説明

光導波路デバイス

【課題】熱膨張係数の差に起因して光導波路基板の内部に発生する応力を低減することのできる光導波路デバイスを提供する。
【解決手段】厚さ30μm以下の光導波路基板11と、光導波路基板11を保持し光導波路基板11より誘電率が低い液晶ポリマ基板12と、を有し、光導波路基板11と液晶ポリマ基板12が接着剤層14によって接着された光導波路デバイス10であって、光導波路基板11と液晶ポリマ基板12の熱膨張係数はそれぞれ基板面内に異方性を有し、光導波路基板11の異方性の軸方向と液晶ポリマ基板12の異方性の軸方向が揃うように、光導波路基板11と液晶ポリマ基板12の相対的向きが調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路デバイス、特に光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信システムの高速大容量化が進んで1波長当り40ギガビット/秒以上の通信速度が実用になってきており、これを受けて、基幹部品である光変調器の広帯域化が求められている。進行波型光変調器は、光導波路を進行する光波と光導波路に沿って設けた電極を進行するマイクロ波とが電気光学効果による相互作用をすることで光波を変調する光変調器であり、光波とマイクロ波との速度整合をとることにより、広帯域化を図ることができる。速度整合を実現する方法として、従来、光導波路基板上に設けた低誘電率のバッファ層の上に電極を形成した構成が用いられてきたが、この構成では、光導波路に印加される電界がバッファ層の存在によって小さくなってしまうため、駆動電圧を低電圧化できないという欠点がある。
【0003】
この欠点を改善するために、図5のような光導波路基板を薄板化した進行波型光変調器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。図5において、光導波路104が形成された光導波路基板101は、接着剤層103により保持基板102に固着されて保持されている。光導波路基板101の厚さは10μm程度以下であり、通常のもの(例えば厚さ0.5mm)よりも薄型である。接着剤層103としては、その誘電率が光導波路基板101よりも低いものを用い、その厚さを、電極105から印加される電界の接着剤層103への漏れが大きくなるよう十分に厚く(例えば10μm〜200μm)する。このような構成では、電極105からの電界が低誘電率の接着剤層103の内部に漏れ出すことによってマイクロ波に対する等価屈折率(その値は光波に対する等価屈折率より大きい)が光導波路基板101の厚さが厚い場合と比べて小さくなる。このように等価屈折率の値の差が小さくなるので、光波とマイクロ波の速度が整合した状態に近付き、広帯域化が実現する。それとともに、この構成では光導波路基板101上にバッファ層を設けることなく速度整合が可能なので、光導波路104に印加される電界の強度が低下してしまうことがなく、駆動電圧の低電圧化も同時に実現することができる。
【0004】
しかしながら、図5の構成とした場合、接着剤層103の厚さが厚いため次のような点が問題になる。第1に、接着剤層が厚いとその接着強度が低下してしまう。第2に、接着剤の硬化時に紫外線照射や加熱によってその温度が上昇し、その後硬化して温度が下がると応力が発生するが、接着剤層が厚いと発生する応力も大きくなってしまう。第3に、接着剤層を厚く形成することは、基板の平行出しや接着剤の液だれ防止など製造上難しい工程を含むため、コスト高になってしまう。
【0005】
こうした問題に対処するための技術として、特許文献2,3に示されるような樹脂基板を用いた構造が提案されている。当該構造によれば、厚い接着層を用いずに済むため、貼り合せ時の平行出しが行いやすく、さらに、硬化時の接着剤の収縮の影響が小さい、といった工程上や特性上のメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−215519号公報
【特許文献2】特開2009−210633号公報
【特許文献3】特開2009−210634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂基板を用いた特許文献2,3の構造において、樹脂基板の熱膨張係数(線膨張係数。以下同様)は光導波路基板の熱膨張係数に近い値であることが、製造工程上もデバイスの特性上も望ましい。ここで、一般に、樹脂の熱膨張係数は等方性であるのに対して、光導波路基板には熱膨張係数が異方性を持つものが用いられることもある。例えば、後述するLN基板の場合、熱膨張係数はZ軸方向が2ppm/℃、X方向やY方向が16ppm/℃である。そのため、ZカットではなくXカットやYカットのLN基板を用いた場合には、基板面内に大きな異方性が存在することになり、基板面内の各方向においてこのLN基板と樹脂基板の熱膨張係数を合わせることが不可能である。
このようなことから、従来の光導波路デバイスは、光導波路基板の内部に熱膨張係数の差に起因する応力が発生し、デバイス特性が劣化してしまうおそれがあった。また、この応力は、光導波路基板と樹脂基板の間の接着剤層を薄くすることにより低減することはできるものの、完全にゼロにすることは難しい。このため、光導波路基板と樹脂基板を貼り合わせる(接着する)工程において一定の割合で不良品(初期動作点シフトやひび割れ等)が発生してしまう。そしてこのような不良品の発生は、光導波路基板が薄型になるにつれて顕著となる。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱膨張係数の差に起因して光導波路基板の内部に発生する応力を低減することのできる光導波路デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の光導波路デバイスは、厚さ30μm以下の光導波路基板と、前記光導波路基板を保持する保持基板と、を有し、前記光導波路基板と前記保持基板が接着剤層によって接着された光導波路デバイスであって、前記保持基板は、前記光導波路基板より誘電率が低い液晶ポリマからなる基板であり、前記光導波路基板と前記保持基板の熱膨張係数はそれぞれ基板面内に異方性を有し、前記光導波路基板の前記異方性の軸方向と前記保持基板の前記異方性の軸方向が揃うように、前記光導波路基板と前記保持基板の相対的向きが調整されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記の光導波路デバイスにおいて、前記光導波路基板の前記異方性の軸方向のうち熱膨張係数の大きい方の軸と小さい方の軸が、それぞれ前記保持基板の前記異方性の軸方向のうち熱膨張係数の大きい方の軸と小さい方の軸と一致するように、前記光導波路基板と前記保持基板の相対的向きが調整されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記の光導波路デバイスにおいて、前記保持基板を樹脂製の筐体に取り付けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の光導波路デバイスにおいて、前記液晶ポリマからなる保持基板の前記筐体と接する側の熱膨張係数が前記筐体の熱膨張係数とほぼ等しいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱膨張係数の差に起因して光導波路基板の内部に発生する応力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態による進行波型の光変調器の断面構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による進行波型の光変調器の平面構成図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による進行波型の光変調器の断面構成図である。
【図4】本発明の第2の実施形態による進行波型の光変調器の平面構成図である。
【図5】従来の進行波型の光変調器の断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態による光導波路デバイスである進行波型の光変調器10の断面構成図と平面構成図をそれぞれ示したものである。図1の断面構成図は、図2の平面構成図のA−A’線に沿って切断した様子を表している。
【0017】
図1,図2において、光変調器10は、マッハツェンダー光導波路15が形成された光導波路基板11と、光導波路基板11を保持する保持基板13と、光導波路基板11と保持基板13との間に介挿された液晶ポリマ基板12と、光導波路基板11と液晶ポリマ基板12とを接着固定する接着剤層14と、光導波路基板11上に形成された信号電極16及び接地電極17−1,17−2と、を含んで構成されている。
【0018】
光導波路基板11は、電気光学効果を有する母結晶からその主軸Pと基板表面Sとが平行になるように切り出されたXカットの基板であり、例えば、ニオブ酸リチウム(LN)基板やタンタル酸リチウム(LT)基板等を用いることができる。このXカットの光導波路基板11に、入力導波路15−3と分岐光導波路15−1及び15−2と出力導波路15−4とからなるマッハツェンダー光導波路15が、上記主軸Pと分岐光導波路15−1及び15−2とが垂直になるように(即ち図1において主軸Pが紙面内にくるように)して形成されている。光導波路基板11の厚さは、例えば30μm以下、好ましくは10μm以下の厚さとする。このように光導波路基板11を薄板化すると、電極16,17−1,17−2により励起されて光導波路基板11内を進行するマイクロ波に対する等価屈折率が小さくなって、分岐光導波路15−1及び15−2を進行する光波に対する等価屈折率との差が小さくなる。これにより、光波とマイクロ波との速度整合がとれた状態、あるいは速度差が小さい状態となり、光変調器10の広帯域化が実現される。
【0019】
以下では、光導波路基板11にLN基板を用いるものとする。LN基板の熱膨張係数(線膨張係数。以下同様)は、Z軸(主軸P)方向が2ppm/℃、X方向(図の上下方向、つまり基板面に垂直な方向)やY方向(図の紙面垂直方向、つまり導波路の伝搬方向)が16ppm/℃である。
【0020】
液晶ポリマ基板12は、その誘電率(実部)が光導波路基板11の誘電率よりも低い特性を持った樹脂製の基板であり、上記のようにマイクロ波に対する等価屈折率を小さくするために用いられる。なお、マイクロ波の損失を抑えるため、複素誘電率の虚部が小さいことが好ましい。
【0021】
ここで、液晶ポリマは、その成形時における樹脂の流動方向とそれに垂直な方向とで熱膨張係数が異なり、この2つの方向の熱膨張係数は、樹脂流し込みの速度や流し込み口の形状などにより制御することが可能である。理想的には、液晶ポリマ基板12の各軸方向の熱膨張係数が、光導波路基板11の各軸方向の熱膨張係数と同等の値であることが望ましいが、現状、そのような物性の液晶ポリマは存在しない。そのため、本実施形態では、液晶ポリマ基板12の直交する2軸方向の熱膨張係数は、光導波路基板11の直交する2軸方向(Z軸とX軸の2軸、または、Z軸とY軸の2軸)の熱膨張係数の比と近い値を持つように調整されている。具体例として、光導波路基板11(LN基板)が上述の熱膨張係数(比の値は8)を有しているとすると、液晶ポリマ基板12の熱膨張係数は、ポリフェニリンサルファイド系の樹脂(誘電率=4.6)を用いて、成形時の樹脂流動方向が7ppm/℃、これと垂直な方向が60ppm/℃となるように、調整されている。そして、液晶ポリマ基板12は、熱膨張係数が7ppm/℃の方向が光導波路基板11(LN基板)のZ軸(主軸P)方向に沿い、熱膨張係数が60ppm/℃の方向が光導波路基板11(LN基板)のX軸方向またはY軸方向に沿うように、光導波路基板11に対する相対的な向きが設定されている。これにより、熱膨張係数の差に起因して光導波路基板11の内部に発生する応力を低減でき、温度変化にともなう特性の安定性を向上することができる。
なお、液晶ポリマ基板12の2軸方向の熱膨張係数の比は光導波路基板11の2軸方向の熱膨張係数の比に完全に合わせなくてもよく、実用上問題のない特性が得られる範囲で、熱膨張係数の比の差が存在していてもよい。
光導波路基板11と液晶ポリマ基板12の熱膨張係数の差は小さいことが望ましいが、熱膨張係数の2軸の異方性の方向を一致させる(揃える)ことが最も重要である。そして、2軸のうち、熱膨張係数が大きい方の軸方向において、光導波路基板11と液晶ポリマ基板12の熱膨張係数の差を小さくすることがより望ましい。
【0022】
液晶ポリマ基板12の厚さは、電極16,17−1,17−2によって発生するマイクロ波の電界が液晶ポリマ基板12の内部に大きく漏れ出すように、十分に厚く、例えば50μm以上の厚さとする。これにより、マイクロ波に対する等価屈折率を小さくすることができる。なお、厚さの上限については特に制限はない。また、液晶ポリマは、その成形条件によっては板厚の方向において熱膨張係数に若干の分布が見られることもあるが、液晶ポリマ基板12全体として見たときの熱膨張係数の異方性が光導波路基板11と近ければ、液晶ポリマ基板12内部に局所的な熱膨張係数の分布があってもデバイスの特性上問題はない。
【0023】
光導波路基板11と液晶ポリマ基板12とは、接着剤層14によって接着固定されている。接着剤層14を形成する接着剤には、紫外線を照射することによって硬化する紫外線硬化型の接着剤や、加熱によって硬化する熱硬化型の接着剤を用いることができる。
【0024】
接着剤層14は、光変調器10の信頼性を向上させる必要性から、その厚さを十分に薄くすることが望ましく、例えば20μm以下、好ましくは9μm以下、より好ましくは1μm以下の厚さとなるように形成する。厚さが30μmを超えると、前述したように貼り合せ時の平行出しが困難になる。また、一般に接着剤層は薄く形成した方が接着強度は大きくなるので、このように接着剤層14を薄くすることにより、光導波路基板11と液晶ポリマ基板12とを信頼性の上で問題がない程度に十分な強度で接着固定することができる。また、接着剤の硬化時に、紫外線照射や加熱によってその温度が上昇しその後硬化して温度が下がり応力が発生するが、接着剤層14の厚さが薄く、熱膨張係数の2軸の異方性の方向が一致していれば、発生する応力を低減することができ、貼り合わせ時の歩留まりを向上することが可能である。なお、接着にあたっては、光導波路基板11と液晶ポリマ基板12は、接着強度が十分に発現するよう、適切な方法で洗浄や表面処理をしておくことが望ましい。
【0025】
接着剤層14の厚さが熱ドリフト(測定温度−40℃〜85℃での駆動電圧の変化)に与える影響を測定したところ、次の結果を得た。この評価に使用した液晶ポリマ基板12の熱膨張係数は、Z軸方向が7ppm/℃、X方向とY方向が60ppm/℃である。
接着剤層の厚さ(μm) 熱ドリフト(V)
1 0.3
2 0.5
3 0.4
4 0.1
5 0.4
一方、液晶ポリマ基板12に代えてアクリル系樹脂基板(誘電率=4.0)を採用した構造(特許文献2,3)のデバイスについて同様の測定を行ったところ、次の結果を得た。
接着剤層の厚さ(μm) 熱ドリフト(V)
3 2.1
4 2.9
5 3.0
熱ドリフトの一般的な許容値は3.0V以下である。従来の樹脂基板(アクリル系)を用いても許容範囲内の特性は得られるが、液晶ポリマ基板12を用いた構造の方が良好な特性を得られることが分かる。
【0026】
保持基板13は、液晶ポリマ基板12を介して光導波路基板11を保持する基板であり、光導波路基板11をしっかりと保持できるようにするため、その厚さは十分に厚く、例えば200μm以上、好ましくは0.5〜1.0mm程度とする。保持基板13の材質には、環境温度が変動した際に光導波路基板11の内部に応力が発生しないよう、あるいは発生する応力が低減されるよう、その熱膨張係数が光導波路基板11の熱膨張係数と近い材質のものを使用する。光導波路基板11と保持基板13とが同材質であれば尚更好ましい。例えば、光導波路基板11がLN基板である場合には、保持基板13の材質として、石英やアルミナ、光導波路基板11と結晶方位が同じLN基板を利用することができる。
【0027】
液晶ポリマ基板12と保持基板13との固定方法は、本発明では特に限定されるものではなく、例えば、接着剤層14と同様の接着剤を用いて接着固定する方法、液晶ポリマ基板12を加熱によって粘着性が生じる材質からなるものとし、この液晶ポリマ基板12を加熱して保持基板13に固着させる方法、液晶ポリマ基板12と保持基板13を機械的に固定(例えばネジ止め)する方法、等を適用することができる。
【0028】
マッハツェンダー光導波路15は、例えば、チタン(Ti)等の金属を光導波路基板11の内部に熱拡散させる方法、光導波路基板11内部の原子(LN基板の場合、リチウム(Li)原子)をプロトンと交換する方法、光導波路基板11をリッジ状に形成し、該リッジ部に光を導波させる方法、等を用いて作製することができる。
【0029】
光導波路基板11上に形成される各電極16,17−1,17−2は、光導波路基板11内にマイクロ波を進行させて分岐光導波路15−1及び15−2中を伝搬する光波を変調するための電極であり、信号電極16が分岐光導波路15−1と15−2の間に配置され、接地電極17−1及び17−2がそれぞれ分岐光導波路15−1,15−2を挟んで信号電極16と対向するようにして配置される。この配置により、分岐光導波路15−1及び15−2の内部では、マイクロ波の電界が主軸P方向の主成分を持つようになる。上述したとおり、光導波路基板11の下部に設けられた液晶ポリマ基板12によって速度整合をとる構成であるので、各電極16,17−1,17−2は光導波路基板11上に直接形成する構成としている。このため、分岐光導波路15−1及び15−2に印加されるマイクロ波の電界の強度が低下せず、駆動電圧を低電圧化できる。なお、各電極16,17−1,17−2へ入力する変調電圧は、外部の高周波電源30から供給される。
【0030】
(第2の実施形態)
図3及び図4は、本発明の第2の実施形態による光導波路デバイスである進行波型の光変調器20の断面構成図と平面構成図をそれぞれ示したものである。図3の断面構成図は、図4の平面構成図のA−A’線に沿って切断した様子を表している。
【0031】
図3,図4において、光変調器20は、マッハツェンダー光導波路25が形成された光導波路基板21と、光導波路基板21を保持する保持基板である液晶ポリマ基板22と、光導波路基板21と液晶ポリマ基板22とを接着固定する接着剤層24と、光導波路基板21上に形成された信号電極26及び接地電極27−1,27−2と、液晶ポリマ基板22を固定するパッケージ用筐体23と、を含んで構成されている。
【0032】
光導波路基板21は、電気光学効果を有する母結晶からその主軸Pと基板表面Sとが平行になるように切り出されたXカットの基板であり、例えば、ニオブ酸リチウム(LN)基板やタンタル酸リチウム(LT)基板等を用いることができる。このXカットの光導波路基板21に、入力導波路25−3と分岐光導波路25−1及び25−2と出力導波路25−4とからなるマッハツェンダー光導波路25が、上記主軸Pと分岐光導波路25−1及び25−2とが垂直になるように(即ち図3において主軸Pが紙面内にくるように)して形成されている。光導波路基板21の厚さは、例えば30μm以下、好ましくは10μm以下の厚さとする。このように光導波路基板21を薄板化すると、電極26,27−1,27−2により励起されて光導波路基板21内を進行するマイクロ波に対する等価屈折率が小さくなって、分岐光導波路25−1及び25−2を進行する光波に対する等価屈折率との差が小さくなる。これにより、光波とマイクロ波との速度整合がとれた状態、あるいは速度差が小さい状態となり、光変調器20の広帯域化が実現される。
【0033】
以下では、光導波路基板21にLN基板を用いるものとする。LN基板の熱膨張係数は、Z軸(主軸P)方向が2ppm/℃、X方向(図の上下方向、つまり基板面に垂直な方向)やY方向(図の紙面垂直方向、つまり導波路の伝搬方向)が16ppm/℃である。
【0034】
液晶ポリマ基板22は、上記のようにマイクロ波に対する等価屈折率を小さくする目的と、光導波路基板21を保持する目的のために用いられる基板である。液晶ポリマ基板22の材質には、その誘電率(実部)が光導波路基板21の誘電率よりも低い特性を有するものを用いる。なお、マイクロ波の損失を抑えるため、複素誘電率の虚部が小さいことが好ましい。
【0035】
ここで、液晶ポリマは、その成形時における樹脂の流動方向とそれに垂直な方向とで熱膨張係数が異なり、この2つの方向の熱膨張係数は、樹脂流し込みの速度や流し込み口の形状などにより制御することが可能である。理想的には、液晶ポリマ基板12の各軸方向の熱膨張係数が、光導波路基板11の各軸方向の熱膨張係数と同等の値であることが望ましいが、現状、そのような物性の液晶ポリマは存在しない。そのため、本実施形態では、液晶ポリマ基板22の直交する2軸方向の熱膨張係数は、光導波路基板21の直交する2軸方向(Z軸とX軸の2軸、または、Z軸とY軸の2軸)の熱膨張係数の比と近い値を持つように調整されている。具体例として、光導波路基板21(LN基板)が上述の熱膨張係数(比の値は8)を有しているとすると、液晶ポリマ基板22の熱膨張係数は、ポリフェニリンサルファイド系の樹脂を用いて、成形時の樹脂流動方向が7ppm/℃、これと垂直な方向が60ppm/℃となるように、調整されている。そして、液晶ポリマ基板22は、熱膨張係数が7ppm/℃の方向が光導波路基板21(LN基板)のZ軸(主軸P)方向に沿い、熱膨張係数が60ppm/℃の方向が光導波路基板21(LN基板)のX軸方向またはY軸方向に沿うように、光導波路基板21に対する相対的な向きが設定されている。これにより、熱膨張係数の差に起因して光導波路基板21の内部に発生する応力を低減でき、温度変化にともなう特性の安定性を向上することができる。
なお、液晶ポリマ基板22の2軸方向の熱膨張係数の比は光導波路基板21の2軸方向の熱膨張係数の比に完全に合わせなくてもよく、実用上問題のない特性が得られる範囲で、熱膨張係数の比の差が存在していてもよい。
光導波路基板11と液晶ポリマ基板12の熱膨張係数の差は小さいことが望ましいが、熱膨張係数の2軸の異方性の方向を一致させる(揃える)ことが最も重要である。そして、2軸のうち、熱膨張係数が大きい方の軸方向において、光導波路基板11と液晶ポリマ基板12の熱膨張係数の差を小さくすることがより望ましい。
【0036】
液晶ポリマ基板22の厚さは、電極26,27−1,27−2によって発生するマイクロ波の電界が液晶ポリマ基板22の内部に大きく漏れ出すように、また、光導波路基板21をしっかりと保持できるように、十分に厚く、例えば50μm以上、好ましくは0.5〜1.0mm程度とする。なお、厚さの上限については特に制限はない。また、液晶ポリマは、その成形条件によっては板厚の方向において熱膨張係数に若干の分布が見られることもあるが、液晶ポリマ基板22全体として見たときの熱膨張係数の異方性が光導波路基板21と近ければ、液晶ポリマ基板22内部に局所的な熱膨張係数の分布があってもデバイスの特性上問題はない。
【0037】
光導波路基板21と液晶ポリマ基板22とは、接着剤層24によって接着固定されている。接着剤層24を形成する接着剤には、紫外線を照射することによって硬化する紫外線硬化型の接着剤や、加熱によって硬化する熱硬化型の接着剤を用いることができる。
【0038】
接着剤層24は、光変調器20の信頼性を向上させる必要性から、その厚さを十分に薄くすることが望ましく、例えば20μm以下、好ましくは9μm以下、より好ましくは1μm以下の厚さとなるように形成する。厚さが30μmを超えると、前述したように貼り合せ時の平行出しが困難になる。また、一般に接着剤層は薄く形成した方が接着強度は大きくなるので、このように接着剤層24を薄くすることにより、光導波路基板21と液晶ポリマ基板22とを信頼性の上で問題がない程度に十分な強度で接着固定することができる。また、接着剤の硬化時に、紫外線照射や加熱によってその温度が上昇しその後硬化して温度が下がり応力が発生するが、接着剤層24の厚さが薄いと発生する応力を低減することができる。なお、接着にあたっては、光導波路基板11と液晶ポリマ基板12は、接着強度が十分に発現するよう、適切な方法で洗浄や表面処理をしておくことが望ましい。
【0039】
接着剤層24に用いる接着剤の誘電率は、接着剤層24の厚さを1μmより厚くする場合には、液晶ポリマ基板22と同様に(マイクロ波に対する等価屈折率を小さくするため)光導波路基板21の誘電率よりも低いことが必要である。これは、厚さが1μmより厚いと接着剤層24がマイクロ波の等価屈折率に与える影響が大きいからである。一方、接着剤層24の厚さを1μm以下とする場合には、接着剤層24がマイクロ波の等価屈折率に与える影響は無視できる程度となるので、接着剤層24に用いる接着剤の誘電率は光導波路基板21の誘電率より高くてもかまわない。
【0040】
パッケージ用筐体23は、破損防止や信頼性確保などのために光導波路基板21、液晶ポリマ基板22、及び各電極26,27−1,27−2からなる部分を外界から隔離して収納する部材であり、その内部底面に設けられた凸部(台座)に液晶ポリマ基板22が固定して取り付けられている。なお、図3では、パッケージ用筐体23の底面の一部と凸部のみを示している。
【0041】
パッケージ用筐体23の材質は、光変調器20の低コスト化を図るために樹脂製とする。このとき、液晶ポリマ基板22のパッケージ用筐体23側の熱膨張係数とパッケージ用筐体23に用いる樹脂材料の熱膨張係数とが近い値を持つように、パッケージ用筐体23の樹脂材料と液晶ポリマ基板22の成形条件を選ぶ。上述したように、液晶ポリマ基板22は光導波路基板21側の熱膨張係数が異方性を持つように成形する必要があるが、成形条件を制御することにより、熱膨張係数を板厚方向に変化させることも可能であり、熱膨張係数が光導波路基板21側では異方性を有し、パッケージ用筐体23側では等方性を有するような液晶ポリマ基板22も作製可能である。このようにすることで、環境温度が変動した際に光導波路基板21の内部に発生する応力を低減することができる。したがって、光変調器20の特性を劣化させることなく、パッケージ用筐体23を樹脂製とすることによる低コスト化を実現可能である。
【0042】
具体例として、例えば、パッケージ用筐体23の樹脂材料には、ポリカーボネイト(熱膨張係数=70ppm/℃)やノリル(熱膨張係数=2.5ppm/℃)を用いることができる。ポリカーボネイトを用いた場合には、液晶ポリマ基板22の材料には、二液性熱硬化エポキシ接着剤(熱膨張係数=63×10−6/K)を利用することができる。ノリルを用いた場合には、液晶ポリマ基板22の樹脂材料には、紫外線硬化型エポキシ接着剤(熱膨張係数=20×10−6/K)を利用することができる。
【0043】
液晶ポリマ基板22とパッケージ用筐体23との固定方法は、本発明では特に限定されるものではなく、例えば、上記接着剤層24と同様の接着剤を用いて接着固定する方法、液晶ポリマ基板22を加熱によって粘着性が生じる材質からなるものとし、この液晶ポリマ基板22を加熱してパッケージ用筐体23に固着させる方法、液晶ポリマ基板22とパッケージ用筐体23を機械的に固定(例えばネジ止め)する方法、等を適用することができる。
【0044】
マッハツェンダー光導波路25は、例えば、チタン(Ti)等の金属を光導波路基板21の内部に熱拡散させる方法、光導波路基板21内部の原子(LN基板の場合、リチウム(Li)原子)をプロトンと交換する方法、光導波路基板21をリッジ状に形成し、該リッジ部に光を導波させる方法、等を用いて作製することができる。
【0045】
光導波路基板21上に形成される各電極26,27−1,27−2は、光導波路基板21内にマイクロ波を進行させて分岐光導波路25−1及び25−2中を伝搬する光波を変調するための電極であり、信号電極26が分岐光導波路25−1と25−2の間に配置され、接地電極27−1及び27−2がそれぞれ分岐光導波路25−1,25−2を挟んで信号電極26と対向するようにして配置される。この配置により、分岐光導波路25−1及び25−2の内部では、マイクロ波の電界が主軸P方向の主成分を持つようになる。上述したとおり、光導波路基板21の下部に設けられた液晶ポリマ基板22によって速度整合をとる構成であるので、各電極26,27−1,27−2は光導波路基板21上に直接形成する構成としている。このため、分岐光導波路25−1及び25−2に印加されるマイクロ波の電界の強度が低下せず、駆動電圧を低電圧化できる。なお、各電極26,27−1,27−2へ入力する変調電圧は、外部の高周波電源30から供給される。
【0046】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、マッハツェンダー光導波路15,25や各電極16,17−1,17−2,26,27−1,27−2の具体的な構成は、上述したものに限られず、必要に応じて適宜、変更してもよい。
また、液晶ポリマ基板12,22について、誘電率が光導波路基板11,21より低いこと及び複素誘電率の虚部が低いことをデバイス特性確保の要件としたが、熱膨張係数や機械的強度の調整のために、適宜フィラーや骨材を混合して誘電率や複素誘電率を上昇させても、デバイスの特性低下が実用的範囲内におさまるのであれば、差し支えない。
【符号の説明】
【0047】
10,20…光変調器 11,21…光導波路基板 12,22…液晶ポリマ基板 13…保持基板 23…パッケージ用筐体 14,24…接着剤層 15,25…マッハツェンダー光導波路 15−1,15−2,25−1,25−2…分岐光導波路 15−3,25−3…入力導波路 15−4,25−4…出力導波路 16,26…信号電極 17−1,17−2,27−1,27−2…接地電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ30μm以下の光導波路基板と、
前記光導波路基板を保持する保持基板と、
を有し、前記光導波路基板と前記保持基板が接着剤層によって接着された光導波路デバイスであって、
前記保持基板は、前記光導波路基板より誘電率が低い液晶ポリマからなる基板であり、
前記光導波路基板と前記保持基板の熱膨張係数はそれぞれ基板面内に異方性を有し、前記光導波路基板の前記異方性の軸方向と前記保持基板の前記異方性の軸方向が揃うように、前記光導波路基板と前記保持基板の相対的向きが調整されている
ことを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項2】
前記光導波路基板の前記異方性の軸方向のうち熱膨張係数の大きい方の軸と小さい方の軸が、それぞれ前記保持基板の前記異方性の軸方向のうち熱膨張係数の大きい方の軸と小さい方の軸と一致するように、前記光導波路基板と前記保持基板の相対的向きが調整されていることを特徴とする請求項1に記載の光導波路デバイス。
【請求項3】
前記保持基板を樹脂製の筐体に取り付けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光導波路デバイス。
【請求項4】
前記液晶ポリマからなる保持基板の前記筐体と接する側の熱膨張係数が前記筐体の熱膨張係数とほぼ等しいことを特徴とする請求項3に記載の光導波路デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−234037(P2012−234037A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102391(P2011−102391)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】