説明

光学製品及び眼鏡プラスチックレンズ

【課題】可視光透過性が高く、反射率が十分に低減され、反射色が非常に目立ち難い光学製品や眼鏡プラスチックレンズを提供する。
【解決手段】光学製品基体の上に光学多層膜を設けた光学製品であって、前記光学多層膜における反射光の色が、CIE表色系の色度図(x,y,Y)において、〔1〕0.27≦x≦0.30,〔2〕0.30≦y≦0.36の条件を全て満たすようにする。又、光学製品基体を眼鏡プラスチックレンズ基体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラレンズ等の光学製品ないし眼鏡プラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製の光学製品において、表面における反射を低減するため、反射防止膜としての光学多層膜を表面に形成することが行われている。このような光学多層膜は、低屈折率層と高屈折率層を数層程度交互に積層することで形成され、加工安定性や外観上の観点から、反射率の極大点が520nm付近となる反射率の分光分布がW型の反射防止膜が多く用いられ、光の入射した光学多層膜付き光学製品を入射側から見ると、薄い緑色の反射像が見えることとなる(眼鏡プラスチックレンズにおいても見受けられる現象である)。
【0003】
このような反射像を更に薄く目立たなくするには、コストに考慮しつつ、可視領域における反射率を更に低減する設計を行う必要があるところ、下記特許文献1では、映り込みを低減する目的の下ではあるが、入射角0度の光に対し420〜720nmの波長範囲において反射率が1.0%以下となるような7層構造の反射防止膜の設計が開示されている(請求項1,[0009])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−126233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の反射防止膜においても、580nm付近に約1%の反射率の極大点が位置しており(図2の21)、薄緑色の反射像が見えることに変わりがなく、透過性の高さや外光反射の低減の度合が比較的良好に改善しているものの、反射色が目立つままになってしまっている面がある。
【0006】
そこで、請求項1に記載の発明は、可視光透過性が高く、反射率が十分に低減され、反射色が非常に目立ち難い光学製品を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、光学製品基体の上に光学多層膜を設けた光学製品であって、前記光学多層膜における反射光の色が、CIE表色系の色度図(x,y,Y)において、〔1〕0.27≦x≦0.30,〔2〕0.30≦y≦0.36の条件を全て満たすことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、上記目的に加えて、より一層反射光を目立ち難くする目的を達成するため、上記発明にあって、更に、400ナノメートル以上700ナノメートル以下の波長範囲で、反射率が常に1パーセント以下であり、前記Yが1パーセント以下であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3〜6に記載の発明は、上記目的に加えて、反射光の目立ち難い光学製品を比較的簡易に提供する目的を達成するため、上記発明にあって、前記光学多層膜は、前記光学製品基体の側を第1層とした場合に奇数層を低屈折率層とすると共に偶数層を高屈折率層とした合計7層を有するものであり、前記低屈折率層は、二酸化ケイ素により形成されたり、前記光学多層膜の第4層の光学膜厚が、λを設計波長(470〜530nm)として、0.189λ以上0.295λ以下であったり、前記光学多層膜の第4層及び第5層の物理膜厚が、合計で63ナノメートル以上69ナノメートル以下であったり、前記高屈折率層は、チタン酸化物であったりすることを特徴とするものである。
【0010】
請求項7に記載の発明は、上記のような反射光の非常に目立ち難い美観に優れた光学製品に属する眼鏡プラスチックレンズを提供する目的を達成するため、眼鏡プラスチックレンズに関し、上記発明にあって、前記光学製品基体が眼鏡プラスチックレンズ基体であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光学多層膜により反射防止された面すら反射した僅かな反射光が、CIE表色系の色度図(x,y,Y)において、〔1〕0.27≦x≦0.30及び〔2〕0.30≦y≦0.36の条件を満たす。従って、反射光につき、従来の反射色よりも非常に彩度が低く、色みが少ない無彩色に近いものとすることができ、誘目性が低い、即ち目立ち難いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は実施例1及び比較例1,2の分光反射率特性を表すグラフであり、(b)はこれらにおける反射光のCIE表色系の色度図における各位置を示す図であり、(c)は実施例2,3及び比較例3の分光反射率特性を表すグラフであり、(d)はこれらにおける反射光のCIE表色系の色度図における各位置を示す図であり、(e)は実施例1〜3・比較例1〜3における反射光のCIE表色系の色度図における各位置を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態につき説明する。なお、本発明の形態は、以下のものに限定されない。
【0014】
本発明における光学製品の一例としての光学レンズは、レンズ基体の表面に、ハードコート膜及び光学多層膜を、レンズ基体からこの順で有している。なお、レンズ基体表面とハードコート膜の間にプライマー層を形成したり、光学多層膜の表に防汚膜を形成したり、レンズ基体表面とハードコート膜の間やハードコート層と光学多層膜の間あるいは光学多層膜と防汚膜の間等に中間層を具備させたり、ハードコート膜を省略したりする等、膜構成を他のものに変更することができる。又、レンズ基体の裏面や表裏両面にハードコート膜や光学多層膜等を形成しても良い。なお、防汚膜は、好ましくはパーフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物により形成される。
【0015】
レンズ基体の材質(基材)としては、例えばポリウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂等が挙げられる。又、屈折率が高く好適なものとして、例えばポリイソシアネート化合物とポリチオール及び/又は含硫黄ポリオールとを付加重合して得られるポリウレタン樹脂を挙げることができ、更に屈折率が高く好適なものとして、エピスルフィド基とポリチオール及び/又は含硫黄ポリオールとを付加重合して得られるエピスルフィド樹脂を挙げることができる。
【0016】
又、ハードコート膜は、レンズ基体にハードコート液を均一に施して形成される。ハードコート膜の材質として、例えば無機酸化物微粒子を含むオルガノシロキサン系樹脂が用いられ、この場合のハードコート液は、水あるいはアルコール系の溶媒にオルガノシロキサン系樹脂と無機酸化物微粒子ゾルを主成分として分散(混合)して調整される。
【0017】
オルガノシロキサン系樹脂は、アルコキシシランを加水分解し縮合させることで得られるものが好ましい。アルコキシシランの具体例として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルシリケートを挙げることができる。これらアルコキシシランの加水分解縮合物は、当該アルコキシシラン化合物あるいはそれらの組合せを、塩酸等の酸性水溶液で加水分解することにより製造される。
【0018】
一方、無機酸化物微粒子の具体例として、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化セリウムの各ゾルを単独で又は2種以上を混晶化したものを挙げることができる。無機酸化物微粒子の大きさは、ハードコート膜の透明性確保の観点から、1〜100ナノメートル(nm)であることが好ましく、1〜50nmであることがより好ましい。又、無機酸化物微粒子の配合量は、ハードコート膜における硬さや強靭性の適切な度合での確保という観点から、ハードコート成分中40〜60wt%を占めることが好ましい。
【0019】
加えて、ハードコート液には、硬化触媒としてアセチルアセトン金属塩、エチレンジアミン四酢酸金属塩等を添加することができ、更に必要に応じて界面活性剤、着色剤、溶媒等を調整のため添加することができる。
【0020】
ハードコート膜の膜厚は、0.5〜4.0マイクロメートル(μm)とするのが好ましく、1.0〜3.0μmとするのがより好ましい。この膜厚の下限については、これより薄いと十分な硬度が得られないことから定まる。一方、上限については、これより厚くするとクラックや脆さの発生等物性に関する問題の生ずる可能性が飛躍的に高まることから定まる。
【0021】
光学多層膜は、真空蒸着法やスパッタ法等により、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層させて形成される。各層には無機酸化物が用いられ、無機酸化物として例えば酸化ケイ素や、これより屈折率の高い酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化セリウム、酸化インジウムが挙げられる。又、不足当量酸化チタン(TiOx,x<2で2に近い)を用いることができるし、少なくとも1層においてITO膜を用いることができる。
【0022】
光学多層膜は、反射防止膜として設計され、更に以下の特性を付与されている。即ち、僅かに反射される反射光の色につき、CIE表色系の色度図(x,y,Y)におけるxが0.27〜0.30の範囲内で、且つyが0.30〜0.36の範囲内となる、色が極めて目立ち難いものとなる。又、可視波長範囲である400〜700nmにおいて、反射率が1%以下となり、且つ視感反射率Yが1%以下となるようにされている。
【実施例】
【0023】
≪概要≫
以下に説明するように、本発明に係る光学製品に属するものとして、実施例1〜3を作成した。又、実施例1〜3と対比させるため、本発明に属さない比較例1〜3を作成した。そして、実施例1〜3及び比較例1〜3のそれぞれに関し、可視領域における分光反射率特性の測定や、反射を防止してなお反射された反射光の各CIE表色系の色度図(x,y,Y)の測定、耐熱・耐汗・耐塩水・耐湿性能の評価等を実施した。
【0024】
≪構成≫
実施例1〜3及び比較例1〜3のレンズ基体はプラスチック製のフラットレンズとし、何れにおいても屈折率1.60のポリウレタン樹脂を用いた。これらのレンズ基体は、眼鏡プラスチックレンズ基体として用いることが可能であり、眼鏡プラスチックレンズにおける標準的な大きさとした。
【0025】
そして、それぞれのレンズ基体の表面に、各種の反射防止膜を形成した。何れも7層構造の光学多層膜であり、レンズ基体側から順にL1〜L7層とすると、奇数層を二酸化ケイ素(低屈折率材料)で形成すると共に偶数層を二酸化チタン(高屈折率材料)で形成した。そして、次に示す[表1]〜[表6]のような光学膜厚をそれぞれ有するように、L1〜L7層を順に蒸着した。ここで、[表1]〜[表3]は順に実施例1〜3における各層の光学膜厚等を示し、[表4]〜[表6]は順に比較例1〜3における各層の光学膜厚等を示す。なお、以下では設計波長(中心波長)λとして主に500nmを想定しているが、470〜530nmの範囲において任意に変更することが可能である。
【0026】
【表1】

【表2】

【表3】

【0027】
【表4】

【表5】

【表6】

【0028】
≪分光反射率特性・反射光の表色系の色度図(x,y,Y)≫
図1(a)に、実施例1及び比較例1,2の分光反射率特性を表すグラフを示し、(b)にこれらにおける反射光のCIE表色系の色度図における各位置を表す図を示し、(c)に実施例2,3及び比較例3の分光反射率特性を表すグラフを示し、(d)にこれらにおける反射光のCIE表色系の色度図における各位置を表す図を示し、(e)に実施例1〜3・比較例1〜3における反射光のCIE表色系の色度図における各位置を表す表を示す。
【0029】
分光反射率は、レンズ分光反射率測定器(オリンパス株式会社製USPM−RU)を使用して、レンズ片面で測定したものである。又、各色度座標値は、光源をD65光源とし、視野角を2度として、分光反射率から分光測色法により物体色として算出する。
【0030】
実施例1(L4層光学膜厚0.203λ)では、殆ど実施例2と同じ反射率分布を呈する。又、(x,y)=(0.28,0.35)と、従来のものに比べ彩度が極めて低くなっている。更に、視感反射率Yも0.33と極めて低いものとなっている。なお、λ=500nmであり、以下特記のない限り同様である。
【0031】
又、比較例2(L4層光学膜厚0.155λ)では、可視領域で実施例2より0.1〜0.2ポイント程反射率が上昇しているものの、0.5%以下を保っており、ほとんど反射がない状態である。又、(x,y)=(0.29,0.35)と、反射光の彩度が従来に比べ極めて低くなっている。更に、視感反射率Yが0.42となり、実施例1〜3に比べ若干増えている。
【0032】
一方、比較例1(L4層光学膜厚0.132λ)では、440〜620nm帯で510nm付近をピーク(約1.0%)にした山形状の反射率分布となっていて、可視領域で1%を超える反射率部分がある(410nmより短波長側)。又、(x,y)=(0.25,0.44)と、反射光がごく僅かではあるが青緑になっている。更に、視感反射率Yが0.62となり、実施例1〜3に比べ2倍程度に増している。
【0033】
他方、実施例2(L4層光学膜厚0.250λ)では、450〜600nm帯で約0.4%の低い反射率を呈し、その両側で反射率が低下し、400〜700nmの可視波長範囲で1%以下の反射率となっている。又、(x,y)=(0.28,0.34)と、彩度が極めて低くなっている(0.27≦x≦0.30,0.30≦y≦0.36)。更に、視感反射率Yも0.29と極めて低いものとなっている(Y≦1.0[%])。
【0034】
又、実施例3(L4層光学膜厚0.274λ)では、殆ど実施例2と同じ反射率分布を呈する。又、(x,y)=(0.29,0.35)と、彩度が極めて低いものとなっている。更に、視感反射率Yも0.31と極めて低いものとなっている。
【0035】
一方、比較例3(L4層光学膜厚0.297λ)では、440〜650nm帯で530nm付近をピーク(約1.2%)にした山形状の反射率分布となっており、最も低い反射率でも約0.3%となっていて、可視領域で1%を超える反射率部分がある(500〜560nm帯,410nmより短波長側)。又、(x,y)=(0.3,0.42)と、反射光がごく僅かではあるが黄緑になっている。更に、視感反射率Yが0.93となり、実施例1〜3に比べ急増している。
【0036】
≪密着性能≫
次に、実施例1〜3,比較例1〜3の各レンズの密着性能につき以下に説明するような方法で評価した結果を、次の[表7]の上部に示す。
【0037】
【表7】

【0038】
密着性能評価において、それぞれ2枚ずつのレンズの反射防止膜の表面にカッターナイフで1ミリメートル(mm)角の碁盤目を入れ、1平方ミリメートル(mm)の升目を100個作り、その後、セロハンテープ(ニチバン株式会社製)を貼り付け、テープの一端を持ち、勢いよく剥がし、碁盤目における反射防止膜の剥がれ状態の確認を行った。
【0039】
上記[表7]の「密着性能」の行では、2枚のレンズに関し、形成した直後及び紫外線カーボンアークを光源とした耐候試験機(スガ試験機株式会社製)により60,120,180,240時間耐候試験した後での合計10通りのレンズにおける、この確認の結果が示される。即ち、何れのレンズかを問わず1個の升目でも剥がれを生じると「△」を付し、3個以上で剥がれを生じると「×」を付し、全く剥がれを生じない場合に「○」を付す。
【0040】
密着性能に関し、比較例2,3が剥がれを多く生じ、比較例1でも剥がれが生じた。一方、実施例1〜3では剥がれが生じず、良好な密着性能を持つことが分かった。
【0041】
≪耐煮沸性能≫
各レンズを浸漬させるために十分な量の市水をビーカーで沸騰させ、沸騰した市水の中でレンズを10分間浸漬させた後における膜剥がれの発生状況の確認を行った。当該確認の結果について、上記[表7]の「市水煮沸性能」の欄に示す。なお、膜剥がれが生じなければ「○」、生じれば「×」を付す。
【0042】
煮沸試験に関し、上記の強烈な環境において、比較例1〜3,実施例1〜3の何れにおいても膜剥がれを生じることはなかった。
【0043】
≪耐汗性能≫
各レンズをアルカリ性人工汗液に浸漬させ、20度に保たれた環境下で24時間静置し、24時間静置後にレンズを取り出し、水洗い後に表面状態変化の確認を行った。ここで、アルカリ性人工汗液は、ビーカーに塩化ナトリウム10g、リン酸水素ナトリウム12水和水2.5g、炭酸アンモニウム4.0gを入れ、純水1リットル中に溶かして作製したものである。当該確認の結果について、上記[表7]の「人工汗性能」の欄において、煮沸性能と同様に示す。
【0044】
人工汗試験に関し、上記の強力な環境において、比較例1〜3,実施例1〜3の何れにおいても膜剥がれを生じることはなかった。
【0045】
≪耐塩性能≫
煮沸試験に対し市水を濃度4.5重量%の食塩水に代えた他は同様の内容の塩水煮沸試験を行った。1回目の煮沸時間を10分間とし、4回目まで繰り返し行った。当該確認の結果について、[表7]の「塩水煮沸性能」の行に、市水煮沸性能と同様に示す。
【0046】
塩水煮沸試験についても、比較例1〜3,実施例1〜3の何れにおいても膜剥がれを生じることはなかった。
【0047】
≪耐湿性能≫
各レンズを60度・95%の環境に合計で1,3,7日間置いた際の変化に係る恒温恒湿試験を行い、更に7日おいた後のレンズの密着試験を上記と同様に行い、耐熱耐湿性能をみた。[表7]の「恒温恒湿性能」の欄において市水煮沸性能と同様に示すように、何れのレンズにおいても初期の性能を維持した。
【0048】
≪総合評価≫
以上によれば、性能(特に密着性能)に着目すれば、比較例2,3が不十分であり、比較例1がやや不十分であり、実施例1〜3は十分である。一方、入射光や透過光に対して反射率がごく僅か(1%以下)であり反射光の彩度が非常に低いという光学特性の観点からは、比較例1,3は不満足で、比較例2や実施例1〜3は満足である。従って、各種性能が良く前記光学特性の満足も得られるレンズは、実施例1〜3であることになる。
【0049】
実施例1〜3にあっては、反射光の色が、CIE表色系の色度図において順に(x,y)=(0.28,0.35),(0.28,0.34),(0.29,0.35)となり、〔1〕0.27≦x≦0.30,〔2〕0.30≦y≦0.36の双方の条件を満たし、彩度の非常に低いものとなって、僅かな反射光が殆ど認識されないようなものとなり、反射光が殆ど気にならず、反射光の影響が抑えられ、美観に優れたレンズとなっている。これに対し、比較例1,3では、上記〔1〕,〔2〕の条件を満たさないため、反射光に僅かに色みが付き、反射光に気づくことが可能であり、反射光の影響がみられるレンズとなっている。
【0050】
又、実施例1〜3にあっては、400nm以上700nm以下の波長範囲で反射率が常に1%以下であり、前記Y(視感反射率)も1%以下(順に0.33,0.29,0.31%)であるため、入射光に対する反射光のエネルギーが極めて僅かになり、更に反射光の目立ち難いものとなっている。
【0051】
更に、実施例1〜3にあっては、光学多層膜の第4層の光学膜厚が、0.203λ以上0.274λ以下(順に0.203λ,0.250λ,0.274λ)であるため、反射防止性能を付与しながら反射光の非常に目立ち難いレンズを比較的簡易に構成可能である。又、設計波長λを470〜530nmの範囲において変化させてシミュレーションを繰り返したところ、光学多層膜の第4層の光学膜厚を0.189λから0.295λの間の範囲とすれば、反射光の非常に目立ち難いレンズを構成可能であることが判明した。
【0052】
又、第4層及び第5層の物理膜厚が、合計で63nm以上69nm以下(順に64.15,65.82,68.45nm)であるため、反射防止性能を付与しながら反射光の非常に目立ち難いレンズを比較的簡易に構成可能である。なお、比較例1〜3の第4層の光学膜厚は順に0.132λ,0.155λ,0.297λであり、比較例1〜3の第4層及び第5層の物理膜厚の合計は順に54.82nm,65.06nm,71.24nmである(比較例2は光学性能は良好であるが密着性能が良好でない)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学製品基体の上に光学多層膜を設けた光学製品であって、
前記光学多層膜における反射光の色が、CIE表色系の色度図(x,y,Y)において、次の条件を全て満たすことを特徴とする光学製品。
〔1〕0.27≦x≦0.30
〔2〕0.30≦y≦0.36
【請求項2】
更に、400ナノメートル以上700ナノメートル以下の波長範囲で、反射率が常に1パーセント以下であり、
前記Yが1パーセント以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項3】
前記光学多層膜は、前記光学製品基体の側を第1層とした場合に奇数層を低屈折率層とすると共に偶数層を高屈折率層とした合計7層を有するものであり、
前記低屈折率層は、二酸化ケイ素により形成される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学製品。
【請求項4】
前記光学多層膜の第4層の光学膜厚が、λを設計波長(470〜530nm)として、0.189λ以上0.295λ以下である
ことを特徴とする請求項3に記載の光学製品。
【請求項5】
前記光学多層膜の第4層及び第5層の物理膜厚が、合計で63ナノメートル以上69ナノメートル以下である
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の光学製品。
【請求項6】
前記高屈折率層は、チタン酸化物である
ことを特徴とする請求項3ないし請求項5の何れかに記載の光学製品。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れかに記載の光学製品にあって、前記光学製品基体が眼鏡プラスチックレンズ基体であることを特徴とする眼鏡プラスチックレンズ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−42830(P2012−42830A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185515(P2010−185515)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】