説明

光学素子、反射低減加工装置及び反射低減加工方法

【課題】高い設計自由度で表面での光の反射を軽減する。
【解決手段】レンズ基板100は、所定の光量の光ビームを照射されるとその焦点近傍における温度が局所的に上昇することにより熱化学反応が生じ、空孔が形成される光学ガラスにより構成される。レンズ加工装置1は統括制御部11の制御に基づき、レンズ基板100に対して光ビームを照射することにより、レンズ基板100における表面から内部へ向かうに連れて、全てほぼ同一の体積でなる空孔を徐々に低い密度となるように形成する。このためレンズ基板100は、空気側からレンズ基板100の内部へ向かうに連れて連続的に屈折率が変化する。これによりレンズ加工装置1は、レンズ基板100における深さ範囲屈折率を入射面100Nから内部へ進むに連れて空気の屈折率から材料の屈折率へ徐々に変化させ得ると共に、その変化の度合いを高い自由度で設定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、反射低減加工装置及び反射低減加工方法に関し、例えば表面での光の反射を防止する光学素子に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光学素子としてガラスやプラスチック等の透光性基板を用いたレンズが広く用いられている。かかるレンズにおいては、表面反射による光を減少させると共に透過特性を上げるために、表面に酸化物等を蒸着し反射防止膜を形成する、多層膜コーティングが用いられることがある。
【0003】
そのような多層膜コーティングにおいては、コーティングする膜の層数を増加させることにより、入射角依存性や波長依存性を低減させる。このため設計が複雑になると共に、製造する際の工程数が増加してしまう。
【0004】
そこで近年、レンズ表面に光の波長かそれ以下の微細な凹凸形状を形成し、レンズの厚み方向の屈折率を連続的に変化させる、いわゆるモスアイ構造を形成するものが提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
かかるモスアイ構造は、外部からの光の入射角度に依存せず、比較的幅広い波長に渡って反射防止効果を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−131390公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながらこのようなモスアイ構造の場合、光学素子の表面に形成された微細な凹凸形状により厚み方向の屈折率を変化させるため、厚み方向に対して所望の屈折率の変化の度合いを得られるような凹凸形状の設計が困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、高い設計自由度で表面での光の反射を軽減する光学素子、反射低減加工装置及び反射低減加工方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる問題を解決するため本発明の光学素子においては、所定の光ビームが集光されるとその焦点近傍に空孔を形成する材料でなり、光が入射される入射面からの距離ごとの材料に対する空孔が占める体積の割合が、入射面から遠くなるに連れて小さくなるよう、複数の空孔が形成された空孔形成部を設けるようにした。
【0010】
この光学素子では、入射面から法線方向に距離の等しい所定範囲における平均的な屈折率を、入射面から内部へ進むに連れて空気の屈折率から材料の屈折率へ徐々に変化させ得ると共に、その変化の度合いを高い自由度で設定することができる。
【0011】
また本発明の反射低減加工装置においては、光ビームを出射する光源と、光ビームを集光することにより、所定材料でなる光学素子の内部に空孔を形成する対物レンズと、光ビームの焦点位置を移動させる移動部と、光源及び移動部を制御することにより、光学素子に光が入射する入射面からの距離ごとの材料に対する空孔が占める体積の割合が、入射面から遠くなるに連れて小さくなるよう、光学素子内部に複数の空孔を形成させる制御部とを設けるようにした。
【0012】
この反射低減加工装置では、光学素子の入射面から法線方向に距離の等しい所定範囲における平均的な屈折率を、入射面から内部へ進むに連れて空気の屈折率から材料の屈折率へ徐々に変化させ得ると共に、その変化の度合いを高い自由度で設定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光学素子の入射面から法線方向に距離の等しい所定範囲における平均的な屈折率を、入射面から内部へ進むに連れて空気の屈折率から材料の屈折率へ徐々に変化させ得ると共に、その変化の度合いを高い自由度で設定することができる。かくして本発明は、高い設計自由度で表面での光の反射を軽減する光学素子、反射低減加工装置及び反射低減加工方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1及び第2の実施の形態によるレンズ加工装置の構成を示す略線図である。
【図2】空孔形成の概念図を示す略線図である。
【図3】第1の実施の形態による空孔形成方法を示す略線図である。
【図4】第1の実施の形態によるレンズ基板を示す略線図である。
【図5】空孔が形成されていないレンズ基板を示す略線図である。
【図6】第2の実施の形態によるレンズ基板を示す略線図である。
【図7】第3の実施の形態による空孔形成装置の構成を示す略線図である。
【図8】第3の実施の形態による空孔形成方法を示す略線図である。
【図9】第3の実施の形態による反射防止シート及びレンズを示す略線図である。
【図10】他の実施の形態によるレンズ基板を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1実施の形態(空孔の分布密度を変化させる例)
2.第2実施の形態(個々の空孔の体積を変化させる例)
3.第3実施の形態(反射防止シートを用いる例)
4.他の実施の形態
【0016】
<1.第1の実施の形態>
[1−1.レンズ加工装置の構成]
図1に示すレンズ加工装置1は全体として、加工対象としてのレンズ基板100を切削することにより所望の形状に加工すると共に、光ビームをレンズ基板100に照射し空孔を形成するようになされている。
【0017】
統括制御部11は、レンズ加工装置1を統括制御するようになされている。この統括制御部11は、図示しないCPU(Central Processing Unit)と、各種プログラム等が格納されるROM(Read Only Memory)と、当該CPUのワークメモリとして用いられるRAM(Random Access Memory)とによって構成されている。
【0018】
実際上統括制御部11は、各種プログラムを実行することにより、駆動制御部12を介してスピンドルモータ13をZ軸回りに回転駆動させ、主軸14を所望の速度で回転させる。主軸14にはレンズ固定部15が取り付けられている。このためレンズ固定部15は主軸14と共に回転するようになされている。
【0019】
レンズ固定部15には、加工対象であるレンズ基板100が固定されている。このためレンズ基板100はレンズ固定部15と共に回転するようになされている。
【0020】
このように統括制御部11は駆動制御部12を介してスピンドルモータ13を回転駆動することにより、レンズ基板100を所望の速度で回転させるようになされている。
【0021】
レンズ基板100は光学ガラスにより構成されており、所定の光量の光ビームを照射されるとその焦点近傍における温度が局所的に上昇することにより熱化学反応が生じ、空孔が形成されるようになされている。また切削加工を行われる前のレンズ基板100は、レンズ固定部15と接する面を底面とする略円柱状の形状となっている。
【0022】
光学ガラスは、珪石、酸化ランタン、硼酸等の5〜6種類以上の材料を調合され、約1200〜1400度で溶解されることで製造されており、一面から入射される光をその反対面へ高い透過率で透過させるようになされている。また当該光学ガラスの屈折率はほぼ1.5となっている。
【0023】
レンズ基板100に空孔が形成されると、当該空孔内には光学ガラスが熱で分解されたことにより発生した気体が充満する。レンズ基板100は主成分が珪石等の酸化物系であるため、空孔内の成分は酸素であると考えられる。また酸素の屈折率はほぼ1.0であり、空気の屈折率とほぼ同様であるが、光学ガラスの屈折率とは異なっている。
【0024】
一方統括制御部11は各種プログラムを実行することにより、駆動制御部12を介して支持部16をX軸、Y軸及びZ軸の軸に沿った3方向と、X軸回りの回転方向とに駆動制御し得るようにもなされている。
【0025】
支持部16には、バイト固定部17が取り付けられている。またバイト固定部17には、レンズ基板100を切削する、例えばダイヤモンドでなるバイト18が固定されている。
【0026】
このように統括制御部11は駆動制御部12を介して支持部16を駆動制御することにより、バイト固定部17に固定されたバイト18を所望の位置とレンズ基板100に対する所望の角度とに制御するようになされている。
【0027】
ところで支持部16には、バイト固定部17と共に光学ユニット19が取り付けられている。このため光学ユニット19は、駆動制御部12の駆動制御によりバイト固定部17と共に移動することとなる。
【0028】
光学ユニット19は、一般的な光ピックアップとほぼ同様に構成されており、レーザ駆動部20、レーザダイオード21、アクチュエータ22、レンズホルダ23及び対物レンズ24により構成されている。
【0029】
統括制御部11はレンズ基板100に空孔を形成する場合、例えば形成する空孔の体積等の情報を信号処理部25へ供給して所定の処理を施すことにより、当該情報に応じたレーザ制御信号を生成し、これを光学ユニット19のレーザ駆動部20へ供給する。
【0030】
さらに統括制御部11は、駆動制御部12を介して光学ユニット19のアクチュエータ22を駆動制御する。これにより統括制御部11は、対物レンズ24が搭載されたレンズホルダ23をレンズ基板100に近接又は離隔させる方向に細かく移動させ、対物レンズ24の位置調整を行う。このため統括制御部11は、レンズ基板100の深さ方向(Z方向)に光ビームの焦点を移動させることができる。
【0031】
レーザ駆動部20は、信号処理部25から供給されるレーザ制御信号を基にレーザ駆動信号を生成し、レーザダイオード21に供給する。またレーザダイオード21は、レーザ駆動信号を供給されると、当該レーザ駆動信号に対応した空孔形成用の光ビームを出射し、位置調整された対物レンズ24を介してレンズ基板100へ照射する。これにより光学ユニット19は、レンズ基板100に空孔を形成し得るようになされている。
【0032】
信号処理部25は統括制御部11の制御に基づき、レーザ駆動部20に加えるレーザ制御信号のピーク値、パルス幅、周期等を制御する。これにより信号処理部25は、レンズ基板100に照射する光ビームの光強度のピーク値、照射する時間、周期等を制御することができる。レンズ基板100に照射される光ビームの光強度が高いほど、また照射される時間が長いほど、形成される空孔の体積は大きいものとなる。
【0033】
実際上レンズ基板100に対して切削と共に空孔の形成を行う際、駆動制御部12は統括制御部11の制御に基づきスピンドルモータ13を回転させることにより、主軸14と共に、レンズ固定部15に固定されたレンズ基板100を回転させる。
【0034】
続いて駆動制御部12は支持部16を移動させ、回転しているレンズ基板100に対してバイト18を接触させることでレンズ基板100を切削し、所望の形状のレンズを作成していく。
【0035】
このとき信号処理部25は統括制御部11の制御によりレーザダイオード21を駆動し、所定の光強度でなる光ビームを出射させる。光ビームは位置制御された対物レンズ24により、レンズ基板100の表面からの距離(Z方向)について、所望の距離(即ち深さ)に合焦される。
【0036】
図2にレンズ基板100の切削と空孔の形成との概念図を示す。図2においては、レンズ固定部15、レンズ基板100、対物レンズ24及びバイト18のみを記載し、他は省略している。因みにレンズ基板100は、Z1側から入射された平行光を透過させると共に集光し、Z2側において焦点を合わせるような平凸レンズになるよう切削されている。
【0037】
レンズ固定部15がZ軸回りに回転方向Rに回転することによりレンズ基板100も同様に回転する。このためレンズ基板100は、表面と接触しているバイト18により切削される。その後レンズ基板100は、対物レンズ24から光ビームを照射されることにより、空孔が形成される。
【0038】
図1に示したように、対物レンズ24が設けられている光学ユニット19は、バイト18が固定されているバイト固定部17と同様に支持部16に取り付けられている。このため対物レンズ24は、バイト18に追従してX軸、Y軸及びZ軸の軸に沿った3方向と、X軸回りの回転方向とに移動する。但し対物レンズ24は、アクチュエータ22により、レンズ基板100に近接又は離隔する方向に関してはバイト18から独立して移動するようになされている。
【0039】
このようにレンズ加工装置1は、バイト18を移動させてレンズ基板100の切削を行いながら、バイト18に追従させて対物レンズ24を移動させると共に、レンズ基板100に離接する方向へ対物レンズ24を細かく移動させて光ビームをレンズ基板100に照射することにより、空孔を形成するようになされている。
【0040】
[1−2.空孔の形成]
次に、レンズ基板100に空孔を形成する手順について説明する。レンズ基板100は、対物レンズ24側(即ちZ1側)の表面(以下、入射面100Nとも呼ぶ)に、外部からの光の反射を防止するための空孔を形成されるようになされている。
【0041】
図3(A)〜(E)は、それぞれ図2に示したレンズ基板100のZ1側の一部分であるレンズ基板部分PT1を拡大して示す断面図であり、空孔が形成されていく様子を表している。
【0042】
まずレンズ加工装置1は、駆動制御部12により支持部16と共に対物レンズ24を移動させ、図3(A)に示すレンズ基板100に対して、図3(B)に示すように入射面100Nから所定の距離を経た内部に光ビームの焦点位置を合わせる。続いてレンズ加工装置1は、信号処理部25によりレーザ駆動部20を制御して、レーザダイオード21から所定の時間だけ所定の光強度で光ビームを出射させ、空孔を形成する。またレンズ加工装置1は、入射面100Nからの距離を変化させずに、同じ光強度の光ビームを同じ時間だけ複数箇所に照射することで、全てほぼ同じ体積でなる空孔を複数形成する。
【0043】
このため図3(B)に示したように、レンズ基板100には入射面100Nからの一定の距離(即ち深さ)において、複数の空孔が1つの層(以下、空孔層L1とも呼ぶ)を構成するように配置される。因みに実際に形成される空孔は略球状の形状となるが、図3においては円形で表されている。
【0044】
続いてレンズ加工装置1は駆動制御部12により対物レンズ24を制御し、図3(C)に示すように、光ビームの焦点位置を空孔層L1よりも入射面100N側へ移動させて光ビームを照射して、空孔層L1におけるそれぞれの空孔とほぼ同様の体積でなる空孔を複数形成する。このため空孔層L1と同様に、レンズ基板100には入射面100Nからの距離が一定の位置に、複数の空孔が1つの層(以下、空孔層L2とも呼ぶ)を構成するように配置される。
【0045】
このときレンズ加工装置1は、空孔層L1において形成した空孔よりも多くの空孔を形成する。このためレンズ基板100の空孔層L2は、空孔層L1よりも層内における空孔の密度を高められることになる。
【0046】
以後も同様にレンズ加工装置1は、駆動制御部12により対物レンズ24を制御し、光ビームの焦点位置を徐々に入射面100N側へ移動させながらレンズ基板100に光ビームを照射して、他の空孔層とほぼ同様の体積でなる空孔を、入射面100Nに対して1段階遠い空孔層よりも多く形成していく。
【0047】
このようにレンズ加工装置1は、駆動制御部12により支持部16と共に対物レンズ24を制御し、光ビームの焦点位置をレンズ基板100の入射面100Nに対して遠い位置から近い位置へ徐々に移動させながら光ビームを照射する。
【0048】
このため、図3(D)に示した空孔が形成されたレンズ基板100は、全体としてX方向、Y方向及びZ方向の3次元方向に空孔が並び、Z方向に関しては複数の層のように構成される。
【0049】
またレンズ加工装置1は、全てほぼ同一の体積でなる空孔を、入射面100Nに対して遠い位置から近い位置へ徐々に密度が高くなるようにレンズ基板100に形成していく。
【0050】
ここで仮にレンズ加工装置1が、上述した手順とは逆にレンズ基板100における入射面100Nに対して近い位置から遠い位置へ徐々に移動するように空孔を形成しようとすると、光ビームを照射した際に、近い位置に既に形成されている空孔を光ビームが通過する可能性がある。
【0051】
このような場合空孔を通過した光ビームは、レンズ基板100の屈折率と空孔の屈折率との違いの影響を受け、所望の焦点位置に合焦されなくなるなど、品質が劣化していまう。
【0052】
これによりレンズ加工装置1は、レンズ基板100における所望の位置に空孔を形成できない、所望の体積の空孔を形成できないなどの恐れがある。
【0053】
このためレンズ加工装置1は、既に形成した空孔の影響を回避すべく、レンズ基板100において入射面100Nに対して遠い位置から、近い位置へ向かって順次空孔を形成するようになされている。
【0054】
続いてレンズ加工装置1は、図3(E)に示すように、光ビームの焦点位置をレンズ基板100の入射面100Nへ移動させて、図3(D)に示したような入射面100Nに最も近い空孔層LNよりも、空孔の密度を高めるように光ビームを照射する。
【0055】
但し、図3(E)においてはレンズ基板100の表面に光ビームが照射されるため、レンズ基板100内部に形成した空孔のほぼ半分の体積となるような、略半球状の窪みが入射面100Nには形成される。これによりレンズ基板100の入射面100Nには、凹凸形状が形成されることとなる。
【0056】
なお以下では、レンズ基板100において空孔が形成されている部分を空孔形成部100Hとも呼び、入射面100Nから空孔形成部100Hを介してさらに内部に位置する、空孔が形成されていない部分を光学作用部100Lとも呼ぶ。
【0057】
因みにレンズ基板100は、例えばエッチング等の化学処理により表面に凹凸形状を形成されても良い。但し化学処理を行うよりは光ビームを照射した方が、レンズ加工装置1の装置構成を簡易にし、作業工程も削減することができる。
【0058】
[1−3.屈折率の変化]
図4(A)に示すように、レンズ基板100は、全てほぼ同一の体積でなる空孔を、レンズ基板100の内部に形成される。
【0059】
ここで、入射面100Nに対して距離の等しい位置から入射面100Nの法線方向(即ち深さ方向)に所定の幅を有する範囲を深さ範囲DRとする。例えば深さ範囲DRを1層の空孔層を含む範囲とすると、深さ範囲DRは、レンズ基板100の材料と空孔とが所定の体積の割合で存在している。以下において深さ範囲DRは、入射面からの所定の距離に位置する1層の空孔層を含む範囲とする。
【0060】
この深さ範囲DRにおける平均的な屈折率(以下、これを深さ範囲屈折率とも呼ぶ)は、レンズ基板100の材料に対する空孔の体積の割合に応じて、レンズ基板100の材料の屈折率と空孔の屈折率との間の値になると考えられる。
【0061】
また上述したように、空孔の屈折率はレンズ基板100外部における空気の屈折率とほぼ同じでおよそ1.0であり、光学ガラスでなるレンズ基板100の屈折率は、ほぼ1.5である。
【0062】
このため所定の深さ範囲DRにおいて、レンズ基板100の材料に対して空孔の体積が減ると、深さ範囲屈折率は1.5に近づき、レンズ基板100の材料に対して空孔の体積が増えると、深さ範囲屈折率は1.0に近づくこととなる。
【0063】
ところで図4(A)に示したように、レンズ基板100においては入射面100Nに近いほど多くの空孔が形成され、入射面100Nから内部へ向かうに連れて、形成される空孔は徐々に少なくなっている。因みに図4(A)には、レンズ基板100の外部である空気側からレンズ基板100に照射される光である入射光LT1が示されている。
【0064】
このため、図4(B)に示したように、レンズ基板100において入射面100Nの近くから内部へ向かうに連れて、深さ範囲屈折率は1.0から1.5へ徐々に大きくなっていく。
【0065】
また空孔層LNにおいては、層内に形成された空孔の数が極めて多く空孔の密度が高いため、深さ範囲屈折率はほぼ1.0となる。一方空孔層L1においては、層内に形成された空孔の数が極めて少なく空孔の密度が低いため、深さ範囲屈折率はほぼ1.5となる。これにより、空気とレンズ基板100との境界面における屈折率の差は小さくなる。
【0066】
一般的に、光がある物質から他の物質に入射した場合、この2つの物質間に屈折率の差があると、入射した光の一部が物質の境界面で反射する。また2つの物質の屈折率の差が小さいほど、入射光に対する反射光の割合は小さいものとなる。
【0067】
これにより図4(A)に示すように、入射光LT1がレンズ基板100により反射された反射光LT2は、入射光LT1の光量に対して極めて小さくなる。
【0068】
さらにレンズ基板100は、入射面100Nに凹凸形状が形成される。このためレンズ基板100は、空気の屈折率とレンズ基板100の屈折率との差をさらに小さくし、屈折率を連続的に変化させることができる。かくしてレンズ基板100は、外部からの光の反射を抑えることができる。
【0069】
[1−4.動作及び効果]
以上の構成においてレンズ加工装置1は、光学ガラスにより構成されるレンズ基板100に対して光ビームを照射する。
【0070】
レンズ基板100は、所定の光量の光ビームを照射されるとその焦点近傍における温度が局所的に上昇することにより熱化学反応が生じ、空孔が形成される。レンズ加工装置1は、入射面100Nの近くから内部へ向かうに連れて、全てほぼ同一の体積でなる空孔を徐々に低い密度となるように形成する。またレンズ加工装置1は、レンズ基板100の入射面100Nにも光ビームを照射し、凹凸形状を形成する。
【0071】
このためレンズ基板100において、入射面100Nから内部へ向かうに連れて、材料に対し空孔の占める体積の割合が徐々に小さくなっていく。
【0072】
ここで、空気の屈折率はほぼ1.0でありレンズ基板100の屈折率はほぼ1.5であるため、仮に図5(A)に示すようにレンズ基板100に空孔を形成されていない場合、空気とレンズ基板100の入射面100Nとの境界面では、図5(B)に示すように屈折率が急激に変化する。
【0073】
このため図5(A)に示すように、外部からレンズ基板100に入射された入射光LT1が入射面100Nで反射された反射光LT2は、入射光LT1に対して比較的大きい割合となってしまう。
【0074】
これに対して本実施の形態によるレンズ基板100(図4)は、空気側からレンズ基板100の内部へ向かうに連れて連続的に屈折率が変化するように、即ち屈折率が急激に変化しないようにした。
【0075】
このため、空気とレンズ基板100との境界面における屈折率の差は小さくなる。これによりレンズ基板100は、外部から光が入射された際の表面での光の反射を抑えることができる。
【0076】
またレンズ加工装置1は、レンズ基板100に照射する光ビームを統括制御部11により制御するようにしたため、レンズ基板100における空孔の分布密度を自由に設定することができる。
【0077】
これによりレンズ加工装置1は、レンズ基板100の入射面100Nから内部までにおける、屈折率の変化の度合いを高い自由度で設定することができる。
【0078】
また従来の反射防止加工において入射面の法線方向の屈折率の変化の度合いを調整するためには、多層膜コーティングの場合、高屈折率層と低屈折率層との組み合わせ方を調整する、モスアイ構造の場合、凹凸形状の高さを調整するなども考えられるが、そのような場合設計的な難易度が高かった。
【0079】
これに対し本実施の形態によるレンズ加工装置1は、レンズ基板100に形成する空孔の密度を入射面100Nに対する距離ごとに調整するだけで、レンズ基板100における入射面100Nの法線方向の屈折率の変化の度合いを調整することができる。
【0080】
また従来のモスアイ構造は、反射防止加工を施す対象の表面にのみ凹凸形状が形成される。これに対し本実施の形態によるレンズ基板100は、レンズ基板100における入射面100Nの法線方向に空孔を形成されるため、比較的深い箇所まで入射面100Nの法線方向に多くの層を形成されることで、より一層屈折率の変化を小さくすることができる。またレンズ加工装置1は、光透過性の高い光学ガラスに光ビームを照射するだけでレンズ基板100の内部まで空孔を形成することができるため、簡易な装置構成とすることができる。
【0081】
また従来の多層膜コーティングでは、反射防止加工を施す対象とは別に酸化物等の材料が必要になる。これに対して本実施の形態によるレンズ基板100は、光ビームを照射されるだけで良く、別の材料を必要としない。これによりレンズ加工装置1は、反射防止加工を行う際の装置構成が簡易になると共に、材料のコストを削減することができる。
【0082】
以上の構成によれば、レンズ加工装置1は統括制御部11の制御に基づき、レンズ基板100に対して光ビームを照射することにより、レンズ基板100における表面から内部へ向かうに連れて、全てほぼ同一の体積でなる空孔を徐々に低い密度となるように形成する。このためレンズ基板100は、空気側からレンズ基板100の内部へ向かうに連れて連続的に屈折率が変化する。これによりレンズ加工装置1は、レンズ基板100における深さ範囲屈折率を入射面100Nから内部へ進むに連れて空気の屈折率から材料の屈折率へ徐々に変化させ得ると共に、その変化の度合いを高い自由度で設定することができる。
【0083】
<2.第2の実施の形態>
[2−1.空孔の形成]
第2の実施の形態によるレンズ加工装置1(図1)は、第1の実施の形態によるレンズ加工装置1と同様に構成されている。
【0084】
図6に示すレンズ基板200は、図4と同様にレンズ基板の一部分を拡大して示す断面図であり、レンズ基板200の対物レンズ24側(即ちZ1側)の表面である入射面200Nに、外部からの光の反射を防止するための空孔を形成するようになされている。
【0085】
第2の実施の形態によるレンズ加工装置1は第1の実施の形態と同様に、駆動制御部12により対物レンズ24を制御し、光ビームの焦点位置をレンズ基板200の入射面200Nに対して遠い位置から近い位置へ徐々に移動させながら光ビームを照射して空孔を形成していく。
【0086】
このときレンズ加工装置1はレンズ基板200の入射面200Nに対して遠い位置から近い位置へ焦点位置を移すに連れて、信号処理部25の制御により、例えばレンズ基板200に光ビームを照射する時間を徐々に延長していく。但しレンズ加工装置1は、入射面200Nからの距離が等しい位置においては、それぞれの空孔を形成する際に同一の時間ずつ光ビームを照射する。
【0087】
このためレンズ基板200には、内部から入射面200Nへ向かうにつれ徐々に体積が大きくなる空孔が形成される。但しレンズ基板200の同一の層内においては、形成されるそれぞれの空孔の体積はほぼ同一となっている。またレンズ基板200は、入射面200Nに凹凸形状が形成される。
【0088】
なお以下では、レンズ基板200において空孔が形成されている部分を空孔形成部200Hとも呼び、入射面200Nから空孔形成部200Hを介してさらに内部に位置する、空孔が形成されていない部分を光学作用部200Lとも呼ぶ。
【0089】
[2−2.屈折率の変化]
図6(A)に示したようにレンズ基板200は、内部における入射面200Nに対して近い位置から遠い位置へ向かうにつれ徐々に体積が小さくなる空孔を形成される。
【0090】
このためレンズ基板200は、入射面200Nの近くから内部へ向かうに連れて、深さ範囲DRごとの、レンズ基板200の材料に対する空孔の体積の割合が徐々に小さくなる。
【0091】
上述したように、空孔の屈折率はレンズ基板200外部における空気の屈折率とほぼ同じでおよそ1.0であり、光学ガラスでなるレンズ基板200の屈折率は、ほぼ1.5である。
【0092】
このため図6(B)に示したように、レンズ基板200において入射面200Nの近くから内部へ向かうに連れて、深さ範囲屈折率は1.0から1.5へ徐々に大きくなっていく。
【0093】
また空孔層LNにおいては、層内に形成された個々の空孔の体積が大きくレンズ基板200の材料に対する空孔の体積の割合が大きいため、深さ範囲屈折率はほぼ1.0となる。一方空孔層L1においては、層内に形成された個々の空孔の体積が小さくレンズ基板200の材料に対する空孔の体積の割合が小さいため、深さ範囲屈折率はほぼ1.5となる。これにより、空気とレンズ基板200との境界面における屈折率の差は小さくなる。
【0094】
これにより図6(A)に示したように、入射光LT1がレンズ基板200により反射された反射光LT2は、入射光LT1の光量に対して極めて小さくなる。
【0095】
さらにレンズ基板200は、入射面200Nに凹凸形状が形成される。このためレンズ基板200は、空気の屈折率とレンズ基板200の屈折率との差をさらに小さくし、屈折率を連続的に変化させることができる。かくしてレンズ基板200は、外部からの光の反射を抑えることができる。
【0096】
[2−3.動作及び効果]
以上の構成においてレンズ加工装置1は、光学ガラスにより構成されるレンズ基板200に対して光ビームを照射する。
【0097】
レンズ基板200は、所定の光量の光ビームを照射されるとその焦点近傍における温度が局所的に上昇することにより熱化学反応が生じ、空孔が形成される。レンズ加工装置1は、入射面200Nの近くから内部へ向かうに連れて、徐々に体積が小さくなる空孔を形成する。またレンズ加工装置1は、レンズ基板200の入射面200Nにも光ビームを照射し、凹凸形状を形成する。
【0098】
このためレンズ基板200において、入射面200Nから内部へ向かうに連れて、材料に対し空孔の占める体積の割合が徐々に小さくなっていく。
【0099】
これによりレンズ基板200は、空気側からレンズ基板200の内部へ向かうに連れて連続的に屈折率が変化するように、即ち屈折率が急激に変化しないようにすることができ、外部から光が入射された際の、表面での光の反射を抑えることができる。
【0100】
またレンズ加工装置1は、レンズ基板200に照射する光ビームを統括制御部11により制御するようにしたため、レンズ基板200における個々の空孔の体積を自由に設定することができる。
【0101】
これによりレンズ加工装置1は、レンズ基板200の入射面200Nから内部までにおける、屈折率の変化の度合いを高い自由度で設定することができる。
【0102】
その他、第2の実施の形態によるレンズ基板200は、第1の実施の形態によるレンズ基板100とほぼ同様の作用効果を奏し得る。
【0103】
以上の構成によれば、レンズ加工装置1は統括制御部11の制御に基づき、レンズ基板200に対して光ビームを照射することにより、レンズ基板200における表面から内部へ向かうに連れて徐々に体積が小さくなる空孔を形成する。このためレンズ基板200は、空気側からレンズ基板200の内部へ向かうに連れて連続的に屈折率が変化する。これによりレンズ加工装置1は、レンズ基板200における深さ範囲屈折率を入射面200Nから内部へ進むに連れて空気の屈折率から材料の屈折率へ徐々に変化させ得ると共に、その変化の度合いを高い自由度で設定することができる。
【0104】
<3.第3の実施の形態>
[3−1.空孔形成装置の構成]
第3の実施の形態による空孔形成装置31(図7)は第1の実施の形態によるレンズ加工装置1と異なり、反射防止シート300に対して光ビームを照射し、空孔を形成するようになされている。
【0105】
空孔形成装置31はレンズ加工装置1と比較して、バイト固定部17及びバイト18が省略されている点が異なっている。またレンズ固定部15に代えて、反射防止シート300が固定されるシート固定部315が設けられているものの、それ以外は同様に構成されている。
【0106】
反射防止シート300は、第1の実施の形態によるレンズ基板100と同様に、所定の光量の光ビームを照射されるとその焦点近傍における温度が局所的に上昇することにより熱化学反応が生じ、空孔が形成される材料により構成されている。
【0107】
また反射防止シート300は、一面から入射される光をその反対面へ高い透過率で透過させるようになされており、第1の実施の形態におけるレンズ基板100と同様にほぼ1.5となる屈折率を有している。
【0108】
さらに反射防止シート300は、レンズ基板100と比べて厚み(Z方向)が薄く、柔軟性を有するシート状となっている。このため反射防止シート300は、様々な物体の表面形状に合わせて貼り付けられることが可能になっている。
【0109】
実際上反射防止シート300に対して空孔の形成を行う際、駆動制御部12は統括制御部11の制御に基づきスピンドルモータ13を回転させることにより、主軸14と共に、レンズ固定部15に固定された反射防止シート300を回転させる。
【0110】
続いて駆動制御部12は支持部16を移動させ、光学ユニット19を反射防止シート300に対し近接させる。
【0111】
さらに、信号処理部25は統括制御部11の制御によりレーザダイオード21を駆動し、所定の光強度でなる光ビームを出射させる。光ビームは位置制御された対物レンズ24により、反射防止シート300の表面からの距離(Z方向)について、所望の深さに合焦される。
【0112】
このように空孔形成装置31は、支持部16を移動させ光学ユニット19を大きく移動させると共に、対物レンズ24を反射防止シート300に離接する方向へ移動させて光ビームを照射することにより、空孔を形成するようになされている。
【0113】
[3−2.空孔の形成]
図8(A)は、本実施の形態による反射防止シート300を示している。空孔形成装置31は第1の実施の形態と同様に、駆動制御部12により対物レンズ24を制御し、光ビームの焦点位置を反射防止シート300の入射面300Nに対して遠い位置から近い位置へ徐々に移動させながら光ビームを照射して空孔を形成していく。
【0114】
このとき空孔形成装置31は反射防止シート300の入射面300Nに対して遠い位置から近い位置へ焦点位置を移すに連れて、信号処理部25の制御により、第1の実施の形態と同様に全てほぼ同じ体積でなる空孔を、徐々に密度が高くなるように形成する。
【0115】
図8(A)に示した反射防止シート300の内の一部分である反射防止シート部分PT2の断面図を図8(B)に拡大して示す。図8(B)に示すように、空孔が形成された反射防止シート300は、全体としてX方向、Y方向及びZ方向の3次元方向に空孔が並び、Z方向に関しては複数の層のように構成されている。
【0116】
ここで、第1の実施の形態によるレンズ基板100においては、空孔がレンズ基板100の入射面100Nからある程度の距離(即ち空孔形成部100H)までは形成されていた。しかしレンズ基板100においては、さらにレンズ基板100の内部まで進んだ光学作用部100Lにおいては空孔は形成されておらず、レンズ基板100の材料のみで構成されていた。即ちレンズ基板100においては、レンズ基板100の表面近傍にのみ空孔が形成されていた。
【0117】
これに対して反射防止シート300は、レンズ基板100よりも厚みが薄く、反射防止シート300において光ビームを照射される入射面300N(Z1側)から、レンズ400と接触する透過面300T(Z2側)までのどの距離においても空孔が形成されている。なお以下では、反射防止シート300において空孔が形成されている部分を空孔形成部300Hとも呼ぶ。空孔形成部300Hは、第1の実施の形態によるレンズ基板100の空孔形成部100Hと同様に、入射面300Nから内部へ向かうに連れて、全てほぼ同じ体積でなる空孔を徐々に密度が低くなるように形成される。
【0118】
図8(C)に示すように、本実施の形態においては、空孔を形成された反射防止シート300を、表面での反射を防止したいレンズ400に対して貼り付けることにより、光の反射を防ぐようになされている。
【0119】
空孔が形成された反射防止シート300は、図8(D)に示すように反射防止シート300の透過面300Tがレンズ400の曲面に合うように、貼り付けられる。またレンズ400の屈折率はほぼ1.5となっている。
【0120】
[3−3.屈折率の変化]
図9(A)は図8(D)に示した反射防止シート300とレンズ400との一部分である反射防止シート部分PT3を拡大して示す断面図である。
【0121】
図9(A)に示すように反射防止シート300は、全てほぼ同一の体積でなる空孔を、反射防止シート300の内部における、入射面300Nに対して近い位置から遠い位置へ徐々に密度が低くなるように形成される。因みに図9(A)には、反射防止シート300の外部である空気側から、反射防止シート300が貼り付けられたレンズ400に光が照射されたときの入射光LT1が示されている。
【0122】
このため反射防止シート300は、入射面300Nの近くから透過面300Tへ向かうに連れて、深さ範囲DRごとの反射防止シート300の材料に対する空孔の体積の割合が徐々に小さくなる。
【0123】
また、空孔の屈折率は反射防止シート300外部における空気の屈折率とほぼ同じでおよそ1.0であり、反射防止シート300の屈折率は、ほぼ1.5である。
【0124】
このため図9(B)に示したように、第1の実施の形態と同様に、反射防止シート300において入射面300Nの近くから透過面300Tへ向かうに連れて、深さ範囲屈折率は1.0から1.5へ徐々に大きくなっていく。
【0125】
また空孔層LNにおいては、層内に形成された空孔の数が極めて多く空孔の密度が高いため、深さ範囲屈折率はほぼ1.0となる。このため、空気と反射防止シート300との境界面における屈折率の差は小さくなる。
【0126】
一方空孔層L1においては、層内に形成された空孔の数が極めて少なく空孔の密度が低いため、深さ範囲屈折率はほぼ1.5となる。このため反射防止シート300の透過面300T付近の深さ範囲屈折率は、レンズ400の屈折率とほぼ同様のおよそ1.5となる。よって反射防止シート300とレンズ400との境界面における屈折率の差は小さくなる。
【0127】
これにより図9(A)に示したように、入射光LT1が反射防止シート300により反射された反射光LT2は、入射光LT1の光量に対して極めて小さくなる。
【0128】
さらに反射防止シート300は、入射面300Nに凹凸形状が形成される。このため反射防止シート300は、空気の屈折率と反射防止シート300の屈折率との差をさらに小さくし、屈折率を連続的に変化させることができる。かくして反射防止シート300は、外部からの光の反射を抑えることができる。
【0129】
[3−4.動作及び効果]
以上の構成において空孔形成装置31は、所定の光量の光ビームを照射されるとその焦点近傍における温度が局所的に上昇することにより熱化学反応が生じ、空孔を形成する材料により構成された反射防止シート300に対して光ビームを照射する。
【0130】
空孔形成装置31は、柔軟性を有し薄いシート状でなる反射防止シート300に対して、入射面300Nから透過面300Tへ向かうに連れて、全てほぼ同一の体積でなる空孔を徐々に低い密度となるように形成する。
【0131】
このため反射防止シート300において、入射面300Nから透過面300Tへ向かうに連れて、反射防止シート300の材料に対し空孔の占める体積の割合が徐々に小さくなっていく。
【0132】
また空孔が形成された反射防止シート300は、入射面300Nに対する反対面である透過面300Tがレンズ400に接するように、貼り付けられる。
【0133】
このため反射防止シート300は、空気側からレンズ400までの屈折率を連続的に変化させ、屈折率が急激に変化しないようにすることができ、反射防止シート300の外部から光が入射された際の光の反射を抑えることができる。
【0134】
さらに反射防止シート300は、レンズ400とほぼ等しい屈折率を有するようにした。このため反射防止シート300は、光が外部から入射され当該反射防止シート300を通過してレンズ400に入射するときの、反射防止シート300とレンズ400との屈折率の違いによる光の反射を軽減することができる。
【0135】
また本実施の形態による反射防止シート300はシート状でなるため、光ビームを照射することでは空孔が形成できないような材質でなるレンズ等に対しても、当該反射防止シート300を貼り付けることにより、外部からの光の反射を抑えることができる。
【0136】
さらに、レンズ400の表面が複雑な形状を有しており、空孔を形成する際に光ビームを高い精度で合焦させることが困難であるような場合でも、反射防止シート300を貼り付けることで、外部からの光の反射を抑えることができる。
【0137】
また空孔形成装置31は、反射防止シート300に照射する光ビームを統括制御部11により制御するようにしたため、反射防止シート300における空孔の分布密度を自由に設定することができる。
【0138】
これにより空孔形成装置31は、反射防止シート300の表面から、反射防止シート300が貼り付けられたレンズ400までにおける、屈折率の変化の度合いを高い自由度で設定することができる。
【0139】
その他、第3の実施の形態による反射防止シート300は、第1の実施の形態によるレンズ基板100とほぼ同様の作用効果を奏し得る。
【0140】
以上の構成によれば、空孔形成装置31は統括制御部11の制御に基づき、反射防止シート300における入射面300Nから透過面300Tへ向かうに連れて全てほぼ同一の体積でなる空孔を徐々に低い密度となるように形成する。さらに空孔が形成された反射防止シート300は、透過面300Tがレンズ400に接するように、レンズ400に貼り付けられる。これにより空孔形成装置31は、反射防止シート300における深さ範囲屈折率を入射面300Nから透過面300Tへ進むに連れて空気の屈折率から材料の屈折率へ徐々に変化させ得ると共に、その変化の度合いを高い自由度で設定することができる。
【0141】
<4.他の実施の形態>
なお上述した第1の実施の形態においては、入射面100Nからの距離に応じてレンズ基板100に形成する空孔の分布密度を変化させ、第2の形態においては、入射面200Nからの距離に応じて個々の空孔の体積を変化させる場合について述べた。
【0142】
本発明はこれに限らず、例えば図10(A)に示すレンズ基板500ように、レンズ基板500内の層ごとに空孔の分布密度が変化し、かつ個々の空孔の体積も変化するなどのように、空孔の分布密度の変化と個々の空孔の体積の変化とを組み合わせても良い。
【0143】
また上述した第1の実施の形態においては、レンズ基板100の入射面100Nから内部へ向かうに連れて、層ごとに空孔を徐々に低い密度となるように形成する場合について述べた。
【0144】
本発明はこれに限らず、例えば図10(B)に示すレンズ基板600のように、層内の空孔の密度が同じ層が複数あっても良く、図示しないが第2の実施の形態についても同様に、同じ個々の体積の空孔を有する層が複数あっても良い。また、図10(C)に示すレンズ基板700のように、入射面700Nの近傍に1層だけ空孔の層があるだけでも良い。第2及び第3の実施の形態についても同様である。
【0145】
要はレンズ基板100の外部から内部へ向かうに連れて、深さ範囲屈折率が空気と同程度からレンズ基板100の材料と同程度へ徐々に変化するように空孔が形成されていれば良い。
【0146】
さらに上述した第1の実施の形態においては、レンズ基板100の入射面100Nに光ビームを照射し、レンズ基板100の入射面100Nに凹凸形状を形成する場合について述べた。
【0147】
本発明はこれに限らず、例えば図10(D)に示すレンズ基板800のように、レンズ基板の表面に凹凸形状を形成しなくても良い。これによりレンズ基板800は、外部からの接触による損傷や液体の付着に対して影響されることなく、光の反射を抑えることができる。第2及び第3の実施の形態についても同様である。
【0148】
さらに上述した第2の実施の形態においては、レンズ基板200に光ビームを照射する時間を変化させることで、形成する空孔の体積を調整する場合について述べた。
【0149】
本発明はこれに限らず、レンズ基板200に照射する光ビームの光強度を変化させることにより、形成する空孔の体積を調整してもよいし、光ビームを照射する時間と光強度との変化を組み合わることにより、形成する空孔の体積を調整してもよい。
【0150】
さらに上述した第1の実施の形態においては、レンズ基板100は、所定の光量の光ビームを照射されるとその焦点近傍における温度が局所的に上昇することにより熱化学反応が生じ、空孔が形成される光学ガラスにより構成される場合について述べた。
【0151】
本発明はこれに限らず、焦点近傍の温度の上昇に加えて、光ビームが光として照射されていることに起因して空孔が形成されるような光学ガラスであっても良い。
【0152】
また光学ガラスではなく、蛍石、石英、シリコン、ゲルマニウム等の光学結晶や、ポリカーボネート等の樹脂であるプラスチックであっても良い。
【0153】
また必ずしも空孔を形成する必要はなく、例えば光重合型フォトポリマでなり、光ビームの焦点近傍で光重合反応又は光架橋反応或いはその両方が生じることにより、焦点近傍の屈折率を変化させても良い。
【0154】
要は光ビームが照射されることで焦点近傍に種々の反応が生じて状態が変化することにより、光の屈折率が変化するような材料であれば良い。第2及び第3の実施の形態についても同様である。
【0155】
さらに反射防止加工を行う対象は必ずしもレンズである必要はなく、例えば太陽電池パネルや、ディスプレイの保護パネル等であっても良い。要は、入射される光に対する透過度を保ちつつ、表面での光の反射を防止したい対象に適用することができる。
【0156】
さらに上述した第1の実施の形態においては、レンズ基板100内部の所定の層においてはほぼ同一の体積でなる空孔を形成する場合について述べた。
【0157】
本発明はこれに限らず、ある程度であれば同じ層内の空孔の体積は異なっていても良い。但し、同じ層内において同一の体積でなる空孔がXY平面に広がっている(図3)ほど、XY平面に広い面積で、ばらつきのない反射防止効果を得ることができる。
【0158】
さらに上述した第1の実施の形態においては、深さ範囲DRを、入射面100Nからの所定の距離に位置する1層の空孔層を含む範囲とする場合について述べた。
【0159】
本発明はこれに限らず、深さ範囲DRを、入射面100Nの法線方向において複数の空孔が含まれるような範囲としても良い。第2及び第3の実施の形態についても同様である。
【0160】
さらに上述した第1の実施の形態においては、レンズ基板100における光学作用部100Lは、入射された平行光を透過させると共に集光するような光学作用を有する場合について述べた。
【0161】
本発明はこれに限らず、例えば入射された平行光を透過させると共に発散させるような光学作用を有していても良く、種々の光学作用を有していて良い。また、例えば入射された光を単純に透過させるだけの光学作用でも良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0162】
さらに上述した実施の形態においては、対物レンズ24を細かく移動させることで、光ビームの焦点位置を移動させる場合について述べた。
【0163】
本発明はこれに限らず、例えばレーザダイオード21から出射された光ビームが、光ビームの光路方向に移動可能なエキスパンダレンズを通過して対物レンズ24により集光されるように構成し、当該エキスパンダレンズを移動させて対物レンズ24に入射される光ビームの発散角を変化させることで焦点位置を移動させるようにしても良い。
【0164】
さらに上述した第3の実施の形態においては、反射防止シート300とレンズ400との屈折率をほぼ等しくする場合について述べた。
【0165】
本発明はこれに限らず、反射防止シート300とレンズ400との屈折率は、ある程度であれば異なっていても良い。但し反射防止シート300とレンズ400との屈折率が近いほど、反射防止シート300とレンズ400との境界面において反射される光は少なくなる。
【0166】
さらに上述した第1の実施の形態においては、駆動制御部12によって対物レンズ24を制御することにより、光ビームの焦点位置を入射面100Nの法線方向に移動させて順次空孔を形成させる場合について述べた。
【0167】
本発明はこれに限らず、駆動制御部12によって支持部16と共に対物レンズ24を制御することにより、光ビームの焦点位置を入射面100Nの法線方向に移動させても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0168】
さらに上述した実施の形態においては、空孔形成部としての空孔形成部100H、200H又は300Hによって光学素子としてのレンズ基板100、200又は反射防止シート300を構成する場合について述べた。
【0169】
本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる空孔形成部によって光学素子を構成するようにしても良い。
【0170】
さらに上述した実施の形態においては、光源としてのレーザダイオード21と、対物レンズとしての対物レンズ24と、移動部としての駆動制御部12と、制御部としての統括制御部11及び信号処理部25とによって反射低減加工装置としてのレンズ加工装置1又は空孔形成装置31を構成する場合について述べた。
【0171】
本発明はこれに限らず、その他種々の回路構成でなる光源と、対物レンズと、移動部と、制御部とによって、反射低減加工装置としてのレンズ加工装置1又は空孔形成装置31を構成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明は、表面での光の反射を防止する光学素子でも利用できる。
【符号の説明】
【0173】
1……レンズ加工装置、31……空孔形成装置、11……統括制御部、12……駆動制御部、13……スピンドルモータ、14……主軸、15……レンズ固定部、16……レンズ、17……バイト固定部、18……バイト、19……光学ユニット、20……レーザ駆動部、21……レーザダイオード、22……アクチュエータ、23……レンズホルダ、24……対物レンズ、25……信号処理部、100、200……レンズ基板、100N、200N、300N……入射面、300T……透過面、100H、200H、300H……空孔形成部、100L、200L……光学作用部、300……反射防止シート、400……レンズ、PT1……レンズ基板部分、PT2、PT3……反射防止シート部分、深さ範囲……DR。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の光ビームが集光されるとその焦点近傍に空孔を形成する材料でなり、光が入射される入射面からの距離ごとの上記材料に対する上記空孔が占める体積の割合が、上記入射面から遠くなるに連れて小さくなるよう、複数の上記空孔が形成された空孔形成部
を有する光学素子。
【請求項2】
上記空孔形成部は、
上記複数の空孔それぞれにおける上記入射面からの距離が少なくとも同一でない
請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
上記空孔形成部は、
上記入射面から遠くなるに連れて、入射面からほぼ一定の距離における上記空孔の密度が低くなるよう、ほぼ同一の体積でなる複数の上記空孔が形成されている
請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
上記空孔形成部は、
上記入射面から遠くなるに連れて上記空孔の体積が小さくなる
請求項2に記載の光学素子。
【請求項5】
上記空孔形成部と同一の材料でなり、上記空孔形成部における上記入射面と反対側に位置するよう上記空孔形成部と一体化され、上記空孔形成部を介して入射された光に対し所定の光学作用を呈する光学作用部
をさらに有する
請求項1に記載の光学素子。
【請求項6】
上記入射面は、凹凸形状に形成されている
請求項1に記載の光学素子。
【請求項7】
上記材料は、
上記空孔形成部における上記入射面と反対側の面に接する他の光学素子の材料と、ほぼ同等の屈折率を有する
請求項1に記載の光学素子。
【請求項8】
光ビームを出射する光源と、
上記光ビームを集光することにより、所定材料でなる光学素子の内部に空孔を形成する対物レンズと、
上記光ビームの焦点位置を移動させる移動部と、
上記光源及び上記移動部を制御することにより、上記光学素子に光が入射する入射面からの距離ごとの上記材料に対する上記空孔が占める体積の割合が、上記入射面から遠くなるに連れて小さくなるよう、上記光学素子内部に複数の上記空孔を形成させる制御部と
を有する反射低減加工装置。
【請求項9】
上記制御部は、
上記入射面に対して遠い位置から近い位置へ向かう方向へ上記空孔を順次形成させるよう、上記光源及び上記移動部を制御する
請求項8に記載の反射低減加工装置。
【請求項10】
所定の光ビームが集光されるとその焦点近傍に空孔を形成する材料でなる光学素子に対して、上記光ビームの焦点位置を移動させる焦点位置移動ステップと、
上記光ビームを照射し、上記光学素子に光が入射する入射面からの距離ごとの上記材料に対する上記空孔が占める体積の割合が、上記入射面から遠くなるに連れて小さくなるよう、上記光学素子内部に複数の上記空孔を形成させる光ビーム照射ステップと
を有する反射低減加工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−48081(P2011−48081A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195688(P2009−195688)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】