説明

光学部材および撮像装置

【課題】 高強度かつ低反射かつ高透過率を有する光学部材を提供する。
【解決手段】 透明基材と、透明基材の上に配置された、スピノーダル型の孔を有する多孔質ガラス層と、を有し、波長領域450nm以上650nm以下で50%以上の透過率を有するように、多孔質ガラス層に形成された孔の平均孔径または多孔質ガラス層の骨格の平均骨格径が設定されていることを特徴とする光学部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラス層を有する光学部材およびそれを用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質ガラスに注目が集まっており、その優れた特徴を生かし、例えば吸着剤、マイクロキャリア担体、分離膜、光学材料等の工業的利用が期待されている。多孔質ガラスを工業的に利用するには、多孔質ガラス特有の表面特性が重要であり、表面強度、空孔率、孔均一性に関して達成すべき課題が多く存在する。
【0003】
一方で、光学材料として、光の散乱や反射を抑えることが求められており、低反射を実現する手法として、構造体の屈折率を空気の屈折率に近づけることで光の反射を抑える低屈折率材料が求められている。多孔質ガラスではガラス内部に空気が取り込まれるので、構造体の屈折率を空気に近づけることで低反射特性を実現することができる。しかしながら、一般に多孔質ガラスにおいて、高空孔率と構造体の強度はトレードオフの関係にあり、両者を十分に満足する材料は実現されておらず、高強度と高空孔率の実現が求められている。
【0004】
多孔質ガラスの製造方法として、加熱した基材上にガラスナノ粒子を堆積させ、多孔質ガラス膜を形成する報告がなされている(特許文献1)。しかしながら、基材近傍と膜表面とのガラスナノ粒子に加わる温度に差が生じるため、膜表面の粒子融着の度合いが小さく、表面強度が十分に保たれないといった課題がある。さらには、熱処理によりガラスナノ粒子を融着して膜を形成するため、表面強度と空孔率とがトレードオフの関係にあり、これら両立は非常に困難であった。
【0005】
また、ガラスのスピノーダル型相分離現象を利用して製造される多孔質ガラスは、網目状に均一に制御された独特の連続多孔構造を有し、他の多孔質材料と比較して、高い空孔率を有するため、スピノーダル型多孔質構造を有する多孔質ガラスは工業利用として期待が大きい分野である。
【0006】
一般的にスピノーダル型多孔質構造を有する多孔質ガラスは、下記のようにして得られる。母体ガラスを熱処理させることにより、母体ガラスよりホウ素含有率の高い相(可溶相)と母体ガラスよりホウ素含有率の低い相(非可溶相)へと網目状に分相させる。その後、酸溶液等で処理することで可溶相を選択エッチングし、多孔質化することでシリカ骨格が網目状の三次元構造を有した多孔質ガラスが得られる。
【0007】
しかしながら、相分離現象はナノサイズの極微細な三次元構造を形成する現象であるため、ガラス内部までの選択エッチングを達成することは非常に困難であり、均一な孔を得ることが困難である。
【0008】
選択エッチングを十分に進行させ、均一な孔を得る手段の一つとしてガラスの薄層化が挙げられる。しかしながら、薄層化した母体ガラスを熱処理によって相分離すると相分離時の構成元素の動きによってガラスの反りなどが発生し、ガラスの面精度が悪化し、優れた多孔質ガラス薄層を得ることは困難であった。特に、光学材料用途では光の反射・屈折の高度な制御が必要とされるため、微細なスケールで制御された高い面精度が求められており、光学材料としては適していない。また、薄層化することでガラス内部までの選択エッチングが良好に進行するものの、ガラス全体が多孔質化されることで構造体の強度が低下する課題がある。
【0009】
スピノーダル型相分離の多孔質材料の独特の表面特性を利用する一つの方法として、構造体表面部分に多孔質ガラス層を形成することが考えられている。非特許文献1には、ガラス体をスピノーダル型の相分離をさせた後に、表面近傍の可溶相のエッチングを進行させ、多孔質ガラス層を得る方法について記載されている。しかしながら、この方法ではエッチングの進行度合いの制御が困難であり、多孔質ガラス層の厚さの制御が困難であるだけでなく、エッチングの進行にムラが発生しやすく孔径に分布が生じやすい。さらには、非特許文献1の構造体は、制御できる屈折率や複屈折率などに制限があり、光学設計の自由度に課題があった。
【0010】
また、所望の成分をガラス基材上に塗布し、基材の表面だけ相分離させ、表面凹凸を形成する方法が報告されている(特許文献2)。しかしながら、この方法では、表面凹凸を形成するのみで、表面にスピノーダル型相分離による連続孔が観察されず、スピノーダル構造特有の表面特性を得ることができていない。さらには、本報告では使用可能な基材が限定されるため、屈折率や複屈折率など緻密な光学物性の制御が必要とされる光学材料として使用する際には光学設計の自由度という観点で制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭59−92923号公報
【特許文献2】特開平01−317135号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M.J.Minot,“J.Opt.Soc.Am.”,Vol.66,No.6,1976.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
光学部材として多孔質ガラスを利用する場合、高強度、高透過率等の特性を有するものは実現されていないのが現状である。
本発明の目的は、高強度、低反射、高透過率を有する光学部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の光学部材は、透明基材と、前記透明基材の上に配置された、スピノーダル型の多孔質構造を有する多孔質ガラス層と、を有し、450nm以上650nm以下の波長領域で50%以上の透過率を有するように、前記多孔質ガラス層に形成された孔の平均孔径または前記多孔質ガラス層の骨格の平均骨格径が設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高強度、低反射、高透過率を有する光学部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の光学部材の一実施態様を示す概略図。
【図2】本発明の光学部材の他の一実施態様を示す概略図。
【図3】本発明の撮像装置を示す概略図。
【図4】スピノーダル型多孔質構造の多孔質の画像濃度ごとの頻度を示す図。
【図5】本発明の光学部材の基材と多孔質ガラス層との断面の電子顕微鏡観察図。
【図6】本発明の光学部材の多孔質ガラス層の断面の電子顕微鏡観察図。
【図7】孔径、骨格径を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を示して、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明の範囲を限定するものではない。
【0018】
図1は、本発明の構造体の一実施態様を示す概略図である。図1において、本発明に係る光学部材101は、透明基材103と、透明基材103の上に配置された、スピノーダル型の多孔質構造を有する多孔質ガラス層102を有している。スピノーダル型の多孔質構造とは、スピノーダル型の相分離由来の多孔質構造を意味しており、この多孔質構造は三次元的に連続した網目状の孔を有している。本発明では透明基材上に多孔質ガラス層が形成されていれば良く、透明基材と多孔質ガラス層との界面が明確に確認できても、明確な界面が確認できなくても構わない。
【0019】
「相分離」とは、例えば、酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物からなるホウケイ酸系ガラス(母体ガラス)を加熱することによって、ガラス内部で、アルカリ金属酸化物−酸化ホウ素を母体ガラスより少なく含有する相(非可溶相)と、アルカリ金属酸化物−酸化ホウ素を母体ガラスの組成より多く含有する相(可溶相)とに、数nmスケールで分けることをいう。
【0020】
この相分離には、孔が非連続なバイノーダル型相分離と、孔が連続なスピノーダル型相分離が存在するが、本発明では後者の相分離を利用している。そして、相分離した後のガラス体(相分離ガラス)の可溶相を酸溶液等で処理することで可溶相を選択エッチングすることで多孔質構造が形成される。このようにして得られたスピノーダル型多孔質構造は、表面から内部にまで連結した三次元網目状の貫通連続孔を有し、熱処理条件を変えることで任意に空孔率を制御することが可能である。
【0021】
また、この多孔質構造では、三次元的に複雑に曲がりながら繋がりあう骨格を有しているため、空孔率を高くしても高い強度を有することができる。したがって、高い空孔率を維持しながらも優れた表面強度を有することができるため、優れた反射防止性能を持ちながら、かつ表面に触れても傷がつきにくい強度をもつ光学部材を提供することが可能となる。
【0022】
また、一般的な多孔質構造では孔部分での光の散乱などの影響から、非多孔質構造体と比較して透過率が低くなる傾向があり、光学部材としては好適には使用されない。しかし、本発明の光学部材101は、可視光領域で50%以上での透過率を有する構成であるため、光学部材として好適に使用することができる。なお、本発明における可視光領域とは波長領域450nm以上650nm以下の領域を指す。
【0023】
透過率は、多孔質ガラス層102の孔径や骨格径を制御することで高くすることができる。具体的には、多孔質ガラス層102に形成された孔の平均孔径は1nm以上50nm以下である。平均孔径が50nmよりも大きい場合は光の散乱が目立ち、透過率が大きく下がってしまう。また、平均孔径が1nmよりも小さいと相分離後の多孔質化工程でのエッチング進行が困難になる。また、平均孔径が上述した範囲であると、多孔質ガラス層102の強度も十分に高い。ただし、平均孔径は多孔質ガラス層102の厚さよりも小さいことが好ましい。
【0024】
本発明における孔径の平均とは、多孔質体表面の孔を複数の楕円で近似し、近似したそれぞれの楕円における短径の平均値であると定義する。具体的には、例えば図7(a)にしめすように、多孔質体表面の電子顕微鏡写真を用い、孔1を複数の楕円11で近似し、それぞれの楕円における短径12の平均値を求めることで得られる。少なくとも30点以上計測し、その平均値を求める。
【0025】
多孔質ガラス層102の骨格径の平均骨格径は1nm以上50nm以下である。平均骨格径が50nmよりも大きい場合は光の散乱が目立ち、透過率が大きく下がってしまう。また、平均骨格径が1nmよりも小さいと多孔質ガラス層102の強度が小さくなる傾向にある。
【0026】
なお、本発明における骨格径の平均とは、多孔質体表面の骨格を複数の楕円で近似し、近似したそれぞれの楕円における短径の平均値であると定義する。具体的には、例えば図7(b)にしめすように、多孔質体表面の電子顕微鏡写真を用い、骨格2を複数の楕円13で近似し、それぞれの楕円における短径14の平均値を求めることで得られる。少なくとも30点以上計測し、その平均値を求める。
【0027】
多孔質ガラス層102の孔径や骨格径は、原料となる材料やスピノーダル型の相分離させる際の熱処理条件などによって制御することができる。
【0028】
また、多孔質ガラス層102の空孔率は特に制限はしないが、好ましくは30%以上70%以下であり、より好ましくは40%以上60%以下である。空孔率が30%よりも小さいと多孔質の利点を十分に活かすことができないだけでなく、多孔質ガラス層102の屈折率が低くなりにくいため、優れた低反射特性が得難くなる傾向にある。また、空孔率が70%よりも大きいと、多孔質層の強度が著しく低下してしまう。
【0029】
なお、必要に応じて、前記多孔質ガラス層内全体または一部分で、孔の空孔率が連続的、または断続的に変化してもよい。
【0030】
多孔質ガラス層102の厚さは特に制限はしないが、好ましくは0.05μm以上200.00μm以下であり、より好ましくは0.10μm以上50.00μm以下である。0.05μmよりも小さいと、多孔質ガラス骨格と同程度の厚さとなるため、スピノーダル型の多孔質構造の形成が困難になる傾向があり、また、200.00μmよりも大きいと、多孔質構造としての効果が得難くなる傾向にある。
【0031】
透明基材103としては、透明であれば目的に応じて任意の材料の基材を使用することができる。透明基材103の透過率は、可視光領域(450nm以上650nm以下の波長領域)で50%以上であることが好ましく、さらに好ましくは60%以上がよい。透明基材103の材料としては、何ら限定するわけではないが、例えば石英ガラス、クォーツ(水晶)、サファイア、耐熱ガラス等が挙げられる。これらの中でも透明性、耐熱性、強度の観点から、特に石英ガラス、クォーツ(水晶)が好ましい。また、透明基材103がローパスフィルタやレンズの材料であってもよい。
【0032】
また、透明基材103の形状は、多孔質ガラス層102が形成できるのであれば、いかなる形状の透明基材103でも使用することが可能である。例えば、透明基材103の形状は、図2のような曲率を有するレンズ型であってもよい。
【0033】
透明基材103の軟化温度が、多孔質ガラス層102のスピノーダル型の多孔質構造を形成する相分離温度以上であることが好ましく、さらに好ましくは相分離温度に100℃を加算した温度以上であることが好ましい。ただし、透明基材103が結晶の場合は溶融温度を軟化温度とする。軟化温度が多孔質ガラス層102のスピノーダル型の多孔質構造を形成する温度よりも低いと、相分離の熱処理工程時に透明基材103の歪みが発生することがあるため、好ましくない。なお、本発明でのスピノーダル型の多孔質構造を形成する相分離温度とは、スピノーダル型の多孔質構造のガラス層を形成する際に加えた温度のうち、最大温度を表す。
【0034】
透明基材103のヤング率が40GPa以上であることが好ましい。40GPaより小さいと、相分離工程の熱処理時に歪みが発生する場合がある。
【0035】
本発明を何ら限定するものではないが、透明基材103を構成する主元素が、多孔質ガラス層102を構成する主元素と同じであることが好ましい。透明基材103を構成する主元素が、多孔質ガラス層102を構成する主元素と同じであると、多孔質ガラス層102と透明基材103との密着性が向上する傾向にある。本発明において「主元素」とは、構成する酸素以外の元素のうち、最も含有量が大きい元素を意味している。一般的に、多孔質ガラスの主元素はケイ素であるので、透明基材103の主元素もケイ素とすることが好ましい。
【0036】
透明基材103中に含有される主元素の含有量としては、20.0atom%以上100.0atom%以下であり、好ましくは50.0atom%以上100.0atom%以下である。20.0atom%よりも少ない場合は多孔質ガラス層102と透明基材103との密着性が低下する傾向にある。なお、ここでの含有量とは酸素を除外した元素から算出された含有量である。
【0037】
透明基材103は、ガラス層のエッチングに対する耐性があることが好ましい。
【0038】
さらに、本発明に係る光学部材101は、空孔率を制御することで任意に屈折率を変化し、さらには多孔質ガラス層102の厚さを任意に変化することができるため、低屈折率材料としての利用が可能である。
【0039】
また、本発明の光学部材101は、透明基材103を用いることにより、相分離工程時の熱処理による相分離ガラス層の歪みを抑制するだけでなく、透明基材103を用いることで従来の相分離ガラス単体では達成できなかった高い強度を達成することができる。
【0040】
さらには、本発明の光学部材101は、多孔質ガラス層102を透明基材103上に設けているため、可溶相のエッチングによる多孔質ガラス層102の厚さのばらつきが小さくなる傾向にある。
【0041】
さらには、本発明の光学部材101は、透明基材103上に多孔質ガラス層102が形成されるため、エッチングが面内方向に均一に進行しやすく、スピノーダル型の多孔質構造の特徴である高い孔均一性を得やすく、高い設計精度を実現することができる。
【0042】
本発明の光学部材101は、テレビやコンピュータなどの各種ディスプレイ、液晶表示装置に用いる偏光板、カメラ用ファインダーレンズ、プリズム、フライアイレンズ、トーリックレンズなどの光学部材、さらにはそれらを用いた撮影光学系、双眼鏡などの観察光学系、液晶プロジェクターなどに用いる投射光学系、レーザービームプリンターなどに用いる走査光学系などの各種レンズなどに使用することが可能である。
【0043】
図3は、本発明の光学部材を用いたカメラ(撮像装置)、具体的には、レンズからの被写体像を、光学フィルタを通して撮像素子上に結像させるための撮像装置示す断面模式図である。撮像装置300は、本体310と、取り外し可能なレンズ320と、を備えている。デジタル一眼レフカメラ等の撮像装置では、撮影に使用する撮影レンズを焦点距離の異なるレンズに交換することにより、様々な画角の撮影画面を得ることができる。本体310は、撮像素子311と、赤外線カットフィルタ312と、ローパスフィルタ313と、本発明の光学部材101と、を有している。なお、光学部材101は図1で示したように透明基材103と、多孔質ガラス層102とを備えている。
【0044】
また、光学部材101とローパスフィルタ313は一体で形成されていてもよいし別体であってもよい。また、光学部材101がローパスフィルタを兼ねる構成であってもよい。つまり、光学部材101の透明基材103がローパスフィルタであってもよい。
【0045】
撮像素子311は、パッケージ(不図示)に収納されており、このパッケージはカバーガラス(不図示)にて撮像素子311を密閉状態で保持している。また、ローパスフィルタ313や赤外線カットフィルタ312等の光学フィルタと、カバーガラスとの間は、両面テープ等の密封部材にて密封構造となっている(不図示)。なお、光学フィルタとして、ローパスフィルタ313および赤外線カットフィルタ312を両方備える例について記載するが、いずれか一方であってもよい。
【0046】
本発明の光学部材101の多孔質ガラス層102は、スピノーダル型の多孔質構造を有しているので、ゴミ付着抑制などの防塵性能に優れている。よって、光学部材101が光学フィルタの、撮像素子311とは反対側に位置するように配置され、かつ、多孔質ガラス層102が透明基材103よりも撮像素子311から遠くなるように光学部材が配置されることが好ましい。言い換えれば、光学フィルタよりも、レンズ320に近い側に光学部材101が配置され、さらに多孔質ガラス層102が透明基材103よりレンズ320に近くなるように光学部材101が配置されるのが好ましい。
【0047】
以下、本発明の光学部材の製造方法について述べる。
本発明の光学部材の製造方法の一例として、印刷法、真空蒸着法、スパッタ法、スピンコート法、ディップコート法などガラス層形成が可能な全ての製造方法が挙げられ、本発明の構造を達成可能な製造方法であればいずれの製造方法を使用してもよい。
【0048】
本発明は、透明基材上の多孔質ガラス層にスピノーダル型の多孔質構造が形成されていることが必須である。スピノーダル型の多孔質構造を形成するためには、ガラスの緻密な組成制御が必要であり、一度ガラス組成を確定したのちに、ガラス粉末を作成し、融合することで膜形成をする製膜方法が、容易に組成制御ができる点で好ましい。
【0049】
本発明の光学部材の製造方法は、透明基材上に、少なくとも多孔質ガラス生成原料を混合溶融して得られた基礎ガラスを主成分とするガラス粉末を含有するガラス粉末層を形成する工程と、前記ガラス粉末層を前記ガラス粉末のガラス転移点以上で熱処理して分相した分相ガラス層を得る工程と、前記分相ガラス層をエッチングして、スピノーダル型の多孔質構造を有する多孔質ガラス層を得る工程を有している。
ガラス粉末のガラス転移点よりも低い温度では、ガラス粉末の融合が進行せず層形成がなされない。
【0050】
一方で、ガラス粉末を単純に熱処理するだけでは、相分離がなされず、スピノーダル型の多孔質構造を有する多孔質ガラス層を形成することができない場合がある。
【0051】
本発明者らは、鋭意検討の結果、スピノーダル型の多孔質構造が形成されない現象は、ガラス粉末の熱処理による結晶化が原因の一つであることを見出した。つまり、ガラスの相分離現象は非晶質状態で起こるため、ガラスが結晶化すると相分離が生じないことがある。さらには、部分的にでもガラスの結晶化が生じると、多孔質ガラス層内で結晶部分とスピノーダル型多孔質構造部分とができ、その境界面で屈折率の差による反射が増大し、光学部材の透過率低下の一因となることが分かった。よって、本発明者は、熱処理条件を緻密に制御することによって、この結晶化を抑制することができることを見出した。
【0052】
すなわち、ガラス粉末を融合し、ガラス層を形成する際には非晶質状態を維持しながら、層形成する熱処理方法を選択する必要があると考えられる。非晶質状態を維持しながら、層形成する熱処理方法としては、非晶質状態が維持可能ないかなる手段を用いてもよい。一例を挙げると、結晶化温度よりも低い温度で熱処理をすることで結晶化を抑制する手法や、ガラスの高温での溶融状態から急冷することで結晶化を抑制する手法が挙げられる。
【0053】
その中でも、ガラス粉末の結晶化温度よりも低い温度で熱処理をすることで結晶化を抑制する手法が、より低温で層形成できる点と、熱によるガラスの組成変化が起こりにくく、組成の制御が容易である点から好ましい。
【0054】
以下、本発明の多孔質ガラス生成原料を混合溶融して得られた基礎ガラスを主成分とするガラス粉末を含有するガラス粉末層を形成する工程の実施形態について説明する。具体的には、透明基材上に、少なくとも多孔質ガラス生成原料を混合溶融して得られた基礎ガラスを主成分とするガラス粉末および溶媒を含有するガラスペーストを塗布した後、前記溶媒を除去してガラス粉末層を形成する。
ガラス粉末層を形成する方法の一例として、印刷法、スピンコート法、ディップコート法などが挙げられる。
【0055】
以下にガラス粉末を含有するガラス粉末層を形成する方法として、一般的なスクリーン印刷法を用いた方法を例示しながら説明する。スクリーン印刷法では、ガラス粉末をペースト化しスクリーン印刷機を使用して印刷されるため、ペーストの調整が必須である。
【0056】
また、本発明の多孔質ガラス層はガラスの相分離によって形成されるため、ガラスペーストに使用されるガラス粉末は相分離可能な母体ガラスを用いるのが好ましい。
【0057】
母体ガラス基材の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸化ケイ素系ガラスI(母体ガラス組成:酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物)、酸化ケイ素系ガラスII(母体ガラス組成:酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物−(アルカリ土類金属酸化物,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム))、酸化チタン系ガラス(母体ガラス組成:酸化ケイ素−酸化ホウ素−酸化カルシウム−酸化マグネシウム−酸化アルミニウム−酸化チタン)などが挙げられる。それらの中でも、酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物のホウケイ酸系ガラスが好ましい。
【0058】
さらには、ホウケイ酸系ガラスにおいて、酸化ケイ素の割合が55.0重量%以上95.0重量%以下、特に60.0重量%以上85.0重量%以下の組成のガラスが好ましい。酸化ケイ素の割合が上記の範囲であると、骨格強度が高い多孔質ガラス層を得やすい傾向にあり、強度が必要とされる場合に有用である。
【0059】
母体ガラスの製造方法は、上記組成となるように原料を調製するほかは、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、各成分の供給源を含む原料を加熱溶融し、必要に応じて所望の形態に成形することにより製造することができる。加熱溶融する場合の加熱温度は、原料組成等により適宜設定すれば良いが、通常は1350から1450℃、特に1380から1430℃の範囲が好ましい。
【0060】
例えば、上記原料として酸化ナトリウム、ホウ酸及び二酸化ケイ素を均一に混合し、1350から1450℃に加熱溶融すれば良い。この場合、原料は、上記のアルカリ金属酸化物、酸化ホウ素及び酸化ケイ素の成分を含むものであればどのような原料を用いても良い。
【0061】
また、母体ガラスを所定の形状にする場合は、母体ガラスを合成した後、概ね1000から1200℃の温度範囲で管状、板状、球状等の各種の形状に成形すれば良い。例えば、上記原料を溶融して母体ガラスを合成した後、溶融温度から温度を降下させて1000から1200℃に維持した状態で成形する方法を好適に採用することができる。
【0062】
溶融温度から温度を降下させる際には、急冷することが好ましい。急冷することでガラス中の結晶核の形成を抑制することができ、非晶質の均質な粉末ガラス層を形成しやすくなり、相分離がなされやすくなる。
【0063】
ペーストとして使用するためには、ガラスを粉末化してガラス粉末にする。粉末化の方法は、特に方法を限定する必要がなく、公知の粉末化方法が使用可能である。粉末化方法の一例として、ビーズミルに代表される液相での粉砕方法や、ジェットミルなどに代表される気相での粉砕方法が挙げられる。
【0064】
ガラス粉末の粒子の平均粒子径は、目的とするガラス層の厚さに応じて任意に設定することが可能であるが、その中でも1.0μm以上20.0μm以下であることが望ましい。この範囲であると、粉末ガラス層を形成した際に粒子間の隙間が小さくなり、熱融着させた後の多孔質ガラス層の欠陥が小さくなり、透過率が高くなるからである。より好ましくは、平均粒子ン径が1.0μm以上5.0μm以下である。
【0065】
ガラス粉末を含有するガラス粉末層を形成するには、上記ガラス粉末を含有するペーストを用いて形成する。ペーストには、上記ガラス粉末と共に、熱可塑性樹脂、可塑剤、溶剤等を含有する。
【0066】
ペーストに含有されるガラス粉末の割合としては、30.0重量%以上90.0重量%以下、好ましくは35.0重量%以上70.0重量%以下の範囲が望ましい。
【0067】
ペーストに含有される熱可塑性樹脂は、乾燥後の膜強度を高め、また柔軟性を付与する成分である。熱可塑性樹脂として、ポリブチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、エチルセルロース等が使用可能である。これら熱可塑性樹脂は、単独あるいは複数を混合して使用することが可能である。
【0068】
ペーストに含有される前記熱可塑性樹脂の含有量は、0.1重量%以上30.0重量%以下が好ましい。0.1重量%よりも小さい場合は乾燥後の膜強度が弱くなり、ガラスフィラー融着時に多孔質ガラス膜中の欠陥などを発生させ、透過率を悪化させることがある。30.0重量%よりも大きい場合はガラス層を形成する際にガラス中に樹脂の残存成分が残りやすくなるため、透過率を悪化させることがあるため好ましくない。
【0069】
ペーストに含有される可塑剤として、ブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレート等があげられる。これらの可塑剤は、単独あるいは複数を混合して使用することが可能である。
【0070】
ペーストに含有される可塑剤の含有量は10.0重量%以下が好ましい。可塑剤を添加することで、乾燥速度をコントロールすると共に、乾燥膜に柔軟性を与えることができる。
【0071】
ペーストに含有される溶剤として、ターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート等が挙げられる。前記溶剤は単独あるいは複数を混合して使用することが可能である。
【0072】
ペーストに含有される溶剤の含有量は、10.0重量%以上90.0重量%以下が好ましい。10.0重量%よりも小さいと均一な膜が得難くなる傾向にある。また、90.0重量%を超えると均一な膜が得難くなる傾向にあり、光学部材の透過率低下の一因となることがある。
【0073】
ペーストの作製は、上記の材料を所定の割合で混練することにより行うことができる。
【0074】
透明基材上に、ペーストをスクリーン印刷法を用いて塗布した後、ペーストの溶媒成分を乾燥・除去することで、ガラス粉末を含有するガラス粉末層を形成することができる。また、目的とする膜厚にするために任意の回数、ガラスペーストを重ねて塗布、乾燥してもよい。
【0075】
溶媒を乾燥・除去する温度、時間は使用する溶媒に応じて適宜、変更することができるが、熱可塑性樹脂の分解温度より低い温度で乾燥することが好ましい。乾燥温度が熱可塑性樹脂の分解温度より高い場合、ガラス粒子が密に充填されて固定されず、ガラス粉末層にしたときに欠陥の発生や凹凸が大きくなり、光学部材の透過率低下の一因となることがある。
【0076】
次に、前記ガラス粉末層を前記ガラス粉末のガラス転移点以上で熱処理して相分離した相分離ガラス層を得る工程を行う。なお、前記ガラス粉末相を熱処理することで熱可塑性樹脂を除去するとともに、ガラス粉末を融合、相分離させ相分離ガラス層を形成する。
【0077】
熱可塑性樹脂の分解温度は、差動型示差熱天秤(TG−DTA)などを使用して測定することが可能であり、分解温度以上で熱処理することが好ましい。分解温度より低い場合、相分離ガラス層中に樹脂の残存成分が残ることがあり、好ましくない。
【0078】
ガラス粉末を融合する際には、ガラス粉末のガラス転移点以上で熱処理することが好ましい。ガラス転移点よりも低い場合、ガラス粉末の融着が進行せず、ガラス層が形成されない傾向にある。
【0079】
ガラス粉末を熱処理する熱処理温度は、例えば200℃以上1500℃以下とし、加熱処理時間は通常1時間から100時間の範囲内において、得られる多孔質ガラスの孔径等に応じて適宜設定することができる。
【0080】
また、前記熱処理温度は一定温度である必要はなく、温度を連続的に変化させたり、異なる複数の温度段階を経てもよい。
【0081】
次に、前記相分離ガラス層をエッチングして、連続した孔を有するスピノーダル型多孔質構造の多孔質ガラス層を得る工程を行う。具体的には、上記の加熱処理工程より得られる相分離ガラス層の非骨格部分を除去することで多孔質ガラス層を得る。
【0082】
非骨格部分を除去する手段は、水溶液に接触させることで可溶相を溶出することが一般的である。水溶液をガラスに接触させる手段としては、水溶液中にガラスを浸漬させる手段が一般的であるが、ガラスに水溶液を塗布するなど、ガラスと水溶液が接触する手段であれば何ら限定されない。
【0083】
水溶液としては、水、酸溶液、アルカリ溶液など、可溶相を溶出可能な既存の如何なる溶液を使用することが可能である。また、用途に応じてこれらの水溶液に接触させる工程を複数種類選択してもよい。
【0084】
一般的な相分離ガラスのエッチングでは、非可溶相部分への負荷の小ささと選択エッチングの度合いの観点から酸処理が好適に用いられる。酸溶液と接触させることによって、酸可溶成分であるアルカリ金属酸化物−酸化ホウ素リッチ相が溶出除去される一方で、非可溶相の侵食は比較的小さく、高い選択エッチング性を行なうことができる。
【0085】
酸溶液としては、例えば塩酸、硝酸等の無機酸が好ましい。酸溶液は通常は水を溶媒とした水溶液を用いるのが好ましい。酸溶液の濃度は、通常は0.1から2.0mol/Lの範囲内で適宜設定すれば良い。
【0086】
酸処理工程では、酸溶液の温度を室温から100℃の範囲とし、処理時間は1から500時間程度とすれば良い。
【0087】
一般に、酸溶液やアルカリ溶液などで処理(エッチング工程1)をした後に水処理(エッチング工程2)をすることが好ましい。水処理を施すことで、多孔質ガラス骨格への残存成分の付着物を抑制することができ、より多孔度の高い多孔質ガラスが得られる傾向にある。
【0088】
水処理工程における温度は、一般的には室温から100℃の範囲が好ましい。水処理工程の時間は、対象となるガラスの組成、大きさ等に応じて適宜定めることができるが、通常は1から50時間程度とすれば良い。
また、本発明では必要に応じて複数回のエッチング工程を行なうことができる。
【実施例】
【0089】
次に、本発明の実施例における各種の評価方法を示す。
【0090】
<ガラス粉末のガラス転移点(Tg)の測定方法>
ガラス粉末のガラス転移点(Tg)は、差動型示差熱天秤(TG−DTA)により測定されるDTA曲線において測定される。測定装置として、たとえばThermoplusTG8120(リガク社)を使用することができる。
具体的には、白金パンを使用して室温から昇温速度10℃/分で加熱してDTA曲線を測定した。前記曲線において、吸熱ピークにおける吸熱開始温度を接線法により外挿して求め、ガラス転移点(Tg)とした。
【0091】
<結晶化温度測定方法>
本発明におけるガラス粉末の結晶化温度は、下記のようにして算出される。
ガラス粉末を300℃で1時間熱処理を行う。得られたサンプルをX線回折構造解析装置(XRD)にて評価し、結晶によるピークが確認されない場合は、新たなガラス粉末を50℃高い温度(350℃)で1時間熱処理を行いXRDで評価した。
結晶が確認されるまで、さらに50℃高い温度で1時間熱処理を行う動作を繰り返し、結晶によるピークが確認された温度を結晶化温度とした。測定装置として、たとえばXRDとしてRINT2100(リガク社)を使用することができる。
【0092】
<空孔率測定方法>
電子顕微鏡写真の画像を骨格部分と孔部分とで2値化する処理を行った。
具体的には走査電子顕微鏡(FE−SEM S−4800、日立製作所製)を用いて加速電圧5.0kVにて骨格の濃淡観察が容易な10万倍(場合によっては5万倍)の倍率で多孔質ガラスの表面観察を行う。
観察された像を画像として保存し、画像解析ソフトを使用して、SEM画象を画像濃度ごとの頻度でグラフ化する。図4は、スピノーダル型多孔質構造の多孔質の画像濃度ごとの頻度を示す図である。図4の画像濃度の▽で示したピーク部分が前面に位置する骨格部分を示している。
ピーク位置に近い変極点を閾値にして明部(骨格部分)と暗部(孔部分)を白黒2値化する。黒色部分の面積の全体部分の面積(白色と黒色部分の面積の和)における割合について全画像の平均値を取り、空孔率とした。
【0093】
<孔径、骨格径測定方法>
走査電子顕微鏡(FE−SEMS−4800、日立製作所製)を用いて加速電圧5.0kVにて、5万倍、10万倍、15万倍の倍率で像(電子顕微鏡写真)を撮影した。撮影した画像から多孔質体表面の孔を複数の楕円で近似し、それぞれの楕円における短径を30点以上計測し、その平均をして孔径とした。
また、同様にして骨格を複数の楕円で近似し、それぞれの楕円における短を30点以上計測し、その平均をして骨格径とした。
【0094】
<多孔質ガラス層の厚さ測定方法>
走査電子顕微鏡(FE−SEMS−4800、日立製作所製)を用いて加速電圧5.0kVにて、1万から15万倍の倍率でSEMの像(電子顕微鏡写真)を撮影した。撮影した画像から透明基材上の多孔質ガラス層部分の厚さを30点以上計測し、その平均値をガラス層の厚さとした。
【0095】
<主元素の測定方法>
透明基材を構成する主元素及び、多孔質ガラス層を構成する主元素の測定には、例えばX線光電子分光装置(XPS)を用いて構成元素の定量分析を行うことで求めることができる。測定装置としてはESCALAB 220i−XL(Thermo Scientific社製)を用いる。
具体的な測定方法を説明する。はじめに、本発明の光学部材の最表面の元素分析をXPSにて行うことで、多孔質ガラス層を構成する主元素を分析する。
次いで、最表面のガラス層を研磨などの任意の方法により取り除き、ガラス層がなくなっていることをSEMなどにより確認した後に、再度XPS測定することで透明基材の主元素を分析する。もしくは、光学部材の断面の透明基材部分をXPS測定することで、透明基材の主元素を分析することが可能である。
【0096】
<ガラス粉末の平均粒子径の測定方法>
ガラス粉末の平均粒子径の測定には、既存の粒径測定装置を用いて粒径測定を行うことで求めることができる。測定装置としてはZETA SIZER NANO(MALVERN INSTRUMENTS)を用いる。
本発明のガラス粉末をIPA溶媒中に分散し、平均粒子径を測定した。
【0097】
以下に実施例を示して本発明を説明するが、本発明は実施例によって制限されるものではない。
【0098】
<ガラス粉末1の作製例>
仕込み組成が、SiO 64重量%、B 27重量%、NaO 6重量%、Al 3重量%になるように、石英粉末、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、及びアルミナの混合粉末を白金るつぼを用いて、1500℃、24時間溶融した。その後、ガラスを1300℃に下げてから、グラファイトの型に流し込んだ。空気中で、約20分間放冷した後、500℃の徐冷炉に5時間保持した後、24時間かけて冷却させた。得られたホウケイ酸塩ガラスのブロックをジェットミルを使用して、粒子の平均粒子径が4.5μmになるまで粉砕を行い、ガラス粉末1を得た。ガラス粉末1の結晶化温度は800℃であった。
【0099】
<ガラス粉末2の作製例>
仕込み組成が、SiO 63.0重量%、B 28.0重量%、NaO 9.0重量%になるように、石英粉末、酸化ホウ素、および酸化ナトリウムの混合粉末を使用した点、得られたホウケイ酸塩ガラスのブロックを湿式ビーズミルを使用して、粒子の平均粒子径が2.8μmになるまで粉砕を行った点以外は、ガラス粉末1と同様の方法で、ガラス粉末2を得た。ガラス粉末2の結晶化温度は750℃であった。
【0100】
<ガラス粉末3の作製例>
仕込み組成がガラス粉末1と同じホウケイ酸塩ガラスのブロックを湿式ビーズミルを使用して、粒子の平均粒子径が2.2μmになるまで粉砕した点以外は、ガラス粉末1と同様の方法で、ガラス粉末3を得た。
ガラス粉末3の結晶化温度は800℃であった。
【0101】
<ガラスペースト1の作製例>
ガラス粉末1 60.0質量部
ターピネオール 44.0質量部
エチルセルロース(登録商標 ETHOCEL Std 200(ダウ・ケミカル社製)) 2.0質量部
上記原材料を撹拌混合し、ガラスペースト1を得た。ガラスペースト1の粘度は31300mPa・sであった。
【0102】
<ガラスペースト2の作製例>
ガラス粉末1の代わりにガラス粉末2を使用する以外は、ガラスペースト1と同様の方法でガラスペースト2を得た。ガラスペースト2の粘度は38000mPa・sであった。
【0103】
<ガラスペースト3の作製例>
ガラス粉末1の代わりにガラス粉末3を使用する以外は、ガラスペースト1と同様の方法でガラスペースト3を得た。ガラスペースト3の粘度は24600mPa・sであった。
【0104】
<透明基材の例>
透明基材として、石英基材(株式会社飯山特殊硝子社製、軟化点1700℃、ヤング率72GPa)を使用した。なお、以下では、基材Aとして説明する。なお、基材Aは、厚さ0.5mmの石英基材を、50mm×50mmの大きさに切断し、鏡面研磨したものであった。基材Aは450nm以上650nm以下の波長領域で透過率の最小値が93%であった。
【0105】
<構造体1の作製例>
本例では、基材Aの上に多孔質ガラス層を有する構造体を以下のように作製した。
【0106】
ガラスペースト1を基材A上にスクリーン印刷により塗布した。印刷機はマイクロテック社製、MT−320TVを使用した。また、版は#500の30mm×30mmのベタ画像を使用した。
【0107】
次いで、100℃の乾燥炉に10分間静置し、溶剤分を乾燥させた。製膜された膜の膜厚をSEMにて測定したところ10.00μmであった。
【0108】
この膜を熱処理工程1として昇温速度20℃/minで700℃まで昇温し、1時間熱処理した。その後に、熱処理工程2として降温速度10℃/minで600℃まで降温し、600℃、50時間熱処理し、膜最表面を研磨して相分離ガラス層Aを得た。
【0109】
前記相分離ガラス層Aを、80℃に加熱した1.0mol/Lの硝酸水溶液中に浸漬し、80℃にて24時間静置した。次いで、80℃に加熱した蒸留水中に浸漬し、24時間静置した。溶液からガラス体を取り出し、室温にて12時間乾燥して構造体1を得た。
【0110】
SEMで膜厚を観察したところ、膜厚が7.00μmで均一な膜の形成が確認された。構造体1の製造条件を表1に示す。得られた構造体1の各評価の測定結果を表3に示す。
【0111】
図5は、構造体1の基材と多孔質ガラス層の断面の電子顕微鏡観察図(SEM像)である。図6は、構造体1の多孔質ガラス層の断面の電子顕微鏡観察図(SEM像)である。
【0112】
<構造体2の作製例>
本例では、熱処理工程1の後、熱処理工程2において575℃まで降温した点以外は、構造体1と同様にして構造体2を作製した。構造体2の製造条件を表1に示す。得られた構造体2の測定結果を表3に示す。
【0113】
<構造体3の作製例>
本例では、使用するガラスペーストをガラスペースト1からガラスペースト2に変更した点と、熱処理工程2において600℃まで降温させた後、600℃で25時間熱処理した点以外は、構造体1と同様にして構造体3を作製した。構造体3の製造条件を表1に示す。得られた構造体3の測定結果を表3に示す。
【0114】
<構造体4の作製例>
本例では、使用するガラスペーストをガラスペースト1からガラスペースト3に変更した点以外は、構造体1と同様にして構造体4を作製した。構造体4の製造条件を表1に示す。得られた構造体4の測定結果を表3に示す。
【0115】
<構造体5の作製例>
本例では、スクリーン印刷の版を#200に変更した点以外は、構造体1と同様にして構造体4を作製した。構造体5の製造条件を表1に示す。得られた構造体5の測定結果を表3に示す。なお、構造体5では膜中の一部で孔の平均孔径よりも十分大きな空隙が確認された。
【0116】
<構造体6の作製例>
本例では、熱処理工程1において800℃まで昇温した点以外は、構造体4と同様にして構造体6を作製した。構造体6の製造条件を表1に示す。得られた構造体8の測定結果を表3に示す。
【0117】
<構造体7の作製例>
本例では、多孔質ガラスのみからなる構造体を以下のように作製した。
仕込み組成が、SiO 64.0重量%、B 27.0重量%、NaO 6.0重量%、Al 3.0重量%になるように、石英粉末、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、及びアルミナの混合粉末を白金るつぼを用いて、1500℃、24時間溶融した。その後、ガラスを1300℃に下げてから、グラファイトの型に流し込んだ。空気中で、約20分間放冷した後、500℃の徐冷炉に5時間保持した後、24時間かけて冷却した。
【0118】
得られたホウケイ酸塩ガラスのブロックを30mm×30mm×400μmのサイズに切断加工し、鏡面まで両面研磨を行い、ガラス体を得た。
【0119】
このガラス体を熱処理工程1として昇温速度20℃/minで700℃まで昇温し、1時間熱処理した。その後に、熱処理工程2として降温速度10℃/minで600℃まで降温し、600℃、50時間熱処理した。熱処理により、ガラス体に歪みが観察された。膜最表面を研磨した後、80℃に加熱した1.0mol/Lの硝酸水溶液中に浸漬し、80℃にて24時間静置した。次いで、80℃に加熱した蒸留水中に浸漬し、80℃にて24時間静置した。溶液からガラス体を取り出し、室温にて12時間乾燥して構造体7を得た。構造体7の製造条件を表2に示す。得られた構造体7の測定結果を表4に示す。
【0120】
<構造体8の作製例>
本例では、基材Aの表面に凹凸構造を有する構造体を以下のように作製した。
炭酸水素ナトリウム(NaHCO、和光純薬製) 5.0g
酸化ホウ素(B、キシダ化学製) 10.0g
純水 500.0g
上記組成の溶液を調整した。
基材Aを濃度が1.0mol/LのHCl水溶液で洗浄した。その後、上記溶液に、基材Aを浸漬した。
【0121】
次いで基材Aを溶液から取り出し乾燥機内で100℃で1時間乾燥させた。次に基材Aを電気炉に入れ、10℃/分の昇温速度で900℃まで昇温し、900℃で10分間保持した。この後、20℃/分の降温速度で700℃まで降温し、700℃で3時間保持して炉冷した。
【0122】
冷却後60℃に加熱した濃度が1.0mol/LのHCl溶液中に24時間浸漬した。その後、純水中で5分間超音波洗浄し、常温で乾燥させて構造体8を得た。構造体8の製造条件を表2に示す。得られた構造体8の測定結果を表4に示す。
【0123】
<構造体9の作製例>
本例では、熱処理条件を表1に記載の条件にする以外は、構造体1と同様にして構造体9を作製した。つまり、熱処理工程2を行わず、熱処理工程1にて450℃まで昇温したあと、51時間熱処理した点が構造体1の作製例と異なっていた。構造体9の製造条件を表2に示す。得られた構造体9の測定結果を表4に示す。
【0124】
<構造体10>
基材Aのみからなる構成を構造体とした。構造体10の測定結果を表4に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【0127】
【表3】

【0128】
【表4】

【0129】
得られた構造体1乃至10を下記評価手段にて評価した。評価結果を表5、表6に記す。
【0130】
<多孔質ガラス層の評価>
走査電子顕微鏡(FE−SEMS−4800、日立製作所製)を用いて加速電圧5.0kVにて、1万から15万倍の倍率でSEMの像(電子顕微鏡写真)を撮影した。撮影した画像から、基材上に多孔質ガラス層の有無を判断した。
ランクA:基材上に多孔質ガラス層が確認される。
ランクB:基材上に多孔質ガラス層が確認されない。
【0131】
<細孔構造の評価>
走査電子顕微鏡(FE−SEMS−4800、日立製作所製)を用いて加速電圧5.0kVにて、1万から15万倍の倍率でSEMの像(電子顕微鏡写真)を撮影した。撮影した画像から、スピノーダル型相分離による連続した孔を有する多孔質構造の有無を判断した。
ランクA:スピノーダル型相分離による連続した孔を有する多孔質構造が多孔質ガラス層内全体に確認される。
ランクB:スピノーダル型相分離による連続した孔を有する多孔質構造が多孔質ガラス層内に部分的に確認される。
ランクC:スピノーダル型相分離による連続した孔を有する多孔質構造が確認されない。
【0132】

<構造体の歪み評価>
構造体の歪みの評価を、下記判断基準で行った。平坦な台の上に構造体を乗せ、構造体の反りがあるか否かで歪みの判断を行った。
ランクA:構造体の反りが確認されない。
ランクB:構造体の反りが確認される。
【0133】
<強度の評価>
得られた構造体の向かい合う辺のそれぞれ10mm部分を固定し、構造体中央に10mm×10mmの面積の100gの重りを乗せて、構造体が破壊されるか否かで構造体の強度を評価した。
ランクA:構造体が破壊されない。
ランクB:構造体が破壊される。
【0134】
<多孔質ガラス層の密着性の評価>
得られた構造体の多孔質ガラス層部分と透明基材との界面をSEMを用いて観察し、膜密着性を評価した。評価基準は下記のとおりである。
なお、装置は(株)日立ハイテクノロジー社製、電界放出形走査電子顕微鏡S−4800(商品名)を使用し、加速電圧:5.0kV、倍率:150000倍で観察を行った。具体的には、多孔質ガラス層の骨格部分と透明基材との界面が観察されるか否かで膜密着性を判断した。
ランクA:多孔質ガラス部分と透明基材とが分離していない。
ランクB:多孔質ガラス部分と透明基材とが分離している。
【0135】
<エッチング進行度の評価>
得られた構造体の破断面をSEMを用いて観察し、表面方向からのエッチングの進行度を評価した。詳細な評価基準は下記のとおりである。
なお、装置は(株)日立ハイテクノロジー社製、電界放出形走査電子顕微鏡S−4800(商品名)を使用し、加速電圧:5.0kV、倍率:150000倍で観察を行った。
相分離のための熱処理を行った多孔質ガラス層の断面を露出し、構造体の作製と同様の条件でエッチングを行い、SEM観察を行った。断面からエッチングがなされるため、真の骨格構造を確認することが可能である。
【0136】
具体的にはガラス層全体を膜厚方向に10分割し、それぞれの層表面からの距離における孔径を30か所測定し、平均化したものを、その深さでの孔径と定義した。
【0137】
次いで、構造体の破断面の観察をし、同様にして孔径を算出した。
層表面からの距離が同じ個所で前記断面からエッチングした孔径と構造体の孔径を比較し、孔径の差が5nm以上である個所はエッチングが進行していないと判断した。また、構造体7に関しては、構造体すべてを一つの層と仮定し、同様の評価を行った。
ランクA:層内部にまでエッチングが進行している。
ランクB:層内部の一部でエッチングが進行していない個所が存在する。
【0138】
<透過率の評価>
自動光学素子測定装置(V−570、日本分光製)を用いて、波長領域450乃至650nmの範囲で1nmごとに各構造体の透過率を測定した。透過率測定における光の入射角は0°とした。前記範囲内の透過率の最小値を各構造体の透過率として使用した。
【0139】
<表面反射率の評価>
レンズ反射率測定機(USPM−RU、オリンパス製)を用いて、波長領域450乃至650nmの範囲で1nmごとに各構造体の表面反射率を測定した。前記範囲内の反射率の最大値を各構造体の反射率として使用した。
【0140】
<散乱特性の評価>
構造体の平面に対して垂直方向から、角度をつけて視点を変え、サンプルを観察し、光の散乱度合いを目視確認した。
ランクA:光の散乱による白色化が問題となるレベルではない。
ランクB:光の散乱による白色化がみられる。
ランクC:光の散乱による白色が著しい。
【0141】
【表5】

【0142】
【表6】

【0143】
構造体1乃至6は、高強度かつ低反射かつ高透過率を有する光学部材として利用可能である。
構造体7は、強度が非常に低くかつ、歪みが著しかったため、作製した状態を維持したまま透過率、表面反射率、散乱特性の評価を行うことができなかった。
また、構造体9は、散乱が非常に大きく表面反射率の数値が得られなかった。
【符号の説明】
【0144】
101,201 光学部材
102,202 多孔質ガラス層
103,203 透明基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、前記透明基材の上に配置された、スピノーダル型の多孔質構造を有する多孔質ガラス層と、を有し、波長領域450nm以上650nm以下で50%以上の透過率を有するように、前記多孔質ガラス層に形成された孔の平均孔径または前記多孔質ガラス層の骨格の平均骨格径が設定されていることを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記多孔質ガラス層に形成された孔の平均孔径が1nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記多孔質ガラス層の骨格の平均骨格径が1nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学部材。
【請求項4】
前記多孔質ガラス層の空孔率が30%以上70%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項5】
前記多孔質ガラス層の厚さが0.05μm以上200.00μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項6】
前記透明基材のヤング率が40GPa以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの1項に記載の光学部材。
【請求項7】
前記透明基材を構成する主元素が、前記多孔質ガラス層を構成する主元素と同じであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの1項に記載の光学部材。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学部材と、撮像素子と、を有することを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−33188(P2013−33188A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230002(P2011−230002)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】