説明

光情報記録媒体

【課題】多光子吸収反応を利用した光情報記録媒体において、記録感度を向上することを目的とする。
【解決手段】複数の記録層14と、当該複数の記録層14の間に設けられる中間層15とを備えた光情報記録媒体10である。記録層14は、高分子バインダーと、当該高分子バインダーに分散された色素とを有し、色素は、記録光RBの波長で、多光子吸収を生じるとともに、記録層1層当たり1.5%以上の線形吸収を有する。光情報記録媒体10は、色素が記録光RBを線形吸収および多光子吸収して発生する熱により高分子バインダーが変形し、記録層14と中間層の界面に変形を生じることで情報が記録される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
光情報記録媒体は、記録容量を増大するために、記録層を多層化することが行われている。既に複数層への記録が実用化されている光情報記録媒体としては、追記型のDVDやBlu−ray(登録商標)ディスクが知られている。しかし、これらは、記録層に1光子吸収材料を用いており、記録時に特定の記録層のみを反応させる、層の選択性が低い上、記録光の照射側から見て奥側の層に記録する場合には、手前側の記録層において記録光の吸収が起こるため、記録光の損失が大きいという問題がある。
【0003】
そのため、多層光記録媒体においては、近年、記録時の層の選択性を向上して多層化を進めるために、光照射時に、深さ方向の限られた部分でのみ反応が起こる多光子吸収反応を用いることが試みられている(特許文献1、2、非特許文献1)。多光子吸収反応は、記録層にほぼ同時に複数(例えば2つ)の光子が与えられたときに光子を吸収する反応である。例えば、2光子吸収反応においては、光の強度の2乗に比例して光の吸収がなされることから、ビームの焦点付近のみにおいて反応を起こさせることが可能であり、また、1光子吸収が起こらない波長の記録光を用いることで、記録光が通過する手前側の記録層での1光子吸収を無くすことが可能であり、記録層の多層化に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−037658号公報
【特許文献2】特開2009−170013号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Daniel Day and Min Gu, Appl. Phys. Lett. 80, 13(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多光子吸収化合物は、既に光情報記録媒体の記録材料として広く実用化されている1光子吸収化合物に比較して、光の(多光子の)吸収効率が悪く、記録感度が低いという問題がある。このような記録感度の低さは、記録速度の低下につながり、望ましくない。
【0007】
多光子吸収(2光子吸収)を用いる光情報記録媒体において、記録感度を高めるためには、分子当たりの吸収効率である2光子吸収断面積を大きくするか、多光子吸収色素の分子数(濃度)を増加させるという方法がある。しかし、2光子吸収断面積を大きくすることは、技術的な困難が大きく、吸収効率を大幅に増加させることは難しい。また、多光子吸収色素の濃度を高める方法については、色素の溶解度の限界があることや、高濃度化が他の成分との相互作用による悪影響を与える可能性があることなどから、感度の大幅な向上は難しいという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、多光子吸収反応を利用した光情報記録媒体において、記録感度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本発明は、複数の記録層と、当該複数の記録層の間に設けられる中間層とを備えた光情報記録媒体であって、前記記録層は、高分子バインダーと、当該高分子バインダーに分散された色素とを有し、前記色素は、記録光の波長で、多光子吸収を生じるとともに、記録層1層当たり1.5%以上の線形吸収を有し、前記色素が記録光を線形吸収および多光子吸収して発生する熱により前記高分子バインダーが変形し、前記記録層と前記中間層の界面に変形を生じることで情報が記録されることを特徴とす。
【0010】
この光情報記録媒体では、記録層に備える色素が、記録光を照射することで多光子吸収を生じるとともに、線形吸収(1光子吸収)を生じる。そのため、従来のように、記録光の照射により多光子吸収のみを生じる色素を使っていた場合に比較して、効率よく反応が進む。そして、発明者らは、記録層に、高分子バインダーに色素を分散させた構成を用いた場合に、記録光を照射すると記録層と中間層の間の界面の変形により、高い感度で情報が記録できることを発見した。そのため、本発明の光情報記録媒体によれば、多光子吸収反応を利用した光情報記録媒体において、記録感度を向上させることができる。
【0011】
そして、本発明では、1つの色素が多光子吸収と線形吸収の両方を担うため、仮に、多光子吸収のための色素と、線形吸収をする色素とを混合させる場合と比較すると、この混合をする必要がないため、記録層の構成材料が少なくなり、材料間の相互作用を気にする必要がないので、記録材料の選択の自由度も広くなる。
【0012】
前記した光情報記録媒体において、前記色素は、記録光に対する線形吸収が、記録層1層当たり5%以下であることが望ましい。色素の線形吸収が、記録層1層当たり5%以下であることで、記録光が照射側から見て深い層まで到達することができ、記録層の多層化、具体的には、20層以上とすることができる。
【0013】
前記した光情報記録媒体において、前記界面の変形は、記録層を基準に見て凸形状とすることができる。
【0014】
そして、前記した光記録媒体において、前記色素は、例えば、下記式で表される構造である。
【0015】
【化1】

【0016】
前記した課題を解決する本発明は、複数の記録層と、当該複数の記録層の間に設けられる中間層とを備え、前記記録層が、高分子バインダーと、当該高分子バインダーに分散された色素とを有する光情報記録媒体への情報の記録方法であって、前記記録層に対し、前記色素の多光子吸収を生じる波長であるとともに、前記記録層1層当たりで前記色素が1.5%以上の線形吸収を生じる波長の記録光を照射し、前記色素に、記録光の線形吸収および多光子吸収を生じさせ、吸収により発生した熱により前記高分子バインダーを変形させ、前記記録層と前記中間層の界面に変形を生じさせることで情報を記録することを特徴とする。
【0017】
そして、この記録方法において、前記記録光は、前記記録層1層当たりで、前記色素が5%以下の線形吸収を生じる波長の光であることが望ましい。
【0018】
また、前記記録光は、前記色素の2光子吸収断面積が10GM以上の波長の光であることが望ましい。
【0019】
さらに、前記界面の変形は、前記記録層を基準に見て凸形状であることができる。このとき、前記凸形状の変形は、変形前の前記界面を基準として1〜300nmの範囲で突出することが望ましい。凸形状が1〜300nmの範囲で突出することで、情報の再生が容易である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、多光子吸収反応を利用した光情報記録媒体において、記録感度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】多層光情報記録媒体の断面図である。
【図2】記録再生装置の構成図である。
【図3】記録時に形成される記録スポットを示す図である。
【図4】再生時を説明する図である。
【図5】凹形状の変形の形成過程を説明する図(a)〜(c)である。
【図6】実験結果をまとめた表である。
【図7】色素濃度と相対記録感度の関係を示すグラフである。
【図8】線形吸収と相対記録感度の関係を示すグラフである。
【図9】記録スポットのAFMでの観察結果である。
【図10】記録スポットの断面形状である。
【図11】記録スポットのレーザ顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、光情報記録媒体10は、基板11と、サーボ信号層12と、複数の記録層14と、複数の中間層15(第1中間層15Aおよび第2中間層15B)と、カバー層16とを備えてなる。なお、本実施形態においては、記録層14と第1中間層15Aとの界面を「前側界面18」といい、記録層14と第2中間層15Bとの界面を「奥側界面19」という。また、第1中間層15Aと第2中間層15Bとの界面を「中間界面20」という。
【0023】
基板11は、記録層14などを支持するための支持体であり、一例としてポリカーボネートの円板などからなる。基板11の材質や厚さは特に限定されない。
【0024】
サーボ信号層12は、記録層14および中間層15を基板11に保持させるための粘着性または接着性の樹脂材料からなり、基板11側の面に予め凹凸または屈折率の変化によりサーボ信号が記録された層である。ここでのサーボ信号は、記録時および再生時のフォーカスの基準面であることを記録再生装置が認識できるように予め設定された信号である。所定の記録層14に焦点を合わせる場合には、この基準面からの距離や、界面の数を考慮して焦点を制御する。また、記録時および再生時に円周方向に並んだ記録スポットのトラックに正確にレーザ光を照射できるようにトラッキング用のサーボ信号または溝を設けておくとよい。なお、サーボ信号層12の有無は任意である。
【0025】
記録層14は、情報が光学的に記録される感光材料からなる層であり、本実施形態においては、高分子バインダーと、当該高分子バインダーに分散された色素とを有してなる。記録層14は、記録光を照射すると、色素が記録光を吸収して発生する熱により高分子バインダーが変形し、前側界面18に、第1中間層15Aに向かう凸形状が形成されることで情報が記録される。より詳しくは、後述するように、中央が記録層14から第1中間層15Aに向かうように凸形状となり、この凸形状の周囲が、第1中間層15Aから記録層14に向かうように凹形状(記録層14を基準に見て)が形成される。
【0026】
このため、記録層14は、従来の高分子バインダーと色素を含む記録層(後述する凹形状が形成される場合を参照)に比較して厚く形成されており、50nm以上となっている。一層の記録層14は、50nm〜5μm、望ましくは100nm〜3μm、より望ましくは200nm〜2μmの厚さで形成されている。厚さが50nmより小さい場合には、記録層14と中間層15の界面(本実施形態では、前側界面18または奥側界面19に相当する)が記録層14を基準に見て凹形状に変形するが、厚さが50nm以上であることで、記録した箇所の中央が凸となるように変形する。記録層14の厚さの上限は特に限定されないが、記録層14の層数をできるだけ多くするため、記録層14の厚さは5μm以下であるのが望ましい。もっとも、本発明の記録層は、厚さが50nm未満であっても構わない。
【0027】
記録層14は、例えば、2〜100層程度設けられる。光情報記録媒体10の記憶容量を大きくするため、記録層14は多い方が望ましく、例えば10層以上であるのが望ましい。また、記録層14は、記録の前後において、屈折率が変化してもよいし、変化しなくてもよい。
【0028】
記録層14は、記録光に対する吸収率(一光子吸収率)が1層当たり5%以下であるのが望ましい。また、この吸収率は2%以下であるのがより望ましい。例えば、最も奥側の記録層14に到達する記録光の強度が照射した記録光の強度の50%以上であることを条件とすると、30層の記録層を実現するためには、記録層1層当たりの吸収率が2%以下である必要があるからである。また、吸収率が高いと、記録層14を加熱しすぎることで、前側界面18に凸形状を形成しにくくなるからである。なお、この吸収率は、色素の濃度や、記録層14の厚さを変えることで調整することができる。
【0029】
記録層14の形成方法は、特に限定されないが、色素材料と高分子バインダーを溶媒に溶解させた液をスピンコートして形成することができる。このときの溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、ヘキサンなどを用いることができる。
【0030】
記録層14に用いる高分子バインダーとしては、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリベンジルメタクリレート、ポリイソブチルメタクリレート、ポリシクロヘキシルメタクリレート、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)などを用いることができる。
【0031】
記録層14に用いる、上記記録光を吸収する色素としては、記録光の波長において、線形吸収と多光子吸収の両方が生ずる色素である。このときの線形吸収は、1層当たり1.5%以上である。また、記録層14の線形吸収は、1層当たり1.7%以上であることが望ましく、2.5%以上であることがさらに望ましい。
【0032】
そして、2光子吸収の効率としては、2光子吸収断面積が、10GM以上であるのが望ましい。ここで、2光子吸収断面積とは、2光子吸収の起こり易さを表し、2光子吸収を理論的に予想したGoepert-MayerにちなんでGMという単位で表すことが多い(1GM=1×10−50cms photon−1)。2光子吸収断面積は、以下の方法を用いて確認することができる。
【0033】
<2光子吸収断面積測定法>
2光子吸収断面積の測定は、MANSOOR SHEIK−BAHAE et al.,IEEE.Journal of Quantum Electronics.1990,26,760.にZスキャン法として記載されている。Zスキャン法は、非線形光学定数の測定方法として、広く用いられている方法であり、集光したレーザビームの焦点付近で、測定試料をビームに沿って移動させ、透過する光量の変化を記録する。試料の位置により、入射光のパワー密度が変化するため、非線形吸収がある場合には、焦点付近で透過光量が減衰する。透過光量変化を、入射光強度、集光スポットサイズ、試料厚み、試料濃度などから予測される理論曲線に対し、フィッティングを行うことにより、2光子吸収断面積を算出する。2光子吸収断面積測定用の光源には、再生増幅器、光パラメトリック増幅器を組み合わせたTi:sapphireパルスレーザー(パルス幅:100fs、繰り返し周波数:80MHz、平均出力:1W、ピークパワー:100kW)を用いる。2光子吸収測定用の試料には、1×10-3の濃度でクロロホルムに化合物を溶かした溶液を用いる。
【0034】
具体的に、記録光に対し2光子吸収と線形吸収を生じる化合物としては、例えば、下記化合物Aを用いるのが好適である。下記の化合物Aは、現在、広く普及している青紫色レーザの波長405nmにおいて、2光子吸収を生じるとともに、線形吸収を適度に生じるからである。
【0035】
【化2】

【0036】
化合物Aは、一例として以下の手順により合成することができる。
【0037】
【化3】

【0038】
<化合物1の合成>
5−ブロモ−2−ヨードトルエン 2.97g(10mmol)、p−ニトロフェニルボロン酸ピナコールエステル2.74g(11mmol)、酢酸パラジウム112mg(0.5mmol)、トリフェニルホスフィン262mg(1mmol)、炭酸カリウム4.15g(30mmol)を、1,2−ジメトキシエタン45mlおよび蒸留水16mlからなる混合溶媒に加えて窒素気流下で5時間還流した。放冷後、蒸留水を加えて酢酸エチルで抽出後、有機相を分離して、この有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した。粗生成物はカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/10)で精製して原料化合物1を0.8g(収率28%)を得た。
【0039】
<化合物2の合成>
引続き、上記にて合成した原料化合物1 0.8g(2.7mmol)、4−ベンゾイルフェニルボロン酸0.56g(2.5mmol)、酢酸パラジウム38mg(0.17mmol)、トリフェニルホスフィン94mg(0.36mmol)、炭酸カリウム1.4g(10.2mmol)を1,2−ジエトキシメタン15mlおよび蒸留水10mlからなる混合溶媒に加えて窒素気流下で15時間還流した。放冷後、蒸留水を加えて酢酸エチルで抽出後、有機相を分離して、この有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した。粗生成物はカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/10)で精製して化合物2(上記の化合物A)の白色固体0.63g(収率64%)を得た。得られた化合物はマススペクトル、H NMRスペクトルにより目的化合物Aであることを確認した。
1H NMR(クロロホルム-d3):2.4 (s, 3H), 7.35(d, 1H), 7.6(m, 7H), 7.75(d, 2H),
7.85(d, 2H), 7.95(d, 2H), 8.3(d, 2H).
【0040】
化合物Aを用いる場合、記録光として波長405nmのパルスレーザ光を用いることができる。化合物Aは、この記録光に対して、2光子吸収断面積が110GMである。
【0041】
中間層15は、複数の記録層14の間、言い換えると、各記録層14の上下に隣接して設けられている。中間層15は、複数の記録層14の間で層間クロストーク(隣接する記録層14間の信号の混じり合い)が生じないように、記録層14同士の間隔を所定量空けるために設けられている。このため、中間層15の厚さは、3μm以上であり、一例として、本実施形態では10μmである。
【0042】
1つ(1層)の中間層15は、第1中間層15Aと、当該第1中間層15Aの上側に隣接する第2中間層15Bとを備えている。第1中間層15Aは、記録層14に対し記録光の入射方向における一方側である上側に隣接しており、第2中間層15Bは、記録層14に対し前記した一方側とは反対側である下側に隣接している。
【0043】
第1中間層15Aおよび第2中間層15Bは、記録時および再生時のレーザ光の照射により変化しない材料が用いられる。また、第1中間層15Aおよび第2中間層15Bは、記録光や読出光、再生光(読出光の照射により発生する再生信号を含む光)の損失を最小限にするため、記録光や読出光、再生光に対し、透明な樹脂からなることが望ましい。ここでの透明とは、第1中間層15Aの吸収率と第2中間層15Bの吸収率を合わせた吸収率が1%以下であることをいう。
【0044】
第1中間層15Aは、記録光などの照射側(図1における上)から見て記録層14の上側(手前側)に隣接して設けられ、記録層14の屈折率と異なる屈折率を有している。これにより、記録層14と第1中間層15Aとの界面(前側界面18)においては、屈折率の急変による読出光の反射が可能となっている。第1中間層15Aは、記録層14と屈折率の差が適度に設けられているのがよい。具体的には、記録層14の屈折率をn1、第1中間層15Aの屈折率をn2として、
0.001<((n2−n1)/(n2+n1))<0.04
を満たすのが望ましい。
【0045】
((n2−n1)/(n2+n1))、つまり、反射率が0.001より大きいことで、前側界面18での反射光量を大きくして、情報の再生時に、S/N比を大きくすることができる。また、反射率が0.04より小さいことで、前側界面18での反射光量を適度な大きさに抑えて、記録時および再生時において記録再生光が大きな減衰を受けることなく深い記録層14に到達するのを可能にする。これにより、記録層14を多数設けて高容量化を図ることが可能となる。
【0046】
第1中間層15Aの屈折率n2は、一例としては、1.61である。記録層14の屈折率n1が1.40であるとすると、((n2−n1)/(n2+n1))は、0.0049であり、前記した不等式を満たす。
【0047】
本実施形態において、第1中間層15Aは、記録層14よりも軟らかくなっている。具体的には、例えば、第1中間層15Aは、ガラス転位温度が記録層14のガラス転位温度よりも低くなっている。また、他の例としては、記録層14を固体層とし、第1中間層15Aを粘着層としてもよい。このような構成は、記録層14の材料として用いることができる高分子バインダー(樹脂)や、第1中間層15Aの材料として用いることができる樹脂を適切に選択することにより実現することができる。
このように、第1中間層15Aを記録層14よりも軟らかい構成とすることで、記録層14を記録光により加熱して膨脹させたときに、第1中間層15Aが変形しやすく、前側界面18の変形を容易に起こさせることができる。
【0048】
第2中間層15Bは、記録光などの照射側から見て記録層14の下側(奥側)に隣接して設けられ、記録層14の屈折率と略同一である屈折率を有している。ここで、本発明において、記録層14と第2中間層15Bとの界面(奥側界面19)での反射率は、前側界面18での反射率よりも十分に小さいことが望ましい。すなわち、凸形状が形成されない奥側界面19を形成する第2中間層15Bと記録層14との屈折率の差は、凸形状が形成される前側界面18を形成する第1中間層15Aと記録層14の屈折率の差よりも小さいことが望ましい。奥側界面19からの反射光と前側界面18からの反射光が干渉すると、記録層14の厚みの変化により再生出力が大きくなったり小さくなったりするが、このような再生出力の変動は、再生光の波長の数分の一以下という非常に小さな記録層14の厚みの誤差を許容しないことを意味する。そして、実際の媒体においては、例えば、厚さ1μmの記録層14を、上記したような再生出力の変動を生じない精度に均一に製造することは非常に困難である。このような点からも、奥側界面19での反射率を前側界面18での反射率よりも十分に小さくすることが望ましい。
【0049】
以上の観点から、本発明において、奥側界面19での反射率は、前側界面18での反射率の1/5以下であることが好ましく、1/10以下であることがより好ましく、0であることが最も好ましい。そして、これを満たすために、記録層14の屈折率と第2中間層15Bの屈折率とは略同一であることが望ましい。具体的には、本明細書において屈折率が略同一とは、記録層14の屈折率と第2中間層15Bの屈折率との差が0.05以下の場合をいい、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.01以下、最も好ましくは0の場合をいう。これにより、奥側界面19においては、屈折率の急変による反射が起こらず、記録再生光を反射することなく透過させることができる。
【0050】
記録層14の屈折率と第2中間層15Bの屈折率との差を小さくし、望ましくは0にするためには、記録層14および第2中間層15Bに用いる材料の配合を調整するとよい。具体的には、記録層14の材料には、2光子吸収化合物などの色素が高分子バインダー中に混入されているので、色素または高分子バインダーの屈折率を適切に選択し、それぞれの配合比率を変更することによって屈折率を任意に調整することができる。また、高分子バインダーは、類似の基本構造を有していても重合度が異なると屈折率も変化するため、重合度が異なる高分子バインダーを用いたり、高分子バインダーの重合度を調整したりすることでも屈折率の調整が可能である。さらに、複数の高分子バインダーを配合することで調整することも可能である。また、屈折率調整剤(無機微粒子等)を添加して屈折率を調整することも可能である。
【0051】
第2中間層15Bの屈折率を調整する場合、第2中間層15Bの材料として用いることができる樹脂などのポリマー材料の重合度を調整することで、屈折率を調整することができる。また、中間層15として使用可能な材料を任意に配合して屈折率を調整したり、屈折率調整剤(無機微粒子等)を添加して調整したりすることも可能である。
【0052】
本実施形態において、第2中間層15Bは、記録層14と同等の硬さ、または、記録層14よりも硬い構成とすることができる。具体的には、例えば、第2中間層15Bは、ガラス転位温度が記録層14のガラス転位温度以上のものとすることができる。このような構成は、記録層14の材料として用いることができる樹脂や、第2中間層15Bの材料として用いることができる樹脂を適切に選択することにより実現することができる。
【0053】
1つの中間層15を構成する第1中間層15Aと第2中間層15Bとの界面(中間界面20)は、第1中間層15Aと第2中間層15Bが混じり合うことで徐々に屈折率が変化していることが望ましい。すなわち、中間界面20では、界面が明確には形成されていないことが望ましい。これにより、中間界面20においては、屈折率の急変による反射が起こらず、記録再生光を反射することなく透過させることができる。
このような、第1中間層15Aと第2中間層15Bが混じり合うような構成は、例えば、第1中間層15Aと第2中間層15Bに、光硬化性樹脂を混ぜて硬化させる場合に、第1中間層15Aの材料を塗布後、硬化させる前に第2中間層15Bの材料を塗布し、その後、光を当てて第1中間層15Aと第2中間層15Bを同時に硬化させることで実現することができる。
なお、本実施形態においては、中間層15を第1中間層15Aと第2中間層15Bの2つの層で形成したが、より多くの層を形成して中間層15内で徐々に屈折率を変化させてもよいし、一つの中間層15の層の中で、徐々に屈折率を変化させてもよい。
【0054】
カバー層16は、記録層14および中間層15(第1中間層15Aおよび第2中間層15B)を保護するために設けられる層であり、記録再生光が透過可能な材料からなる。カバー層16は、数十μm〜数mmの適宜な厚さで設けられる。
【0055】
以上のような光情報記録媒体10に、情報を記録・再生する場合、例えば、次のような記録再生装置1により行うことができる。図2に示すように、記録再生装置1は、光情報記録媒体10に対面して対物レンズ21を有し、対物レンズ21の光軸上に、対物レンズ21から順に、収差補正のためのビームエキスパンダ22、λ/4板23、PBS(偏光ビームスプリッタ)24、λ/2板28、PBS25、コリメートレンズ27および再生用レーザ51を備えている。
【0056】
そして、PBS24の、対物レンズ21の光軸方向に直交する方向には、BS(ビームスプリッタ)47が配置され、PBS24で当該方向に分岐された光が2方向に分岐されるようになっている。BS47を直進する光の進行方向には、集光レンズ45、シリンドリカルレンズ44およびフォーカス用受光素子55が順に配置されており、BS47で反射される光の進行方向には、集光レンズ46、ピンホール板43、再生光受光素子56が配置されている。また、PBS25の、対物レンズ21の光軸方向に直交する方向には、ビームエキスパンダ48、変調器42、λ/2板49、コリメートレンズ41および記録用レーザ52が順に配置されている。
【0057】
対物レンズ21は、記録光および読出光を複数の記録層14のうちの一つに収束するレンズである。対物レンズ21は、制御装置60により駆動されるフォーカスアクチュエータ21aにより光軸方向に移動され、任意の記録層14に焦点を合わせることができるようになっている。
【0058】
ビームエキスパンダ22は、制御装置60によって対物レンズ21に入射する光の収束、発散状態を変化させる光学素子であり、光情報記録媒体10の表面からの記録再生する記録層14の深さの変化により発生する球面収差を補正する機能を果たす。
【0059】
λ/4板23は、直線偏光を円偏光に変換し、円偏光を回転方向に応じた向きの直線偏光に変換する光学素子であり、再生時の読出光の直線偏光の向きと再生光の直線偏光の向きを90°異ならせる役割を果たす。
【0060】
PBS24,25は、特定の偏光の光を反射して分離する光学素子である。PBS24は、記録用レーザ52から出射された記録光および再生用レーザ51から出射された読出光を通過させて光情報記録媒体10へ向けて進めるとともに、光情報記録媒体10から返ってきた再生光を反射してBS47に向けて進める機能を果たす。
【0061】
BS47は、光の偏光状態によらず所定の分岐比で光を分割する光学素子であり、PBS24によって導かれた再生光をフォーカス用受光素子55および再生光受光素子56に配分する機能を果たす。
【0062】
PBS25は、記録光を反射し、読出光を透過させることで、側方から入射される記録光を光情報記録媒体10へ向けるために配置されている。
【0063】
再生用レーザ51は、405nmのCW(Continuous Wave)レーザである。再生用レーザ51は、記録スポットと同等以下の小さなビームに絞れるのが望ましいため、記録用レーザ52と同じ波長または短い波長で発光するものを用いるとよい。再生用レーザ51の出力は、制御装置60により制御される。
【0064】
ここで、本実施形態の記録再生方法による信号の変調は、記録層14の上下の界面で反射した光の干渉効果を用いないため、光の可干渉性の指標であるコヒーレンス長が短いレーザを読出光の光源に用いても高い変調度を得ることが可能である。そして、このコヒーレンス長を十分に短くしておくことで、多層記録媒体の各層の界面で発生する多重反射光の干渉によるS/N比の低下を抑制し、良好な信号再生特性およびサーボ特性を得ることが可能となる。一般的に、コヒーレンス長は光源のスペクトル半値全幅Δλとの相関が知られており、その関係は光の中心波長をλとしてλ2/Δλで表わされる。読出光の波長としては、十分な解像度を得るためには400nm程度が好ましく、このときΔλが8nm以上ある光を用いるとコヒーレンス長は20μm以下となり、各記録層14の界面からの多重反射光の干渉を十分低減することが可能となる。
【0065】
記録用レーザ52は、波長405nm、パルス幅2psec、繰り返し周波数76MHzのパルスレーザである。記録層14において多光子吸収反応を効率的に起こさせるため、記録用レーザ52としては、CWレーザよりもピークパワーが大きいパルスレーザを用いるのが望ましい。記録用レーザ52の出力は、制御装置60により制御される。
【0066】
変調器42は、記録用レーザ52から発されたパルスレーザ光の内の一部のパルス光を間引いてパルスレーザ光に時間的な変調を与えて情報をエンコードする装置である。変調器42としては、音響光学素子(AOM)、マッハツェンダ(MZ)型光変調素子その他の電気光学変調素子(EOM)を用いることができる。変調器42として、これらの音響光学素子、電気光学素子を用いることで、メカニカルシャッタを用いる場合に比較して極めて高速に光のON・OFFを行うことができる。変調器42の動作は、制御装置60が、記録すべき情報に応じてエンコードした信号を変調器42に出力することで制御される。
【0067】
λ/2板49は、記録用レーザ52が発するパルスレーザ光をPBS25で反射させるために偏光を調整するものである。
【0068】
また、λ/2板28は、再生用レーザ51からのCWレーザ光と、記録用レーザ52からのパルスレーザ光の偏光を調整するために設けられ、制御装置60により駆動されるアクチュエータ28aによって、記録時と再生時とで、光軸周りに90°回転される。これにより、記録時および再生時に、記録光または読出光のうち必要な光を透過させる。
【0069】
フォーカス用受光素子55は、4分割フォトディテクタ等を用い、非点収差法などによってフォーカス制御用の信号を得るための素子である。具体的には、集光レンズ45およびシリンドリカルレンズ44を通過することにより与えられた非点収差を最小化するよう制御装置60によってフォーカスアクチュエータ21aを制御することによってフォーカシングを行うことができる。
【0070】
再生光受光素子56は、再生された情報を含む再生光を受光する素子であり、再生光受光素子56で検出した信号は、制御装置60へ出力され、制御装置60において情報へと復調される。フォーカス用受光素子55が受光した光は、シリンドリカルレンズ44を通過しているので、光量分布を制御装置60に出力することで、制御装置60において、非点収差法により、記録光および再生光のフォーカシングサーボのための制御量を得ることができる。
【0071】
ピンホール板43は、集光レンズ46で収束された光の焦点付近に配置され、共焦点光学系を構成することで光情報記録媒体10の所定の深さ位置からの反射光のみを通過させ、不要な光をカットすることができる。
【0072】
制御装置60は、記録光を光情報記録媒体10の所定の記録層14に照射するときに、前側界面18または前側界面18から若干前後にずれた位置を目標にフォーカシングを行う。フォーカシングは、フォーカスアクチュエータ21aにより対物レンズ21を動かすとともに、制御装置60によって記録光の光路中に配置されるビームエキスパンダ48を制御し、集光または発散状態を調整することによって微調整を行う。また、制御装置60は、読出光を光情報記録媒体10の所定の記録層14に照射する場合には、前側界面18を目標としてフォーカシングを行う。
【0073】
記録再生装置1は、上記した構成の他に、従来公知の光記録再生装置と同様の構成を有する。例えば、光情報記録媒体10の記録層14の平面内で記録スポットMを多数記録するため、記録光および読出光と光情報記録媒体10を互いに記録層14の平面方向に相対的に移動させるアクチュエータなどを備えている。
【0074】
以上のように構成された記録再生装置1により情報を記録する場合、記録再生装置1は、記録用レーザ52からパルスレーザ光を発し、変調器42によりパルスレーザ光の一部を間引いてパルスレーザ光に情報をエンコードする。情報をエンコードされた光は、ビームエキスパンダ48によって収束、発散状態が制御された後、PBS25で反射されてλ/2板28、PBS24、λ/4板23、ビームエキスパンダ22を通過し、対物レンズ21で収束される。パルスレーザ光の照射と同時に、再生用レーザ51からCWレーザ光を発し、CWレーザ光を、PBS25とPBS24を通過させて対物レンズ21で収束する。光情報記録媒体10から返ってきたCWレーザ光は、対物レンズ21、ビームエキスパンダ22、λ/4板23を通過してPBS24およびBS47で反射され、集光レンズ46およびピンホール板43を通って再生光受光素子56に入射する。
【0075】
制御装置60は、フォーカス用受光素子55から受けた信号に基づき、記録光およびCWレーザ光の焦点位置を計算し、フォーカスアクチュエータ21aおよびビームエキスパンダ22,48を駆動することで、図3に示すように記録光RBの焦点位置を調整する。これにより、記録層14の色素は、2光子吸収を生じるとともに線形吸収を生じて発熱し、例えば前側界面18に、記録層14から第1中間層15Aに向かって凸となる記録スポットMが形成される。
【0076】
記録スポットMは、詳細には、中央が凸部M1となり、この凸部M1の周囲が記録層14に向かうリング状の凹部M2となっている。凹部M2の最も深い部分の前側界面18(変形前の前側界面18)からの距離は、凸部M1の頂点の前側界面18(変形前の前側界面18)からの距離よりも小さい。すなわち、記録スポットMは、全体としては、およそ凸形状ということができる。この中央が凸形状となる記録スポットMの形成原理は明らかではないが、従来の記録方法として知られている、照射箇所の中央が凹形状となる記録方法における、凹形状の形成原理(これも、推測として論じられている)との比較から、次のように推察される。
【0077】
まず、従来の記録方法についてみると、J.Appl.Phys 62(3), 1 August 1987によれば、記録光を記録材料に照射すると、図5(a)に示すように、記録材料の温度上昇により記録材料(記録層14)が膨脹する(斜線部分は、加熱された範囲を示す)。そして、図5(b)に示すように、膨脹した部分が表面張力により周囲に流出する。その後、温度が低下すると、図5(c)に示すように、膨脹していた記録材料が収縮して、照射箇所の周囲に流出した部分は、基準面(記録層14の上面)よりも高い位置に記録材料が残って凸形状となるが、中央部分は、材料の流出により基準面よりも低くなって凹形状となる。
【0078】
一方、本実施形態の光情報記録媒体では、記録光RBを照射すると、記録層14が熱膨張して、従来と同様、図5(a)のように記録層14が突出する。しかし、本実施形態の場合、記録層14が比較的厚いため、記録層14の表面付近の粘度は従来技術ほど低くならず、図5(b)の流出が起こらない。そのため、温度が下がることにより、膨脹した部分が収縮すると、図5(a)の形状から図3の形状のように変形して、中央に凸部M1が残り、凸部M1の周囲に凹部M2ができると考えられる。
【0079】
情報の再生時には、記録用レーザ52を停止し、再生用レーザ51を駆動して、CWレーザ光を光情報記録媒体10に照射する。このとき、記録時と同様に、光情報記録媒体10から返ってきたCWレーザ光(再生光)は、PBS24で反射されて再生光受光素子56およびフォーカス用受光素子55に入射する。
【0080】
制御装置60は、フォーカス用受光素子55の信号出力に基づき、フォーカスアクチュエータ21aおよびビームエキスパンダ22を制御し、図4に示すように前側界面18を目標にして焦点位置を調整する。すると、記録層14の屈折率と第1中間層15Aの屈折率に差があることで、記録スポットMの周囲の前側界面18における反射光の強度と、記録スポットMにおける反射光の強度に差が生じるので、この変調により記録スポットMを検出することができる。すなわち、情報を再生することができる。このような光学的な検出のため、凸部M1は、変形する前の界面(前側界面18)に対して1〜300nm程度突出しているのが望ましい。
【0081】
本実施形態においては、記録スポットMは、凸部M1の周囲に凹部M2が形成されているので、記録スポットMを読み取るための読出光OBを記録スポットMに当てると、凸部M1のみが有る場合に比較して、記録スポットMによる反射光の強度分布は凸部M1の中央からの距離に応じて急激に変化すると考えられ、高い変調度で読み取ることが可能である。
【0082】
記録層14に記録した情報を消去する場合、記録層14を高分子バインダーのガラス転移温度付近の温度、望ましくは、ガラス転移点より高い温度に加熱することで、高分子バインダーの流動性が向上し、表面張力により前側界面18の変形がなくなって元の平面に戻ることで、その記録層14に記録された情報を消去することができる。このように情報を消去することで、記録層14への再度の記録(繰り返し記録)が可能である。この加熱の際には、記録層14に焦点を合わせるように連続波レーザを照射する方法を用いることができる。連続波レーザで加熱を行うことにより、記録層14中で連続した領域の情報をムラなく消去することが可能である。この連続波レーザは、情報の再生に用いるレーザを用いてもよいし、別のレーザを用いてもよい。いずれの場合にも、1光子吸収が可能な波長の光を発するレーザを用いるのが望ましい。
【0083】
また、記録層14の加熱により情報を消去する際には、光情報記録媒体10の全体を高分子バインダーのガラス転移温度より高い温度に加熱することで、すべての記録層14に記録された情報を一度に消去することができる。これにより、記録層14が有する色素の種類にかかわらず、簡易に光情報記録媒体の全体の情報を消去して初期化することができる。また、光情報記録媒体の廃棄の際にも、簡易に情報を抹消することができる。
【0084】
以上のように、本実施形態の光情報記録媒体10においては、記録層14中の一の色素が、線形吸収(1光子吸収)を生じると共に2光子吸収を生じることで発熱し、前側界面18に効率的に凸形状の記録スポットMを形成することができる。
また、本実施形態の光情報記録媒体10においては、前側界面18に形成する変形が、記録層14から第1中間層15Aに向かう凸形状であるので、凹形状を形成する場合のように、記録層14に高い流動性を与える必要がないため、その分、高感度で記録することができる。
【0085】
そして、本実施形態の光情報記録媒体10においては、情報の再生に関与しない奥側界面19の両側にある記録層14および第2中間層15Bについて、両者の屈折率の差を実質的になくすことで、奥側界面19での記録再生光の反射をなくし、記録光および読出光を奥深くの記録層14まで届かせることができ、記録層14の層数を多くすることができる。また、奥側界面19における反射が実質的に無いことで、情報の再生時に、前側界面18における反射光と奥側界面19における反射光との干渉が起こらないので、再生時のS/N比を向上させることができる。
【0086】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することが可能である。
例えば、前記実施形態においては、記録光の照射により、前側界面18のみが変形する形態を例示したが、奥側界面19のみを中間層15(第2中間層15B)に向けて凸形状となるように変形させるように構成してもよい。この場合、第2中間層15Bとして比較的(例えば、記録層14より)軟らかいものを選択したり、記録光の照射位置をずらしたりするとよい。また、前側界面18と奥側界面19の両方を変形させることも可能であるが、記録スポットMの読取の容易さからいうと、前側界面18と奥側界面19の一方のみを変形させる構成とするのが望ましい。
【0087】
また、中間層15は、第1中間層15Aと第2中間層15Bの2層により構成していたが、厚み方向の全体に渡って均一な層であっても構わない。
【0088】
さらに、前記実施形態では、記録層14を基準に見て、記録層14の界面に凸形状の変形を生じさせることで情報を記録していたが、記録層14の界面に、公知のような凹形状の変形を生じさせてもよい。
【0089】
また、前記実施形態においては、405nmの波長で記録することができる具体的な2光子吸収化合物として、化合物Aを例示したが、本発明は、記録光の波長を他の波長とした場合には、他の多光子吸収化合物を用いることができる。
【実施例】
【0090】
次に、本発明の光情報記録媒体に記録と消去のテストをした実験について説明する。
1.記録材料
実施例においては、記録材料として、高分子バインダーに、色素を分散させたものを用いた。
【0091】
(1)高分子バインダー
高分子バインダーとしては、ポリ酢酸ビニル(Across社製、Mw:101600)を用いた。
【0092】
(2)色素
色素としては、下記化合物A,B,Cを用いた。
【0093】
【化4】

【0094】
【化5】

【0095】
【化6】

【0096】
上記の化合物Bは、以下の方法により合成した。
【化7】

【0097】
<原料化合物4の合成>
p−トリフルオロメチルフェニルボロン酸6.98g(37mmol)と5−ブロモ−2−ヨードトルエン9.92g(33mmol)、炭酸ナトリウム10.6g(100mmol)をエチレングリコールジメチルエーテル−蒸留水混合溶媒190ml(14:5)に溶解させた後、酢酸パラジウム0.37g(1.7mmol)とトリフェニルホスフィン0.88g(3.3mmol)を加えて窒素気流下で7時間加熱した。
反応溶液を放冷後、蒸留水と酢酸エチル約600mlを加えて抽出し、水層を除いて有機層を分離した後、この有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別したろ液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固させて、シリカゲルカラム(酢酸エチル:ヘキサン=1:400)で精製して白色の原料化合物4を10.1g(収率96%)得た。得られた化合物4はH NMRスペクトルにより目的化合物であることを確認した。
【0098】
<原料化合物5の合成>
原料化合物4を9.5g(30mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン9.9g(39mmol)、酢酸カリウム8.8g(90mmol)および[1,1’−ビス(ジフェニルフォスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム0.73g(0.9mmol)をDMF170mlに懸濁させ、窒素気流下、80℃で4時間加熱した。反応溶液を放冷後、蒸留水と酢酸エチルを加えて抽出し、水層を除いて有機層を分離した後、この有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別したろ液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固させて、シリカゲルカラム(酢酸エチル:ヘキサン=1:100→1:10)で精製して無色の原料化合物5を5.9g(収率54%)得た。得られた化合物5はH NMRスペクトルにより目的化合物であることを確認した。
【0099】
<化合物Bの合成>
原料化合物5を0.8g(2.2mmol)とp−ブロモベンゾフェノンを0.52g(2.0mmol)とをエチレングリコールジメチルエーテル−蒸留水混合溶媒35mL(6:1)に溶解させ、酢酸パラジウム 22.5mg(0.1mmol)、トリフェニルホスフィン52.4mg(0.2mmol)および炭酸カリウム0.64g(6mmol)を加えて2時間加熱還流した。反応溶液を放冷後、蒸留水と酢酸エチルを加えて抽出し、水層を除いて有機層を分離した後、この有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別したろ液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固させて粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(酢酸エチル:ヘキサン=1:100→1:5)で精製して白色結晶を0.71g(収率77%)得た。得られた化合物はマススペクトル、H NMRスペクトルにより目的化合物Bであることを確認した。
H NMR(CDCl)2.37 (s, 3H), 7.34 (d, 1H), 7.48-7.55 (m, 7H), 7.7-7.8 (m, 4H), 7.85 (m, 2H), 7.95 (m, 2H)
【0100】
2.記録層の形成方法
溶媒(後述)に、色素および高分子バインダーを撹拌・溶解させた塗布液を作り、ガラス基板上にスピンコートにより膜を形成した。膜厚は1μmとした。なお、ガラス基板の屈折率は1.53である。
【0101】
3.記録・再生の試験・評価方法
記録光(パルスレーザ:波長405nm、繰り返し周波数76MHz、パルス幅2psec)をピークパワー20W(平均パワー1.5mW)で記録層に照射した。そして、記録光の焦点位置を記録層に調整し、記録光のパワーを固定した上で、記録時間(照射時間)を1μs〜100μsに変化させながら記録を行った。
【0102】
再生のテストとして、波長405nmの連続波レーザ(CWレーザ)の再生光を用い、パワー0.5mWで記録スポットを照射し、反射光量を読み取った。
変調度を以下の式で定義し、実験結果から算出した。
変調度=
{(未照射箇所の反射光量)−(照射箇所の反射光量)}/(未照射箇所の反射光量)
【0103】
また、下記比較例2について、原子間力顕微鏡(AFM)およびレーザ顕微鏡により観察を行った。このときの観察条件は以下の通りである。
【0104】
装置 ナノサーチ顕微鏡OLS−3500(オリンパス社製)
AFM測定
観察条件 ダイナミックモード、走査範囲12μm、走査速度0.5Hz
高アスペクト比プローブAR5-NCHR-20(ナノワールド社製)使用
レーザ顕微鏡測定
観察条件 対物レンズ100倍、共焦点観察
【0105】
5.各実施例および比較例の記録層作成時の塗布液
各実施例および比較例の記録層を作成するときの塗布液は、以下の配合とした。
【0106】
[実施例1]
溶媒 メチルエチルケトン(MEK) 7g
色素 化合物A 167mg
高分子バインダー ポリ酢酸ビニル(PVAc) 500mg
(Across社製 Mw:101600)
【0107】
[実施例2]
実施例1に対し、色素を下記のものに変更し、その他は実施例1と同じとした。
色素 化合物A 143.5mg
【0108】
[実施例3]
実施例1に対し、色素を下記のものに変更し、その他は実施例1と同じとした。
色素 化合物A 67.5mg
【0109】
[比較例1]
実施例1に対し、色素を下記のものに変更し、その他は実施例1と同じとした。
色素 化合物A 34.2mg
【0110】
[比較例2]
実施例1に対し、色素を下記のものに変更し、その他は実施例1と同じとした。
色素 化合物B 215mg
【0111】
[比較例3]
実施例1に対し、色素を下記のものに変更し、その他は実施例1と同じとした。
色素 化合物B 143.5mg
【0112】
[比較例4]
実施例1に対し、色素を下記のものに変更し、その他は実施例1と同じとした。
色素 化合物B 71.4mg
【0113】
[比較例5]
実施例1に対し、色素を下記のものに変更し、その他は実施例1と同じとした。
色素 化合物C 10.7mg
【0114】
以上の配合により、形成された色素中の濃度[wt%]は、図6の表に示した通りである。なお、この場合のモル濃度[mol/L]を参考までに示した。比較例5については、2光子吸収を生じないのでモル濃度を省略している。
また、形成された記録層の、線形吸収[%]を、図6の表に示した。この吸収率は、以下の条件により測定した。
装置: 紫外可視分光光度計UV−3100PC(島津製作所製)
測定範囲: 250nm〜700nm
測定間隔: 1nm
記録層の基板には石英ガラスを用いた。ベースライン測定は石英ガラス単独で行った。吸収率は、405nmにおける吸光度Abから下記の式を用いて算出した。
吸収率[%]=1−10−Ab
【0115】
6.結果
各実施例および比較例の構成及び記録時間をまとめたのが図6である。
【0116】
図6において、相対記録感度は、変調度0.2が得られる記録スポットを形成するのに要した時間の逆数を記録感度の指標とし、比較例2を1.0(基準)として、相対値としている。すなわち、感度が2の場合、比較例2の半分の時間で変調度0.2が得られたということである。
比較例5のように、記録光に対し線形吸収のみを生ずる色素を記録層に用いた場合には、線形吸収が3.0%であっても、記録スポットを形成することができなかった。つまり、変形を生じるのに十分な熱を発生することができなかった。
【0117】
比較例2〜4の化合物Bは、線形吸収が0.5〜0.8%となっているが、分光光度計の精度からは、線形吸収が1%以下では、分解能が悪く、化合物Bは線形吸収が無いといってよい。つまり、化合物Bは、ほぼ2光子吸収のみを生ずるといってよい。化合物Bの2光子吸収断面積は、80GMであるが、比較例2のようにモル濃度を1.2[mol/l]としても、相対記録感度は1.0であった。
【0118】
化合物Aでは、線形吸収を1.3〜3.0%まで変化させたところ、3.0%、モル濃度1.0[mol/l]にした実施例1では、相対記録感度が11.1となった。
【0119】
これらの実施例および比較例の相対記録感度を色素濃度および線形吸収との関係でグラフに示したのが図7および図8である。図7に示すように、2光子吸収のみを生じる化合物Bでは、色素濃度の増加に値して相対記録感度はおよそ比例的にしか増加しないが、化合物Aでは、色素濃度の増加に応じて、6.4wt%から11.9wt%の間で相対記録感度が大きく向上している。もっとも、化合物Aは、化合物Bよりも2光子吸収断面積、つまり2光子吸収が起こる確率が高いが、その確率の差を考慮しても、相対記録感度が非常に大きいといえる。また、図8に示すように、線形吸収がおよそ1.5%を境に、相対記録感度が大きく向上している。これらのことから、線形吸収が1.5%程度になると、線形吸収と2光子吸収の何らかの相乗作用で発熱が大きくなり、記録感度を大きく向上できることが確認された。また、図8からは、線形吸収は、より望ましくは1.7%以上で、さらに望ましくは2.5%以上であると、線形吸収と2光子吸収の何らかの相乗作用で記録感度をさらに向上することができることがわかる。
【0120】
なお、上記の実験例は、記録光を405nmとしたときに化合物Aが好適であることを確認したものであって、化合物B自体が、本発明に用いる色素として不適切な訳ではない。化合物Bも2光子吸収を生じるので、記録光の波長を適切に選択すれば、化合物Bを本発明に用いることができる。例えば、化合物Bを用いる場合の好適な記録光の波長は、完全に特定できてはいないが、およそ、350〜400nmの中の特定の波長範囲において、2光子吸収と適度な線形吸収を生じ、高感度な記録ができるものと推察される。
【0121】
また、比較例2で記録した記録スポットを、AFMにより形状測定した結果を3次元表示したのが図9であり、その断面形状が図10であり、レーザ顕微鏡で観察した像が図11である。図9および図10に示すように、記録スポットは、中央に凸部があり、その周囲に凹部が形成されていた。図10の横軸の「位置」は、照射時間の変化に対応しており(図9を参照)、位置の値が小さい方が照射時間が短く、大きい方が照射時間が長い。また、図11に示すように、レーザ顕微鏡による観察において、記録スポットを明確に確認することができるので、レーザによる光学的な読取りを良好に行うことが可能であることが確認された。
【0122】
なお、上記の観察結果は、厚さ80μmのポリカーボネート層(ポリカーボネートフイルム)と厚さ18μmの粘着層(粘着剤)からなるカバー層を記録層に貼付して記録テストを行い、カバー層を剥離した上で観察を行っている。記録条件は、上記3に記載した通り、照射時間を変化させている。また、ここでは掲載していないが、他の実施例および比較例においても、記録感度が異なるのみで同様の形状が観察された。
【符号の説明】
【0123】
10 光情報記録媒体
14 記録層
15 中間層
15A 第1中間層
15B 第2中間層
16 カバー層
18 前側界面
19 奥側界面
20 中間界面
M 記録スポット
OB 読出光
RB 記録光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録層と、当該複数の記録層の間に設けられる中間層とを備えた光情報記録媒体であって、
前記記録層は、高分子バインダーと、当該高分子バインダーに分散された色素とを有し、前記色素は、記録光の波長で、多光子吸収を生じるとともに、記録層1層当たり1.5%以上の線形吸収を有し、
前記色素が記録光を線形吸収および多光子吸収して発生する熱により前記高分子バインダーが変形し、前記記録層と前記中間層の界面に変形を生じることで情報が記録されることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】
前記色素は、記録光に対する線形吸収が、記録層1層当たり5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項3】
前記界面の変形は、記録層を基準に見て凸形状であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
前記色素は、下記式で表される構造であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【化1】

【請求項5】
複数の記録層と、当該複数の記録層の間に設けられる中間層とを備え、前記記録層が、高分子バインダーと、当該高分子バインダーに分散された色素とを有する光情報記録媒体への情報の記録方法であって、
前記記録層に対し、前記色素の多光子吸収を生じる波長であるとともに、前記記録層1層当たりで前記色素が1.5%以上の線形吸収を生じる波長の記録光を照射し、
前記色素に、記録光の線形吸収および多光子吸収を生じさせ、吸収により発生した熱により前記高分子バインダーを変形させ、前記記録層と前記中間層の界面に変形を生じさせることで情報を記録することを特徴とする情報の記録方法。
【請求項6】
前記記録光は、前記記録層1層当たりで、前記色素が5%以下の線形吸収を生じる波長の光であることを特徴とする請求項6に記載の情報の記録方法。
【請求項7】
前記界面の変形は、前記記録層を基準に見て凸形状であることを特徴とする請求項5または請求項6のいずれか1項に記載の情報の記録方法。
【請求項8】
前記凸形状の変形は、変形前の前記界面を基準として1〜300nmの範囲で突出することを特徴とする請求項7に記載の情報の記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−203973(P2012−203973A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70029(P2011−70029)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】