルオロアルキル基であり、RとRとは互いに結合して環を形成しても良い。mは0または1である。)
【0010】
好ましくは、前記周期表第4族〜第8族遷移金属が、ルテニウムである。
本発明の光学用成形体は、光ファイバーまたは光導波路として好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体からなり、透明性に優れ、光透過率が高く、光伝送損失が小さい光学用成形体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の光学用成形体は、フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物を開環メタセシス重合して得られ、重量平均分子量(Mw)が10,000〜500,000であるノルボルネン化合物開環重合体からなり、周期表第4族〜第8族遷移金属を含み、成形体中における周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量が、重量比率で、10ppm以下の成形体である。
【0013】
ノルボルネン化合物開環重合体
まず、本発明の光学用成形体を構成するノルボルネン化合物開環重合体について説明する。
本発明で用いられるノルボルネン化合物開環重合体は、フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物を開環メタセシス重合して得られ、重量平均分子量(Mw)が10,000〜500,000の重合体である。このような重合体としては、下記式(1)で表される重合体が好ましい。
【化3】

(式中、R〜Rは、フッ素原子または炭素数1〜6のフルオロアルキル基であり、RとRとは互いに結合して環を形成しても良い。mは0または1であり、好ましくは0である。)
【0014】
上記式(1)で表される重合体は、下記式(2)で表されるノルボルネン化合物を開環メタセシス重合することにより得ることができる。
【化4】

(式中、R〜R、mは、上記式(1)と同様。)
【0015】
上記式(2)で表され、上記式(1)で表される重合体を与えるノルボルネン化合物としては、R〜Rのいずれかがフルオロアルキル基で、m=0であるノルボルネン類;R〜Rのいずれかがフルオロアルキル基で、m=1であるテトラシクロドデセン類;RとRとが互いに結合して環を形成するもので、m=0であるノルボルネン類;RとRとが互いに結合して環を形成するもので、m=1であるテトラシクロドデセン類;などが挙げられる。
【0016】
〜Rのいずれかがフルオロアルキル基で、m=0であるノルボルネン類としては、たとえば、下記式(3)〜(5)で表される化合物が挙げられる。
【化5】

【0017】
〜Rのいずれかがフルオロアルキル基で、m=1であるテトラシクロドデセン類としては、たとえば、下記式(6)〜(8)で表される化合物が挙げられる。
【化6】

【0018】
とRとが互いに結合して環を形成するもので、m=0であるノルボルネン類としては、たとえば、下記式(9)、(10)で表される化合物が挙げられる。
【化7】

【0019】
とRとが互いに結合して環を形成するもので、m=1であるテトラシクロドデセン類としては、たとえば、下記式(11)、(12)で表される化合物が挙げられる。
【化8】

【0020】
これらのなかでも、m=0であるノルボルネン類が好ましく、特に、m=0であり、RとRとが互いに結合して環を形成しているノルボルネン類がより好ましい。
【0021】
本発明で用いるノルボルネン化合物開環重合体は、上述した各化合物のようなフッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物をメタセシス反応触媒の存在下で重合することによって製造することができる。
重合に用いるメタセシス反応触媒としては特に限定されず、フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物を開環メタセシス重合させるものであれば何でも良いが、本発明では、周期表第4族〜第8族遷移金属化合物が好ましい。このようなメタセシス反応触媒としては、たとえば、Olefin Metathesis(Kenneth J,Irvin,Academic Press,New York 1983)に記載されているような、遷移金属化合物と助触媒としてのルイス酸との組合せによる開環メタセシス触媒系、より具体的には、モリブデン、タングステン、バナジウム、チタンなどの遷移金属のハロゲン化物と、有機アルミニウム化合物、有機錫化合物またはリチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、ホウ素などの有機金属化合物からなる助触媒とから構成される開環メタセシス触媒が挙げられる。
【0022】
開環メタセシス触媒を構成する遷移金属のハロゲン化物の具体例としては、MoCl、MoOClなどのモリブデンハロゲン化物;WCl、WOBr、WOCl、WCl(OCClなどのタングステンハロゲン化物;VOCl、VOBrなどのバナジウムハロゲン化物;TiCl、TiBrなどのチタンハロゲン化物;などが挙げられる。
【0023】
また、助触媒としての有機金属化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリドなどの有機アルミニウム化合物;テトラメチル錫、テトラエチル錫、テトラブチル錫などの有機錫化合物;n−ブチルリチウムなどの有機リチウム化合物;などが挙げられる。
【0024】
また、その他の触媒として、周期表第4族〜第8族遷移金属−カルベン錯体やメタラシクロブテン錯体などが挙げられる。以下に、具体例を示す。
なお、以下において、「Pri」はiso−プロピル基を、「But」はtert−ブチル基を、「Me」はメチル基を、「Ph」はフェニル基を、「BIPHEN」は5,5’,6,6’−テトラメチル−3,3’ジ−tert−ブチル−1,1’ビフェニール−2,2’−ジオキシ基を、「BINO」は1,1’−ジナフチル−2,2’−ジオキシ基を、「THF」はテトラヒドロフランを、「Cy」はシクロヘキシル基を、それぞれ示す。
すなわち、周期表第4族〜第8族遷移金属−カルベン錯体やメタラシクロブテン錯体の具体例としては、W(N−2,6−Pri)(CHBut)(OBut)、W(N−2,6−Pri)(CHBut)(OCMeCF、W(N−2,6−Pri)(CHBut)(OCMe(CF、W(N−2,6−Pri)(CHCMePh)(OBut)、W(N−2,6−Pri)(CHCMePh)(OCMeCF)、W(N−2,6−Pri)(CHCMePh)(OCMe(CFなどのタングステン系アルキリデン触媒;Mo(N−2,6−Pri)(CHBut)(OBut)、Mo(N−2,6−Pri)(CHBut)(OCMeCF、Mo(N−2,6−Pri)(CHBut)(OCMe(CF、Mo(N−2,6−Pri)(CHCMePh)(OBut)、Mo(N−2,6−Pri)(CHCMePh)(OCMeCF)、Mo(N−2,6−Pri)(CHCMePh)(OCMe(CF、Mo(N−2,6−Pri)(CHCMePh)(BIPHEN)、Mo(N−2,6−Pri)(CHCMePh)(BINO)(THF)などのモリブデン系アルキリデン触媒;Ru(CHCHCPh)(PPhCl、Ru(CHPh)(PCyCl、ビス(1,3−ジイソプロピル−イミダゾリン−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリドなどのルテニウム系アルキリデン触媒;などが挙げられる。
上記開環メタセシス触媒は、単独にまたは2種以上混合してもよい。
【0025】
なお、上記開環メタセシス触媒は、いずれも周期表第4族〜第8族遷移金属を含有するものであるため、得られるノルボルネン化合物開環重合体およびこれを成形することにより得られる本発明の光学用成形体には、周期表第4族〜第8族遷移金属が触媒残渣として含まれることとなる。
【0026】
開環メタセシス触媒の使用量は、次の範囲とすることが好ましい。すなわち、遷移金属ハロゲン化物と有機金属化合物からなる開環メタセシス触媒では、ノルボルネン化合物100モルに対して、遷移金属ハロゲン化物の使用量は、好ましくは0.01〜10モル、より好ましくは0.1〜5モルであり、助触媒としての有機金属化合物の使用量は、好ましくは0.05〜20モル、より好ましくは0.2〜10モルである。また、タングステン、モリブデンまたはルテニウムなどのアルキリデン触媒の場合には、ノルボルネン化合物100モルに対して、その使用量は、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜3モルである。開環メタセシス触媒の使用量が少なすぎると、重合反応の進行が不十分となる傾向にある。一方、使用量が多すぎると、重合反応後における開環メタセシス触媒の除去が困難となり、光学用成形体とした場合における、光学特性が悪化する場合がある。
【0027】
上記開環メタセシス触媒のなかでも、タングステンハロゲン化物やルテニウム−カルベン錯体を用いると、高活性で重合できるため好ましく、助触媒を必要としないという点より、ルテニウム−カルベン錯体を用いることがより好ましい。特に、高活性で重合させ、しかも後述するように、得られる成形体中における、主として触媒残渣に由来する周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量を所定量に低減することにより、重合体の主鎖二重結合を水素化しなくても、光透過率をより高いものとすることができる。
【0028】
開環メタセシス重合は、フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物および開環メタセシス触媒を溶媒に溶解させ、溶液中で行われる。開環メタセシス重合に用いる溶媒としては、特に限定されないが、たとえば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタンなどのエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族環状炭化水素;メチレンジクロリド、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、テトラクロロエタン、クロルベンゼン、トリクロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;などが挙げられる。これらは2種以上混合して使用してもよい。
【0029】
また、ノルボルネン化合物開環重合体を製造する際には、得られる重合体の分子量を制御するために、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、スチレン、1−ヘキセン、4−メチルペンテン、ヘキサジエンなどのオレフィン存在下で開環メタセシス重合を行ってもよい。
【0030】
ノルボルネン化合物を、開環メタセシス重合させる際の重合条件としては、特に限定されないが、重合温度は、通常、−50〜+150℃、好ましくは0〜100℃、重合時間は、重合温度、触媒の使用量等に応じて適宜決定すればよいが、通常、1分間〜24時間である。重合反応は、重合転化率が、好ましくは90重量%以上、より好ましくは99重量%以上となったところで、重合反応を終了すればよい。重合転化率は、ガスクロマトグラフィーにより、残留する単量体を測定することにより求めることができる。
【0031】
このようにして、本発明で用いるノルボルネン化合物開環重合体を製造することができる。本発明で用いるノルボルネン化合物開環重合体は、重量平均分子量(Mw)が10,000〜500,000、好ましくは15,000〜450,000、より好ましくは18,000〜400,000、特に好ましくは20,000〜300,000である。分子量が低すぎると、光学用成形体とした場合における強度が低くなり過ぎてしまう。一方、分子量が高すぎると成形が困難となる。
【0032】
また、本発明で用いるノルボルネン化合物開環重合体は、上述したようなフッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物以外のノルボルネン化合物を共重合したものであっても良い。この場合には、光学用成形体とした場合に、高い光透過性が得られるという点より、フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物由来の繰り返し単位の割合が、重合体全繰り返し単位の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは97重量%以上である。
【0033】
さらに、本発明では、主として触媒残渣として含有される、ノルボルネン化合物開環重合体中の周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量を、重量比で、10ppm以下とすることが好ましい。
【0034】
ノルボルネン化合物開環重合体中における周期表第4族〜第8族遷移金属の含有割合を10ppm以下とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、ノルボルネン化合物開環重合体を得る際に用いる開環メタセシス重合触媒の使用量を、得られる重合体に対して遷移金属量で10ppm以下として重合する方法などが挙げられる。特に、開環メタセシス重合触媒として上述のルテニウム−カルベン触媒を用いた場合には、ルテニウム−カルベン触媒は、上述のフッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物に対して高い重合活性を示すので、少量の使用量で重合することができる場合がある。
【0035】
あるいは、所望の重合体を得るためには、開環メタセシス重合触媒の使用量を、遷移金属量で10ppm超とする必要がある場合には、重合後のノルボルネン化合物開環重合体を含有する重合体溶液中から触媒残渣を除去する方法を採用することが好ましい。触媒残渣を除去する方法としては、以下の(1)〜(3)の方法を挙げることができる。
【0036】
(1)吸着剤により吸着除去する方法
すなわち、第1に、重合後のノルボルネン化合物開環重合体を含有する重合体溶液中に、シリカ、アルミナ、活性炭、酸性白土、イオン交換樹脂等の吸着剤を添加して、好ましくは0.1〜100時間攪拌した後、吸着剤を濾過することにより、触媒残渣を除去することができる。または、上記の吸着剤を充填した容器内を、重合体溶液を通過させることにより、触媒残渣を除去することができる。なお、この際、重合体溶液を加温してもよい。
たとえば、開環メタセシス重合触媒として、ルテニウム−カルベン触媒を用いた場合には、触媒残渣の除去効率を高めるという点より、上記した吸着剤のなかでも、活性炭または酸性白土を用いるのが好ましい。あるいは、吸着剤による吸着除去を行う前に、重合後のノルボルネン化合物開環重合体を含む重合体溶液に、トリフェニルホスフィンオキシドやジメチルスルフォキシドなどのオキシド類を加えて、ルテニウム−カルベン触媒残渣を変性させて、吸着剤に吸着し易くしたり、有機溶媒に不溶化させた後に、吸着除去を行ってもよい。
【0037】
(2)触媒残渣を水相に移す方法
また、第2に、本発明で用いるノルボルネン化合物開環重合体は水に溶解しないので、触媒残渣を変性させて水溶性とし、触媒残渣を有機相から水相に分離することにより、触媒残渣を除去することができる。
たとえば、開環メタセシス重合触媒として、ルテニウム−カルベン触媒を用いた場合には、上述のトリフェニルホスフィンオキシドやジメチルスルフォキシドなどのオキシド類を加えたり、PhP(p−CSONa)などの水溶性ホスフィン類を加えて反応させ、水溶性とした後、水あるいは酸性水溶液を加えて攪拌し、その後、有機相のみを回収することにより、触媒残渣を除去することができる。
【0038】
(3)大量の貧溶媒で重合体を凝固する方法
さらに、第3に、重合体溶液を重合体に対して貧溶媒である多量のメタノール、水等に添加して凝固させることにより、触媒残渣を除去することができる。
【0039】
これらのなかでも、触媒残渣の除去効果が高いという点より、上記(1)の方法が好ましい。また、上記(1)〜(3)は、組み合わせて行っても良く(たとえば、(1)の操作を行った後に、(3)の操作を行っても良い。)、これらを組み合わせることにより、触媒残渣の除去効果のさらなる向上を図ることができる。
【0040】
このようにして、触媒残渣を除去したノルボルネン化合物開環重合体の回収は、重合体溶液から直接溶剤を除去する方法、上記メタノール等の貧溶媒で凝固・分離する方法等の公知の方法により行なうことができる。
【0041】
光学用成形体
本発明の光学用成形体は、上述のノルボルネン化合物開環重合体を成形することにより得られ、周期表第4族〜第8族遷移金属を含有し、成形体中における周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量が、重量比で、10ppm以下のものである。なお、周期表第4族〜第8族遷移金属は、通常、触媒残渣として成形体中に含有されることとなる。
【0042】
成形体中における周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量は、好ましくは8ppm以下であり、より好ましくは6ppm以下である。成形体中における周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP−AES法)により求めることができる。周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量が多すぎると、光透過率が低くなるとともに、光伝送損失が大きくなってしまう。また、得られる成形体の強度を十分なものとするために必要となる量の開環メタセシス触媒を用いた場合には、成形体中における周期表第4族〜第8族遷移金属は、上述した触媒残渣除去方法を用いた場合においても、少なくとも0.01ppm程度は残存すること、および金属含有量の測定限界が0.01ppm程度であることから、その下限は0.02ppmであることが好ましく、より好ましくは0.05ppmである。
【0043】
上述のノルボルネン化合物開環重合体を成形し、本発明の光学用成形体を得る方法としては、特に限定されないが、重合後のノルボルネン化合物開環重合体を含有する重合体溶液または、ノルボルネン化合物開環重合体を溶剤に溶解させて得られる重合体溶液を、基材上に塗布または流延し、次いで、溶剤を蒸発除去する方法や、ノルボルネン化合物開環重合体を溶融成形する方法などが挙げられる。なかでも、本発明で用いるノルボルネン化合物開環重合体は、高温下でも安定であるため、溶融成形により、成形体とすることが好ましい。なお、溶融成形としては、射出成形、ブロー成形、モールド成形、真空成形、回転成形、溶融押出し成形、溶融紡糸などの任意の溶融成形が可能である。
【0044】
本発明の光学用成形体は、上述のノルボルネン化合物開環重合体のみからなるものであってもよいが、他の透明樹脂を任意の割合で含有するものであっても良い。このような他の透明樹脂としては、たとえば、環状オレフィン付加重合体、水素化された環状オレフィン開環重合体、α−オレフィンと環状オレフィンとの付加共重合体、結晶性のα−オレフィン重合体、ゴム状のエチレンと炭素数が3以上のα−オレフィンとの共重合体、水素化されたブタジエン重合体、水素化されたブタジエン・スチレンブロック共重合体、水素化されたイソプレン重合体等が挙げられる。
【0045】
さらに、本発明の成形体には、必要に応じて各種添加剤が配合されていても良い。このような添加剤としては、充填材、酸化防止剤、蛍光体、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、屈折率向上剤、染料や顔料等の着色剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、架橋剤等が挙げられる。
充填材としては、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属の酸化物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。
また、蛍光体は、光を受けて励起し、励起波長よりも長い波長の光を発光するものであり、たとえば、光学素子を封止する場合に、光学素子が発光する青色領域から紫外線領域の波長を受けて、可視領域の波長を発光させるのに用いられる。
【0046】
このようにして得られる本発明の光学用成形体は、フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物を開環メタセシス重合体してなる、所定の分子量を有するノルボルネン化合物開環重合体からなり、周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量が、上記特定の範囲に制御されているものであるため、全光線透過率が高く、光伝送損失が小さいものである。そのため、各種光学用の成形体として好適に使用することができる。たとえば、光ディスク、光学レンズ、光カード、光ファイバー、光導波路、光学ミラー、光スイッチ、光カプラ、波長合分波器、光コネクタ、液晶表示素子基板、導光板、偏光フィルム、位相差フィルムなどとして好適に用いることができる。特に、本発明の光学用成形体は、全光線透過率が高いことに加え、光伝送損失が小さいという性質も有するため、上記のなかでも、光ファイバー、光導波路、光学ミラー、光スイッチ、光カプラ、波長合分波器、光コネクタとして特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験、評価は下記によった。
【0048】
ノルボルネン化合物開環重合体の分子量
ノルボルネン化合物開環重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を、テトラヒドロフランを展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
【0049】
周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量
ノルボルネン化合物開環重合体の周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量を、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP−AES法)により求めた。
【0050】
全光線透過率
熱プレスにより得られた厚さ1mmの成形体について、紫外・可視分光計(JASCO社製、商品名「V−550」)を用いて、ASTM D1003に準拠して全光線透過率を測定した。
【0051】
光伝送損失
溶融紡糸により得られたファイバー状の成形体について、1275nmの光線を用いて、カットバック法により光伝送損失を測定した。
【0052】
実施例1
窒素置換したガラス反応容器に、2,3,3,4,4,5,5,6−オクタフルオロトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン(上記式(9)で表される化合物)50部、1−オクテン0.16部、およびテトラヒドロフラン180部を加えて攪拌した後、(1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド0.020部を20部のテトラヒドロフランに溶解した触媒溶液を加えて、60℃で3時間重合を行った。次いで、反応容器に、0.2部のエチルビニルエーテルを添加して重合を停止することにより、重合体溶液を得た。
【0053】
得られた重合体溶液にテトラヒドロフランを加え、重合体濃度が5重量%となるように希釈した後、重合体に対して10重量%の活性炭と酸性白土を添加し、1日間攪拌することにより、触媒残渣の吸着除去を行った。そして、活性炭と酸性白土を濾過して除き、続いて酸化防止剤Irganox1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を重合体に対して1重量%となるように加えた過剰のメタノール/水(8/1)に滴下して重合体を析出させて回収し、次いで、真空乾燥器にて60℃、3日間乾燥して粉末状のノルボルネン化合物開環重合体を得た。
【0054】
得られたノルボルネン化合物開環重合体を用いて、厚さ1mmの成形体サンプルおよび内径0.3mmのファイバー状の成形体サンプルを得た。なお、厚さ1mmの成形体サンプルは、ノルボルネン化合物開環重合体を250℃で熱プレスすることにより製造した。また、内径0.3mmのファイバー状の成形体サンプルは、ノルボルネン化合物開環重合体を、メルトインデクサー(L=8mm、D=1mmφ)を用いて、240℃で溶融紡糸することにより製造した。
【0055】
そして、上記にて作製した各成形体を用いて、ノルボルネン化合物開環重合体の分子量、周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量、全光線透過率、および光伝送損失の各測定を行った。結果を表1に示す。なお、実施例1においては、周期表第4族〜第8族遷移金属としては、ルテニウムが検出され、ルテニウム以外の周期表第4族〜第8族遷移金属については実質的に検出されなかった(後述する実施例2、比較例1,2においても同様。)。また、表1には、厚さ1mmの成形体サンプルの色、およびファイバー状の成形体サンプルの性状についても、それぞれ示した。
【0056】
実施例2
1−オクテンの使用量を0.16部から0.19部に変更した以外は、実施例1と同様にして、2,3,3,4,4,5,5,6−オクタフルオロトリシクロ[5.2.1.02,6]デセンの重合体溶液を得た。
【0057】
そして、得られた重合体溶液に、テトラヒドロフランを加え、重合体濃度が5重量%となるように希釈した後、重合体に対して100重量%のイオン交換樹脂アンバーライトIRC748(ローム・アンド・ハース社製)を添加し、1日間攪拌することにより、触媒残渣の吸着除去を行った。そして、イオン交換樹脂を濾過して除き、続いて酸化防止剤Irganox1076を重合体に対して1重量%となるように加えた過剰のメタノール/水(8/1)に滴下して重合体を析出させて回収し、次いで、真空乾燥器にて60℃、3日間乾燥して粉末状のノルボルネン化合物開環重合体を得た。
そして、得られたノルボルネン化合物開環重合体を用いて、実施例1と同様に、各成形体を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
実施例3
窒素置換したガラス反応容器に、2,3,3,4,4,5,5,6−オクタフルオロトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン50部、1−オクテン0.16部、テトラ(n−ブチル)スズ0.25部、トルエン180部を加えて攪拌した後、六塩化タングステン0.20部を20部のトルエンに溶解した触媒溶液を加えて、60℃で3時間重合を行った。次いで、反応容器に、1部のメタノールを添加して重合を停止することにより、重合体溶液を得た。
【0059】
得られた重合体溶液に、トルエンを加え、重合体濃度が5重量%となるように希釈した後、重合体に対して10重量%の活性炭と酸性白土を添加し、1日間攪拌することにより、触媒残渣の吸着除去を行った。そして、活性炭と酸性白土を濾過して除き、続いて酸化防止剤Irganox1076を重合体に対して1重量%となるように加えた過剰のメタノールに滴下して重合体を析出させて回収し、次いで、真空乾燥器にて60℃、3日間乾燥して粉末状のノルボルネン化合物開環重合体を得た。
そして、得られたノルボルネン化合物開環重合体を用いて、実施例1と同様に、各成形体を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、実施例3においては、周期表第4族〜第8族遷移金属としては、タングステンが検出され、タングステン以外の周期表第4族〜第8族遷移金属については実質的に検出されなかった。
【0060】
比較例1
実施例1と同様にして作製した重合体溶液の一部に酸化防止剤Irganox1076を重合体に対して1重量%となるように加え、この重合体溶液をガラス板上に垂らし、室温で1日間乾燥し、次いで、真空乾燥器にて60℃、3日間乾燥してシート状のノルボルネン化合物開環重合体を得た。すなわち、比較例1においては、ノルボルネン化合物開環重合体を製造する際に、活性炭と酸性白土等の吸着剤を用いた触媒残渣の吸着除去を行わなかった。
そして、得られたノルボルネン化合物開環重合体を用いて、実施例1と同様に、各成形体を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
比較例2
2,3,3,4,4,5,5,6−オクタフルオロトリシクロ[5.2.1.02,6]デセンの代わりに、ジシクロペンタジエンを用いた以外は、実施例1と同様にして、ノルボルネン化合物開環重合体を得た。
そして、得られたノルボルネン化合物開環重合体を用いて、実施例1と同様に、各成形体を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物を開環メタセシス重合体してなり、重量平均分子量(Mw)が10,000〜500,000である重合体を用い、周期表第4族〜第8族遷移金属を10ppm以下の範囲で含有してなる成形体は、全光線透過率が高く、光伝送損失が小さくなる結果となった。加えて、得られる成形体は透明であり、成形体をファイバー状とした場合には、しなやかな性状を有するものとなる結果となった(実施例1〜3)。
【0064】
これに対して、周期表第4族〜第8族遷移金属が多すぎる場合には、得られる成形体は、全光線透過率が低く、光伝送損失が大きくなる結果となった(比較例1)。また、同様に、ノルボルネン化合物開環重合体として、ジシクロペンタジエンを重合したものを用いた場合にも、得られる成形体は、全光線透過率が低く、光伝送損失が大きくなる結果となった(比較例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素原子、炭素原子および水素原子から構成されるノルボルネン化合物を開環メタセシス重合して得られ、重量平均分子量(Mw)が10,000〜500,000であるノルボルネン化合物開環重合体の成形体であって、該成形体は、周期表第4族〜第8族遷移金属を含み、該成形体中における周期表第4族〜第8族遷移金属の含有量が、重量比率で、10ppm以下である光学用成形体。
【請求項2】
前記ノルボルネン化合物開環重合体が、下記式(1)で示される重合体である請求項1に記載の光学用成形体。
【化1】

(式中、R〜Rは、フッ素原子または炭素数1〜6のフルオロアルキル基であり、RとRとは互いに結合して環を形成しても良い。mは0または1である。)
【請求項3】
前記周期表第4族〜第8族遷移金属が、ルテニウムである請求項1または2に記載の光学用成形体。
【請求項4】
光ファイバーまたは光導波路である請求項1〜3のいずれかに記載の光学用成形体。

【公開番号】特開2009−167317(P2009−167317A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7944(P2008−7944)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】