説明

光情報記録媒体およびその製造方法

【課題】 平坦なカバー層を、低コストで容易に形成することができる光情報記録媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 記録層2を形成した基材1と、型材11とを向かい合わせ、これらを回転させて生じた遠心力により液状の塗布剤4を基材1と型材11の間に展延させることによって、型材11表面に沿うカバー層を記録層2表面に形成し、次いでカバー層を型材11から剥離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブルーレイ・ディスクなどの光情報記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光情報記録媒体としては、CD、DVDなどが広く用いられているが、近年では、より容量が大きいブルーレイ・ディスクが開発され、実用化されつつある。なお、ブルーレイ・ディスク(Blu−ray Disc)は規格名称である。
図10は、光情報記録媒体の一例を示すもので、この光情報記録媒体は、平板状の基材1の表面にAg−Bi合金などからなる記録層2が設けられ、その表面に、光透過性のカバー層15が形成されている。
この光情報記録媒体においては、カバー層15を通して読み取り用の光を記録層2に入射させ、記録層2の情報を読み取ることができる。
カバー層15は、薄く形成しすぎると、表面にある付着物やキズを原因として読み取り精度が低下しやすくなるため、カバー層15は十分に厚く形成される(例えば厚さ50μm以上)。
【0003】
平板状の基材に層を形成する方法としては、スピンコート法が広く用いられている。スピンコート法は、基材を高速で回転させ、遠心力により塗布剤を展延させることによって、基材表面に層を形成する。
しかしながら、スピンコート法では、遠心力により塗布剤を展延させるため、内周部分よりも外周部分が厚くなる傾向がある。
上記光情報記録媒体では、カバー層15が厚く形成されるため、スピンコート法を採用する場合には、カバー層15の内周部分と外周部分との厚さの差が大きくなり、読み取り精度が低くなるおそれがあった。
このため、カバー層厚さの均一化を図ることができる製造方法が提案されている(特許文献1を参照)。この製造方法では、カバー層の材料となる塗布剤の塗付量が面積あたり一定となるように塗布剤を基材表面に供給し、展延を行わず、塗布剤のレベリング作用によって塗布剤を平坦化する。
特許文献1では、塗布剤の塗付量が基材面積あたり一定となるように塗布剤を供給する方法として、吐出量が異なる複数のノズル部を有する吐出手段を用いて、基材の内周側から外周側にかけて塗付量が増加するように塗布剤を供給しつつ、基材を低速で回転させる方法が挙げられている。
【特許文献1】特開2004−73969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、塗布剤の塗付量が基材面積あたり一定となるように塗布剤を供給するために、複雑な装置が必要であり、コスト面で不利であった。また、塗布剤の供給量を精度よく定めるのが難しいという問題もあった。
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、平坦なカバー層を低コストで容易に形成することができる光情報記録媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる光情報記録媒体の製造方法は、基材と、該基材の一方の面に設けられた記録層と、該記録層を覆う光透過性のカバー層を備え、該カバー層を通して前記記録層の読み取りが可能な光情報記録媒体を製造する方法であって、前記記録層を形成した前記基材と、型材とを向かい合わせ、これらを回転させて生じた遠心力により液状の塗布剤を前記基材と前記型材の間に展延させることによって、前記型材表面に沿う前記カバー層を前記記録層表面に形成し、次いで該カバー層を前記型材から剥離させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光情報記録媒体の製造方法によれば、液状の塗布剤を基材と型材の間に展延させることによって、型材表面に沿う平坦なカバー層を、容易に記録層表面に形成することができる。
また、操作が容易であるため、製造コスト面で不利になることもない。
また、型材を再利用することによって、製造コストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の光情報記録媒体の製造方法では、前記型材が、型材本体と、その表面に設けられた剥離性コート層とを備えていてもよい。これによって、カバー層を型材から剥離しやすくすることができる。
前記塗布剤の粘度は、1500〜3000mPa・s(25℃)とするのが好ましい。
前記基材と型材を回転させる際の回転数は、1000〜3000min―1とするのが好ましい。
前記カバー層を前記型材から剥離させるには、前記カバー層と前記型材との間に剥離用気体を送り込む方法が可能である。
本発明の光情報記録媒体は、上記製造方法によって得られた光情報記録媒体である。
【実施例】
【0008】
図1〜図8を参照して、本発明の光情報記録媒体の製造方法の一例を説明する。
図1および図2に示すように、型材本体12の表面に剥離性コート層3が形成された円板状の型材11を用意する。
型材本体12としては、例えばポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどからなるものを使用できる。
剥離性コート層3としては、カバー層5(後述)に対する剥離性が、型材本体12に対する剥離性よりも高いものが用いられる。
【0009】
剥離性コート層3は、ベース剤と、ポリシロキサンとを含むポリシロキサン組成物からなることが好ましい。
ベース剤としては、光重合性化合物と、光重合開始剤と、ポリカーボネート溶解性モノマーを含む光重合性組成物を用いるのが好ましい。
光重合性化合物としては、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリアクリレート(TMP(EO)TA)が好ましい。TMP(EO)TAは、例えばトリメチロールプロパン1molに対しエチレンオキサイド3molを付加して得たトリオールのアクリレートである。
光重合開始剤としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(HCPK)が好適である。
ポリカーボネート溶解性モノマーとしては、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)が好ましい。
具体的には、TMP(EO)TA80質量部と、HCPK10質量部と、NPGDA10質量部と、ポリシロキサン2.5質量部を含むものを例示できる。
【0010】
剥離性コート層3の形成には、例えばスピンコート法を用いることができる。
すなわち、上記ポリシロキサン組成物を型材本体12の内周部分に塗布し、型材本体12を回転(スピン)させることによって、ポリシロキサン組成物を型材本体12の表面に展延させる。
次いで、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、ポリシロキサン組成物を硬化させることによって剥離性コート層3を得る。
剥離性コート層3の厚さは、10μm以下、例えば2〜10μmとすることができる。厚さをこの範囲とすると、内周部分と外周部分との厚さの差が小さくなり、剥離性コート層3をより平坦に形成することができる。
なお、型材は、剥離性コート層を備えていない構成も可能である。
【0011】
図3に示すように、剥離性コート層3表面に、液状の塗布剤4を供給する。
塗布剤4としては、光透過性のカバー層5を形成可能なものが用いられる。塗布剤4は、塗布時に流動可能な状態であり、必要に応じて硬化させることができるものが用いられ、例えば紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂などが使用できる。
塗布剤4の具体例としては、エポキシ(メタ)アクリレート及びウレタン(メタ)アクリレートを含有する紫外線硬化型樹脂組成物が挙げられる。
前記エポキシ(メタ)アクリレートとしては、式(I)に示すものを挙げることができる。
【0012】
【化1】

【0013】
ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、(i)HO-(R-O)n-H(式中、Rは分岐鎖を有していてもよい炭素数2〜24のアルキレン基を表し、nは1以上の整数を表す。)で表され、かつ分子量が50〜4000である化合物と(ii)ジイソシアネート化合物と(iii)同一分子内に1つの水酸基と1つのラジカル重合性不飽和結合を有する化合物を反応させた化合物である。
この紫外線硬化型組成物の硬化後の25℃における硬化皮膜の弾性率は100〜800MPaが好ましい。
【0014】
塗布剤4の粘度は、1500mPa・s(25℃)以上、好ましくは2000mPa・s(25℃)以上である。粘度をこの範囲にすることによって、十分な厚さをもつカバー層5を容易に形成することができる。粘度が低すぎると、カバー層5を形成する際に塗布剤4が遠心力により流失しやすくなる。
塗布剤4の粘度は、高すぎれば取り扱いが難しくなるため、3000mPa・s(25℃)以下が好ましい。
【0015】
塗布剤4は、型材11の全体でなく、一部にのみ供給すればよい。例えば、型材11の内周寄りの部分に、型材11の周方向に沿って環状に供給することができる。
【0016】
図4に示すように、銀、銀合金(例えばAg−Bi合金)などからなる記録層2を表面に形成した基材1を用意する。
基材1としては、特に限定されないが、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどからなるものが使用でき、特に、耐久性に優れたポリカーボネートからなるものが好ましい。基材1は、光透過性であることが好ましい。
基材1を、型材11に対して平行となるように、型材11に向かい合わせる。
この際、記録層2と剥離性コート層3との距離が、形成するべきカバー層5の厚さとなるように基材1の位置を定める。例えば、カバー層5の厚さが50〜200μmとなるようにすることができる。
【0017】
図4および図5に示すように、基材1および型材11を周方向に回転させることによって、塗布剤4は遠心力に従って外方に展延する。
この際、塗布剤4は、剥離性コート層3の表面に沿って展延し、剥離性コート層3の表面形状に即した平坦な形状となる。
基材1および型材11の回転数は、1000min―1以上が好ましい。回転数をこの範囲とすることによって、塗布剤4を基材1全体に拡げることができる。
基材1および型材11の回転数は、大きすぎれば遠心力により塗布剤4が流失しやすくなるため、3000min―1以下が好ましい。
【0018】
図6に示すように、基材1を通して紫外線(UV)を塗布剤4に照射し、これを硬化させる。これによって、記録層2の表面にカバー層5が形成される。なお、型材11を通して塗布剤4に紫外線を照射することもできる。
紫外線照射には、高圧水銀灯、メタルハライドランプなどを用いることができる。
【0019】
図7および図8に示すように、カバー層5と剥離性コート層3との間に剥離用気体、例えば空気や窒素を送り込み、これらを剥離させる。
以上の工程を経て、基材1の表面に記録層2およびカバー層5を形成した光情報記録媒体10を得る。
型材11は再利用可能であり、1つの型材11を用いて複数の光情報記録媒体10を作製できる。
【0020】
図9に示すように、光情報記録媒体10は、基材1と、基材1の表面に設けられた記録層2と、記録層2を覆う光透過性のカバー層5を備えている。カバー層5は、光情報記録媒体10の表面に位置している。
光情報記録媒体10は、カバー層5を通して、記録層2に記録されたデータの読み取りを行うことができるようになっている。
光情報記録媒体10は、レーザー光の発振波長が370〜430nmであるブルーレーザー用の光情報記録媒体(例えばブルーレイ・ディスク)として使用することが好ましい。
【0021】
上記製造方法によれば、液状の塗布剤4を基材1と型材11の間に展延させることによって、型材11表面に沿う平坦なカバー層5を、容易に記録層2表面に形成することができる。
また、操作が容易であるため、製造コスト面で不利になることもない。
また、型材11を再利用することによって、製造コストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の光情報記録媒体の製造方法の一例を説明する工程図である。
【図2】前図に続く工程図である。
【図3】前図に続く工程図である。
【図4】前図に続く工程図である。
【図5】前図に続く工程図である。
【図6】前図に続く工程図である。
【図7】前図に続く工程図である。
【図8】前図に続く工程図である。
【図9】本発明の光情報記録媒体の一例を示す概略構成図である。
【図10】従来の光情報記録媒体の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0023】
1…基材、2…記録層、4…塗布剤、5…カバー層、10…光情報記録媒体、11…型材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の一方の面に設けられた記録層と、該記録層を覆う光透過性のカバー層を備え、該カバー層を通して前記記録層の読み取りが可能な光情報記録媒体を製造する方法であって、
前記記録層を形成した前記基材と、型材とを向かい合わせ、これらを回転させて生じた遠心力により、液状の塗布剤を前記基材と前記型材の間に展延させることによって、前記型材表面に沿う前記カバー層を前記記録層表面に形成し、次いで該カバー層を前記型材から剥離させることを特徴とする光情報記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記型材が、型材本体と、その表面に設けられた剥離性コート層とを備えている請求項1に記載の光情報記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記塗布剤の粘度は、1500〜3000mPa・s(25℃)である請求項1または2に記載の光情報記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記基材と型材を回転させる際の回転数は、1000〜3000min―1である請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の光情報記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記カバー層と前記型材との間に剥離用気体を送り込むことによって、前記カバー層を前記型材から剥離させる請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の光情報記録媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の光情報記録媒体の製造方法によって得られた光情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−26566(P2007−26566A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208689(P2005−208689)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】