説明

光学素子、および光学モジュール

【課題】 光の経路を切り替える際に、機械的な駆動部分を無くして構造を単純化し、信頼性を高め小型化を可能とする。
【解決手段】 光に対して異なる屈折率を持つ媒質を周期的に配列したフォトニック結晶構造10と、このフォトニック結晶構造10における周期的配列の一部に設けられる線欠陥導波路13と、この線欠陥導波路13が分岐された第1の出力側線欠陥導波路13bおよび第2の出力側線欠陥導波路13cに配列され光学的状態が制御可能な電気光学物質14と、この電気光学物質14の光学的特性を変化させる第1の電極24および第2の電極25とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送通信システム等に用いられる光学素子等に係り、より詳しくは、光の経路を切り替える光学素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、本格的なブロードバンドネットワーク時代に突入し、情報伝送の大容量化、高速化が著しく進展している。そして、伝送容量の飛躍的拡大のために、大容量伝送が可能な光通信技術が急速に発展している。これまで、主に大都市間を結ぶ基幹伝送系に導入されていた光ファイバを用いた通信網は、今後数年以内に一般家庭(所謂FTTH(Fiber to the home)にまで広がる勢いを見せている。また同時に、通信容量は飛躍的に増加しており、数百Tb/sec以上に達するものと予想されている。
【0003】
このような光通信ネットワークにおける情報の分離統合を有機的かつ機能的に管理、運営するために、ネットワークノードにおける光スイッチは欠かすことのできない機能の1つである。光スイッチに要求されている性能は、低挿入損失、高速切り替え、高消光比、低ストローク、波長および偏波無依存性、小型、低消費電力、高信頼性、低コスト等であり、光ネットワークが拡大するにつれて基本性能は勿論のこと、加入者系に近い領域では、特にコスト低減が重要な課題となる。
【0004】
また今後は、常時接続可能な高速情報通信ネットワークインフラが増加するものと考えられ、光パケット通信などの新しい通信技術を用いた所謂全光ネットワークの確立が期待されている。全光ネットワークでは、現状の光通信システムにおいて光信号を電気信号に変換した後に行っている信号処理を、光の状態で直接的に行うことができるので、ピコ秒〜ナノ秒オーダの高速応答が可能な光スイッチや光波長可変フィルタが必要であると言われている。
かかる光通信システムに用いられる光スイッチとしては、プリズム、ミラー、光ファイバなどの機械的移動を利用した機械式(機械制御型)の光スイッチ、半導体製造技術を用いて作成した数100μm程度の微小なミラーを機械的に駆動する微小電気機械システム(MEMS:Micro Electro Mechanical System)を採用したミラー式の光スイッチ、光伝送媒質の熱光学効果による屈折率変化を利用して光を偏向する熱式(熱制御型)の光スイッチなどが提案されている。
【0005】
従来の光スイッチで機械的に切り替えを行う方式の例としては、入力チャンネルを構成する例えば2本の入力用光ファイバに入力された光を、出力チャンネルを構成する例えば2本の出力用光ファイバにそのまままたは入れ換えて出力するために、入力光と出力光との交点の4箇所に光路切換用ミラーを設け、この光路切換用ミラーを駆動機構によって移動することで、光路中に出し入れし、出力先を制御している。また、例えば2つの光路切換用ミラーの角度をアナログ的に変えることで、出力先光ファイバの何れにも入力可能とする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、従来の光スイッチで機械的ではない方法で切り替えを行う例としては、入力側の光導波路と出力側の光導波路との間にスイッチ要素を備え、そのスイッチ要素は、フォトニック結晶とそのフォトニック結晶を挟むように形成された一対の電極を備えており、この電極に印加する電圧を制御することで、特定波長の光の透過をオン/オフする技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
【特許文献1】特開2000−162520号公報(第3〜5頁、図4)
【特許文献2】特開2003−215646号公報(第4〜5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のように、機械的に切り替えを行う場合には、ミラーおよび駆動素子が必要となることから、素子数が多く構造が複雑となり、また大型になり易い。更に、光学部品を機械的に移動・回転させることから、サーボ機構等を用いて光路切換用ミラーの角度を厳密に制御する必要があるために、駆動機構が複雑となって小型化が困難になるだけではなく、長期的な特性維持も難しく、長期信頼性が要求される光通信システムに採用するには問題があった。また、機械式スイッチ以外に、熱光学効果や液晶を利用したものにおいては、何れも応答速度がミリ秒オーダと遅いことから、要求される高速性を満足することはできなかった。また更に、特許文献2の技術は、特定波長の光を透過可能とする状態と阻止する状態との2つの状態をとることは可能であるが、経路の切り替えを行う方法は開示されていない。
【0009】
本発明は、以上のような技術的課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、光の経路を切り替える際に、機械的な駆動部分を無くして構造を単純化し、信頼性を高め小型化を可能とする光学素子を提供することにある。
また他の目的は、応答速度が高速化された光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的のもと、本発明が適用される光学素子は、第1の光学媒質の中に、それとは異なる屈折率を持つ第2の光学媒質を周期的に配列したフォトニック結晶構造と、このフォトニック結晶構造における周期的配列の一部に設けられる線欠陥導波路と、この線欠陥導波路に接続して配置され、光学的状態が制御可能な構成媒質を含むスイッチ導波路と、このスイッチ導波路の構成媒質における光学的特性を変化させる制御手段とを含む。
【0011】
ここで、このスイッチ導波路の構成媒質は電気光学効果を有する物質であり、制御手段による電圧制御によって屈折率が変化することを特徴とすることができる。また、このスイッチ導波路の構成媒質は、線欠陥導波路の中にて分岐された複数の導波路の各々に設けられ、制御手段は、分岐された複数の導波路に設けられたスイッチ導波路の構成媒質の何れかの光学的状態を変化させることで伝播する光の経路を切り替えることを特徴とすることができる。更に、このスイッチ導波路の構成媒質は、分岐された複数の導波路の全体に設けられる場合の他、分岐点に設けられることを特徴とすることができる。
【0012】
また、この制御手段は、スイッチ導波路の構成媒質の光学的状態を変化させ、線欠陥導波路を伝播して出力される光を、フォトニック結晶構造に隣接して設けられる複数の出力用光ファイバの何れか1つに対して出力することを特徴とすることができる。また、この制御手段は、スイッチ導波路の構成媒質の光学的状態を変化させ、線欠陥導波路を伝播して出力される光を遅延させることも可能である。
【0013】
一方、本発明を光学モジュールとして捉えると、本発明が適用される光学モジュールは、第1の光学媒質の中に、それとは異なる屈折率を持つ第2の光学媒質が周期的に配列されこの配列の一部に線欠陥導波路が設けられると共に、線欠陥導波路を構成する分岐された複数の出力側線欠陥導波路であるスイッチ導波路に光学的状態を制御可能な構成媒質が設けられるフォトニック結晶構造と、このフォトニック結晶構造の線欠陥導波路に光を入射する入力用光ファイバと、フォトニック結晶構造の複数の出力側線欠陥導波路に対して各々伝播される光を受ける複数の出力用光ファイバと、フォトニック結晶構造の複数の出力側線欠陥導波路であるスイッチ導波路に設けられる構成媒質の光学的特性を、複数の出力側線欠陥導波路の単位で各々変化させる制御部とを含む。
ここで、このフォトニック結晶構造の複数の出力側線欠陥導波路に各々設けられるスイッチ導波路の構成媒質は電気光学効果を有する物質であり、制御部による電圧制御によって屈折率が変化することを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光の経路を切り替える際に、機械的な駆動部分を無くして構造を単純化し、信頼性を高め小型化を可能とする光学素子を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[実施の形態1]
図1および図2は、本実施の形態が適用されるフォトニック結晶を使った光スイッチによる光学素子の構成を示した説明図である。図1は全体構成を示し、図2は出射側の線欠陥導波路部分の断面を示している。図1および図2に示すように本実施の形態が適用される光学素子は、フォトニック結晶構造10と、第1の電極24および第2の電極25とを備えている。また、図1および/または図2には、フォトニック結晶構造10に対して光ビームを出射する入力用光ファイバ21、フォトニック結晶構造10を通過した光を入射する第1の出力用光ファイバ22および第2の出力用光ファイバ23が示されている。このフォトニック結晶構造10、第1の電極24および第2の電極25、および入力用光ファイバ21と第1の出力用光ファイバ22および第2の出力用光ファイバ23とを含めて、光スイッチとして機能する光学モジュールとして把握することができる。
【0016】
フォトニック結晶構造10は、第1の光学媒質(物質)として例えば高屈折率である構造物11と、第2の光学媒質として例えば低屈折率である周期性構造物12とを備えている。この周期性構造物12は、第1の光学媒質である構造物11の中に周期的に配列されている。本実施の形態では、第2の光学媒質として、円柱状の誘電体を正方格子型に配列した。ここで、第1の光学媒質の中に周期性構造物12が周期的に配列された領域は、フォトニックバンドギャップ領域であり、入力された光が伝搬不可能な領域である。図示するフォトニック結晶構造10には、フォトニックバンドギャップ領域中に、第2の光学媒質が存在しない領域を線状に形成した。この領域のみ入力された光が伝搬可能であり、これを線欠陥導波路13と呼ぶ。この線欠陥導波路13は、例えば本例のようにT字型に形成され、出力側にて分岐されている。この線欠陥導波路13は、入力用ファイバ21から入力された光を導く入力側線欠陥導波路13aと、分岐された出力側として、第1の出力用光ファイバ22へ光を導く第1の出力側線欠陥導波路13bおよび第2の出力用光ファイバ23へ光を導く第2の出力側線欠陥導波路13cとで構成されている。第1の出力側線欠陥導波路13bおよび第2の出力側線欠陥導波路13cには、例えば、周期性構造物12と同様な周期構造によって、1列に電気光学物質14が形成されている。本実施の形態では、予め屈折率の変化させたい領域だけに電気光学物質14が配置されている。この電気光学物質14は、電圧が印加された場合に、例えば構造物11と同様な高屈折率となり、伝導可能な導波路を形成する。また、この電気光学物質14は、電圧が印加されていない場合に例えば周期性構造物12と同様な低屈折率となり、フォトニックバンドギャップ領域を形成する。
【0017】
また、図1および図2に示すように、光スイッチの制御手段として、第1の出力側線欠陥導波路13b上に配列される電気光学物質14を挟むようにして上下に形成された一対の電極からなる第1の電極24と、第2の出力側線欠陥導波路13c上に配列される電気光学物質14を挟むようにして上下に形成された一対の電極からなる第2の電極25とを備えている。また、第1の電極24および第2の電極25に対する電圧印加を制御する制御部26を備えている。更に、第1の電極24および第2の電極25に対する電圧を供給する電圧発生源27を備え、制御部26は、入力される切り替え信号により、この電圧発生源27からの電圧印加を制御している。このように、本実施の形態が適用される光スイッチは、第1の出力側線欠陥導波路13bと第2の出力側線欠陥導波路13cとにスイッチするスイッチ要素を備えており、このスイッチ要素の状態を制御部26によって電気的に変化させている。尚、出力側の線欠陥導波路をスイッチ導波路とも称する。
【0018】
フォトニック結晶構造10では、光波は、2次元平面内における線欠陥導波路13以外のフォトニック結晶領域について、エネルギー構造により伝搬モードが存在しない。即ち、入射光のエネルギーは、2次元平面内では線欠陥導波路13の外側、即ちフォトニックバンドギャップ領域には光は伝搬できないために、線欠陥導波路13に強く閉じ込められる。従って、格子ピッチの大きさであるサブミクロン程度の微小な導波路が実現可能となる。
【0019】
本実施の形態では、線欠陥導波路13上に形成された第1の電極24および第2の電極25の何れか一方に電圧を印加することにより、第1の出力側線欠陥導波路13bおよび第2の出力側線欠陥導波路13cの何れか一方の電気光学物質14の屈折率を変化させ、電圧が印加された線欠陥導波路13の方向に光路を変化させる。例えば制御部26からの制御によって第1の電極24に電圧が印加された場合に、入力用光ファイバ21から出射した光は、入力側線欠陥導波路13aから第1の出力側線欠陥導波路13bを経て、第1の出力用光ファイバ22に導かれる。このとき、第2の出力側線欠陥導波路13cはオフ状態となる。また、例えば制御部26からの制御によって第2の電極25に電圧が印加された場合に、入力用光ファイバ21から出射した光は、入力側線欠陥導波路13aから第2の出力側線欠陥導波路13cを経て、第2の出力用光ファイバ23に導かれる。このとき、第1の出力側線欠陥導波路13bはオフ状態となる。図の点線矢印は、切り替えられて光が伝搬される2つの経路を示している。制御部26の電界制御によって、光を透過可能(伝達可能)とするオン状態と光を阻止するオフ状態とを、第1の出力側線欠陥導波路13bおよび第2の出力側線欠陥導波路13cとで互いに切り替えることで、出射光の向きを切り替えることが可能となる。
【0020】
このように、フォトニック結晶構造10は、光学基板である第1の光学媒質としての構造物11に、この光学基板とは屈折率の異なる周期性構造物12が光学媒質として周期的に配列されている。ここで、光学基板としては、Siや石英、ガラスをはじめとする各種酸化物基板、あるいは各種有機材料基板等、多くのものを利用でき、用途に応じて選択すればよい。
また、周期性構造物12等の光学媒質を光学基板中に配列させる場合には、半導体プロセス技術を用いて形成するほかに、光学媒質として球状体を用いて、それを配列させる方法など、任意の方法を採用することができる。
【0021】
ここで、本実施の形態では、フォトニック液晶として正方格子型の配列を用いたが、その他に、2次元三角格子、正六角形格子等の他の2次元フォトニック結晶、あるいはダイヤモンド構造等の3次元フォトニック結晶を基本的な構造として構成することも可能である。
また、屈折率を変化させる手段として、第1の電極24および第2の電極25による電圧印加を例に挙げたが、同様の効果があるものであればこれにとらわれない。
【0022】
図3は、図1に示す光スイッチの変形例を示した図である。図3に示す例では、電気光学物質14を線欠陥導波路13上の一部である切り替え部分(分岐点)だけに設け、電気光学物質14が導波路上を専有する範囲を少なくしている点に特徴がある。そのために、図3では、入力側線欠陥導波路13aと第1の出力側線欠陥導波路13bとの分岐点、および入力側線欠陥導波路13aと第2の出力側線欠陥導波路13cとの分岐点に、それぞれ電気光学物質14を設け、分岐点から離れる第1の出力側線欠陥導波路13bおよび第2の出力側線欠陥導波路13cには電気光学物質14を設けていない。また、図1に示す例では、第1の出力側線欠陥導波路13bの全体をカバーする第1の電極24と、第2の出力側線欠陥導波路13cの全体をカバーする第2の電極25とが設けられていたが、図3に示す例では、分岐点に置かれた電気光学物質14の部分に第1の電極31および第2の電極32が設けられている。図2に示す制御部26は、前述と同様、導波路の切り替えに際して、第1の電極31または第2の電極32に電圧を印加し、電界制御によって、光を透過させる側の電気光学物質14について光を透過可能(伝達可能)な状態とする。これによって、光の経路を簡易に切り替えることが可能となる。このように、図3に示す例では、スイッチ要素を入力側の光導波路(入力側線欠陥導波路13a)と、各々の出力側の導波路(第1の出力側線欠陥導波路13bおよび第2の出力側線欠陥導波路13c)との間の伝搬経路に挿入されている。尚、図3に示す例では、電気光学物質14を導波路(第1の出力側線欠陥導波路13bおよび第2の出力側線欠陥導波路13c)の全体に及ぼす必要がなく、また、電極も分岐点近傍だけに設ければ足りる点で優れている。
【0023】
図4は、出力用光ファイバへの出力を切り替える光スイッチの他の変形例を示した図である。図4に示すフォトニック結晶構造10の例では、第1の出力用光ファイバ51、第2の出力用光ファイバ52、第3の出力用光ファイバ53の3つの出力用光ファイバが設けられている。また、線欠陥導波路13は、入力側線欠陥導波路13aの他、第1の出力側線欠陥導波路13d、第2の出力側線欠陥導波路13e、および第3の出力欠陥導波路13fに分かれている。また、切り替え経路として、第1の切り替え導波路13g、第2の切り替え導波路13hを備えている。各導波路の切り替えに用いられるスイッチ要素として電気光学物質14を用いる点は図1に示す例と同様である。更に図4に示す例では、スイッチ要素として、電気光学物質14に対して電界を付与する5つの電極が設けられている。この5つの電極としては、第1の出力側線欠陥導波路13dに対してオン状態(光の透過可能状態)またはオフ状態(光の阻止状態)を切り替える第1の電極41、第2の出力側線欠陥導波路13eに対してオン状態またはオフ状態を切り替える第2の電極42、第3の出力欠陥導波路13fに対してオン状態またはオフ状態を切り替える第3の電極43を備えている。また、第1の切り替え導波路13gのオン状態またはオフ状態を切り替える第4の電極44、第2の切り替え導波路13hのオン状態またはオフ状態を切り替える第5の電極45を備えている。
【0024】
図4に示す光学素子において、入力用光ファイバ21から入力された光を第1の出力用光ファイバ51に出力する際には、例えば図2に示す制御部26の制御により、第1の電極41により第1の出力側線欠陥導波路13d部分をオン状態(光の透過可能状態)にし、第4の電極44により第1の切り替え導波路13gをオフ状態(光の阻止状態)にする。これによって、入力された光は、入力側線欠陥導波路13aおよび第1の出力側線欠陥導波路13dを伝播し、第1の出力用光ファイバ51に出力される。
また、入力用光ファイバ21から入力された光を第2の出力用光ファイバ52に出力する際には、第1の電極41により第1の出力側線欠陥導波路13d部分をオフ状態、第5の電極45により第2の切り替え導波路13hをオフ状態にし、第4の電極44により第1の切り替え導波路13gをオン状態、第2の電極42により第2の出力側線欠陥導波路13eをオン状態にする。これによって、入力された光は、入力側線欠陥導波路13a、第1の切り替え導波路13gおよび第2の出力側線欠陥導波路13eを伝播し、第2の出力用光ファイバ52に出力される。
更に、入力用光ファイバ21から入力された光を第3の出力用光ファイバ53に出力する際には、第1の電極41により第1の出力側線欠陥導波路13d部分をオフ状態、第2の電極42により第2の出力側線欠陥導波路13eをオフ状態にし、第4の電極44により第1の切り替え導波路13gをオン状態、第5の電極45により第2の切り替え導波路13hをオン状態、第3の電極43により第3の出力側線欠陥導波路13fをオン状態にする。これによって、入力された光は、入力側線欠陥導波路13a、第1の切り替え導波路13g、第2の切り替え導波路13h、および第3の出力側線欠陥導波路13fを伝搬して、第3の出力用光ファイバ53に出力される。
【0025】
以上のように、本実施の形態によれば、入力側の光導波路と出力側の光導波路との間にスイッチ要素を挿入することで、光スイッチとして利用することが可能となる。このスイッチ要素は、光路中に配置された電気光学物質14の素子に電圧を印加して屈折率を変化させ、光の進行方向を変化させる。このとき、図1や図3に示すように、2つの出力を切り替える場合の他、図4に示すように出射側の線欠陥導波路を3本以上の複数本設け、多数のスイッチを切り替えるように構成することもできる。かかる構成は、多チャンネルの光スイッチを構成し、制御する際に有効である。
【0026】
[実施の形態2]
実施の形態1では、光の経路を切り替えて、異なった出力用光ファイバへ出射する光スイッチの例について説明した。実施の形態2では、光の経路を切り替えることで遅延回路として用いられる光スイッチについて説明する。
尚、実施の形態1と同様の機能については同様の符号を用い、その詳細な説明については省略する。
【0027】
図5は、遅延回路として光の伝播する経路を変えるフォトニック結晶構造10を示した図である。図5では、入力用光ファイバ21から出力されフォトニック結晶構造10を通過した光を入射する出力用光ファイバ71が設けられている。フォトニック結晶構造10にて光が伝播される線欠陥導波路13は、入力側線欠陥導波路13a、出力側線欠陥導波路13i、および直進導波路13j、迂回導波路13kを有している。直進導波路13jおよび迂回導波路13kには、スイッチ要素として電気光学物質14が設けられると共に、この電気光学物質14に電界を与えるために、図2と同様に結晶構造を挟み込む位置に第1の電極61および第2の電極62が配置される。
【0028】
図5に示す例にて、まず光を迂回させずに出力用光ファイバ71に伝播する場合には、例えば制御部26の制御により、直進導波路13jに設けられる電気光学物質14を第1の電極61によりオン状態(光の透過可能状態)にし、迂回導波路13kに設けられる電気光学物質14を第2の電極62によりオフ状態(光の阻止状態)にする。これによって、入力用光ファイバ21によって線欠陥導波路13に入力された光は、入力側線欠陥導波路13a、直進導波路13j、および出力側線欠陥導波路13iを伝播し、出力用光ファイバ71に出射される。
一方、遅延させる場合には、直進導波路13jに設けられる電気光学物質14を第1の電極61によりオフ状態にし、迂回導波路13kに設けられる電気光学物質14を第2の電極62によりオン状態にする。入力用光ファイバ21によって線欠陥導波路13に入力された光は、入力側線欠陥導波路13aから迂回導波路13kに迂回し、出力側線欠陥導波路13iを経由して出力用光ファイバ71に出射される。これによって、フォトニック結晶を用いた光スイッチを遅延回路に利用することが可能となる。
【0029】
図6は、図5に示す遅延回路の変形例を示した図である。図6では、図5と同様に、光が伝播される線欠陥導波路13として、入力側線欠陥導波路13a、出力側線欠陥導波路13i、および直進導波路13j、迂回導波路13kを有している。但し、スイッチ要素として電気光学物質14の配置が図5とは異なる。図6に示す例では、電気光学物質14は、直進導波路13jの分岐点であるIN側とOUT側、迂回導波路13kの分岐点であるIN側とOUT側に設けられており、それ以外の導波路は、構造物11だけで構成されている。また、図6に示す例では、直進導波路13jの電気光学物質14に電界を与えるように第1の電極63が設けられ、迂回導波路13kの電気光学物質14に電界を与えるように第2の電極64が設けられている。
【0030】
図6に示す例にて、まず光を迂回させずに出力用光ファイバ71に伝播する場合には、例えば制御部26の制御により、直進導波路13jに設けられる電気光学物質14を第1の電極63によりオン状態(光の透過可能状態)にし、迂回導波路13kのIN側とOUT側とに設けられる電気光学物質14を第2の電極64によりオフ状態(光の阻止状態)にする。これによって、入力用光ファイバ21によって線欠陥導波路13に入力された光は、入力側線欠陥導波路13a、直進導波路13j、および出力側線欠陥導波路13iを伝播し、出力用光ファイバ71に出射される。
一方、遅延させる場合には、直進導波路13jのIN側とOUT側とに設けられる電気光学物質14を第1の電極63によりオフ状態にし、迂回導波路13kに設けられる電気光学物質14を第2の電極64によりオン状態にする。入力用光ファイバ21によって線欠陥導波路13に入力された光は、入力側線欠陥導波路13aから迂回導波路13kに迂回し、出力側線欠陥導波路13iを経由して出力用光ファイバ71に出射される。これによって、フォトニック結晶を用いた光スイッチを遅延回路に利用することが可能となる。また、伝搬光の位相を切り替え、制御する回路として用いることができる。
【0031】
以上、詳述したように、本実施の形態(実施の形態1および実施の形態2)は、光の伝搬経路を遮断もしくは切り替える光スイッチであって、フォトニック結晶よりなり、光の伝搬経路に挿入されて状態変化によって光の伝搬経路を遮断もしくは切り替えるスイッチ要素と、このスイッチ要素の状態を変化させるように、スイッチ要素の構成物質の屈折率を電気的に変化させる制御手段とを備えた。この構成により、素子の小型化を図ることができる。
また、本実施の形態では、1つの光スイッチで複数のチャンネルへの切り替えが可能なマルチチャンネル切り替え光スイッチを実現し、マルチチャンネルスイッチのコンパクト化を実現した。
【0032】
尚、一般にフォトニック結晶は、屈折率n1を有する第1の光学媒質中に、屈折率n2を有する第2の光学媒質が周期的構造物として配列された構造になっている。この構造によって信号光の伝播が不可能な領域を形成する。これをフォトニックバンドギャップ領域(PBG領域)と呼ぶ。このフォトニックバンドギャップ領域は、例えば第1の光学媒質を形成する基板中に、入射光の波長の2分の1程度の光学長周期間隔で第2の光学媒質である構造体を2次元アレイ状に配列する。この第2の光学媒質である構造体は、例えば円柱形状で構成する。角柱や球状の構造体を用いることも可能である。また、周期構造は、図1に示したような正方格子に限らず、三角格子、長方格子、斜方格子等、種々の2次元周期構造あるいは3次元周期構造をとることも可能である。
【0033】
このような構造を有するフォトニックバンドギャップ領域において、第2の光学媒質の存在しない領域(第1の光学媒質のみ存在する領域)を一部、たとえば線状に形成すると、その領域は信号光の伝播が可能な領域となる。この領域の端部に信号光が入射すると、その光は選択的にこの領域を伝播することになる。この領域は線欠陥導波路と呼ばれる。本実施の形態(実施の形態1および実施の形態2)のフォトニック結晶において、フォトニックバンドギャップ領域および線欠陥導波路は、上述と同様の構造である。その製造方法について、以下に説明する。
【0034】
まず、屈折率n1を有する第1の光学媒質となる材料を基板とする。その基板に、リソグラフィ法、エッチング法などによって円柱状の穴などの周期的な構造を形成する。そこに屈折率n2を有する第2の光学媒質を埋め込む。基板となる第1の光学媒質には、例えばSiなどを用いることができる。また、動作波長において透明な、例えばGaN、GaAsなどの材料を用いても作製可能である。また、第2の光学媒質には、例えばSiO、Al、Ta、TiOなどの誘電体物質を用いることができる。また、物質を充填せず、すなわち空気を第二の光学媒質として使用することも可能である。あるいは、これとは逆に基板エッチングによって第2の光学媒質を例えば円柱の配列のように残し、第1の光学媒質を空気として構成することも可能である。このように屈折率の異なる2つの光学媒質のうち、一方には空気、液体または真空を用いることも可能である。
【0035】
そして、出力経路としてスイッチされる2本の出力側線欠陥導波路部(スイッチ導波路)に形成された円柱状の空孔部には、電界の印加によって屈折率が変化する材料、すなわち電気光学効果を有する物質を充填する。この物質として、例えばKHPO:(KDP)、BaTiO、LiNbO、LiTaO、BiSiO、GaAs、Pb(Zr、Ti)O:(PZT)、(Pb、La)(Zr、Ti)O:(PLZT)、PbNb、(Sr、Ba)Nb、BaNaNb15、Fe-Bi-PbTiOなどを用いることができる。
これらの電気光学物質を、Si基板に形成された円柱状の空孔部に充填する方法としては、材料の微粒子を空孔部に充填し、酸素雰囲気中で加圧または常圧で焼成する方法(固相反応法)がある。また、アルコキシド化合物などの液体材料を出発原料として、化学反応法により合成することが可能である。
【0036】
次に、本件の一実施例として、具体的な構成例を示す。ここでは、波長1.55μmの光を入射し、その出力される光路を切り替える光スイッチを構成した。
まず、Si基板上に、厚さ約5μmのSiOを積層した。そして、その上に厚さ2μmのSi層を積層した。これはSOI(Silicon On Insulator)基板と呼ばれるものである。SiO層が下層のクラッド層となりSi層がコア層となる。フォトニック結晶は、SOI基板の表面のSi層をリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して加工することによって形成した。すなわち、このSOI基板上に、所望の形状にパターニングしたレジストマスクを形成した後、ドライエッチング装置によって第2の光学媒質に対応する部位が除去されるようにSi層をエッチングした。そして、ここでは、反応性イオンエッチングによって、このSi層に正方格子状に直径が0.3μm、配列周期が0.4μmの円柱状の空孔部を形成した。そしてそのフォトニックバンドギャップ領域には、円柱状の空孔部にSiOを充填した。
【0037】
そして、電気光学物質としてランタン添加チタン酸ジルコン酸鉛(PLZT)を用いた。PLZTは、ぺロブスカイト型結晶のPb(Zr、Ti)OのPbをLaに置換したものである。一般的に次の組成式で表される。
(Pb1−x、La)(Zr、Ti)1−x/4O
この(x,y,z)の組を用いてPLZTの組成を表すものとする。この中で、ここでは、PLZT(9/65/35)なる組成比の物質を用いた。この物質は、この組成において本実施の形態で用いられる信号波長である1.55μm付近の光線を透過する。この材料は2次の電気光学効果を示す。このPLZTの平均直径約5nmの微粒子を、スイッチ導波路に形成された空孔部に充填し、酸素雰囲気中にて200kg/cmの圧力をかけて800℃で10時間などの焼成プロセスを施した。
このようにPBG領域、線欠陥導波路、スイッチ導波路が形成された基板の全面にSiOを2.5μm積層してクラッド層とした。
そして、それぞれのスイッチ導波路の下部と上部に、電気光学物質を覆う形でそれぞれの電極をCuで形成した。
【0038】
以上のように構成したフォトニック結晶光スイッチにおいて、切り替え動作を確認した。
入力側の線欠陥導波路および2本の出力側線欠陥導波路(スイッチ導波路)に、図1に模式的に示すように光ファイバを接続し、入力側線形導波路へ波長1.55μmの信号光を入射した。電圧を印加しない状態においては、スイッチ導波路に埋め込まれた電気光学物質の屈折率は第1光学媒質である基板のそれに近い値を有するため、入射光の伝播が許容される状態にある。そして、この電気光学物質PLZTは、電圧を印加すると屈折率が低下する。よって、電極を通じてスイッチ導波路に電圧を印加すると、このスイッチ導波路はPBG状態となり、入射光の伝播ができない状態にすることができる。本実施形態のフォトニック結晶光スイッチにおいては、300Vの電圧を第1の電極または第2の電極の片側に印加することにより、電圧を印加していない側への伝播のみ許容されるスイッチ動作が行えることを確認した。
また、電気光学物質において、1次の電気光学効果を有する材料は印加電圧に対する電気分極の変化がヒステリシスを持つ。本実施形態において、この性質を有する物質であるPLZT(8/65/35)を用いてスイッチ導波路を構成した。このデバイスにおいては、電圧を印加して導波路を切り替えた後、電圧の印加を停止しても、その選択された光路はそのまま保存することができた。
【0039】
尚、各光学媒質の材料や周期、間隔などを適宜設計することで、フォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ領域を任意の波長帯に設計することが可能であり、任意の波長の光スイッチとして使用することができる。また、印加電圧に応じてスイッチ導波路のフォトニックバンドギャップ領域のシフト量(変化量)を調整できるので、光波長可変フィルタとしても使用可能である。
また、本実施形態のフォトニック結晶では、入力側、出力側のそれぞれに光ファイバを用いたが、その代わりに、フォトニック結晶と同一基板上に形成した光導波路をもって構成することも可能である。かかる構成によれば、信号の入力・出力の経路とフォトニック結晶の結合が容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の活用例としては、光伝送通信システムや、光伝送通信システムに用いられる光学素子、光学モジュール等への活用がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施の形態が適用されるフォトニック結晶を使った光スイッチによる光学素子の全体構成を示した図である。
【図2】本実施の形態が適用されるフォトニック結晶を使った光学素子の出射側の線欠陥導波路部分の断面を示した図である。
【図3】図1に示す光スイッチの変形例を示した図である。
【図4】出力用光ファイバへの出力を切り替える光スイッチの他の変形例を示した図である。
【図5】遅延回路として光の伝播する経路を変えるフォトニック結晶構造を示した図である。
【図6】図5に示す遅延回路の変形例を示した図である。
【符号の説明】
【0042】
10…フォトニック結晶構造、11…構造物、12…周期性構造物、13…線欠陥導波路、14…電気光学物質、21…入力用光ファイバ、22…第1の出力用光ファイバ、23…第2の出力用光ファイバ、24…第1の電極、25…第2の電極、31…第1の電極、32…第2の電極、41…第1の電極、42…第2の電極、43…第3の電極、44…第4の電極、45…第5の電極、51…第1の出力用光ファイバ、52…第2の出力用光ファイバ、53…第3の出力用光ファイバ、61…第1の電極、62…第2の電極、63…第1の電極、64…第2の電極、71…出力用光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光学媒質の中に、それとは異なる屈折率を持つ第2の光学媒質を周期的に配列したフォトニック結晶構造と、
前記フォトニック結晶構造における周期的配列の一部に設けられる線欠陥導波路と、
前記線欠陥導波路に接続して配置され、光学的状態が制御可能な構成媒質を含むスイッチ導波路と、
前記スイッチ導波路の前記構成媒質における光学的特性を変化させる制御手段と
を含む光学素子。
【請求項2】
前記スイッチ導波路の前記構成媒質は電気光学効果を有する物質であり、前記制御手段による電圧制御によって屈折率が変化することを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記スイッチ導波路の前記構成媒質は、前記線欠陥導波路の中にて分岐された複数の導波路の各々に設けられ、
前記制御手段は、分岐された当該複数の導波路に設けられた前記スイッチ導波路の前記構成媒質の何れかの光学的状態を変化させることで伝播する光の経路を切り替えることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項4】
前記スイッチ導波路の前記構成媒質は、分岐された前記複数の導波路の分岐点に設けられることを特徴とする請求項3記載の光学素子。
【請求項5】
前記制御手段は、前記スイッチ導波路の前記構成媒質における前記光学的状態を変化させ、前記線欠陥導波路を伝播して出力される光を、前記フォトニック結晶構造に隣接して設けられる複数の出力用光ファイバの何れか1つに対して出力することを特徴とする請求項3記載の光学素子。
【請求項6】
前記制御手段は、前記スイッチ導波路の前記構成媒質の前記光学的状態を変化させ、前記線欠陥導波路を伝播して出力される光を遅延させることを特徴とする請求項3記載の光学素子。
【請求項7】
第1の光学媒質の中に、それとは異なる屈折率を持つ第2の光学媒質が周期的に配列され当該配列の一部に線欠陥導波路が設けられると共に、当該線欠陥導波路を構成する分岐された複数の出力側線欠陥導波路であるスイッチ導波路に光学的状態を制御可能な構成媒質が設けられるフォトニック結晶構造と、
前記フォトニック結晶構造の前記線欠陥導波路に光を入射する入力用光ファイバと、
前記フォトニック結晶構造の前記複数の出力側線欠陥導波路に対して各々伝播される光を受ける複数の出力用光ファイバと、
前記フォトニック結晶構造の前記複数の出力側線欠陥導波路であるスイッチ導波路に設けられる前記構成媒質の光学的特性を、当該複数の出力側線欠陥導波路の単位で各々変化させる制御部と
を含む光学モジュール。
【請求項8】
前記フォトニック結晶構造の前記複数の出力側線欠陥導波路に各々設けられるスイッチ導波路の前記構成媒質は電気光学効果を有する物質であり、前記制御部による電圧制御によって屈折率が変化することを特徴とする請求項7記載の光学モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−53407(P2006−53407A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235731(P2004−235731)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】