説明

光復調器

【課題】
DQPSK変調方式など、位相変化を変調信号として使用する通信方式における光復調器において、1ビット遅延部分におけるデジタル信号毎の位相調整や偏光の回転角度調整を高精度に設定でき、信号特性の劣化を抑制可能な光復調器を提供すること。
【解決手段】
入力された差動位相偏移変調光信号を、分岐部10にて複数のペアの光信号に分岐し、該ペアの光信号間に所定の遅延量を与えた後、合波部10にて該ペアの光信号(I,Q)を合波し、該合波された光信号の特定の組み合わせから得られた結果に基づき、差動位相偏移変調光信号を復調する光復調器において、該ペアの光信号間にそれぞれのペアに応じた固定の遅延量を与える固定遅延調整部42を、少なくとも一部のペアの光信号の片方の光路に設け、可変で同一な遅延量を与える可変同一遅延調整部41を、該固定遅延調整部を設けた全ペアの光信号の片方の光路、又は該固定遅延調整部を設けない全ペアの光信号の他方の光路に設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光復調器に関し、特に、DQPSK変調方式など、位相変化を変調信号として使用する通信方式における光復調器に関する。
【背景技術】
【0002】
通信トラフィックの増大に伴い、高速・大容量化が求められる次世代長距離大容量光通信システムでは、多値変復調符号化技術の導入が検討されている。その代表的なものの一つに差動四相位相偏移変調(DQPSK変調,Differential Quadrature Phase Shift keying)方式がある。この方式では、従来の2値強度変調(OOK)方式と比べ、信号帯域が狭く、周波数利用効率の向上や伝送距離の拡大が実現できるほか、高感度化も期待できる。
【0003】
例えば、四相位相偏移変調(QPSK変調,Quadrature Phase Shift keying)方式は、2ビットのデータから構成される各シンボル「00」,「01」,「11」及び「10」に対して、「θ」,「θ+π/2」,「θ+π」及び「θ+3π/2」が割り当てられる。ここで、「θ」は任意の位相である。そして、復調器は、受信信号の位相を検出することにより、送信データを再生する。QPSK変調方式を比較的容易に実現する手段として、DQPSK変調方式があり、DQPSK変調では、先に送信したシンボルの値と次に送信するシンボルの値との間の搬送波の位相変化量(「0」,「π/2」,「π」及び「3π/2」)が送信情報の2ビットに対応付けられる。したがって、受信器は、隣接する2つのシンボル間の位相差を検出することにより、送信データを再生することができる。
【0004】
特許文献1又は2に示すように、DQPSK変調された光信号を復調するには、図1のようなI(In-phase)信号生成用とQ(Quadrature)信号生成用の2つの遅延干渉計(導波路102と103による遅延干渉計、または、導波路104と105による遅延干渉計)を必要とし、しかも、高精度で位相差を復調する必要がある。図1では、光信号αを2つの遅延干渉計に入れるため、分岐部101で2つに分岐されている。しかし、光受信器の周辺温度などの影響で、遅延干渉計内の光路長が変化し、位相が安定しないため、高精度な復調が困難となる。また、いずれの干渉計でどちらの信号成分を復調しているのかが識別できないなど問題があった。また、光信号を分岐し2つの干渉計に導入するまでの光路長差や、各干渉計を構成する光路長の差を、最適に調整する必要があり、制御系が極めて複雑化するという問題を生じていた。なお、光波a1とa2、又は光波a3とa4を、各々のバランスド受光素子に入射してI信号やQ信号が得られる。
【0005】
ところで、位相変化を変調信号として使用する通信方式において、光復調器の構造には、大きく分けて干渉タイプと位相−偏波変換タイプの二種類が存在する。干渉タイプは、入射光を2つの光路に分割し、片方の光路を1ビット遅延させて合波させることにより、前後の変調位相に応じた干渉が発生し、出射光の強弱に変換されるタイプである。これに対し、位相−偏波変換タイプは、入射光を特定の直線偏光に変換し、その直線偏光を直交する二種類の偏光成分に分割し、片方の変更を1ビット遅延させて合波させることにより、前後の変調位相に応じた偏光状態が発生し、出射光の強弱に変換されるタイプである。
【0006】
DQPSK変調方式では、2種類のデジタル信号(I、Q信号)があるため、干渉タイプでは1ビット遅延させる光を更にλ/4(λは光の波長)光路長をシフトさせており、また、位相−偏波変換タイプでは、I,Qに対してそれぞれ直交する結晶軸を持ったλ/4板を通した後、ファラデーローテータ等による直線偏光回転素子を入れている。
【0007】
干渉タイプでは、遅延量をλ/4だけシフトさせる必要があるが、通信波長の1/4は500nm以下であり、物理的にそのような微小な調整は不可能である。このため、図3に示すように、デジタル信号I,Qの各光路にアクティブ制御素子40を配置している。アクティブ制御素子は、シリコン板などで構成され、熱を加えることにより、各デジタル信号I,Q毎の遅延量を調整可能なように構成されている。
【0008】
なお、図3のビームスプリッタ10により光信号は、物体光と参照光の二つに分岐され、例えば、左側に向かう光波を物体光、上側に向かう光波を参照光とする。物体光はプリズムミラー20で反射され、アクティブ制御素子4を通過し、再度、ビームスプリッタ10に入射する。他方の参照光は、プリズムミラー30で反射され、再度、ビームスプリッタに入射し、物体光と合波されて、デジタル信号I,Qに係る光信号として出力される。
【0009】
アクティブ制御素子40は、デジタル信号毎に別々に制御されている。このため、干渉タイプの制御は、制御システムの複雑化、熱クロストーク(Iの制御がQの制御に影響を及ぼす現象)等、特性劣化要因の発生につながる。
【0010】
また、位相−偏波変換タイプでは、ファラデーローテータなど直線偏光の回転素子の回転角度精度のばらつきや、実装ばらつき等によるデジタル信号のIとQとの間の位相ずれ等が特性劣化要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−295603号公報
【特許文献2】特開2007−158852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、DQPSK変調方式など、位相変化を変調信号として使用する通信方式における光復調器において、1ビット遅延部分におけるデジタル信号毎の位相調整や偏光の回転角度調整を高精度に設定でき、信号特性の劣化を抑制可能な光復調器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、入力された差動位相偏移変調光信号を、分岐部にて複数のペアの光信号に分岐し、該ペアの光信号間に所定の遅延量を与えた後、合波部にて該ペアの光信号を合波し、該合波された光信号の特定の組み合わせから得られた結果に基づき、差動位相偏移変調光信号を復調する光復調器において、該ペアの光信号間にそれぞれのペアに応じた固定の遅延量を与える固定遅延調整部を、少なくとも一部のペアの光信号の片方の光路に設け、可変で同一な遅延量を与える可変同一遅延調整部を、該固定遅延調整部を設けた全ペアの光信号の片方の光路、又は該固定遅延調整部を設けない全ペアの光信号の他方の光路に設けたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光復調器において、該可変同一遅延調整部は、全ペアの光信号の片方が透過することで遅延量を調整する単一媒体で構成されることを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の光復調器において、該固定遅延調整部を設けない全ペアの光信号の他方の光路に、該固定遅延調整部で発生する遅延量の最小値以上かつ最大値以下に相当する遅延量を有し、該固定遅延調整部と同一の媒質からなる遅延量補正部を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明により、入力された差動位相偏移変調光信号を、分岐部にて複数のペアの光信号に分岐し、該ペアの光信号間に所定の遅延量を与えた後、合波部にて該ペアの光信号を合波し、該合波された光信号の特定の組み合わせから得られた結果に基づき、差動位相偏移変調光信号を復調する光復調器において、該ペアの光信号間にそれぞれのペアに応じた固定の遅延量を与える固定遅延調整部を、少なくとも一部のペアの光信号の片方の光路に設け、可変で同一な遅延量を与える可変同一遅延調整部を、該固定遅延調整部を設けた全ペアの光信号の片方の光路、又は該固定遅延調整部を設けない全ペアの光信号の他方の光路に設けたため、アクティブ制御素子である遅延量の調整に際して可変する調整部は、「可変同一遅延調整部」のみとなり、従来のように複数のアクティブ制御素子を使用する必要が無い。これにより、アクティブ制御素子間の熱クロストークによる特性劣化やファラデーローテータなどのアクティブ制御素子間の特性のバラツキによる特性劣化を抑制することが可能となる。
【0017】
請求項2に係る発明により、可変同一遅延調整部は、全ペアの光信号の片方が透過することで遅延量を調整する単一媒体で構成されるため、熱クロストークや素子間のバラツキを確実に排除することが可能となる。しかも、光学部品点数を削減でき、製造コストの増加を抑制できると共に、製品の組み立てに掛る作業負担も軽減することが可能となる。
【0018】
請求項3に係る発明により、固定遅延調整部を設けない全ペアの光信号の他方の光路に、該固定遅延調整部で発生する遅延量の最小値以上かつ最大値以下に相当する遅延量を有し、該固定遅延調整部と同一の媒質からなる遅延量補正部を設けるため、環境温度変化や波長依存性により固定遅延調整部の遅延量が変化しても、遅延量補正部における遅延量も同様に変化するため、各ぺアの光信号同士の位相差が変化することが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来の2つの遅延干渉計で構成されるDQPSK変調の光受信器を示す図である。
【図2】本出願人が先の出願で提示した偏波面を利用したDQPSK変調の光受信器を示す図である。
【図3】従来の1ビット遅延手段を説明する図である。
【図4】本発明の光復調器に用いられる1ビット遅延手段を説明する図である。
【図5】本発明の光復調器に用いられる他の1ビット遅延手段を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の光復調器について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光復調器は、図4に示すように、入力された差動位相偏移変調光信号を、分岐部10にて複数のペアの光信号に分岐し、該ペアの光信号間に所定の遅延量を与えた後、合波部10にて該ペアの光信号を合波し、該合波された光信号(I,Q出力信号)の特定の組み合わせから得られた結果に基づき、差動位相偏移変調光信号を復調する光復調器において、該ペアの光信号間にそれぞれのペアに応じた固定の遅延量を与える固定遅延調整部42を、少なくとも一部のペアの光信号の片方の光路に設け、可変で同一な遅延量を与える可変同一遅延調整部41を、該固定遅延調整部を設けた全ペアの光信号の片方の光路、又は該固定遅延調整部を設けない全ペアの光信号の他方の光路に設けたことを特徴とする。
【0021】
アクティブ制御素子は、可変同一遅延調整部のみであるため、従来の光信号毎にアクティブ制御素子を設ける場合と異なり、アクティブ制御素子による特性劣化を抑制することが可能となる。具体的には、アクティブ制御素子が一つであるため、干渉タイプの光復調器では、アクティブ制御素子間の熱クロストークの問題が生じない。また、位相−偏波変換タイプでは、ファラデーローテータなどのアクティブ制御素子間の特性のバラツキが発生しない。
【0022】
特に、可変同一遅延調整部を、例えば1枚のシリコン板、又は単一のファラデーローテータで構成するなど、全ペアの光信号の片方が透過することで遅延量を調整する単一媒体で構成することにより、上述した本発明の利点である、熱クロストークや素子間のバラツキを確実に排除することが可能となる。しかも、光学部品点数を削減でき、製造コストの増加を抑制できると共に、製品の組み立てに掛る作業負担も軽減することが可能となる。
【0023】
本発明の光復調器では、固定遅延調整部42を備えている。これは、各光信号(I,Q)毎における物体光と参照光との位相差を調整するためのものであり、具体的には、石英ガラス板など透明な板状体を位相補償板42として各光信号の光路上に配置する。配置する位相補償板の厚みは、各光信号毎に変えても良いが、部品の共通化を図る観点から同じ厚さになるよう設定することもできる。そして、各光信号(I,Q)毎で物体光と参照光との位相差を所定の値となるように、位相補償板の光軸に対する角度を傾けて調整を行う。
【0024】
また、本発明の光復調器として、光路の分岐部から合波部に至る光学系を、図4に示すようなビームスプリッターと反射プリズムによる空間光学系で構成するだけでなく、基板上に形成した光導波路で構成することも可能である。この場合、位相補正手段として、光導波路上部への接着剤の塗布や、光導波路の一部をレーザートリミングすることにより、実効的な屈折率を変化させることも可能である。
【0025】
さらに、図5に示すように、本発明の光復調器の応用例は、固定遅延調整部42を設けない全ペアの光信号の他方の光路(ビームスプリッタ10と反射プリズム30が形成する光路)に、該固定遅延調整部で発生する遅延量の最小値以上かつ最大値以下に相当する遅延量を有し、該固定遅延調整部と同一の媒質からなる遅延量補正部43を設けることを特徴とする。
【0026】
固定遅延調整部42と遅延量補正部43との組み合わせにより、環境温度変化や波長依存性で、固定遅延調整部42を通過する光波の位相が変化した場合でも、遅延量補正部43も同様に位相が変化するため、各ぺアの光信号同士(物体光と参照光)の位相差が変化することが抑制される。これにより、温度変化、伝搬する光波の波長に対しても安定した特性を有する光復調器を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、DQPSK変調方式など、位相変化を変調信号として使用する通信方式における光復調器において、1ビット遅延部分におけるデジタル信号毎の位相調整や偏光の回転角度調整を高精度に設定でき、信号特性の劣化を抑制可能な光復調器を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
10 ビームスプリッタ
20,30 反射プリズム
41 可変同一遅延調整部
42 固定遅延調整部
43 遅延量補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された差動位相偏移変調光信号を、分岐部にて複数のペアの光信号に分岐し、該ペアの光信号間に所定の遅延量を与えた後、合波部にて該ペアの光信号を合波し、該合波された光信号の特定の組み合わせから得られた結果に基づき、差動位相偏移変調光信号を復調する光復調器において、
該ペアの光信号間にそれぞれのペアに応じた固定の遅延量を与える固定遅延調整部を、少なくとも一部のペアの光信号の片方の光路に設け、
可変で同一な遅延量を与える可変同一遅延調整部を、該固定遅延調整部を設けた全ペアの光信号の片方の光路、又は該固定遅延調整部を設けない全ペアの光信号の他方の光路に設けたことを特徴とする光復調器。
【請求項2】
請求項1に記載の光復調器において、該可変同一遅延調整部は、全ペアの光信号の片方が透過することで遅延量を調整する単一媒体で構成されることを特徴とする光復調器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光復調器において、該固定遅延調整部を設けない全ペアの光信号の他方の光路に、該固定遅延調整部で発生する遅延量の最小値以上かつ最大値以下に相当する遅延量を有し、該固定遅延調整部と同一の媒質からなる遅延量補正部を設けることを特徴とする光復調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−13781(P2012−13781A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147823(P2010−147823)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】