説明

光導波路の製造方法及び製造装置

【課題】高分子光導波路の外形形成においてダイシングソーのブレードの目詰まりが抑制されて平坦度の高い切削面が形成されるとともに、ブレードに研磨処理を施すまでの時間が延長され、量産性が向上する光導波路の製造方法を提供する。
【解決手段】コア12とクラッド14とを含む高分子フィルム10を、紫外線照射によって粘度が低下して硬化する粘着層22を表面に有する固定シート20に張り付ける。次いで、切削すべき部分L1,L2に沿って紫外線を照射して粘着層を硬化させ、粘着層を硬化させた部分に沿ってブレード28で切削することにより、高分子フィルムを切り分ける。次いで、固定シートに紫外線を照射して高分子フィルムが張り付けられている部分の粘着層を全体的に硬化させ、切り分けられた高分子フィルムを固定シートから分離させて個々の光導波路16を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンや携帯電話などの機器内又は機器間での信号伝送を光によって行う手段として、高分子材料を用いた光導波路(高分子光導波路)の開発が進んでいる。光導波路は、基本的には、光が伝搬するコアと、コアを囲み、コアよりも屈折率の低いクラッドから構成されている。高分子光導波路を製造する技術としては、例えば、下記に示すような方法が提案されている。
【0003】
(1)フィルムにモノマーを含浸させ、コア部を選択的に露光して屈折率を変化させてフィルムを張り合わせる方法(選択重合法)。
(2)コア層及びクラッド層を塗布後、反応性イオンエッチングを用いてクラッド部を形成する方法(RIE法)。
(3)高分子材料中に感光性の材料を添加した紫外線硬化樹脂を用いて、露光・現像するフォトリソグラフィー法を用いる方法(直接露光法)。
(4)射出成形を利用する方法。
(5)コア層及びクラッド層を塗布後、コア部を露光してコア部の屈折率を変化させる方法(フォトブリーチング法)。
(6)鋳型を用いて高分子光導波路を製造する方法(特許文献1参照)。
【0004】
高分子光導波路のコアおよびクラッドの形成は、それぞれの特徴により選択することが可能である。例えば、導波路の側面あるいはコアが露出する導波路端を形成する技術としては、ダイシングソーを用い、高速回転するブレードにより切削して切り分ける方法がある。
【特許文献1】特開2004−226941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高分子光導波路の外形形成においてダイシングソーのブレードの目詰まりが抑制されて平坦度の高い切削面が形成されるとともに、ブレードに研磨処理を施すまでの時間が延長され、量産性が向上する光導波路の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、(A)光が伝搬するコアと、該コアを包囲するクラッドとを含む高分子フィルムを用意する工程と、(B)前記高分子フィルムを、紫外線照射によって粘度が低下して硬化する粘着層を表面に有する固定シートに前記粘着層を介して張り付ける工程と、(C)前記固定シートに張り付けた前記高分子フィルムをブレードで切削すべき部分に沿って紫外線を照射して該紫外線照射部分の前記粘着層を硬化させる工程と、(D)前記粘着層を硬化させた部分に沿って前記高分子フィルム側から厚さ方向にブレードで切削することにより、前記高分子フィルムを切り分ける工程と、(E)前記高分子フィルムを切り分けた後、前記固定シートに紫外線を照射して少なくとも前記高分子フィルムが張り付けられている部分の前記粘着層を全体的に硬化させる工程と、(F)前記粘着層を全体的に硬化させた後、前記切り分けられた高分子フィルムを、前記固定シートから分離させて個々の光導波路を得る工程と、を含むことを特徴とする光導波路の製造方法である。
請求項2の発明は、前記(C)工程において、前記切削すべき部分の一部に前記紫外線を照射することを特徴とする請求項1に記載の光導波路の製造方法である。
請求項3の発明は、前記(C)工程において、前記高分子フィルムを張り付けた前記固定シートを切削テーブルに固定した後、前記切削すべき部分に沿って紫外線を照射して該紫外線照射部分の前記粘着層を硬化させ、前記(D)工程において、前記高分子フィルムを張り付けた前記固定シートを前記切削テーブルに固定したまま、前記粘着層を硬化させた部分に沿って前記高分子フィルム側から厚さ方向にブレードで切削することにより、前記固定シートを切断せずに前記高分子フィルムを切り分けることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光導波路の製造方法である。
請求項4の発明は、前記(C)工程において、前記紫外線を透過する窓を有するマスクを介して前記紫外線を照射することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の光導波路の製造方法である。
請求項5の発明は、前記(C)工程において、前記紫外線を前記切削すべき部分に沿って走査して照射することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の光導波路の製造方法である。
請求項6の発明は、前記(C)工程において、前記粘着層に照射される前記紫外線の幅が、前記ブレードにより切削して形成される溝の幅に対して200%以下であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の光導波路の製造方法である。
請求項7の発明は、請求項5に記載の光導波路の製造方法に用いる装置であって、前記紫外線を走査して前記粘着層に照射する紫外線照射手段と、前記高分子フィルムを切削するブレードと、を有し、前記紫外線照射手段と前記ブレードとが同一の移動手段に設置されていることを特徴とする光導波路の製造装置である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、高分子光導波路の外形形成においてダイシングソーのブレードの目詰まりが抑制されて平坦度の高い切削面が形成されるとともに、ブレードに研磨処理を施すまでの時間が延長され、量産性が向上する光導波路の製造方法が提供される。
請求項2に係る発明によれば、切削幅が広いときや、切削溝の本数が多いときでも、固定シートの固定力が低下して切削中に高分子フィルムの剥離やぶれが発生し難くなり、本構成を有しない場合に比べ、切削面の平坦性が一層高い光導波路の製造方法が提供される。
請求項3に係る発明によれば、粘着層を硬化させる部分と切削する部分との位置合わせを高精度に行うことができ、本構成を有しない場合に比べ、ダイシングソーのブレードの目詰まりがより確実に抑制される光導波路の製造方法が提供される。
請求項4に係る発明によれば、マスクを介して粘着層を簡便かつ短時間で硬化させることができ、本構成を有しない場合に比べ、量産性が一層向上する光導波路の製造方法が提供される。
請求項5に係る発明によれば、粘着層を硬化させる部分の位置や面積を任意に設定することができ、本構成を有しない場合に比べ、種々の形態の光導波路の製造に適用することが可能な光導波路の製造方法が提供される。
請求項6に係る発明によれば、粘着層を硬化させる部分が必要以上に大きくなって固定シートの固定力が不足することが抑制され、本構成を有しない場合に比べ、切削中に高分子フィルムの剥がれやぶれによって切削面が荒れるなどの現象が抑制される光導波路の製造方法が提供される。
請求項7に係る発明によれば、粘着層を硬化させる部分と切削する部分との位置合わせを高精度に行うことができ、本構成を有しない場合に比べ、高分子光導波路の外形形成においてダイシングソーのブレードの目詰まりが抑制されて平坦度の高い切削面が形成されるとともに、ブレードに研磨処理を施すまでの時間が延長され、量産性が向上する光導波路の製造装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。なお、実質的に同一の機能及び作用を有する部材には、適宜全図面を通じて同じ符合を付与又は符号を省略し、重複する説明は適宜省略する。
本実施形態に係る光導波路の製造方法は、
(A)光が伝搬するコアと、該コアを包囲するクラッドとを含む高分子フィルムを用意する工程と、
(B)前記高分子フィルムを、紫外線照射によって粘度が低下して硬化する粘着層を表面に有する固定シートに前記粘着層を介して張り付ける工程と、
(C)前記固定シートに張り付けた前記高分子フィルムをブレードで切削すべき部分に沿って紫外線を照射して該紫外線照射部分の前記粘着層を硬化させる工程と、
(D)前記粘着層を硬化させた部分に沿って前記高分子フィルム側から厚さ方向にブレードで切削することにより、前記高分子フィルムを切り分ける工程と、
(E)前記高分子フィルムを切り分けた後、前記固定シートに紫外線を照射して少なくとも前記高分子フィルムが張り付けられている部分の前記粘着層を全体的に硬化させる工程と、
(F)前記粘着層を全体的に硬化させた後、前記切り分けられた高分子フィルムを、前記固定シートから分離させて個々の光導波路を得る工程と、
を含む。
【0009】
ダイシングソーによる切削を行う場合、一般的に被切削物(ワーク)は、固定シート(ダイシングテープ)に張り付けられて切削が行われる。ダイシングテープは、一般的には、図1に示すように粘着層22と非粘着層24とにより構成されており、粘着層22に張り付けたワークWを確実に切断して分割するために、切削ラインに沿ってワークWと粘着層22の一部をブレード28で切削する。固定シートの粘着層22は、通常、紫外線硬化性樹脂で形成されているため、切削終了後、紫外線照射が施されることで粘着層22が硬化して固定力が低下し、切断された個々のワークが容易に剥離される。
【0010】
ダイシングソーはブレードの走査精度が高く、サブミクロンオーダーの外形形成が可能である。従って、ダイシングソーにより高分子光導波路の外形形成を行う場合は、切削対象となる高分子フィルムに適したブレード及び切削スピードを選択することにより、ナノオーダーで平坦な切削面、つまり、導波路コア端を光学的に優れた平滑な面に形成することが可能である。
【0011】
しかし、ダイシングソーによって高分子フィルムの切削を行うとブレードの目詰まりが発生する。高分子フィルム自体の切削もブレードの目詰まり発生の一因となるが、固定シートの粘着層を切削することによる目詰まりと比較して影響は小さい。つまり、固定シートの粘着層は粘度を有しており、高分子フィルムとともに固定シート表面の粘着層の一部も同時に切削するため、粘着層を構成している未硬化の樹脂がブレードに目詰まりを生じさせ易い。ブレードの目詰まりは、切削面の荒れやチッピングを生じさせ、切断された高分子フィルムの外形に影響を与えるだけでなく、高分子光導波路のコア端部のように光学的に平坦性が要求される面に対して光損失という影響を与えるため問題となる。
【0012】
このようなブレードの目詰まりによる問題を回避する手法として、ブレードの表面状態を回復させるための研磨処理(ドレッシング処理)が一般的に施されるが、このドレッシング処理が、工程数の増大に伴うコスト高を招き、また、ドレッシング処理の効果が不十分な場合には切断面の平坦性が低下してしまう。
【0013】
また、高分子フィルムを固定シートに張り付けた後、例えば、粘着層の全面に対して紫外線を照射して粘着層を予め硬化させた上で切削を行えば、ブレードの目詰まりは抑制される。しかし、切削前に固定シートの粘着層を予め硬化させると固定力が低下し、被切削物の固定強度不足により切削対象の高分子フィルムが剥がれ易くなる。また、高分子光導波路は、例えばシリコンウエハと比べて可撓性を有するため、切削中における切削面のぶれによる表面荒れを起こし易く、光学的に良好な平坦性を有する高分子光導波路を得ることが難しくなる。つまり、高分子フィルムのような可撓性を有し、かつ光学的に平坦な切削面を形成する必要があるとき、固定シートによる相当の粘着力が必要であり、高分子光導波路の外形形成において切削前に固定シートの粘着層の全面に紫外線照射を施して硬化させることは有効な手段ではない。
【0014】
一方、本実施形態では、光導波路を製造するためのフィルム部材(高分子フィルム)を固定シートに張り付けた後、ブレードによる切削に先立ち、切削すべき部分に沿って紫外線を照射して当該部分の粘着層を選択的に硬化させる。続いて、粘着層を硬化させた部分に沿って切削を行うことで、切削時におけるブレードの目詰まりが抑制される。また、紫外線が照射されず、ブレードによる切削に関与しない部分は粘着性を維持して被切削物(高分子フィルム)を固定するため、切削中の高分子フィルムの剥離やぶれによる切削面の表面荒れの発生が効果的に抑制される。すなわち、本実施形態は、可撓性を有し、かつ、切削面に対し光学的に平坦性を必要とする高分子光導波路の製造において特に有利に適用される。以下、各工程について具体的に説明する。
【0015】
(A)高分子フィルムを用意する工程
まず、光が伝搬するコアと、該コアを包囲するクラッドとを含む高分子フィルムを用意する。
例えば、図2(A)(B)に示すように、複数のコア12がクラッド14内に並列して埋設されている高分子フィルム10を作製する。このような高分子フィルム10を作製する方法は特に限定されず、例えば前述した(1)選択重合法、(2)RIE法、(3)直接露光法、(4)射出成形法、(5)フォトブリーチング法、(6)鋳型を用いる方法、などの公知の方法から選択すればよい。
【0016】
(B)高分子フィルムを固定シートに張り付ける工程
用意した高分子フィルム10を、紫外線照射によって粘度が低下して硬化する粘着層を表面に有する固定シートに粘着層を介して張り付ける。
例えば、図2(B)に示したように、支持体(非粘着層)24上に紫外線照射によって粘度が低下する粘着層22を設けた円形の固定シート20を用意し、該固定シート20の略中央に粘着層22を介して高分子フィルム10を張り付ける。このような固定シート20としては紫外線剥離性のダイシングテープが好適である。
固定シート20は円形に限定されず、高分子フィルム10よりも大きく、高分子フィルム全体を張り付けることができる形状であればよい。
【0017】
(C)切削すべき部分に沿って粘着層を硬化させる工程
高分子フィルム10を固定シート20に張り付けた後、ブレード28で切削すべき部分に沿って紫外線を照射して該紫外線照射部分の粘着層22を硬化させる。
例えば、高分子フィルム10を切断してそれぞれ1本のコアを有する光導波路を製造する場合は、図2(A)に示したような切削ラインL1,L2に沿って紫外線を照射して粘着層22を硬化させる。高分子フィルム10は光透過性を有するため、高分子フィルム10側から紫外線を照射して切削ラインL1,L2に沿って粘着層22を硬化させればよい。
【0018】
紫外線を照射する方法は特に限定されないが、簡便さと精度の点から金属マスクを用いることが好ましい。例えば、図3(A)に示すように、切削ラインL1に対応する位置に紫外線を透過する窓32を有する金属マスク30を用意する。そして、図3(B)に示すように、高分子フィルム10の切削ラインL1とマスク30の窓32の位置が合致するように高分子フィルム10上にマスク30を重ね合わせる。マスク30側から紫外線を照射すれば、窓32を通じて粘着層22が切削ラインL1に沿って選択的に照射されて硬化する。
【0019】
このとき、金属マスク30の窓32の幅が切削ラインL1の幅(ブレード28の厚み)以上であることで、粘着層22の切削部分が紫外線によって確実に硬化され、ブレード28の目詰まりが効果的に抑制される。金属マスク30自体の精度およびマスク30の取り付け精度を考慮すると、マスク30の窓32は切削幅よりも幅広であることが好ましい。ただし、固定シート20の粘着層22が硬化する面積が大きくなるほど固定力が減少し、高分子フィルム10の剥がれ、又は、可撓性を有する高分子フィルム10のぶれによる切削面の荒れが発生する可能性もある。従って、粘着層22に照射する紫外光の幅は切削幅の100%以上200%以下であることが好ましく、105%以上150%以下であることがより好ましい。
【0020】
一方、切削ラインL2に沿って紫外線を照射して粘着層22を硬化させる場合は、図4(A)に示すように、切削ラインL2に対応する位置に窓36を有する金属マスク34を用意する。そして、図4(B)に示すように高分子フィルム10の切削ラインL2とマスク34の窓36の位置が合致するように高分子フィルム10上にマスク34を重ね合わせてマスク34側から紫外線を照射すれば、窓36を通じて粘着層22が切削ラインL2に沿って選択的に照射されて硬化する。
【0021】
上記のように2種類のマスク30,34を介して紫外線を照射することで、固定シート20の粘着層22は切削ラインL1,L2に沿って硬化する。各切削ラインL1,L2に沿って紫外線を照射する順番は限定されず、マスク34を用いて切削ラインL2に沿って紫外線照射を行った後、マスク30を用いて紫外線照射を行ってもよい。
【0022】
また、粘着層22を硬化させる面積は、固定シート20が高分子フィルム10を固定する力に応じて決めればよい。言い換えれば、高分子フィルム10に対する固定シート20の固定力(粘着力)が強い場合は、切削ラインL1,L2に沿って切削すべき部分を全体的に硬化させてもよいが、切削幅が広いときや、切削溝の本数が多いときには、切削すべき部分の全体にわたって粘着層22を硬化させると、高分子フィルム10を固定する力が小さくなり、固定力が臨界点を下回ると、切削中に高分子フィルム10が剥離したり、フィルム10のぶれが生じ易くなる。
【0023】
このように粘着層22の固定力が低下して高分子フィルム10の剥離やぶれが発生することを防ぐため、切削ラインL1,L2に沿って粘着層22を部分的に硬化させてもよい。例えば、図5(A)に示すように、切削ラインL1,L2にそれぞれ対応する位置に沿って窓42,44が断続的に形成されている金属マスク40を用意する。そして、図5(B)に示すように高分子フィルム10の切削ラインL1,L2とマスク40の窓42,44の位置がそれぞれ合致するように高分子フィルム10上にマスク40を重ね合わせてマスク40側から紫外線を照射する。これにより、窓42,44を通じて粘着層22が切削ラインL1,L2に沿って部分的に紫外線照射されて硬化する。
【0024】
このように切削すべき部分の一部に紫外線を照射して粘着層22を硬化させれば、切削幅が広いときや切削溝の本数が多い場合でも、切削ラインL1,L2に沿って連続的に硬化させる場合に比べ、固定力が高く維持され、切削中の高分子フィルム10の剥離やぶれが抑制されるとともに、ブレード28の目詰まりを抑制する効果も得られる。また、上記のような窓42,44を有するマスク40を用いれば、1回の紫外線照射によって粘着層22を切削ラインL1,L2に沿って硬化させることができ、簡便さと精度の点から好ましい。
【0025】
また、図6に示すように、各切削ラインL1,L2に沿って紫外線を走査して硬化させてもよい。例えば、図7に示すとおり、紫外線50をレンズ52で集光させ、切削部分に該当する固定シート20の粘着層22を走査的に照射する。このように紫外線50を集光して走査する技術は半導体製造装置の分野でも知られており、精度も高い。集光された紫外線のスポットSの径(幅)は任意に設定することが可能である。通常、ブレード28による切削幅は最小で20μm程度であり、紫外線を照射するスポット径を、ブレード28による切削溝幅に対して200%以下とすれば、粘着層22の硬化により固定シート20の固定力が減少し過ぎることが防止され、高分子フィルム10の剥がれやぶれによって切削面の平坦性が低下することが抑制される。
このように紫外線を切削ラインL1,L2に沿って走査して照射することで、図3及び図4に示したマスク30,34を用いた場合と同様に粘着層22が選択的に硬化される。なお、走査中、紫外線強度を変化せることで、図5に示したマスク40を用いた場合と同様に切削ラインL1,L2に沿って部分的に照射することも可能である。さらに、走査速度を調整することでも硬化度(接着強度)を調整することが可能であり、ワークの相当の固定強度を維持したまま、ブレード28の目詰まりを抑制することが可能である。
【0026】
(D)高分子フィルムを切り分ける工程
次に、粘着層22を硬化させた部分に沿って高分子フィルム10側から厚さ方向にブレード28で切削することにより、固定シート20を切断せずに高分子フィルム10を切り分ける。例えば、外周面にダイヤモンド砥粒が固着している円板型のブレードを備えたダイシングソーを用い、高分子フィルム10を張り付けた固定シート20を切削テーブルに固定する。そして、切削すべき部分に水を供給するとともにブレード28を高速回転させながら切削ラインL1,L2に沿って連続的に切削を行う。このとき、図1に示したように、高分子フィルムが確実に切断されるように、高分子フィルムと固定シートの粘着層22の一部をブレード28で切削する。
【0027】
このようにブレード28によって切削ラインL1,L2に沿ってそれぞれ切削することで、光導波路の側面及び導波路端部が切り出される。そして、ブレード28によって切削される部分では粘着層22が少なくとも部分的に硬化しているため、ブレード28の目詰まりが抑制され、また、切削される部分以外では、粘着層22の固定力が維持されているため、高分子フィルム10の剥離やぶれが抑制され、高い平坦性を有する切削面が得られる。
【0028】
なお、前記のように切削ラインL1,L2に沿って紫外線を走査して硬化させる場合は、紫外線照射手段とブレード28を同一の移動手段に組み込むことにより、紫外線照射と切削を、容易に、かつ、高精度で実施することが可能である。例えば、ダイシングソーのブレード28の走査はミクロンレベルの精度が可能であり、ブレード28の走査手段(移動手段)に紫外線照射手段を設置することで、ブレード28による切削と同一精度での紫外線照射が可能となる。
【0029】
ただし、ダイシングソーによる切削を行う際には、ブレード28と被切削物との摩擦熱、あるいは、切削粉の残留を抑制するために、一般的に純水シャワーが施される。従って、紫外線照射と切削を同時進行で行うと、紫外線照射の前に高分子フィルム10に純水が付着し、所望の紫外線照射を施すことが難しくなるおそれがある。そのため、切削する工程の前に切削ラインL1,L2に沿って紫外線照射工程を行い、紫外線照射工程の後、続けて切削することが好ましい。この場合、高分子フィルム10を張り付けた固定シート20を切削テーブルに固定した後、切削すべき部分L1,L2に沿って紫外線を照射して該紫外線照射部分の粘着層22を硬化させる。次いで、高分子フィルム10を張り付けた固定シート20を切削テーブルに固定したまま、粘着層22を硬化させた部分に沿って高分子フィルム10側から厚さ方向にブレード28で切削すればよい。
【0030】
(E)粘着層を全体的に硬化させる工程
高分子フィルム10を切り分けた後、固定シート20に紫外線を照射して粘着層22を全体的に硬化させる。ここでは、少なくとも高分子フィルム10が張り付けられている部分に紫外線を照射して粘着層22を硬化させればよいが、作業の容易性から高分子フィルム10側から全面に紫外線を照射して粘着層全体を硬化させることが好ましい。このように紫外線照射によって粘着層22の全面を硬化させることで、固定力が全体的に低下する。
【0031】
(F)光導波路を粘着層から分離させる工程
粘着層22を全体的に硬化させた後、切り分けられた高分子フィルム10を、固定シート20から分離させて個々の光導波路を得る。
紫外線照射により固定シート20の粘着層22が全体的に硬化して固定力が低下しているため、切削ラインL1,L2に沿って切り分けられた高分子フィルム10は固定シート20から容易に剥離する。そのため、個々に切り分けられた高分子フィルムをピックアップすることで、図8に示すように、それぞれ1本のコア12がクラッド14に包囲され、端部においてコア12が露出した個々の光導波路16が得られる。
【0032】
このようにして得られる光導波路16は、高分子フィルム10が切削中に剥がれたり、ぶれずに切り出されるため、切削面の荒れが小さく、導波路コア端が光学的に優れた平滑な面に形成されている。また、本実施形態では、ブレードの目詰まりが抑制されるため、ブレードの研磨処理(ドレッシング処理)を施すまでの時間が延長され、量産性が向上する。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
<実施例1>
特開2004−226941号公報に開示されているシリコンゴム鋳型を用いる高分子光導波路の作製法に従い、図9に示すように、コア径が50μm□、導波路長が80mm、250μmピッチに4本が並ぶ導波路コアが30セット並列する高分子フィルムを作製した。以下に光導波路フィルムの作製法を具体的に説明する。
【0034】
(原盤の作製)
Si基板上に厚膜レジスト(SU−8)をスピンコート法で塗布した後、80℃でプリベークし、次いで、フォトマスクを通して露光・現像して、コアの形態に対応するコア形成用凸部(コア幅50μm、コア高さ50μm)を有する原盤を作製した。これを120℃でポストベークし、原盤を完成させた。
【0035】
(鋳型の作製)
次に、原盤に剥離剤を塗布した後、熱硬化性ジメチルシロキサン樹脂(ダウコウニングアジア社製:SYLGARD184)を流し込み、10分間真空脱泡を行い、120℃で30分間加熱して固化させた。その後、原盤を剥離して、コア形成用凹部を有する鋳型を作製した。コア形成用凹部を結ぶライン上の2箇所に直径3mmの穴をそれぞれ開けて、充填口及び吸引口を形成した。
【0036】
(導波路コアの作製)
次に、下部クラッド用基材として厚さ188μmのフィルム基材(JSR(株)製のアートンフィルム、屈折率:1.51)を用意し、このフィルム基材を、鋳型のコア形成用凹部を塞ぐように密着させた。次に、鋳型に形成されている充填口内に、粘度が800mPa・sのエポキシ系紫外線硬化性樹脂、硬化後の屈折率:1.54)を満たし、吸引ポンプにより吸引口を介して吸引したところ、充填口及び吸引口における空孔を残してコア形成用凹部内に紫外線硬化性樹脂が充填された。次いで、50mW/cmの紫外光を、鋳型(ジメチルシロキサン樹脂製)を通して10分間照射して硬化させた。その後、鋳型を剥離し、下部クラッド用基材上に導波路コアが形成された。
【0037】
(上部クラッドの作製)
下部クラッド用基材上の形成された導波路コアの上方より、クラッド用アクリル系紫外線硬化性樹脂(硬化後の屈折率:1.51、粘度(25℃):360mPa・s)を滴下し、続いて、上部クラッド用基材(JSR(株)製のアートンフィルム、屈折率:1.51)を張り合わせた。その後50mW/cmの紫外光を10分間照射して、クラッド用硬化性樹脂を硬化させ、上部クラッドを形成した。これによりクラッド内にコア径が50μm□、導波路長が80mm、250μmピッチに4本が並ぶ導波路コアが30セット並列する高分子フィルムを作製した。
【0038】
(光導波路の切り出し)
上記のようにして作製したフィルムを厚さ160μm(粘着層20μm)の固定シートに張り付けた。
続いて固定シートの粘着層に対し、高分子フィルムの切削部分に該当する箇所に沿って紫外線を照射するため、電鋳法で作製した窓幅が1mmのニッケル製マスクを用意した。
高分子フィルムの切削すべき部分に前記マスクの窓部分が重なるようにマスクを設置し、50mW/cmの紫外線を30秒間照射して固定シートの切削部分に該当する粘着層の部分硬化を行った。
【0039】
粘着層の部分硬化後、マスクを取り除き、高分子フィルムを切削台に設置した。次いで、切削台に設置した高分子フィルムに対し、厚さ70μmのダイヤモンドブレード(回転速度:30000rpm)によって外形形成を行い、幅3mm、長さ60mm、厚さ0.5mm、4ch高分子光導波路を25枚切り出した。
1枚目の導波路端部のコアの表面粗さRaを測定したところ30nmであったのに対し、10枚目の導波路では45nmであった。表面粗さRaは、超深度形状測定顕微鏡(キーエンス社製 VK8510)によって測定した。
【0040】
<比較例1>
実施例1と同様の手順により、同構成の高分子フィルムを作製し、これを固定シートに張り付けた後、紫外線を照射せずに切削を行った。
切り出した1枚目の導波路端部のコアの平均表面粗さRaを測定したところ31nmであったのに対し、5枚目の導波路では73nmであった。
【0041】
<実施例2>
実施例1と同様の方法及び材料により、光を伝搬するコアと、コアを囲繞し、コアよりも屈折率が低いクラッドかなる高分子フィルムを用意した。コアのサイズ及び本数も実施例1と同様である。
次に、高分子フィルムを厚さ160μm(粘着層20μm)の固定シートに張り付けた。続いて、固定シートに張り付けた高分子フィルムをポーラスチャックテーブルを備えた切削台に設置し、減圧によって固定した。
【0042】
切削に用いるブレードを保持するスピンドル部に紫外線集光装置を取り付け、該紫外線集光装置により、固定シートの粘着層にスポット径:200μm、光量:60mW/cmで紫外線が照射されるよう調整した。
続いて、高分子フィルムの切削する部分を、予め前記紫外線集光装置からの紫外線により走査して照射し、硬化させた。
【0043】
続いて高速回転(30000rpm)するブレード(ブレード厚:80μm)により、前記粘着層を硬化させた部分に沿って切削し、幅3mm、長さ60mm、厚さ0.5mmの4ch高分子光導波路を25枚切り出した。
1枚目の導波路端部のコアの表面粗さRaを測定したところ31nmであったのに対し、5枚目の導波路では41nmであった。
【0044】
本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されず、適宜変更を加えてもよい。例えば、ブレードで切削する位置やパターンは実施形態及び実施例に限定されず、製造すべき光導波路の形態に応じて切削ラインを選択すればよい。
また、光導波路内のコア部の数、コア部間の距離等は限定されず、要求に応じて形成すればよい。また、光導波路の厚さ方向に複数のコアが積層されている構造の光導波路としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ダイシングソーによって切削を行うときのブレードの位置を示す概略断面図である。
【図2】ダイシング用固定シートに張り付けられた外形形成前の高分子フィルムを示す概略図である。(A)平面図 (B)断面図
【図3】切削ラインL1に沿って紫外線を選択的に照射するためのマスクの一例を示す概略平面図である。(A)マスク (B)マスクを高分子フィルムに重ねた状態
【図4】切削ラインL2に沿って紫外線を選択的に照射するためのマスクの一例を示す概略平面図である。(A)マスク (B)マスクを高分子フィルムに重ねた状態
【図5】切削ラインL1,L2に沿って部分的に紫外線を照射するためのマスクの一例を示す概略平面図である。(A)マスク (B)マスクを高分子フィルムに重ねた状態
【図6】紫外線を走査して照射する領域を示す概略平面図である。
【図7】切削ラインに沿って紫外線を走査して照射する方法を示す概略図である。
【図8】固定シートから剥離して得られる光導波路を示す概略平面図である。
【図9】実施例1で作製した高分子フィルムの構成を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 高分子フィルム
12 コア
14 クラッド
16 光導波路
20 固定シート
22 粘着層
24 非粘着層
28 ブレード
30,34 マスク
32,36 窓
40 マスク
42,44 窓
50 紫外線
52 レンズ
L1,L2 切削ライン
S スポット
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)光が伝搬するコアと、該コアを包囲するクラッドとを含む高分子フィルムを用意する工程と、
(B)前記高分子フィルムを、紫外線照射によって粘度が低下して硬化する粘着層を表面に有する固定シートに前記粘着層を介して張り付ける工程と、
(C)前記固定シートに張り付けた前記高分子フィルムをブレードで切削すべき部分に沿って紫外線を照射して該紫外線照射部分の前記粘着層を硬化させる工程と、
(D)前記粘着層を硬化させた部分に沿って前記高分子フィルム側から厚さ方向にブレードで切削することにより、前記高分子フィルムを切り分ける工程と、
(E)前記高分子フィルムを切り分けた後、前記固定シートに紫外線を照射して少なくとも前記高分子フィルムが張り付けられている部分の前記粘着層を全体的に硬化させる工程と、
(F)前記粘着層を全体的に硬化させた後、前記切り分けられた高分子フィルムを、前記固定シートから分離させて個々の光導波路を得る工程と、
を含むことを特徴とする光導波路の製造方法。
【請求項2】
前記(C)工程において、前記切削すべき部分の一部に前記紫外線を照射することを特徴とする請求項1に記載の光導波路の製造方法。
【請求項3】
前記(C)工程において、前記高分子フィルムを張り付けた前記固定シートを切削テーブルに固定した後、前記切削すべき部分に沿って紫外線を照射して該紫外線照射部分の前記粘着層を硬化させ、
前記(D)工程において、前記高分子フィルムを張り付けた前記固定シートを前記切削テーブルに固定したまま、前記粘着層を硬化させた部分に沿って前記高分子フィルム側から厚さ方向にブレードで切削することにより、前記固定シートを切断せずに前記高分子フィルムを切り分けることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光導波路の製造方法。
【請求項4】
前記(C)工程において、前記紫外線を透過する窓を有するマスクを介して前記紫外線を照射することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の光導波路の製造方法。
【請求項5】
前記(C)工程において、前記紫外線を前記切削すべき部分に沿って走査して照射することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の光導波路の製造方法。
【請求項6】
前記(C)工程において、前記粘着層に照射される前記紫外線の幅が、前記ブレードにより切削して形成される溝の幅に対して200%以下であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の光導波路の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の光導波路の製造方法に用いる装置であって、
前記紫外線を走査して前記粘着層に照射する紫外線照射手段と、
前記高分子フィルムを切削するブレードと、を有し、
前記紫外線照射手段と前記ブレードとが同一の移動手段に設置されていることを特徴とする光導波路の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−72214(P2010−72214A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238137(P2008−238137)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】