説明

光学的測定装置及び光学的測定方法

【課題】光学系の調整が容易で、かつ装置全体を小型化することができる光学的測定装置及び光学的測定方法を提供する。
【解決手段】流路内を通流する試料に励起光5を照射する光照射部2と、励起光5が照射された試料から発せられた蛍光6及び散乱光7を、励起光5の進行方向前方側で検出する光検出部4とを有する光学的測定装置において、検出部4に、散乱光7を、特定の開口数以下の低開口数成分と、それよりも開口数が高い高開口数成分とに分離するNA分離マスク45と、このNA分離マスク45上に対物レンズ40の瞳と共役面を形成するリレーレンズ系(レンズ43a,43b)と、低開口数成分を検出する散乱光検出器49と、高開口数成分を検出する散乱光検出器47を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子などの試料を識別する光学的測定装置及び光学的測定方法に関する。より詳しくは、特定波長の光が照射されたときに試料から発せられる蛍光や散乱光を検出し、その種類などを識別する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、細胞、微生物及びリポソームなどの生体関連微小粒子を識別する場合は、フローサイトメトリー(フローサイトメーター)を用いた光学的測定方法が利用されている(例えば、非特許文献1参照。)。フローサイトメトリーは、流路内を1列になって通流する微小粒子に特定波長のレーザ光を照射し、各微小粒子から発せられた蛍光又は散乱光を検出することで、複数の微小粒子を1個ずつ識別する分析手法である。
【0003】
具体的には、流路内において、測定対象の微小粒子を含むサンプル液と、その周囲を流れるシース(鞘)液とで層流を形成し、サンプル液中に含まれる複数の微小粒子を1列に並べる。その状態で流路に向けてレーザ光を照射すると、微小粒子がレーザービームを横切るように1個ずつ通過する。このとき、レーザ光により励起されて各微小粒子から発せられた蛍光及び/又は散乱光を、CCD(Charge Coupled Device;電荷結合素子)又はPMT(Photo-Multiplier Tube;光電子増倍管)などの光検出器を用いて検出する。そして、光検出器で検出した光を電気的信号に変換して数値化し、統計解析を行うことにより、個々の微小粒子の種類、大きさ及び構造などを判定する。
【0004】
このフローサイトメトリーにおいて測定される散乱光には、大きく分けて2種類あり、レーザ光の入射角とほぼ同じ角度で散乱する光を「前方散乱光」、レーザ光の進行方向に対して垂直方向に散乱する光を「側方散乱光」と呼んでいる。例えば測定対象の試料が細胞である場合、「前方散乱光」は細胞の大きさに関する情報を、「側方散乱光」は細胞の形態や内部構造に関する情報を反映することが広く知られている。そして、従来、この原理を利用した分析装置が開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0005】
図11は側方散乱光を測定する機構を備えた従来の光学的測定装置の構成を模式的に示す図である。例えば、図11に示す従来の光学的測定装置100では、分析チップ102の検出領域109に向けて光源101から励起光111を照射し、これにより微小粒子110から発せられた散乱光のうち側方散乱成分112を、分析チップ102よりも手前側で検出している。具体的には、微小粒子110から発せられた側方散乱成分112は、集光レンズ103やピンホール104などを介して、PMTなどの散乱光検出器105で検出される。
【0006】
これに対して、前方散乱成分113は、蛍光と同様に、光の進行方向側で検出している。具体的には、微小粒子110から発せられた前方散乱成分113は、蛍光などと共に対物レンズ106で集光され、更に励起光遮光マスク107により励起光111が除去された後、LPF(long Pass Filter)108によって蛍光と分離され、検出器(図示せず)で検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−230333号公報
【特許文献2】特開2007−263894号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】中内啓光監修,「細胞工学別冊 実験プロトコルシリーズ フローサイトメトリー自由自在」,第2版,株式会社秀潤社,2006年8月31日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。即ち、図11に示す従来の光学的測定装置100では、励起光111についての集光レンズの焦点、前方散乱成分113及び蛍光を検出するための対物レンズ106の焦点、側方散乱成分112を検出するための集光レンズ103の焦点の3つ焦点を合わせる必要がある。このため、従来の装置には、光学系の調整が煩雑であり、更に小型化しにくいという問題点がある。
【0010】
そこで、本発明は、光学系の調整が容易で、かつ装置全体を小型化することができる光学的測定装置及び光学的測定方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光学的測定装置は、流路内を通流する試料に励起光を照射する光照射部と、励起光が照射された試料から発せられた散乱光を、前記励起光の進行方向前方側で検出する散乱光検出部と、を有し、前記散乱光検出部は、少なくとも、前記散乱光を、特定の開口数以下の低開口数成分と、それよりも開口数が高い高開口数成分とに分離する散乱光分離マスクと、前記低開口数成分を検出する第1検出器と、前記高開口数成分を検出する第2検出器と、を備えるものである。
本発明においては、検出部に、低開口数成分と高開口数成分とを分離する散乱光分離マスクを設けているため、励起光の進行方向前方側で側方散乱光成分も検出可能となる。これにより、励起光の進行方向後方側で、側方散乱光成分を検出するための光学系が不要となる。
この光学的測定装置では、前記散乱光分離マスク上に共役面を形成するリレーレンズ系を設けることもできる。
また、前記低開口数成分は、開口数が0.3以下であってもよい。
更に、前記高開口数成分は、開口数が0.6以上としてもよい。
その場合、前記散乱光分離マスクは、開口数が0.3以下の低開口数成分を透過又は反射すると共に、開口数が0.6以上の高開口数成分を反射又は透過し、開口数が0.3を超え0.6未満の成分を吸収する構成とすることができる。
また、マイクロ流路を備えた分析チップを有し、前記光照射部は前記マイクロ流路内を通流する試料に励起光を照射してもよい。
更に、励起光を除去する励起光遮光マスクを設けることもできる。
更にまた、励起光が照射された試料から発せられた蛍光を検出する蛍光検出部を有し、前記試料と蛍光検出部及び散乱光検出部との間に、蛍光と散乱光とを分離するフィルターが配設されていてもよい。
【0012】
本発明に係る光学的測定方法は、測定対象の試料に励起光を照射する工程と、励起光が照射された試料から発せられた散乱光を、前記励起光の進行方向前方側において、特定の開口数以下の低開口数成分と、それよりも開口数が高い高開口数成分とに分離する工程と、前記低開口数成分と前記高開口数成分とを個別に検出する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、励起光が照射された試料から発せられた散乱光のうち、前方散乱光成分だけでなく、側方散乱光成分も、励起光の進行方向前方側で検出しているため、光学系の調整が容易で、かつ装置全体を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態の光学的測定装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】遮光マスク41の構成を模式的に示す図である。
【図3】NA分離マスク45の構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の光学的測定装置の構成を模式的に示す図である。
【図5】NA分離マスク50の構成を模式的に示す図である。
【図6】NA分離ミラー51の構成を模式的に示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態の光学的測定装置の構成を模式的に示す図である。
【図8】NA分離マスク52の構成を模式的に示す図である。
【図9】本発明の実施例で使用した光学的測定装置の構成を模式的に示す図である。
【図10】(a)及び(b)は図9に示す装置を使用して側方散乱光を検出した結果を示す図である。
【図11】側方散乱光を測定する機構を備えた従来の光学的測定装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す各実施形態に限定されるものではない。また、説明は、以下の順序で行う。

1.第1の実施の形態
(励起光の進行方向側で側方散乱光を検出する光学的測定装置の例)
2.第2の実施の形態
(遮光マスクの代わりにNA分離マスクを配設した光学的測定装置の例)
3.第3の実施の形態
(対物レンズ瞳にNA分離マスクを配設した光学的測定装置の例)

【0016】
<1.第1の実施の形態>
[光学的測定装置の全体構成]
図1は本発明の第1の実施形態に係る光学的測定装置の構成を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施形態の光学的測定装置1は、マイクロ流路が形成された分析チップ3を使用して微小粒子などの試料の測定を行うものであり、少なくとも、光照射部2と検出部4とを備えている。そして、例えばマイクロチップ型FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)システムに使用される。
【0017】
[光照射部2の構成]
光照射部2は、分析チップ3に設けられた流路を通流する試料に励起光5を照射するものであり、少なくとも、励起光5を発する光源20が設けられている。ここで使用する光源20は、測定内容などに応じて適宜選択することができるが、例えばレーザダイオード、SHG(Second Harmonic Generation)レーザ、ガスレーザ及び高輝度LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)などを使用することができる。
【0018】
また、光照射部2には、必要に応じて、励起光5を試料に向けて集光する対物レンズ(図示せず)、及び特定波長の光のみを透過し、それ以外の光は反射する特性をもつバンドパスフィルター(図示せず)などを配設することもできる。例えば、バンドパスフィルターを配設した場合、不要な光成分を除去することができるため、特にLEDや白色光源を励起光として用いる場合に有効である。なお、光照射部2は、特定波長の光(励起光5)を、試料に照射可能な構成であればよく、光源、レンズ及び光学フィルターなどの各種光学部品の種類及び配置は適宜選択可能であり、前述した構成に限定されるものではない。
【0019】
[分析チップ3]
本実施形態の光学的測定装置1で使用する分析チップ3には、試料を通流させるマイクロ流路が設けられている。このマイクロ流路は、試料を含むサンプル液の周囲をシース液で囲んで層流を形成し、励起光5が照射される測定領域において、試料が一列に並んで通流するような構成となっている。また、分析チップ3には、採取対象の試料が集められる回収液貯留部と、採取対象外の試料が集められる排液貯留部とを設けることもでき、その場合、検出領域31よりも下流側に、これらに連通する複数の分岐流路が設けられる。
【0020】
[検出部4の構成]
検出部4は、励起光5が照射された試料から発せられた蛍光6や散乱光7を検出するものであり、少なくとも、試料から発せられた蛍光6を検出する蛍光検出器(図示せず)と、試料から発せられた散乱光7を検出する散乱光検出器47,49が設けられている。また、試料と蛍光検出器との間には、試料側から順に、対物レンズ40、励起光遮光マスク41、LPF(long Pass Filter)42が配設されている。
【0021】
一方、LPF42と散乱光検出器47,49との間には、LPF42側から順に、リレーレンズ系(レンズ43a,43b)、NA分離マスク45、集光レンズ46,48が配設されている。更に、リレーレンズ系を構成するレンズ43aとレンズ43bとの間には、必要に応じてピンホール44を配置することもできる。
【0022】
(対物レンズ40)
対物レンズ40は、試料から発せられた蛍光6及び散乱光7を集光するものであり、開口数NAが高いものを使用することが望ましい。これにより、測定対象の試料から生じる微弱な蛍光6及び散乱光7を、高感度に計測することが可能となる。
【0023】
(励起光遮光マスク41)
励起光5の照射により、試料からは、励起光5と同波長の散乱光7と、励起光5とは波長が異なる蛍光6が発せられるが、検出部4側に入射する光には、試料に照射されずに分析チップ3を透過した励起光5も含まれる。一方、試料から発せられる蛍光6及び散乱光7は、励起光5に比べて非常に微弱な光であるため、検出部4側に入射した光から励起光5を分離する必要がある。そこで、本実施形態の光学的測定装置1においては、検出部4に入射した光から励起光5を除去するため、対物レンズ40とLPF42との間に、励起光遮光マスク41を配設している。
【0024】
図2は遮光マスク41の構成を模式的に示す図である。図2に示すように、励起光遮光マスク41は、中心部分に反射領域41aが設けられ、その周囲に透過領域41bが設けられている。この励起光遮光マスク41では、開口数NAが低い励起光5を中心部分に設けられた反射領域41aで遮光し、試料から広い角度で出射される蛍光6や散乱光7は透過領域41bを通過し、各検出器に入射する構成となっている。
【0025】
ここで、励起光遮光マスク41の反射領域41aは、より大きい方が励起光5の遮光性に優れるが、その場合、信号強度が小さい蛍光6及び散乱光7の感度が低下してしまうという問題がある。このため、蛍光6及び散乱光7を高感度で検出するためには、励起光遮光マスク41の反射領域41aは、励起光5のNAを遮光できる最低限の大きさであることが望ましい。
【0026】
なお、反射領域41aが励起光5のNAを大幅に超えると、蛍光6及び散乱光7の検出感度が低下することがある。また、遮光領域41aが励起光5のNAと同等又は励起光5のNA未満であると、透過領域41bを通過する光にビーム強度が強い励起光5が混入してしまい、蛍光6及び散乱光7の測定に支障をきたすことがある。更に、光学部品の内部反射などによる迷光(励起光5)の混入も、測定に支障をきたすので、迷光及び散乱光以外の励起光成分は除去することが望ましい。
【0027】
(LPF42)
LPF42は、蛍光6と散乱光7を分離するものであり、特定波長の光のみを反射し、それ以外の波長成分を透過する構成となっている。具体的には、LPF42では、散乱光7を反射し、蛍光6を透過する。
【0028】
(蛍光検出器)
蛍光検出器は、試料から発せられる蛍光6を検出可能なものであればよく、特に限定されるものではないが、例えばPD(Photo diode)、CCD(Charge Coupled Device)又はPMT(Photo-Multiplier Tube)などを使用することができる。
【0029】
(リレーレンズ系)
リレーレンズ系は、所定の間隔で配置された2枚のレンズ43a,43bにより構成されており、倍率が1倍で、NA分離マスク45上に、対物レンズ40の瞳と共役な面を形成する。なお、これらレンズ43aとレンズ43bとの間には、ピンホール44を配設してもよく、これにより外乱成分を除去することができる。このピンホール44としては、例えば遮光プレートなどを使用することができる。
【0030】
(NA分離マスク45)
図3はNA分離マスク45の構成を模式的に示す図である。NA分離マスク45は、入射する散乱光7を、側方散乱成分7aと、前方散乱成分7bとに分離するものであり、例えば、特定の開口数以下の低NA成分を透過し、それよりも開口数が高い高NA成分を反射する構成とすることができる。又は、低NA成分を反射し、それよりも開口数が高い高NA成分を透過する構成としてもよい。
【0031】
更に、NA分離マスク45を、低NA成分としては例えば開口数NAが0.3以下の光とし、高NA成分を例えば開口数NAが0.6以上の光とし、開口数NAが0.3を超え0.6未満の成分を検出しない構成することもできる。開口数NAが0.3を超え0.6未満の領域は、低NA成分と高NA成分とが混在しているため、この領域の成分を検出しないようにすることにより、高NA成分を検出する散乱光検出器47への前方散乱成分7bの混入を低減することができる。その結果、散乱光検出器47,48におけるSN比が向上する。
【0032】
そのようなNA分離マスク45としては、例えば、図3に示すように、中心部分に透過領域45aが設けられ、その周囲に吸収領域45bが、更にその外側に反射領域41cが設けられた構成とすることができる。これにより、入射した散乱光7のうち開口数NAが低い前方散乱成分7bを透過し、開口数NAが高い側方散乱成分7aが反射される。その結果、前方散乱成分7bのみが検出器49で検出され、側方散乱成分7aのみが検出器47で検出されることとなる。
【0033】
又は、透過領域と反射領域とを入れ替え、中心部分に反射領域を設け、その周囲に吸収領域を、更にその外側に透過領域が設けられた構成としてもよい。この場合、入射した散乱光のうち開口数NAが低い前方散乱成分が反射され、開口数NAが高い側方散乱成分が透過されるため、検出器47で前方散乱成分を検出し、検出器49で側方散乱成分を検出することとなる。
【0034】
(集光レンズ46,48)
集光レンズ46,48は、側方散乱成分7a及び前方散乱成分7bを、それぞれ散乱光検出器47,49に向けて集光するものであり、例えば凸レンズ、フレネルレンズ、球面ミラーなどを使用することができる。
【0035】
(散乱光検出器47,49)
散乱光検出器47は、試料から発せられた側方散乱成分7aを検出するものであり、散乱光検出器49は試料から発せられた前方散乱成分7bを検出するものであり、例えばPD、CCD、PMT及びパワーメータなどを使用することができる。
【0036】
[光学的測定装置1の動作]
次に、本実施形態の光学的測定装置1により、分析チップ3を使用して、微小粒子などの試料を測定する方法について説明する。なお、本実施形態の光学的測定装置1により測定される試料は、励起光5を照射することにより、蛍光6及び散乱光7を発するものであればよく、例えば、細胞やマイクロビーズ等の微小粒子、ウィルス、バクテリア、酵母などが挙げられる。また、試料は、1又は複数の蛍光色素で修飾されていてもよい。
【0037】
本実施形態の光学的測定装置1では、先ず、光照射部2の光源20から、分析チップ3の検出領域31に向けて励起光5を出射し、分析チップ3のマイクロ流路を通流する試料に励起光5を照射する。このとき、測定対象の試料はマイクロ流路内を一列に並んで通流しているため、各試料に励起光5を個別に照射することができる。そして、これにより、試料からは励起光5と同波長の散乱光7と、励起光5よりも長波長の蛍光6が放出される。
【0038】
一方、試料から発せられた散乱光7及び蛍光6の信号強度は非常に小さいため、これらを精度よく検出するためには、励起光5と分離する必要がある。そこで、本実施形態の光学的測定装置1では、検出部4に入射した光を対物レンズ40で捕捉した後、励起光遮光マスク41によって検出部4に入射した光から励起光5を分離除去する。具体的には、開口数NAが0.1未満で入射する励起光5をマスク中心部の遮光領域41aで遮光し、開口数NAが0.1以上の広い角度で放出される散乱光7及び蛍光6は透過領域41bを介して入射させる。
【0039】
そして、蛍光6は、LPF42を透過し、蛍光検出器(図示せず)で検出される。一方、LPF42で反射された散乱光7は、対物レンズ40の瞳と共役な面が形成されるように構成されたリレーレンズ系(レンズ43a,43b)を通過し、NA分離マスク45によって、側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとに分離される。これにより、対物レンズ40の焦点面で生じたフォーカスずれ、光軸ずれの影響が軽微となる光学的位置にて、NA分離を行うことができるため、側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとを高精度で分離することができる。
【0040】
具体的には、NA分離マスク45において、低NA成分は透過(又は反射)し、高NA成分は反射(又は透過)し、それぞれ集光レンズ46,48を介して、散乱光検出器47,49に入射する。そして、例えば散乱光検出器47では、側方散乱成分7aの強度を測定し、例えば試料(細胞)の形態や内部構造に関する情報を得る。一方、散乱光検出器49では、前方散乱成分7bの強度を測定し、例えば試料の大きさに関する情報を得る。
【0041】
ここで、散乱光の特徴として、試料(微小粒子)のサイズが大きくなるに従い、前方への指向性が強くなり、側方及び後方へは散乱しなくなる。光の波長程度以上の大きさの粒子による光の散乱現象をミー散乱と言い、特に、粒子径が励起光5の波長の10倍以上の比較的大きいものである場合、かつ散乱角度が比較的小さな場合には、ミー散乱はフラウンホーファ回折で近似することができる。
【0042】
即ち、前方散乱成分7bは粒子外径に依存した散乱情報(フラウンホーファ回折)を多く含み、側方散乱成分7aは粒子の微細な内部情報(ミー散乱)を多く含むことが一般に知られている。そして、前方方向(励起光5の進行方向側)における高NA成分は、低NA成分よりも散乱角度が大きいため、側方散乱成分7aをより多く検出することができる。
【0043】
ここで、例えば高NA成分と低NA成分とを分離する際、高NA成分の基準となるNAが低いと、分離した高NA成分中に前方散乱成分が多く含まれることとなる。その場合、下記数式(1)に示すように、高NA成分から、低NA成分と任意の係数k(kは正数)との積とを引いた差分を、側方散乱成分とすればよい。
【0044】
【数1】

【0045】
このように、本実施形態の光学的測定装置1では、試料から発せられた側方散乱成分7a及び前方散乱成分7bの両方を、励起光5の進行方向側で検出しているため、分析チップ31の手前で散乱光を検出する必要がない。これにより、この後方散乱検出(側方散乱成分の励起光5の進行方向後方側での検出)のための光学系を排除することができ、軸調整も不要となる。
【0046】
また、本実施形態の光学測定装置1では、測定の際、励起光5の焦点、前方散乱成分7b及び蛍光6の焦点の2つの焦点を合わせればよいため、調整が容易となる。更に、従来に比べて調整軸が少ないため、装置の安定化及び低コスト化を実現することができる。
【0047】
更にまた、側方散乱光は信号強度が弱いため、従来の装置ではPMTで検出していたが、励起光5の進行方向に対して前方側での検出は、後方側での検出よりも、信号強度が強いため、PDでの検出が可能となる。これにより、検出部4の構成をコンパクトにすることができるため、装置を小型化及び低コスト化することが可能となる。
【0048】
更に、分析チップ3を使用して細胞などの微小粒子を測定する場合、励起光5の進行方向に対して斜め後方側での検出は、チップ3の厚さの誤差によりコマ収差が発生し、検出精度に大きく影響していたが、前方側での検出ではチップ厚さの影響が小さい。これにより、分析チップ3を用いた場合でも、高精度で測定することができる。
【0049】
<2.第2の実施の形態>
[光学的測定装置11の全体構成]
図4は本発明の第2の実施形態に係る光学的測定装置の構成を模式的に示す図である。なお、図4においては、前述した第1の実施形態の光学的測定装置1の構成要素と同じものには、同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。図4に示すように、本実施形態の光学的測定装置11は、検出部14に、励起光遮光マスク41に代えてNA分離マスク50を、NA分離マスク45に代えてNA分離ミラー51を、それぞれ配設した以外は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0050】
[NA分離マスク50]
図5はNA分離マスク50の構成を模式的に示す図である。NA分離マスク50は、対物レンズ40で捕捉された光から励起光5、及び側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとが混在する領域の光を取り除くものである。具体的には、開口数NAが0.1未満及び0.3を超え0.6未満の成分を反射し、開口数NAが0.1〜0.3及び0.6以上の成分を透過する構成とすることができる。
【0051】
このようなNA分離マスク50としては、例えば、図5に示すように、中心部分に反射領域50aが設けられ、その周囲に透過領域50bを設け、更にその外側に反射領域50cとし、それよりも外側は透過領域50dとした構成とすることができる。これにより、蛍光6、側方散乱成分7a及び前方散乱成分7bが透過し、励起光5や側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとが混在する領域の光は反射されることとなる。その結果、検出対象の蛍光6、側方散乱成分7a及び前方散乱成分7bのみを、LPF42に入射させることができる。
【0052】
[NA分離ミラー51]
図6はNA分離ミラー51の構成を模式的に示す図である。NA分離ミラー51は、側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとを分離するものであり、例えば、開口数NAが0.6未満の成分を透過し、開口数NAが0.6を超える成分を反射する構成とすることができる。この場合、中心部分に透過領域51aを設け、その周囲に反射領域51bを設けた構成とすればよい。これにより、前方散乱成分7bのみが検出器49で検出され、側方散乱成分7aのみが検出器47で検出されることとなる。
【0053】
[光学的測定装置11の動作]
次に、本実施形態の光学的測定装置11の動作について説明する。この光学的測定装置11では、検出部14に入射した光を対物レンズ40で捕捉した後、NA分離マスク50によって、検出部14に入射した光から励起光5及び側方散乱成分7aと前方散乱成分7bが混在する領域の光を分離除去する。具体的には、開口数NAが0.1未満で入射する励起光5をマスク中心部の遮光領域41aで遮光する。開口数NAが0.1以上の広い角度で放出される散乱光7及び蛍光6は透過領域41bを介して入射させるが、側方散乱成分7aと前方散乱成分7bが混在する領域の光は遮光する。
【0054】
その後、蛍光6は、LPF42を透過し、蛍光検出器(図示せず)で検出される。一方、LPF42で反射された散乱光7(側方散乱成分7aと前方散乱成分7b)は、対物レンズ40の瞳と共役な面が形成されるように構成されたリレーレンズ系(レンズ43a,43b)を通過し、NA分離ミラー51によって、側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとに分離される。これにより、対物レンズ40の焦点面で生じたフォーカスずれ、光軸ずれの影響が軽微となる光学的位置にて、NA分離を行うことができるため、側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとを高精度で分離することができる。
【0055】
具体的には、NA分離ミラー51において、低NA成分は透過(又は反射)し、高NA成分は反射(又は透過)して、それぞれ集光レンズ46,48を介して、散乱光検出器47,49に入射する。そして、例えば散乱光検出器47では、側方散乱成分7aの強度を測定し、例えば試料(細胞)の形態や内部構造に関する情報を得る。一方、散乱光検出器49では、前方散乱成分7bの強度を測定し、例えば試料の大きさに関する情報を得る。
【0056】
このように、本実施形態の光学的測定装置11では、LPF42の手前に配置されたNA分離マスク50により、励起光5と共に、側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとが混在する領域の光が遮光されている。このため、分離ミラー51により、高精度で、側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとに分離することができる。
【0057】
なお、本実施形態の光学的測定装置11における上記以外の構成、動作及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0058】
<3.第3の実施の形態>
[光学的測定装置12の全体構成]
前述した第1及び第2の実施形態においては、蛍光及び散乱光の両方を検出する場合について述べたが、本発明はこれに限定されるものではなく、蛍光を検出しない装置にも適用することができる。図7は本発明の第3の実施形態に係る光学的測定装置の構成を模式的に示す図である。なお、図7においては、前述した第1の実施形態の光学的測定装置1の構成要素と同じものには、同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。図7に示すように、本実施形態の光学的測定装置12は、検出部24が、散乱光のみを検出する構成となっている。
【0059】
[検出部24の構成]
検出部24は、励起光5が照射された試料から発せられた散乱光を検出するものであり、少なくとも、試料から発せられた散乱光を検出する散乱光検出器47,49が設けられている。また、試料と散乱光検出器47,49との間には、試料側から順に、対物レンズ40、NA分離マスク52、集光レンズ46,48が配設されている。
【0060】
この光学的測定装置12では、対物レンズ40の瞳にNA分離マスク52が配置されており、この位置で側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとを分離するため、リレーレンズ系は不要となる。
【0061】
[NA分離マスク52]
図8はNA分離マスク52の構成を模式的に示す図である。NA分離マスク52は、対物レンズ40で捕捉された光から励起光5、及び側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとが混在する領域の光を取り除くと共に、側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとを分離するものである。具体的には、開口数NAが0.1未満及び0.3を超え0.6未満の成分を吸収し、開口数NAが0.1〜0.3の成分を透過(又は反射)し、更に、及び開口数NAが0.6以上の成分を反射(又は透過)する構成とすることができる。
【0062】
このNA分離マスク52としては、例えば、図8に示すように、中心部分に吸収領域52aが設けられ、その周囲に透過領域52bを設け、更にその外側に吸収領域52cとし、それよりも外側は反射領域52dとした構成のものを使用することができる。これにより、励起光5や側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとが混在する領域の光はNA分離マスク52に吸収され、除去される。また、開口数NAが高い側方散乱成分7aはNA分離マスク52で反射され、検出器47に入射する。一方、開口数NAが低い前方散乱成分7bはNA分離マスク52を透過し、検出器47に入射する。
【0063】
又は、透過領域と反射領域とを入れ替えて、吸収領域52aの周囲に反射領域を設け、その外側の吸収領域52cの周囲を透過領域とした構成でもよい。この場合、開口数NAが低い前方散乱成分はNA分離マスクで反射され検出器7に入射すると共に、開口数NAが高い側方散乱成分はNA分離マスクを透過して検出器49に入射する。
【0064】
[光学的測定装置12の動作]
次に、本実施形態の光学的測定装置12の動作について説明する。この光学的測定装置12では、検出部24に入射した光を対物レンズ40で捕捉した後、その瞳に配設されたNA分離マスク52によって、励起光5及び側方散乱成分7aと前方散乱成分7bが混在する領域の光が除去されると共に、側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとが分離される。そして、側方散乱成分7a及び前方散乱成分7bは、それぞれ検出器47又は検出器49で検出される。
【0065】
例えば、図8に示すNA分離マスク52を使用した場合、開口数NAが0.1未満で入射する励起光5を吸収領域52aで遮光すると共に、励起光5や側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとが混在する領域の光を吸収領域52cで遮光する。また、開口数NAが0.1〜0.3の低NA成分(前方散乱成分7b)は、透過領域52bを透過した後、集光レンズ48で集光され、検出器49で検出される。一方、開口数NAが0.6以上の高NA成分(側方散乱成分7a)は、反射領域52dで反射された後、集光レンズ46で集光され、検出器47で検出される。
【0066】
このように、本実施形態の光学的測定装置12では、対物レンズ40の瞳にNA分離マスク52を配置し、この位置で側方散乱成分7aと前方散乱成分7bとの分離を行っているため、リレーレンズ系が不要となる。なお、本実施形態の光学的測定装置12における上記以外の構成、動作及び効果は、前述した第1及び第2の実施形態と同様である。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例により、本発明の効果について具体的に説明する。図9は本実施例で使用した光学的測定装置の構成を模式的に示す図である。本実施例においては、図9に示す構成の光学的測定装置13を使用して、側方散乱光7a,7cを、励起光5の進行方向の前方側及び後方側で測定し、その結果を比較した。
【0068】
その際、NA遮光マスク50としては、開口数NAが0.1〜0.3及び開口数NAが0.6以上の成分のみを透過するようにし、開口数NAが0.1未満及び開口数NAが0.3を超え0.6未満の成分は反射するものを使用した。また、NA分離ミラー51としては、開口数NAが0.6未満の成分を透過し、開口数NAが0.6以上の成分を反射するものを使用した。これにより、散乱光検出器47には開口数NAが0.6以上の成分が入射し、散乱光検出器49には開口数NAが0.1〜0.3の成分が入射するようにした。
【0069】
励起光5の進行方向後方側の散乱光検出器62にはPMTを使用し、前方側の散乱光検出器47,49にはPDを使用した。リレーレンズ系にはf90のレンズを2枚(レンズ43a,43b)使用した。また、ピンホール44の直径はφ0.8mmとした。更に、側方散乱光7cを検出する散乱光検出器62の手前には、集光レンズ60及びピンホール61を配置した。
【0070】
図10(a)及び(b)は図9に示す装置を使用して側方散乱光を検出した結果を示す図である。図10(a)は前方散乱成分7b(開口数NAが0.1〜0.3の成分)と励起光5の進行方向の後方側で測定した側方散乱成分7cとを比較した図であり、図10(b)は前方散乱成分7bと、励起光5の進行方向の前方側で測定した側方散乱成分7aとを比較した図である。図10(b)に示すように、励起光5の進行方向の前方側で側方散乱成分7aを測定しても、図10(a)に示す励起光5の進行方向の前方側で側方散乱光7cを測定した場合と、同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0071】
1、11、12、13、100 光学的測定装置
2 光照射部
3、102 分析チップ
4、14、24 検出部
5、111 励起光
6 蛍光
7 散乱光
7a、7c、112 側方散乱成分
7b、113 前方散乱成分
20、101 光源
31、109 検出領域
40、106 対物レンズ
41、107 励起光遮光マスク
42、108 LPF
43a、43b リレーレンズ
44、61、104 ピンホール
45、50、52 NA分離マスク
46、48、60、103 集光レンズ
47、49、62、105 散乱光検出器
51 NA分離ミラー
110 微小粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路内を通流する試料に励起光を照射する光照射部と、
励起光が照射された試料から発せられた散乱光を、前記励起光の進行方向前方側で検出する散乱光検出部と、を有し、
前記散乱光検出部は、少なくとも、
前記散乱光を、特定の開口数以下の低開口数成分と、それよりも開口数が高い高開口数成分とに分離する散乱光分離マスクと、
前記低開口数成分を検出する第1検出器と、
前記高開口数成分を検出する第2検出器と、
を備える光学的測定装置。
【請求項2】
前記散乱光分離マスク上に共役面を形成するリレーレンズ系を備える請求項1に記載の光学的測定装置。
【請求項3】
前記低開口数成分は、開口数が0.3以下である請求項1又は2に記載の光学的測定装置。
【請求項4】
前記高開口数成分は、開口数が0.6以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学的測定装置。
【請求項5】
前記散乱光分離マスクは、開口数が0.3以下の低開口数成分を透過又は反射すると共に、開口数が0.6以上の高開口数成分を反射又は透過し、開口数が0.3を超え0.6未満の成分を吸収する請求項4に記載の光学的測定装置。
【請求項6】
マイクロ流路を備えた分析チップを有し、前記光照射部は前記マイクロ流路内を通流する試料に励起光を照射する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学的測定装置。
【請求項7】
更に、励起光を除去する励起光遮光マスクを有する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学的測定装置。
【請求項8】
励起光が照射された試料から発せられた蛍光を検出する蛍光検出部を有し、前記試料と蛍光検出部及び散乱光検出部との間には、蛍光と散乱光とを分離するフィルターが配設されている請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学的測定装置。
【請求項9】
測定対象の試料に励起光を照射する工程と、
励起光が照射された試料から発せられた散乱光を、前記励起光の進行方向前方側において、特定の開口数以下の低開口数成分と、それよりも開口数が高い高開口数成分とに分離する工程と、
前記低開口数成分と前記高開口数成分とを個別に検出する工程と、
を有する光学的測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−185879(P2011−185879A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53785(P2010−53785)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】